関連審決 | 無効2007-800227 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10433審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10359審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10366審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10243審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10345審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 公知技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 参酌 / 技術的意義 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / 国際公開 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10436号
審決取消請求事件
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原告ダイセル化学工業株式会社 同訴訟代理人弁護士吉澤敬夫 同弁理士平田忠雄 岩永勇二 角田賢二 遠藤和光 中村恵子 被告日 本化薬株式会社 同訴訟代理人弁護士小池豊 櫻井彰人 萱島博文 同弁理士川口義雄 小野誠 渡邉千尋 金山賢教 大崎勝真 坪倉道明 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/09/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2007-800227号事件について平成20年10月14日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において下記2の本件発明についての特許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1本件訴訟に至る手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「エアバッグ用ガス発生器及びエアバッグ装置」とする特許第2926040号(平成10年4月16日特許出願。特許法41条1項の規定に基づく優先権主張日:平成9年5月9日。平成11年5月7日設定登録。 請求項の数は,後記(3)の訂正後は11である。以下「本件特許」という。)に係る特許権者である(甲72)。 (2)被告は,平成12年1月28日,本件特許について,特許異議の申立てを行い,原告は,平成12年9月12日付け及び平成13年6月25日付け(甲73)で訂正請求をしたところ,平成13年8月23日付けで,訂正を認め,特許を維持するとの異議の決定がされた。 (3)被告は,平成19年10月19日,本件特許について,特許無効審判を請求し,無効2007-800227号事件として係属した。原告は,平成20年1月7日付けで,本件特許に係る明細書中,特許請求の範囲の記載を訂正するとの訂正請求をした(甲74)。以下,同請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件特許における本件訂正に係る明細書(甲74添付の全文訂正明細書)を「本件明細書」という。 (4)特許庁は,平成20年10月14日,本件訂正を認めた上,「特許第2926040号の請求項1〜11に係る発明についての特許を無効とする。」との本件審決をし,同月24日,その謄本を原告に送達した。 2本件発明の要旨本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし11の記載は次のとおりである。 以下,請求項の番号に従って,「本件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。 【請求項1】ガス排出口を有するハウジング内に,衝撃センサが衝撃を感知することにより作動する点火手段と,該点火手段により着火されて燃焼し燃焼ガスを発生するガス発生剤と,前記燃焼ガスの冷却及び/又は燃焼残渣の捕集を果たすフィルタ手段とを含んで収容してなるエアバッグ用ガス発生器において,前記ガス発生剤は,含窒素有機化合物の含有量が25〜60重量%,酸化剤の含有量が40〜65重量%,スラグ形成剤の含有量が1〜20重量%で,70 kg /cm の圧力下に於ける線燃焼速度が7〜15 mm / sec のもので,充填量が,(a)2運転席用のエアバッグ用ガス発生器においては20〜50 g,(b)助手席用のエアバッグ用ガス発生器においては50〜190 g であり,前記フィルタ手段は,かさ密度が3.0〜5.0 g / cm で,かつ圧力損失が230℃の雰囲気下で1000リットル/ min の空気流量に対して10〜2000mmH O のもので,フィルタ手段の圧力損失値は,前記ハウジングに形成された前記2ガス排出口の圧力損失値よりも低いものであり,前記ガス排出口が形成された前記ハウジングの外周壁と前記フィルタ手段の間に環状のガス通路となる間隙が形成されており,前記各ガス排出口の開口面積の総和A t に対する前記ガス発生剤の表面積の総和Aの値(A/A t)を300より大きく1300以下に規制することを特徴とするエアバッグ用ガス発生器。 【請求項2】ガス排出口を有するハウジング内に,衝撃センサが衝撃を感知することにより作動する点火手段と,該点火手段により着火されて燃焼し燃焼ガスを発生するガス発生剤と,前記燃焼ガスの冷却及び/又は燃焼残渣の捕集を果たすフィルタ手段とを含んで収容してなるエアバッグ用ガス発生器において,前記ガス発生剤は,テトラゾール若しくはその金属塩,トリアゾール若しくはその金属塩,トリアミノグアニジン硝酸塩,カルボヒドラジッド又はニトログアニジン(「ニトログアージン」の記載は「ニトログアニジン」の誤記と認められる。)である含窒素有機化合物の含有量が25〜60重量%,酸化剤の含有量が40〜65重量%,スラグ形成剤の含有量が1〜20重量%で,70 kg / cm(「k/2cm 」の記載は「kg / cm 」の誤記と認められる。)の圧力下に於ける線燃焼速度2 2が7〜15 mm / sec のもので,充填量が,(a)運転席用のエアバッグ用ガス発生器においては20〜50 g,(b)助手席用のエアバッグ用ガス発生器においては50〜190 g であり,前記フィルタ手段は,かさ密度が3.0〜5.0 g / cm (「/ cm 」の記載は3 3「g / cm 」の誤記と認められる。)で,かつ圧力損失が20℃の雰囲気下で10300リットル/ min の空気流量に対して10〜2000 mmH O のもので,フィルタ 2手段の圧力損失値は,前記ハウジングに形成された前記ガス排出口の圧力損失値よりも低いものであり,前記ガス排出口が形成された前記ハウジングの外周壁と前記フィルタ手段の間に環状のガス通路となる間隙が形成されており,前記各ガス排出口の開口面積の総和A t に対する前記ガス発生剤の表面積の総和Aの値(A/A t)を450〜1300に規制することを特徴とするエアバッグ用ガス発生器。 【請求項3】前記各ガス排出口の開口面積の総和A t に対する前記ガス発生剤の表面積の総和Aの値(A/A t)が,運転席用及び助手席用のエアバッグ用ガス発生器において,A/A t =450〜1000であり,前記ハウジングは,前記各ガス排出口を有するディフューザシェルと,前記点火手段を収容する中央筒部材が配置される中央孔を有するクロージャシェルとを含み,前記ディフューザシェル,前記中央筒部材,及び前記クロージャシェルは別体のものが一体化されていることを特徴とする請求項1記載のエアバッグ用ガス発生器。 【請求項4】前記各ガス排出口の開口面積の総和A t は,(a)運転席用のエアバッグ用ガス発生器においては,50〜200 mm ,(b)助手席用のエアバッグ用ガス2発生器においては,60〜500 mm であることを特徴とする請求項1〜3の何れ2か1項記載のエアバッグ用ガス発生器。 【請求項5】前記各ガス発生剤の表面積の総和Aは,(a)運転席用のエアバッグ用ガス発生器においては,4×104〜7×104 mm ,(b)助手席用のエアバッグ2用ガス発生器においては,6×104〜3×105 mm であることを特徴とする請2求項1〜4の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生器。 【請求項6】前記ガス排出口は,その内径が2〜5 mm であり,前記ディフューザシェルはプレス成形によって形成されていることを特徴とする請求項3〜5の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生器。 【請求項7】前記ガス発生剤は,前記含窒素有機化合物が30〜40重量%であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生器。 【請求項8】前記含窒素有機化合物がニトログアニジンであることを特徴とする請求項1記載のエアバッグ用ガス発生器。 