• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ7635損害賠償請求事件 判例 特許
平成14ワ3694特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成20ワ12516損害賠償請求事件 判例 特許
平成20ワ22832損害賠償請求事件 平成21ワ10882特許権侵害による損害賠償請求権不存在確認請求事件 判例 特許
平成18 21405損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  職務発明 /  相当の対価(相当な対価) /  製造方法 /  共同研究 /  共同発明 /  名義変更 /  着想 /  出願経過 /  置き換え /  実施 /  加工 /  業として /  算定方法 /  実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  対価 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (ワ) 27635号 損害賠償請求事件
千葉市稲毛区〈以下略〉
原告A
訴訟代理人弁護 士志知俊秀埼玉県蕨市〈以下略〉
被告株 式会社アクロス
訴訟代理人弁護 士山崎行造
同 杉山直人
同 小笠原裕
補佐人弁理士白銀博
同 赤松利昭
同 尾首亘聡
同 内藤忠雄
同 常光克明
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/09/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成19年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,原告が,原告が単独で発明をした「無機質繊維強化炭素複合材料用の柔軟性中間材及びその製造方法」に関する発明の特許を受ける権利を富士スタンダードリサーチ株式会社(以下「富士スタンダードリサーチ」という。)に譲渡した後,原告,被告及び富士スタンダードリサーチの三者間又は原告及び被告の二者間で,被告が富士スタンダードリサーチの原告に対する上記譲渡対価の支払債務を引き受ける旨の合意をした旨主張し,被告に対し,上記合意(債務引受合意)に基づき,譲渡対価の一部請求として1億円の支払を求めた事案である。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者ア原告は,昭和39年に横浜国立大学工学部応用化学科を,昭和43年に同機械工学科をそれぞれ修了した後,同年4月から平成11年3月に定年退職するまでの間,東京大学生産技術研究所(以下「東大生研」という。)に研究者として勤務していた者である。
その間の昭和57年4月から平成元年3月まで,原告は,C(以下「C」という。)教授が主宰する東大生研の第4部C研究室(以下,単に「C研究室」という。)に所属していた。
イ被告は,昭和62年5月20日に設立された,繊維強化炭素材料の生産・加工・販売等を目的とする株式会社である。
(2) 特許の出願経過ア富士スタンダードリサーチは,昭和61年8月2日,発明の名称を「無機質繊維強化炭素複合材料用の柔軟性中間材及びその製造方法」とする発明について,C,原告,B(以下「B」という。),D(以下「D」という。)及びE1(以下「E」という。)の5名を発明者として願書に記載し(ただし,Eは「E2」と記載),特許出願(特願昭61-182483号。以下「本件特許出願」という。)をした(乙5,6)。
イ 富士スタンダードリサーチは,昭和62年6月30日,被告に対し,本件特許出願に係る発明の特許を受ける権利を譲渡し,被告は,同年8月12日,その旨の特許出願人名義変更届をした(乙6,7)。
被告は,平成3年4月20日付けで特許請求の範囲等の補正をした後,平成6年2月10日,本件特許出願に係る特許権の設定登録(特許第1822657号。請求項の数2)を受けた(乙5,6。以下,この特許権に係る特許を「本件特許」という。)。
(3) 本件特許に係る発明の内容本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,次のとおりである(以下,請求項1及び2に係る発明を併せて「本件各発明」という。)。
