関連審決 | 不服2000-2574 |
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関連ワード | アクセス / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 優先日 / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 請求の範囲 / 変更 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
186号
審決取消請求事件
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原告 エイ・ティ・アンド・ティ・コーポレーション 訴訟代理人弁理士 吉田研二 同 石田純 同 志賀明夫 同 堀江哲弘 同復代理人弁理士 青木謙一郎 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 吉田隆之 同 濱野友茂 同 小曳満昭 同 武井袈裟彦 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/11/15 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2000-2574号事件について平成14年12月18日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成10年4月28日,発明の名称を「サービスクラス自動ルーティング」とする特許出願(特願平10-119721号,優先権主張1997年〔平成9年〕5月6日〔以下「本件優先日」という。〕・アメリカ合衆国)をしたが,平成11年11月17日に拒絶の査定を受けたので,平成12年2月28日,これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は,同請求を不服2000-2574号事件として審理した結果,平成14年12月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成15年1月7日,原告に送達された。 2 本件特許出願の願書に添付した明細書(平成11年6月15日付け手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項13】記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨 電気通信網に入力される特殊通話サービス呼および非特殊通話サービス呼のルーティングを行う方法であって,前記特殊通話サービス入力呼および非特殊通話サービス入力呼を受信する少なくとも1つの加入者線交換システムと,ルーティングトランクにより相互接続される複数の中継交換システムとを含む方法において,入力呼に対応するサービスクラス(COS)パラメータを加入者線交換システムに取得するステップと,取得したCOSパラメータから前記入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスかを決定するステップと,取得したCOSパラメータから,呼が特殊通話サービス呼であると決定されると,加入者線交換システムにおいて,特殊通話サービス呼の処理を行うステップと,COSパラメータに従い,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティングを,前記加入者線交換システムにおいて設定するステップと,前記加入者線交換システムから,意図する宛先に前記非特殊通話サービス呼と特殊通話サービス呼のルーティングを行うステップと,を含む方法。 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開平7-170327号公報(甲5)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
1 審決は,本願発明と引用発明との相違点(1)の判断を誤った(取消事由)結果,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。 2 取消事由(相違点(1)の判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点(1)として認定した,「本願発明は,『サービスクラス(COS)パラメータ』の取得,『入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか』の決定,『特殊通話サービス呼の処理』,『特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティング』の設定及び実行を,本願発明は加入者線交換システムにおいて行うのに対し,引用発明は中継交換システムにおいて行う点」(審決謄本7頁第2段落)について,「加入者線交換システムに,特殊通話サービス呼の処理を行うとともに,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼のルーティングを設定し,実行する機能を持たせることは,例えば,特開平8-256213号公報(注,甲6,以下「甲6公報」という。)の段落番号0004〜0014,特開平8-79378号公報(注,甲7,以下「甲7公報」という。)の段落番号0002〜0006,特開平6-85915号公報(注,甲8,以下「甲8公報」という。)の段落番号0004等に記載されているように,当業者における周知技術である」(同頁下から第3段落)とした上,「したがって,引用発明において,『サービスクラス(COS)パラメータ』の取得,『入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか』の決定,『特殊通話サービス呼の処理』,『特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティング』の設定及び実行を,加入者線交換システムにおいて行うよう変更することは,上記周知技術に基づき当業者が容易に想到し得たものである」(同頁下から第2段落)と判断した。 しかしながら,審決の上記判断は,本願発明における「ルーティングの設定」の技術的意義を誤解した結果,当該「ルーティングの設定」に係る技術が甲6公報〜甲7公報に開示されている周知技術と同一であると誤認し,ひいては,相違点(1)の判断を誤ったものである。 (2) 本願発明における「ルーティングの設定」の技術的意義について ア 本願発明においては,「少なくとも1つの加入者線交換システムと,ルーティングトランクにより相互接続される複数の中継交換システムとを含む」電話通信網において「特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティングを,前記加入者線交換システムにおいて設定するステップ」を有する方法であることが,発明を特定する構成として,また,発明に特有の効果として,極めて重要である。 