関連審決 | 無効2008-800041 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術常識 / 技術的意義 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 釈明 / |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10045号
審決取消請求事件
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原告株式会社日立産機システム 同訴訟代理人弁理士橘昭成 同 篁悟 同 市村裕宏 同 斉藤秀俊 被告株 式会社荏原製作所 同訴訟代理人弁護士近藤惠嗣 同 森田聡 同 重入正希 同訴訟代理人弁理士松村貴司 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/11/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2008-800041号事件について,平成21年1月21日にした審決中,「特許第3392390号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。 第2事案の概要1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「中高層建物用増圧給水システム」とする特許第3392390号(平成6年6月14日に出願した特願平6-132265号の出願の一部として,平成12年4月7日に出願,平成15年1月24日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲1,8)。 被告は,平成20年2月29日に,本件特許に係る発明につき,無効審判請求(無効2008-800041号事件)をし,原告は,同年6月23日,訂正請求をした(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。特許庁は,平成21年1月21日,「訂正を認める。特許第3392390号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。 これに対し,原告は,平成21年4月27日,特許請求の範囲の減縮又は不明りょうな記載の釈明を目的として特許庁に対して訂正審判請求をしており(甲12),同事件が特許庁において係属している。 2特許請求の範囲本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである。 【請求項1】中高層建物の各階床を,下側から順次,少なくとも2群の階床群に分割した上で,最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け,上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続し,上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は,上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に,上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム(以下この発明を「本件発明1」という。)。 3審決の内容別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本件発明1は,実願昭58-1506号(実開昭59-107072号)のマイクロフィルム(甲2。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「引用発明1」という。)及び「水道協会雑誌」平成4年2月第61巻第2号(第689号)所収の「直結給水用ブースタ装置の開発と実証実験(中間報告)」と題する論文(甲3。 以下「刊行物2」という。)記載の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当し無効とすべきものであると判断した。 上記の結論を導く前提として,審決が認定した引用発明1の内容並びに本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (1)引用発明1の内容ビルの各階に対して給水する給水システムにおいて,1階から3階に給水する下部ポンプ12を設け,4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け,7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設け,1階から3階に給水する下部送水管13の下端部を,下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続し,4階から6階に給水する上部送水管23の下端部は,上部ポンプ22を介して下部送水管13の上端部に接続し,かつ,7階から所定の階に給水する送水管の下端部は,上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを介して上部送水管13の上端部に接続したビルの各階に対して給水する給水システム。 (2)一致点「中高層建物の各階床を,下側から順次,少なくとも2群の階床群に分割した上で,最も下の階床群は別として各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け,上記最も下の階床群の給水管の下端を給水配管に接続し,上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は,上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続した,中高層建物用増圧給水システム。」である点。 (3)相違点ア相違点1専用の増圧ポンプが設けられる各階床群について,本件発明1は,最も下の階床群を除かれるのに対して,引用発明1は,1階から3階は除かれない,すなわち「最も下の階床群」は除かれない点。 イ相違点2最も下の階床群の給水管の下端の接続について,本件発明1は,水道用配水管に直接接続するのに対して,引用発明1は,下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続する点。 ウ相違点3本件発明1は,上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したのに対して,引用発明1は,そのように限定されていない点。 第3原告主張の取消事由1取消事由1(引用発明1の認定の誤り)審決は,引用発明1について,「1階から3階に給水する下部ポンプ12を設け,4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け,7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設け」と,あたかも3階分に分けることに技術的意義があるかのごとく認定し,かつ7階以上のビルを想定している旨認定している点で誤りである。 刊行物1には,「ビル等の各階に対して下部受水槽の水を給水するにあたり,下部では下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13により行ない,上部では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行なう給水システムにおいて,上記上部ポンプの吸込側を上記下部送水管に接続して給水を行うように構成したビル等の高所への給水システム」が記載されているにすぎない。 2取消事由2(刊行物2記載の技術常識の認定の誤り)(1)審決は,刊行物2の記載から,「既存の配水管圧力で直結給水できる地域に建てられた建物の3階程度までは,水道本管圧力を利用すれば,給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とすることなく,水道管から各階に直結給水が常時可能であること,及び受水槽式の給水方式には,衛生面等の問題があることや,受水槽空間を有効利用から,受水槽式の給水方式を直結給水方式に変更することが給水技術の流れであることは,本件特許の出願前において当業者の技術常識というべきである。」と認定したが,誤りである。 刊行物2には,建物全体に対する給水システムが記載されているのであり,それは,地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域の建物全体に給水する場合には,ブースタ装置を使用することを前提とする技術である。それにもかかわらず,審決は,刊行物2から建物全体の一部である3階程度まではブースタ装置を必要とすることなく水道管から直接給水が常時可能であることが技術常識であると認定しており,誤りである。 また,甲11によれば,直結給水方式には配水管工事や災害等による断水の場合,受水タンク方式のような貯留機能がないというデメリットがあり,また,配水管水圧の変動や給水装置から配水管への汚水の逆流などの課題があることが指摘されているから,刊行物2の記載から,受水槽式の給水方式を直結給水方式に変更することが給水技術の流れであるということはできない。 (2)刊行物2記載の技術的事項を技術常識と認定したことは,審決においてはじめて判断されたものであり,審判段階においては審理の対象となっていなかった。すなわち,審判においては,刊行物2から認定した技術常識の当否について被請求人(原告)による何らの意見申立ての機会がないままに審決がされた点で手続違背があり,同違背は審決の結論に影響する。 3取消事由3(相違点2に対する容易想到性の判断の誤り)(1)審決は,相違点2に対する容易想到性の有無について,「引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は,建物が例えば6階建てであれ,7階建て以上であれ,1階から3階までの揚水能力である,概ね20m程度で十分であることは甲第2号証の記載から自明である。」