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関連審決 不服2007-19146
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成21行ケ10003審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10120号 審決取消請求事件
原告シコー株式会社
同訴訟代理人弁理士佐野惣一郎
被告特許庁長官
同 指定代理 人江塚政弘岩崎伸二 安達輝幸 森口正治
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/11/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2007-19146号事件について,平成21年3月31日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「磁気式位置検出装置」とする発明について,平成16年11月16日特許出願(特願2004-331619)したが,平成19年6月13日付けの拒絶査定を受けたので,同年7月9日,これに対する不服の審判を請求するとともに,手続補正(以下「本件補正」という。)をした。
(2)特許庁は,上記請求を不服2007-19146号事件として審理した上,平成21年3月31日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は同年4月10日原告に送達された。
2本願発明の要旨本件審決が対象とした,特許請求の範囲請求項1の記載は,以下のとおりである。
以下,本件補正前の請求項1に記載された発明を「本願発明」,本件補正後の請求項1に記載された発明を「本件補正発明」という。また,本件出願に係る本件補正後の明細書(甲3,図面につき甲1)を「本願明細書」という。
(1)本願発明異なる磁極を交互に配置した着磁面に対向して配置され,着磁面の磁界強度に応じた電流を出力する複数の磁気抵抗素子からなる一方及び他方の磁気抵抗回路と,各磁気抵抗回路に設けた電力供給端子と,出力端子とを備え,一方及び他方の磁気抵抗回路は各々磁気抵抗素子が直列に接続してあり且つ各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置し,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置してあり,一方及び他方の磁気抵抗回路うちの少なくとも一方の磁気抵抗回路を構成する磁気抵抗素子は基準磁気抵抗素子と基準磁気抵抗素子から(λ/n)及び(λ/2m)ずらして配置した補正用磁気抵抗素子を有し,λは着磁面の磁極の並び方向における磁極の巾であり,nは0を除く偶数,mは1を除く奇数であり,一方の磁気抵抗回路と他方の磁気抵抗回路とは,出力波形の位相差を90°ずらしていることを特徴とする磁気式位置検出装置。
(2)本件補正発明異なる磁極を交互に配置した着磁面に対向して配置され,着磁面の磁界強度に応じた電流を出力する複数の磁気抵抗素子からなる一方及び他方の磁気抵抗回路と,各磁気抵抗回路に設けた電力供給端子と,出力端子とを形成したパターン回路において,一方及び他方の磁気抵抗回路は各々磁気抵抗素子が直列に接続してあり且つ各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置し,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置してあり,一方及び他方の磁気抵抗回路うちの少なくとも一方の磁気抵抗回路を構成する磁気抵抗素子は基準磁気抵抗素子と基準磁気抵抗素子から(λ/n)及び(λ/2m)ずらして配置した補正用磁気抵抗素子を有し,λは着磁面の磁極の並び方向における磁極の巾であり,nは0を除く偶数,mは1を除く奇数であり,一方の磁気抵抗回路と他方の磁気抵抗回路とは,出力波形の位相差を90°ずらしていることを特徴とする磁気式位置検出装置。
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件補正発明は,特開2002-206950号公報(甲4。以下「引用例」という。)に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下「法」という。)17条の2第5項において準用する法126条5項の規定に違反するものであるとして,法159条1項の規定において準用する法53条1項の規定により本件補正を却下すべきものであり,また,本願発明も,引用発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(2)本件審決は,その判断の前提として,引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点(以下「本件相違点」という。)を,以下のとおり認定した。
