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関連審決 無効2008-800068
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10015審決取消請求事件 判例 特許
平成18ネ10038損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成20行ケ10472審決取消請求事件 判例 特許
平成16ワ8682損害賠償請求事件 判例 特許
平成19行ケ10266審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  慣用技術 /  上位概念 /  下位概念 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  技術情報 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  混同 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10003号 審決取消請求事件
原告三 洋電機株式会社
訴訟代理人弁理 士鹿股俊雄
同 大橋雅昭
被告Y1
被告Y2
両名訴訟代理人弁理士沢田雅男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/09/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2008-800068号事件について平成20年11月27日にした審決を取り消す。
事案の概要
1本件は,原告が特許権を有し発明の名称を「半導体装置の製造方法」とする特許第2589184号につき,被告らがその請求項1,2に対し特許無効審判請求をし,原告が訂正請求をしたところ,特許庁が訂正を認めた上,特許第2589184号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をしたことから,これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,上記訂正後の特許第2589184号の請求項1,2に係る発明が下記文献に記載された発明(引用発明)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記特開昭63-257256号公報(発明の名称「リードフレーム」,出願人株式会社日立製作所及びアキタ電子株式会社,公開日 昭和63年10月25日。以下,この文献を「甲1文献」といい,これに記載された発明を「引用発明」という。甲1)
当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成元年8月10日,名称を「半導体装置の製造方法」とする発明について特許出願(特願平1-208146号)をし,平成8年12月5日に特許庁から特許第2589184号として設定登録を受けた(請求項の数2。特許公報は甲30。以下「本件特許」という。)。
これに対し被告らから,平成20年4月16日,本件特許の請求項1,2につき特許無効審判請求がなされたので,特許庁はこれを無効2008-800068号事件として審理し,その中で原告は平成20年7月10日付けで誤記訂正を理由とする訂正請求(以下「本件訂正」という。甲31)をしたところ,特許庁は,平成20年11月27日,本件訂正を認めた上,「特許第2589184号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決をし,その謄本は平成20年12月9日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件訂正後の請求項1,2に係る発明(以下「本件発明1」,「本件発明2」といい,併せて「本件各発明」という。)の内容は,以下のとおりである(下線部分は訂正箇所)。
・【請求項1】金属板を打ち抜いて半導体素子固定用のタブ部と複数本のリードとを有するリードフレームを形成する工程と,前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程と,前記半導体素子の電極と前記リードフレームのリードとを金属細線にて電気的に接続する工程と,前記リードフレームをモールド金型に設置し,前記リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレームの打ち抜き面とは反対の面へ樹脂を回り込ませるようにして樹脂モールドする工程と,を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法
・【請求項2】金属板を打ち抜いて半導体素子固定用のタブ部と複数本のリードとを有するリードフレームを形成する工程と,前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程と,前記半導体素子の電極と前記リードフレームのリードとを金属細線にて電気的に接続する工程と,前記リードフレームをモールド金型に設置し,前記リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレームの打ち抜き面とは反対の面へ樹脂を回り込ませるようにして樹脂モールドする工程と,前記樹脂モールドによって前記リード間に生じた樹脂バリを,前記リードフレームの打ち抜き面と逆の方向からパンチを挿入して除去する工程と,前記リードをカットし,所定形状に折り曲げる工程と,を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法
(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本件訂正は誤記の訂正であるから適法であるとした上,本件発明1,2は甲1文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項の規定に違反する,というものである。
イなお,審決は,上記判断をするに当たり,甲1文献に記載された引用発明を「引用発明1」と「引用発明2」に分けて認定した上,本件発明1,2との一致点及び相違点を次のとおりとした。
(ア) 引用発明1・<引用発明1の内容>「金属の板材をプレス打ち抜きすることにより,チップをダイボンディングするタブと,複数のリードとを有するリードフレームを形成する工程と,プレス打ち抜き面である裏面側に抜きダレを,反対面である表面側に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面側にチップをダイボンディングする工程と,前記チップのボンディングパッドとリードとを,アルミニウムや金などより成るボンディングワイヤにより接続する工程と,モールド金型に入れ,レジンを注入し,加圧成形してレジンモールドする工程とを具備する,レジンモールド型半導体装置の製造方法」・<一致点>本件発明1と引用発明1とは,「金属板を打ち抜いて半導体素子固定用のタブ部と複数本のリードとを有するリードフレームを形成する工程と,前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程と,前記半導体素子の電極と前記リードフレームのリードとを金属細線にて電気的に接続する工程と,前記リードフレームをモールド金型に設置し,樹脂を注入し,樹脂モールドする工程と,を具備する半導体装置の製造方法。」 である点で一致する。
・<相違点>本件発明1では,「リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレームの打ち抜き面とは反対の面へ樹脂を回り込ませる」のに対して,引用発明1では,リードフレームのいずれの面から樹脂を注入するか,記載されていない点。
