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関連審決 不服2005-8312
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  パリ条約 /  優先権 /  参酌 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10106号 審決取消請求事件
原告ヴィシェイデイルエレク トロニクス,インコーポレイ テッド
同訴訟代理人弁理士木内光春 澤田節子 大熊考一 茜ヶ久 保公二町田正史
被告特許庁長官
同 指定代理 人橋本武廣瀬文雄 加藤俊哉 岩崎伸二 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2005-8312号事件について平成20年12月1日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁において,下記2のとおりの本件補正を却下した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲1)及び拒絶査定発明の名称:「オーバーレイ表面実装抵抗器及びその製造方法」出願番号:特願2001-547496号出願日:平成12年2月25日パリ条約による優先権主張日:平成11年12月21日(米国)優先権主張番号:09/471622手続補正日:平成16年9月6日(甲17)拒絶査定:平成17年1月13日(2)審判請求手続及び本件審決審判請求日:平成17年5月6日(不服2005-8312号)手続補正日:平成20年9月30日(甲19。以下「本件補正」という。)審決日:平成20年12月1日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成20年12月22日2本件補正の内容本件補正は,本件特許出願に係る明細書(以下,本件補正後の明細書を「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1について下記(1)の記載を同(2)の記載のとおりとするほか,同請求項2の記載及び発明の詳細な説明の記載についての補正を含むものである。以下において,(1)の本件補正前の請求項1に記載した発明を「本願発明」といい,(2)の本件補正に係る請求項1に記載した発明を「本件補正発明」という。なお,(2)の下線部分は本件補正による補正箇所である。また,以下の文中の「/」は,原文の改行部分を示す。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載複数個の表面実装抵抗器を製造する方法であって,/上縁と下縁と,該上縁と下縁との間に位置する中央部分と,平坦なおもて面と,平坦な裏面を有する電気抵抗性材料の細長抵抗性ストリップ(28)と,該抵抗性材料とは異なる導電金属材の細長第1導電ストリップ及び細長第2導電ストリップとから成るリボンを取り出し,/前記第1導電ストリップと第2導電ストリップをそれぞれ前記抵抗性ストリップの平坦なおもて面にその上縁と下縁に沿って,かつ,該抵抗性ストリップの前記中央部分を挟んで互いに離隔させてろう付け合金や接着剤を用いずにクラッド法によって接合し,/各々,おもて面と裏面を有する電気抵抗部材と,該抵抗部材のおもて面に互いに離隔して取り付けられた導電金属の第1端子端及び第2端子端とから成り,該抵抗部材のおもて面の該第1端子端と第2端子端の間に露出部分を有する複数個の抵抗器本体を形成するために,前記抵抗性ストリップ及び第1導電ストリップと第2導電ストリップを該抵抗性ストリップの長手軸線に対して横断方向に貫通する複数の切り込みを形成し,該複数の切り込みを形成する間該複数個の抵抗器本体を連結されたままに維持し,/前記複数個の抵抗器本体を互いに切断分離して複数個の表面実装抵抗器を製造することを特徴とする表面実装抵抗器の製造方法
