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事件 平成 20年 (ネ) 10086号 特許権実施料等請求控訴事件
控訴人自然免疫応用技研株式会社 (以下「控訴人応用技研」という。)
控訴人X (以下「控訴人X」という。)
控訴人有 限会社バイオメディカルリサーチグループ(以下「控訴人バイオ」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 樋口明巳
同 補佐人弁理 士中村和男
被控訴人株 式会社fresca
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/08/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴及び当審における請求の拡張に基づき,原判決を次のとおり変更する。
2被控訴人は,控訴人応用技研に対し,234万4627円及びうち別紙第1表及び同第2表の各「金額」欄記載の金額に対してその対応する各「遅延損害金起算日」欄記載の日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被控訴人は,控訴人X及び控訴人バイオに対し,それぞれ13万0739円及びうち別紙第3表の各- 2 -「金額」欄記載の金額に対してその対応する各「遅延損害金起算日」欄記載の日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被控訴人は,別紙化粧品目録記載の各化粧品を製造・販売してはならない。
5控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用は,1審,2審を通じ,控訴人応用技研に生じた費用の20分の17及び被控訴人に生じた費用の30分の17を同控訴人,控訴人X及び控訴人バイオに生じた費用の2分の1並びに被控訴人に生じた費用の6分の1を同控訴人らの各負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
7この判決は,主文2ないし4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1控訴の趣旨及び当審において拡張した請求の趣旨原判決中,控訴人らの金銭請求に関する部分を次のとおり変更する。
1被控訴人は,控訴人応用技研に対し1573万6780円及びこれに対する平成19年11月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被控訴人は,控訴人X及び控訴人バイオに対し385万0806円及びこれに対する平成19年11月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1本件は,?@控訴人X及び控訴人バイオの共有に係る別紙特許権の表示等記載の特許権(以下「本件特許権」という。)につき,同控訴人らから専用実施権の設定を受けたという控訴人応用技研が,被控訴人との間で,本件特許権に係る発明(以下「本件発明」という。)の実施許諾等に関する契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結したが,被控訴人がライセンス料を支払わないために本件ライセンス契約を解約したなどと主張して,被控訴人に対し,本件ライセンス契約に基づき,その主張に係る未払のライセンス料1147万9987円及び本件ライセンス契約の解約による損害賠償として本件ライセンス契約を解約しなければ得られたであろう実施料相当額425万6793円,以上合計1573万6780円及びこれに対する本件ライセンス契約の解約日であるという平成19年11月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,?A本件特許権の共有者である控訴人X及び控訴人バイオが,被控訴人に対し,本件特許権に基づき,本件発明の実施品である別紙化粧品目録記載の化粧品(以下「被控訴人商品」という。)の販売等の差止めと,本件特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求として,本件特許権の実施料相当の損害金6万6581円及びこれに対する前記平成19年11月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払とを求めた事案である。