「1少なくとも,軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピツチ粉末と軟化性を有していない石油及び/又は石炭系コークス粉末からなる混合粉末が包含された複数の強化用繊維を芯材とし,その周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けたことを特徴とする無機質繊維強化炭素複合材料用の柔軟性中間材。」「2複数の強化用繊維を,少なくとも軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピツチ粉末と軟化性を有していない石油及び/又は石炭系コークス粉末からなる混合粉末流動層に導入して,各強化用繊維間に混合粉末が包含された芯材を形成し,次いで該芯材を熱可塑性樹脂で被覆して芯材の周囲に柔軟なスリーブを設けることを特徴とする無機質繊維強化炭素複合材料用の柔軟性中間材の製造方法。」3 争点本件の争点は,?@原告は本件各発明の発明者か(争点1),?A原告,被告及び富士スタンダードリサーチの三者間,又は原告及び被告の二者間において,被告が原告と被告間の本件各発明の特許を受ける権利の譲渡合意に基づく富士スタンダードリサーチの原告に対する譲渡対価の支払債務を引き受ける旨の合意をしたか(争点2),?B被告が原告に支払うべき上記譲渡対価の額(争点3)である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告の発明者性)について(1) 原告の主張ア本件各発明は,原告の単独発明である。原告が本件各発明を行った経緯は,以下のとおりである。
(ア)原告は,昭和57年4月ころから,C研究室において,炭素繊維を補強材(filler)とし,炭素をマトリックス(matrix)とする高強度を有する複合材料である「炭素繊維強化炭素複合材料」(以下「C/C複合材料」という。)について,マトリックスとなる炭素原料に既に炭化された安価なコークス粉と炭素質バインダーを使用し,これを炭素繊維と共に直接ホットプレスすることによって,簡便かつ短時間にC/C複合材料を得る製造方法の開発研究に着手した。
その当時,C/C複合材料は,機械的特性,耐熱特性,耐蝕性,摩擦特性,熱・電気伝導性,軽量性,寸法安定性などに優れた特性を有することが知られていたが,従来の製造方法では製造コストが極めて高くなるため,スペースシャトルの耐熱タイル等宇宙・航空機用の耐熱材料及び制動材料に主に用いられていた以外に,一般民生用,一般産業用にはほとんど実用化されていなかった。
(イ)原告の昭和60年ころまでの研究から,金型中にマトリックスであるコークス粉及び炭素質バインダーを炭素繊維と交互に積層する工程により,ホットプレスに供する前の焼成用材料を作製する方法では,得られたC/C複合材料の強度が不十分であること,コークス粉及び炭素質バインダーの作業性が悪いため,焼成用材料の作製に手間取ること,作業環境が悪化すること,C/C複合材料の大型化,量産化及びパイプなどの異形品の製造には不向きであることが判明した。
原告は,研究の過程において,当時のフランスの繊維強化プラスチック(fiber reinforced plastic)の製造に関する発明で,粉末が入った装置の下部から常時空気あるいは窒素を供給して当該粒子を軽度に流動化させておくという流動層を形成させ,そこに,繊維を導入して粒子を付着させるという粒子付着装置等があることを知り,このような粒子付着装置等を利用して,コークス粉と炭素質バインダーピッチからなる混合粉末による流動層(fluidized bed)の中に炭素繊維の束を通過させること等によりプリフォームドヤーン(preformed yarn)を製造することを思い着いた。
そこで,原告は,上記粒子付着装置等を利用又は入手する方法を探していたところ,C教授から,上記粒子付着装置等を保有する企業として富士スタンダードリサーチを紹介された。原告は,富士スタンダードリサーチに対し,原告が調整したマトリックス原料を手渡して原告の指示に従いプリフォームドヤーンの試作を行うことを依頼し,同社が作製したプリフォームドヤーンをホットプレスしてC/C複合材料が得られることを確認するなどし,昭和61年4月ころまでに,本件各発明を完成させた。
(ウ)本件特許出願に係る特許公報(甲1の1。以下「本件特許公報」という。)には,原告のほか,C教授,B,D及びEが発明者として記載されているが,実際には,本件各発明は原告の単独発明であり,原告以外の4名は発明者ではない。すなわち,C教授については当時原告が所属していたC研究室の主宰者であったこと,B(現在の被告の代表取締役)は,当時富士スタンダードリサーチの社員で,原告の担当者であったこと,Dは当時富士スタンダードリサーチの代表取締役,Eは同取締役であったことなどから,当時の慣習又は儀礼上,上記4名が発明者として記載されたにすぎない。
