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関連審決 不服2006-28842
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10304審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10489審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10350審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10338審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10489審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10064号 審決取消請求事件
原告三 菱レイヨン株式会社
同訴訟代理人弁護士三縄隆
同弁理士志賀正武 高橋詔男 川越雄一郎
被告特許庁長官
同 指定代理 人小川慶子大黒浩之 松本貢 北村明弘 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/11/05
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2006-28842号事件について平成21年1月27日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,補正後の特許請求の範囲(請求項6)の記載を下記2とする原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)原告は,平成13年12月25日,発明の名称を「浄水器用吸着材の製造方法,並びにこれを用いた浄水器」とする発明について,特許出願(特願2001-391910)をした(甲3)。
(2)特許庁は,平成18年7月5日付けで拒絶理由を通知し(甲5),原告は,同年10月2日付けで,発明の名称を「浄水器用吸着材の製造方法および,浄水器用吸着材を用いた浄水器」と変更することなどを内容とする手続補正書(以下「本件補正」という。甲4)を提出したが,同年10月20日に拒絶査定を受けた(甲6)。
(3)原告は,同年12月27日,これに対する不服の審判を請求し(不服2006-28842号事件),特許庁は,平成21年1月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は同年2月12日原告に送達された。
2本願発明の要旨本件審決が対象とした,本件補正後の特許請求の範囲請求項6の記載は,以下のとおりである。以下,請求項6に記載された発明を「本願発明」という。また,本件出願に係る本件補正後の明細書(特許請求の範囲につき甲4,その余につき甲3,4)を「本願明細書」という。
合成リン酸カルシウム系化合物の粉末と水の混合スラリーを80℃〜150℃で乾燥した後,200℃〜500℃で加熱固化する浄水器用吸着材の製造方法
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明,下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)並びに周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開平2-180706号公報(甲1)イ引用例2:特開2001-47038号公報(甲2。平成13年2月20日公開)(2)本件審決は,その判断の前提として,引用例1に記載された発明,これと本願発明との相違点を,以下のとおり認定した。
ア引用例1に記載された発明「ヒドロキシアパタイト,リン酸カルシウムを包含する周知のリン酸化合物の水スラリーを調製し,50℃で10時間乾燥させ,得られた試料を300℃又は500℃で3時間焼成することにより,機械強度が向上し,細胞や生理活性物質の分離吸着のためのクロマトグラフィー充填剤として用いることができる多孔性リン酸化合物粒子集合体の製造方法」の発明(以下「引用発明1」という。)イ相違点相違点1:本願発明は,「スラリーを80℃〜150℃で乾燥」するのに対して,引用発明1は,「50℃で10時間乾燥」する点。
相違点2:本願発明は「浄水器用吸着材の製造方法」であるのに対して,引用発明1は「分離吸着のためのクロマトグラフィー充填剤として用いることができる多孔性リン酸化合物粒子集合体の製造方法」である点。
