• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 特許を受ける権利 /  協議 /  アクセス /  名義変更 /  意匠権 /  商標権 /  存続期間 /  実施 /  加工 /  算定方法 /  不法行為(民法709条) /  同意 /  設定登録 /  移転登録 /  対価 /  変更 /  代理権 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (ネ) 10024号 特許権移転登録等請求控訴事件
平成 20年 (ネ) 10032号 同附帯控訴事件
控訴人(附帯被控訴人)株式会社福治 (旧商号株式会社ヘイセイ)
同訴訟代理人弁護士林正紀 尾関孝彰 鰺坂和浩
同訴訟復代理人弁護士岡崎士朗
被控訴人(附帯控訴人)株 式会社ヘイセイ
同訴訟代理人弁護士丹羽一彦 森嶋裕子 應本昌樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴を棄却する。
なお,訴えの取下げに伴い,原判決主文第1,2項は,以下のとおり変更された。
「1控訴人(附帯被控訴人)は,被控訴人(附帯控訴人)に対し,別紙特許権目録記載の特許権,別紙意匠権目録記載1,2,4ないし8の意匠権,及び別紙商標権権目録記載1ないし5,9ないし11の商標権の各移転登録手続をせよ。
2控訴人(附帯被控訴人)は,被控訴人(附帯控訴--2人)に対し,被控訴人(附帯控訴人)が別紙特許出願権目録記載1及び5の各特許を受ける権利を有することを確認する。」2被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴に基づき,(1)控訴人(附帯被控訴人)は,被控訴人(附帯控訴人)に対し,別紙商標権目録記載12の商標権移転登録手続をせよ。
(2)控訴人(附帯被控訴人)は,被控訴人(附帯控訴人)に対し,被控訴人(附帯控訴人)が別紙特許出願権目録記載6の特許を受ける権利を有することを確認する。
3訴訟費用は第1,2審(附帯控訴を含む。)を通じ,控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
事実及び理由
全容
第1申立て1控訴人(附帯被控訴人)(1)原判決を取り消す。
被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。
(2)被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴に係る請求を棄却する。
2被控訴人(附帯控訴人)主文第1,2項と同旨第2事案の概要1本件は,控訴人(附帯被控訴人。以下「1審被告」という。)及び日本ウェブ加工株式会社(以下「日本ウェブ」といい,1審被告と併せて「1審被告ら」ということがある。)との間で,営業譲渡の契約を締結した被控訴人(附帯控訴人。
以下「1審原告」という。)が,同契約に基づき,1審被告に対し,同契約の対象財産である別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件各特許権」といい,各特許権を同目録記載の番号に従って「本件特許権1」などという。),別紙意匠権目録記載の意匠権(以下「本件各意匠権」といい,各意匠権を同目録記載の番号に従って「本件意匠権1」などという。)及び別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件各商標権」といい,各商標権を同目録記載の番号に従って「本件商標権1」などという。)の移転登録手続を求めるとともに,1審原告が,別紙特許出願権目録記載の特許を受ける権利(以下「本件各特許を受ける権利」といい,各権利を同目録記載の番号に従って「本件特許を受ける権利1」などという。また,本件各特許権,本件各意匠権,本件各商標権及び本件各特許を受ける権利を併せて,以下「本件各権利」と総称する。)を有することの確認を求める事案である。
1審被告は,本件各権利の移転には,それと対価関係にある代金の支払債務が一部履行されておらず,同時履行の抗弁権を有するとして,争っている。
2原審は,1審原告の1審被告に対する本件各権利の対価の支払が認められるなどとして,1審原告の請求を全部認容した。
31審被告がこれを不服として控訴した。他方,1審原告は,附帯控訴により,移転登録を求める対象として本件商標権12を,確認を求める対象として本件特許を受ける権利6を追加した。また,1審原告は,当審において対象となる権利について請求を一部取り下げたことにより,当審において1審原告が求める本件各権利は,別紙特許権目録,別紙意匠権目録,別紙商標権目録及び別紙特許出願権目録記載のとおりとなった。
第3当事者の主張1請求原因(1)営業譲渡契約ア契約の締結1審原告は,平成14年3月1日,1審被告らとの間で,両社の愛玩動物用品の製造及び販売並びに輸出入,玩具の製造及び販売並びに輸出入に係る営業を譲り受ける旨の営業譲渡契約(以下「本件契約」といい,その契約書を「本件契約書」という。)を締結した(甲1)。
イ契約内容本件契約においては,1審被告らが1審原告に譲渡すべき財産として,「営業権,両社が保有する特許権,実用新案権,商標権等の一切の権利」が含まれ,本件各特許権(ただし,本件特許権4及び5は除く。),本件各意匠権及び本件各商標権(ただし,本件商標権12は除く。)を含む,特許権,実用新案権,意匠権及び商標権が列挙されている。
また,特許権,実用新案権及び商標権等の対価は,営業権の対価に含むものとされ,営業権の対価は,1審被告分を6400万円,日本ウェブ分を8400万円(いずれも消費税を含む。)とされた。
ウ本件契約書に明示されなかった権利について(ア)本件契約の譲渡対象財産には,「営業権,1審被告らが保有する特許権,実用新案権,商標権等の一切の権利」が含まれるところ,上記文言は,1審原告が譲り受けた営業を行うために必要となる権利の一切を譲り受けることを意味しており,列挙されている特許権,実用新案権,商標権のみならず,営業を行うに必要な特許を受ける権利及び商標登録出願により生じた権利をも含む趣旨である。よって,本件特許権4,5及び本件商標権12については,本件契約書には記載がないとしても,本件契約の対象に含まれる。
(イ)仮にそのような合意がないとしても,本件契約に基づき,1審被告が保有する一切の特許等の権利が1審原告に譲渡され,譲渡後にその内容が変更されることなく譲渡人たる1審被告名義で設定登録された以上,本件特許権4,5に係る特許を受ける権利及び本件商標権12に係る商標登録出願により生じた権利は,実質的に1審原告に帰属し,譲渡人たる1審被告は無権利者であるから,上記特許権及び商標権移転登録手続請求を認めるべきである。
(2)よって,1審原告は,1審被告に対し,本件契約に基づき,本件各特許権,本件各意匠権及び本件各商標権移転登録手続並びに本件各特許を受ける権利の確認を求める。
2請求原因に対する認否請求原因(1)ア,イは認める。同ウは否認する。
3抗弁(同時履行の抗弁)1審被告は,本件各権利と対価関係にある1審原告の債務(残金1億1200万円の支払)が履行されるまで,本件各権利の移転登録を拒絶する。
4再抗弁(対価の支払)1審原告は,1審被告らに対し,本件契約による本件各権利の対価を含む営業権の対価の合計額1億4700万円を,次のとおり,1審被告ら名義の預金に振り込む方法により,すべて支払った。
(1)平成14年3月15日,7000万円を株式会社日本ウェブ加工名義の普通預金(朝日信用金庫板橋支店普通●。以下「本件預金?@」という。甲7の1〜3,82)に振り込んだ(以下「本件振込(1)」という。)。
