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関連審決 無効2008-800093
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10464審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10487審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  分割出願 /  実質的に同一 /  原出願日 /  参酌 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10049号 審決取消請求事件
原告株 式会社松井製作所
訴訟代理人弁護 士畑郁夫
同 平野惠稔
同 重冨貴光
同 古庄俊哉
同 浦田悠一
訴訟代理人弁理 士河野登夫
同 野口富弘
同 河野英仁
被告株式会社カワタ
訴訟代理人弁護 士室谷和彦
訴訟代理人弁理 士鈴江正二
同 木村俊之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2008-800093号事件について平成21年1月23日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「細断機」とする特許第3966892号(平成14年9月19日にした出願〔特願2002-272376号。以下「本件原出願」という。〕の一部として,平成18年2月8日に新たな出願〔特願2006-31352号。以下「本件分割出願」という。〕をし,平成19年6月8日に設定登録を受けたもの。甲1。以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成20年5月21日,本件特許の無効を求める審判(無効2008-800093号事件)を請求し(甲5),特許庁は,平成21年1月23日,「特許第3966892号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,平成21年2月4日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5の記載は,次のとおりである(以下,請求項1ないし5に係る発明を,「本件発明1」ないし「本件発明5」といい,それらを総称して「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】所定間隔をあけて配された1対の固定側壁と,両固定側壁に回転自在に渡され,回転刃を有する回転軸と,該回転軸と平行に,両固定側壁の下側両端部に渡し止められた1対の支持軸と,該支持軸夫々に揺動開閉自在に設けられた揺動側壁と,一方の揺動側壁の内側に設けられ,前記回転刃との協働により被処理物を細断する固定刃と,他方の揺動側壁の内側に設けられたスクレーパーとを有し,前記固定刃とスクレーパーとの間に前記回転刃が位置するようになされ,前記回転刃は,アーム状の粗切断用回転刃と外周に鋸歯状の細断歯を有する細切断用回転刃を有し,前記固定刃及びスクレーパーの下方に位置するようにして前記粗切断用回転刃の移動軌跡空間を囲う覆い部材が設けられ,前記覆い部材は,前記一方の揺動側壁に設けられた第1側部材と,前記他方の揺動側壁に設けられた第2側部材と,前記第1側部材と第2側部材とを繋ぎ,前記第1側部材及び第2側部材とは別体であって,着脱自在となされた中間部材とを有することを特徴とする細断機。
【請求項2】前記回転軸の一端の内側部に左螺旋部が形成され,前記回転軸の他端の内側部に右螺旋部が形成され,前記左螺旋部及び右螺旋部が前記固定側壁の回転軸が嵌まる孔の内面に対向するようになされていることを特徴とする請求項1に記載の細断機。
【請求項3】前記粗切断用回転刃の側壁には,角孔を形成してあることを特徴とする請求項1に記載の細断機。
【請求項4】前記固定刃及びスクレーパー夫々は,前記一方の揺動側壁の内側及び他方の揺動側壁の内側にボルトで固定され,該ボルトの頭部は,上方に凸状の曲面をなしていることを特徴とする請求項1に記載の細断機。
【請求項5】平面形状コ字状であって,平面視が相互に対向して先端側に向かって開くテーパー面を有するロック片と,該ロック片に形成された貫通孔と,前記固定側壁及び揺動側壁夫々に設けられ,前記テーパー面に対向する傾斜面と,前記固定側壁に設けられ,前記貫通孔を通じて貫通される螺子を螺子嵌められる螺子孔とを備え,前記螺子を締め付け,前記テーパー面を傾斜面に押し当てることにより前記揺動側壁を固定側壁に固定するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の細断機。」3 審決の理由審決の理由を要約すると,以下のとおりである(別紙審決書写し参照)。