2原判決は,控訴人応用技研の?@の請求のうち,ライセンス料の請求については,その認定する未払ライセンス料208万3143円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却し,実施権相当額の請求については,被控訴人が被控訴人商品について控訴人応用技研の主張する売上げを得ることができたと認められず,また,控訴人X及び控訴人バイオの本件特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権が認容される以上,控訴人応用技研に実施料相当額の損害が発生したと認められないとして,当該請求を棄却し,控訴人X及び控訴人バイオの?Aの請求のうち,本件特許権に基づく被控訴人商品の販売等の差止め請求については,これを認容し,本件特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求については,それぞれ2万6684円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。
これに対し,控訴人らが控訴を提起し,控訴人らの金銭請求中,その敗訴部分の取消しと同部分に係る金銭の支払を求めるとともに,控訴人X及び控訴人バイオは,当審において,本件特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求につき,請求を拡張して,原審における請求に加えて,378万4225円(1,2審で合計385万0806円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
3前提となる事実本件請求に対する判断の前提となる事実は,以下のとおりであって,当事者間に争いがないか,証拠上容易に,あるいは,弁論の全趣旨により,これを認めることができる。
(1)控訴人X及び控訴人バイオは本件特許権の共有者である(甲12,13)。
また,本件特許権に係る発明は,別紙特許権の表示等に記載の請求項1ないし3に係る各発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)である。
(2)控訴人応用技研は,平成18年7月1日,控訴人X及び控訴人バイオから,本件特許権につき,その専用実施権の設定を受けたが,特許登録原簿に記載されていない(甲13)。したがって,その専用実施権の設定の効力は発生していない(特許法98条1項2号)。
(3)控訴人応用技研は,平成18年8月1日,被控訴人との間で,本件ライセンス契約を締結し,本件ライセンス契約に係る契約書として「特許実施許諾契約書」(甲1。以下「本件特許実施許諾契約書」という。)及び「特許実施許諾サブライセンス覚書」(甲2の1。以下「本件覚書」という。)を作成した。
ア本件特許実施許諾契約書には,要旨,次の記載がある。
(ア)控訴人応用技研は,控訴人X及び控訴人バイオから許諾された本件発明に係る小麦発酵抽出物(以下「本件抽出物」という。)についての再実施許諾権付き専用実施権及び独占的実施権に基づき,被控訴人に対し,本件発明の非独占的通常実施権及び非独占的実施権を許諾する(2条(1))。
(イ)被控訴人は,控訴人応用技研に対し,本件ライセンス対価として,次に定める金額を支払う。
aイニシャル(3条(1))本件ライセンス契約の締結日から30日以内に,本件覚書において定められた金額を支払う。
b実施料(3条(2),(3))被控訴人商品を被控訴人が自ら販売したときは,被控訴人は,控訴人応用技研に対し,実施料として「正味売上高」の2%を,各暦年半期終了後2か月以内に消費税を加算の上,本件特許権の消滅の日まで毎年支払う。
(ウ)解約a被控訴人応用技研は,被控訴人が3条に定める実施料等を支払わないときは,控訴人応用技研に対して2か月以上の期間を定めて催告した上で,書面をもって本件ライセンス契約を解約することができる(11条(1)二)。
b被控訴人は,本件ライセンス契約締結後,経済事情その他の著しい変化により,被控訴人の合理的努力にもかかわらず,本件発明の実施による利益を全く期待できなくなったときは,控訴人応用技研に対し,書面をもって本件ライセンス契約の解約を申し入れることができる(11条(2)四)。