4取消事由(1)相違点1の認定の誤り(取消事由1)(2)相違点1の判断の誤り(取消事由2)(3)相違点2の判断の誤り(取消事由3)第3当事者の主張1取消事由1(相違点1の認定の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,引用発明1を誤解した結果,本願発明との相違点を誤って認定した。
(1)引用発明1の認定の誤り本件審決は,引用例1の実施例に記載されている事項をもとに,引用例1には,50℃で10時間乾燥させる工程を有する発明が記載されている(3頁1〜9行,4頁19〜24行)と認定したが,引用例1の記載を誤解している。
ア引用例1の実施例1及び2には,概略,?@表1に示す条件にて球状粒子集合体を製造する工程,?A粒子を乾燥させる工程,?B粒子の平均粒径を測定する工程,の3つの工程が記載されている。そして,?@の工程は,粒子集合体の製造工程であり,?Bの工程は,測定工程である。
以下のとおり,?@の工程が終了することをもって,製造工程が完了し,?Aの工程は,測定工程にすぎないと解すべきである。すなわち,50℃で10時間乾燥させるのは,球状粒子集合体を製造した後であり,乾燥させることは,球状粒子集合体の製造工程とはなっていない。
(ア)形式的にみて,引用例1には,?@の工程は,「…製造した」と記載され,?Aの工程は,「製造後,…」と記載されているから,?@の工程で製造工程が終了しているのは明らかである。
(イ)製造条件について記載された表1には,乾燥条件について一切記載されていないし,発明の具体的説明にも,乾燥工程について何ら記載されていない。
(ウ)実質的にみても,ある工程の終了によって製造工程が終了しているか否かは,当該工程が終了した段階で完成品が製造されているか否かを基準とすべきであるところ,リン酸化合物粒子集合体は,スラリー中に存在する状態が完成品であり,?@の工程で,スラリー中に球状粒子集合体ができている以上は,その時点で製造は終了している。
イまた,?Aの工程は,正確には,「製造後,粒子を…乾燥させた」と記載されている。乾燥させるのは「球状粒子集合体」ではなく,「粒子」である。「球状粒子集合体」とは,複数の粒子が結合している状態(結合状態),又は単に粒子が複数存在し粒子同士が実質的に結合していない状態(非結合状態)のいずれかを指しているところ,以下のとおり,いずれにしても,?Aの工程が測定工程の前処理工程であり,粒子を50℃で10時間乾燥させたのは,実施例1及び2で製造された球状粒子集合体を測定するためであり,球状粒子集合体を製造することとは無関係である。
(ア)「集合体」との表現からすれば,結合しているものを想定すべきであるから,粒子が物理的に結合しているものを「球状粒子集合体」と理解すべきであるし,引用例1の特許請求の範囲の記載に照らしても,「集合体」は「球状」であり,「球状粒子集合体」は結合状態にあると理解すべきである。そうすると,「球状粒子集合体」ではなく,粒子を乾燥させる?Aの工程には,粒子が結合している「球状粒子集合体」から,粒子を取り出して乾燥させること,すなわち,粒子の結合を解いて,乾燥させることが記載されている。
したがって,引用例1が「球状粒子集合体」に関する発明であることに鑑みると,粒子の結合を解くことは,製造工程とはいえない。
(イ)仮に,「球状粒子集合体」が非結合状態を指しているとしても,少なくとも「球状粒子集合体」は,一つ一つの粒子が集まった全体を示すものであるから,粒子を乾燥させるとは,「球状粒子集合体」の一部である粒子を乾燥させていることにほかならない。よって,「球状粒子集合体」の一部である粒子を乾燥させる?Aの工程は,測定工程の前処理工程と理解すべきである。製造工程なら,「球状粒子集合体」の一部ではなく,すべてを乾燥させるはずだからである。
実施例3〜5において用いられる「実施例2で得られた試料」とは,乾燥されていない球状粒子集合体を示すこととなり,引用例1には,球状粒子集合体を乾燥させることなく直接加熱固化させる製造方法が記載されているにすぎない。スラリー中に存在するリン酸化合物粒子集合体を,固液分離し,その後乾燥工程を経ずに直接加熱固化することも技術常識からして不自然ではない。
エよって,引用例1に,50℃で10時間乾燥させる工程を有する球状粒子集合体の製造方法が記載されていると認定した本件審決は誤っている。なお,原告は,平成19年4月4日付けで手続補正された審判請求書において,引用例1に乾燥工程を経て加熱固化することが記載されているとしたが,引用例1を十分に検討していなかったためである。