(1)本件分割出願は,次のとおり,本件原出願の願書に最初に添付した明細書(以下,願書に最初に添付した図面と併せて「本件原出願明細書」という。甲2)の特許請求の範囲に記載された,左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材(以下,「本件連結材」という。)との記載部分が,本件原出願明細書の特許請求の範囲の記載から削除されたことは,細断機の剛性確保に関して,新たな技術的意義を実質的に追加することになるから,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではなく,分割出願の要件を満たさない。
ア 本件原出願明細書に記載された事項について本件原出願明細書には,「本件連結材」を備える発明が記載されているのみであり,「本件連結材」を省略又は他の手段により代替可能である旨の直接的な記載はないから,「本件連結材」を有しない発明,又は,「本件連結材」が任意の付加的事項であることが,本件原出願明細書に現実に記載されているとすることはできない。
イ 「本件連結材」の技術的意義,及び付加,変更について(ア)本件原出願の発明の目的及び効果からすれば,「本件連結材」には,2本の支持軸とあいまって,細断機の剛性を大きくする(強度を高くする)という技術的意義が存している。
被請求人(原告)は,ロック装置46により,細断機の作動時の剛性をより大きくすることができることを理由に,「本件連結材」は,細断機に必要な剛性を得るために不可欠なものではないと主張するが,ロック装置46と細断機の剛性との関連性に関する記載はない。
(イ)「本件連結材」の存在は,本件原出願の発明にとって重要であり,本件原出願の発明は,細断機に必要な所定の剛性を「本件連結材」により得ることを前提としているということができる。
他方,本件特許発明においては,本件原出願の発明が備える「本件連結材」が削除されているから,「本件連結材」の有無は任意のものとなり,本件特許発明には,「本件連結材」を備える細断機又は「本件連結材」を備えていない細断機のいずれもが包含される。
本件原出願の発明において重要な事項である「本件連結材」が削除されていることにより,本件特許発明は,本件原出願の発明と比べて,少なくとも細断機の剛性確保に関して,細断機自体の技術的意義が実質的に変更されたもの,又は,「本件連結材」以外の何らかの事項の技術的意義が実質的に変更されたものであり,新たな技術的意義が実質的に追加されたといえる。
ウ 「本件連結材を備えない発明」が自明と解されるか否かについて「本件連結材」を備えることは,本件原出願の発明に係る細断機の全体構成と一体として捉えるべきものであると解するのが相当である。
本件原出願明細書に接した当業者は,「本件連結材」を備える発明のみが本件原出願明細書に記載されていると理解するのが自然であって,当業者のだれもが,「本件連結材」を有しない発明が本件原出願明細書に記載されているのと同然である,又は,「本件連結材」が任意の付加的事項であることが本件原出願明細書に記載されているのと同然である,と理解するとはいえない。
本件原出願明細書の段落【0006】の記載事項は,その前後の文脈からみて,支持軸10が「揺動側壁11を揺動自在に支持する枢軸」と「固定側壁9を連結する連結材」としての2つの機能を兼ねていることを記述するものであり,あくまで,支持軸10が枢軸と連結材を兼ねていることで,品点数を少なくしていることを説明するにとどまる。
(2)本件分割出願の出願日は本件原出願の出願日に遡及することなく,平成18年2月8日となるところ,本件特許発明は,その本件分割出願の前に頒布された特開2004-105863号(甲2。以下「本件引用刊行物」という。)に記載された発明と実質的に同一であるか,又は,本件引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条1項3号又は同条2項の規定により,特許を受けることができない。
当事者の主張
1 審決の取消事由に係る原告の主張審決には,以下のとおり,(1)分割出願の要件の認定判断の誤り(取消事由1),(2)本件特許発明新規性及び進歩性の認定判断の誤り(取消事由2)がある。