(エ)本件ライセンス契約は,中途解約されない限り,契約締結日から平成20年7月31日まで有効とする。ただし,契約満了日の2か月前までに,控訴人応用技研若しくは被控訴人から期間満了による解約の申出又は延長後の契約内容の改定の協議の申出がない場合には,自動的に同一内容にて1年間延長される(12条)。
イ本件覚書には,要旨,次の記載がある。
(ア)本件ライセンス契約3条(1)に定めるイニシャル金額については,被控訴人が販売する化粧品一品目に付き200万円(別途消費税)とする。但し,本サブライセンス覚書4(2)(判決注:4(4)の誤記である。)に基づき,被控訴人が販売する化粧品一品目に付き50万円(別途消費税)に減額する(3項(1))。
(イ)被控訴人は,控訴人応用技研に対し,前項の金員を,本件ライセンス契約締結日から30日以内の日に60万円,以降,毎月末日限り10万円ずつ24回に分けて,それぞれ消費税相当額を加算して支払う。
なお,上記イニシャル支払の規定は,本件ライセンス契約が終了した後も,すべての支払が終了するまで有効に存続する(3項(2))。
(ウ)被控訴人が控訴人応用技研より購入する本件抽出物の年間予定数量は,10,000mlとする。なお,被控訴人が購入する年間予定数量が増減する場合には,被控訴人及び控訴人応用技研は実施料率等について別途協議して改訂できるものとする(4項(4))。
(4)被控訴人は,控訴人応用技研から本件発明1の実施品である本件抽出物を合計2020ml購入し,本件抽出物を配合した被控訴人商品6品目を製造・販売した。
(5)被控訴人は,控訴人応用技研に対し,本件ライセンス契約に基づき,平成19年3月末日までにイニシャルの分割金として合計130万円を支払い(乙1),また,平成19年2月分までの実施料として17万8848円を支払った(乙2)。
(6)被控訴人は,控訴人応用技研に対し,平成19年3月23日付けの書面をもって,本件ライセンス契約の締結当初に想定していた経営計画と実績との誤差が大きいことが判明したなどとして,本件ライセンス契約11条(2)四に基づき,本件ライセンス契約を解約するとの通知をした(甲3)。
(7)控訴人応用技研は,被控訴人に対し,平成19年4月5日到達の書面をもって,被控訴人からの上記(6)の解約は認められないこと,同書面到達後10日以内に本件ライセンス契約に基づく実施料を支払うことなどを催告し(甲4の1,2),また,同年5月22日到達の書面をもって,同書面到達後1週間以内に未払の実施料及びイニシャルの分割金を支払うことなどを催告した(甲7の1,2)。
さらに,控訴人応用技研は,被控訴人に対し,平成19年11月10日到達の書面をもって,本件ライセンス契約に基づくイニシャルの分割金及び実施料等の未払を理由に,本件ライセンス契約に係る本件特許実施許諾契約書11条(1)二の規定に基づき,本件ライセンス契約を解約するとの通知をした(甲9の1,2)。
(8)被控訴人は,平成19年11月10日以降も,その形態及び終期はともかく,被控訴人商品を製造・販売した。
4本件訴訟の争点本件訴訟の当審における争点は,控訴人X及び控訴人バイオの差止請求を除いた控訴人らの金銭請求に係る以下の点である。
(1)本件ライセンス契約に基づく控訴人応用技研のライセンス料の残債権額(争点1)(2)本件ライセンス契約の解約による控訴人応用技研の損害賠償請求権の存否及びその額(争点2)(3)本件特許権侵害による控訴人X及び控訴人バイオの損害賠償請求権の存否及びその額(争点3)第3当事者の主張1争点1(本件ライセンス契約に基づく控訴人応用技研のライセンス料の残債権額)について〔控訴人応用技研の主張〕(1)次の(2)及び(3)のとおり当審における補充の主張を付加するほか,原判決3頁22行から6頁5行までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,4頁25及び26行を削除し,6頁4及び5行を以下のとおり改める。
「a未払イニシャル(消費税を除く。)1070万円baの消費税相当額53万5000円c未払実施料(消費税込み。)24万4987円」(2)イニシャルについてア原判決は,本件ライセンス契約において,本件発明の通常実施権許諾のイニシャルは1商品につき50万円と合意されたものであり,被控訴人が控訴人応用技研から購入する本件抽出物の量が年間1万mlに満たない場合に1商品当たりのイニシャルが200万円になるとの合意は成立していないと判示した。
