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関連審決 無効2008-800139
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  技術常識 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10128号 審決取消請求事件

原告 藤本電気商事有限会社
原告株式会社クロス
両名訴訟代理人弁護士 石川幸吉
被告 アルメックスPE株式会社
訴訟代理人弁理士 永井義久
同 井上一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/11/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2008-800139号事件について平成21年4月13日 にした審決を取り消す。
事案の概要
1 本件は,原告ら及びAの3名が特許権を有し発明の名称を「めっき装置およ びめっき方法」とする特許第3025254号(請求項の数9)につき,被告 がその請求項1,3,6,8に対し特許無効審判請求をしたところ,特許庁が これらを無効とする旨の審決をしたことから,これに不服の原告らがその取消 しを求めた事案である。
2 争点は,上記請求項1,3,6,8に係る発明が下記各文献に記載された発 明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記 ・特開平5‐311496号公報(発明の名称「自動表面処理装置における移 し換え移送機構」,出願人 荏原ユージライト株式会社,公開日 平成5年1 1月22日。以下この文献を「甲1文献」といい,これに記載された発明を 「引用発明」という。甲1) ・特開平10‐168600号公報(発明の名称「電気めっき処理装置のワー ク支持具」,出願人 丸仲工業株式会社,公開日 平成10年6月23日。以 下この文献を「甲2文献」という。甲2) ・特開平10‐158896号公報(発明の名称「メッキ処理装置」,出願人 旭技研株式会社,公開日 平成10年6月16日。以下この文献を「甲3文 献」という。甲3) ・米国特許5558757号公報(発明の名称「PROCESS FOR IMPROVING THE COATING OF ELECTROLYTICALLY TREATED WORK PIECES,AND ARRNGEMENT FOR CARRYING OUT THE PROCESS(電解ワークピースのコーティング改良方法及び それを実施するための装置)」,権利者 Atotech Deutschland GmbH, 公報発 行日 1996年〔平成8年〕9月24日。以下この文献を「甲7文献」と いう。甲7)
当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告ら両名及びAの3名は,平成11年2月5日出願で平成12年1月2 1日登録に係る特許3025254号(発明の名称「めっき装置およびめっ き方法」,請求項の数9,以下「本件特許」という。)の特許権者であると ころ,被告は,平成20年7月31日,本件特許の請求項1,3,6,8に つき特許無効審判を請求した。
特許庁は同請求を無効2008-800139号事件として審理した上, 平成21年4月13日,「特許第3025254号の請求項1,3,6,8 に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決をし,その謄本は平成 21年4月23日原告ら及びAに送達された。
(2) 発明の内容 本件特許の請求項1,3,6,8に係る発明(以下順に「本件発明1」 「本件発明3」「本件発明6」「本件発明8」といい,併せて「本件各発 明」という。)の内容は,以下のとおりである。
・【請求項1】 被処理物を垂直状態に保持してめっき槽内を搬送するめっき装置におい て,被処理物の保持とめっき電流の給電を行う搬送用ハンガー,搬送用ハ ンガーを懸架してめっき電流を給電するめっき槽搬送手段,搬送用ハンガ ーを移送する前処理コンベア,前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り 外し,めっき槽搬送手段よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,めっき槽 搬送手段に被処理物を所定の間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段 を有し,めっき槽搬送手段が一定の速度で搬送した状態で,先にめっき槽 搬送手段に取り付けられた被処理物との間隔をめっき厚さに不均一を生じ ない大きさに保持して,次の被処理物を取り付けた搬送ハンガーをめっき 槽搬送手段に取り付けて搬送しながらめっき処理することを特徴とするめ っき装置。
・【請求項3】 被処理物の間隔が20mm以下であることを特徴とする請求項1または 2記載のめっき装置。
・【請求項6】 被処理物を垂直状態に保持してめっき槽内を搬送しながらめっきするめ っき方法において,被処理物を保持した搬送用ハンガーをめっき槽内を搬 送するめっき槽搬送手段よりも高速に移動する位置決め搬送手段によっ て,めっき槽搬送手段に取り付けられて先に搬送される被処理物との間隔 を所定の間隔に保持するように被処理物を保持した搬送用ハンガーをめっ き層搬送手段に取り付けて一定の速度で搬送しながらめっき処理すること を特徴とするめっき方法。
・【請求項8】 被処理物の間隔が20mm以下であることを特徴とする請求項6または 7記載のめっき方法。
(3) 審決の内容 ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本件各発明は甲1文献,甲2文献,甲3文献及び甲 7文献に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることがで きたから特許法29条2項の規定に違反する,というものである。
イ なお,審決は,引用発明の内容を以下のとおり認定した上,本件発明1 と引用発明との一致点及び相違点を次のとおりとした。
・<引用発明の内容> 「被処理物品を前処理ゾーンからめっき等の表面処理ゾーンへワーク キャリアで懸吊状態で搬送しつつ,めっきタンク中で被処理物を電気 めっき装置であって, ワークキャリアを前処理ゾーンで搬送する前処理コンベア, ワークキャリアを前処理コンベアから取り外し,めっき搬送手段に 所定間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段であって,取り外し ではめっき搬送手段よりも高速にワークキャリアを移送する搬送手 段, めっき搬送手段が一定の速度で搬送した状態で,先にめっき槽搬送 手段に取り付けられた被処理物を一定の間隔に保持して,次の被処理 物を取り付けた搬送ハンガーをめっき槽搬送手段により連続的に取り 付けることからなるめっき装置。」 ・<一致点> 本件発明1と引用発明とは, 「被処理物を保持してめっき槽内を搬送するめっき装置において, 搬送用ハンガーを懸架するめっき槽搬送手段, 搬送用ハンガーを移送する前処理コンベア, 前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り外し,めっき槽搬送手段 よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,めっき槽搬送手段に被処理物 を所定の間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段を有し, めっき槽搬送手段が一定の速度で搬送した状態で,先にめっき槽搬 送手段に取り付けられた被処理物を一定の間隔に保持して,次の被処 理物を取り付けた搬送ハンガーをめっき槽搬送手段に取り付けて搬送 しながらめっき処理する ことを特徴とするめっき装置。」である点で一致する。
