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関連審決 不服2006-19093
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  使用方法 /  インターネット /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  下位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明の利用 /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10445号 審決取消請求事件
原告東日本メディコム株式会社
同訴訟代理人弁理士橋本克彦
被告特許庁長官
同 指定代理 人和田財太田口英雄 山本章裕 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/08/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2006-19093号事件について平成20年10月8日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,補正後の特許請求の範囲を下記2とする原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲8の1)及び拒絶査定発明の名称:「薬剤検索システム」出願番号:特願2000-152960号出願日:平成12年5月24日手続補正日:平成18年5月8日(甲8の4。以下「本件補正」といい,本件出願に係る本件補正後の明細書(甲8の1及び甲8の4)を「本願明細書」という。)拒絶査定:平成18年7月26日付け(甲8の5)(2)審判請求手続及び本件審決審判請求日:平成18年8月31日(甲8の6。不服2006-19093号)本件審決日:平成20年10月8日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成20年10月29日2本願発明の要旨本件審決が対象とした本願発明(本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下,単に「請求項1」という。)に記載の発明)の要旨は,次のとおりである。
各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の検索項目毎の検索情報と,各薬剤の名称と外形のカラー写真と詳細な薬剤情報を記憶する記憶装置,モニタ,入力装置および前記各装置を制御する制御装置を備え,前記制御装置により前記記憶装置に記憶させた薬剤情報の複数の検索項目をモニタに表示させるとともに,前記入力装置で被検索薬剤に関して前記モニタに表示された複数の前記薬剤情報に関する検索項目のうちで該当する検索項目を順次選んで該当する内容を選択しその被検索薬剤に該当する薬剤情報の内容を入力し,この入力情報を前記制御装置により前記記憶装置に記憶させてある薬剤情報と順次,照合させる絞り込み検索を行い,前記被検索薬剤と一致する場合にその薬剤に関する薬剤の名称と外形のカラー写真と詳細な薬剤情報を作成して前記モニタに表示することを特徴とする薬剤検索システム。
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イないしキの周知例1ないし6に記載された技術を含む周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア引用例特開平11-56972号公報(甲1)イ周知例1株式会社日本電子出版平成9年12月20日発行の「医療とコンピュータ」8巻6号(通巻45号)の40頁から49頁までに掲載された池田俊也らによる「患者への薬剤情報提供に役立つCD-ROM」と題する記事(甲2)ウ周知例2同号の52頁から56頁までに掲載された加藤健次郎による「医薬品統括情報システム『薬師』」と題する記事(甲3)エ周知例3同号の63頁から65頁までに掲載された窪田敏之による「医者からもらった薬がわかる本」と題する記事(甲4)オ周知例4特開2000-29888号公報(平成12年1月28日公開。
甲5)カ周知例5特開2000-99048号公報(平成12年4月7日公開。甲6)キ周知例6株式会社工学社平成9年12月1日発行の「I/O」1997年12月号(22巻12号(通巻254号))の120頁から125頁までに掲載された「森羅万象」なる者による「WWW World Wide Web コンテンツ・ガイド『薬』と『ライブ映像』」と題する記事(甲7)(2)なお,本件審決が上記判断に当たって認定した引用発明並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。以下の文中の「/」は,原文の改行部分を示す。
ア引用発明(11頁1〜22行)各薬品を識別するための固有の番号である薬品識別ID,薬品名(商品名),薬の外観を識別しうる形状,薬の色,薬の用量・用法,効能・効果,副作用などの薬データであって,薬品識別ID,薬の外観を識別しうる形状,薬の色などを薬品検索項目とすることができる薬データを記憶する薬データ記憶部,/表示手段,/入力手段,/および前記薬データ記憶部,前記表示手段,前記入力手段を制御する演算部を備え,/前記演算部により前記薬データ記憶部に記憶させた薬データの複数の薬品検索項目を表示手段に表示させるとともに,/前記入力手段で対象患者に投薬する薬に関して前記表示手段に表示された複数の前記薬データに関する薬品検索項目のうちで該当する薬品検索項目を順次選んで,該当する検索キーワードを選択又は直接入力することによって,その対象患者に投薬する薬に該当する薬データの検索キーワードを入力し,/この検索キーワードを前記演算部により前記薬データ記憶部に記憶させてある薬データと照合させる検索を行い,/前記対象患者に投薬する薬と一致する場合にその対象患者に投薬する薬に関する薬品名(商品名),薬の用量・用法,効能・効果,副作用などの薬品情報を作成して前記表示手段に表示する,/ことを特徴とする,薬を選択する処理を行う投薬データ管理装置。
イ一致点(15頁24行〜16頁9行)各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の検索項目毎の検索情報と,各薬剤の名称と詳細な薬剤情報を記憶する記憶装置,/モニタ,/入力装置および/前記各装置を制御する制御装置を備え,/前記制御装置により前記記憶装置に記憶させた薬剤情報の複数の検索項目をモニタに表示させるとともに,/前記入力装置で被検索薬剤に関して前記モニタに表示された複数の前記薬剤情報に関する検索項目のうちで該当する検索項目を順次選んで,その被検索薬剤に該当する薬剤情報の内容を入力し,/この入力情報を前記制御装置により前記記憶装置に記憶させてある薬剤情報と,照合させる検索を行い,/前記被検索薬剤と一致する場合にその薬剤に関する薬剤の名称と詳細な薬剤情報を作成して前記モニタに表示する/ことを特徴とする薬剤検索システム。
ウ相違点(ア)相違点1(16頁12〜17行)本願発明では,「記憶装置」が各薬剤の「外形のカラー写真」を記憶しているのに対し,引用発明では,「記憶装置」が各薬剤の「外形のカラー写真」を記憶していない点,/そのため,/本願発明では,モニタに「外形のカラー写真」を表示するのに対し,引用発明では,モニタに「外形のカラー写真」を表示しない点(イ)相違点2(16頁19〜21行)本願発明では,「該当する内容を選択」することによって薬剤情報の内容を入力するのに対し,引用発明では,「該当する検索キーワードを選択又は直接入力する」ことによって薬剤情報の内容を入力する点(ウ)相違点3(16頁23〜24行)本願発明では,薬剤情報と「順次」照合させる「絞り込み」検索を行うのに対し,引用発明では,薬剤情報と照合させる検索を行う点4取消事由(1)引用発明の認定の誤り(取消事由1)(2)一致点の認定の誤り(取消事由2)(3)相違点1についての判断の誤り(取消事由3)(4)相違点2についての判断の誤り(取消事由4)(5)相違点3についての判断の誤り(取消事由5)第3当事者の主張1取消事由1(引用発明の認定の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,引用発明が「該当する薬品検索項目を順次選(ぶ)」との構成(以下「順次選ぶとの構成」という。)を有する旨の認定をしたが,以下のとおり,この認定は誤りである。
