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関連審決 異議2000-70621
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21ワ3529特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成11ワ21974損害賠償請求事件 判例 特許
平成14ワ12752特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ860損害賠償請求事件 判例 特許
昭和60ワ4297特許権に基づく侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的範囲 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  悪意 /  信義則 /  禁反言 /  特許発明 /  権原 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  異議申立 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 1718号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社メリックス
訴訟代理人弁護士 木村圭二郎
同 山内玲
同 平松亜矢子
補佐人弁理士 倉内義朗
被告 株式会社キャリバー
被告A
被告ら訴訟代理人弁護士 阪本政敬
被告ら補佐人弁理士 蔦田正人
同 中村哲士
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/11/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告株式会社キャリバーは、別紙旧被告製品目録及び新被告製品目録記載の使用電力量制御装置を製造し、販売し、又は貸し渡してはならない。
2 被告株式会社キャリバーは、別紙旧被告製品目録及び新被告製品目録記載の使用電力量制御装置を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して1000万円及びこれに対する平成15年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は、後記2(2)の特許権を有する原告が、被告株式会社キャリバー(以下「被告会社」という。)の製造販売する使用電力量制御装置は同特許権に係る特許発明技術的範囲に属し、その製造販売等が同特許権を侵害するとして、被告会社に対し、同特許権に基づいて使用電力量制御装置の製造販売等の差止め、廃棄、同特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償を求め、被告Aに対し、同特許権侵害による不法行為又は商法266条の3第1項に基づく損害賠償を求めた事案である。
2 基礎となる事実(争いがある旨を記載し、又は認定の裏付けとなる証拠等を掲記した部分以外は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は、電気、ガス及び水道の料金を節減するための機械器具の設計、企画、販売等を業とする株式会社である。
被告会社は、電気工事の設計施工等を業とする株式会社であり、被告Aは、被告会社の代表取締役である。
原告と被告会社は、平成9年6月、原告の商品である使用電力量制御装置について、原告を供給者とし、被告会社を特約店とし、契約期間を2年間とする旨の特約店契約を締結し、その後、同契約に基づく取引関係にあった。
(2) 特許権 原告は、次の特許権を有する(以下「本件特許権」といい、その特許出願の願書に添付された明細書、図面をそれぞれ「本件明細書」、「本件添付図面」という。)。
特許番号 第3180098号 発明の名称 使用電力量制御システム及び使用電力量制御方法並びに使用電力量制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体 出願年月日 平成9年5月2日 出願番号 特願平11-110229号 登録年月日 平成13年4月13日 (3) 特許発明 ア 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、同請求項1に記載された発明を「本件特許発明」という。) 「複数の負荷を備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって、電力量の削減率に対応した各負荷の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段と、一定時間の使用上限電力量のデータを格納する使用上限電力量格納手段と、前記複数の負荷を一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、その制御中に、運転開始から現在時刻までの使用電力量を演算により求める現在使用電力量演算処理手段と、この現在使用電力量演算処理手段により求めた使用電力量から一定時間後の使用予測電力量を演算により求め、その求めた使用予測電力量と前記使用上限電力量格納手段に格納されている使用上限電力量とを比較し、使用予測電力量が使用上限電力量を超えている場合には削減率の増加を指示する信号を出力する削減率決定処理手段と、
