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関連ワード 製造方法 /  29条1項3号 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術常識 /  先行技術 /  発明を特定する事項 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10420号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/09/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文


平成21年9月30日判決言渡
平成20年 行ケ 第10420号 審決取消請求事件
()
平成21年7月8日口頭弁論終結
判決
原告エルジー・ケミカル・カンパ
ニー・リミテッド
同訴訟代理人弁理士志賀正武
同 実広信哉
同 渡部崇
同 堀江健太郎
被告特許庁長官
同 指 定 代 理 人松本貢
同 斉藤信人
同 安齋美佐子
同 中田とし子
同 小林和男
主文
1特許庁が不服2005?19641号事件について平成20年6月3
0日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「電気化学的性能が向上したリチウムマンガンスピネ



ル酸化物の製造方法」とする発明につき,平成12年12月15日,国際特許
出願をし(優先権主張日・平成11年12月15日(大韓民国),以下「本
願」という。),平成16年5月21日付け手続補正書(甲3)を提出した
が,平成17年7月7日付けの拒絶査定を受けたので(甲5),同年10月
11日,これに対する審判請求(不服2005?19641号事件,甲6)を
するとともに,平成20年5月26日付けの手続補正書(甲10)を提出し
た(以下この補正を「本件補正」という。)。
特許庁は,平成20年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし(付加期間90日),その謄本は同年7月15日に原告に送達さ
れた。
2 特許請求の範囲
本件補正後の本願の請求項1は,下記のとおりである(請求項の数は8であ
る。)。
「【請求項1】リチウムマンガン複合酸化物用のマンガン化合物の製造方法
であって,電解二酸化マンガン(MnO ;EMD),化学二酸化マンガン(M

nO ;CMD),Mn O 及びMn O からなる群から選択されるマンガン化 2 23 34
合物のみに機械的な力と熱エネルギーを同時に加えてマンガン化合物の粒子内
部に存在する欠陥を除去し,微細粒子の凝集及び凝集した粒子の形状を調節す
る段階を含み,前記加える機械的な力が0.1?1000dyne/cm であ

り,加える熱エネルギーの温度の範囲は50?200℃,時間は5分乃至5時
間である製造方法。」
3 審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件補正は,請求項1に「マ
ンガン化合物のみに機械的な力と熱エネルギーを同時に加え」ること(以下「
本件補正事項」という。)を含み,それは,願書に最初に添付した明細書又は
図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,特許法17条



2第3項に規定する要件を満たしていないとするものである。
第3 取消事由に係る原告の主張
審決は,?@新規事項の追加に関する判断を誤って本件補正を却下したもので
あり(取消事由1),?A手続上の瑕疵がある(取消事由2)から,取り消され
るべきである。
1 取消事由1(新規事項の追加に関する判断の誤り)
(1)審決は,本願の請求項1の本件補正事項が,本願の願書に最初に添付し
た明細書又は図面(甲1。以下「本願当初明細書等」という。)に記載した
事項の範囲内ではないと判断したが,誤りである。
すなわち,本願当初明細書等の段落【0011】,【0015】?【00
21】には,マンガン化合物に機械的な力と熱エネルギーを加える操作(以
下「MH処理」という場合がある。)が同時に行なわれることが記載されて
いる。そして,本願当初明細書等の実施例1(段落【0031】?【004
2】)によれば,マンガン化合物のみにMH処理を同時に加える一方で,マ
ンガン化合物以外にMH処理を行なっていないことが明らかであるから,上
記記載は,本願当初明細書等の記載に基づくものであり,本願当初明細書等
の記載を総合して導かれる技術的事項との対比において,新たな技術的事項
を導入するものではない。
(2)被告は,本件補正事項は,マンガン化合物と所定の化合物から選択される
製剤とが共存する状態でマンガン化合物のみにMH処理を行う一方で製剤に
はMH処理を行わないという技術的事項を追加するものであると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,本願当初明細書等には,マンガン化合物に製剤を加える態様と
製剤を加えない態様の両方が記載され,本願当初明細書等の実施例1はマン
ガン化合物に製剤を加えない態様が,実施例2はマンガン化合物に製剤を加
える態様が,それぞれ示されていた。そして,原告は,特許庁における手続