【請求項9】前記スラグ形成剤が酸性白土であることを特徴とする請求項1又は8項記載のエアバッグ用ガス発生器。 【請求項10】前記ガス発生剤は単孔円筒形状であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生器。 【請求項11】エアバッグ用ガス発生器と,衝撃を感知して前記ガス発生器を作動させる衝撃センサと,前記ガス発生器で発生するガスを導入して膨張するエアバッグと,前記エアバッグを収容するモジュールケースとを含み,前記エアバッグ用ガス発生器が請求項1〜10の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生器であることを特徴とするエアバッグ装置。 3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明について,優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されておらず,特許法29条の規定の適用については,先の出願の時にされたものとみなすことができず,現実の出願日である平成10年4月16日を出願日とすると,本件発明は,下記アないしウの引用例1ないし3に記載された各発明(以下,その順に従って,「引用発明1」などという。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものとして,無効とすべきである,というものである。 ア引用例1:特開平10-29493号公報(甲1)イ引用例2:特開平7-52748号公報(甲18)ウ引用例3:国際公開96/10494号パンフレット(甲7)(2)なお,本件審決が認定する本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点のうち取消事由に関係する相違点3ないし5は,次のとおりである。 一致点:ガス排出口を有するハウジング内に,衝撃センサが衝撃を感知することにより作動する点火手段と,該点火手段により着火されて燃焼し燃焼ガスを発生するガス発生剤と,前記燃焼ガスの冷却及び/又は燃焼残渣の捕集を果たすフィルタ手段とを含んで収容してなるエアバッグ用ガス発生器において,前記ガス発生剤は,含窒素有機化合物の含有量が25〜60重量%,酸化剤の含有量が40〜65重量%,スラグ形成剤の含有量が1〜20重量%で,70 kg /cm 2の圧力下に於ける線燃焼速度が7〜15 mm / sec であるものを含み,充填量が,(a)運転席用のエアバッグ用ガス発生器においては20〜50 g,(b)助手席用のエアバッグ用ガス発生器においては50〜120 g であるものを含み,前記フィルタ手段は,かさ密度が3.0〜5.0 g / cm で,前記ガス排出口が3形成された前記ハウジングの外周壁と前記フィルタ手段の間に環状のガス通路となる間隙が形成されており,前記各ガス排出口の開口面積の総和A t に対する前記ガス発生剤の表面積の総和Aの値(A/A t)を規制するエアバッグ用ガス発生器。 相違点3:フィルタ手段の圧力損失について,本件発明1は,「20℃の雰囲気下で1000リットル/ min の空気流量に対して10〜2000 mmH O」であるの2に対し,引用発明1は,「常温及び流量100l/ min / cm の条件下で,0.32×10〜1.5×10kg / cm 」である点。 -2 -2 2相違点4:A/A t の値について,本件発明1は,「300より大きく1300以下」に規制しているのに対し,引用発明1は,「(a)運転席用エアバッグにおいては,A/A t =100〜300,(b)助手席用エアバッグにおいては,A/A t=80〜240」である点。 相違点5:フィルタ手段の圧力損失値と,ガス排出口の圧力損失値の関係について,本件発明1は,「フィルタ手段の圧力損失値は,前記ハウジングに形成された前記ガス排出口の圧力損失値よりも低い」のに対し,引用発明1は,このような関係を有するか不明である点。 4取消事由(1)本件発明1についての無効判断の誤りア阻害事由を看過した判断の誤り(取消事由1)イ引用例2についての認定・判断の誤り(取消事由2)ウ最適化の手法等による容易想到性の判断の誤り(取消事由3)(2)本件発明2ないし11についての無効判断の誤り(取消事由4)第3当事者の主張1取消事由1(阻害事由を看過した判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件発明1と引用発明1との技術思想の異同引用発明1は,ガス発生剤の燃焼によって発生する圧力(燃焼内圧)をフィルタ手段によって制御する思想に基づいている。これに対し,本件発明1は,燃焼内圧をフィルタ手段によって制御するという思想とは全く逆に,ハウジングに設けられた開口部(ガス排出口)側で燃焼内圧を制御する思想に基づくものであって,フィルタ手段側では,燃焼内圧に大きな影響を与えることのないようにするため,フィルタ手段の圧力損失に関する「かさ密度が3.0〜5.0 g / cm で,かつ圧力損3失が20℃の雰囲気下で1000リットル/ min の空気量に対して10〜2000mmH O のもの」であるとする要件,「フィルタ手段の圧力損失値は,前記ハウジン2グに形成された前記ガス排出口の圧力損失値よりも低い」とする要件などの構成が特定されている。 (2)本件発明1に引用発明1を適用することの阻害事由の有無ア引用発明1は,本件発明1の主要な発明特定事項である「10〜2000mmH O のフィルタ手段」,「ハウジングに形成されたガス排出口の圧力損失値より2低い圧力損失値のフィルタ手段」及び「A/A t を300より大きく1300以下に規制する」構成とは正反対の構成であり,これらを置き換えると,引用発明1の目的・技術思想に反する結果となるものであるから,本件発明1の引用例とすることができない阻害事由を内在するものであり,また,引用発明1の高圧損フィルタを低圧損フィルタに変更することは,引用例1及び2に記載も示唆もされていないものであって,本件発明1の進歩性の判断に当たり,引用例1を対比判断の資料に使用することができないにもかかわらず,本件審決にはこの点を看過した誤りがある。 なお,引用発明1は,原告の出願に係るものであるが,アジド系ガス発生剤を用いたガス発生器から非アジド系ガス発生剤を用いたガス発生器への移行期に開発された技術であって,当時のエンハンサ室,ガス発生剤室(燃焼室)及びフィルタ室を隔壁やコンバスタカップなどで分割した3室構造が主流であったアジド系ガス発生剤を用いたガス発生器に多用されていた技術を引き継いだ発想に基づきながら,従来のこのような隔壁やコンバスタカップなどの燃焼室隔壁部材の役割・機能を果たす代替手段として,クーラント/フィルタ自体を用いることにより,ガス発生剤室(ガス発生手段用燃焼室)を画成し,この部屋で燃焼ガスの圧力を正常な燃焼にとって望ましい値に維持することを特徴とするものである(【0012】【0025】)のに対し,引用発明1におけるA/A t は,A/A t 値が,ガス発生剤20ないし50 g について100ないし300とされ,この比の設定によってガス発生剤の燃焼速度が運転席用エアバックに適した速度に調整され,ガス発生器に備わるガス発生剤が所望の時間内で完全燃焼することを保証するという特徴を有するものであって,A/A t の機能・役割は補完的なものである。 イまた,相違点4に係るA/A t の値の差異の点について,引用例1の明細書【0182】の記載は,本件発明1の「A/A t を300より大きく1300以下に規制する」構成を利用することを否定するものであって,本件発明1とは技術思想を異にするものであるから,引用例1の「A/A t =100〜300」の値を,本件発明1の「A/A t を300より大きく1300以下」に置き換えることはできず,これを仮に置換してしまうと,引用例1の発明では「ガス発生器内の圧力は過大となり,ガス発生材料の燃焼速度が余りに大きくなる」ため,その目的に反する結果となる。 (3)小括したがって,引用発明1を本件発明1の引用発明とするには明白な阻害事由を内在するのであって,本件発明1の進歩性の判断に当たり,引用例1を対比判断の資料に使用し得ないものである。 〔被告の主張〕(1)本件発明1と引用発明1との技術思想の異同本件審決は,相違点5として,フィルタ手段とハウジング開口部の圧力損失の大小関係につき,引用発明1と本件発明1との相違点を認め,また,相違点3として,フィルタ手段の圧力損失につき,引用発明1と本件発明1との相違点を認めている。 (2)本件発明1に引用発明1を適用することの阻害事由の有無ア本件審決(37頁11〜17行)は,引用発明1においても,「フィルタ手段」(クーラント/フィルタ407)と「ハウジングに設けられた開口部」(A/A t の値)のうち,いずれか一方の要因のみによっても燃焼ガスの圧力(燃焼内圧)を適正に制御し得るといえ,そうしてみると,相違点3や相違点5につき,「フィルタ手段」と「ハウジングに設けられた開口部」の圧力損失の大小関係を本件発明1のように調整(反転)することが不可能といえるような理由はないとしたものであって,的を射た判断ということができる。 