全容
第1請求特許庁が不服2007-1151号事件について平成20年9月9日にした審決を取り消す。 第2事案の概要1本件は,原告が名称を「位置制御装置」とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判請求をするとともに,平成20年7月28日付けでも特許請求の範囲等を変更する手続補正をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。 2争点は,上記補正後の請求項1に係る発明(本願発明)が下記引用文献に記載された発明(引用発明)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。 記特開昭60-69301号公報(発明の名称「空気圧シリンダ装置」,出願人 A,公開日 昭和60年4月20日。以下,この文献を「引用文献」といい,これに記載された発明を「引用発明」という。甲1)第3当事者の主張1請求原因(1)特許庁における手続の経緯原告は,平成13年11月30日,名称を「位置制御装置」とする発明について特許出願(特願2001-367971号,請求項の数11。公開公報は特開2003-167629号〔甲4〕)をし,その後平成18年8月28日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正(第1次補正,甲13)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。 特許庁は,同請求を不服2007-1511号事件として審理し,その中で原告は平成19年2月2日付け(第2次補正,甲8)及び平成20年7月28日付け(第3次補正,請求項の数10,甲11,以下「本件補正」という。)でそれぞれ特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正をしたが,特許庁は,平成20年9月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年9月24日原告に送達された。 (2)発明の内容平成20年7月28日の本件補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1〜10から成るが,このうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は以下のとおりである。 ・【請求項1】シリンダのストロークを調整して位置を制御する位置制御装置において,前記シリンダのピストンの両側の部屋を連通させるように接続される絞りと,前記シリンダのストロークを検出する検出手段と,前記シリンダのピストンに対して有効断面積が大きい方の一方の部屋に接続される制御弁と,前記シリンダのストロークが所定の値でこのシリンダが停止するように前記検出手段の検出値に応じて前記制御弁を制御する制御手段と,を具備し,前記検出手段の検出出力がフィードバックされる前記制御手段によって前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御してストロークを目標値に一致させ,しかも前記絞りに流体を流すとともに,前記制御手段によって前記制御弁を通過する流体の量が前記絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによって前記シリンダを停止させてストロークを目標位置に維持することを特徴とする位置制御装置。 (3)審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。 その理由の要点は,本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許を受けることができない(特許法29条2項),というものである。 イなお,審決は,上記判断をするに当たり,引用文献に記載された発明(引用発明)の内容を以下のとおり認定した上,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を,次のとおりとした。 ・<引用発明の内容>「複動空気圧シリンダ17が結合されたアーム60,61の結合部によって構成される肘関節の関節部の角変位θを調整して肘関節角を制御するマニュピレータの肘関節角制御装置において,前記シリンダ17のピストン19の両側の部屋を連通させるように接続される第一の弁23と,前記関節部の角変位θを検出するポテンショメータと,前記シリンダ17のピストン19に対して有効面積が大きい方のヘッド側シリンダに接続される第二の弁24と,前記関節部の角変位θが所定の値で前記シリンダ17が停止するように前記ポテンショメータの検出値に応じて前記第一の弁23及び第二の弁24を制御する制御手段と,を具備し,前記ポテンショメータの検出出力がフィードバックされる前記制御手段によって前記第二の弁24の入力側及び前記第一の弁23の出力側が接続されたヘッド側シリンダの内圧Pを制御して関節部の角変位θを目標値に一致させ,前記第二の弁24の出口側は大気に開放され,前記第二の弁24の入力側及び前記第一の弁23の出力側が接続されたヘッド側シリンダの内圧Pを制御して肘関節角を目標値に一致させるマニュピレータの肘関節角制御装置。」・<一致点>本願発明と引用発明は,「シリンダのストロークを調整して位置を制御する位置制御装置において,前記シリンダのピストンの両側の部屋を連通させるように接続される弁と,変位を検出する検出手段と,前記シリンダのピストンに対して有効断面積が大きい方の一方の部屋に接続される制御弁と,前記変位が所定の値で前記シリンダが停止するように前記検出手段の検出値に応じて制御弁を制御する制御手段と,を具備し,前記検出手段の検出出力がフィードバックされる前記制御手段によって前記制御弁の入力圧を制御してストロークを目標値に一致させる位置制御装置。」である点で一致する。 ・<相違点1>本願発明では,検出手段はシリンダのストロークを検出するのに対して,引用発明では,検出手段は関節部の角変位θを検出する点。 ・<相違点2>本願発明では,シリンダのピストンの両側の部屋を連通させるようにした弁が絞りであり,制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御してストロークを目標値に一致させているのに対して,引用発明では,前記両側の部屋を連通させるようにした弁が第一の弁23であり,前記第一の弁23及び第二の弁24の二つの弁を制御して前記第二の弁24の入力側及び前記第一の弁23の出力側が接続された有効断面積が大きい方の一方の部屋の内圧Pを制御して,前記第二の弁24の出口側は大気に開放されて,前記内圧Pを制御して肘関節角を目標値に一致させている点。 ・<相違点3>本願発明では,絞りに流体を流すとともに,制御手段によって制御弁を通過する流体の量が前記絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによってシリンダを停止させてストロークを目標位置に維持するのに対して,引用発明では,そのことについて不明である点。 (4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下に述べるとおり誤りがあるので,違法として取り消されるべきである。 ア取消事由1(引用発明認定の誤り・相違点2についての認定判断の誤り)(ア)本願発明の動作aロッド12の左方への移動動作シリンダ10のA室に供給圧P を印加し,流量制御弁20を閉鎖sしてシリンダ10のピストン11に対してピストンロッド12が突出する部屋とは反対側の右側の部屋の内圧P をP とするものであっbsて,P =P となる。このとき,絞り16はその絞り量が固定されbsているために一定であって,シリンダ10のA室からB室に向かって一定量の流体の流れが生ずる。この場合,シリンダ10のピストン11に対して両側の部屋の圧力がともにP に維持されるために,ピスsトンロッド12が突出する方の部屋A室の有効断面積の方が反対側のB室の有効断面積よりも小さくなっており,ピストン11がB室の圧力による力によって押され,ピストンロッド12が左方に突出する。 