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関連審決 不服2007-6072
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  着想 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10085号 審決取消請求事件

原告 ユニ・チャーム株式会社
訴訟代理人弁理士白浜吉治
同 白浜秀二
同 吉田博子
同 梶田恵理
被告特許庁長官
指定代理人栗林敏彦
同 村上聡
同 千馬隆之
同 紀本孝
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2007-6072号事件について平成21年2月9日にした審 決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成12年10月13日,発明の名称を「パンツ型の使い捨て着用 物品」とする発明について,特許出願(特願2000-314188号)をし (甲3),平成17年7月11日,手続補正をしたが,平成19年1月23日 に拒絶査定を受けたことから,同年2月28日,不服の審判(不服2007- 6072号事件)を請求し,同年3月29日,手続補正(以下「本件手続補 正」という。)をした(甲4)。
特許庁は,平成21年2月9日,本件手続補正を却下するとともに,「本件 審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,そ の謄本は,平成21年2月24日,原告に送達された。
2 本件手続補正後の特許請求の範囲 本件手続補正がされた後の本願の明細書(以下,本願の当初明細書[甲3] に添付された図面と併せ,「本願補正明細書」という。甲4)の特許請求の範 囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件手続補正後の請求項1 に係る発明を「本願補正発明」という。なお,下線部分が本件手続補正による 補正部分である。また,「本願補正明細書参考図1」参照)。
「【請求項1】 透液性表面シートと,不透液性裏面シートと,それらシート の間に介在する吸液性コアとから構成され,互いに対向する前胴周り域および 後胴周り域と,前記前後胴周り域の間に位置する股下域とを有し,前記前後胴 周り域の縦方向両側縁部が固着されて胴周り開口と一対の脚周り開口とが画成 され,前記前後胴周り域の少なくとも一方が,胴周り方向へ弾性的な伸縮性を 有するパンツ型の使い捨て着用物品において, 前記前後胴周り域の前記少なくとも一方が,前記少なくとも一方の胴周り域 の縦方向両側縁部から前記コアの縦方向両側縁部近傍まで前記胴周り方向へ延 びる第1伸縮域と,前記コアの前記縦方向両側縁部近傍の間において前記胴周 り方向へ延びる第2伸縮域とを有し,前記第1及び第2伸縮域を含む前記胴周 り開口縁部には前記胴周り方向へ延びる胴周り用弾性部材が伸長状態で取り付 けられており,前記胴周り用弾性部材と前記脚周り開口縁部との間には,前記 物品の縦方向へ所与寸法離間して前記第1伸縮域と前記第2伸縮域とにおいて 前記胴周り方向へ延びる複数条の第1補助弾性部材と,前記第1伸縮域のみに おける前記第1補助弾性部材のそれぞれを前記縦方向に挟んで前記胴周り方向 へ延びる複数条の第2補助弾性部材とが,それぞれ伸長状態で取り付けられ, 前記第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力が,0.2?2.0N/25m mの範囲にあり,前記第2伸縮域の最大伸長時における伸長応力が,0.1? 0.6N/25mmの範囲にあり,かつ,前記第1補助弾性部材と前記第2補 助弾性部材との伸長応力が,第1補助弾性部材≦第2補助弾性部材の関係にあ ることを特徴とする前記物品。」3 審決の理由 (1) 別紙審決書写しのとおりである。審決は,要するに, @ 本願補正発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-9 9006号公報(以下「引用例1」という。甲1)及び特表平10-50 8519号公報(以下「引用例2」という。甲2)に基づいて当業者が容 易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定によ り,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるか ら,本件手続補正は,平成18年法律改正前特許法17条の2第5項にお いて準用する同法126条5項の規定に違反するものであって,同法15 9条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下す べきである, A 本件手続補正前の平成17年7月11日付け手続補正による請求項1記 載の発明(以下「本願発明1」という。)も,同様に引用例1及び引用例 2記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから, 特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり, 他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべ きものである と判断した。