イ原告は,引用例1の明細書【0182】における記載は,本件発明1の「A/A t を300より大きく1300以下に規制する」構成を利用することを否定するものであって,引用発明1は,本件発明1とは技術思想を異にすると主張するが,「燃焼圧力」=「フィルタ全体の圧力損失」+「開口部全体の圧力損失」との関係式が成立するものであるから,引用例1の明細書【0231】の「ハウジング内最大内圧は,専ら開口部総面積によって規制する」との記載に準じて当該開口部によりガス発生剤の燃焼(ハウジング内最大内圧)を制御する場合には,そのフィルタ手段として低圧損のものを採用すべきことを当業者が当然に想起することができ,逆に,そのようにして選択した低圧損のフィルタ手段に応じて開口部の圧損を高くする(A/A t を300より大きくする)ことも,引用発明1で否定されている構成ということはできない。 (3)小括ガス発生器の燃焼室内(ガス発生剤の燃焼内圧)を所定の値に制御しようとする際,それに影響するフィルタ手段の圧力損失とハウジング開口部の圧力損失の大小関係を変更することが技術的に不可能であったなどということはできないものであるから,単にそのような大小関係を変更したら引用発明1のものとは反対の関係になるからといって,直ちに,引用発明1を本件発明1の引用例とするには元々阻害事由が内在していたとか,引用例1を対比判断の資料とはできないとされるものではない。 2取消事由2(引用例2についての認定・判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)引用例2の読み方相違点3に係る判断における本件審決(34頁14〜23行)の引用物2についての認定は,「燃焼室14と調整用空間17との圧力がほぼ同等となること」についての認定とフィルタ16の圧力損失の認定において誤っている。 引用例2には,その開示されているフィルタ16が「燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えないフィルタ」であるとは記載されておらず,【0016】に「この圧力調整用空間17は冷却捕集フィルタ16の外周部までガスの流通を可能とし,フィルタ16を均一に利用できるようにする。しかも,燃焼ガスの圧力が縮径されたガス排出口2で決定され,燃焼室14と圧力調整用空間17との間では圧力がほぼ同等となり,フィルタ16を通過するガスの流出速度が抑制されて固体残渣がガス圧によりフィルタ16から押し出されることが防止される。」と記載されているにすぎず,燃焼室14と空間17との間の圧力がほぼ同等となるのは「燃焼ガスの圧力が縮径されたガス排出口2で決定」されるからである。引用例2の冷却捕集フィルタ16が「燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えない」圧力損失を有するものであると認定した本件審決には誤りがあり,引用例2のフィルタ16を引用発明に適用しても本件発明1を導くことはできない。 (2)引用例2記載のフィルタ16の圧力損失の高さ引用例2のフィルタ16は,アジ化ナトリウム(NaN )に代表されるアジド系3ガス発生剤の使用を前提としたフィルタである(【0017】,【0018】)。 アジ化ナトリウムは,自己分解反応によって,金属ナトリウムと窒素ガスを発生するところ,金属ナトリウムは,沸点883℃,融点98℃であり,ガス発生剤が燃焼している時は気体で存在し,また,非常に反応性が強く,強アルカリであるため,バッグから放出されると人体に悪影響を与えるおそれがあるため,ナトリウムに対する対策が重要であって,ナトリウムを伴う残渣を捕捉するためのフィルタにおいては,気体の金属ナトリウムを冷却して液体にしてこれらを捕捉するため,高い冷却・濾過性能が必要となり,基本的に高圧損のものであることが常識となっている。 このように,引用例2のフィルタ16は,アジ化ナトリウム系ガス発生剤の残渣捕集能力向上を目指した発明であることを勘案すると,本件発明1よりもはるかに圧力損失の高いフィルタである可能性が高く,本件発明1に規定するような低圧損な構成のフィルタを使用するものであるということができないことから,「フィルタ16は燃焼圧力にほぼ影響を与えないもの」であるとした本件審決の認定は誤っている。 また,引用例2の【0015】の「前記支持板12は冷却捕集フィルタ16を支持し,フィルタ16がガス圧により変形するのを防止するとともに,ガス排出口2との間に圧力調整用空間17を形成している。」との記載からは,フィルタ16が変形するほどの圧力損失があること,同【0020】の「なお,この冷却捕集フィルタ16の体積は,燃焼室14全体の体積の約33%を占め」との記載のとおり,フィルタ16が燃焼室14の33%を占める大きなフィルタであること,同【0025】の「(1)図3に示すように,支持板12を円錐状に形成すると同時に,冷却捕集フィルタ16を支持板12に沿うように円錐状に形成して,フィルタ16内を燃焼ガスが流れ易くすること。」との記載のとおり,フィルタ16の通過面積を少し増やすとガスが流れやすくなることが認められ,これによると,引用例2のフィルタ16は,作動時にフィルタ前後で圧力損失が存在すること,フィルタは相当大きな体積を占めること,圧損を減らす工夫を設計者が実施していることが理解でき,フィルタ16は,「圧力に影響を与えないフィルタ」ではないことことが分かる。 さらに,引用例2においては,「燃焼室14はハウジング1内においてキャップ4と支持板12との間に形成され」(【0015】)ているものであるから,フィルタ16収容部分も燃焼室14に含まれるにもかかわらず,本件審決は,これを無視し,燃焼室14がガス発生剤収容部分のみであると決め付け,フィルタ16の前後で圧力差がないと認定し,また,引用例2の【0016】は圧力調整用空間17について説明している部分であるから,同段落における「燃焼ガスの圧力」における「燃焼ガス」とは圧力調整用空間17に存在する燃焼で発生したガスのことであるにもかかわらず,本件審決は,この「燃焼ガスの圧力」を燃焼部(ガス発生剤収容部)の圧力と誤認し,その結果,排出口2が燃焼部の圧力を決定するとの誤った認定をし,これを基に,ほとんど圧損のないフィルタでアジド系ガス発生剤の燃焼残渣を捕集できるという技術的に非常識な認定をしたものである。 さらにまた,引用例2において,ガス排出口2は「縮径されたガス排出口2」との記載があるとおり,ハウジング1の径を縮小したものであることが分かるが,燃焼ガスを高圧に制御するための開口部面積は,燃焼部の断面性よりもはるかに小さい面積でなければならないところ,引用例2の図1や3をみると,高圧ガスを制御できるほどにまで縮小された径であると読むことができないこと,引用例2の【0012】に「ガス導入管を介して」と記載されるとおり,ガス排出口2にはある程度の太さを有するガス導入管が取り付けられるため,ガス排出口2は,それに合わせたある程度の太さを有する径である必要があって,ハウジング1内全体を制御できるほど高圧損の開口部とは考えられないことからすると,ハウジング1内全体の燃焼ガスの圧力を決定できるほどガス排出口2が縮径されていると考えることはできず,ガス排出口2が決定するのは,圧力調整用空間17の「燃焼ガス」の圧力であって,ガス排出口2が生成する圧力損失は圧力調整用空間17内部の圧力分布が解消できる程度の小さなものであるということができる。 〔被告の主張〕(1)引用例2の読み方引用例2の【0016】には,「燃焼室14と圧力調整用空間17との間では圧力がほぼ同等とな」ることが記載されており,そのようなガス発生器に用いられるフィルタ16が「燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えないフィルタ」であることは,当業者が技術常識に照らして理解することである。 加えて,本件明細書の【0011】にも,「ただしA/A t の値を上記のように明確に定義する上では,ガスの流れを絞り,燃焼内圧をコントロールする部分より手前側で大きな抵抗を持った部材を有しないことが望ましい。例えば,後で説明する実施例においてでもそうであるが,通常燃焼圧力をコントロールする部分即ちガス排出口の手前にはクーラント・フィルタが配置され,発生したガスの冷却とガス中の固形残渣の捕集を行う。」と説明されているところ,引用例2においても「燃焼ガスの圧力が縮径されたガス排出口2で決定され」るようにするのならば,この縮径されたガス排出口2の手前側に大きな抵抗を持った部材(高圧損のフィルタ手段)を配するようなことを当業者が行うようなはずはなく,この点からでさえ,引用例2のフィルタが「ガスの圧力にほぼ影響を与えないもの」であるべきことに間違いはない。 (2)引用例2記載のフィルタ16の圧力損失の高さ引用例2の【0016】によると,引用例2においても,ガス排出口2により燃焼ガスの圧力を制御することによってフィルタ16を圧力制御に関与させないという技術思想が開示されており,そして,同段落の燃焼室14と圧力調整用空間17との間では圧力がほぼ同等となるとの記載も併せて考慮すると,フィルタ16の圧力損失は低いものとみることができる。 3取消事由3(最適化の手法等による容易想到性の判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)最適化の手法本件審決は,相違点3の圧力損失値につき,最適化をすることによって本件発明1の数値を導くという操作を行い,さらにそのことによって相違点4の「A/A tの値」についても,最適化が再度必要であるとし,2度にわたる最適化の操作をしている。 