bピストンロッド12の右方への移動動作シリンダ10のA室に供給圧P を印加し,流量制御弁20が開放sされ,B室の圧力P =0に維持される。このとき,絞り16は固定 b絞りであるため,一定量の流体が絞り16を通してA室からB室に流動している。この場合,シリンダ10のピストン11の右側のB室の圧力が流量制御弁20の開放動作によって低くなるために,A室に加えられる供給圧P による力によって,ピストン11が右方に移動し,sピストンロッド12がシリンダ10内に引き込まれる。 (イ)引用発明の動作aピストンロッドの突出し動作引用発明におけるピストンロッドを突き出させる動作は,第一の弁23を開いて供給圧P をロッド側ポート21とヘッド側ポート22oとにそれぞれ供給するとともに,第二の弁24を閉じて行う。これによってヘッド側シリンダ内圧Pが上昇する。そしてヘッド側シリンダ内圧Pが次第に高くなり,P A≦f +PA(P :ロッド側シリ o 1 oンダ内圧,A:弁座37の有効断面積,f :第一の弁23において 1磁極材38,40間に作用する電磁引力)の条件が成立すると,第一の弁23が閉じる。このように,第一の弁23のコイル39の電磁力f によって,ピストンロッド20が押し出されるストロークが調整1されるとともに,ピストンロッド20の押出し量が制御可能となるものである。ピストンロッド20が押し出されて所定のストロークになった場合には,第一の弁23が閉じられる。第二の弁24は予め閉じられているから,2つの弁23,24はともに押出し方向の目標位置で閉じられる。 bピストンロッドの引込み動作引用発明におけるピストンロッドの引込み動作は,第一の弁23を閉じて供給圧P をロッド側空間25のみに印加するとともに,第二oの弁24を開いてヘッド側空間26を大気開放することによって行う。 ヘッド側シリンダ内圧Pが次第に低下し,PA≦f (f :第二の22弁24における磁極材46,48間電磁引力)であるので第二の弁24が閉じる。このように,第二の弁24のコイル47の電磁力f に2よってピストンロッド20が引き込まれるストロークが調整されるとともに,ピストンロッド20の引込み量が制御可能となるものである。 ピストンロッド20が右方に引き込まれて所定のストロークになった場合には,第二の弁24が閉じられる。第一の弁23は予め閉じられているから,2つの弁23,24はともに引込み方向の目標位置で閉じられる。 (ウ)本願発明と引用発明の対比aピストンロッドの突出し動作引用発明におけるピストンロッドの突出動作は,「第二の弁24を閉じるとともに,検出手段の検出出力がフィードバックされる制御手段によって第一の弁23のコイル39の電流量を調整して第一の弁23の電磁力f を制御してストロークを目標値に一致させるとともに,1一致した状態で前記第一の弁23を閉じる」構成である。すなわち,第二の弁24を閉鎖した状態で第一の弁23が閉鎖されるときのヘッド側シリンダ内圧Pを調整することによって行われる。この動作は,本願発明の絞りに相当する第一の弁23によって制御をするものであって,本願発明の制御弁に当たる第二の制御弁24によって制御するものとは明らかに異なる。 bピストンロッドの引込み動作引用発明におけるピストンロッドの引込み動作は,「第一の弁23を閉じるとともに,検出手段の検出出力がフィードバックされる制御手段によって第二の弁24のコイル47の電流量を調整して第二の弁24の電磁力f を制御してストロークを目標値に一致させるととも2に,一致した状態で第二の弁24を閉じる」構成である。第一の弁23が閉じられており,第一の弁23が絞りとして機能していない。 (エ)引用発明の第一の弁23は絞りではないこと審決が相違点2について採る見解は,引用文献の2つの制御弁23,24のうち,第一の弁23を絞りとし,これによって本願発明の「シリンダのピストンの両側の部屋を連通させるように接続される絞り」は先行開示されているとするものである。 しかし,絞りとは,流体の流路に配され,微少な流体の流れを許容し,これによって流体の流動に対して抵抗を与えるデバイスである。一方,引用文献の第一の弁23は,「コイル39に電流を流すと,磁極材38と40との間に電磁引力が作用する結果,磁極材40が弁体41を弁座37に向かって押し,第一の弁23を閉じようとする。また,コイル39に電流を流さなければ,前記電磁引力は生じないので,第1の弁23は開かれる」電磁弁である。そして,一般に弁は,開弁時においては流体に対してできるだけ抵抗を生ずることなくその流動を許容するとともに,閉弁状態においては流体の流動を完全に遮断する機能を有するものであって,微少な流量を許容しながら抵抗を生ずる絞りとは明らかに相違するものである。 したがって,引用文献の第一の弁23は絞りではないから,本願の絞りには当たらない。 (オ)引用発明の第一の弁23は中間の開口量を発現できないこと審決は,第一の弁23について,「第一の弁23及び第二の弁24を,単なるオンオフ動作ではなく,それぞれのコイル39,47に流す電流の大きさを変えてヘッド側シリンダ内圧Pを調整することから,第一の弁23および第二の弁24の開口量を中間の値に保持できることは明らかである。」(8頁17行〜20行)と認定した。 しかし,「P A≦f +PA」(引用文献の3頁左下欄19行目の0 1(1)式)は,第一の弁23が閉じる条件である。したがって閉じる瞬間においては,「P A-f =PA」が成立する。よって,「P=P -0 1 0f /A」となる。上記の式から明らかなように,第一の弁23が閉じ 1るときの圧力Pがf に依存する。ここでf は,コイル39に電流を流 1 1したときに生ずる磁力である。すなわちコイル39に流れる電流によってこの弁23が閉じるときの圧力を調整できることが理解される。 同様に第二の弁24については,「PA≦f 」(引用文献の3頁右2下欄11行目の(2)式)の式によって閉じる条件が与えられる。よってシリンダ内圧Pが,P=f /Aの値になったときに閉じることになる。 2ここでf はコイル47に電流を流したときの電磁力である。したがっ 2て,第二の弁24が閉じる圧力は,コイル47に流す電流量によって調整される。 引用文献の「以上のことから明らかなように,ヘッド側シリンダ内圧Pは,第一の弁23のコイル39および第二の弁24のコイル47に流す電流の大きさにより制御できる。」との記載(3頁右下欄18行目〜4頁左上欄1行目)は,上記のような第一の弁23あるいは第二の弁24の閉弁時のシリンダ内圧Pが,コイル39あるいは47に流す電流量によって変更できることを述べているのである。 引用文献の第一の弁23は明らかに電磁弁であって,コイル39に流れる電流量に応じて生ずる電磁力f に応じたシリンダ内圧Pによって1閉弁動作を行うことになる。しかるに,このことは,第一の弁23および第二の弁24の開口量を中間の値に保持できることとは全く関係がなく,そのことを導き出す合理的な記載が引用文献には全く存在しない。 したがって,引用文献の上記記載をもとに,「第一の弁23および第二の弁24の開口量を中間の値に保持できることは明らかである。」とする審決の認定には誤りがある。すなわち,引用発明においては,ピストンロッド20を引き込む際は第一の弁23は閉じられ,ピストンロッド23を押し出す際は第一の弁23は全開状態であって,中間の開口量を保持する場面はなく,絞りとしての機能を果たしていない。 そして一般に,弁は,微少な一定流量を確保できる小さな開口量を発現できる場合に絞りに代替できるところ,引用発明の第一の弁23は中間の開口量を発現することはできないのであるから,引用文献には,本願発明の「前記シリンダのピストンの両側の部屋を連通させるように接続される絞り」に対応する構成は開示されていない。 イ取消事由2(相違点3についての判断の誤り)(ア)本願発明におけるストロークを目標値に維持する動作審決は,相違点3について,「制御弁を通過する流体の量が絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによってシリンダを停止させて目標位置に維持することは,前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによって目標値に一致させることと同じ位置制御について,別の面から表現したにすぎず,引用発明においても当然生じている機能にすぎない。」