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関連審決 無効2008-800030
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成20行ケ10436審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10423審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 考案者 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  置換 /  実施 /  加工 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10343号 審決取消請求事件
原告大 日本塗料株式会社
同訴訟代理人弁護士中村智廣 三原研自
同弁理士佐々木一也 成瀬勝夫
被告Y
同訴訟代理人弁理士西森正博
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/08/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2008-800030号事件について平成20年8月13日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の有する本件特許に対する被告の無効審判請求について,特許庁が,本件特許の請求項1ないし4に係る発明の要旨を下記2のとおり認定した上で,同発明についての特許を無効とする旨の別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件特許(甲21)発明の名称:基板の塗装方法出願日:平成8年10月29日(特願平8-286732号)登録日:平成18年10月13日特許番号:第3865087号(2)審判手続等審判請求日:平成20年2月15日(無効2008-800030号)審決日:平成20年8月13日本件審決の結論:「特許第3865087号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」原告に対する審決謄本送達日:平成20年8月25日2本件発明の要旨本件審決が判断の対象とした本件発明は,本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明(以下,それぞれ,請求項の番号に従って「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)であるが,その要旨はそれぞれ以下のとおりである。
【請求項1】コンベアにより搬送されている下層着色塗膜を有する基板の表面に,該下層着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けするに際し,平均粒子径が60〜1000nmである着色顔料が配合されているインクを使用し,ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターを用い,該インクジェットプリンターのヘッドのノズル孔を該コンベアの幅方向に配列し,一方,柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって,該ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔に直結するインク室の壁面のピエゾ振動素子の振動を制御してインク吐出を制御することにより,該基板の表面に柄模様を塗装することを特徴とする基板の塗装方法。
【請求項2】ノズル孔の内径が20〜100μmであり,ノズル孔とノズル孔との間の距離が30〜150μmであるインクジェットプリンターを用い,基板の表面に画質精度が50〜350dpiである柄模様を塗装することを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】コンベアの幅方向に配列したピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔列をコンベアの移動方向の前後に複数列配置し,それぞれのノズル孔列から異色のインクを吐出させて多色塗装することを特徴とする請求項1又は2記載の塗装方法。
【請求項4】柄模様を塗装した塗膜の全表面にクリヤー塗料を塗装することを特徴とする請求項1,2又は3記載の基板の塗装方法。
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明1ないし4は,いずれも下記ア及びイの引用例(甲1,2)に記載された各発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,同発明についての特許は無効とすべきであるというものである。