・<相違点1> 本件発明1では,「搬送用ハンガーは,被処理物を垂直状態に保持 し,めっき槽搬送手段から搬送用ハンガーを通してめっき電流を給電し ている」のに対して,引用発明ではこの点につき具体的に明記されてい ない点。
・<相違点2> 本件発明1では,「先にめっき槽搬送手段に取り付けられた被処理物 との間隔を,めっき厚さに不均一を生じない大きさに保持している」 が,引用発明では,一定の間隔に保持するとしているもののその程度が 明らかでない点。
(4) 審決の取消事由 しかしながら,審決には,以下に述べるとおり誤りがあるので,違法とし て取り消されるべきである。
ア 取消事由1(被請求人の具体的主張に対する判断の欠如,特許法134 条違反) 審決には被請求人の具体的な主張については全く記載されておらず,こ れに対する判断が全くなされていないものであるから,特許法134条に 違反しており,取り消されるべきである。すなわち,特許法134条は被 請求人に答弁書提出の機会を与えなければならないことを規定しており, その趣旨は被請求人の具体的な主張に対してもこれを無視することなく判 断すべきことを規定しているものと解すべきであるから,被請求人の主張 を無視して一方的に認定判断を行っている審決は特許法134条に違反し ている。
イ 取消事由2(引用発明認定の誤り)(ア) 審決は,引用発明につき「当該ワークキャリアは,前処理ゾーンで は,ティーバーに設けられた爪でワークレール上を前進或いは後退させ られているので」(7頁16行?17行)と認定した。
しかし,甲1文献にワークキャリアが後退するとの記載はない。した がって,審決の前記認定は誤りである。
(イ) 審決は,引用発明につき「その際に,表面処理ゾーンにおけるキャリ ア間隔は前処理ゾーンにおけるそれよりも狭いので(カ),前処理ゾーン から移し替えられたキャリアは,表面処理ゾーンで先行するキャリアに 追い付くために,めっき槽での搬送手段による搬送速度より高速搬送で 移動されることは当然のことである。」(7頁21行?25行)と認定 をした。
しかし,引用発明のめっき槽での搬送手段による搬送間隔は,「無端 チェーン14に取り付けられたプッシャ15の取り付け間隔」によって 設定され,前処理ゾーンから移し替えられたキャリアは,そのプッシャ 15によって引っ掛けられてプッシャ15の取付け間隔によりめっき槽 内を搬送されるのであり,「表面処理ゾーンで先行するキャリアに追い 付くために,」とは記載されていない。審決の認定は単なるつじつま合 わせの推測でしかなく,誤りである。
ウ 取消事由3(一致点認定の誤り)(ア) 審決は引用発明につき「ワークレール,ティーバー及び爪は,前処理 コンベアを構成するものである」(7頁17行?18行)と認定した が,これらは本件発明1の「前処理コンベア」とは形態的にも構成的に も異なっているものである。それにもかかわらず,審決は,これらの相 違を無視して,本件発明1と引用発明は「搬送用ハンガーを移送する前 処理コンベア」を有する点で一致するとした点で誤りがある。
(イ) 引用発明には「ワークキャリアを前処理コンベアから取り外し,めっ き搬送手段に所定間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段であっ て,取り外しではめっき搬送手段よりも高速にワークキャリアを移送す る搬送手段」はないにもかかわらず,引用発明はこれを有する点で本件 発明1と一致すると認定したのは誤りである。
(ウ) 引用発明ではめっき漕搬送手段は被処理物を一定間隔に保持している が,本件発明1は被処理物を一定間隔では保持していないので,本件発 明1と引用発明は「・・・先にめっき漕搬送手段に取り付けられた被処 理物を一定の間隔に保持」する点で一致するとした審決の認定には誤り がある。
エ 取消事由4(相違点の看過) 本件発明1の前処理コンベアは引用発明の前処理コンベアとは構成が異 なり,また,引用発明には「ワークキャリアを前処理コンベアから取り外 し,めっき搬送手段に所定間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段で あって,取り外しではめっき搬送手段よりも高速にワークキャリアを移送 する搬送手段」はないにもかかわらず,これらの相違を看過しており,審 決には引用発明と本件発明1の相違点を看過した誤りがある。
オ 取消事由5(相違点2についての判断の誤り)(ア) 審決は,「・・・甲第7号証に記載された発明では,ワークピースを 水平方向に移動させつつめっき処理することも従来技術としている・・ ・」(9頁14行?15行)と説示した。
しかし,「ワークピースを水平方向に移動させつつめっき処理する」 ことは甲7文献のどこにも記載されていないし,「連続めっき処理に適 用すること」についても示唆されていない。甲7文献は,「4枚のワー クピースを陰極フレームに狭い間隔で取り付けた状態」を維持して,前 処理からめっき処理,後処理まで水平方向に移動させて処理することを 示しているにすぎない。審決は,ワークピースを1枚ずつ水平方向に移 動させてめっき処理しようとする時にワークピースをどのようにして陰 極フレームに取り付けるのか,「ドッグ・ボーン効果」による肉厚化が 起きない狭い間隔で1枚ずつ水平方向に移動させることができるのか, めっき処理ゾーンだけ1枚ずつ水平に移動させて処理するのか,につい ての検討しないまま,あたかも1枚ずつのワークピースを水平方向に移 動させつつめっき処理するという誤認に基づいて相違点2につき判断を している。
(イ) また,審決は,相違点2に関し,引用発明は「一定の間隔に保持する がその程度が明らかでない。」としている。
しかし,引用発明における一定の間隔は不変である。すなわち,審決 が認定している一定の間隔とは「無端チェーン14に取り付けられたプッシャ15の間隔」であって,この間隔は終始不変である。つまり,被処理物(ワークピース)はワークキャリアに取り付けられ,該ワークキャリアをプッシャで引っ掛けてめっき槽内を移動するのであり,プッシャの取り付け間隔とワークキャリアに取り付けられた被処理物の大きさとは関係がない。特に,無端チェーンに対して一定間隔で取り付けた多数のプッシャは,被処理物の大きさに対応してその都度簡単には付け替えできるような構造ではない。さらに,例えば,ワークキャリアに対してその幅を大きく超える幅の被処理物(ワークピース)を吊持すると,各処理ゾーンで前後の被処理物がぶつかってしまうし,それとは逆に小さい幅の被処理物を取り付けると,めっき処理ゾーンでは前後の間隔が開きすぎて「肉厚化」が起きてしまうが,引用発明ではこれに対応できない。
一般に,移送又は搬送手段側(無端チェーン)に移送間隔を設定する手段を有するものは,被処理物の大きさに対応して移送間隔を調整することはできないが,移送又は搬送手段に対して被処理物を載せる側に移送間隔を設定する手段を設けることによって,被処理物の大きさに対応して移送間隔を調整することができるのである。それが本件発明1における構成要件「前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り外し,めっき搬送手段よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,めっき搬送手段に被処理物を所定の間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段」と「前処理コンベア」である。引用発明においては「無端チェーン14に取り付けられたプッシャ15の間隔」が決まっているのであるから,その間隔に合った被処理物を選択する以外に「均一めっき膜を形成する」手段はな い。したがって,引用発明におけるメッキ液中での被処理物の一定間隔 をドッグボーン効果は発生しない程度の小さな間隔とすること,すなわ ち,めっき厚さを不均一を生じない大きさに保持することは,当業者が 容易に想到できることではない。