(1)引用例の記載引用例の記載(段落【0022】)によれば,引用発明は,入力手段2を用いて複数の検索キーワードを入力してから,マウス等を用いて検索実行ボタンB1をクリックするものであって,検索項目の入力順序が決められておらず,ランダムに検索項目を入力してから一括して検索を行うものであるところ,「順次」とは,「次々に順序どおりにすること」を意味し,検索についていえば,いわゆる絞り込み検索を行うことを意味するものであるから,引用発明は,順次選ぶとの構成を備えるものではない。
(2)被告の主張に対する反論ア被告は,本願発明の順次選ぶとの構成が,検索項目を1つずつ入力したり,複数回選択したりすることを意味するものにすぎないと主張するが,本願明細書の段落【0010】によれば,本願発明の順次選ぶとの構成は,順次照合させて行う絞り込み検索に係るものであり,引用発明における検索方法(操作者が任意に選んだ複数の検索項目を,操作上の制約から,順番に入力するものであって,仮に,複数の検索項目を一度に入力する手段を備えていれば,順次入力を行う必要のないもの)とは大きく異なるというべきである。
イ被告は,本願発明の順次選ぶとの構成について,本願明細書に,検索項目の選択順序を事前に定める旨の開示がないと主張するが,検索項目の選択順序を事前に定めることは,本願発明の構成とされておらず,また,検索項目の選択順序を事前に定めれば,本願発明は,未知の薬剤を特定するとの作用効果を奏しなくなるものである。
〔被告の主張〕(1)引用例の開示内容引用例には,「例えば,薬の商品名,学名,欧文名又は製薬会社名など複数の検索キーワードを入力手段2を用いて入力(する)」との記載(段落【0022】)があるほか,図5には,検索キーワードを入力するためのテキストボックスやコンボボックス(テキストボックスと,選択可能な項目の一覧が表示されその中から1つを選択することができるリストボックスとを組み合わせたもの)が示されているところ,複数の検索キーワードを入力する場合,テキストボックスやコンボボックスに同時に又は一度に入力することは不可能であって,入力者の意思に基づいて複数のキーワードを1つずつ順序どおりに入力すること,すなわち,順次テキストボックスやコンボボックスに入力することになることは明らかであるし,また,例えば,コンボボックスに検索キーワードを入力する場合,該当するコンボボックスを選択する手順及び当該選択により表示されるリストボックスの中から検索キーワードを選択する手順を順序どおり踏むこと,すなわち,当該各手順を順次踏む必要があることは,技術常識である。
そうすると,引用例には,順次選ぶとの構成が開示されているといえる。
(2)本願発明の「順次選ぶ」との構成本願明細書の記載(段落【0009】〜【0010】)をみても,検索項目の選択順序を事前に定める旨の開示はないから,本願発明の順次選ぶとの構成も,結局のところ,検索項目を入力する際,同時に又は一度に入力するのではなく,検索項目を1つずつ入力したり,複数回選択したりすることを意味するにすぎないと解釈すべきものである。
(3)小括したがって,「順次」の語の一般的な意味又は本願発明の順次選ぶとの構成の意味のいずれによっても,引用発明に係る本件審決の認定に,原告が主張する誤りはないというべきである。
2取消事由2(一致点の認定の誤り)について〔原告の主張〕(1)記憶装置が記憶する情報本件審決は,記憶装置が記憶する情報につき,「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の検索項目毎の検索情報と,各薬剤の名称と詳細な薬剤情報」の点で本願発明と引用発明とが一致すると認定したが,以下のとおり,この認定は誤りである。
ア引用発明について(ア)検索情報の内容引用発明における検索情報は,処方箋に記載された商品情報(商品名等。例えば,薬剤のカラーに係る情報につき,引用例(図5)には,専門的な分類である「色調」と記載されており,これは,専門家が処方箋に基づいてのみ認識することのできるものである。)であって,調剤した薬剤の詳細な情報を検索するためのものに限定されている(特に,引用例の図6の薬品情報画面W3に示されているのは,商品名別の薬品情報であり,商品名が不明の状態では機能しない。)。
この点に関し,本件審決(9頁7〜24行)は,引用例の図5中の検索項目「商品名」に「錠」と入力し,検索項目「学名」に「塩酸」と入力すれば,図6の商品名別情報ウィンドウに表示される薬品情報「エースコール錠1mg」を得ることができるなどとして,図5中の検索項目「商品名」に検索キーワードを入力することが検索の実行のための必須条件であると解釈しなければならない特段の事情はない旨の判断をしたが,処方された薬剤の商品名が不明のときは,図5に表示された7件の検索結果(薬剤の名称)から「エースコール錠1mg」を選択することはできない(引用例の段落【0024】参照)から,引用発明は,調剤された薬剤名(商品名)が明りょうであることを前提としているというべきである。
(イ)一括して記憶されること引用発明における検索情報及び薬剤情報は,「薬データ」として一括して記憶されるものである。
イ本願発明について(ア)「検索情報」の内容本願発明の「検索情報」は,患者が入手することのできる情報であって,商品名もこれに該当するが,商品名が不明の場合は,薬剤そのものがその外観に有している情報(以下「外観情報」という。)に限られる(本願明細書の段落【0001】。
例えば,薬剤のカラーに係る情報につき,本願発明においては,単に「色」とされている。)。
(イ)区別して記憶されること本願発明の「検索情報」及び「薬剤情報」は,明確に区別して記憶されるものである。
この点に関し,本件審決(13頁14〜20行)は,請求項1の記載(「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の検索項目毎の検索情報と,各薬剤の名称と外形のカラー写真と詳細な薬剤情報を記憶する記憶装置」)から,本願発明の「検索情報」及び「薬剤情報」が明確に区別して記憶されていると限定して解することはできない旨の判断をしたが,本願発明の「検索情報」は,外観情報に限られ,患者にとって既知の情報であるから,当業者であれば,本願発明の「検索情報」及び「薬剤情報」が明確に区別して記憶されているものと認識することができるというべきである。
続いて,本件審決(13頁28〜35行)は,本願発明の「各薬剤の名称」等の「薬剤情報」が検索項目でもあるとして,本願発明の「検索情報」及び「薬剤情報」が明確に区別されていない旨の判断をしたが,本願発明の「検索情報」は外観情報(患者が把握することのできる情報)であり,「薬剤情報」はその余の情報であるから,両者は,ハード的には区別されていないものの,患者が把握することのできる情報(検索情報)と患者が知りたい情報(薬剤情報)として,区別されているものである。
(2)被検索薬剤本件審決は,引用発明の「対象患者に投薬する薬」と本願発明の「被検索薬剤」とが一致すると認定したが,以下のとおり,この認定は誤りである。
ア引用発明について引用発明の「対象患者に投薬する薬」は,薬品情報を検索するため,少なくとも商品名,用量等が処方箋において明りょうな薬剤(処方箋に商品名が記載された薬剤)である。なお,引用発明の使用者が薬剤師(処方された薬剤を患者に調剤する者)であり,入力者(薬剤師)が処方内容を把握していることに疑義はなく,そのような入力者が調剤した薬剤に基づいて商品名を検索することなどあり得ない。
イ本願発明について本願発明の「被検索薬剤」は,患者が所持している薬剤であって,薬剤の名称や商品名が不明なものである。なお,本願発明は,薬剤の商品名等が不明な場合に使用することを前提として創作されたものであるが,薬剤の名称,商品名等が明りょうな場合にも使用することができるものである。
ウ被告の主張に対する反論被告は,本願発明の「被検索薬剤」の技術的意義が一義的に明確であるとして,これを解釈するに当たり本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されない旨の主張をするが,本件訴訟において当事者間に争いがあるように,本願発明の「被検索薬剤」の技術的意義が被告主張のように一義的に明確であるということはできない。
〔被告の主張〕(1)記憶装置が記憶する情報ア本願発明について(ア)「検索情報」の内容a特許請求の範囲の記載請求項1は,「検索情報」について,「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の(検索項目毎の)検索情報」と規定するところ,「各薬剤に関する剤形,色,識別コード」が「検索情報」の例示であることは明らかであるから,本願発明の「検索情報」が外観情報に限定されるとの原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして,失当である。