公知技術との対比によって容易推考性を肯定するためには,主引例に副引例の記載をそのまま適用することによって対象発明が導けるか否かを素直に判断するのが原則であり,主引例との相違点に副引例の記載を適用しても対象発明が導けないときには,容易想到性は否定されなければならない。一般に,これらの組合せによって完全には対象発明が導けない場合であっても,発明の本質とかかわらない差異部分等について,技術水準を参照して差異部分についても容易想到性を肯定できる場合があり得るが,本件審決の認定・判断は,そのような場合とは全く異なる。 本件審決が行った2度にわたる最適化は,以下の(2)及び(3)のとおり,引用例の組合せによっても発明の本質部分が異なることになるため対象発明が導けない場合につき,「後知恵」に基づき引用例に全く記載のない「ある種の発明」を2度にわたって行うことによって,引用例同士を無理やり組み合わせて容易想到性を肯定しようとするもので,最適化ができることを裏付ける証拠その他の合理的な根拠は一切存在せず,本件審決の行っている対比は,本件発明1と引用例とは異なる架空の発明を対比しているに等しく,もはや容易想到性を肯定することができる限度を超えている。 (2)相違点3に係る圧力損失値の最適化ア本件審決(35頁3〜7行)は,「引用発明のクーラント/フィルタ407に引用例2に開示された前記技術思想を適用する際,燃焼室隔壁部材を廃止することができる程度に圧力損失を大きくすることも考慮の上,圧力損失値の最適化を図り,20℃の雰囲気下で1000リットル/ min の空気流量に対して10〜2000 mmH O の範囲内に設計することに格別の困難性はない。」とするが,前記のと2おり「低圧損なフィルタ」の技術思想が引用例2に開示されているとした判断が誤りであることに加え,圧力損失の最適化を図るとなぜ本件発明1の圧力損失値の範囲を導くことができるのか不明であることや,引用例1には,本件発明1のフィルタの圧力損失の数値範囲とすることによって燃焼室隔壁部材を廃止することができることの開示も示唆もないことからも,本件審決は誤ってる。 イ引用発明1のクーラント・フィルタ407は,「燃焼ガスの圧力を望ましい値に維持することができ,燃焼室隔壁部材を廃止することができ」るようなものであって,?@クーラント・フィルタ自身がガス発生剤燃焼時の圧力室を画成すること,?Aクーラント・フィルタ自身が燃焼ガスの圧力制御に係ること,という機能を有する圧力損失の高い「高圧損なフィルタ」であることが明らかである。引用例1の【0182】においても,「ガス発生剤の燃焼を調整するために,A/A t について適当な設定がされる」こと,「A/A t の適当な設定範囲を外れると,燃焼時間は望ましい範囲外となり,かかる燃焼時間をもつエアバッグ用ガス発生器は使用し得ない」ことが記載されているにすぎず,引用例1の他の記載を含め,引用発明のA/A t の数値範囲(例えば運転席用エアバッグでは100≦A/A t ≦300)においてA/A t の値を適当に調整することが記載されているとしても,当該数値範囲を超えてまでA/A t の値を設定して調整するとか,その調整によって燃焼ガスの圧力を適正化できるとか,その結果燃焼ガスの圧力を望ましい値に維持できるなどの開示は一切ない。 これに対し,本件発明1では,本件明細書の【0011】において「ただしA/A t の値を上記のように明確に定義する上では,ガスの流れを絞り,燃焼内圧をコントロールする部分より手前側で大きな抵抗を持った部材を有しないことが望ましい」とし,【0012】において「…この通気抵抗は,燃焼内圧をコントロールする部分であるガス排出口にも存在するが,クーラント・フィルタを配置する際には,ガス排出口の通気抵抗よりもクーラント・フィルタの通気抵抗の方が低い場合にA/A t の値を先述の如く正確に設定することができる。」と記載されており,燃焼内圧をコントロールする機能を有しない(【0040】)フィルタ手段を使用してこのフィルタ手段の圧力損失値を前記各ガス排出口の圧力損失値より低くしたため,作動開始から作動終了までの作動期間中において,「…外気の温度差によって影響を受けることなく,安定した作動性能を示す」(【0092】)という効果をサポートして確実にする前記異質の効果を奏するものである。 ウ以上のとおり,本件発明1では,フィルタが燃焼時の圧力制御へ関与することを極力排除し,ハウジングの開口部の面積とガス発生剤の表面積の関係であるA/A t の値によって(外郭容器側で)基本的な圧力制御をしているから,フィルタの目的及び使い方が引用発明1と全く正反対であって,引用発明1を見た当業者が,それと正反対のフィルタを使用しようとする動機付けが存在しない。 また,このような正反対のフィルタ手段を相互に入れ替えて矛盾なく双方の発明を成り立たせることは元々困難であり,それ自体が阻害事由に当たるものであって,仮に引用例2に開示されたフィルタ16が審決の認定するような「燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えないフィルタ」である「低圧損なフィルタ」であったとしたならば,これをそのまま引用発明1に適用すると,引用発明の「燃焼ガスの圧力を望ましい値に維持することができ,燃焼室隔壁部材を廃止することができ」るようなものではないから,引用発明1は成り立たなくなるし,逆に,引用例2に開示されているとする「低圧損なフィルタ」に,審決の認定する「燃焼室隔壁部材を廃止することができる程度に圧力損失を大きくすることも考慮の上,圧力損失値の最適化」を図ると,それはもはや審決の認定する引用例2に記載のフィルタですらなくなってしまうのであって,そのような「圧力損失を大きく」したフィルタは,本件発明1の目的に反するものとなる。 そして,どのような基準に基づき,どのような思考過程によれば,「20℃の雰囲気下で1000リットル/ min の空気流量に対して10〜2000 mmH O の範囲2内に設計する」ことが可能であるのかは理解できず,そのような最適化を必要とする動機付けとなるべき根拠,また,そのような最適化を可能とする技術的根拠及びそれを裏付ける証拠も全く見当たらない。 エ本件審決(35頁21〜24行)は,引用例2に開示されているフィルタのみを個別に取り出し,容易に引用発明のフィルタに置き換えることができるとするが,ガス発生器の燃焼時の圧力制御は,フィルタのみで可能であるわけではなく,開口部の圧力損失その他の要因との兼ね合いで達成されるものであり,ガス発生器の発明は,それらの多くの要因を組み合わせて特定の動作をさせることを技術思想としているものであるところ,本件発明1は,「燃焼ガスの圧力」が「フィルタの圧力損失」及び「A/A t」の関数であることを前提として成立しているものであるから,一方の要素であるフィルタのみを取り出し,異なる技術思想によるガス発生器に簡単に転用できるようなものではない。 (3)相違点4に係るA/A t 値の最適化ア本件審決(35頁末行〜36頁10行)は,「引用発明1は,…ガス発生剤を運転席用エアバッグでは40〜60 msec,助手席用エアバッグでは50〜80msec で全て燃焼させるために,ガス発生器内の圧力が最適な値になるようにA/A t の値を調整しているといえる。」「そして,このA/A t の最適値は,ガス発生剤の燃焼速度や,ガス発生器内の圧力に影響を与える種々の要素が変化すれば,異なるものになることは明らかといえるところ,引用発明のクーラント/フィルタ407の圧力損失は,ガス発生器内の圧力に影響を与えるものである。したがって,このクーラント/フィルタ407の圧力損失を前記[相違点3]についてで検討したように設計すれば,A/A t の値の最適化が再度,必要になることは明らかである。」とするが,引用発明1のクーラント/フィルタ407は,従来はクーラントと別個にコンバスタカップ,コンバッションリング等の燃焼室画成部材を必要とすることから,大型化,重量化を招く結果になることにかんがみ,燃焼室画成部材を廃止して小型化,軽量化を期すためのもの(【0012】,【0013】)であって,燃焼室内で発生する燃焼ガスの圧力をガス発生剤の正常な燃焼にとって望ましい値に維持する所定の圧力損失値を有するものである(【0025】)ところ,引用発明1のクーラント/フィルタ407を,「10〜2000 mmH O」の圧力損失2値になるような「低圧損なフィルタ」とすれば,燃焼時の圧力室を形成するようなフィルタでなくなってしまうことから,燃焼室画成部材が必要となって,小型化,軽量化の目的に反する結果となる。 以上のとおり,引用発明1のクーラント/フィルタ407をその目的に反してまで,「A/A t の値の最適化が再度必要」とするということの動機付けとなる技術的又は論理的根拠が存在しない。 イまた,引用発明1が「100〜300」という低い「A/A t」値を採用しているのは,「A/A t の比がその最大値を超える時,エアバッグ用ガス発生器内の圧力は過大となり,ガス発生材料の燃焼速度が余りに大きくなる結果となる。該比が最小値より小さくなると,エアバッグ用ガス発生器内の圧力が十分上昇せず,燃焼速度が余りに小さくなるという結果となる。何れの場合も,燃焼時間は望ましい範囲外となり,かかる燃焼時間をもつエアバッグ用ガス発生器は使用し得ない。」