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関連審決 審判1999-3906
関連ワード 発明者 /  新規性 /  容易に実施 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  参酌 /  技術的意義 /  実施 /  算定方法 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 425号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁理士 右田登志男
同 千且和也
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 神崎潔
同 出口昌哉
同 高木進
同 岡田孝博
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成11年審判第3906号事件について平成15年7月29日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成4年12月31日,発明の名称を「せん孔爆破における安全装薬量決定方法」とする特許出願(特願平4-361317号,以下「本件出願」という。)をしたが,拒絶の査定を受けたので,平成11年3月17日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,同請求を平成11年審判第3906号事件(以下「本件審判事件」という。)として審理した上,平成13年7月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。)をしたことから,原告は,同年9月5日,第1次審決の取消しを求める訴え(当庁平成13年(行ケ)第397号事件,以下「前訴」という。)を提起し,審理の結果,平成14年11月25日,第1次審決を取り消す旨の判決(以下「前訴判決」という。)が言い渡され,前訴判決は確定した。
(2) これを受けて,特許庁は,本件審判事件の審理を再開した上,平成15年2月12日,本件出願は,願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面の記載に不備があり,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項(以下「旧36条4項」という。)及び5項(以下「旧36条5項」という。)に規定する要件を満たしていない旨を指摘した拒絶理由を通知した。
原告は,平成15年4月22日付けの手続補正書により特許請求の範囲の記載等の補正(以下「本件補正」という。)をしたが,特許庁は,審理の結果,同年7月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年8月18日,原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の記載 (1) 本件補正前のもの 1自由面における集中装薬爆破において, W:装薬の表面と自由面との間の最短距離,すなわち,最小抵抗線 D1,D2:破壊半径またはせん孔間隔長 ただし,D1=D2 V:破壊岩盤体積,V=D1×D2×W L:装薬量,L=k×V k:安全係数,k=L/V としたとき, D1=D2=W及びD1=D2Wの場合には,そのD1=D2をWの値に換算して,安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定すること, を特徴とするせん孔爆破における安全装薬量決定方法。 (2) 本件補正後のもの(補正部分を下線で示す。) 1自由面における集中装薬爆破において, W:装薬の表面と自由面との間の最短距離( 最小抵抗線) D1,D2:せ ん孔間隔長 ただし,D1=D2 V:破壊岩盤体積(D1×D2×W) L:装薬量(k×V) k:破壊岩盤単位 (L/V) または 安全係数 としたとき, (D1=D2) =W及び( D1=D2) Wの場合には,( D1=D2)= Wの値に換算して,安全装薬量Lを算定すること, を特徴とするせん孔爆破における安全装薬量決定方法。
(以下,この発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件明細書の記載には依然として不備があり,本件出願は,旧36条4項及び5項に規定する要件を満たしていないから,拒絶されるべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,明細書の記載要件に関する判断を誤った(取消事由1,2)結果,本件出願は,旧36条4項(取消事由2)及び5項(取消事由1)に規定する要件を満たしていないとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(旧36条5項所定の明細書の記載要件に関する判断の誤り) (1) 審決は,「請求人(注,原告)が審決取消訴訟(注,前訴)において主張した,『隣接する他の穿孔によって強制的に作られる破壊半径』が,実際に『せん孔間隔長』と等しくなるとする点の真偽は不明であること,特に,本願明細書では『弱装薬であっても,強装薬であっても,漏斗孔(クレーター)の破壊半径Rは最小抵抗線長Wと大略等しい関係の範囲に納まる』(【0006】参照)としておきながら,『隣接する他の穿孔』がある場合には,そのようにならないとする根拠が不明であること」(審決謄本5頁下から第3段落,以下「審決指摘の問題点1」という。)