(7頁30行〜35行)と判断した。 しかし,本願発明の「制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによって目標値に一致させる」という第1の機能的構成は,ストロークが目標値に一致していない状態から目標値に一致している状態までの制御動作に関するものである。これに対して本願発明の「前記制御手段によって前記制御弁を通過する流体の量が前記絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによって前記シリンダを停止させてストロークを目標位置に維持する」第2の機能的構成は,ストロークが目標値に一致した後に,さらにその状態を維持するための制御動作であって,第1の機能的構成を別の面から表現したものではない。 以下,本願発明の上記第1の機能的構成について,本願の実施例に即して説明する。 本願明細書(公開公報,甲4)の図1において,位置センサ14が検出する現在のストロークがサーボアンプ18に印加される目標値との間に偏差がある場合には,上記第1の機能的構成によって,ストロークが目標値に一致するように制御される。すなわち位置センサ14によって検出されるシリンダ10のピストンロッド12のストロークが目標値からずれている場合には,サーボアンプ18が流量制御弁20を制御し,これによってシリンダ10のピストン11を左方あるいは右方に押し,ピストンロッド12を突き出させるか引き込む。ピストンロッド12が左方へ突出される制御動作は,本願明細書(甲4)の段落【0024】に記載された機能である。これに対してピストンロッド12を引き込む制御動作は,同段落【0025】に記載された機能である。このような機能によって,ピストンロッド12のストロークがサーボアンプ18に印加される目標値に一致するようになる。すなわち,本願発明の「前記検出手段の検出出力がフィードバックされる前記制御手段によって前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御してストロークを目標値に一致させ」る制御動作が行なわれる。これが正に第1の機能的構成である。 これに対して本願明細書(甲4)の図1におけるピストンロッド12のストロークがサーボアンプ18に印加される目標値と一致している場合には,第2の機能的構成によって,ピストンロッド12のストロークがその位置に維持されるための制御動作が行なわれる。このときの制御動作は,制御弁20を圧力制御弁とする場合には,本願明細書(甲4)の段落【0027】に記載の制御動作が行なわれ,これによってピストンロッド12が目標位置で停止した状態を維持する。これに対して制御弁20を流量制御弁として使用する場合には,段落【0028】に示す制御によって,ピストンロッド22が目標位置で停止した状態を維持する。そして,このような停止状態においてさらに偏差が発生した場合には,サーボアンプ18によって制御弁20を制御することにより偏差が補正され,ピストンロッド12の位置ストロークがより正確に目標値に一致させた状態で静止される。上記の動作が,本願発明の「前記制御手段によって前記制御弁を通過する流体の量が前記絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによって前記シリンダを停止させてストロークを目標位置に維持する」構成であって,これが正に第2の機能的構成である。 本願発明のシリンダ10のピストンロッド12のストロークがサーボアンプ18に加えられる目標値に対して偏差がある状態で,第2の機能的構成による制御動作が行なわれた場合には,ピストンロッド12がほぼ静止状態に維持されるために,ピストンロッド12のストロークを目標値に一致させるように矯正することができない。一方,ピストンロッド12のストロークがサーボアンプ18に加えられる目標位置に一致していて,サーボアンプ18で偏差を生じない場合に,第1の機能的構成による制御動作が行なわれると,目標値に一致しているピストンロッド12を左方へ突出移動させるか右方に引き込むことになり,これによって折角目標値に維持されているピストンロッド12のストロークを大きく狂わせてしまう。 したがって,上記の第1の機能的構成と第2の機能的構成とは,それぞれ別々の制御を行う機能的な構成である。すなわち第1の機能的構成と第2の機能的構成とは,同一の構成を別の面から表現したものではない。 (イ)引用発明におけるストロークを目標値に維持する動作a「PP (A -A )/Ao HR」(同4頁右上欄3行目)という式は,ロッド20が押し出されるよ Hうにピストン19が左方に移動する条件である。したがって,ピストン19が静止してロッド20のストロークが目標値に維持される条件は,「P=P (A -A )/A 」となる。 o HR Hb第二の弁24が閉じるときの圧力は,上記のとおり「P=f /A」 2である。この式を上記の式に当てはめると,「f /A=P (A -A 2 H o)/A 」となる。よって,「f =P (A -A )・A/A 」の式 R H 2 HR H oが,第二の弁24が閉じるときのコイル47の電磁力f を表している。 2したがって,このような電磁力f を生ずるような値にコイル47の電 2流値を調整することによって,ピストン19のロッド20が目標のストロークとなった状態で第二の弁24が閉じられる。なお,このときに第二の弁24を開放しておくと,第二の弁24の出口ポート51が大気開放されているため(引用文献2頁右下欄8〜9行目),シリンダ内圧Pが0になってピストン19は供給圧P によってシリンダ17の右端にo移動し,位置制御が成立しない。 cところが第二の弁24をこのように閉じてしまうとともに,第一の弁23を絞りとして開放状態に維持しておくと,供給圧P が直接ピストoン19に対して左側の部屋(断面積A )に作用するとともに,絞りを R構成する第一の弁23を通してピストン19の右側の部屋(断面積A)に加わる。ピストン19の両側の圧力がともにP に等しい場合にH oは,その両側の断面積がA >A の関係にあるために,ピストン19が HR左方に押され,ロッド20は左方に突出される。したがって,ピストン19あるいはロッド20を目標位置に維持するためには,第一の弁23も閉じなくてはならない。すなわち第一の弁23,第二の弁24を備えるシリンダ17は,静止状態でしかもダイナミックバランスによってその目標位置にストロークを維持することは不可能である。 d以上のとおり,引用発明において,シリンダ17の出力ストロークが目標位置に一致した後においては,第一の弁23と第二の弁24とがともに閉じられ,これによってロック状態に維持されるのであって,目標位置に一致した後にダイナミックバランスによってそのストロークをフィードバック制御するものではない。そして,目標値に達した後にさらに目標値に一致させる制御動作を行うとすれば,一対の電磁弁23,24の互いに逆の交互の開放と閉鎖の動作を繰返すことになる。 (ウ)ダイナミックバランスによる技術的優位性本願発明においては,「前記制御手段によって前記制御弁を通過する流体の量が前記絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによって前記シリンダを停止させてストロークを目標位置に維持する」第2の機能的構成によると,フィードバック制御から成るダイナミックバランスによってシリンダのストロークを目標位置に維持させることが可能になる。したがって,外乱等によって目標位置にずれが生じても,このようなずれは上記のダイナミックバランスによるフィードバック制御によって瞬時に是正され,これによって外乱に対する対応力に優れ,高精度の位置決めを達成することができるという,引用文献に全く開示されていない優れた作用効果を奏する。 審決は,本願発明の顕著な作用効果を看過したものである。 