そして,本件明細書(甲2)には,実施例として,上記でいう「ルーティングの設定」の具体例が記載されており(段落【0019】〜段落【0023】),それによれば,本願発明における「ルーティングの設定」とは,中継交換システム間をつなぐルーティングトランクを含むルートの選択を行うことを意味することとなる。 (ア) 段落【0019】には,AT&T加入者線交換網に含まれる加入者線交換システム24-2から外国事業体32へ(国際電話等の)呼の「ルーティング」を行う第1の例が記載されている。この例では,RTNR機能又はSTT機能を用いて,二つのルートのうち,いずれか一つが加入者線交換システム24-2において選択される。このとき,本願発明では,加入者線交換機24-2と中継交換システム27-2又は27-4とをつなぐルーティングトランクのみならず,中継交換システム27-2と中継交換システム27-7とを接続するルーティングトランク又は中継交換システム27-4と中継交換システム27-7とを接続するルーティングトランクも含めて加入者線交換機24-2においてルートが選択される。 (イ) 段落【0021】には,AT&T加入者線交換網に含まれる加入者線交換システム24-2から別のAT&T加入者線交換網に含まれる加入者線交換システム24-4への非特殊通話サービス呼の「ルーティング」を行う第2の例が記載されている。この例では,RTNR機能を用いて,四つのルートうち,いずれか一つが加入者線交換システム24-2において選択される。この第2の例においても,加入者線交換システム24-2と中継交換システム27-2,27-4又は27-1とをつなぐルーティングトランクのみならず,中継交換システム27-2と中継交換システム27-7,中継交換システム27-4と中継交換システム27-7,中継交換システム27-1と中継交換システム27-5,中継交換システム27-4と中継交換システム27-5とを接続するルーティングトランクも含めて加入者線交換機24-2においてルートが選択される。 (ウ) 段落【0022】及び段落【0023】には,AT&T加入者線交換網に含まれる加入者線交換システム24-2から別のAT&T加入者線交換網に含まれる加入者線交換システム24-4への呼の「ルーティング」を行う第3の例が記載されている。この例では,STT機能を用いて,四つのルートうち,いずれか一つが加入者線交換システム24-2において選択される。この第3の例においても,加入者線交換システム24-2と中継交換システム27-2,27-4又は27-1とをつなぐルーティングトランクのみならず,中継交換システム27-2と中継交換システム27-7,中継交換システム27-4と中継交換システム27-7,中継交換システム27-1と中継交換システム27-5,中継交換システム27-4と中継交換システム27-5とを接続するルーティングトランクも含めて加入者線交換システム24-2においてルートが選択される。 これに対し,従来の電話通信網における「ルーティングの設定」とは,平成14年7月25日オーム社発行「IP時代のやさしい信号方式-VoIP・インタラクティブ通信のためのプロトコル-」(甲12,以下「甲12文献」という。)に示されている(43〜48頁の図4.3)とおり,発信交換機と着信交換機とが複数の中継交換機を介して接続されており,呼を受けた発信交換機が,その呼の転送先としてふさわしい中継交換機を選択し,その選択された中継交換機へ呼及び所定のパラメータを転送すると,呼を受けた中継交換機が,呼及びパラメータに基づいて,次の転送先となる中継交換機を選択し,その選択された中継交換機へ更に呼及びパラメータを転送する・・・というように,バケツリレーのように次々と中継交換機間において呼及びパラメータを転送することを意味する。 このように,本願発明における「ルーティングの設定」とは,従来の電話通信網における「ルーティングの設定」とは異なり,「接続元の加入者線交換システムから宛先となる加入者線交換システムまでを中継交換機を介して接続する交換網において,接続元の加入者線交換システムから宛先となる加入者線交換システムまで又は途中の中継交換システムまでをつなぐ複数の中継ルートの中から,中継交換システム間をつなぐルーティングトランクを含めた最良のルートを選択する処理」(以下「原告主張のルーティング処理」ということがある。)を意味するものである。また,「加入者線交換システム」が「中継交換システム間をつなぐルーティングトランクを含めた最良のルートを選択する処理」を行うことにより,従来,中継交換システムのみに掛かっていたルーティングの処理負担を軽減できるという本願発明に特有の効果を奏するのである。 イ 被告は,発明の要旨の認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ,本件ではそのような特段の事情はない旨主張する。 しかしながら,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合には,発明の要旨の認定に当たり,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すべきものであり(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照),本件において,本願発明にいう「ルーティングの設定」の技術的意義を一義的に明確に理解することができないことは明らかである。 ウ 被告は,本件明細書(甲2)の段落【0008】及び段落【0009】の記載における「ルーティング」は,原告主張のルーティング処理とは異なる意味で使用されていること等を根拠に,仮に,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,本願発明における「ルーティングの設定」を原告主張のルーティング処理の意味に解することはできない旨主張する。 しかしながら,特許請求の範囲の記載において使用された用語の意義を解釈するに当たっては,明細書全体の記載に基づいて,発明の趣旨を理解すべきであるところ,本件明細書の実施例等の記載によれば,本願発明において,「ルーティングの設定」は,一貫して,原告主張のルーティング処理の意味で用いられていることは明らかである。 (3) 審決の周知技術の認定について 審決は,上記(1)のとおり,「加入者線交換システムに,特殊通話サービス呼の処理を行うとともに,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼のルーティングを設定し,実行する機能を持たせること」は,甲6公報〜甲8公報等に記載されているように,当業者における周知技術であると認定したが,以下のとおり,誤りである。 