ア引用発明:異なる磁極を交互に配置した磁気ドラム8の表面(着磁面に相当。)に対向して配置され,磁気ドラム8の表面(着滋面に相当。)の磁界強度に応じた電流を出力する複数のMR膜51a,52a,53a,54a,51b,52b,53b,54b(磁気抵抗素子に相当。)からなるA相のMR膜51a,53a,53b,51b(一方に相当。)及びB相のMR膜52a,54a,54b,52b(他方の磁気抵抗回路に相当。)と,各相のMR膜(各磁気抵抗回路に相当。)に設けた電源Vccに相当する電極膜及び接地電位GNDとなる電極膜(電力供給端子に相当。)と,出力電極A,A′,B,B′(出力端子に相当。)とを形成した,磁気ドラム8の表面に対し垂直にして配列された回路(回路に相当。)において,A相のMR膜51a,53a,53b,51b(一方に相当。)及びB相のMR膜52a,54a,54b,52b(他方の磁気抵抗回路に相当。)はA相のMR膜51aと53a,53bと51bそしてB相のMR膜52aと54a,54bと52b(各々磁気抵抗素子に相当。)が直列に接続してあり且つMR膜51a,53a,53b,51b,52a,54a,54b,52b(各磁気抵抗素子に相当。)の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置し,A相のMR膜51a,53a,53b,51b(一方の磁気抵抗回路に相当。)のMR膜51a,51bとMR膜53a,53bとの間に(磁気抵抗素子間に相当。)B相のMR膜52a,54a,54b,52b(他方の磁気抵抗回路に相当。)のMR膜52a,52b(磁気抵抗素子に相当。)が配置してあり,A相のMR膜51a,53a,53b,51b(一方に相当。)及びB相のMR膜52a,54a,54b,52b(他方の磁気抵抗回路に相当。)うちのA相のMR膜51a,53a,53b,51b(少なくとも一方の磁気抵抗回線に相当。)を構成するMR膜51a,53a,53b,51b(磁気抵抗素子に相当。)はMR膜51a(基準磁気抵抗素子に相当。)とMR膜51a(基準抵抗素子に相当。)から(λ/2)(λ/nに相当。)及び(λ/2・5)(λ/2mに相当。)ずらして配置したMR膜53a,51b(補正用磁気抵抗素子に相当。)を有し,λ(λに相当。)は磁気ドラム8の表面(着滋面に相当。)の着滋ピッチ(磁極の並び方向における磁極の巾に相当。)であり,2(nに相当。)は0を除く偶数,5(mに相当。)は1を除く奇数であり,A相のMR膜51a,53a,53b,51b(一方の磁気抵抗回路に相当。)とB相のMR膜52a,54a,54b,52b(他方の磁気抵抗回路に相当。)とは,出力波形の位相差をλ/4(90゜に相当。)ずらしていることを特徴とする位置検出に用いられる磁気センサー(磁気式位置検出装置に相当。)。
イ一致点:異なる磁極を交互に配置した着磁面に対向して配置され,着磁面の磁界強度に応じた電流を出力する複数の磁気抵抗素子からなる一方及び他方の磁気抵抗回路と,各磁気抵抗回路に設けた電力供給端子と,出力端子とを形成した回路において,一方及び他方の磁気抵抗回路は各々磁気抵抗素子が直列に接続してあり且つ各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置し,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置してあり,一方及び他方の磁気抵抗回路うちの少なくとも一方の磁気抵抗回路を構成する磁気抵抗素子は基準磁気抵抗素子と基準磁気抵抗素子から(λ/n)及び(λ/2m)ずらして配置した補正用磁気抵抗素子を有し,λは着磁面の磁極の並び方向における磁極の巾であり,nは0を除く偶数,mは1を除く奇数であり,一方の磁気抵抗回路と他方の磁気抵抗回路とは,出力波形の位相差を90°ずらしていることを特徴とする磁気式位置検出装置。
ウ相違点:本件補正発明では,回路が,パターン回路であるのに対して,引用発明では,回路が,磁気ドラム8の表面に対し垂直にして配列された回路である点。
4取消事由(1)一致点認定の誤り及び相違点の看過(取消事由1)(2)本件相違点についての判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(一致点認定の誤り及び相違点の看過)について〔原告の主張〕(1)本件審決は,引用発明を「且つMR膜51a,53a,53b,51b,52a,54a,54b,52b(各磁気抵抗素子に相当。)の電流通路を互いに平行となるように櫛歯状に配置し,」と認定し,また,本件補正発明との一致点において,「一方及び他方の磁気抵抗回路は各々磁気抵抗素子が直列に接続してあり且つ各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置している」と認定したが,以下のとおり,これらの認定は誤りである。
(2)本件補正発明の「櫛歯状」については,本件補正発明の磁気抵抗回路を「髪をとかす櫛」に見立てた場合には,一方及び他方の磁気抵抗回路が各々櫛歯状を成すものと解すべきである。一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子を配置することから,隣り合う櫛歯がその基端部でつながっていることが必要であり,そのような回路の配置状態となるべきものである。