の経緯において,本願の請求項1について本件補正事項により上記実施例1
の態様に限定した。請求項2は実施例2の態様に対応する。
また,マンガン化合物と製剤とが共存する状態でMH処理を行えば,マンガ
ン化合物と製剤の両方がMH処理されるのは当然であり,そのような状態で
マンガン化合物のみにMH処理を行い,製剤にはMH処理を行わないこと
は,物理的に実現不可能である。仮に,被告が主張するとおりの条件下で,
マンガン化合物のみにMH処理を行い,製剤にはMH処理を行わないことが
可能であったとしても 本願当初明細書等に記載した範囲内の事項であると
,
の結論に影響を与えるものではない。
(3)被告は,実施例1を参酌しても,MH処理される対象にはマンガン化合物
以外にも水素イオン及びその他の揮発可能なイオンや結晶水が含まれており
,これらもMH処理を受けるから,本件補正事項は新規事項に当たると主張す
る。しかし,どのような化合物でも100%純粋であることはあり得ず,不純
物が含まれることは当然のことである。また,上記不純物を含むマンガン化
合物を適切に処理してこれらの不純物を除去することは本願発明の目的とさ
れる。そうすると,本件補正事項は,吸着水,結晶水,水素イオン及びその他の
揮発可能なイオン等を不純物として含む通常の状態のマンガン化合物のみに
機械的な力と熱エネルギーを同時に加えるという意味であることは当業者に
自明である。したがって,マンガン化合物のみに機械的な力と熱エネルギー
を同時に加える際にこれらの不純物もMH処理を受けることは当然に予定さ
れていることであるから,被告の上記主張は技術常識に照らし不合理であ
る。
2 取消事由2(手続上の瑕疵)
被告は,請求項2への新規事項の追加が問題とされていることを平成20年
2月20日付けの拒絶理由通知中で原告に実質的に告知せず,請求項2への新
規事項の追加について原告に意見を述べる機会を実質的に与えることなく審決



に至ったのであるから,審決には手続上の瑕疵がある。
第4 被告の反論
原告の主張には理由がなく,審決には取り消すべき違法は認められない。
1 取消事由1(新規事項の判断の誤り)に対し
(1)製剤を添加したマンガン化合物にMH処理を同時に加えると,通常マン
ガン化合物のみならず製剤にも機械的な力と熱エネルギーが同時に加わると
解され,また,「前記マンガン化合物に・・・の製剤を添加して機械的な力
と熱エネルギーを同時に加える」(請求項2)や「MH処理を容易にする製
剤として・・・LiOHH Oを更に添加することを除いては前記実施

1と同一方法で電解二酸化マンガン(EMD)をMH処理した。」(実施
2)との記載を併せると,本願当初明細書等には,マンガン化合物以外の製
剤にもMH処理が同時に加えられる発明が記載されていると解される。しか
し,マンガン化合物以外に「機械的な力と熱エネルギーを同時に加え」る操
作を行なわないこと,すなわち,「マンガン化合物のみに機械的な力と熱エ
ネルギーを同時に加え」ることを示す記載は,本願当初明細書等には存在し
ない。
そうすると,本件補正は,本願当初明細書等に記載した事項の範囲内にお
いてしたものとはいえない。
(2)本願当初明細書の実施例1では,MH処理される対象にはマンガン化合物
以外にも水素イオン及びその他の揮発可能なイオンや結晶水が含まれ,これ
らの物質が揮発する以上,MH処理を受けていることは明らかであり,また本
願発明の請求項は「原料マンガン化合物」と特定せず,単に「マンガン化合
物」としている。したがって,実施例1の記載を参酌しても,本件補正事項は
本願当初明細書等に記載がなく,本件補正は,その事項の範囲内においてした
ものとはいえない。
(3)本願の請求項2に記載の「LiOH,LiOH・H O,LiCH CO
2 3