(1) 取消事由1(分割出願の要件の認定判断の誤り)審決は,「本件連結材」の削除は,細断機の剛性確保に関して,新たな技術的意義を実質的に追加するものであるから,分割出願の要件を満たさないと判断した。しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りがある。
ア 「本件連結材」の技術的意義に関する認定判断の誤り審決は,本件原出願の発明の目的及び効果からすれば,「本件連結材」には,2本の支持軸とあいまって,細断機の剛性を大きくする(強度を高くする)という技術的意義が存しているとした。また,審決は,ロック装置46により,細断機の作動時の剛性をより大きくすることができることを理由に,本件連結材は,細断機に必要な剛性を得るために不可欠なものではないとの原告の主張に対して,ロック装置46と細断機の剛性との関連性に関する記載はないと判断した(審決書30頁31行〜31頁16行)。
しかし,「本件連結材」の技術的意義に係る審決の認定判断は,以下のとおり,誤りである。
(ア)「本件連結材」は,細断機作動時において,格別の技術的意義を有していない。
すなわち,本件原出願明細書の段落【0009】ないし【0012】,【図1】ないし【図3】及び【図5】等の記載によれば,回転軸に設けられた回転刃との協働により被処理物を細断する固定刃が前の揺動側壁に取り付けられ,回転刃との協働により被処理物を掻き落とすスクレーパーが後ろの揺動側壁に取り付けられていると認められる。そして,上記記載を見た当業者であれば,細断機の作動時には,被処理物を細断する際の細断荷重が固定刃を介して揺動側壁に作用するため,細断荷重に対する揺動側壁の剛性が,細断機の剛性として重要であると理解する。また,当業者であれば,本件原出願明細書の段落【0016】,【図8】等の記載により,固定側壁と揺動側壁とをロック装置46により固定して一体化させて初めて細断機を作動させることができ,細断機の作動に必要な剛性を得ることができると理解する。
そうすると,作動時の「本件連結材」については,「本件連結材」が存在していなくても,揺動側壁を固定側壁にロック装置46により固定して一体化させていさえすれば,細断機の作動に必要な剛性を得ることができるといえるから,「本件連結材」は,細断機の機能発揮上不可欠な技術的意義を有するものではない。
なお,本件原出願明細書の【発明の効果】の「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。」との記載は,揺動側壁と固定側壁とを一体化した状態にして細断機に必要な剛性を確保した上で,さらに剛性を大きくすることができることを述べたものにすぎない。
(イ)「本件連結材」は,非作動時においても,格別の技術的意義を有していない。
揺動側壁が開放された状態では,細断機を作動させることはできず,作動時に発生するような細断荷重は生じ得ない。また,細断機の水平な基板2に対して所定間隔をあけて配された左右の固定側壁の下部を取り付ける場合,内部のメンテナンスや,回転刃と固定刃とのクリアランス調整などのために溶接等の固定的な方法で取り付けることはないから,ボルト等で基板2に対して左右の固定側壁が動かないように確実に固定すれば足りることは,当業者であれば理解し得る。すなわち,基板2上に左右の固定側壁を組み付ける際にボルト等が完全に締め付けられるまでの間は,左右の固定側壁上下とも可動,いわば上下とも自由端となるものの,ボルト等で左右の固定側壁が基板2上に一旦固定された状態では,左右の固定側壁は下側が強固に固定され,かつ細断機の作動時の強度的必要性から左右の固定側壁は十分な厚み(例えば,原告製造の細断機では,ほぼ33mm)を有していることからすれば,左右の固定側壁の上部が自由に動くということはあり得ない。
したがって,揺動側壁の開放時(非作動時)においても,単に左右の両固定側壁の間を渡し止める「本件連結材」は,機械設計上何らの機能を発揮するものではなく,何ら技術的意義を有しない。
(ウ)審決は,「なお,以上の点は,ほかの文献を参酌するまでもないことではあるが,本件原出願を従来技術として例示している特開2006-55797号公報(甲第3号証)の上記(4)に示した一連の記載事項,特に『これら2本のタイロッド軸3だけでは,前壁1及び後壁2の上端側が撓み易いため,前壁1及び後壁2の少なくとも上端一側には,これら前壁1及び後壁2に架け渡された従来同様の補助アーム9をボルト(不図示)等で固着している。』との記載事項とも整合するものである。ここで,『補助アーム9』が「本件連結材」に相当することは,その記載から明らかである。」(審決書31頁17行〜24行)と判断した。