(2) 審決が行った本願補正発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点 の認定及び容易想到性の判断は,以下のとおりである(「本願補正明細書参 考図1」,「本願補正明細書参考図2」及び「引用例1参考図」参照)。
ア 一致点 「透液性表面シートと,不透液性裏面シートと,それらシートの間に介 在する吸液性コアとから構成され,互いに対向する前胴周り域および後胴 周り域と,前記前後胴周り域の間に位置する股下域とを有し,前記前後胴 周り域の縦方向両側縁部が固着されて胴周り開口と一対の脚周り開口とが 画成され,前記前後胴周り域の少なくとも一方が,胴周り方向へ弾性的な 伸縮性を有するパンツ型の使い捨て着用物品において, 前記前後胴周り域の前記少なくとも一方が,前記少なくとも一方の胴周 り域の縦方向両側縁部から前記コアの縦方向両側縁部近傍まで前記胴周り 方向へ延びる第1伸縮域と,前記コアの前記縦方向両側縁部近傍の間にお いて前記胴周り方向へ延びる第2伸縮域とを有し,前記第1及び第2伸縮 域を含む前記胴周り開口縁部には前記胴周り方向へ延びる胴周り用弾性部 材が伸長状態で取り付けられている,前記物品」(審決書6頁18行?2 9行) イ 相違点 「本願補正発明では,前記胴周り用弾性部材と前記脚周り開口縁部との 間には,前記物品の縦方向へ所与寸法離間して前記第1伸縮域と前記第2 伸縮域とにおいて前記胴周り方向へ延びる複数条の第1補助弾性部材と, 前記第1伸縮域のみにおける前記第1補助弾性部材のそれぞれを前記縦方 向に挟んで前記胴周り方向へ延びる複数条の第2補助弾性部材とが,それ ぞれ伸長状態で取り付けられ,前記第1伸縮域の最大伸長時における伸長 応力が,0.2?2.0N/25mmの範囲にあり,前記第2伸縮域の最 大伸長時における伸長応力が,0.1?0.6N/25mmの範囲にあ り,かつ,前記第1補助弾性部材と前記第2補助弾性部材との伸長応力 が,第1補助弾性部材≦第2補助弾性部材の関係にあるのに対して,引用 例1記載の発明では,胴周り用弾性部材と脚周り開口縁部との間には,物 品の縦方向へ所与寸法離間して第1伸縮域と第2伸縮域とにおいて胴周り 方向へ延びる複数条の補助弾性部材が伸長状態で取り付けられ,補助弾性 部材が吸収性コアと重なる部分においては,補助弾性部材の伸長率を,吸 収性コアと重ならない部分の伸長率に対して低くした点。」(審決書6頁 32行?7頁7行)ウ 容易想到性の判断 「引用例2には,異なる伸長抵抗を有する弾性体を構成するために,全体 に渡って複数の第1の弾性糸を離間して配置し,大きい伸長抵抗を有する 部分のみに第1の弾性糸を挟むように第2の弾性糸を配置することが記載 されており,引用例1記載の発明と引用例2記載の発明は,共に,パンツ 型の衛生用品という技術分野に属することから,引用例1記載の発明にお いて,補助弾性部材を用いた第1伸縮域と第2伸縮域の構成に関して,引 用例2に記載の上記事項を採用することは,当業者であれば容易に着想し 得ることである。そして,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を, 0.2?2.0N/25mmの範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における 伸長応力を,0.1?0.6N/25mmの範囲に設定したことにより格 別の効果を奏するものとは認められず,上記のように設定することは,お むつのずれ落ちを防止し,吸収性コアがしわになりにくくすることを勘案 して,当業者が適宜決め得る設計的事項といえる。また,第1補助弾性部 材(第1の弾性糸)と第2補助弾性部材(第2の弾性糸)との伸長応力の 大小関係を如何にするかは,当業者が必要に応じ適宜決め得る設計的事項 .. にすぎない。そうしてみると,引用例1記載の発明おいて,補助弾性部材 を用いた第1伸縮域と第2伸縮域の構成に関して,引用例2に記載の上記 事項を採用し相違点に係る本願補正発明の事項とすることは,当業者が格 別の困難性を伴うことなく容易になし得たことといえる。しかも,本願補 正発明が奏する効果も,引用例1及び引用例2記載の発明から当業者が予 測できたものであって,格別顕著なものとはいえない。したがって,本願 補正発明は,引用例1及び引用例2記載の発明に基いて,当業者が容易に 発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に より,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。」 (審決書8頁14行?9頁1行)
当事者の主張
1 審決の取消事由に係る原告の主張 審決は,以下のとおり,引用例1記載の発明に引用例2記載の発明の弾性体 に係る技術的事項を適用して本願補正発明の相違点に係る構成に想到すること が容易であると判断した点に誤りがある。
(1) ウエスト弾性体である引用例2の「弾性バンド」から,本願補正発明の 「第1及び第2補助弾性部材」に想到することは容易とはいえない。