ア 甲6公報に,本願発明の「加入者線交換システム」が「サービスクラス(COS)パラメータ」の取得を行うこと及び「入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか」の決定を行うことに相当する記載があることは認める。 しかしながら,甲6公報には,加入者交換機は,中継交換機を介して着信契約者を収容する加入者交換機に接続されることは記載されているものの,加入者交換機間の接続がいかなる方法で行われるのかについては全く開示も示唆もされていないから,甲6公報において,「加入者交換機」が本願発明にいう「ルーティングの設定」を行うこと,すなわち,原告主張のルーティング処理を加入者線交換システムにおいて行うことについて,開示又は示唆がされているとは到底認めることができない。むしろ,甲6公報の場合,甲12文献に示されるような従来の電気通信網のように,交換機間の呼の転送によって「ルーティングの設定」が行われると解するのが妥当である。 イ 甲7公報に,本願発明の「加入者線交換システム」が「サービスクラス(COS)パラメータ」の取得を行うこと及び「入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか」の決定を行うことに相当する記載があることは認める。 しかしながら,甲7公報には,加入者(発信者)と加入者(着信者)の間にパスが設定されることは記載されているものの,どのようにパスが設定されるのか,すなわち,どのように「ルーティングの設定」が行われるのかについては全く開示又は示唆されていないから,「加入者交換機」が本願発明にいう「ルーティングの設定」,すなわち,原告主張のルーティング処理を行うことについて,開示又は示唆がされているとは認められない。 ウ 甲8公報に,本願発明の「加入者線交換システム」が「サービスクラス(COS)パラメータ」を取得することに相当する記載があることは認める。 しかしながら,甲8公報には,「通信種別」の識別を「発ノード」で行うか否かは記載されていないから,本願発明における「入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか」の決定を「加入者線交換システム」が行うことについては開示も示唆もされていない。 また,甲8公報では,呼設定処理について,発ノードが番号情報をディレクトリ情報により翻訳して上位中継ノードを決定し,上位中継ノードが発ノードからの番号情報(ダイヤル番号)に基づいて着ノードを決定することによって行われるとされているように,すべての呼は,いったん上位中継ノードに転送され,その先の転送先は上位中継ノードにおいて決定される。すなわち,甲8公報では,本願発明の「中継交換システム」に相当する「中継ノード」において「ルーティングの設定」が行われており,本願発明の「加入者線交換システム」に相当する「発ノード」において,本願発明にいう「ルーティングの設定」,すなわち,原告主張のルーティング処理を行うことは記載されていない。 なお,甲8公報の段落【0003】には,「尚,上述した着ノードの決定を発ノードで直接行なう場合もある」という記載があるが,同段落は,バケツリレーのように番号情報を転送することによって発ノードから着ノードまでのルーティングを行う逐次選択方式のルーティングについてのみ説明されているのであって,そのような方式において,発ノードがはるか前方のルーティングを決められるわけがないから,上記記載を根拠に,着ノードまでのルーティングを伴った処理が発ノードで行われる場合があり得ることを示したものであると解することはできない。 エ さらに,被告は,昭和63年3月30日オーム社発行「電子情報通信ハンドブック 第2分冊」(乙1,以下「乙1文献」という。)に,「整合選択」に関する記載があることを根拠に,本願発明における「ルーティングの設定」を原告主張のルーティング処理の意味に解したとしても,当該機能を加入者線交換システムに持たせることも周知である旨主張する。 しかしながら,乙1文献には,「発局から着局までのパスをすべて同時に調べる整合選択」を「発局(発側加入者線交換システムに相当)において」行うことについては,全く記載されていない。それどころか,乙1文献には,多段階層の交換網では「最下位層(注,本願発明における加入者線交換システムに相当)では加入者(通信端末)を収容し加入者に関する処理を行うが,上位の階層(注,本願発明における中継交換システムに相当)では複数の出ルート(経路)から適当なルートを選択する中継機能が中心となる」(2114頁右欄第1段落)と,従来の交換網においては中継交換システムが「ルーティングの設定」を行うことが一般的であることが明記されている。したがって,被告の上記主張は失当である。 (4) 審決の容易想到性の判断について 審決は,上記(1)のとおり,「引用発明において,『サービスクラス(COS)パラメータ』の取得,『入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか』の決定,『特殊通話サービス呼の処理』,『特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティング』の設定及び実行を,加入者線交換システムにおいて行うよう変更することは,上記周知技術に基づき当業者が容易に想到し得たものである」と判断した。 しかしながら,上記(3)のとおり,甲6公報〜甲8公報及び乙1文献のいずれにも「加入者線交換システム」において,本願発明にいう「ルーティングの設定」,すなわち,原告主張のルーティング処理を行う構成に想到するための開示又は示唆はされていないから,本願発明は,引用発明並びに甲6公報〜甲8公報及び乙1文献に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるとは到底認めることができず,審決の上記判断は誤りである。 |