なお,原告も,取消事由2に係る主張(1)イ(ア)において,外観情報に該当しない「商品名」が本願発明の「検索情報」に該当することを自認している。
b発明の詳細な説明の記載の参酌仮に,本願発明の「検索情報」の技術的意義につき,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌するとしても,本願明細書の段落【0021】には,商品名を含む情報を検索項目として設定することができる旨の記載がされているのであるから,本願発明の「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の(検索項目毎の)検索情報」に外観情報に該当しない情報(商品名等)が含まれることは明らかである。
したがって,本願発明の「検索情報」が外観情報に限定されるとの原告の主張は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載にも基づかないものとして,失当である。
(イ)区別して記憶されていないことa特許請求の範囲の記載請求項1は,「検索情報」及び「薬品情報」について,「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の(検索項目毎の)検索情報と,…詳細な薬剤情報」と規定するところ,「各薬剤に関する剤形,色,識別コード」が「検索情報」の例示であることは明らかであるから,本願発明の「検索情報」は,外観情報に限定されるものではなく,「詳細な薬剤情報」に該当するものも含まれ,「検索情報」と「詳細な薬剤情報」とが重複する場合があるものと解される。
したがって,本願発明の「検索情報」が患者にとって既知の情報(患者が把握することのできる情報)である外観情報に限られ,「薬剤情報」がその余の情報(患者が知りたい情報)であるとして,両者が区別して記憶されている旨の原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして,失当である。
b発明の詳細な説明の記載の参酌仮に,本願発明の「検索情報」の技術的意義につき,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌するとしても,上記(ア)bのとおり,本願明細書によれば,本願発明の「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の(検索項目毎の)検索情報」に外観情報に該当しない情報(商品名等)が含まれることは明らかであるから,本願発明の「検索情報」は,外観情報に限定されるものではなく,「詳細な薬剤情報」に該当するものも含まれ,「検索情報」と「詳細な薬剤情報」とが重複する場合があるものと解される。
したがって,本願発明の「検索情報」が患者にとって既知の情報(患者が把握することのできる情報)である外観情報に限られ,「薬剤情報」がその余の情報(患者が知りたい情報)であるとして,両者が区別して記憶されている旨の原告の主張は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載にも基づかないものとして,失当である。
イ引用発明について引用例の記載(段落【0005】〜【0006】)及び図5の薬品検索メニュー画面において処方箋に通常記載されない事項(形状,色調等)の入力が可能とされていることに照らせば,引用発明は,患者自身が他の医療機関において現在服用中の医薬品情報を提示すること,すなわち,患者自身及び他の医療機関が当該服用中の医薬品に係る処方箋を所持していないことをも前提とするものであるといえるから,引用発明における検索情報は,処方箋に記載された商品情報に限定されるものではなく,患者及び医療機関の双方において利用可能な検索装置における検索情報一般を指すというべきである。
この点に関し,原告は,薬剤のカラーに係る情報につき,引用例(図5)には,専門的な分類である「色調」と記載されており,これは専門家が処方箋に基づいてのみ認識することのできるものであると主張するが,引用例の段落【0018】の記載及び薬データの具体例を示した図3(「色」欄)によれば,図5の「色調」欄の存在にもかかわらず,引用発明において入力の対象とされているのは,「色調」ではなく「色」であるといえるし,そもそも,「色調」の語は,一般的に用いられているものであり,専門的な分類ではないから,原告の主張は失当である。
また,原告は,引用例の図6の薬品情報画面W3に示されているのが商品名別の薬品情報であり,商品名が不明の状態では機能しないと主張するが,引用例の段落【0022】及び【0024】の記載に照らせば,図6に示されているのは,薬品検索メニュー画面によって特定された薬剤の情報を表示するための検索情報画面であって,薬品検索メニュー画面そのものではないから,原告の主張は理由がない。
ウ小括以上のとおりであるから,記憶装置が記憶する情報につき,「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の検索項目毎の検索情報と,各薬剤の名称と詳細な薬剤情報」の点で本願発明と引用発明とが一致するとした本件審決の認定に誤りはない。
(2)被検索薬剤ア本願発明について(ア)特許請求の範囲の記載請求項1は,「被検索薬剤」について,「少なくとも商品名,用量等が処方箋において明りょうな薬剤」(原告主張に係る引用発明の「対象患者に投薬する薬」)でないと限定するものではなく,また,「薬剤の名称や商品名が不明なもの」(原告主張に係る本願発明の「被検索薬剤」)であると限定するものでもなく,原告主張に係るこれらの下位概念の薬剤を含む1つの概念(上位概念)として一義的に明確に規定するものである。
したがって,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして,失当であるといわざるを得ない。
なお,原告も,取消事由2に係る主張(1)イ(ア)において,「商品名」が本願発明の「検索情報」に該当すること,すなわち,「商品名が明りょうな薬剤」が「被検索薬剤」に該当することを自認している。
(イ)「被検索薬剤」の限定解釈が許されないこと上記(ア)のとおり,請求項1は,「被検索薬剤」について,原告主張に係る下位概念の薬剤を含む1つの概念(上位概念)として一義的に明確に規定するものであるから,本願発明の「被検索薬剤」の技術的意義の解釈に当たり,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されない。
また,本願発明が属する薬剤検索の技術分野において,「薬剤の名称や商品名が不明な被検索薬剤」以外の「被検索薬剤」がおよそ存在しないことが当業者の一般的な技術常識となっているということもできない。この点は,原告も,本件審判請求の理由を記載した平成18年11月16日付け手続補正書(方式)(甲8の7)において,医師や薬剤師が本願発明を使用する場合がある旨の主張をし(3頁21行),本訴の取消事由2に係る主張(1)イ(ア)においても,「商品名」が本願発明の「検索情報」に該当すること,すなわち,「商品名が明りょうな薬剤」が「被検索薬剤」に該当することを自認する旨の主張をするところである。
したがって,本願発明の「被検索薬剤」を「薬剤の名称や商品名が不明なもの」に限定して解釈することは許されないというべきである。
(ウ)「被検索薬剤」の限定解釈が許されるとした場合仮に,本願発明の「被検索薬剤」を「薬剤の名称や商品名が不明なもの」に限定して解釈することが許され,本件審決が一致点の認定を誤ったといえるしても,本件審決(20頁24行〜22頁10行)は,そのような「被検索薬剤」を採用することが,当業者において,引用発明及び周知技術に基づき容易に想到し得た旨の判断をしている(被告は,この点に関する本件審決の理由を本件訴訟における主張として援用する。)から,結局,当該一致点の認定の誤りは,相違点の看過及び当該相違点についての判断の遺脱を招来するものでなく,本件審決の結論に影響しないものであって,本件審決を取り消すべき事由たり得ないというべきである。
イ引用発明について(ア)「少なくとも商品名,用量等が処方箋において明りょうな薬剤」に限定されないこと前記(1)イのとおり,引用発明は,患者自身が他の医療機関において現在服用中の医薬品情報を提示すること,すなわち,患者自身及び他の医療機関が当該服用中の医薬品に係る処方箋を所持していないことをも前提とするものであるといえるから,引用発明の「対象患者に投薬する薬」は,「少なくとも商品名,用量等が処方箋において明りょうな薬剤」に限定されず,患者及び医療機関の双方において利用可能な検索装置における検索対象薬剤一般を指すというべきである。