しかし,甲3の明細書及び図面をみても,タイロッド軸3と細断機の剛性との関連性に関する記載はない。むしろ,甲3の明細書の段落【0036】の記載事項からすれば,タイロッド軸3は,前壁1及び後壁2を枠板基台H1上に固定する際に,前壁1及び後壁2との間隔を調整するためのものであると認められる。そして,甲3の明細書の段落【0037】の記載事項からすれば,補助アーム9は,タイロッド軸3を補助するものであり,前壁1及び後壁2との間隔を調整する際,前壁1及び後壁2が枠板基台H1上に完全に固定されていないために生じる前壁1及び後壁2の位置ずれを防止するためのものである。補助アーム9は,細断機の剛性を確保するためのものではない。仮に,審決のとおり,「補助アーム9が『本件連結材』に相当することは,その記載から明らかである。」(審決書31頁23行,24行)とするならば,補助アーム9は,前壁1及び後壁2の取付け時の位置ずれを防止するものであって,細断機の作動時及び揺動側壁の開放時には,機械設計上,何らの重要な役割を果たすものではないから,「本件連結材」も細断機の作動時及び揺動側壁の開放時において,機械設計上,剛性を大きくするという役割を果たしていない。また,本件原出願明細書において,「本件連結材」が,左右の固定側壁を基板2上に取り付ける際の撓みを防止するものであることを示唆する記載はない。
なお,確かに,原告は,実際に販売している自社製品については,「本件連結材」を取り付けているが,それは細断機に必要な剛性確保のためではなく,固定側壁を基盤に取り付ける際,すなわち,固定制側壁が基盤に完全に固定される前の組み立て時及び清掃のための分解再組み立て時に位置決め(固定側壁間距離)を容易にするという別の目的で取り付けているにすぎないから,このことをもって「本件連結材」が細断機に必要な剛性を確保するために不可欠なものであるとはいえない。
(エ)以上のとおり,「本件連結材」は,細断機の作動時又は揺動側壁の開放時(非作動時)のいずれにおいても,細断機としての機能発揮上不可欠であるような技術的意義を有するものではないから,「本件連結材」の技術的意義に係る審決の前記認定判断は,誤りである。
イ「本件連結材」の削除が,技術的意義変更又は追加に当たるとした認定判断の誤り審決は,「本件特許発明のうち本件連結材を備えないものは,剛性を必ずしも得られない細断機という細断機自体の技術的意義変更されたものに等しい発明,又は,本件連結材以外の何らかの手段,例えば,左右の固定側壁自体又は支持軸10その他の事項,により必要な剛性を確保した細断機という本件連結材以外の事項の技術的意義変更又は追加されたものに等しい発明であるということができる。してみると,本件原出願の発明において重要な事項である本件連結材が削除されていることにより,本件特許発明は,本件原出願の発明と比べて,少なくとも細断機の剛性確保に関して,細断機自体の技術的意義が実質的に変更されたもの,又は,本件連結材以外の何らかの事項の技術的意義が実質的に変更されたものであり,新たな技術的意義が実質的に追加されたものである。」(審決書32頁4行〜15行)と認定判断した。
しかし,審決の上記認定判断は誤りである。すなわち,「本件連結材」は,前記のとおり技術的意義を有しないものであるから,分割出願において「本件連結材」の削除により,新たな技術上の意義が追加されたとはいえない。
ウ 自明性の認定判断の誤り審決は,本件原出願明細書に接した当業者は,「本件連結材」を備える発明のみが本件原出願明細書に記載されていると理解するのが自然であって,当業者のだれもが,「本件連結材」を有しない発明が本件原出願明細書に記載されているのと同然である,又は,「本件連結材」が任意の付加的事項であることが本件原出願明細書に記載されているのと同然である,と理解するとはいえない,本件原出願明細書の段落【0006】の記載事項は,その前後の文脈からみて,支持軸10が「揺動側壁11を揺動自在に支持する枢軸」と「固定側壁9を連結する連結材」としての2つの機能を兼ねていることを記述するものであり,あくまで,支持軸10が枢軸と連結材を兼ねていることで,品点数を少なくしていることを説明するにとどまると認定,判断した(審決書33頁2行〜11行,33頁23行〜37行)。
しかし,審決の上記認定判断は誤りである。
(ア)本件原出願明細書の段落【0009】ないし【0012】,【0016】,【図1】ないし【図3】,【図5】及び【図8】の記載によれば,細断機に必要な剛性を得るためには固定側壁と揺動側壁とを一体化させることが重要であり,さらに,「本件連結材」が単に左右の固定側壁同士を渡し止めたものにすぎず,揺動側壁とは関わりがなく,固定側壁と揺動側壁との一体化による剛性確保に関して寄与をしていないものと解される。したがって,当業者であれば,「本件連結材」は,任意の付加的事項であると理解する。
