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関連審決 不服2006-13162
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10304審決取消請求事件 判例 特許
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平成20行ケ10368審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10479審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10064審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  慣用技術 /  公知技術 /  技術分野の関連性 /  課題の共通性 /  技術常識 /  優先権 /  国内優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10291号 審決取消請求事件
原告NOK株式会社
同訴訟代理人弁理士高塚一郎
被告特許庁長官
同 指定代理 人山岸利治川上益喜 紀本孝 藤村聖子 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/08/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2006-13162号事件について平成20年6月24日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,下記2の本願発明に対する拒絶査定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯原告は,平成10年4月28日の国内優先権(特願平10-117671号)を主張して,同年8月7日,発明の名称を「分割型ブーツ」とする本件出願(特願平10-224217号)をしたが(甲1 ,特許庁は,平成18年5月15日付け )で拒絶査定をした。
原告は,平成18年6月22日,上記拒絶査定に対する不服の審判請求をし,また,平成20年5月27日付けで明細書を補正する手続補正を行った(甲2 。)特許庁は,上記審判請求を不服2006-13162号事件として審理し,平成20年6月24日 「本件審判の請求は,成り立たない 」との本件審決をし,その , 。
謄本は,同年7月7日原告に送達された。
2本件出願に係る発明の内容本件出願に係る発明のうち,平成20年5月27日付けの手続補正書(甲2)によって補正された明細書(以下「本願明細書」という )の【請求項2】は,次の 。
とおりのものである ただし前記雄型係合突条 22首部 22a頭 。,「()」,「()」,「部 22b及び 前記雄型係合溝 31は それぞれ 前記雄型係合突条 4 ()」「()」 ,「(5「首部(45a「頭部(45b 」及び「前記雄型係合溝(46 」の誤記 )」,)」,) )。,「」。,「」 と解される 以下 同請求項に係る発明を 本願発明 という なお 文中の /は,原文の改行部分を示す。以下においても,原文の改行部分を示すときは,これに倣う。
円周方向所要箇所に軸方向に延びる分割部(42)を有するブーツ(4)の全体がポリウレタン系熱可塑性エラストマで成形され,/前記分割部(42)で円周方向に互いに対向する分割端部(43,44)にそれぞれブーツ(4)の断面形状に沿って延び互いに雌雄係合可能な雄型係合突条(45)及び雌型係合溝(46)が形成され,/前記分割端部(43,44)は,内側にのみ突出し,前記ブーツ本体() ,() ,() 1 の肉厚に比べ厚い肉厚とし /前記雄型係合突条 22 は 首部 22aと,この首部(22a)の先端に拡張形成された頭部(22b)とを有し,前記雌() ,() , 型係合溝 31 は 前記雄型係合突条 22 と対応する断面形状を呈しており(,)()() /前記分割端部 43 44 が前記雄型係合突条 45 及び雌型係合溝 46同士で雌雄係合される際に,その接合面となる部分にジメチルホルムアミド溶剤を滴下して,雌雄係合時にこの溶剤を毛細管現象により接合面全体に行きわたらせることにより,その互いの雌雄係合による合せ面が互いに溶着されることを特徴とする分割型ブーツ。
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明については,特願平10-117671号に基づく国内優先権主張の効果は認められず,本願の現実の出願日である平成10年8月7日に出願がされたものとなること(この点は当事者間に争いがないを前提に 本願発明は 実開昭62-122925号のマイクロフィルム 甲 。),, (3。以下「引用例1」という,特開平9-96318号公報(甲4。以下「引用 。)」。), (。「」。), 例2 という特開平8-150656号公報 甲5 以下 引用例3 という特開平9-177972号公報(甲6。以下「引用例4」という )及び昭64- 。
40322公報(甲7。以下「引用例5」という )に記載された発明(以下「引 。
用発明1」などといい,引用発明1ないし5を併せて「各引用発明」という )あ。
るいはその記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