(3)引用例の図6(a)(磁気センサの断面図)には,各MR膜(磁気抵抗素子)51a,51b,52a,52b,53a,53b,54a,54bを互いに平行に配置した状態が示されているが,繋がっていない櫛歯部分のみが平行に配置され,明らかに磁気抵抗回路を「櫛歯状」に配置したものではない。
一方,引用例の図6(b)(磁気センサの等価回路を説明した図)は,回路の構成自体を示したものではなく,その回路の電気的な状態を表したものにすぎず,そこには,各MR膜,電力供給端子,出力端子,接地を電気的に接続した回路が示されているが,三次元的な回路を二次元的(平面的)に表しているだけであり,この図を見ても磁気抵抗回路を「櫛歯状」に配置したものではない。
また,本件審決が引用した引用例の【0022】【0027】ないし【0029】には,磁気抵抗回路が櫛歯状に配置しているとはどこにも記載されていないし,示唆する記載もない。
〔被告の主張〕(1)引用発明においても,一方(A相のMR膜51a,53a,53b,51b)及び他方の磁気抵抗回路(B相のMR膜52a,54a,54b,52b)は,?@各々磁気抵抗素子(A相のMR膜51aと53a,53bと51bそしてB相のMR膜52aと54a,54bと52b)が直列に接続してあり,かつ?A各磁気抵抗素子(A相のMR膜51a,53a,53b,51b及びB相のMR膜52a,54a,54b,52b)の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置したものである。
ア上記?@について【0029】の記載によれば,引用発明は,「A相のMR膜51aと53a,53bと51bそしてB相のMR膜52aと54a,54bと52b(各々磁気抵抗素子に相当。)が直列に接続して」いる。
イ上記?Aについて【0029】の記載とMR膜を8層にした磁気センサ(図6(a))の等価回路(図6(b))から,各MR膜(磁気抵抗素子)の電流通路を確認すると,MR膜51a,52a,53b,54bに関しては,電源Vccから出力電極A,B,A′,B′に向けて(上方へ)電流が流れ,MR膜51b,52b,53a,54aに関しては,出力電極A′,B′,A,Bから接地電位GNDに向けて(下方へ)電流が流れるものである。そして,図6が示す8層のMR膜の場合も,4層のMR膜の場合の等価回路を示した図2の概略斜視図と基本的には同じ配置構造であるから(図2の4層の構成に加えて,端子A′及び端子B′を有するもう1組の4層構成を加えた2重構造的な配置構造となる。),各MR膜(磁気抵抗素子)51a,53a,53b,51b(以上,A相),及び各MR膜(磁気抵抗素子)52a,54a,54b,52b(以上,B相)が,各々電流通路を互いに平行にして配置されていることは,容易に認識し得る事項である。
そこで,磁気抵抗素子を直列に接続する接続部を含めた,磁気抵抗素子の電流通路の配置を「髪をとかす櫛」に見たてると,引用例の記載から認識される上記平行になるように配置されている磁気抵抗素子自体の電流通路は,櫛における平行になるように配置された櫛歯に対応するといえ,また,当該接続部の電流通路は,手で持つ櫛本体部分であって当該櫛歯の基端部を接続する部分に対応するといえるから,各MR膜(磁気抵抗素子)51a,53a,53b,51b(以上,A相)及び各MR膜(磁気抵抗素子)52a,54a,54b,52b(以上,B相)が,各々電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置されていることは,容易に認識し得る事項である。
(2)本件補正発明について,原告は,櫛歯状に配置される主体を,一方及び他方の磁気抵抗回路であると解釈するが,以下のとおり,誤りである。
ア本願明細書【0025】の記載によると,櫛歯状に配置されるものは,磁気抵抗素子+A2と+A3に例示される,各磁気抵抗素子であり,一方及び他方の磁気抵抗回路ではないし,櫛歯状に形成されるものは,一方及び他方の磁気抵抗回路であり,各磁気抵抗素子ではない。
イ本願明細書【0028】の記載からみて,互いに櫛歯状を成すものは,一方磁気抵抗回路と他方の磁気抵抗回路であり,各磁気抵抗素子でない。
ウそして,上記以外,一方及び他方の磁気抵抗回路,各磁気抵抗素子,櫛歯状の3者の関係について説明する箇所はない。また,本願明細書に記載された,櫛歯状に配置されることと,櫛歯状に形成されることと,互いに櫛歯状を成すこととは,技術的な意味が同一ではない。
したがって,本件補正発明において,櫛歯状に配置されるものは,各磁気抵抗素子の電流通路であって,「一方及び他方の磁気抵抗回路」ではないことは明らかである。
(3)原告の主張についてア原告は,引用例の図6(b)の等価回路について,回路の構成自体を示したものではなく,その回路の電気的な状態を表したものにすぎず,三次元的な回路を二次元的(平面的)に表しているだけであり,この図を見ても磁気抵抗回路を「櫛歯状」に配置したものではないと主張する。