(2)平成14年3月29日,1500万円を株式会社ヘイセイ名義(その後「株式会社福治」に名義変更)の普通預金(あさひ銀行池袋支店普通●。以下「本件預金?A」という。甲8の1〜9)に振り込んだ(以下「本件振込(2)」という。)。
(3)平成14年4月1日,4500万円を株式会社ヘイセイ代表取締役A名義の普通預金(朝日信用金庫板橋支店普通●。以下「本件預金?B」という。甲9の1・2,10の1の1〜4,83)に振り込んだ(以下「本件振込(3)」という。)。
(4)平成14年4月30日,1700万円を本件預金?Bに振り込んだ(以下「本件振込(4)」といい,本件振込(1)ないし(4)を併せて,以下「本件各振込」という。)。
5再抗弁に対する認否及び1審被告の主張(1)再抗弁のうち,本件各振込があったこと及び営業権の対価のうち3500万円の支払を受けたことは認めるが,その余は否認する。以下(2)(3)のとおり,本件各振込は,本件営業譲渡契約に基づく対価の支払とはいえない。
(2)本件預金?@ないし?Bの管理状況ア1審被告らは,平成14年3月1日の本件契約締結後,同月4日の時点で,1審原告の求めるところに従い,本件預金?@ないし?Bを含む,その保有する預金口座に関する預金通帳,定期預金証書,手形帳及び小切手帳を,そのキャッシュカード,銀行印,代表者印及び印鑑カードとともに,1審原告の従業員であるB及びCに引き渡した。
1審被告らが送金先を指定した事実もなく,弁済方法の指定もない状況であったのに,債権者である1審被告らの住所において弁済の提供がされた事実もない。
なお,D公認会計士(以下「D会計士」という。)が送金先を指示したとしても,D会計士は,1審被告の代理人ではないから,その指示は1審被告のためのものではない。
イ実際,平成14年3月1日以降,Bは,1審被告の事務所に常駐するようになり,1審被告代表者であるA及び日本ウェブ代表者であるEに,金庫の鍵の引渡しを要求し,1審被告らの保有する預金等を管理することとなった。当時の1審被告の経理担当者であったFは,1審原告のBの指揮に従っていた。同年4月1日以降は,Bに加えて,1審原告の従業員であるGが常駐した。
ウしたがって,本件各振込は,1審原告が自己の管理することになった本件預金?@ないし?Bに係る口座に自ら送金したというだけのものである。
(3)本件預金?@ないし?Bに振り込まれた金銭の使途ア1審原告は,本件契約締結後,1審被告らとの間に本件契約の内容を修正する旨の契約(以下「本件修正契約」という。)が成立したと主張し,その結果,本件営業譲渡に係る対価が全額支払済みであるかのように主張するが,そのような事実はない。
イ1審原告は,1審被告らを代理してD会計士が1審原告との間で本件修正契約を締結したと主張するが,平成14年3月1日の前後を通じて,1審被告らがD会計士と何らかの契約関係にあったことはなく,金銭的な関係もない。本件契約を締結するに当たって,1審原告の求めに応じて資産の精査を行う必要があり,1審被告らが平成13年初めにD会計士に資産の調査を依頼したことはあったが,D会計士との関係はそれ以上のものではなく,D会計士は,平成13年後半以降は,1審原告側の会計士として行動していた。D会計士は,本件契約締結後は,利益相反の関係で,1審被告ら側の代理人として行動できる立場にはない。
したがって,D会計士と1審原告代表者やBが協議して,「1審原告が引き継ぐ資産と営業権の額内で先方勘定で負債を返済する」という基本スキーム(以下「本件修正合意」という。)を了解したという事実があったとしても,D会計士は1審被告らを代理する権限もなく,本件修正合意の効果が1審被告らに帰属することはない。また,そもそも,1審原告が提出する上記修正に係る契約書(甲79)には,1審被告らの署名押印もなく,代理権のないD会計士への一方的通告により,本件修正契約が成立するはずもない。
ウ1審原告は,平成14年3月4日以降,1審被告らの預金口座を管理して,各口座間で頻繁かつ複雑に資金移動を繰り返して,1審被告名義の借入債務,同年4月1日以前の1審被告の買掛金の弁済を行うだけでなく,1審原告のための買掛金の支払,1審原告のための手持ち資金・給料の流用を行う一方において,1審被告の売掛金を1審原告の口座で回収したりしている。
1審被告ら名義の預金に振り込まれた金銭の使途についての1審被告の反論は,別表1のとおりであって,本件契約に基づいて1審被告らの債務も引き受けた1審原告のために費消されているのであるから,1審被告らに対する弁済としての効果を生ずるものではない。
エなお,本件契約に基づき1審原告から1審被告らに対して1審原告主張の代金が支払われているとしても,その代金は対価性を欠落するものであって,それをもって対価の支払が完了したというべきではない。
(ア)1審原告による1審被告らに関するデューディリジェンス作業の結果,作成された平成13年7月付け貸借対照表によると,資産の合計は2億5514万2309円であり,負債の合計は2億1870万2604円である。そして,本件契約において,営業権は1億4700万円とされている。
これに対し,1審原告の主張によれば,1審原告は,営業権の対価として本件契約で定められた1億4700万円及びその他の対価として本件修正契約で定められたという1億2550万8739円の合計2億7250万8739円を支出したというにすぎない。
そうすると,1審原告は,2億7250万8739円を支出して,2億5514万2309円の資産及び1億4700万円の営業権を取得したということになるが,1億2000万円前後の差額がある以上,実質的な対価性が欠落しているというべきである。
(イ)また,巨視的にみても,本件紛争は,1審原告が,2億7250万8739円の負担をして,自らが2億5514万2309円として評価した資産と,1億4700万として評価した営業権との合計約4億円の資産を取得した事件と評価でき,1億2000万円前後が説明のつかない状態で紛失している。
この点について,1審原告の主張に従えば,1審原告が1審被告らに支払ったと主張する合計2億7250万8739円を原資として,1審被告らの債務総額2億2956万6797円の債務の支払に充当したというようであるが,売掛金,受取手形,仮払金についての1審被告の主張は,別表2のとおりである。1審原告は,その支払とは別に,預貯金5904万0033円及び売掛金・受取手形8100万2629円を回収することによって,1審被告らが受領した3500万円を控除しても,なお1億4798万4604円の使途不明金を生じさせているのであって,1審原告が設定した虚構の上で,上記使途不明金が説明のつかない状態で紛失した原因は,架空債務の計上,現預金・売掛金・約束手形の横領,受取手形の割引と資金流用,1審原告の費用を1審被告らの費用として計上する等しているからである。
61審被告の主張に対する1審原告の反論(1)本件修正契約の成立アD会計士に対する代理権授与平成13年7月ころから,D会計士は,H弁護士とともに,1審被告らを財務・税務面で代理しており,その資金繰りについて双洋貿易に緊急の借入れの要請もし,営業譲渡の具体的条件の交渉や営業権の対価の決定にも直接関与していた。また,平成14年3月以降の1審被告らの借入金の返済を含む資金繰り,経理処理の決定,経理処理・会計帳簿・記録の作成,譲渡日前後の通帳・印等の保管方法の決定もD会計士が行っている。
そのようなD会計士が,1審被告らの代理人として,1審原告と交渉していたのであって,その代理権の存在は明らかである。
イ本件修正合意の成立本件契約3条によれば,1項で固定資産やその他の財産の各評価方法が定められ,3項で「協議の上」細目と精算方法を定めるとされており,当然,1審原告と1審被告ら間で,営業権以外の営業譲渡の対象の確定(細目)が必要とされており,その金額の評定が必要とされていた。そのために1審原告及び1審被告ら間で合意することが予定されていた。