(イ) 引用発明2・<引用発明2>の内容「金属の板材をプレス打ち抜きすることにより,チップをダイボンディングするタブと,複数のリードとを有するリードフレームを形成する工程と,プレス打ち抜き面である裏面側に抜きダレを,反対面である表面側に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面にチップをダイボンディングする工程と,前記チップのボンディングパッドとリードとを,アルミニウムや金などより成るボンディングワイヤにより接続する工程と,モールド金型に入れ,レジンを注入し,加圧成形してレジンモールドする工程と,レジンモールドよって各リード間に発生したレジンバリを,リードフレームの打ち抜き面の反対の面から落し刃を挿入して突き落とす工程と,リードフレームの所用箇所を切断して個々のリードを分離形成するリードカット工程と,該リードを所定方向に折り曲げるリードフォーミング工程と,を具備するレジンモールド型半導体装置の製造方法」・<一致点>本件発明2と引用発明2とは,「金属板を打ち抜いて半導体素子固定用のタブ部と複数本のリードとを有するリードフレームを形成する工程と,前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程と,前記半導体素子の電極と前記リードフレームのリードとを金属細線にて電気的に接続する工程と,前記リードフレームをモールド金型に設置し,樹脂を注入し,樹脂モールドする工程と,前記樹脂モールドによって前記リード間に生じた樹脂バリを,前記リードフレームの打ち抜き面と逆の方向からパンチを挿入して除去する工程と,前記リードをカットし,所定形状に折り曲げる工程と,を具備する半導体装置の製造方法。」である点で一致する。
・<相違点>本件発明2では,「リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレームの打ち抜き面とは反対の面へ樹脂を回り込ませる」のに対して,引用発明2では,リードフレームのいずれの面から樹脂を注入するか,記載されていない点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下に述べるとおり誤りがあるので,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(一致点認定の誤り)(ア) 本件発明1における打ち抜き面の技術的意味本件発明1は,注入樹脂の抜きバリによる流動性低下を防止するため,「リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する」という構成要件を前提として,リードフレームの打ち抜き面が上面下面いずれであっても,必ず「リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入」することを本質とするものである。すなわち,「前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程」という構成要件は,「前記リードフレームをモールド金型に設置し,前記リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレームの打ち抜き面とは反対の面へ樹脂を回り込ませるようにして樹脂モールドする工程」という構成要件と一体不可分であって,これらの構成要件の有機的な結合を無視していずれか一方の構成要件のみを抜き出したのでは,本件発明1の内容を的確に認定することはできない。そして,上記各構成要件の有機的な結合を前提とすると,本件発明1の構成要件「前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程」における「打ち抜き面」は,重力落下方向からみてリードフレームの表面側(上面)又は裏面側(下面)のいずれの面も含みうるものであるから,「反対面」及び「反対の面」もリードフレームの表面側(上面)又は裏面側(下面)のいずれの面もとりうるものである。いいかえれば,本件発明1は半導体素子が重力落下方向からみてリードフレームの表面側(上面)又は裏面側(下面)のいずれに搭載されていても,リードフレームの打ち抜き面はその半導体素子が搭載された面の反対の面にあり,樹脂をその打ち抜き面側から注入するもので,本件発明1における「反対の面」とは,リードフレームの表面側(上面)又は裏面側(下面)のいずれかを限定したものではない。本件発明1における「反対の面」は,リードフレームの表面側(上面)又は裏面側(下面)とは,上位概念下位概念との関係にあるとはいえず,全く異なる概念に相当する。
(イ) 引用発明における打ち抜き面の技術的意味これに対し引用発明は,その課題及び目的からして,半導体チップの搭載面であるリードフレームの反対側の面,すなわち,重力落下方向からみてリードフレームの裏面側から打ち抜くことを必須の要件としており,半導体素子をリードフレームの裏面側に搭載したり,抜きバリを裏面側(下面)に形成したりすることは全く想定していないものである。
すなわち,甲1文献には「第1図は,第2図と同様に第8図I-I線に沿う要部断面図で,プレス打ち抜きに際し,従来とは異なり,金属の板材の裏面側から表面側に向って所定の断面を有するように打ち抜きする。第1図に示すように,このようにすることにより,リード4の側端面が,チップ搭載面からその反対面にかけて,上部から下部に向って幅狭の形状となり,そのため,落し刃19により,リード4の側面に付着したレジン(封止剤)17を突き落すに,第2図に示す従来例に比して引っかかりがなく,容易に下方に突き落すことができた。」(3頁左上欄11〜右上欄1行)と記載され,従来技術として「・・・プレス打ち抜きによる場合,従来,一般に金属の板材の表面側すなわちチップ搭載面側から打ち抜きが行われていた。そうした場合,第2図に示すように,リード4の表面側から裏面側にかけて,その断面が裏面側に向って幅広の形状を示すようになる。」(2頁左下欄第11〜16行)と記載されている。この記載によれば,引用発明は,リード4の側面に付着したレジン(封止剤)を容易に下方に突き落すために,「金属の板材の裏面側から表面側に向って所定の断面を有するように,打ち抜き」し,「リード4の側端面が,チップ搭載面からその反対面にかけて,上部から下部に向かって幅狭の形状」とするものである。したがって,甲1文献には,「プレス打ち抜き面である裏面側に抜きダレを,反対面である表面側に抜きバリを有し,リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面側にチップをダイボンディングする工程」という構成が記載されており,かつ,その「表面側」とは,重力落下方向からみて表面側であることを必然とするものである。たしかに,甲1文献の特許請求の範囲には,「半導体チップを搭載する面の反対側面から前記金属の板材をプレス打ち抜きして形成」するとの記載があるが,上記したように,引用発明の課題及び目的からして,リードフレームの裏面側から必ず打ち抜くことを前提としているものである。
(ウ) 本件発明1と引用発明1との一致点認定の誤り上記のように,本件発明1は「前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する」ものであって,「打ち抜き面」が表面側又は裏面側のいずれでもよく,その結果,「反対の面」又は「抜きダレが形成される面」も表面側又は裏面側いずれの場合もありうるのに対し,引用発明1の「前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面側にチップをダイボンディングする工程」の「打ち抜き面」は一義的に裏面側であり,それに伴い,「反対の面」も一義的に表面側を指すものである。このように,引用発明1には,本件発明1の表面側又は裏面側の一方に限定されない「打ち抜き面」の構成についての開示はない。
しかし,審決には,引用発明1の構成要素を意図的に省いたり,異なる用語に置き換えた部分があり,それにより,本来であれば相違点となる構成を一致点とした誤りがある。具体的には,審決で認定された引用発明1の「プレス打ち抜き面である裏面側に抜きダレを,反対面である表面側に抜きバリを有し」について,一致点の判断に際しては「裏面側」及び「表面側」の構成を省いて判断している。また,審決で認定された引用発明1の「前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面側にチップをダイボンディングする工程」について,一致点の判断に際しては,「表面側」を「表面」に言い換え,「リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面にチップをダイボンディングする工程」としている。
