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関連審決 無効2008-800137
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  物の発明 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的手段 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10059号 審決取消請求事件
原告丸 仲工業株式会社
同訴訟代理人弁護士石川幸吉
被告アルメックスPE株式会社
同訴訟代理人弁理士永井義久 井上一
同訴訟復代理人弁理士梶俊和
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2008-800137号事件について平成21年2月4日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,下記2の発明に係る特許に対する被告の無効審判請求について,特許庁が同請求を認めて当該特許を無効とした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯原告は,平成10年7月30日,発明の名称を「均一メッキ処理を可能に(1)した電気メッキ処理システム」とする特許出願をし,平成11年6月25日,設定の登録(特許第2943070号。請求項の数4)を受けた(甲9 。)被告は,平成20年7月31日,前記特許に係る明細書(以下「本件明細(2)書」という )の特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された発明(以下,それ 。
ぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」といい,併せて「本件発明」という )に。
ついて,特許無効審判を請求し(乙4 ,無効2008-800137号事件とし )て係属した。
特許庁は,平成21年2月4日 「特許第2943070号の請求項1及び(3) ,3に係る発明についての特許を無効とする 」との本件審決をし,同月17日,そ 。
の謄本を原告に送達した。
2本件発明の要旨本件発明の要旨は,それぞれ次のとおりである。
本件発明1( 請求項1 )(1) 【】以下の あ ないし か の分説は本件審決に倣い,それぞれ「構成要件 あ 」ないし( )() ()「構成要件 か 」という。 ( )あ陰極バーとして機能するメッキ処理部用レール軌道(1)に横移動自在に ()支持された治具(2)によってメッキ処理されるプリント基板などのシート状短冊製品(W)の製品上部を懸垂状態に挟持し,前記メッキ処理部用レール軌道から治具を介して製品上部で給電しながらメッキ処理タンク(3)内の処理液中に複数の製品を横向きで直列にした搬送状態で搬送させながら電気メッキするメッキ処理工程(A)をもつ電気メッキ処理システムにおいて,(い)前記治具(2)に係合爪(25)を,該係合爪の係合部(26)として機能する下端部を前記治具の搬送方向に枢動可能となるように該係合爪の上端部を前記治具に軸支(27)することによってそれぞれ取付けると共に,(う)複数の係合歯(32)を等間隔に設けた等速度で駆動されるエンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルト(30)を該エンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルトの搬送軌道部(33)を前記メッキ処理工程(A)のメッキ処理タンク上に前記メッキ処理部用レール軌道(1)に沿って配設し,(え)この搬送軌道部にある前記メッキ処理部用歯付きベルトに対して,前処理工程(C)からメッキ処理工程へ前記治具に懸垂状態に挟持されたシート状短冊製品の横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅となるような所定の送りピッチで間欠的に順次送られてくる前記治具に取付けられた前記係合爪(25)の枢動する係合部(26)を該係合爪の上端軸支部に対して後退した傾斜位置となるように前記メッキ処理部用歯付きベルト(30)の搬送軌道部(33)上に載せて前記メッキ処理部用歯付きベルトの係合歯(32)と係合されるように構成し,(お)前記係合爪と係合された前記メッキ処理部用歯付きベルトの搬送駆動によって前記治具に懸垂状態に挟持された前記製品を該製品の横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅を維持しながら前記メッキ処理部用レール軌道(1)に沿って横向きで直列にした搬送状態で搬送させながら電気メッキするように構成した(か)ことを特徴とする均一メッキ処理を可能にした電気メッキ処理システム。
本件発明2( 請求項3 )(2) 【】前記係合爪(25)を,前記治具(2)に該治具の搬送方向に向けて所定の間隔をおいて複数取付けたことを特徴とする請求項1又は2記載の均一メッキ処理を可能にした電気メッキ処理システム。
3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件発明1は下記の引用例1ないし5に記(1)載された発明(以下,下記アないしキの各引用例に記載された発明については,その順に従って「引用発明1」などという )に基づいて当業者が容易に発明をする 。
ことができたものであり,また,本件発明2は引用発明5ないし7に基づいて当業者が必要に応じて適宜なし得るところのものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,無効とすべきである,というものである。
ア引用例1:特開平10-168600号公報(公開日:平成10年6月23日。甲1)イ引用例2:特開平10-158896号公報(公開日:平成10年6月16日。甲2)ウ引用例3:特開平5-311496号公報(甲3)エ引用例4:米国特許第5,558,757号公報(公開日:平成5年(1993年)6月8日。甲5。その訳文は甲11,14)オ引用例5:実願昭46-42322号(実開昭48-1480号)のマイクロフィルム(甲6)カ引用例6:特開平9-328212号公報(甲7)キ引用例7:特開昭63-202519号公報(甲8)なお,本件審決が上記判断に当たって認定した引用発明1並びに本件発明(2)1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