(【0182】)という思想に基づくものであって,これを「300より大きく1300以下」という高い値の「A/A t」とすることは引用発明1の技術思想に反するものとなり,引用発明1自体が成立しないことになるから,本件発明1と相反する技術思想を開示する引用発明1には阻害事由が存在し,また,そのような阻害事由を克服して相反する技術を採用するための動機となる技術的な根拠及びそれを裏付ける証拠が必要も示されていない。 ウ本件審決は,引用発明1の「100〜300」という低い「A/A t」値を,本件発明1の「300より大きく1300以下」という高い「A/A t」値にすることが容易であるとするが,引用発明1ではガス発生器内の圧力が過大にならないようにするために,そのような構成を採用しているのに対し,本件発明1があえてこれを超える構成を採用しているのは,本件明細書【0033】及び【0034】に記載されるように,外気温の影響を少なくすることができることを大きな理由とするものであって,本件発明1は,「このように各ガス排出口の開口面積の総和At に対する前記ガス発生剤の表面積の総和Aの値(A/A t)を300より大に規制して,85℃と20℃,また20℃と-40℃とでの,内容量60リットルタンクを用いたタンク内圧力試験におけるそれぞれの最大圧力同士の差を,20℃での該タンク内圧力試験の最大圧力の25%以内とすることができる。」(同【0010】)という効果を達成し,大きな外気温の差のある場所で使用される自動車用のガス発生器において,しかも外気温に影響され易い非アジド系ガス発生剤を採用したガス発生器において,ガス発生器の作動時に於けるハウジング最大圧力が,外気の温度差によって影響を受けることなく,安定した作動性能を示すことのできるガス発生器となる」(同【0092】)という,引用発明1を含む従来例にない格別の効果を奏する発生器を得ることができたのである。 このように,本件発明1は,引用発明1とは異なる技術思想に基づき,その数値範囲を設定することによって,引用発明1や他の公知例と異なる格別の作用効果を達成しているのであるから,引用発明1の「100〜300」という低い「A/At」値を,本件発明1の「300より大きく1300以下」という高い「A/At」値にすることが,容易に置き換え可能なことであるとか,最適化の範囲内の事項であるとはいうことができない。 (4)実験報告書(甲22)の認定本件審決(36頁21〜24行)は,「甲22号証に添付された公正証書の謄本の写しを参酌すると,A/A t の値が409程度のガス発生器も本件特許の出願前より公知であったといえ,300より大きく1300以下の範囲という値自体,この技術分野において,格別な値であるとはいえない。」とするが,甲22中の「ガス発生器の分解調査」によると,ガス発生器の燃焼室は上側燃焼室と下側燃焼室とに2分され,下側燃焼室のガス発生剤だけが点火手段から着火用の開口を介して着火される構造になっているものであり,2分された上側燃焼室と下側燃焼室は,着火用の開口として機能し得ない極めて小さな3つの小孔を有した仕切板によって完全に隔離されている本件発明1とは異なる機構のものであって,上側燃焼室のガス発生剤は下側燃焼室のガス発生剤及び点火手段からどのようにして着火されるのかは不明であるから,甲22に示されるガス発生器において,認定されているA/At の値が409程度との値の意味が不明であってどのような技術的意義を有しているか不明であるから,このような技術的意義が不明な数値を根拠にして「300より大きく1300以下の範囲という値自体,この技術分野において,格別な値であるとはいえない」とした本件審決の判断は誤っている。 (5)相違点5の判断本件審決(36頁26〜末行)は,「引用発明1に記載されたクーラント/フィルタ407に,引用例2に開示された前記技術思想を適用し,…引用発明1のA/A t の値について,このクーラント/フィルタ407の圧力損失等を考慮の上,最適化すれば,引用発明1の燃焼室428の圧力は,クーラント/フィルタ407にほぼ影響を受けることなく,ハウジング403に形成されたガス排出口411により制御されることになる。」「このとき,クーラント/フィルタ407の圧力損失値は,ハウジング403に形成されたガス排出口411の圧力損失値よりも低いことは明らかであって,本件発明1の相違点5に係る構成とすることに格別の困難性はない。」とするが,上記のとおり,引用例2は本件審決が認定するような技術思想を開示していないこと及び10〜2000 mmH O と300(6)本件発明1の作用効果本件審決(37頁1〜3行)は,「本件発明1を全体としてみても,作用効果については,引用発明1ないし3から当業者が予測できる範囲のものである」とするが,本件発明の効果は,?@300〔被告の主張〕(1)最適化の手法原告は,本件審決につき,「架空の発明」に基づいているとか,「正反対の技術思想」を組み合わせているなどと非難するが,フィルタで「燃焼室を画成」しつつこのフィルタを「燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えない」ものとすることができるものであって,「架空の発明」とか「正反対の技術思想」を組み合わせているものではない。すなわち,一方で引用例1に従いフィルタで「燃焼室を画成」しつつ,他方で引用例2に従い「燃焼ガスの圧力が縮径されたガス排出口2で決定され」るようにすべきと当業者が動機付けられるのは,引用例2において「さらに,冷却捕集フィルタ16をニットワイヤでプレス成形により形成し,かつ圧力調整用空間17により圧力調整を図ったことから,フィルタ16の構造を従来よりも簡易にすることができて,ガス発生器の小型化を図ったり,製造コストの低減を図ることができる」(【0024】)ところ,この点は,引用例1でも「従って,従来のクーラントを備えるガス発生器においては,部品点数が増加し,またガス発生器の径が拡大し,そのためにガス発生器の大型化,重量化を招く結果となっている」(【0013】)ことに相通じるところがあるからである。 (2)相違点3に係る圧力損失値の最適化ア原告は,引用発明1のクーラント・フィルタ407が高圧損なフィルタであり,本件発明1のフィルタは低圧損なフィルタであることから,フィルタの目的及び使い方が全く正反対であって,引用発明1を見た当業者が,それとは正反対のフィルタを使用しようとする動機付けが存在しないと主張するが,引用例2の「燃焼ガスの圧力が縮径されたガス排出口2で決定され,燃焼室14と圧力調整用空間17との間では圧力がほぼ同等となり,フィルタ16から押し出されることが防止される」と同等の効果であるところの,本件発明1の「フィルタ手段が高圧領域に配置されているため,ガス流速も遅く,ミストやスラグ粒子の捕集も効率的で,バッグに持ち込まれ,穴明き・ガス漏れの原因になることはない。捕集ミストやスラグ粒子は重力で流れ落ち,フィルタ手段の目詰まりを起こすこともない」を得ようとし,また,引用例2のフィルタ16も燃焼室14を直接画成していることにかんがみて,この引用例2の技術思想を引用例1に組み合わせて本件発明1のような構成とする動機付けが存在するものということができる。 イまた,原告は,引用例2に開示されたフィルタが「低圧損なフィルタ」であったとしたなら,これをそのまま引用発明1に適用すると,引用発明の「燃焼室隔壁部材を廃止することができ」るようなものではないから,引用発明1は成り立たなくなると主張するが,引用例2の図1には,フィルタ16が燃焼室14を直接画成することが示されており,原告の上記主張は,何らの事実に基づくものとはいえない。 ウさらに,引用例1の【0231】には,追加の操作パラメータとして,ハウジング内最大内圧を「専ら開口部総面積によって規制する」ことも記載されており,その場合に「低圧損のフィルタ」に入れ替えることが引用例1において阻害されていたということもできない。 エさらに加えて,引用例1記載のフィルタの線径やかさ密度は本件発明1と同一のものであることから,直接燃焼室を画成するフィルタとしつつ,本件発明1の「20℃の雰囲気下で1000リットル/ min の空気流量に対して10〜2000mmH O の範囲内に設計する」ことに技術的困難性もない。 2オ原告は,本件発明1につき,「燃焼ガスの圧力」が「フィルタの圧力損失」及び「A/A t」の関数であることを前提として成立しているものであるから,一方の要素であるフィルタのみを取り出し,異なる技術思想によるガス発生器に簡単に転用できるようなものではないと主張するが,本件審決は,引用例2に記載されたフィルタとすれば,それに応じてA/A t 値の最適化(相違点4)も必要になると認定した後,そのA/A t 値の最適化についても十分に検討しているものであって,フィルタのみを個別に取り出しているわけではない。本件審決(35頁23,24行)は,「燃焼圧力」=「フィルタ全体の圧力損失」+「開口部全体の圧力損失」の関係式に照らせば,引用例2に記載されたフィルタ(燃焼ガスの圧力に影響を与えないフィルタ)とした場合には,それに応じてA/A t 値の最適化(開口部を高圧損とする)が必要にあるという当然のことを「二つの要因のうち,いずれか一方の要因のみでは,燃焼ガスの圧力を適正化できないという理由はない」と表現したものである。 (3)相違点4に係るA/A t 値の最適化ア原告は,引用発明1のクーラント/フィルタ407を「10〜2000mmH O」の圧力損失値となるような「低圧損なフィルタ」とすれば,燃焼時の圧力2室を形成するようなフィルタでなくなってしまうと主張するが,引用発明1のクーラント/フィルタ407に相違点3について検討したように設計すること,すなわち,引用発明1に引用例2のフィルタを適用することは,同時に,引用例2の【0016】の「燃焼ガスの圧力が縮径されたガス排出口2で決定され」るということを意味するから,その際には,「A/A t でインフレータの燃焼圧力を制御することが技術常識」であることにかんがみて,「A/A t 値の最適化が再度必要」となるものということができ,原告の上記主張は理由がない。 イまた,原告は,引用発明1につき,「300より大きく1300以下」という高い値の「A/A t」とすることは引用発明1の技術思想に反するものとなり,引用発明1自体が成立しないことになると主張するが,本件審決は,相違点3での判断に従って,引用発明1のフィルタ手段として低圧損のものを採用した場合には,それに応じてA/A t 値を最適化することは容易と認定・判断しているにすぎず,むしろ,A/A t 値のみを個別に取り出して議論する原告の方がその前提からして誤っているといわざるを得ず,原告の上記主張は失当である。 ウ原告は,本件発明1のA/A t 値が「300より大きく1300以下」という範囲とする技術的意義として,外気温度の影響を少なくすることができる点にあると主張し,本件明細書【0092】には「ガス発生器の作動時に於けるハウジング最大圧力が,外気の温度差によって影響を受けることなく,安定した作動性能を示すことのできるガス発生器となる」と記載されているが,その所望の時間内に完全燃焼させ得ることや,外気温度差への効果を示す本件発明に係る出願書添付の図7に関する実施例は,本件明細書【0089】ないし【0091】程度のもの,A/A t 値については「A/A t =502」の1点のみしかなく,そのような唯一の実施例から,「300より大きく1300以下」の全範囲において上記図7に示されると同等の効果を示すことができると知ることができないものであって,本件発明1のA/A t 値につき,「300より大きく1300以下」の全範囲において外気温度差に対する有利な効果が奏されるとはいうことができず,本件発明1の「300より大きく1300以下」との技術的意義が,外気温度の影響を少なくするという作用にあるとの原告の主張は成立せず,本件審決(36頁15〜20行)が「引用発明のA/A t の値について,前記[相違点3]についてで検討したクーラント/フィルタ407の圧力損失や,周囲温度の変化等,ガス発生剤の燃焼速度や,ガス発生器内の圧力に影響を与える種々の要素を考慮の上,最適化することは当業者にとって容易であって,300より大きく1300以下という範囲の値に設計すること自体,格別の困難性はない。」としたことに誤りはなく,原告の上記主張は採用できない。 (4)実験報告書(甲22)の認定甲22のガス発生器は,実際の市販乗用車に搭載されていたものであるところ,上側,下側双方の燃焼室のガス発生剤のいずれも,衝突を感知して適切に着火され,燃焼するものであって,この上下燃焼室に装填されたガス発生剤の表面積の総和を本件発明1の「A」と対比することも正当であって,本件審決(36頁21〜24行)が,「甲22号証に添付された公正証書の謄本の写しを参酌すると,A/A tの値が409程度のガス発生器も本件特許の出願前より公知であったといえ,300より大きく1300以下の範囲という値自体,この技術分野において,格別な値であるとはいえない。」としたことに誤りはない。 (5)相違点5の判断上記のとおり,本件審決における引用例2の認定に誤りはなく,また,本件審決が10〜2000 mmH O 及び300(6)本件発明1の作用効果原告は,本件発明の効果として,?@300実施例は,唯一,A/A t=502の場合だけであるから,本件発明1の「3004取消事由4(本件発明2ないし11についての無効判断の誤り)について〔原告の主張〕本件発明1につき進歩性がないとする本件審決の判断は誤っているところ,本件発明2は,本件発明1の「含窒素有機化合物」を「テトラゾール若しくはその金属塩,トリアゾール若しくはその金属塩,トリアミノグアニジン硝酸塩,カルボヒドラジッド又はニトログアニジンである」に限定し,A/A t について,本件発明1の「300より大きく1300以下に規制する」を「450〜1300に規制する」に限定したものであるから,本件発明1についてと同様の理由によって進歩性を有するものということができ,また,本件発明3ないし11は,直接あるいは間接に少なくとも本件発明1を引用するものであるところ,本件発明1についてと同様の理由によって進歩性を有するということができ,以上によると,本件発明2ないし11を無効とした本件審決も誤っており,取り消されるべきである。 〔被告の主張〕原告主張の取消事由1ないし3に理由がないところ,原告は,本件発明2ないし11の発明特定事項に関する本件審決の判断について争うものではないから,本件発明2ないし11についての本件審決の判断に誤りがあるということはできない。 第4当裁判所の判断1取消事由1(阻害事由を看過した判断の誤り)について本件発明1について(1)前記第2の2の【請求項1】に記載の本件発明1の要旨及び本件明細書の発明の詳細な説明によると,エアバッグは所望時間内でガス発生剤が完全燃焼して所定量のガスを発生する必要があるが,従来,ハウジング内に充填されるガス発生剤につき,比較的線燃焼速度が高いアジド系ガス発生剤と線燃焼速度が低い非アジド系ガス発生剤が知られていたが,線燃焼速度が低い非アジド系ガス発生剤では,所望の時間内に燃焼させるために厚みに薄肉が要求され,長時間の自動車の振動に耐え,かつ,工業的に安定した状態でペレット状のガス発生剤を製造することは事実上不可能であり,また,ガス発生器のハウジング内圧は外気の温度によって異なることから,外気の温度に依存することなく安定した作動性能を示すことのできるガス発生器の提供が困難であったという問題を有していたところ(【0002】〜【0004】【0006】),本件発明1は,ガス発生剤がハウジング内で燃焼する場合,その燃焼性能が特にハウジング内の圧力に依存し,燃焼時のハウジング内圧(燃焼内圧)が高いほど燃焼速度が増大することから,非アジド系ガス発生剤のような線燃焼速度が低いガス発生剤を用いる場合において,特に,ガス発生剤の表面積総和と,ガス発生器ハウジングにおけるガス排出口の開口面積総和A との比を,3A t00より大きく1300以下という範囲に設定してガス排出口の通気抵抗を高めることにより,ガス発生剤の燃焼時におけるハウジング内圧を適切な圧力に制御してガス発生剤を所望の時間内に完全燃焼させるようにし(【0001】【0005】【0007】〜【0010】【0025】〜【0027】【0029】〜【0034】),また,ガス発生器には,発生したガスの冷却とガス中の固形残渣の捕集を行うために20℃の雰囲気下で1000リットル/の空気流量に対して10min〜2000という圧力損失を有するクーラント・フィルタがガス排出口の手 H O 2t A 前に設けられ,ガス排出口の開口面積の総和Aとガス発生剤の表面積の総和の比(300より大きく13000以下)を正確な値に設定するため,これに影響を与えないようにクーラント・フィルタの圧力損失をガス排出口による圧力損失よりも低いものとし,これにより,ハウジング最大内圧(燃焼内圧)が外気の温度に依存されることなく,安定した作動性能を発揮することのできるエアバッグ用ガス発生器とする(【0011】〜【0013】【0035】【0038】〜【0040】【0089】【0090】)との意義を有するものであると認めることができる。 引用発明1について(2)ア引用例1には,特許請求の範囲として,次の記載がある。 【請求項53】複数個のガス排出口を有するハウジングと,前記ハウジング内に配設される点火手段と,前記ハウジング内に配設され前記点火手段により点火されて燃焼ガスを発生する固形ガス発生剤と,前記固形ガス発生剤を収容し前記燃焼ガスの冷却及び燃焼残渣の捕集を果たすクーラント/フィルタ手段とを含み,前記各固形ガス発生剤の表面積の総和をA,前記各ガス排出口の開口面積の総和をA t とするとき,AとA t との比の値 A/A t が,(a)運転席用エアバッグにおいては,A/A t=100〜300,(b)助手席用エアバッグにおいては,A/A t =80〜240,(c)側突用エアバッグにおいては,A/A t =250〜3600であるエアバッグ用ガス発生器。 【請求項55】前記固形ガス発生剤は,70 kg / cm の圧力下において,5〜125 mm / sec の線燃焼速度を有する請求項53記載のエアバッグ用ガス発生器。 【請求項57】前記固形ガス発生剤の充填量が20〜50 g である請求項53記載のエアバッグ用ガス発生器。 