運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  協議 /  共同研究 /  名義変更 /  実施 /  移転登録 /  対価 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (ワ) 32587号 特許を受ける権利出願人変更請求事件
東京都八王子市<以下略>
原告A
同訴訟代理人弁護士外川裕 東京都品川区<以下略>
被告リ アルプラスティック株式会社
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/09/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,原告に対し,別紙権利目録記載1の特許出願について,出願人名義変更手続をせよ。
2被告は,原告に対し,別紙権利目録記載2の特許権について,移転登録手続をせよ。
3訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨第2事案の概要本件は,原告が,被告との間で,別紙権利目録記載1の特許出願に係る特許を受ける権利(以下「本件特許を受ける権利」という。)を被告から原告に移転することを内容とする譲渡契約(以下「本件譲渡契約1」という。)及び同目録記載2の特許権(以下「本件特許権」という。)を被告から原告に移転することを内容とする譲渡契約(以下「本件譲渡契約2」といい,本件譲渡契約1と併せて「本件各譲渡契約」という。)を締結したとして,本件特許を受ける権利に係る特許出願の出願人であり,かつ,本件特許権の登録名義人である2被告に対し,本件譲渡契約1に基づき,本件特許を受ける権利に係る特許出願につき出願人名義変更手続をすることを,本件譲渡契約2に基づき,本件特許権につき移転登録手続をすることを,それぞれ求める事案である。
1前提事実(認定事実については末尾に証拠を掲げる。)(1)当事者ア原告は,日本電気株式会社において,有機高分子化合物の分解技術についての研究開発に従事していた者であり,平成14年に同社を退職後,株式会社KONAKAM(以下「KONAKAM」という。)を設立し,その代表取締役を務める者である。
原告は,平成20年4月ころまで,被告の取締役であった。
イ被告は,平成18年2月24日に設立された,生分解性プラスティック・植物系樹脂等のプラスティック類の分解装置,製造装置,リサイクル装置の製造,販売並びに輸出入等を業とする株式会社である。
B(以下「B」という。)は,被告の代表取締役である。
(甲10,弁論の全趣旨)(2)本件特許を受ける権利の出願人被告は,平成19年1月25日,発明の名称を「ポリ乳酸樹脂の再生方法」とする発明について,特許出願をした(特願2007-14951。本件特許を受ける権利)。
上記特許出願において,発明者は原告とされており,特許出願人は被告である。
(甲1,2)(3)本件特許権の登録名義人被告は,平成20年6月26日当時,次の特許権(本件特許権)を有していた。
特許番号第4101856号3発明の名称ポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法出願日平成19年6月13日登録日平成20年3月28日なお,本件特許権に係る特許公報(甲6)には,発明者として,原告及びCの2名が記載されている。
(甲5ないし6)(4)被告とKONAKAMとは,被告がKONAKAMに対し,加水分解技術を活用した装置の開発支援及び加水分解技術の用途開発支援を委託し,KONAKAMがこれを受託すること等を内容とする平成18年2月24日付け「コンサルティング業務委託契約書」と題する書面(甲4)を,平成20年4月11日に作成した。
(甲4,弁論の全趣旨)(5)被告は,原告に対し,平成21年7月9日の本件口頭弁論期日において,本件各譲渡契約を取り消す旨の意思表示をした。
(当裁判所に顕著な事実)2争点(1)本件各譲渡契約の締結の有無(争点1)(2)本件各譲渡契約に係る被告の意思表示は強迫によるものか否か(争点2)第3争点に関する当事者の主張1争点1(本件各譲渡契約の締結の有無)について〔原告の主張〕(1)原告と被告とは,平成20年6月26日,本件特許を受ける権利を被告から原告に移転することを内容とする譲渡契約(本件譲渡契約1)を締結した。
(2)原告と被告とは,同日,本件特許権を被告から原告に移転すること内容とする譲渡契約(本件譲渡契約2)を締結した。