この削減率決定処理手段からの指示信号に基づいて削減率を切り換えることにより、その削減率に対応する運転制御パターンに従ってオン/オフ運転制御を行う運転制御手段とを備えたことを特徴とする使用電力量制御システム。」 イ 本件特許発明構成要件に分説すると、次のとおりである。
構成要件(1) 複数の負荷を備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって 構成要件(2) 電力量の削減率に対応した各負荷の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段を有すること 構成要件(3) 一定時間の使用上限電力量のデータを格納する使用上限電力量格納手段を有すること 構成要件(4-1) 前記複数の負荷を一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、
構成要件(4-2) その制御中に、運転開始から現在時刻までの使用電力量を演算により求める現在使用電力量演算処理手段を有すること (以下、構成要件(4-1)と構成要件(4-2)を包括して「構成要件(4)」ということがある。) 構成要件(5) この現在使用電力量演算処理手段により求めた使用電力量から一定時間後の使用予測電力量を演算により求め、その求めた使用予測電力量と前記使用上限電力量格納手段に格納されている使用上限電力量とを比較し、使用予測電力量が使用上限電力量を超えている場合には削減率の増加を指示する信号を出力する削減率決定処理手段を有すること 構成要件(6) この削減率決定処理手段からの指示信号に基づいて削減率を切り換えることにより、その削減率に対応する運転制御パターンに従ってオン/オフ運転制御を行う運転制御手段とを備えたこと 構成要件(7) を特徴とする使用電力量制御システム (4) 被告製品の製造販売 被告会社は、製品名を「ESPER SYSTEM」とする使用電力量制御装置を製造販売していた(ただし、本件特許権の設定登録後の被告製品の製造販売の有無については、後記争点(1)のとおり争いがある。)。
「ESPER SYSTEM」には、E型及びF型(以下、E型及びF型を「旧被告製品」という。)と、これらのバージョンアップ版であるSF型(以下、SF型を「新被告製品」といい、旧被告製品と新被告製品を包括して単に「被告製品」という。)がある。(弁論の全趣旨) F型は1600台の空調機を制御することができ、E型はF型の汎用機種であり、最大24台の空調機を制御することができる。(弁論の全趣旨) 旧被告製品は、別紙旧被告製品目録記載のとおりであり、新被告製品は、
別紙新被告製品目録記載のとおりである(構成Aについては、後記争点(2)のとおり争いがある。)。
(5) 被告製品の構成 ア 旧被告製品 旧被告製品の構成は、次のとおりである。
@ 室外機を有する空調機を複数備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって A 電力量の削減率に対応した各室外機の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段を有すること B 一定時間の使用上限電力量のデータを格納する使用上限電力量格納手段を有すること C グループ分けされた複数の室外機をグループ毎に一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、その制御中に、電力会社が設置する電力量計から発せられるパルス信号の積算という形式で、運転開始から現在時刻までの電力設備の使用電力量を求める処理手段(現在使用電力量演算処理手段)を有すること D この現在使用電力量演算処理手段により求めた使用電力量から一定時間後の使用予測電力量を演算により求め、その求めた使用予測電力量と前記使用上限電力量格納手段に格納されている使用上限電力量とを比較し、使用予測電力量が使用上限電力量を超えている場合には削減率の増加を指示する信号を出力する削減率決定処理手段を有すること E この削減率決定処理手段からの指示信号に基づいて削減率を切り換えることにより、その削減率に対応する運転制御パターンに従ってグループ分けされた各室外機のオン/オフ運転制御をグループ毎に行う運転制御手段とを備えていること F を特徴とする使用電力量制御システムに関するプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体を搭載し、それにより電力量の制御をしている使用電力量制御装置 (旧被告製品が構成@、BないしEを備えることは、当事者間に争いがない。構成Aについては、後記争点(2)のとおり争いがある。旧被告製品が構成Fを備えることは、弁論の全趣旨により認められる。) イ 新被告製品 新被告製品の構成は、次のとおりである。