イ上記アの特許請求の範囲の記載及び引用例1の発明の詳細な説明によると,従来のエアバッグ用ガス発生器で用いるクーラントは,その空隙構造が単純であるため燃焼残渣を捕捉することに問題があり,別個にフィルタを必要とする上,圧力損失が小さいために燃焼室画成部材も必要となり,このためにガス発生器内部にコンバスタカップ等の別途の仕切りを設ける必要があるなど,構造が比較的複雑であるという問題があったこと(【0002】【0004】【0009】【0012】〜【0014】),また,従来のガス発生剤は有毒なアジド系化合物を主成分としており,環境に対する影響及び乗員の安全という観点から非アジド系ガス発生剤を用いることが望まれていたが(【0003】【0004】),非アジド系ガス発生剤は線燃焼速度が低く,望ましい燃焼時間を得ようとすると,材料ペレットの厚さを薄くする必要があるため,工業的に安定で長時間の自動車振動に耐えるようなペレットを製造することは実際上不可能であるという問題があったこと(【0005】【0006】),このような問題を解決するため,引用発明1では,ガス発生剤の表面積の総和Aと,ハウジングを構成するディフューザシェルのガス排出口の開口面積の総和A t の比を運転席用エアバッグにおいて300以下の値とするなどし,ハウジング内の最大内圧(燃焼内圧)を専ら開口部総面積によって規制するとともに,特に,クーラント・フィルタにつき常温で流量100l/ min / cmに2つき0.3×10〜1.5×10kg / cmの圧力損失を有するものとして,-2 -2 2燃焼ガスの冷却と燃焼残渣の捕集という目的を達成し,またこのクーラント・フィルタにより,別途の仕切りを設けることなく燃焼室を画成する構成とするものであって(【0016】【0021】【0035】【0042】【0100】〜【0103】【0105】【0107】【0113】【0114】【0136】【0137】【0182】【0220】【0223】【0226】【0236】),このような構成とすることにより,非アジド系ガス発生剤につき,燃焼室内で燃焼ガスの圧力をガス発生手段の正常な燃焼にとって望ましい値に維持し,また,ガス発生器のディフューザシェルを比較的簡単な構造としたもの(【0025】【0048】〜【0050】【0136】【0137】【0209】【0220】【0232】【0234】【0235】【0237】【0238】)であると認めることができる。 (3)阻害事由の有無について以上によると,本件発明1も,引用発明1も,エアバッグ用ガス発生器及びエアバッグ装置に関するものであるところ,そのいずれも,ガス発生剤の燃焼によって発生した燃焼ガスは,クーラント・フィルタを通過して冷却,燃焼残渣の捕集を受けた後,ハウジングのガス排出口から排出されてエアバッグに送られるものであるが,クーラント・フィルタも,開口総面積にかかわるガス排出口も,所定の圧力損失を有するから,ガス発生器の燃焼室の燃焼内圧は,その他の箇所で生じる圧力損失分を除けば,両者の和によって定まることになり,ハウジング燃焼室の燃焼内圧は,クーラント・フィルタの圧力損失と開口総面積による圧力損失とによって制御されることになる。 そして,引用発明1は,ハウジング内の最大内圧を専らガス排出口による開口総面積によって規制するものであり,クーラント・フィルタは,燃焼残渣の捕集が可能で,別途の仕切りを設けることなく燃焼室を画成できるように設定された圧力損失を有するものであるが,一方,本件発明1においても,クーラント・フィルタは燃焼残渣が捕集できる程度の圧力損失とされ,ハウジング最大内圧(燃焼内圧)は開口総面積に関するパラメータによって規定され,コンバスタカップ等の別途の仕切部材も設けられていないものであるから,両者の規定された値は異なるものの,圧力損失におけるハウジングのガス排出口による開口総面積とクーラント・フィルタの存在という相関的関係があることにつき相違はなく,両者は基本的技術思想を共通にするものということができる。 原告は,本件発明1は燃焼内圧をコントロールする機能を有しない圧力損失の小さいクーラント・フィルタを用いるのに対し,引用例1のクーラント・フィルタは燃焼ガスの圧力を正常な燃焼にとって望ましい値に維持するための圧力損失の大きなものであって,両者の技術的思想は全く異なるから,引用例1を本件発明1の引用例とするには明白な阻害事由が内在すると主張するが,上記(1)のとおり,本件発明1のフィルタ手段の圧力損失値は,ガス排出口の圧力損失値よりも低い(請求項1)ものであるが,そのクーラント・フィルタは発生ガス中の燃焼残渣を捕集できるようにガスの流れに対してある程度の抵抗値を有する(【0039】)ものであるところ,一方,引用例1のクーラント・フィルタも,燃焼残渣を捕集する圧力損失を有し,その圧力損失にガス排出口の圧力損失が加わって燃焼内圧を望ましい値に維持されるものであって,しかも,引用例1ではハウジング最大内圧を専らガス排出口により規制するとされているものであるから,両者の技術思想が異なるとはいえず,また,本件発明1でもコンバスタカップ等を用いることなく,所定の圧力損失を有するクーラント・フィルタがガス燃焼剤を内部に収容しているものであるから,引用例1で記載される「画成」の構成を備えていないとすることもできず,原告の上記主張は採用することができない。 また,原告は,引用例1に開示されたA/A t 値は100〜300であり,引用例1は,本件発明1におけるA/A t を300より大きく1300以下に規制する構成とする利用を否定するものであって,本件発明1とは技術思想を異にするものであると主張するが,エアバッグ用のガス発生器は,自動車の衝突時に乗員を保護するためのものであり,所定時間でガス発生剤が燃焼しガスを発生する必要があって,燃焼時間は燃焼内圧によって変化するものであるところ,燃焼内圧は,クーラント・フィルタによる圧力損失とA/A t とに応じて定まるガス排出口の開口総面積による圧力損失により制御されるものであるから,この望ましい燃焼内圧とするためには,クーラント・フィルタの圧力損失が変更されればA/A t の値も変更されることになるものであって,引用例1において,設定されたクーラント・フィルタの圧力損失との関係でA/A t が100〜300とされているとしても,A/At の値を300より大きくすること自体が技術的に相容れないものとして否定されているといえるようなものではなく,原告の上記主張も採用できない。 (4)小括したがって,原告の主張に係る取消事由1は,理由がない。 2取消事由2(引用例2についての認定・判断の誤り)について(1)引用発明2についてア引用例2には,特許請求の範囲として,次の記載がある。 【請求項1】ガスを冷却するとともに,ガス中の固体残渣を捕集する冷却捕集フィルタであって,ニットワイヤを所定形状にプレス成形したことを特徴とする冷却捕集フィルタ。 【請求項2】ハウジング内に点火手段を有する点火室と,前記点火手段の点火により燃焼してガスを発生するガス発生剤が充填された燃焼室と,前記ガスを冷却すると同時にガス中の固体残渣を捕集する冷却捕集フィルタと,冷却捕集されたガスを排出するガス排出口とを備えたガス発生器であって,前記冷却捕集フィルタがニットワイヤを所定形状にプレス成形したものであることを特徴とするガス発生器。 イ上記アの特許請求の範囲の記載及び引用例2の発明の詳細な説明によると,従来のエアバッグに用いられるガス発生器では,冷却捕集フィルタとして2種類のフィルタが相当厚く形成されているため,燃焼ガスの冷却効果が大きくなり過ぎて圧力が低くなってしまうため,規定の圧力を得るためにガス発生剤の量を増加させる必要があり,その結果,ガス発生器の圧力上昇や排出される固体ナトリウムの増加という問題があったところ(【0002】【0006】),引用発明2は,この問題を解決するため,ハウジング1の一端開口にキャップ4が固定され,他端は縮径されてガス排出口2が形成されており,ハウジング内には,多数のガス流出孔11を有し強度のある支持板12が係止されてキャップ4との間に燃焼室14を,ガス排出口2との間には圧力調整用空間17を形成した構成とされ,燃焼室14のキャップ4側にはガス発生剤15が,支持板側12にはニットワイヤの金網が巻回されて円柱状にプレス成形された冷却捕集フィルタ16が収容されており(【0009】【0010】),点火薬9によりガス発生剤15が燃焼されると,燃焼ガスの圧力が縮径されたガス排出口2で決定され,燃焼室14と圧力調整用空間17との間で圧力がほぼ同等となり,フィルタ16を通過するガスの流出速度が抑制されて固体残渣がガス圧によりフィルタ16から押し出されることが防止され,これによって固体の燃焼残渣を通過させることなく確実にガスを冷却,濾過することができるという作用を有するものである(【0001】【0008】【0011】〜【0023】【0026】【0027】)と認めることができる。そして,燃焼ガスの圧力は,縮径された排出口で決定され,燃焼室14と圧力調整空間17との間の圧力がほぼ同等となるとされていること(【0016】)からすると,ハウジング1内はガスが充満して高圧となっており,燃焼室と圧力調整空間を隔てるフィルタも高圧下に置かれ,引用発明2では,フィルタを通過するガスが高圧で圧縮された状態にあるためにフィルタを通過するガスの流速は相当遅くなり,その結果としてフィルタによる残渣の十分な捕捉が可能となっているものということができる。 なお,本件審決は,「フィルタ16は燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えないものといえる。