以上から,審決は一致点の認定に際して,各構成要件の有機的な結合を無視して発明を構成する要素を意図的にバラバラにして解釈し,上記の意図的な変更,省略により,本件発明1及び引用発明1に記載の「打ち抜き面」を誤って解釈した結果,本来であれば相違点である「前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程」を一致点とした誤りがある。
(エ) 本件発明2と引用発明2との一致点認定の誤り審決の本件発明2と引用発明2との一致点の認定には,上記(ア)〜(ウ)で述べた本件発明1と引用発明1との一致点認定の誤りと同様な誤りが存在する。したがって,審決には,本件発明2と引用発明2との一致点の認定に誤りがある。
イ 取消事由2(相違点認定の誤り)(ア) 本件発明1と引用発明1との相違点認定の誤り前記のように,本件発明1の「前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程」と引用発明1の「プレス打ち抜き面である裏面側に抜きダレを,反対面である表面側に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面側にチップをダイボンディングする工程」は一致点ではなく,相違点となるべきものであるから,これを看過した審決の相違点認定は誤りである。
(イ) 本件発明2と引用発明2との相違点認定の誤り上記(ア)と同じ理由で,本件発明2と引用発明2との相違点認定も誤りである。
ウ 取消事由3(相違点判断の誤り)(ア) 本件発明1と引用発明1との相違点判断の誤りa樹脂注入面についての出願時の技術水準引用発明1のリードフレームは,プレス打ち抜き面である裏面側に抜きダレを,反対面である表面側に抜きバリを有し,リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面側にチップをダイボンディングされたものであるが,そのリードフレームに対し樹脂をいずれの面から注入するかは,一切記載がない。そして,本件各発明の出願時においては,単に,樹脂注入をリードフレームの表面側又は裏面側から注入していたにすぎない。
b動機付け及び阻害要因上記のように,従来,半導体素子が表面側に搭載されたリードフレームに対し,樹脂をリードフレームの表面側から注入する方法とその反対の裏面側から注入する方法が存在し,どちらの方法を採用するかは種々の要因を考慮して決められていた。
例えば,樹脂を半導体素子搭載面の表面側から注入する場合の問題点として,ワイヤに直接樹脂圧がかかることによりワイヤが変形し,場合によっては半導体素子と接触すること,半導体素子が沈み込むことによりリードフレームが上下して適切な樹脂厚が確保できなくなること等があげられる。一方,半導体素子搭載面の反対面である裏面側から注入する場合の問題点として,樹脂圧によりワイヤが変形し,半導体素子が浮き上がることによりワイヤが露出したりすること,エアの巻き込み現象や,局所的未充填現象のような成形不良が発生すること,半導体素子側の樹脂厚が薄くなることにより樹脂に閉じ込められていたガス,気泡が膨張・破裂すること等があげられる。
このように,樹脂をリードフレームの表面側又はその裏面側から注入するに際して,いずれの場合も上述した種々の問題点,いいかえれば阻害要因があり,同時にそのような問題点(阻害要因)を回避するための動機付けがいずれの場合にも存在するものである。審決も,「・・・半導体素子の固着面側又はその反対面側のいずれの方向から樹脂を注入するかは,それぞれの長所,短所を考慮して決定し得る」(14頁24〜26行)としており,いずれの場合でも長所(動機付け),短所(阻害要因)があることを認めている。
なお,本件各発明が解決した抜きバリによる流動性低下という課題は,将来にわたってリードフレームの薄型化,微細化が進む中で本件各発明の発明者等が新たに見出したもので,本件各発明の出願前は全く認識されていなかったものである。
c相違点判断の誤り1(樹脂注入面についての出願時の技術水準の解釈の誤り)審決は,「半導体素子の固着面側又はその反対面側のいずれの方向から樹脂を注入するかは,それぞれの長所,短所を考慮して決定し得る」としながらも,相違点の判断に際して,樹脂を半導体素子が搭載されたリードフレームの裏面側から注入する先行技術のみを取り上げ,これを引用発明1に適用して相違点の構成とすることは容易であると判断した。そして,審決は,「半導体素子の固着面の反対面側から樹脂を注入することによって,場合によってはワイヤの露出等の問題点が発生し得るとしても,かかる問題点が,必ずしも常に発生する致命的なものともいえないことに照らすと,上記問題点を阻害要因とまでいうことはできない。」としたが,このような判断が許されるならば,逆に「半導体素子の固着面である表面側から樹脂を注入することによって,場合によってはワイヤの露出等の問題点が発生し得るとしても,かかる問題点が,必ずしも常に発生する致命的なものともいえないことに照らすと,上記問題点を阻害要因とまでいうことはできない。」ともいえるのであり,それにより,半導体素子の固着面である表面側から樹脂を注入することにも当然想定されるから,審決が一方の面側のみに動機付けがあるとした論理付けは失当である。
審決は,本件発明1が包含する一つの構成に近付けるために,意図的に樹脂注入を裏面側から注入する先行技術のみを取り上げて相違点の判断をしているもので,その論理付けには,樹脂注入面についての出願時の技術水準を誤って解釈した誤りがある。
d相違点判断の誤り2(本件発明1の技術的思想の看過の誤り)本件発明1は,抜きバリによる流動性低下という課題を解決するために,リードフレームを表面側又は裏面側から打ち抜くにせよ,抜きバリが形成されていない打ち抜き面側から樹脂を注入させることを本質とするものであるが,仮に,「リードフレームにおける上記半導体素子の固着面と反対側にあるモールド金型から樹脂を注入する」技術を周知技術として,これを引用発明1に適用したとしても,本件発明1の技術的思想に到達することはできない。すなわち,前記のとおり,引用発明1に記載のリードフレームは,その課題及び目的からして,半導体素子は重力落下方向からみてリードフレームの表面側に搭載され,リードフレームはその裏面側から打ち抜かれ,それに伴い抜きバリは必ず表面側に形成されるものである。これに周知技術を適用すれば,リードフレームの打ち抜き面であるリードフレームの裏面側から樹脂を注入する構成が得られる。一方,本件発明1は,抜きバリによる流動性低下という従来では知見されていなかった新規な課題を解決するために,リードフレームを表面側又は裏面側のいずれかから打ち抜くにせよ,抜きバリが形成されていない打ち抜き面側から樹脂を注入させるものである。したがって,引用発明1と周知技術を組み合わせた場合,本件発明1の技術思想から離れて構成のみに着目すれば,結果的に本件発明1が包含する構成の一つに類似する構成が得られるが,上記のとおり,リードフレームの打ち抜きの方向がいずれであっても,抜きバリが形成されない打ち抜き面側から樹脂を注入させるという構成,すなわち本件発明1が本質とする技術的思想には決して到達することはない。
このように,審決の相違点判断は,本件発明1の技術的思想を無視して,本件発明1をそれが包含する構成の一つに矮小化し論じているもので,その結果,相違点を誤って判断したものである。
e相違点判断の誤り3(顕著な作用効果の看過)審決は,本件発明1が有する作用効果について,甲1文献の記載及び周知技術から予測できないような格別に顕著なものとは認められない旨を述べた。
しかし,本件発明1は,将来にわたって素子の薄型化及び微細化が進んで行く中で,また,リードの数が増えリード下面のトータル面積が増大していく中で,抜きバリによる樹脂の流動性低下の課題を本件発明の発明者等が新たに知見し,その課題を解決したもので,その結果,本件発明1の方法によって製造された半導体装置は,不良品の発生割合が少なく,品質にばらつきのない,高信頼性の樹脂モールド製品を得ることができるという顕著な作用効果を奏するものである。