@ 室外機を有する空調機を複数備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって、
A 電力量の削減率に対応した各室外機の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段を有すること B 一定時間の使用上限電力量のデータを格納する使用上限電力量格納手段を有すること C グループ分けされた複数の室外機をグループ毎に一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、その制御中に、電力会社が設置する電力量計から発せられるパルス信号の積算という形式で、運転開始から現在時刻までの電力設備の使用電力量を求める処理手段(現在使用電力量演算処理手段)を有すること D この現在使用電力量演算処理手段により求めた使用電力量から一定時間後の使用予測電力量を演算により求め、その求めた使用予測電力量と前記使用上限電力量格納手段に格納されている使用上限電力量とを比較し、使用予測電力量が使用上限電力量を超えている場合には削減率の増加を指示する信号を出力する削減率決定処理手段を有すること E この削減率決定処理手段からの指示信号に基づいて削減率を切り換えることにより、その削減率に対応する運転制御パターンに従ってグループ分けされた各室外機のオン/オフ運転制御をグループ毎に行う運転制御手段とを備えていること G 前記AないしEの各手段に加え、グループ分けされた複数の室外機のうち一部の室外機について、選択的に、別途異なる削減率に対応した運転制御パターンに従ってオン/オフ運転制御を行う手段を更に備えていること F を特徴とする使用電力量制御システムに関するプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体を搭載し、それにより電力量の制御をしている使用電力量制御装置 (新被告製品の構成@ないしE、Fは、旧被告製品の構成@ないしFと同じである。新被告製品が構成@、BないしE、Gを備えることは、当事者間に争いがない。構成Aについては、後記争点(2)のとおり争いがある。新被告製品が構成Fを備えることは、弁論の全趣旨により認められる。) (6) 構成要件充足性 旧被告製品は、本件特許発明構成要件(1)、(3)、(5)を充足し、新被告商品は本件特許発明構成要件(1)、(3)を充足する。
(7) 分割等の経緯 本件特許権は、平成9年5月2日出願された特願平9-114815号(以下「親出願」という。)の分割出願に係るものである。分割等の経緯は、次のとおりである。
ア 原告は、平成9年5月2日、親出願(特願平9-114815号)を出願した。親出願の出願当初の特許請求の範囲の請求項は1から7まであり、請求項1に記載された発明は、本件特許発明と同一であった。(弁論の全趣旨) イ 特許庁審査官は、平成11年1月22日起案の拒絶理由通知書(乙第1号証の1)により、請求項1ないし7の発明について、特開昭63-234837号公報(乙第1号証の2、第2号証の2、以下「乙1-2公報」という。)、特開昭54-48053号公報(乙第1号証の3、以下「乙1-3公報」という。)、
実願平1-107013号(実開平3-45042号)のマイクロフィルム(乙第1号証の4、以下「乙1-4マイクロフィルム」という。)に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨の理由により、拒絶理由通知を行った。
ウ 原告は、平成11年3月18日、特許庁審査官に対し、補正案(乙第1号証の5)を送付した。特許庁審査官は、同日、提示された補正案は依然として単なる用途限定の域を出ておらず、請求項1ないし7の発明は拒絶理由を有する旨、
補正案の不備を指摘し、再検討を促した。(乙第1号証の6) エ 原告は、平成11年4月14日、特許庁審査官に対し、再度、補正案(乙第1号証の7)を提出し、特許庁審査官は、同月15日、その補正案を了承した。(乙第1号証の8) オ 原告は、特許庁審査官に対し、平成11年4月19日、意見書(乙第1号証の9)及び手続補正書(乙第1号証の10)を提出した。同手続補正書においては、請求項は1から6までとされた。
カ 原告は、平成11年4月19日、本件特許発明を親出願から分割出願した。
キ 特許庁審査官は、平成11年5月11日、親出願につき特許査定を行い、特許番号は第2934417号とされた(乙第1号証の11、第2号証の1、
弁論の全趣旨。)。
ク 親出願の特許(特許第2934417号)については、平成12年2月16日、異議申立てが行われた(異議2000-70621、乙第2号証の1)。
