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関連審決 不服2006-22940
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10290審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10148審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10405審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10398審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10259審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  29条1項3号 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10448号 審決取消請求事件
原告三星エスディアイ株式会社
同訴訟代理人弁理士亀谷美明
同訴訟復代理人弁理士平山淳
被告特許庁長官
同 指定代理 人三橋健二稲積義登 岩崎伸二 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2006-22940号事件について平成20年7月16日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において本願発明の要旨を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲2)及び拒絶査定発明の名称:「太陽電池用半導体ウェハの製造方法及び太陽電池用半導体ウェハ」(甲11)出願番号:特願2001-372236号出願日:平成13年12月6日パリ条約による優先権主張:平成13年(2001年)1月3日(以下「本件優先日」という。),韓国手続補正日:平成18年6月6日(甲3。以下「本件補正」という。)拒絶査定:平成18年7月6日付け(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成18年10月10日(不服2006-22940号)本件審決日:平成20年7月16日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成20年7月29日2本願発明の要旨本件審決が対象とした本願発明(本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明)の要旨は,次のとおりである。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を示す。
太陽電池用半導体ウェハの製造方法において:/半導体ウェハの表面にプロテクタを形成する第1工程と;/前記半導体ウェハを等方性エッチング溶液に浸漬して,前記プロテクタの未形成領域をエッチングすることにより,溝を形成する第2工程と;/前記プロテクタを除去する第3工程と;/を含むことを特徴とする太陽電池用半導体ウェハの製造方法
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,特開平11-238689号公報(甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」といい,本願発明と併せて「両発明」という。)であるから,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない,というものである。
(2)本件審決(2頁31行〜3頁2行)が認定した引用発明は,次のとおりである。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を示す。
半導体基板の上面に所定の細孔を有するマスクを形成する工程と,/基板用のエッチング液により,前記マスクの開孔部表面から深さ2μm〜3μmに達する断面U字形状の凹部を前記半導体基板の表面に形成する工程と,及び/前記マスクだけを,マスク除去用のエッチング液によって除去する工程と,を含む,ソーラーセルとして用いるエピタキシャル半導体ウエーハの形成工程。
4取消事由両発明の対比判断の誤り5エッチングの方法についてなお,本件において問題となるエッチング溶液によるエッチング(以下「ウェットエッチング」という。)の方法は,次のとおりである。
(1)等方性エッチング等方性エッチングとは,垂直方向及び水平方向に同じ比率でエッチングが行われ,垂直方向のエッチング速度と水平方向のそれとがほぼ等しいものをいう(平成12年12月10日発行の前田和夫著「ビギナーズブックス17はじめての半導体プロセス」と題する文献(甲5。以下「甲5文献」という。),平成9年11月20日発行の社団法人日本半導体製造装置協会編「半導体製造装置用語辞典第4版」と題する文献(甲6。以下「甲6文献」という。)参照)。