しかしながら,本件補正後の請求項1の記載から,磁気抵抗回路について,「一方及び他方の磁気抵抗回路は各々磁気抵抗素子が直列に接続してあり且つ各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置し,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置してあり」と特定しているのみで,磁気抵抗回路の構成につき,それが三次元的な回路の構成であるか二次元的な回路の構成であるかを何ら特定するものでも排除するものでもないから,原告の主張は,請求項1の記載に基づくものではない。
イ原告は,本件補正発明の「櫛歯状」について,隣り合う櫛歯がその基端部でつながっていることが必要であると主張する。
しかしながら,櫛歯状に配置されるものは,各磁気抵抗素子の電流通路であって,決して「一方及び他方の磁気抵抗回路」ではなく,補正された請求項1の記載からみて「一方及び他方の磁気抵抗回路が各々櫛歯状を成すこと」が記載されていないことは明らかであり,原告の主張は補正された請求項1の記載に基づく主張ではない。
2取消事由2(本件相違点についての判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件審決は,「上記(1-1)に記載されているように,回路を図7に示されるようなMR膜を所定間隔で配置したパターン回路とすることは,従来から行われていたこと(周知)である」と認定したが,以下のとおり,誤りである。
ア引用例の図6(a)に示されているように互いに平行に並べられた各MR膜に対して,電力供給端子,出力端子,接地はその後側で配線して構成されるものであるから,引用例の磁気式位置検出装置は,立体的に大きなものとなり,引用例の図7のプリント配線回路に設けられているものに比較すると明らかに大型化し,大きな配置スペースが必要となる。すなわち,引用例の図6(b)に示されている回路は,立体的な回路を平面的に表したものであるから,磁気抵抗回路の配線が交差しており,仮に引用例の図6(b)の回路をそのままパターン回路に用いるとすれば,同図から明らかなように,配線が交差しているので,ショートしてしまうのは明らかである。つまり,引用例の図6(b)に示すような回路構成ではパターン回路にすることができない。
イよって,本件補正発明の構成及び本願明細書【0012】に記載の効果は,引用例の図6の回路を図7のパターン回路に適用しても達成できないものであり,引用発明に基づいて当業者が容易に発明できないものである。
(2)被告の主張についてア文言だけみれば,引用例には,本件補正発明の効果と同様な効果の記載がある。しかし,本願発明はパターン回路で形成された磁気式位置検出装置であるから,回路をプリント等により簡単に製造できるものが前提であり,小型化等を図るという文言のみでは同じであっても,引用例の複層に形成されるものとは効果を達成するための具体的な手段が異なっている。目的や効果が新規でなければ進歩性がないという,審査基準はない。
イパターニングした回路,すなわちパターン回路は一層のみを意味するものであり,「複層回路(三次元的な回路)」はパターン回路ではないことは,乙1から明らかである。
ウ本件審決がわざわざ図7を引用したことからも,パターン回路は引用例の図1に示すような複層回路を含まないと解釈していることは明らかである。もし,本件補正発明が引用例の図1の構成を含むのであれば,図1を引用すれば足りるはずである。また,引用例の【0003】には,図7に示す従来技術の説明で「MR膜を基板132の同一面上に配置することにより感磁部131を構成している」と記載されているから,本件審決ではパターン回路は二次元的なものと認識して図7を引用したことが明らかであり,パターン回路には複層の回路を含むという主張は,本件審決と矛盾する。
〔被告の主張〕(1)原告は,引用例の図6(a)に示される構成による磁気式位置検出装置は,立体的に大きなものとなり,大きな配置スペースが必要となる旨主張するが,以下のとおり失当である。
ア本件補正後の請求項1は,磁気抵抗回路について,「異なる磁極を交互に配置した着磁面に対向して配置され」と記載して,磁気抵抗回路と着磁面との配置関係を特定し,また,「一方及び他方の磁気抵抗回路と,各磁気抵抗回路に設けた電力供給端子と,出力端子とを形成したパターン回路」と記載して,一方及び他方の磁気抵抗回路と電力供給端子と出力端子とを形成したパターン回路を構成要件として備える点を特定しているが,その構造に関して,平面的(二次元的)又は立体的(三次元的)にどのような形状(形態)を呈するものかについての記載又は示唆はないから,原告の上記主張は,本件補正後の請求項1の記載に基づく主張ではない。
イ確かに,本願明細書【0012】には,請求項1に記載の発明による効果として,磁気式位置検出装置の小型化が図られること,着磁面の磁極巾に対する磁気抵抗素子の配置の集約化による磁気式位置検出装置全体の回路巾,特にその検知巾を小さくできることにより検知精度や解像度を高めることができることが記載されている。しかし,引用例の【0004】【0015】【0030】の記載によると,引用発明においても,磁気センサーの小型化が図られ,磁気ドラムの径の小型化に対しても位置検出誤差や感度の低下を抑制することができる効果を奏するものであるから,本件補正発明と引用発明とはその効果の面において大差はない。