異議申立ては、請求項1ないし6の発明について、特開昭63-234837号公報(乙1-2公報、乙第2号証の2)、雑誌「電設資材」1987年(昭和62年)6月号23ないし26頁(乙第2号証の3)、特公昭64-4417号公報(乙第2号証の4)、特開平1-114654号公報(乙第2号証の5)、特公平6-25626号公報(乙第2号証の6)に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないことを理由としていた。
ケ 特許庁審判官は、平成12年5月2日起案の取消理由通知書(乙第2号証の8)により、請求項1ないし6の発明について、上記乙第2号証の2ないし6に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨の理由により、取消理由通知を行った。同取消理由通知書の理由欄には、上記の理由のほか、
「なお、空調設備のデマンド監視制御を、目標温度の管理を行うことなく、負荷のオン、オフの運転制御により行うことは、実願平1-107013号(実開平3-45042号公報参照)の明細書および図面を撮影したマイクロフィルム(特に、
従来技術の説明)、にみられるように本件出願前に周知の技術である。」と記載されていた。
コ 原告は、平成12年7月17日付け特許異議意見書(乙第2号証の9)を提出するとともに、同日付け訂正請求書(乙第2号証の10)によって訂正を請求した。
サ 特許庁審判官は、平成12年8月18日、訂正を認め、請求項1ないし6に係る特許を維持するという異議決定を行った(乙第2号証の10)。
3 争点 (1) 被告製品の製造販売の有無 (2) 被告製品における構成Aの構成 (3) 被告製品による本件特許発明構成要件(2)、(6)の充足性 (4) 被告製品による本件特許発明構成要件(4)の充足性 (5) 新被告製品による本件特許発明構成要件(4)ないし(6)の充足性 (6) 明白な無効理由の存否 (7) 被告Aの責任の有無 (8) 損害
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告製品の製造販売の有無)について (1) 原告の主張 被告会社は、平成10年6月以降、被告製品を製造販売しており、本件特許権の設定登録日(平成13年4月13日)以降平成15年1月末日までに、被告製品を21台製造販売した。
(2) 被告らの主張 原告の主張のうち、被告会社が被告製品を過去において製造販売した事実は認めるが、本件特許権の設定登録日以降製造販売していることは否認する。
2 争点(2)(被告製品における構成Aの構成) (1) 原告の主張 被告製品は、いずれも前記第2、2(5)ア、イのとおり、構成Aを備える。
(2) 被告らの主張 被告製品の構成Aは、「電力量の削減率に対応したグループ分けされた各室外機の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段を有すること」とすべきである。
3 争点(3)(被告製品による本件特許発明構成要件(2)、(6)の充足性) (1) 原告の主張 空調機をグループ毎に運転制御するということは、同一グループに属する空調機を取り上げれば、一つの運転制御パターンに従って運転しているということである。本件特許発明において、運転制御パターンを負荷毎に格納するという限定はされていない。
したがって、被告製品は、いずれも本件特許発明構成要件(2)、
(6)を充足する。
(2) 被告らの主張 本件特許発明構成要件(2)、(6)によれば、本件特許発明は、運転制御パターン格納手段に、削減率に対応した各負荷の運転制御パターンを複数格納し、運転制御手段が、この各負荷の運転制御パターンを呼び出してオン/オフ運転制御を行うものである。
これに対し、被告製品は、運転制御パターン格納手段に、削減率に対応したグループ毎の運転制御パターンを複数格納しているが、各負荷毎の運転制御パターンを格納しておらず、運転制御手段が、グループ毎の運転制御パターンを呼び出してオン/オフ運転制御を行う。
したがって、被告製品は、いずれも本件特許発明構成要件(2)、
(6)を充足しない。
4 争点(4)(被告製品による本件特許発明構成要件(4)の充足性) (1) 原告の主張 ア 「一つの削減率」の充足性 本件特許発明は、複数の負荷を備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって、当該負荷について一つの削減率による運転制御(「使用量削減制御」という。)をしつつ、基本料金の算定根拠となる最大使用契約電力との関係において、一定時間の使用上限電力量が契約電力を超えないようにする制御(「デマンド制御」という。)を行うものである。使用量削減制御が構成要件(4-1)にかかわり、デマンド制御が構成要件(4-2)、(5)、(6)にかかわる。