(2)異方性エッチング異方性エッチングとは,エッチングがほぼ垂直方向にのみ進行し,横方向,すなわち,水平方向には進行しないものをいう(甲5文献参照)。
第3当事者の主張〔原告の主張〕本件審決(3頁26〜33行)は,本願発明の第2工程が「半導体ウェハを等方性エッチング溶液に浸漬して,前記プロテクタの未形成領域をエッチングすることにより,溝を形成する」工程であるのに対し,引用発明の第2工程は「等方性エッチング溶液に浸漬して」溝を形成するとの限定を有しない点で一応相違するが,引用発明の凹部の断面がU字形状であることにかんがみると,引用発明の第2工程においても,本願発明と同様,等方性エッチング溶液に浸漬して溝を形成していることは当業者に自明であると判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
1本願発明の「溝」について(1)本願発明の目的本願発明は,等方性エッチングにより,半導体ウェハ表面の平坦な部位の面積を最小限に抑え,溝部分を広く形成して,太陽光の反射率を低減させるものであり,水平方向のエッチングにより,平坦な部位をなくして溝を隙間なく形成するものである。
(2) 本願発明の「溝」の状態本願発明においては,本件出願に係る図1(b)(甲2。以下,本件出願に係る図面を「本願図1(b)」などという。)に示されるとおり,溝の深さ方向とともに水平方向にもエッチングが進行してプロテクタ3の下部にも空間が形成され,また,本願図3に示されるとおり,半導体ウェハ表面の平坦な部位をできる限り少なくすることができ,半導体ウェハ全面に隙間なく溝が形成されている。
2引用発明の「凹部」について(1)引用発明の目的ア引用発明は,太陽光から電気への変換効率の向上を目的とし,太陽光に対する実効面積を大きくするため,微細な凹凸表面を有する半導体基板を形成する方法を採用したものである(引用例の【0020】等)から,エッチングにより凹部を形成するとともに,凹部と同程度の領域の凸部を形成するため,凸部となる基板表面を確実に残しておく必要があるものである。
イしたがって,引用発明においては,凸部となる基板表面の平坦部を小さくすることが想定されておらず,引用例の図1(c)及び(d)に示されるとおり,凸部の領域を確保するため,相互に隣り合う2つの凹部の間隔が広くなるようにマスクが設けられ,また,基板表面において,マスク下部の平坦部の領域が凹部が形成された領域と同等の大きさか,これより大きい構造とされているほか,マスク下部の基板表面は平坦なものとされている。
ウこのような引用発明において仮に等方性エッチングを行うと,凸部が側方から削り取られてしまい,微細な凹凸表面を形成することができなくなるから,引用発明においてあえて凸部をなくしてしまう等方性エッチングを行うものでないことは,技術常識参酌しても,明らかである。
(2)引用発明の凹部の状況ア引用発明においては,引用例の図1(c)に示されるとおり,マスク2(ホトレジストパターンに相当するもの)の開孔部と同じ幅で凹部1aが形成されており,これは,甲5文献の図5.35(b)に示される異方性エッチングに該当するものであるから,引用発明においては,実際にも,異方性エッチングにより凹部1aが形成されたものと認められる。
イまた,引用発明において,仮に半導体ウェハが等方性エッチング溶液に浸漬されるとすると,凹部の水平方向にも,深さ方向(マスクの開孔部表面から2〜3μm)と同じ比率でエッチングが進行するところ,引用例の図1(c)によると,凹部の深さはマスクの幅の2分の1程度であるから,マスクの下部の凸部のほとんどすべてが削り取られてしまうか,少なくとも,甲5文献の図5.35(a)と同様,マスクの下部にマスクの側壁面から水平方向に2ないし3μmの空間が確実に形成されるはずである。この空間は「アンダーカット」といわれる(平成10年11月30日発行の丹呉浩侑編「半導体工学シリーズ9半導体プロセス技術」と題する文献(甲7。なお,甲9は,甲7における抜粋部分(110〜111頁)を含んだ同一の文献であるため,以下,甲7及び9を併せて「甲9文献」という。)及び平成14年11月29日発行のコンパクト版半導体用語辞典編集委員会編「コンパクト版半導体用語辞典」と題する文献(甲8。以下「甲8文献」という。))が,異方性エッチングの場合は,マスクの下部にアンダーカットが形成されることはほとんどない。
ウこれを引用例の図1(c)についてみると,マスク2の開孔部と同じ幅で凹部1aが形成され,凹部1aの側壁から水平方向にはエッチングが全く進行しておらず,マスク2の直下にアンダーカットが形成されていないから,引用発明において等方性エッチングが行われていないことは明らかである。
3被告の主張に対する反論(1) 引用発明の凹部の形状とエッチングの方法ア被告は,特開平4-250668号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)及び特開平9-45885号公報(乙2。以下「乙2公報」という。)の図示を挙げて,等方性エッチングの場合でもマスクの直下にアンダーカットがないような作図が用いられると主張するが,乙1公報(2欄38行)及び乙2公報(3欄21〜22行)においては,等方性エッチングが用いられることが明細書中に明確に記載されており,あえて図面においてアンダーカットを示す必要がなく,アンダーカットの図示を省略したとしても,等方性エッチングが用いられていることが明らかであるから,乙1公報及び乙2公報の図示をもって,これを引用例の図示と同列に論じることはできない。