(イ)「少なくとも商品名,用量等が処方箋において明りょうな薬剤」のみを指すとした場合仮に,引用発明の「対象患者に投薬する薬」が「少なくとも商品名,用量等が処方箋において明りょうな薬剤」のみを指すとしても,そのような薬剤が本願発明の「薬剤検索システム」(検索装置)における検索対象であることに変わりはないから,引用発明の「対象患者に投薬する薬」は,本願発明の「被検索薬剤」に相当するものである。
ウ小括以上のとおり,引用発明の「対象患者に投薬する薬」は,本願発明の「被検索薬剤」に相当するから,本願発明と引用発明とが「被検索薬剤」の点で一致するとした本件審決の認定に誤りはない。
3取消事由3(相違点1についての判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決(17頁3行〜18頁1行)は,周知例1ないし3に記載された技術を含む周知技術を引用発明に適用することにより,相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得る旨の判断をしたが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1)周知技術の引用発明への適用の可否周知例1ないし3に記載された周知技術は,薬剤を同定するための重要な技術の1つではあるが,引用発明における入力者は,自ら薬剤を調剤した者(薬剤師)であり,そのような引用発明において,記憶や処理に多大の容量を要する「外形のカラー写真」に係る本願発明の構成(相違点1に係る構成)をわざわざ採用する理由は一切なく,当該周知技術を引用発明に適用することは無意味であるから,当該周知技術を引用発明に適用して相違点1に係る本願発明の構成を想起することは,当業者にとって極めて困難であるというべきである。
(2)被告の主張に対する反論被告は,単に,周知例1ないし3に記載された周知技術,本件出願当時の技術常識等を挙げることにより,相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得る旨の主張をするが,それら周知技術等の存在により,直ちに,当業者が同構成に容易に想到し得たということはできない。本願発明において「外形のカラー写真」を記憶し,モニタに表示するようにしたことは,モノクロ写真の場合と比較して,患者が所持する薬剤を特定するために極めて有効な手段の1つであって,極めて重要な技術的困難性を有するものであるからである。
〔被告の主張〕(1)引用発明の目的引用例の記載(段落【0005】〜【0006】)及び図5の薬品検索メニュー画面において処方箋に通常記載されない事項(形状,色調等)の入力が可能とされていることに照らせば,引用発明は,患者等に対して投薬情報を的確に伝えることにより,投薬された医薬品についての正しい知識を与え,過量投与等の事故を防止することや,患者自身が他の医療機関において現在服用中の医薬品情報を提示することを可能にし,相互作用又は配合禁忌の関係にある薬剤の投与を未然に防止することを目的とするものといえる。
(2)周知技術等ア薬剤の外形の画像又は写真の表示引用発明の上記目的と同様の目的を有する検索技術の分野において,モニタに薬剤の外形の画像又は写真を表示することは,周知例1(特に46頁右欄1行〜47頁左欄12行参照),周知例2(特に54頁の図参照)及び周知例3(特に65頁左欄3〜12行)に記載されるとおり,本件出願当時の周知技術である。
イカラーの画像又は写真白黒写真に代わってカラー写真が,白黒テレビに代わってカラーテレビが,モノクロモニタに代わってカラーモニタがそれぞれ普及してきた技術的な変遷は,本件出願当時の周知の事項であり,薬剤の外形等の画像又は写真をカラーで表現することは,情報処理の技術分野において,本件出願当時の周知技術である。
ウコンピュータにおける処理能力また,大容量のハードディスク,CD-ROM,DVD-ROM等,カラーの画像又は写真を多数格納するための記憶手段や,当該記憶手段にアクセスしてカラーの画像又は写真を多数取り扱うのに十分な処理能力を備えたコンピュータが普及していたことも,本件出願当時の技術常識である。
(3)容易想到性以上のとおり,引用発明と同様の目的を有する検索技術の分野において,モニタに薬剤の外形の画像又は写真を表示することは本件出願当時の周知技術であり,かつ,画像又は写真をカラーで表現することも,情報処理の技術分野における本件出願当時の周知技術であるから,相違点1に係る本願発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることである。
4取消事由4(相違点2についての判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決(18頁3〜27行)は,選択入力を行うユーザー・インターフェイスが周知技術であり,誰でも極めて容易に操作することができるようにユーザー・インターフェイスを改良することが周知の課題であるなどとして,当該周知技術を引用発明に適用することにより,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得る旨の判断をした。
しかしながら,引用発明においては,基本的に,検索項目を直接入力すれば足りるのであるから,そのような引用発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用する必要はない。なお,引用例に記載された選択入力(ステップ1における検索キーワードの選択入力)は,薬剤の入力手段についての一実施例について述べたものにすぎないし,この場合であっても,入力者は,検索された複数の薬剤名から調剤した薬剤を選択するものであり,調剤した薬剤を知らなければ選択入力をすることができないものである。
また,引用発明は,調剤した既知の薬剤(商品名)の詳細な情報を得るために患者ではなく薬剤師が使用するものであるのに対し,本願発明は,不明の薬剤を特定するために患者が使用するものであるから,本願発明と引用発明とは,その目的を大きく異にするものである。
そうすると,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得ないというべきであり,したがって,本件審決の判断は誤りである。
なお,被告が主張するタッチパネル方式による検索事項の入力手段が本件出願当時の周知技術であることは認める。
〔被告の主張〕(1)容易想到性本願発明の「該当する内容を選択(する)」との構成に関し,本願明細書の段落【0031】には,ATM等におけるタッチパネル方式及びペン入力方式についての記載があるところ,ATM等において採用されているような,入力したい内容を直接入力するのではなく,選択入力するユーザー・インターフェイスは,本件出願当時の周知技術である。
また,本願発明とその属する技術分野を同じくする引用発明においては,薬剤検索項目のすべてについてではないものの,コンボボックスを用いて検索キーワードを選択入力することが可能とされている。
さらに,誰でも極めて容易に操作を行うことができるようにユーザー・インターフェイスを改良することは,薬剤検索システムを含む情報処理システムを構築する上で当然考慮すべき周知の課題である。
そうすると,上記課題を解決するため,引用発明に上記周知技術を適用し,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることである。
(2)原告の主張に対する反論ア原告は,引用例に記載された選択入力の例(ステップ1における検索キーワードの選択入力)に関し,この場合にも,入力者は,検索された複数の薬剤名から調剤した薬剤を選択するものであり,調剤した薬剤を知らなければ選択入力をすることができないと主張するが,引用発明が処方箋に記載された商品情報のみを入力するものでないことは,取消事由2に係る主張(1)イのとおりであるから,原告の主張は理由がない。
イ原告は,本願発明と引用発明とがその目的を大きく異にすると主張するが,取消事由3に係る主張(1)のとおり,引用発明は,患者が現在服用中の医薬品情報を知ることをも目的とするものであるから,両発明がその目的を大きく異にするとはいえない。
5取消事由5(相違点3についての判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決(18頁29行〜20頁3行)は,引用発明においても絞り込み検索を行い得ることが引用例(図5)に示唆されており,他方,絞り込み検索を行うことは周知例2,4及び5に記載された周知技術であるから,当該周知技術を引用発明に適用することにより,相違点3に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得る旨の判断をした。