(2)原告は,引用例の図6(b)の回路構成をそのままパターン回路に用いるとすれば,配線が交差しているのでショートしてしまうから,その回路構成ではパターン回路にすることができない旨主張するが,以下のとおり失当である。
ア本件補正後の請求項1によれば,本件補正発明の「パターン回路」は,「着磁面の磁界強度に応じた電流を出力する複数の磁気抵抗素子からなる一方及び他方の磁気抵抗回路と,各磁気抵抗回路に設けた電力供給端子と,出力端子とを形成した」パターンにより回路として機能するものである。
イ確かに,引用例の図6(b)の等価回路のみを着目すれば,直ちにパターン回路に結びつけることは困難といえるが,引用例の図1・2には,MR膜が4層の場合の,磁気センサーの断面図と平面図及びMR膜の回路の概略斜視図が図示され,引用例の図1(a)の断面図と図1(b)の平面図(X方向からみたもの)及び【0019】【0020】の記載から,各層のMR膜(磁気抵抗素子),電力供給端子又は出力端子となる電極膜,及び両者をつなぐ配線膜により,各層毎の回路が形成されるものであり,それらが積層されて図1(a)の断面図のとおり,4層分が配線を交差させずショートすることなく回路構成されていることは明らかである。よって,上記各層毎に,MR膜(磁気抵抗素子),電極膜及び配線膜により形成される回路が,すなわち回路パターンであり,本件審決でいう「図7に示されるようなパターン回路」に対応する。なお,「パターン回路」なる用語は,配線が積層してなる回路においても,一般的に用いられているものである。
ウよって,引用例の図1・2に示される上記MR膜が4層の場合を基に,図6に示されるMR膜が8層の場合に拡張してパターン回路とすることは,当業者が容易になし得ることといえるから,本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由(一致点認定の誤り及び相違点の看過)について(1)本件補正発明における「櫛歯状」の意義ア本件補正発明の発明特定事項本件補正発明は,特許請求の範囲請求項1に記載のとおり,「一方及び他方の磁気抵抗回路」の構成に関し,「一方及び他方の磁気抵抗回路は各々磁気抵抗素子が直列に接続してあり且つ各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置し,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置してあり」との構成を備えている。
これによると,「各々磁気抵抗素子が直列に接続してあり且つ各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置」は,「一方及び他方の磁気抵抗回路」のそれぞれにおける回路構成及び磁気抵抗素子の配置を特定するものであり,各磁気抵抗回路は,それぞれ各磁気抵抗素子が「直列に接続」された回路構成であり,また,それぞれ各磁気抵抗素子が「電流通路を互いに平行になるように櫛歯状」に配置されていることを特定していると解される。また,「一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置」は,各磁気抵抗回路を構成する磁気抵抗素子相互の配置関係を特定するものと解される。
以上のことから,上記請求項1における「各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置」は,「一方及び他方の磁気抵抗回路」の磁気抵抗素子の配置を特定するものであり,したがって,本件補正発明における「櫛歯状」の用語は,磁気抵抗素子が,各磁気抵抗素子の電流通路が互いに平行になるように配置された状態を表現したものと解するのが相当である。
イ本願明細書の記載事項(ア)本願明細書には,「櫛歯状」の意味は定義されていないが,「櫛歯状」に関連して,以下の記載がある(甲3)。
【0025】各磁気抵抗素子+A1〜+A4,-A1〜-A4,+B1〜+B4,-B1〜-B4は各々電流通路を互いに平行にして配置されている。更に,一方の磁気抵抗回路+A及び他方の磁気抵抗回路+Bは各々櫛歯状を形成するように磁気抵抗回路+A1〜+A4,+B1〜+B4が配置されており,一方の磁気抵抗回路+Aの櫛歯状に配置した磁気抵抗素子+A2と+A3との間に他方の磁気抵抗回路+Bの磁気抵抗素子+B2と+B1とが配置されている。磁気抵抗回路-A及び-Bにおいても同様に,磁気抵抗素子+A4と-A4との間に磁気抵抗素子+B3,+B4が配置され,磁気抵抗素子-A3と-A1との間に磁気抵抗素子-B4,-B3が配置されて,磁気抵抗素子-B1と-B3との間に-A1,-A2が配置されている。
【0028】本実施の形態によれば,一方の磁気抵抗回路Aと他方の磁気抵抗回路Bとは互いに櫛歯状を成して,一方の磁気抵抗回路Aにおける磁気抵抗素子+A1〜+A4,-A1〜-A4間に他方の磁気抵抗回路Bにおける磁気抵抗素子+B1〜+B4,-B1〜-B4を配置しているので,磁気式位置検知装置(位置センサ)1の回路9を集約して面積を小さくすることができ,位置センサ1の小型化を図ることができる。