被告製品は、グループ分けされた複数の空調機を一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を行うことにより、予め設定された削減率に基づき空調機等の負荷に対する使用量削減制御が行われるから、構成要件(4-1)を充足する。
また、デマンド制御は、使用量削減制御の対象であるか否かとは直接関係なく、契約料金の算定根拠となっている負荷すべてが対象とされる。被告製品がグループ分けされた構成を有するとしても、被告製品は、グループ分けされた空調機に対する使用量削減制御中に、運転開始から現在時刻までの使用電力量を演算により求める現在使用電力量演算処理手段を有し、また、現在使用電力量演算処理手段により求められた使用電力量から一定時間後の使用予測電力量を演算により求めた上、場合により、削減率の増加を指示する信号を出力する削減率決定処理手段を有し、これにより、削減率を切り換えた上で、その削減率に対応するオン/オフ運転制御を行う運転制御手段を有している。したがって、被告製品は、構成要件(4-2)、(5)、(6)を充足する。
被告製品において、使用量削減制御の対象である特定のグループに属する空調機を取り上げると、それが本件特許発明構成要件を充足することは明らかであり、グループ分けは、本件特許発明における使用量削減制御及びデマンド制御に関して何ら特別の意義を有しない。
イ 「現在使用電力量演算処理手段」の充足性 本件特許発明は、最大使用電力量を制御することによって最大使用契約電力を削減し、基本料金の節約を図ることを目的としている。本件特許発明における「現在使用電力量演算処理手段」は、使用予測電力量を予測し、使用上限電力量と比較するための計数を取得する手段として構成されており、その演算対象は、設備全体の使用電力量である。そして、一定時間の使用電力量を演算により求める手段を広く含むものである。
被告製品は、デマンドメーターから提供される一定単位の電力量を示すパルスを、その回数をもって乗算することによって使用電力量を得ているから、
「現在使用電力量演算処理手段」を備えている。
(2) 被告らの主張 ア 「一つの削減率」の充足性 本件特許発明構成要件(1)は「複数の負荷を備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって」であり、構成要件(4-1)は「前記複数の負荷を一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、」である。このような構成要件の記載からすると、本件特許発明においては、電力設備が有している複数の負荷は、すべて一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、一つの削減率によって運転するものでなければならない。
これに対し、被告製品は、その構成Cのとおり、「グループ分けされた複数の室外機をグループ毎に一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始」するものであり、グループ毎に異なる削減率により運転されており、電力設備が有している複数の負荷が、すべて一つの削減率によって運転されているのではない。
したがって、被告製品は、「一つの削減率」という構成要件を充足しない。
イ 「現在使用電力量演算処理手段」の充足性 本件特許発明構成要件の文言からすると、構成要件(4)の「使用電力量」とは、一定時間のオン/オフ運転制御(デマンド制御)が行われている負荷のみの使用電力量を意味し、構成要件(1)の「複数の負荷」は、デマンド制御を行う負荷のみを意味する。本件明細書の記載(本件公報の段落【0020】、【0023】)、本件添付図面の図1(本件公報の図1)によれば、現在使用電力量演算処理部4は、各空調機(負荷)毎に接続された電力量計測部で測定された電力量を加算しており、デマンド制御を行う負荷以外の使用電力量を計測する構成ではない。本件明細書において、「使用電力量」にデマンド制御が行われていない負荷を含めることは記載されていないし、示唆もされていない。
これに対し、被告製品は、設備全体の総使用電力量を電力会社の設置するデマンドコントローラーから提供されるパルスにより一括して計測するから、デマンド制御を行う負荷(空調機)と、デマンド制御を行わない負荷(例えば、電灯)とを総計した使用電力量を計測している。
したがって、被告製品は、「現在使用電力量演算処理手段」を備えない。
5 争点(5)(新被告製品による本件特許発明構成要件(4)ないし(6)の充足性) (1) 原告の主張 旧被告製品は本件特許発明技術的範囲に属するところ、新被告製品は、
旧被告製品に新機能が追加されているにすぎず、本件特許発明を利用しているから、本件特許発明技術的範囲に属する。
(2) 被告らの主張 新被告製品は、一つのグループに属する空調機のうち特定の1台又は複数台のみを、そのグループの削減率とは異なる削減率で制御する機能を旧被告製品に追加したものである(前記第2、2(5)イ構成G)。この追加機能を作動させ、特定の1台を他と異なる削減率で制御した場合、新被告製品は、一つの負荷を一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って制御していることとなり、一つの削減率で複数の負荷を制御していることとはならない。