引用発明1:ワーク支持具により保持されたワークを,ワーク支持具に突出して設けられた係止体と送り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送させ,めっき槽中でめっき処理する電気めっき処理装置。
一致点:陰極バーとして機能するメッキ処理部用レール軌道に横移動自在に支持された治具によってメッキ処理されるプリント基板などのシート状短冊製品の製品上部を懸垂状態に挟持し,前記メッキ処理部用レール軌道から治具を介して製品上部で給電しながらメッキ処理タンク内の処理液中に搬送させながら電気メッキするメッキ処理工程(A)をもつ電気メッキ処理システム。
相違点1:本件発明1においては,メッキ処理タンク内の処理液中に複数の製品を横向きで直列にした搬送状態で搬送させながら電気メッキするのに対し,引用発明1では,複数の製品を搬送させながら電気メッキする点については明記されていない点。
相違点2:本件発明1においては,シート状短冊製品の「横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅となるような所定の送りピッチ」で移送するのに対し,引用発明1では具体的に明記していない点。
相違点3:シート状短冊製品を挟持した治具の搬送駆動方法として,本件発明1は請求項1の記載を分節した(い)〜(お)により特定される,係合爪,歯付きベルト及びこれらを係合するシステムを採用するのに対し,引用発明1では,治具上部に突出して設けられた係止体を送り爪に係合して移送している点。
4取消事由(1)引用発明1に係る認定の誤り(取消事由1)(2)引用発明5に係る認定の誤り(取消事由2)(3)相違点2に係る判断の誤り(取消事由3)(4)相違点1に係る判断の誤り(取消事由4)(5)相違点3に係る判断の誤り(取消事由5)第3当事者の主張1取消事由1(引用発明1に係る認定の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件審決(7頁13〜15行)は,引用発明1について,前記第2の3(2)のとおりと認定した。
しかしながら,引用例1(甲1)の記載によると,引用発明1は,ワーク支持具の発明( 請求項1】及び【0001 )とみるべきであって,その目的( 000 【 】 【5,その本質的構成( 0006 )のいずれからしても,引用発明1を「電気め 】)【】っき処理装置」の発明とした本件審決の認定は誤っている。
(2)また,本件審決(7頁7〜8行)は,引用例1の「前記ハンガー部4の極棒接続部3の上部には,ワーク支持具1を陰極バー2に沿って移送するため送り爪(図示せず)に係合される係止体17を突設してある 」との記載( 0010 ) 。【】をもって,引用発明1について 「ワーク支持具に突出して設けられた係止体と送 ,」,, り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送 させるものと認定したが 同段落には送り爪がどのような形態のものか,係止体がどのように送り爪と係合されるのかも記載されていないから,引用発明1からは「送り爪」がどの部材にどのように設けられているのか不明というべきであって,本件審決の認定は,証拠に基づかないものとして,違法である。
〔被告の主張〕(1)引用例1には,引用発明1が「電気めっき処理装置のワーク支持具 (前記」【請求項1】及び【0002 【0009】等)の発明であることを前提に,ワー 】,「」 ク支持具の一部として概念される物が開示されているほか電気めっき処理装置の構成部材としてのワーク支持具1を吊り下げて通電する陰極バー( 0009 , 【】【0016,ワーク支持具の係止体と係合してワーク支持具を陰極バーに沿って 】)移送するための送り爪( 0010,めっき槽の液面(図1及び【0010, 【】) 】)クランプ操作バーを駆動するエアシリンダー( 0013 )等が開示されているの 【】であるから,引用発明1を「ワーク支持具により保持されたワークを,ワーク支持具に突出して設けられた係止体と送り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送させ,めっき槽中でめっき処理する電気めっき処理装置」ということもできるのであって,本件審決の認定に誤りはない。
(2)また,原告は,引用発明1について 「ワーク支持具に突出して設けられた ,係止体と送り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送」させるものとした本件審決,(【】), の認定が証拠に基づかない認定であると主張するが 引用例10010には原告も指摘するとおり 「前記ハンガー部4の極棒接続部3の上部には,ワーク支 ,持具1を陰極バー2に沿って移送するため送り爪(図示せず)に係合される係止体17を突設してある 」と記載されているところ,その記載をもって本件審決の認 。
定は可能であるから,その認定の誤りをいう原告の主張は失当である。
2取消事由2(引用発明5に係る認定の誤り)について〔原告の主張〕(1)引用発明5の「搬送装置」ア本件審決(7頁17〜18行)は,引用発明5には,本件発明1で採用する搬送システムが記載されていると認定した。
,,「」,「」 イしかしながら 引用発明5は 搬送の システム ではなく 搬送の 装置,,( ) に関するものであって しかも パレット 引用例5である甲6の原文はパレツト等の被搬送物体の搬送中にスリップを生ずることなく正確な搬送がなされ,物体が障害物に当った場合のみ搬送を停止させるようにした搬送装置の改良構造に関するもの(引用例5の明細書1頁12〜15行)である。
すなわち,引用発明5の搬送装置は,チェーンコンベア(引用例5の原文はチエンコンベア)上に載置される荷台の改良を前提としているもので,荷台に格納された貨物の重量が荷台の底部面積を通じてチェーンコンベアに掛かることにより,荷台の底部面積とチェーンコンベア面との摩擦力がチェーンコンベア上に載置されただけの荷台を移動するチェーンコンベア上に固定するものとなっていた従来の搬送装置につき,荷台を物理的にチェーンコンベア上(滑走面2上)に固定する手段として,荷台に爪を設けてチェーンコンベアと係合させ,さらに,物体が障害物に当, ,「」 たった場合に 係合が外れるようにロッドを設けたものであるから 搬送の 装置にすぎないものであって,搬送の「システム」ではないことが明らかである。