なお,被告は,後記のとおり,被処理物の大きさの変更に対応して間 隔調整手段を備えることは必要ではない旨主張をするが,請求項1に 「めっき漕搬送手段に被処理物を所定の間隔を保持して取り付ける位置 決め搬送手段を有し」との文言があり,「位置決め」が行われる以上, 被処理物の大きさの変更に対応して間隔調整が行われるものであること は明らかである。そして,引用発明は移替え時における位置決め間隔調 整を予定していないものであり,無端チェーン14に設定されたプッシ ャの一は固定的なものであるから,引用発明への甲7文献の適用はあり 得ない。プッシャ15の枢着ピッチを変更すれば爪51 との受渡しのタ イミングが合わなくなり,結局,プッシャ15と爪51 の全部とを付け 替えなければならなくなり,枢着ピッチは再設計ということになる。
カ 取消事由6(本件発明3,6,8の判断の誤り) (ア) 本件発明3は,本件発明1の構成要件にさらに構成要件を付加した ものであるから,本件発明1に関する取消事由2?5は本件発明3につ いても当てはまることである。
(イ) また,本件発明1に関する取消事由2?5は本件発明6及び8にも 当てはまることである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論 審決の認定判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由は理由がない。
(1) 取消事由1に対し 本件審判長は被請求人(原告ら)に対し,平成20年10月24日付け答 弁書の提出の機会を与え,かつ口頭審理陳述要領書及び上申書の提出の機会 も与えており,特許法134条第1項に規定する手続的保障は十分なされて いるのであるから,審決及びその手続過程に違法はない。
また,被請求人(原告ら)の主張する内容は,審決3頁29行?末行に明 記され,その記載は具体的であるから,審決に違法はない。そして,審決3 頁12行?28行の請求人(被告)主張内容の記載における具体性とのバラ ンスからしても,審判において特別に被請求人(原告ら)の主張を全く無視 した事実は認められず,審決に違法はない。
(2) 取消事由2に対し ア (ア)につき 本件発明1における「前処理コンベア」とは特許請求の範囲の「搬送用 ハンガーを移送する前処理コンベア」のことであるから,めっきの前処理 工程(薬剤によるクリーナー処理,水洗処理,酸洗処理などのめっき処理 において必要な前に行うべき処理工程)において搬送用ハンガーを移送す るコンベアを意味すると解すべきである。そして,「コンベア」とは,厳 密には「一定場所で循環している」(「広辞苑第四版」)ものを指称する が,本件発明1においては単に搬送手段を指称するものと捉えれば,引用 発明における複数の前処理タンクを備えた前処理ゾーン1に設けられたワ ークレール31 ,ティーバー41 及び爪51 は,搬送用ハンガー2を移送す るものであるから本件発明の「前処理コンベア」を構成する。
審決は,「(ii)当該ワークキャリアは,前処理ゾーンでは,ティーバーに 設けられた爪でワークレール上を前進あるいは後退させられているので, ワークレール,ティーバー及び爪は,前処理コンベアを構成するものであ る(ウ)。」(7頁16行?18行)と認定したが,ティーバー及び爪 は,前進あるいは「後退」するがワークキャリアがワークレール上を「後 退」はしない。したがって,その限りにおいて審決には誤りがあるが,上 記のとおり,ワークレール31 ,ティーバー41 及び爪51 は,搬送用ハン ガー2を移送するものであり,本件発明1の「前処理コンベア」を構成す るとの判断には誤りはないから,前掲のワークキャリアがワークレール上 を「後退」する認定そのものは審決の結論に及ぼすものではなく,取消事 由には該当しない。
イ (イ)につき 甲1文献の図3によれば,めっきタンク12におけるワークキャリア 2,2…群の最終ワークキャリア2(A)に対し,続くワークキャリア 2(B)は未だ前処理ゾーン1に位置している状態が存在し,この状態 では,最終ワークキャリア2とこれに続くワークキャリア2との間隔 は,めっきタンク12におけるワークキャリア2,2…群の間隔より明 らかに大きい。そして,甲1文献の記載を合理的に解するならば,表面 処理ゾーンにおいて,ティーバーが前進限まで前進し,爪によりワーク キャリアはワークレール31 からワークレール13へ移し替えられている こと,その際に表面処理ゾーンにおけるキャリア間隔は前処理ゾーンに おけるそれよりも狭いので,前処理ゾーンから移し替えられたキャリア は,表面処理ゾーンで先行するキャリアに追いつくために,めっき槽で の搬送手段による搬送速度より高速搬送で移動されることが認められ る。したがって審決の認定に誤りはない。
(3) 取消事由3に対し ア (ア)につき 前記のとおり,本件発明1における「前処理コンベア」とは特許請求の 範囲の「搬送用ハンガーを移送する前処理コンベア」のことであるから, めっきの前処理工程において搬送用ハンガーを移送するコンベアを意味す ると解すべきであり,本件発明1においては単に搬送手段を指称するもの と捉えれば,引用発明における複数の前処理タンクを備えた前処理ゾーン 1に設けられたワークレール31 ,ティーバー41 及び爪51 は,搬送用ハ ンガー2を移送するものであるから本件発明1の「前処理コンベア」を構 成する。
イ (イ)につき ワークキャリア2がワークレール13へ移し替えられた段階で間隔が一 定のピッチに設定されたプッシャに受け渡されているので,ワークキャリ ア2は位置決め搬送されているといえる。めっきゾーンでは,無端チェー ンに一定ピッチで固定されたプッシャがワークキャリアを連続的に移送し ている。このため,ワークキャリアはめっき液中を一定速度で一定の間隔 を保持して連続的に移送されている。
また,引用発明がワークキャリアの取り外しではめっき搬送手段よりも 高速にワークキャリアを移送する搬送手段を備えていることは,前記(2) イのとおりである。
(4) 取消事由4に対し 審決の引用発明の認定に誤りはなく,審決に引用発明と本件発明1の相違 点を看過した誤りもない。
(5) 取消事由5に対し ア (ア)につき 引用発明7は「ワークピースの列は,製品用のブラケットの配列に一致 して水平に走行する」ものであり,「1枚ずつのワークピースを水平方向 に移動させつつめっき処理する」ものである。また,甲7文献には,被め っき物であるワークシートを電気めっきするに際し,ドッグボーン効果と 呼ばれるシート端部での厚肉化現象を避けるためにワークシートの間隔を 小さく保つことが開示されているなど,本件特許出願前に被処理物の間隔 をめっき厚さに不均一を生じない大きさに保持することは当業者にとって 公知又は汎用の技術事項であった。したがって,引用発明の被処理物を垂 直状態に保持して水平方向に搬送する際に被処理物の間隔をめっき厚さに 不均一を生じない大きさに保持する程度のことは,当業者が容易に想到で きる事項であるから,これと趣旨を同じくする審決に誤りはない。
なお, 原告らは,引用文献7はあくまでも「4枚のワークピースを陰 極フレームに狭い間隔で取り付けた状態」を維持して処理するものである ことを強調するが,同文献には陰極フレームの他に陰極レールも開示され ている。
イ (イ)につき 引用発明において,無端チェーン14にプッシャ15の基部を一定ピッ チで枢着しているのは,ティーバー41 に爪51が一定ピッチで設けられて いることからしても,一定の幅の被処理物を順次導入して,それら被処理 物の間隔を一定の保持しながら搬送するためのであることは明らかであ る。したがって,仮に被処理物の幅が変われば,それに対応してプッシャ 15の枢着ピッチを変更すればよいだけのことである。
原告らは,プッシャは被処理物の大きさに対応してその都度簡単には付 け替えできるような構造ではないと主張するが,たとえば引用発明におい て,プッシャ15の基部は無端チェーン14のリンクに片持ちで固定して いるだけであるから,取付対象のリンクを選択変更して固定すればよいだ けであり,原告らの主張は理由がない。
