関連審決 | 無効2007-800210 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10304審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10405審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10291審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10368審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10290審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 物の発明 / 製造方法 / 使用方法 / 公然実施(29条1項2号) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 上位概念 / 技術常識 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 汎用品 / 設定登録 / 混同 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10398号
審決取消請求事件
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原告株式会社白元 同訴訟代理人弁理士牛久健司 井上正 高城貞晶 被告ス ズラン株式会社 同訴訟代理人弁理士萼経夫 宮崎嘉夫 小野塚薫 田上明夫 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/10/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が無効2007−800210号事件について平成20年9月16日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求主文1項と同旨第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,下記2の本件各発明に係る特許に対する被告の無効審判請求について,特許庁が同請求を認め当該特許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「化粧用パッティング材」とする特許第3782813号(平成16年6月14日特許出願(以下「本件出願」という。),平成18年3月17日設定登録。請求項の数は,後記本件訂正の前後を通じ,全3項である。 甲14。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 (2)被告は,平成19年10月1日,本件特許(請求項1ないし3)について特許無効審判を請求し,無効2007-800210号事件として係属した。 (3)原告は,平成20年1月10日付けで,本件特許について,特許請求の範囲の請求項1の記載を訂正する旨の訂正請求(甲15。以下「本件訂正」という。)をした。 (4)特許庁は,同年9月16日,本件訂正を認めた上,「特許第3782813号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との本件審決をし,同月29日,その謄本を原告に送達した。 2本件各発明の要旨本件審決が対象とした本件訂正後の請求項1ないし3に記載の各発明(以下,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」といい,これらを併せて「本件各発明」という。)は,次のとおりである。 【請求項1】吸水性を有し,且つ,顔面の部分的パックに適する厚さ及びサイズに形成された化粧用パック材であって,該パック材はウォータジェット噴射によって表面加工されて成り,該パック材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成し,且つ,該化粧用パッティング材は側縁部近傍を圧着手段によってパック材が剥離可能に接合されて成り,該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし,該パッティング動作終了後,該パッティング材から前記パック材を一枚毎剥離し,該剥離したパック材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されたことを特徴とする化粧用パッティング材。 【請求項2】上記パック材はコットンにて形成され,且つ,ウオータジェット噴射によって表面加工され,更に,スチーム処理と熱ロールをかけて柔軟性を増す処理が施されて成ることを特徴とする請求項1記載の化粧用パッティング材。 【請求項3】上記パック材は方形に形成され,且つ,上記パッティング材はその長手方向側縁部近傍の表裏両面に線状の圧着凹部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の化粧用パッティング材。 3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件各発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに下記イの本件検証物及び下記ウないしコの周知例1ないし8が示す周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件各発明についての本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,同法123条1項2号の規定に該当し,無効とすべきものである,というものである。 ア引用例:特開2000-335667号公報(甲17)イ本件検証物:被告が平成15年1月21日に製造した商品名を「リリアンパフ」とする物品(検乙1の1及び2。なお,本件検証物が本件出願前に公然実施されたものであることについては,当事者間に争いがない。)ウ周知例1:実公昭56-45538号公報(甲2)エ周知例2:平成13年12月21日発行の実用新案登録第3082655号公報(甲18)オ周知例3:特開2002-360338号公報(甲19)カ周知例4:株式会社講談社平成15年11月13日第1刷発行(平成16年1月15日第3刷発行)の佐伯チズ著「佐伯チズのスキンケア・メイク入門」と題する文献(甲1)キ周知例5:特開平11-76698号公報(甲20)ク周知例6:特開昭62-110967号公報(甲21)ケ周知例7:特開平3-287818号公報(甲22)コ周知例8:特開2001-355130号公報(甲23)(2)本件審決が認定した本件各発明と引用発明との各一致点及び各相違点は,次のとおりである。 ア本件発明1関係(7頁20行〜8頁9行)一致点:吸水性を有する化粧用シート部材であって,該シート部材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成するようになっている化粧用パッティング材。 