(イ)また,段落【0006】の「前記支持軸10は,揺動側壁11を揺動自在に支持する枢軸と固定側壁9を連結する連結材としての機能を有している。」との記載からすると,支持軸10が本件連結材の役割を果たすものであり,当業者であれば,支持軸10が本件連結材の代わりになること,及び「本件連結材」を省略できることを理解することができるから,本件原出願明細書には,「本件連結材」を具備しない発明も記載されていると解するのが合理的である。
(ウ)審決は,段落【0006】の「前記支持軸10は,揺動側壁11を揺動自在に支持する枢軸と固定側壁9を連結する連結材としての機能を有している。」との記載は,「部品点数を少なくしていることを説明している」趣旨と解している。この理解を前提とするならば,段落【0006】は,「本件連結材」以外の部材を取り除いて部品点数を少なくすることのみならず,「本件連結材」をも取り除いて部品点数を少なくすることを示唆すると理解するのが相当である。
(エ)以上のとおり,審決は,「自明性」についての認定判断を誤ったものであり,削除する事項である「本件連結材」は,任意の付加的な事項であって,本件原出願明細書の記載からみて,新たな技術的事項を追加するものではないから,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであり,分割出願の要件を満たしている。
(2) 取消事由2(本件特許発明新規性又は進歩性の認定判断の誤り)本件分割出願は,前記主張のとおり分割出願の要件を満たしているから,出願日は本件原出願日である平成14年9月19日に遡及する。審決が引用した本件引用刊行物(特開2004-105863号公報・甲2)は,その出願日後の平成16年4月8日に公開されたものであるから,引用刊行物にはなり得ない。したがって,本件特許発明は,特許法29条1項3号の規定,又は特許法29条2項の規定に違反してされたものではなく,同法123条1項2号の規定より,無効とされるものではない。
本件特許発明新規性又は進歩性を有しないとした審決には誤りがある。
2 被告の反論(1) 取消事由1(分割出願の要件の認定判断の誤り)に対し原告は,要するに,?@作動時においては,揺動側壁と固定側壁とをロック装置46により固定して一体化させれば,「本件連結材」がなくても細断機に必要な剛性を得ることができる,?A揺動側壁の開放時(非作動時)においても,細断荷重が発生せず,揺動側壁をボルトで下部に固定すれば足りることが当業者にとって技術常識であるから,「本件連結材」は格別の技術的意義を有しない,?Bよって,「本件連結材」は,作動時か否かを問わず,本件原出願明細書に記載された発明にとって重要なものではなく,「本件連結材」を除いた発明も本件原出願明細書に記載され,又はその記載事項から自明であったといえるものであり,「本件連結材」の削除は新たな技術的事項を追加するものではなく,分割出願の要件を充足する旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,理由がない。
ア本件原出願明細書には,「本件連結材」を有しない発明は,開示されていない。また,「本件連結材」を有しない発明が本件原出願明細書の記載から自明であるともいえない。
本件原出願明細書には,「本件連結材」を備える発明が記載されているのみであり,「本件連結材」を省略することができ,又は他の手段により代替することができる旨の直接的な記載はないから,「本件連結材」を有しない発明は,本件原出願明細書に記載されていないと理解するのが相当である。
本件原出願明細書には,発明の目的として「本発明は,メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供することを目的とするものである。」(段落【0002】)との記載があり,効果として「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る」(段落【0004】)との記載がある。そして,【図5】の記載のほか,【特許請求の範囲】【請求項1】に記載された「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」との文言からすれば,本件原出願明細書に記載された発明においては,「本件連結材」が必要不可欠である。