イまた,被告は,特開平7-248403号公報(乙3。以下「乙3公報」という。)の図示等を挙げ,等方性エッチングを行うことにより断面すり鉢形ないし断面U字形状の凹部が形成されることが周知の技術事項であるとして,引用例に図示された断面U字形状の凹部も等方性エッチングにより形成されたことが明らかであると主張する。
しかしながら,甲9文献に記載されるとおり,マスクの端のコーナー部等においては平坦部や表面とエッチング特性が異なることが多く,エッチングの制御が特に困難であること(111頁21〜24行)や,被エッチング膜の表面積やパターン寸法に応じてエッチング特性が変化すること(112頁3〜13行)は,周知の技術事項であるから,引用例の図1(c)及び(d)に示された凹部の断面形状は,マスクのコーナー部におけるエッチングの制御困難性,エッチング特性の変化等,凹部の形状に及ぼす様々な要因を考慮した上,凹部の底面(コーナー部)を単に模式的に曲面状に表現したものにすぎないと考えられる。
仮に引用例の図1(c)及び(d)が,等方性エッチングが用いられることを想定して凹部の断面形状を正確かつ精緻にU字形状に示したものであるならば,アンダーカットについても当然に示されたはずである。現に,乙3公報の図4(c)には,アンダーカットが明確に示されているところである。
また,引用発明の凹部の断面形状を拡大して詳細に示した引用例の図3及び図5には,凹部の中央部の曲面については凹部の表面の上方に曲率中心が存在するのに対し,凹部の端部の曲面については下方に曲率中心が存在すること,すなわち,曲面が反転していることが示されているところ,前記1(1)のとおりの等方性エッチングの性質に照らすと,引用発明において等方性エッチングが用いられているのであれば,これにより形成された凹部は,曲率中心が凹部の表面の上方の略1点に位置する曲面となるはずであり,上記のように曲面が反転することなどあり得ない。
現に,引用例の図3及び図5に示された凹部の断面形状は,本願図1(c)及び図3,甲5文献の図5.35(a),甲9文献の図4.1(b),乙1公報の図2(b),乙2公報の図2中の上から4番目の図並びに乙3公報の図4(c)に示された凹部の断面形状と完全に相違するものである。
したがって,乙3公報の図示等を根拠に,単に模式的に表現されたものにすぎない引用発明の凹部が等方性エッチングにより形成されたものとみることはできない。
ウ被告は,乙3公報の図示等を挙げ,異方性エッチングを行うことによりエッチングされた部分に特定の結晶面が現れることが周知の技術事項であるとして,引用例に図示された断面U字形状の凹部は異方性エッチングにより形成されたものではないと主張する。
しかしながら,特開2001-7326号公報(甲10。平成13年1月12日公開(判決注:被告は,原告が引用する同公報の記載及び図示が本件優先日当時の当業者の技術常識を示すものであることを特に争うものではない。)。以下「甲10公報」という。)に,異方性エッチングにより溝(トレンチ36)を形成した場合,溝の底面に曲率半径Rの曲面が形成され,溝が断面U字形状となることが記載されている(2欄14〜16行,同欄43〜45行,図5。なお,図5に示された溝をより浅く形成すれば,同図に示された凹部の断面形状は,引用例の図1(c)及び(d)に示されたものに更に近似したものとなる。)とおり,異方性エッチングを行った場合であっても,溝の底のコーナー部が曲面となり,溝が断面U字形状となるものである。
また,乙3公報の図4(a)に示されるような異方性エッチングによる結晶面は,引用例の図3及び図5に示された曲率中心の異なる曲面同士が相互に接続する領域(凹部の断面が直線状になっていると考えられる領域)に存在するとみることができる。
したがって,引用例に図示された断面U字形状の凹部が異方性エッチングにより形成されたものでないとはいえない。
(2)引用発明の凸部の状況とエッチングの方法ア被告は,引用発明において,凸部となる基板表面の平坦部が小さくなっても,さらには,それがなくなっても,エッチングを行わないものと比較して面積が増大するから,同発明の目的に反するものではないと主張するが,同平坦部が小さくなると,凹凸部の形成による効率的な面積の増大を図ることができず,また,同平坦部がなくなると,基板表面がすべて平坦であるものと同程度の面積しか確保することができなくなるのであるから,いずれも引用発明の上記目的に反することは明らかである。
イ被告は,引用発明が凸部となる基板表面を確実に残しておく必要のあるものであり,同平坦部を小さくすることを想定していないとの原告の主張につき,引用例にその趣旨の記載が全くないと主張するが,引用例の4欄27ないし30行の記載によると,引用発明が凹部とともに凸部を形成することを積極的に意図していることは明らかである。
