関連審決 | 不服2006-16809 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 公知技術 / 下位概念 / 容易に想到(容易想到性) / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10315号
審決取消請求事件
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原告SMC株式会社 同訴訟代理人弁理士林宏 林直生樹 堀宏太郎 被告特許庁長官 同 指定代理 人千葉成就紀本孝 尾家英樹 安達輝幸 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/08/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2006-16809号事件について平成20年7月7日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において下記2の本願発明に対する拒絶査定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審判書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯原告は,平成9年10月14日,名称を「リニアモータ式チャック」とする発明につき出願(特願平9-296265号)をし(甲5),平成18年4月14日付けで手続補正をしたが(甲6),特許庁は,同年6月26日付けで拒絶査定をした。 原告は,平成18年8月3日,上記拒絶査定に対する不服の審判請求をし,また,同年9月1日付け(甲7)及び平成20年3月7日付け(甲8)で明細書を補正する手続補正を行った。 特許庁は,上記審判請求を不服2006-16809号事件として審理し,平成20年7月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,同月28日,その謄本を原告に送達した。 2本件出願に係る発明の内容本件出願に係る発明のうち,上記平成20年3月7日付けの手続補正書によって補正された明細書の【請求項1】は,次のとおりである。以下,同請求項に係る発明を「本願発明」という。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を示す。以下においても,原文を引用する場合は,これに倣う。 通電方向を切換可能なコイルと,該コイルの内部に往復動可能に収容され,複数の磁石が同一の磁極を軸方向に対向させて,その磁極の対向部分が常に上記コイルと対向するように関係付けられて配置された磁石駆動体とを有し,上記コイルへの通電方向を切換えることによって上記磁石駆動体が上記コイルの内部を逆方向に移動するように構成されているリニアモータと;/上記磁石駆動体と一体に往復動する移動体と;/ワークを把持する複数のフィンガと;/これらのフィンガの開閉を案内する案内機構と;/上記移動体の往復動をフィンガの開閉動作に変換する変換機構と;/上記コイルへの通電量を制御することによって上記フィンガによるワークの把持力を調節するコントローラと; /を備えていることを特徴とするリニアモータ式チャック。 3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例に記載された(1)発明(以下「引用発明」という。)又は下記イ及びウの公知例1及び2に記載された技術事項(以下「公知技術1」及び「公知技術2」という。)並びに下記エの周知例等に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。 ア引用例:特開平5-77187号公報(甲1)イ公知例1:実開平7-17488号のCD-ROM(甲2)ウ公知例2:特開平6-38486号公報(甲3)エ周知例:特開平5-187412号公報(甲4)本件審決が認定する本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のと(2)おりである。 一致点:駆動源と;/駆動源により往復動する移動体と;/ワークを把持する複数のフィンガと;/これらのフィンガの開閉を案内する案内機構と;/上記移動体の往復動をフィンガの開閉動作に変換する変換機構と;/を備えているチャック。 