関連審決 | 無効2008-800060 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10243審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10273審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10130審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10272審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10483審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 新規性 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 手続違反 / 実施可能要件 / 技術的手段 / 先行技術 / 発明を特定する事項 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 正当な理由 / 請求の範囲 / 減縮 / 新たな無効理由 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10441号
審決取消請求事件
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原告オ ーラテック株式会社 被告Y 同訴訟代理人弁理士宮田信道 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/09/01 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2008?800060号事件について平成20年10月15日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告が有する下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)被告は,平成12年7月13日,発明の名称を「社交ダンス用フォーム矯正具」とする特許出願(特願2000-213175号)をし,平成18年4月28日,設定の登録(特許第3796620号。甲12。以下「本件特許」という。)を受けた。 (2)原告は,平成20年4月3日,全5項からなる請求項のうち,請求項1,2,4及び5に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明4」及び「本件発明5」という。)に係る特許について,特許無効審判を請求し,無効2008-800060号事件として係属した。 (3)特許庁は,平成20年10月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の本件審決をし,同月29日,その謄本が原告に送達された。 2本件発明の要旨本件発明1,2,4及び5の要旨は,次のとおりである。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を示す。 (1)本件発明1(請求項1)上体矯正部(1)と,踊り手(10)の右手又は左手をパートナーと組する場合を想定した規定の位置(A)に保持し得るように前記上体矯正部(1)に備わるハンド保持部(3)とから構成し,/前記上体矯正部(1)は,踊り手(10)の鳩尾部分に当接するリング状部位(2)と,該リング状部位(2)から下方に垂下する支持板(5)とを備え,/ 前記支持板(5)の下端部は,踊り手(10)の正面側に支持手段(6,13)を介して保持されており,前記リング状部位(2)は,前記ハンド保持部(3)により保持されている手以外の踊り手(10)の手をパートナーと組する場合を想定した規定の背面位置(G)に添えることが可能な奥行きを有していることを特徴とする社交ダンス用フォーム矯正具。 (2)本件発明2(請求項2)前記ハンド保持部(3)は,前記上体矯正部(1)において取付手段を介して着脱自在に構成してあることを特徴とする請求項1記載の社交ダンス用フォーム矯正具。 (3)本件発明4(請求項4)請求項1又は2,3記載の上体矯正部(1)は,パートナー(15)の上体(16)を社交ダンスを踊る際の規定の位置に保持するために背面側部分(18)が嵌合手段(9,17)により着脱可能に形成してあることを特徴とする社交ダンス用フォーム矯正具。 (4)本件発明5(請求項5)前記上体矯正部(1)には,踊り手(10)の左右の上腕部(21,22)をパートナーと組する場合を想定した規定の位置に保持することが可能な上腕部保持手段(19,20)が設けてあることを特徴とする請求項1又は2,3,4記載の社交ダンス用フォーム矯正具。 3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件発明1,2,4及び5は,下記(1)ないし(11)の引用例に記載された各発明(以下「引用発明1」ないし「引用発明11」という。)と同一でなく,また,これらの発明から容易に想到できたものでもないから,当該発明に係る本件特許を無効にすることはできない,というものである。 (1)引用例1:篠田学「篠田学のダンス・イラストレッスン」(モダン出版株式会社1999年1月15日発行。甲1)(2)引用例2:金沢正太「プロが教えないダンス上達講座・モダン編」(株式会社白夜書房1998年12月15日発行。甲2)(3)引用例3:特開平9-192279号公報(甲3)(4)引用例4:実開昭61-103167号公報(甲4)(5)引用例5:特開平10-76025号公報(甲5)(6)引用例6:特開平3-155856号公報(甲6)(7)引用例7:実開昭63-184070号公報(甲7)(8)引用例8:特許第2953359号公報(甲8)(9)引用例9:実開平5-35161号公報(甲9)(10)引用例10:特開平9-234157号公報(甲10)(11)引用例11:特開平10-216031号公報(甲11)4取消事由(1)本件発明1の新規性・進歩性の判断の誤りア本件発明1が,引用例1ないし11に記載された「テニスラケット」と同一でなく,容易に想到できないとした認定・判断の誤り(取消事由1-1)イ本件発明1が,引用例1ないし11に記載された「中華鍋」「鍋」と同一でなく,容易に想到できないとした認定・判断の誤り(取消事由1-2)(2)本件発明2,4及び5の新規性・進歩性の判断の誤り(取消事由2)(3)本件審決の手続違反(取消事由3)(4)本件発明1,4及び5の実施可能要件違反(取消事由4)第3当事者の主張1取消事由1-1について〔原告の主張〕(1)テニスラケットを社交ダンス用フォーム矯正具として使用することは記載も示唆もされていないとの本件審決の認定判断は,以下のとおり誤りである。 