そもそも,システムとは 「複数の要素が有機的に関係しあい,全体としてまと ,」(), まった機能を発揮している要素の集合体広辞苑第五版 をいうものであるから係止固定という具体的効果をもつ爪という構造物を荷台に付設したの物理的構成とを「搬送システム」とした認定は,事実を誤認するものである。
また,引用発明5の対象は,フォークリフトを用いて運搬する重量貨物であり,技術分野としても運送業あるいは建設業の分野に属するものであって,本件発明1におけるメッキ処理技術とは関連性がなく,技術分野が異なるものであるから,本件発明1についての引用例たり得ないものでもある。
(2)引用発明5の「爪」ア本件審決(7頁21〜28行)は,引用発明5の「爪」について 「 爪』は ,『上端部と下端部を有し,その上端部は軸(5)により枢着され,下端部はチェーンコンベアに係合して係合部として機能する…。また,当該『爪』は,下端部は重力により軸(5)を中心に時計方向に回転するようになっている…ため,軸(5)を中心として水平方向から時計回り下方にかけて搬送方向に枢動可能なように軸支されているとすることができる。したがって,当該『爪』は,本件発明1の係合爪と同一の機能・構造を有するものである 」と認定した。 。
イしかしながら,引用発明5の「爪」は,チェーンコンベアとパレットとの間の摩擦抵抗に頼っての搬送(引用例5の明細書1頁13〜15行)によって発生するスリップの防止とパレットが障害物に当たった場合に自動的にコンベアと爪との係合を外してコンベアやパレットの損傷を防止する(同2頁6〜10行)との目的・機能を有している。また,構造としても,引用例5の明細書添付図2から明らかなように,爪(4)の基部には「一端が上記パレット(3)の進行方向に突出し,他の一端が上記爪(4)の側部に当るように上記パレット(3)に軸受け(7)で」( )。 支承されたロッド引用例5の明細書2頁18行〜3頁1行 が設けられているこれに対し,本件発明1における係合爪は,引用発明5の「爪」と異なり,スリップの防止機能はもちろん,パレットが障害物に当たった場合に自動的にコンベアと爪との係合を外す機能も有していない。また,本件発明1は,引用発明5のように,貨物を格納するパレットに単体で付設されるものではなく,シート状短冊製品を懸垂状態につり下げる治具2に複数取り付けられ 「メッキ処理部用歯付きベル ,ト30の係合歯32と係合され…歯付きベルト30の搬送駆動によって前記治具2に懸垂状態に挟持された前記製品Wを該製品Wの横向き間隔を該製品Wの側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隔を維持しながら前記メッキ処理部用レール軌道1に沿って横向きで直列にした搬送状態で搬送させながら電気メッキする」(本件明細書7頁左欄2〜9行)ものであるところ,引用発明5の「爪」は,このような機能・構造を有していない。
したがって,引用発明5の爪と本件発明1の係合爪とを同一の機能・構造を有するものとした本件審決の認定は誤りである。
(3)引用発明5の「チェーンコンベア」ア本件審決(7頁30〜35行)は,引用発明5の「チェーンコンベア」につ,「『( )』 いて複数の係合部分である チェーンローラ 引用例5の原文はチエンローラを等間隔に有して等速度で駆動されている。そして 『爪』の一端は『チェーンコ ,ンベア』の『チェーンローラ』に係合して移送される…。このため,この『チェーンローラ』は,機能的・構造的にみて,本件発明1における『係合歯』に該当するといえ,結局『チェーンコンベア』は,本件発明1における『歯付きベルト』に対応する 」と認定した。。
イしかしながら,チェーンコンベアと歯付きベルトとは,機械部材として異なるものであるから,構造的に異なるものである。それにもかかわらず,本件審決のように,複数の係合部分である「チェーンローラ」を等間隔に有して等速度で駆動され 「爪」の一端は「チェーンコンベア」の「チェーンローラ」に係合して移送 ,するとの点だけを形式的に取り上げて,その相違点を否定するというのであれば,新たな発明が成立する余地がなくなるものといわざるを得ない。
引用発明5におけるパレット(3)の搬送構造は,被搬送物パレットの中央部に爪が設定され,その両側が滑走面(2)中央部のチェーンコンベアをまたいで滑走面の両側端に掛架されるものであるのに対し,本件発明1における治具2の搬送構造は 「各レール軌道(1,10,11,12)に横移動自在に架設される摺動部 ,21,製品Wを横向き姿勢で搬送されるように該製品の製品上部を懸垂状態に着脱自在に挟持部22…,前記押送体6に係合される前記係合片7が設けられ (本件 」明細書6頁右欄20〜25行)た治具2が摺動部21によってメッキ処理部用レール軌道1に掛架されるもので,掛架形態が基本的に異なり,歯付きベルト30の係合歯32と係合される係合爪25の治具2に対する取付け形態も 「搬送軌道部3 ,3上に載せられた複数の係合爪25のうちいずれかの係合爪25を前記メッキ処理部用歯付きベルト30の係合歯32と係合されるように」取り付けられるものであ,「 」 って連続的に搬送する治具2の間隔を設定された狭い間隔幅に正確に位置付けして搬送するものであるところ,この設定された狭い間隔幅というのは,治具2に取り付けられた「製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隔幅」となっている。
〔被告の主張〕(1)引用発明5の「搬送装置」原告は,本件審決(7頁17〜18行)が,引用発明5について,本件発明1で採用する搬送システムが記載されていると認定したことが誤りであったと主張する。
しかしながら,本件審決が,本件発明1について「搬送システム」としたのは,本件出願に係る発明の名称が「均一メッキ処理を可能とした電気メッキ処理システム」であるから,その名称中の「システム」の用語に合わせたものにすぎず 「装,」 「」 。 置 と システム との用語の違いは本件審決の判断に直接関係するものではない実務では 「装置」の集合体を称して「システム」と呼ぶことがあるが,メカニズ ,ムの発明については,実質上「装置」と「システム」とは物の発明として同義に取り扱うのが一般的であるということができる。