ア引用例1:特開平7-31929号公報(甲1)イ引用例2:実願平1-118436号(実開平3-57235号)のマイクロフィルム(甲2)(2)なお,本件審決が引用例1に記載されていると認定した発明(以下「引用発明1」という。)は以下のとおりである。
コンベアにより搬送されている下層着色塗膜を有する基板の表面に,該下塗着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けするに際し,着色顔料が配合されているインクを使用し,ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターを用い,該インクジェットプリンターのプリンター・ヘッドのノズルを該コンベアの幅方向に配列し,一方,柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって,ソレノイドバルブを開閉制御してインク吐出を制御することにより,該基板の表面に柄模様を模様付けする基板の模様付け方法(3)また,本件審決が前記判断に当たって認定した本件発明と引用発明1との一致点及び相違点(ア)ないし(ウ)は以下のとおりである。ただし,原告は,下記4(1)のとおり,一致点の認定について争っている。
一致点:コンベアにより搬送されている下層着色塗膜を有する基板の表面に,該下塗着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けするに際し,着色顔料が配合されているインクを使用し,インクジェットプリンターを用い,該インクジェットプリンターのヘッドのノズル孔を該コンベアの幅方向に配列し,一方,柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって,インク吐出を制御することにより,該基板の表面に柄模様を塗装する基板の塗装方法相違点(ア):着色顔料について,本件発明1においては「平均粒子径が60〜1000nmである」と規定しているのに対し,引用発明1においてはかかる規定はしていない点相違点(イ):インクジェットプリンターについて,本件発明1においては「ピエゾ振動方式のインクジェットプリンター」と規定しているのに対し,引用発明1においては「ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンター」と規定している点相違点(ウ):インク吐出の制御方法について,本件発明1においては「該ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔に直結するインク室の壁面のピエゾ振動素子の振動を制御して」と規定しているのに対し,引用発明1においては「ソレノイドバルブを開閉制御して」と規定している点4取消事由(1)一致点の認定の誤り(取消事由1)(2)相違点についての判断の誤り(取消事由2)(3)効果の顕著性を看過した誤り(取消事由3)第3当事者の主張1取消事由1(一致点の認定の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,本件発明1の「塗装する」及び「塗装方法」が,引用発明1の「模様付けする」及び「模様付け方法」に対応するとした上,本件発明1と引用発明1とは,「下塗着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けする」点で一致するとともに,「基板の表面に柄模様を塗装する基板の塗装方法」である点で一致すると認定した。
しかしながら,本件発明1は,インクジェットプリンターにより吐出されたインクをドット状にし,そのドット(網点)のかけ合わせ(密度)に基づいて種々の柄模様を得るもの(いわゆる印刷方式)であるのに対し,引用発明1は,インクジェットプリンターによって吐出されたインクの液滴を基板の表面で広げて互いに連結させ,これによって均一な塗膜を形成して模様を得るもの(いわゆる塗布・塗工方式)であるから,両者の模様付け方法には互いに相容れない明らかな違いがある。
そうすると,引用発明1における「下塗着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けする」とは,本件発明1のように色調の異なるインクのドットを形成して模様付けをするのではなく,例えば目地部分や複数のタイル部分で色の塗り分けを行うことを意味するものであるから,本件審決による上記一致点の認定は誤りである。