ア本件審決は,争点整理が不十分なまま,重要な証拠である引用例1のうちの48,49頁だけから「テニスラケットを社交ダンス用フォーム矯正具として使用することは記載も示唆もされていない」との誤った認定をした。提示した証拠全体を把握して審理がされなかったため,一部が証拠として採用されず,誤った公正でない審決がされたのは,民事訴訟法上,違法である。 男性の左手の掌にグリップが,右手の中指,薬指,掌,手首にフレームが重なって図示された,「図のテニスラケット」が社交ダンスの練習器具を示唆するかどうかの判断に関して,重要な引用例1を採用しなかったために,ダンス技術を教示し,イラストは踊り続ける間中継続している姿の瞬間的な1カットを図示している観点からの審理がされなかった。 また,ホールドを作るという意味が,数秒間のセットアップ時の動作に加えて,踊り続ける2,3分間での継続状態であることを見誤った。男性の右手の指,掌,手首が本来は女性がいるべき模範的な位置に置かれたラケットを保持していることが判断されなかった。ヒモの2点間距離とラケットの2つの位置の距離が,正しいホールドの距離をパラメーターとして,同じであることが判断されなかった。 さらに,相手のあるスポーツや芸能を練習するにあたり,相手が不在か同時には練習できない時,特徴のある相手の身体や機能の一部を取り入れた器具はたとえ完成度は低くとも練習器具となり得ることは,引用例1のヒモやレコード盤で明示されており,女性の身体とラケットの類似性を比較する前に,「ラケットがダンス練習する器具を示唆するものでない」との誤った判断がされた。 イ引用例1の44,45,48及び49頁にあるように,「図のテニスラケット」で模範指導された位置関係の図や記載文と,しっかりしているというイメージから,「図のテニスラケット」は練習に役立つ形象,物である。 「図のテニスラケット」のイメージがダンスの練習に役立つものであるが,イメージをもっと恒常的な実際の物としてのダンス練習器具へ具現化することは,当業者ならば容易に想起できることである。 ウ引用例1の49頁の「図のテニスラケット」は,ラケットのフレームのしっかりさだけを部分的に表すために設置されたものではない。 「図のテニスラケット」は,擬似パートナーのイメージを与える形象,物である。 すなわち,(ア)裏表紙と24頁上段図と49頁の図と45頁の図のように,形状的,構造的に女性の右手から楕円形の胸骨に至るホールド,骨格であるフレームに似ており,(イ)49頁の両図のように,機能的,作用的に模範位置を示す男性の左手,右手の中指と薬指,掌,右手首,みぞおちで触れられ,保持される女性のよいホールド,骨格であるフレームに似ており,(ウ)45頁の模範的な男性がつくった模範的なホールドの中に,1曲をシャドー練習する間中置かれることが指示され,機能,作用を果たし,(エ)49頁の左図添付文のように,男性にイメージを持つように機能,作用を与え,(オ)53頁の下段左図添付文で他にもあることが示唆された,他の社交ダンス練習器具などと同様の目的の練習に使われるものであり,テニスラケットは擬似パートナー性を有する社交ダンスの練習器具であることが示唆,教示されているのである。 そして,「図のテニスラケット」のイメージがダンスの練習に役立つものであるが,このイメージをもっと恒常的な実際の物としてのダンス練習器具へ具現化することは,当業者ならば容易に想起できることである。 エ引用例1の「図のテニスラケット」 は,「男性の右手指先と左手指先の間隔を一定にする」(48,49頁)ことも指導するために引用された,形象あるいは物であり,器具であることを示唆している。したがって,当業者は,ダンスの練習に役立つ物,器具であることを容易に想起できる。 さらに,49頁の文に記載され,下の図に図示されている,右手の掌,手首が図のテニスラケットに2点で保持して図示されていることは,図のテニスラケットは女性の2点の背触位置を指定し,近似するものでもあるから,ヒモより女性の身体的特徴を多く持つものであり,ヒモより効果の多いダンスの練習器具を当業者に示唆するものである。 (2)本件発明1は,引用例1ないし11に記載される「テニスラケット」,「レコード」,「フレーム用保護体が付けられたラケット」と同一であるともいえないし,容易想到であるともいえないとの本件審決の判断は,以下のとおり誤りである。 ア社交ダンスの練習器具として示唆される「ラケット」は,本件発明1と同一の構成要件を有している。 イ引用例1の「図のテニスラケット」は,49頁に図示されているように,右手の位置高さから左手位置高さまで斜めに保持するものであり,引用例8で開示されたテニスラケットのフレーム厚さは50?oであっても,斜めにすることにより,フレームの側面にリング状部位と支持板相当部位を備えることは容易にできる。本件発明1ではリング状部位存在位置が不明であるがゆえに,リング状部位と垂直板を足した,長さは不明であり,テニスラケットのフレーム厚さとの比較は困難である。本件発明1の図1で,リング状部位は踊り手の脊椎に対し水平に置かれており,斜めに置かれた「図のテニスラケット」のフレーム設置と比較すると差異を受けるが,請求項1にはリング状部位を水平にする構造,作用などの記載はなく,「図のテニスラケット」の斜めに置かれたリング状部位を,本件発明1では単に水平に設置しただけである。 〔被告の主張〕(1)引用例1には,ホールドを作る姿勢の練習のためにテニスラケットを使用することは記載されていないし,また,ホールドを作る姿勢の練習のためにテニスラケットを使用することが示唆されているとも思えない。 そのことは,引用例1の図と共に,文章で「踊りやすく,くずれないしっかりしたフォームのイメージ」との記載から,この図は,しっかりした身体のフレームを作るためのイメージとして,テニスラケットをイメージするとよいことを示しており,しかも,この図には,踊り手である男性がテニスラケットを抱えることは示されておらず,テニスラケットが男性の右腕よりも紙面上側に位置するように記載されていることからも窺うことができる。 (2)また,テニスラケットの形状は,フレーム内のガットが張られている面に水平な延長線上に柄が設けられているため,これを社交ダンスの練習器具として使用するとすれば,ホールドする右手で楕円形のフレームを抱えれば,柄の方向はガット面と同じ高さ位置にあることになり,この柄の高さでは,パートナーと組する男性の左手の所定高さ位置を確保することができない。 