また,請求項1の「めっき槽搬送手段に取り付けられた被処理物との間 隔をめっき厚さに不均一を生じない大きさに保持して」との文言からして も,被処理物の大きさが変更された場合,これに対応して間隔調整ができ る構造の装置であるなどの限定はないから,そもそも,被処理物の大きさ の変更に対応して間隔調整手段を備えることが必要であるがごとき原告ら 主張は前提として誤りである。
(6) 取消事由6に対し 取消事由6は取消事由2?5を前提とするものであり,取消事由2?5を が成り立たない以上,取消事由6には理由がない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)・(2)(発明の内容)・(3)(審決の 内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由1(特許法134条違反)について 証拠(甲11の1,12)及び弁論の全趣旨によれば,本件審決の手続にお いて,審判長は被請求人(原告ら)に対し答弁書を提出する機会を与えたと認 められるから,審決が特許法134条に違反しているとはいえない。
なお,被請求人(原告ら)の主張する内容は審決3頁29行?末行に明記さ れているし,審決はその記載からして被請求人(原告ら)の主張を踏まえて判 断を示していると認められるから,被請求人の主張を無視して一方的に認定判 断しているということはできない。
3 取消事由2(引用発明認定の誤り)について (1) 本件各発明の意義 ア 本件特許の明細書(甲9)には,以下の記載がある。
・【発明の属する技術分野】 「本発明は,板状体を連続的に搬送しながらめっきを行うめっき装置 およびめっき方法に関し,特にプリント基板等の電子工業用の部品に対 して精密なめっきが可能なめっき装置に関する。」(段落【0001 】) ・【従来の技術】 「プリント基板等の板状の被処理物のめっき装置では,被処理物を枠 体を設けたラックに垂直に吊り下げて行うめっき装置と,被処理物を水平状態で電解槽内に供給して被処理物を連続的にめっきをする水平搬送式のめっき装置が知られている。板状の被処理物を垂直に吊り下げてめっきを行う装置では,一般に板状体を枠体からなるラックに取り付けて,給電と搬送を行っている。」(段落【0002】)・ 「例えば,特公平4-14199号公報には,給電用横竿に一対の側杆を設けるとともにこの側杆の対向面側にクリップを取り付け,このクリップで被処理物であるプリント基板の端部を挟んでプリント基板を保持するようにし,このクリップを押し開き,プリント基板の着脱を行なえるようにしたものである。また,特公平4-14199号公報に記載のものでは,1個のラックに一枚の板状体を取り付けるものであるが,複数の板状体を取り付けるものも知られている。しかしながら,枠体からなるラックを用いためっき装置では,枠体への被処理物の取り付けに時間を要するという問題点があった。」(段落【0003】)・ 「一方,枠体からなるラックを使用しないで,被処理物の上部を挟持し,被処理物の保持とともに電流を通電する方法も知られている。この場合には,枠体への被処理物の取り付けの工程が不要であり,取り付け,取り外しが容易であるが,板状の被処理物の端部は枠体によって被われていないので,板状体の端部へのめっき電流の集中により,端部にめっきされる金属の厚みが,中央部に比べて厚くなり,めっき厚さの均一な被処理物を得ることができないという問題点があった。また,枠体からなるラックを使用しない場合には,槽内のめっき液の流動等によって,揺動して陽極との電極間隔が不均一になるという問題点もあった。」(段落【0004】)・【発明が解決しようとする課題】 「本発明は,板状体からなるラックを使用することなく,厚みの均一 なめっきを行うことが可能なめっき装置およびめっき方法を提供することを課題とするものであり,高速に高精度のめっきを可能とするめっき装置およびめっき方法を提供することを課題とするものであり,また搬送用ハンガーに取り付けた板状体をめっき槽搬送手段の所定の位置への取り付け,および取り外しを自動化した高精度で高速めっきが可能な装置を提供することを課題とするものである。」(段落【0005】)・【課題を解決するための手段】 「本発明は,被処理物を垂直状態に保持してめっき槽内を搬送するめっき装置において,被処理物の保持とめっき電流の給電を行う搬送用ハンガー,搬送用ハンガーを懸架してめっき電流を給電するめっき槽搬送手段,搬送用ハンガーを移送する前処理コンベア,前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り外し,めっき槽搬送手段よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,めっき槽搬送手段に被処理物を所定の間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段を有し,めっき槽搬送手段が一定の速度で搬送した状態で,先にめっき槽搬送手段に取り付けられた被処理物との間隔をめっき厚さに不均一を生じない大きさに保持して,次の被処理物を取り付けた搬送ハンガーをめっき槽搬送手段に取り付けて搬送しながらめっき処理するめっき装置である。搬送用ハンガーは,被処理物を保持する部分以外では,被処理物を被覆する部分を有しない前記のめっき装置である。被処理物の間隔が20mm以下である前記のめっき装置である。めっき槽内の被処理物をめっき槽内へ導入する位置には,被処理物に対向する部分には陽極が存在しないか,もしくは陽極の被処理物に対向する領域に遮蔽物を設けた前記のめっき装置である。めっき槽内には,水平方向から被処理物の方向へ傾斜した開口を形成したルーバーを有するめっき液ガイド,およびめっき液ガイドの開口部へめっき液を供給するめっき液噴流装置を有する前記のめっき装置である。」(段落【 0006】)・ 「被処理物を垂直状態に保持してめっき槽内を搬送しながらめっきするめっき方法において,被処理物を保持した搬送用ハンガーをめっき槽内を搬送するめっき槽搬送手段よりも高速に移動する位置決め搬送手段によって,めっき槽搬送手段に取り付けられて先に搬送される被処理物との間隔を所定の間隔に保持するように被処理物を保持した搬送用ハンガーをめっき層搬送手段に取り付けて一定の速度で搬送しながらめっき処理するめっき方法である。被処理物を保持する部分以外では,被処理物を被覆する部分を有しない前記のめっき方法である。被処理物の間隔が20mm以下である前記のめっき方法である。めっき槽内の被処理物をめっき槽内へ導入する位置には,被処理物に対向する部分には陽極が存在しないか,もしくは陽極の被処理物に対向する領域を遮蔽しためっき方法である。」(段落【0007】)・【発明の実施の形態】 「本発明のめっき装置は,板状の被処理物を枠体からなる取り付け搬送用治具を用いることなく通電しながら被処理物を懸架し移動するめっき装置において,板状の被処理物の相互の間隔を,板状体の端部への電流集中が生じない間隔に高精度に保持して搬送する搬送手段を有するとともに,板状の被処理物の表面へめっき液を供給して高速でのめっきが可能なめっき液の供給手段を有するものである。」(段落【0008】)・ 「板状体を枠体からなるラックに取り付けることなく,陽極に対向させながら連続的に移動しながらめっきを行うと,板状体の両端部にめっき電流が集中し,その結果,板状体の両端部近傍のめっき厚さが,中央部に比べて厚くなり均一な厚さのめっきを行うことができなかった。これは,面積が大きな平面状の電極を対向させると,等電位面が電極に平 行に形成されるが,対向する一方の電極が狭い電極であると,狭い電極の端部の等電位面は,曲率が小さくなることが知られている。電流は等電位面に垂直に流れるので,面積が小さな電極の端部ほど電流密度が大きくなる。このために,平板状の被処理物の端部ほどめっきされる金属の厚みが厚くなるという現象である。ところが,被処理物相互の間隔を小さくすることによって,均一な厚みのめっきが形成されることを見いだしたものである。」(段落【0009】)・ 「図1は,本発明のめっき装置の一実施例の全体の構成を説明する図であり,各装置を上面より見た配置図を示す。