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載複数個の表面実装抵抗器を製造する方法であって,/上縁と下縁と,該上縁と下縁との間に位置する中央部分と,平坦なおもて面と,平坦な裏面を有する電気抵抗性金属材の細長抵抗性ストリップ(28)と,該電気抵抗性金属材とは異なる導電性金属材の細長第1導電ストリップ(30)及び細長第2導電ストリップ(32)とから成るリボンを取り出し,/前記細長第1導電ストリップ(30)及び細長第2導電ストリップ(32)をそれぞれ前記抵抗性ストリップ(28)の平坦なおもて面のみにその上縁と下縁に沿って,かつ,該抵抗性ストリップ(28)の前記中央部分を挟んで互いに離隔させてろう付け合金や接着剤を用いずにクラッド法によって接合し,/前記第1導電ストリップ(30)及び第2導電ストリップ(32)は前記抵抗性ストリップのためのクリアランスが得られるようにその中央部分の抵抗性ストリップより厚肉であり,/前記抵抗性ストリップの中央部分の両側に誘電材料(62)を被覆し,/前記第1導電ストリップ(30)及び第2導電ストリップ(32)は前記被覆のプロセスの間,露出のままにして回路基板に固定し,/各々,おもて面と裏面を有する電気抵抗部材と,該抵抗部材のおもて面に互いに離隔して取り付けられた導電性金属の第1端子端及び第2端子端とから成り,該抵抗部材のおもて面の該第1端子端と第2端子端の間に露出部分を有する複数個の抵抗器本体を形成するために,前記抵抗ストリップ(28)及び第1導電ストリップ(30)と第2導電ストリップ(32)を該抵抗ストリップ(28)の長手軸線に対して横断方向に貫通する複数のスロットを形成し,/該複数のスロットを形成する間該複数個の抵抗器本体を連結されたままに維持し,/前記複数個の抵抗器本体をカットラインに沿って互いに切断分離し,前記スロットは,カットラインより下に突出し抵抗ストリップの長手軸線に対して横断して複数個の表面実装抵抗器を製造することを特徴とする表面実装抵抗器の製造方法
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件補正発明は,特開平8-236324号公報(甲2。以下「引用例」という。)に記載の発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件補正は独立特許要件を満たさないとしてこれを却下し,発明の要旨を平成16年9月6日付け手続補正書による補正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載に基づいて本願発明のとおりと認定した上,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(2)なお,本件審決が認定した,本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点1ないし6は以下のとおりである。
一致点:複数個の表面実装抵抗器を製造する方法であって,上縁と下縁と,該上縁と下縁との間に位置する中央部分と,平坦なおもて面と,平坦な裏面を有する電気抵抗性金属材の細長抵抗性ストリップと,該電気抵抗性金属材とは異なる導電性金属材の細長第1導電ストリップ及び細長第2導電ストリップとから成るリボンを取り出し,前記細長第1導電ストリップ及び細長第2導電ストリップをそれぞれ前記抵抗性ストリップに接合し,前記抵抗性ストリップの両側に誘電材料を被覆し,前記第1導電ストリップ及び第2導電ストリップは前記被覆のプロセスの間,露出のままにして回路基板に固定し,各々,おもて面と裏面を有する電気抵抗部材と,導電性金属の第1端子端及び第2端子端とから成る複数個の抵抗器本体を形成するために,前記抵抗ストリップ及び第1導電ストリップと第2導電ストリップを該抵抗ストリップの長手軸線に対して横断方向に貫通する複数のスロットを形成し,該複数のスロットを形成する間該複数個の抵抗器本体を連結されたままに維持し,前記複数個の抵抗器本体をカットラインに沿って互いに切断分離し,抵抗ストリップの長手軸線に対して横断して複数個の表面実装抵抗器を製造することを特徴とする表面実装抵抗器の製造方法
相違点1:本件補正発明は,「細長第1導電ストリップ及び細長第2導電ストリップをそれぞれ抵抗性ストリップの平坦なおもて面のみにその上縁と下縁に沿って,かつ,該抵抗性ストリップの中央部分を挟んで互いに離隔させて」「接合」するとの工程を備えているのに対して,引用発明は,「上方ストリップ32及び下方ストリップ30をそれぞれ抵抗ストリップ28の上方エッジ及び下方エッジに」「接合」するとの工程を備えている点。
相違点2:本件補正発明は,「ろう付け合金や接着剤を用いずにクラッド法によって接合」するとの工程を備えているのに対して,引用発明は,「溶接により接合」するとの工程を備えている点。