イしかしながら,控訴人応用技研は,被控訴人による本件抽出物の年間購入量を1万と設定することで,イニシャル及び本件抽出物の価格の減額を提案し,併せてml販売額に応じた実施料率の設定を提案し,被控訴人がこれに同意した。そして,このように,イニシャル及び本件抽出物価格の減額と年間購入量設定はあくまでもセットで検討され,かつ,合意されたからこそ,本件覚書3項(1)には,イニシャルの金額について,被控訴人が控訴人応用技研から購入する本件抽出物の年間予定数量を1万mlとすること(本件覚書4項(4))に基づき,被控訴人が販売する化粧品1品目につき50万円(別途消費税)に減額すると明記されたものであった。
本件覚書4項(4)には,「甲が乙より購入する抽出物の年間予定数量は,10,000mlとする。なお,甲が購入する年間予定数量が増減する場合には,甲及び乙は実施料等について別途協議して改訂できるものとする。」との記載がある。そして,イニシャル及び本件抽出物価格の減額と年間購入量設定はあくまでもセットで合意されていることから(乙28),本件覚書4項(4)で別途協議して改訂できる「実施料等」には,実施料のほかに本件抽出物の価格及びイニシャルが含まれている。
したがって,被控訴人が控訴人応用技研から購入する本件抽出物の量が年間で1万mlに満たなかった場合には,両者で協議を行い,イニシャルの金額を変更することについて合意がされている。そして,イニシャルの金額については,最大で1品目200万円という原則の金額に改訂することも当然可能であるとの前提で本件覚書は作成された。
ただし,本件ライセンス契約締結当時の控訴人ら及び被控訴人との関係は良好で信頼関係もあり,互いのビジネスが成功できるよう協力し合っていこうという関係だったため,被控訴人が控訴人応用技研から購入する本件抽出物の量が年間で1万mlに満たなかった場合でも,直ちにイニシャルを1品目200万円に改訂するのではなく,被控訴人及び控訴人応用技研の1年間の業績等を検討し,実施料等の金額を据え置くのか,あるいはいずれかの金額を幾らか増額するのかを協議できるように本件覚書を作成することにした。その結果,本件覚書4項(4)は,「甲及び乙は実施料率等について別途協議して改訂できるものとする。」という緩やかな表現となった。
ウ 以上の次第であるから,被控訴人が控訴人応用技研から購入する本件抽出物の量が年間1万mlに満たない場合は1商品当たりのイニシャルは200万円となるとの合意は成立していないとして1商品当たりのイニシャルは50万円であるとする原判決の事実認定は,本件ライセンス契約及び本件覚書締結当時の控訴人ら及び被控訴人の関係を無視し,かつ,本件覚書4項(4)で「実施料率等について別途協議して改訂できる」との合意が成立したことを無視した硬直的な認定であって,不当である。
エ本件ライセンス契約及び本件覚書締結当時の控訴人らと被控訴人との関係は良好で信頼関係もあり,互いのビジネスが成功できるよう協力し合っていこうとする関係であった(乙28)。そして,このような良好な信頼関係の下,被控訴人が,継続的に本件抽出物を購入し,かつ,化粧品を販売して実施料を支払うことを信頼し,前提としていたからこそ,控訴人応用技研は,本件抽出物購入の年間予定数量を1万mlとしたことに基づきイニシャルを減額したものであった。
本件抽出物の年間購入予定数量が1万mlであって,被控訴人は,最短の契約期間である2年間でも合計2万mlを購入する予定であったところ,予定数量にはるかに遠く及ばない数量(2020ml)しか購入の実績を作れなかった。
それにもかかわらず,被控訴人代表者Aは,本件ライセンス契約及び本件覚書を締結してからわずか3か月経過後の平成18年10月末ころに,控訴人Xに対し,本件抽出物の化粧品での独占的実施権を被控訴人に認めるか,これを認めないならば実施料率を0%にすることを要求し,控訴人応用技研が上記のどちらにも応じない場合は本件ライセンス契約を解約すると連絡してきて,控訴人応用技研からの協議を行う用意があるとの連絡には応じず,一方的に本件ライセンス契約解除の通知(甲3)を行った。そして,被控訴人は,イニシャルの支払も実施料の支払も一方的に停止し,さらに,控訴人応用技研を相手方として東京簡易裁判所に民事調停の申立て(平成19年(メ)第466号)まで行った。