「本件連結材」がなければ細断機が片持ち状となって上端部が撓み,強度が低下してしまうので,これを避けるため,「本件連結材」と2本の支持軸の3点により左右の固定側壁同士を強固に連結し,細断機の高剛性化を図っているのであり,本件原出願明細書を見た当業者であればこれらのことを当然に理解する。上記のとおり,段落【0004】において,「剛性の大きな(強度の高い)細断機」とすることは,「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結する」(本件連結材を有する)ことにより解決されることが明確に記載されている。したがって,本件原出願明細書に接した当業者は,上記記載と逆の「本件連結材がなくても細断機に必要な剛性を得ることができる」事項が自明のものとして開示されていると理解することはない。
なお,段落【0006】の「前記支持軸10は,揺動側壁11を揺動自在に支持する枢軸と固定側壁9を連結する連結材としての機能を有している。」との記載は,下部の連結材である支持軸10が,上部の連結材である「本件連結材」の代わりになることや,「本件連結材」を備えない発明を示唆するものではない。
そうすると,本件原出願明細書に現実に記載された事項に接した当業者としては,「本件連結材」を備える発明のみが本件原出願明細書に記載されているものと理解するのが自然であって,「本件連結材」を有しない発明が本件原出願明細書の記載事項から自明であるとは理解しない。
以上のとおり,「本件連結材」を有しない発明は,本件原出願明細書に記載されていないし,それらの記載から自明であるともいえず(東京高裁平成14年(行ケ)第3号平成15年7月1日判決参照),新規事項を導入するものであるといえるから(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日判決参照),本件分割出願は,分割出願の要件を欠き,不適法である。
イ本件原出願明細書の段落【0002】には,本件原出願明細書記載の発明は,メンテナンスの容易化,部品点数の削減,及び高剛性化という3つの目的をすべて達成するものであることが記載されているところ,「本件連結材」は,上記目的のうちの「高剛性化」を達成するために必要不可欠なものであるから,本件原出願明細書に記載された発明において「本件連結材」が技術的な意義を有することは明らかである。「本件連結材」と2本の支持軸による高剛性化は,細断機の作動時やメンテナンス時だけの問題ではなく,組立作業の容易さや,製品品質の均一性にも関連するものであり,その意味で,「本件連結材」は,機械設計の観点からも技術的な意義を有する。
実際に,原告は,その販売に係る揺動側壁を有する細断機のすべてにおいて,固定側壁同士を連結する連結部材を設けているから(乙2・2005年版カタログ,乙3・2008年版カタログ),「本件連結材」が剛性確保のための技術的意義を有することが分かる。
なお,本件分割出願の要件の有無について問題とされているのは,本件原出願明細書の記載に照らし,「本件連結材」を具備しない発明が本件原出願明細書において開示されていたといえるかという点であり,「本件連結材」を具備しない場合でも細断機としての機能を果たし得るかという点ではない。「本件連結材」を具備しなくても細断機としての機能を果たし得ることを理由に,本件原出願明細書において「本件連結材」を具備しない発明が開示されていたという結論を導くことは,論理的に誤りである。
(2)取消事由2(本件特許発明新規性又は進歩性の認定判断の誤り)に対し本件分割出願は前記主張のとおり平成18年法律第55号改正附則3条1項により「なお従前の例による」とされる同法律による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)44条1項の規定に違反するから,その出願日は遡及せず,本件分割出願日である平成18年2月8日が出願日となる結果,本件特許発明は,本件引用刊行物(特開2004-105863号公報。甲2)に記載された発明と同一又はその発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条1項3号又は特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,原告の主張する取消事由2は,理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(分割出願の要件の認定判断の誤り)原告は,分割出願に際して本件原出願明細書から削除された構成である「本件連結材」は,細断機の作動時にも非作動時(揺動側壁の開放時)にも,細断機として必要な剛性を確保する上で不可欠な構成要素ではなく,その削除は,新たな技術的意義を追加