相違点3:本件補正発明は,「第1導電ストリップ及び第2導電ストリップは抵抗性ストリップのためのクリアランスが得られるようにその中央部分の抵抗性ストリップより厚肉であ」るとの工程を備えているのに対して,引用発明は,「抵抗ストリップ28を封じる材料のためのクリアランスを与えるように上方ストリップ32及び下方ストリップ30の厚みを抵抗ストリップ28の厚みより大きく」するとの工程を備えている点。
相違点4:本件補正発明は,「抵抗性ストリップの中央部分の両側に誘電材料を被覆」するとの工程を備えているのに対して,引用発明は,「抵抗ストリップ28の前後面のみに絶縁カプセル化材料を被覆」するとの工程を備えている点。
相違点5:本件補正発明は,「各々,おもて面と裏面を有する電気抵抗部材と,該抵抗部材のおもて面に互いに離隔して取り付けられた導電性金属の第1端子端及び第2端子端とから成り,該抵抗部材のおもて面の該第1端子端と第2端子端の間に露出部分を有する複数個の抵抗器本体を形成する」との工程を備えているのに対して,引用発明は,「各々,おもて面と裏面を有する電気抵抗材料からなる抵抗ストリップ28と,導電性金属の銅からなる第1端子端及び第2端子端とから成る複数個のレジスターを形成する」との工程を備えている点。
相違点6:本件補正発明は,「スロットは,カットラインより下に突出」するとの工程を備えているのに対して,引用発明は,そのような記載がない点。
4取消事由本件補正を却下した判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕原告は,「本件審決は,本件補正発明の認定を誤った結果,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定を誤り,誤った前提に基づいて相違点について判断するとともに,本件補正発明の格別の効果を看過したものであり,本件審決による本件補正発明の独立特許要件の判断は誤りである」と主張し,これを前提として,「本件補正発明が独立特許要件を満たさないとして本件補正を却下した判断は誤りであり,本件審決は発明の要旨認定を誤ったものとして取消しを免れない」とするものであるから,原告の主張はいずれも本件審決による本件補正発明の認定の誤りを論理的な前提とするものであるところ,原告の主張をまとめると,以下のとおりである。
(1)本件審決は,「上縁と下縁と,該上縁と下縁との間に位置する中央部分と,平坦なおもて面と,平坦な裏面を有する電気抵抗性金属材の細長抵抗性ストリップ(28)と,該電気抵抗性金属材とは異なる導電性金属材の細長第1導電ストリップ(30)及び細長第2導電ストリップ(32)とから成るリボンを取り出し,」との構成が,本件補正発明と引用発明との一致点に含まれるものと認定している。
上記構成は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載のうち,上記構成を記載した部分(以下「本件構成1」という。)と一致するものではあるが,本件構成1は,?@細長抵抗性ストリップ,?A導電性金属材の細長第1導電ストリップ及び細長第2導電ストリップを含む単一の導電ストリップ,?B?@及び?Aを備えたリボンの3つの要素を含むものと理解することができる一方,?@細長抵抗性ストリップ,?A細長第1導電ストリップ,?A’細長第2導電ストリップ,?B?@並びに?A及び?A’を備えたリボンの4つの要素と理解することもできる。
そうすると,本件構成1はその技術的意義を本件補正後の請求項1の記載から一義的に明確に理解することができないというべきところ,このような事情がある場合においては,特許請求の範囲の記載の技術的意義を明らかにするために,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される。
(2)そこで,本願明細書の【0014】及び【0015】の記載によると,本件補正発明における「リボン」は,「金属製抵抗材料のストリップ28と,それと同じ幅の銅の単一ストリップと」からなり,その後に「導電ストリップの中央部分を除去して上方導電ストリップ30と,下方導電ストリップ32と,それらの間に抵抗性ストリップ28の露出部分34を画定する工程」において,「上方導電ストリップ30」と「下方導電ストリップ32」とに分割され,接合されるものである。
このように,本件構成1の「リボンを取り出し,」の段階においては,上方導電ストリップ30と下方導電ストリップ32とは,未だ「単一のストリップ」として構成されているものであり,リボンを取り出した後において,中央部分を除去して離隔されるものであるから,本件構成1は,上記(1)の?@,?A及び?Bの3つの要素を含むものであると理解することができる。