したがって,原告の主張は理由がない。
(2)引用発明5の「爪」原告は,本件発明1の「係合爪」と引用発明5の「爪」とが,機能・構造において相違すると主張するが,本件発明1における「係合爪」の機能は 「メッキ処理 ,部用歯付きベルト(30)の係合歯(32)と係合され」との部分のみであって,この点において,本件特許の「係合爪」と引用発明5の「爪」とは,その機能において変わりはなく,原告の主張は理由がない。
また,原告は,引用発明5の「爪」には,パレットが障害物に当たった場合に自動的にコンベアと爪との係合が外れてコンベアやパレットの損傷を防止する目的があって,本件発明1における係合爪とは異なっていると主張するが,引用発明5のチェーンコンベア,パレット滑走面,パレット,爪,軸及びチェーンローラという基本要素は,従来の摩擦抵抗による搬送に代えて,チェーンコンベアに爪を係合さ,「 」 せて搬送することでパレットの搬送速度をチェーンコンベア速度と等しくする(引用例5の明細書2頁4〜6行目)という第1の課題を解決するための有機的結合として完結しているということができ,本件審決は,引用例5の技術開示の中から,課題を解決するために完結する発明の技術的思想を抽出して引用発明5を認定しているのであって,その認定に誤りはない。
(3)引用発明5の「チェーンコンベア」原告は,チェーンコンベアと歯付きベルトとは,機械部材として異なるものであるから,構造的に異なるものであって,本件審決のように,複数の係合部分である「チェーンローラ」を等間隔に有して等速度で駆動され 「爪」の一端は「チェー ,ンコンベア」の「チェーンローラ」に係合して移送するとの点だけを形式的に取り上げてその相違点を否定することは誤っていると主張する。
しかしながら,本件審決(7頁30〜35行)は,引用例5について,チェーンコンベアが複数の係合部分であるチェーンローラを等間隔に有して等速度で駆動されていること,爪の一端がチェーンコンベアのチェーンローラに係合して移送されることが記載され,チェーンコンベアは複数の係合部分であるチェーンローラを等間隔に有し,かつ,爪の一端はチェーンローラに係合するという構造面における認定をし,また,チェーンコンベアは等速度で駆動され,かつ,爪が移送されるという機能面における認定もした上で,機能的・構造的にみて,引用発明5の「チェー」「」,「」 ンローラ が本件発明1の 係合歯 に該当し 引用発明5の チェーンコンベアが本件発明1における「歯付きベルト」に対応すると認定したものであって,その認定に誤りはない。
3取消事由3(相違点2に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件審決は,相違点2につき,引用発明3について「前処理ゾーンでは各ワークキャリアは各種槽に浸漬されつつ進んでくる (5頁14行)と認定するな 」どした上で 「引用発明4では,ワークピースを水平方向に移動させつつメッキ処 ,理することも従来技術としている以上,この公知の技術事項を引用例1ないし3に記載されるような連続メッキ処理に適用することも示唆されているとすることができる(9頁29〜32行)と判断したが,この判断には誤りがある。 。」(2)引用例4には 「このプロセスにおいて,ワークピースの列は,製品の区分 ,毎に調整されて水平方向に移動する 」と記載されており,これは,引用例4は, 。
陰極レールに複数枚(4枚)のワークピースがあらかじめ手作業により狭い間隔幅で列に取り付けられて製品の区分ごとになっており,その区分ごとの状態を維持して水平方向に移動するとしているものである。一方,引用例3について,前処理ゾーンではワークキャリアは各種槽に浸漬した状態では進まないものであって,ワークキャリアは,ワークレールが各種槽から上方に持ち上げられた時にのみ,1つの槽分だけ進められるものである。
(3)したがって,引用発明4の陰極レールに複数枚のワークピースが取り付けられたものを,引用発明1ないし3に適用することはできないものである。
これに対し,本件発明1は,ワークピースを1枚ずつ個別に治具に取り付け,そのワークピースをメッキ処理する際に,個々の治具を連続して搬送させるときに,設定された「狭い間隔幅」を維持できるように,治具には「複数の爪」を設け,搬送側には「歯付きベルト」を設けることによって,メッキ処理中に隣接状態で搬送されているワークピースの端部に過電流が流れないようにしたものであって,1枚ずつワークピースを狭い間隔幅で搬送する技術的手段に本件発明1の発明としての進歩性が存在するものということができる。
〔被告の主張〕, , 原告は 引用例4に記載のメッキ処理装置におけるワークピースの取付け状態が陰極レールに複数枚(4枚)のワークピースがあらかじめ手作業により狭い間隔幅で列に取り付けられて製品の区分ごとになっていると読み取ることができると主張するが,原告がその根拠とする引用例5の「図1は,取り外しできるようにクランプ2で陰極レール1に留められたプレート3状のワークピースを示すもの「図1」,にはプレート状のワークピース4枚がa1.a2.a3の間隔幅で区分内に列に取り付けられて」いることをもってしても 「ワークピース3があらかじめ手作業に ,より」取り付けられていると判断し得るというものではない。
また,原告は,引用例4には 「ワークピースを水平方向に移動させつつメッキ ,処理すること」が記載されていないと主張するが,引用例4(1欄14〜16行)には 「このプロセスにおいて,ワークピースの列は,製品のためのブラケットの ,配列に一致させて水平方向に移動する(In this process, the row of work 。」pieces runs horizontally corresponding to the arrangement of the brackets forarticles.)との記載があるところ,この「このプロセス」とは 「電解コーティン ,グを向上させるプロセス (1欄6〜7行の aprocess forimproving the 」electrolytic coating on work pieces )であるから,引用例4には,ワークピースを水平方向に移動させつつメッキ処理することが開示されているものであって,原告の主張は失当である。