しかしながら,引用発明は,既知の商品名に基づいて検索を行うものであって,絞り込み検索を採用する必要がなく,また,その余地が全くないものであるし,引用例には,絞り込み検索を行うとの技術的思想は一切示唆されていない(段落【0024】参照)から,上記周知技術を引用発明に適用するとの考えはあり得ない。
また,引用発明は,調剤した既知の薬剤(商品名)の詳細な情報を得るために患者ではなく薬剤師が使用するものであるのに対し,本願発明は,不明の薬剤を特定するために患者が使用するものであるから,両発明は,その目的を大きく異にするものである。
そうすると,相違点3に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得ないというべきであり,したがって,本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕(1)引用発明引用例の段落【0023】には,「絞り込みを可能とする」との記載があり,また,図5に示された薬品検索メニュー画面においては,いったん検索結果を得た後,更に一又は複数の検索キーワードを追加入力した上,再度検索を実行することによって検索結果を得るとの処理を繰り返すこと,すなわち,絞り込み検索を行うことが可能である旨の示唆がされている。
(2)周知技術周知例4(特に段落【0023】〜【0028】,【0034】,図7〜図13参照),周知例5(特に段落【0024】〜【0025】)等に記載されるとおり,情報と順次照合させることによって絞り込み検索を行うことは,情報検索システムが利用される情報処理の分野において,本件出願当時の周知技術であるほか,本願発明とその属する技術分野(薬剤検索)を同じくする周知例2(53頁左欄2〜5行)に記載されるとおり,絞り込み検索を行うことは,薬剤検索の技術分野においても,本件出願当時の周知技術である。
(3)容易想到性以上のとおり,薬剤検索を迅速に行うため,引用発明に対して上記周知技術を適用することにより,相違点3に係る本願発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることである。
(4)原告の主張に対する反論ア原告は,引用発明においては絞り込み検索を採用する必要がないなどと主張し,その根拠として,引用発明が既知の商品名に基づいて検索を行うものであることを挙げるが,取消事由2に係る主張(1)イによれば,引用発明は,既知の商品名のみに基づいて検索を行うものではないから,原告の主張は,その前提を欠くものとして,失当である。
イ原告は,本願発明と引用発明とがその目的を大きく異にすると主張するが,これに対する反論は,取消事由4に係る主張(2)イのとおりである。
第4当裁判所の判断1引用例の記載原告は,取消事由1において,引用発明についての本件審決の認定を争うほか,取消事由2ないし5においても,引用発明の内容に基づく等の主張をするので,各取消事由について検討するに当たり,まず,引用例の記載及び図示の内容をみると,引用例には,以下の記載及び図示がある。図面は,それを引用する明細書の記載に適宜併記する。
【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,患者等に対して投薬情報を的確に伝えることにより投薬に関する安全性を向上しうる投薬データ管理装置に関する。
【0002】【従来の技術】…薬品は,医師の処方箋に基づいて薬剤師によって調剤され,患者に手渡されている。また,医療機関での診察時には,通常,薬品に関する一般的な情報,例えば用法や効能また副作用など薬に関する情報が主として口頭で医師から患者へと伝えられる。
【0003】【発明が解決しようとする課題】従来の方法では,…医師等も十分に薬の説明が行えない場合があり,また患者が薬に関する情報を聞き誤ったり,また記憶忘れなどにより誤った薬の服用がなされる可能性があり,非常に危険である。
また投薬袋などには,通常,用法のみが文章で記載されているにすぎず,薬に関する充分な情報を患者に与えているとは言い難い。
【0004】また,薬品には,他の薬との配合を禁忌すべき場合がある。…配合禁忌情報は,薬の多種化に伴い非常に手間のかかる作業となりかつそのチエックにも完全を期しがたい。
【0005】また,患者が複数の診察科に亘って治療を受けているような場合,或いは2以上の医療機関にかかりつけて治療を受けている場合には,患者は,各医療機関に対して他方の医療機関において投薬されている薬の情報を伝え,配合禁忌等の薬の相互関係を調べる必要があるが,上述のように患者自身が薬の情報を充分に把握できていないような実情では,医療機関への薬の情報提供が満足に行えず,円滑な治療行為を妨げるという問題がある。
【0006】本発明は,このような実状に鑑み案出されたもので,患者等に対して投薬情報を的確に伝えることにより,投薬された医薬品の正しい知識を与え,誤った過量投与などの事故を防止するとともに,患者自身が他の医療機関においても現在服用中の医薬品情報を提示することを可能とすることにより,相互作用,配合禁忌の関係にある薬の投薬を未然に防止しうる投薬データ管理装置を提供することを目的としている。
【0014】【発明の実施の形態】以下本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。図1には,本実施形態の投薬データ管理装置1のブロック図を示している。図において投薬データ管理装置1は,患者に投薬する薬を入力する入力手段2と,この入力された薬を患者毎の投薬データとして記憶する投薬データ記憶部3と,少なくとも薬の名称,用量・用法及び効能・効果を含む薬データを記憶する薬データ記憶部4と,対象となる患者の前記投薬データ記憶部4(判決注:「前記投薬データ記憶部3」の誤記であると認められる。)に記憶されている薬に対応した薬データを前記薬データ記憶部から選択して取り出す演算部5と,この演算部5により取り出された前記薬データを被印刷体6に印刷する印刷手段7とから構成されている。このような投薬データ管理装置1は,例えば医療機関の薬局などに設置されるものを例示している。
【0015】前記入力手段2は,本実施形態ではキーボードとマウスからなり,これを用いて医師から送られてきた処方せんに基づいて,対象患者に投薬する薬を選択しつつ投薬データ記憶部3に入力することができる。…【0018】また前記薬データ記憶部4は,例えばそのデータ構造を図3に概念的に示すように,本実施形態では薬品を識別するための固有の番号である薬品識別IDや,薬品名(商品名),学名(学術名),欧文名,粉末,顆粒,錠剤又はカプセル等,薬の外観を識別しうる形状,薬の色の他,薬の用量・用法や,効能・効果,副作用,当該薬との配合禁忌関係にある禁忌薬,製薬会社名などの薬データが予め記憶されている。
【0020】このように構成された本実施形態の投薬データ管理装置1の処理手順の一例について図4に示すフローチャートに基づき説明する。先ず,本装置の操作者が,処方箋に基づき,入力手段2を用いて患者に投薬する薬を選択する処理を行う(ステップS1)。
【0021】薬を選択する方法としては,例えばキーボードを用いて薬のデータを入力していけば良いが,本実施形態では例えば図5に示すように,表示手段9に薬品検索メニュー画面W1を表示させ,これにより容易に投薬する薬を入力しうるように構成している。
【0022】この薬品検索メニュー画面W1から明らかなように,例えば,薬の商品名,学名,欧文名又は製薬会社名など複数の検索キーワードを入力手段2を用いて入力し,検索実行ボタンB1をマウス等を用いてクリックすると,前記演算部5が,薬データ記憶部4を検索し,入力された検索条件に合致する薬の名称を検索結果一覧として画面の左下の箇所W2に表示させることができる。
【0023】また,本実施形態では検索キーとして,製薬会社のマーク(図形商標等)をも用いて検索薬品を絞り込むことができる。これは,図示していないが,製薬会社名とそのマークの対応表を予め記憶させた記憶部を有し,選択されたマークから製薬会社名を特定することにより絞り込みを可能とする。
【0024】なお薬品検索メニュー画面W1の検索結果一覧に表示された薬を特定し,薬品情報表示ボタンB2を入力手段2のマウス等を用いてクリックすると,図6に示すような薬品情報画面W3として,当該薬品の詳細な情報を表示手段9に表示させることもでき,効能等を確認することもできる。
【0031】…印刷手段7により薬データが印刷された被印刷体6は,患者に手渡すことにより当該患者に対して投薬情報を正確に知らせるためのものであるから,患者が薬の服用時に目に付きやすいものとするのが好ましい。