(3)上記(2)を前提として,本件構成1に続く「前記細長第1導電ストリップ(30)及び細長第2導電ストリップ(32)をそれぞれ前記抵抗性ストリップ(28)の平坦なおもて面のみにその上縁と下縁に沿って,かつ,該抵抗性ストリップ(28)の前記中央部分を挟んで互いに離隔させてろう付け合金や接着剤を用いずにクラッド法によって接合し,」との構成(以下「本件構成2」という。)についてみると,本件構成1において取り出される「リボン」は,?@細長抵抗性ストリップと?A導電性金属材の細長第1ストリップ及び細長第2ストリップとが一体となった状態であることから,本件構成2には,「細長第1導電ストリップ」及び「細長第2導電ストリップ」が中央部分を挟んで互いに離隔される工程とこれらを「細長抵抗性ストリップ」に接合する工程の2工程が含まれることは明らかである。
他方,引用発明は,あらかじめ分けられた「導電性金属からなる第2のストリップ」と「導電性金属からなる第3のストリップ」と,「電気抵抗材料からなる第1のストリップ」とにより「リボン」を構成したものであるから,中央部分を除去することによる「離隔させる」工程を含まない点において本件補正発明とは相違する。
(4)しかしながら,本件審決は,「前記細長第1導電ストリップ及び細長第2導電ストリップをそれぞれ前記抵抗性ストリップに接合し,」との点を含めて本件補正発明と引用発明との一致点を認定したものであり,本件補正発明の認定を誤った結果,一致点の認定を誤るとともに,上記(3)の相違点を看過したものである。
また,相違点1及び2はいずれも「接合」工程についての相違点であり,本件審決のこれらの相違点についての判断は,いずれも本件補正発明の「接合」工程についての認定の誤り及びこれによる上記相違点の看過を前提とするものであるから,いずれも誤りである。
さらに,本件補正発明は,上記のとおり,「細長第1導電ストリップ」及び「細長第2導電ストリップ」が中央部分を挟んで互いに離隔される工程とこれらを「細長抵抗性ストリップ」に接合する工程の2工程を経るものであり,リボンを構成する部品点数の削減を図るとともに,少なくとも3つのリボンによりこれらを順次送る構成に比して,方法の実行が極めて容易となるという格別の効果を奏するものであるにもかかわらず,本件審決は,このような本件補正発明の効果を看過し,引用発明及び周知技術から「予測された範囲内のものであり,格別のものとは認められない」と判断しており,この点においても誤っている。
(5)以上のとおり,本件審決は,本件補正発明の認定を誤った結果,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定を誤り,その誤った前提に基づいて相違点について判断するとともに,本件補正発明の格別の効果を看過したものであり,本件審決による本件補正発明の独立特許要件の判断は誤りである。
したがって,本件補正発明が独立特許要件を満たさないとして本件補正を却下した判断は誤りであり,本件審決は発明の要旨認定を誤ったものとして取消しを免れない。
〔被告の主張〕被告は,原告の個々的な主張についてそれぞれ反論しているか,その反論を前記のとおりにまとめた原告の主張に即してまとめると,以下のとおりである。
(1)原告は,本件補正後の特許請求の範囲の記載が一義的に明確でないと主張するが,本件補正発明の本件構成1における「細長第1導電ストリップ(30)及び細長第2導電ストリップ(32)」との記載は,別個の2つの導電ストリップを意味するものと一義的に明確に理解することができるから,発明の詳細な説明参酌することが許される場合に該当せず,原告の主張は前提において誤りである。
(2)仮に発明の詳細な説明参酌したとしても,原告が指摘する【0014】及び【0015】に記載された「単一ストリップ」を「接合」して「除去」するという実施形態は,複数ある実施形態の一つとして記載されているにすぎず,本件補正発明がそのうちの特定の実施形態のものに限定されるものではない。発明の概要についての【0010】には,第1細長導電ストリップと第2細長導電ストリップが別個の2つの導電ストリップである実施形態が記載されており,本件補正発明がこのような実施形態のものを含むことは明らかである。
また,原告が主張するような「単一ストリップ」を「接合」して「除去」するという実施形態は,本件補正後の明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明の構成に含まれるものであり,原告が指摘する本願明細書に記載された実施形態は,この発明についてのものである。