〔被告の主張〕4否認する。被告は,原告との間で,本件各譲渡契約を締結していない。
2争点2(本件各譲渡契約に係る被告の意思表示は強迫によるものか否か)について〔被告の主張〕(1)本件各譲渡契約に係る被告の意思表示は強迫によるものである。
(2)甲第3号証及び甲第7号証の各「譲渡証書」と題する書面が作成された経緯についてア平成20年6月26日,Bと被告の関係者らとの間で会合(以下「本件会合という。)がもたれた。
本件会合は,午後1時ころから始まり,被告の経営に関するBの責任の追及等に終始した。Bは,8名の出席者に取り囲まれており,また,Bと一緒に本件会合に出席していた被告の取締役であるD(以下「D」という。)は,出席者から,「辞任届に署名するか,警察に行くか」と脅された上,出席者にテーブルを叩かれたり,野次を飛ばされたり,怒号を浴びせられたりしていた。
イ上記のような状況下において,会合が始まってから約5時間ほど経過したところで,Bは,原告から,「譲渡証書」等の文字が記載された書面を突然に示され,署名及び押印を強要された。
Bは,本件会合に原告が出席することについては全く聞いておらず,本件特許を受ける権利及び本件特許権を原告に譲渡するという話も全く聞いていなかった。
Bは,原告から「発明者に権利がある。」,「被告が持っていても意味がない。」などと言われて惑わされ,また,同席していた被告の株主からも「この会合は株主総会のようなものだから,株主の総意である。被告が拒めるものではない。」などと嘘を言われ,上記「譲渡証書」に署名及び押印をすることを強要された。
5〔原告の主張〕否認する。本件各譲渡契約に係る被告の意思表示は強迫によるものではない。
第4当裁判所の判断1争点1(本件各譲渡契約の締結の有無)について(1)原告が,本件譲渡契約1の締結を証する証拠として「譲渡証書」と題する書面(甲3)を,本件譲渡契約2の締結を証する証拠として「譲渡証書」と題する書面(甲7。以下,甲3及び甲7の譲渡証書を併せて「本件各譲渡証書」という。)を,それぞれ挙げるのに対し,被告は,本件各譲渡証書のB作成部分につき,「B名義の署名及び名下の押印はBにより行われたものであると思うものの,はっきりしない」として,その成立を否認する。
しかしながら,証拠(甲9ないし11,乙1ないし3,24,証人E,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件各譲渡証書のB作成部分のB名義の署名及び名下の押印は,Bによってされたものであるとの事実が認められるから,本件各譲渡証書のB作成部分は真正に成立したものであると認められる。
(2)そして,本件各譲渡証書によれば,原告と被告との間で,本件各譲渡契約が締結されたとの事実を認めることができる。
2争点2(本件各譲渡契約に係る被告の意思表示は強迫によるものか否か)について(1)前記前提事実に証拠(甲3,4,7,8〔甲8は乙1及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。〕,甲9ないし11,乙1ないし3,5,6,8ないし10,13,証人E,証人D,原告本人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,これを覆すに足る証拠はない。
ア原告は,日本電気株式会社において,有機高分子化合物の分解技術についての研究開発に従事しており,平成14年に同社を定年により退職した6後,KONAKAMを設立した。
平成17年12月ころ,原告は,知人のBから,原告の技術を活用する事業を行う会社を立ち上げる旨の提案を受け,原告もこれを了承した。
平成18年2月24日,被告が設立され,B,Dのほか,原告も取締役に就任した。その後,E(以下「E」という。)及びF(以下「F」という。)も,取締役に就任した。
被告は,Fが九州方面に在住する投資家からの投資を集め,Eが新潟方面に在住する投資家からの投資を集めるなどして,多額の事業資金を得た。
イ被告は,地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター(以下「産業技術研究センター」という。)に対し,共同研究を申請し,平成18年6月ころ,同センターとの間で,研究課題を「ポリ乳酸系バイオプラスティックの完全リサイクル技術実用化」とし,共同研究実施期間を平成18年5月29日から平成19年3月30日までとする共同研究契約を締結した。
