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関連審決 不服2002-1806
関連ワード 方法の発明 /  インターネット /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  慣用技術 /  上位概念 /  試行錯誤 /  名義変更 /  援用権(援用) /  交換 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 266号 審決取消請求事件
原告 有限会社守谷商店
訴訟代理人弁護士 寺澤正孝
同 竹澤大格
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 平井誠
同 佐藤伸夫
同 小曳満昭
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2002−1806号事件について平成15年5月2日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
1 原告 主文同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「結婚式場等ブライダル情報の案内方法」とする発明について,特許出願(平成8年4月1日出願,平成8年特許願第78664号。以下「本件出願」という。本件出願時の請求項の数は1である。)した出願人から,これに関する権利を譲り受け,平成14年1月21日付けで,特許庁に対して名義変更手続をした者である。本件出願について,平成13年12月26日,拒絶査定がされ,原告は,権利譲受後の平成14年2月6日,これに対する不服の審判を請求すると共に,同日付け手続補正書により,本件出願の願書に添付した明細書の補正(以下「本件補正」という。)をした。特許庁は,この請求を不服2002-1806号事件として審理し,その結果,平成15年5月2日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月26日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲【請求項1】(本件補正前のもの) 「所定の文字列からなるドメイン名のサイトが用意されると共に,インターネット端末を介してインターネットに接続されるサーバを備えた結婚式場等ブライダル情報の案内方法において,前記インターネット端末を介して前記ドメイン名でアクセスされたとき,式場検索,イベント情報のメニュー項目が含まれたページを提示し,式場検索の項目が選択されたとき,少なくとも地域および結婚条件を含む結婚式場の検索条件を提示して前記検索条件の入力を促し,イベント情報のメニュー項目が選択されたとき,結婚に関連したイベントの項目と結婚に関連しないイベントの項目が設けられたページを提示していずれかを選択する入力を促し,結婚に関連したイベントの項目が選択されたとき,該当の結婚式場を全て提示していずれかの選択入力を受け付け,結婚に関連しないイベントの項目が選択されたとき,該当の会場を全て提示していずれかの選択入力を受け付け,前記検索条件が入力されたとき,該当の結婚式場を全て提示していずれかの選択入力を受け付け,受け付けられた選択入力が示す,前記ドメイン名の結合したアドレスを含むドキュメントによって,結婚式場,会場の表記文字列と前記結婚式場,会場の名称が掲載されたホームページを提示し,前記アドレスでアクセスされたとき,前記アドレスと対応したホームページへジャンプして前記ホームページを提示し,所定のページが提示されているときで,予め定められた操作が行われたとき,問い合わせ文を前記インターネット端末で受け付けて応答文をアクセス元へ送出する,ことを特徴とした結婚式場等ブライダル情報の案内方法。」(拒絶査定の対象となったのは請求項1で特定された発明である。以下,この発明を「本願発明」という。) 3 本件補正後の特許請求の範囲【請求項1】 「所定の文字列からなるドメイン名のサイトが用意されると共に,インターネット端末を介してインターネットに接続されるサーバを備えた結婚式場等ブライダル情報の案内方法において, 前記インターネット端末を介して前記ドメイン名でアクセスされたとき,式場検索,イベント情報のメニュー項目が含まれたページを日本語で提示し, 式場検索の項目が選択されたとき,少なくとも地域および結婚条件を含む結婚式場の検索条件を日本語で提示して前記検索条件の入力を促し, イベント情報のメニュー項目が選択されたとき,結婚に関連したイベントの項目と結婚に関連しないイベントの項目が設けられたページを日本語で提示していずれかを選択する入力を促し, 結婚に関連したイベントの項目が選択されたとき,日本語で該当の結婚式場を全て提示していずれかの選択入力を受け付け, 結婚に関連しないイベントの項目が選択されたとき,日本語で該当の会場を全て提示していずれかの選択入力を受け付け, 前記検索条件が入力されたとき,日本語で該当の結婚式場を全て提示していずれかの選択入力を受け付け, 受け付けられた選択入力が示す,前記ドメイン名の結合したアドレスを含むドキュメントによって,結婚式場,会場の表記文字列と前記結婚式場,会場の名称が掲載されたホームページを日本語で提示し, 前記アドレスでアクセスされたとき,前記アドレスと対応したホームページへジャンプして前記ホームページを提示し, 所定のページが提示されているときで,予め定められた操作が行われたとき,日本語による 問い合わせ文を前記インターネット端末で受け付けて日本語 による応答文をアクセス元へ送出する, ことを特徴とした結婚式場等ブライダル情報の案内方法。」 (下線部が補正部分である。以下「本願補正発明」という。なお,審決は,上記「問い合わせ文を前記インターネット端末で受け付けて」との記載は,「問い合わせ文を端末で受け付けて」の誤記であると認定している。) 4 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願補正発明は,「INTERNET MAGAZINE No.2」(1994.12.18)124〜129頁(以下,審決と同様に「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないとして,本件補正を却下した上で,本願発明についても,本願補正発明についての判断を援用し,引用発明と慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
審決が上記結論を導くに当たり,本願補正発明と引用発明との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
(一致点) 「所定の文字列からなるドメイン名のサイトが用意されると共に,インターネット端末を介してインターネットに接続されるサーバを備えたインターネット広告の案内方法において,前記インターネット端末を介して前記ドメイン名でアクセスされたとき,検索,情報のメニュー項目が含まれたページを提示し,電子メールで情報のやり取りをするインターネット広告の案内方法」である点 (相違点) (1) インターネット広告の広告の対象に関して,前者(判決注・本願補正発明)が結婚式場等ブライダル情報であるのに対して,後者(判決注・引用発明)は航空情報である点 (2) Webページの言語に関して,前者が日本語であるのに対して,後者は英語である点 (3) ドメイン名でアクセスした時の,Webページの表示の仕方に関して 前者が検索,情報のメニュー項目が含まれたページを提示するのに対して,後者はハイパーリンクが含まれたページが表示され,それをクリックすると検索や情報のメニュー項目が含まれたページを表示する点 (4) 前者が検索や情報のメニュー項目を選択した後,各選択された項目に応じて具体的なステップが記載されているのに対して,後者は具体的なステップは記載されていない点 (5) 前者が検索条件により検索された全ての結婚式場を提示し,結婚式場が選択されるとそれに対応したドメイン名の結合したアドレスのホームページへジャンプして該ホームページを提示するのに対して,後者は検索された情報をどの様にその後処理するのかは記載されていない点 (6) 前者がインターネット端末から問い合わせ文を送出して,その応答文を該インターネット端末が受信するのに対して,後者はインターネット端末から予約を送出し,その予約確認の通知を受信する点 (以下,「相違点1」,「相違点2」などという。)
原告主張の取消事由の要点
審決は,引用発明の認定を誤り(取消事由1),本願補正発明と引用発明との相違点を看過した(取消事由2)ほか,相違点の判断を誤り(取消事由3),その結果,本件補正を誤って却下すると共に,本願発明の進歩性を否定したものであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り) (1) 審決は,引用発明の内容を,「所定の文字列から成るドメイン名(www.cdnair.ca)が用意されると共に,ユーザー端末を介してインターネットに接続されるサーバを備えたカナディアン航空情報の案内方法において,前記ユーザ端末を介して前記ドメイン名でアクセスされたとき,「Airline info」のハイパーリンクが含まれたページを表示し,それをクリックするとフライトのスケジュール検索やオフィシャルな情報等のメニュー項目が含まれたページを表示し,予約を電子メールで送付すると受信元から予約確認の通知が電子メールで送られてくるカナディアン航空情報の案内方法」(審決書3頁)と認定した。
しかしながら,引用例は,複数のインターネットホームページを紹介した雑誌の記事であり,そのうち「カナディアン航空のWWWサーバ」には電子メールによるコミュニケーション機能は組み込まれておらず,「予約を電子メールで・・・送られてくる」という部分の認定は明らかに事実に反する。
このように,審決は,引用発明の認定を誤り,これに伴って本願補正発明との一致点及び相違点の認定を誤り,ひいては相違点を看過したものである。