【0032】そこで,本実施形態では,被印刷体6は,図10に示すように,薬を入れて患者に手渡す投薬袋(図示せず)に貼着されるラベル8であることを特徴としている。これによって,患者は薬の服用時には薬を取り出すときなど投薬袋を見るはずであるから,ラベル8を参照して服用に関して用法,効能等を常に確認することができ,患者に対する投薬情報の伝達性を高め,かつ薬に関する情報を的確に把握させることができる。
【0033】また,患者に対して投薬情報を的確に把握するためには,ラベル8に表示する情報の内容を設定する必要があるが,好ましくは,また本実施形態では,図10に示すように,薬品名,薬の形状・色,用量・用法,及び効能・効果を表示したものを示している。そして,薬の形状には,薬のイメージ画像を含んでいることも薬の特定をより確実なものにでき,誤飲,過量服用などを好適に防止しうる点で好ましいものとなる。
【0035】また,被印刷体に表示する投薬情報としては,前記実施形態に限定されるものではなく,例えば次のような組み合わせを採用することが可能である。
?@薬品名,形状・色(イメージ画像有り),用量・用法?A薬品名,形状・色(イメージ画像無し),用量・用法?B薬品名,形状・色(イメージ画像無し),用量・用法,副作用?C薬品名,形状・色(イメージ画像無し),用量・用法,製薬会社名?D薬品名,形状・色(イメージ画像無し),用量・用法,副作用,製薬会社名【0036】上記?B,?Dのように,被印刷体6に表示する投薬情報に,薬の副作用情報を加えることによって,予め薬の副作用を患者に対して的確に伝えることができ,薬による副作用の早期発見に役立ち,治療行為を円滑化しうる利点がある。また?A〜?Dに,夫々効能,効果を加えることも好ましい。さらに,薬データを被印刷体6に印刷する前に一旦表示手段9にてその内容を確認し,医師,薬剤師等が,用量,用法等に必要なコメントや,内容の追加,修正等を行えるように構成しうる。
【0038】…また,印刷手段にカラープリンタ等を用い,カラーイメージ画像を印刷するのも好ましい。
【0039】【発明の効果】上述のように,請求項1記載の発明では,患者に投薬された薬に関する情報を薬データ記憶部から選択して取り出して被印刷体に印刷することができるため,被印刷体を患者に手渡すことにより,患者に対して投薬情報,例えば薬品名や用量,効能などを的確に伝えることができる。これにより,患者は,服用している薬に関する充分な情報を享受することができ,誤った過量服用などを未然に防止でき,また他の医療機関などに被印刷体を示すことにより投薬情報を正確に伝達することができる。
【0040】また請求項2記載の発明では,前記薬データに薬の形状及び色の情報を含むことによって,これを被印刷体に印刷して患者に手渡すことにより,薬の情報をより一層的確に伝えることができ,特に複数の薬が混在しているような場合には,薬の形状,色等によって識別しうる結果,誤った服用などをより確実に防止するのに役立つ。
2取消事由1(引用発明の認定の誤り)について以上の引用例の記載を踏まえ,先ず,取消事由1について検討する。
(1)前記第2の3(2)アのとおり,本件審決は,引用発明の入力手段における薬品検索項目の選択に関し,「前記入力手段で対象患者に投薬する薬に関して前記表示手段に表示された複数の前記薬データに関する薬品検索項目のうちで該当する薬品検索項目を順次選んで,該当する検索キーワードを選択又は直接入力することによって,その対象患者に投薬する薬に該当する薬データの検索キーワードを入力(する)」と認定しているところ,原告は,これをもって,引用発明においては絞り込み検索は行われないとし,したがって,引用発明が順次選ぶとの構成を備えていないと主張する。
(2)しかしながら,本件審決の上記認定は,引用発明が薬品検索項目について順次選ぶとの構成を有する旨の認定をしたにとどまり,絞り込み検索を行うとの構成を有する旨の認定までしたものではない。
しかるところ,引用例の段落【0021】ないし【0023】及び図5によると,引用発明の操作者が,「検索したい薬品情報を入力して下さい(複数検索可)」と記載された薬品検索メニュー画面(図5)において,複数の薬品検索項目(商品名,製薬会社名,形状,色調,薬効大分類,適応病名等)の中から,適当と考える薬品検索項目を任意に選択し,選択した薬品検索項目の各欄に,それぞれ適当な検索キーワードを入力し,又は選択した上,検索を実行する旨の記載及び図示がされているのであるから,これを絞り込み検索というか否かはともかく,少なくとも引用発明が薬品検索項目について順次選ぶとの構成を備えていることは明らかというべきである。
なお,引用発明が絞り込み検索を行うものでないことについては,前記第2の3(2)ウ(ウ)のとおり,本件審決は,入力情報と薬剤情報との照合の点についてではあるが,本願発明の「順次,照合させる絞り込み検索を行(う)」との構成が相違点(相違点3)である旨の認定をしているところである。
(3)したがって,引用発明は,薬品検索項目について順次選ぶとの構成を備えているから,この点についての本件審決の認定の誤りをいう取消事由1は理由がない。
3取消事由2(一致点の認定の誤り)について次に,取消事由2について検討する。
(1)記憶装置が記憶する情報ア引用発明が「各薬品を識別するための固有の番号である薬品識別ID,薬品名(商品名),薬の外観を識別しうる形状,薬の色,薬の用量・用法,効能・効果,副作用などの薬データであって,薬品識別ID,薬の外観を識別しうる形状,薬の色などを薬品検索項目とすることができる薬データ」を記憶装置に記憶するとの構成を有することは,当事者間に争いがない。
そうすると,引用発明における「薬品検索項目」が「薬品識別ID,薬の外観を識別しうる形状,薬の色など」であり,これが本願発明の「(検索項目毎の)検索情報」である「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等」に相当すること,引用発明の「薬品名(商品名),…薬の用量・用法,効能・効果,副作用などの薬データ」が本願発明の「各薬剤の名称と…詳細な薬剤情報」に相当することは,いずれも文言上明らかというべきである。
イ原告の主張について(ア)原告は,本願発明の「検索情報」につき,患者が入手することのできる情報であって,商品名もこれに該当するが,商品名が不明の場合は外観情報に限られると主張するので,以下検討する。
a特許請求の範囲の記載本願発明の「検索情報」に関し,請求項1には,前記第2の2のとおり,「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の検索項目毎の検索情報」との規定があるが,これ以上に「検索情報」を限定する規定は存在しない。
b発明の詳細な説明の記載(a)本願発明の「検索情報」に関し,念のため,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌するに,本願明細書には,以下の記載及び図示がある。図面は,それを引用する明細書の記載に適宜併記する。
【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,病院や診療所等の医療機関で医師によって処方され患者に調剤される薬剤を,その薬剤そのものが主として外観に有している情報に基づいて特定し,その薬剤の名称,効能や副作用等の詳細な薬剤情報を知るための検索システムに関するものである。
【0006】【発明が解決しようとする課題】…薬剤に関して素人である一般の患者が,薬剤を見て商品名や識別コードを判別するのは困難であり,殊に,高齢者等にとっては,専門家にしか判別できないような商品名や識別コード等の表示を読みとることは極めて困難であった。しかも,書籍に記載されている情報は経時的に陳腐化し,常に最新情報を得ることはできなかった。
【0008】…従来の検索システムは,医師や薬剤師など,薬剤に関する専門家を対象としたものであり,誰にでも容易に利用できるものではなかった。
【0010】モニタに表示されている複数の検索項目のうち,判別しようとする被検索薬剤の外形に表示されている情報で,利用者が把握可能な薬剤の外形についての情報に関する検索項目を任意に選択し,該当する内容を選択する。例えば,薬剤の形態の検索項目を選ぶと,次にモニタ画面に例えば錠剤,カプセル,散剤(顆粒),散剤(粉末),液剤,軟膏,湿布薬,座薬等の検索項目が表示されるので,更にこれらを選択すると,次に画面に色彩,大きさ,付されている記号などの検索項目が表示されるので,順次該当する情報を入力していくことにより,その内容に該当する薬剤が検索され,モニタに検索結果として薬剤名やカラー写真が表示される。複数の薬剤が表示された場合には,前回とは異なる検索項目について,該当する内容を選択していく。こうして検索を繰り返すことによって,絞り込みが行われ,最終的には被検索薬剤を特定して,その詳細な情報を入手することができる。