イ 以上のとおり,本件各発明は,原告の単独発明である。
(2) 被告の反論ア本件各発明は,Bの単独発明であり,原告は,その発明者ではない。
本件各発明に至る経緯は,以下のとおりである。
(ア)富士スタンダードリサーチでは,Bを中心として,炭素繊維(強化繊維)を樹脂(マトリックス)で固めた複合材料である炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」という。)の研究開発を進めた結果,CFRPを製造する際に柔軟性中間材(プリフォームドヤーン)を使用することによって,CFRPの製造工程を簡素化し,かつ高い品質のCFRPを製造することができることを見出し,炭素繊維等の強化繊維と熱可塑性樹脂繊維(マトリックス)からなる混合繊維束の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けた構成のCFRP用柔軟性中間材の発明に至った。
富士スタンダードリサーチは,昭和60年12月9日,その親会社である富士石油株式会社及び上記研究開発を共同で行っていた大同特殊鋼株式会社と共に,上記発明の特許出願(乙1)をした。
(イ)Bは,CFRP用柔軟性中間材の開発に併せ,炭素繊維の用途としてC/Cに着目し,その製造方法に関する研究開発を進める中で,CFRP用柔軟性中間材の熱可塑性樹脂繊維を他の材料に置き換えることによって,C/C複合材料用の柔軟性中間材を構成することができるかもしれないと着想し,C/C複合材料のマトリックスとして適切な材料を探していたところ,C教授及びFが共同執筆した「ホットプレス法によるC/Cの開発研究」と題する論文(1984年9月発行。乙2)中に,バルクメソフェース粒にピッチコークス又は石油コークス粉末を混合したものをC/C複合材料のマトリックスとして使用できることが示されていることを知った。
そこで,Bは,炭素繊維(強化繊維)の間にバインダーピッチ粉末とコークス粉末の混合粉末(マトリックス)を含有させた混合繊維束の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けた構成により,C/C複合材料用の柔軟性中間材を構成することができると考え,本件各発明を完成した。
(ウ)富士スタンダードリサーチの代表取締役のD及び同取締役のEは,昭和60年ころ,富士スタンダードリサーチで試作した炭素繊維をC研究室に提供し,共同研究をすることを思い立ち,C教授に対し,その申出をしたところ,C教授が快諾したため,富士スタンダードリサーチ及びC研究室の共同研究が開始された。その当時,原告は,C教授の指導の下,C/Cとは関係のない一般的な高密度高強度炭素材の研究を開始したところであった。その後,C研究室におけるC/Cの研究は原告に引き継がれたが,実際に原告がC/Cに関連する技術を研究テーマとして本格的に取り組むようになったのは,本件特許出願の出願日(昭和61年8月2日)より後のことである。
本件特許公報に,原告が発明者の一人として記載されているのは,BがC教授に本件各発明をC教授との共同発明として出願したい旨相談したところ,C教授から,原告の名前も発明者の一人として入れて欲しい旨の要請があり,この要請をいれて本件特許出願の願書にC教授と共に原告の名前が発明者として記載されたためである。実際には,本件各発明の完成に至る経過において,原告の協力,関与は存在しない。
なお,本件特許出願の願書には,B,C教授及び原告のほかに,D及びEも発明者として名前が記載されているが,これは当時の富士スタンダードリサーチの慣例に従って関係者の名前を儀礼的に記載したにすぎない。
イ 以上のとおり,原告は,本件各発明の発明者ではない。
2 争点2(債務引受合意の成否等)について(1) 原告の主張ア原告は,昭和61年5月ころ,富士スタンダードリサーチとの間で,原告が有する本件各発明の特許を受ける権利を富士スタンダードリサーチに譲渡し,原告が東大生研を退職した後に,富士スタンダードリサーチが原告に対しその譲渡対価として相当対価を支払う旨の合意(以下「本件譲渡合意」という。)をした。
イ(ア)原告は,昭和62年6月ないし7月ころ,被告及び富士スタンダードリサーチとの間で,被告が,富士スタンダードリサーチの原告に対する本件譲渡合意に基づく本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価の支払債務を引き受ける旨の合意(以下「本件債務引受合意?@」という。)をした。