本件審決は,引用発明3について,原告の主張するとおり 「前処理ゾーンでは ,各ワークキャリアは各種槽に浸漬されつつ進んでくる」と認定しているが 「各ワ ,ークキャリアが各槽に浸漬されること」と「各ワークキャリアが進んでくること」とが繰り返される,又は連続的に行われることをいうものであって,その認定に誤りはない。
4取消事由4(相違点1に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決(9頁21〜23行)は,相違点1について 「引用例3では,前処理 ,領域からメッキ領域に至り,供給されるシート状短冊製品の間隔が狭められて移送されることも明らかである」と判断した。
しかしながら,めっきタンク12上に設けられた無端チェーン14にワークレール13上のワークキャリア2に係合するプッシャ15の基部が一定ピッチで枢着されるとの,搬送する無端チェーン側にワークキャリアに係合するプッシャを設けた引用例3に記載の構成では,ワークキャリアに取り付けられる被メッキ処理物の大きさが変更されても,常に一定ピッチでしか搬送できないものであって,連続して搬送される被メッキ処理物の隣接間隔につき,ワークの端部に電流が過度に集中されない狭い間隔幅に調整して連続走行させることはできないのであって,そもそも引用発明3を「狭い間隔幅に調整して連続走行させる」ための技術文献として引用することそれ自体が誤っている。
〔被告の主張〕原告は,引用例3のような変更できない一定ピッチで搬送するメッキ処理の場合には,ワークキャリアに取り付けられる被メッキ処理物の大きさが変更されても,常に一定ピッチでしか搬送できないものであって,連続して搬送される被メッキ処理物の隣接間隔を,電流が過度に集中されない狭い間隔幅に調整することができないと主張する。
しかしながら メッキ処理においてワーク同士の隣接間隔が広いと いわゆる ド , ,「ッグ・ボーン効果」と呼ばれる厚肉部分を有してしまうため,それを防止するためにワーク間隔を狭くすることが望ましいことは,引用例4(3欄47〜51行)に記載されている。そして,それを防止するために,引用例5や6に開示されるような搬送構造を採用して隣り合うワークの搬送間隔を調整可能とし,ワークの搬送間隔を狭めたり異なるサイズのワークのメッキ処理を可能とすることは,当業者であれば容易に想到するところであって,本件審決の認定に誤りはない。
5取消事由5(相違点3に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕取消事由2に係る「原告の主張」のとおり,引用例5の「チェーンコンベア」や「爪」は,本件発明1の「歯付きベルト」や「複数の係合爪付の治具」とは,構造的にも機能的にも相違するものである。
また,取消事由3及び4のとおり,本件審決の相違点1及び2の判断は誤っている。
したがって,その誤りに基づく相違点3の判断も誤っていることになる。
〔被告の主張〕原告の主張は争う。
第4当裁判所の判断1取消事由1(引用発明1に係る認定の誤り)について進歩性判断における対比・判断の対象となる特許法29条2項に規定する(1)「前項各号に掲げる発明」のうちの同条1項3号における「特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明」としての公開特許公報に記載された発明とは,その特許請求の範囲に記載された技術的思想創作だけでなく,その明細書及び図面に記載された技術的思想創作をも含むものである。しかるところ,引用例1の発明の詳細な説明には,電気めっき処理装置において,めっき処理されるワークを支持するジグと通称されるワーク支持具の改良に関する技術分野の発明であって( 0001,その発明の実施の形態として,ワーク支持具 【】)は,陰極バーにつり下げられる断面略コ字状の極棒接続部を持つハンガー部と,このハンガー部の下方に設けられたワーク取付け部とから構成され,また,このワーク取付け部は,シート形状のワークの上端部の一面側を支承できる一体のワーク支(【】),, 承部をもつ固定支承部材等によって構成され0009このワーク支承部は固定支承部材を構成する垂下した状態で固着された1対の支持片部材の下端部に,それぞれ凸形状で,シート形状のワークの上端部を2か所でつかむのにちょうどよい間隔で突設されて,上記陰極バーからの電流をハンガー部を介してワークへ通電するための通電部とされており,また,ハンガー部の極棒接続部の上部には,ワー, , ク支持具を陰極バーに沿って移送するため 送り爪に係合される係止体が突設され上記支持片部材の一部や取り付けられたワークがメッキ液面下となるもので( 0【010 【図1,発明の効果として,ワーク支持具が,シート形状のワークを確 】】)実に支持でき,かつ,電流を陰極バーからワークへ確実に通電できるようになり,めっき処理の全工程が終了するまで振動や移動によっても,ワークの外れ,ワークの破れ,ワークの歪み,ワークに対する通電不良等がなく,めっき製品の品質安定化を期待できるなど( 0017 )と記載されているのであって,引用発明1は, 【】「ワーク支持具により保持されたワークを,ワーク支持具に突出して設けられた係止体と送り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送させ,めっき槽中でめっき処理する電気めっき処理装置」であるとした本件審決の認定に誤りはないということができる。
,,,「 」, なお 原告は 引用発明1は電気めっき処理装置のワーク支持具 であって「電気めっき処理装置」ではないなどと主張するが,引用例1の請求項に記載された事項がワーク支持具それ自体の発明であるとしても,上記のとおり,引用例1に, ,, は ワーク支持具についての技術が開示されているだけでなく それに限定されずめっき処理装置に係る技術も開示されているのであって,引用発明1が「電気めっき処理装置」ではないという原告の主張は,特許法29条2項の趣旨を正解しない主張として,失当といわざるを得ない。
また,原告は,引用例1には,送り爪がどのような形態のものか,係止体(2)がどのように送り爪と係合されるのかとの記載がなく,どの部材にどのように設けられているか不明であるから,引用発明1について 「ワーク支持具に突出して設 ,けられた係止体と送り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送」させるものとまで認定することはできないと主張する。