相違点1:本件発明1は,化粧用シート部材が,顔面の部分的パックに適する厚さ及びサイズに形成された化粧用パック材であって,該パック材はウォータジェット噴射によって表面加工されて成り,化粧用パッティング材は側縁部近傍を圧着手段によってパック材が剥離可能に接合されて成り,該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし,該パッティング動作終了後,該パッティング材から化粧用シート部材を一枚毎剥離し,該剥離した化粧用シート部材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されているのに対し,引用発明は,少なくとも単位コットン1(化粧用パッティング材)は,ウォータジェット噴射によって表面加工されて成っているが,各層(化粧用シート部材)がウォータジェット噴射によって表面加工されて成っているか不明であり,単位コットン1(化粧用パッティング材)は積層した各層(化粧用シート部材)がどのように接合されているのか不明であり,単位コットン1(化粧用パッティング材)に化粧水を浸潤させてパッティングし,該パッティング動作終了後,単位コットン1(化粧用パッティング材)から各層(化粧用シート部材)を一枚毎剥離し,該剥離した化粧用シート部材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されているか不明である点イ本件発明2関係(10頁2〜10行)一致点:吸水性を有する化粧用シート部材であって,該シート部材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成するようになっており,前記シート部材はコットンにて形成された,化粧用パッティング材。 相違点1:上記アの相違点1と同じ。 相違点2:化粧用シート部材に関して,本件発明2は,スチーム処理と熱ロールをかけて柔軟性を増す処理が施されて成るのに対し,引用発明は,そのような処理を施されているか不明である点ウ本件発明3関係(11頁3〜11行)一致点:吸水性を有する化粧用シート部材であって,該シート部材は複数枚が積層された化粧用パッティング材であって,前記シート部材はコットンにて形成され,方形に形成された,化粧用パッティング材。 相違点1:上記アの相違点1と同じ。 相違点2:上記イの相違点2と同じ。 相違点3:化粧用パッティング材に関して,本件発明3は,その長手方向側縁部近傍の表裏両面に線状の圧着凹部が形成されているのに対し,引用発明は,そのような線状の圧着凹部が形成されているか不明な点4取消事由(1)一致点の認定の誤り(本件各発明関係。取消事由1)(2)相違点1についての判断の誤り(本件各発明関係。取消事由2)(3)相違点2についての判断の誤り(本件発明2及び3関係。取消事由3)(4)相違点3についての判断の誤り(本件発明3関係。取消事由4)(5)格別顕著な作用効果を看過した誤り(本件各発明関係。取消事由5)第3当事者の主張1取消事由1(一致点の認定の誤り。本件各発明関係)について〔原告の主張〕(1)「化粧用シート部材」である点において一致するとした認定本件審決は,本件各発明の「化粧用パック材」と引用発明の「複数層」の各層とが「化粧用シート部材」である点で共通している(7頁16〜17行)とした上,本件発明1及び2と引用発明とが「化粧用シート部材であって,該シート部材は…を構成するようになって(いる)」との点(本件発明1につき7頁21〜22行,本件発明2につき10頁3〜4行)において,本件発明3と引用発明とが「化粧用シート部材であって,該シート部材は…形成された」との点(11頁4〜6行)においてそれぞれ一致すると認定したが,以下のとおり,これらの認定はいずれも誤りである。 ア「化粧用シート部材」との語は,本件各発明にも引用発明にも用いられていないものであるところ,本件審決は,「化粧用シート部材」との新たな概念を持ち出すことにより,本件各発明と引用発明との一致点を意識的に作出しているものである。 イ引用発明の「複数層の積層構造体」は,引用例においても,「この単位コットンは,必要に応じて複数層の積層構造体に…しても良い」との記載(【0011】)がみられるのみであり,これがどのような形態のものであるかについては,一切明らかにされていない。 これに対し,本件各発明の「化粧用パック材」は,1枚ごとに剥離しても毛羽立たず,それ自体として使用可能なパック材である。 したがって,引用発明の「複数層」の各層と本件各発明の「化粧用パック材」とは,異なるものである。 (2)「化粧用シート部材」につき「複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成する」との点において一致するとした認定本件審決は,本件発明1及び2と引用発明とが「(化粧用シート部材)は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成する」との点(本件発明1につき7頁21〜22行,本件発明2につき10頁3〜4行)において,本件発明3と引用発明とが「(化粧用シート部材)は複数枚が積層された化粧用パッティング材であ(る)」との点(11頁4〜5行)においてそれぞれ一致すると認定したが,以下のとおり,これらの認定はいずれも誤りである。 すなわち,本件各発明の「化粧用パック材」は,剥離した1枚のものを顔面の必要箇所に所定時間装着させてパックすることのできるものであって,それ自体として使用可能であり,かつ,相互に分離した形態のものとして1枚,2枚と数えることのできるものである。本件各発明の「化粧用パック材」がそのようなものであるが故に,本件各発明においては,「化粧用パック材」(本件審決にいう「化粧用シート部材」)の「複数枚」が「積層」されることになる。 これに対し,上記(1)イのとおり,引用例には,「複数層の積層構造体」についての具体的な記載がないことから,引用発明の「複数層」の各層が,それ自体化粧用コットンとして使用可能なものであるか,かつ,相互に分離した形態のものとして1枚,2枚と数えることのできるものであるかについては全く明らかでなく,したがって,引用発明の「複数層」の各層(本件審決にいう「化粧用シート部材」)について,「複数枚」が「積層」されると認定することはできない。 この点に関し,被告は,引用発明の「複数層」の各層につき,「複数層」という以上,これが数えられるものを指すことは明らかであると主張するが,引用発明の「複数層」と本件各発明の「複数枚」とが異なることを看過した主張であって,失当である。 〔被告の主張〕(1)「化粧用シート部材」である点において一致するとした認定本件審決は,引用発明の「複数層」の各層と本件各発明の「化粧用パック材」とが,それぞれの一部の限定事項を除き,化粧用に用いられるシート状の製品という点で共通する性質又は概念のものとしてとらえられることから,両者が上位概念としての「化粧用シート部材」である点において一致すると認定したものであり,この認定は,特許庁の審査基準(乙1。以下,単に「審査基準」という。)に照らしても相当なものである。 したがって,本件審決が異なる2つの概念を混同しているということはできないし,また,本件審決が「化粧用シート部材」との概念を用いた点及び引用発明の「各層」について「各層(化粧用シート部材)」と認定した点についても誤りはないというべきである。 (2)「化粧用シート部材」につき「複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成する」との点において一致するとした認定引用例の「単位コットンは,必要に応じて複数層の積層構造体に…しても良い」との記載(【0011】)を化粧用コットンに関する技術常識を考慮して解釈すると,本件各発明と引用発明とが「(化粧用シート部材)は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成する」との点又は「(化粧用シート部材)は複数枚が積層された化粧用パッティング材であ(る)」との点で一致するとした本件審決の認定に誤りはない。 