2請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。 3被告の反論審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。 (1)取消事由1に対しア「(エ)引用発明の第一の弁23は絞りではないこと」につき審決は,引用文献に記載された「第一の弁23」を「絞り」に当たるとしているのではなく,引用文献に記載された「第一の弁23」を「絞り」等とともにそれらの共通の上位概念である「弁」としているのであって,原告の主張は審決を正解しないものである。 また,空気圧及び油圧の「絞り弁」は,「圧力制御弁」や「流量制御弁」とともに「弁」に含まれ,固定絞り形と可変調整形のものがあることは技術常識であり,審決の認定に誤りはない。 イ「(オ)引用発明の第一の弁23は中間の開口量を発現できないこと」につき引用発明は,第一の弁23及び第二の弁24のそれぞれのコイル39,47に流す電流の大きさを変えてヘッド側シリンダ内圧Pを調整するものである。このことは,引用文献(甲1)において,具体的な制御の説明として,「・・・この関節角のフィードバック制御を理論的に解析する。 まず,各変数を以下のように設定する。P :供給圧〔kg/cm 〕,o2P:ヘッド側シリンダ内圧〔kg/cm 〕,A :ピストンヘッド断面積2H〔cm 〕,A :ピストンロッド断面積〔cm 〕,V:ヘッド側シリン2 2Rダ容積〔cm 〕(線形化するため一定値とする),A:弁座37,453の開口断面積〔cm 〕,gi,go:第一の弁23および第二の弁24にお2ける流量〔kg/sec〕,vi,vo:第一の弁23および第二の弁24への供給電圧〔V〕,fi,fo:第一の弁23および第二の弁24の絞り力〔kg〕,Cf:第一の弁23および第二の弁24の弁部の流量抵抗係数〔sec〕,J:肘部の慣性モーメント〔kg・cm・sec /rad〕,B:肘部の粘性制動2係数〔kg・cm・sec/rad〕,Kc:肘部の等価バネ定数〔kg・cm/rad〕,θ:関節部の角変位〔rad〕(第5図において(A)方向),α:0〜1(θの値により変化),R:結合軸62,65間の距離〔cm〕次に,第一の弁23および第二の弁24については,fi=Kvvi,fo=Kvvo…(4)と仮定できる(Kvは比例定数)。また,流量についての関係式は,gi=(P A-fi-PA)/Cf…(5),go=(PA-foo)/Cf…(6)と求められる。」(4頁左下欄16行〜5頁左上欄10行)と記載されている。 上記の式(4)は,第一の弁23及び第二の弁24への供給電圧に比例して第一の弁23及び第二の弁24の絞り力が定まることを示しており,式(5)及び式(6)は第一の弁23及び第二の弁24の流量gi,goが絞り力fi,foの変化に応じて変化することを示しているのであるから,第一の弁23及び第二の弁24は,単なるオンオフ動作だけの開閉弁ではなく,供給電圧に比例した中間の開口量に保持できるものであることは明らかである。 したがって,原告の主張は誤りである。 そして,上記(ア)のとおり,絞り弁には,固定絞り形と可変調整形のものがあることは技術常識であるから,審決は,引用文献に記載された二つの制御弁23,24のうちの第一の弁23を絞りに代えることは当業者であれば容易に想到し得た事項としたものであって,誤りはない。 なお,制御弁を絞りに代えることに関して,本願明細書(甲4)の段落【0037】にも,「図7はさらに別の実施の形態を示している。この実施の形態はエアシリンダ10のピストン11の両側の部屋を連通させる絞りを流量制御弁21から構成するとともに,エアシリンダ10のピストン11の後側の部屋すなわちB室から空気を逃がす絞りを流量制御弁20から構成している。・・・」と,シリンダに接続された絞りは流量制御弁に代替できるものであることが記載されている。 (2)取消事由2に対しア「(ア)本願発明におけるストロークを目標値に維持する動作」につき本願明細書(甲4)の段落【0033】に記載されているように,本願発明は,「目標値と位置センサ14による検出値との比較に基く差信号を制御弁20に供給することによって,シリンダ10のB室の圧力を制御するか制御弁20を通って放出される空気量を調整することにより,シリンダ10のピストンロッド12の突出量を目標値に合わせて停止させることができ,これによってピストンロッド12による位置制御が行われる」ものである。すなわち,本願発明は,ピストンロッド12に設けられた被検出子15の位置に基づいた信号に応じて制御弁20を流れる流量を制御するだけのものであって,段落【0024】,【0025】,【0028】は動作原理ではなく,制御弁20を流れる流量を制御した結果を表現したものにすぎないのである。 そして,原告のいう「前記制御手段によって前記制御弁を通過する流体の量が前記絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによって前記シリンダを停止させてストロークを目標値に維持する」構成は,ストロークが目標値に達成した後に,その位置でストロークを静止状態で維持するための制御であるが,その制御は上記したとおり制御弁20を流れる流量を制御した結果である。 一方,引用発明において「前記第二の弁24の入力側及び前記第一の弁23の出力側が接続されたヘッド側シリンダの内圧Pを制御して関節部の角変位θを目標値に一致させ,前記第二の弁24の出口側は大気に開放され,前記第二の弁24の入力側及び前記第一の弁23の出力側が接続されたヘッド側シリンダの内圧Pを制御して肘関節角を目標値に一致させる」点は,ストロークを目標値に一致させるための移動の制御だけではなく,その後の制御を含むものである。そして,目標値に一致した後の制御弁の制御は,ストロークを目標値からずれないように制御しなければならないのであるから,ピストンやシリンダに加わる負荷が一定であると仮定するならば,2つの制御弁を通過する流体の量を等しくしなければならないことは明らかである。 したがって,「制御弁を流れる流量を制御することによって目標値に一致させる」制御の一部,すなわち,目標値に一致した後の制御弁の制御を制御弁を流れる流体の量で表現すると「制御弁を通過する流体の量が絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御する」ことととなる。 してみると,審決の「制御弁を通過する流体の量が絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによってシリンダを停止させて目標位置に維持することは,前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによって目標値に一致させることと同じ位置制御について,別の面から表現したにすぎず」とした判断に誤りはない。 イ「(イ)引用発明におけるストロークを目標値に維持する動作」につき上記(ア)のとおり,引用文献に記載された第一の弁23及び第二の弁24は,単なるオンオフ動作ではなく,開口量を中間の値に保持できるものであって,原告の主張は前提において誤っている。 そして,引用文献(甲1)には「ピストン19の両側に圧力をかけた状態で,シリンダ17を動作させることができるので,位置制御を行う場合において,オーバーシュートを少なくすることができる。」(4頁右上欄11〜14行)こと,及び,「空気圧シリンダ装置を用いてサーボ系を構成し,マニュピレータの肘関節角のフィードバック制御を行った」(4頁右上欄15〜17行)ことが記載されていることから,引用文献に記載された発明はフィードバック制御するものであることは明らかである。 したがって,原告の主張は誤りである。 ウ「(ウ)ダイナミックバランスによる技術的優位性」につき上記のとおり,引用発明はフィードバック制御により位置制御するものであるから,目標位置とのずれをなくすように動作するものであることは明らかである。 したがって,本願発明の奏する効果は,引用発明から十分予測できるものである。 また,本願発明において,実際には,ピストンロッド12には負荷が加わり,この負荷は通常変動するものである。