について検討を加えた上,「『せん孔間隔長』と『隣接する他の穿孔によって強制的に作られる破壊半径』とが等しくなるという事実の有無,あるいは技術上の根拠が不明である以上,請求項1の『D1,D2:せん孔間隔長』という記載中の,『せん孔間隔長』が,『隣接する他の穿孔によって強制的に作られる破壊半径』を意味することになるか否かは不明であり,請求項1の記載では,発明の構成に欠くことができない事項が明確とはいえない」(同7頁最終段落)と判断した。
しかしながら,審決指摘の問題点1は,本件補正によって「D1,D2」を「せん孔間隔長」と定義する補正をしたことによって解消したものであるから,審決の上記判断は誤りである。
(2) 審決指摘の問題点1は,前訴において,原告が,「隣接する他のせん孔によって強制的に作られる破壊半径D1,D2」が「せん孔間隔長」と等しくなる旨主張していたことに基づくものであるが,このような主張は,本件補正前,「D1,D2」を「破壊半径またはせん孔間隔長」と定義していたことを前提とするものであって,本件補正によって「D1,D2」を「せん孔間隔長」と定義したことにより,審決指摘の問題点1は解消した。そもそも,本件補正により本願発明における「D1,D2」の技術的意義は明確になったのであるから,その意義を解釈するために前訴における原告の主張を参酌する必要はなく,この点においても審決の誤りは明らかである。
(3) 被告は,本願発明では,同一の装薬量(L=kW3)によって破壊される岩盤の体積Xが,あるときはW3よりも大であったり,またあるときはW3に等しかったりすることになり,明らかに不合理である旨主張する。しかしながら,本願発明は,破壊岩盤体積を求める方法ではなく,安全装薬量Lの値を算定する方法に関する発明である。本願発明は,@(D1=D2)=W及び(D1=D2)Wの場合は,飛石が生じるのを防止するため,(D1=D2)の値をWに換算して,安全装薬量Lの値をk×(D1×D2×W)ではなく,kW3から算定しようとするものであって,実際に破壊される岩盤の体積は,本願発明とは何ら関係がない。したがって,被告の上記主張は,本願発明の本質とは関係のない問題を指摘するものであって,失当というべきである。
さらに,被告は,本願発明が安全装薬量を算定する方法に関するものだとしても,破壊岩盤体積を考慮しない装薬量の算定方法など,技術的に無意味なものである旨主張する。しかしながら,本願発明によって安全装薬量Lを求めた場合,安全な発破を行うことができ,それによって本願発明の目的を達成することができる。その際の破壊岩盤体積は,安全な破壊岩盤体積であれば十分というべきであるから,やはり,被告の主張は,当を得ないものである。
2 取消事由2(旧36条4項所定の明細書の記載要件に関する判断の誤り) (1) 審決は,「図2,図3に示されるような破壊形状(注,隣接する破壊形状が重なり合う形状)になるとすれば,上記の式(V=D1×D2×W)による算定では,互いに隣接する破壊形状が重なり合う部分の体積を重複して算定することになるから,『破壊岩盤体積』(V)が過剰に見積もられる結果につながり,『L:装薬量,L=k×V』という計算に基づいては,適切な装薬量を求めることはできない」こと(審決謄本8頁第1段落,以下「審決指摘の問題点2」という。)について,「『せん孔間隔長(Dl,D2)』が『隣接する他の穿孔によって強制的に作られる破壊半径』を意味することになるか否か,すなわち,上記の図2,図3において実線で示される破壊形状の実現が可能か否かが不明である以上,破壊岩盤体積Xを求めるための式,X=D1×D2×Wによっては破壊岩盤体積の算定が不可能とならざるをえず,破壊岩盤体積Xの算定が不可能であれば,どのような安全係数(k)を設定するにしても,『L:装薬量,L=k×V』という計算に基づいて,適切な装薬量を求めることもできないのは明らかである」(同頁第3段落)と判断した。
しかしながら,「せん孔間隔長(D1,D2)」が「隣接する他の穿孔によって強制的に作られる破壊半径」を意味することになるか否かは,本件補正前,「D1,D2」を「破壊半径またはせん孔間隔長」と定義していたことを前提とするものであって,本件補正によって「D1,D2」を「せん孔間隔長」と定義した以上は問題とならず,審決指摘の問題点2は解消されたというべきであるから,審決の上記判断は誤りである。
(2) 被告は,「せん孔間隔長(D1,D2)」と「破壊半径」とが全く無関係だとすれば,破壊岩盤体積(X)を,D1×D2×Wの式で求めること自体が無意味になる旨主張するが,本願発明が,安全装薬量Lの値を算定する発明であって,破壊岩盤体積を求める発明ではないことは,上記1(3)のとおりである。