したがって,本件審決は本件発明1と引用発明1との一致点の認定を誤り,相違点を看過したものであり,本件発明1は引用発明1等に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの本件審決の判断及び同判断を前提とする本件発明2ないし4についての本件審決の判断は誤りであるから,本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕引用例1の特許請求の範囲に記載された発明においては,特定の溶剤を主成分とする特定粘度のインクを用いて模様付けする点に特徴があるが,本件審決は,引用例1のその他の部分に開示されている従来のインクジェットプリンターも含めて,引用発明1を認定しているのであり,そのようなインクジェットプリンターにおいて,塗布・塗工方式の模様付けが行われていたと断定することはできない。
また,ピエゾ式のインクジェットプリンターにおいても,インク液滴の大小の差はあるものの,微視的にみると,引用発明1と同様にインク液滴は広がり,塗布・塗工方式の模様付けが行われているのであって,これが微小であるためにドット状として捉え得るのである。
したがって,引用発明1におけるインクジェットプリンターと本件発明1のピエゾ式のインクジェットプリンターとの相違は,インク液滴に圧力を加える方式の相違に過ぎないのであり,模様付け方法において相違するということはできないから,本件審決による一致点の認定に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,相違点(ア)ないし(ウ)に係る構成とすることは当業者にとって容易であると判断している。
(1)相違点(ア)についてしかしながら,引用発明1は口径0.1ないし0.4mmのノズルからインクを吐出させて行う塗工であり,平均粒子径を60ないし1000nmのような小さなものとする必要はないから,相違点(ア)に係る構成とすることは,ノズル口径の小さいインクジェットプリンターを採用することを前提としない限り,当業者といえども容易になし得ないものである。
(2)相違点(イ)についてまた,引用発明1は,基板の表面に滴下したインクを広げて連結させ,均一な塗膜を形成して模様を得る塗布・塗工方式であり,解像度(dpi)の概念は存在しないのに対し,引用例2に記載されたピエゾ式インクジェットプリンターの発明(以下「引用発明2」という。)は,通常ドットを形成し,解像度(dpi)の概念を有する印刷方式であるから,両者はその模様付けに関して互いに相反する技術であり,相互に置換可能な同等物であるということはできない。
そうすると,引用発明1のソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターに代えて,ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターを用いて,相違点(イ)に係る構成とすることは当業者にとって容易であるということはできない。
(3)相違点(ウ)について上記(2)のとおり,引用発明1のインクジェットプリンターと引用発明2のピエゾ振動方式のインクジェットプリンターは相互に置換可能な同等物ではない。
(4)以上のとおり,相違点(ア)ないし(ウ)についての本件審決の判断はいずれも誤りであるから,本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕本件審決の相違点(ア)ないし(ウ)についての判断に誤りはない。
(1)相違点(ア)について原告の主張は,引用発明1の模様付けが塗工・塗装方式であることを前提としているが,引用発明1をそのようなものに限定して捉えることはできないから,原告の主張は前提において誤っている。
(2)相違点(イ)について原告は,引用発明1と引用発明2に記載された発明を組み合わせることはできないと主張する。
しかしながら,甲2には,従来の技術としてシルクスクリーン印刷,エアースプレイジェットを挙げ,その後のインクジェットプリンターの進歩を紹介した上,インクジェットプリンターによる場合にインク付着性,平滑性,耐光性において劣るとの欠点を解決するため,ピエゾ式インクジェットプリンターを採用することが記載されているのであり,引用発明2は,内外建材用パネルの印刷技術の自然な流れに沿って発明されたものである。そして,引用発明1と引用発明2は,互いに同一の技術分野に属し,柄模様の意匠性の向上という同一の目的を有するものである。
したがって,これらの技術を組み合わせることに困難性はなく,当業者が容易になし得たことというべきである。
(3)相違点(ウ)について原告の主張は,引用発明1と引用発明2を組み合わせることが困難であることを前提とするが,この前提が誤りであることは上記(2)のとおりである。