ところが,ピストンロッド12に加わる負荷が変動する場合,原告の主張するように,絞り16を流れる流量と制御弁20を流れる流量が同じになるように制御したのでは,ピストンロッド12の位置を目標位置に維持することができない。 エまとめ以上のとおり審決における引用発明の認定及び相違点3についての判断に誤りはない。 第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 そこで,以下原告主張の取消事由について検討する。 2取消事由1(引用発明認定の誤り・相違点2についての認定判断の誤り)について(1)本願発明の意義ア本件補正後の明細書(公開特許公報〔甲4〕,平成19年2月2日付け手続補正書〔甲8〕,平成20年7月28日付け手続補正書〔甲11〕)には,以下の記載がある。 ・【発明の属する技術分野】「本発明は位置制御装置に係り,とくにシリンダのストロークを調整して位置を制御する位置制御装置に関する。」(甲4,段落【0001】)・【従来の技術】「各種の生産システムにおいて,ワークや部品等の対象物を所定の位置に位置決めするために位置制御装置が広く用いられている。最も一般的な位置制御装置は,ボールねじとサーボモータとを組合わせたものであって,サーボモータによってボールねじを回転させることにより軸線方向に移動させるものである。」(甲4,段落【0002】)・「このようなボールねじによる位置制御に代えて,流体圧による位置制御として,位置サーボ弁を用いる方法や,圧力制御弁を用いる方法等が提案されている。」(甲4,段落【0003】)・【発明が解決しようとする課題】「従来のボールねじとサーボモータとの組合わせによる位置制御装置に代えて用いられる流体圧による位置制御装置は,上述の如く位置サーボ弁や圧力制御弁を用いるものであるが,何れも複雑な構造であって,しかもコンポーネントを構成する部品が高価であるために,システム自体のコストも増大する傾向にあった。(甲4,段落【0004】)・「本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって,極めて単純な構成でありながらしかも高精度の位置決めを低コストで可能にする位置決め装置を提供することを目的とする。」(甲4,段落【0005】)・【課題を解決するための手段】「本願の主要な発明は,シリンダのストロークを調整して位置を制御する位置制御装置において,前記シリンダのピストンの両側の部屋を連通させるように接続される絞りと,前記シリンダのストロークを検出する検出手段と,前記シリンダのピストンに対して有効断面積が大きい方の一方の部屋に接続される制御弁と,前記シリンダのストロークが所定の値でこのシリンダが停止するように前記検出手段の検出値に応じて前記制御弁を制御する制御手段と,を具備し,前記検出手段の検出出力がフィードバックされる前記制御手段によって前記制御弁の入圧力または該制御弁を流れる流量を制御してストロークを目標値に一致させ,しかも前記絞りに流体を流すとともに,前記制御手段によって前記制御弁を通過する流体の量が前記絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入圧力または該制御弁を流れる流量を制御することによって前記シリンダを停止させてストロークを目標位置に維持することを特徴とする位置制御装置に関するものである。」(甲11,段落【0006】)・【発明の実施の形態】「以下本願発明を第1の実施の形態によって説明する。図1はこの実施の形態のシステムの全体の構成を示している。この装置は出力を生ずるエアシリンダ10を供えている。そしてこのエアシリンダ10内にはピストン11が摺動可能に配されるとともに,このピストン11にピストンロッド12が左方に延出されている。すなわちピストンロッド12はエアシリンダ11の例えば左方の壁から突出しており,この突出された先端部を利用して位置制御を行うようにしている。」(甲4,段落【0013】)・「エアシリンダ10の外周上にはブラケット13を介して位置センサ14が取付けられている。この位置センサ14は例えばリニアポテンショメータ等から構成され,ピストンロッド12の先端側の部分に取付けられている被検出子15を検出するようになっている。図2はこのような位置センサ14のストロークに対する抵抗値の変化を示している。また上記エアシリンダ10のピストン11に対してその両側の部屋を連通させるように固定絞り16が設けられている。」(甲4,段落【0014】)・「次にこの位置制御装置の制御系について説明する。この制御系はサーボアンプ18から構成されるとともに,サーボアンプ18には目標値のストロークと位置センサ14によって検出される検出値とが入力されるようになっている。そして上記サーボアンプ18の偏差の出力によって流量制御弁20を制御するようにしている。」(甲4,段落【0015】)・「次にこの位置制御装置の動作原理を説明する。今シリンダ10のピストン11の左側のA室には供給圧Pが印加され,この力によってピsストン11が右方,すなわちピストンロッド12を後退させるように作用する力Fa が発生する。この力Fa は,Fa =P・(D-d)sこれに対してシリンダ10のピストン11の右側の部屋の圧力Pに bよって発生する力は,ピストンロッド12を押出すように働く力である。 この力をF とすると,bF=P・Dとなる。ここでPはシリンダ10のB室に印加され bb bる圧力である。」(甲4,段落【0023】)・「ここでシリンダ10のB室に接続されている流量制御弁20を閉鎖すると,P=Pとなり,このためにピストン11が受ける力dFは,bsdF=F-F=P・d basとなる。つまりP・dの力によってピストン11が押されてピスト sンロッド12が左方に突出する。」(甲4,段落【0024】)・「次に流量制御弁20を開放すると,ピストン11の右側のB室の圧力が減圧され,ピストン11が受ける力dFは,dF=F-F=-{(P-P)・D-P・d}ba sb sとなる。つまり(P-P)・D-P・dの力によってピストン sb s11は右方に後退し,ピストンロッド12がシリンダ10の内部に引込まれる。(甲4,段落【0025】)・「上記流量制御弁20の内部流量抵抗(面積)をRとし,この抵抗1値を絞り16の流量抵抗(面積)Rに比べて十分に大きな値とし, 0すなわちR>>Rとすると,スタティック状態では,流量制御弁 1020の出力ポートが大気開放されているために,P?垂Obとなる。またD=2dとすると,力dFは,P=0であるから, bdF=-P・d sとなる。(甲4,段落【0026】)・「エアシリンダ10のピストンロッド12が停止するための条件は,ab F=Fつまり P・(D-d)=P・Ds bよって P=P(1-d/D) bsD=2dとすると,P=P/2となる。すなわち制御弁20を圧 bsbs 力制御弁として使用する場合には,D=2dを条件としてP=P/2となるように制御すれば,シリンダ10のピストンロッド12はほぼ停止する。(甲4,段落【0027】)・「制御弁20を流量制御弁とする場合には,以下のような条件でピストンロッド12が停止する。流量制御弁20の入力ポート36から出力ポート39に流れる流量をQとし,温度変化を無視すると,11/2Q=R(P)11 bこれに対してシリンダ10に接続された絞り16から成る抵抗R を流 0れる流量をQとすると, 21/2Q=R{(P-P)}2 osbピストンロッド12が停止する条件はQ=Qであるから, 121/2 1 /2R(P)=R{(P-P)} 1 b 0 sb1/2よって R=R{(P-P)/P} 10 sbbD=2dを条件としてP=P/2となるR は, bs 1R=R つまり流量制御弁20の開度Rをエアシリンダ10に設 10 1けられた絞り16の抵抗Rと等しくすることによって,シリンダ1 00のピストンロッド12がほぼ停止する。実際の停止位置と目標値との間に偏差が発生した場合には,サーボアンプ18によってさらに偏差を補正し,補正位置と目標値とを一致させればよい。(甲4,段落【0028】)・「次に流量制御弁20の動作を説明する。図3に示す流量制御弁20の入力ポート36がシリンダ10のB室に接続され,B室の圧力Pがb印加される。