したがって、この点からして、追加機能を作動させたとき、新被告製品は、構成要件(4)ないし(6)を充足しない。
6 争点(6)(明白な無効理由の存否) (1) 被告らの主張 ア 特許法29条2項 乙1-2公報には、複数の電力負荷の目標温度別の負荷電力消費パターンを格納する手段と、最大許容電力量格納手段と、現時点又は一定時間後の予測消費電力量が前記最大許容電力量を上回るとき、これを上回らない消費電力量となるよう目標温度を変更する空調設備の電力デマンド装置が記載されている。乙1-2公報は、複数の電力負荷の目標温度を引き下げて消費電力量の削減を行うものであり、電力量の削減率を指定して消費電力量の削減を行うものと、技術的に等価である。また、乙1-3公報には、複数レベルの削減率に従ってデマンド制御を行う技術が開示されている。さらに、乙1-2文献と同類の技術として、送風機の回転数を制御することにより消費電力量の削減を行う乙1-4マイクロフィルム記載の技術も知られている。したがって、本件特許発明は、乙1-2公報及び乙1-3公報に記載された発明に基づいて、又は乙1-4マイクロフィルムに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本件特許には、同法123条1項2号の無効理由が存在することが明らかである。
イ 特許法36条6項2号 本件特許発明において制御対象とされている「負荷」について、本件明細書の発明の詳細な説明には、具体例として空調機が挙げられているだけであり、
それ以外の説明はない。電力設備の「負荷」としては、空調機以外に、電灯、エレベータ、エスカレータ、コンピュータなど種々の電気製品が含まれるが、例えば電灯のオン/オフ制御を行うと、当該施設での執務等ができなくなり、職場環境に極力変化を与えないという本件特許発明の目的(本件公報5欄19行)を達成することができない。原告は、親出願の審査過程において、「負荷」を「室外機と送風を行う室内機とを有する空調機」に補正した。
したがって、本件特許発明の「負荷」の意味は不明確であり、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法123条1項4号の無効理由が存在することが明らかである。
信義則違反 前記第2、2(7)のとおり、原告は、親出願の審査及び異議申立手続において、拒絶理由通知及び異議申立てに対応して、出願当初明細書の特許請求の範囲その他の記載を自ら補正し、訂正した。それにもかかわらず、原告は、本件特許発明が、親出願の出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1と同じ内容で、拒絶理由通知が発せられることなく登録されたことを奇貨として、本件特許権に基づく権利を主張するものであって、原告の本件特許権の行使は、信義誠実の原則又は禁反言の原則に照らして許されない。これは、ある特許出願について、審査において特許請求の範囲の記載を限定して特許を取得しておきながら、後の侵害訴訟においてこれと矛盾する主張をすることが許されないのと同様である。
(2) 原告の主張 ア 特許法29条2項 乙1-2公報、乙1-3公報、乙1-4マイクロフィルムは、親出願に対する拒絶理由通知において引用されており、特許庁審査官は、本件特許発明の審査において、それらとの関係で本件特許発明進歩性を確認している(乙1-2公報は、本件公報の参考文献に掲記されている。)。
乙1-2公報に記載された発明は、デマンド警報線を越える時点においてデマンド制御を実行するものである。乙1-3公報に記載された発明は、実消費電気量が予め設定された数値を超過する時点において初めて順次強制的にOFF状態にするという運転制御を行うものであり、一定時間において最大使用電力量を制御(デマンド制御)するという発想はない。乙1-4マイクロフィルムに記載された発明は、消費電力量が契約電力に達することを予測した場合に制御信号を与えて入力電圧及び周波数を低下させるという制御を行うものであり、デマンド値の近傍に近付いてから負荷の運転制御を行うにとどまり、一定の削減率に基づく使用電力量の削減を実現するという発想はない。乙1-2公報、乙1-3公報、乙1-4マイクロフィルムに記載された発明は、本件明細書において従来技術として指摘されているものであり、これらからは、本件特許発明構成要件(4)ないし(6)は示唆さえされていない。
イ 特許法36条6項2号 本件明細書には、「負荷(例えば空調機)」(本件公報4欄38ないし39行)と記載されており、また、一般に「負荷」とは、電気を消費する機器等を指すことは明らかであるから、本件特許発明の「負荷」の意味は何ら明確性に欠けるものではない。