また,被告は,上記の式(X=D1×D2×W)によって破壊岩盤体積を算定すると,例えば(D1=D2)>2Wのように,「せん孔間隔長(D1,D2)」が極端に大きな値でない限り,互いに隣接する破壊形状の重なり合う部分を重複して算定することになると主張しているが,本願発明は,D1,D2,Wと安全係数kの値から安全装薬量Lの値を算定する発明であって,破壊岩盤体積を求める発明でないことは上記のとおりである。
さらに,本願発明は,ハウザーの公式で使用されている発破係数cの値よりも小さな値である安全係数kを用いているので,危険な発破になることはない。
そもそも,本願発明は,D1=D2>Wのとき,V=D1×D2×Wとする発破が不可能であるとの知見に基づくものであって,ハウザーの公式を前提とする従来技術に誤りがあることを前提に,これとは異なる方法で安全装薬量Lの値の算定を行おうとするものであるから,従来技術を前提にした被告の一連の主張は,当を得たものではないというべきである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告の取消事由の主張はいずれも理由がない。
1 取消事由1(旧36条5項所定の明細書の記載要件に関する判断の誤り)について (1) 本願発明に基づいて,「(D1=D2)>Wの場合」における,「破壊岩盤体積V」と,当該破壊岩盤体積Vを実現するための「安全装薬量L」を求めると,以下のとおりになる。
まず,破壊岩盤体積については,請求項1の記載によれば,「V:破壊岩盤体積(D1×D2×W)」と定義されているから,「(D1=D2)>Wの場合」の破壊岩盤体積Vは,当然,W3よりも大となる。次に,上記の場合の装薬量についてみると,請求項1の記載によれば,「(D1=D2)>Wの場合には,(D1=D2)=Wの値に換算して,安全装薬量Lを算定する」としているから,(D1=D2)>Wの場合の安全装薬量Lは,式(L=kW3)によって求めることになる。
一方,「D1=D2=Wの場合」の安全装薬量Lも,同様に,式(L=kW3)によって求めるが,この場合の破壊岩盤体積V,すなわち,D1×D2×Wは,当然,W3に等しくなる。
以上によれば,本願発明では,同一の装薬量(L=kW3)によって破壊される岩盤の体積Vが,あるときはW3よりも大であったり,またあるときはW3に等しかったりすることになり,これは明らかに不合理である。
そうすると,本件補正によって「D1,D2」を「せん孔間隔長」と定義しても,当該「せん孔間隔長」を基に決定されるはずの「破壊岩盤体積と装薬量との関係」が明確になったということはできず,ひいては,「D1,D2」の内容も明確になったということはできない。
(2) これに対し,原告は,本願発明は,破壊岩盤体積を求める方法ではなく,安全装薬量Lの値を算定する方法に関する発明であるから,実際に破壊される岩盤の体積は,本願発明とは何ら関係がない旨主張する。
しかしながら,本願発明が安全装薬量を算定する方法に関するものであるとしても,安全装薬量を算定する基本的な目的は,所望の破壊岩盤体積を得るためにほかならないのであり,また,発破作業における安全性の問題だけを考えても,破壊岩盤体積がどのようになるかという点が,極めて重要な意味を持つことは明らかであって,破壊岩盤体積を考慮しない装薬量の算定方法など,技術的に無意味なものである。
(3) 以上によれば,本件補正によっても,本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の記載は,依然として,発明の構成に欠くことがないできない事項が明確であるということができず,本件出願は,旧36条5項に規定する要件を満たしていないとした審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(旧36条4項所定の明細書の記載要件に関する判断の誤り)について (1) 本件補正によっても,やはり,「D1,D2」の意味が明確になったということができないことは,上記1(1)のとおりである。そして,「せん孔間隔長」(D1,D2)と「破壊半径」とが全く無関係だとすれば,破壊岩盤体積(V)を,D1×D2×Wの式で求めること自体が無意味になる。
(2) また,「せん孔間隔長」を規定する以上,一つの「せん孔」の前後や左右に他の「せん孔」が設けられることになるが,このような複数箇所にせん孔して爆薬を仕掛ける発破において,上記の式(V=D1×D2×W)によって破壊岩盤体積を算定すると,例えば,(D1=D2)>2Wのように,「せん孔間隔長」(D1,D2)が極端に大きな値でない限り,互いに隣接する破壊形状の重なり合う部分を重複して算定することになる。しかも,上記の「重なり合う部分」は,隣接するせん孔が一つだけの場合と,前後や左右に複数設けられる場合とで,その重複の箇所や状態が異なる。
そうすると,結局,本願発明においては,装薬量算定の基準となる破壊岩盤体積(V)自体が明確に求められないことになるから,当該明確でない破壊岩盤体積(V)に基づいて,適切な装薬量を求めることができないのは明らかである。