引用例2記載の発明は,その発明の名称を「パンティ型衛生ナプキン」と するものであり,引用例2記載の弾性バンド4,5は,前方及び後方ナプキ ン部分のウエスト形成部の各縁に沿って延びるウエスト弾性体であり(甲 2,6頁4行?8行),そのウエスト弾性体は,着用者のウエストにパンツ 型衛生用ナプキンを局部的に密着させるためのものである。パンツ型衛生用 ナプキンは,ウエストが細く,相対的にヒップが大きい大人の女性を対象と しており,ウエスト形成部の各縁のみに沿ってウエスト弾性体を取り付ける ことによって,ヒップを締め付けることなく,ウエスト部分のみを着用者の 肌に密着させることができるのである。よって,引用例2の弾性バンドは, 本願補正発明についていえば,胴回り用弾性部材に相当する。
他方,本願補正発明の第1及び第2補助弾性部材は,胴周り用弾性部材と 脚周り開口縁部との間に,取り付けられるものである。胴周り開口縁部にお いては,胴周り用弾性部材によって排泄物等の漏れを防止するために着用物 品をしっかりと密着させ,その他の胴周り域においては,第1及び第2補助 弾性部材によっておむつのずれ落ち等の防止のために着用物品全体を着用者 の肌に押し付けることを目的とする(本願補正明細書,段落【0022】, 【0023】参照)。このように,第1及び第2補助弾性部材は,おむつの 胴周り域において着用者の胴周り全体を締め付けるものであり,ウエストを 部分的に締め付ける胴周り用弾性部材とは,区別される。
したがって,ウエストを部分的に締め付ける引用例2記載の弾性バンドに 係る技術を引用例2の第2吸収パッド10と重ね,本願補正発明において胴 周り全体の肌への密着のために用いて第1及び第2補助弾性部材とすること は容易に着想されない。
(2) 引用例2の第2吸収パッドに弾性バンドを重ねることは,容易想到とは いえない。
引用例2に記載された衛生用ナプキンは,経血を吸収するものであるか ら,吸収能力の高い第1吸収パッド9は,着用者の股下のごく一部に対応す る面積を有していれば良く,第2吸収パッド10を含む他の部分において は,より薄く柔軟性のあることが望まれるのであり,可撓性の高い第2吸収 パッド10は,弾性部材で押さえつけたりしなくても,着用者の肌に密着し やすいから,これに弾性バンド4,5に係る技術を用いて肌に押さえ付け必 要性がない。
また,上記ナプキンは,第1吸収パッド9に比較して第2吸収パッド10 が非常に薄く,ナプキンの形成材料と同じ可撓性を有するため(甲2,8頁 5行?25行参照),非着用時には第1吸収パッド9の外側に位置するナプ キンの区域,すなわち第2吸収パッド10に折り目又はひだが形成される (甲2,7頁12行?18行参照)。そのため,着用時に第1吸収パッド9 の外側に位置する第2吸収パッド10にしわが生じないようにするため(甲 2,4頁18行?22行参照),前方及び後方ナプキン部分がナプキン着用 時に側方へ伸張されるように,弾性糸11ないし14が取り付けられている (甲2,9頁4行?6行)。このように非常に薄くて可撓性を有する第2吸 収パッド10に弾性バンド4,5を重ねると,当然のことながら,第2吸収 パッド10にはしわが生じるから,第2吸収パッド10に弾性バンド4,5 を重ねるようなことを着想するはずがない。
(3) 本願補正発明と引用例2記載の発明とは技術分野等が異なる。
また,本願補正発明は,パンツ型の使い捨て着用物品のうち,特におむつ を対象とするものである。本願補正発明に係る着用物品では,経血よりも大 量に排泄される尿を吸収するものであるから,吸収性コアは,より広い範囲 で形成されることが望ましく,ナプキンに比べて可撓性が低く高剛性の領域 は広範囲にわたる。具体的には,吸収性コアは股下域から前後胴周り域に縦 方向に延びている(甲4,段落【0019】。甲3,【図1】及び【図2】 参照)。このように広範囲にわたる高剛性の吸収性コアを有することが,本 願補正発明の大きな特徴である。
上記の特徴のほか,前記(1)及び(2)で主張したとおり,引用例2記載の発 明と本願補正発明とでは,衛生用品に係るものであるという点では共通する ものの,その特徴部分が大きく異なり,解決しようとする課題や,作用・効 果も異なるから,引用例2記載の発明を引用例1記載の発明に適用して本願 補正発明を容易に発明することはできない。
(4) 引用例1記載の発明に引用例2記載の弾性体の技術的事項を適用する動 機付けがない。
引用例2記載のナプキンは,弾性バンド4,5から構成されたウエスト弾 性体を含み,これは前方及び後方ナプキン部分のウエスト形成部の各縁に沿 って延びている。したがって,ウエスト弾性体は,着用者の腰骨における狭 い範囲でナプキンを保持する(甲2,【図2】及び【図3】)。すなわち, 腰骨に引っかけるようにしてナプキンのずれ落ちを防止する。これは,尿に 比べて量が少ない経血を吸収することを目的とするナプキンであるから可能 な構成ということができる。これに対し,引用例1記載のおむつは,胴回り 弾性部材30は,トップシート11とバックシート12との間に配置され, 吸収体13と重なる部位においては吸収体13とバックシート12との間に 位置されている。すなわち,各縁のみに沿って延びているものではない。こ のような構成にすることによって,着用者の胴回りの比較的広い範囲におい ておむつを着用者の身体にフィットさせ,おむつがずれ落ちないようにして いる。これは,排泄される尿は,経血に比べて大量であり,広い範囲で着用 者に密着させなければならないというおむつの特性によって採用される構成 ということができる。