信義則違反 前記第2、2(7)のとおり、特許庁審査官が親出願に対して拒絶理由通知を行ったため、原告は、平成11年4月19日、特許庁審査官に対して意見書及び手続補正書を提出するとともに、本件特許発明を親出願から分割出願した。原告は、その後、親出願について特許査定を受け、分割出願(本件特許発明)についても特許査定を受けた。このような経緯を経て成立した本件特許権に基づいて権利行使を行うことは、何ら信義誠実の原則に反することはない。
7 争点(7)(被告Aの責任の有無) (1) 原告の主張 被告Aは、被告会社の代表取締役であり、その職務を行うにつき悪意又は重過失があったから、被告会社とともに本件特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償責任を負うほか、商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任を負う。
(2) 被告らの主張 原告の主張は争う。
8 争点(8)(損害) (1) 原告の主張 被告会社は、本件特許権の設定登録日以降平成15年1月末日までに、被告製品を21台製造販売し、3290万円の利益を上げ、この利益額が、特許法102条2項により、原告の受けた損害と推定される。原告は、このうち1000万円及びこれに対する不法行為の後である平成15年3月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(2) 被告らの主張 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点(2)(被告製品における構成Aの構成)について検討する。
新被告製品の取扱説明書である乙第7号証によれば、少なくとも新被告製品は、グループ毎に削減率を設定するものであることが認められ、被告製品の構成Cは、「グループ分けされた複数の室外機をグループ毎に一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し」とされていることから、被告製品は、いずれも室外機がグループ分けされていることが認められる。
したがって、被告製品の構成Aは、「電力量の削減率に対応したグループ分けされた各室外機の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段を有すること」とするのが相当であると認められる。
2 争点(4)(被告製品による本件特許発明構成要件(4)の充足性)のうち「一つの削減率」の充足性について検討する。
ア(ア) 構成要件(1)は、「複数の負荷を備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって」であり、構成要件(2)は、「電力量の削減率に対応した各負荷の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段を有すること」である。構成要件(4-1)は、「前記複数の負荷を一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、」であるから、構成要件(1)、(2)を前提としてその文言を解釈すると、電力制御の対象となる負荷が複数であることを前提とした上で「一つの削減率」と記載されていることから、電力制御の対象となる複数の負荷のすべてについて、一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始することであると解される。本件明細書において、電力制御の対象となっている負荷について、一つでなく複数の削減率に対応した運転制御パターンに従って電力制御することをうかがわせる記載は認められない。
(イ) ところで、弁論の全趣旨によれば、電力設備の負荷の中には、電灯、
エレベータなどのように、オン/オフ運転制御を行うと、「職場環境に極力変化を与えないようにして最大使用電力量の削減を図った使用電力量制御システム・・・を提供する」(本件公報5欄19ないし23行)という本件特許発明の目的を達し得ないようなものが存在することが認められる。本件明細書にも、「空調機A1,A2・・・の室外機をオフしても、室内機は送風状態を維持することができるので、室内にいる者にとっても空調機A1,A2・・・が停止していることをあまり気にすることなく仕事を行うことができる。」(本件公報13欄21ないし25行)と記載されており、空調機の室外機を電力制御の対象としても、室内機をその対象としないことが前提とされている。そうであるとすると、電力設備の負荷の中には、電力制御の対象とならないものも存在すると認められる。しかし、そのことは、本件特許発明において、電力制御の対象となる負荷のすべてについて一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って電力制御が行われることと矛盾するものではない。