ウ被告は,引用発明において等方性エッチングにより凹部を形成する場合,マスクの開孔部を小さくすることにより,凸部となる基板表面に平坦部が存在するようにすることが可能であると主張するが,引用例には,そのような特別な調整を要することについて何らの開示も示唆もないし,そのような特別な調整をしなければ同平坦部が失われてしまうのであれば,太陽光に対する実効面積を大きくするとの引用発明の目的に照らし,技術常識参酌すれば引用発明が等方性エッチングを用いていることが当業者に自明であるとはいえないことになる。
〔被告の主張〕1本願発明の目的について原告は,本願発明が,水平方向のエッチングにより,平坦な部位をなくして溝を隙間なく形成するものであると主張するが,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は,半導体ウェハ表面の平坦部の有無について規定するものではなく,同平坦部が存在する場合を排除するものではないし,本件出願に係る本件補正後の明細書(甲2,3)の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,半導体ウェハ表面の平坦部をなくすことについての記載・示唆はないから,単に本願図1(c)及び図3に示された形状をもって,本願発明を,半導体ウェハ表面に平坦部が存在しないものに限定して解釈することはできない。
2引用発明の「凹部」について(1)引用発明の凹部の状況ア引用例の図1(c)及び(d)には,マスクの開孔部と同じ幅で凹部が形成されている様子が示されているが,乙1公報(2欄34〜39行,図2(b))及び乙2公報(3欄17〜23行,図2中の上から3番目及び4番目の各図)にみられるとおり,エッチングの工程を表す場合に,マスクの開孔部と同じ幅で凹部が形成されているような作図,すなわち,マスクの直下に空間(アンダーカット)がないような作図は,等方性エッチングについても用いられるものであるから,引用例の図1(c)及び(d)の図示をもって直ちに,それが異方性エッチングについてのものであって等方性エッチングについてのものでないということはできない。
イかえって,等方性エッチングを行うことにより,形成された凹部が断面すり鉢形(甲5文献の図5.35(a)及びその説明)ないし断面U字形状(乙1公報の図2(b),乙2公報の図2中の上から4番目の図,乙3公報の段落【0091】及び図4(c))のものとなることは,この種の技術分野における周知の技術事項である。
ウ他方,異方性エッチングを行うことにより,エッチングされた部分に特定の結晶面が現れること(乙3公報の段落【0054】〜【0057】及び図4(a),特開平3-206669号公報(乙4。以下「乙4公報」という。)の1頁左下欄19行〜右下欄13行,2頁左下欄12行〜右下欄2行,3頁右下欄9行〜4頁左上欄5行,第1図(c),第3図(b)及び第4図(c))も,この種の技術分野における周知の技術事項である。
エなお,引用例の図1(c)及び(d)の図示が,引用発明においてマスクの直下にアンダーカットが形成されることを否定するものでないことは,後記(2)のとおりである。
(2)引用発明の目的ア引用発明の目的(引用例の段落【0020】)は,原告が主張するとおりであるが,引用発明において等方性エッチングにより凹部を形成した結果,マスクの直下にアンダーカットが生じて凸部が側方から削り取られ,凸部となる基板表面の平坦部が小さくなったとしても,さらには,凸部となる基板表面の平坦部がなくなったとしても,エッチングを行わないもの(基板表面がすべて平坦であるもの)と比較して面積が増大することは明らかであるから,引用発明において等方性エッチングを用いることは,同発明の目的に反するものではない。
イ原告は,引用発明が,エッチングにより凹部を形成するとともに,凸部となる基板表面を確実に残しておく必要のあるものであり,凸部となる基板表面の平坦部を小さくすることを想定していないと主張するが,引用例には,原告が主張するような趣旨の記載は全くないし,また,そもそも,引用発明において等方性エッチングにより凹部を形成する場合,マスクの開孔部を小さくすることにより,凸部となる基板表面に平坦部が存在するようにすることが可能である(例えば,引用例の図1(d)に示された形状を得るようにマスクを構成することは,何ら困難なことではない。)から,原告の主張するところは,引用発明において等方性エッチングが用いられることを否定するものではないというべきである。
3引用発明におけるエッチングの方法について以上のとおり,引用発明において等方性エッチングが行われていることは明らかであるから,本件審決の両発明の対比判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1本件訴訟における争点について本願発明が「前記半導体ウェハを等方性エッチング溶液に浸漬して,前記プロテクタの未形成領域をエッチングすることにより,溝を形成する第2工程」との構成を,また,引用発明が「基板用のエッチング液により,前記マスクの開孔部表面から深さ2μm〜3μmに達する断面U字形状の凹部を前記半導体基板の表面に形成する工程」との構成をそれぞれ有し,両発明が「半導体ウェハをエッチング溶液により,前記プロテクタ(引用発明にいうマスク)の未形成領域をエッチングすることにより,溝(引用発明にいう凹部)を構成する第2工程」を有する点で一致することは,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,両発明が採用するウェットエッチングに係る当業者の技術常識に照らし,本願発明の「半導体ウェハを等方性エッチング溶液に浸漬して,…溝を形成する」との構成が引用発明の「基板用のエッチング液により,…断面U字形状の凹部を…形成する」との構成と同一のものと認めることができるか否か,すなわち,引用発明において半導体ウェハを等方性エッチング溶液に浸漬して凹部を形成していると認めることができるか否かについて,以下,検討することとする。