仮に原告,被告及び富士スタンダードリサーチの三者間における本件債務引受合意?@の事実が認められないとしても,原告と被告は,これと同旨の合意(以下「本件債務引受合意?A」という。)をした。
(イ) 本件債務引受合意?@又は?Aに至る経緯は,次のとおりである。
?@昭和62年3月31日まで富士スタンダードリサーチの取締役であったEは,同年3月か4月ころ,JR東京駅八重洲北口の国際観光ホテルの喫茶店において,原告に対し,Eが新たに設立する新会社が本件各発明に係る特許を受ける権利等を富士スタンダードリサーチから譲り受けて,その事業化に成功した場合には,新会社から「還元する」,すなわち「相当対価」を原告に支払う旨の申入れをした。
?A富士スタンダードリサーチが事業活動を停止することとに伴い,昭和62年5月20日に被告が設立された後,被告は,富士スタンダードリサーチから,本件各発明に係る事業の譲渡を受けた。被告の設立に際し,Eは,その代表取締役に就任した。
?BEは,昭和62年6月ないし7月ころ,JR東京駅八重洲北口の国際観光ホテルの喫茶店において,原告に対し,被告において本件各発明について「商品化に成功した際には還元する」,すなわち,被告が「相当対価」を支払う旨の申入れを改めて行い,原告がこれを承諾し,原告と被告間で,その旨の合意が成立した。
ウしたがって,被告は,原告に対し,本件債務引受合意?@又は?Aに基づき,富士スタンダードリサーチの原告に対する本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価の支払債務を負っている。
(2) 被告の反論ア原告主張の本件譲渡合意の事実及び本件債務引受合意?@,?Aの事実は,いずれも否認する。
すなわち,原告は本件各発明の発明者でないから,そもそも富士スタンダードリサーチが原告から本件各発明の特許を受ける権利の譲渡を受ける旨の合意をする理由はなく,実際に,富士スタンダードリサーチが原告との間で本件譲渡合意をした事実はない。
また,富士スタンダードリサーチが原告に対し本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価の支払債務を負っていない以上,被告がその支払債務を引き受ける理由はなく,実際に,被告が,原告及び富士スタンダードリサーチとの間で本件債務引受合意?@をした事実も,原告との間で本件債務引受合意?Aをした事実もない。
イなお,Eは,C/C複合材料の事業化の段階において,原告に対し,「事業化に成功した際には御礼をしたい。」という趣旨の言葉を申し述べたことはあるものの,その意味は,「自分たちが試作したC/C複合材料の評価に原告が協力したことに対して報いたい。」というものにすぎず,被告が原告に対し本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価を支払うことを約束したことを意味するものではない。
3 争点3(譲渡対価の額)について(1) 原告の主張ア原告と富士スタンダードリサーチは,本件譲渡合意の際に,本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価である相当対価算定方法を明示的に定めていないが,当事者の意思を合理的に解釈するならば,上記相当対価は本件特許の独占的実施許諾料相当額とする旨の合意をしたというべきである。
イ被告は,本件各発明について本件特許及び米国,韓国,欧州における対応特許を取得することにより,本件特許及びその対応特許の実施品であるC/C複合材料製品の製造・販売を独占的に行い,昭和62年5月から平成20年3月までの間に,別紙売上集計表のとおり,合計235億5796万8918円の売上げを計上した。
そして,本件特許は,被告におけるプリフォームドヤーンを用いたC/C複合材料の製造・販売の根拠をなす基本特許であるから,仮に,これを独占的に実施許諾したとすれば,その許諾料は売上げの5%を下らない。
したがって,本件譲渡合意に基づく本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価である相当対価は,11億7789万8446円(235億5796万8918円×0.05)を下回ることはない。