するものでもないし,当業者であれば,本件原出願明細書において「本件連結材」を有しない発明が記載され,又は「本件連結材」が任意の付加的事項であることが記載されているのも同然であると理解することができるから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであり,分割出願の要件を充足する,よって,分割出願の要件を欠くとした審決は,分割出願の要件に係る認定判断を誤ったものであり,違法なものとして取り消されるべきである旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下に述べるとおり,理由がない。
(1) 事実認定本件原出願明細書(甲2)の【特許請求の範囲】においては,出願に係る細断機が「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」を有する構成が記載されている。また,本件原出願明細書の【発明の詳細な説明】においても,「【発明の目的】本発明は,メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供することを目的とするものである。」(段落【0002】)と記載されるとともに,「【発明の効果】・・・請求項1の発明によれば,前後の揺動側壁が開くので,メンテナンスが行ないやすい。また,2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。更に,2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」(段落【0004】)と記載されている。さらに,【発明の実施の形態】を説明した【図3】,【図5】及び【図7】においても,「本件連結材」が明確に示されている(別紙「本件原出願明細書図面」【図3】,【図5】及び【図7】の符号12参照)。
(2) 判断以上のとおり,本件原出願明細書には,発明の目的を「メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供すること」とし,具体的には「前後の揺動側壁が開くので,メンテナンスが行ないやすい。」,また,「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。」,更に,「2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」発明が記載,開示されている。そうすると,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」(本件連結材)は,細断機の剛性を大きくするという発明の解決課題を達成するための必須の構成であり,本件原出願明細書には,同構成を有する発明のみが開示されており,同構成を具備しない発明についての記載,開示は全くなく,また,自明であるともいえない。
したがって,本件原出願明細書の特許請求の範囲に記載された,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」との記載部分を本件原出願明細書の「特許請求の範囲」の記載から削除したことは,細断機の剛性確保に関して,新たな技術的意義を実質的に追加することを意味するから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではなく,分割出願の要件を満たしていないから,不適法である。
(3) 原告の主張についてア原告は,細断機の作動時の剛性を確保するためには,ロック機構46により揺動側壁を固定側壁に固定させて一体化することこそが不可欠な技術事項であって,「本件連結材」は固定側壁と揺動側壁とを一体化することに何らの寄与もせず,本来的な技術的意義を有しないから,本件原出願明細書には「本件連結材」を有しない発明が記載され,又はその記載から自明であるから,適法な分割出願であると主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。すなわち,本件原出願明細書における「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくする」(段落【0004】)との記載に照らすならば,本件原出願明細書に記載された発明においては,細断機の剛性確保のための解決手段としては,作動時であると非作動時であるとを問わず,2本の支持軸と1本の連結材(本件連結材)により左右の固定側壁を連結する構成を採用するものであると解すべきである。