2ウェットエッチングによる等方性エッチングについて(1)等方性エッチングの意義前記第2の5(1)のとおり。
(2)刊行物の記載及び図示等方性エッチングに関し,乙1公報及び乙3公報には,次の各記載及び図示がある。
ア乙1公報の記載【0008】…MOSFETの製造方法を図2を用いて説明する。…先ず,同図(a)のように,P型不純物をドープした半導体基板1上に選択酸化法により素子分離シリコン酸化膜2を形成する。次いで,同図(b)のようにフォトリソグラフィ技術によりゲート幅方向に沿って複数個の開口を配列したフォトレジストマスク8を形成する。しかる後,HF+HNO 等を用いたウェットエッチングによって半導3体基板1の表面を等方性エッチングし,ゲート幅方向に並んだ複数個の凹部6を形成し,凹領域7を形成する。このエッチングに際しては,プラズマを用いた異方性エッチングではないので,反応性イオン等による半導体基板1へのダメージはない。
【0009】次に,同図(c)のようにフォトレジスト8を除去し,半導体基板1の全面にゲートシリコン酸化膜3を形成する。
イ乙1公報の図示図2(b)及び(c)には,断面U字形状の凹部が形成された様子が示されている。
ウ乙3公報の記載【0054】…図4(a)において,デバイス材料10AはSi材料で構成され,Si(100)面を選択的に形成した,または選択的に(100)面を有する面で研磨した平滑な面を有する。
【0055】このようなデバイス材料10Aの上記(100)面上に,SiO 膜2を設け,その上にフォトレジストの層を設け,これらSiO 膜とフォトレジスト 2の層とでマスク層20Aを構成している。
【0056】マスク層20Aに対し,所定のパターン(図の例ではスリット状)をパターニングして,デバイス材料の表面をパターンに従って露呈させる。
【0057】この状態において,酸化剤,キレート剤,水から構成される異方性エッチング液で「異方性エッチング」を施す。すると,Siの〈100〉方向のエッチング速度が速く,〈111〉方向のエッチング速度が最も遅いため,図のように,側壁に(111)面が表れ,断面形状がV字型の溝が形成される。
【0061】図4(c)は,図4(a)に即して説明した例において,マスク層をスリット状にパターニングして,スリット部分でデバイス材料面(Si(100)面)を露呈させ,フッ酸,硝酸,酢酸から構成される等方性エッチング液で等方性エッチングを施した状態を示している。この場合は,Siに対するエッチング速度が全ての結晶面に対して等しいため,図のように,シリンダ面形状の凹面形状が得られることになる。
【0091】具体例6デバイス材料10AとしてSi結晶板を用い,その(100)面上に,…マスク層20Aを形成した。…幅:30μm,ピッチ:100μmの1次元格子状パタ-ンをマスク層20Aにパターニングした。デバイス材料10Aをエッチング液(フッ酸,硝酸,酢酸の混合液)でエッチングすると,等方性エッチングにより横断面形状がU字型で略半円形に近い溝(図4(c))の1次元配列が形成された。
エ乙3公報の図示図4(c)には,【0061】の等方性エッチングを施して断面U字形状の凹部が形成された様子が示されている。
(3)上記(1)及び(2)によると,ウェットエッチングによる等方性エッチングを行うと,垂直方向のエッチング速度と水平方向のそれとがほぼ等しいため,エッチングの対象とされる半導体基板に断面U字形状の凹部が形成されること,当該凹部はさらにエッチングが進行すると,U字形状の底部が平坦になるが,その場合でも,その側面部分は曲線の断面形状を有していることが認められるのであって,それはまた,本件優先日当時の当業者の技術常識であったということができる。
3ウェットエッチングによる異方性エッチングについて(1)異方性エッチングの意義前記第2の5(2)のとおり。
(2)刊行物の記載及び図示異方性エッチングに関し,乙3公報及び乙4公報には,次の各記載及び図示がある。
ア乙3公報の記載前記【0054】ないし【0057】のとおり。
イ乙3公報の図示図4(a)には,異方性エッチングを施した段階において,その断面形状がV字型の溝(凹部)が形成された様子が示されている。