審決の作用効果についての判断は,本件発明1が有する課題及びその課題を解決したことによる作用効果を正当に評価せず,何らの根拠もなく「格別に顕著なものではない」と断じているもので,本件発明1の顕著な作用効果を看過した誤りがある。
(イ) 本件発明2と引用発明2との相違点の判断の誤り本件発明2と引用発明2の相違点の判断も,上記(ア)と同様の誤りがある。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告らの反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対しア 本件発明1の構成要件の不可分一体性につき原告は,本件発明1は,「リードフレームの打ち抜きバリによる流動性の低下を防止する」という課題に対し,「リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する」という構成要件を前提として,「リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入」することを本質として課題を解決するものであり,この二つの構成要素は有機的に結合して一体不可分であるから,これを分離して解釈した審決の一致点の認定は誤りであると主張する。
しかし,リードフレームの打ち抜き面に半導体素子を固着しようと,その反対の面に固着しようと,リードフレームの打ち抜き面から樹脂を注入すれば,本件発明1の「リードフレームの打抜きバリによる樹脂の流動性を低下させる」という課題は解決できる。したがって,本件発明1の課題に対して,「リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する」,「リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入」するという二つの構成要件は,有機的に結合しているわけではないし,一体不可分でもない。この二つの構成要件を分離して解釈すべきでないという原告の主張は理由がない。
イ 本件発明1の半導体素子の固着面につき原告は,本件発明1においては半導体素子の固着は上下面どちらかに限定されるものではないのに対し,引用発明には半導体素子を下面に固着するという記載も示唆もないと主張する。
しかし,本件特許明細書(甲30)の「発明の詳細な説明」欄に「(ロ)従来の技術」として「第4図の如く,打抜き面を上にして半導体装置(1)を製造している。」,「(ハ)発明が解決しようとする課題」として「樹脂注入口が下金型にあると,抜きバリ(4)が流入抵抗となって樹脂の流動性を低下させていた。」,「(二)課題を解決するための手段」として「リードフレームの打抜き面を下にして,打抜き面の方より樹脂を流入する」,「(ホ)作用」として「樹脂注入口が下金型にあっても,第3図の矢印の如く抵抗なく流入させることができる。」,「(ト)発明の効果」として「抜きダレを下面にするため樹脂の流動性が向上し,リードフレームに与える樹脂注入時の抵抗を低下させることができる。」と記載されている。これらの記載からすると,本件発明1の技術的思想は,「樹脂注入口が下金型にある場合,リードフレームの打抜きバリにより樹脂の流動性が低下する」という課題があって,それを解決するための具体的な手段として,「リードフレームの打抜き面を下面にする構成とした」ことと解され,半導体素子の固着を下面とする構成は認められず,そのような構成が示唆されていると認めることもできない。
したがって,本件発明1において,半導体素子の固着はリードフレームの上下面どちらかに限定されるものではないとの原告の主張は理由がない。
ウ 小括そうすると,本件発明1と引用発明1の一致点の認定の誤りに関する原告の主張は理由がない。
エまた,上記ア〜ウと同様の理由で,原告の主張する本件発明2と引用発明2との一致点認定の誤りの主張も理由がない。
(2) 取消事由2に対し審決には,原告が取消事由1で主張する本件発明と引用発明との一致点の認定の誤りはないから,それを前提とする相違点認定の誤りもない。
(3) 取消事由3に対しア 相違点の判断の誤り1につき審決は,本件発明1が包含する一つの構成に近付けるために,意図的に樹脂注入を裏面側から注入する先行技術のみを取り上げて相違点の判断をしているもので,その論理付けには,樹脂注入面についての出願時の技術水準を誤って解釈した誤りがあると主張する。
しかし,進歩性を否定した審決の判断に対して反論するならば,引用発明に周知技術を組み合わせることに動機付けがないか阻害要因などがあるから,本件発明1は容易に発明できたものではなく,進歩性を否定することはできないとの主張をすべきと考えられるが,原告は,本件発明1の構成と同じ構成となるような先行技術のみを取り上げる審決の進歩性の判断手法が許されるべきものではないと主張するのみであって,反論となっていない。審決は,進歩性の判断をするに際し,本件発明1と引用発明とを比較し,甲1文献にはどちらの面から樹脂注入するかの記載がないことを相違点として挙げ,甲1文献に記載のない樹脂注入面について,下面から樹脂注入することが周知技術であること示し,引用発明にこの周知技術を組み合わせることに動機付けとなる自明の課題があり,その組み合わせに阻害要因となる格別の技術的困難性もないことから,本件発明1は引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものだと判断したものであり,誤りはない。
相違点の判断の誤り2につき原告は,引用発明1と周知技術を組み合わせた場合,本件発明1の技術思想から離れて構成のみに着目すれば,結果的に本件発明1が包含する構成の一つに類似する構成が得られるが,リードフレームの打ち抜きの方向がいずれであっても,抜きバリが形成されない打ち抜き面側から樹脂を注入させるという構成,すなわち本件発明1が本質とする技術的思想には決して到達することはないと主張する。
しかし,リードフレームの打ち抜き面を上面にして樹脂注入を上面から行う構成は,本件発明1において半導体素子を下面に固着する構成と同じ構成となるが,かかる構成は,前記(1)イのとおり,本件特許明細書等に記載も示唆もない。また,かかる構成が本件発明1に包含されているとしても,これは,甲1文献の記載及び周知・慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものにすぎない。
相違点の判断の誤り3につき原告は,審決の作用効果についての判断は,本件発明1が有する課題及びその課題を解決したことによる作用効果を正当に評価せず,何らの根拠もなく「格別に顕著なものではない」と断じているもので,本件発明1の顕著な作用効果を看過した誤りがあると主張する。
しかし,原告は,本件特許出願前から既に開示された発明の構成について,それまで知られていなかった技術課題や作用効果を発見したことと,発明の構成自体を新たに創出したこととを混同している。本件発明1は,出願前に既に開示された引用発明の構成に,当業者に自明な周知・慣用技術を組み合わせただけの構成であり,両発明の構成に実質的な相違点はない。つまり,本件発明1は,何ら新たな構成を創出するものではなく,既に開示された発明にそれまで知られていなかった課題や効果を発見しただけの単なる技術情報にすぎない。
エ 小括以上のとおり,審決の引用発明1と本件発明1,引用発明2と本件発明2の各相違点の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)・(2)(発明の内容)・(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由1(一致点認定の誤り)について(1) 本件各発明の意義ア本件訂正後の明細書(特許公報〔甲30〕,全文訂正明細書〔甲31〕)には,以下の記載がある。
・(イ)産業上の利用分野「本発明は半導体装置の製造方法に関するものである。」(甲31,1頁28行〜29行)・(ロ)従来の技術「一般に,リードフレームに半導体素子を固着し樹脂モールドする技術は,例えば特公昭55-24694号公報が詳しい。
これは,リードフレームの打抜き面を下部金型と対面させ,フレームの反りを防止するものである。