(2)本件審決が認定する本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである 。)ア一致点円周方向所要箇所に軸方向に延びる分割部を有するブーツの全体が可撓性を有する材質で成形され,/前記分割部で円周方向に互いに対向する分割端部にそれぞれブーツの断面形状に沿って延び互いに雌雄係合可能な雄型係合突条及び雌型係合溝が形成され,/前記雄型係合突条は,首部と,この首部の先端に拡張形成された頭部とを有し,前記雌型係合溝は,前記雄型係合突条と対応する断面形状を呈してお, , り /前記分割端部が前記雄型係合突条及び雌型係合溝同士で雌雄係合される際にその互いの雌雄係合による合せ面が互いに接合される分割型ブーツ(6頁23〜32行 。)イ相違点1本願発明は 「ブーツの全体がポリウレタン系熱可塑性エラストマで成形され」 ,たものであるのに対し,引用発明1は,ブーツ全体の材料は「合成ゴム材など可撓性を有する材質」であって,これを特に「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」とは特定していない点(6頁35行〜7頁1行 。)ウ相違点2本願発明は 「前記分割端部は,内側にのみ突出し,前記ブーツ本体の肉厚に比 ,べ厚い肉厚と」されているのに対し,引用発明1は,分割端部は,内側にも外側に, ()。 も突出しておらず ブーツ本体の肉厚と同等の肉厚とされている点 7頁3〜6行エ相違点3本願発明は,雄型係合突条及び雌型係合溝同士の互いの雌雄係合による合せ面の接合手段が,溶剤による「溶着」であって,しかも「前記分割端部が前記雄型係合突条及び雌型係合溝同士で雌雄係合される際に,その接合面となる部分にジメチルホルムアミド溶剤を滴下して,雌雄係合時にこの溶剤を毛細管現象により接合面全体に行きわたらせることにより,その互いの雌雄係合による合せ面が互いに溶着される」ものであるのに対し,引用発明1は,接着剤による「接着」である点(7頁8〜14行 。)4取消事由(1)相違点3についての判断の誤り(取消事由1)(2)相違点1ないし3の構成が,各引用発明を組み合わせることで容易想到とした判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(相違点3についての判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決(8頁15〜21行)は,引用発明1及び引用例5に記載の事項に接した当業者であれば,引用発明1の互いの雌雄係合による合せ面の接合手段として,「」 「」 同発明の 接着剤による接着 に代えて上記周知慣用手段である 溶剤による溶着, (「 」) を採用し その際にブーツ全体の材料に適した溶剤ジメチルホルムアミド溶剤を選択し,その接合面となる部分に溶剤を滴下して毛細管現象により接合面全体に行きわたらせるようにすることは,格別の創意を要することなく容易に想到し得たことである,とする。
しかし,次のとおり,引用発明1に引用発明5を適用することには阻害要因が存在し,また,引用発明1に引用発明5を適用する動機付けがなく,本件審決の上記判断は誤っている。
(1)引用発明1に引用発明5を適用することの阻害要因の存在,「 」 引用例1のフレキシブルブーツの材質は合成ゴム材など可撓性を有する材質と記載され,具体的に例示された材料は「合成ゴム」のみである。
フレキシブルブーツの材質として,合成ゴム材のみならず,熱可塑性エラストマが可撓性を有する材質として選択可能なことが本願発明の出願前に当業者に知られていたが,合成ゴム材と熱可塑性エラストマとは,その化学的,物理的特性を異にしており,熱可塑性エラストマに適用できる技術を,そのまま合成ゴム材に適用することができないことも当業者において自明であった。すなわち,一般的な合成ゴムは 「直鎖状分子が加工中に分子間の化学結合により架橋されて,不溶性の三次 ,元網目を形成することである (甲8の「カーク・オスマー化学大事典 〔丸善株式 」 」会社発行〕426頁左欄下から3行〜1行)ことから,溶剤による溶着は不可能である。
したがって,引用発明1に唯一例示された「合成ゴム」に,引用例5に開示された溶着手段を適用することはできず,引用発明1に引用発明5を適用することに阻害要因が存在する。
(2)引用発明1に引用発明5を適用することの動機付けの不存在ア引用例5は,自転車用チューブの接合方法に関するもので,本願発明のような自動車の自在継手等に使用される補修用のブーツとは,技術分野が異なる。
イ引用発明5と本願発明との間には,課題,作用効果の共通性も存在しない。
,, , 引用発明5は 従来 チューブ状に成形された両端部を重ね合わせて接合すると接合部分の厚さが他の部分に比べ厚くなるため,振動やがたつきが生じていたことから,接合部を薄肉化して,本願発明とは反対の外側にわずかな肉厚部を設け,従来の問題点を解決したものである。
一方,本願発明は,引用発明5とは分割面が90度異なる,軸線方向に分割された分割面の接合部(分割端部)に積極的に内側にのみ肉厚部を設ける態様とすることにより,耐久性の良好な分割型ブーツとすることができたものである。
引用例5に開示された接合技術は,毎分100回転程度で,外側をタイヤにより保護されている自転車用チューブを対象とするものであって,本願発明のように,毎分1000回転以上で,直接外部に露出した形で使用される分割型ブーツにそのまま適用できると考えることは,技術常識として困難である。