ウ乙4公報の記載〔従来の技術〕第4図(a)〜(d)は,従来の高効率太陽電池の一例の構造を,その製造過程にしたがって示した断面概略図である。第4図において,1は単結晶シリコン基板(以下,シリコン基板と略称する),2はシリコン酸化膜,5は拡散層である。シリコン基板1は,p型で,面方位は〈100〉であり,その両面をシリコン酸化膜2で覆う(第4図(a))。次いで,シリコン酸化膜2を写真製版その他の手法によりパターニングし,その一部を残してエッチング除去し,シリコン基板1の両面に一定の間隔をおいて,表裏で互い違いとなるようにパターニングする(第4図(b))。次に,シリコン基板1の両面から,KOHなどを用いて異方性エッチングする(第4図(c))。シリコン基板1は面方位が〈100〉であるので,異方性エッチングにより,面方位〈111〉の面が現れる。」(1頁左欄16行〜右欄13行(6頁4〜5行の補正後のもの))エ乙4公報の図示図4(c)には,断面形状がV字型の溝(凹部)が形成された様子が示されている。
(3)上記(1)及び(2)によると,ウェットエッチングによる異方性エッチングを行うと,方向によってエッチング速度が異なるため,エッチング速度が小さい方向に特定の結晶面が現れ,形成された凹部が特定の結晶面(平面)で囲まれることにより,エッチングの対象とされる半導体基板に少なくとも側面部分が直線の断面形状を有する凹部(断面V字形状の凹部等)が形成されることが認められ,それはまた,本件優先日当時の当業者の技術常識であったということができる。
この点に関し,原告は,甲10公報の記載及び図示を根拠に,異方性エッチングを行っても断面U字形状の凹部が形成されると主張するが,同公報に記載された異方性エッチングは,エッチング溶液を用いないエッチング(以下「ドライエッチング」という。)によるものである(段落【0004】,甲9文献の113頁の表4.1)から,同公報は,ウェットエッチングによる異方性エッチングに係る本件優先日当時の当業者の技術常識を示すものとはいえず,原告の主張は失当といわなければならない。
4引用発明におけるエッチングの方法について(1)引用発明の側面部分の断面形状引用発明の凹部が断面U字形状(具体的には,引用例の図1(c)及び(d)に示された形状)のものであることは当事者間に争いがないところ,その側面部分の断面形状についてみると,直線ではなく,曲線となっているから,前記2及び3において認定したウェットエッチングに係る当業者の技術常識に照らすと,引用発明の凹部は,等方性エッチングにより形成されたものと認めることができる。
(2)引用発明におけるアンダーカットの有無原告は,引用例の図1(c)に,凹部の深さと同程度の幅のアンダーカットが示されていないこと(マスクの開孔部と同じ幅で凹部が形成されていること)を根拠に,引用発明において等方性エッチングは行われていないと主張する。
確かに,等方性エッチングの性質(前記2(1))からすると,引用発明において等方性エッチングが行われているならば,引用例の図1(c)が示す工程においてアンダーカットが形成されるはずであるから,これが示されていない同図は,その限りにおいて不正確なものであるといわざるを得ない。
しかしながら,等方性エッチングにより凹部を形成するとの技術が記載された乙1公報の図2(b)には,引用例の図1(c)と同様,フォトレジストマスクの開孔部と同じ幅で凹部が形成されている様子,すなわち,アンダーカットが形成されていない様子が示されており,また,乙3公報の図4(c)には,アンダーカットが形成された様子が示されているものの,その幅は,凹部の深さと比較して著しく小さい(原告の主張によれば,同図におけるアンダーカットの幅は,凹部の深さと同程度のものとなるはずである。)ものとされている。
これらの図面における図示の仕方からすると,等方性エッチングにより形成される凹部を図示する際,アンダーカットの有無又はその程度を正確に表現するのが当業者の作図慣行であるとまでいうことはできないところ,等方性エッチングにより形成される凹部と,異方性エッチングにより形成される凹部と,それぞれの断面形状について,前記2及び3のとおりの顕著な相違,すなわち,前者は少なくとも側面部分が曲線の断面形状となるのに対し,後者は少なくとも側面部分が直線の断面形状となるとの相違がある。そして,上記(1)のとおり,引用発明の側面部分の断面形状は直線ではなく,曲線となっていることを考慮すると,引用例の図1(c)にアンダーカットの有無の点で不正確な面があるとしても,そのことが,引用発明の凹部が等方性エッチングにより形成されたとの前記認定を妨げるものということはできない。
この点に関し,原告は,発明の詳細な説明中に等方性エッチングを行うことが明確に記載された乙1公報の図2(b)を,そのような記載のない引用例の図1(c)と同列に論じることはできないと主張するが,発明の詳細な説明中に等方性エッチングを行う旨の記載がある場合にのみアンダーカットの図示を省略し得るとすることに合理的な根拠があるということはできず(なお,発明の詳細な説明中に等方性エッチングを行う旨の記載がある乙1公報の図2(b)においても,形成された凹部が曲線の断面形状を有することは省略されずに図示されている。),また,そのような省略の仕方が当業者の作図慣行であるともいい難いから,原告の主張を採用することはできないというべきである。