しかし現在は,打抜き技術が進歩し打抜き面の角部の丸みを極力抑えることが可能となり,打抜き面とこの打抜き面と対向する面とが実質的に同じ面積となっている。しかも対向する面の周辺に生じる抜きバリを平坦にできない理由と相俟って,第4図の如く,打抜き面を上にして半導体装置(1)を製造している。
第4図を参照しながら半導体装置(1)の構成を説明すると,先ずリードフレーム(2)があり,このリードフレーム(2)の打抜き面は上にしてある。図からも判る通り,打抜き面の角部(3)は丸みを生じ,この打抜き面と反対の面の周辺には抜きバリ(4)が形成されている。
(5)はタブであり,(6)はリード,(7)は金属細線である。(甲31,2頁1行〜14行)・(ハ)発明が解決しようとする課題「前述の半導体装置(1)を樹脂モールドする時の概略図を第5図に示す。現在は益々リード(6)の数が増え,リード(6)下面のトータル面積が増大しているので,矢印の如く樹脂注入口が下金型にあると,抜きバリ(4)が流入抵抗となって樹脂の流動性を低下させていた。
またタイバー部の樹脂バリ(8)を,タイバーカット時に第6図の如くパンチ(9)で除去するが,樹脂がリード部(6)の抜きダレ部(角部の丸み)に強固に接着しているため,このタイバーカット工程で完全に除去できず,第6図で示した黒い部分(10)が残ってしまう問題を有していた。そのためウォータジェット等で樹脂バリを完全に取り除く工程が必要となっていた。」(甲31,2頁15行〜24行)・(ニ)課題を解決するための手段「本発明は前述の課題に鑑みて成され,前記樹脂バリ(29)をリード(24)の打抜き方向と逆の方向からパンチ(30)を挿入して除去し,更にはリードフレームの打抜き面を下にして,打抜き面の方より樹脂を流入することで解決するものである。」(甲31,2頁25行〜29行)・(ホ)作用「第2図の如く,打抜き面を下にして形成してあるので,前記抜きダレ部(27)が下に形成される。従って樹脂注入口が下金型にあっても,第3図の矢印の如く抵抗なく流入させることができる。
また第1図の如く,抜きバリ(28)の生じている面からパンチ(30)で打抜く際,樹脂バリ(29)はリード(24)の縦側面のみにしか付着していないので,このパンチを使って良好に樹脂バリ(29)を除去できる。」(甲31,3頁1行〜7行)・(ヘ)実施例「・・・次にこの半導体装置(21)の製造方法について説明してゆく。
先ずリードフレームを打抜き形成するために,例えば銅を主成分とした金属基板が用意される。この金属基板はプレスによって一連のリードフレームが形成される。従って図にも示されるように,下面に抜きダレ部(27)が生じ,上面には抜きバリ(28)が生じる。またリード(24)の一端は金属細線(25)の接合領域として平坦化されている。
次にこのリードフレームの一部であるタブ(23)に半導体素子(22)が固着され,金属細線(25)にて前記リード(24)の接合領域とこの半導体素子(22)のボンディングパッド部が電気的に接合される。
続いて第3図の如く金型にこのリードフレームを組込み,図の如く樹脂を注入する。リードフレームの下面は前述した如く抜きダレ(27)が生じ丸みが生じているため,矢印の如くスムーズに流れる。その結果,第5図の樹脂の流動性とは異なり大幅に改善される。従って樹脂厚2mm前後の薄いものでも,リードフレームは上下せず良好な位置に固定できる。
更に第1図の如く,リード(24)間に固着された樹脂バリ(29)を取り除く工程がある。この時は同時にタイバーカットも実施される。点でハッチングした領域が樹脂バリ(29)であり,図からも判る通り,リードの側面にしか付いていない領域を先にパンチ(30)で押してゆくので,固着力の強い抜きダレ部(27)の樹脂バリは樹脂バリ(29)と一体となって除去されてゆく。従って樹脂バリを完全に取除くことができる。」(甲31,3頁16行〜4頁6行)・(ト)発明の効果「以上の説明からも明らかな如く,抜きダレを下面にするため樹脂の流動性が向上し,リードフレームに与える樹脂注入時の抵抗を低下させることができる。従って樹脂厚の薄いものでも良好にリードフレームを固定でき,不良を防止できる。
またリード間に発生する樹脂バリは,打抜き面とは反対の面から打抜き除去されるので,完全に除去できる。従って折り曲げ寸法を精度良く加工できる。しかも別にウォータージェット等で樹脂バリを除去する工程が省け,工程を短かくすることができる。」(甲31,4頁10行〜17行)・ 図面【第1図】本発明の樹脂バリ除去の工程を説明する断面図【第2図】本発明で達成できる半導体装置の断面図【第3図】本発明の樹脂モールド工程を説明する断面図イ上記記載及び前記各請求項の記載(訂正後のもの)によれば,本件発明1は,半導体装置を樹脂モールドするとき,リードフレームの抜きバリが流入抵抗となって樹脂の流動性を低下させるとの技術課題を認識し,金属基板をプレスして一連のリードフレームを形成し,打ち抜き面に抜きダレ部,反対の面に抜きバリが生じた後,抜きダレが生じて丸みを生じているリードフレームの打ち抜き面側より樹脂を注入することで,上記課題を解決するものである。これにより,本件発明1は,樹脂の流動性が向上し,リードフレームに与える樹脂注入時の抵抗を低下させることができ,したがって樹脂厚の薄いものでも良好にリードフレームを固定でき,不良を防止できるとの効果を有する。
なお,被告らは,本件各発明は「樹脂注入口を下面」とした場合に「リードフレームの打抜き面も下面」とするだけのことであり,リードフレームの打抜き面を上面とするとともに,半導体素子を下面に固着する態様は,明細書に開示されていない旨主張する。たしかに,本件訂正後の特許明細書(甲30,31)の「発明の詳細な説明」欄では,「(ニ)課題を解決するための手段」「(ホ)作用」「(ヘ)実施例 」「(ト)発明の効果」のいずれにおいても,リードフレームの打ち抜き面を下にして形成し,下面に抜きダレ部が生じ,上面には抜きバリが生じることを前提として記載されている。しかし,請求項の記載には,リードフレームの打ち抜き面を下面とすることと限定されておらず,抜きダレ及び抜きバリの上下の位置関係も特定されていない。また,「(ニ)課題を解決するための手段」の記載から,「(リードフレームの)打抜き面の方より樹脂を流入すること」が課題を解決するための手段であると認定できるから,本件各発明は上下関係に拘束されることなく,請求項1に記載された発明のとおりのものであるということができる。
ウまた,本件発明2は,本件発明1の技術課題,構成,効果に加えて,タイバー部の樹脂バリがリード部の抜きダレ部(角部の丸み)に強固に接着しているため,タイバーカット工程で完全に除去できないという技術課題を認識し,この課題の解決手段として,樹脂バリをリードの打ち抜き方向と逆の方向からパンチを挿入して除去するものである。これにより,パンチを使って良好に樹脂バリを除去できるようにし,折り曲げ寸法を精度良く加工でき,しかも別にウォータージェット等で樹脂バリを除去する工程が省け,工程を短かくすることができるとの効果を有する。