しかしながら,本件審決は,引用発明1において,係止体が送り爪に係合されることを認定しているが,それ以上に,送り爪がどのような形態のものか,係止体がどのように送り爪と係合されるのかといった点について,具体的に認定しているわけではなく,かつ,この点の認定がなくても,係止体が送り爪に係合されることの認定それ自体は引用例1の記載から可能であるから,原告の主張は失当といわざるを得ない。
2取消事由2(引用発明5に係る認定の誤り)について引用発明5の内容(1)ア引用例5の明細書(甲6)の「考案の詳細な説明」には,この考案が,パレット等の被搬送物体の搬送中にスリップを生ずることなく正確な搬送がされるようにした搬送装置の改良構造に関するもので(1頁12〜16行 ,チェーンコンベ )アを使用し,パレットには,このチェーンコンベアに係合する爪を設けて,搬送速度をコンベア速度に等しくするようになどした搬送装置を提供しようとするものであって(2頁4〜10行 ,また,考案の実施の説明として,チェーンコンベアに )パレットを積層すると,一端がパレットに軸で枢着されている爪が重力より軸を中心に回転し,移動してくるチェーンコンベアに設けられているチェーンローラに係合し,その結果,パレットは,チェーンコンベアの移動速度と全く同一速度で搬送される(2頁11行〜3頁6行)との記載があるだけでなく,さらに,引用例5の図2の断面図によると,上記爪は,パレットに固定された軸を中心に時計回りで回転し,爪の下端部は,爪の上端の軸により支えられている部分に対して進行方向からみて後退した位置でチェーンローラに係合し,上記チェーンローラは,チェーンコンベアに等間隔で設けられているとの記載がある。
イ以上の記載によると,引用発明5は,パレットに軸により支えられて上端部が枢着された爪の下端部が,重力によって軸を中心に時計方向に回転し,爪の上端の軸により支えられている部分に対して進行方向からみて後退した位置でチェーンコンベアに等間隔に設けられたチェーンローラに係合し,これにより,チェーンコンベアと等速で,パレットが移送されるようになっているものと認めることができる。
引用発明5の「搬送装置」(2)原告は,引用発明5は,搬送の「システム」ではなく,搬送の「装置」に関するものであると主張する。
しかしながら,システムとは 「複数の要素が有機的に関係しあい,全体として ,まとまった機能を発揮している要素の集合体 (甲10の2。広辞苑第五版)をい 」うと解されるところ,上記のとおり,引用発明5は,チェーンコンベア,チェ(1)ーンローラ,パレット,爪等の複数の要素が意味を持って関係し合い,全体としてまとまった1つの搬送装置を構成しているものと認めることができるのであるから,これをもって,搬送の「装置」と呼ぶか,搬送の「システム」と称するかは,要は,言葉の問題にすぎず,引用発明5を「搬送システム」の発明といっても,これを直ちに間違いということはできない。
,,「」, この点について 原告は 引用発明5が搬送の システム ではない理由として引用発明5は,チェーンコンベア上に載置される荷台の改良を前提としているものであって,荷台の底部面積とチェーンコンベア面との摩擦力がチェーンコンベア上に載置されただけの荷台を移動するチェーンコンベア上に固定するものとなっていた従来の搬送装置につき,荷台を物理的にチェーンコンベア上に固定する手段として,荷台に爪を設けてチェーンコンベアと係合させ,さらに,物体が障害物に当たった場合に係合が外れるようにロッドを設けたものであると主張するが,そこに物体が障害物に当たった場合に係合が外れるようになったロッドを設けたとの技術事項が含まれるとしても,その前提として,引用例5には,上端がパレットに枢着された爪の下端部が,チェーンコンベアに等間隔に設けられたチェーンローラに係合し,これによって,パレットが移送されるようになる搬送の「システム」というべき技術事項が開示されているものであって,引用発明5につき,搬送装置という表現ではなく,搬送システムという表現を用いた本件審決の認定を原告主張のように誤りということはできない。
さらに,原告は,引用発明5の対象は,フォークリフトを用いて運搬する重量貨, , 物であり 技術分野としても運送業あるいは建設業の分野に属するものであるから本件発明1におけるメッキ処理技術とは関連性がないと主張する。
しかしながら,本件審決は,電気メッキ処理システムである本件発明1と前記1のとおりの電気メッキ処理装置である引用発明1との搬送駆動方法に係る相違点3につき,引用発明5の搬送システム(なお,引用例5には,被搬送物体がフォークリフトを用いて運搬する重量貨物であるとの記載はない )を適用することの要否 。
を検討しているものであって,その検討の対象となる搬送システムという技術分野, , に即してみれば 本件発明1と引用発明5とは同一のものということができるから原告の主張は理由がない。
引用発明5の「爪」(3)ア本件発明1における「係合爪」について本件発明1は,前記第2の2の発明の要旨における請求項1に記載の あ ないし()か のとおりのものであって 「係合爪」の構成については同 い 及び え に記載さ () ()() ,れているものである。また,本件明細書の発明の詳細な説明によると,本件発明1の係合爪については,課題を解決するための手段として 「前記治具(2)に係合 ,爪(25)を,該係合爪の係合部(26)として機能する下端部を前記治具の搬送方向に枢動可能となるように該係合爪の上端部を前記治具に軸支(27)することによってそれぞれ取付けると共に,…所定の送りピッチで間欠的に順次送られてくる前記治具に取付けられた前記係合爪(25)の枢動する係合部(26)を該係合爪の上端軸支部に対して後退した傾斜位置となるように前記メッキ処理部用歯付きベルト(30)の搬送軌道部(33)上に載せて前記メッキ処理部用歯付きベルトの係合歯(32)と係合されるように構成 ( 0005 )し,発明の実施の形態 」【】として 「所定の狭い間隙幅となるような所定の送りピッチで間欠的に順次送られ ,てくる前記治具2に取付けられた複数の前記係合爪25の枢動する係合部26を該係合爪25の上端軸支部27に対して後退した傾斜位置となるように前記メッキ処理部用歯付きベルト30の搬送軌道部33上に載せ,この搬送軌道部33上に載せられた複数の係合爪25のうちいずれかの係合爪25を前記メッキ処理部用歯付きベルト30の係合歯32と係合されるように構成 ( 0010 )するなどという 」【】ものである。