(2) 被告は,引用例には,「フライトスケジュールのチェックに引き続いてホテルの予約までもが可能な旅行関連情報の案内方法」というべき一つの発明が記載されていると主張するが,次の理由から首肯しがたい。
ア 引用例に紹介されている「カナディアン航空のWWWサーバ」と「ホテル情報のWWWサーバ」とは,構成要件も解決すべき技術的課題も異なっており,これらを技術的に一体のものと評価するのには無理がある。
イ 被告は,上記二つのサーバは「旅行関連情報」という概念で一つにまとめられるなどというが,「旅行関連情報」という概念は余りに抽象的に過ぎ,発明の定義として意味をなさない。また,上位概念が同一であることや同じ特集記事に取り上げられていることは,それ自体技術的に有意なものではないから,これらの事実をもって二つのサーバを技術的に一体のものとみることはできない。
2 取消事由2(相違点の看過) (1) 本願補正発明の広告案内の手法は,いわゆるキーワード広告(ユーザが任意に入力するキーワードに対応した広告を選別提示する手法)に分類されるものである。一方,引用例は,広告の案内方法以前のサーチエンジンやハイパーリンクによる異なるホームページ間の関連付けの一方法を開示したものに過ぎない。
すなわち,引用発明は,具体的な広告案内方法(プラットフォーム)ではなく,抽象的にあるホームページからそれとリンクされた別のホームページへと誘導する方法(インフラストラクチャー)を内容としたものであり,リンクの方法としてハイパーリンクやサーチエンジンの利用の可能性について示唆しているものの,その具体的な利用方法までは明らかにしていないのであって,結局,入り口となるページと関連付けされた広告主のホームページをハイパーリンクやサーチエンジンで抽出表示するという程度(要はホームページのコンテンツがたまたま広告であるというだけ)のものであるに過ぎない。
これに対し,本願補正発明は,情報の提供側がユーザの選択行動(ハイパーテキストのクリックやサーチエンジンへの検索語の入力)からユーザのサービスに関するニーズや関心の対象を推測して,それと関連のある広告主のホームページを提示する具体的な方法を内容とするものである。本願補正発明は,ユーザがインターネット広告にアクセスする手段としてハイパーテキストやサーチエンジンを使用するという点では,引用発明と類似するが,ハイパーテキストやサーチエンジン,電子メールは,引用発明における用法と異なり,単なる情報ノイズをカットするという消極的なツールとしてではなく,関連性のある情報を拾い出し,その提示による刺激により,@ユーザに潜在化したニーズを自覚化させ,広告主側のサービスメニューとのマッチングのための触媒として,また,Aユーザの選択と広告主の提示というトランザクションを通じて,ユーザを効率的に合理的な選択肢へと誘導するデシジョンツリーとして,いわば価値創造の手段として機能させることを意図しているものである。
(2) 要するに,引用発明と本願補正発明とでは,技術思想と効果とが異なっており,それを反映して情報処理のプロセスも異なっている。具体的には,引用発明においては,予め決まったユーザのニーズを基準に情報のノイズをカットして目的の情報にたどり着くのに対し,本願発明においては,ユーザの選択行動から情報の提供側がユーザのニーズを推測して情報を提示し,それに対しユーザがさらに選択行動を行うという形で潜在化したユーザのニーズを顕在化させ,その過程で情報を形成していくというプロセスを経ることになる。
審決は,上記のような本願補正発明と引用発明との本質的な相違点を看過したものである。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り) (1) 相違点1について 結婚式場等ブライダル情報は,航空情報やホテルの空き情報と異なり,情報収集の動機となるニーズが予めユーザ自身において具体的に意識されていないのが通常であり,その収集のプロセスも,予算や人数,料理など多様な制約条件の中で試行錯誤を繰り返すことを本質とするという特徴がある。本願補正発明のようなキーワード広告は,このプロセスに最も適合するインターネット広告案内の手法であるが,本件出願当時,インターネット広告の分野において,上記のような特徴を持つ結婚式場等ブライダル情報がインターネット広告になじむとは考えられていなかった。
審決は,結婚式場等ブライダル情報の特徴を看過して,これを予めユーザにおいて具体的なニーズが定まっている航空情報やホテルの予約情報と同列に論じ,相違点1について,容易に推考できるとしたものであり,誤りである。
(2) 相違点2について 本件出願時,日本では,インターネット広告にとって不可欠なインフラといえる商用のインターネット検索サービスはもとより,その前提となる日本語のホームページ自体もほとんど存在せず,技術的な観点からも言語上の観点からも,日本語でのインターネット広告の利用は想定しがたい状況にあったから,本件出願時において日本語による検索エンジンを使ったサービスの提供は,当業者が容易に推考できたとはいえないのであって,相違点2について,容易に推考できるとした審決の判断は誤りである。