このように,引用例1記載の胴回り弾性部材30と,引用例2記載の弾性 バンド4,5とはその機能が異なり,しかも,おむつとナプキンとでは用途 も異なるから,引用例1と引用例2とを組み合わせることの動機付けとはな り得ない。
また,引用例1記載の補助弾性部材の構成に代えて,引用例2に示された 弾性部材の数を部分によって異ならせる構成等を採用するとしても,引用例 1のおむつの開口縁に沿ってのみ弾性部材が配置されることとなり,前後胴 周り域の縦方向に離間する第1及び第2補助弾性部材が取り付けられた本願 補正発明の構成にはなり得ない。
(5) 伸長応力の設定は,設計的事項であるとはいえない。
本願補正発明においては,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を 0.2?2.0N/25mmの範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における伸 長応力を0.1?0.6N/25mmの範囲に,それぞれ設定したことか ら,吸収性コアの剛性と各伸縮域での伸長応力との関係により,吸収性コア においてしわが形成されることなく,吸収性コアを着用者の肌に押し付ける ことができる(甲4,段落【0023】参照)。
これに対し,引用例2記載の発明においては,第1伸縮域に対応する部 分,及び第2伸縮域に対応する部分を,それぞれ上記範囲内に設定したとし ても,第2吸収パッド10は,非常に薄くて剛性が低いから,弾性体の収縮 力によってしわが形成される。
第1伸縮域及び第2伸縮域の伸長応力をこれらの範囲に設定することは, 当業者が適宜決め得る設計的事項であるとはいえず,当業者が容易に想到で きるものであるとはいえない。
2 被告の反論 (1) 原告は,取消事由に係る原告の主張(1)ないし(3)において,「本願補正 発明」と「引用例2に記載された発明」とを対比して,相互の特徴部分,解 決しようとする課題,作用・効果が異なることを理由として,本願補正発明 は容易に発明をすることができたとはいえないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,主張自体失当である。すなわ ち,本願補正発明の進歩性は,「引用例1記載の発明に引用例2記載の弾性 体に係る技術的事項を適用することによって,本願補正発明の構成に至るこ とが容易でなかったこと」によって基礎付けられるのであって,本願補正発 明と引用例2記載の発明とを直接対比し,その技術分野や特徴部分などにお いて相違することを指摘することによっては,基礎付けられるものではな い。原告の主張は,進歩性がない点についての指摘がないから,その主張自 体失当である。
(2) 原告は,@引用例2記載の弾性バンド4,5は,ウエスト弾性体であっ て,本願補正発明の第1及び第2補助弾性部材に相当するものではないか ら,弾性バンド4,5に係る技術的事項を,本願補正発明の第1及び第2補 助弾性部材に対して適用することはできない,また,A引用例2には,弾性 力によって第2吸収パッドを着用者の肌に押しつけるという考えが記載されていないから,引用例1記載の発明に引用例2記載の技術的事項を適用しても,本願補正発明の相違点に係る構成に想到することができないと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。
すなわち,本願補正発明と引用例1記載の発明は,いずれも,胴回り域に伸長状態で取り付けられる補助弾性部材の伸長応力に関し,第1伸縮域の伸長応力を第2伸縮域の伸長応力よりも高くするものであり,これにより,使い捨てパンツ型おむつのずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させず,吸収性コアがしわになりにくくした点で共通する。
他方,第1伸縮域の伸長応力を第2伸縮域の伸長応力よりも高くするための具体的構成において,以下の点で相違する。すなわち,引用例1記載の発明では,第1伸縮域と第2伸縮域で,補助弾性部材の数が同じであるが,補助弾性部材を取り付ける際の伸長率を,第1伸縮域で高くし,第2伸縮域で低くしているのに対して,本願補正発明では,第1伸縮域と前記第2伸縮域の双方を通じて配置される第1補助弾性部材と,第1伸縮域のみに配置される第2補助弾性部材とを設ける構成(つまり,第1伸縮域の補助弾性部材の数を第2伸縮域の補助弾性部材の数より多くする構成)を採用している点で相違する。
そして,引用例2には,「ウエスト弾性体4,5は弾性度又は弾性強度がその部分によって異なる。これは図1の実施例に於て弾性ウエストバンド4,5にその中央部分19,20に於けるよりも前記弾性体の側部15-18に於て予伸張弾性糸をより多く設けることにより達成される。結果として,前記側部はウエスト弾性体の残りの部分よりも伸張抵抗が大きい。」(甲2,9頁7行?11行),「中央部分・・・よりも・・・側部に於て予伸張弾性糸をより多く設ける」(甲2,9頁9行,10行)との記載があ り,これらの記載によれば,引用例2のウエスト弾性体は,胴回り域に伸長 状態で取り付けられる弾性部材(予伸張弾性糸)の伸長応力に関し,側部 (人体の脇部)の伸長応力を中央部(人体の腹側部及び背側部)の伸長応力 よりも高くし,さらに,弾性部材の数を部分によって異ならせるものであっ て,弾性部材の数を腹側部及び背側部よりも脇部の方を多くすることが開示 されている。そうすると,引用例1記載の補助弾性部材の構成に代えて,引 用例2に示された弾性部材の数を部分によって異ならせる構成,更に詳細に は弾性部材の数を腹側部及び背側部よりも脇部の方を多くする構成を採用す ることは,当業者が容易になし得たことであるといえる。