ここで,破壊岩盤体積を考慮しない装薬量の算定方法など,技術的に無意味なものであることは,上記1(2)のとおりである。
(3) 以上によれば,本件補正によっても,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が容易に実施することができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しているということができず,本件出願は,旧36条4項に規定する要件を満たしていないとした審決の判断に誤りはない。
(4) なお,原告は,安全係数kが,ハウザーの公式における発破係数cとは本質的に異なる独自の意味を持つものであるかのように主張する。
しかしながら,(D1=D2)>Wの場合に,(Dl=D2)の値をWに換算して,装薬量Lの値を(L=kW3)によって決定するのであれば,それは,(D1=D2)=Wとなる発破を行うことにほかならず,その場合の装薬量は,周知のハウザーの公式(L=cW3)自体から,直ちに導かれるものにすぎない。また,(D1=D2) この点について,原告は,本願発明は,D1=D2>Wのとき,V=D1×D2×Wとする発破が不可能であるとの知見に基づくものであって,ハウザーの公式を前提とする従来技術に誤りがあることを前提に,これとは異なる方法で安全装薬量Lの値の算定を行おうとするものである旨主張する。しかしながら,仮に,当該知見が正当であるとしても,本願発明は,(D1=D2)=Wの場合及び(D1=D2)Wの場合においても,従来から安全であるとされてきたハウザーの公式(L=cW3)に従った範囲内の装薬量で発破を行うだけのことであるから,これに新規性を認めることはできないというべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由2(旧36条4項所定の明細書の記載要件に関する判断の誤り)について (1) 本件出願において,「本願発明(請求項1)では,『V:破壊岩盤体積,V=D1×D2×W』としているが・・・図2,図3に示されるような破壊形状(注,隣接する破壊形状が重なり合う形状)になるとすれば,上記の式(V=D1×D2×W)による算定では,互いに隣接する破壊形状が重なり合う部分の体積を重複して算定することになるから,『破壊岩盤体積』(V)が過剰に見積もられる結果につながり,『L:装薬量,L=k×V』という計算に基づいては適切な装薬量を求めることはできないと考えられる。また,このことは,発明の詳細な説明をみても同様である。したがって,発明の詳細な説明には,当業者が容易に実施することができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載していると認めることができない」(審決謄本4頁下から第4段落〜下から第3段落)旨の旧36条4項違反を理由とする拒絶理由が通知されたことは,当事者間に争いがない。
審決は,上記の点につき,「『せん孔間隔長(D1,D2)』が『隣接する他の穿孔によって強制的に作られる破壊半径』を意味することになるか否か,すなわち,上記の図2,図3において実線で示される破壊形状の実現が可能か否かが不明である以上,破壊岩盤体積Xを求めるための式,X=D1×D2×Wによっては破壊岩盤体積の算定が不可能とならざるをえず,破壊岩盤体積Xの算定が不可能であれば,どのような安全係数(k)を設定するにしても,『L:装薬量,L=k×V』という計算に基づいて,適切な装薬量を求めることもできないのは明らかである」(同8頁第3段落)とした上で,「本願明細書(注,本件明細書)の記載には依然として不備があり,本願(注,本件出願)は,特許法(平成6年改正前)第36条第4項(注,旧36条4項)・・・に規定する要件を満たしていないことを理由として,拒絶されるべきものである」(同頁下から第2段落)と判断した。
これに対し,原告は,本件補正によって「D1,D2」を「せん孔間隔長」と定義した結果,上記拒絶理由は解消された旨主張するので,以下,検討する。
(2) 本件補正に係る本件明細書(以下,単に「本件明細書」という。甲2,7)の発明の詳細な説明には,本願発明における安全係数kの技術的意義について,以下のような記載がある。
ア 「本願発明者は,X=W3,すなわち,R/W=1の条件下におけるL/Vを真正の発破係数cと位置づける一方,破壊岩盤体積Xが,X=W3,すなわちR/W=1の場合ばかりでなく,X≠W3すなわちR/W≠1をも含む場合における発破係数,つまり,通説における発破係数を前記真正の発破係数cと区別して,安全係数kと命名した」(段落【0011】,【発明が解決しようとする課題】) イ 「1自由面における集中装薬爆破において, W:装薬の表面と自由面との間の最短距離(最小抵抗線) D1,D2:せん孔間隔長 ただし,D1=D2 V:破壊岩盤体積(D1×D2×W) L:装薬量(k×V) k:破壊岩盤単位(L/V)または安全係数としたとき, (D1=D2)=W及び(D1=D2)Wの場合には,(D1=D2)=Wの値に換算して,安全装薬量Lを算定する」(段落【0014】〔注,本件補正に係る手続補正書(甲2)の該当箇所には段落【0013】とあるが,段落【0014】の誤記と認める。〕,【課題を解決するための手段】) ウ 「安全係数kの安全範囲は,0.25〜0.45である。」(段落【0018】,同) エ 「本発明では,飛石の生じない安全爆破をもたらす基本単位を最小抵抗線Wとし,その最小抵抗線を含む破壊岩盤体積Vと安全係数k(通常0.25〜0.45)との積をもって安全装薬量Lと定めた」(段落【0027】,【発明の効果】) しかしながら,以上の記載によっては,安全係数kの技術的意義,特に,安全範囲とされる0.25〜0.45との数値が,どのようにして導き出されたのか,その技術的な根拠は不明であるというほかはない。