ウ以上によれば,原告は,被告に対し,本件債務引受合意?@又は?Aに基づき,原告と富士スタンダードリサーチ間の本件譲渡合意に基づく譲渡対価11億7789万8446円の一部請求として1億円及びこれに対する平成19年6月27日(原告が被告代表者に対し「「C/C複合材料」の発明対価に関する要求書」と題する書面を交付した日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 被告の反論原告の主張は争う。
当裁判所の判断
本件の事案にかんがみ,争点2(債務引受合意の成否等)から判断することとする。
1 争点2(債務引受合意の成否等)について(1) 判断の前提となる事実前記争いのない事実等と証拠(甲2,5ないし7,13,17,乙5ないし9(以上,枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア(ア)原告は,昭和39年に横浜国立大学工学部応用化学科を,昭和43年に同機械工学科をそれぞれ修了した後,同年4月から昭和57年3月まで,東大生研の第4部鉄鋼研究室に所属し,試験高炉における鉄鉱石の還元機構に及ぼすコークスの役割の理論的解析等の研究を行った。
原告は,昭和57年4月,C教授が主宰するC研究室に所属を替え,平成元年3月までC研究所に所属していた。
その当時C研究室では,各種耐熱用複合材料の製造技術の開発及びその物性調査の研究を行っていた。
(イ)その後,原告は,平成元年4月から平成11年3月まで,東大生研の第4部G研究室に所属し,同年3月,東大生研を定年退職した。
イ(ア)富士スタンダードリサーチとC研究所は,昭和60年ころから,炭素繊維強化炭素材料の共同研究を開始した。
その後,富士スタンダードリサーチは,昭和61年8月2日,C,原告,B,D及びEの5名を発明者として願書に記載し,本件特許出願をした。なお,その当時,Eは富士スタンダードリサーチの取締役であったが,昭和62年3月31日に同取締役を辞任した。
(イ)被告は,昭和62年5月20日に設立され,Eが代表取締役社長に,Bが取締役に就任した。
被告は,富士スタンダードリサーチから,複合材料関係の研究設備及び測定装置を購入し,熱可塑性樹脂系の複合材料(FRTP)と炭素繊維強化炭素材料(C/C複合材料)の研究開発を開始した。
また,被告は,富士スタンダードリサーチから,C研究室との炭素繊維強化炭素材料の共同研究を引き継いだ。
ウ(ア)富士スタンダードリサーチと被告は,昭和62年6月30日,?@富士スタンダードリサーチが被告に対し本件特許出願に係る発明の特許を受ける権利を譲渡する,?A被告が富士スタンダードリサーチに対し上記譲渡対価として15万円を支払う,?B被告及びその実施権者が本件特許出願に係る発明について商業化を行った場合,被告は富士スタンダードリサーチに対しロイヤリティーを支払うものとし,当該製品の販売価格の1%を目安とする旨の譲渡契約(乙7)を締結した。
(イ)被告は,昭和62年8月12日,本件特許出願について出願人を富士スタンダードリサーチから被告に変更する旨の特許出願人名義変更届をした。
その後,被告は,平成元年5月ころから,炭素繊維強化炭素材料(C/C複合材料)の生産を開始し,平成4年ころには,本格的な生産販売を行うようになった。
(ウ)富士スタンダードリサーチと被告は,平成3年9月25日,前記(ア)の譲渡契約に基づくロイヤリティーの支払に関する覚書(乙8)を締結した。
(エ)被告は,平成6年2月10日,本件特許の特許権の設定登録を受けた。
(オ)被告は,前記(ウ)の覚書に基づいて,富士スタンダードリサーチに対し,平成7年7月31日に平成6年度分ロイヤリティーとして103万3755円を,平成9年7月31日に平成8年度分ロイヤリティーとして142万6011円を,平成10年7月31日に平成9年度分ロイヤリティーとして179万0103円を,平成11年7月31日に平成10年度分ロイヤリティーとして193万7616円を,平成13年7月31日に平成12年度分ロイヤリティーとして213万1799円を,平成14年7月31日に平成13年度分ロイヤリティーとして186万4634円を,平成15年7月31日に平成14年度分ロイヤリティーとして190万4898円を,平成16年7月31日に平成15年度分ロイヤリティーとして198万1241円をそれぞれ支払った。
エ(ア)原告は,平成18年4月11日,当時被告の代表取締役に就任していたBとの間で,被告の「名誉技術顧問」の肩書のある原告の名刺を被告が作成することを合意し,その後,被告は,同名刺(甲6)を作成した。