一方,パートナーと組する男性の左手の高さ位置を確保しようとすれば,楕円形のフレームが大きく傾き,ホールドする右手でフレームをしっかりと抱えることができない。 いずれにしても,テニスラケットの形状では,右手でホールドし,左手の高さを所定位置で保持するための社交ダンス用の練習器具としてはすこぶる不向きである。 引用例1の著者は,各種ダンス競技で輝かしい戦績を持つからこそ,ダンスにとって最も重要なフレームを作るためのイメージとして,しっかりしたフレームのイメージのある「テニスラケット」を単に例に出して,これをイメージするとよい旨を示しているだけであり,「テニスラケット」をダンス練習器具として使用する意図はないものと解される。 (3)さらに,本来,社交ダンスの練習器具とは全く異なる用途に使用する,言い換えれば,全く異なる技術分野に属する引用例1,8及び9の各テニスラケットを先行技術文献として本件発明1の特許性を争うこと自体が到底受け入れられるのもではなく,本件発明1の進歩性の引用文献としては適格性を欠くものと言わざるを得ない。 2取消事由1-2について〔原告の主張〕(1)本件発明1と,引用例2に記載される「中華鍋」や引用例10に記載される「鍋」とは同一であるとはいえないとの本件審決の認定は,以下のとおり誤りである。 ア原告が提示した引用例2の一部が証拠として採用されず,争点整理がされず,誤った審決がされたものである。 すなわち,引用例2において,「中華鍋」は間口がリング状で深さがあり,底が丸い形をした北京鍋といわれるもののほかに,各種各様の形状の鍋がある。また,引用例2の「鍋」の形状には底が深い鍋もあり,長い柄のついたものもあるにもかかわらず,「鍋」についての検討がされていない。 イこれら「中華鍋」や「鍋」は,疑似パートナーを示唆していると考えるのが自然であり,ダンス練習器具を示唆している。 しかし,本件審決は,引用例2における重要な「鍋」を実質上無視して,引用例2の「中華鍋」と引用例10の「鍋」のみを判断している。 ウよって,本件発明1と,引用例2に記載される「中華鍋」や引用例10に記載される「鍋」とは同一であるとはいえないとの審決は誤りであるから,本件審決は取り消されるべきである。 (2)原告が弁駁書で追加する主張をもってしても,本件発明1は,引用例1ないし11に記載される「中華鍋」や「鍋」と同一であるともいえないし,引用例1ないし11に記載される構成から容易想到であるともいえないとした本件審決の判断は,以下のとおり誤りである。 ア「中華鍋」や「鍋」についても,くずれ続ける男性に対し,絶えず模範的な良いホールドのイメージを想起させることにより,ダンス練習器具を示唆している。 イ引用例2は,「鍋を落とさないように,腕全体が下から支えようとするよね。」(29頁)とホールド作りにおける鍋の扱い方に関する指導を教示しているが,「女性を下からサポートしていくホールド」にしなさいという,鍋と女性の扱い方に関する指導とは,対象は異なるものの,同じようであれと,教示している。 したがって,口径が大きく約30?pで,長い取っ手と反対側に短い取っ手を持つ,女性の胴体や右腕の形状に似る「鍋」で,1曲の間中,よいホールドに修正,維持する目的に使われるイメージの「鍋」は,上記女性の持つ機能,作用,形状,目的に類似するという意味での形象,物,擬似パートナーであり,さらに,恒常的な現物としてのダンス練習器具にすれば良いことは,当業者が容易に想到でき,引用例2から示唆される「鍋」はダンス練習器具を示唆している。 同様に,口径が大きく約30?pで,長い取っ手と反対側に短い取っ手を持つ,女性の胴体や右腕の形状に似る,引用例2から示唆される「中華鍋」についても,ダンス練習器具を示唆している。 ウ当業者なら,「中華鍋」や「鍋」としては,重いふたや底はない,長い取っ手と反対側に短い取っ手を持つ,女性の胴体や右腕の形状に似る,底の深い「中華鍋」や「鍋」も,容易に想起できる。また,練習や運搬には不必要な重いふたや底を除くことは,当業者であれば容易に想起できる。 また,長い取っ手と反対側に短い取っ手を持つ,女性の胴体や右腕の形状に似る,底の深い,重いふたや底を除いた,中華鍋,鍋についても,擬似パートナーであるがゆえに「中華鍋」や「鍋」はダンス練習器具を示唆している。 エ社交ダンスにおいてはいろいろなよいホールドがあるところ,踊り手の手が保持する背面位置を,仮に,首から臀部上端の背中の範囲として,社交ダンスの練習器具として示唆される「中華鍋」や「鍋」は,本件発明1と同一の構成要素を有している。 オ長い取っ手と反対側に短い取っ手を持つ,女性の胴体や右腕の形状に似る,底の深い,重いふたや底を除いた,「中華鍋」や「鍋」であれば,側面も長く,ダンスの種類のうち,女性の首の付け根から,肩甲骨,背中中央,臀部の上まで,女性の左右の脇で右掌で触れ保持することにより,すべての社交ダンスに対し,よいホールド,すなわちよい姿勢が練習できるから,社交ダンスの練習用としては,社交ダンスの種類に対し万能型である。 本件発明1のフォーム矯正具は,対応できる社交ダンスの種類を限定するために,引用例2などから想起される「中華鍋」や「鍋」が持つ背面位置,すなわち,女性の首の付け根付近,肩甲骨付近,背中中央付近,臀部の上付近,女性の左右の脇付近を除去し,肩甲骨付近のみを残したものであり,開示技術から示唆されるダンスの練習器具から,機能や作用を減縮し,支持板形状にしたにすぎない発明である。 〔被告の主張〕(1)物品には用途があり,その物品は本来の用途に即した役割を果たすのに相応しい形態(構成)を備えている。中華鍋においても同様であり,中華料理を調理するのに都合が良いように,調理用食材を入れる鍋本体及び本体に付いている柄のそれぞれの形態は構成されている。 したがって,中華鍋は,本来,社交ダンスの姿勢を矯正することを目的とする練習器具としての形態に適合する形態を備えていないことは明らかである。まして,引用例2に記載されている内容の存在が本件発明1の進歩性を否定する技術文献となり得る旨の原告の言い分は,中華鍋の技術分野や中華鍋の本来の機能・作用を全く顧慮していない主張である。 (2)また,鍋や中華鍋の柄は,当該鍋の側面から外方に取り付けてあり,そして,その柄の先端は鍋の上周縁位置よりやや高い位置に,かつ鍋の調理を操作しやすい長さに設定されているのが一般的である。 したがって,このような柄の先端位置の高さや長さでは,仮に中華鍋を下から抱えるように右手でホールドを作ったとしても,左手の所定の高さ位置を保持することができず,現実に柄付きの中華鍋を社交ダンス用の姿勢矯正具として使用することはもともと無理である。 