(2)相違点1の認定の誤り上記(1)のとおり,引用例1には,粒子の製造方法の一部としての乾燥工程は記載されていないのであるから,相違点1は,「本願発明は,スラリーを80℃〜150℃で乾燥するのに対して,引用例1に記載された発明は,製造方法としての乾燥工程を有しない点。」と認定すべきである。
よって,引用例1に,球状粒子集合体の製造工程として50℃で10時間乾燥させることが記載されていることを前提に,相違点1を認定した本件審決は誤っている。
〔被告の主張〕(1)原告の主張(1)には,主に「球状粒子集合体」のとらえ方に錯誤があり,失当である。
ア引用例1の実施例1及び2においては,?@球状粒子集合体を製造したという工程と?A製造後,粒子を50℃で10時間乾燥させたという工程とが順を追って別々の製造工程として記載され,その後に別途?B得られた粒子の平均粒径を測定したとして,表1に「粒径」が記載されている。
ここで,「球状粒子集合体」の「粒子」と「製造後,粒子を」の「粒子」とは同一のものを指しており,「球状粒子集合体」とは字句どおり,一つ一つの粒子が集まった全体を指しているものと解される。表1によれば,実施例1又は実施例2の製造工程で得られた成果物は,50℃で10時間乾燥させる工程を経て得られた粒子の「球状粒子集合体」である。
そうすると,実施例1及び2に記載される製造工程が,粒子を50℃で10時間乾燥させる工程を有していることは明らかである。
イ引用例1の実施例1及び2において得られた粒子の平均粒径を測定したものは,乾燥によって得られた粒子の「球状粒子集合体」であり,表1に実施例1及び2の「球状粒子集合体」として平均粒径が示されているが,球状粒子集合体の測定のためにだけ50℃で10時間乾燥を行ったことは,引用例1に明記されていないし,そのことを窺わせる記載もなく,「50℃で10時間乾燥させた」との記載をもって,乾燥工程が球状粒子集合体の測定のためだけのものであるとする根拠はない。
そして,引用例1の特許請求の範囲(請求項1,2)の記載からみて,引用発明1は,特定の平均粒径を有する粒子集合体の製造を意図しているところ,実施例1及び2では,平均粒径を特定するための測定に際し,球状粒子集合体を乾燥しているから,乾燥操作が製造工程と関係することは明らかである。
ウ上記のとおり,実施例1及び2の成果物であるところの得られた粒子とは,50℃で10時間乾燥させる工程を経て得られた粒子のことを指しているから,実施例3〜5に記載された「実施例2で得られた試料」は,50℃で10時間乾燥させる工程を経て得られた粒子を意味することは明らかである。
したがって,実施例3〜5で用いられる「実施例2で得られた試料」は乾燥されていない球状粒子集合体を示しているとの原告の主張は,誤りである。
エ以上のとおり,引用例1には,50℃で10時間乾燥させる工程を有する球状粒子集合体の製造方法が記載されているから,本件審決の引用発明1の認定に誤りはない。
しかも,平成19年4月4日付けで手続補正された審判請求書(甲9)に記載されたとおり,原告も,乾燥操作が製造工程の一部であることを認めていたところである。
(2)上記(1)のとおり,引用発明1の認定に誤りはないから,本件審決における相違点1の認定に誤りはない。
2取消事由2(相違点1の判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,相違点1の認定を誤った結果,相違点1の判断も誤っているが,本件審決が認定した相違点1を前提としても,相違点1の判断は誤っている。
(1)本件審決は,「乾燥時間を調節することにより,50℃よりも高い温度(例えば,80℃程度)でも乾燥工程を行うことが可能であることは当業者の容易に想到し得ることである」と判断したが,乾燥工程を有することの技術的意義を全く無視したものであり,妥当でない。
なお,加熱固化工程の前処理として乾燥工程を経ることが周知技術であること(乙2,3)は,乾燥工程を経ずに加熱固化を行うことができないことを意味するわけではない。現に,乾燥工程を経ずに加熱固化を行うこともある。
(2)本願明細書の記載(【0022】)から明らかなように,本願発明は,単に水分を蒸発させることのみを目的として,乾燥工程を有しているわけではない。
本願発明においては,混合スラリーを直接加熱固化させても構わないにもかかわらず,わざわざ乾燥工程を有したのは,収率を向上させるためであり,単なる加熱固化のための前工程として行っているのではない。粒径を整えるためには,混合スラリーを一度乾燥させ,篩い分けを行うことが有用であり,粒径が外れたものを再度スラリー化することで,収率を上げることができることに着目してなされたものである。