(3) 相違点3について 相違点3について,容易に推考できた設計事項であるとした審決の判断は誤りである。
(4) 相違点4及び5について 前記のとおり,本件出願当時,本願補正発明におけるキーワード広告という広告手法は知られておらず,結婚式場等ブライダル情報がインターネット広告になじむとは考えられていなかったのであるから,相違点4及び5について,慣用技術を用いて容易に推考できるとした審決の判断は誤りである。
(5) 相違点6について 本願補正発明の電子メールでの情報交換機能部分は,前記のような結婚式場等ブライダル情報の性格上,予め選択項目や検索項目ではユーザのニーズの全てをカバー仕切れていない場合が多いことから,その部分のコミュニケーションを補完するものとして,必要不可欠な機能の一部として付加されているものであり,相違点6について,慣用技術を用いて容易に推考できるとした審決の判断は誤りである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対して (1) 審決の「3.引用例に記載の発明」の項のア,イ,ウに摘記した事項(審決書3頁)のうち,ア,イは,カナディアン航空が提供するWWWサーバに関する記載事項であるのに対し,ウは「San Francisco Reservations」のWWWサーバに関する記載事項であり,両者は異なるWWWサーバに関する記載事項である。
しかしながら,ア,イとウの記載事項は,いずれも,引用例の124頁左上の「それでは皆さんお待ちかねのMosaicを使って,フライトスケジュールをチェックして,著名なホテルを予約してみましょう」との記載に次いで紹介された,フライトスケジュールをチェック可能なWWWサーバに関する記載事項と,著名なホテルを予約可能なWWWサーバに関する記載事項であり,また,そこに記載された両サーバは,引用例の124頁左欄10行で「旅行関係のWWWサーバ」という概念で一つにまとめられているものでもある。そして,これらの引用例の冒頭部分の記載と,審決で摘記したア,イ,ウの記載事項を併せ読んだ読者が,ア,イの記載事項であるフライトスケジュールのチェックと,ウの記載事項であるホテルの予約を,一連のプロセスとして位置づけ,理解することは明らかである。そうすると,引用例には「フライトスケジュールのチェックに引き続いてホテルの予約までもが可能な旅行関連情報の案内方法」というべき単一の方法の発明,すなわち審決が摘示したとおりの一つの発明が記載されていると認定することができる。
したがって,審決が引用例に基づいてした引用発明の認定に誤りはない。
(2) 上記のように,審決における引用発明の認定は,本質的には誤っていないが,引用発明を「カナディアン航空情報の案内方法」とした点については誤りであったといわざるを得ない。正しくは,「旅行関係の情報の案内方法」といった程度の認定とすべきであった。
しかしながら,この誤りは,審決における相違点の看過にも,容易性判断の誤りにもつながっておらず,審決の結論に影響するものではない。
すなわち,引用発明を「カナディアン航空情報の案内方法」ではなく「旅行関係の情報の案内方法」と認定した場合でも,本願補正発明が引用発明と相違する箇所は,審決が相違点1ないし6で認定したことに尽きるし,それらの相違点についての判断も,審決に説示したことがそのまま妥当するのである(引用発明が「カナディアン航空情報の案内方法」であっても「旅行関係の情報の案内方法」であっても,対象情報を結婚式場等ブライダル情報とすることが容易であることに変わりはない。)。したがって,上記誤りは,審決の結論に全く影響しないものということができる。
2 取消事由2(相違点の看過)に対して 本願補正発明には,「キーワード広告」という文言自体はない。また,「キーワード広告」の一般的な定義は必ずしも定着しているとはいえないが,仮に,「キーワード広告」の意義を原告が主張するとおりとして本願補正発明を検討しても,本願補正発明が「キーワード広告」であるとする根拠は見当たらない。したがって,審決が認定した以外に相違点はなく,原告の主張は,明らかに失当である。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り)に対して (1) ブライダル情報について 引用発明は,旅行関係の情報の案内方法であるが,そもそもインターネットを用いた情報案内では,あらゆる種類の情報が対象になることは,本件出願時点では良く知られていた事項であり,引用例に接した当業者が,旅行関係の情報案内と同様に,それまで種々の媒体を通じて行ってきた情報案内,すなわち広告をインターネットを通じて行おうと発想することは,当然の成り行きであるといえる。そして,結婚式場等ブライダル情報も,従来様々な媒体を通じて広告がされてきた情報の一つであり,インターネットによる広告の対象として,これを採用することの困難性は何ら存在しない。