(3) 他方,本件明細書の発明の詳細な説明には,本願発明に対応する実施例について, 「1自由面(G)における集中装薬爆破の場合(図3参照) 基本式 破壊岩盤体積V=D1×D2×W ただしD1=D2 装薬量L=k×V 安全係数k=L/V=(0.25〜0.45) において, (D1=D2)=Wの場合における安全装薬量Lは, 例えば,D1=D2=W=2.1mとすれば, V=2.1×2.1×2.1=9.26m3 L=(0.25〜0.45)×9.26=(2.32〜4.17)kg となり, (D1=D2)Wの場合における安全装薬量Lは, 例えば,D1=D2=3.1m,W=2.1mとすれば, D1=D2=W=2.1mの場合に換算して, V=2.1×2.1×2.1=9.26m3 L=(0.25〜0.45)×9.26=(2.32〜4.17)kg となる」(段落【0019】) との記載があり,これに対する評価として, 「そこで, (D1=D2)=Wの場合における安全係数kを検討してみると, 例えば,D1=D2=W=2.1m,L=4.17kgとすれば, V=2.1×2.1×2.1=9.26m3 k=4.17/9.26=0.45kg/m3 となり,安全範囲内において最強の破壊が得られ,作業効率最高と評価し得る。
次に, (D1=D2) 更に, (D1=D2)>Wの場合における安全係数kを検討してみると, 例えば,D1=D2=3.1m,W=2.1m,L=2.78kgとすれば, D1=D2=W=2.1mの場合に換算して, V=2.1×2.1×2.1=9.26m3 k=2.78/9.26=0.30kg/m3 となり,安全範囲内における中位置と評価し得る」(段落【0020】)と記載されている。
そこで,以下,実施例に関する上記各記載の技術的意義について検討する。
ア (D1=D2)=Wの場合について 該当部分の記載は,あらかじめ0.25〜0.45の範囲に定められた安全係数kのうち,最大の安全係数kである0.45を,破壊岩盤体積Vの値を一定(9.26m3)とした上で装薬量L=k×Vの式に代入して安全装薬量を算定し,さらに,こうして算定された安全装薬量4.17kgを,逆に安全係数k=L/Vの式に代入したものであると見ることができる。このような作業は,単に,計算式を逆算したにすぎず,逆算して得られた安全係数kが,あらかじめ定められた安全範囲の最大のものとなることは当然であって,このような結果から何らかの技術的評価が生じる余地はない。したがって,この場合に関する「安全範囲内において最強の破壊が得られ,作業効率最高と評価し得る」との評価的な記載は,安全係数kの技術的意義に関する記載としては,格別の意味を持たないものである。
イ (D1=D2)技術的意義に関する記載としては,格別の意味を持たないものである。
ウ (D1=D2)>Wの場合について 該当部分の記載は,あらかじめ0.25〜0.45の範囲に定められた安全係数kの上限と下限の値を,破壊岩盤体積Vの値を一定(9.26m3)とした上で装薬量L=k×Vの式に代入して安全装薬量を算定し,さらに,こうして算定された安全装薬量である2.32〜4.17kgの範囲における中位置の装薬量2.78kgを,逆に安全係数k=L/Vの式に代入したものであると見ることができる。こうした作業は,単に,計算式を逆算したにすぎず,逆算して得られた安全係数kが,あらかじめ定められた安全範囲における中位置のものとなることは当然であって,このような結果から何らかの技術的評価が生じる余地はない。したがって,この場合に関する「安全範囲内における中位置と評価し得る」という評価的な記載は,安全係数kの技術的意義に関する記載としては,格別の意味を持たないものである。
(4) 以上によれば,実施例に関する記載を含め,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を精査しても,安全係数kの技術的意義,特に,安全範囲とされる0.25〜0.45との数値がどのようにして導き出されたのかは明らかでないというほかはなく,また,それが本件出願当時における当業者の技術常識に属する事項であったと認めるに足りる証拠もない。