(3)その観点から,80℃〜150℃程度の温度で乾燥させる工程を採用したのである。篩い分けるのには,80℃程度必要であるのに対し,乾燥温度が80℃未満では,混合スラリーを十分に乾燥させることができないことから,粒径を整えるという目的を達することができない。150℃よりも高い温度では,一部において加熱固化されてしまい,再度スラリー化することができない。これらの事情に鑑みて,乾燥温度の数値範囲を規定したのである。
(4)本願発明の乾燥工程は,粒径の調整と再スラリー化に適した温度での乾燥という技術的意味を有している。そして,引用例1には,粒径の調整と再スラリー化に適した温度という技術思想については何ら記載も示唆もされていない。
(5)したがって,引用例1をもとに,相違点1に係る構成を容易に想到できるとする本件審決の判断は誤っている。
〔被告の主張〕(1)リン酸塩水溶液とカルシウム塩水溶液を反応させて合成したヒドロキシアパタイト(合成リン酸カルシウム系化合物)のスラリーからのヒドロキシアパタイト粒子の一般的な製造方法において,焼成により加熱固化物を得る場合,焼成の前処理として,当該混合スラリーの乾燥を行うことは,周知技術であり(乙2,3),乾燥温度としては,110℃又は80℃〜120℃程度が通常の範囲である(乙3)。
一方,本願明細書の記載(【0010】【0022】)によれば,スラリー状の原料である「混合スラリー」を直接加熱固化させるのではなく,一度「80℃〜150℃」で乾燥させた後,その原料を乾燥温度よりも高い「200℃〜500℃」で加熱し,粒子状の吸着材が得られるよう固化させるのであるから,上記の技術常識及び周知技術に照らしても,当該乾燥工程は,混合スラリーの水分を除去する処理であって,それに続く加熱固化工程との関係において加熱固化の前処理,すなわち焼成の前処理に当たることは明らかである。
そして,本願発明の「80℃〜150℃」の乾燥工程は,当該加熱固化の前処理として位置付けられるだけであって,混合スラリーの水分を蒸発させる点に技術的意義があるにすぎない。
本件審決は,本願発明の乾燥工程を,焼成前に混合スラリーの水分を蒸発させる乾燥処理ととらえて,乾燥工程を有することの技術的意義を考慮していることは明らかである。
(2)本願明細書(【0022】)に記載された「粒径を調整」及び「粒径を外れたものを再度スラリー化」という成果を得るためには,篩い分け処理を必要とすることは明らかである。
「粒径を調整」,「再度スラリー化させる」ことができるとの技術的意義は,本願特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,本願発明の乾燥工程の技術的意義について原告の主張は,その前提において失当である。
(3)「80℃〜150℃程度」の乾燥温度の技術的意味については,本願明細書(【0010】【0022】)に記載があるが,原告が主張する当該数値範囲の限定理由が上記記載から当然に導かれる根拠はないし,当業者にとって自明の事項といえる根拠もない。
本願明細書に記載されているいずれの具体例も,乾燥温度の程度によって作用効果の上でいかなる差異があるのか示されていない。
以上のことから,本願発明の乾燥温度は,粒径の調整と再スラリー化に適した温度での乾燥という技術的意味を有しているとはいえず,混合スラリーの水分を蒸発させて乾燥原料を調製するという加熱固化の前処理の乾燥温度として,技術的意味があるというべきである。
(4)?@ヒドロキシアパタイト粒子の製造において,混合スラリーを乾燥した後,加熱固化の焼成をすること,?Aその乾燥温度として「80℃〜150℃」の範囲に含まれる温度が周知であること,?B本願発明の乾燥工程の技術的意味は加熱固化の前処理としてのものにすぎないことは,上記のとおりである。また,乾燥工程において,十分に乾燥させる場合,原料の品質に影響しない範囲で,加熱時間を長くするか,加熱温度を上げればよいことは,技術常識である。
(5)したがって,相違点1についての本件審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(相違点2の判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)引用発明1と引用発明2とを組み合わせる動機付けはなく,本件審決の相違点2についての判断は妥当でない。