けだし,化粧用コットンは,元来,コットン繊維を多層に積層して製造されるものであるところ,引用例の上記「必要に応じて」との記載に照らせば,引用例にいう「複数層の積層構造体」とは,シート状のコットンを複数枚積層したもの又は単位コットンを複数枚積層したもの(後者の場合,積層構造体も単位コットンとなると解される。)を意味すると解釈することができるからである。 この点に関し,原告は,引用発明の「複数層」の各層が1枚,2枚と数えることのできるものであるかについて全く明らかでないと主張するが,「複数層」という以上,これが数えられるものを指すことは明らかである。 また,原告は,引用発明の「複数層」と本件各発明の「複数枚」とが異なるものであるとして,前者の「複数層」は数えられるものではないとも主張するが,本件特許に係る明細書(甲14。以下「本件明細書」という。)の【0006】には,「多層の積層体から成る化粧用パッティング材」について「各一枚ずつの剥離操作が容易とな(る)」との記載があり,「層」であっても1枚ごとに剥離し得るものとされているのであるから,原告の主張は失当である。 2取消事由2(相違点1についての判断の誤り。本件各発明関係)について〔原告の主張〕本件審決(本件発明1につき8頁11行〜9頁20行,本件発明2につき10頁13〜15行,本件発明3につき11頁14〜16行)は,相違点1に係る各構成のうち後記本件各発明の使用方法に係る構成が実質的な相違点でないとした上,その余の構成について,引用発明に後記周知事項1及び2を適用することにより当業者が容易に想到し得たものであると判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。 (1)本件各発明の使用方法に係る構成についての判断本件審決(8頁11〜18行)は,相違点1に係る各構成のうち「該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし,該パッティング動作終了後,該パッティング材から前記パック材を一枚毎剥離し,該剥離したパック材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されている」との構成(以下「本件各発明の使用方法に係る構成」という。)が物の発明である本件各発明を特定するものではないとして,同構成は実質的な相違点でないと判断したが,同構成のうちの「該パッティング材から前記パック材を一枚毎剥離し」との部分は,本件各発明の「パック材が剥離可能に接合されて成り」との構成をより明確に規定するもの,すなわち,本件各発明において複数枚積層されたパック材が1枚ごとに剥離可能に接合されていることを明確に規定するものとして,物の発明である本件各発明を特定する上で重要な意味を持つものであるし,本件各発明の使用方法に係る構成は,1つの物である本件各発明のパッティング材が時系列的に前後する2つの用途に使用し得る構造を有することにつき,これを1つの使用方法を通して特定した点においても重要な意味を有するものであるから,これらの点を看過してされた本件審決の判断は誤りである。 (2)周知事項1の認定本件審決(8頁19〜33行)は,相違点1の判断に当たり,周知例1ないし3の記載及び本件検証物を根拠として,「化粧用品において,コットンを少なくとも構成の一部とする積層構造体の製造方法として,積層された各層の長手方向側縁部近傍を圧着手段で剥離可能に接合すること」(以下,本件審決に倣い,便宜上「周知事項1」という。)が本件出願前の周知事項にすぎないと認定したが,以下のとおり,この認定は誤りである。 ア「剥離可能に接合すること」について(ア)周知事項1にいう「剥離可能に接合」の意義本件審決(9頁2〜5行,同頁13〜17行)が周知事項1を適用するなどして相違点1に係る本件各発明の構成が想到容易である旨の結論を導いていることからすると,周知事項1にいう「剥離可能に接合」は,本件各発明の「剥離可能に接合」を,すなわち,複数枚の積層されたパック材がその接合面で1枚ごとに剥離することができるように接合されていることを意味するものと解される。 (イ)本件検証物本件検証物においては,それを構成する中綿と不織布とが1枚ごとに剥離可能に接合されておらず,本件検証物を2枚ないし3枚に割くと,割けた表面が毛羽立ち(割けた表面が毛羽立つとの点は,被告も認めるところである。),外側の不織布と中綿の境界を認識することもできず,また,長手方向の端部圧着凹部が存在することにより,割くのが困難である(なお,ここでいう「割く」ことと,本件各発明の「剥離」とは,後記(3)アのとおり,その技術的意義を異にするものである。)から,本件検証物に周知事項1が示されているということはできない。 (ウ)周知例2及び3の記載周知例2及び3に記載された技術(なお,両周知例の内容は,同一である。)は,化粧綿に係るものであるところ,両周知例には,積層された各層を「接合」することについての記載は全くない。 イ「積層構造体の製造方法として(接合すること)」について(ア)周知事項1にいう「積層構造体の製造方法」の意義取消事由1に係る主張(1)イのとおり,「積層構造体」の語が一度だけ登場する引用例にも,その形態についての具体的な記載はない(なお,本件各発明においても,「積層構造体」との概念は用いられていない。)ところ,周知事項1においても,「積層構造体」及びその「製造方法」の意義が明らかにされているということはできない。 (イ)周知例1の記載周知例1の記載(1頁1欄20〜23行,同欄25〜27行,同頁2欄11〜15行,2頁3欄1〜4行)によると,同周知例に記載された化粧用塗布具は,2枚の多孔質シート素材の間に化粧料を入れ,これを液体化粧料により溶解した後,塗布の目的で当該2枚の多孔質シート素材を剥離するというもの(剥離しなければ塗布を行うことができないもの)であり,これを一般化して,同周知例に「積層構造体の製造方法」についての記載があるということはできない。 (ウ)周知例2及び3の記載周知例2及び3に記載された技術は,化粧綿に係るものであるところ,両周知例には,「積層構造体の製造方法」についての記載は全くない。 (3)周知事項2の認定本件審決(8頁34行〜9頁1行)は,相違点1の判断に当たり,周知例4の記載を根拠として,「化粧用コットンを一枚毎に剥離して,パック材として使用すること」(以下,本件審決に倣い,便宜上「周知事項2」という。)が化粧に関する分野において本件出願前の周知事項にすぎないと認定したが,以下のとおり,この認定は誤りである。 ア周知例4の記載内容について周知例4には,「湿らせたコットンに化粧水を含ませます」及び「そして,コットンを縦に割いて使います」との記載並びに顔面にパックをする様子が示されたイラストがあるのみ(72頁)であり,化粧用コットンを1枚ごとに剥離してパック材として使用することについての記載・示唆は一切ない。 なお,「割く」の語の意義(「一つにまとまったものに切れ目などを入れ,強引に二つ(以上)に引き離す作用・行為をいう」(株式会社岩波書店昭和58年12月6日発行の「広辞苑第三版」。