(4)以上のとおり,原告の主張はいずれも採用し得ないものであるから,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(効果の顕著性を看過した誤り)について〔原告の主張〕(1)本件発明1は,高い画質精度が要求される天然石の外観模様等のような柄模様を有した建築材料等を工業的に製造可能にしたものであるのに対し,引用発明1は,無機質化粧板の表面に解像度を有さない模様付けを形成しているに過ぎず,引用発明2は,凹凸状の基板の表面に高解像度の模様付けを行うことを意図したものではないから,本件発明1は,引用発明1と引用発明2を組み合わせることによっては達成し得ない格別顕著な効果を奏する。
(2)しかし,本件審決は,その効果を看過して,本件発明の進歩性を否定しているのであるから,その判断の誤りを理由として,本件審決は取り消されるべきものである。
〔被告の主張〕原告の主張は争う。
第4当裁判所の判断1取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1)引用発明1における模様付け方法原告は,本件発明における模様付け方法がいわゆる「印刷方式」であるのに対し,引用発明1における模様付け方法がいわゆる「塗布・塗工方式」であるとして,その違いを主張するので,まず,この点について検討する。
ア引用例1の記載内容引用例1には,次の?@ないし?Gの記載がある。なお,文中の「/」は原文の改行部分を示す。以下においても,これに倣う。
?@「【請求項1】表面に下層着色塗膜を予め施した無機質板をコンベアにより搬送する過程で,この無機質板表面に,インクジェットプリンターのノズルから,樹脂,着色顔料及び比蒸発速度(酢酸正ブチルを100とした重量法による)が50〜380の溶剤を主成分とする粘度5〜15cps(20℃)のインクを吐出し,模様付けをすることを特徴とする無機質化粧板の製造方法。」(特許請求の範囲)?A「【産業上の利用分野】本発明は,建築内装材や外装材などの分野において利用される無機質化粧板の製造方法に関するものである。/【従来の技術】この種の無機質化粧板の製造方法として,従来から,以下の製造方法が代表的なものとして知られている。/(イ)表面が平滑な,あるいは,凹凸のある無機質板を単一色に仕上げる。/(ロ)表面に凹凸のある無機質板に塗料を全面塗布し,次いで,ロールコーターを用いて,異色の塗料を,表面の凸部のみに塗布し,二色仕上げする。
/(ハ)無機質板表面をリシン仕上げやスタッコ仕上げする。/(ニ)無機質板表面に塗料を塗布し,未乾燥の間に,その塗布面にカラー骨材を散布し,付着する。
/(ホ)無機質板表面に塗料を散点状に塗布し,斑点模様に仕上げる。/(ヘ)無機質板表面に,カラー骨材を含有する塗料を塗布する。/(ト)表面に凹凸のある無機質板の,その凹部に半透明着色塗料を溜め込み,あるいは,ワイピングする。
/【発明が解決しようとする課題】しかしながら,これらの製造方法では,何れも,所望する任意の模様を,精度よく,かつ,再現性よく形成することが困難であり,特に,表面に凹凸のある無機質板において困難であった。/そこで,本出願人は,表面に下層着色塗膜を予め施した無機質板をコンベアにより搬送する過程で,この無機質板表面に,インクジェットプリンターのノズルから,インク(もしくは塗料)を吐出し,無機質板表面に模様付けをする無機質化粧板の製造方法を提唱した。
この方法によれば,所望の模様を,確実な再現性を持って,しかも,表面に凹凸のある無機質板において形成することができる。この場合,多くの実験の結果,従来からインク(もしくは塗料)として使用されている樹脂,顔料に対して,どのような溶剤を,どのような形で用いるかが,上記問題解決の必須の条件であることを見出したのである。換言すれば,どの溶剤が,上記課題,特に,高い精度,高度の意匠性を発揮できる模様の形成のための条件であるかを確認することができた。」(【0001】〜【0004】)?B「即ち,本出願人が確認したことは,溶剤の比蒸発速度(酢酸正ブチルを100とした重量法による)が50以下では,無機質板の表面にドット状に吐出したインク滴(もしくは塗料滴)が広がり過ぎ,所期の模様がにじんだ状態となり,また,380以上では,ドット状のインク滴(もしくは塗料滴)が広がらず,点状態をそのまま維持して,固化し,予期したような連続した線状もしくは面状の模様を形成できないことである。また,後者の場合には,乾燥が速く,ノズル詰まりが起こり易く,好ましくないことも確認された。更に,インク粘度の点から考察すると,粘度5〜15cps(20℃)の範囲を外れると,正常なインク滴(もしくは塗料滴)となり難いことも確認できた。」(【0005】)?C「【発明の目的】本発明は,上記事情に基いてなされたもので,所望する任意の模様を,精度よく,かつ,再現性よく形成することが可能で,しかも,高度の意匠性を有する無機質化粧板の製造方法を提供しようとするものである。/【課題を解決するための手段】このため,本発明では,表面に下層着色塗膜を予め施した無機質板をコンベアにより搬送する過程で,この無機質板表面に,インクジェットプリンターのノズルから,樹脂,着色顔料及び比蒸発速度(酢酸正ブチルを100とした重量法による)が50〜380の溶剤を主成分とする粘度5〜15cps(20℃)のインクを吐出し,模様付けをすることを特徴とする。」(【0006】,【0007】)?D「【実施例】以下,本発明の製造法について詳細に説明する。本発明で扱う無機質板とは,…通常建築用に使用されている各種の無機質板であり,特に,その用途に制限なく適用できるものである。上記無機質板は,平滑な表面を有するものでも良いが,エンボス加工などの手段により,その表面に凹凸部を形成したものが,より好適である。これは,その凹凸模様と,後述するインクによる着色模様との組合せにより,相当高度な意匠性が表現できるためである。」(【0009】)。