相違点:本願発明は,「通電方向を切換可能なコイルと,該コイルの内部に往復動可能に収容され,複数の磁石が同一の磁極を軸方向に対向させて,その磁極の対向部分が常に上記コイルと対向するように関係付けられて配置された磁石駆動体とを有し,上記コイルへの通電方向を切換えることによって上記磁石駆動体が上記コイルの内部を逆方向に移動するように構成されているリニアモータと;上記磁石駆動体と一体に往復動する移動体」と,「上記コイルへの通電量を制御することによって上記フィンガによるワークの把持力を調節するコントローラと」を有する「リニアモータ式チャック」であるが,引用発明は,「閉時の駆動源となる電磁ソレノイド13,開時の駆動源となるバネ12とからなる駆動手段7と;上記駆動手段7により往復動する駆動ロッド11」を有する「ワークを把持するハンド装置」である点。 4取消事由相違点の対比・判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕次のとおり,本件審決には相違点の対比・判断の誤りがある。 1本件審決(7頁5,6行)は,引用発明の駆動源をリニアモータとし,その具体的構造として公知技術2のものとすることは,設計的事項にすぎないとする。 しかしながら,引用発明の駆動源を公知技術2のリニアモータとすることは,設計的事項ではない。 本願発明において用いているリニアモータ,すなわち,「通電方向を切換可能なコイルと,該コイルの内部に往復動可能に収容され,複数の磁石が同一の磁極を軸方向に対向させて,その磁極の対向部分が常に上記コイルと対向するように関係付けられて配置された磁石駆動体とを有し,上記コイルへの通電方向を切換えることによって上記磁石駆動体が上記コイルの内部を逆方向に移動するように構成されているリニアモータ」(以下「特定リニアモータ」という。)では,コイルの内部に収容された磁石駆動体における同一の磁極の対向部分から外側に向けて強い磁力線が発生し,その状態において上記コイルに通電することから,フレミング左手の法則により上記磁石駆動体に軸方向の推力が生じ,この推力はコイルへの通電量を制御することによって調節することができるとともに,その推力が,上記磁力線及び通電量が一定であれば磁石駆動体の移動位置により変化することがなく,結果的に,磁石駆動体がどの位置にあっても通電量に応じた推力を得ることができるものである。これらの作用効果は,上記特定リニアモータ自体が持つ作用効果であり,チャックとは関係がない。 そうであるところ,特定リニアモータを,本願発明のように,チャックのフィンガによるワークの把持力の発生のために用いると,フィンガがどの位置にあっても通電量に応じた把持力を得ることができ,しかも,その把持力は通電量を制御することにより任意に調節することが可能になる。 このように,「フィンガがどの位置にあっても通電量に応じた把持力を得る」ということは,チャックにおいてフィンガにより把持する対象物を常に一定の力で把持することを可能にすることから極めて有効な特徴(効果)であり,また,「把持力は通電量を制御することにより任意に調節することができる」ということは,過大な把持力で把持対象物を破損させたり,重量物を把持力不足でフィンガから脱落させたりするのを抑止できることから,チャックにおける極めて有効な特徴(効果)である。 本願発明は,特定リニアモータ自体が備える特性,すなわち,磁石移動体の移動位置にかかわらず通電量に応じた一定の推力を発生することをチャックの把持機能に有効に利用したものである。本願発明は,「チャック」を「特定リニアモータ」で駆動する構成(「チャック」と「特定リニアモータ」との結合構造)とすることにより,「フィンガがどの位置にあっても通電量に応じた把持力を得る」及び「把持力は通電量を制御することにより任意に調整することができる」というすぐれた結合効果を奏するものである。これらは,上記特定リニアモータ自体の作用効果と同一視できるものではなく,また,本願発明における効果が公知技術2のリニアモータの効果から予測できるものでもなく,チャックの駆動源として,上記特定リニアモータに対応する公知技術2のリニアモータを用いることは,設計的事項といえるものではない。 なお,本件審決(7頁7〜11行)は,リニアモータにおいて,コイルへの通電量を制御することによってトルクが変わることは,公知例2の【0028】,拒絶理由で引用した周知例の【0007】にみられるごとく周知であり,これにより「フィンガによるワークの把持力」が調節されることは明らかであるとする。 