(イ)被告は,平成19年6月14日ころ,原告に対し,同月14日付けの「配当金相当額のお支払いについて」と題する書簡(甲7の1)を送付した。同書簡には,「昨年度にお約束致しましたとおり先生には,今般,配当金相当額をお支払いさせて頂きたく存じます。お支払金額は保有株式の額面に対し概ね10%程度とし,1,560,000円とさせて頂きたく存じます。尚,お支払の名目につきましては18年度分の顧問料(18年4月から月額13万円で1年分)と致したく,ご理解を下さいますようお願い申し上げます。」などとの記載があった。
なお,原告は,被告の設立に際し出資し,被告の株式を保有していた。
(ウ)原告は,平成19年6月26日,Bと会談し,その際,同日付けの「「C/C複合材料」の発明対価に関する要求書」と題する書面(甲7の2)をBに交付した。
同書面には,原告が被告に対し「C/C複合材料」の発明の対価として7億9000万円の支払を要求する,「配当金相当額(156万円)」は,「顧問料(H18年度分)」として受領する理由はないが,上記発明対価の一部としてなら受領する旨の記載があった。
これに対し被告の代理人弁護士は,平成19年7月31日付け書面(甲7の3)で,原告に対し,現時点ではさらに検討が必要な状況であり,原告の要求を受け入れる旨の回答はできない旨通知した。
(エ)原告は,平成19年9月25日付け内容証明郵便(甲7の4)で,被告の代理人弁護士に対し,被告における上記(ウ)の検討結果の回答等がいつになるのか,2週間以内に回答するよう求めるとともに,原告の請求は特許法に定める正当な発明の対価を求めるものであり,法律上禁止されている株主の権利行使に影響を与えるような利益の供与を求めるものではない旨通知した。
これに対し被告の代理人弁護士は,同年10月10日付け書面(甲7の5)で,本件特許の成立過程,本件各発明成立時点での原告の立場を精査した結果,本件は,「職務発明」に該当するものではないので,被告が原告に対し,特許法35条に規定する「相当の対価」を支払う必要はないと考えている旨回答した。
(オ)原告は,平成19年11月4日付け内容証明郵便(甲7の6)で,被告の代理人弁護士に対し,原告の請求は特許法35条によるものではなく,原告が発明者であり,被告が出願した外国特許(米国特許第4772502号,第4902453号,EPC特許第257847B1号,韓国特許第85960号)に係る各発明の特許を受ける権利を出願時点までに被告に譲渡しているので,その譲渡対価の支払を求める旨通知した。
これに対し被告の代理人弁護士は,同月27日付け書面(甲7の7)で,上記外国特許に係る各発明は,富士スタンダードリサーチ及びCの共同研究によって完成されたものである,原告は発明者ではないが,上記外国特許の出願当時,C/C複合材料に関し共同研究をしていたC研究室に敬意を表する意味で儀礼的・名誉的な意味で発明者として原告の名前を挙げたものである,被告が原告から上記各発明の特許を受ける権利の譲渡を受けた事実はなく,原告と被告間の譲渡対価支払の合意も存在しないので,原告の要求に応じる理由はない旨回答した。
(カ)原告は,平成20年9月16日,千葉地方裁判所に対し,本件訴訟を提起した。本件は,同月24日,当庁に移送された。
(2) 原告の主張に対する判断ア原告は,昭和61年5月ころ,富士スタンダードリサーチとの間で,原告が有する本件各発明の特許を受ける権利を富士スタンダードリサーチに譲渡し,原告が東大生研を退職した後に,富士スタンダードリサーチが原告に対しその譲渡対価として相当対価を支払う旨の合意(本件譲渡合意)をした後,昭和62年6月ないし7月ころ,原告,被告及び富士スタンダードリサーチの三者間で,被告が,富士スタンダードリサーチの原告に対する本件譲渡合意に基づく本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価の支払債務を引き受ける旨の合意(本件債務引受合意?@)をし,また,仮に本件債務引受合意?@の事実が認められないとしても,原告及び被告の二者間でこれと同旨の合意(本件債務引受合意?A)をした旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)本件においては,原告主張の本件譲渡合意の事実及び本件債務引受合意?@,?Aの事実を客観的に裏付ける合意書等の書証は提出されていない。