これに対してこの流量制御弁20の出力ポート39は大気開放される。そしてこの制御弁20のフォースモータ34のコイル66の部分にサーボアンプ18からの信号によって電流が流れ,フラッパ60とノズル45との間の隙間を調整し,これによってシリンダ10のB室の圧力Pあるいはこの制御弁20を入力ポート36から出力ポーbト39を通って流れる流量を制御する。」(甲4,段落【0029】)・「このような動作原理によって,サーボアンプ18によって出力される信号であって目標値と位置センサ14による検出値との比較に基く差信号を制御弁20に供給することによって,シリンダ10のB室の圧力を制御するか制御弁20を通って放出される空気量を調整することにより,シリンダ10のピストンロッド12の突出量を目標値に合わせて停止させることができ,これによってピストンロッド12による位置制御が行なわれる。このような位置制御装置は,図1に示すように極めて単純な方法であって,しかもサーボ制御を行っているために高い精度の位置決めが可能になる。また主たる構成部品はエアシリンダ10とフォースモータ34を組込んだ制御弁20であるから,低コストの位置制御装置が提供される。」(甲4,段落【0033】)・図面【図1】 第1の実施の形態の位置制御装置の構成を示すブロック図イ上記記載によれば,本願発明は,シリンダのストロークを調整して位置を制御する位置制御装置に関するものであり,単純な構成でありながら高精度の位置決めを低コストで可能にする位置決め装置を提供することを目的とし,その解決手段として,シリンダのピストンの両側の部屋を連通させるように接続される絞りと,シリンダのストロークを検出する検出手段と,シリンダのピストンに対して一方の部屋に接続される制御弁と,シリンダのストロークが所定の値でこのシリンダが停止するように検出手段の検出値に応じて制御弁を制御する制御手段とを具備するものであることが認められる。 (2)引用発明の意義ア引用文献(甲1)には,以下の記載がある。 ・「本発明は,空気圧シリンダおよびこの空気圧シリンダの動作を制御する弁等からなる空気圧シリンダ装置に関する。」(1頁左下欄下5行〜下3行)・「マニピュレータの駆動源として空気圧を利用することは,圧力フィードバックが簡単に得られるので,バイラテラル制御で圧力制御を行うのに有利である。また,機器の取り扱いが容易であるとともに,油圧装置の場合のように油による汚染の虞がなく清潔であるという利点もある。 しかし,空気の圧縮性や摩擦等の非線形要素が大きいため,従来は,このようにマニピュレータの駆動源として空気圧を利用する場合には,位置制御や速度制御が困難であるとされていた。 そして,これまで,マニピュレータを空気圧で駆動するため,オン・オフ弁を用いてピストンロッドに機械的にブレーキをかける方式や,PWM方式,PFM方式等が研究されており,ノズルフラッパ方式の空気圧サーボ弁も実用化されているが,これらの方式は,いずれも装置の構造が複雑となって大型化し,コストが高くなるという欠点があり,このことは,特にマニピュレータを多自由化しようとする場合には大きな支障となっていた。」(1頁左下欄下2行〜右下欄下3行)・「本発明は,上述のような事情に鑑みてなされたもので,従来より著しく小型化,低価格化が可能な空気圧シリンダ装置を提供することを目的とする。」(1頁右下欄下2行〜2頁左上欄2行)・「ここにおいて,本発明による空気圧シリンダ装置は,ピストンの両側の有効面積に差を設けられた複動空気圧シリンダを2つの弁によって制御することにより,上述の目的を達成するものである。」(2頁左下欄9行〜12行)・「第3図において,17は複動空気圧シリンダであり,シリンダチューブ18,ピストン19,ピストンロッド20,ロッド側ポート21,およびヘッド側ポート22等を有してなる。ここで,この複動空気圧シリンダ17のピストン19の両側の有効面積は異なる。すなわち,ピストン19のヘッド面19aの断面積をA ,ロッドの断面積をA とすると,H Rピストン19のロッド側面19bの断面積は(A -A)となってい HRる。 前記ロッド側ポート21は,供給圧P を供給する空気圧源(図示せoず)および第一の弁23の入口側に接続されている。また,ヘッド側ポート22は第一の弁23の出口側および第二の弁24の入口側に接続されている。そして,第二の弁24の出口側は大気に開放されている。 第4図は前記第一の弁23および第二の弁24の詳細を示す断面図であり,本実施例では,第一の弁23および第二の弁24の両方が同一のケース31内に組み込まれている。次に,これについて説明する。 ・・・この供給圧管35の中空部は供給圧通路36を形成しており,該通路36は前記空気圧源およびシリンダ17のロッド側ポート21に接続されている。・・・本実施例では,前記供給圧通路36,弁座37,磁極材38,コイル39,磁極材40および弁体41等によって第一の弁23が構成されている。・・・本実施例では,前記放圧孔44,弁座45,磁極材46,コイル47,磁極材48および弁体49等によって第二の弁24が構成されている。 また,前記ケース31には,第一の部屋33に連通される出力圧口50と,第二の部屋34に連通される開口51とが設けられている。そして,前記出力圧口50はシリンダ17のヘッド側ポート22に接続され,開口51は大気に開放されている。」(2頁左下欄15行〜3頁右上欄15行)・「まず,第一の弁23および第二の弁24の作動を説明する。 第一の弁23(第二の弁24)において,コイル39(47)に電流を流すと,磁極材38と40との間(磁極材46と48との間)に電磁引力が作用する結果,磁極材40(48)が弁体41(49)を弁座37(45)に向って押し,第一の弁23(第二の弁24)を閉じようとする。また,コイル39(47)に電流を流さなければ,前記電磁引力は生じないので,第一の弁23(第二の弁24)は開かれる。 ・・・以上のことから明らかなように,ヘッド側シリンダ内圧Pは,第一の弁23のコイル39および第二の弁24のコイル47に流す電流の大きさにより制御できる。 さて,この空気圧シリンダ装置においては,上述のようにして,第一の弁23および第二の弁24によりヘッド側シリンダ内圧Pを調整することにより,空気圧シリンダ17を動作させる。・・・ここにおいて,このシリンダ装置では,2個の弁23,24のみを用いてシリンダ17を制御するので,構造が極めて簡単となり,従来より著しく小型化,低価格化が可能となるとともに,制御も容易になる。 また,ピストン19の両側に圧力をかけた状態で,シリンダ17を動作させることができるので,位置制御を行う場合において,オーバーシュートを少なくすることができる。」 (3頁右上欄17行〜4頁右上欄14行)・「次に,本発明による空気圧シリンダ装置を用いてサーボ系を構成し,マニュピレータの肘関節角のフィードバック制御を行った実施例を説明する。 第5図において,アーム60および61は,結合軸62を介して回動自在に結合されている。17は第3図に示した複動空気圧シリンダと同じものであり,この図には図示していないが,前記第4図に示した第一の弁23および第二の弁24,並びに空気圧源に前記実施例の場合と全く同様に接続されている。 そして,前記シリンダ17のピストンロッド20の先端部は,アーム61の中間部に結合軸65を介して回動自在に結合されている。また,前記シリンダ17のシリンダチューブ18はバー63の一端部に結合軸64を介して回動自在に結合され,該バー63の他端部はアーム60の中間部に結合軸66を介して回動自在に結合されている。 したがって,ピストンロッド20が押し出されると,アーム60,61の結合部によって構成される肘関節は開かれる一方,ピストンロッド20が引き込まれると,前記関節は閉じられる。」 (4頁右上欄15行〜左下欄15行)・「次に,この関節角のフィードバック制御を理論的に解析する。 まず,各変数を以下のように設定する。 P :供給圧〔kg/cm 〕o2P:ヘッド側シリンダ内圧〔kg/cm 〕2A :ピストンヘッド断面積〔cm 〕 H2A :ピストンロッド断面積〔cm 〕 R2V:ヘッド側シリンダ容積〔cm 〕3(線形化するため一定値とする。)