【0012】更に,モニタに表示された薬剤情報を印刷可能な印刷装置を備えていれば,薬剤師が患者に渡したり,患者が自ら調べた結果を手元に保管したりすることができる。
【0015】【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】図1は本発明の薬剤検索システムのハードウェア構成の一例を示す図である。サーバは,例えば薬剤情報を統括する薬剤情報センターのような機関が保有しており,薬剤の検索項目と薬剤情報との関連データベースを格納する記憶装置と,制御部とからなる。また,端末機は,モニタおよび入力装置と,それらを制御する制御部とからなり,モニタに表示された内容をカラー印刷可能な印刷装置が制御部に接続されている。そして,各医療機関や薬局等に設置した複数の端末機から,インターネットを介して,本部のサーバへ接続可能とされている。
【0017】記憶装置では,複数の検索項目毎の内容に該当する薬剤名とそのカラー画像,および各薬剤の効能や副作用,禁忌等の詳細な薬剤情報がデータベースとして記憶されてい…る。…【0019】次に,図2に従って,手持ちの薬剤に関する薬剤情報を調べる場合の手順の一例を説明する。
【0020】初期状態では,モニタには複数の検索項目が表示されていて,利用者は,任意の検索項目を選択し,その検索項目が表示されている部分を指などで接触して入力する。…【0021】検索項目としては,商品名,識別コードなど,通常一回の検索で薬剤が特定される項目の他,製薬会社名,対象疾患名,成分,薬価,薬効分類,或いは,薬剤に関する専門知識を持たない一般の患者でも容易に検索できるように,薬剤の外見から判別される色や剤形,包装形態,更には漢方薬等においては匂いなども設定することができる。
【0022】利用者は,選択した検索項目に表示されている内容のうち,手持ちの薬剤にあてはまる内容を選択し,前記と同様のタッチパネル方式によって入力する。
例えば,検索項目として剤形を選択した場合,その内容には,錠剤,カプセル,散剤,坐薬,軟膏等が表示され,手持ちの薬剤がどれにあてはまるかを選択する。
【0023】検索項目による内容を入力すると,データベースに記憶されている薬剤のうち,選択した内容に該当する薬剤の商品名およびカラー画像がモニタに表示される。商品名や識別コードによって検索した場合には,一回の検索で一種類の薬剤に特定されるが,その他の検索項目の場合は,通常,複数の薬剤が表示される。
【0024】複数の薬剤が表示された場合,表示された薬剤を順に見ながら被検索薬剤を探してもよいが,表示された薬剤の数が多い場合には,一回目とは異なる検索項目を選択して,再度絞り込みを行う。
【0025】このように検索を繰り返して,薬剤が特定されるまで絞り込み検索を行い,途中で該当する薬剤が存在しなくなった場合には,前の段階に戻って検索をやり直す。
【0026】こうして薬剤が特定されたら,例えば図3に示すように,その薬剤の名称や画像がモニタ22に表示される。更に,薬剤の部分をタッチすることによって,図4に示すように,その薬剤に関する効能や副作用等の詳細な薬剤情報がモニタに表示される。
【0028】本実施の形態に示すように,本部のサーバ内に記憶装置を設け,各端末機からインターネットでサーバに接続して検索を行うようにすれば,端末機自体に記憶装置を備える必要がないので,端末機を設置するための経済的負担が少なくて済む。従って,同一病院内に複数台設置したり,比較的小規模な薬局等にも,容易に設置することができる。また,ユーザ登録等をすることにより,医療関係者以外の者が,自宅等に端末機を設置して検索することも可能である。
【0030】また,記憶装置を有するサーバと各端末機とは,ローカルエリアネットワークによって接続されてもよく,この場合には,例えばそれぞれの病院や薬局等において,医師や薬剤師が端末機を用いて記憶装置にデータの出し入れを行うことができるようにしてもよい。また,本発明の異なる実施の形態として,サーバを端末機とは別に設置せず,個々のパソコン内に,ハードディスクや光学ディスク等からなる記憶装置を備えたものも実施可能である。この場合には,薬剤情報等のデータ更新は,個々の医療機関で行ってもよいし,例えばインターネットに接続することによって,データベースを作成している機関から,最新のデータをダウンロードできるようにしてもよい。
【0032】上記の薬剤検索システムは,医療関係者および薬剤に関する専門知識を持たない一般の患者のいずれにとっても容易に利用できるものであり,従来のように,医療機関や薬局等において,医師や薬剤師が,処方時または調剤時に安全性を確認したり,患者に薬剤の使用方法や副作用について説明したりするときに用いることができる他,患者が,手持ちの薬剤に関する詳細な情報を知るために自分で利用することができる。
【0033】従って,例えば病院のロビー等に端末機を設置して,誰でも自由に利用できるようにすれば,医師や薬剤師の説明を確認したり,薬局でもらった薬剤情報の記載書類を紛失した場合や更に詳細な情報を知りたい場合等に,患者が自分で薬剤情報を入手することができ,端末機として形態電話機(判決注:「携帯電話機」の誤記であると認められる。)のような移動体通信機器を用いる場合には更に手軽に情報を知ることができる。
【0034】【発明の効果】本発明によると,医師や薬剤師等の医療関係者はもちろん,薬剤に関する専門知識を持っていない人でも,任意の薬剤を容易に検索して,その薬剤に関する詳細な情報を調べることができる。
(b)上記(a)のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明には,従来の検索システムに関し,医師,薬剤師等の薬剤に関する専門家を対象としたものであり,誰でも容易に利用することができるものではなかった旨の,本願発明が病院,診療所等の医療機関によって処方され患者に調剤される薬剤をその薬剤自体が主として外観に有している情報(外観情報)に基づいて特定するための検索システムに関するものである旨の,検索項目に関し,薬剤の外見から判別される情報であって利用者が把握可能な薬剤の剤形,包装形態,色彩,大きさ,付されている記号,におい等を検索項目として設定することができる旨の記載がある。
しかしながら,他方で,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明の利用者に関し,医療関係者にとっても容易に利用することができる旨の,同発明の用途に関し,医師や薬剤師が薬剤に関する詳細な情報を調べることができ,処方時又は調剤時に安全性を確認したり,患者に対して薬剤の使用方法や副作用について説明したりするときに用いることができる旨の,検索項目に関し,対象疾患名,成分,薬価,薬効分類等も設定することができる旨の記載がある。
そうすると,仮に本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,本願発明の「検索情報」を,患者が入手することのできる情報であって,商品名が不明の場合は外観情報に限られると解釈することはできないといわざるを得ない。
c上記a及びbのとおり,本願発明の「検索情報」を限定して解釈すべき旨の原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえず,また,仮に本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,そのように解釈することはできないから,失当というべきである。
(イ)原告は,本願発明においては,外観情報が「検索情報」であり,その余の情報が「薬剤情報」であって,両者は明確に区別されている旨の主張をするが,本願発明の「検索情報」を外観情報に限定して解釈することができないことは,上記(ア)のとおりであるから,原告の主張は,その前提を欠き,採用し得ない。
ウ以上のとおりであるから,本願発明と引用発明とが「各薬剤に関する剤形,色,識別コード等の検索項目毎の検索情報と,各薬剤の名称と詳細な薬剤情報を記憶する記憶装置」を備える点で一致するとした本件審決の認定に誤りはない。
(2)被検索薬剤ア引用発明が「前記入力手段で対象患者に投薬する薬に関して前記表示手段に表示された複数の前記薬データに関する薬品検索項目のうちで該当する薬品検索項目を順次選んで,該当する検索キーワードを選択又は直接入力することによって,その対象患者に投薬する薬に該当する薬データの検索キーワードを入力(する)」との構成及び「前記対象患者に投薬する薬と一致する場合にその対象患者に投薬する薬に関する薬品名(商品名),薬の用量・用法,効能・効果,副作用などの薬品情報を作成して前記表示手段に表示する」との構成を有することは,「順次(選んで)」との部分を除き,当事者間に争いがない。また,引用発明が順次選ぶとの構成を備えていることは,前記2のとおりである。