(2) 引用発明の意義ア 引用発明が記載された甲1文献には,以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲「1.金属の板材をプレスすることにより作成する半導体装置用リードフレームにおいて,半導体チップを搭載する面の反対側面から前記金属の板材をプレス打ち抜きして形成して成ることを特徴とするリードフレーム。」(1頁左下欄5行〜9行)(イ) 発明の詳細な説明a産業上の利用分野「本発明はリードフレームに関し,詳しくは,樹脂封止型半導体装置用のリードフレームにおいて,トランファモールド後にリードに付着している余分な樹脂を容易に除去できるようにしたリードフレームに関する。」(1頁左下欄17行〜右下欄2行)b従来の技術・「樹脂封止型半導体装置(レジンモールド型半導体装置)の製造において,個々の半導体チップ(以下単に,チップという)をパッケージングする工程はNi-Fe系合金やCu系合金などの導電性材料でできた第3図に例示するようなリードフレームを用いて行なわれる。同図において,1はチップを取付け(ダイボンディング)するタブである。このリードフレームの中央部に位置する角形のタブ1は,端部が外枠2に連なったタブリ-ド3により支持されている。タブ1の周囲には,このタブ1に向って延びる複数のリード4が適宜間隔をおいて配設されている。」(1頁右下欄3行〜15行)・「かかるリードフレーム7を用いてレジンモールド型半導体装置を製造するに,第4図に示すように,チップ8をタブ1上にマウントし(ダイボンディング)し,当該チップ8のボンディングパッド(図示せず)とリード4の先端部とを,アルミニウムや金などより成るボンディングワイヤ9により接続する。次いで,第5図に示すように,当該チップ組立品10をモールド金型11に入れ,上金型12,下金型13を閉じ,当該金型11のキャビティ14内に例えばエポキシ樹脂などのレジンを注入し,加圧成形する。いわゆる低圧法によるトランスファー成形が一般に用いられている。当該レジンモールドにより,第6図に示すように,チップ8などが,レジンモールド部15により封止される。続いて,リードフレームの所用箇所を切断して個々のリード4を分離形成し(リードカット),更に該リード4を所定方向に折り曲げて(リードフォーミング),第7図に断面図を示すようなレジンモールド型半導体装置16を得る。」(2頁左上欄6行〜右上欄4行)・「ところで,従来,当該リードフレームの作成に際しては,金属の板材からエッチングにより作成する場合もあるし,一方,プレス装置により所定の断面をもつようにプレス打ち抜きにより作成する場合もある。
このような,プレス打ち抜きによる場合,従来,一般に金属の板材の表面側すなわちチップ搭載面側から打ち抜きが行われていた。
そうした場合,第2図に示すように,リード4の表面側から裏面側にかけて,その断面が裏面側に向って幅広の形状を示すようになる。」(2項左下欄6行〜16行)・「このように,板材の表面側から打ち抜いた場合,第2図に示すように,レジン落し刃19を用いて,余分なレジン17を突き落そうとする場合,その断面形状から落しづらいという問題があった。」(2頁左下欄19行〜右下欄2行)c発明が解決しようとする問題点「本発明はかかる従来技術の有する欠点を解消して,バリなど余分なレジンなどの封止剤の除去を容易になし得る技術を提供することを目的とする。」(2頁右下欄10行〜13行)d問題点を解決するための手段「本発明では,従来の表側からプレス打抜きするのではなく,裏側から金属板材をプレス打ち抜きするようにした。」(3頁左上欄1行〜3行)e実施例「次に,本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
第1図は,第2図と同様に第8図I-I線に沿う要部断面図で,プレス打ち抜きに際し,従来とは異なり,金属の板材の裏面側から表面側に向って所定の断面を有するように打ち抜きする。
第1図に示すように,このようにすることにより,リード4の側断面が,チップ搭載面からその反対面にかけて,上部から下部に向って幅狭の形状となり,そのため,落し刃19により,リード4の側面に付着したレジン(封止剤)17を突き落すに,第2図に示す従来例に比して引っかかりがなく,容易に下方に突き落すことができた。
これにより,上記のごとく落し刃19の引っかかりが防止されるので,リード4の側面に傷をつけたりすることが防止された。」(3頁左上欄8行〜右上欄4行)(ウ) 図面【第1図】本発明の実施例を示す要部断面図【第2図】従来例を示す要部断面図イ上記記載によれば,引用発明は,リードフレームの作成に際し,金属板材の表面側から打ち抜いた場合,リードの表面側から裏面側にかけてその断面が裏面側に向かって幅広の形状を示すようになるという形状から,落とし刃を用いてリードに付着している余分な樹脂が落としづらいという課題を認識し,この課題の解決手段として金属板材を裏面側から打ち抜き,リードに付着した樹脂をリードフレームの打ち抜き方向と反対の方向から落とし刃で突き落として除去するものである。これにより,バリなどの余分な樹脂の除去が容易になるとの効果を有するものであることが認められる。
(3) 「本件発明1における打ち抜き面の技術的意味」につき原告は,本件発明1は,注入樹脂の抜きバリによる流動性低下を防止するため,「リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する」という構成要件を前提として,リードフレームの打ち抜き面が上面下面いずれであっても,必ず「リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入」することを本質とするものであり,「前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程」という構成要件は,「前記リードフレームをモールド金型に設置し,前記リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレームの打ち抜き面とは反対の面へ樹脂を回り込ませるようにして樹脂モールドする工程」という構成要件と一体不可分であって,これらの構成要件の有機的な結合を無視していずれか一方の構成要件のみを抜き出したのでは,本件発明1の内容を的確に認定することはできないと主張する。
しかし,本件特許の明細書(特許公報〔甲30〕,全文訂正明細書〔甲31〕)の発明の詳細な説明には,半導体素子の固着面と樹脂の注入方向の関係を直接的に説明する記載はなく,実施例を説明する第2図から看取できるのみである。また,前記のとおり,本件発明1は,半導体装置を樹脂モールドするとき,リードフレームの抜きバリが流入抵抗となって樹脂の流動性を低下させるとの技術課題を解決するため,金属基板をプレスして一連のリードフレームを形成し,打ち抜き面に抜きダレ部,反対の面に抜きバリが生じた後,抜きダレが生じて丸みを生じているリードフレームの打ち抜き面側より樹脂を注入するという解決手段を採ることにより,樹脂の流動性が向上し,リードフレームに与える樹脂注入時の抵抗を低下させるという効果を有するものであるが,リードフレームの打ち抜き面に半導体素子を固着しようと,その反対の面に固着しようと,リードフレームの打ち抜き面から樹脂を注入すれば,本件発明1の「半導体装置を樹脂モールドするとき,リードフレームの抜きバリが流入抵抗となって樹脂の流動性を低下させる」という課題は解決できる。
してみると,本件発明1の課題に対して,リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入して樹脂モールドする工程は,その工程自体で独立して作用を生じさせるものであり,「リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する」ことと,「リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入」する二つの構成要件は,一体不可分であるということはできないから,原告の上記主張は理由がない。
(4) 「引用発明における打ち抜き面の技術的意味」につきア原告は,引用発明は,チップの搭載面であるリードフレームの反対側の面,すなわち,重力落下方向からみてリードフレームの裏面側から打ち抜くことを必須の要件としており,半導体素子をリードフレームの裏面側(下面)に搭載したり,抜きバリを裏面側(下面)に形成したりすることは全く想定していないと主張する。
確かに,甲1文献の実施例には,リード4の側断面が,チップ搭載面からその反対面にかけて上部から下部に向って幅狭の形状となり,そのため,落し刃19によりリード4の側面に付着したレジン(封止剤)17を突き落す際に,従来例に比して引っかかりがなく,容易に下方に突き落すことできた旨が記載されているから,余分なレジン(封止剤)17を除去する工程においては,チップ搭載面側である「表面側」を上方とし,リード4の「裏面側」を下方として,表面側から裏面側への方向が落下方向となるようにし,不要なレジン(封止剤)17をレジン落とし刃19により突き落すことが開示されているということができ,チップ搭載面側である「表面側」を上方としリード4の「裏面側」を下方とする配置が,余分なレジンの除去工程における実施の態様として開示されているということができる。