さらに,本願明細書においては,単一のストリップを表すときは,「単一の導電ストリップ」(【請求項2】),「幅広の細長導電ストリップ」(【0011】)又は「単一ストリップ」(【0014】)と記載され,「第1細長導電ストリップ及び第2細長導電ストリップ」との表現と区別されている。
したがって,仮に本願明細書の発明の詳細な説明参酌したとしても,本件構成1を原告が主張するように理解することはできないといわざるを得ない。
(3)原告は,本件構成2には,細長第1導電ストリップ30及び細長第2導電ストリップ32が中央部分を挟んで互いに離隔される工程とこれらを細長抵抗性ストリップ28に接合する工程の2工程が含まれると主張するが,本件構成2は「離隔」させて「接合」するという順序であるから,本願明細書の【0014】及び【0015】に記載された実施形態とは順序が異なるものであるから,原告の主張は誤りである。
(4)以上によると,本件審決が本件補正発明の認定を誤り,本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点の認定を誤ったとの原告の主張は誤りである。
したがって,これを前提とする本件審決による相違点についての判断の誤り及び格別の作用効果の看過の主張並びにこれらを前提とする独立特許要件についての判断の誤りの主張は,いずれも前提を誤った失当なものであるから,取消事由は理由がない。
第4当裁判所の判断1本件補正発明について本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は上記第2の2(2)のとおりであるが,その記載のうち,本件構成1及び2についてみると,以下のとおりである。
(1)本件構成1本件構成1は,「リボン」を取り出す工程について規定するものであり,かつ,以下のアないしウの各事項を規定しているものと認められる。
ア「リボン」は「細長抵抗性ストリップ」,「細長第1導電ストリップ」及び「細長第2導電ストリップ」によって構成される。
イ「細長抵抗性ストリップ」は,上縁及び下縁並びにこれらの間に位置する中央部分と平坦なおもて面と裏面を有する電気抵抗性金属材である。
ウ「細長第1導電ストリップ」及び「細長第2導電ストリップ」は,電気抵抗性金属とは異なる導電性金属材である。
(2)本件構成2本件構成2は,「リボン」を構成する複数のストリップの接合について規定するものであり,かつ,以下のアないしエの各事項を規定するものと認められる。
ア「細長第1導電ストリップ」と「細長第2導電ストリップ」をそれぞれ「(細長)抵抗性ストリップ」に接合する。
イ接合する場所は「(細長)抵抗性ストリップ」の平坦なおもて面のみである。
ウ「(細長)抵抗性ストリップ」の上縁と下縁に沿って,かつ,中央部分を挟んで互いに離隔させて接合する。
エ接合方法は,ろう付け合金や接着剤を用いずに,クラッド法による。
(3)上記(1)及び(2)によると,本件構成1及び2は,接合前の「細長抵抗性ストリップ」,「細長第1導電ストリップ」及び「細長第2導電ストリップ」を含む「リボン」と呼ばれる部材群を取り出し,「細長第1導電ストリップ」を「細長抵抗性ストリップ」の平坦なおもて面の上縁に沿って,「細長第2導電ストリップ」を同下縁に沿って,かつ,「細長抵抗性ストリップ」の中央部分を挟んで互いに離隔させて,クラッド法により接合することを規定したと解することができる。
2原告の主張について(1)原告は,本件構成1には,その構成要素である「細長第1導電ストリップ」と「細長第2導電ストリップ」を含む単一の導電ストリップが規定されていると解する余地があることを前提として,特許請求の範囲の記載が明確でないと主張する。
しかしながら,本件構成1に続く本件構成2において,上記1(2)のとおり,「細長第1導電ストリップ」及び「細長第2導電ストリップ」は,「細長抵抗性ストリップ」に,かつ,細長抵抗性ストリップの「上縁」と「下縁」に沿って,「それぞれ」接合されるものと規定されており,「細長第1導電ストリップ」及び「細長第2導電ストリップ」が別の部材であるものと認識するのに何ら困難を伴わないというべきである。逆に,本件構成1及び2から,それぞれ別々に規定されている「細長第1導電ストリップ」と「細長第2導電ストリップ」が,実は単一の部材を構成し,将来別々のものとなる予定の特定の部分を指す用語であると理解することは到底できないというべきであり,原告の主張を採用することはできない。