したがって,引用例1記載の発明に引用例2記載の技術的事項を適用し て,当業者が容易に本願補正発明の相違点に係る構成に想到することができ たという審決の判断に誤りはない。
なお,弾性力によって吸収パッドを着用者の肌に押しつけることは,第1 伸縮域の伸長応力を第2伸縮域の伸長応力よりも高くすることによって奏さ れる作用・効果であるから,引用例1記載の発明に引用例2に示された構成 を適用して,第1伸縮域の伸長応力を第2伸縮域の伸長応力よりも高くした 場合であっても,同様に発揮される作用・効果である。
(3) 伸長応力の設定は設計的事項といえる。
原告は,本願補正発明は,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を 0.2?2.0N/25mmの範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における伸 長応力を0.1?0.6N/25mmの範囲に設定したことにより格別の効 果を奏するものであるから,伸長応力をこれら範囲に設定することは,当業 者が適宜決め得る設計的事項ではないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,理由がない。
すなわち,本願補正発明が,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を 0.2?2.0N/25mmの範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における伸 長応力を0.1?0.6N/25mmの範囲に,それぞれ設定した目的は, ずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させず,吸収性コア がしわになりにくくするためである(段落【0024】参照)。また,引用 例1記載の発明も,使い捨てパンツ型おむつのずれ落ちを効果的に防止し, 締め付け力を局所的に集中させず,吸収性コアがしわになりにくくすること を目的としている。
使い捨てパンツ型おむつは,幼児用,大人用,昼間の短時間使用で尿失禁 を想定したもの,夜間等の長時間使用で大便をも想定したものなど,用途に よって大きさや,吸収性コアの厚さなどが相違するものである。さらには, 吸収性コアの素材が異なることもあり,その結果,吸収性コアの厚さや剛性 も異なることがある。このため,ずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を 局所的に集中させず,吸収性コアがしわになりにくくするために適した第1 伸縮域,第2伸縮域の伸長応力は,使い捨てパンツ型おむつの用途や吸収性 コアの素材などによって異なるものであり,当業者は,ずれ落ちを効果的に 防止し,締め付け力を局所的に集中させず,吸収性コアがしわになりにくく なるように,これらの伸長応力を適宜調整するものであるといえる。
そうすると,ずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させ ず,吸収性コアがしわになりにくくするため,使い捨てパンツ型おむつの用 途や吸収性コアの素材などの相違に対応して,第1伸縮域,第2伸縮域の伸 長応力を調整することにより,伸長応力を本願補正発明で特定した範囲内の 伸長応力とすることは,当業者が適宜決め得る設計的事項であるといえる。
当裁判所の判断
1 取消事由(本件手続補正の容易想到性判断の誤り)について 当裁判所は,引用例1記載の発明に引用例2記載の発明の弾性体に係る技術 的事項を適用して本願補正発明の相違点に係る構成に想到することは容易であ り,本件手続補正は独立特許要件を欠く不適法なものと判断する。その理由 は,以下のとおりである。
(1) 事実認定 ア 本願補正発明について 平成19年3月29日付けの手続補正書(甲4)によれば,本願補正発 明の内容は,以下のとおりである。すなわち, (ア) 従来例の課題 吸液性コアを介在させた表裏シートからなる,従来のパンツ型の使い 捨て用着用物品においては,身体への装着のために胴周り及び脚周り開 口縁部に弾性部材が伸長状態で取り付けられ,またその間には,前後胴 周り域の縦方向両側縁部の間を胴周り方向へ延びる複数条の補助弾性部 材が取り付けられており,この補助弾性部材は,前後胴周り域に位置す るコアの縦方向両側縁と前後胴周り域の縦方向両側縁部との間に延びる 伸長部分と,コアを横切ってコアの縦方向両側縁の間に延びる無伸長部 分とを有している。このため,伸長部分が着用者の胴周りを締め付け, 着用物品のずれ落ちを防ぐ一方,無伸長部分では,補助弾性部材がコア を収縮させることはないので,コアに皺が寄ることはないものの,この 着用物品においては,補助弾性部材の伸長部分のみでずれ落ちを防がな ければならないので,伸長部分における補助弾性部材の伸長応力を高く する必要があり,この伸長部分が着用者の胴周りを強く圧迫し,着用時 に不快感があり,また,補助弾性部材の無伸長部分には,コアを着用者 の肌へ押し付ける作用がなく,着用中にコアが着用者の肌から離間する 場合があって,コアの排泄物吸収機能を妨げてしまうという問題があっ た。