ウまた,引用例1は,考案が解決しようとする問題点として 「接着剤を用い ,て継目を密封するものでは,接着剤が乾燥して継目が完全に密封されるまで,接着。」(), 部分の双方が離脱しないようにする必要がある甲3の2頁11〜14行 とし作用として「接着剤が乾燥してブーツ側部が完全に密封されるまで差込片の抜脱を防止し,差込片全体を一定の幅で確実に接着するものである(同4頁7〜9行) 。」と,実施例においては「所定の接着剤を差込片2に塗布し,或いは嵌合凹部5に充填した後に (同6頁9〜11行)と,考案の効果においても「したがって,分断 」端面に接着剤を塗布して接合し,接着剤の乾燥硬化を待ってこれを密封する際に,差込片2と嵌合凹部5とを嵌合させるのみで良く,ブーツ1装着後の密封作業を極。 , めて容易に行える しかも接着剤塗布後の分断端面を端から順に嵌合させることで分断端面全体の幅を均一,且つ,確実に接合し得るから,接着剤乾燥後の密封性は極めて高いものとなる(同7頁8〜16行)と記載している。 。」エ引用発明1は,接着剤のみを使用することを前提とした技術であり,接着剤以外の接合方法を意図していない。
オ以上のとおり,本願発明と引用発明5とは,技術分野の関連性がないばかりか,課題の共通性,作用効果の共通性もないものであって,引用発明5を引用発明1に結び付ける動機付けは存在しない。
〔被告の主張〕(1)阻害要因が存在するとの主張に対して,「 」 引用例1のフレキシブルブーツの材質は合成ゴム材など可撓性を有する材質であって,可撓性を有する材質であれば(ブーツに適したものである限り)何でも良く 「合成ゴム材」は,それの単なる例示にすぎず,この「合成ゴム材など可撓 ,性を有する材質」なる記載が 「合成ゴム材」のみを意味するものと解することは ,当業者として不自然である。
そして,フレキシブルブーツの材質として,合成ゴム材のみならず熱可塑性エラストマが可撓性を有する材質として選択可能なことは本願発明の出願前に当業者に知られていた(引用例2【0023 ,引用例3【0042。 】】)したがって,そもそも,原告が主張するように「引用例1に開示されたブーツ物資は,一般的に溶着が使用できない合成ゴム」であるとする前提は存在せず,当業者は自由にそのブーツの材質に適した接合方法を適宜選択し得るのであって 「引,」, 用発明1に引用発明5を適用することには阻害要因が存在する との原告の主張は理由がない。
(2)動機付けがないとの主張に対して本件審決は,相違点3についての検討において,引用例5につき,あくまで「ジメチルホルムアミド溶剤が,ポリウレタン系熱可塑性エラストマという材料の好ましい溶剤の1つである」という技術的事項のみを示すために引用したものにすぎない。そして,この技術的事項は,ジメチルホルムアミド溶剤とポリウレタン系熱可塑性エラストマという材料との関係を示すものであって,化学的に普遍的なものであり,あらゆる技術分野のもの(製品)において適用できるものである。
そうすると,引用例5に記載の自転車用チューブの機械的構造を含めた全体としての接合方法自体が,本願の分割型ブーツに適用可能か否かにかかわらず 「ジメ ,チルホルムアミド溶剤が,ポリウレタン系熱可塑性エラストマという材料の好ましい溶剤の1つである」という化学的に普遍的な技術的事項を,引用発明1に結び付ける動機付けは存在する。
したがって 「本願発明と引用発明5とは,技術分野の関連性がないばかりか, ,課題の共通性,作用効果の共通性もないものであり,引用発明5を引用発明1に結び付ける動機付けは存在しない」との原告の主張も理由がない。
2取消事由2(相違点1ないし3の構成が,各引用発明を組み合わせることで容易想到とした判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決(8頁27〜32行)は,本願発明の総合的な作用・効果をみても,各引用発明に接した当業者が予測できる範囲内のものであって,格別のものということはできないし,組合せによって,単なる総和以上の当業者に予測不能な新たな作用・効果が生じているものと認めることもできないとする。
,,「」, しかしながら 本件審決の上記の判断は 取消事由1の 原告の主張 のとおり引用発明5を引用発明1に結び付けることにつき,阻害要因が存在し,動機付けが存在しないことから誤っているばかりでなく,次の点からも誤っている。
(1)引用例5には 「好適な接着剤を例示すれば,N,N-ジメチルホルムアミ ,ド,テトラヒドロフラン,シクロヘキサノン,メチルエチルケトン等の単独又は混合溶剤をそのまま用いるか,あるいは,かかる溶剤に更に熱可塑性ポリウレタン樹脂を適宜溶解させたもの等が挙げられる(甲7の3頁右下欄5〜10行)と記載 。」されているにすぎず,ジメチルホルムアミド溶剤でなければならない旨の記載及び示唆する記載は一切ない。
これに対し,本願発明の目的を達成するためには,数ある溶剤のうち,ジメチルホルムアミド溶剤を使用しなければならないのである(本願図11の比較例1 。)なお,引用例5においては,実施例1ないし9のすべての実施例において 「熱可 ,塑性ポリウレタンエラストマー」と「N,N-ジメチルホルムアミド」の組合せを使用している。しかし,このことは,引用例5の開示内容として 「熱可塑性ポリ ,ウレタンエラストマー」と「N,N-ジメチルホルムアミド」の組合せが最適であると読むのではなく,使用される熱可塑性エラストマ及び接着剤は,引用例5に例示されたいずれかの熱可塑性エラストマ及び接着剤であればよく,飽くまでもチューブの厚さbの比a/bにより目的の効果が発揮されるものと読むべきである。
したがって,引用発明1の合せ面の接合手段として 「接着剤による接着」に代 ,えて 「ジメチルホルムアミドを使用した溶剤による溶着」を採用することは,格 ,別の創意を要することなく容易に想到し得たことであるとの本件審決の判断は誤りである。