また,インターネットによる情報案内において,メニュー項目を表示することによって,情報や考慮すべき視点を整理してユーザに提示し,それを選択させることは,引用例の旅行関係の情報の案内方法の例を引用するまでもなく,本件出願時点で既に一般的に行われていた手法であり,その過程の中で,@ユーザの気がつかなかった視点や条件をユーザに自覚させ,Aユーザを効率的に合理的な選択肢や情報へと導く効果は,通常期待される範囲内のものであって,結婚式等ブライダル情報特有の要素は何ら存在しない。
(2) 言語について 本件出願時において,日本語によるインターネット検索サービスや日本語のホームページが普及していなかったという事実が正しいか否かはさておき,その事実は,引用発明から相違点2を克服した(WWWサーバの言語を日本語とした)発明に到達することが困難であったことの根拠にはなり得ないものである。本件出願時においても,Webページの言語を日本語とすることに対する要求と,それを実現するための技術手段が存在していたことは,改めて証拠を挙げるまでもなく明らかなことであり,そのような事実に鑑みれば,相違点2を克服した発明に到達すること自体が容易であったことは明らかである。
(3) その他,相違点に関する審決の判断は正当であり,原告の主張はいずれも理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明認定の誤り)について (1) 引用例は,株式会社インプレス発行の「INTERNET MAGAZINE」No.2という雑誌の124〜129頁にある「インターネットのある暮らし」という連載記事であり,筆者が旅行関係のWebページを紹介しているものであるが,この記事では,カナディアン航空が提供している航空情報提供のWWWサーバ,サンフランシスコの旅行会社である「San Francisco Reservations」が提供しているサンフランシスコのホテル情報提供のWWWサーバ,コンピュータを使ったホテル予約を推進している会社である「THISCO」が提供している「TravelWeb」というホテル情報提供のWWWサーバなどが紹介されている(甲1号証)。
(2) 審決は,引用例の記載及び引用発明について,次のとおり認定している。
「・・・(以下,「引用例」という。)には,以下のア〜ウの事項が記載されている。
ア 「URLのドメイン名に注目してください。冒頭にも紹介したとおり,このサービスはカナディアン航空自身が提供するWWWサーバです。カナディアン航空からのオフィシャルな情報,フライトのスケジュール,出発・到着予定フライト,機体などの情報を調べられます。」(125頁ページ左欄) イ 「(1)スケジュール検索 ホームページで「Airline info」をクリックし,さらにそこで「Flight Infomation」を選ぶと,このページが表示されます。ここでは,出発地と到着地を入力して,カナディアン航空のフライトスケジュールを検索して,表示させることができます。」(同ページ,中央欄) ウ 「(7)ホテル予約フォーム ホテルに空室があれば,この予約フォームが表示され,そして,自分の電子メールアドレスを記入します。予約確認の通知は電子メールで送られてきますので,間違えないように注意します。・・・・すべて記入したら,「send」ボタンをクリックして情報を送ります。あとは,予約確認の通知が電子メールでくるのを待つだけです。」(127ページ右欄) 上記ア,イ及び図の記載からみて, 引用例には,所定の文字列から成るドメイン名(www.cdnair.ca)が用意されると共に,ユーザー端末を介してインターネットに接続されるサーバを備えたカナディアン航空情報の案内方法が記載されている。
そして,上記ドメイン名でアクセスされたとき,ホームページ上の「Airline info」をクリックすると,ハイパーリンクによってフライトのスケジュール検索やオフィシャルな情報等の項目が含まれたページが表示されることが記載されている。
上記ウの記載からみて, 引用例には,アクセス元であるユーザ端末から,予約を電子メールで送付すると受信元から予約確認の通知が電子メールで送られてくることが記載されている。
したがって,引用例には, 「所定の文字列から成るドメイン名(www.cdnair.ca)が用意されると共に,ユーザー端末を介してインターネットに接続されるサーバを備えたカナディアン航空情報の案内方法において,前記ユーザ端末を介して前記ドメイン名でアクセスされたとき,「Airline info」のハイパーリンクが含まれたページを表示し,それをクリックするとフライトのスケジュール検索やオフィシャルな情報等のメニュー項目が含まれたページを表示し,予約を電子メールで送付すると受信元から予約確認の通知が電子メールで送られてくるカナディアン航空情報の案内方法」が記載されているものと認められる。」(審決書3頁1行〜末行) (3) しかしながら,審決が認定した上記ア及びイの記載は,カナディアン航空が提供しているWWWサーバに関するものであるが,上記ウの記載は,「San Francisco Reservations」が提供している別のWWWサーバに関するものである。この二つのWWWサーバは,いずれも同一の引用例中に記載されているものではあるが,それぞれ提供者及びその内容を異にする別個のものであり,したがって,審決が引用発明の内容として認定した「カナディアン航空情報の案内方法」には,上記ウの内容は存在していないのである。