このような一連の被控訴人の態度により,イニシャル金額の減額の前提となっていた,被控訴人が,継続的に本件抽出物を購入し,かつ,化粧品を販売して実施料を支払う,という控訴人応用技研の信頼は大きく裏切られ,同控訴人と被控訴人との間の信頼関係は崩壊した。
控訴人応用技研は,本件特許の他の実施権者に比して被控訴人のイニシャルを減額するための理由として年間予定購入量を設定したところ,被控訴人は既に実施権者ではなく,特許権侵害者となったものであるから,他の実施権者よりもイニシャルの金額を優遇しなければならない理由はなくなった。
また,被控訴人は,解約理由がないのに控訴人応用技研からの協議の申出を無視して一方的に本件ライセンス契約の解約を通知してイニシャル及び実施料の支払を一方的に停止したにもかかわらず,被控訴人商品の製造及び販売を継続するという傍若無人の限りを尽くした。
その結果,控訴人応用技研にとり,被控訴人に対してイニシャルを減額する理由は失われた。
オ したがって,被控訴人が控訴人応用技研に支払うべきイニシャルは,減額前の原則に戻り,1品目当たり200万円,6品目合計1200万円となる。
(3) 実施料について原判決は,本件実施料の請求期間である平成19年3月から同年10月分までにおける被控訴人商品の売上高合計を1110万2086円と認定し,これを基に,本件ライセンス契約において控訴人応用技研が請求できる実施料相当額を23万3143円と算定した。
しかしながら,原判決が被控訴人の売上高認定の根拠とした乙3及び4は,被控訴人代表者が恣意的に作成したものである。例えば,乙4の売上高一覧表によれば,控訴人応用技研と被控訴人が調停で争い,控訴人応用技研が本件ライセンス契約の解約を通知するまでの期間である平成19年7月から同年10月までの売上げが他の月に比較して極端に落ち込んで100万円以下となっている。それに対して,本件ライセンス契約解約後の平成19年11月になると売上高が100万円以上に戻り,その状態が5か月も続いている。このことからしても,被控訴人代表者が,控訴人応用技研と調停で争っている期間中の売上高を操作し,他の月に比較して減額していたことが分かる。
したがって,乙3及び4の売上高の数字には根拠がなく,これを採用した原判決には事実誤認がある。
〔被控訴人の主張〕(1)次の(1)及び(2)のとおり当審における補充の主張を付加するほか,原判決8頁18行から10頁2行までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)イニシャルについてイニシャル及び本件抽出物価格の減額と年間購入予定量の設定がセットで検討されて合意されたという事実はない。本件ライセンス契約締結に至る過程において,控訴人らは,被控訴人に対し,1ml当たり1万円,1製品につきイニシャル200万円,実施料は売上げに対して10%という高値で売り付けようとしたが,被控訴人から断られたため(乙35),自ら値引きしたものである。その上で,控訴人Xは,「fresca社は,年間1万mlを売ることはコミットしなくてもいい。対外的な意味付けをしたい。」と述べていたものであった(乙28)。
(3)実施料について乙3は被控訴人の経理が作成し,乙4は被控訴人の顧問税理士が作成したものであって,被控訴人代表者が恣意的に作成したというものではない。被控訴人には,乙3及び4で記載した金額を超える売上げは存在しない。
2争点2(本件ライセンス契約の解約による控訴人応用技研の損害賠償請求権の存否及びその額)について〔控訴人応用技研の主張〕(1)次のとおり当審における補充の主張を付加するほか,原判決6頁7ないし24行に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)原判決は,被控訴人が被控訴人商品について控訴人応用技研が主張する売上げがあったと認めることができず,また,被控訴人が本件ライセンス契約解約後も被控訴人商品の製造・販売を継続している行為については,本件特許権者である控訴人X及び控訴人バイオが本件特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しており,同請求が同控訴人らの損害が認められた限度で認容されている以上,特段の事情のない限り,控訴人応用技研に得べかりし実施料相当額の損害が発生したと認めることもできないと判示し,被控訴人の債務不履行により解約された本件ライセンス契約に基づく控訴人応用技研の損害賠償請求を認めなかった。