A:弁座37,45の開口断面積〔cm 〕2gi,go:第一の弁23および第二の弁24における流量〔kg/sec〕vi,vo:第一の弁23および第二の弁24への供給電圧〔V〕fi,fo:第一の弁23および第二の弁24の絞り力〔kg〕Cf:第一の弁23および第二の弁24の弁部の流量抵抗係数〔sec〕J:肘部の慣性モーメント〔kg・cm・sec /rad〕2B:肘部の粘性制動係数〔kg・cm・sec/rad〕Kc:肘部の等価バネ定数〔kg・cm/rad〕θ:関節部の角変位〔rad〕(第5図において(A)方向)α:0〜1(θの値により変化)R:結合軸62,65間の距離〔cm〕」(4頁左下欄16行〜5頁左上欄2行)・「次に,第一の弁23および第二の弁24については,fi=Kvvi,fo=Kvvo…(4)と仮定できる(Kvは比例定数)。また,流量についての関係式は,gi=(PoA-fi-PA)/Cf…(5)go=(PA-fo)/Cf…(6)と求められる。さらにヘッド側シリンダ内圧Pの時間的変化は,気体の状態方程式より,dP/dt=K(gi-go)/V…(7)という関係がある(ただし,Kは比例定数)。ピストンヘッドに作用する力Fは,既に述べたように(3)式で示されるから,肘部運動方程式は,Rα{Po(A -A )-PA}HR H=J(d θ/dt )+B(dθ/dt)+Kcθ…(8)22と表せる。以上,(4)〜(8)式をブロック線図に示したものが第6図の破線で囲った部分である。」 (5頁左上欄3行〜20行))・「以上の解析により得られた機械的な系より,協調制御を行うために角度系を構成したものが第6図である。同図において,V はマスター設M定電圧,H ,H は電気的な補償要素,Doはバイアス電圧,Kfはポ 12テンショメータのフィードバックゲインである。同図H ,H は,圧 12力制御における補償と同じである。」(5頁右上欄1行〜7行)本発明による空気圧シリンダ装置の一実施例を示す概略断面図 ・【第3図】前記実施例における第一の弁および第二の弁の詳細を示す断面図 【第4図】【第5図】前記実施例による空気圧シリンダ装置を用いて構成された,マニピュレータの肘関節角を制御するサーボ系の機械的部分を示す概略構成図【第6図】前記サーボ系において圧力フィードバックループを設けない場合のブロック線図【第7図】前記サーボ系において圧力フィードバックループを設けた場合のブロック線図イ上記記載によれば,引用発明は,空気圧シリンダ及びこの空気圧シリンダの動作を制御する弁等から成る空気圧シリンダ装置に関するものであり,ピストンの両側の有効面積に差を設けられた複動空気圧シリンダを2つの弁によって制御することにより,従来より小型化,低価格化が可能な空気圧シリンダ装置を提供することを目的とするものであることが認められる。 (3)原告の主張「(エ)引用発明の第一の弁23は絞りではないこと」につき原告は,引用発明の第一の弁23について,「第一の弁23において,コイル39に電流を流すと,磁極材38と40との間に電磁引力が作用する結果,磁極材40が弁体41を弁座37に向って押し,第一の弁23を閉じようとする。また,コイル39に電流を流さなければ,前記電磁引力は生じないので,第一の弁23は開かれる。」電磁弁であって,絞りではないと主張する。 しかし,油圧又は空気圧制御技術において,弁は,その機能面から圧力制御弁,流量制御弁及び方向制御弁に大別され,そのうち流量制御弁の一形態として絞り弁が類別される(機械工学便覧,乙1)。そして,審決は,「引用発明における『第一の弁23』は,『弁』である限りにおいて,本願発明の『絞り』と共通している。」としており(審決6頁5行〜7行),引用発明の第一の弁23を絞りであるとしているのではなく,絞りを含む共通の上位概念である「弁」である限りにおいて,本願発明の「絞り」と共通していると認められる。 そうすると,原告の上記主張は,審決を正解しないものであるから認めることができない。 (4)原告の主張「(オ)引用発明の第一の弁23は中間の開口量を発現できないこと」につきア原告は,引用発明において,第一の弁23を中間の値に保持することはできず,ピストンロッド20を引き込む際は第一の弁23は閉じられ,ピストンロッド20を押し出す際は第一の弁23は全開状態であって,中間の開口量を保持する場面はなく,絞りとしての機能を果たしていないと主張する。 イしかし,引用文献(甲1)には以下の記載がある。 ・「次に,本発明による空気圧シリンダ装置を用いてサーボ系を構成し,マニュピレータの肘関節角のフィードバック制御を行った実施例を説明する。 第5図において,アーム60および61は,結合軸62を介して回動自在に結合されている。17は第3図に示した複動空気圧シリンダと同じものであり,この図には図示していないが,前記第4図に示した第一の弁23および第二の弁24,並びに空気圧源に前記実施例の場合と全く同様に接続されている。 そして,前記シリンダ17のピストンロッド20の先端部は,アーム61の中間部に結合軸65を介して回動自在に結合されている。また,前記シリンダ17のシリンダチューブ18はバー63の一端部に結合軸64を介して回動自在に結合され,該バー63の他端部はアーム60の中間部に結合軸66を介して回動自在に結合されている。 したがって,ピストンロッド20が押し出されると,アーム60,61の結合部によって構成される肘関節は開かれる一方,ピストンロッド20が引き込まれると,前記関節は閉じられる。」(4頁右上欄15行〜左下欄15行)・「次に,この関節角のフィードバック制御を理論的に解析する。 まず,各変数を以下のように設定する。 Po:供給圧〔kg/cm2〕P:ヘッド側シリンダ内圧〔kg/cm 〕2A:ピストンヘッド断面積〔cm 〕 H2A:ピストンロッド断面積〔cm 〕 R2V:ヘッド側シリンダ容積〔cm 〕3(線形化するため一定値とする。)A:弁座37,45の開口断面積〔cm 〕2gi,go:第一の弁23および第二の弁24における流量〔kg/sec〕vi,vo:第一の弁23および第二の弁24への供給電圧〔V〕fi,fo:第一の弁23および第二の弁24の絞り力〔kg〕Cf:第一の弁23および第二の弁24の弁部の流量抵抗係数〔sec〕J:肘部の慣性モーメント〔kg・cm・sec /rad〕2B:肘部の粘性制動係数〔kg・cm・sec/rad〕Kc:肘部の等価バネ定数〔kg・cm/rad〕θ:関節部の角変位〔rad〕(第5図において(A)方向)α:0〜1(θの値により変化)R:結合軸62,65間の距離〔cm〕」(4頁左下欄16行〜5頁左上欄2行)・「次に,第一の弁23および第二の弁24については,fi=Kvvi,fo=Kvvo…(4)と仮定できる(Kvは比例定数)。また,流量についての関係式は,gi=(PoA-fi-PA)/Cf…(5)go=(PA-fo)/Cf…(6)と求められる。さらにヘッド側シリンダ内圧Pの時間的変化は,気体の状態方程式より,dP/dt=K(gi-go)/V…(7)という関係がある(ただし,Kは比例定数)。ピストンヘッドに作用する力Fは,既に述べたように(3)式で示されるから,肘部運動方程式は,Rα{Po(A -A )-PA}HR H=J(d θ/dt )+B(dθ/dt)+Kcθ…(8)22と表せる。以上,(4)〜(8)式をブロック線図に示したものが第6図の破線で囲った部分である。」 (5頁左上欄3行〜20行)・「以上の解析により得られた機械的な系より,協調制御を行うために角度系を構成したものが第6図である。同図において,V はマスター設定電M圧,H ,H は電気的な補償要素,Doはバイアス電圧,Kfはポテンシ12ョメータのフィードバックゲインである。同図H ,H は,圧力制御に 12おける補償と同じである。」(5頁右上欄1行〜7行)・「そこで,圧力のマイナーフィードバックループを設けてヘッド側シリンダ内圧Pの安定化を試みた。その制御システムを第7図に示す。」(5頁右上欄14〜16行)ウ上記イにおける式(4)からは,第一の弁23への供給電圧vi及び第二の弁24への供給電圧voの大きさにより,第一の弁23の絞り力fi及び第二の弁24の絞り力foが定まることが分かる。