甲28))からすると,周知例4の上記「コットンを縦に割(く)」との記載は,あらかじめ分離可能に重ねられたコットンをその分離可能な元々の境界面において分離することではなく,一体的にまとまったコットンを任意の箇所から無理に分けて使うことを意味するものと解すべきである。 この点に関し,被告は,「剥離」の語の意味を根拠に,周知例4の72頁のイラストに周知事項2が記載されている旨の主張をするが,同周知例には,「1枚ごとに剥離」するとの記載は一切ないのであるから,被告の主張は失当である。 イ周知例4の記載内容の周知性について周知例4(第3刷)は,本件出願(平成16年6月14日)のわずか半年前(同年1月15日)に発行されたものであり,そのような時期に発行された刊行物を唯一の根拠として,周知事項2が本件出願当時の周知事項であったものと認めることはできない。 本件審決(9頁28〜31行)は,原告の上記主張を採用することができない理由として,周知例4の著者である佐伯チズ(以下「佐伯」という。)が化粧に係る分野における著名な人物であること及び周知例4の第1刷の発行(平成15年11月13日)から2か月後にその第3刷が発行されたことを挙げるが,佐伯は,本件出願の1年前である平成15年6月までは,企業の一従業員にすぎず,定年退職後,エステサロンの経営や執筆活動を開始した(甲1)ものであり,本件出願前に出版した書籍は3冊にとどまる(甲27の1ないし7)のであるから,佐伯が本件出願当時に著名な人物であったということはできないし,周知例4の第1刷の発行から2か月後にその第3刷が発行されたことをもって,同周知例に記載された事項が本件出願当時の周知事項であったということはできない。なお,佐伯が著名となったのは,その著書「美肌革命」による(甲33の4(同書の平成18年10月時点における発行部数累計は,46万部に上る。),甲34)ところ,同書が発行されたのは,本件出願後である平成16年7月22日(甲27の6)である。 (4)化粧用シート部材を剥離可能に接合し,これを化粧用パック材とするとの構成についての判断本件審決(9頁2〜5行)は,引用発明に周知事項1及び2を適用して,引用発明の各層(化粧用シート部材)を剥離可能に接合するとともに,これを化粧用パック材とすることは当業者が容易になし得ることであると判断したが,周知事項1及び2の各認定がいずれも誤りであることは前記(2)及び(3)のとおりであるし,引用発明において,単位コットンの各層を1枚ごとに剥離可能とし,パック材として使用可能とすることなどあり得ないのであるから,本件審決の判断は誤りである。 (5)化粧用シート部材を適宜の大きさ及び厚さのものとするとの構成についての判断本件審決(9頁5〜9行)は,引用例の記載を根拠に,引用発明の各層(化粧用シート部材)を適宜の大きさ及び厚さのものとすることは当業者が容易になし得たことであると判断した。 しかしながら,本件各発明は,パック材とパッティング材に兼用するために好適な構造(1つのパッティング材をパッティングに使用した後,これを複数枚のパック材として再利用することができる構造)を提供するものであり,本件各発明においては,パックに適する厚さのパック材を複数枚積層することにより,パッティングに適した厚さのパッティング材が構成され,したがって,パッティング材の厚さがパック材のそれよりも大きいことが前提とされている。 そうすると,本件審決は,好適な厚さが異なるパック材とパッティング材に兼用するのに適した構造を提供するとの本件各発明の基本思想を看過して上記判断をしたものであって,誤りであるというべきである。 (6)化粧用シート部材にウォータジェット噴射による表面加工をするとの構成についての判断本件審決(9頁13〜17行)は,引用発明の各層(化粧用シート部材)を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用可能とする際,その使用態様に合わせて各層(化粧用シート部材)にウォータジェット噴射による表面加工(以下「WJ加工」という。)をすることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることであると判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。 ア引用発明の各層(化粧用シート部材)を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用可能とすることが当業者において容易に想到し得たものでないことは,前記(4)のとおりである。 イ引用発明においては,単位コットンこそが,WJ加工等によりふっくらと仕上げられ,使用(気密性包装袋からの取り出し)の1単位となるものである(【請求項1】,【0009】,【0011】)から,仮に引用発明の単位コットンが複数層の積層構造体により構成されているとしても,使用に際して各層ごとに取り出されてしまう事態は避けなければならないところ,引用発明の各層にWJ加工がされると,使用に際して各層ごとに取り出されてしまうことになるのであるから,引用発明の各層とWJ加工とが結び付くことは決してあり得ない。 ウわざわざWJ加工がされた化粧用パック材を後に1枚ごとに剥離することができるように複数枚積層して接合し,パック材とは別の用途を持つ化粧用パッティング材を構成するとの本件各発明の技術的思想は,引用例を始めとするいずれの刊行物にも記載されていない。 〔被告の主張〕(1)本件各発明の使用方法に係る構成についての判断原告は,本件各発明の使用方法に係る構成のうち「該パッティング材から前記パック材を一枚毎剥離し」との部分が,本件各発明の「パック材が剥離可能に接合されて成り」との構成をより明確に規定するものであるなどと主張するが,圧着手段によってパック材が剥離可能に接合された場合,通常は,接合面で剥離可能となるものである(現に,周知例1に記載された化粧用塗布具においても,接合面で剥離可能となっている。)から,原告の主張は失当である。 また,原告は,本件各発明の使用方法に係る構成が,時系列的に前後する2つの用途に使用し得る構造を有する本件各発明のパッティング材につき,これを1つの使用方法を通して特定した点において重要な意味を有するとも主張するが,そのような使用方法は,本件各発明の「化粧用パッティング材は側縁部近傍を圧着手段によってパック材が剥離可能に接合されて成り」との構成により可能となるものにすぎないから,原告の主張は理由がない。 したがって,相違点1に係る各構成のうち本件各発明の使用方法に係る構成が実質的な相違点でないとした本件審決の判断に誤りはない。 (2)周知事項1の認定ア「剥離可能に接合すること」について(ア)本件検証物本件検証物が「中綿の両面に,…不織布を積層してなり,長手方向の両側縁部近傍の表裏両面に線状の圧着凹部が形成され,…剥離可能に接合されている」との構成を有すること(本件審決7頁4〜7行)は,原告も認めるところである。 現に,本件検証物は,圧着凹部を剥離して,中綿と不織布とをその境界で分離することができる(なお,本件検証物を水で濡らした状態にすると,分離した際の中綿の毛羽立ちがかなりの程度軽減される。)ものである。 この点に関し,原告は,本件検証物において割けた表面が毛羽立つことを根拠に,本件検証物に周知事項1が示されているということはできないと主張するが,周知事項1の認定に供されたのは,本件検証物が示す上記構成であって,割けた表面の毛羽立ちの状態ではないから,原告の主張は失当である。 (イ)周知例2及び3の記載周知例2及び3には,化粧用品において,積層構造とすることができるシート状のコットンにプレスラインを圧着・形成することが記載され,両周知例の図3に示されたところも併せ考慮すると,両周知例は,少なくとも,コットンの各層を圧着手段によって剥離可能に接合し得ることを示唆し,又は動機付けているということができる。 イ「積層構造体の製造方法として(接合すること)」について(ア)周知事項1にいう「積層構造体の製造方法」の意義周知事項1にいう「積層構造体の製造方法」については,各層の接合手段が問題とされていることからすると,積層された各層を接合して積層構造体とする方法を意味するものであることは明らかである。 (イ)周知例1の記載周知例1の記載(1頁2欄19〜27行)によると,同周知例の多孔質シート素材が化粧用シート部材であることは明らかであるから,同周知例には,2枚の化粧用シート部材を剥離可能に接合する技術が記載されているということができる。そして,同周知例の記載(1頁2欄34行〜2頁3欄4行)によると,接合された2枚の化粧用シート部材(シート1及び1′)は,その接合面において1枚ごとに剥離可能なものとされているということができるから,同周知例には,2枚の化粧用シート部材を接合して積層構造体とすることについての記載があるというべきである。 (ウ)周知例2及び3の記載上記ア(イ)のとおりである。 (3)周知事項2の認定ア周知例4の記載内容について周知例4の72頁には,「コットンを縦に割いて使います」との記載とともに,1枚のシート状のコットンを5枚に剥離する様子を示したイラスト及び剥離した5枚のそれぞれをパック材として顔面にパックをする様子を示したイラストが描かれているところ,同周知例のこれらの記載及びイラストは,本件出願前から化粧水によるパッティング等に一般的に使用されてきたシート状の化粧用コットン(周知例2及び3並びに平成9年12月3日発行の特許第2683600号公報(甲6。以下「甲6公報」という。))について,これを1枚ごとに剥離し,剥離したそれぞれをパック材として使用すること(周知事項2)を示すものということができる。 なお,化粧用コットンは,コットン繊維を積層したものであるため,層の境界から容易に剥離することのできるものである。 また,「剥離」とは,「はぎはなすこと」を意味する(株式会社岩波書店平成3年11月15日発行の「広辞苑第四版」。乙2)ところ,周知例4の72頁のイラストには,1枚の化粧用コットンをシート状に剥がし,剥がしたシート状のコットンを1枚ごとにパック材として使用することが示されているのであるから,これをもって,1枚ごとに「剥離」し,「剥離」したそれぞれをパック材として使用するものと認定することに何ら誤りはない。 イ周知例4の記載内容の周知性について佐伯は,その著書「佐伯チズの頼るな化粧品!」により著名となったものである(乙3)ところ,同書が出版されたのは,本件出願の約1年前である平成15年7月10日(甲27の3)である。さらに,乙5によると,佐伯は,平成13年以前において,既に著名であったことがうかがわれる。 また,周知例4の第1刷ないし第3刷に係る発行部数は,それぞれ1万2000部,1万部及び8000部であるから,本件出願前に既に第3刷の発行がされていた同周知例の記載内容は,その点からも周知であったということができる。 (4)化粧用シート部材を剥離可能に接合し,これを化粧用パック材とするとの構成についての判断前記(2)及び(3)のとおり,周知事項1及び2についての本件審決の認定に誤りがないことに加え,周知事項1及び2が,いずれも化粧用コットン(化粧綿)等のシート状の化粧用品に関するものである点において引用発明が属する技術分野と互いに関連する技術分野に属するものであり,引用発明に周知事項1及び2を適用することについての動機付けがあること,同じく,引用発明が属する技術分野と互いに関連する技術分野に属する周知例1に,接合された2枚の化粧用シート部材(シート1及び1′)が,その接合面において1枚ごとに剥離可能なものとされていることについての記載があること,複数枚を積層した化粧用シート部材を圧着手段により剥離可能に接合する構成を採用すると,当然に,接合面において1枚ごとに剥離可能となることをも併せ考慮すると,引用発明に周知事項1及び2を適用して,引用発明の各層(化粧用シート部材)を剥離可能に接合するとともに,これを化粧用パック材とすることは当業者が容易になし得ることであるとした本件審決の判断に誤りはない。 (5)化粧用シート部材を適宜の大きさ及び厚さのものとするとの構成についての判断引用例には,単位コットン(化粧用パッティング材)が使用形態によって適宜の大きさ及び厚さのものに仕上げられることについての記載があるのであるから,審査基準が想定する当業者であれば,化粧用シート部材を積層して化粧用パッティング材とする際,それぞれの厚さを考慮するのは当然のことであり,したがって,本件審決の判断に誤りはないというべきである。 (6)化粧用シート部材にWJ加工をするとの構成についての判断ア引用発明の各層(化粧用シート部材)を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用可能とすることが当業者において容易に想到し得たものであることは,前記(4)のとおりである。 イ審査基準が想定する当業者であれば,引用発明にWJ加工の技術を適用する場合において,その使用態様に合わせ,単位コットンの各層(化粧用シート部材)を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用可能とするときは,各層(化粧用シート部材)にWJ加工を施すものである(これに対し,単位コットンを剥離せずにそのまま使用するだけであるならば,単位コットンの表面のみにWJ加工を施すこととなる。)から,引用発明の各層にWJ加工の技術を適用することについて,原告が主張するような阻害要因があるということはできない。 3取消事由3(相違点2についての判断の誤り。本件発明2及び3関係)について〔原告の主張〕本件審決(本件発明2につき10頁17〜25行,本件発明3につき11頁14〜16行)は,周知例5ないし8の記載を根拠として「綿に対して,肌触りや柔軟性を増すために,スチーム処理や熱ロールをかけること」(以下,便宜上「周知事項3」という。)が本件出願前の周知事項にすぎないと認定した上,相違点2に係る構成について,引用発明に周知事項3を適用することにより当業者が容易に想到し得たものであると判断したが,スチーム処理や熱ロールをかけること自体が周知事項であるとしても,パッティング材を構成する複数枚のパック材のそれぞれについてスチーム処理を施したり熱ロールをかけたりして柔軟性を増すことが本件出願前の周知事項であるということはできないから,周知事項3を前提とする本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕コットン製品について,その使用態様に応じ,周知のスチーム処理及び熱ロールを必要な箇所に施すことは,審査基準が想定する当業者であれば,容易に想到し得ることであるから,積層構造体の各層を構成する化粧用シート部材(コットン製品)を1枚ごとに剥離して使用する場合にも,その使用態様に応じ,各層に周知のスチーム処理及び熱ロールを施すことは,審査基準が想定する当業者であれば,適宜なし得ることにすぎない。 4取消事由4(相違点3についての判断の誤り。