(3)しかしながら,控訴人応用技研は,被控訴人の債務不履行によって本件ライセンス契約の中途解約をせざるを得なかったところ,被控訴人は,控訴人応用技研から本件抽出物2020mlを購入し,本件抽出物を材料にした化粧品を製造・販売しているのであるから,被控訴人が購入した2020mlの本件抽出物を使い切るまで,被控訴人製品を製造・販売し続けることが容易に想定でき,本来であれば,被控訴人が購入した本件抽出物を売り切るまでは,本件ライセンス契約は継続されたといえる。
(4)したがって,被控訴人が,債務不履行に陥らず,控訴人応用技研との本件ライセンス契約を継続していたならば,控訴人応用技研が得られたはずの実施料相当額は,被控訴人の債務不履行により解約された本件ライセンス契約に基づいて控訴人応用技研が請求し得る損害というべきである。
(5)ちなみに,控訴人X及び控訴人バイオが請求している損害賠償は,特許法102条3項に基づき,法が最低限認める特許権侵害損害額としての実施料相当額であって,逸失利益ではない。これに対し,控訴人応用技研が請求している損害賠償は,本件ライセンス契約が被控訴人の債務不履行により解約されなければ被控訴人が支払わなければならなかった実施料相当額である。両者の性質は異なるから,控訴人X及び控訴人バイオが特許権侵害に基づき実施料相当額の損害賠償請求権を行使したとしても,控訴人応用技研は,本件ライセンス契約に基づく固有の損害賠償請求権を有しており,被控訴人に対し,同控訴人が販売した本件抽出物の量から推定できる被控訴人商品の製造本数の売上げに対する実施料相当額の損害賠償請求権がある。
〔被控訴人の主張〕控訴人応用技研の主張を否認する。
控訴人応用技研は,被控訴人が購入した本件抽出物2020mlから製造できる被控訴人商品3万1077本の売上総額を2億0355万4350円と推測し,その金額に対する実施料を算定して損害賠償請求をしているが,これらの数字は,机上の空論である。そもそも,被控訴人は,化粧品業界一般がそうであるように,取引先に対し,化粧品を定価で販売し得るわけではなく,定価の4ないし6割程度の価格で販売しているのが実際である。
3争点3(本件特許権侵害による控訴人X及び控訴人バイオの損害賠償請求権の存否及びその額)について〔控訴人X及び控訴人バイオの主張〕(1)被控訴人は,本件ライセンス契約が解約された後も,被控訴人商品を製造・販売しており,控訴人X及び控訴人バイオが有する本件特許権を侵害するものであるから,被控訴人には,本件特許権侵害による不法行為が成立する。
(2)上記不法行為により,控訴人X及び控訴人バイオが被った損害額は,特許法102条3項により,次のとおり,原審からの請求額6万6581円に当審において拡張した請求額378万4225円を加えた385万0806円となる。
ア被控訴人は,被控訴人商品を,被控訴人とは別会社である株式会社frescajapon(以下「ジャポン社」という。)に売却し,ジャポン社が被控訴人商品を販売しているものであるから,被控訴人は,控訴人応用技研から購入した本件抽出物2020mlをすべて使い切って被控訴人商品を製造し売却していることになる。
イ被控訴人商品6品目の容量合計は385mlであるから,1品目当たりの平均容量は65mlとなり,控訴人応用技研が被控訴人に販売した本件抽出物2020mlの配合量は化粧品1mlに当たり0.1%であるので(甲2の3),製造できる化粧品数は3万1077本となる。また,被控訴人商品6品目の販売単価額合計は3万9300円であるから,1品目当たりの平均販売単価は6550円となり,被告商品の総販売額は2億0355万4350円となる。
ウ以上によれば,控訴人X及び控訴人バイオの本件特許権侵害による損害賠償請求債権額は,上記の被控訴人商品の総販売額に実施料率2%を乗じ消費税5%を加えた427万4641円から,被控訴人から控訴人応用技研への既払の実施料17万8848円及び控訴人応用技研が本訴において実施料として請求する24万4987円を控除した385万0806円並びにこれに対する遅延損害金となる。
(3)原判決は,平成19年11月から平成20年1月までの各月における被控訴人商品の売上高の認定を基に,控訴人X及び控訴人バイオが被控訴人に対して請求できる損害賠償額をそれぞれ2万6684円としたが,Aが恣意的に作成した被控訴人商品の売上高(乙4)をその算定の根拠としている点で不当である。
〔被控訴人の主張〕控訴人X及び控訴人バイオの主張を否認する。