しかし,甲1文献には,余分なレジンを除去する工程以外の工程については,リードフレームの配置について上下方向を限定する旨の記載はない。また,甲1文献の「プレス打ち抜きによる場合,従来,一般に金属の板材の表面側すなわちチップ搭載面側から打ち抜きが行われていた。」との記載によれば,甲1文献においては,金属の板材のチップを搭載する面を「表面」と位置付けて金属の板材の「表面側」を定義しており,プレス打ち抜きの方向にかかわらず,金属の板材の「チップ搭載面側」を「表面側」,その反対面の側を「裏面側」と称しているものと認定できる。また,特許請求の範囲において「半導体チップを搭載する面の反対側面から前記金属の板材をプレス打ち抜きして形成して成る」と,発明の構成要件を上下方向を限定せずに記載していることからも,甲1文献において「表面側」と「裏面側」は,重力方向(上下方向)に拘束されない金属の板材の一方の面側(チップ搭載面側)とその反対面側を意味するものであることが認められる。このような「表面側」及び「裏面側」の意味に照らせば,実施例における「金属の板材の裏面側から表面側に向って所定の断面を有するように打ち抜きする」との記載も,「金属の板材の『チップ搭載面の反対面の側』から『チップ搭載面側』に向って所定の断面を有するように打ち抜きする」ことを意味しているにすぎず,重力方向との関係において打ち抜き方向を特定するものではないと解するのが相当である。
イまた,特開昭57-17138号公報(発明の名称「半導体装置用樹脂封止装置」,出願人 九州日本電気株式会社,公開日 昭和57年1月28日。乙2)には,「第3図は本発明の一実施例の断面図である。リードフレーム1,半導体素子2,金属線3は従来と同じである。下型15には半導体素子2と金属細線3とを受入れる空洞部が設けられ,リードフレーム1は半導体素子2搭載面が下向きになるように挿入される。」(2頁左上欄11行〜16行)との記載があり,「半導体素子が搭載され,金属線が接続されたリードフレームの前記半導体素子搭載面を下向きに」(1頁左下欄5行〜6行)することが開示されている。特開平1-151239号公報(発明の名称「半導体素子の樹脂封止成型方法及び装置」,出願人有限会社テイ.アンド.ケイ.インターナショナル研究所,公開日平成元年6月14日,乙3)には,従来の技術として「・・・図例の装置は,半導体素子8aを嵌合してこれを樹脂封止するためのキャビティ(4)を下型2側に配設したものを示している。」(2頁右下欄1行〜4行)と記載され,上記図例である第10図からは,半導体素子8aを装着した側のリードフレーム面を下側に向けて配設することが看取できる。すると,本件訂正後の本件特許明細書及び甲1文献に記載されているように,半導体素子の搭載面を上側に向けてリードフレームを保持することが通常採用される保持形態であると認められるところ,上記二つの刊行物(乙2,乙3)の記載によれば,半導体装置の製造工程において,半導体素子の搭載面を下側に向けてリードフレームを保持することも当事者が採用しうる周知の保持形態であり,換言すれば,重力方向からみて,リードフレームの上面に半導体素子(チップ)を搭載することも,リードフレームの下面に半導体素子(チップ)を搭載することも,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって自明かつ周知の技術であるといえる。
かかる見地からも,甲1文献に記載されたリードフレームは,「半導体チップを搭載する面の反対側面から前記金属の板材をプレス打ち抜きして形成して成ることを特徴とする」(請求項)ものであって,引用発明は,半導体チップを金属の板材の上面に搭載するとともに前記金属の板材の下面からプレス打ち抜きする態様と,半導体チップを金属の板材の下面に搭載するとともに前記金属の板材の上面からプレス打ち抜きする態様とを当然に内在しているものであって,半導体チップを搭載する面を一方向に限定して解釈しなければならない理由はないというべきである。
ウ以上により,引用発明は重力落下方向からみてリードフレームの裏面側から打ち抜くことを必須の要件としており,抜きバリを下面に形成したりすることは全く想定していないものであるとの原告の上記主張は,採用することができない。
(5) 本件発明1と引用発明1との一致点認定の誤りにつきア原告は,審決は本件発明1と引用発明1との一致点の認定に際して,本件発明1の各構成要件の有機的な結合を無視して発明を構成する要素を意図的にバラバラにして解釈し,引用発明1の構成要素の意図的な変更・省略により,本件発明1及び引用発明1に記載の「打ち抜き面」を誤って解釈した結果,本来であれば相違点である「前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程」を一致点とした誤りがあると主張する。
イしかし,前記のとおり,原告の主張する本件発明1の各構成要件の有機的な結合は認められないから,審決が本件発明1を構成する要素を意図的にバラバラにして解釈したことはないというべきである。
ウまた,確かに,審決における引用発明1の認定と引用発明1と本件発明1との一致点認定とを比較すると,一致点には「裏面側」及び「表面側」の記載がない。
しかしながら,上記(4)のとおり,甲1文献について,「表面側」と「裏面側」は重力方向に拘束されない金属の板材の一方の面側(チップ搭載面側)とその反対面側を意味するとの前提に立って審決の認定を検討すると,引用発明1は「リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面側にチップをダイボンディングする」のであるから,「リードフレームの打ち抜き面と反対の面」が金属の板材のチップ搭載面であって,甲1文献における「表面側」の面を意味し,また,「リードフレームの打ち抜き面」が甲1文献における「裏面側」の面を意味するとともに,引用発明1の構成は重力方向にかかわらず「打ち抜き面」と「裏面側」の面は等価であり,「反対面」と「表面側」の面も同一の面を意味することが認められる。そうすると,引用発明1の「プレス打ち抜き面である裏面側に抜きダレを,反対面である表面側に抜きバリを有し」の記載は,「裏面側」及び「表面側」の記載を省略し,「プレス打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し」との認定であってもその意味内容に何ら変わりはないというべきである。
したがって,一致点の認定において,「裏面側」及び「表面側」の記載を省略して「リードフレームの打ち抜き面」と「反対の面」との記載をしても,全く同一の面である以上,一致点の認定に何ら誤りを生じるものではなく,審決は引用発明1の構成要素の意図的な変更・省略をしたとの原告の上記主張は理由がない。
エさらに,前記(3)(4)のとおり,審決が本件発明1及び引用発明1に記載された「打ち抜き面」を誤って解釈したこともない。
オ以上により,原告の主張する本件発明1と引用発明1との一致点認定の誤りは理由がない。
(6)同様に,本件発明2と引用発明2との一致点認定の誤りも認められないから,原告主張の取消事由1は採用することができない。
3 取消事由2(相違点認定の誤り)について前記2のとおり,「前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程」と引用発明1の「プレス打ち抜き面である裏面側に抜きダレを,反対面である表面側に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面側にチップをダイボンディングする工程」は相違点ではなく一致点である。したがって,本件発明1と引用発明1,本件発明2と引用発明2との各相違点についての審決の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由2は採用することができない。
4 取消事由3(相違点判断の誤り)について(1)相違点判断の誤り1(樹脂注入面についての出願時の技術水準の解釈の誤り)につきア原告は,審決は本件発明1が包含する一つの構成に近付けるために,意図的に樹脂注入を裏面側から注入することにのみ動機付けがあるとした上,裏面側から樹脂を注入する先行技術のみを取り上げて相違点について判断をしているもので,その論理付けには,樹脂注入面についての出願時の技術水準を誤って解釈した誤りがあると主張する。