本件発明3関係)について〔原告の主張〕本件審決(11頁18〜28行)は,引用発明に周知事項1を適用して積層された複数のコットンの長手方向側縁部近傍を圧着手段で剥離可能に接合した際に,「その長手方向側縁部近傍の表裏両面に線状の圧着凹部を形成すること」(以下,便宜上「周知事項4」という。)が周知例2及び3並びに本件検証物に示されるように本件出願前の周知事項にすぎないと認定した上,相違点3に係る構成について,引用発明に周知事項4を適用することにより当業者が容易に想到し得たものであると判断したが,取消事由2に係る主張(2)のとおり,周知事項1が本件出願当時の周知事項であったものと認めることはできないほか,周知例2及び3には,積層された各層を接合することについての記載は全くなく,両周知例を根拠に周知事項4が本件出願当時の周知事項であったものと認めることはできないから,周知事項1及び4を前提とする本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕周知事項1に係る本件審決の認定及びこれを前提とする相違点1についての本件審決の判断に誤りがないことは,取消事由2に係る主張のとおりであるから,相違点3についての本件審決の判断にも誤りはない。 5取消事由5(格別顕著な作用効果を看過した誤り。本件各発明関係)について〔原告の主張〕相違点1に係る構成を有する本件各発明は,1つのパッティング材をパッティングに使用した後,これを複数枚のパック材として再利用することができるもの(1つの物を時系列的に前後する2つの用途に使用することができるもの)であり,また,WJ加工により,パッティング動作時及びパック材としての使用時の双方において,パッティング材及びパック材の表面が毛羽立つことがないという格別の作用効果を奏するものであるところ,これらの作用効果は,引用例その他の刊行物に記載も示唆もされていないものであるから,本件各発明による効果も引用発明及び周知事項から当業者が予測し得た程度のものであって格別のものとはいえないとした本件審決(本件発明1につき9頁21〜22行,本件発明2につき10頁26〜27行,本件発明3につき11頁29〜30行)の判断は誤りである。 〔被告の主張〕周知例4には,化粧用コットンを複数枚に剥離し,それぞれをパック材としてパックに使用することについての記載があるところ,これは,化粧水によるパッティング等に一般的に使用される1つの化粧用コットン(周知例2及び3並びに甲6公報)を2つの用途(パッティング及びパック)に使用し得ることを示すものであるから,原告が主張する「1つのパッティング材をパッティングに使用した後,これを複数枚のパック材として再利用することができる」との作用効果は,周知例4に記載されたものにすぎない。 また,WJ加工は,元来,表面を平滑化して毛羽立ちを防止するために行うものであるから,原告が主張する「パッティング動作時及びパック材としての使用時の双方において,パッティング材及びパック材の表面が毛羽立つことがない」との作用効果も,当業者であれば当然に予測し得る範囲内のものであり,何ら格別のものではない。 第4当裁判所の判断1取消事由1(一致点の認定の誤り。本件各発明関係)について(1)「化粧用シート部材」である点において一致するとした認定本件各発明の「化粧用パック材」及び引用発明の「各層」が,これらの上位概念である「化粧用シート部材」に該当するものであることは明らかであるところ,本件審決は,前記第2の3(2)のとおり,本件各発明の「化粧用パック材」及び引用発明の「各層」に係る具体的な構成の相違を相違点1として認定しているのであるから,本件各発明の「化粧用パック材」及び引用発明の「各層」が「化粧用シート部材」において一致するとした本件審決の認定に誤りはないというべきである。 この点に関し,原告は,引用発明の「各層」がどのような形態のものであるのかについて全く明らかではないなどと主張するが,この点について,本件審決が本件各発明と引用発明との相違点1を認定していることは上記のとおりであるから,原告が主張するところをもって,本件各発明と引用発明との一致点に係る本件審決の認定が誤りであるということはできない。 (2)「化粧用シート部材」につき「複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成する」との点において一致するとした認定引用発明が「…複数層の積層構造体である単位コットン1」(引用例の図1に示された1つのコットン)であること及び本件各発明と引用発明とが「化粧用パッティング材」であるとの点において一致することについては,原告も,これを争うものではないところ,本件各発明の「化粧用パッティング材」も,「該パック材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成(する)」ものであり,また,上記(1)のとおり,本件各発明の「化粧用パック材」と引用発明の「各層」とは,「化粧用シート部材」であるとの点において一致するのであるから,本件各発明と引用発明とが,当該「化粧用シート部材」につき「複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成する」との点において一致するとした本件審決の認定に誤りはないというべきである。 この点に関し,原告は,引用発明の「各層」がそれ自体化粧用コットンとして使用可能なものであるかなどについて全く明らかではなく,当該「各層」が本件各発明のように「複数枚」が積層されたものと認めることはできないなどと主張するが,上記(1)において説示したのと同様,この点について,本件審決は,本件各発明の「化粧用パック材」及び引用発明の「各層」に係る具体的な構成の相違を相違点1として認定しているのであるから,原告の主張するところをもって,本件各発明と引用発明との一致点に係る本件審決の認定が誤りであるということはできない。 (3)小括したがって,取消事由1は理由がない。 2取消事由2(相違点1についての判断の誤り。本件各発明関係)について(1)化粧用シート部材にWJ加工をするとの構成に係る解決課題アWJ加工に係る本件各発明の解決課題に関連して,本件明細書には,次の記載がある。 【背景技術】【0003】…汎用のパッティング材は,夫々化粧水を含浸させて用いられるのであるが,化粧水をパッティング材に含浸させ,そして,このパッティング材を用いてパッティング動作を施した後には,該汎用のパッティング材は廃棄される。然るに,廃棄されるパッティング材には未だ多量の化粧水が残存しているのが通例であり,極めて不経済であった。 【0004】更に又,単に繊維を積繊して塊状に形成した…パッティング材では,該塊状のパッティング材を引き剥がし,そして,該引き剥がしたものを顔面に装着してパックと同様の使い方を為すことも考えられる。…【0005】然し乍ら,単に繊維を積繊して塊状に形成したパッティング材の場合に於いては,引き剥がす際に繊維が毛羽立つためパック材としての使用には適しない。 【発明が解決しようとする課題】【0007】上記汎用品…のパッティング材の有する欠陥に鑑み,この欠陥を克服すべくパッティング材に化粧水を含浸させてパッティングし,そして,このパッティング動作が終了後,該パッティング材に残存している化粧水をパックとしての再利用ができるようにするために解決せられるべき技術的課題が生じてくるのであり,本発明は該課題を解決することを目的とする。 