仮に,引用例1に乾燥工程を経た加熱固化工程が記載されているとしても,少なくとも乾燥工程の技術的意義については全く記載されておらず,機械的強度の向上という目的として行われているものではない。そうすると,機械的強度の向上という課題が共通していたとしても,その課題の解決に寄与しない引用発明1の乾燥工程を,引用発明2に組み合わせる動機付けはない。引用例2には,機械的強度を向上させるために,焼結(加熱固化)することが記載されているので,引用例2に接した当業者は,引用発明1から新たな知見を得ることはなく,不必要な乾燥工程を追加しようなどとは思わない。
よって,引用発明1と引用発明2とを組み合わせることは容易に想到できない。
(2)一般に,吸着材を製造する際には,その吸着目的,吸着対象及び吸着メカニズムを重要視するところ,以下のとおり,引用発明1と引用発明2とでは,それらがいずれも異なっているから,両者を組み合わせる動機付けはない。
ア吸着目的引用発明1の吸着材と引用発明2の吸着材とでは,分離させるのか,除去させるのかといった点で目的が大きく異なっている。また,分離用吸着材か除去用吸着材かによって,その後の処理が異なってくる。
イ吸着対象引用発明1の吸着材は,溶媒中の細胞や生理活性物質が対象であるのに対し,引用発明2の吸着材は,水道水中の鉛等の重金属イオンであり,対象としている物が全く異なっている。
ウ吸着メカニズム引用発明1の吸着材は,細胞等を吸着対象としているので,吸着は,水素結合の形成が主な要因であり,吸着性能(吸着させる細胞等の量)は,吸着材表面付近の官能基の数量に依拠されることとなる。引用発明2の吸着材は,鉛等を吸着対象としているので,吸着する際には,イオン交換が行われている結果,吸着性能(吸着させる鉛等の量)は,吸着材と水との接触面積,すなわち吸着材の表面積の大きさに依拠される。
(3)そして,引用発明1の技術を,浄水器に用いたはずであるという示唆等が存在する必要があるところ,本件審決は,この点について,説明していない。
したがって,引用発明1の製造方法によって浄水器用吸着材を製造することは,当業者が容易に想到し得るものではない。
〔被告の主張〕(1)動機付けについてア本願発明の製造方法で使用される「合成リン酸カルシウム系化合物」の「ヒドロキシアパタイト」という物質は,種々の用途を有し(乙4,5),鉛等の重金属イオンの吸着性能に優れているため,浄水器用吸着剤として使用することが周知である(乙6)。
よって,ヒドロキシアパタイトの用途に関して,引用例1に記載された「細胞や生理活性物質の分離吸着のためのクロマトグラフィー充填剤及び動物細胞の培養用支持体,酵素の支持又は固定化担体」,引用例2に記載された「浄水器用カートリッジ」は,いずれもヒドロキシアパタイト粒子が適用される周知の用途の1つにすぎない。
イ引用発明1は,ヒドロキシアパタイトの水スラリーを乾燥・焼成して機械強度を向上させた多孔性リン酸化合物粒子集合体の製造方法に関する技術であるところ,引用例2には,鉛等の重金属イオンを吸着する浄水器用吸着剤としてヒドロキシアパタイトを用いた場合における,ヒドロキシアパタイトの機械的強度の問題点があること,その解決方法の一つとしてヒドロキシアパタイトを焼結することが開示されている。
ウよって,引用発明1と引用発明2とは,ヒドロキシアパタイトの機械的強度を高める技術に関する点で共通し,かかる吸着に関する技術分野,技術課題等の共通性は,十分な動機付けとなるものである。
そして,ヒドロキシアパタイトがその吸着特性から種々の用途に汎用されるものであり,浄水器用吸着剤としての用途も周知であることを勘案すれば,引用発明1を,ヒドロキシアパタイトの機械的強度を高める技術という点で共通する引用例2に記載された浄水器用吸着剤の製造方法に適用してみることは,当業者の容易に想到し得ることである。
(2)原告が主張する引用発明1と引用発明2における,吸着目的,吸着対象及び吸着メカニズムの違いは,ヒドロキシアパタイトという物質が広い用途で適用できる汎用性を示しているにすぎない。本願発明で採用された乾燥及び加熱固化という工程は,ヒドロキシアパタイト粒子の製造方法として周知技術であり,かかる製造方法は引用発明1のクロマトグラフィー充填剤に限られるものではない。
そうすると,引用発明1と引用発明2に開示された吸着剤の用途が異なるとしても,引用発明1の製造方法を引用発明2の用途に適用する場合,その用途に適した粒子となるよう製造条件を考慮することはあっても,適用することができないとする理由はない。