?E「本発明で使用するインクジェットプリンターとしては,従来から公知のプリンターを使用することができ,その制御方法も,例えば,オンディマンド方式,荷電制御方式,サーマルヘッドによりインクを吐出させる方式が代表的なものとして挙げられる。/次に,本発明の無機質化粧板の製造方法を,ソレノイドバルブの開閉によるオンデイマンド方式のインクジェットプリンターを使用した一実施例について,図1および図2を参照して,具体的に説明する。…」(【0017】,【0018】)?F「また,多色の模様を形成したい場合は,上記プリンター・ヘッド2をコンベア1の搬送方向に複数段,配置し,それぞれのプリンター・ヘッド2中に,上述の供給方法で,異なる色のインクを供給し,それらインクを,上述と同様にして,吐出させる。これによって,基板A表面に多色の模様を抽出させることが可能である。本発明の製造方法では,このようにして,インクジェットプリンターによって基板表面に模様付け行ない,その後,乾燥させる。」(【0021】)?G「【発明の効果】本発明は,以上詳述したようになり,無機質板表面に,任意の模様を高い精度で,かつ,再現性よく,形成することが可能であり,また,インクジェットプリンターを採用するため,そのノズルから,走行中の無機質板に対して,無接触でインクを吐出し,模様付けすることができるので,無機質板の表面に凹凸があっても,本発明の方法が適用可能であり,高度の意匠性を有する無機質化粧板が得られる。」(【0025】)イ引用例1の記載事項上記引用例1の記載内容によると,引用例1には,建築内外装材などの分野における無機質化粧板の模様付けについての単一色仕上げ,二色仕上げ,斑点模様仕上げを含む従来技術(上記ア?A)を踏まえ,溶剤の比蒸発速度及び塗料の粘度を調整することによって正常なインク滴(塗料滴)を生成することにより(同?@,?B),所望の任意の模様を,精度よく,かつ,再現性よく形成することが可能で,しかも,高度の意匠性を有するものとする(同?C,?G)ような無機質化粧板の製造方法が記載されているということができる。
そして,模様付け方法による着色模様と無機質板表面の凹凸の組合せにより,相当高度な意匠性が表現できるものとされ(同?D),ソレノイドバルブの開閉によるオンデイマンド方式のインクジェットプリンターを使用した実施例の説明(同?E)において,多色の模様を形成したい場合(同?F)についても紹介されている。
ウ引用例1の従来技術の補足引用例1には,従来技術として,出願人自身が過去において提唱した無機質化粧板の製造方法についても紹介されており,その製造方法が引用例1の出願人である原告の出願に係る特開平6-155729号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)に記載されたものであることは当事者間に争いがないところ,乙1公報における以下の記載によると,乙1公報には,コンピュータ制御されたジェットノズルから,コンベアにより搬送される建築板の表面に向けて塗料を噴射させ,能率良く,かつ精度良く柄模様を描出させる建築板の塗装方法であって,多色塗装を含むものについて記載されていると認められる。
(ア)「【請求項1】コンベアにより搬送しつつある建築板の表面に柄模様を塗装する方法において,予め塗装すべき柄模様に対応する柄パターンのパターンデータをコンピューターに記憶させ,前記コンベア上に配した塗装ヘッドに前記コンベアの巾方向に亘って並列したジェットノズルからのインク噴射の制御を前記コンピューターの制御信号によるバルブ制御装置により行ない,前記塗装すべき柄模様を前記ジェットノズルからのインク噴射により前記建築板の表面に塗装することを特徴とする建築板の塗装方法。/【請求項2】コンベア上の前後に配した複数の塗装ヘッドにそれぞれ前記コンベアの巾方向に亘って並列したジェットノズルからのインク噴射により前記建築板の表面に多色塗装することを特徴とする請求項1記載の建築板の塗装方法。」(特許請求の範囲)(イ)「【産業上の利用分野】本発明は,建築板の表面,殊に凹凸模様を有する表面に柄模様を塗装する方法に関するものである。/【従来の技術】近年,住宅の外壁はレンガ調,タイル調,割石調が好まれ普及しつつある。