そして,本願発明の「被検索薬剤」が検索の対象とされる薬剤を指すことは,その文言から一義的に明確である(なお,前記第2の2のとおり,請求項1には,「被検索薬剤」を限定する規定は一切存在しない。)ところ,引用発明の「対象患者に投薬する薬」についても,上記各構成の内容に照らし,検索の対象とされる薬剤であることが明らかであるから,引用発明の「対象患者に投薬する薬」は,本願発明の「被検索薬剤」に含まれるものというべきである。
イ原告の主張について原告は,本願発明の「被検索薬剤」につき,患者が所持している薬剤であって薬剤の名称や商品名が不明なものに限られると主張する。
もっとも,原告は,薬剤の名称,商品名等が明りょうな場合にも本願発明を使用することができるとも主張するが,この点はさておいても,本願発明の「被検索薬剤」に関し,請求項1には,前記第2の2のとおり,これを限定する規定は一切存在しない。
また,念のため,仮に本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,前記(1)イ(ア)b(b)において説示したところに照らせば,本願発明の「被検索薬剤」を,患者が所持している薬剤であって薬剤の名称や商品名が不明なものに限定されると解釈することはできない。
そうすると,本願発明の「被検索薬剤」を限定して解釈すべき旨の原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえず,また,仮に本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,そのように解釈することはできないから,いずれにせよ失当であるといわなければならない。
ウ以上のとおりであるから,本願発明と引用発明とが「前記入力装置で被検索薬剤に関して前記モニタに表示された複数の前記薬剤情報に関する検索項目のうちで該当する検索項目を順次選んで,その被検索薬剤に該当する薬剤情報の内容を入力(する)」との点及び「前記被検索薬剤と一致する場合にその薬剤に関する薬剤の名称と詳細な薬剤情報を作成して前記モニタに表示する」との点で一致するとした本件審決の認定に誤りはない。
(3)したがって,一致点についての本件審決の認定の誤りをいう取消事由2は理由がない。
4取消事由3(相違点1についての判断の誤り)について次に,取消事由3について検討する。
(1)周知技術周知例2及び3によれば,薬剤検索システムに係る技術分野において,モニタに薬剤の外形の写真を表示することは,本件出願当時の周知技術であったものと認められ,また,弁論の全趣旨によれば,写真をカラーで表示することも,本件出願当時の周知技術であったものと認められる(原告も,これらの点を争うものではない。)ところ,これらの周知技術が,薬剤の外形のカラー写真に係るデータを記憶装置に記憶させることを前提とするものであることは明らかである。
(2)周知技術の引用発明への適用引用例の段落【0033】及び【0035】には,被印刷体に表示する投薬情報として,薬剤のイメージ画像を含ませることが可能である旨の,段落【0036】には,薬データを被印刷体に印刷する前に表示手段においてその内容を確認する旨の,段落【0038】には,カラーイメージ画像を印刷するのも好ましいとの各開示があるところ,これらの開示内容は,引用発明の記憶装置(薬データ記憶部)に薬剤のカラーイメージ画像に係るデータを記憶させ,同発明のモニタ(表示手段)に薬剤のカラーイメージ画像を表示させることを示唆するものといえるから,引用例には,上記(1)の周知技術を引用発明に適用することの十分な動機付けが示されているということができる。
原告は,引用発明に上記(1)の周知技術を適用することが無意味であると主張するが,引用例の上記開示・示唆の内容に照らせば,原告の主張を採用することはできない。
(3)容易想到性そうすると,相違点1に係る本願発明の構成は,引用発明に上記(1)の周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
原告は,同構成が極めて重要な技術的困難性を有するものであり,上記(1)の周知技術が存在することから直ちに,当業者が同構成に容易に想到し得たとはいえない旨の主張をするが,上記(2)において説示したところに照らせば,そのようにいうことができないことは明らかであるから,原告の主張は失当である。
(4)したがって,相違点1についての本件審決の判断に誤りはないから,取消事由3は理由がない。
5取消事由4(相違点2についての判断の誤り)について次に,取消事由4について検討する。
(1)引用例の図5には,検索項目のすべてについてではないものの,形状,色調,薬効大分類,薬効中分類及び薬効小分類の各検索項目につき,いわゆるコンボボックスが示されているものと認められるから,引用例には,「該当する内容を選択」して入力するユーザー・インターフェイスが開示されているといえる(なお,原告は,引用例のこの開示に関し,引用発明における入力手段の一実施例について述べたものにすぎず,入力者が調剤した薬剤を知らなければ選択入力をすることができないものであると主張するが,原告の主張は,引用例に上記開示があることを何ら否定するものではない。)。
(2)そうすると,相違点2に係る本願発明の構成は,引用例自体に開示された上記技術を引用発明に適用することにより,当業者が容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(3)原告は,引用発明において相違点2に係る本願発明の構成を採用する必要はないと主張するが,引用例自体に上記開示があることに照らすと,これを採用することはできない。
また,原告は,引用発明が調剤した既知の薬剤(商品名)の詳細な情報を得るために薬剤師が使用するものであるのに対し,本願発明は不明の薬剤を特定するために患者が使用するものであって,両発明はその目的を大きく異にすると主張するが,原告の主張は,その内容に照らし,相違点2に係る本願発明の構成についての容易想到性に係る上記判断を何ら左右するものとはいえない。
(4)したがって,相違点2についての本件審決の判断に誤りはないから,取消事由4は理由がない。
6取消事由5(相違点3についての判断の誤り)について次に,取消事由5について検討する。
(1)周知技術周知例2によれば,薬剤検索システムに係る技術分野において,絞り込み検索を行うことは,本件出願当時の周知技術であったものと認められる(原告も,この点を争うものではない。)。
(2)周知技術の引用発明への適用引用例の図5には,商品名欄に「錠」との文字列を,学名欄に「塩酸」との文字列をそれぞれ入力し,また,製薬会社マーク欄において「TE」との文字等から成るマークを選択し,その余の検索項目欄を空欄にして検索実行ボタンをクリックした結果,7件の検索結果が得られた様子が示されているところ,これは,空欄としたその余の検索項目欄について更に入力又は選択を行い,再度検索を実行してより少ない件数の検索結果を得ること及びそのような再検索を繰り返し実行すること,すなわち,絞り込み検索を行うことを示唆するものといえるから,引用例には,上記(1)の周知技術を引用発明に適用することの十分な動機付けが示されているということができる。
原告は,引用例に絞り込み検索を行うとの技術的思想は一切開示されていないと主張するが,引用例の上記図示・示唆の内容に照らせば,そのようにいうことはできない。
(3)容易想到性そうすると,相違点3に係る本願発明の構成は,引用発明に上記(1)の周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
原告は,引用発明につき,既知の商品名に基づいて検索を行うものであって,絞り込み検索を採用する必要がないなどと主張するが,検索キーワード等を「錠」,「塩酸」及び製薬会社のマークとして検索を実行するとの引用例の上記図示によれば,引用発明が必ずしも既知の商品名を検索キーワードとして検索を実行するものであるということはできないから,原告の主張は,その前提を欠くものとして失当である。
また,原告は,本願発明と引用発明とがその目的を大きく異にすると主張するが,この主張が相違点3に係る本願発明の構成についての容易想到性に係る上記判断を何ら左右するものでないことは,前記5(3)と同様である。
(4)したがって,相違点3についての本件審決の判断に誤りはないから,取消事由5は理由がない。
7結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