原告の主張は,引用発明1及び引用発明2に具体的に示された吸着剤の用途に付随する吸着目的,それから派生する吸着対象及び吸着メカニズムの違いを述べたものにすぎず,本願発明に容易想到であるとした本件審決の判断を左右するものではない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(相違点1の認定の誤り)について(1)引用例1の記載引用例1には,以下の記載がある(甲1)。
ア有機バインダーを含まないリン酸カルシウム化合物のスラリーを,傾斜した回転軸を有する容器に装填する工程と,該容器を室温以上に加温しながら回転させる工程とを含む多孔性リン酸化合物粒子集合体の製造方法。(請求項3)イこの発明は,リン酸化合物粒子集合体及びその製造方法に関する。この発明のリン酸化合物粒子集合体は,細胞や生理活性物質の分離吸着のためのクロマトグラフィー充填剤及び動物細胞の培養用支持体,酵素の支持又は固定化担体として用いることができる。(1頁右下欄2〜7行)ウ本発明のリン酸化合物粒子集合体は比較的巨大であり,かつ実質的に球状であるので,これを分離剤として用いると,サイズの大きな細胞等の分離を効率良く行なうことができ,バイオテクノロジー分野におけるダウンストリームプロセッシングに大いに貢献する。(3頁左上欄6〜11行)エ本発明における「リン酸化合物」とは,ヒドロキシアパタイト,リン酸カルシウム及びフッ素アパタイトを包含する。(3頁右下欄6〜8行)オ本発明の上記した粒子集合体は,以下のようにして製造することができる。
まず,リン酸化合物のスラリーを調製し,それを回転軸が傾斜した容器に入れる。
リン酸化合物のスラリーは,従来よりこの分野において周知のものを用いることができる。(3頁右下欄9〜14行)カ次に,上記容器を室温以上の温度に加温しながら,容器を上記回転軸の回りに回転させる。(4頁左上欄9〜10行)キ上記方法により得られた多孔性リン酸化合物粒子集合体は,そのまま分離剤又は細胞培養用支持体として用いることもできるが,さらに焼成することもできる。
焼成することにより,細孔径分布の制御が容易になり,機械強度が向上するという効果が得られる。焼成条件は特に限定されないが,200℃ないし1200℃,特には300℃ないし900℃で1時間ないし50時間,特には3時間ないし10時間行なうことが好ましい。(4頁右上欄12〜末行)ク実施例1及び2図に示す装置を用い,表1に示す製造条件により球状粒子集合体を製造した。用いたリン酸化合物スラリーはヒドロキシアパタイト水性スラリーであり,そのヒドロキシアパタイト濃度は表1に示す。製造後,粒子を50℃で10時間乾燥させた。
得られた粒子の平均粒径を測定した。結果を表1に合わせて示す。(4頁左下欄12行〜19行)なお,表1には,回転数・濃度重量・時間・温度・粒径の項目がある。
実施例3〜5実施例2で得られた試料を300℃,500℃又は700℃で3時間焼成し,表2に示す諸物性値を測定した。結果を表2に示す。(4頁右下欄3〜6行)なお,表2には,焼成温度・比表面積・細孔容積・細孔径・カサ比重・気孔率・圧縮強度の項目がある。
(2)実施例3〜5の「試料」と乾燥工程引用例1の実施例2には,上記のとおり,?@「表1に示す製造条件により球状粒子集合体を製造」する工程,?A「製造後,粒子を50℃で10時間乾燥させ」る工程,?B「得られた粒子の平均粒径を測定」する工程が記載されている。実施例3〜5にいう「実施例2で得られた試料」の「試料」は,「実施例2で得られた」ものと記載されているにすぎないのであるから,文言上は,実施例2に記載されているすべての工程,すなわち上記?@ないし?Bのすべての工程を経て得られたものが含まれると解するのが相当である。
このように,「実施例2で得られた試料」については,表1に示す製造条件によって製造した球状粒子集合体を50℃で10時間乾燥させたものが含まれると認めることができる。
(3)原告の主張についてア原告は,形式的にも実質的にも,乾燥工程は製造工程が終了した後の工程であり,リン酸化合物粒子集合体はスラリー中に存在する状態が完成品であり,乾燥されて完成品となるわけではないと主張する。
しかし,「実施例2で得られた試料」との記載が「実施例2で製造された試料」と必ずしも同義ではなく,これが直ちに実施例2の「製造」工程のみを終了した段階の試料を指すということはできない。また,原告主張のように完成品としてリン酸化合物粒子集合体スラリーを乾燥させないものが存在するとしても,そのような粒子集合体のみが引用例1の実施例3〜5における「実施例2で得られた試料」と解することはできない。