そこで,平成14年3月20日ころ,これを定めるために1審被告ら側代理人のD会計士と1審原告との間で,交渉が行われ,交渉の結果,両者の間で,「買掛金,短期及び長期借入金及び未払い金」並びに「現金預金,受取手形,売掛金及び仮払金」を譲渡対象から除外する旨の合意,すなわち,本件修正合意をし,後日,資産の対価を1億2550万8739円(消費税相当分を含む。)とすることに合意した。
ウ1審被告ら代表者の同意以上のような経過で本件修正契約が成立したが,D会計士が1審原告と合意するにあたり,1審被告らの代表者の確認を取らなかったとはとても信じられない。
また,平成14年4月末日までは1審被告代表者Aが毎日出勤し,1審被告らの通帳や銀行印,実印を管理しており,その夫Eはその後も平成17年3月まで顧問として在籍していたにもかかわらず,I夫妻からは,Aの退職慰労会の費用処理についての指摘を除き,何ら異論が出されたことはなかった。このように,I夫妻は,1審被告らの経理処理及び税務処理を,すべてD会計士に委ねており,これに異議を唱えたことはなかったものである。
エその後の本件修正契約に従った会計処理D会計士は,本件修正契約の内容となる基本スキームについて了解していただけでなく,実際,本件契約及び本件修正契約に対応した会計処理を行い,平成14年7月期の第14期決算報告書,勘定科目内訳明細書を作成し,税務申告を行っている。
(2)本件預金?@ないし?Bの管理状況ア本件契約4条では,譲渡財産の引渡時期は平成14年4月1日と合意されており,同年3月31日までは,1審被告の従業員が事務所に勤務し,1審被告の経理担当者Fも同日に退職するまで事務所に勤務し,1審被告の預金通帳等の管理を行っていた。そして,同年4月1日に同事務所が1審原告に対して引き渡され,このとき,1審原告の経理担当者が同事務所に赴任した。
Eは,同年4月1日以降,ほぼ毎日,1審原告の顧問として原告事務所に出勤して,1審被告らの銀行印や預金通帳には容易にアクセスし得る立場にあり,また,Gらその他の1審原告従業員に対し,銀行取引の代行を命じていた。
イ日本ウェブ名義の預金について1審原告は,日本ウェブの預金通帳等の引渡しを受けたことは一切ない。現在,1審原告が保管している本件預金?@の預金通帳は,平成14年4月1日から平成17年3月31日まで1審原告に顧問として勤務していたEが管理していたのであって,同人が退職する際に,1審原告の社内に残置したため,1審原告がこれを保管しているにすぎないものである。
ウ1審被告名義の預金について1審原告は,同年4月中旬に,本件預金?A?Bを含む1審被告名義の預金通帳を預かったが,これは,F退職後に,1審被告代表者のAから,預かってほしいと依頼されたので,1審原告の経理担当者であるGが預かったにすぎないものである。1審被告の銀行印については,印鑑のボックスが事務所内にあり,その中に入ったままであった。
(3)本件預金?@ないし?Bに振り込まれた金銭の使途ア1審被告ら側の指示に基づく振込(ア)本件各権利を含む1審被告の営業権の対価である6300万円は,本件振込(2)及び(3)による6000万円,同(4)のうちの300万円によって支払われたものであり,その余が日本ウェブの営業権の対価分8400万円の支払である。
上記のいずれの振込についても,E及び1審被告らが委任していたD会計士からの依頼及び振込先の指定を受けて行われたものである。すなわち,本件振込(1)は,同年3月上旬ころ,1審被告らの資金繰りのために,日本ウェブの取得分のうち7000万円を至急弁済してほしいとのD会計士からの要請を受けて実施され,同(2)及び(3)は,同月中旬ころ,1審被告の個人等やあさひ銀行からの借入金弁済のために,1審被告の取得分のうち6000万円を1500万円と4500万円に分けて弁済するとのD会計士からの要請を受けて実施され,同(4)は,同年4月に,残額を一括して弁済してほしいとのD会計士からの要請を受けて実施されたものである。
(イ)なお,営業権及び本件各権利以外の,本件契約の対象である資産については,本件修正契約によって,その対価が1億2550万8739円(消費税相当分を含む。)と合意されたが,同対価についても,1審原告は,1審被告に対し,E又はD会計士による振込先の指定に基づき,平成14年6月18日に1億0191万3863円を,平成14年9月27日に2359万4876円を,それぞれ本件預金?Bに振り込んだ。
イ振込に係る金銭の使途1審原告から本件預金?@ないし?Bに対する本件各振込に係る金銭は,以下のとおり,1審被告の借入金等の弁済やその後1審被告らに支払義務が生じた債務の支払に充当されたものである。本件各振込は,いずれも本件契約及び本件修正契約に基づく支払の履行であり,1審被告らがこの弁済を受領したことは明らかである。
(ア)本件預金?@について1審原告から日本ウェブ名義の本件預金?@への7000万円の振込(本件振込(1))は,E及びD会計士の指示に基づき,1審被告名義の本件預金?Aに2000万円,同?Bに5000万円振り込まれた。
(イ)本件預金?Aについて上記(ア)で本件預金?Aに振り込まれた2000万円及び本件振込(2)に係る1500万円の使途は,別表3の2右欄のとおりである。
(ウ)本件預金?Bについて上記(ア)で本件預金?Bに振り込まれた5000万円の使途は,別表3の1右欄のとおりである。
本件振込(3)に係る4500万円の使途は,別表3の3左欄のとおりであり,本件振込(4)に係る1700万円の使途は,別表3の4左欄のとおりである。
(4)小括以上のように,被控訴人は営業権(本件各権利を含む)の対価及びそれ以外の資産の対価について,1審被告らに対し,全額支払済みである。なお,1審被告の主張の前提とする債務総額,預貯金,売掛金・受取手形の額は,いずれも根拠を欠く不適切なもので,時点を異にするものであり,実際には1審原告にとって3337万円余の支払過剰となっていて,使途不明金などはない。売掛金,割引手形,借入金返済は,実際には別表4のとおりである。
第4当裁判所の判断1認定事実(1)当事者等ア1審原告は,商号を「郡上ウール株式会社」として,昭和54年8月1日に設立された会社であったが,平成13年11月30日,株主総会の決議により解散した。1審原告は,平成14年1月20日,会社を継続することとし,その目的を,ペット用品の販売,ペット用品(引紐,首輪等)の製造等に変更した。そして,同年4月1日,商号を現商号「株式会社ヘイセイ」に変更し(以下「新ヘイセイ」ということがある。),本店も肩書地に変更した。なお,1審原告は,商号の譲渡会社である1審被告の債務については責を負わない旨の登記をしている。1審原告は,日本毛織株式会社(以下「日本毛織」という。)の連結子会社である双洋貿易株式会社(以下「双洋貿易」という。)が100%の株式を所有しており,日本毛織のペット関連事業の再編に伴い,平成18年9月30日,株主総会の決議により解散した(甲2,60,乙21,25,26,弁論の全趣旨)。
イ1審被告は,平成元年1月11日に,Eにより,商号を「株式会社ヘイセイ」として設立された,愛玩動物用品の製造,販売,輸出入等を行う会社であり,平成14年4月1日,商号を現商号「株式会社福治」に変更した(以下「旧ヘイセイ」ということがある。)。代表者は,Aである。1審被告は,現在は,一切の商業活動を停止している(乙27,31,弁論の全趣旨)。
ウ日本ウェブは,昭和41年に,同社の代表取締役であるEにより,「株式会社アニマルヘルスフード」として設立された会社であり,その後,「株式会社アニマルヘルス」と商号変更され,平成9年には現商号に変更された(乙31,弁論の全趣旨)。