上記共同研究契約には,以下の内容の約定がある。
?@産業技術研究センターは,「ポリ乳酸分解生成物の分析および評価」,「ポリ乳酸系プラスチックアロイ分解物の分析および評価」,「分解生成物の利用用途の検討」を分担し,被告は,「パラメータ別の実験と分析試料の作成」,「ポリ乳酸製品の加水分解基礎実験」,「加水分解装置の開発設計」を分担する。
?A産業技術研究センターは,合計90万円の経費を負担し,被告は,合計1100万円の経費を負担する。
?B被告側の研究員は,原告,B及びGであり,このうち主担当者は原告である。
?C共同研究が終了したとき又は共同研究実施に係る会計年度が終了したときは,被告は産業技術研究センターと共同して「共同研究成果報告7書」をとりまとめるものとする。
?D産業技術研究センターは,共同研究実施期間終了の後,研究成果を公表するものとする。ただし,被告が,業務上の支障があるため,産業技術研究センターに対し,研究成果を公表しないよう申し入れたときは,審査のうえ,研究成果の全部又は一部を公表しないものとすることができる。
なお,被告は,共同研究の申請書(乙6)において,研究成果の公表の方法及び時期について,外部への公表は特許等出願後を希望すること,被告との事前協議を希望することを申し出た。
ウ産業技術研究センターの研究員から,共同研究の成果として,特許出願をしたり,論文を発表したりすることを示唆されたため,被告は,原告の発明についての特許を受ける権利の譲渡を受け,被告が出願人となって,特許出願をすることにした。
原告と被告とは,原告の発明についての特許を受ける権利を被告に譲渡する際,被告から原告に対して対価を支払うことを合意したものの,対価額までは決めなかった。
エ被告は,平成19年1月25日,発明の名称を「ポリ乳酸樹脂の再生方法」とする発明について,特許出願をした(特願2007-14951。
本件特許を受ける権利)。
また,被告は,平成19年6月13日,発明の名称を「ポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法」とする発明について,特許出願をした(特許番号第4101856号。本件特許権)。
オ平成19年10月ころに開催された被告の株主総会において,株主から,被告の決算内容に不審な点がある旨の指摘がされた。
そして,平成20年1月ころ以降,被告の代表取締役であるBや財務担当の取締役であったDは,FやEから,Dが役員として関与する他の会社8に被告から多額の資金が流れているなど被告の経理内容が不明朗である,投資家から集めた資金使途が不適切である,などの指摘を受けるようになり,資金の使途等をめぐって,株主(投資家)とB及びDとの間で紛争が生じた。
原告は,被告の経理内容が不明朗であったため,平成20年4月,被告の取締役を辞任した。また,Fも被告の取締役を辞任した。
カ原告(KONAKAM)は,被告から,コンサルタント報酬として毎月50万円程度の支払を受けていたものの,平成20年3月分からは,一方的に報酬額が減額され,同年6月分からは全く支払われなくなった。
キ原告は,Bに対し,発明(本件特許を受ける権利及び本件特許権に係る各発明)について特許を受ける権利を譲渡したことに対する対価を支払うように度々求めていた。しかし,Bは,原告に対し,「今はお金がないから支払うことができない」,「仕事が来たら支払うから」などといった返事をするばかりで,対価を支払わなかった。
そこで,原告は,被告の取締役を辞任したころ以降,何度か,譲渡証書の用紙を準備してBを訪ね,特許を受ける権利を譲渡した対価を支払うように求め,これを支払わないのであれば,本件特許を受ける権利及び本件特許権を原告に返還するように求めた。
これに対し,Bは,「自分一人では決められない」,「持ち帰って相談して決めるから,待ってほしい」などと述べるだけで,原告の求めに応じようとしなかった。
ク被告会社における経理内容や資金使途について,DやBから説明を受け,また,これらの問題を巡る株主(投資家)とBやDとの間の問題の解決方法等を話し合うため,九州方面に在住する投資家を募ったFが中心となって,平成20年6月26日,福岡県博多市内のホテルで本件会合が開かれた。
9本件会合には,被告の株主やその関係者であるF,原告,E,H,I,J,K,Lのほか,Fから出席を求められたB及びDが出席した。
本件会合は,午後1時ころから始まり,午後4時ころに約20分の休憩を挟んで,午後7時ないし午後8時ころまで続いた。原告が本件会合に加わったのは,休憩後である午後4時40分ころからであった。