,「引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は,建物が例えば6階建てであれ,7階建て以上であれ,1階から3階までの揚水能力である,概ね20m程度であり,水道本管圧力(約30m程度)の揚水能力は,引用発明1の『下部ポンプ12』のものと同等以上である。」と判断したが,誤りである。 引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は,分割された階床群の各階床の数によって決められるべきものであるから,「概ね20m程度」ということはできない。 (2)審決は相違点2に対する容易想到性の有無について,本件発明1は,引用発明1と刊行物2記載の技術常識により容易に想到し得る旨判断したが,以下のとおり誤りである。 ア刊行物1には,中層建物の水栓を階床群に分割する考え方は開示されているものの,各階床群毎にポンプと圧力タンクを設置しており,水道用配管には受水槽を配置するものである。すなわち,刊行物1には,中層建物の各階床群に対して,等しくポンプと圧力容器とを配置するという技術思想しか開示されていない。これに対して,本件発明1は,2つ以上の階床群の内で最下の階床群とその他の階床群の給水システムを,異ならせるという技術思想を有する。そして,最下の階床群の給水管下端を水道用配管に直接接続するということをも特定しており,これについても刊行物1とはその技術思想が異なる。また,本件発明1は,刊行物1に開示のない,増圧ポンプの運転制御に際して各階床群毎の給水圧力を特定している。本件発明1と引用発明1とは,技術思想及び構成において異なる。 イ刊行物2には,中層建物の給水システムが開示されているが,建物を各階床群に分割して給水するという技術思想は開示されていない。刊行物2は,ポンプの給水系路とこれをバイパスする逆止弁のバイパス給水管が備わっていることを前提とする給水システムであり,入口圧力が増大して吐出設定圧力以上になるときにポンプが自然停止してバイパス配管を通って給水することが開示されているにすぎない。刊行物2の「十分な入口圧力がある場合はこの経路でポンプを必要とせずに給水できる」(36頁)との記載は,ポンプを設置しないことを意味するわけでなく,入口圧力の値次第ではポンプの作動が不要であるということをいうにすぎず,本件発明1に係る最下階床群の給水管下端が水道用配管に直接接続され,増圧ポンプを設けなくてよいという効果と異なる。 刊行物2記載の発明は,本件発明1とはその技術的課題において相違する。 ウ引用発明1の下部送水管13への受水槽式の給水方式に代えて,刊行物2記載の構成を適用すると,引用発明1の受水槽と下部ポンプ12の代わりにポンプを用いたブースタ(増圧)装置に置き換えることになり,本件発明1にいう最下の階床群の給水管を水道用配管に直接接続する構成に至ることはない。すなわち,この場合逆止弁を必須とするバイパス配管を含みポンプを用いたブースタ装置が下部送水管13に接続されるのであって,バイパス配管のみを選択してそれを下部送水管13に接続したものとはなり得ない。したがって,本件発明1が,引用発明1と刊行物2記載の技術常識から容易に想到するとはいえない。 第4被告の反論原告主張の取消事由には理由がなく,審決に誤りはない。 1取消事由1(引用発明1の認定の誤り)に対し(1)原告は,刊行物1にいう「数階毎」とは,全体の階数を2つに分ける趣旨であると理解した上で,引用発明1は下部と上部の2階層のみを有する給水システムと理解されるべきであると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,刊行物2の記載(図面を含む)は,1階から3階に給水する下部ポンプ12と4階から6階に給水する上部ポンプ22が第3図に図示されている点を7階以上に拡大して,7階から9階に給水するポンプが上部ポンプ22よりも上方に設置されるとの技術が開示されていると理解することができる。また,原告の主張を前提とすれば,ビルが7階以上であっても第3図に図示されている上部ポンプよりも上方に設置されるポンプは存在し得ないことになり,そのような解釈は不自然である。 (2)原告は,審決の引用発明1の認定は,あたかも3階分に分けることに技術的意義があるかのごとく認定している点で誤りであると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。審決は,刊行物1の第3図が3階ずつに区切って6階を1階ないし3階と4階ないし6階に区分しているのを単なる説明の便宜のために利用したにすぎず,具体的な数字に意味があるわけではない。 仮に,引用発明1の内容についての審決の認定に誤りがあったとしても,刊行物1の第3図によれば,本件発明1と同様,少なくとも2つの階床群に分割することが示され,4階から6階までの3階からなる上の階床群は,専用の増圧ポンプ22を有しているから,相違点1ないし3についての容易想到性の判断に影響を及ぼす誤りとはいえない。 