(イ) 本願補正発明の解決手段 本願補正発明は,着用時に着用者の胴周りを局所的に圧迫することが なく,コアの排泄物吸収機能を妨げることのないパンツ型の使い捨て着 用物品を提供することにあり,そのために請求項に係る構成としたもの であるが,特に,胴周り用弾性部材と脚周り開口縁部との間において は,縦方向へ所与寸法離間して胴周り域の両側縁部に位置する第1伸縮 域と,その間に延びる第2伸縮域にわたって,複数条の第1補助弾性部 材と,第1伸縮域のみに形成された複数条の第2補助弾性部材とが,そ れぞれ伸長状態で取り付けられた構成とし,第1伸縮域の伸長応力が, 0.2?2.0N/25mmの範囲,第2伸縮域の伸長応力が,0.1 ?0.6N/25mmの範囲で,かつ,前記第1補助弾性部材の方が第 2補助弾性部材よりも伸びやすい関係にし,締め付け力を調整してい る。
(ウ) 本願補正発明の効果 このような構成としたことにより,本願補正発明のパンツ型使い捨て 着用物品を着用したときに,第1伸縮域の締め付けのみではなく,第2 伸縮域も協働して着用者の胴周りを締め付けてずれ落ちを防ぐので,第 1伸縮域の伸長応力を従来技術よりも低くすることが可能となり,着用 者の胴周りを強く圧迫して不快感を与えるようなことがない。
また,第2伸縮域の第1補助弾性部材が伸長応力によってコアを着用 者の肌に押し付けるので,コアの排泄物吸収機能を妨げることがない 上,その伸縮応力が上記範囲にあって比較的弱いので,第2伸縮域が収 縮したとしても,コアの剛性が勝り,コア4に皺が寄ることがない。
イ 引用例1記載の発明について 引用例1(甲1)によれば,引用例1記載の発明の内容は,以下のとお りである。すなわち, (ア) 解決課題 従来からパンツ型おむつは,着用者自身が,排泄物を漏らさないよう に,かつ容易にパンツ型おむつを装着することができるようにするため に,優れたフィット性,運動に対する十分な追従性を有することが要求 されているが,引用例1記載の発明は,一層のずれ落ち防止効果を有す るとともに,着用者が活発に運動しても十分に追従できる程度にフィッ ト性に優れた使い捨てパンツ型おむつを提供する。
(イ) 引用例1記載の発明の解決手段 上記の課題解決のため,「液透過性のトップシート11と,液不透過 性のバックシート12と,両シート間に介在する吸収体13とから構成 され,互いに対向する腹側部2と背側部3と,腹側部2と背側部3との 間に位置する股下部4とを有し,腹側部2と背側部3の各々の左右両側 縁部2a,2b及び3a,3bが接合固定されてウエスト開口部5と一 対のレッグ開口部6が形成され,腹側部2及び背側部3の胴周り部7に 胴回りギャザーが形成されている使い捨てパンツ型おむつにおいて,ウ エスト開口部5の周縁部全周にわたって実質的に連続したギャザーを形 成するウエスト弾性部材14が取り付けられ,ウエスト弾性部材14と レッグ開口部6の周縁部との間には,おむつの縦方向へ離間して胴回り 方向へ延び胴回りギャザーを形成する複数本の胴回り弾性部材30が, 腹側部2における一側縁2aから他側縁2bにかけて連続して取り付け られ,胴回り弾性部材30が吸収体13と重なる部分においては,胴回 り弾性部材30の伸長率を,吸収体13と重ならない部分の伸長率に対 して低くした,使い捨てパンツ型おむつ。」(審決書4頁18行?32 行で認定したとおりであって,当事者間に争いがない。)(ウ) 効果 上記構成を採用したことによって,引用例1記載の発明の使い捨てパ ンツ型おむつは,一側縁から他側縁にかけて取り付けられた胴回り弾性 部材の存在により,使い捨てパンツ型おむつのずれ落ちを抑えるととも に,締め付け力が局所的に集中しないため,装着感が良好になり,か つ,着用者との間に隙間を生じさせることがなく,排泄物の漏れを確実 に防止することができる。
また,吸収体に重なる部分の胴回り弾性部材の伸長率を,重ならない 部分よりも低くして,当該部分の伸縮力を小さくすることにより,吸収 体にゴムの収縮作用が伝わらないために,吸収体がしわになりにくい。
ウ 引用例2記載の発明について 引用例2(甲2)によれば,引用例2記載の発明の内容は,以下のとお りである。すなわち, (ア) 解決課題 従来のパンツ型衛生ナプキンは,あらゆる体型の着用者に良好に適合 させることが困難であり,また,特にナプキンの包装状態において生じ たしわが着用時に伸びないという問題があり,引用例2記載の発明は, これらの問題を解消することを目的としている。
(イ) 引用例2記載の発明の解決手段 特許請求の範囲は,以下のとおりである。