エ日本ウェブの代表取締役であるEと,1審被告の代表取締役であるAとは,夫婦である(以下,両名を「I夫妻」ということがある。)。Eは,昭和39年にペットフードに関する卸売販売の個人営業を開始し,昭和41年に日本ウェブを設立して,ペット関係のサプリメント及びペット用品の製造販売を行い,平成元年に旧ヘイセイを設立してからは,主に,旧ヘイセイを営業主体として,ペット用品等の製造,販売等を行ってきたものであり,旧ヘイセイ及び日本ウェブの実質的なオーナーであった(乙31)。
(2)営業譲渡契約に至る経緯ア買収に関する交渉の開始旧ヘイセイは,従前双洋貿易と取引関係にあったところ,平成12年末から平成13年初めにかけて,旧ヘイセイを双洋貿易に売却することについての話が持ち上がった。当時双洋貿易の代表者であったCにおいて,I夫妻や,当時旧ヘイセイの営業部長を務めていたJ(後の1審原告代表者。以下「J社長」という。)と面談するなどして,旧ヘイセイ買収の実施可能性等について検討を開始した(甲103,乙31,76の1,原審証人C2〜4頁,原審証人E13・14頁)。
イH弁護士及びD会計士への依頼Eは,旧ヘイセイの売却について,Aとともに,古くからの友人で顧問弁護士であるH弁護士(以下「H弁護士」という。)やそれ以外の弁護士に相談したり,日本毛織の本社に赴いて話を聴くなどした上で,旧ヘイセイの売却を決意した。そして,その交渉(以下「本件売却交渉」という。)及びそれに伴う経理処理を含めた手続を,H弁護士及び同弁護士から紹介されたD公認会計士(D会計士)に依頼した(原審証人C4頁,原審証人D2・3・14〜16頁,原審証人E14〜16・20頁)。
旧ヘイセイ及び日本ウェブは,D会計士とは,特段の契約書を交わしたわけではなかったが,H弁護士から紹介を受けたD会計士は,平成12年度以降平成14年度まで旧ヘイセイ及び日本ウェブの確定申告を行い,それに伴う両社の決算報告書や勘定科目内訳明細書等を作成した。また,D会計士は,上記のとおり,Eから,本件売却交渉に関係する経理処理の依頼を受けたため,後記財務調査の前提として旧ヘイセイの財務内容を把握した上で,財務調査を行い,財務調査終了後も,会計処理のための作業を,Fに指示するなどしていた(甲105,106,乙58ないし73,原審証人D32・33・36頁)。
ウ買収に関するI夫妻の意向Eは,本件各特許権に係る発明をしたり商品開発をすることに長けていたが,経理面には関心もなく,従前から,旧ヘイセイや日本ウェブの経理や金銭の計算を要する事項については,Aの判断を必要としており,大まかな方向性を除いて,資金繰り等の財務状況は把握していなかった。I夫妻は,本件売却交渉に関する金銭面の条件等についても,H弁護士やD会計士及びJ社長に任せていたが,営業譲渡により,E個人のKからの借入金3500万円や税金などを支払った後に,I夫妻に手取りで5000万円ないし7000万円程度の現金が残る内容になるという認識を有していた(乙81,原審証人E18・19・21・22頁)。
エ旧ヘイセイの財務調査本件売却交渉が進められる中,平成13年8月下旬から同年9月にかけて,旧ヘイセイの財務状況を詳細に調査する,いわゆるデューディリジェンスが行われた(以下「本件財務調査」という。)。本件財務調査は,双洋貿易側の担当者としてL公認会計士(以下「L会計士」という。)及びN公認会計士,旧ヘイセイ側の担当者としてD会計士により実施された。本件財務調査では,旧ヘイセイの財務情報等が双洋貿易に開示されることになるため,これに先立って,双洋貿易は,同年7月31日,旧ヘイセイからの求めに応じ,H弁護士及びD会計士あてに,上記情報等を秘密に保持すること等を誓約する内容の秘密保持誓約書(甲80)を作成し,交付した(甲80,103,原審証人C12・13頁,原審証人D13頁)。
そして,本件財務調査の結果,同調査を担当した公認会計士らにより,平成13年7月31日付けの貸借対照表(甲3)が作成された。それによれば,資産合計約2億5514万円余,債務合計2億1870万円余であった。
オ本件売却交渉の進展Cは,本件財務調査を踏まえ,旧ヘイセイの買収をどのような形式で行うべきかを検討していたところ,本件財務調査に当たったL会計士らから,旧ヘイセイには多額の借入金があって,高利の借入れや,従業員や取引先からの借入れもあり,契約書のないものも多いこと,日本ウェブは実際に営業活動をしていないが,同社名義の知的所有権があるので,同社を旧ヘイセイとともに同一グループとして取扱うべきこと,両社には家族経営の不透明さがあること,以上の内容の報告を受けたため,旧ヘイセイ及び日本ウェブの株式の譲渡を受ける形式ではなく,両社の営業を譲り受ける形式を採ることとした。そして,その営業を譲り受ける主体として,日本毛織のグループ会社で休眠状態にあった1審原告(当時の商号は郡上ウール株式会社)を活用することとした。また,譲渡の対象から不良資産やI夫妻の個人的負債は除くこととした。
本件営業譲渡に係る代金は,総額1億5000万円とすることが合意され,当初は本件各権利を含む営業権の対価を1億円,Eの退職金を5000万円とすることにしていたが,3年間の顧問契約で5000万円の退職金とするのは多額すぎて税金の関係でむずかしいため,営業権の対価を1億4000万円とし,1000万円をEの成功報酬とすること,3年間の顧問契約により年額1200万円の報酬を支払うことを含め,合意が成立した(以上,甲103)。
カ双洋貿易から旧ヘイセイに対する貸付Cは,平成13年10月ころ,D会計士から,旧ヘイセイの手形決済資金として緊急に2000万円が必要である旨の貸付依頼を受け,双洋貿易から旧ヘイセイに対する2000万円の貸付けを実行した(甲103,原審証人C5頁)。
キ平成13年12月11日の打合せH弁護士,D会計士,C及びL会計士は,平成13年12月11日,L会計士の事務所において,本件売却交渉に関する打合せを行った。その際,D会計士は,CやL会計士に対し,Eが,旧ヘイセイのAほかからの借入金1000万円について,旧ヘイセイに弁済のための資金が提供されることを希望していることを伝えたり,また,平成14年1月以降の旧ヘイセイの資金繰りが苦しくなる可能性があることを伝えたりした(甲109,原審証人C5・6頁)。
ク本件契約の締結このようにして,本件売却交渉が進められ,平成14年3月1日に,本件契約が調印されることとなった。
なお,I夫妻は,本件営業譲渡についての交渉をH弁護士,D会計士及びJに任せており,本件営業譲渡により,手取りで5000万円ないし7000万円程度の金員が残ること以外の条件には関心がなかったため,本件契約の細部については十分に把握していなかった(原審証人E13・14・18・19・23〜25頁)。
(3)本件契約ア契約の締結1審原告は,平成14年3月1日,1審被告及び日本ウェブとの間で,本件契約を締結した。上記契約は,日本毛織本社において,1審被告ら側からは,I夫妻並びにH弁護士が出席して,締結された(甲1,103,原審証人C6頁)。
イ契約内容本件契約では,1審被告を甲,日本ウェブを乙,1審原告を丙として,以下のとおりの条項が定められた(甲1)。
第1条(営業譲渡)甲及び乙は平成14年4月1日(以下「譲渡日」という。)付にて,甲及び乙の,愛玩動物用品の製造及び販売並びに輸出入,玩具の製造及び販売並びに輸出入,にかかる営業(以下「本営業」という。)を丙に譲渡する。
第2条(譲渡の内容)前条により譲渡すべき財産は本営業に必要な譲渡日現在の資産負債(別紙1)並びに営業権,甲及び乙が保有する特許権,実用新案権,商標権(別紙2)等の一切の権利及びリース契約(別紙3)の範囲内とする。
第3条(資産の評価等)(第1項)前条による譲渡価格は,固定資産については譲渡日現在における適正価格,その他の財産については同日現在における甲の帳簿価格とする。