そして,式(5)及び(6)から,第一の弁23の流量gi及び第二の弁24の流量goが絞り力fi及びfoの大きさに応じて定まることが分かる。 このように,第一の弁23への供給電圧vi及び第二の弁24への供給電圧voの大きさに応じて,第一の弁23の流量gi及び第二の弁24の流量goが定まるものであるから,第一の弁23及び第二の弁24は,その供給電圧に比例した中間の開口量を発現できるものであり,流量制御弁であると解するのが合理的である。そうすると,引用文献(甲1)からは,「前記第一の弁23及び第二の弁24の二つの弁を制御して前記第二の弁24の入力側及び前記第一の弁23の出力側が接続された有効断面積が大きい方の一方の部屋の内圧Pを制御して,前記第二の弁24の出口側は大気に開放されて,前記内圧Pを制御して肘関節角を目標値に一致させている」(審決6頁[相違点2])という制御が,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)であれば容易に読み取れるものである。 よって,原告の前記主張は採用することができない。 (5)容易想到性につき以上のとおり,引用発明における第一の弁23は中間の開口量を発現できる流量制御弁であることより,機能的に可変調整形の絞り弁に相当するといえ(乙1),流量制御を行う点において本願発明の絞りと軌を一にするものである。 そして,二つの制御部材を調整して,ある制御対象を制御する際に,まず一方の制御部材をある程度調整して止めておいて,次に他方の制御部材を調整することを交互に繰り返すことにより細かく調整することは様々な分野で普通に行われていること,及び一般に弁は,微小な一定流量を確保できる小さな開口量を発現できる場合に絞りに代替できることに鑑みれば,引用発明において,第一の弁23を制御せず固定とし,即ち絞りとして流体を流し,第二の弁24を制御することにより有効断面積の大きい方の部屋の内圧Pを制御することは,当業者が容易に想到し得た事項であると認めるのが相当である。このことは,可変調整形の流量制御弁を絞りに代えることに関して,本願明細書(甲4)に「図7はさらに別の実施の形態を示している。この実施の形態はエアシリンダ10のピストン11の面側の部屋を連通させる絞りを流量制御弁21から構成するとともに,エアシリンダ10のピストン11の後側の部屋すなわちB室から空気を逃がす絞りを流量制御弁20から構成している。…」(段落【0037】)と記載され,シリンダに接続された絞りを流量制御弁に代替できることが記載されていることからも認められる。 そうすると,審決が相違点2について「当該慣用技術を勘案すると,引用発明において,二つの制御弁のうち一方の制御弁を制御せず固定とし,即ち絞りとして流体を流し,他方の制御弁を制御することにより有効断面積の大きい方の部屋の内圧Pを制御することは,当業者であれば容易に想到し得た事項である。」(7頁25行〜28行)としたことに誤りはない。 3取消事由2(相違点3についての判断の誤り)について(1)本願発明の第2の機能的構成につき原告は,本願発明の第2の機能的構成は,ストロークが目標値に一致した後に,さらにその状態を維持するための制御動作であって,同一の動作を別の面から表現したものとは全く異なる旨主張する。 しかし,本願発明において,ストロークが目標値に一致していない状態から目標値に一致している状態までの制御,及びストロークが目標値に一致した後に,さらにその状態を維持するための制御の何れも,「前記検出手段の検出出力がフィードバックされる前記制御手段によって前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御して」実現されるものである。すなわち,本願発明は,「前記検出手段の検出出力がフィードバックされる前記制御手段によって前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御して」,目標値に一致していない状態から目標値に一致させ,さらにその状態を維持するといったストローク位置制御を行っているものといえる。つまり,原告主張の第2の機能的構成とは,本願発明のストローク位置制御について,ストロークが目標値に一致した後に,さらにその状態を維持するために必要な具体的な制御内容を,制御した結果発現される制御弁を通過する流体の量の面から表現した事項といえる。 よって,審決が本願発明の第2の機能的構成について,「制御弁を通過する流体の量が絞りを流れる流体の量と等しくなるように前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによってシリンダを停止させて目標位置に維持することは,前記制御弁の入力圧または該制御弁を流れる流量を制御することによって目標値に一致させることと同じ位置制御について,別の面から表現したにすぎず,」(7頁30行〜34行)と判断した点に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。 (2)引用発明におけるストロークを目標位置に維持する動作につき原告は,引用発明が,「第一の弁23と第二の弁24とがともに閉じられた状態でシリンダを停止させてストロークを目標値に維持する」ものであること,目標値に達した後にさらに目標値に一致させる制御動作を行うとすれば,一対の電磁弁23,24の互いに逆の交互の開放と閉鎖の動作を繰返すことになるから,本願発明の第2の機能的構成とは全く異なるものであると主張する。 しかし,引用発明は,前記のとおり,「第一の弁23及び第二の弁24の二つの弁を制御して第二の弁24の入力側及び第一の弁23の出力側が接続された有効断面積が大きい方の一方の部屋の内圧Pを制御して,前記第二の弁24の出口側は大気に開放されて,前記内圧Pを制御して肘関節角を目標値に一致させ」るものであるところ,前記2(4)イの式(4)〜(8)と,式(4)〜(8)をブロック線図にした第6〜7図を前提としたサーボ系をみると,原告主張のような「第一の弁23と第二の弁24とがともに閉じられた状態でシリンダを停止させてストロークを目標値に維持する」制御を読み取ることは困難である。そして,引用発明の「目標値に一致させ」る制御には,ストロークを目標位置に一致させるための移動の制御だけでなく,その後の制御が含まれるものであって,目標値に一致した後も,制御弁の制御は継続して同様に行うと解するのが自然であるから,ストロークを目標値からずれないように制御するためには,引用発明においても2つの制御弁を通過する流体の量を等しくしなければならないことは明らかである。 よって,原告の上記主張は採用することができない。 (3)容易想到性につき上記のとおり,ストロークが目標値に一致した後も,なお目標位置に一致する制御動作に関し,引用発明も本願発明と同様の機能を有する。よって,引用発明における第一の弁23を絞りとする場合に,第二の弁24を通過する流体の量が絞りを流れる流体の量と等しくなるように第二の弁24の入力圧または第二の弁24を流れる流量を制御することは,当業者が容易に想到できた事項である。 (4)本願発明の効果につき原告は,本願発明の効果に関し,ストロークが目標値に一致した後も目標位置に一致させる制御動作について,制御弁が絞りを流れる流体の量と等しくなるような流量を発生するように制御手段によって継続して制御されることにより,外乱等によって目標位置にずれを生じても,ダイナミックバランスによるフィードバック制御によって瞬時に是正され,外乱に対する対応力に優れ,高精度の位置決めを達成することができると主張する。 しかし,前記(2)のとおり,ストロークが目標値に一致した後も目標位置に一致させておく制御動作に関し,引用発明も本願発明と同様の機能を有していることより,同様の効果を奏することが認められる。よって,原告主張の効果は,引用発明から当業者であれば十分予測できるものである。 4結語以上によれば,原告主張の取消事由は全て理由がない。 よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
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