イ引用発明5の「爪」との関係についてこれに対し,上記のとおり,引用発明5は,パレットに軸により支えられて(1)上端部が枢着された爪の下端部が,重力によって軸を中心に時計方向に回転し,爪の上端の軸により支えられている部分に対して進行方向からみて後退した位置でチェーンコンベアに等間隔に設けられたチェーンローラに係合し,これによって,パレットが移送されるようになっているものであるから,上記アの本件発明1の構成に照らしてみると,引用発明5の「爪」は,本件発明1の要旨の い 及び え にお()()ける「係合爪」と同一の機能・構造を有するものということができる。
ウ原告の主張の採否について原告は,本件発明1における係合爪は,引用発明5の「爪」と異なり,スリップ防止機能やパレットが障害物に当たった場合に自動的にコンベアと爪との係合を外す機能を有しておらず,本件発明1における係合爪と引用発明5の「爪」とは,目的・機能,構造が異なると主張するが,引用例5には,物体が障害物に当たった場合に係合が外れるようになったロッドを設けたとの技術事項が含まれるとしても,上記のとおり,その前提として,引用例5には,上端がパレットに枢着された爪の下端部が,チェーンコンベアに等間隔に設けられたチェーンローラに係合し,これによりパレットが移送されるようになる搬送システムの技術事項が開示されているということができるものであって,原告の主張は,採用することができない。
また,原告は,本件発明1は,引用発明5のように貨物を格納するパレットに単体で付設されるものではなく,シート状短冊製品を懸垂状態につり下げる治具2に複数取り付けられるものであるなどとして,引用発明5の「爪」とは機能・構造を有していないと主張するが,上記のとおり,本件審決は,電気メッキ処理システムである本件発明1と前記1のとおりの電気メッキ処理装置である引用発明1との搬送駆動方法に係る相違点3につき判断をする前提として,引用発明5の搬送システムを適用することの要否を検討しているものであって,引用発明5が,シート状短冊製品を懸垂状態につり下げる治具2に複数取り付けられるものでないなどとの本件発明1との差異があることをもって,引用発明5を適用することが阻害されるものではなく,原告の主張は採用することができない。
引用発明5の「チェーンコンベア」(4)ア本件発明1における「歯付きベルト」について,「」 前記第2の2の本件発明1の要旨における あ ないし か のうち歯付きベルト()()の構成については,同 う 及び え に記載されているものである。また,本件明細 ()()書の発明の詳細な説明によると,本件発明1の歯付きベルトについては,課題を解決するための手段として 「複数の係合歯(32)を等間隔に設けた等速度で駆動 ,されるエンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルト(30)を該エンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルトの搬送軌道部(33)を前記メッキ処理工程(A)のメッキ処理タンク上に前記メッキ処理部用レール軌道(1)に沿って配設し,…所定の送りピッチで間欠的に順次送られてくる前記治具に取付けられた前記係合爪(25)の枢動する係合部(26)を該係合爪の上端軸支部に対して後退した傾斜位置となるように前記メッキ処理部用歯付きベルト(30)の搬送軌道部(33)上に()」 載せて前記メッキ処理部用歯付きベルトの係合歯 32 と係合されるように構成( 0005 )し,発明の実施の形態として 「メッキ処理工程Aに配設されたメ 【】 ,ッキ処理部用歯付きベルト30は,複数の係合歯32を等間隔に設けた等速度で駆動されるものであり,該エンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルト30の搬送軌道部33を前記メッキ処理工程Aのメッキ処理タンク3上に前記メッキ処理部用レール軌道1に沿って配設し,この搬送軌道部32にある前記メッキ処理部用歯付きベルト30に対して,…所定の送りピッチで間欠的に順次送られてくる前記治具2に取付けられた複数の前記係合爪25の枢動する係合部26を該係合爪25の上端軸支部27に対して後退した傾斜位置となるように前記メッキ処理部用歯付きベルト30の搬送軌道部33上に載せ,この搬送軌道部33上に載せられた複数の係合爪25のうちいずれかの係合爪25を前記メッキ処理部用歯付きベルト30の係合歯32と係合されるように構成 ( 0010 )するなどというものである。 」【】イ引用発明5の「チェーンコンベア」との関係について上記のとおり,引用発明5は,爪の下端部がチェーンコンベアに等間隔に設(1)けられたチェーンローラに係合し,これにより,チェーンコンベアと等速でパレットが移送されるようになっているものであるから,上記アの本件発明1の構成に照らしてみると,引用発明5の「チェーンコンベア」は,本件発明1の要旨の う 及()び え における「歯付きベルト」と同一の機能・構造を有するものということがで ()きる。
ウ原告の主張の採否について原告は,引用発明5におけるパレットの構造につき,被搬送物パレットの中央部に爪が設定され,その両側が滑走面中央部のチェーンコンベアをまたいで滑走面の両側端に掛架されるものであることをもって,本件発明1の歯付きベルトと引用発明5のチェーンコンベアの構造が異なると主張するが,上記によれば,相違点3について判断する前提として,本件発明1の「係合歯」及び「歯付きベルト」が,引用発明5の「チェーンローラ」及び「チェーンコンベア」に当たるということができるのであって,原告の主張は採用することができない。