本発明のめっき装置1のストックコンベア2から,被処理物の搬送用ハンガー3をプッシャー4により一個ずつ取り出し,旋回式前処理装置5のアーム6に取り付け,被処理物ストッカー7から板状の被処理物8が,被処理物取り付け装置9によって被処理物の搬送用ハンガー3に取り付けられる。被処理物の搬送用ハンガーへの取付は,被処理物の上部を挟持する方法等によって保持される。旋回式前処理装置5では,旋回することによって位置を変えながら,旋回式前処理装置5のアーム6から,取り付けプッシャー10によって,一個ずつ前処理コンベア11に送られる。旋回式前処理装置5および前処理コンベア11において,移動しながら浸漬処理,シャワー処理等の方法によって,薬剤によるクリーナー処理,水洗処理,酸洗処理,水洗処理等のめっき処理において必要な一連の処理が行われる。」(段落【0010】)・ 「前処理が終了した被処理物8は,搬送用ハンガー3に取り付けた状態で,位置決め搬送手段12によって,前処理コンベア11から取り外され,被処理物8の間隔を所定の間隔に保持してめっき槽搬送手段13に取り付けられる。位置決め搬送手段12は,搬送ハンガーを前処理コンベアから昇降させる手段,めっき槽搬送手段の所定の位置に移動する 手段,およびめっき槽搬送手段上に昇降手段を有している。」(段落【0011】)・ 「位置決め搬送手段12は,直前に取り付けられた被処理物との間隔が所定の間隔となるように,光電式の位置決め手段,撮像手段によって撮影した画像の処理手段等によって,先行する被処理物の位置を測定し,取り付け位置を設定して所定の位置に取り付けることができる。」(段落【0012】)・ 「搬送用ハンガーが同一の大きさであるとともに,被処理物が同一の幅を有していて,搬送用ハンガーの同じ位置に取り付けられている場合には,被処理物の位置を検出することに代えて搬送用ハンガー3の位置を検出しても良い。また,位置の検出は,搬送ハンガー3の一部が一定の位置に達したことによって検出しても良い。このようにすることによって,簡単な構成で確実に所定の位置に取り付けることが可能となる。」(段落【0013】)・ 「また,位置決め搬送手段12は,被処理物を取り付けた搬送用ハンガー3が取り上げられて,所定の間隔を保持してめっき槽搬送手段13に取り付けられるように,その搬送速度は,めっき槽搬送手段の速度よりも大きくすることが必要であり,5倍ないし20倍速くすることが好ましい。この速度は,めっき槽搬送手段の搬送速度,基板の大きさおよび厚み等によって適宜調整することが好ましい。また,被処理物を取り付けた搬送用ハンガーが前処理コンベアから位置決め搬送手段12に円滑に移動することができるように,前処理コンベアの移動速度は,めっき槽搬送手段と同程度の速度とすることが好ましい。」(段落【0014】)・ 「めっき槽14内において,めっき処理を受けた被処理物8は,搬送用ハンガー3に取り付けられた状態で,取り外し昇降装置15によって めっき槽搬送手段13から取り上げれて,後処理コンベア16に載置して搬送され,取り外しプッシャ17aによって,後処理コンベア16から旋回式後処理装置18のアーム19に取り付けられる。」(段落【0015】)・ 「被処理物8は,後処理コンベア16および旋回式後処理装置18による移動過程において,めっき液回収,防錆,水洗,乾燥等の後処理等を受けた後に取り外しプッシャー17bによって,めっき処理物ストッカー20に収納される。また,搬送用ハンガー3は,取り外しプッシャー17cによってリターンコンベア21に送られ,乗り継ぎ搬送装置22によってストックコンベア2へ送られる。」(段落【0016】)・ 「本発明の装置では,位置決め搬送手段の速度を,めっき槽搬送手段の搬送速度と異なるものとし,リターンコンベアとストックコンベアの搬送速度も異なるものとし,また旋回式前処理装置および後処理装置を組み合わせることによって,めっき槽搬送手段の搬送速度を一定に保持するとともに,被処理物の間隔を一定に保持することが可能となる。」(段落【0017】)・ 「例えば,めっき槽搬送手段への搬送用ハンガーの取り付けは,先の被処理物が所定の基準点を通過した時点から,めっき槽搬送手段を駆動するモータに取り付けたエンコーダの回転数を読み出して距離Aを算出し,同時に次の搬送用ハンガーを載置した位置決め搬送手段の水平方向へ駆動するモータに取り付けたエンコーダから回転数を読み出して,距離Bを算出し,距離Aと距離Bの差と,めっき槽搬送手段と位置決め搬送手段のそれぞれの基準点の間の距離から,両ハンガーの間の距離を求め,所定の間隔となった時点で,搬送用ハンガーをめっき槽搬送手段に垂直方向に移動する時間を考慮して載置することによって,被処理物の間の間隔を一定の大きさに保持することができる。」(段落【0018 】)・ 「以上の説明では,位置の検出を,めっき槽搬送手段を駆動するモータおよび位置決め駆動手段を駆動するモータに取り付けたエンコーダの回転数を読み出して距離を算出する方法について説明したが,搬送用ハンガーの画像を撮影して,画像処理によって位置を検出して位置決めする方法,搬送ハンガーの所定の点の通過をレーザー光等の光によって検出して位置決めする方法等を用いても良い。これらの方法では,いずれも光学的な検出となるので,めっき環境で発生するめっき液のヒューム等によって誤動作をしないような対策を講じる必要が生じる。」(段落【0019】)・ 「図2は,めっき槽内での平板状の陽極と被処理物の関係を説明する図であり,垂直に保持された平板状の陽極を上面から見た図であり,被処理物の一方の面に設ける陽極のみを示した図である。平板状の陽極に対向して設けた被処理物を示すように,図2(A)に示すように,陽極23に対向して平面状の被処理物24を被処理物間相互に大きな間隔25を設けて平行に配置すると,被処理物相互の間隔が大きいので,被処理物を単独で設けた場合と同様に,被処理物の端部26への電流の集中が生じ,端部に形成されるめっき27は,厚みが大きくなる。そこで,本発明のめっき装置においては,図2(B)に示すように,被処理物相互の間隔を小さな間隔28としたものである。その結果,複数の被処理物は実質的に連続したものと見なされることとなり,被処理物の端部26への電流の集中が生じることはなく,均一な厚さのめっきが形成される。このように,本発明のめっき方法において,図2(B)に示すように板状の被処理物の間隔を小さくすることによって,被処理物の端部と中央部とのめっき厚を均一化することが可能となる。」(段落【0020】) ・ 「被処理物相互の好ましい間隔は,めっき電流によって異なるが,20mm以下とすることが好ましく,より好ましくは15mm以下であり,さらに好ましくは,10mm以下である。20mm以下とすることによって,6A/dm2 程度の通常のめっき槽で用いられている電流の3倍程度の電流密度でめっきを行っても均一なめっき厚みを得ることができる。」(段落【0021】)・【発明の効果】 「本発明のめっき装置においては,被処理物の間の間隔を小さな間隔で正確に保持することができるので,板状体へのめっき厚さが均一となり,高電流密度のめっき電流による高速度でのめっきが可能となり,高速で精度の高いめっきを行うことができる。」(段落【0039】)・ 図面 【第1図】本発明のめっき装置の全体の構成の一実施例を説明する図で あり,各装置を上面より見た配置図【第2図】めっき漕内での平板状の陽極と被処理物の関係を説明する図 イ 上記記載及び本件特許の各請求項の記載によれば,本件各発明は,被処 理物を水平状態で電解槽内に供給して被処理物に対し連続的にめっきをす る水平搬送式のめっき装置において,枠体への被処理物の取り付けの工程 が不要であるため取付け・取外しが容易である一方,板状の被処理物の端 部は枠体によって被われていないので,板状体の端部へのめっき電流の集 中により端部にめっきされる金属の厚みが中央部に比べて厚くなり,めっ き厚さの均一な被処理物を得ることができないという技術課題を認識して いたところ,被処理物相互の間隔を小さくすることによって均一な厚みの めっきが形成されることを見い出し,被処理物の間の間隔を小さな間隔で 正確に保持することによって,上記課題を解決するものであることが認め られる。また,搬送用ハンガーに取り付けた板状体のめっき槽搬送手段の 所定の位置への取付け・取外しを自動化することによって,高精度で高速 めっきが可能な装置を提供しようとするものであることが認められる。