【課題を解決するための手段】【0008】本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり,請求項1記載の発明は…化粧用パック材であって,該パック材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成し,且つ,該化粧用パッティング材は…パック材が剥離可能に接合されて成り,該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし,該パッティング動作終了後,該パッティング材から前記パック材を一枚毎剥離し,該剥離したパック材を顔面…に…装着させてパックできるように構成されたことを特徴とする化粧用パッティング材を提供するものである。 【0010】…パッティング動作が終了したときには,このパッティング材を廃棄することなく一枚毎に剥離し,そして,剥離した各パック材を顔面…に…装着して該パック材に残存している化粧水を用いてパックすることができる。 【0011】次に,請求項2記載の発明は,上記パック材はコットンにて形成され,且つ,ウオータジェット噴射によって表面加工され…て成ることを特徴とする請求項1記載の化粧用パッティング材を提供するものである。 【0012】この構成によれば,パック材はコットンをウォータジェット製法によって製造されるので,各パック材は,繊維が交絡し表面が平滑化される。すなわち,平滑化とはコットンの短い繊維が交絡し縞状の微細な凹凸模様が形成されている状態であって,パック材として使用するとき,或いはパッティング材として使用するときにも毛羽立たず,強度が保たれるため型崩れしにくいものとなる。 イ上記本件明細書の記載及び本件訂正後の請求項1の記載(前記第2の2)によると,本件発明1及び2並びにこれらのいずれかを引用する形式をとる本件発明3は,化粧水を含浸させてパッティングに用いる従来のパッティング材につき,パッティング動作の終了後もパッティング材に残存する化粧水をパック用に再利用するため,複数枚の化粧用パック材を剥離可能に接合して化粧用パッティング材を形成し,これをパッティングに使用した後,化粧用パック材を1枚ごとに剥離し,これをパック材として使用することができるようにしたものであるところ,従来のパッティング材のように単に繊維を積繊してパッティング材を形成した場合には,剥離の際に繊維が毛羽立ち,パック材としての使用に適さないことから,個々の化粧用パック材にWJ加工を施すことにより,その表面を平滑化し,パッティング材として使用する際はもちろんのこと,剥離してパック材として使用する際にも,表面が毛羽立たないようにするなどしたものということができる。 ウしたがって,本件各発明において,個々の化粧用パック材にWJ加工を施すことにより解決すべき主たる課題は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止にあったということができる。 エそして,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することが,本件出願当時の当業者にとって自明又は周知の課題であったと認めるに足りる証拠はなく,かえって,被告が,化粧用コットンはコットン繊維を積層したものであるため層の境界から容易に剥離することのできるものであると主張するところ(取消事由2に係る主張(3)ア)に照らすと,本件出願当時の当業者は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することを解決課題として認識していなかったものと認めるのが相当である。 (2)化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各部材)にWJ加工を施す動機付けアまず,引用例その他の刊行物の記載についてみる。 (ア)引用例には,次の記載がある。 【0002】【従来の技術】…化粧用コットンはソフトな肌ざわりで,保水性・吸水性に優れた綿製品であり,多くの場合は天然綿100%の素材を織り上げて使用し,必要に応じて不織布等を積層する等して,平面四角形状を呈する板片状に形成されている。 【0003】この化粧用コットンは,…柔らかな板片状の単位コットンに仕上げられ,このような単位コットンを100枚前後をひとまとめにして箱や袋に詰めて販売製品としているのが実情である。 【0004】【発明が解決しようとする課題】上記の化粧用コットンは,元来ふんわり感が出るように予め形成されているから,コットン素材は内部に多くの空気を含んで嵩張った状態となっており,このままの状態で単位コットンを包装した場合には,完成した販売製品も嵩張ったものとなってしまう。…【0006】このため,本発明はコットンの使用性を落とすことなく,コットンの嵩を約半分に圧縮した圧縮包装コットンを提供して,上述の問題点を解消せんとするものである。 【0007】【課題を解決するための手段】本発明の課題を解決するための手段として,まず請求項1記載のものは,圧縮状にした単位コットンを,複数枚ごとにまとめて気密性包装袋で個別包装したことを特徴とする圧縮包装コットンである。 【0009】本発明によれば,圧縮状にした単位コットンを複数枚ごとに気密性包装袋で個別包装したので,保管・輸送や店頭展示中に,コットンが元来の嵩に復元することはなく,従来の製品と比較して約半分の嵩で販売製品が完成し,…気密性包装袋を破いて中の単位コットンを取り出した際には,圧縮されていた単位コットンが外の空気を吸収して元の厚みに復元し,本来の使用感の良い化粧用コットンが得られる。 【0011】…単位コットン1は天然綿等を素材とし,ウオータージェット加工等の手法によりふっくらと仕上げられ,毛羽立ちが少ない肌にやさしい状態のものに仕上げられている。この単位コットンは,必要に応じて複数層の積層構造体に…しても良い。 (イ)甲7(実願昭54-151142号(実開昭56-69309号)のマイクロフィルム。以下「甲7刊行物」という。)には,次の記載がある。 a従来使用されている化粧用綿体は,天然繊維,再生繊維又はポリオレフイン系の繊維から成っているが,これらの綿体は使用時に繊維が若干離脱してこれが顔に付着する欠点がある。又この繊維離脱を防止するために接着剤で固定したものもあるが,化粧水が揮発性を有するものであるから,化粧水含水時に接着剤が溶解されその溶出液が顔面を汚す欠点がある。本考案は斯る欠点を解消するものであって,要旨とするところは吸収綿体を異質の不織布で挟んだ点にあり,…液体を吸収保持する綿体1が,ウオータージエツト加工等による繊維の絡み合いにて成型された短繊維スパンボンド方式の不織布2と,多孔質のアクリル繊維からなる不織布3とに挟まれ,一対の対向する側縁部4,4′が熱圧着された構成となっている(1頁(明細書の頁数である。以下,甲7刊行物について同じ。)13行〜2頁13行)。 b綿体が異質の不織布で挟まれているために綿体を構成する繊維の両面からの離脱が押えられると共に特にパツテイング面として使用する面が絡み構成となった短繊維スパンボンド方式の不織布であるから,湿潤時の強度に優れ,離脱繊維防止のために接着剤を使用する必要がないと共に離脱繊維或いは溶出液の顔面への付着が無く,優れたパツテイング機能が発揮できる(3頁2〜10行)。 (ウ)甲11(実公平1-22570号公報。以下「甲11公報」という。)には,次の記載がある。 a従来の化粧綿は,繊維ウエブのみからなり,実用に供されてきたが,使用中繊維の一部が肌に残るいわゆる繊維残りが顕著であり,これが大きな欠点となつていた。