そうすると,審決が,「所定の文字列から成る・・・サーバを備えたカナディアン航空情報の案内方法」において,「予約を電子メールで送付すると受信元から予約確認の通知が電子メールで送られてくる」との構成が備わっているものとして,引用発明の内容を認定したことは,「カナディアン航空情報の案内方法」として引用例に記載されていない事項を認定したものであり,誤りであるといわなければならない。
(4) 被告は,審決が引用発明の認定において「カナディアン航空情報の案内方法」とした点は誤りであるが,引用例に記載された上記二つのサーバは「旅行関係のWWWサーバ」(引用例124頁左欄10行)という概念で一つにまとめられており,引用例の冒頭部分の記載と上記ア,イ,ウの記載事項を読んだ読者がフライトスケジュールのチェックとホテルの予約を一連のプロセスとして理解することは明らかであるから,引用例には「フライトスケジュールのチェックに引き続いてホテルの予約までもが可能な旅行関連情報の案内方法」という一つの発明が記載されていると主張する。
しかし,上記二つのWWWサーバは,それぞれの提供者が独自に自らの技術に基づいて作成し,Webページとして公表しているものであって,両者の間に特別の関係があるわけではなく,全く別個のWWWサーバである。また,引用例においても,「今回は,インターネットらしいサービスを提供している旅行関係のWWWサーバ,つまりMosaicなどのビューアを使って見ることができるサービスをいくつか紹介しようと思います。」(甲1号証124頁左欄9〜13行)として,125頁で「フライトの発着状況をチェック!」との表題の下にカナディアン航空のWWWサーバを紹介し,次いで126〜127頁で「サンフランシスコのホテルはおまかせ」との表題の下に「San Francisco Reservations」のWWWサーバを紹介しているのであって,二つのサーバはそれぞれ別々のものとして独立して紹介され,特に二つのサーバを一連のプロセスのものとして理解させるような記載は見当たらないのである(甲1号証。なお,引用例124頁左上の「それでは皆さんお待ちかねのMosaicを使って,フライトスケジュールをチェックして,著名なホテルを予約してみましょう」との記載も二つのWWWサーバを一連のものとして位置づけたものとまでみることはできない。
(5) 以上のとおりであるから,審決は,「予約を電子メールで送付すると受信元から予約確認の通知が電子メールで送られてくる」という引用発明にはない構成を含めて認定した点において,引用発明の認定を誤り,その点に関する相違点を看過したものといわざるを得ない。その結果,審決は,相違点6として,「前者(判決注・本願補正発明)がインターネット端末から問い合わせ文を送出して,その応答文を該インターネット端末が受信するのに対して,後者(判決注・引用発明)はインターネット端末から予約を送出し,その予約確認の通知を受信する点」と誤って認定した上で,「ユーザが疑問な点があれば電子メールを用いて相手方に問い合わせ文を送信し,応答文を受信することは,良く知られた慣用技術であるから,後者(判決注・引用発明)にこの慣用技術を用いて前者(判決注・本願補正発明)の構成のようにすることは,当業者が容易に推考できた」(審決書6頁29〜32行)と判断し,この判断をそのまま本願発明についても援用しているのである。この判断は,引用発明に「予約を電子メールで送付すると受信元から予約確認の通知が電子メールで送られてくる」という構成が備わっていることを前提に,これに慣用技術を用いることにより,相違点6に係る本願補正発明の構成とすることが容易に推考できるとしたものであって,前記引用発明の誤認に基づく相違点の看過がその判断に影響を及ぼしていることは明らかである。
そうすると,サンフランシスコのホテル情報提供のWWWサーバに関する技術や審決のいう慣用技術を用いて,本願補正発明の構成のようにすることが容易に推考できたといえるかどうかはともかくとして,審決の上記判断は,その判断の過程に誤りがあるといわざるを得ない。
(6) したがって,審決は,引用発明の認定を誤って相違点を看過し,本件補正を却下すると共に,本願発明の進歩性を否定したものであるから,審決を取り消し,改めて本件補正の可否を含めて本願発明の進歩性の有無について審理し直すのが相当である。
2 結論 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由があり,審決は取消を免れない。
よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂驤
裁判官 若林辰繁