O,LiCHO,LiCHO・H O及びLiNO 及び200℃以下の融点 2 3
を有する遷移金属の塩」のうち,「200℃以下の融点を有する遷移金属の
塩」として本願当初明細書等の段落【0026】に例示されているMn(C
H CO ) を製剤として選択すると,融点が180℃であるMn(CH C
322 3
O ) は,MH処理の温度が180℃を越える場合に溶解する。すなわち, 22
180℃を越える温度でのMH処理条件下では,Mn(CH CO ) は溶 322
解し,そこに「機械的な力」は作用しないから,マンガン化合物のみに機械
的な力と熱エネルギーが同時に加えられてMH処理が行われる一方で,製剤
にはMH処理が行われないということが起こりうる。そして,この場合,遷移
金属の塩の融点に応じてMH処理の温度をそれより高く選択するという新た
な技術的事項が導入されることになる。
また,本願当初明細書等の実施例2では,水酸化リチウム一水和物はMH処
理によって溶解せず固体のままであり,製剤を同時に添加した状態でマンガ
ン化合物のみに選択的にMH処理を行い製剤にはMH処理を行わないという
操作を技術的事項とする請求項2に係る発明の実施例とはいえない。
2 取消事由2(手続上の瑕疵)に対し
新規事項追加違反の拒絶理由は,請求項に関する拒絶理由ではないから,拒
絶理由通知において,明細書,特許請求の範囲又は図面についての補正事項を
対象とし,その存在箇所を具体的に指摘し,理由を記載すれば,関係する請求項
を列挙する必要はない。平成20年2月20日付け拒絶理由通知書は,請求項
2への新規事項追加を指摘するものと理解できる。以上のとおり,拒絶理由通
知は,請求項2においても新規事項について問題があるとの内容を含むものと
解されるから,請求項2における新規事項の追加について意見を述べる機会を
奪うものとはいえず,審決には手続上の瑕疵が存在しない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(新規事項の追加の判断の誤り)について



(1) 事実認定
ア 手続の経緯
前記第2,1で認定した事実及び証拠(甲1ないし10)によれば,以
下の事実が認められる。
(ア)原告は,平成12年12月15日,本願を出願したが,その請求項
1,2は以下のとおりであった(甲1)。
「【請求項1】リチウムマンガン複合酸化物用のマンガン化合物の製
造方法であって,マンガン化合物に機械的な力と熱エネルギーを同時に
加えてマンガン化合物の粒子内部に存在する欠陥を除去し,微細粒子の
凝集及び凝集した粒子の形状を調節する段階を含むマンガン化合物の製
造方法。」
「【請求項2】前記マンガン化合物にLiOH,LiOH・H O,

LiCH COO,LiCHO,LiCHO・H O及びLiNO 及び2 3 2 3
00℃以下の融点を有する遷移金属の塩からなる群から選択される1種
以上の製剤を添加して機械的な力と熱エネルギーを同時に加える,請求
項1に記載のマンガン化合物の製造方法。」
(イ)特許庁(審査官)は,本願は特許法29条1項3号,2項,29条
の2の規定により特許を受けることができないとして,平成16年2月
20日付けで拒絶理由通知を行った(甲2)。同拒絶理由通知書に
は,「下記引用文献1,2にはマンガン酸化物とリチウム化合物とを機
械的に混合する方法が記載されている。さらに上記混合物はマンガン酸
リチウムの製造に用いられることが記載されている。」との記載があ
る。
(ウ)これに対し,原告は,平成16年5月21日付け手続補正書を提出
した(甲3)。同補正後の請求項1は以下のとおりであった(補正箇所
に下線を引いた。)。なお,原告は請求項2については本件補正を含め