(イ)前記記載によれば,各磁気抵抗素子は,各々電流通路が互いに平行になるように「櫛歯状」に配置されており,また,各磁気抵抗回路は,一方の磁気抵抗回路の「櫛歯状」に配置された磁気抵抗素子の間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置されるよう組み合わされていることが記載されており,このように各磁気抵抗回路の磁気抵抗素子を配置することにより,磁気式位置検知装置の面積を小さくでき,ひいては磁気式位置検知装置の小型化が図れるという効果が得られることがわかる。
また,本件補正発明の実施形態に係る図1を参照すれば,各磁気抵抗回路の磁気抵抗素子+A1ないし+A4,-A1ないし-A4,+B1ないし+B4,-B1ないし-B4は,電流通路が互いに平行になるように配置され,また,磁気抵抗素子+A2と+A3との間に,磁気抵抗素子+B2,+B1が,磁気抵抗素子+A4と-A4との間に磁気抵抗素子+B3,+B4が,磁気抵抗素子-A3と-A1との間に磁気抵抗素子-B4,-B3が,磁気抵抗素子-B1と-B3との間に-A1,-A2がそれぞれ配置されていることから,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子の間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置されていることが示されている。
(ウ)以上のことから,本願明細書の記載において,「櫛歯状」は,磁気抵抗素子の配置に関連して用いられており,発明の効果も,磁気抵抗素子を前記のように配置したことによる効果ということができるから,本願明細書における「櫛歯状」の用語は,各磁気抵抗素子が,電流通路が互いに平行になるように配置された状態を表現したものであり,各磁気抵抗回路の接続部分の構成を含む概念とは解されない。また,上記「櫛歯状」の意義は,前記アで認定した本件補正発明における「櫛歯状」の用語の意義とも整合する。
(2)引用発明におけるMR膜の配置ア引用例(甲4)の特許請求の範囲請求項1の記載によると,引用例に記載された磁気センサーは,複数のMR膜が絶縁層を介して基板上に積層され,前記基板の側面が磁気ドラムと対向する媒体対向面の一部となり,前記MR膜の膜面が媒体対向面に対して略垂直に配置された構成である。また,【0019】ないし【0022】に記載された4層のMR膜を積層した磁気センサーの媒体対向面は,図3のとおり,各層のMR膜が電流通路が互いに平行になるように配置された構成であることにかんがみれば,図6(a)にその断面図が示された,MR膜を8層とした磁気センサーの媒体対向面においても,図6(b)の概略図に示されるように,各層のMR膜が,電流通路が互いに平行になるように配置されていることは明らかである。
イまた,各MR膜の配置については,引用例の【0027】ないし【0029】の記載から,MR膜を8層にした磁気センサーの媒体対向面には,各相のMR膜51a,51b,52a,52b,53a,53b,54a,54bが,電流通路が互いに平行になるように配置され,MR膜51a,51b,53a,53bがA相を,また,MR膜52a,52b,54a,54bがB相をそれぞれ構成し,A相のMR膜51bとMR膜53aとの間にB相のMR膜52a,52bが配置され,また,B相のMR膜52bとMR膜54aとの間にA相のMR膜53a,53bが配置された構成であることが認められる。
そうすると,引用例に記載された磁気センサーにおけるA相及びB相のMR膜の配置は,上記(1)認定の本願明細書及び図面に記載された各磁気抵抗素子の配置と実質的な差異はないから,引用例に記載された各MR膜の配置も,「櫛歯状」ということができる。
(3)引用発明の認定及び一致点の認定前記(1)(2)のとおり,本件補正発明の「櫛歯状」は,各磁気抵抗回路の各磁気抵抗素子が,電流通路が互いに平行になるよう配置されている状態を表したものであり,引用例の図6(a)に示される磁気センサーも,各磁気抵抗素子を「櫛歯状」に配置したものということができる。よって,本件審決において,引用例に,「且つMR膜51a,53a,53b,51b,52a,54a,54b,52b(各磁気抵抗素子に相当。)の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置し」が記載されていると認定し,「一方及び他方の磁気抵抗回路は各々磁気抵抗素子が直列に接続してあり且つ各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置し」を本件補正発明と引用発明との一致点と認定し,本件相違点を認定したことに誤りはない。
(4)原告の主張についてア原告は,「櫛歯状に配置」の主語は,磁気抵抗素子ではなく,「一方及び他方の磁気抵抗回路」であり,本件補正発明は,一方及び他方の磁気抵抗回路が各々櫛歯状をなすものであり,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子を配置することから,隣り合う櫛歯がその基端部でつながっているような回路の配置状態となるべきであると主張する。