(第2項)営業権は,甲を60,000,000円,乙を80,000,000円とする。
(第3項)資産,負債の細目及び精算方法等については,甲及び乙並びに丙協議の上定めるものとする。
(第4項)消費税は外税とする。
第4条(引渡時期)第2条にもとづく譲渡財産の引渡時期は平成14年4月1日とする。但し手続上の事由により必要があるときは甲及び乙並びに丙協議の上これを変更することができる。
第7条(役員の引継ぎ)(第1項)甲及び乙の現役員については,丙はこれを引き継がない。
(第2項)Eは顧問として採用する。その処遇については別途協議する。
第9条(引継義務等)(第1項)甲乙並びに丙の新旧役員は協力して,丙の本営業の引き継ぎをおこなうものとする。その場合,甲乙は丙に対して,会社の過去の決算書類その他の帳簿,資産の権利の証書,その他会社の経営,管理に必要な書類等を整理して交付し,また丙からの問い合わせに対して,誠実に対応するものとする。
(第2項)本合意の成立後,譲渡日までに,甲及び乙は,その経営及び資産の管理について,善良なる管理者としての注意義務をもって行うものとする。
第10条(公租公課等の負担)本営業譲渡日前の期間に対応するものは甲乙の,譲渡日以降の期間に対応するものは丙の負担とする。
第11条(簿外負債等)本営業譲渡後,知られざる債務その他の瑕疵が発見され,その結果丙が損害を被ったときは,その損失については甲及び乙並びにE,Aが連帯してその債務の履行もしくは瑕疵の補修を行い,丙に対して求償その他何らの請求を行わないものとする。
第18条(効力発生日)この契約は,甲及び乙並びに丙が平成14年3月31日迄にそれぞれの株主総会の承認を得,又は法令により必要とする手続きが完了したとき,その効力を生じるものとする。
ウ本件契約書に添付された別紙の記載(別紙1)には,譲渡財産明細(平成13年7月31日現在)として,「なお特許権,実用新案権,商標権等の対価は,第3条3項の営業権の対価に含むものとする。」と記載されている。また,同日現在の資産は合計2億3121万円,負債は合計2億5631万円であることが記載されている。
(別紙2-1)には,本件各特許権(ただし,本件特許権4及び5は除く。),本件各意匠権及び本件各商標権(ただし,本件商標権12は除く。)を含む,特許権,実用新案権,意匠権及び商標権が列挙されている。
(4)本件契約書締結後平成14年3月31日までの状況ア経理関係の引継旧ヘイセイの当時の経理責任者であった取締役経理部長F(以下「F」という。)は,平成14年3月31日に退任し,双洋貿易側から後任者が選任される予定であったが,新ヘイセイで経理部長となるG(以下「G」という。)は同年4月に入らなければ着任できないことから,事務引継のため,双洋貿易の経理課長のB(以下「B」という。)が,暫定的に同年3月初めに旧ヘイセイの事務所に駐在することとなった(甲103,104)。
Cは,D会計士及びFとともに適宜話合いの機会を持ち,改めてFの同年3月31日での退任の了解を得るとともに,それまでの業務引継等の協力の承認を得るなどした(甲104,107)。
旧ヘイセイの経理は,同年3月中は従来どおりFが資金繰り,記帳,経理を担当し,併行して引継事務を行っており,引継の必要上,Bも実質的に関与していた。
同月の資金繰りは,従前から作成されていた資金繰りの表と同様のもの(甲74,75)が作成され,それに基づいて行われた(甲103,107,原審証人D19頁,原審証人E6頁)。
他方,I夫妻,D会計士,F及びCは,平成14年3月初めに協議の上,社印・銀行印及び銀行通帳・公社キャッシュカードをAの管理に移管すること,テレフォンバンキングを停止すること,同月11日以降は大口の資金操作はBの立会いを要することを決定し(甲107),同年3月20日のD会計士とC及びBとの打合せにより,手形・小切手用紙の管理は金庫保管とした(甲81)。
イ借入金の返済,資金繰り等Cは,平成14年3月4日及び5日に,旧ヘイセイの一部の取引金融機関を訪れて,本件契約の説明や,借入金の支払猶予の依頼を行ったが,金融機関から支払猶予の了承は得られず,同年3月末までの貸付金の弁済を求められ,取引継続にも,朝日信用金庫を除いて消極的な対応を受けた(甲103,107)。
また,Cは,E個人の借入金について,その返済に立ち会うなどしたが,借用証のない例や,金額に相違がある例があり,不安を覚えることがあった(原審証人C15頁)。
さらに,本件営業譲渡の具体的な実行に向けて,旧ヘイセイの資産や債務の細目を確認する作業が行われたが,それにより,旧ヘイセイでは,平成13年12月分以降の従業員の源泉徴収分の納付や社会保険料の支払等を滞納していることが判明するなどした(原審証人C8・14・15頁)。
平成14年3月以降の旧ヘイセイの資金繰りは,上記アのとおり,F及びBによって行われていたが,同月は,資金繰りが厳しいことから,C,B及びD会計士の話合いにより,同月15日に,1審原告から本件契約の対価の一部7000万円を日本ウェブ名義の預金口座に振り込み,これを更に旧ヘイセイ名義の預金口座に振り込んで,同社の資金繰りに充てることとなった(甲7の2,82,107)。
平成14年3月1日から同月31日の旧ヘイセイの貸借対照表(合計残高試算表)は,G及びD会計士が作成したが,短期貸付金の貸方の欄には,7000万円と記載され,同月中に旧ヘイセイが日本ウエブ加工から貸付金の弁済を受けたことが記載されている(甲73,弁論の全趣旨)。
ウ本件契約の修正に関する記載平成14年3月20日,D会計士,J,C及びBにおいて打合せの機会が持たれたが,その打合せに関するCの報告書には,旧ヘイセイの借入金について,「(1審原告が)引き継ぐ資産と営業権の額内で先方勘定で負債を返済する」という基本スキーム(本件修正合意)をDが了解したこと,その際,D会計士から,旧ヘイセイにおける一時的な資金繰りの必要が生じた場合の1審原告の協力依頼がされるなどしたことが記載されている(甲81)。
Cは,日本毛織のMに宛てて,同年3月26日ファクシミリを送信したが(甲233),そこには,「引継資産と営業権の枠内で先方勘定で負債を返済する」という基本スキーム(本件修正合意)に沿って借入返済を行うこと,4月中の資金繰り等の計算により,旧ヘイセイの手許残高が約5200万円になること等が記載されている。
また,Cが作成した,同年4月16日付けの「ヘイセイ駐在報告」(甲84)にも,現預金,借入金,売掛金及び買掛金について,1審原告において引き継がないこと,引き継ぐ資産と営業権の額内で先方勘定で負債を返済すること等の基本スキームが合意された旨の記載がされている。
さらに,Cは,同年5月30日,D会計士と資産譲渡に関する打合せを行い,その結果をGやJ社長,日本毛織のMに電子メールで送った(甲108)。同メールには,CがD会計士に修正契約書のひな型を渡して検討を依頼したこと,D会計士が,「負債を清算するので実質的には問題ないが,旧ヘイセイの取締役会・総会等の書類を作成する。」「形式的に言えば『負債を引き継がない』変更により金利分で2〜3百万の損失が出ている。ただ,新ヘイセイ側に立てば,これを支払えば『違約金』となり,ニッケ側の了承は得られないと思う。苦慮している。」と述べたこと等の記載がある(甲108)。
(5)対価の振込ア1審原告は,上記(4)イの資金繰りに充てるため,D会計士の指示に基づき,平成14年3月15日,本件契約に基づく日本ウェブの営業権の代金8400万円の一部7000万円を,本件預金?@に振り込んだ(本件振込(1)。甲7の2,82)。
イまた,1審原告は,D会計士の指示に基づき,同月29日,本件契約に基づく1審被告の営業権の代金6300万円の一部1500万円を,本件預金?Aに振り込んだ(本件振込(2)。甲8の2)。