イ 被告製品の構成Cは、「グループ分けされた複数の室外機をグループ毎に一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、その制御中に、電力会社が設置する電力量計から発せられるパルス信号の積算という形式で、運転開始から現在時刻までの電力設備の使用電力量を求める処理手段(現在使用電力量演算処理手段)を有すること」であり、グループ内では一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始することとされているが、電力制御の対象となる複数の負荷のすべてについて、一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始することとはされていない。本件の全証拠に鑑みても、被告製品が、電力制御の対象となる複数の負荷のすべてについて、一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始していると認めることはできない。
したがって、被告製品は、本件特許発明構成要件(4)を充足しないというべきである。
3 以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、被告製品はいずれも本件特許発明技術的範囲に属さない。
よって、主文のとおり判決する。
追加
(別紙)旧被告製品目録@室外機を有する空調機を複数備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであってA電力量の削減率に対応した各室外機の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段を有することB一定時間の使用上限電力量のデータを格納する使用上限電力量格納手段を有することCグループ分けされた複数の室外機をグループ毎に一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、その制御中に、電力会社が設置する電力量計から発せられるパルス信号の積算という形式で、運転開始から現在時刻までの電力設備の使用電力量を求める処理手段(現在使用電力量演算処理手段)を有することDこの現在使用電力量演算処理手段により求めた使用電力量から一定時間後の使用予測電力量を演算により求め、その求めた使用予測電力量と前記使用上限電力量格納手段に格納されている使用上限電力量とを比較し、使用予測電力量が使用上限電力量を超えている場合には削減率の増加を指示する信号を出力する削減率決定処理手段を有することEこの削減率決定処理手段からの指示信号に基づいて削減率を切り換えることにより、その削減率に対応する運転制御パターンに従ってグループ分けされた各室外機のオン/オフ運転制御をグループ毎に行う運転制御手段とを備えていることFを特徴とする使用電力量制御システムに関するプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体を搭載し、それにより電力量の制御をしている使用電力量制御装置(別紙)新被告製品目録@室外機を有する空調機を複数備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって、
A電力量の削減率に対応した各室外機の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段を有することB一定時間の使用上限電力量のデータを格納する使用上限電力量格納手段を有することCグループ分けされた複数の室外機をグループ毎に一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、その制御中に、電力会社が設置する電力量計から発せられるパルス信号の積算という形式で、運転開始から現在時刻までの電力設備の使用電力量を求める処理手段(現在使用電力量演算処理手段)を有することDこの現在使用電力量演算処理手段により求めた使用電力量から一定時間後の使用予測電力量を演算により求め、その求めた使用予測電力量と前記使用上限電力量格納手段に格納されている使用上限電力量とを比較し、使用予測電力量が使用上限電力量を超えている場合には削減率の増加を指示する信号を出力する削減率決定処理手段を有することEこの削減率決定処理手段からの指示信号に基づいて削減率を切り換えることにより、その削減率に対応する運転制御パターンに従ってグループ分けされた各室外機のオン/オフ運転制御をグループ毎に行う運転制御手段とを備えていることG前記AないしEの各手段に加え、グループ分けされた複数の室外機のうち一部の室外機について、選択的に、別途異なる削減率に対応した運転制御パターンに従ってオン/オフ運転制御を行う手段を更に備えていることFを特徴とする使用電力量制御システムに関するプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体を搭載し、それにより電力量の制御をしている使用電力量制御装置
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 守山修生