他方,本願発明の「せん孔爆破における安全装薬量決定方法」を用いて,複数のせん孔を設けて発破を行う場合(本願発明が専らこのような場合を対象とするものであることは,「せん孔間隔長」について規定していることから明らかである。),安全装薬量を算定する前提となる破壊岩盤体積(D1×D2×W)が,せん孔間隔長D1,D2が最小抵抗線Wの2倍よりも短いときは,隣接するせん孔爆破において破壊岩盤体積を重複して算定する結果とならざるを得ず,さらに,せん孔間隔長が短く,また,隣接するせん孔が多くなるにつれ,上記重複して算定される破壊岩盤体積が増加することは明らかであるから,たとえ,(D1=D2)>Wの場合おいて(D1=D2)=Wの値に換算するとの本願発明を採用したとしても,L=k×Vで算定される安全装薬量が,実際に破壊されるべき破壊岩盤体積に比して過剰に多く見積もられ,本願発明が目的とする安全な発破を行うことができなくなるおそれがあることは,当業者ならずとも自明のことというべきである。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によっては,当業者が,本願発明が規定するように,安全装薬量Lの値をL=k×V(k:安全係数,V:破壊岩盤体積)で算定することに関する技術的事項を,これを容易に実施することができる程度に理解することはできないというべきである。また,そうである以上,本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは,当業者が,本件明細書(甲7)記載の「最小抵抗線長Wに対する破壊半径乃至せん孔間隔長D(前項までRで表示)が異なる場合であっても,それから生ずるおそれのある飛石等の危険を排除して安全装薬量Lを決定し得る方法を提供する」(段落【0012】)という目的や,「せん孔爆破の実務においてその利用範囲が広く,これによって,危険な爆破をあらかじめ回避することが可能となったから,施工時の安全に寄与すること絶大である」(段落【0027】)という効果が,本願発明によって達成されることを理解することもできないというほかはない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が「容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載し」た(旧36条4項)ものとは認められないというべきである。
(5) これに対し,原告は,本願発明は,破壊岩盤体積を求める方法ではなく,安全装薬量Lの値を算定する方法に関する発明であるから,実際に破壊される岩盤の体積は,本願発明とは何ら関係がない旨主張する。
しかしながら,現実に本願発明を実施しようとした場合,せん孔間隔の長短や周囲のせん孔の数の多寡の影響により,実際に破壊されるべき破壊岩盤体積に比して,装薬量が過剰に多く見積もられ,本願発明が目的とする安全な発破を行うことができなくなるおそれがあることは,上記(4)で判示したとおり自明のことというべきであり,他方,本件明細書の発明の詳細な説明において,安全係数kの技術的意義について,上記のおそれを解消するに足りる根拠について合理的な説明がされていないことは上記(2)及び(3)で判示した本件明細書の記載内容から明らかであるから,原告の上記主張は採用することができない。
(6) さらに,原告は,本願発明は,ハウザーの公式で使用されている発破係数cの値よりも小さな値である安全係数kを用いているので,危険な発破になることはない等とも主張する。
しかしながら,平成元年5月15日山海堂発行,社団法人工業火薬協会編「新・発破ハンドブック」18〜19頁(乙1)によれば,ハウザーの公式(L=cW3,Lは装薬量〔kg〕,cは発破係数,Wは最小抵抗線〔m〕)における発破係数cは,実験的に算出されるべきものであって,その値について確固たる技術常識が存在するわけではないものと認められるから,果たして,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された安全係数kの0.25〜0.45との数値が,ハウザーの公式で使用されている発破係数cの値よりも小さな値であるかは,本件明細書の記載からは必ずしも明らかであるとはいい難い。
また,現実に本願発明を実施しようとした場合,実際に破壊されるべき破壊岩盤体積に比して,装薬量が過剰に多く見積もられ,本願発明が目的とする安全な発破を行うことができなくなるおそれがあるが,本件明細書の発明の詳細な説明においては,安全係数kの技術的意義について,そのおそれを解消するに足りる根拠について合理的な説明がされていないことは,上記(4)及び(5)のとおりであって,原告の上記主張は,この点に関する判断を左右するものではないから,採用の限りではない。
(7) そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,旧36条4項に規定する要件を満たすものであるとは認めることができないから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張は理由がない。
2 以上によれば,原告主張の取消事由1について検討するまでもなく,審決の結論に誤りはないというべきであり,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴
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