ウさらに,1審原告は,D会計士の指示に基づき,同年4月1日,本件契約に基づく1審被告の営業権の代金6300万円の一部4500万円を,本件預金?Bに振り込んだ(本件振込(3)。甲9の2)。
エまた,1審原告は,D会計士の指示に基づき,同月30日,本件契約に基づく1審被告及び日本ウェブの各営業権の代金の残金1700万円(1審被告分300万円及び日本ウェブ分1400万円)を,本件預金?Bに振り込んだ(本件振込(4)。甲10の2の1)。
オさらに,1審原告は,同年6月18日,営業権以外の資産の対価の一部として1億0191万3863円を本件預金?Bに振り込み,同年9月27日,その残額として2359万4876円を本件預金?Bに振り込んだ(甲10の3の1,10の4)。
カなお,本件振込(1)に係る7000万円のうちの2000万円は,D会計士の指示に基づき,平成14年3月29日に,本件預金?@から本件預金?Aに振り込まれ,同日の本件振込(2)に係る1500万円と併せて,同日,1審被告のあさひ銀行からの短期借入金83万7000円,長期借入金302万8000円及び長期借入金3084万1000円の合計3470万6000円の返済に充当されるなど,別表3の2のとおり支払に充てられた(甲7の3,8の2)。
キ本件振込(1)に係る7000万円のうちの5000万円は,D会計士の指示に基づき,平成14年3月18日に,本件預金?@から本件預金?Bに振り込まれ,同年4月1日の本件振込(3)に係る4500万円,同月30日の本件振込(4)に係る1700万円とともに,別表3の1,3及び4のとおり,主として,1審被告の朝日信金からの借入金の弁済,金融機関以外の個人(O,P)からの借入金の弁済,支払手形の決済,税金の支払等に充てられたほか,H弁護士に対し3500万円が振り込まれた(甲10の1〜4,14)。
(6)平成14年4月1日以降の状況ア1審原告の営業開始平成14年4月1日,1審原告は,旧ヘイセイの営業を引継ぎ,Tの旧ヘイセイの事務所において,営業を開始した。1審原告の代表取締役社長には,旧ヘイセイの営業部長であったJ社長が就任し,代表取締役会長には,郡上ウール株式会社の代表者であったCが就任した(甲101,102)。
Eは,平成14年3月1日の本件契約締結後,1審原告と顧問契約を締結し,顧問という立場で,同年4月1日以降も1審原告に勤務し,平成17年3月末までほぼ毎日のように出社していたが,工場において過ごすことが多かった。顧問契約の期間は平成14年4月1日から平成17年3月末までの3年間であり,1審原告から年額1200万円の報酬を受領したほか,顧問を退任するに当たり,1000万円の成功報酬の支払を受けた(甲101,103,104,乙76の2の8,原審証人E25〜27頁)。
他方,Aは,平成14年4月1日から1か月間,1審原告の従業員の指導を担当し,1審原告から100万円を受領した(原審証人E27・34頁)。
旧ヘイセイの従業員も,一部が退職したほかは,1審原告に再雇用された(甲101)。
イ1審被告の預金の管理等旧ヘイセイの経理を担当していたFは,平成14年3月31日に退任し,その後同年4月末までは,Aが1審被告名義の預金通帳や実印,銀行印,キャッシュカード等を管理し,日本ウェブの印もすべて同人が押捺していた。
同年4月1日にGが着任し,同月10日ころまでBから事務引継を受けた。Gが引継において受けた指示は,旧ヘイセイと日本ウェブの経理処理と税務処理はD会計士が行うので,Gは一切タッチしないこと,旧ヘイセイの資金計画を作成すること,すなわち4月以降毎日どこの銀行でいくらの支払をするかの計画を立て,必要資金の移動をすること,税金納付や双洋貿易及び個人からの借入れの返済は引き延ばし得ること,6月までに金融機関の返済はすべて完了すべきこと,受取手形は早めに手形割引すべきことであった。
そして,同年4月末でAが退職した後も,Eは,1審原告の顧問として在籍し,旧ヘイセイの預金通帳等を1審原告の事務所に置いていたが,旧ヘイセイのころと同様,同人は1審被告の経理や資金繰りには関与しなかった。その他,1審被告の経理や資金繰りを行う者がいなかったので,同年5月以降は,Gが,事実上1審被告の実印や銀行取引印及び銀行のキャッシュカードが入った印鑑箱の保管を担当した。なお,1審被告名義のみずほ銀行池袋西口支店の通帳はAが自宅に持ち帰った。
また,D会計士の事務所の事務員が月2回程度1審原告の事務所を訪れ,旧ヘイセイの振替伝票とそれに添付してある帳簿類をすべてチェックしデータの入力作業や記帳をしていた。税務署等から旧ヘイセイや日本ウェブ宛の督促状やその他の郵便が来ると,GはEに手渡し,同人はそれをD会計士に送るよう指示した。Gは,同年5月以降,D会計士から渡された旧ヘイセイの債務のリストを元にその引落口座に資金を移動したり,D会計士から指示を受けた旧ヘイセイの税金を振込送金により支払ったり,旧ヘイセイの口座に新ヘイセイの入金があると,仮受・仮払勘定の記載をして,補助帳簿を作成するなどの事務を行っていた(以上,甲84,103,104,255,原審C証人10頁)。
ウD会計士の立場1審原告は,平成14年6月7日ころ,D会計士に対し,1審原告の税務関係の処理を依頼し,顧問契約を締結した。ただし,平成15年9月には,上記顧問契約が合意解約されている(甲77,78,103,乙1,原審証人C10頁,原審証人D2頁)。
他方,D会計士は,1審被告らの,平成12年7月期,平成13年7月期及び平成14年7月期決算に伴う会計処理の指示及び税務申告業務の代理を行った。また,平成14年3月以降の1審被告の借入金の返済を含む資金繰り,経理処理の決定,譲渡日前後の通帳・印等の保管方法の決定にもD会計士が関与している(甲81,84,105ないし107,228ないし231,238,250ないし253,乙58ないし73,原審証人D32〜36頁)。
エ本件契約の修正に係る契約書平成14年4月下旬までには,同年3月31日現在の1審被告らの在庫等の実棚調査が終了し,営業権以外の譲渡資産の評価額が算出された。預貯金,売掛金,受取手形及び仮払金等の流動資産並びに債務を譲渡の対象から除き,それ以外の資産を譲渡日現在の帳簿価格等として算定した結果,1億2550万8739円と評価された。
Cは,同年5月30日,D会計士と資産譲渡に関する打合せを行い,本件修正合意に係る契約書案を交付して検討を依頼した。その上で,1審原告は,平成14年6月7日ころ,本件修正合意の内容を書面化した本件修正契約書(甲79。以下「本件修正契約書」という。)を3通作成し,Cが1審原告名下の押印をした上でGを通じてD会計士に送付したが,1審原告に返送されることはなく,結局,本件修正契約書に1審被告ら名下の押印はされなかった。
本件修正契約書には,?@1審原告が譲渡を受ける対象を,「資産及び負債」から資産のみに変更すること,?A譲渡を受ける資産の内容を,在庫,有形固定資産,無形固定資産,投資等に限定してその詳細を一覧表として添付し,現金預金,受取手形,売掛金及び仮払金を対象外とすること,?B1審被告らに対する営業権以外の譲渡資産の代金を1億2550万8739円とし,平成14年6月17日に1億0191万3863円,借地権等の名義書換手続完了後に2359万4876円を支払うこと等が記載されている(以上,甲77,79,101,103,104,108,原審証人C27・36頁)。
オ本件修正合意の履行等本件修正合意で約定された営業権以外の譲渡資産の代金については,前記(5)オのとおり支払がされている。すなわち,1億0191万13863円は,平成14年6月18日に,2359万4876円は,旧ヘイセイの所有していた上記借地上の建物について,平成14年6月20日に,Q司法書士を通じて,1審原告に対する所有権移転登記手続が行われた後,同年9月27日に,それぞれ本件預金?Bに振り込まれている。なお,当該登記費用は,1審被告が負担した(甲10の4,乙13ないし20,22,23)。