イしかし,審決は,「・・・半導体素子の固着面側又はその反対面側のいずれの方向から樹脂を注入するかは,それぞれの長所,短所を考慮して決定し得る」(審決14頁24〜26行)として,樹脂をリードフレームの表面側又はその裏面側から注入する何れの場合も長所(動機付け)と短所(問題点)が存在することを認めている。そうすると,審決が意図的に樹脂注入を裏面側から注入することにのみ動機付けがあるとしたとは認められず,樹脂注入面についての出願時の技術水準を誤って解釈した誤りがあるということもできない。
ウまた,審決は,本件発明1の進歩性の判断をするに際し,本件発明1と引用発明を比較し,引用発明はどちらの面から樹脂注入するのか明らかでないことを相違点として挙げ,引用文献たる甲1文献に記載のない樹脂注入面について,半導体素子の固定面と反対側から樹脂注入することが周知技術であることを示し,引用発明にこの周知技術を組み合わせることに動機付けとなる自明の課題(金属細線の変形や断線,短絡を防止すること)があり,その組み合わせに阻害要因となる格別の技術的困難性もないことから,本件発明1は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断したものであり,その判断に誤りはない。
エなお,下記の各文献には以下の記載があり,それによれば,引用発明1において,金属細線の変形や断線,短絡を防止することは自明の課題であることが認められる。
(ア)特開平1-157539号公報(発明の名称「リードフレームの樹脂封止用のトランスフア成型用金型」,出願人株式会社山田製作所,公開日 平成元年6月20日。甲27)・「・・・ワイヤボンディングはリードフレーム48の上面で行なわれるので、流れのエネルギーを持った溶融樹脂がリードフレーム48の上側からキャビティ18、26内に入って来るとそのエネルギでボンディングされたワイヤを変形させたり、ワイヤの断線の原因となることが有る。その点、ゲート36がリードフレーム48の下側に有れば直接溶融樹脂が最大のエネルギをもってワイヤと干渉することを防止可能となるのである。」(3頁左下欄19行〜右下欄8行)(イ) 特開昭63-143824号公報(発明の名称「成形金型」,出願人株式会社日立製作所,公開日 昭和63年6月16日。甲28)・「特許請求の範囲1半導体装置を成形封止するための上型と下型よりなる成形金型であって、上型と下型のうち半導体装置のボンディング・ワイヤを収納しない側の金型にキャビティのゲートを設けてな・・・る成形金型」(1頁左下欄5行〜12行)・「・・・キャビティ7のゲート8が流入ゲート8aも流出ゲート8bもボンディング・ワイヤ3を収納しない金型下型5に設けられているために、ゲート8からキャビティ7に流入した樹脂はそのキャビティ7を満たした後は、主にそのキャビティ7の流入ゲート8aおよび流出ゲート8bのある下型5部分、すなわち、ボンディング・ワイヤ3の無い側を通過することになる。
このようにして、キャビティ7のゲート8がボンディング・ワイヤ3を収納しない下型5部分に設けられているため、下流側のキャビティ7を満たすための多量の樹脂の流れによるワイヤ3への圧力を回避し、ワイヤ3の倒線や断線、さらには隣接するワイヤの相互接触を避けることができる。」(3頁右下欄15行〜第4頁左上欄8行)(ウ)特開昭60-9131号公報 (発明の名称「半導体装置の樹脂封止方法及び樹脂封止装置」,出願人富士通株式会社,公開日昭和60年1月18日。甲29)・「本実施例は、キャビティ36内に注入するゲート35を、第7図に示すように、リードフレーム17の下側、すなわち、ボンディングワイヤ19組付側の反対側に設け、ワイヤ19の下側から樹脂材料を加圧注入するように構成したものである。従って、注入された樹脂材料がワイヤ19を緊張させる方向(矢印E方向)に流れるので、ワイヤ19が変形されてワイヤ19同士又はワイヤ19と半導体チップが接触して短絡(ショート)する危険性が完全に防止される。」(4頁左下欄19行〜右下欄8行)(2) 相違点判断の誤り2(本件発明1の技術的思想の看過の誤り)につき原告は,引用発明1と周知技術を組み合わせた場合,本件発明1の技術思想から離れて構成のみに着目すれば,結果的に本件発明1が包含する構成の一つに類似する構成が得られるが,リードフレームの打ち抜きの方向がいずれであっても,抜きバリが形成されない打ち抜き面側から樹脂を注入させるという構成,すなわち本件発明1が本質とする技術的思想には決して到達することはないと主張する。
しかし,引用発明1は,前記のとおり「プレス打ち抜き面である裏面側に抜きダレを,反対面である表面側に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面である表面側にチップをダイボンディングする」ものであり,リードフレームの打ち抜きの方向がいずれであっても,「プレス打ち抜き面」がチップ搭載面の反対側となるから,引用発明1における「半導体素子の固着面と反対側(裏面側)」が「抜きバリが形成されない打ち抜き面側」となることは明らかである。そして,上記(1)のとおり,これに周知技術である「半導体素子の固着面と反対側(裏面)から樹脂注入すること」を組み合わせることに困難性はないから,かかる構成から抜きバリによる流動性低下という新規な課題の認識の有無にかかわらず,抜きバリが形成されない打ち抜き面側から樹脂を注入させるという構成,すなわち,原告において本件発明1の本質とする技術的思想に当業者が容易に想到し得ないものということはできない。
すなわち,前記のとおり,審決は,引用発明1にリードフレームの下面(半導体素子の固着面と反対側)から樹脂注入するという周知技術を組み合わせることに動機付けとなる自明の課題(金属細線の変形や断線,短絡を防止すること)があり,その組み合わせに阻害要因となる格別の技術的困難性もないことから,本件発明1は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものだと判断したものであるところ,本件発明1の発明者が抜きバリによる流動性低下という従前知られていなかった新規な課題を発見したとしても,本件発明1の構成自体は当業者が容易に想到し得たものと解されるから,想到容易性を否定した審決の判断に影響を及ぼさない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 相違点判断の誤り3(顕著な作用効果の看過)につき原告は,審決の作用効果についての判断は,本件発明1が有する課題及びその課題を解決したことによる作用効果を正当に評価せず,何らの根拠もなく「格別に顕著なものではない」と断じているもので,本件発明1の顕著な作用効果を看過した誤りがあると主張する。
しかし,本件発明1が新たな技術課題や作用効果の認識に基づくものであるとしても,本件発明1は,出願前に既に開示された引用発明1に,当業者に自明な周知・慣用技術を組み合わせただけの構成であることは,上記(1)(2)記載のとおりである。
また,本件発明1の作用効果としては,本件訂正後の明細書(特許公報〔甲30〕,全文訂正明細書〔甲31〕)には,前記のとおり,抜きダレを下面にするため樹脂の流動性が向上し,リードフレームに与える樹脂注入時の抵抗を低下させることができ,したがって,樹脂厚の薄いものでも良好にリードフレームを固定でき,不良を防止できることが記載されているが,これらの「樹脂の流動性が向上」,「樹脂注入時の抵抗を低下」及びその結果としての「樹脂厚の薄いものでも良好にリードフレームを固定でき,不良を防止できる」との効果は,抜きバリがリードフレームの表面に対して突起状に形成されることと,樹脂モールド工程において樹脂は流動体であることを考慮すれば,当業者が予期し得ない格別顕著なものということはできない。
よって,本件発明1の作用効果に関する原告の上記主張は採用することはできない。
(4) 小括以上によれば,本件発明1と引用発明1との相違点についての審決の判断に誤りはなく,また,同様に,本件発明2と引用発明2との相違点についての審決の判断に誤りはない。したがって,原告の主張する取消事由3は採用することができない。
5 結語以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 今井弘晃
裁判官 真辺朋子