て補正をしていない。
「【請求項1】リチウムマンガン複合酸化物用のマンガン化合物の製
造方法であって,電解二酸化マンガン(MnO ;EMD),化学二酸化

マンガン(MnO ;CMD),Mn O 及びMn O からなる群から選 2 23 34
択されるマンガン化合物のみに機械的な力と熱エネルギーを同時に加え
てマンガン化合物の粒子内部に存在する欠陥を除去し,微細粒子の凝集
及び凝集した粒子の形状を調節する段階を含み,前記機械的な力が前記
マンガン化合物の微細粒子を凝集して,粒径を増大させ,且つ,粒径分
布を狭くし,前記凝集した粒子を球形とし,前記機械的な力が粉砕を含
まない,製造方法。」
また,同日付け意見書には上記補正の理由として,以下の記載があ
る(甲4)。
「すなわち,引用文献1及び2記載の発明では,マンガン化合物とリ
チウム化合物の両方が混合されて熱処理を受けています。しかしなが
ら,補正後の本願発明では,「機械的な力」と「熱エネルギー」はマン
ガン化合物にしか同時に付与されません。」
「一方,補正後の本願発明では,これらの先行技術の問題を解決する
ために,リチウム化合物と混合される前のマンガン化合物原料を前処理
しています。したがって,補正後の本願発明では,形状のコントロール
された欠陥のないマンガン化合物を得ることができ,それを用いて得ら
れたスピネル型リチウムマンガン複合体は改善された形状を有する一方
で内部欠陥を有さないものとなります。
更に,補正後の本願発明では,スピネル型リチウムマンガン複合体を
製造するためにマンガン化合物をリチウム化合物と混合するときには「
機械的な力」と「熱エネルギー」とを同時に付与することはありませ
ん。なぜならば,遠心力が「機械的な力」に加わり,大きな密度差を有



するマンガン化合物とリチウム化合物とが混合される場合にこれらが分
離してしまうかもしれないからです。
引用文献1及び2には,「機械的な力」と「熱エネルギー」とをマン
ガン化合物のみに同時に付与することについて記載も示唆もしておりま
せんし,また,コントロールされた形状の高純度マンガン化合物原料
が「機械的な力」と「熱エネルギー」とをマンガン化合物に同時付与す
ることによって得られ,それがスピネル型リチウムマンガン複合体の特
性を改善することはたとえ当業者といえども容易に想到しうるものでは
ありません。」
(エ)特許庁(審査官)は,平成17年7月7日付けで拒絶査定をした(
甲5)。その理由として,同拒絶査定には,請求項2,3,7,12に
ついて,「引用文献発明の機械的混合に用いる手段と,本願発明の機械
的な力と熱エネルギーとを加える処理で用いる手段とは重複することか
ら(本願詳細な説明【0022】参照),引用文献発明と本願発明とは
機械的な力と熱エネルギーとを加える処理を行う点で相違するものとも
認められない。」,「これに対して出願人は・・引用文献発明と本願発
明とは,本願発明は機械的な力と熱エネルギーとはマンガン化合物にの
み同時に付与する点で相違する旨主張するが,本願詳細な説明実施例2
はLiOHを添加したマンガン化合物に機械的な力と熱エネルギーとを
加える処理を行っており,本願発明はリチウム化合物とマンガン化合物
とに機械的な力と熱エネルギーとを加える処理を行うことを含むものと
認められることから出願人の主張は採用できない。」との記載がある。
(オ)原告は,平成17年10月11日付けで審判請求をしたが(甲
6),特許庁(審判長)は,平成20年2月20日付けで拒絶理由通知
を行った(甲9)。同拒絶理由通知書によれば,その理由として「特許
請求の範囲の請求項1,8及び12に記載された,発明を特定する事項