D会計士は,営業譲渡代金の支払を受けたこと,在庫,有形固定資産,無形固定資産及び投資等が譲渡されたこと並びに現金預金,受取手形,売掛金及び仮払金が譲渡されないことを前提とする1審被告の合計残高試算表を作成するなどして,本件修正合意に従った会計処理を行った(甲73,250ないし253,乙60,61)。
(7)本件各権利の名義等ア本件各権利のうち,本件特許権1,2,本件意匠権2,5ないし7,本件商標権1ないし3,5及び9については,平成14年5月31日から平成15年6月24日までの間に,1審原告により,名義人を「株式会社ヘイセイ」としたまま,T住所に変更する登録がされた。なお,1審原告の営業所は,上記住所にあるが,同所に本店所在地が存在していたことはない。他方,旧ヘイセイの本店は,平成10年4月13日から平成17年2月15日までの間,上記住所にあった。
上記権利のうちの本件特許権1,本件意匠権6,7,本件商標権1及び2のほか,本件特許権3については,平成17年5月11日から同月25日までの間に,1審被告により,名義人の表示を1審被告の現商号「株式会社福治」に変更する登録がされている(以上,甲11,16ないし18,24,27ないし29,31ないし33,36,39,40,61ないし70,72,乙26ないし28,31)。
イ本件各特許を受ける権利については,本件訴訟提起までの間に,いずれも,出願人名義の表記を1審被告の旧商号から現商号「株式会社福治」に変更する手続がとられている(甲43,47,112)。
ウ本件特許権4,本件意匠権1,4,8,本件商標権11及び12は,Tの「株式会社ヘイセイ」,本件商標権4及び10はUの「株式会社ヘイセイ」として登録されている。なお,上記旧ヘイセイの本店は,上記Tに移転する以前,上記Uにあった(甲19,23,26,30,35,41,42,110,弁論の全趣旨)。
エ本件特許権5は,1審被告の現商号「株式会社福治」名義で登録されている(甲97)。
オなお,日本ウェブの保有に係る以下の権利は,いずれも,日本ウェブの旧商号である株式会社アニマルヘルスフード名義で出願され,登録されていた。
(ア)実用新案登録第2109102号平成15年7月17日に,Tの株式会社ヘイセイ名義への移転登録手続がされたが,平成17年3月30日に登録が抹消された(甲95)。
(イ)実用新案登録第2528472号平成13年12月2日登録料不納を原因として,平成14年8月28日に登録が抹消された。
(ウ)商標登録第1247355号平成15年7月16日にTの株式会社ヘイセイ名義への移転登録手続がされた(甲96)。
(エ)商標登録第2469105号平成14年10月30日に存続期間満了により消滅した(登録は平成15年7月23日)。
(オ)商標登録第2432297号,第2432303号平成14年7月31日に存続期間満了により消滅した(登録は平成15年4月2日)。
(8)本件訴訟に至る経緯等ア1審被告らは,平成17年3月31日,Eが1審原告との顧問契約を終了したのに伴い,1審原告に対し,旧ヘイセイの有する本件各権利が1審被告のものであること及び本件各権利の一部を1審被告名義に書き換えたこと等を通知した。1審原告のJ社長がEにその真意を問い直したところ,Eは,本件契約の対価が手許に5000万円残っていないなどとして,対価の支払について説明してもらえれば移転登録手続に協力するなどと述べた。1審原告は,その後も,1審被告名義の権利も含め,本件各権利の年金及び手数料の支払や本件各商標権の更新登録申請の手続を,R弁理士に依頼して行っている(甲11,101ないし103)。
イまた,同年7月4日,I夫妻の代理人として,1審被告訴訟代理人S弁護士が,1審原告に対し,初めて,営業権の対価1億4000万円のうち3500万円のみ支払を受けたが,残1億0500万円の支払を受けていないとして,残金の支払を催告する通知書を送付した(甲12)。
ウその後,数回にわたり双方の代理人弁護士間で内容証明郵便のやりとりがされ,かつ会議が開催されるなどしたが,営業権の対価として支払われた金員の使途等について,1審被告らが納得せず,1審原告は,平成17年12月9日,本訴提起に至った。本訴提起の後,1審被告らは,1審原告を相手方として,本件契約に基づき,営業権の対価の残額として1億1200万円,予備的に不法行為又は不当利得として同額の支払を求める訴訟を提起し,同訴訟は,東京地方裁判所に係属中である(甲13の1・2,15の1・2,乙7ないし11,弁論の全趣旨)。
2請求原因について(1)請求原因(1)ア,イの事実は,当事者間に争いがない。
(2)請求原因ウ(本件契約書に明示されなかった権利)について本件特許権4,5,本件商標権12及び本件各特許を受ける権利は,本件契約書別紙2-1に掲げられていないが,本件契約2条において,「本営業に必要な譲渡日現在の資産負債及び営業権,特許権,実用新案権,商標権等の一切の権利」が,本件契約における譲渡対象の財産とされている。そして,上記各権利は,1審被告が出願し,本件契約当時,未だ設定登録に至っていない状態にあったことからすれば,本件特許権4及び5に係る特許を受ける権利,本件商標権12に係る商標登録出願により生じた権利並びに本件各特許を受ける権利も,上記譲渡の対象とされていたと解するのが相当である。本件特許権4,5及び商標権12が,本件契約締結後に設定登録されたものであるところ,それらについて1審被告が特許権や商標権設定登録を受けた場合には,当該各権利を1審原告に対し移転登録をすることが合意されていたものと解するのが相当である。
3抗弁及び再抗弁について(1)1審被告は,本件各権利の対価が支払われるまで移転登録を拒絶する旨の同時履行の抗弁を主張するのに対し,1審原告はこれを支払済みである旨主張するところ,前記のとおり,1審原告が本件預金?@ないし?Bに本件各権利を含む営業権の対価合計1億4700万円を振り込んだことは,当事者間に争いがない。
(2)1審被告は,実際には1審原告が管理していた本件預金?@ないし?Bへの本件各振込は,1審被告らに対する弁済に当たらないと主張する。
しかし,以下のとおり,1審被告の上記主張は採用することができない。
ア本件振込(1)及び(2)について本件契約において,譲渡日及び譲渡財産の引渡日が平成14年4月1日と定められたものであるところ,本件振込(1)及び(2)については,それ以前の同年3月中にされたものである。そして,本件振込(1)及び(2)は,前記1認定のとおり,同年3月中に1審被告が履行しなければならない借入金や手形の決済等の債務の弁済に充てるため,D会計士の指示に基づいて,振込口座及び金額が決定されたものである。
しかも,当時は,旧ヘイセイの経理担当者Fが上記各預金を管理し,債務の弁済に必要な入出金の手続を行っていた。
なお,1審被告は,平成14年3月4日の時点で,1審原告の求めるところに従い1審被告ら名義の預金等を引き渡したと主張する。しかし,本件契約4条には,引渡時期を同年4月1日とし,手続上の事由により必要があるときは協議の上変更することができるとの約定があるところ,引渡時期の変更に必要な協議がなされたことをうかがわせる証拠はない。また,その余の譲渡財産についても,すべて同年4月1日以降引渡しが行われ,同日新ヘイセイが営業を開始したこと等に照らし,本件預金?@ないし?Bを同日以前から1審原告が管理していたということはできず,1審被告の上記主張を採用することはできない。
イ本件振込(3)及び(4)について本件振込(3)及び(4)は,譲渡日である平成14年4月1日及びその後の同月30日にされたものであるが,前記1認定のとおり,同月中はAが上記各預金を管理し,D会計士の指示に基づいて,B及びGが入出金の手続を行っていたものである。