一方,左手の所定の高さを確保すれば,鍋本体を大きく傾けなければならず,右手でのホールドを十分に作ることが困難になる。 (3)本件発明1は,パートナーを想定した背面位置に添えることが可能な奥行きを有するリング状部位と,及び該リング状部位から垂下する支持板と,から構成される上体矯正部と,踊り手の手をパートナーと組する想定位置に保持し得るハンド保持部とを巧みに組み合わせて有機的に結合し,踊り手の基本姿勢を全体的に習得できる顕著な作用効果を有し,一つのまとまった製品として市場に提供可能であることに鑑みれば,当業者といえども,引用発明1ないし11に基づいて容易に想到し得るとは到底いえないものである。 よって,本件発明1は,特許法29条2項の規定に該当するものではなく,同法123条1項2号の規定に該当せず,無効理由を有していないことは明らかである。 3取消事由2について〔原告の主張〕(1)引用例1でダンスの練習器具を示唆する「図のテニスラケット」と,引用例3,5,8及び9で開示された技術をもってすれば,本件発明2は当業者が容易に想到できる。 また,引用例2でダンスの練習器具を示唆する「中華鍋」「鍋」と,引用例3,10及び11で開示された技術をもってすれば,本件発明2は当業者が容易に想到できる。 さらに,本件発明2は,引用例1と5から,あるいは,引用例2と11から,当業者なら容易に想到でき,特許を受けることができるものではない。 (2)引用例1でダンスの練習器具を示唆する「図のテニスラケット」と,引用例4,5,8及び9で開示された技術をもってすれば,本件発明4は当業者が容易に想到できる。 また,引用例2でダンスの練習器具を示唆する「中華鍋」「鍋」と,引用例4,10及び11で開示された技術をもってすれば,本件発明4は当業者が容易に想到できる。 (3)引用例1でダンスの練習器具を示唆する「図のテニスラケット」と,引用例5,8及び9で開示された技術をもってすれば,本件発明5は当業者が容易に想到できる。 また,引用例2でダンスの練習器具を示唆する「中華鍋」「鍋」と,引用例5,10及び11で開示された技術をもってすれば,本件発明5は当業者が容易に想到できる。 (4)よって,本件発明2,4及び5が,引用発明1ないし11と同一でなく,また,引用発明1ないし11から容易に想到できたものでもないことは明らかであるとの本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕本件発明2は本件発明1を技術的に限定しており,本件発明4及び5は本件発明1を特定する事項をすべて含み,さらに他の発明を特定する事項を付加したものであるから,引用発明1ないし11に基づき容易に想到できないことは明らかである。 4取消事由3について〔原告の主張〕(1)審判の手続中に,原告が,ダンスの技術を多く記載しているので審判請求書の内容説明をしたいと申し出たにもかかわらず,採用されなかった。これにより,正当な理由なくして争点整理が行われずに本件審決がされたから,違法であり,本件審決は取り消されるべきである。 (2)引用例1の「テニスラケット」や,引用例2の「中華鍋」や「鍋」のイメージ,形象が良いホールドの練習に役立つ器具を示唆するかという検討と判断は非常に重要である。被告は,審判事件答弁書(甲14)において,引用例1の「テニスラケット」や,引用例2の「中華鍋」や「鍋」のイメージから,「代用品」と記載して本件発明1を想起するものではないと主張したから,代用品が良いホールドの練習に役立つ器具を示唆するかという点を審理すべきであった。 重要な主張のある上記答弁書の内容を審決に採用することは,審判官の裁量によるが,正当な理由なくして採用しなかったのは,公正で公平な判断をしなかった点で違法であるから,本件審決は取り消されるべきである。 〔被告の主張〕争う。 5取消事由4について〔原告の主張〕(1)踊り手が男性の場合,本件発明1に記載された「規定の位置(A)」「規定の背面位置(G)」,本件発明4及び5に記載された「規定の位置」は,明確でなく,実施可能要件を満たしておらず,記載不備である。踊り手が女性の場合も同様である。 (2)踊り手が男性の場合,本件発明1に記載された「規定の位置(A)」「規定の背面位置(G)」,本件発明4及び5に記載された「規定の位置」が不明であり,不明であるならば,引用例1の「テニスラケット」や,引用例2の「中華鍋」や「鍋」から,当業者なら容易に想到でき,特許を受けることができるものではないから,判断を誤った本件審決は取り消されるべきである。踊り手が女性の場合も同様である。 〔被告の主張〕特許無効の審決取消訴訟の審理対象は,特許庁の審判手続において現実に争われ,かつ審理判断された特定の無効原因に関するもののみであるから,原告が新たに持ち出した特許法36条4項1号に係る無効原因の主張に対しては,被告は答弁しない。 第4当裁判所の判断1取消事由1-1について(1)引用例1の記載ア引用例1には,次の事項が記載されている。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を示す。 (ア)48頁には,「正しい組み方ができたら,男性のリードが正しく伝わるために最も重要な「フレーム」について説明しましょう。/テニスのラケットを思い浮かべてください。ラケットには楕円形のフレームがあり,その中にガットという網が張られ,そのガットでボールを打ちます。その時,いくら強打してもラケットが何ともないのは,まわりのフレームがしっかりしているからです。/ダンスにおけるフレームとは,ホールドした右手の先から腕,背中を通って,左手の指先までを指します。フレームの右手指先と左手の間隔を常に一定に保つことが踊りを美しく見せ,踊りやすい,くずれないホールドをつくる重要なポイントなのです。」との記載がある。 (イ)49頁には,「◎踊りやすく,くずれないしっかりしたフレームのイメージ」として,男性がホールドを作る姿勢の図と,男性の右腕部の上にラケットのフレーム部を重ね,男性の左手の上にラケットのグリップ部を重ねて,テニスラケットが図示されている。 (ウ)48頁には,「◎AとBの間隔を,常に一定に保つことが,ホールドをくずさないコツ。両手の指にヒモをむすんで練習すると良い」として,男性が左手の指Aと右手の指Bとの間にヒモをむすんで,ホールドを作る姿勢の練習を行っていることが図示されている。 (エ)52頁には,「男性の右手の中指は,常に自分のおへその前(身体の中央)においておくことが大切です。私は一人で練習(シャドー)する時に,レコードのEP盤などを右手中指とおへその間に挟んで練習しました。」との記載がある。 (オ)53頁の左下方には,「レコードのEP盤などを使って練習しよう」として,男性が右手中指と身体との間にレコードを挟んで,ホールドを作る姿勢の練習を行っていることが図示されている。 イ上記の記載事項によると,引用例1には,ホールドを作ったときの男性のフレームのイメージは,テニスラケットをイメージするとよいことが記載されているということができる。もっとも,上記ア(イ)の49頁の図は,男性がテニスラケットを抱えている状態を示しているとはいえず,また,その他,ダンスの練習にテニスラケットを実際に使用することを説明していると解することができる記載はないから,引用例1に,テニスラケットをダンスの練習に実際に使用することについてまで記載されているということはできない。 その一方で,上記ア(ウ)(エ)(オ)のとおり,引用例1には,ダンスの練習に,ヒモやレコードのEP盤を使用することについて記載されているところ,当該ヒモやレコードのEP盤は,本来,ダンスの練習に用いることを目的とした物でないことは明らかであるのに,上記ア(ウ)(エ)(オ)の記載は,これらの物を実際に使用することがダンスの練習に役立つという趣旨でこれを理解することができる。 そうすると,テニスラケットについても,ヒモやレコードのEP盤などと同様に,単に社交ダンスのフォームをイメージするにとどまらず,実際にダンスに使用して練習することがフォームの習得に役立つと考えることも,あながち不自然であるとまでいうことはできない。 ウそして,引用例8には,テニスラケットの長さは670〜690?o程度,フレーム厚さは17〜20?o程度,重量(ただし,ガットの重量は除く。)は300〜350g程度と記載されており(【0003】,【0004】),検甲3のテニスラケットの長さは約685?o,フレームの厚さは約25?oであることが認められる。そうすると,一般的なテニスラケットは,ホールドを作る姿勢の男性が,その右腕でラケットのフレーム部を抱え,その左手でラケットのグリップ部を持つことができる程度の大きさであるということができる。 よって,テニスラケットは,本来ダンスの練習に用いることを目的とした物ではないが,引用例1の記載事項を契機として,テニスラケットをダンスの練習に実際に使用することについて示唆を受けることそれ自体はあり得るところといわなければならない。 そうすると,引用例1には,「テニスラケット」をダンスの練習に使用することについては直接的な記載はないものの,その示唆があるというべきである。 エそこで,以下,引用例1に上記の示唆があることを前提にした上で,本件発明1について,「テニスラケット」との同一性,「テニスラケット」に基づく容易想到性を判断することとする。 (2)本件発明1と「テニスラケット」との同一性ア本件発明1の要旨は,前記第2の2(1)記載のとおりである。 これに対し,引用例1には,「テニスラケット」について,その具体的な構成や大きさの記載はないが,証拠(甲8,検甲3)及び弁論の全趣旨を総合すれば,引用例1に記載された「テニスラケット」は,リング状のフレーム部,片手で把持できるグリップ部,フレームとグリップ部をつなぐ棒状のシャフト部とから構成され,男性を想定した場合,右腕でラケットのフレーム部を抱え,左手でラケットのグリップ部を持つことができる程度の大きさであるということができる。 イそこで,引用例1に記載された「テニスラケット」をダンス練習に使用する場合を想定して,本件発明1と上記「テニスラケット」とを対比する。 引用例1の49頁に図示される状態からすると,「テニスラケット」をダンス練習に使用する場合の位置関係では,本件発明1の「リング状部位(2)」は引用例1に記載された「テニスラケット」のフレーム部に相当し,本件発明1の「ハンド保持部(3)」は上記「テニスラケット」のグリップ部に相当するということができる。 一方,引用例1に記載された「テニスラケット」は,本件発明1の「支持板(5)」及び「支持手段(6,13)」を有していない。 ウまた,本件特許明細書(甲12)には,以下の記載がある。 【0006】ここで支持手段とは,踊り手の上体正面側に本発明の矯正具をしっかりと保持できる技術的手段のすべてを含む概念である。…【0007】このように形成すると,本発明の矯正具を踊り手の上体の正面側に支持手段を介して装着した場合に,前記矯正具のうち,上体矯正部が踊り手の上体正面側に当接して該踊り手の上体を垂直な姿勢を保ち,さらに,前記上体矯正部に備わるハンド保持部によって,踊り手の一方の手が実際にパートナーと組んで踊る場合と同一の位置に保持される。しかも踊り手の他方の手は,奥行きを有する上体矯正部の背面位置に添えることで,実際にパートナーと組んで踊る場合と同一の位置に保持されるので,これにより,踊り手が正しい上体姿勢を保ちながら,実際にパートナーと踊っている状態に近いかたちで社交ダンスのフォームを習得することが可能となる。 【0014】まず,上体矯正部1の構成を説明すると,この上体矯正部1は,合成樹脂素材で形成した軽量で且つ周壁14の肉厚が5?o厚のリング状部位2を保有しており,さらに,前記リング状部位2の周壁14の一端部には,下方に垂下する支持板5が設けてある。また,支持板5の下端部には下向きに口が開いたフック金具6が固着してあり,このフック金具6は,踊り手10の腰ベルト13の上方側に前記口を差込んで引っ掛けることで,上体矯正部1を踊り手10の上体11正面側に保持できる。 【0018】まず,踊り手10の腰ベルト13上方側に上体矯正部1の支持板5のフック金具6を引っ掛け,これにより,踊り手10の上体11正面側に,前記上体矯正部1のリング状部位2が該踊り手10の鳩尾部分に当たるように位置決めして本矯正具の踊り手10への取付けを行う。次いで,前記上体矯正部1に取付けたリードアーム3の上端部を踊り手10が左手で掴み,一方,踊り手10の右手は,サポートアーム4の下方側に右腕を差し入れるとともに,前記上体矯正部1のリング状部位2の背面側位置において,右腕を回り込ませた形で踊り手10の右手を軽くリング状部位2の背面位置Gに添える。 エ上記の記載事項によると,本件発明1の,踊り手(10)の鳩尾部分に当接するリング状部位(2)から下方に垂下する「支持板(5)」と,支持板(5)の下端部を踊り手(10)の正面側に保持する「支持手段(6,13)」とは,上体矯正部(1)が踊り手の上体正面側に当接して当該踊り手の上体を垂直な姿勢を保ち,踊り手が正しい上体姿勢を保ちながら,社交ダンスのフォームを習得することを可能にするという,社交ダンス用フォーム矯正具において有用な意義を担っているということができる。 オそうすると,「支持板(5)」及び「支持手段(6,13)」に相当する構成を欠く引用例1に記載された「テニスラケット」は,それがダンスの練習に実際に使用される場合を想定しても,本件発明1に係る社交ダンス用フォーム矯正具と同一ということはできない。 (3)「テニスラケット」に基づく本件発明1の容易想到性ア上記(2)のとおり,本件発明1は,「該リング状部位(2)から下方に垂下する支持板(5)とを備え,前記支持板(5)の下端部は,踊り手(10)の正面側に支持手段(6,13)を介して保持されて」との構成を有しているのに対し,引用例1に記載された「テニスラケット」は,これをダンス練習に用いるとした場合にあっても,少なくとも,上記のような構成を有していないという点において相違する。 イそして,「テニスラケット」は,本来,テニスに使用する道具であり,ダンスの練習に使用することを目的とした社交ダンス用フォーム矯正具でないことは明らかであるところ,引用例1に「テニスラケット」をダンスの練習に実際に使用することが示唆されているとしても,引用例1ないし11のいずれにも,ダンスの練習に供するために,「テニスラケット」に,「リング状のフレームから下方に垂下する支持板」及び「支持板の下端部を踊り手の正面側に保持する支持手段」を設ける点について,示唆するところはない。 そうすると,「テニスラケット」をその本来の用途とは異なるダンス練習用に使用した上で,さらに,「テニスラケット」に実際には備えられていない支持板及び支持手段を新たに設けて,本件発明1の上記相違点に係る構成を有する社交ダンス用フォーム矯正具となすことは,当業者が容易に想到し得ることということは到底できない。 ウなお,原告は,引用例8に開示されたテニスラケットのフレーム厚さは50?oであっても,斜めにすることにより,フレームの側面にリング状部位と支持板相当部位を備えることは容易にできると主張する。 しかしながら,引用例8に記載されたテニスラケットは,テニスに使用される物であって,ダンス練習に使用するための物とはいうことができないから,そのフレームの厚さは,使い手の上体正面側に当接して上体を垂直な姿勢に保つなどの目的のために,フレームを使い手の鳩尾部分に当接させたり,そこから垂下するために定められるものとはいうことができない。そうすると,フレーム厚さが50?oあることをもって,テニスラケットが本件発明1の「支持板(5)」を有するとはいうことができないし,支持板及び支持手段を設けて,本件発明1の上記相違点に係る構成を有する社交ダンス用フォーム矯正具となすことが容易であるとはいえない。 したがって,上記原告の主張は,採用することができない。 また,引用例9に記載されたテニスラケットも,フレーム6の外周に耳部3を有するフレーム用保護体1を備えるとはいうことができても,引用例9の記載事項からみて,ダンス練習に使用するための物とはいうことができず,そのフレーム用保護体1は,使い手の上体正面側に当接して該上体を垂直な姿勢に保つなどの目的のために,フレームを使い手の鳩尾部分に当接させたり,そこから垂下するために定められたり,フレームを使い手の上体正面側にしっかりと保持させたりするものということができない。そうすると,テニスラケットがフレーム用保護体1を備えることをもって,引用例9のテニスラケットが本件発明1の「支持板(5)」や「支持手段(6,13)」を有するとはいうことができないし,支持板及び支持手段を設けて,本件発明1の上記相違点に係る構成を有する社交ダンス用フォーム矯正具となすことが容易であるとはいえない。 (4)小括以上のとおり,引用例1に「テニスラケット」をダンスの練習に実際に使用することが示唆されているとしても,上記「テニスラケット」は,本件発明1と同一であるということはできないし,また,上記「テニスラケット」に基づいて本件発明1が容易に想到できるということもできない。 そうすると,本件発明1は,「テニスラケット」と同一ではなく,また,引用発明1ないし11から容易に想到できるともいえないとした本件審決の判断は,その結論において,正当といわなけれはならない。 したがって,取消事由1-1は,理由がない。 2取消事由1-2について(1)引用例2の記載ア引用例2には,「ホールドの基本[男性] 」として,次の事項が記載されている(28頁上段14行〜29頁下段7行)。 正太「組む順序が分かったら,次はキレイで大きく,かつ居心地の良いホールドについて考えてみよう。まず男性の注意点からだ」【男性のホールド】1)左右の肘が,ボディからなるべく遠くになるようにブン抜く。左右の肘のフロアーからの高さは,同じにする2)左グリップは,常に体の前方に位置するように保っておく3)水平に延ばした左前腕を90度に立て,それ以上内側には折り込まない[80度ではだめ。あくまでも90度に]4)左グリップの中には,生卵を入れる。グリップを強く握り過ぎると,卵は潰れるし,弱いと落ちてしまう。落とさず,潰さずの強さで握る。 5)左グリップの高さは,男性の口から目の高さがちょうどいい。上げ過ぎない。 ただし女性が小さい場合は,女性に合わせて調節する6)左右の肘は常に肩よりもやや前方に置く7)左ホールドよりも右ホールドを出来るだけ広く作る8)右肘と右のこめかみを出来るだけ離す9)腕の下側に緊張感を通してホールドする。でっかい“中華鍋”を下から持ち上げるつもりで作る。※A10)グリップは腋の下の筋肉(広背筋)でする。指先だけでしない。※B11)女性の右肘関節を通して前方を見る12)右手の指は5本とも揃える13)右手は下から女性の背中をすくう※A・・中華鍋を下から抱えるように正太「ホールドの緊張感を作るときに,腕の上側に緊張感を通してはだめだよ。 これだと肩が盛上がりやすいし,女性に対して被って行く感じになっちゃうから,女性に重い思いをさせることになる」チー坊「だから,ホールドの緊張感は腕の下側に通さなくてはいけないの。例えば,大きくて重い“中華鍋”を下から抱えるとするでしょ。このとき,腕にはどんな力が働くかしら?」正太「鍋を落とさないように,腕全体が下から支えようとするよね。これと同じように,女性を下からサポートしていくホールドでなくてはいけないよ」チー坊「そのために,男性の右手は女性の背中の肉を下から“すくい上げて”くれるようなフィーリングが必要なの」正太「“上げて寄せて”ってCMは聞いたことあるな?まあ,力を入れないこと。 軽く触っているだけでいいんだ」イ上記の記載事項によっても,引用例2には,「中華鍋」をダンスの練習に実際に使用することについてまで記載されているということはできないし,「中華鍋」は,本来,ダンスの練習に使用することを目的とした物でないことは明らかである。 もっとも,上記の記載事項によると,引用例2には,男性が女性を下からサポートしていくホールドを作るためのフィーリングを説明するために,大きくて重い「中華鍋」を下から抱えるときの腕への力の入れ方が例示されているということができる。