である「マンガン化合物のみに機械的な力と熱エネルギーを同時に加
え」および「機械的な力が粉砕を含まない」は,下記(い)?(ろ)の理由
で,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のも
のでないから,当該事項を含む平成16年5月21日付けの補正は,特
許法第17条の2第3項に規定する要件を満足していない。」とあり,
その理由としてさらに以下の記載がある。
「(い)補正前の明細書には,次の(1)?(6)の記載がある。(
1)「マンガン化合物に機械的な力と熱エネルギーを同時に加え」(請
求項1参照),(2)「前記マンガン化合物にLiOH,・・・からな
る群から選択される1種以上の製剤を添加して機械的な力と熱エネルギ
ーを同時に加える,請求項1に記載のマンガン化合物の製造方法。」(
請求項2参照),(3)「前記製剤の添加量がマンガン化合物の0乃至
20重量%である,請求項2に記載のマンガン化合物の製造方法。」(
請求項3参照),(4)「製剤の添加量は処理されるマンガン化合物の
0乃至20重量%が好ましい。」(段落0026参照),(5)実施
1に「MnO 原料・・・を・・・機械溶融混合機(・・・)に投入

し,100℃の熱を加えながら剪断応力及び圧縮応力を原料粒子に加
え」(実施例1参照),(6)「MH処理を容易にする製剤として・・
・LiOH・H Oを更に添加することを除いては前記実施例1と同一

方法で電解二酸化マンガン(EMD)をMH処理した。」(実施例2参
照)。
したがって,前記請求項1の「マンガン化合物に機械的な力と熱エネ
ルギーを同時に加え」は,前記製剤を添加する場合を含めて,マンガン
化合物に機械的な力と熱エネルギーを同時に加えることを示していると
解される。
そして,製剤を添加したマンガン化合物に機械的な力と熱エネルギー



を同時に加えると,通常,マンガン化合物のみならず製剤にも「機械的
な力と熱エネルギー」が同時に加わると解されること,さらに,前記(
2)の「前記マンガン化合物に・・・の製剤を添加して機械的な力と熱
エネルギーを同時に加える」や前記(6)の「MH処理を容易にする製
剤として・・・LiOH・H Oを更に添加することを除いては前記実

施例1と同一方法で電解二酸化マンガン(EMD)をMH処理した。」
との記載があることを合わせ考えると,願書に最初に添付した明細書又
は図面には,マンガン化合物以外の製剤にも機械的な力と熱エネルギー
が同時に加えられる発明が記載されていると解される。
しかし,マンガン化合物以外に「機械的な力と熱エネルギーを同時に
加え」る操作を行わないこと,すなわち,「マンガン化合物のみに機械
的な力と熱エネルギーを同時に加え」ることを示す記載は,願書に最初
に添付した明細書又は図面には,特に存在しない。
してみると,補正によって特許請求の範囲に加わった「マンガン化合
物のみに機械的な力と熱エネルギーを同時に加え」なる事項は,願書に
最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものでないと
解するのが自然である。
(は)「マンガン化合物に・・・の製剤を添加して機械的な力と熱エネ
ルギーを同時に加え」かつ「マンガン化合物のみに機械的な力と熱エネ
ルギーを同時に加え」る操作は,前記したように,通常は考えにくい操
作であり,明細書の発明の詳細な説明の記載から,両者を特定要件とす
る発明を導き出すことは困難である。
したがって,前記の両者を特定要件とする発明に相当する,請求項1
を引用した請求項2に係る発明は,明細書の発明の詳細な説明に記載さ
れた発明であるとすることができない。
請求項3,5及び7に係る発明についても,請求項2と同様の理由