また,Eは,それ以降も1審原告に3年間顧問として勤務し,1審被告及び日本ウェブ名義の預金を管理し得る立場にあった。
ウそうすると,本件各振込の当時本件預金?@ないし?Bを1審原告が管理していたということはできない。
(3)1審被告は,本件契約により1審原告に譲渡された本件預金?@ないし?Bに対価を振込み,同じく1審原告に譲渡された旧ヘイセイの債務の弁済に充てたとしても,1審被告らに対する対価の支払とはいえないと主張する。
アしかしながら,そもそも,本件振込(1)及び(2)については,本件契約によって定められた譲渡日より前の平成14年3月中に行われたものであり,その入出金は,本件契約自体によっても1審被告らを主体とするものである。すなわち,本件修正合意の成否を問わず,本件振込(1)及び(2)による計算は,1審被告らに帰属するといわざるを得ない。
イまた,以下のとおり,預貯金や債務を譲渡の対象から除外し,営業権以外の譲渡資産の額を1億2550万8739円とする本件修正合意が成立したものと認められ,本件預金?@ないし?Bを初めとする1審被告ら名義の預金は,1審原告に譲渡されたものではなく,従前どおり,1審被告らのものというべきである。
すなわち,前記1認定のとおり,Cが,旧ヘイセイの取引金融機関の一部を訪れた際に,借入金の支払猶予の了承が得られず,同年3月末までの弁済を求められて,取引継続にも朝日信用金庫を除いて消極的な対応を受けたことに照らせば,旧ヘイセイの債権者らから,借入金の譲渡について承諾を得られなかったものと評価せざるを得ない。その上,本件営業譲渡の具体的な実行に向けて,旧ヘイセイの資産や債務の細目を確認する作業を行う中で,1審原告やCに,旧ヘイセイが平成13年12月分以降の従業員の源泉徴収分の納付や社会保険料の支払等を滞納していることが判明し,また,旧ヘイセイの金融機関以外からの借入金には,契約書が存在しないものや金額が相違するものなどがあることが判明した。そのため,Cとしては,そのような状況で旧ヘイセイの債務の譲渡を受けることを,親会社である日本毛織に説明することが困難であり,旧ヘイセイの債務を預貯金や受取手形・売掛金等の流動資産と併せて旧ヘイセイ側に残すことにより,その余の資産の評価を行うことにしたものと推認される。
そして,本件修正契約書(甲79)に1審被告らの押印はないものの,Cが作成した修正に関する報告書や電子メールの記載(甲81,84,108,233)に照らし,CがD会計士に対し,本件修正合意に係る申入れを行い,D会計士がこれを受け入れたことにより,両者の間で本件修正合意が成立したものと評価するのが相当である。
なお,D会計士において,本件修正合意の内容についてI夫妻の了解を得たか否かは明らかではないが,I夫妻は,手許に5000万円ないし7000万円が残るという点のみに関心があり,営業譲渡の詳細な条件等には興味がなかったものと解される。他方,D会計士は,本件契約に関し,本件売却交渉の当初から,本件契約成立後も少なくとも平成14年6月7日に1審原告と顧問契約を締結するまでの間は,旧ヘイセイの経理面での代理人ともいうべき立場にあったものである。この点について,E及びD会計士は,原審での証人尋問並びに原審及び当審で数回にわたり提出した陳述書において,D会計士は1審原告と顧問契約を締結したもので,旧ヘイセイの側からは金銭を受け取っておらす,1審被告の代理人ではあり得ない旨を繰り返し述べる。しかしながら,1審原告が顧問契約を締結したのはD会計士が旧ヘイセイの経理面を熟知していたからであり,また,D会計士は,旧ヘイセイからは結果として報酬を受け取っていないが,当初から無報酬の約定をしていたわけではなく,前記1認定のD会計士の1審被告の経理への関与状況に照らしても,上記証言及び陳述書の内容は,到底信用することができず,D会計士の1審被告らのためにする代理権それ自体は否定することができない。
したがって,本件修正契約書に押印はないものの,1審原告と1審被告らの代理人D会計士との間で,口頭で本件修正合意が成立し,預貯金や債務が本件営業譲渡の対象から除外されたと解するのが相当である。
ウ1審被告は,その他,1審被告ら名義の預金口座の使途等について,その1つ1つを争うが,1審被告及び日本ウェブに帰属する預金は,前記1認定のとおり,その大半が1審被告の債務の弁済に充てられたものである。そして,上記預金の使途のうち一部に,本来は1審被告らが負担する必要のない支出があったとしても,それが1審原告との関係で不当利得ないし損害賠償の対象となることは格別,本件契約の対価の支払の有無についての判断を左右しない。
エそうすると,本件預金?@ないし?Bは,1審被告又は日本ウェブに帰属するものであり,上記預金に対する本件各振込は,1審被告らに対する支払であり,本件各振込に係る金員を1審被告の債務の弁済に充てたとしても,当該債務も1審被告のものであるから,上記判断を左右しないものである。
オなお,1審被告は,本件契約における対価性の欠落を主張する。その主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,本件契約において約定された営業権の対価のほか,それ以外の譲渡資産の対価も考慮すると,なおその対価に1億2000万円前後の未払があるので,その支払があるまで本件各権利の移転登録を拒絶するという趣旨に理解し得なくもない。
しかしながら,本件契約の締結後,本件修正契約が成立していることは前記認定のとおりであるところ,本件修正契約において,営業権以外の資産の対価として約定され,かつ,支払われた1億2550万8739円は,預貯金,売掛金,受取手形及び仮払金等の流動資産と債務を譲渡の対象から除くことにし,それ以外の資産を譲渡日現在の帳簿価格等として算定したものであり,その算定方法は本件契約3条に沿っているものである。仮に,本件修正合意が成立しなかったとすれば,営業権以外の資産の対価は,その債務の額に照らし,マイナスとならざるを得なかったはずのものであって,到底1億2550万8739円もの評価にはなり得ない。すなわち,本件契約書添付の別紙1によれば,平成13年7月31日現在の資産は合計2億3121万円,債務は合計2億5631万円であると評価されており,本件修正合意が成立せず,債務を含めてすべての資産負債が譲渡されたとすれば,債務の額が資産の額より大きいから,1審被告ら側が差額の2000万円以上を支払う必要があるとしても,1億2550万8739円の支払を受けることになるとは考え難い。これを1審被告ら側からみると,債務(本件契約当時の評価2億5631万円)が残ったとしても,営業権の対価として支払を受けた1億4700万円,営業権以外の資産の対価として支払われた1億2550万8739円のほか,資産の一部を譲渡対象から除外し,預貯金,売掛金,受取手形及び仮払金等の流動資産(本件契約当時の評価合計1億1661万7000円)を取得しているのであって,実際に1審被告らの債務が弁済済みであることに照らし,バランスを欠くとはいえない。
したがって,1審被告の主張を上記のとおり善解したとしても,これを採用することはできない。
(4)小括以上のとおり,1審原告が本件預金?@ないし?Bに振り込んだ1億4700万円(本件各振込)は,債務の本旨に従った本件各権利を含む営業権の対価の支払の履行と評価し得るものであるから,同時履行の抗弁権は,成り立たない。
4結論以上の次第であるから,1審原告の請求は,当審における訴え取下げ後の請求も,附帯控訴に係る請求もすべて理由があるので,1審被告の控訴を棄却し,1審原告の附帯控訴を認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 杜下弘記
  • この表をプリントする