しかし,上記(1)イのとおり,本願明細書には,「櫛歯状」の意味は定義されておらず,本願明細書の記載を参酌しても,「櫛歯状」が各磁気抵抗素子の接続部分の構成を含む概念,すなわち,櫛歯に相当する磁気抵抗素子がその基端部でつながっている構成を意味するということはできないから,本件補正発明における「櫛歯状」の用語は,磁気抵抗素子の配置を表現したものであり,各磁気抵抗素子が,電流通路が互いに平行になるように配置された状態を表現したものと解するべきである。そして,「一方及び他方の磁気抵抗回路は…櫛歯状に配置し」が,隣り合う磁気抵抗素子がその基端部でつながれた一方及び他方の磁気抵抗回路が,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置されるように,組み合わされて対向配置された状態に限定されるものということはできない。
イ原告は,引用例の図6(a)は,磁気センサーの断面図で,磁気抵抗回路を「櫛歯状」に配置したものではなく,また,同図6(b)は,回路の等価回路を表したものにすぎず,磁気抵抗素子が平行に配置されていることが開示されているだけで,磁気抵抗回路を櫛歯状に配置することは記載も示唆もされていないと主張する。
しかし,引用例の図6には,上記(2)イのとおり,MR膜を8層にした磁気センサーの媒体対向面は,A相のMR膜51a,51b,53a,53b及びB相のMR膜52a,52b,54a,54bが,それぞれ電流通路が互いに平行になるように配置された構成が記載されており,各磁気抵抗回路は,それぞれ各磁気抵抗素子が,電流通路が互いに平行になるよう「櫛歯状」に配置されているものである。
また,図6に示される磁気センサーは,上記(2)イのとおり,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子を配置した構成であり,本件補正発明の配置状態と実質的な差異はない。
ウしたがって,原告の主張は採用できない。
(5)小括以上のとおり,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(本件相違点についての判断の誤り)について(1)本件補正発明の「パターン回路」の意義ア本件補正発明の特許請求の範囲請求項1には,「異なる磁極を交互に配置した着磁面に対向して配置され,着磁面の磁界強度に応じた電流を出力する複数の磁気抵抗素子からなる一方及び他方の磁気抵抗回路と,各磁気抵抗回路に設けた電力供給端子と,出力端子とを形成したパターン回路において」と記載されているから,本件補正発明に係る「磁気式位置検出装置」の,一方及び他方の磁気抵抗回路,電力供給端子及び出力端子は,「パターン回路」として構成されることが特定されている。
また,本件補正発明の特許請求の範囲請求項1には,「一方及び他方の磁気抵抗回路は各々磁気抵抗素子が直列に接続してあり且つ各磁気抵抗素子の電流通路を互いに平行になるように櫛歯状に配置し,一方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路の磁気抵抗素子が配置してあり,一方及び他方の磁気抵抗回路うちの少なくとも一方の磁気抵抗回路を構成する磁気抵抗素子は基準磁気抵抗素子と基準磁気抵抗素子から(λ/n)及び(λ/2m)ずらして配置した補正用磁気抵抗素子を有し,λは着磁面の磁極の並び方向における磁極の巾であり,nは0を除く偶数,mは1を除く奇数であり,一方の磁気抵抗回路と他方の磁気抵抗回路とは,出力波形の位相差を90°ずらしている」と記載されていることにより,各磁気抵抗回路を構成する磁気抵抗素子の配置関係が特定されている。
イ本願明細書の【0016】【0018】の記載によると,本件補正発明の実施例において,磁気式位置検出装置は,基材表面に磁気抵抗回路がパターン回路として形成されていることが認められる。
また,本願明細書の【0012】には,本件補正発明の磁気式位置検出装置は,パターン回路において,一方の磁気抵抗回路と他方の磁気抵抗回路とを櫛歯状に形成して,一方の磁気抵抗回路における磁気抵抗素子間に他方の磁気抵抗回路における磁気抵抗素子を配置する構成であることにより,以下の効果を奏すると記載されている。
?@磁気抵抗回路を配置する面積を小さくすることができ,磁気式位置検出装置の小型化を図ることができる。
?A増幅用の磁気抵抗回路や出力波形を整形する補正用磁気抵抗素子を設けるために多数の磁気抵抗素子を配置する場合にも磁気式位置検出装置全体の回路幅を小さくでき,検知精度や解像度を高めることができる。
?B磁気式位置検出装置の検知巾を小さくすることにより,着磁面が円形や湾曲した形状になっている場合にも各磁気抵抗素子と着磁面と間の間隔誤差を小さくでき,磁界強度の差が少なくなるので解像度の高い出力波形を得ることができる。
(2)周知技術ア引用例には,図7に示された従来の磁気センサーは,基板上に,所定間隔で配置された複数のMR膜からなる感磁部と,各々のMR膜から端子に引き回される配線を備えていること(【0002】【0003】),従来技術の課題として,着磁ピッチや磁気ドラムの径が小さい場合,MR膜のパターン幅(素子のパターン幅)を細くしないと所定間隔で複数のMR膜を配置することが難しくなること(【0004】)が記載されている(甲4)。当業者の技術常識をもってすれば,引用例の7図の従来の磁気センサーの感磁部及び配線は,パターン回路として形成されているということができる。