(2)引用例2には 「この際,使用する成形材料の種類としては,ポリエステル ,系,ポリウレタン系,ポリオレフィン系等の熱可塑性エラストマーを挙げることができる(甲4の【0023 )と記載されているにすぎない。また,引用例3に 。」】は 「ブーツの材質は,熱可塑性エラストマーであって,ポリエステル系エラスト ,マー,ポリウレタン系エラストマー,ポリオレフィン系エラストマーおよびポリアミド系エラストマー等が使用される。これらは,弾性プラスチックの性質を有するものである(甲5の【0042 )と記載されているにすぎない。 。」】これに対し,本願発明は,引用例2及び3に例示された熱可塑性エラストマーのうち,ポリウレタン系熱可塑性エラストマーでなければ,本願発明の作用効果を発揮できないことが,本願の図10及び11のデータから明らかである。それにもかかわらず,引用例2及び3には,数ある熱可塑性エラストマーのうちから,ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを使用しなければならない旨の開示ないし示唆は全くない。
したがって,引用例1に記載の合成ゴム材に代えて,ポリウレタン系熱可塑性エラストマーのみを使用する動機付けは存在しない。
(3)引用発明4は,従来,接着剤により分割部を接着していたものに代え,分割部に磁性粉末をブレンドして,磁力により分割部の接合を図るものである。
引用発明4と本願発明とは,その課題及び作用・効果を異にする。
したがって,引用例4の「分割端部は,内側にのみ突出し,ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚とし」た点を,引用発明1に適用する動機付けは存在しない。
(4)本願発明は,数多く存在する熱可塑性エラストマのうちで 「ポリウレタン ,系熱可塑性エラストマ」と,数多く存在する溶剤のうちで 「ジメチルホルムアミ ,ド溶剤」とを組みあわせ 「分割端部に内側にのみ突出した厚肉部」を備える構成 ,とすることにより,初めて,本願発明の効果が期待できるものである。これらの要件が1つでも欠ければ目的とする作用効果が得られないことは,本願明細書【図10】及び【図11】の実施例と比較例の効果の比較において明らかである。
本願発明の個々の構成要件が公知であったとしても,これらを結び付ける示唆がない以上,本願発明の進歩性は認められるべきである。
本件審決のように,発明を構成する構成要件の1つ1つが公知であるから直ちに進歩性がないとするのであれば,多くの発明は,その特許性が否定されてしまう結果となる。
〔被告の主張〕(1) 本願発明の作用効果の予測可能性ア本願明細書【図10】についてみるに,本願発明の実施例として,特定の硬さ,引張り強度,伸びを有するポリウレタン系熱可塑性エラストマを用いて,組付け性,シール性及び耐久性を評価した試験結果が示されており,比較例に比べて一定の結果が得られたことが分かる。
これに対し,本願明細書【図11】をみると,本願発明の構成要件を何かしら欠いた比較例は,組付け性,シール性及び耐久性の少なくとも1つにおいて実施例に比べて不良な結果が得られたことが分かる。
しかしながら,これらの結果を個別にみることにし,比較例1及び2との関連についてみるに,引用例5に例示された溶剤を,ブーツに適用するに当たり,引用例5では,熱可塑性ポリウレタンエラストマーの場合に好適な接着剤として例示したN,N-ジメチルホルムアミド,テトラヒドロフラン,シクロヘキサノン,メチルエチルケトン等の溶剤の中から,特に「N,N-ジメチルホルムアミド」を引用例5中の実施例1ないし9のすべての実施例において選択していること,また,実施例1ないし9のすべての実施例において,数ある材料と溶剤との組合せの中から,「熱可塑性ポリウレタンエラストマー」と「N,N-ジメチルホルムアミド」の組合せのみを選択していることに照らせば 「熱可塑性ポリウレタンエラストマー」 ,と「N,N-ジメチルホルムアミド」の組合せを採用して良好な結果が得られるであろうことは,当業者が容易に予測できたことである。
したがって,本願明細書における比較例1及び2との対比における本願発明の作用効果は,当業者に予測可能なものである。
イ本願明細書【図11】の比較例3との関連についてみると,雄型係合突条が首部の先端に拡張形成された頭部を有していないことにより,この部分において抜, , け止めに対する機械的な引っ掛かり作用がなく 耐久性が劣ったものとなることは引用例1及び4に記載された発明の係止機能との相違から当業者が認識していることである。
シール性の低下については,当該首部及び頭部における効果が,比較例3の形状では頭部がない分低下したためと予想される。
したがって,比較例3との対比における本願発明の作用効果は,当業者に予測可能なものである。
ウ本願明細書【図11】の比較例4との関連についてみると,突き合わせの端面の断面積が小さいことから雌雄係合の強度が低下すること,絶対的な接合断面積が少ないことからシール性及び耐久性が劣ることが当然に予想される。
したがって,比較例4との対比における本願発明の作用効果は,当業者に予測可能である。
エ以上のとおり,本願明細書【図10】及び【図11】の結果から読み取れる本願発明の作用効果は,フレキシブルブーツにおいて公知の材料「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」を選択し,これに好適な溶剤「ジメチルホルムアミド溶剤」を選択し 「分割端部に内側にのみ突出した厚肉部」を備えることのそれぞれの作 ,用効果の単なる総和であって,当業者に予測可能なものである。