しかし,これらに属する外装板の従来製法は,未硬化の状態にある平板状の基板の表面を凹凸模様が形成された型板を介してプレス機で押圧したり,ロール表面に凹凸模様が刻設されたロールプレス機で押圧してレンガ,タイル,割石肌を表現する凹凸模様が板表面に形成され,次いで硬化養生工程を経,公知のスプレー塗装機,フローコーター塗装機,ロールコーター塗装機等で塗料を塗装する表面化粧工程を経て製品の外装板としている。しかし,これらの場合,外装板表面に柄模様を施すことは困難であり,施工状態において外観的に単調な外壁となり,本物のレンガ,タイル,割石とは趣きを異にし,意匠性に乏しくなるものであった。/又,実開昭63-149725号では,電子制御方式によりインクの噴射ノズルを左右に移動してプリント対象板を前後に移動したり,プリント対象板を固定して噴射ノズルを摺動軸と共に前後に移動しつつプリント作業を行なうことが提案されている。しかし,この方式は,噴射ノズルを左右に移動しつつ長尺のプリント対象板を前後に移動して全幅に亘って印刷するには,搬送装置に停止精度を得るための高度な技術が要求され,且つプリント所要時間も相当に長くなる。一方,長尺のプリント対象板を固定して噴射ノズルを摺動軸と共に左右,前後に移動しつつ印刷する場合には,摺動軸の移動機構に堅牢さと高精度性が必要となり,従って長尺の建築板に能率良くプリントするにはプリント速度の点と精度維持の点から不適当であった。/【発明が解決しようとする課題】そこで,本発明は,長尺な建築板,殊に表面に凹凸模様を有する建築板の表面に柄模様を能率良く且つ精度良く描出できる建築板の塗装方法を提供し,もって上記従来技術の問題を解決しようとするものである。」(【0001】〜【0004】)エ従来技術の更なる補足上記ウ(イ)のとおり,乙1公報には,塗装方法の従来技術として実開昭63-149725号が引用されているところ,その内容を示す実願昭62-42388号(実開昭63-149725号)のマイクロフィルム(甲25)における以下の記載によると,乙1公報には,従来技術として,各種板状体等に対して,文字,図形,絵画及び写真等の図柄を能率良くインクジェットプリントすることが可能な印刷装置の考案が記載されていると認められる。
(ア)「(1)複数のインクジェットヘッドを同一軸上に平行に配列し,同時に広巾素材に印刷を行うインクジェットプリンター。/(2)広巾素材を水平に固定又は移動させ,インクジェットヘッドのインクノズルの噴射口を水平状態で固定又は移動させる如く配設する実用新案登録請求の範囲第1項記載のインクジェットプリンター。/(3)各ジェットヘッドの操作を電子制御方式により調整する実用新案登録請求の範囲第1項記載のインクジェットプリンター。」(実用新案登録請求の範囲)(イ)「この考案は,インクジェット式印刷装置に係り特に,広巾の建築材料,広告宣伝材料等に対する文字,図形,絵画,写真等のカラープリントを行う装置の構造に関する考案である。」(産業上の利用分野)(ウ)「インクジェット型の印刷装置としては,近時大いに開発が進み,電子記録ヘッドとマルチノズルを備え図形,グラフ等も着色で同時プリントが可能となっている。例えば特開昭58-188666号記載の如くである。/然しながら,これらは何れも単独のインクジェットヘッドよりなり,プリント対象物は主として紙状可撓性物であってB4,A3等の大きさのものを対象として実施されている。/即ち,巾の狭いものに限られ,巾の広いものは単位長さの印刷能率が低下し不適当であった。」(従来の技術)(エ)「この考案は,上記のような従来のインクジェット型プリンターと異なり,巾の広い被印刷体であって,厚みの大なる平板状態,即ち紙,繊維,木質等の板状体,コンクリート板状体,合成樹脂板状体等若しくはこれら複合又は積層体等に対して能率良くインクジェットプリントを行うことの可能な印刷装置を提供することを目的として,研究の結果完成されたものである。」(考案が解決しようとする問題点)オ引用例1記載の模様付け方法上記イによると,引用例1には,インクジェットプリンターを使用して高度の意匠性を有する無機質化粧板を製造するための模様付け方法として,インクジェットプリンターによる多色の着色模様を描出するものが記載されているものと認められるところ,上記ウ及びエの従来技術の状況を踏まえると,上記着色模様としては文字,絵画,写真等のカラープリントが含まれるものというほかない。
この点につき,原告は,引用発明1の模様付け方法が塗布・塗工方式であり,本件発明の模様付け方法である印刷方法は排除されていると主張し,その根拠として甲22の実験報告書を提出する。
しかしながら,上記ア?Bのとおり,引用例1には,無機質板の表面にドット状に吐出したインク滴(もしくは塗料滴)が広がり過ぎ,所期の模様がにじんだ状態となることが問題であることのほか,ドット状のインク滴(もしくは塗料滴)が広がらず,点状態をそのまま維持して固化し,予期したような連続した線状もしくは面状の模様を形成できないことについても問題点として指摘する記載がある。