これに対して,原告が主張する上記構成,すなわち,ロック機構46により揺動側壁と固定側壁を固定させ一体化させることによって細断機の剛性確保を図るとの構成は,作動時のみの剛性確保の手段にすぎない上,本件原出願明細書においては,そのような剛性確保の構成を説明する記載はないから,「本件連結材」を有しない発明が本件原出願明細書に記載され,又はその記載事項から自明であるとはいえない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イまた,原告は,非作動時(揺動側壁の開放時)においても,「本件連結材」は,細断機が作動しないがゆえに何らの細断荷重も受けないので,ボルト等により左右の固定側壁を基板2上に強固に固定し,かつ細断機の作動時の強度的必要性の観点からは左右の固定側壁に十分な厚みを持たせて設計製作すればよいことは当業者にとって技術常識であるから,左右の固定側壁の上部が自由に動くということはなく,揺動側壁の開放時においても,機械設計上,「本件連結材」は,重要な役割を果たさない,よって,「本件連結材」は,本件原出願明細書に記載された発明において不可欠な構成ではなく,これを削除しても分割出願の要件に違反しない,と主張する。
しかし,原告の上記主張も失当である。すなわち,本件原出願明細書に記載された発明においては,細断機の剛性確保の解決手段としては,作動時であると揺動側壁の解放時であるとを問わず,2本の支持軸と1本の連結材(本件連結材)により左右の固定側壁を連結する構成を採用するものであると理解されることは,前記説示のとおりである。また,揺動側壁の解放時(非作動時)には細断荷重を受けないので,作動時の強度的必要性の観点からは十分な厚みをもった左右の固定側壁をボルト等で基板2上に強固に固定すれば足りる等の原告の主張も,本件原出願明細書の記載に基づく主張とはいえないから,原告の上記主張は採用できない。
ウさらに,原告は,「前記支持軸10は,揺動側壁11を揺動自在に支持する枢軸と固定側壁9を連結する連結材としての機能を有している。」との段落【0006】の記載からすると,当業者であれば,支持軸10が「本件連結材」の代わりになり,「本件連結材」を削除して部品点数を少なくさせ得ることを理解できるから,本件原出願明細書には,「本件連結材」を具備しない発明も記載されているのも同然である旨主張する。
しかし,原告の上記主張も失当である。すなわち,本件原出願明細書(甲2)の段落【0004】【発明の効果】には「2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」と記載されていることからすれば,前記段落【0006】の記載は,固定側壁の前後部下部に渡し止められた支持軸10(【図5】,段落【0006】参照)が細断機の下部において揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁の連結材の両方の機能を兼ねていることを意味しているにすぎないものであって,段落【0006】の記載をもって,下部の支持軸10が固定側壁の上部前部に渡し止められた「本件連結材」の代わりになること,及び「本件連結材」を備えない発明が開示されているものと理解し,又は,それらが自明であるものと理解することはできない。
2取消事由2(本件特許発明新規性又は進歩性の認定判断の誤り)原告は,本件分割出願は,分割出願の要件を満たしており,その出願日は本件原出願の日である平成14年9月19日に遡及し,その出願日後である平成16年4月8日に公開された本件引用刊行物は,引用刊行物になり得ないから,本件引用刊行物を引用刊行物として特許法29条1項3号の規定,又は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとし,同法123条1項2号の規定により無効であるとした審決は誤りである,と主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,原告主張の取消事由1は前記説示のとおり理由がなく,本件分割出願は,旧特許法44条1項分割出願の要件を満たさず,不適法なものであって,出願日の遡及を認めることができず,本件引用刊行物は本件分割出願の引用刊行物になり得るから,本件引用刊行物が引用刊行物になり得ないことを前提とする原告の上記主張は理由がない。
3 結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他にも縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大須賀滋
裁判官 齊木教朗