イしたがって,磁気センサーの感磁部の回路を,MR膜を所定間隔で配置したパターン回路とすることは,従来行われていた周知技術であるものと認められる。
(3)容易想到性以上のとおり,回路を引用例の図7に示されるようなMR膜を所定間隔で配置したパターン回路とすることは,本件出願当時,周知であったから,引用発明において,回路を本件補正発明のようなパターン回路とすることは,当業者が容易になし得ることである。
よって,本件審決の判断に誤りはない。
(4)原告の主張についてア原告は,引用例の図6の回路は,三次元的(立体的)な回路であるから,プリント配線回路に設けられているものと比較すると大型化し,大きな配置スペースを必要とし,また,磁気抵抗回路の配線が交差しており,そのままパターン回路にするとショートしてしまうから,パターン回路にすることができないと主張する。
しかしながら,本件補正発明には,一方及び他方の磁気抵抗回路,電力供給端子及び出力端子がパターン回路として構成されること及び前記各磁気抵抗回路を構成する磁気抵抗素子の配置関係が特定されているものの,磁気抵抗回路を構成する各磁気抵抗素子,電力供給端子及び出力端子相互の配線は特定されていないから,本件補正発明が三次元的(立体的)な回路を含まず,磁気抵抗回路の配線が交差していないということはできない。
確かに,本願明細書の図1,図5及び図6において,磁気抵抗回路を構成する各磁気抵抗素子,電力供給端子及び出力端子が二次元的(平面的)に配置されており,配線は交差していないが,これらの記載は,本件補正発明の「磁気式位置検出装置」の実施形態にすぎず,本件補正発明が三次元的(立体的)な回路を含まないとする根拠たり得ない。
また,上記(1)イのとおり,本願明細書の記載を参酌しても,基材表面に磁気抵抗回路がパターン回路として形成されていることが記載されているだけで,磁気抵抗素子の配置関係と「パターン回路」であることとの関連性は認められない。
さらに,後記ウのとおり,「パターン回路」は二次元的なものに限定されないのであるから,引用例の図6の回路構成が三次元的であるからといって,パターン回路を採用することの阻害要因になるともいえない。
以上のとおり,原告の上記主張は採用できない。
イ原告は,本件補正発明の構成及び効果は,引用例の図6の回路を図7のパターン回路に適用しても達成できないと主張する。
しかしながら,本願明細書に記載された上記(1)イ認定の効果は,いずれも磁気抵抗回路の磁気抵抗素子の配置関係を特定したことによる効果であり,磁気抵抗回路をパターン回路として構成したことによる効果ということはできない。
よって,原告の上記主張は採用できない。
ウ原告は,パターニングした回路,すなわちパターン回路は一層のみを意味するものであり,「複層回路(三次元的な回路)」はパターン回路ではないことは,乙1から明らかであると主張する。
しかしながら,乙1には,「液晶表示パネルのパターン回路試験方法」に関し,「TFTアクティブマトリックス型の液晶表示パネルにおいては,透明基板の上に第5図に示すように列方向に沿う複数本のドレインライン1,および行方向に沿う複数本のゲートライン2をそれぞれパターニングにより配列形成し,これらドレインライン1およびゲートライン2への通電によりTFT3を介して所要の画素電極4を駆動して所要の画像を表示するようになっている。」(1頁右下欄13行〜2頁左上欄1行)と記載されており,ドレインライン及びゲートラインが積層して配列形成された回路も「パターン回路」と呼称されていることから,「パターン回路」が,原告が主張するように,一層のみを意味するものであるということはできない。なお,「パターニング」は,パターン回路を形成するプロセスであり,乙1においてドレインライン及びゲートラインを「それぞれパターニングにより配列形成」と記載されているとしても,「パターン回路」が一層のみあることの根拠とはなり得ない。
したがって,パターン回路は一層のみを意味するものであるとの原告の主張は,失当である。
エ原告は,本件審決は,引用例の図7を引用していることから,パターン回路は二次元的なものと認識していたことが明らかであり,パターン回路が「複層回路」を含むとの被告の主張は,本件審決と矛盾すると主張する。
しかし,上記アのとおり,本件補正発明には,回路が二次元的な回路構成に限定されることは特定されていないから,本件審決に,「複層回路」がパターン回路に含まれることが記載されていないとしても当然である。
また,上記ウのとおり,パターン回路は,二次元的なものに限定されないのであり,引用例の図7に示されるパターン回路も,二次元的な回路に特定されるものではなく,本件審決が引用例の図7を引用していることをもって,パターン回路が二次元的なものと認識していたとはいえない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(5)小括以上によれば,取消事由2は,理由がない。
3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 杜下弘記