イまた,原告は,引用例1の「製造後,粒子を…乾燥させた」の記載は,「粒子」の集合体である「球状粒子集合体」の結合を解いて乾燥させること,あるいは,「球状粒子集合体」の一部である「粒子」を乾燥させることを意味するとも主張する。
しかし,同記載をいずれの意味に解釈するとしても,乾燥させたものが実施例2で得られた試料から除外されるとまで記載されていない以上,上記(2)の解釈を何ら左右しないというべきである。
ウさらに,原告は,乾燥工程を経ずに直接加熱固化することも技術常識からして不自然ではないとも主張する。
しかし,証拠(乙2,3)によれば,ヒドロキシアパタイトの製造において,焼成の前処理として乾燥を行う技術があることが認められ,焼成前に乾燥工程を経ないことが技術常識であるということはできない。そうすると,「実施例2で得られた試料」を,乾燥させていないものに限定して解することはできない。
エしたがって,引用例1には,「実施例2で得られた粒子集合体」とか「粒子」などという記載ではなく,単に「実施例2で得られた試料」と記載されている以上,実施例2に記載されているうちの一部にすぎない前記?@の工程で製造されたものと限定的に解することはできない。
(4)小括よって,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点1の判断の誤り)について(1)本願発明の乾燥工程の意義ア明細書の記載(ア)本願明細書には,以下の記載がある(甲3)。
【0010】また,合成リン酸カルシウム系化合物の粉末と水の混合スラリーを乾燥した後,200℃〜500℃で加熱固化すると,収率が向上するため好ましい。
乾燥温度は80〜150℃が好ましい。
【0022】80℃〜150℃程度の温度で乾燥を行った後,篩い分けを行って粒径を調整し,その後で加熱固化を行うことにより,粒径が外れたものを再度スラリー化することが可能となるため,収率を向上させることができる。
(イ)本願明細書の発明の詳細な説明には,乾燥工程についての記載が上記認定の部分以外にはないところ,上記記載からは,せいぜい「乾燥を行った後」で「篩い分けを行って粒径を調整」することや,「粒径が外れたものを再度スラリー化」して「収率を向上させる」こととの関連がうかがえるにすぎない。しかし,本願発明は,発明特定事項として,篩い分け工程や再度スラリー化する工程を有していないのであるから,粒径の調整や収率の向上といった課題の解決を図るためのものとか,上記目的を達成するためのものなどということはできない。しかも,本願明細書の上記記載からは,「80℃〜150℃」という数値範囲の意義を理解することはできない。
そうすると,本願明細書の記載自体からは,本願発明が「80℃〜150℃で乾燥」する構成を有することの意義を,理解することができない。
イ出願時の技術常識セラミックス辞典(乙1)によると,「乾燥」とは,「セラミックスの原料や成形体から水分を除くことを乾燥という。…乾燥は焼成時に水分が気化して水蒸気になるときの(1)エネルギー損失,(2)体積膨張による成形体の破壊を防止するために行う。」ものと理解されている。したがって,乾燥とは,水分を気化(蒸発)させて除く処理をいい,水分含有原料を焼成する場合は,焼成の前処理として用いられることが一般的である。
そして,乙1の上記記載を併せ考慮すると,本願発明が「80℃〜150℃で乾燥」する構成を有することの意義は,合成リン酸カルシウム系化合物のスラリーを焼成するにあたり,水分が気化して水蒸気になるときのエネルギー損失や体積膨張による成形体の破壊を防止するために行う焼成のための前処理を行うことにあると理解することができる。
もっとも,上記技術常識からみても,乾燥温度の数値限定についてまで格別の意義を認めることができない。
(2)相違点1に係る構成の容易想到性本願発明が焼成前において乾燥工程を有することの意義は,上記(1)のとおり,焼成のための前処理と認められる。他方,引用発明1が焼成前において「50℃で10時間乾燥」する構成を有することの意義について,引用例1には直接的には記載されていないところ,引用例1の実施例3〜5に「実施例2で得られた試料を…焼成し」と記載されていることからすると,本願発明と同じように焼成のための前処理と解することができる。
そして,本願発明が乾燥温度を「80℃〜150℃」と特定することに格別の意義を認められないのは上記のとおりであるから,当業者が引用発明1についてその乾燥温度を所望の温度すなわち80℃〜150℃に設定することは単なる設計事項にすぎないといわざるを得ない。
したがって,本件審決の相違点1についての判断に誤りはない。