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被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり,原告の取消事由の主張は理由がない。 2 取消事由(相違点(1)の判断の誤り)について (1) 本願発明における「ルーティングの設定」の技術的意義について ア 「ルーティング」には,(1)「途中の中継交換システムまでをつなぐ」,すなわち,いわゆるノードごとに順次行う方法と,(2)「宛先となる加入者線交換システムまでをつなぐ」,すなわち,いわゆる発局から着局までのパスをすべて同時に調べる方法の二つが存在し,これらは共に「ルーティング」と呼ばれるものである。このことは,乙1文献の「2・2 ルーチング(経路選択法)」の記載(2114頁右欄下から第2段落〜2115頁左欄第1段落),からも明らかである。 確かに,原告主張のルーティング処理も「ルーティング」の1例であることは認めるが,我が国の電気通信網の構成においては,乙1文献や,平成6年12月20日社団法人電気通信協会発行「[改訂版]NTT通信網を理解していただくために」(乙2,以下「乙2文献」という。)の記載(15〜18頁)から明らかなとおり,最下位階層の局(加入者線交換システム)とその上位の階層(中継交換システム)とは基幹回線と斜回線で接続されており,加入者線交換システムと中継交換システム間をつなぐ回線の選択(基幹回線を選択するか斜回線を選択するか)においても,複数のルートから最適ルートを選択することになるから,このような処理も,上記(1)の意味での「ルーティング」に該当するものである。 イ 発明の要旨の認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)ところ,本件ではそのような特段の事情はない。 本件明細書(甲2,3)の特許請求の範囲の【請求項13】には,「ルーティングの設定」が原告主張のルーティング処理の意味であることを示す記載はない。すなわち,同項には,本願発明が前提としている電気通信網が,「少なくとも1つの加入者線交換システムと,ルーティングトランクにより相互接続される複数の中継交換システムとを含む」旨の記載はあるが,このような電気通信網の構成はごく普通の構成にすぎないから,本願発明が当該構成を前提にしていることは,本願発明における「ルーティングの設定」を原告主張のルーティング処理の意味に解すべき理由にはならない。 ウ また,仮に,本件が,上記判決にいう特段の事情を有しており,明細書の特許請求の範囲の記載以外の記載を参酌することが許される場合に該当するとしても,本願発明における「ルーティングの設定」を原告主張のルーティング処理の意味に解することはできない。 (ア) 本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の欄においても,「ルーティング」の語は原告主張のルーティング処理とは異なる意味にも使用されている。 例えば,「特殊通話サービス呼には,特定のデータベース処理の取り扱いが必要であり,これは,加入者線交換システムから発信中継交換システムにルーティングが行われる」(段落【0008】),「加入者線交換システムとゲートウエイ国際交換システムの間に直接リンクがあれば,このルーティングは直接行われる」(段落【0009】)という記載における「ルーティング」は,中継交換システム間をつなぐルーティングトランクの選択を含まない「ルーティング」であると解されるから,原告主張のルーティング処理とは異なる意味で使用されている。 (イ) 特許請求の範囲の記載以外の記載を参酌する場合であっても,本願発明を,実施例のものに限定解釈する理由はない。 (ウ) 本件明細書に記載された本願発明の効果は,「ルーティングの設定」が原告主張のルーティング処理の意味であるか否かにかかわらず得られるものであるから,本願発明における「ルーティングの設定」を原告主張のルーティング処理の意味に解釈すべき根拠とはならない。 (2) 審決の周知技術の認定について ア 上記(1)のとおり,「ルーティング」には,最下位階層の局(加入者線交換システム)がその上位の階層(中継交換システム)を選択する場合も含まれるところ,甲6公報〜甲8公報に記載のものにおいても,発信者の加入者交換システムが中継交換システムまでのルーティングを行っていることは明らかであるから,審決の周知技術の認定に誤りはない。 イ 仮に,本願発明における「ルーティングの設定」を原告主張のルーティング処理の意味に解したとしても,加入者線交換システムに原告主張のルーティング処理の機能を持たせることも周知であるから,審決の周知技術の認定に誤りはない。 すなわち,乙1文献の「ルーチングは,交換機の基本的な機能であり・・・ノードごとに順次行う逐次選択,発局から着局までのパスをすべて同時に調べる整合選択・・・などがある」(2114頁右欄最終段落〜2115頁左上欄第1段落)という記載から明らかなように,乙1文献でいう「整合選択」とは,発局(発側加入者交換システムに相当)において一括してルーティングを行う(周知の電気通信網構成によれば,そのルーティングには当然に中継交換システム間をつなぐルーティングトランクの選択も含まれていると解される。)ものであると理解されるが,これは,原告主張のルーティング処理にほかならない。 また,甲8公報には,「尚,上述した着ノードの決定を発ノードで直接行なう場合もある」との記載があり,この記載は,その前の「中継ノードが着ノードを決定する」旨の記載(この記載は,乙1文献でいう「逐次選択」のような方式を表していると解される。)との対比からも明らかなように,乙1文献でいう「整合選択」のような方式を表したものと解される。そして,「ノードの決定」が,そのノードまで呼設定信号を転送するために行われる処理であること,そのノードまで呼設定信号を転送するためには,ルーティングが行われる必要があることは,いずれも自明の事項であるから,甲8公報でいう「ノードの決定」は,当然に,「そのノードまでのルーティングを伴った処理」と理解される。そうすると,甲8公報における「尚,上述した着ノードの決定を発ノードで直接行なう場合もある」との記載は,当然に,「着ノードまでのルーティングを伴った処理が発ノードで行われる場合があり得ること」,すなわち,原告主張のルーティング処理を示唆したものというべきである。 (3) 審決の容易想到性の判断について 以上によれば,相違点(1)について,「引用発明において,『サービスクラス(COS)パラメータ』の取得,『入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか』の決定,『特殊通話サービス呼の処理』,『特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティング』の設定及び実行を,加入者線交換システムにおいて行うよう変更することは,上記周知技術に基づき当業者が容易に想到し得たものである」とした審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由(相違点(1)の判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点(1)として認定した,「本願発明は,『サービスクラス(COS)パラメータ』の取得,『入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか』の決定,『特殊通話サービス呼の処理』,『特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティング』の設定及び実行を,本願発明は加入者線交換システムにおいて行うのに対し,引用発明は中継交換システムにおいて行う点」(審決謄本7頁第2段落)について,「加入者線交換システムに,特殊通話サービス呼の処理を行うとともに,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼のルーティングを設定し,実行する機能を持たせることは,例えば,特開平8-256213号公報(注,甲6公報)の段落番号0004〜0014,特開平8-79378号公報(注,甲7公報)の段落番号0002〜0006,特開平6-85915号公報(注,甲8公報)の段落番号0004等に記載されているように,当業者における周知技術である」(同頁下から第3段落)とした上,「したがって,引用発明において,『サービスクラス(COS)パラメータ』の取得,『入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか』の決定,『特殊通話サービス呼の処理』,『特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティング』の設定及び実行を,加入者線交換システムにおいて行うよう変更することは,上記周知技術に基づき当業者が容易に想到し得たものである」(同頁下から第2段落)と判断した。 これに対し,原告は,審決の上記判断は,本願発明における「ルーティングの設定」の技術的意義を誤解した結果,当該「ルーティングの設定」に係る技術が甲6公報〜甲8公報に開示されている周知技術と同一であると誤認し,ひいては,相違点(1)の判断を誤ったものである旨主張するので,以下,検討する。 (2) 本願発明における「ルーティングの設定」の技術的意義について ア この点について,原告は,本件明細書(甲2,3)の特許請求の範囲の記載における「ルーティングの設定」の技術的意義は必ずしも一義的に明確に理解することができないから,発明の要旨の認定に当たり,発明の詳細な説明の記載を参酌すべきであるところ,本件明細書の実施例の記載等を参酌すれば,本願発明における「ルーティングの設定」とは,原告主張のルーティング処理,すなわち,「接続元の加入者線交換システムから宛先となる加入者線交換システムまでを中継交換機を介して接続する交換網において,接続元の加入者線交換システムから宛先となる加入者線交換システムまで又は途中の中継交換システムまでをつなぐ複数の中継ルートの中から,中継交換システム間をつなぐルーティングトランクを含めた最良のルートを選択する処理」を意味するものである旨主張する。 これに対し,被告は,発明の要旨の認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ,本件ではそのような特段の事情はないし,仮に,発明の詳細な説明等の記載を参酌しても,本願発明における「ルーティングの設定」を原告主張のルーティング処理の意味に解することはできない旨主張する。 イ まず,本件明細書(甲2,3)の特許請求の範囲の【請求項13】の記載を見ると,「ルーティング」ないし「ルーティングの設定」について,@「電気通信網に入力される特殊通話サービス呼および非特殊通話サービス呼のルーティングを行う方法であって」,A「COSパラメータに従い,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティングを,前記加入者線交換システムにおいて設定するステップ・・・を含む方法」,B「加入者線交換システムから,意図する宛先に前記非特殊通話サービス呼と特殊通話サービス呼のルーティングを行うステップ・・・を含む方法」であると規定されており,本願発明は,「電気通信網に入力される特殊通話サービス呼および非特殊通話サービス呼のルーティングを行う方法」(上記@)に関し,「COSパラメータに従い,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティングを,前記加入者線交換システムにおいて設定するステップ」(上記A)と,「加入者線交換システムから,意図する宛先に前記非特殊通話サービス呼と特殊通話サービス呼のルーティングを行うステップ」(上記B)という二つのステップを有する点に特徴があるものと理解される。 このように,「ルーティングを行うステップ」と区別して,別途,「ルーティングを・・・設定する」ステップを設けていることからすれば,後者でいう「ルーティングの設定」とは,単に,「ルーティングを行う」こととは異なる技術的意義を有するものであることが推認されるというべきである。 ウ 他方,被告提出に係る乙1文献には,「ルーティング」について,「大きな通信網では,発信局から遠隔地の着信局まではいくつかの交換局を経由して通信経路(パス)が接続される。接続品質や信頼性の点から一般にこのパスは複数用意されるが,そのなかから一つを選択することをルーチングという。ルーチングは,交換機の基本的な機能であり,各ノードでの処理方法と網全体を見渡した方法の両者で決められる。前者には,固定選択,確率選択,う回選択などがある。また,後者としては,ノードごとに順次行う逐次選択,発局から着局までのパスをすべて同時に調べる整合選択,次ノードの先のふくそう状況をあらかじめ調べる予知選択などがある。後二者では,いくつかの交換機どうしの協力による制御が必要である」(2114頁右欄下から第2段落〜2115頁左欄第1段落)と記載されており,これによれば,(a)ルーティングとは,「通信網における発信局から着信局までの複数のパスの中から一つを選択すること」であり,さらに,(b)ルーティングには,各ノードでの処理方法,網全体を見渡した方法の観点から幾つかの方法があり,後者の網全体を見渡した方法の観点からは,@ノードごとに順次行う逐次選択,A発局から着局までのパスをすべて同時に調べる整合選択,B次ノードの先のふくそう状況をあらかじめ調べる予知選択などがあることが理解される。 しかしながら,乙1文献から理解される上記技術常識を加味して考えても,仮に,本願発明における「ルーティングの設定」が,上記(a)の「通信網における発信局から着信局までの複数のパスの中から一つを選択すること」を意味するものであるとすると,「ルーティングを行う」こと(これは,正に,「通信網における発信局から着信局までの複数のパスの中から一つを選択すること」を指すものと理解される。)との区別が困難になるから,結局,「ルーティングを行う」ステップとは異なるステップとして行われる,当該「ルーティングの設定」が,いかなる技術的意義を有するものであるかは,本件明細書の特許請求の範囲の記載からは,必ずしも一義的に明確に理解することができないというほかはない。 エ そこで,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載を見ると,次のような記載がある。 (ア) 「最近,すべてのLATA(注,Local Access Transport Area〔地域サービス区域〕,段落【0002】参照)間および国際呼,またすべての特殊通話サービス呼(加入者線交換とLATA間の双方)は,発信LEC(注,Local Exchange Carrier〔地域通信事業者〕,同参照)からIXC(注,Inter-eXchange Carrier〔長距離通信事業者〕,同参照)網の発信中継交換システム(originating toll switching system(OS))に転送され,そこで,処理され,意図する宛先にルーティングが行われる」(段落【0003】,【従来の技術】) (イ) 「すべてのLATA間中継交換呼および国際呼とすべての特殊通話サービス呼は,現在,IXC網のHS(注,hand-off switching system〔ハンドオフ交換システム〕,段落【0004】参照)に転送されるので,中継交換呼と特殊通話サービス呼のトラフィックが増加し,各HSの負荷が増加する。多くのトラフィックを収容するためには,中継交換システムの追加が必要であり,IXCの網経費が増大する」(段落【0005】),「従って,加入者線交換網と中継交換網にサービスクラス処理を組み込む加入者線交換/中継交換の動的ルーティング網構成の技術が要求されている。これは,サービス処理機能と,網の交換および転送能力の効率的な使用を維持しながら,宛先までの効率的な動的ルート選択を提供するものであり,これにより,加入者線交換システムの開発コストを著しく増大させることなく,IXC中継交換システムの負荷が軽減される」(段落【0006】,【発明が解決しようとする課題】) (ウ) 「本発明に従えば,電気通信網の特殊通話サービス呼および非特殊通話サービス呼のルーティングを行う方法が提供される。網には,入力呼を受信する少なくとも1つの加入者線交換システム,複数の中継交換システム,(これには,発信加入者線交換システムに付属する発信中継交換システムが含まれる),呼処理に関する情報を収容する少なくとも1つのデータベース(すなわち,網制御ポイント(NCP))が含まれる。本発明の方法は,各入力呼に対応する1組のサービスクラス(Class-Of-Service(COS))パラメータを発信加入者線交換システムに得ることから始まる」(段落【0007】),「発信加入者線交換システムは,COSパラメータから,呼が特殊通話サービス呼か非特殊通話サービス呼かを求める。特殊通話サービス呼には,特定のデータベース処理の取り扱いが必要であり,これは,加入者線交換システムから発信中継交換システムにルーティングが行われる。 発信中継交換システムに特殊通話サービス呼処理の機能があれば(すなわち,NCPアクセス機能)発信中継交換システムによりその処理が行なわれる。その機能がなければ,発信中継交換システムにより,その機能を有するHSに呼が転送される。処理の後で,意図する宛先に呼のルーティングが行われる」(段落【0008】),「呼が特殊通話サービス呼でない場合は(すなわち,データベース処理が要求されない),発信加入者線交換システムにより,意図する宛先に呼のルーティングが行なわれる。このように,処理とルーティングのため,発信中継交換システムに自動的に呼のルーティングを行う必要がなくなる」(段落【0009】),「特に,サービスクラス自動ルーティング(Class-of-Service Automatic Routing(CSAR))と呼ばれる技術によれば,加入者線交換機に大きな開発が要求されることなく,サービスクラスルーティング機能を有する加入者線交換/中継交換動的ルーティング網構成が可能となる。CSARにより,動的ルーティングが簡単に実現でき,これは,AT&T中継交換網に実現されている機能を基に構成される。すなわち,これら機能には,米国特許第5,101,451号に開示されているreal-time network routing(RTNR)(注,即時網ルーティング,段落【0019】参照),Real-Time Network Routing(ここに参照され採り入れられている),米国特許第5,559,877号に開示されているSuccess-To-The-Top(STT)routing,このSTT(注,成功ルート探索,同参照)もAT&T中継交換網の機能である,Automatic Provisioning Of Trunking And Routing Parameters In A Telecommunications Network(ここに参照され採り入れられている)が含まれる」(段落【0010】,【課題を解決するための手段】) (エ) 「本発明に従えば,加入者線交換システム24-1と24-2により,網22のなかにまたはそのなかで非特殊通話サービス中継交換呼の動的ルーティングが可能とされ,加入者線交換および中継交換動的ルーティング構成が得られる。このルーティングにより,発信中継交換システムとしてのサービスを受け持つこれら中継交換システム27-1〜27-8に大きな効率と容量の軽減が得られる。この加入者線交換および中継交換動的ルーティング構成を容易に行うため,動的ルーティング加入者線交換システム24-1と24-2のそれぞれには,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼を区別する機能が設けられる。非特殊通話サービス中継交換呼は,各動的ルーティング加入者線交換システム24-1と24-2により,意図する宛先に直接ルーティング行われる」(段落【0018】),「本発明の別の実施形態では,加入者線交換システムには,特殊通話サービスおよび非特殊通話サービス呼の双方を処理する全機能があり,従って,特殊通話サービス処理のためハンドオフ交換が要求されることなく特殊通話サービス処理が行われる。この場合,CSAR選択が使用され,先ずハンドオフ交換システムに呼のルーティングが行なわれるのではなく,特殊通話サービスおよび非特殊通話サービス呼の双方に対し,加入者線交換システムから動的ルーティング網内の宛先まで,CSAR経路選択が使用される」(段落【0037】,【発明の実施の形態】) 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,@【従来の技術】として,すべての通話サービス呼が中継交換システムに転送されて宛先にルーティングが行われていたこと,A【発明が解決しようとする課題】として,特殊サービス呼の処理を行う中継交換システムの負荷が増加し,サービスクラス処理を組み込む加入者線交換/中継交換の動的ルーティング網構成の技術が要求されていること,B【課題を解決するための手段】として,発信加入者線交換システムが,COSパラメータから,呼が特殊通話サービス呼か非特殊通話サービス呼かを判別し,特殊通話サービス呼の場合は中継交換システムにルーティングし,非特殊通話サービス呼の場合は,意図する宛先に呼のルーティングを行うことにより,中継交換システムは自動的にはルーティングを行う必要がなくなること,C【発明の実施の形態】として,動的ルーティング加入者線交換システムにより,意図する宛先に直接ルーティングが行われることが記載されているということができる。