(2) 引用発明の意義 ア 引用発明が記載された甲1文献には,以下の記載がある。
・【産業上の利用分野】 「本発明は,電気めっき,無電解めっき,化学研磨等の表面処理を行 う際に,一連の処理工程に沿って処理すべき物品を自動的に移し換えて 移送するための自動表面処理装置における移し換え移送機構に関するものである。」(段落【0001】)・【従来の技術】 「従来,電気めっきの如き一連の表面処理を行う装置においては,通常,物品は各処理タンクに沿って移送される。物品は,複数の前処理タンクで前処理された後,めっきタンクに移送されてめっき処理され,さらに複数の後処理タンクで後処理されて取り出されるが,物品は前記各タンク中に浸漬されることから,物品の移送は昇降運動をも必要としている。」(段落【0002】)・ 「ところで,物品の移送には,間欠的移送方式と連続的移送方式とがあり,いずれも一長一短がある。即ち,間欠的移送方式では,物品は,図7のa→b→c→d→e→a→……のように移送される(e→a間が停止)ため,物品の浸漬時間を長くとることができ,各処理タンクの長さは短くてすむ。しかし,めっきタンクは浸漬滞留時間の関係から長さが長く,またアノード,空気攪拌管,めっき液のろ過循環配管等が付設されているために,これらと物品との位置関係が間欠的に変動し,均一なめっき膜厚を得ることができないという欠点があった。一方,連続式移送方式では,物品が一定速度で移送されているために,めっきタンクでは物品と付設物との位置関係が連続的に一定速度で変動し,均一な膜厚を得ることができるが,他の本来短くてよかったタンクの長さが長くなってしまうという欠点があった。」(段落【0003】)・【発明が解決しようとする課題】 「本発明は,前記従来の欠点を解消し,前処理ゾーンおよび後処理ゾーンの複数タンクを備えた部分では間欠的移送方式を採用し,めっき等の表面処理ゾーンでは連続的移送方式を採用し,しかもこれら各処理ゾーン間の物品の移し換え移送を自動化し,常に均一な表面処理を可能と し,表面処理装置の信頼性を高め,生産性の向上につながる自動表面処理装置における移し換え移送機構を提供することを目的としている。」(段落【0004】)・【課題を解決するための手段】 「本発明は,昇降自在な間欠移送機構を備えた前処理ゾーンと後処理ゾーンを並列配置し,これらの前処理ゾーンから後処理ゾーンへの移送路間をそれらの下降限位置で連絡する移送路を設けた表面処理ゾーンを連設し,該表面処理ゾーンに物品を移送路に沿って移送するプッシャを上下方向に揺動自在に枢着した連続循環コンベヤを設け,前記前処理および後処理ゾーンと表面処理ゾーンの連絡部近傍で,該連続循環コンベヤの前記後処理ゾーン側から前記前処理ゾーン側に至る反転走行位置付近に前記プッシャを上昇させ前処理ゾーン側の移送路に下降させるガイドバーを配設したことを特徴とする自動表面処理装置における移し換え移送機構である。」(段落【0005】)・【実施例】 本発明の一実施例を図1を参照して説明する。1は,複数の前処理タンクを備えた前処理ゾーンで,物品(図示せず)を懸吊,保持したワークキャリヤ2が摺動するワークレール31が備えられ,ワークレール31の上方にはワークレール3 1 に沿って所定範囲を前進,後退するティーバー41 が設けられ,これらは図示しない昇降機構で同時に昇降自在となっており,ティーバー4 1 には前進時に必要なワークキャリヤ2に係合してこれを前進させ,後退時には回動してワークキャリヤ2上を後退することができる爪5 1 が一定ピッチで取り付けられている。また,この前処理ゾーン1と並列して複数の後処理タンクを備えた後処理ゾーン11が配置され,この後処理ゾーン11にも前処理ゾーン1と同様なワークレール32,爪5 2を取り付けたティーバー4 2が設けられている。
(段落【0008】)・ 「12は,めっきゾーンである連続したU字形のめっきタンクで,めっきタンク12に沿ってワークレール13が配設され,ワークレール13の一端は前処理ゾーン1のワークレール3 1 の下降限位置で連絡され,他端は後処理ゾーン11のワークレール3 2 の下降限位置で連絡されるように固定されている。めっきタンク12上には無端チェーン14が連続走行可能に設けられ,この無端チェーン14にワークレール13上のワークキャリヤ2に係合するプッシャ15の基部が一定ピッチで枢着され,プッシャ15は上下方向に揺動自在となっている。前処理ゾーン1および後処理ゾーン11とめっきタンク12の連絡部近傍で,無端チェーン14が後処理ゾーン11側から前処理ゾーン1側に至る反転走行する位置付近には,走行するプッシャ15を押し上げ前処理ゾーン1側で下降させるガイドバー16が配設され,無端チェーン14の前処理ゾーン1側付近には,ガイドバー16で押し上げられて走行するプッシャ15を受け取り,前処理ゾーンのティーバー41 がワークキャリヤ2を移送する動作に連動してプッシャ15をワークレール13に下降させる昇降装置17が設けられている。」(段落【0009】)・ 「次に,移し換え移送のサイクルを図2?6によって説明すると,図2は前処理ゾーン1および後処理ゾーン11のワークレール31,32およびティーバー41,42が下限位置まで下降してめっきタンク12のワークレール13と連絡されており,ティーバー41,42が後進限にある状態を示している。いま,図3のように,ティーバー41,42が前進限まで前進すると,爪5 1 によってワークキャリヤ2のAはワークレール31 からワークレール13へ移る一方,ワークキャリヤ2のXは引寄せ装置20の爪5 3 によってワークレール3 2 に移る。次に,図4のように,ワークレール31 ,3 2 およびティーバー41,4 2 は上限まで上昇 し,ティーバー41,42は後退限まで後退し,プッシャ15が昇降装置17(図2参照)によりワークレール13上に下降し,ワークキャリヤ2のAに係合してこれを移送すると同時にワークキャリヤ2のXを離したプッシャ15がガイドバー16上を摺動して上昇する。次に,図5のように,ティーバー41,42は前進限まで前進し,爪5 1によって前処理ゾーン1の次のワークキャリヤ2のBをめっきタンク12の上方に移送する一方,ワークキャリヤ2のXはティーバー42の爪52によって後処理ゾーン11の上方に移送される。次いで,図6のように,ワークレール31,3 2 およびティーバー41 ,4 2は下限まで下降し,ティーバー41,42は後退限に後退する。このようなサイクルを繰り返して,間欠移送が行われる前処理ゾーン1および後処理ゾーン11と,連続移送が行われるめっきタンク13との移し換え移送が行われる。」(段落【0011】)・図面【図1】本発明の実施例を示す要部の斜視図 【図2】図1の移送サイクル説明図【図3】図1の移送サイクル説明図【図4】図1の移送サイクル説明図 【図5】図1の移送サイクル説明図【図6】図1の移送サイクル説明図イ 上記記載によれば,引用発明は,電気めっき等の表面処理に際し,間欠的移送方式では,物品の浸漬時間を長くとることができ,各処理タンクの長さは短くてすむが,めっきタンクは浸漬滞留時間の関係から長さが長く,またアノード,空気攪拌管,めっき液のろ過循環配管等が付設されているために,これらと物品との位置関係が間欠的に変動し,均一なめっき膜厚を得ることができないという欠点があり,一方,連続式移送方式では,物品が一定速度で移送されているために,めっきタンクでは物品と付設物との位置関係が連続的に一定速度で変動し,均一な膜厚を得ることができるが,他の本来短くてよかったタンクの長さが長くなってしまうという欠点があったところ,これらの欠点を解消するため,前処理ゾーンおよび後処理ゾーンの複数タンクを備えた部分では間欠的移送方式を採用し,めっき等の表面処理ゾーンでは連続的移送方式を採用し,しかもこれら各処理ゾーン間の物品の移し換え移送を自動化することによって,常に均一な表面処理を可能とし,表面処理装置の信頼性を高め,生産性の向上につ ながるという効果を有するものであることが認められる。