甲22は,そのような記載がある引用例1の特許請求の範囲の請求項1記載の発明の実施例を追試したものであるが,実験報告書の内容によると,同実施例のものにおいて,インクジェットプリンターによって吐出されたインクの液滴を基板の表面で広げて互いに連結させ,これによって均一な塗膜を形成して模様を得るという模様付け方法が説明されているものと認められる。
そして,上記アないしオで認定及び説示したところによると,引用例1に記載された無機質化粧板の製造方法における模様付け方法が,塗布・塗工方法のみを念頭に置いたものであって,印刷方式を排除したものであるということは到底できないというべきであり,上記ア?Bの記載は,インク滴の広がり具合が適正なものとなるような溶剤の比蒸発速度や塗料の粘度を説明するために主としてノズルピッチが大きい場合を念頭に置いて説明する記載であり,実施例についても,同様の配慮からノズルピッチをミリメートルのオーダーとした例を紹介しているにすぎないものと理解すべきである。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
(2)本件審決の一致点についての認定の当否以上によると,引用発明1の模様付け方法について,印刷方法を排除することなく,「柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって,ソレノイドバルブを開閉制御してインク吐出を制御することにより,該基板の表面に柄模様を模様付けする基板の模様付け方法」とした本件審決の認定に誤りはなく,これを前提として,本件発明1と引用発明1とは「柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって,インク吐出を制御することにより,該基板の表面に柄模様を塗装する基板の塗装方法」の点において一致するとした本件審決の認定にも誤りはないというべきである。
したがって,取消事由1において原告が前提とする「引用発明1の模様付け方法は塗布・塗工方法である」旨の主張を採用することはできず,本件審決による本件発明1と引用発明1の一致点の認定に誤りはないというべきであるから,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)について(1)相違点(ア)についての判断原告は,引用発明1の模様付け方法が塗布・塗工方式のものであることを前提として,本件審決の相違点(ア)についての判断が誤りであると主張するが,上記1のとおり,引用発明1の模様付け方法として印刷方式が排除されていると考える理由はないから,原告の主張は前提において誤っている。
(2)相違点(イ)についての判断原告は,引用発明1の模様付け方法は塗布・塗工方式であり,引用発明2のピエゾ振動方式のインクジェットプリンターのようにドットを形成し,解像度(dpi)の概念を有する印刷方式を適用することは考えられないから,本件審決の相違点(イ)についての判断は誤りであると主張するので,上記(1)の判断を踏まえ,引用例2の記載について検討する。
ア引用例2の記載引用例2における以下の記載によると,引用例2には,インクの付着性,平滑性及び耐光性等を向上させるためにエマルジョン系塗料を塗布した基板の表面に,ピエゾ式インクジェットヘッドにより水性顔料系インクを用いて直接絵柄等を印刷し,更にその表面に透明硬化型プラスチック塗膜を積層したインクジェットプリントパネルの発明(引用発明2)が記載されていると認められる。
(ア)「水性インクの付着及びレベリングの良好なエマルジョン系塗料を塗布した基板の表面に,ピエゾ式インクジェットヘッドにより水性顔料系インクを用い直接絵柄等を印刷し,更にその表面に保護及び美装のための透明硬化型プラスチック塗膜を積層することを特徴とするインクジェットプリントパネル。」(実用新案登録請求の範囲)(イ)「この考案は,セラミック系,セメント系等のタイル,ガラス,金属,木材等のパネルに係り,更に詳しくは,装飾性,耐久性に優れた内外建材用パネルに関する考案である。」(産業上の利用分野)(ウ)「上記のような,装飾用のパネルとしては従来より種々のものが実施されていて,例えば,シルクスクリーン印刷,エアースプレイジェット等が行われているが,シルクスクリーン印刷の場合は,版を必要とするため当初原価が高くなり,少量生産には不適当であり,エアースプレージェットの場合には,インクが拡散して吹き付けられるために絵画が粗くなり微細で平滑な表現が出来ない等の欠点があった。/近時,インクジェットプリンターの進歩が見られ例えば,本願考案者に係る,実開昭63-149725号の如く広巾のパネル等の印刷に精密で効率の良いプリンターが開発されているが,水性染料等のインクが使用されるためにプリント基板によってはインクの付着性,平滑性,或いは耐光性が劣ること等の欠点が見られた。」