2取消事由2(刊行物2記載の技術常識の認定の誤り)に対し(1)相違点1,2については,刊行物2の記載から直ちに,「建物全体の一部である3階程度までは,ブースタ装置を必要とすることなく水道管から直結給水が常時可能であることが技術常識である」,「受水槽給水方式を直結給水方式に変更することが給水技術の流れであることが技術常識である」とまではいえないとしても,?@刊行物2には,直結給水方式が記載されていること,?A常時十分な入口圧力があれば,最も下の階床群には増圧ポンプを設ける必要がないことから,相違点1,2についての容易想到性の判断に影響を与えない。 相違点3については,「給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように」することは何らの困難性も認められず,本件発明1の「各階床に減圧弁を設ける必要はなくなる」という程度の効果は自明であるから,容易想到性の判断に影響を与えない。 (2)刊行物2記載の技術常識の審理が審判段階で尽くされていなかったとの原告の主張は,争う。 3取消事由3(相違点2に対する容易想到性の判断の誤り)に対し原告の主張は,刊行物1において階床群を3階毎に区切るとは限らないことを根拠としているが,同主張が失当であることは前記1のとおりである。 第5当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1事実認定(1)刊行物1(甲2)の記載刊行物1には,以下の記載がある。 ア「従来ビル等の高所への給水装置として下部に受水槽とポンプを設け,ビルの屋上に開放形の高過水槽を設置したもの・・・がある。これらいずれの装置又はシステムも下部のポンプについては,ほぼ同様に,最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし,さらには吐出量も時間平均使用水量の2〜3倍のポンプ又はバリアブルポンプが使用され,設備費,運転費等も高価であり,またポンプ吐出口にかかるウォータハンマー等も大きく故障の原因ともなる。」(1頁19行〜2頁15行)。 イ「本考案の目的は,従来の下部ポンプのみで揚水するかわりに数階毎にポンプ逆止弁及び内部に液体を収容する圧力容器とを配置し,低い揚程のポンプを使用し,揚水管を介して直列に接続することによりポンプの設備費を下げるとともに,運転費をも少なくできる給水装置を提供するものである。」(2頁16行〜3頁2行)。 ウ「本考案の要旨とするところは,ビル等の高所への給水装置において,数階毎に低揚程のポンプ逆止弁と内部に液体を収納する袋体を有した圧力容器とを送水管を介し直列に配置した給水装置であって以下実施例を図面により説明する。」(3頁3行〜7行)。 エ「以上のように本考案の効果は,ポンプと圧力タンクを数階毎に設置することにより,各々のポンプの運転時間を少なくし,下部にポンプ1台を設置したのに比べて,設備費,運転費共安くすることができ,さらに従来の給水装置の場合に生じる最上階と,一階の給水圧力差をほとんどなくすことができ,長い揚水管をもつ給水装置において発生するウォーターハンマー等もなくすことができる等,すぐれた効果を奏すものである。」(4頁13行〜5頁1行)。 オ第3図によれば,1階から3階までは下部受水槽から下部ポンプ12により下部圧力タンク11と連通する下部送水管13により揚水を行い,4階から6階までは上部ポンプ22により上部圧力タンク21と連通する上部送水管23により揚水を行うことが示されている。 (2)刊行物2(甲3)の記載刊行物2(甲3)には,以下の記載がある。 ア「1.はじめに近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm )以上の圧力が必要で2ある。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合,これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」(34頁左欄1行〜同右欄2行)イ「吸込管は逆止弁を介して吐出管へポンプをバイパスするように配管され,十分な入口圧力がある場合はこの経路でポンプを必要とせずに給水できる。圧力センサは配管の吸込側と吐出側にそれぞれ1個づつ付いている。」(36頁左欄3行〜右欄3行)2取消事由1(引用発明1の認定の誤り)について原告は,審決が,刊行物1の記載から,引用発明1について,1階ないし3階と4階ないし6階の3階分に分けた上,7階建て以上のビルを想定し,7階から所定の階までを上部ポンプ22の上方に設置したポンプで給水するとの技術が開示されていると認定した点に,誤りがあると主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。 前記1で認定した刊行物1の第3図によれば,1階から3階までは下部受水槽から下部ポンプ12により下部圧力タンク11と連通する下部送水管13により揚水を行い,4階から6階までは上部ポンプ22により上部圧力タンク21と連通する上部送水管23により揚水を行うことが示されている。そして,上記第3図では6階建てのビルが示されているが,前記1で認定した刊行物1の記載によれば,同記載の「低い揚程のポンプ」は,ビル数階に対して揚水するものであり,ポンプの設置を必要な回数繰り返すことで7階以上のビルでの給水をも想定しているということができる。