(2)各引用発明からの容易想到性引用例5には「ジメチルホルムアミド溶剤でなければならない」との,引用例2及び3には「ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを使用しなければならない」との記載はない。
しかしながら,当業者は,通常の創作能力を発揮すれば,適宜公知のものの中から好適な材料等を選択決定し得るのであって,例示ないし示唆されていればそれで十分であり 上記のようにジメチルホルムアミド溶剤でなければならないポ ,,「 」,「リウレタン系熱可塑性エラストマを使用しなければならない」との記載ないし示唆までは必要ない。
そして,引用例1に記載の分割型ブーツの合わせ面の接合手段に 「ジメチルホ ,ルムアミドを使用した溶剤による溶着」を採用することを妨げる阻害要因も,引用例1に記載の分割型ブーツの材質を「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」とすることを妨げる阻害要因も,認めることはできない。
したがって,引用発明1の合わせ面の接合手段として 「接着剤による接着」に ,代えて 「ジメチルホルムアミドを使用した溶剤による溶着」を採用することは当 ,業者が格別の創意を要することなく容易に想到し得たことであるとし,及び,分割型ブーツの材質を「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」とすることは当業者が格別の創意を要することなく容易に想到し得たことであるとする,本件審決の判断は正しいものである。
(3)引用発明4を引用発明1に適用する動機付け引用発明1と引用発明4とは 「分割型ブーツ」という同一の技術分野に属する ,ものであり 「分割端部は,内側にのみ突出し,ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚 ,とし」た作用効果についてみても,引用発明1に引用例4に記載の構成を適用して雌雄係合する接合部分を厚肉とすれば,その部分の機械的強度が増すことは自明であり,また,接触面積という観点からみても,それが磁力によるものであろうと,接着によるものであろうと,溶着によるものであろうと,接合部の接触面積が増せば接合強度が増すことは当業者が容易に認識できることである。
したがって,引用例4の「分割端部は,内側にのみ突出し,ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚とし」た点を,引用発明1に適用する動機付けは十分にあり,その効果も予測できるものである。
(4)以上のとおり,本願発明を構成する個々の事項については,引用例2ないし5に記載又は示唆されているのであって,これらを引用発明1に適用することを妨げる特段の事情も認められない。
また,これら個々の事項は,それぞれブーツの技術分野において公知の構成(ブーツの材料を「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」とする点。接合面を内側にのみ厚肉とする点 )であったり,接合手段が技術分野を問わない一般的な周知慣用 。
手段であったり(溶剤による溶着 ,化学的に普遍的なその材料と溶剤の好ましい )組合せであったり( ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」と「ジメチルホルムア 「ミド溶剤」との組合せ)というものであるから,これら個々の事項同士を結び付けることが引用例中に示唆されていなくとも,これらの事項を結び付けることは当業者が容易に想到し得たといえるものである。
本件審決は,発明を構成する構成要件の1つ1つが公知ないし周知であることを示すとともに,それらを組み合わせることに阻害要件があるか否か,組合せによって当業者に予測不能な新たな作用効果が生じているか否か,組み合わせる総数が著しく多数であるか否かなどについて,詳細に検討した結果,進歩性なしとしたものであって,本件審決における本件の進歩性の判断は正当である。
第4当裁判所の判断1取消事由1(相違点3についての判断の誤り)について(1)引用発明1に引用発明5を適用することの阻害要因ア原告は,引用発明1に唯一例示された「合成ゴム」に,引用例5に開示された溶着手段を適用することができず,引用発明1に引用発明5を適用することに阻害要因が存在すると主張するので,以下,検討する。
イ引用例1の記載(ア)まず,引用例1をみると,次の記載がある。
実用新案登録請求の範囲/筒状ブーツの開口部一端から他端に至る側部が分断され,被覆する所定ジョイント側面から装着せしめるフレキシブルブーツにおいて,一方の分断端面から突設され,自身の側面に沿って係止段部を膨出形成し,この係止段部から先端に向って窄むテーパーを付した帯状の差込片を延設し,差込片の係止段部に係合する張出片を自身の開口内側縁に突設した成合凹部を他方の分断端面に沿って延設したことを特徴とするフレキシブルブーツ(1頁4〜13行 。)考案の詳細な説明/[産業上の利用分野]/この考案は,主に前輪駆動自動車の駆動軸に多用される等速ジョイントのカバーとして使用するフレキシブルブーツに関する(1頁14〜18頁 。)