しかしながら,「リニアモータにおいて,コイルへの通電量を制御することによってトルクが変わること」が,公知例2等によって公知であったとしても,チャックの駆動源として,特定リニアモータに対応する公知技術2のリニアモータを用いること自体が容易に想到できることではないので,本件審決が述べるような「フィンガによるワークの把持力」の調節も,当然に容易に想到できる範ちゅうではない。 2本件審決(7頁12〜15行)は,フィンガによるワークの把持力が調節されることが望ましいことは当然であるから,調節に必要な部材である「コイルへの通電量を制御することによって上記フィンガによるワークの把持力を調節するコントローラ」を設けることは,適宜なし得る事項にすぎないとする。 しかしながら,「フィンガによるワークの把持力の調節」自体が公知であっても,従来一般的に行われている把持力の調節は,その把持力をセンサで検出して制御装置にフィードバックし,検出した把持力が目標値に達するようにフィンガの駆動源の出力を調整するという手段によるものであって,本願発明のように,コイルへの通電量の制御のみを行えばよいものとは,制御系が本質的に相違する。 なお,被告は,特開平2-218579号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)にみられるように,フィードバックでないものも公知であると主張する。しかし,乙1公報に記載の「積層型圧電セラミックスを用いたチャック」における把持力は,印加電圧によって決まるものではなく,圧電セラミックスの変位に応じた大きさになるため,その把持力を調整するためには,ワークを把持した時点のアームの把持力をセンサで検出して制御装置にフィードバックし,検出した把持力が目標値に達するよう印加電圧を調整するというフィードバック制御が必要である。乙1公報には,「フィードバックでないものが公知である」とする技術的事項は記載されていない。 したがって,本件審決が述べるように,「コイルへの通電量を制御することによって上記フィンガによるワークの把持力を調節する」ことは,従来行われていることではなく,その調節のためのコントローラを設けることは,そのコントローラが「チャック」と「特定リニアモータ」の結合との関連で設けられるものであるから,この「チャック」と「特定リニアモータ」との結合と同様に,容易に想到できることではない。 3本願発明につき,その要旨とするところから本質的部分だけを抽出すると,作用的あるいは機能的な記載ではあるが,「特定リニアモータによって通電量のみに応じた駆動力が出力部材に発生し,その出力部材の駆動位置にかかわらず駆動力が一定であるアクチュエータの上記出力部材により一対のフィンガを駆動するチャック」という発明として把握することができる。このような発明は,引用例,公知例1及び2並びに周知例に記載されたものではないばかりでなく,これらにおいて示唆していないものであり,本願発明は,上記作用的あるいは機能的記載の発明を,その構成を具体化して特定した下位概念の発明に相当するものであって,当然に引用例,公知例1及び2並びに周知例に記載されたものではないばかりでなく,これらにおいて示唆していないものである。 以上のとおり,本願発明は,引用発明,公知技術1及び2並びに周知技術によって当業者が容易に発明をすることができたとする本件審決の認定は誤っている。 したがって,本願発明の請求項1に従属する他の請求項に係る発明も,請求項1と同様に当業者が容易に発明をすることができたものではなく,そのため,本件審決は取消しを免れない。 〔被告の主張〕次のとおり,原告主張の取消事由には理由がない。 1駆動源としてリニアモータは周知であるから,引用発明のチャックの駆動源をリニアモータとすることは,適宜選択し得る事項にすぎない。 チャックの駆動源をリニアモータとするに当たっては,チャックに用いるのであるから,リニアモータの中から,チャックに適したリニアモータを選択することは,自然なことである。 チャックにおいては,把持する対象が常に同一物とは限らないことから,チャックの機能として,把持力の調節が必要な場合があることは,乙1公報にもみられるように明らかである。 リニアモータの一種である公知技術2のリニアモータ(特定リニアモータ)は,「磁石駆動体がどの位置にあっても通電量に応じた推力を得る」ことができるものである。 