そして,引用例2の記載から,大きくて重い「中華鍋」を利用することがダンスの練習に役立つものであると理解することができる。 そうすると,上記事項をきっかけとして,引用例2の記載事項から,「中華鍋」をダンスの練習に使用することについて,示唆を受けることが必ずしもあり得ないわけではない。 ウなお,原告は,本件審決は,引用例2における重要な証拠である「鍋」を実質上無視しているなどと主張する。しかしながら,上記ア認定の「鍋を落とさないように,腕全体が下から支えようとするよね。」との記載における「鍋」は,その前後の文脈から,「中華鍋」と同義であることは明らかである。よって,本件審決が引用例2について「中華鍋」以外の「鍋」を判断しなかったことが誤りとはいえない。したがって,この点に関する原告の主張は失当である。 エ上記アないしウによると,引用例2には,「中華鍋」や「鍋」をダンスの練習に実際に使用することについては直接的な記載はないものの,その示唆があるというべきである。 オそこで,以下,引用例2に上記の示唆があることを前提にした上で,本件発明1について,「中華鍋」「鍋」との同一性,「中華鍋」「鍋」に基づく容易想到性を判断することとする。 (2)本件発明1と「中華鍋」「鍋」との同一性ア引用例2について(ア)引用例2には「中華鍋」について具体的な構成や大きさの記載はない。しかしながら,引用例2の「大きくて重い“中華鍋”を下から抱えるとするでしょ。」との記載から,当該「中華鍋」は,比較的大きく重量のある丸底の鍋であるということができる。 なお,原告は,引用例2の「鍋」の形状には底が深いものや,長い柄のついたものもあると主張するが,引用例2の記載事項から,原告が主張する具体的な構成の「鍋」が特定されているとはいうことはできないから,原告の主張は採用することができない。 (イ)以下,引用例2に記載された「中華鍋」をダンス練習に使用する場合を想定して,本件発明1と引用例2に記載された「中華鍋」とを対比すると,「中華鍋」を下から抱える状態では,「中華鍋」の丸底をなす鍋面が本件発明1の「リング状部位(2)」に相当するとしても,引用例2に記載された「中華鍋」は,本件発明1の「ハンド保持部(3)」,「支持板(5)」及び「支持手段(6,13)」を有しているということはできない。 (ウ)本件発明1は,請求項1に記載のとおり,「ハンド保持部(3)」は踊り手(10)の右手又は左手をパートナーと組する場合を想定した規定の位置(A)に保持し得るものであり,また,前記1(2)判示のとおり,「支持板(5)」及び「支持手段(6,13)」は,社交ダンス用フォーム矯正具において有用な意義を担っているということができる。 (エ)そうすると,「ハンド保持部(3)」,「支持板(5)」及び「支持手段(6,13)」に相当する構成を欠く引用例2に記載された「中華鍋」は,それがダンスの練習に用いることが示唆されていると解したとしても,本件発明1に係る社交ダンス用フォーム矯正具と同一であるとはいうことは到底できない。 イ引用例10について(ア)また,原告は,本件発明1と引用例10の「鍋」が同一であるとはいえないとした本件審決の判断は誤りであると主張する。 (イ)引用例10の特許請求の範囲の請求項1には,「鍋本体に取っ手を取り付けた炒め鍋であって,鍋本体は,平面状の底面とこの底面の取っ手の反対側のみにわずかに立ち上げたステージ部とからなる底面部と,この底面部から立ち上げた側面とからなるものである炒め鍋。」と記載され,図1ないし図6には,平面状の底面から曲面を持って側面を立ち上げ,この側面に取っ手を設けた炒め鍋が図示されている。 しかしながら,引用例10には,炒め鍋をダンス練習に用いる点について何ら記載はなく,また,この点を示唆する記載も見いだされない。さらに,炒め鍋がダンスの練習器具と一般的に認識されているとする証拠はなく,また,そのように解することが自然であるともいうことができない。 (ウ)そうすると,引用例10に記載された炒め鍋をダンスの練習器具と解することはできないのであるから,上記炒め鍋が本件発明1の「社交ダンス用フォーム矯正具」と同一であるということはできない。 (3)「中華鍋」「鍋」に基づく本件発明1の容易想到性ア上記(2)のとおり,引用例2に記載された「中華鍋」をダンス練習に用いるとした場合にあっても,少なくとも,本件発明1は,「踊り手(10)の右手又は左手をパートナーと組する場合を想定した規定の位置(A)に保持し得るように前記上体矯正部(1)に備わるハンド保持部(3)とから構成し,」及び「該リング状部位(2)から下方に垂下する支持板(5)とを備え,前記支持板(5)の下端部は,踊り手(10)の正面側に支持手段(6,13)を介して保持されて」との構成を有しているのに対し,引用例2に記載された「中華鍋」は,このような構成を有していないという点において相違する。 イそして,「中華鍋」は,本来,料理に使用する道具であり,ダンスの練習に実際に使用することを目的とした社交ダンス用フォーム矯正具でないことは明らかであるところ,引用例2に「中華鍋」をダンスの練習に利用できることが示唆されていると解したとしても,引用例1ないし11のいずれにも,ダンスの練習に実際に利用するためには,「中華鍋」に,踊り手の右手又は左手をパートナーと組する場合を想定した規定の位置に保持し得るハンド保持部,丸底の鍋面から下方に垂下する支持板,及び,支持板の下端部を踊り手の正面側に保持する支持手段を設ける必要があるところ,これらの点について記載あるいは示唆するところは見いだされない。 そうすると,「中華鍋」をその本来の用途とは異なるダンス練習に使用した上で,さらに,「中華鍋」にハンド保持部,支持板及び支持手段を設けて,本件発明1の上記相違点に係る構成を有する社交ダンス用フォーム矯正具となすことは,当業者が容易に想到し得ることということはできない。 ウなお,原告は,「鍋」についても,ダンス練習器具を示唆していると主張する。 引用例10及び11のほか,甲25,甲26及び甲30にも,「鍋」についての記載があるが,上記いずれの証拠においても,「鍋」をダンスの練習に使用する点について記載あるいは示唆するところは見いだされない。 したがって,ダンスの練習に使用することを目的とした道具ではない「鍋」に基づいて,異なる用途の社交ダンス用フォーム矯正具が容易に想起されるとはいうことができず,当業者において本件発明1を容易に想到し得るものということはできないから,原告の上記主張を採用することはできない。 