(3)引用例に示された断面U字形状の意味原告は,甲9文献の記載を根拠に,引用例の図1(c)及び(d)に示された凹部の断面形状は凹部の形状に及ぼす様々な要因が考慮された上で単に模式的に曲面状に表現されたものにすぎないと主張するが,甲9文献は,ドライエッチングについて述べたものであるから,原告の主張は失当である。
(4)引用発明における曲率中心の位置原告は,引用例の図3及び図5に記載された曲面の曲率中心が凹部の表面の上方の略1点に位置しておらず,また,曲率中心を異にする曲面が相互に接続する領域に異方性エッチングによる結晶面が存在するとして,引用発明において等方性エッチングが行われているはずがないと主張する。
ア図3に基づく主張について(ア)引用例の図3には,確かに,金属シリコン基板の断面形状に関し,下に凸の曲線(曲率中心が上部にある曲線)と上に凸の曲線(曲率中心が下部にある曲線)とが連続している様子が示されている。
(イ)しかしながら,引用例には,次の記載がある。
【0019】…半導体ウェーハをソーラーセルに用いる場合,太陽光から電気への変換効率を向上するためには,次の2つの項目が最重要である。
【0020】a)光電変換するP-N接合面の実効面積を拡大することb)光電変換するP-N接合面における光通過量を増加することそこで,本発明は,…ウェーハ表面,就中,P-N接合面に積極的に微細な凹凸部を形成することにより,光電変換用の面積を増大させ,ソーラーセルとしての効率向上を図ることを目的とする。
【0021】また,光電変換するP-N接合面を,上下に挟んだ光反射面を生成し,これらの反射面間に入射した光を内面反射させることにより,単一の入射光においてもP-N接合面の通過回数を増加させて,上記とは異なる手法で,ソーラーセルとしての変換効率の向上を図ったものである。
【0022】すなわち,半導体基板における下敷部分(例えば,P++)とCVD層(例えば,P+)とにおいて,それぞれの比抵抗値を,その下側の方が小さく,且つ,異なるように設定すれば,これらの間の接触面は,両者の抵抗値の違いから,光反射面として機能する。
【0023】また,P-N接合面の上の層(例えばN層)の上には,反射膜を覆う。
【0024】従って,図3に示すように,例えば,太陽光のような入射光は,まず,上部の反射層を通過し,そして,P-N接合面を通過する際に,その20%程の光エネルギーが電気エネルギーに変換され,残りの80%程の光エネルギーは,P-N接合面を突き抜ける。次に,この突き抜けた80%程の光エネルギーは,そのまま下部の第2光反射面に到達する。そして,この第2光反射面に到達した80%程の光エネルギーの40%程度は,反射される。そして,再び,突き抜けた光エネルギーの20%(これは,最初に入射した光エネルギーの6%程度に相当する)が,P-N接合面で,電気エネルギーに変換される。そして,これ以降にも,このようなP-N接合面を突き抜けた光の反射運動が繰り返される。すなわち,P-N接合面を突き抜けた光は,上部の反射層に到達し,そして,反射層で,P-N接合面に向けて,反射される。
【0076】従って,図3に示すように,太陽光の如き入射光は,まず,P-N接合面で,その光エネルギーの20%程が電気変換され,残りの80%程の光エネルギーはP-N接合面を突き抜けて,下のP++-P+接触層の反射面に到達し,次に,この反射面によって,その突き抜けた光エネルギーの50%以上は,P-N接合面に向けて反射される。そして,この反射光が再びP-N接合面を通過して,その光エネルギーの20%程度が光電変換され,突き抜けた残りの光エネルギーが,更に,上層の反射膜6でP-N接合面に向けて反射され,また再びP-N接合面を通過して光電変換される。このような入射光の反射運動は,その光が,各反射面における反射率やP-N接合面による光電変換率によって,所定に減衰されるまで,繰り返される。
【図面の簡単な説明】【図3】本具体例に係り,本例の半導体ウエーハをソーラー・セルとして用いた場合に,入射光を捕捉する構成を示す概念説明図。
(ウ)以上の記載によると,図3は,微細な凹凸部を有する引用発明の半導体ウェハをソーラーセルとして用いた場合に,入射光(太陽光)を捕捉する構成(上下の反射面間における入射光の内面反射を繰り返させることにより,単一の入射光がP-N接合面を何度も通過するようにして同面を通過する光量を増加させるための構成)を示す概念説明図にすぎないし,前記3において認定したところに照らすと,仮に引用発明において異方性エッチングが行われているならば,下に凸の面(凹部)の側面部分に同図が示すような曲線の断面形状が現れるはずがなく,また,異方性エッチングによる結晶面は,エッチング速度が小さい方向に一様に現れるものであって,2つの曲面が接続する領域に部分的に現れるようなものではないから,いずれにせよ,同図を根拠に引用発明において等方性エッチングが行われているはずがないとする原告の主張は失当である。
イ図5に基づく主張について(ア)引用例の図5には,確かに,層13及び層14の断面形状に関し,下に凸の曲線と上に凸の曲線とが幾つか接続して凹凸状の曲線を形成している様子が示されている。
(イ)しかしながら,引用例には,次の記載がある。
【0087】図4に示すように,…半導体基板11を取鍋から取り出した後(図4(a)),直ちに気相成長装置に搬入し,…P型の層13を一定の膜厚で形成する(図4(b))。