加えて,D第1〜第3の実施例として,RTNR(即時網ルーティング)やSTT(成功ルート探索)ルーティングを用いて,加入者線交換システムにおいて,中継交換システム間をつなぐルーティングトランクを含んだルートの選択が行われる例が記載されていることをも考え併せるならば,本願発明における「ルーティングの設定」とは,原告主張のルーティング処理,すなわち,「接続元の加入者線交換システムから宛先となる加入者線交換システムまでを中継交換機を介して接続する交換網において,接続元の加入者線交換システムから宛先となる加入者線交換システムまで又は途中の中継交換システムまでをつなぐ複数の中継ルートの中から,中継交換システム間をつなぐルーティングトランクを含めた最良のルートを選択する処理」を行うことを意味するものと理解することができ,乙1文献に記載された「逐次選択」,被告主張に係る「途中の中継交換システムまでをつなぐ」こと(上記第4の2(1)ア)など,中継交換システム間をつなぐルーティングトランクを含まない単なるルート選択は,これに含まれないものと解するのが相当である。 オ これに対し,上記のとおり,被告は,発明の要旨の認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ,本件ではそのような特段の事情はない旨主張する。しかしながら,特許請求の範囲の記載に,被告提出に係る乙1文献により認定される技術常識を加味しても,本願発明における「ルーティングの設定」の技術的意義を必ずしも一義的に決し難いことは上記判示のとおりであるから,被告の上記主張は採用することができない。 また,被告は,特許請求の範囲の記載以外の記載を参酌することが許される場合に該当するとしても,本願発明における「ルーティングの設定」を原告主張のルーティング処理の意味に解することはできない旨主張し,その理由として,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の欄においても,「ルーティング」の語は原告主張のルーティング処理とは異なる意味にも使用されていることを挙げる。しかしながら,被告が根拠として挙げる,「特殊通話サービス呼には,特定のデータベース処理の取り扱いが必要であり,これは,加入者線交換システムから発信中継交換システムにルーティングが行われる」(段落【0008】)との記載における「ルーティング」とは,単なる回線の接続を意味するにすぎないから,本願発明の「ルーティングの設定」を解釈する際の参考にならないことは明らかである。また,「加入者線交換システムとゲートウエイ国際交換システムの間に直接リンクがあれば,このルーティングは直接行われる」(段落【0009】)という記載における「ルーティング」については,加入者線交換システムから宛先の交換システムに「直接リンク」があるとしても,当該「直接リンク」は「中継交換システム間をつなぐルーティングトランクを含むルート」の選択肢の一つであるということができるから,本願発明における「ルーティングの設定」についての上記解釈とは何ら矛盾しない。 さらに,被告は,特許請求の範囲以外の記載を参酌する場合であっても,実施例のものに限定して解釈すべき理由はないし,本件明細書に記載された本願発明の効果は,「ルーティングの設定」が原告主張のルーティング処理の意味であるかにかかわらず得られるものであるなどとも主張するが,実施例や効果の記載のみならず,本願発明における「ルーティングの設定」を原告主張のルーティング処理の意味に解することにより,特許請求の範囲の記載を含めた本件明細書全体の記載を矛盾なく解釈することができることは,上記判示より明らかであるから,被告の上記主張は上記解釈を左右するものではないというべきである。 (3) 審決の周知技術の認定について ア 原告は,甲6公報〜甲8公報には,本願発明にいう「ルーティングの設定」,すなわち,原告主張のルーティング処理を行うことについて開示も示唆もされていないとして,「加入者線交換システムに,特殊通話サービス呼の処理を行うとともに,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼のルーティングを設定し,実行する機能を持たせること」は,甲6公報〜甲8公報等に記載されているように,当業者における周知技術であるとした審決の認定は誤りである旨主張する。 そこで,以下,審決が,「加入者線交換システムに,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼のルーティングを設定し,実行する機能を持たせること」が周知技術であると認定した点について検討する。 イ 甲8公報には,ルーティングに関し,次のように記載されている。 (ア) 「従来,ネットワークにおける呼制御方式として次の方式が知られている。」(段落【0002】) (イ) 「第1の方式は,例えば,オーム社発行の『やさしい共通線信号方式』(電子通信協会編)の第183頁,図5.3に示すように,発ユーザから番号情報を受信した発側ノード(発ローカルノード:LS)が,この番号情報をディレクトリ情報により翻訳して上位中継ノードを決定し,上位中継ノードが上記発LSからの番号情報(ダイヤル番号)に基づいて着側ノード(着ローカルノード:LS)を決定するものである。この場合,発ユーザからの番号情報を含む個設定信号は,アドレス情報に従って,発ノードから着ノードまで転送され,着ノードが,リソース情報を参照して上記番号情報と対応する着ユーザ端末を決定し,該着ユーザ端末に対して起動をかけると共に,発ユーザ側に呼出し信号を返送し,その後,着ユーザからの応答を発ユーザに送信することによって,呼が設定される。尚,上述した着ノードの決定を発ノードで直接行なう場合もある」(段落【0003】) (ウ) 「第2の方式は,例えば,『ISS(International Switching Symposium)1987』プロシーディング,A12.1.8のFig.5に示されたように,SCP(サービスコントロールポイント)を用いた呼制御方式である。この方式では,発ユーザから番号情報を受信した発ノード(発LS)が,この番号情報をディレクトリ情報により翻訳し,もし,ダイヤル番号がフリーダイアルやダイアルQ2等の特殊サービス用の番号であればSCPを起動し,上記特殊ダイヤル番号に対する処理を委ねる。