[作用]/すなわち,この考案によれば,差込片を嵌合凹部内に強制嵌合したときに,差込片の係止段部が嵌合凹部の張出片に係合して差込片が固定され,接着剤が乾燥してブーツ側部が完全に密封されるまで差込片の抜脱を防止し,差込片全体を一定の幅で確実に接着するものである(4頁3〜9行 。/尚,この考案フレキシ )ブルブーツは,合成ゴム材など可撓性を有する材質で形成し,特に嵌合凹部5の開口部分は,差込片2を強制嵌入したときに,自身の弾性で元の開口形状に復元するようにしてある(6頁2〜6行 。/而してこの考案を装着するには,所定の接着 )剤を差込片2に塗布し,或いは嵌合凹部5に充填した後に,差込片2を嵌合凹部5内に強制的に差込んで,ドライブシャフト8及び等速ジョイントのハウジング9等に所定の緊締ベルト7を用いて固定する(6頁9〜14行 。/分断端面に接着剤 )を塗布して接合し,接着剤の乾燥硬化を待ってこれを密封する際に,差込片2と嵌合凹部5とを嵌合させるのみで良く,ブーツ1装着後の密封作業を極めて容易に行なえる(7頁9〜12行 。)なお,以下の第1図は装着前の状態を示す斜視図,第2図は差込片と嵌合凹部との嵌合状態を示す部分拡大図であり,これらによれば,分断部で円周方向に互いに対向する分断端部は,ブーツ1の肉厚と同等の肉厚となっており,差込片2は首部と首部の先端に拡張形成された頭部とを有し,嵌合凹部5は差込片2と対応する断面形状となっている。
(イ)以上によれば,引用発明1のフレキシブルブーツは 「合成ゴム材など可 ,撓性を有する材質」で形成されるものであって 「合成ゴム材」は,可撓性を有す ,る材質のものの例示として示されているものと認められる。
したがって,引用発明1のフレキシブルブーツにつき 「合成ゴム」で形成され ,ていると限定して解釈されるべきものではない。
ウ引用例2及び3の記載(ア)引用例2には,次の記載がある。
【0001 【発明の属する技術分野】本発明は,防塵及びグリス保持のために自 】在軸継手に装着される自在軸継手用ブーツに関する。特に,自動車における等速ジョイントブーツのような,自動組み付けを行う樹脂製ブーツに好適な発明である。
【0009】熱可塑性エラストマーでブロー成形され,自在軸継手のハウジング部に嵌着される小径リング部と,両リング部間に介在する蛇腹部とからなり,該蛇腹部の山部・谷部の配列は,大径リング部側から第一谷部,第一山部,第二谷部…の順である樹脂製ブーツにおいて,…【0021】(3)本実施形態の樹脂製ブーツは,従来と同様にして,ブロー成形により製造する…【0023】この際,使用する成形材料の種類としては,ポリエステル系,ポリウレタン系,ポリオレフィン系等の熱可塑性エラストマーを挙げることができる。
(イ)引用例3には,次の記載がある。
【0001 【産業上の利用分野】本発明は,ブーツのブロー成形装置および製法 】に関する。特に,ブーツの取付部の成形を改良したブロー成形装置およびその製法に関する。
【0042】ブーツの材質は,熱可塑性エラストマーであって,ポリエステル系エラストマー,ポリウレタン系エラストマー,ポリオレフィン系エラストマーおよびポリアミド系エラストマー等が使用される。これらは,弾性プラスチックの性質を有するものである。
(ウ)ところで,フレキシブルブーツの材質として,合成ゴム材のみならず熱可塑性エラストマが可撓性を有する材質として選択可能なことは本願発明の出願前に当業者に知られていたところ(当事者間に争いがない,上記(ア)及び(イ)のとお 。)り,本願出願前において,熱可塑性エラストマにポリウレタン系熱可塑性エラストマが含まれることが明らかであったと認められる。
エ以上によれば,本願発明の出願前において,引用例1に接した当業者は,引用発明1のフレキシブルブーツの材質としては,例示された合成ゴムだけでなく,可撓性を有する材質であれば足りると理解し,さらに,その可撓性を有する材質として熱可塑性エラストマを選択することができたから,これに含まれるポリウレタン系熱可塑性エラストマも同ブーツの材質として用いることができると理解したものといわなければならない。
そして,引用例5には 「尚,ここで二輪車用チューブの素材として熱可塑性ポ ,リウレタンニジストマーを用いる場合について,好適な接着剤を例示すれば,N,N-ジメチルホルムアミド,テトラヒドロフラン,シクロヘキサノン,メチルエチルケトン等の単独又は混合溶剤をそのまま用いるか,あるいはかかる溶剤に更に熱可塑性ポリウレタン樹脂を適宜溶解させたもの等が挙げられる(3頁右下欄3〜。」10行)と記載されており,ポリウレタン系熱可塑性エラストマで形成された素材に適する溶剤として,N,N-ジメチルホルムアミドが示されている。
そうすると,引用発明1のフレキシブルブーツにつき,合成ゴムに限られるものではなく,ポリウレタン系熱可塑性エラストマで形成されるものも含まれるのであるから,このポリウレタン系熱可塑性エラストマを材質に用いたフレキシブルブーツについては,溶剤による溶着が可能なものといわざるを得ないのであって,引用発明1に係るフレキシブルブーツを製造するに際して,分割部分の接合方法が接着剤による接着に限られ,溶剤による溶着では,同発明と本質的に異なる結果となってしまうといった事情は窺われない。
オしたがって,引用発明1のフレキシブルブーツの材質が「合成ゴム材など可撓性を有する物質」と記載されていることをもって,引用発明1に,ポリウレタン系熱可塑性エラストマで形成された素材に適する溶剤として,N,N-ジメチルホルムアミドが示されている引用発明5を適用することに阻害要因があるとする原告の主張は,採用できない。