そして,リニアモータにおける「推力」は,チャックにおいては「把持力」に関係するものであるから,公知技術2のリニアモータを引用発明に適用することにより,「フィンガがどの位置にあっても通電量に応じた把持力を得る」ことができることとなる。 したがって,チャックの駆動源のためのリニアモータとして,公知技術2のリニアモータを用いることは,適宜選択し得る事項にすぎない。 2「コントローラを設けること」について,公知技術2のリニアモータは,上記のとおり「通電量の制御」によって,これに応じた推力を得ることができるものであり,その特性を生かすためには,通電量を変えるための手段であるコントローラが必要であることは明らかである。 したがって,公知技術2のリニアモータの引用発明への適用に当たり,コントローラは一体的なものと解されるから,適宜なし得る事項にすぎない。 なお,原告は,「従来一般的に行われている把持力の調節は,その把持力をセンサで検出して制御装置にフィードバックし,検出した把持力が目標値に達するようにフィンガの駆動源の出力を調整するという手段による」と主張するが,乙1公報にみられるように,フィードバックでないものも公知である。 3原告が主張する作用効果についても,上記のとおり公知技術2のリニアモータの適用に伴い予測可能なもの,いわば効果の和にすぎず,格別な相乗効果があるとは認められない。 第4当裁判所の判断1本願発明の容易想到性原告は,本件審決の相違点についての対比・判断の誤りを主張するが,その当否を検討するに先立って,本願発明が引用発明,公知技術1及び2並びに周知技術から容易想到であるとした本件審決の認定判断について検討しておくこととする。 (1)引用発明について引用発明が「閉時の駆動源となる電磁ソレノイド13,開時の駆動源となるバネ12とからなる駆動手段7と;/上記駆動手段7により往復動する駆動ロッド11と;/ワークを把持する複数のフィンガ6a,6bと;/これらのフィンガの開閉を案内するガイド22a,22bと;/上記移動体の往復動をフィンガの開閉動作に変換するリンク手段と;/を備えているワークを把持するハンド装置」に係る発明であることは,当事者間に争いがない。 (2)公知技術1についてア公知例1には,次の記載がある。 【請求項1】被把持物をその側方から複数箇所において当接して把持する複数の把持部材を有するとともに,各把持部材の相互の間隔を拡縮するように把持部材の少なくとも一つを駆動する駆動源を有する把持手段と,/前記把持部材で把持される前記被把持物の上面に当接すべき基準面を有し,この基準面を被把持物の上面に押し付ける押圧手段とを備えたことを特徴としたチャック。 【0001】【産業上の利用分野】本考案はチャックに関し,特に容器のキャップを着脱自在に保持するキャップチャック機構に好適に利用できるものである。 【0007】【課題を解決するための手段】本考案によるチャックは,前記課題を解決するため,以下のような手段を採用した。 【0008】即ち,被把持物をその側方から複数箇所において当接して把持する複数の把持部材を有するとともに,各把持部材の相互の間隔を拡縮するように把持部材の少なくとも一つを駆動する駆動源を有する把持手段と,前記把持部材で把持される前記被把持物の上面に当接すべき基準面を有し,この基準面を被把持物の上面に押し付ける押圧手段とを備えたことを特徴としている。 【0011】駆動源としては,エアーシリンダ装置でも良く,回転モータやリニアモータを含む電気モータでも良く,あらゆる種類のソレノイドでも良く,要は把持部材を動かす動力を把持手段に与えるものであればよい。なお,ここで言う駆動源とはクランクハンドルのように人力を機械運動に変換する装置を含む広い概念である。 【0012】また,駆動源からの駆動力を把持部材伝達するためには,直接連結しても良く,リンク機構で伝達しても良く,ギア列で伝達しても良く,ベルト又はチェーンで伝達しても良い。 イ以上のとおり,公知例1には,チャックの駆動源として,把持部材を駆動するものが用いられ,その例として,エアーシリンダ装置,回転モータやリニアモータを含む電気モータ,ソレノイドが記載されているのであるから,公知技術1には,チャックの駆動源としてリニアモータを用いることが示されていると認められる。 ウそうすると,ハンド装置である引用発明のチャックに相当する「ワークを把持するハンド装置」の駆動源として,リニアモータを採用することは,上記の公知技術1に接した当業者においては,特段の創意を要することなく,適宜選択し得る事項といわなければならない。 (3)公知技術2についてア公知例2に記載された可動磁石式アクチュエータの構成は,次のとおりであって,その構成が本願発明のリニアモータ(特定リニアモータ)の構成と同一であることは,当事者間に争いがない。 【請求項1】同極対向された少なくとも2個の永久磁石間に磁性体を設けて磁石可動体を構成し,少なくとも3連のコイルの内側に当該磁石可動体を移動自在に設け,前記少なくとも3連のコイルを,各永久磁石の磁極間を境にして相異なる方向に電流が流れる如く結線したことを特徴とする可動磁石式アクチュエータ。 【請求項2】前記コイル外周側に磁性体ヨークを設けて,前記永久磁石の着磁方向に垂直な方向の磁束成分を増加させるための磁気回路を構成した請求項1記載の可動磁石式アクチュエータ。 【請求項3】前記磁石可動体がガイド体で移動自在に案内され,該ガイド体の少なくとも一端に前記磁石可動体が吸着する磁性吸着体を設けた請求項1記載の可動磁石式アクチュエータ。 イ公知例2には,以上の構成のほか,次の記載がある。 【0001】【産業上の利用分野】本発明は,制御機器,電子機器,工作機械等において電気エネルギーを電磁作用により往復運動エネルギー等に変換させる可動磁石式アクチュエータに関する。 【0022】このように,2個の永久磁石5A,5Bを同極対向させかつ永久磁石間に軟磁性体6を設けた磁石可動体3は,フレミングの左手の法則に基づく推力に寄与できる磁石可動体3の長手方向に垂直な磁束成分を大きくでき,かつ3連のコイル2A,2B,2Cは永久磁石の全磁極の磁束と有効に鎖交するので,3連のコイル2A,2B,2Cに交互に逆極性の磁界を発生する向きに電流を通電することにより,従来例では到達し得ない大きな推力を発生することができる。各コイルの電流を反転させれば磁石可動体3の推力の向きも反転する。交流電流を流した場合には,一定周期で振動を繰り返すバイブレータとして働く。 【0025】このように,本発明の可動磁石式アクチュエータは,同極対向の永久磁石の組み合わせ構造体で磁石可動体を構成しており,永久磁石の着磁方向(軸方向)に垂直な磁束密度成分を充分大きくできかつ永久磁石の全ての磁極の発生する磁束を有効利用できるので,磁石可動体を取り巻くように周回した少なくとも3連のコイルに流れる電流との間のフレミングの左手の法則に基づく推力を充分大きくでき,小型,小電流で大きな推力を得ることができる。 ウ以上の記載によると,公知技術2の可動磁石式アクチュエータ(リニアモーター)は,コイルへの通電力を制御することによって推力が変わるものであって,工作機械等の種々の装置の駆動源として用いられるものであることは明らかであるから,これをチャックの駆動源に用いることは,公知技術2の可動磁石式アクチュエータ(リニアモータ)の用途について予定された範囲内のものとして適宜選択され得るものであったと認められる。 (4)以上によれば,引用発明の駆動源としてリニアモータを選択し,その具体的な構成を公知技術2のリニアモータとすることは,当業者にとって容易に想到し得るものといわざるを得ない。 2原告の主張とその当否以上の判断を前提に,原告の主張について個々的に検討すると,以下のとおりである。 (1)原告は,本願発明は,特定リニアモータ自体が備える特性(磁石移動体の移動位置にかかわらず通電量に応じた一定の推力を発生する)をチャックの把持機能に有効に利用したものであって,「チャック」を「特定リニアモータ」で駆動する構成(「チャック」と「特定リニアモータ」との結合構造)とすることにより,「フィンガがどの位置にあっても通電量に応じた把持力を得る」及び「把持力は通電量を制御することにより任意に調整することができる」というすぐれた結合効果を奏するものであるところ,これらは,上記特定リニアモータ自体の作用効果と同一視できるものではなく,また,本願発明における効果が公知技術2のリニアモータの効果から予測できるものでもなく,チャックの駆動源として,上記特定リニアモータに対応する公知技術2のリニアモータを用いることは,設計的事項といえるものではない,と主張する。 しかしながら,引用発明において,その駆動源として公知技術2のリニアモータを用いれば,リニアモータの磁石可動体の移動によってフィンガが開閉動作するようになるのであるから,フィンガの把持力は,磁石可動体が移動する推力によるといえる。そして,本願発明の特定リニアモータと公知技術2の可動磁石式アクチュエータ(リニアモータ)とは同一の構成のものであるから,原告主張の上記効果は,引用発明の駆動源として公知技術2のリニアモータを用いた結果,必然的に奏せられるものであって,格別なものと認めることはできず,原告の主張は,採用することができない。 