「1.前方部分(1),後方部分(2)及び中間股部分(3)を含むパ ンツ型衛生ナプキン又は女性用失禁ガードであって,前記前方部分及び 後方部分の対向側部(それぞれ15,18及び16,17)が共に接合 され,更に前方及び後方ナプキン部分の自由端縁の回りで周囲方向に延 びた弾性伸張可能ウエスト縁取部又は縁(4,5)をも含むパンツ型衛 生ナプキン又は女性用失禁ガードに於て,ナプキンに負荷がかけられて いないとき,弾性化されたウエスト縁取部はその側部に位置する部分 (15-18)の伸張抵抗が残余部分の伸張抵抗よりも大きいことを特 徴とするパンツ型衛生ナプキン又は女性用失禁ガード。」(甲2,2頁 1行?9行) 「6.ウエスト弾性体(4,5)は複数個の弾性糸を含み,前記弾性糸 は予め伸張された状態で前方及び後方ナプキン部分(1,2)の自由縁 へ取り付けられ,また前方及び後方ナプキン部分の側部(15-18) はウエスト弾性体の残余部よりも多くの数の糸を有することを特徴とす る請求の範囲第1項記載のナプキン。」(甲2,2頁25行?3頁1 行) すなわち,引用例2記載の発明では,特に,中央部分よりも側部に弾 性糸を多く設けた構成として,これにより,側部の伸張抵抗を大きく し,中央部分が先に伸長し,その中央部分の弾性糸に接して縦方向に設 けられている弾性糸11ないし14も上記伸長に合わせて伸長し,その 弾性力も相俟って吸収パッドを着用者の体と密封対接するように押圧す る発明である。
(ウ) 効果 上記構成を採用したことによって,引用例2記載の発明のパンツ型衛 生ナプキンを着用すると,伸張抵抗の小さい中央部分が最初に伸張さ れ,それに連動している上記弾性糸11ないし14の弾性機能も相俟っ て,第1吸収パッドとその周りの非常に薄い第2吸収パッドからなる吸 収体が伸張されるので,着用者の様々な体型にもかかわらず,優れたフ ィット性を実現し,漏れを防止し,ナプキン部分のしわが伸ばされる効 果を奏する。
(2) 本願補正発明の容易想到性の判断 ア 上記(1)の認定によれば,本願補正発明と引用例1記載の発明は,とも にパンツ型の使い捨て着用物品であって,伸長状態で取り付けた胴周り用 弾性部材を用いることにより,おむつがずれ落ちること,局所的に締め付 け過ぎる部分が生じること,肌から離間して漏れが生じること,しわが寄 ることを防止し,優れたフィット性を実現させるという発明の解決課題に おいて共通する。そして,本願補正発明も引用例1記載の発明も,吸収性 コア(吸収体)に重なる第2伸縮域の胴周り用(胴回り)弾性部材の伸長 率を,重ならない部分である第1伸縮域の伸長率に対して低くし,第1伸 縮域の最大伸長時における伸長応力が,第2伸縮域の伸長応力よりも大き くする構成としている点において共通し,その効果においても相違はな い。
本願補正発明と引用例1記載の発明は,パンツ型の使い捨て用着用物品 を身体に装着する際の締め付け力の調整手段として,本願補正発明では胴 周り用弾性部材の本数を変更することにより行うものであるのに対し,引 用例1記載の発明では,使い捨て用着用物品に胴周り用弾性部材を取り付 ける際の伸長率を変更することによって行うものである点のみが相違する (本願補正発明で伸長応力の数値範囲に関し限定されている点の相違点に ついては別途言及する。)イ 前記のとおり,引用例2記載の発明のパンツ型衛生ナプキンは,パンツ 型の使い捨て用着用物品に関するものであり,引用例2記載の発明のうち ウエスト弾性体4,5に係る技術的事項は,当該着用物品を身体に装着す る際の締め付け力を,弾性糸の本数を変更することによって調整し,吸収 体のしわの発生を防止し,優れたフィット性を実現するための技術であ る。
引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とは,共にパンツ型使い捨て 用着用物品に関するものであって,その技術分野において共通し,また, 引用例1記載の発明において胴周り用弾性部材を着用物品に取り付ける際 の伸長率を変更する手段と,引用例2記載の発明のうち,弾性糸の本数を 変更する手段(ウエスト弾性体4,5に係る技術)は,パンツ型の使い捨 て用着用物品を身体に装着する際の締め付け力の調整手段であるという点 において共通する。
そうすると,引用例1記載の発明の締め付け力調整手段に代えて,引用 例2記載の発明の締め付け力調整手段を採用することは,当業者が容易に 行うことができるものといえる。
また,その最適な締め付け力も,パンツ型の使い捨て用着用物品を構成 する材料,その着用者の体型,用途などに応じて様々に変化するはずであ り,実際に製品化する際に,着用感を勘案しつつ適宜設定することが予定 されている事項であるといえるから,胴周り用弾性部材の伸長応力の数値 範囲を本願補正発明のように限定することは,当業者にとっては,任意の 設計的事項であるといえる。
ウ 以上のとおり,引用例1記載の発明に引用例2記載の発明(ウエスト弾 性体4,5に係る技術的事項)を適用して本願補正発明の相違点に係る構 成にすることは,当業者であれば容易に想到し得ることであり,これと同 旨の審決の判断に誤りはない。