(2)引用発明1に引用発明5を適用することの動機付けについてア原告は 「引用発明5は,自転車用チューブの接合方法に関するもので,本 ,願発明のような自動車の自在継手等に使用される補修用のブーツとは,技術分野が異なる「引用発明1は,接着剤のみを使用することを前提とした技術であり, 。」,接着剤以外の接合方法を意図していない「本願発明と引用発明5とは,技術分 。」,,, , 野の関連性がないばかりか 課題の共通性 作用効果の共通性もないものであって引用発明5を引用発明1に結び付ける動機付けは存在しない」などと主張する。
これに対し,本件審決(8頁3〜11行)は 「樹脂の接合方法として,接着剤 ,,, , による接着 溶剤による溶着は いずれも例示するまでもない周知慣用手段であり当業者は,その接合する部材の材料等に応じて適宜好適な接合方法を採用し得ることはいうまでもない。/また,溶剤による溶着を採用する際には,当業者は適宜その接合する部材の材料に応じて好適な『溶剤』を選択することが必要であるが,この点に関して,引用例5…には,二輪車用チューブの接合方法に関するものではあるものの 『ポリウレタン系熱可塑性エラストマ』という材料に好ましい溶剤とし ,て『ジメチルホルムアミド溶剤』が一例として例示されている 」とする。 。
イそこで,引用例5についてみると,同引用例には 「 産業上の利用分野)/ ,(本発明は,熱可塑性エラストマーを主体としてなる二輪車用チューブの接合方法に関し,更に詳しくは接合後の耐久性と走行性並びに耐圧強度等に優れた二輪車用チューブの接合方法に関する(1頁左欄19行〜右欄3行)もので 「尚,ここで 。」 ,二輪車用チューブの素材として熱可塑性ポリウレタンニジストマーを用いる場合について,好適な接着剤を例示すれば,N,N-ジメチルホルムアミド,テトラヒドロフラン,シクロヘキサノン,メチルエチルケトン等の単独又は混合溶剤をそのまま用いるか,あるいはかかる溶剤に更に熱可塑性ポリウレタン樹脂を適宜溶解させたもの等が挙げられる(3頁右下欄3〜10行)との記載がある。 。」ウ以上によれば,引用例5には,樹脂の接合方法の分野である溶剤による溶着につき,ポリウレタン系熱可塑性エラストマで形成された部材に好適な溶剤としてジメチルホルムアミド溶剤が存在していることが示されていると認めることができる。
そして,本件審決の上記記載は,樹脂の接合方法の分野において周知慣用技術である溶剤による溶着として,上記のとおり,引用例5に記載されたポリウレタン系熱可塑性エラストマのジメチルホルムアミド溶剤による溶着という方法が存在することを述べているものであるところ,引用発明1は接着剤による接着,引用発明5は溶剤による溶着について述べるものとの違いがあるにしても,いずれも樹脂などの接合方法としては共通性を有することが認められる。
エそうとすると,接着剤による接着と溶剤による溶着とは,いずれも周知慣用技術にすぎないから,可撓性を有する材質からなるブーツの接合方法として,その材質に応じて,溶剤による溶着を採用することは適宜行われることということができる。
オしたがって,引用発明5を引用発明1に結び付ける動機付けも存在するといわなければならない。
2取消事由2(相違点1ないし3の構成が,各引用発明を組み合わせることで容易想到性とした判断の誤り)について(1)原告は,本願発明の目的を達成するためには,数ある溶剤のうち,ジメチルホルムアミド溶剤を使用しなければならないにもかかわらず,引用例5の開示内容として,使用される熱可塑性エラストマ及び接着剤は,引用例5に例示されたいずれかの熱可塑性エラストマ及び接着剤であればよく,引用発明1の合せ面の接合手段として 「接着剤による接着」に代えて 「ジメチルホルムアミドを使用した溶 , ,剤による溶着」を採用することは格別の創意を要することなく容易に想到し得たことであるとした本件審決の判断は誤りである,と主張する。
しかしながら,前記1(2)のとおり,引用例5には,樹脂の接合方法の分野である溶剤による溶着につき,ポリウレタン系熱可塑性エラストマで形成された部材に好適な溶剤としてジメチルホルムアミド溶剤が存在していることが示されている。
また,前記1(1)のとおり,引用例1記載のフレキシブルブーツの材質としては,例示された合成ゴムだけでなく,ポリウレタン系熱可塑性エラストマが含まれると理解されるものであるから,周知慣用手段の接合方法を引用発明1に採用するに当たり,引用例5に例示されたポリウレタン系熱可塑性エラストマで掲載された部材に対してジメチルホルムアミド溶剤を適用することに特段の困難性があるとはいえない。
したがって,引用発明1の合わせ面の接合手段として 「接着剤による接着」に ,代えて 「ジメチルホルムアミドを使用した溶剤による溶着」を採用することは, ,格別の創意を要することなく容易に想到し得たことであるとの本件審決の判断に誤りがあるということはできず,原告の主張は,採用することができない。
(2)また,原告は,引用例2及び3には,数ある熱可塑性エラストマーのうちから,ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを使用しなければならない旨の開示ないし示唆は全くないので,引用例1に記載の合成ゴム材に代えて,ポリウレタン系熱可塑性エラストマーのみを使用する動機付けは存在しない,と主張する。
しかしながら,前記1(1)ウ(ア)及び(イ)によれば,引用例2及び3には,フレキシブルブーツの材質として,ポリウレタン系熱可塑性エラストマが選択可能であることが記載されているのであり,引用例2及び3には,数ある熱可塑性エラストマーのうちから,ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを使用しなければならない旨の開示ないし示唆までがないからといって,引用発明1のフレキシブルブーツをポリウレタン系熱可塑性エラストマで形成することに,格別の創意を要するものとはいえない。