なお,原告は,本件構成1の「リボン」の語の技術的意義が明らかでないとも主張するが,「リボン」とは,「絹・人絹などで織った細幅のひも。衣服・帽子・頭髪や贈り物の装飾として用いる。」(平成10年株式会社岩波書店発行の「広辞苑第五版」2799頁)とされるものであって,本件補正発明において特段の限定なく「リボン」の語が用いられるとき,それが材質ではなく,形状の特徴を示す語として用いられているものであることは明らかであり,本件構成1の「リボン」については,「リボン状(帯状)の部材」を意味することは自明であるから,原告の主張を採用することはできない。
(2)また,原告は,本件構成1の「細長第1導電ストリップ」と「細長第2導電ストリップ」とが「単一の導電ストリップ」であること,及び,本件構成2に「細長第1導電ストリップ」及び「細長第2導電ストリップ」が中央部分を挟んで互いに離隔される工程とこれらを「細長抵抗性ストリップ」に接合する工程の2工程が含まれることを前提として,「離隔」は「単一の導電ストリップ」中央部分を除去することであり,この点が引用発明との相違点であると主張するが,上記のとおり,その前提を採用することができないばかりでなく,上記1に照らし,本件構成2に離隔される工程と接合する工程の2工程が含まれると認定することもできないから,いずれの観点からも原告の主張を採用することはできない。
(3)以上のとおり,本件補正後の請求項1の記載には,原告が主張するような一義的に明確でない点は存しないから,明細書の他の記載を参酌した上で本件補正発明を認定する必要はないが,以下において,念のため,本願明細書の他の記載についても検討する。
請求項2において「前記第1及び第2導電ストリップを前記抵抗性ストリップに接合する前記接合工程は,導電金属材の単一の導電ストリップを前記抵抗性ストリップのおもて面を完全に覆うようにして接合し,該単一の導電ストリップの中央部分を除去して前記抵抗性ストリップの中央部分を挟んで互いに離隔した前記第1導電ストリップと第2導電ストリップを形成することから成ることを特徴とする請求項1に記載の表面実装抵抗器の製造方法。」と記載し,単一の導電ストリップの中央部分を除去することによって第1と第2の導電ストリップを離隔させる場合には,離隔前の導電ストリップについて「単一の導電ストリップ」と明示している。また,原告が指摘する発明の詳細な説明の【0014】及び【0015】の記載は,「好ましい実施形態の説明」として記載されたものであり,請求項2に記載の発明における接合工程についての説明であると考えられる一方,同じく発明の詳細な説明において「発明の概要」について記載した【0010】には,本件補正発明についての上記1のような理解に沿う接合工程(別々に存在する「第1導電ストリップ」と「第2導電ストリップ」を「抵抗性ストリップ」のおもて面に接合する工程)についての記載が存在する。そうすると,本件明細書の他の記載を参酌したとしても,本件補正発明を原告が主張するようなものと理解することはできないといわざるを得ない。
(4)さらに,原告は,上記請求項2が請求項1の従属項であることから,第1及び第2導電ストリップが単一の導電ストリップの中央部分を除去して形成されたものであることは,請求項1においても同様であると主張するが,そのような除去工程によって形成された第1及び第2導電ストリップの存在は,請求項2において付加された除去工程の構成を前提としてはじめて読み取ることができるものであり,除去工程について規定していない請求項1に係る発明の構成として,第1及び第2導電ストリップが除去工程により形成されたものであると理解することはできないから,原告の主張を採用することはできない。
3小括以上によると,本件補正発明の本件構成1及び2に原告が指摘するような一義的に明確でない点は存在しないから,発明の詳細な説明参酌すれば,本件審決による本件補正発明の認定の誤りをいう原告の主張は,その前提において誤りであり,仮に本願明細書の他の記載を参酌したとしても,本件補正発明を原告が主張するようなものと理解することはできず,本件構成1及び2については上記1のとおりと理解すべきことに変わりはない。
そうすると,本件審決による本件補正発明の認定に誤りはないというべきであり,本件補正を却下した本件審決の判断の誤りをいうに帰する原告主張の取消事由は理由がないといわざるを得ない。
4結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 杜下弘記