エまた,原告は,本件発明1のフォーム矯正具は,引用例2などから想起される「中華鍋」や「鍋」が持つ背面位置,すなわち,女性の首の付け根付近,肩甲骨付近,背中中央付近,臀部の上付近,女性の左右の脇付近を除去し,肩甲骨付近のみを残したものであり,開示技術から示唆されるダンスの練習器具から,機能や作用を減縮し,支持板形状にしたにすぎない発明であると主張する。 しかしながら,「中華鍋」や「鍋」がダンスの練習に使用されると解したとしても,「中華鍋」や「鍋」は,料理の道具という本来の目的を失うことなく,代用品としてダンス練習の用に供せられるにすぎないといえるのであるから,ダンス練習の器具であるとはいえない。 そうすると,「中華鍋」や「鍋」の一部を除去して,本来の目的を失わせ,本件発明1が備える構成として,本件発明1のフォーム矯正具とすることが容易に想起されるということもできない。 したがって,原告の上記主張も採用することができない。 (4)小括以上のとおり,引用例2に「中華鍋」をダンスの練習に使用することが示唆されていると解したとしても,「中華鍋」や「鍋」と本件発明1とが同一であるということができず,また,「中華鍋」や「鍋」に基づいて本件発明1が容易に想到できるともいうこともできない。 そうすると,本件発明1は「中華鍋」や「鍋」と同一ではなく,また,引用発明1ないし11から容易に想到できるともいえないとした本件審決の判断は,結論において正当である。 したがって,取消事由1-2は,理由がない。 3取消事由2について(1)本件発明2原告は,本件発明2が,引用発明1ないし11と同一でなく,また,引用発明1ないし11から容易に想到できたものでもないことは明らかであるとの本件審決の判断は誤りであると主張する。 しかしながら,本件発明2は,本件特許請求の範囲の請求項2に記載されるとおり,本件発明1のすべての構成を含む発明であるから,本件発明1と同じく,引用発明1ないし11と同一でなく,また,引用発明1ないし11から容易に想到できたものでもないということができる。 したがって,原告の主張は失当である。 (2)本件発明4及び5原告は,本件発明4及び5が,引用発明1ないし11と同一でなく,また,引用発明1ないし11から容易に想到できたものでもないことは明らかであるとの本件審決の判断は誤りであると主張する。 しかしながら,本件発明4及び5は,本件特許請求の範囲の請求項4及び5に記載されるとおり,本件発明1のすべての構成を含む発明であるから,本件発明1と同じく,引用発明1ないし11と同一でなく,また,引用発明1ないし11から容易に想到できたものでもないということができる。 したがって,原告の主張は失当である。 (3)小括以上のとおり,取消事由2は理由がない。 4取消事由3について(1)原告は,本件審判の審理期間中に,原告が審判請求書の内容説明をしたいと申し出たにもかかわらず採用されず,これにより,正当な理由なくして争点整理が行われずに審決されたこと,審判事件答弁書の「代用品」と記載して本件発明1を想起するものではないと主張した点を正当な理由なくして採用しなかったのは公正で公平な判断をしなかったことが違法であると主張する。 (2)しかしながら,審判における審理は,審判請求書に記載された請求の趣旨及び理由について(特許法131条),職権による裁量をもって行われるのであり(同法152条,153条),本件審判の審理中に原告の内容説明の申し出を採用しなかったことや,答弁書の主張を採用しなかったことが,直ちに違法ということはできない。 また,上記のとおり,本件発明1,2,4及び5は,引用発明1ないし11と同一でなく,また,引用発明1ないし11から容易に想到できたものでもないから,本件審決の結論に誤りがあったとはいえない。 したがって,本件審判の手続が本件審決の結論に影響したということはできないから,原告の主張は採用することができない。 (3)小括以上のとおり,取消事由3は理由がない。 5取消事由4について(1)特許無効審判の審決取消訴訟において,その判断の違法が争われる場合には,専ら当該審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効理由に関するもののみが審理の対象とされるべきものであり,それ以外の無効理由については,上記訴訟において,これを審決の違法事由として主張し,裁判所の判断を求めることを許さないとするのが特許法の趣旨である。したがって,特許無効審判の取消訴訟においては,審判の手続において審理判断されなかった具体的な無効理由をもって,審決を違法とする取消事由として主張することができないものである(最高裁昭和42年(行ツ)第28号昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)。 (2)証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 ア原告は,平成20年4月3日,本件特許を無効とすることを求める審判を請求し,その理由として,本件発明1,2,4及び5は,引用発明1ないし7から容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと主張した(甲13)。 イ原告は,平成20年8月25日,審判事件弁駁書を提出し,新たな無効理由の引用例として,引用例2の一部を追加するとともに,引用例8ないし11を追加し,本件発明1,2,4及び5が容易に発明することができたものであると主張した。また,同弁駁書には,本件発明1の要素技術が引用例1,2及び9とそれぞれ同一であるとの記載もある(甲15)。 ウしかし,審判請求書にも審判事件弁駁書にも,本件発明1,4及び5の記載が明確でなく,実施可能要件を満たしていないとか,そのために容易に想到できるなどという記載はなく,本件審決も,上記の点について判断していない(甲13,15,弁論の全趣旨)。 (3)原告は,本件発明1,4及び5の記載が明確でなく,実施可能要件を満たしていないとか,そのために容易に想到できるなどと主張するが,上記主張は,特許無効審判手続において原告が主張した無効理由にはないものであって,本件審決においても審理判断されていなかったものであるから,上記(1)に説示したとおり,本件訴訟において,原告がこれを取消事由として主張することは許されない。 6原告のその他の主張について原告は,本件審決に対する不服をるる主張するが,本判決が要約した以上の取消事由のほか,なお主張するところがあるとしても,以上に要約した以外に検討を要する主張はないか,あるいは,失当というべきことが明らかであるから,原告のその他の主張はいずれも理由がない。 7結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 高部眞規子 |
裁判官 | 杜下弘記 |