【0088】次に,前記P型の層13の上面に細孔を有するマスク12を形成し(図4(c)),基板用のエッチング液により前記マスク12の開孔部の表面から深さ2μm〜3μmに達する溝13aをP型の層13に形成する(図4(d))。その後,前記マスク12をマスク用のエッチング液によって除去し,P型の層13に微細凹凸面13bが形成される(図4(e))。
【0089】次に,前記半導体基板11を,再び気相成長装置に搬入し,前記P型の層13と反対のN型不純物…を含有した一定膜厚…の層14を形成し,エピタキシャル半導体ウエーハ15を形成する(図4(f))。
【0101】…本例のようにCVDによってPN接合面を形成する場合であっても,結晶欠陥を伴う場合がある。図4(判決注:「図5」の誤記であると認められる。
段落【0102】において同じ。)は,このような結晶欠陥を伴った半導体ウエーハの一部断面図を示す。
【0102】図4に示すように,化学気相反応によりエピタキシャルした場合であってもPN接合面から表面までの距離が一定とならず,膜厚変化による欠陥を生じる場合がある。図4中,20,21,22は,膜厚変化による欠陥を示す。
【図面の簡単な説明】【図5】本発明に係り,欠陥を伴う半導体ウエーハの断面図である。
(ウ)以上の記載によると,図5は,半導体基板上にCVDによりP型の薄膜層をエピタキシャル成長させた上,この層上にエッチング液により微細凹凸面を形成した後,さらに,CVDによりN型不純物を含有する膜層をエピタキシャル成長させるとの工程において,CVDによるエピタキシャル成長によっても,結晶欠陥により膜厚変化(同図の20ないし22)が生じる場合があることを示すものということができるから,同図に示された凹凸状の曲線は,等方性エッチングが行われなかったことによって生じたものではなく,P型の層及びN型不純物を含有する層の結晶欠陥によって生じたものであると認められ,したがって,同図を根拠に引用発明において等方性エッチングが行われているはずがないとする原告の主張も失当であるといわざるを得ない。
(5)引用発明の目的とエッチングの方法ア原告は,引用発明は太陽光に対する実効面積を大きくするため,微細な凹凸表面を有する半導体基板を形成することを目的とするものであるところ,仮に引用発明において等方性エッチングが行われるとすれば,マスク下部の凸部が側方から削り取られて微細な凹凸表面を形成することができなくなり,引用発明の目的に反することになると主張する。
イ引用発明がそのような目的を有することは,当事者間に争いがないが,他方で,引用例の発明の詳細な説明には,凸部の大きさ,凹部と凸部の大小関係等についての具体的な記載は一切みられず,また,そのことに加え,前記(2)において説示したところをも併せ考慮すると,図1(c)及び(d)も,凸部の大きさ,凹部と凸部の大小関係等を正確に示すものではないと認めるのが相当であり,さらに,引用発明におけるエッチングは,マスクを形成して行われるものである(段落【0059】,図1(b)及び(c))ところ,そのような工法において,マスクの下部の半導体基板がすべて削り取られてしまうといった事態が想定されているとはおよそ考え難い。したがって,引用発明において等方性エッチングが行われると凸部が側方から削り取られてしまうとの原告の主張に合理的な根拠があるということはできない。
ウ原告は,引用発明においては,凸部が凹部と同程度の大きさを有すること又は凸部が凹部より大きいことが前提とされ,凸部を小さくすることは想定されていないとも主張するが,上記説示したとおり,引用例にはそのような主張を合理的に根拠付ける記載及び図示はないというべきであるから,原告のこの主張も理由がない。
エこの点に関し,原告は,凸部(平坦部)が小さくなると,凹凸部の形成による実効面積の増大を効率的に図ることができないと主張するが,半導体ウェハの表面に微細な凹凸部が形成されること(特に,P-N接合面に微細な凹凸部が形成されること(引用例の段落【0020】))自体により,そのような凹凸部が形成されない場合と比較して,太陽光に対する実効面積が増大することは明らかであるところ,上記説示したとおり,引用例には,実効面積の増大を「効率的に」図るために,凸部の大きさ,凹部と凸部の大小関係等を具体的にどのようにするかについての記載又は図示はみられないというべきであるし,そもそも,平坦な部分(凸部)と比較して,平坦でない部分(凹部)のほうが実効面積の増大に寄与するものであることは明らかであるから,結局,原告のこの主張も採用することができない。
(6) 小括以上の検討結果によれば,引用発明においては,引用例にエッチングの方法は明記されていないが,等方性エッチングによっていると認定し得るものというべきであって,この認定を妨げる証拠はない。
5本件審決の当否についてしたがって,引用発明の第2工程において等方性エッチング溶液に浸漬して溝を形成していることは当業者に自明であるとして,両発明が同一であるとした本件審決の対比判断に誤りはないというべきである。
6結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