SCPは,上記特殊ダイヤル番号を一般の電話番号に変換して発ノードに返送し,以降,上述した第1の方式と同様の手順で呼設定処理が実行される」(段落【0004】) 上記(イ)に,「尚,上述した着ノードの決定を発ノードで直接行なう場合もある」とあるとおり,上記「第1の方式」によれば,ネットワークにおける呼制御方式では,発ユーザからの番号情報に基づいて着側ノードを決定することが,発ユーザから番号情報を受信した発側ノード(発ローカルノード)で直接行われる場合があることが認められ,これは,発側ノードにおいて乙1文献にいう整合選択が行われること,すなわち,加入者線交換システム(発側ノード)において,本願発明にいう「ルーティングの設定」,すなわち,「中継交換システム間をつなぐルーティングトランクを含むルートの選択を行う」(乙1文献にいう整合選択はその一例である。)場合があることを意味する。また,上記(ウ)の「第2の方式」によれば,発ユーザから受信した特殊ダイヤル番号は,SCPにより一般の電話番号に変換して発ノードに返送され,第1の方式と同様の手順で呼設定処理が行われることになるから,特殊通話サービス呼についても,上記と同様,加入者線交換システムにおいて,本願発明にいう「ルーティングの設定」を行う場合があることが示されている。 ウ これに対し,原告は,甲8公報の段落【0003】には,「尚,上述した着ノードの決定を発ノードで直接行なう場合もある」という記載があるが,同段落は,バケツリレーのように番号情報を転送することによって発ノードから着ノードまでのルーティングを行う逐次選択方式のルーティングについてのみ説明されているのであって,そのような方式において,発ノードがはるか前方のルーティングを決められるわけがないから,上記記載を根拠に,着ノードまでのルーティングを伴った処理が発ノードで行われる場合があり得ることを示したものであると解することはできない旨主張する。しかしながら,上記イ(イ)の「第1の方式」とは,発ノードから番号情報を受けた上位中継ノードが着側ノードを決定するものであって,上位中継ノードにおける決定,すなわち,ルーティングには,乙1文献にいう逐次選択や整合選択などの各種方法が含まれ得るから,これを発ノード側で行えば,発ノードにおけるルーティングにも当然に整合選択も含まれるものと解されるし,むしろ,「着ノードの決定を発ノードで直接行なう」との表現は,発ノードにおいて逐次選択を行うものと解するよりも,発ノードにおいて整合選択を行うとの意味に解するのが自然かつ合理的というべきであるから,原告の上記主張は採用の限りではない。 エ また,原告は,乙1文献には,「発局から着局までのパスをすべて同時に調べる整合選択」を「発局(発側加入者線交換システムに相当)において」行うことについては,全く記載されていないし,それどころか,乙1文献には,多段階層の交換網では「最下位層(注,本願発明における加入者線交換システムに相当)では加入者(通信端末)を収容し加入者に関する処理を行うが,上位の階層(注,本願発明における中継交換システムに相当)では複数の出ルート(経路)から適当なルートを選択する中継機能が中心となる」(2114頁右欄第1段落)と,従来の交換網においては中継交換システムが「ルーティングの設定」を行うことが一般的であることが明記されている旨主張する。 しかしながら,乙1文献に,網全体を見渡した方法の観点から見たルーティングの方法の一つとして,整合選択が挙げられていることは上記(2)ウのとおりであり,また,そうした技術常識を前提とすれば,甲8公報に,発側ノードにおいて整合選択が行われることについての記載があると解されることは,上記イ及びウのとおりであって,以上のことは,乙1文献自体に,発側加入者線交換システムにおいて整合選択を行うことの記載があるか否かとは無関係というべきであるから,原告の上記主張は採用の限りではない。 オ 以上によれば,「加入者線交換システムに,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼のルーティングを設定し,実行する機能を持たせること」は,甲8公報に「従来,ネットワークにおける呼制御方式として次の方式が知られている」(上記イ(ア))とあるとおり,本件優先日当時における周知技術であったと認められる。 そして,本件において,原告は,専ら「ルーティングの設定」の点のみを争っており,甲6公報〜甲8公報に,本願発明の「加入者線交換システム」が「サービスクラス(COS)パラメータ」の取得を行うこと及び「入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか」の決定を行うことに相当する記載があることは,原告の自認するところであることからすれば,審決の認定のうち,「加入者線交換システムに,特殊通話サービス呼の処理を行う機能を持たせること」が周知技術であるとした点については,当事者間に争いがないものと認められる。そうすると,結局,「加入者線交換システムに特殊通話サービス呼の処理を行うとともに,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼のルーティングを設定し,実行する機能を持たせること」を周知技術であるとした審決の認定に誤りはないというべきである。 (4) 審決の容易想到性の判断について 原告は,「引用発明において,『サービスクラス(COS)パラメータ』の取得,『入力呼が特殊通話サービスかまたは非特殊通話サービスか』の決定,『特殊通話サービス呼の処理』,『特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼に対する呼のルーティング』の設定及び実行を,加入者線交換システムにおいて行うよう変更することは,上記周知技術に基づき当業者が容易に想到し得たものである」とした審決の判断について,甲6公報〜甲8公報及び乙1文献のいずれにも「加入者線交換システム」において,本願発明にいう「ルーティングの設定」,すなわち,原告主張のルーティング処理を行う構成に想到するための開示又は示唆はされていないから,本願発明は,引用発明並びに甲6公報〜甲8公報及び乙1文献に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるとは到底認めることができず,審決の上記判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,上記(3)のとおり,「加入者線交換システムに特殊通話サービス呼の処理を行うとともに,特殊通話サービス呼と非特殊通話サービス呼のルーティングを設定し,実行する機能を持たせること」は周知技術であると認められるから,相違点(1)に係る本願発明の構成を,加入者線交換システムにおいて行うよう変更することは,上記周知技術に基づき当業者が容易に想到し得たものであるとした審決の判断にも誤りは認められず,以上によれば,原告の取消事由の主張は理由がない。 2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 早田尚貴 |