3取消事由3(相違点2に係る判断の誤り)について引用発明4の内容(1)引用例4には 「上述の3’及び3”は各々a1,a2,a3という距離を有し ,て離れている。実際には,a1等の距離は,比較的小さく保つべきである。そうしなければある距離をおいて互いに向かい合わせになるワークピース端部3’及び3”の”K”と”A”と書かれたエリアは金属が沈積()するための,いわdepositゆる『ドッグ・ボーン効果』と呼ばれる厚肉部分を有してしまうからである(3。」), , 欄46〜51行 との記載があり 複数のワークピースを同時に電気メッキする際各ワークピースの間隔を小さく保つことで,いわゆる「ドッグ・ボーン効果」と呼ばれる,金属沈積によって,ワークピース端部に肉厚部分が形成されることを防止する技術思想が開示されていると認めることができる。
相違点2に係る本件発明1の技術的意義(2)本件発明1は,治具に懸垂状態に挟持されたシート状短冊製品が「横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅となるような所定の送りピッチ」で搬送されるという構成を有することで,シート状短冊製品の両側端部に対しても他のシート面と均等な電流が分布されるようになるため,シート状短冊製品に対する均一なメッキ処理が可能となるといった効果を奏する(本件明細書の【0016 )ものと認めることができる。 】引用発明1への引用発明4の適用(3)引用発明1は 「ワーク支持具により保持されたワークを,ワーク支持具に突出 ,して設けられた係止体と送り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送させ,めっき槽中でめっき処理する電気めっき処理装置」であるところ,そのような引用発明1に「ドッグ・ボーン効果」を防止するために引用発明4の技術思想を適用することが阻害される要因はなく,そうすると,本件発明1と引用発明1との相違点2に係る構成は当業者において容易に想到することができるものといわなければならない。
なお,原告は,引用発明3について,前処理ゾーンではワークキャリアは各種槽に浸漬した状態では進まないものであることを指摘し,このような引用発明3などを,陰極レールに複数枚のワークピースが取り付けられた状態を維持して水平方向に移動するものである引用発明4に適用することはできないと主張するが,この点の主張は,相違点2について,上記のように引用発明1に引用発明4を適用することに影響しないものであるから,失当であって,採用することができない。
4取消事由4(相違点1に係る判断の誤り)について引用発明2の技術思想(1)引用例2の発明の詳細な説明には,引用発明2は,複数の電極をめっき層内にU字状に配置し,被メッキ物をプッシャで押圧して電極に沿って水平移動させることにより,多数の被メッキ物に同1条件でメッキを施すことができるメッキ処理装置( 0005 )であって,メッキ処理装置は,被メッキ物にメッキ処理を施す互い 【】に平行な第1メッキ手段及び第2メッキ手段とを備えており( 0011,被メ【】)ッキ物を保持した状態で第1メッキ手段内又は第2メッキ手段内で移動可能な複数の保持手段等を備えている( 0012 )との技術が開示されていると認められ, 【】引用発明2は,複数の被メッキ物を移動させながら電気メッキをする技術であるということができる。
引用発明3の技術思想(2)また,引用例3の発明の詳細な説明には,引用発明2は,電気めっき,無電解めっき,化学研磨等の表面処理を行う際に,一連の処理工程に沿って処理すべき物品を自動的に移し換えて移送するための自動表面処理装置における移し換え移送機構( 0001 )であって,めっきゾーンである連続したU字形のめっきタンクにお 【】いて,めっきタンクに沿ってワークレールが配設され,めっきタンク上に連続走行可能に設けられた無端チェーンに,ワークレール上のワークキャリヤに係合するプッシャの基部が一定ピッチで枢着され,プッシャは上下方向に揺動自在となっており ( 0009,表面処理ゾーンに連続的移送方式を採用して均一な表面処理を ,【】)可能とする( 0012 )との技術が開示されていると認められ,引用発明3は, 【】被めっき物を含む複数の対象物品を移動させながら電気メッキを含む表面処理をする技術であるということができる。
相違点1に係る本件発明1の技術的意義(3)本件発明1は,メッキ処理タンク内の処理液中に製品を「横向きで直列にした搬送状態で搬送させながら電気メッキする」という構成を有することで,シート状短冊製品に対する均一なメッキ処理が可能となるといった効果を奏する(本件明細書【0016 )ものと認めることができる。 】引用発明1への引用発明2及び3の適用(4)前記1のとおり,引用発明1は 「ワーク支持具により保持されたワークを,ワ ,ーク支持具に突出して設けられた係止体と送り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送させ,めっき槽中でめっき処理する電気めっき処理装置」であるところ,これに,上記の本件発明1の技術的意義と同様の技術的意義を有する引用発明2及(3)び3の複数の被メッキ物を移動させながら電気メッキをすることによって均一なメッキ処理をするとの技術思想を適用することができ,そうすると,本件発明1と引用発明1との相違点1に係る構成は当業者において容易に想到することができるというべきである。
なお,原告は,引用例3における構成では,ワークの端部に電流が過度に集中されないように狭い間隔幅に調整して連続走行させることはできないことなどを問題として主張するが,上記相違点1について,上記のように引用発明1に引用発明2及び3を適用することができるものであるから,原告の主張は,失当であって,採用することができない。
5取消事由5(相違点3に係る判断の誤り)について原告の主張は,取消事由2の「原告の主張」のとおり,引用例5の「チェーンコンベア」や「爪」は,本件発明1の「歯付きベルト」や「複数の係合爪付の治具」とは構造的にも機能的にも相違するものであるとし また 取消事由3及び4の 原 ,,「告の主張」のとおり本件審決の相違点1及び2の判断が誤っていることを前提とするものであるところ,上記2ないし4で説示したとおり,これらの原告の主張は採用することができないから,取消事由5に係る原告の主張も理由がないということができる。
6本件発明2に係る本件審決の判断の当否本件審決は,本件発明1のほか,本件発明2についても,これを無効とすべきであると判断しているところ,原告は,本件発明2を無効とすべきであるとした本件審決については,その違法を何ら主張しない。
7結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 杜下弘記