したがって,原告の主張は,採用し得ない。
(3)さらに,原告は,引用発明4は,従来,接着剤により分割部を接着していたものに代え,分割部に磁性粉末をブレンドして磁力により分割部の接合を図るもので,本願発明とは,その課題及び作用・効果を異にするとして,引用例4の「分,, 」, 割端部は 内側にのみ突出し ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚とし た点につき引用発明1に適用する動機付けは存在しない,と主張するので,以下,この点について検討する。
ア引用例4には,次の記載がある。
【0006 【課題を解決するための手段】ドライブシャフトに連結した一連の部 】品を解体することなく,二つ割りに成形したブーツを横手から挿入して結合させ,それに依って一つの円筒形ブーツを組み上げる。更にまた二つ割りにした部材の切断面において,軸線を挟んだ片側には二段式の顎を備えた突起帯を設け,また他の片側には上記した突起帯と結合する形状の溝帯を設ける。更にまた上記した半円形ブーツの素材には磁性材の粉末をブレンドし,成型後,端面の両側を異極的に着磁する。上記したごとき二重顎による係止と,磁気の吸着力とを併用する事により,結合力の強化を図ったドライブシャフト用組立式ブーツ。
【0007 【発明実施の形態】ドライブシャフトに連結した一連の部品から解体 】する事なく,二つ割りに成形したブーツを横手から挿入して結合させ,且つ結合部分の突起には二重の係止顎を設けて係止力を強化し,且つ又素材には磁性材の粉末をブレンドし,成形後,結合面に着磁を施して結合面の吸着を図った。この様にして結合面の離脱を二段構えで防止する様にしたドライブシャフト用の組立式ブーツである。
【0009】次に図2は図1上のBーB’断面図であり,上半の斜線分は上半片1の断面,下半の斜線分は下半片2の断面である。また1’は上半片1に付帯する突起帯の断面,2’は下半片2に付帯する突起帯の断面,更に1”は上半片1に付帯する溝帯の断面,2”は下半片2に付帯する溝帯の断面である。
【0010】…次に図4は図2上における結合部の拡大図である。この図で見るごとく突起帯は二重顎となっており,入りやすく抜け難い構造を備えている。
【0011】本発明のブーツはユニバーサルジョイントとドライブシャフトの連結部外周において上記の如く結合し,且つ取り付けを行うものである。
【0012】一方及び他方の半円筒形ブーツ本体には,それぞれ帯磁性粒子が混入されてモールドされており,軸線で分けられた接着面を互いに異極として着磁されている。従って一方のブーツ本体1の前記二重式顎よりなる突起帯1’を他方の本体2の対向する雌形溝帯2”に嵌合する時両ブーツ本体1と2の磁気吸着作用により対向面同士が接着する。…また,図2のブーツの断面及び図4の図2の結合部の拡大図には,ブーツの分割端部(結合部)につき,内側のみに突起し,ブーツ本体の肉厚に比べて厚い肉厚とすることが記載されていることが認められる。
イ以上によれば,引用発明4は,磁力によりブーツの分割部の結合を図るものであるが,同時に,分割端部(結合部)に, ,, つき 内側に肉厚としているものであるところ 結合部につきその接触面積が増大すれば接着の強度が増すものであって,これはいわば技術常識ともいうべきものであるから,本願発明のように溶着による場合,引用発明1のように接着による場合及び引用発明4のように磁性材の粉末をブレンドした端面を磁力により接合する場合であっても同様である。
ウしたがって,分割型のブーツにおいて,引用発明4のブーツの分割端部(結合部)につき,内側のみに突起し,ブーツ本体の肉厚に比べて厚い肉厚としたこと, ,, を 引用発明1に適用することに動機付けがあるということができ 原告の主張を採用することはできない。
(4)原告は,本願発明は,数多く存在する熱可塑性エラストマのうちでポリウレタン系熱可塑性エラストマであり,数多く存在する溶剤のうちでジメチルホルムアミド溶剤であり,分割端部に内側にのみ突出した厚肉部を備える構成とすることにより,初めて本願発明の効果が期待できるものであって,これらの要件が1つでも欠ければ目的とする作用効果が得られない,などと主張する。
しかしながら,上記のとおり,フレキシブルブーツの材質としてポリウレタン系熱可塑性エラストマを使用すること,分割端部に内側にのみ突出した厚肉部とすることは,いずれも,本願発明及び引用発明1と同じフレキシブルブーツにおける技術分野の公知技術であり,また,ポリウレタン系熱可塑性エラストマで形成された部材に好適な溶剤としてジメチルホルムアミド溶剤を使用することは,周知慣用手段である樹脂の接合方法の1つとして公知であるということができるから,引用発明1にこれらの公知技術及び周知慣用手段を適用することは,当業者にとって容易想到であったといわなければならない。
そして,これらの事項を組み合わせることによる作用効果についても,各事項の作用効果の総和にすぎず,これらを組み合わせることによって格別な相乗効果が生じているものではないから,本願発明の作用効果についても,当業者が予測し得る範囲内のものといえる。
したがって,この点についても,原告の主張は採用することができない。
3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