(3)原告の主張についてア原告は,本願発明の乾燥温度について,80℃未満では混合スラリーを十分に乾燥させることができず粒径を整えるという目的を達することができないと主張する。
しかし,本願発明について粒径を整えるという目的を達成することを前提としてみることができないのは上記(1)に判示したとおりである。また,乾燥時間が同じ場合において温度が高い方が十分な乾燥が行えることは,技術常識であるから,引用発明1において50℃よりも高い乾燥温度,例えば80℃程度で乾燥を行うようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。
イ原告は,150℃よりも高い温度では一部において加熱固化されてしまい再度スラリー化することができないと主張する。
しかし,本願発明は再度スラリー化する工程を特定事項としていないのであるから,上記主張は,本願発明の構成に基づかない主張であって採用できない。なお,150℃よりも高い温度,例えば150〜200℃の範囲で固化してしまう事実を認めるに足りる証拠もない。
(4)小括よって,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(相違点2の判断の誤り)について(1)周知技術の認定ア引用例2には,以下の記載がある(甲2)。
【0004】鉛,カドミウム等の重金属イオンを選択的に吸着する浄化剤として重金属用キレート樹脂,ヒドロキシアパタイトが知られている。特にヒドロキシアパタイトは,キレート樹脂に比べ吸着能に優れている。…【0005】しかし,ヒドロキシアパタイトは,粒径の小さいものを用いた方が重金属吸着能が高いものの,圧力損失が大きいため,浄水器が早期に目詰まりを起こしたり,微粉末が漏出し,実用化するには問題が多かった。また,ヒドロキシアパタイトの粒径を焼結により大きくすると目詰まりの発生や微粉末の漏出は解決できるが,重金属イオン吸着能が低下する…イ特開平9-29241号公報(乙6)の記載【0009】本発明の浄水器の第1浄水槽に用いるヒドロキシアパタイト粒子は,リン酸カルシウムを主成分とする無機物質であり,好ましくは200〜20メッシュの粒子のものであり,ヒドロキシアパタイト粒子は,鉛等の重金属陽イオンの吸着に極めて優れ,ヒドロキシアパタイト粒子を用いることにより,より安全な濾過水を得ることができる。
【0025】ヒドロキシアパタイト粒子は,焼成して得られた結晶を粉砕器で粉砕し,分級した100メッシュと48メッシュの粒度の混合粒子を用い,活性炭は,クラレケミカル社製クラレコールT-SB48/100を用いた。
【0031】(3)鉛除去能力鉛濃度として150 ppb の塩化鉛水溶液を通水し,8□通水時の濾過水の鉛濃度を測定したが,濾過水の鉛濃度は,5 ppb 以下であった。
ウ上記ア,イの記載によると,ヒドロキシアパタイトがその用途について鉛を含む重金属を除去できる浄水器用吸着材として用いられることは,周知であると認められる。
(2)相違点2に係る構成の容易想到性そして,引用発明1の方法により製造される多孔性リン酸化合物粒子集合体はこのヒドロキシアパタイトを包含するものであるから,引用発明1の製造方法により製造されるヒドロキシアパタイトを包含する多孔性リン酸化合物粒子集合体について,その用途を浄水器用吸着材とすることは当業者にとって格別困難なく想到し得ることと認められる。
本件審決の相違点2についての判断に誤りはない。
(3)原告の主張について原告は,引用例1と引用例2における,吸着目的,吸着対象及び吸着メカニズムの違いを主張して,両者の組合せに動機付けがないと主張する。
しかしながら,引用発明1の製造方法によって得られる多孔性リン酸化合物粒子集合体はヒドロキシアパタイトを包含するところ,ヒドロキシアパタイトという物質が広い用途で適用できる汎用性を有するものであって,引用発明2等で示されるように,その用途を浄水器用吸着材とすることは当業者にとって格別困難なく想到し得るものである。
そして,本願発明の用途に格別の意義はないから,引用発明1と引用発明2との間に原告が主張するような吸着目的等の違いがあるとしても,引用発明1の方法によって得られる製造物であるヒドロキシアパタイトの用途について着目するとき,そのような違いは,当業者が,同じ製造物の用途について開示する引用発明2の技術思想を採用することの阻害要因とはならない。
よって,原告の主張は,上記(2)の判断を左右するものではない。
(4)小括したがって,取消事由3は理由がない。
4結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 杜下弘記