(3)ア 原告らの主張(ア)(甲1文献にはワークキャリアが後退するとの記載は ない)につき 上記(2)の記載によれば,甲1文献には,ティーバー41が前進・後退す るとの記載はあるが(段落【0008】),ワークキャリア2が後退する との記載はない。すなわち,ティーバーの前進時にはワークキャリアがテ ィーバーに取り付けられた爪5 1 と係合することで前進することが認めら れるものの,爪はティーバーの後退時には回動してワークキャリア上を後 退するのであるから,ワークキャリアが後退することはない。そうする と,審決が「当該ワークキャリアは,前処理ゾーンでは,ティーバーに設 けられた爪でワークレール上を前進あるいは後退させられている・・・」 (7頁16行?17行)と認定した点は誤りであるということができる (審決にこのような誤りがあることは,被告も認めている。)。
しかし,本件発明1における「前処理コンベア」とは請求項1記載の 「搬送用ハンガーを移送する前処理コンベア」のことであるから,めっき の前処理工程(薬剤によるクリーナー処理,水洗処理,酸洗処理などのめ っき処理の前において必要な処理工程)において搬送用ハンガーを移送す るコンベアを意味すると解される。そして,甲1文献には,前処理ゾーン においてワークキャリア2を摺動可能に保持するために設けられた「ワー クレール31」,該ワークキャリアを該ワークレール31上で前進させるた めの「ティーバー41 」・「爪5 1 」が記載されており(段落【0008 】,【0011】),これらはワークキャリアを前処理ゾーンで搬送する ものであることからすると,これら構成を「前処理コンベア」と呼称し, 引用発明の前処理コンベアを「ワークキャリアを前処理ゾーンで搬送する 前処理コンベア」と認定した審決には誤りはない。そうすると,上記の審 決の誤りは,引用発明の認定に影響はないから,その誤りは審決の結論に 影響を及ぼすものではない。
イ 原告らの主張(イ)(甲1文献には「表面処理ゾーンで先行するキャリア に追い付くために」との記載はない)につき 上記(2)の記載によれば,甲1文献には,昇降自在であるワークレール 31やティーバー41が下降限位置にあるときにワークキャリア2がワーク レール31からワークレール13に移ること,ティーバー41及びワークレ ール31 は下限位置でワークキャリアを表面処理ゾーンに移送し終えた後 に上限まで上昇し,ティーバー4 1 は後退限まで後退することが記載さ れ,また,ワークレール31等が下降限位置にあるとき,ワークレール31 からワークレール13に移送されるワークキャリア(例えばワークキャリ アA)はすでに表面処理ゾーン(めっきタンク12内)にあるが,他方, 上記ワークキャリアに続くワークキャリア(例えばワークキャリアB)は 表面処理ゾーン外である前処理ゾーン1にあることが認められる。つま り,甲1文献の記載によれば,ワークレール3 1 等が下降限位置を維持し たままでは,ワークキャリアを前処理ゾーンから表面処理ゾーンに移送す ることはできないと認められる。そうすると,表面処理ゾーンにおける各 ワークキャリアの間隔と,前処理ゾーンにおける各ワークキャリアの間隔 との間には何の関連性も認められないから,「表面処理ゾーンにおけるキ ャリア間隔は前処理ゾーンにおけるそれよりも狭い」(7頁21行?22 行)ことを根拠に「前処理ゾーンから移し替えられたキャリアは,表面処 理ゾーンで先行するキャリアに追いつくために,めっき槽での搬送手段に よる搬送速度より高速搬送で移動されることは当然のこと」(7頁22行 ?24行)と認定した審決には誤りがある。
しかし,表面処理ゾーンにおいて,ワークキャリアをワークレール31 からワークレール13に移送させ且つプッシャ15に係合させるに際し, 一定速度で移動すると認められる無端チェーンに取り付けられたプッシャ に対し,それよりも速い速度でワークキャリアを移送すべくティーバー4 1を作用させるのは合理的な推認であり,技術常識であると考えられる。
このことは,図2と図3の対比におけるワークキャリアAの動きに着目し たとき,該ワークキャリアAをプッシャ15に係合させるべく,該ワーク キャリアAがプッシャの移動速度よりも速い速度で移送されるのが認めら れることによっても裏付けられる。そして,プッシャは無端チェーンに 「一定ピッチ」すなわち所定間隔を保持して取り付けられていることを併 せ考慮すると,引用発明の位置決め搬送手段について,審決が「ワークキ ャリアを前処理コンベアから取り外し,めっき搬送手段に所定間隔を保持 して取り付ける位置決め搬送手段であって,取り外しではめっき搬送手段 よりも高速にワークキャリアを移送する搬送手段」と認定したことに誤り はなく,上記誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない。
4 取消事由3(一致点認定の誤り)について(1) (ア)につき 原告らは,本件発明1と引用発明は「前処理コンベア」の構成が相違する から,本件発明1と引用発明が「搬送用ハンガーを移送する前処理コンベ ア」を有する点で一致するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,上記3で検討したとおり,引用発明の前処理コンベアを「ワーク キャリアを前処理ゾーンで搬送する前処理コンベア」と認定した審決に誤り はないから,本件発明1と引用発明は「搬送用ハンガーを移送する前処理コ ンベア」を有する点で一致するとした審決の認定にも誤りはない。
(2) (イ)につき 原告らは,引用発明には「前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り外 し,めっき搬送手段よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,めっき搬送手段 に被処理物を所定の間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段」が存在し ないにもかかわらず,本件発明1と引用発明がかかる位置決め搬送手段を有 する点で一致するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,上記3で検討したとおり,引用発明の位置決め搬送手段について 「ワークキャリアを前処理コンベアから取り外し,めっき搬送手段に所定間 隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段であって,取り外しではめっき搬 送手段よりも高速にワークキャリアを移送する搬送手段」と認定した審決に 誤りはないから,本件発明1と引用発明が「前処理コンベアから搬送用ハン ガーを取り外し,めっき搬送手段よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,め っき搬送手段に被処理物を所定の間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手 段」を有する点で一致するとした審決の認定にも誤りはない。
(3) (ウ)につき 原告らは,引用発明は「めっき槽搬送手段では被処理物を一定の間隔に保 持して」いるものであるが,本件発明1はそのような保持はしていないか ら,本件発明1と引用発明は「・・・先にめっき漕搬送手段に取り付けられ た被処理物を一定の間隔に保持」する点で一致するとした審決の認定には誤 りがあると主張する。
確かに,本件発明1は被処理物を「一定の間隔に保持」することを特定し ていないから,審決の一致点の認定に誤りがないとはいえない。しかし,審 決は,被処理物の間隔について,本件発明1と引用発明との相違点として 「本件発明1では,先にめっき槽搬送手段に取り付けられた被処理物との間 隔を,めっき厚さに不均一を生じない大きさに保持しているが,甲第1号証 発明では,一定の間隔に保持するとするがその程度が明らかでない。」と認 定しており,原告らの指摘する点を認識した上で判断していると認められる から,原告らの指摘する上記の点は審決の結論に影響を及ぼすものではな い。