で,明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとすることがで
きない。」
(カ)原告は,平成20年5月26日付けで本件補正を行った(甲1
0)。
イ 本願当初明細書等の記載
本願当初明細書等(甲1)には,以下の記載がある。
(ア)「・・・マンガンの原料である電解二酸化マンガンにはこの原料を
合成する過程で導入された多様な欠陥(不純物,吸着水,結晶水,水素
イオン及びSO,Cl ,NHなどのその他のイオン)が内部に存
4 4
2? +
?
在している。このような不純物はLiMnO のスピネル化合物を
1 x 2-x 4
+
得るための熱処理過程で不純物として存在する安定な中間相を形成す
る。・・・」(段落【0005】)
(イ)「前記のような欠陥を除去するための多様な試みがあった。・・・
このような方法は水溶液で進められるために原料の内部に水分が浸透し
て内部に吸着水を内包させる危険がある。また水溶液から乾燥された
後,粒子が強く凝集するために粉砕という過程を経るようになり,その
過程で再び不純物が混入することがあり,また不純物を除去するための
酸処理と塩基処理を同時に行うことができない工程上の不便性も持って
いる。」(段落【0006】)
(ウ)「本発明の他の目的は,前記製造方法で製造されたマンガン化合物
であって,その内部に存在する欠陥が除去され,粒子の形状が改良され
たマンガン化合物をマンガン原料として使用して製造される性能が向上
したリチウムマンガンスピネルの製造方法を提供することにある。」(
段落【0009】)
(エ)「本発明は前記目的を達成するために,リチウムマンガン複合酸化
物の原料であるマンガン化合物の製造方法であって,マンガン化合物に



機械的な力と熱エネルギーを同時に加えてマンガン化合物の粒子内部に
存在する欠陥を除去し,粒子の凝集及び凝集した粒子の形状を調節する
段階を含むマンガン化合物の製造方法を提供する。」(段落【0011
】【課題を解決するための手段】)
(オ)「前記機械的な力と熱エネルギーを加える操作を本発明ではMH処
理という。機械的な力は原料であるマンガン化合物の粒子に加えられる
ものであって,凝集した粒子にひずみを発生させて原子の移動による再
配列を可能とする推進力を増加させることである。これと同時に熱を加
えて粒子の再配列を促進し,また原料の2次粒子内部に存在する吸着
水,結晶水,水素イオン及びその他の揮発可能なイオンを揮発させ
る。」(段落【0015】)。
(カ)「このようなMH処理を行うとマンガン化合物粒子内部に存在する
欠陥濃度を減少させることができ,これによってマンガン化合物内のマ
ンガンの平均原子値が増加する。」(段落【0016】)。
(キ)「本発明のこのようなMH処理はボールミル,摩擦ミル,ジェット
ミル,遠心分離機ミルなどのように粒子の表面に剪断応力を加えること
ができる装置に加熱装置を付着した特定の装置によって行うことができ
る。この剪断応力は粒子に応力を加えて材料内原子の移動推進力を増加
させ,同時に加えた熱エネルギーは物質移動を促進させながら揮発性不
純物を揮発させる。」(段落【0022】)
(ク)「前記装置の好ましい他の一例は本発明の実施例で使用された機械
熔融混合機と称される表面コーティング装置である。この装置は粒子に
剪断応力,圧縮応力などの機械的な力と外部から温度を調節することが
可能な長所を有しており,セラミックス粉末に微細な金属をコーティン
グさせるのに多く応用されている。この装置は図10に模式的に作動原
理を示した。詳細に説明すれば原料マンガン化合物が混合チャンバ1に



導入され,マンガン化合物は回転するチャンバ壁2に沿って遠心力によ
って集積し固定軸3のところで剪断応力と圧縮応力を受け,内部のスク
レーパー6はチャンバ壁2に付いているマンガン化合物を掻き取り,内
部の熱電帯は外部ヒーター7の加熱を調節する。」(段落【0023
】)
(ケ)「前記MH処理において,処理を容易にする製剤を添加することが
できるが,好ましい製剤として・・・」(段落【0026】)
(コ) 「実施例1 原料マンガン化合物のMH処理
電解二酸化マンガン(MnO )(EMD;electrolyti 2
c Manganese Dioxide)の内部に存在する欠陥を除去
するためにMH処理をした。つまり,MnO 原料の重量を秤取し,こ