ケ本件会合において,株主らは,被告における資金の使途に関し,その内容や意思決定方法等についてDに質問をし,Dからの回答を聞いた。その上で,株主らは,Dに対し,不明朗な会計処理,不合理な資金の支出の責任を取って,被告の取締役を辞任するように求めた。Dは,当初,回答を逡巡していたものの,一部の出席者から,「辞任しないというのであれば,警察に告訴する。」などと言われたこともあり,被告の取締役を辞任する旨を表明し,その場で,取締役の辞任届を作成した。
その後,株主らは,Dによる不適切な資金の使用について,代表取締役であるBにも責任があるなどとして,Bと,同人の責任の取り方や被告の今後の処理等について話し合った。その際,Bが,被告の取締役を辞任すると表明したことに対し,株主らからは,Bには,株主や投資家への責任があり,被告の残務処理が終わらないうちは,辞任は許されない,との意見が出された。
株主らとBとの間で上記のようなやりとりがされた後,本件特許を受ける権利及び本件特許権を原告に譲渡する件が話題となった。原告は,あらかじめ準備しておいた譲渡証書の用紙をBに示し,Bに対し,本件特許を受ける権利及び本件特許権の譲渡を求めた。これに対し,Bは,当初,「分からない」,「内容を確認させてもらいたい」などと述べ,逡巡していたものの,原告から,「(譲渡証書記載の発明は),被告が出願人となって特許出願しているものである。しかし,発明者である原告と被告との間で本当は譲渡契約がされていないから(判決注:原告が被告に対し本件10特許を受ける権利及び本件特許権を譲渡したことは前記ウ,エのとおりであるから,原告の「譲渡契約がされていない」との発言は,対価の支払がされていないとの意と解される。),返してほしい。返してもらった後,被告が実施したいというのであれば,改めて原告と契約すればよい。」などと説明を受け,また,出席していた他の株主らからの求めもあって,最終的には,「わかりました,押します」などと発言して,譲渡証書に署名し,本件会合に出席した者が用意していた「B」の印章を用いて押印し,本件各譲渡証書(甲3及び甲7)を作成した。
コその後,Hが作成した「確認書」と題する書面(甲8)の内容を読み上げ,出席者全員が,当該書面に署名押印をして,本件会合は終了した。
上記確認書には,以下の内容の記載がある。
?@被告の臨時株主総会は,平成20年7月29日(火)14時より東京都中央区新富町にある新富区民館において開催するので,代表取締役Bの権限で召集する。
?A上記臨時株主総会の開催までの間,Bは被告の代表取締役を辞任しない。
?BBは,破産申立てなど,被告の権限を代表する行為を一切しない。
?CB及びDは,会社に与えた損害を連帯して弁済する。弁済すべき総額は上記臨時株主総会までに確定する。その間,両名は個人資産の売買,譲渡,所有権移転などの詐害行為を一切しない。
(2)被告は,本件各譲渡契約に係る被告の意思表示は強迫によるものである旨主張し,これを証する証拠であるとして,本件会合における出席者らのやりとりの内容及び状況を示す乙第1号証(本件会合の際,音声を録音した媒体)を挙げる。
しかしながら,乙第1号証によれば,本件会合において,株主らが,DやBの説明が不十分であったり,真摯なものではなかったりしたため,立腹し11て語気を強めたり,あるいは,DやBの行為について警察に告訴をする旨発言することもあったものの,本件会合は,株主らが,DやBに対し,被告における会計内容や資金の使途を質し,不明朗な会計処理や不合理な資金の支出の責任の取り方等について話し合うことを目的としたものであり,総じて,冷静な話し合いが行われていたこと,DやBは,株主らからの質問に対し,自己の主張や弁明を相当に行うことができていたことが認められる。
(3)上記(1)で認定した事実に乙第1号証を併せ考慮すれば,被告(B)が本件各譲渡契約に係る意思表示をするにつき,株主らや原告から被告(B)に対し,違法に害悪を示して畏怖を生じさせる行為(強迫行為)があったとはいえず,他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。
(4)よって,被告の主張は理由がない。
3以上によれば,原告の本訴請求は,いずれも理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 柵木澄子
裁判官 舟橋伸行