(従来の技術)(エ)「本考案はピエゾ式(即ち圧電素子利用の)インクジェットプリンターで前記のような各種素材よりなる基材の表面に,直接カラー画をプリントするに際して画面を構成するインクが基材面に強固に付着し,かつ平滑なインク面を形成する如くし,更に付着してインクが,耐光性,耐摩耗性,耐熱性等を充分に保持することを目的として研究を行いこの考案を完成したものである。」(考案が解決しようとする問題点)(オ)「以下にこの考案の構成を,実施の例を示した図面に基づいて具体的に説明する。…(3)はピエゾ式インクジェットヘッドで水性顔料系のインクを用いて下地層(2)の上に描かれた絵画,文字等の塗層であって,微細な部分まで鮮明にプリントされる。…」(問題点を解決するための手段)イ引用例2の従来技術の補足引用例2には従来技術として実開昭63-149725号に係るプリンターが紹介されているところ,実願昭62-42388号(実開昭63-149725号)のマイクロフィルム(甲25)において,各種板状体に対して,文字,図形,絵画及び写真等の図柄を能率良くインクジェットプリントすることが可能な印刷装置の考案が記載されていることは,上記1(1)エで認定したとおりである。
ウ引用発明1と引用発明2の組合せについて上記ア及びイによると,引用発明2においては,従来から行われていた文字,図形,絵画及び写真等の図柄を印刷するに際し,インクの付着性,平滑性及び耐光性等を向上させるために,基材にエマルジョン系塗料を塗布することに加え,インクジェットプリンタの進歩に合わせて,微細な部分まで鮮明に印刷することができるピエゾ式インクジェットヘッドを採用しているものということができるから,高度な意匠性を表現することを目的とする引用発明1において,引用例2に従来技術として記載されたものと同様の技術を前提として,上記と同様の観点から,より微細な部分まで鮮明に印刷することのできるピエゾ式インクジェットヘッドを採用することに何ら困難性を見出すことはできないし,むしろ,従来技術からの技術の系譜において,引用発明1が図柄印刷を含む技術の大きな流れの中に位置付けられることに鑑みるとき,引用発明1のインクジェットプリンターとして引用発明2のピエゾ式のものを採用することは極めて自然な発想であるというべきである。
エ小括以上によると,引用発明1に引用発明2を適用し,「ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンター」を「ピエゾ振動方式のインクジェットプリンター」とすることにより相違点(イ)に係る構成とすることは,当業者にとって容易であるというべきであり,本件審決の相違点(イ)についての判断に誤りはない。
(3)相違点(ウ)についての判断原告は,引用発明1のインクジェットプリンターを引用発明2のピエゾ振動方式のインクジェットプリンターとすることはできないことを理由として,本件審決の相違点(ウ)についての判断が誤りであると主張するが,原告の主張を採用することができないことは上記(2),そして,上記1のとおりである。
(4)以上のとおり,原告の主張はいずれも採用し得ないから,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(効果の顕著性を看過した誤り)について原告は,本件発明1が,引用発明1と引用発明2を組み合わせることによっては達成し得ない格別顕著な効果を奏するとして,これを看過した本件審決の判断の誤りをいう。
しかしながら,そもそも引用発明1が基板の凹凸模様と着色模様を組み合わせることにより相当高度な意匠性を表現することを想定したものであることは,上記1(1)ア?Dに摘示した引用例1の記載から明らかであり,ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターを採用することにより,微細な部分まで鮮明に印刷することができるようになれば,これに応じて意匠性が高まることも明らかであって,原告が主張する本件発明1の効果はこれらを組み合わせることによって達成されるものにほかならないから,当業者が予想する範囲内のものというべきである。
したがって,原告の主張を採用することはできないから,その主張が審決の取消事由として許される主張であるか否かについて検討するまでもなく,取消事由3は理由がない。
4原告は,以上のほか,本件審決の判断の誤りをるる主張するが,その実質は,以上で検討した原告の主張を繰り返すものにすぎず,これを採用し得ないことは明らかである。
5結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 杜下弘記
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