もっとも,原告の陳述書(甲13)中には,?@原告は,昭和61年11月か12月ころ,Eから呼び出されてEと会った際に,Eから,富士スタンダードリサーチは昭和61年の年度末に業績不振で閉鎖されることを聞かされた,?A原告は,昭和62年3月か4月ころ,Eと会った際に,Eから,富士スタンダードリサーチのスタッフからC/Cの商品化を継続実施するため新会社を設立するようせがまれており,Eが「万一会社を起こす際には投資に協力してほしい」と言われ,また,新会社を設立しても,Eが富士スタンダードリサーチに勤務していた際に交わした約束事と同様の商品化に成功した際には,新会社から「還元する」との話があった,?B原告は,被告設立後の同年6月か7月ころ,被告の代表取締役社長のEから,「商品化に成功した際には還元する」と言われた旨の記載部分がある。
しかし,原告の陳述書の上記記載部分を前提としても,被告の代表取締役社長のEから,原告に対し,「商品化に成功した際には還元する」との発言があったというにすぎないのであって,そもそも何を「還元する」のか具体性に乏しいのみならず,Eの上記発言をもって,原告と富士スタンダードリサーチ及び被告の三者間,あるいは,原告と被告の二者間で,被告が,富士スタンダードリサーチの原告に対する本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価の支払債務があることを認めた上で,これを引き受ける旨の合意をしたものと認めることができない。
また,本件訴訟提起前の原告と被告の代理人弁護士間の交渉経過(前記(1)エ)をみても,原告は,被告が出願した外国特許(米国特許第4772502号,第4902453号,EPC特許第257847B1号,韓国特許第85960号)に係る各発明の特許を受ける権利を出願時点までに被告に譲渡したとして,その譲渡対価の支払を求めているのであり,本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価については直接交渉の対象に挙げておらず,また,被告が,富士スタンダードリサーチの原告に対する本件各発明の特許を受ける権利の譲渡対価の支払債務を引き受けた旨の主張もしていない。
したがって,本件訴訟提起前の原告と被告の代理人弁護士間の上記交渉経過を勘案しても,原告主張の本件債務引受合意?@,?Aのいずれの事実も認めることはできない。
(イ)結局,本件においては,原告主張の本件債務引受合意?@,?Aの各事実を認めるに足りる証拠はない。
イ以上の次第であるから,原告主張の本件譲渡合意の成否について検討するまでもなく,原告主張の本件債務引受合意?@,?Aの事実はいずれも認められない。
2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)売上集計表事業年度期間売上高号証第1期昭和62年5月〜昭和63年4月8,876,690円甲5の1第2期昭和63年4月〜平成1年3月33,910,700円甲5の2第3期平成1年4月〜平成2年3月80,605,828円甲5の3第4期平成2年4月〜平成3年3月229,712,721円甲5の4第5期平成3年4月〜平成4年3月251,774,350円甲5の5第6期平成4年4月〜平成5年3月412,112,877円甲5の6第7期平成5年4月〜平成6年3月550,111,053円甲5の7第8期平成6年4月〜平成7年3月609,665,332円甲5の8第9期平成7年4月〜平成8年3月622,755,539円甲5の9第10期平成8年4月〜平成9年3月718,895,943円甲5の10第11期平成9年4月〜平成10年3月807,363,005円甲5の11第12期平成10年4月〜平成11年3月880,050,028円甲5の12第13期平成11年4月〜平成12年3月1,011,318,250円甲5の13第14期平成12年4月〜平成13年3月1,184,257,890円甲5の14第15期平成13年4月〜平成14年3月1,406,386,711円甲5の15第16期平成14年4月〜平成15年3月1,625,655,028円甲5の16第17期平成15年4月〜平成16年3月1,825,403,763円甲5の17第18期平成16年4月〜平成17年3月2,099,960,587円甲5の18第19期平成17年4月〜平成18年3月2,547,740,793円甲5の19第20期平成18年4月〜平成19年3月2,929,027,728円甲5の20第21期平成19年4月〜平成20年3月3,722,384,102円甲5の21合計昭和62年5月〜平成20年3月23,557,968,918円
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 関根澄子
  • この表をプリントする