れを図10に模式的に示した機械溶融混合機(日本の細川社製造AM-
15)に投入し,100℃の熱を加えながら剪断応力及び圧縮応力を原
料粒子に加えて改質された二酸化マンガンを製造した。」(段落【00
31】)。
(サ)「MH処理した二酸化マンガン粒子内に存在する欠陥(表面吸着,
揮発性イオン,結晶水または構造欠陥)の分布変化をMH処理時間に従
って図1に示した。」(段落【0032】)。
(シ) 「スピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物の製造
前記でMH処理された二酸化マンガン原料と水酸化リチウム一水和
物(LiOH・H O)をMn/Liモル比が0.538になるように調

節して混合した。
十分に混合された粉末を400?500℃の炉で大気中7時間熱処理
した。
熱処理が終わった粉末は冷却後,化学的組成の均一化のために再度混
合した。



このようにして得られた粉末を750℃の炉で空気雰囲気下で2次熱
処理してリチウムマンガンスピネル粉末を合成した。」(段落【003
5】)。
(ス) 「実施例2 原料マンガン化合物のMH処理
MH処理を容易にする製剤としてMnO 1モル当り0.03モルの 2
LiOH・H Oを更に添加することを除いては前記実施例1と同一方 2
法で電解二酸化マンガン(EMD)をMH処理した。」(段落【004
3】)
(セ) 「スピネル構造のリチウムマンガン化合物酸化物の製造
前記製剤を添加してMH処理された電解二酸化マンガンを使用するこ
とを除いては実施例1と同一方法でリチウムマンガンスピネルを製造し
た。
製造されたスピネル粉末において,二酸化マンガンのタップ密度の変
化をMH処理時間に従って図7に示した。」(段落【0044】)
(2) 判断
ア上記の認定事実によれば,本件補正事項である「マンガン化合物のみに
機械的な力と熱エネルギーを同時に加え」るとの事項が,本願当初明細書
等の実施例1に開示されていることは明らかである。
すなわち,実施例1では,原料マンガン化合物のMH処理の段階におい
て,マンガン化合物である二酸化マンガンには機械的な力(剪断応力と圧
縮応力)と熱エネルギー(100℃の熱の加熱)が加えられている。その
後のスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物の製造において,マンガ
ン化合物以外のリチウム化合物である水酸化リチウム一水和物が添加・混
合され,混合後に400?500℃の炉で大気中7時間熱処理が行われ,
その後冷却された再度混合されて均一化された粉末が750℃の空気雰囲
気下で2次熱処理を受けてリチウムマンガンスピネル粉末とされるが,そ



の間は熱エネルギーが加えられるものの,リチウム化合物には機械的な力
が同時に加えられるものではない。
したがって,本件補正事項は,本願当初明細書等の実施例1に基づくも
のであるから,本願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導
かれる技術的事項との対比において,新たな技術的事項を導入するものと
はいえない。また,本件補正により,本件補正前発明に関する技術的事項
に何らかの変更を生じさせているものということはできない。
イ被告は,本願当初明細書等の実施例1では,MH処理の対象にマンガン
化合物以外にも水素イオン及びその他の揮発可能なイオンや結晶水を含
み,これらがMH処理を受けるから,マンガン化合物のみに機械的な力と
熱エネルギーを同時に加えることは新規事項の追加に当たると主張する。
しかし,被告の上記主張は失当である。すなわち,前記認定の本願当初
明細書等の記載によれば,本願発明において,MH処理を実施する目的
は,原料の2次粒子内部に存在する吸着水,結晶水,水素イオン及びその
他の揮発可能なイオンを揮発させることにあり,当業者であれば,このよ
うな不純物の除去を当然の前提としていると解するのが相当である。そう
すると,当業者は,本件補正における「マンガン化合物のみ」を,このよ
うな不純物をも含んだMH処理前の「マンガン化合物のみ」との意味であ
ると理解するといえる。
ウしたがって,被告の上記主張は理由がない。その他,被告は,取消事由
1に関して縷々反論するが,いずれも理由がない。
2 結論
以上の次第であるから,取消事由2(手続上の瑕疵)について判断するまで
もなく,原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし,主文のとおり
判決する。
知的財産高等裁判所第3部



裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官
上田洋幸

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