なお,原告は,「リニアモータにおいて,コイルへの通電量を制御することによってトルクが変わること」が,公知例2等によって公知であったとしても,チャックの駆動源として,特定リニアモータに対応する公知技術2のリニアモータを用いること自体が容易に想到できることではないので,本件審決が述べるような「フィンガによるワークの把持力」の調節も,当然に,容易に想到できる範ちゅうではない,と主張する。 しかしながら,上記のとおり,引用発明の駆動源としてリニアモータを選択し,その具体的な構成を,工作機械等の種々の装置の駆動源として用いられることが想定されている公知技術2のリニアモータとすることは,当業者にとって容易に想到し得るものと認めることができる以上,原告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。 (2)原告は,「フィンガによるワークの把持力の調節」自体が公知であっても,従来一般的に行われている把持力の調節は,その把持力をセンサで検出して制御装置にフィードバックし,検出した把持力が目標値に達するようにフィンガの駆動源の出力を調整するという手段によるものであって,本願発明のように,コイルへの通電量の制御のみを行えばよいものとは制御系が本質的に相違し,また,「コイルへの通電量を制御することによって上記フィンガによるワークの把持力を調節する」ことは,従来行われていることではなく,その調節のためのコントローラを設けることは,そのコントローラが「チャック」と「特定リニアモータ」の結合との関連で設けられるものであるから,この「チャック」と「特定リニアモータ」との結合と同様に,容易に想到できることではないと主張する。 しかしながら,本願発明の特定リニアモータと公知技術2の可動磁石式アクチュエータ(リニアモータ)とは同一の構成のものであるから,公知技術2のリニアモータにおいても,本願発明の特定リニアモータと同じく,コイルへの通電量を制御することによって推力が調整され,この推力に応じた把持力で,フィンガがワークを把持することになるから,引用発明に公知技術2のリニアモータを組み合わせたチャックにおいても,コイルへの通電量を制御することによってフィンガによるワークの把持力が調整されることになる。 そうすると,引用発明に公知技術2のリニアモータを組み合わせたチャックにおいては,フィンガによるワークの把持力を調整するために,把持力をセンサで検出して制御装置にフィードバックするという構成をあえて加えることを必要とせず,また,この通電量の制御のためにコントローラを設けることも通常採用する方法ということができる。 したがって,コイルへの通電力を制御することによってフィンガによるワークの把持力の調整するコントローラを設けることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る事項というほかはない。 (3)また,原告は,本願発明は,引用例,公知例1及び2並びに周知例に記載も示唆もされていない,「特定リニアモータによって通電量のみに応じた駆動力が出力部材に発生し,その出力部材の駆動位置にかかわらず駆動力が一定であるアクチュエータの上記出力部材により一対のフィンガを駆動するチャック」という作用的あるいは機能的な発明の構成を具体化して特定した下位概念の発明に相当するものであって,当然に引用例,公知例1及び2並びに周知例に記載も示唆もされていないと主張する。 しかしながら,上記1(2)イのとおり,公知技術1にはチャックの駆動源としてリニアモータを用いることが示されており,また,上記1(3)ウのとおり,本願発明の特定リニアモータの構成と同一である公知技術2の可動磁石式アクチュエータ(リニアモータ)が示されており,また,このリニアモータは,コイルへの通電量を制御することによってフィンガによるワークの把持力が調整できるものであるから,引用発明のハンド装置の駆動源としてリニアモータを選択し,その具体的な構成として公知技術2のリニアモータを用いることによって,本願発明の作用的あるいは機能的な発明の構成が具体化して特定されているといえるから,原告の主張は,採用することができない。 3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 本多知成 |
裁判官 | 浅井憲 |