5 取消事由4(相違点の看過)について 原告らは,本件発明1の前処理コンベアは引用発明の前処理コンベアとは構 成が異なり,また,引用発明には「ワークキャリアを前処理コンベアから取り 外し,めっき搬送手段に所定間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段であ って,取り外しではめっき搬送手段よりも高速にワークキャリアを移送する搬 送手段」はないにもかかわらず,審決はこれらの相違を看過した誤りがあると 主張する。
しかし,本件発明1と引用発明は「搬送用ハンガーを移送する前処理コンベ ア」を有する点で一致するとした審決の認定に誤りがないこと,本件発明1と 引用発明が「前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り外し,めっき搬送手段 よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,めっき搬送手段に被処理物を所定の間 隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段」を有する点で一致するとした審決 の認定に誤りがないことは前記のとおりであり,原告らの上記主張は理由がな い。
6 取消事由5(相違点2についての判断の誤り)について(1) 甲7文献には以下の記載がある。
・「The invention starts with a process for improving the electrolytic coating of work pieces(3) that are arranged one after the other as a row at a distance from each other on cathode rails(1) or on cathode frames in a bath,whereby the cathode treatment current(I) of the rail or the frames runs parallel to the direction of the above mentioned series of work pieces(3).」『本発明は,浴内で陰極レール(1)又は陰 極フレームにおいて間隔を空けて交互に1列に配列されたワークピース (3)上になされる電解コーティングを向上させる工程に関し,これによ り,上記レール又は上記フレームの陰極処理電流(I)は,上記ワークピ ース(3)の列方向に平行に流れる。』(ABSTRACT〔要約欄〕1行?10 行。『』内は訳文) ・「・・・The above mentioned edges 3′,3″ are at distances a1,a2,a3 from each other.In practice,distances a1,etc. are to be kept relatively small,because otherwise the areas marked with“K”and“A ” of the edges 3′,3″lying opposite each other at a distance will have thick spots due to the metal deposit,i.e. the so-called “dog bone effect.”」『上述の3′及び3″は各々a1,a2,a3 という距離を有 して離れている。実際には,a1 等の距離は,比較的小さく保つべきであ る。そうしなければある距離をおいて互いに向い合せになるワークピース 端 部 3 ′ 及 び 3 ″ の “ K” と “ A” と 書 か れ た エ リ ア は 金 属 が 沈 積 (deposit)するため,いわゆる「ドッグ・ボーン効果」と呼ばれる厚肉部 分を有してしまうからである。』(第3欄46行?51行。『』内は訳 文) ・図面 【Fig.1】(2) 上記記載によれば,甲7文献には,浴内で陰極レール(1)又は陰極フレ ームにおいて間隔を空けて交互に1列に配列されたワークピース(3)上に なされる電界コーティングを向上させる工程に関し,各ワークピース3の間 隔を小さく保つことで,「ドッグボーン効果」と呼ばれる両端部近傍のめっ き厚さが肉厚になる現象の発生を抑える技術が開示されているのが認められ れ,一定の間隔に保持された各被処理物の間隔を設定するに当たり,被処理 物の両端部近傍のめっき厚が肉厚とならないようにするために上記間隔を小 さくすることことは,本件発明1が出願された平成11年2月5日の時点で 公知の知見であったことが認められる。
そして,引用発明に対し,板状体の端部へのめっき電流の集中により端部 にめっきされる金属の厚みが中央部に比べて厚くなり,めっき厚さの均一な 被処理物を得ることができないという公知の技術課題を解決するために,被 処理物の両端部の間隔を小さくするという公知の解決手段を用いることは, 引用発明と甲7文献に記載された技術がいずれも電気めっき(電界コーティ ング)という同一の技術に関するもので,均一なめっき膜を形成するという 技術課題も共通していることからすると,格別の困難性があるとはいえな い。したがって,引用発明及び公知の事項に基づいて本件発明1の構成に至 ることは当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する 者)が容易になしえたものというべきであり,かかる判断をした審決に誤り はない。
(3) なお,原告らは,甲7文献には「ワークピースを水平方向に移動させつつ メッキ処理する」ことも,「連続メッキ処理に適用すること」も記載されて いないと主張する。しかし,ワークピースを水平方向に移動させつつめっき 処理すること及び連続してめっき処理を行う構成は甲1文献に記載されてい るのであるから,原告らの主張を前提としても,引用発明に対しドッグボー ン効果を抑制するために甲7文献に記載されている公知の技術を適用するこ とに格別の困難性があるとはいえないことに変わりはないというべきであ る。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(4) また,原告らは,審決は相違点2に関し引用発明はめっき漕搬送手段に取 り付けられた被処理物の間隔を一定の間隔に保持するがその程度が明らかで ないとしているが,引用発明における一定の間隔は不変であるから,被処理 物の大きさに応じてめっき漕搬送手段に取り付けられた被処理物の間隔をめ っき厚さに不均一を生じない大きさに保持することはできない旨主張をす る。
しかし,甲1文献には,引用発明における上記間隔は調整・変更できない ものであるとの記載はない。また,めっき処理の対象となる被処理物には様 々な大きさのものがあり,めっき装置が決められた幅の被処理物しか扱えな いということは通常考えられないことに照らすと,被処理物の幅が広いとき は被処理物同士がぶつからないようピッチを大きく取るなど,めっき処理に おいて被処理物の大きさに応じてピッチを適宜設定・変更することは普通に 行われていると解される。そうすると,無端チェーンに「一定ピッチで枢 着」されている各プッシャのピッチ(間隔)をワークキャリアに懸吊されて いる被処理物の幅に応じて適宜設定することは,当業者であれば容易に成し 得ることであると考えられる。よって,原告らの上記主張を根拠に,引用発 明から本件発明1を想到することが容易でないということはできない。
7 取消事由6(本件発明3,6,8の判断の誤り)について 取消事由6は取消事由2?5を前提とするものであるところ,前記のとお り,取消事由2?5が認められない以上,取消事由6も認めることはできな い。
8 結語 以上によれば,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 今井弘晃
裁判官 真辺朋子