そうすると,引用例2には,燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えないフィルタ16を用いることにより,フィルタ16を通過するガスの流出速度を抑制し,固体残渣が押し出されることを防止するという技術思想が開示されているといえる。」と説示するところ,上記によると,引用例2には,フィルタ16につき,圧力損失がどの程度のものであるかについては開示がないために具体的な圧力損失値は不明であるといわざるを得ないが,燃焼残渣を捕捉するための十分な圧力損失を有しているはずではあるといえるものの,燃焼室と圧力調整空間の圧力はほぼ同等とされ,ハウジング1内はガスが充満して高圧となっており,燃焼室と圧力調整空間を隔てるフィルタも高圧下に置かれ,フィルタを通過するガスが高圧で圧縮された状態にあるためにフィルタを通過するガスの流速は相当遅くなり,その結果としてフィルタによる残渣の十分な捕捉が可能となっているものということができるのであるから,結果として,このフィルタ16がガス発生器内において燃焼ガスの圧力に特段の影響を及ぼすものではないものということができ,本件審決の上記説示もその趣旨をいうものとして相当であるということができる。 (2)原告の主張について原告は,引用例2には,その開示されているフィルタ16が「燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えないフィルタ」であるとは記載されておらず,また,フィルタ16はアジド系ガス発生剤の使用を前提としたフィルタであることなどからすると圧力損失の高いフィルタ(高圧損なフィルタ)であって,「フィルタ16は燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えないもの」であるとした本件審決には誤りがあると主張するが,上記のとおり,引用例2におけるフィルタが高圧損であるか否かにかかわらず,引用例2では,「燃焼ガスの圧力は縮径された排出口で決定され,燃焼室と圧力調整空間の圧力はほぼ同等」とされ,その結果として,フィルタ16がガス発生器内において燃焼ガスの圧力に特段の影響を及ぼさないものとなっているのであるから,その意味において,引用例2のフィルタがガス発生器内において燃焼ガスの圧力に特段の影響を及ぼすものではないとした本件審決の認定・判断に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。 また,原告は,引用例2において,フィルタ16収容部分も燃焼室14に含まれるにもかかわらず,本件審決は,燃焼室14がガス発生剤収容部分のみであると決め付けたと主張するところ,引用例2の【0020】において「この冷却捕集フィルタ16の体積は,燃焼室14全体の体積の約33%を占め」ると記載されており,フィルタの出口(支持板12との境界部分)まで燃焼室14としていると解されるが,同【0014】において「この支持板12のガス流出孔12の開口面積は,支持板12の強度に応じて変形を防ぐことができる範囲内で大きい方がガスの流通性が良く望ましい。」と記載されており,支持板がガス圧に影響を与えることは想定されておらず,そうすると,圧力調整用空間17とこれに接する支持板の反対側の燃焼室側の圧力がほぼ同等であることは当然であって,そのようなことをあえて同【0016】で記載したとは考えられず,同段落における「フィルタ16を通過するガスの流質速度が抑制され」るとの記載も併せ考慮すると,同段落の記載は,「フィルタ16を含む燃焼室14の圧力」と「圧力調整用空間17の圧力」とがほぼ同等であることをいうものと解することができ,フィルタが燃焼ガスの圧力にほとんど影響を与えないものということができるのであって,原告の上記主張も採用することができない。 さらに,原告は,引用例2の【0016】は圧力調整用空間17について説明している部分であるから,同段落における「燃焼ガスの圧力」における「燃焼ガス」とは圧力調整用空間17に存在する燃焼で発生したガスのことであるにもかかわらず,本件審決がこの「燃焼ガスの圧力」を燃焼部(ガス発生剤収容部)の圧力と誤認していると主張するが,同段落では,この「燃焼ガスの圧力」との語に続き,「燃焼室14と圧力調整用空間17との間では圧力がほぼ同等となり」と記載されているものであることからすると,この「燃焼ガスの圧力」については,圧力調整用空間17と燃焼室14の双方の圧力について説明しているものと解することができ,原告の上記主張は採用することができない。 さらにまた,原告は,燃焼ガスを高圧に制御するための開口部面積は,燃焼部の断面性よりもはるかに小さい面積でなければならないところ,引用例2の図1や3をみると,高圧ガスを制御できるほどにまで縮小された径であると読むことができないこと,ガス排出口2にはある程度の太さを有するガス導入管が取り付けられるため,ガス排出口2は,それに合わせたある程度の太さを有する径である必要があることから,ハウジング1内全体の燃焼ガスの圧力を決定できるほどガス排出口2が縮径されていると考えることはできないなどと主張するが,引用例2添付の図面は発明の内容を説明するためのものであるものの,実際の縮尺に合わせて記載されているものとは限られないこと,取り付けられるガス導入管についてもいろいろの態様のものがあることが考えられ,ガス排出口の大きさを基にする原告の主張も採用することができない。 (3)小括したがって,原告の主張に係る取消事由2は,理由がない。 3取消事由3(最適化の手法等による容易想到性の判断の誤り)について(1)最適化の手法等ア前記1(2)のとおり,引用発明1は,エアバッグ用ガス発生器及びエアバッグ装置において,クーラント・フィルタによって燃焼ガスの冷却と燃焼残渣の捕集を有するものであるところ,一方,前記2(1)のとおり,引用発明2は,燃焼ガスの圧力を縮径されたガス排出口で決定することにより,ハウジング内を高圧として,フィルタを通過するガスの流出速度を抑制し,その結果,フィルタによって確実にガスを冷却,燃料残渣を捕集することができるという作用を有するものであって,引用例2の構成を引用発明1に適用する動機付けが存在するということができる。 イところで,前記1(3)のとおり,ガス発生器の燃焼室の燃焼内圧は,クーラント・フィルタの圧力損失と開口総面積による圧力損失との和によって制御されることになるのであるから,ガス燃焼内圧を所望の値に維持するためには,一方の値が変更された場合には,他方の値も必然的に変更されることになるところ,前記1(2)のとおり,引用発明1は,ハウジング内の燃焼内圧を専ら開口部総面積によって規制するものであり,また,クーラント・フィルタは燃焼残渣の捕集という目的を達成し,燃焼室を画成するものであるから,引用発明1において,燃焼室の画成機能を維持しつつ,燃焼残渣の捕集機能を高めようとして,クーラント・フィルタ及び開口総面積の各圧力損失を種々調整することは当業者として当然に想定し得るものであるということができる。 ウまた,上記のとおり,ガス発生器の燃焼室の燃焼内圧は,クーラント・フィルタの圧力損失と開口総面積による圧力損失との和によって制御されることになるのであるから,クーラント・フィルタと開口総面積による各圧力損失の変更は関連して同時に行われるものとなることからすると,引用例2のガス発生器における燃焼ガスの圧力にほぼ影響を与えないフィルタにより燃料残渣の捕集を十分に行おうとする技術思想を引用発明1に適用しようとする際,クーラント・フィルタの圧力損失を調整・変更することに連動し,開口総面積による圧力損失も調整・変更されることになる。 エそうすると,引用例2の構成を引用発明1に適用しようとする際,当業者の想定事項として「フィルタの圧力損失値の最適化」としての調整・変更を行い,これに連動して同時に「開口総面積による圧力損失値(A/A t 値)の最適化」としての調整・変更が行われることも当然に考慮されることであって,これにつき,関連しない別々の項目について2度にわたる最適化がされたというようなものではない。 オ以上によると,燃焼残渣の捕集機能を高めるために,ガス発生器内における燃焼内圧にほぼ影響を与えない引用例2のフィルタに関する構成を引用発明1のクーラント・フィルタに適用し,そのクーラント・フィルタの圧力損失を燃焼室の画成機能を維持する範囲で小さいものとし,これと同時にガス排出口の開口総面積を小さくすることによりガス排出口の圧力損失を大きくして燃焼内圧を維持するように試みることは当業者にとって容易なことということができる。 (2)本件発明1の作用効果等について原告は,本件発明の効果は,?@300実施例とされるものが1つ記載されているのみであることからして,各別の意義のある数値範囲を示したものとはいい難いことからすると,本件発明1につき格別で顕著な効果があるということはできず,原告の上記主張は採用することができない。 (3)小括したがって,原告の主張に係る取消事由3は,理由がない。 4取消事由4(本件発明2ないし11についての無効判断の誤り)について上記1ないし3のとおり,本件発明1についての原告の主張に係る取消事由1ないし3に理由がないことから,取消事由1ないし3と同様の理由によって本件発明2ないし11に係る特許を無効とした本件審決は取り消されるべきであるとする原告の主張に係る取消事由4も,理由がないことになる。 5結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 本多知成 |
裁判官 | 浅井憲 |