したがって,原告の主張は理由がない。 3取消事由2(刊行物2記載の技術常識の認定の誤り)について(1)原告は,審決が,刊行物2の記載から,「既存の配水管圧力で直結給水できる地域に建てられた建物の3階程度までは,水道本管圧力を利用すれば,給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とすることなく,水道管から各階に直結給水が常時可能であること,及び受水槽式の給水方式には,衛生面等の問題があることや,受水槽空間を有効利用から,受水槽式の給水方式を直結給水方式に変更することが給水技術の流れであることは,本件特許の出願前において当業者の技術常識というべきである。」と認定した点に誤りがあると主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。 前記1のとおり,刊行物2には,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の観点や受水槽空間の有効利用から,受水槽を省いて,従来の受水槽式の給水方式に代えて直結給水方式に変更すること,及び,十分な入口圧力がある場合は増圧ポンプを必要とせずに給水できることが記載されている。同記載から,1階から3階の低階床については,引用発明1の下部受水槽と下部ポンプ12を設置することなく,常時水道本管の給水圧力のみを利用した給水技術が開示されていると理解することは当業者にとって自明であるというべきである。したがって,原告の主張は理由がない。 (2)原告は,刊行物2の記載から,本件発明1の出願時に直結給水方式が必ずしも給水技術の流れであるとまではいえず,甲11によれば,直結給水方式についてはデメリットもあること等が指摘されていると主張する。しかし,甲11は本件特許の出願後に刊行された刊行物であり,本件特許の出願時の直結給水方式に対する認識は明らかとはいえないから,原告の主張は理由がない。なお,刊行物2から直結給水方式が給水技術の流れであるとはいえないとしても,相違点に係る構成についての容易想到性の判断に影響を及ぼすものではない。 (3)原告は,審判において審決認定の技術常識の審理が尽くされていないと主張する。しかし,証拠(甲13,14)及び弁論の全趣旨によれば,審判の過程において,「甲2と甲3を組み合わせることの困難性」については,平成20年11月28日に行われた第1回口頭審理で審理され,意見を述べる機会があったといえるから,原告の主張は理由がない。 4取消事由3(相違点2に対する容易想到性の判断)について(1)前記1で認定したとおり,刊行物1には「下部のポンプについては,ほぼ同様に,最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし,」と記載されているが,審決は,同記載を前提として,建物1階の高さを3mと仮定して「1階から3階までの揚水能力を概ね20m程度で十分」と判断したものであり,その判断に不合理な点はなく,誤りはない。 そして,審決の引用発明1の認定及び刊行物2記載の技術常識の認定には誤りがないことからすれば,受水槽を省略して従来の受水槽式の給水方式を水道用配管からの直結給水方式に変更できること及び十分な入口圧力がある場合は増圧ポンプを必要とせずに給水できることという刊行物2記載の技術常識を有する当業者が,引用発明1に接したときは,相違点2である,低階床に対する給水について,引用発明1の下部受水槽と下部ポンプ12による給水に代えて,刊行物2記載の技術常識に基づいて受水槽を省いて,常時水道本管の給水圧力のみを利用した給水に変更することは当業者が容易に想到し得ることである。 (2)原告は,引用発明1の下部送水管13への受水槽式の給水方式に代えて,刊行物2記載の構成を適用すると,引用発明1の受水槽と下部ポンプ12の代わりにポンプを用いたブースタ(増圧)装置が置き換わるのであり,本件発明1にいう最下の階床群の給水管を水道用配管に直接接続する構成が異なると主張する。 しかし,前記のとおり,刊行物2から把握できる技術常識は,受水槽を省略して,従来の受水槽式の給水方式を水道用配管からの直結給水方式に変更すること及び十分な入口圧力がある場合は増圧ポンプを必要とせずに給水できることである。そうすると,上記技術常識を引用発明1に適用した場合は,引用発明1の受水槽と下部ポンプ12の代わりにポンプを用いたブースタ装置が置き換わるのではなく,本件発明1に係る最下の階床群の給水管を水道用配管に直接接続して直結給水方式に変更するものとなる。原告の上記主張は,理由がない。 その他,刊行物1と刊行物2記載の技術常識に基づいて,本件発明の相違点に至ることを阻害する要因はない。 5結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由に理由はない。原告はその他縷々主張するが,審決を違法とすべき誤りは認められない。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 中平健 |
裁判官 | 上田洋幸 |