(3) 原告の主張に対する判断 ア 原告は,@ウエストを部分的に締め付ける引用例2記載のウエスト弾性 体4,5に係る技術的事項を,引用例2の第2吸収パッド10と重ね,本 願補正発明において胴周り全体の肌への密着のために用いて第1及び第2 補助弾性部材とすることは容易に着想されない,A引用例2の第2吸収パ ッド10は,薄くて可撓性が高く,弾性部材で押さえ付けたりしなくても 着用者の肌に密着しやすいから,これにウエスト弾性体4,5に係る技術 を用いて肌に押さえ付ける必要性がない上,弾性バンドを重ねるとしわが 生じるから,第2吸収パッド10にウエスト弾性体4,5を重ねることを 着想するはずがない,B引用例2記載の発明と本願補正発明とでは,衛生 用品に係るものであるという点では共通するものの,その特徴部分が大き く異なり,解決しようとする課題や,作用・効果も全く異なるものであ り,これらを同じ技術分野として論じることができないなどと主張する。
しかし,引用例1記載の「使い捨てパンツ型おむつ」の発明において, 補助弾性部材を用いた第1伸縮域と第2伸縮域の構成に関し,引用例2記 載の「パンティ型衛生ナプキン」のうち,弾性部材の数を部分的に異なら せるとの技術的事項を適用することによって,本願補正発明の第1及び第 2伸縮域に係る構成に容易に想到できることは前記(2)のとおりであるか ら,これと異なる前提に立った原告の主張は,採用の限りでない。
イ 原告は,引用例2記載のウエスト弾性体は,着用者の腰骨における狭い 範囲でナプキンを保持するものであるのに対し,引用例1記載の弾性部材 は広い範囲でおむつを身体にフィットさせるもので,その機能,用途が異 なり,引用例1と引用例2を組み合わせることはできず,組み合わせたと しても,弾性部材が引用例1のおむつにおける開口縁に沿ってのみ配置さ れることになり,本願補正発明の構成になり得ない旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,引用 例1と引用例2の弾性部材が,パンツ型の使い捨て着用物品装着のため に,身体への締め付けを行う点で共通するから,組み合わせに困難な点は ない。また,引用例1の胴周り用弾性部材は,吸液性コア(吸収体)を身 体から離れないようにするという機能も有するから,弾性部材の本数を変 更することにより締め付け力の調整を行うという引用例2記載の発明の技 術思想を引用例1に適用するに当たり,引用例1の胴周り用弾性部材開口 縁に沿ってのみ配置しなければならない必然性はないというべきである。
以上のとおり,原告の主張は理由がない。
ウ 原告は,本願補正発明は,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を 0.2?2.0N/25mmの範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における 伸長応力を0.1?0.6N/25mmの範囲に,それぞれ設定したこと により格別の効果を奏するものであるから,伸長応力をこれらの範囲に設 定することは,当業者が適宜決め得る設計的事項ではない,と主張する。
しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,本願補正発明が, 第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.2?2.0N/25mm の範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.1?0.6N /25mmの範囲に,それぞれ設定するのは,おむつのずれ落ちや,必要 以上の強い締め付けを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させ ず,漏れを防ぎ,吸収性コアがしわになりにくくするためであり(甲4, 段落【0024】),引用例1記載の発明も,使い捨てパンツ型おむつの ずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させず,漏れを防 ぎ,吸収性コアがしわになりにくくするためのものである(甲1,段落 【0006】,【0007】)。そして,パンツ型の使い捨ておむつのず れ落ちや,締め付け力,漏れ,吸収性コアのしわのより方は,その用途 (幼児用か大人用か,失禁用か)や素材によっても相違すると考えられる から,当業者であれば,ずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を局所的 に集中させず,漏れを防ぎ,吸収性コアがしわになりにくくするため,使 い捨てパンツ型おむつの用途や吸収性コアの素材などの相違に対応して, 締め付け機能を有する弾性体の伸長応力を適宜調整することは当然に行う と予想される事項であり,その調整による効果も当業者の予想の範囲内で あるといえるから,第1伸縮域,第2伸縮域の伸長応力を本願補正発明で 特定した範囲内の伸長応力とすることは,当業者が適宜決め得る設計的事 項であるということができる。よって,これと同旨の審決の判断に誤りが あるとはいえない。
2 結論 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がない。その他,原告は縷々主張 するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,こ れを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大須賀滋
裁判官 齊木教朗
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