前述のような繊維残りを解消するために,繊維ウエブに不織布を重ね合わせて一体化したものも提案されている。しかし,このような化粧綿は,不織布の柔軟性が不足するために,…硬い感触となり肌ざわりが悪くなつてしまう。そこで最近では高圧水を噴射することにより柔軟性を付与した,いわゆるウオータージエツト加工不織布を表面材に使用した化粧綿が多数見受けられるようになつた。例えば,レーヨン長繊維スパンボンド不織布やレーヨン短繊維スパンボンド不織布のウオータージエツト加工品が使用されている。ところが,前者は,…こする等の動作を加えた際,形くずれを起こすので優れた化粧綿表面材とはいえない。また後者は,…柔軟性が不十分であり,肌ざわりにおいては触感が優れたものとは言い難い。従つてウオータージエツト不織布といえども,化粧綿表面材に使用した場合には,形くずれ又は肌ざわりの点で不十分であり,使用者が満足できるような化粧綿は得られていない。本考案は,以上のような欠点を排し,繊維残り及び形くずれが少なく,柔軟で肌ざわりの良い化粧綿を提供するものである。即ち本考案は,内層を表面材で被覆してなる化粧綿において,表面材が,疎水性繊維を10〜50重量%混抄したレーヨン短繊維スパンボンド不織布に高圧水を噴射して得られたものであることを特徴とする化粧綿に係るものである(1頁1欄10行〜2欄15行)。 b表面材2は…疎水性繊維5が混抄されていることにより,レーヨン繊維4同志の結合がやや弱められたものである。レーヨン短繊維の繊維長は…20mmを越えると結合がしにくくなり横方向の強度が低下する。前記不織布に混抄される疎水性繊維の例としては…肌ざわりの点からポリエステルが最適である。…疎水性繊維の表面材に占める割合は,重量比率で10%〜50%であることが必要である。これよりも少なければ,柔軟性及び肌ざわりの点で不十分である…(1頁2欄27行〜2頁3欄17行)c本考案に於ける表面材の性質は,噴射される高圧水の水圧に大きく影響される。即ち,水圧が30kg/cm 以下では,…柔軟性及び肌ざわりの点で十分な2ものとはならない(2頁3欄21行〜4欄3行)。 イ上記引用例の記載によると,WJ加工は,ふっくらと仕上げられ,内部に空気を含んでかさ張った状態となる単位コットンを圧縮包装するとの構成を採用した発明において,単位コットンをふっくらとした,毛羽立ちが少なく,肌に優しい状態のものに仕上げるための手法の一例として挙げられているにすぎず,その他,引用例には,積層構造体として形成された単位コットンから各層を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため,各層にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆はない。 また,上記甲7刊行物の記載によると,WJ加工は,綿体の繊維離脱を防止するために綿体を2枚の不織布で挟むとの構成を採用した考案において,パッティングに使用する側の不織布につき,その繊維を絡み合わせて成型し,湿潤時における強度を上げるなどするための手法の一例として挙げられているにすぎず,その他,甲7刊行物には,パッティング材からシート部材を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため,各シート部材にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆はない。 さらに,上記甲11公報の記載によると,同実用新案登録出願に係る考案は,従来の化粧綿(繊維残りを解消するため繊維ウェブ(内層)に不織布(表面材)を重ね合わせて一体化した上,柔軟性を付与するため不織布(表面材)にWJ加工を施したもの)がなお有する課題(形崩れを起こすこと又は柔軟性が不十分で触感に優れないこと)を解決することを目的とし,形崩れが少なく,かつ,柔軟で肌触りの良い化粧綿とするため,所定の量の疎水性繊維を混抄したレーヨン短繊維スパンボンド不織布(表面材)に高圧水を噴射するとの加工を施すというものにすぎず,その他,甲11公報には,化粧綿からシート部材を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため,各シート部材にWJ加工ないし高圧水を噴射するとの加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆はない。 ウそして,その他,本件全証拠によっても,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)が存在するものと認めることはできない。 (3)本件審決の判断の当否上記(1)及び(2)のとおり,化粧用パック材にWJ加工を施すとの本件各発明の構成は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止を主たる解決課題として採用されたものであるところ,同課題が本件出願当時の当業者にとっての自明又は周知の課題であったということはできず,また,引用例を含め,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)は存在しないのであるから,仮に,本件審決が判断したとおり,引用発明に周知事項1及び2を適用して各層(化粧用シート部材)の側縁部近傍を圧着手段により剥離可能に接合するとともに,各層を化粧用パック材として使用することが,本件出願当時の当業者において容易になし得ることであったとしても,また,引用発明の単位コットン(化粧用パッティング材)がWJ加工を施したものであることを考慮しても,これらから当然に,各層を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用する際にその使用形態に合わせて各層にWJ加工を施すことについてまで,本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得ることであったということはできず,その他,引用発明の各層にWJ加工を施すことが本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得たものと認めるに足りる証拠はないから,相違点1に係る各構成のうち化粧用パック材にWJ加工を施すとの構成についての本件審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。 この点に関し,被告は,審査基準が想定する当業者であれば,引用発明の各層を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用するときは各層にWJ加工を施すものであるなどと主張するが,上記説示したところに照らすと,そのようにいうことはできないし,その他,被告主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離された各層(各部材)にWJ加工を施すことは引用発明から容易に想到し得るものではないのに,この点を看過した相違点1についての本件審決の判断は誤りであるというほかなく,原告主張の取消事由2は理由があるといわなければならない。 3結論以上の次第であるから,取消事由2に理由がある以上,その余の各取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 本多知成 |
裁判官 | 浅井憲 |