被控訴人商品につき,乙3及び4に記載した売上げ以外に存在しない。
第4当裁判所の判断1争点1(本件ライセンス契約に基づく控訴人応用技研のライセンス料の残債権額)について(1)イニシャルの額ア当裁判所も,本件ライセンス契約において,本件発明の通常実施権許諾のイニシャルは1商品当たり50万円と合意されたものであって,控訴人応用技研の主張するように,当該50万円のイニシャルは,被控訴人が同控訴人から購入する本件抽出物の量が年間1万mlとなることを予定して,本来のイニシャル200万円を値引きした額であって,その予定量に満たない場合には,1商品当たりのイニシャルが本来の200万円となるとの合意は成立していないと判断する。その理由は,次に付加するほか,原判決11頁14行から15頁1行までのとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決11頁14行の「17」の後に「,23」を加え,同行の「乙6ないし28」を「乙6ないし16,26ないし28」と,同13頁末行から14頁1行の「『特許実施許諾サブライセンス覚書』と題する書面(甲2の1。以下「本件覚書」という。)」を「本件覚書」と改める。
イ 上記認定事実によれば,控訴人応用技研と被控訴人とは,本件発明の通常実施許諾のイニシャルは1商品につき50万円,実施料率は売上高の2%,本件抽出物の被告への販売価格は1ml当たり2000円とする等の内容からなる本件ライセンス契約を締結したにとどまるといわざるを得ない。
ウ この点につき,本件ライセンス契約締結の際に控訴人応用技研及び被控訴人間で作成された本件覚書において,前記「前提となる事実」の(3)・イ(ア)ないし(ウ)の記載があるほか,本件覚書に添付されたB会議録には,合意事項として,「イニシャルについては,原則一品目200万円とするが,年間購入予定量を10,000mlと設定することから,一品目50万円に値引する。」((1)?@)との記載があるところ,その記載などから控訴人応用技研は前記のような主張をするが,本件ライセンス契約に係る本件特許実施許諾契約書,本件覚書及びB会議録には,被控訴人による本件抽出物の年間購入量が1万mlに達しない場合,化粧品1品目当たり50万円のイニシャルの合意がどのようになるかの記載はなく,かえって,本件覚書には,被控訴人が購入する年間予定数量が増減する場合には,被控訴人及び控訴人応用技研は実施料率等について別途協議して改訂できるものとするとか,B会議録には,合意事項として,被控訴人の年間購入量が1万mlを達成した場合には,契約の見直しを行うとかの記載もある。
これらは,被控訴人による本件抽出物の年間購入量の実際に応じ,控訴人応用技研と被控訴人で実施料率等についてその増額を含めて改めて協議することができるとしたにすぎず,上記のイニシャルにつき原則1品目200万円とし,本件抽出物の年間購入予定量を1万mlとするとの記載も,結局のところ,控訴人応用技研が当初希望していたと認められるイニシャルの1製品当たり200万円から50万円に減額するに至った経緯を示し,1年間の発注量の目標値へ向けて被控訴人の努力を促すとともに,控訴人応用技研において,本件発明についての他社との間で締結するライセンス契約において1商品当たり200万円のイニシャルを求める場合に,被控訴人とのライセンス契約におけるイニシャル料が50万円となっていることの合理的な説明をするためであったというにとどまり,控訴人応用技研と被控訴人間において,被控訴人の本件抽出物購入量が年間1万mlに達しないときに,イニシャルが1品目当たり200万円とするとの合意が成立していたとまで認め得るものではない。
控訴人応用技研の代表者Cは,原審における本人尋問において,平成18年7月8日に開催されたB会議の話合いについて被控訴人の当時の代表者であったDが記載した議事メモ(乙28)の記載内容に違っているところはないと供述するところ,同議事メモにも,被控訴人側として出席した被控訴人の監査役であったEが,本件抽出物購入の1年間の目標につき,「10リットルでも確約はできない。10リットルでも年商10億円は製品を売らなければならない。ベンチャーが初年度から,10億円を売る約束は到底できない。」と述べたのに対し,控訴人Xは,「10リットルをコミット(判決注:「同意」の意味と解される。)しなくてもいいが,我々との共通目標として定めておく分には問題がないだろう。それに,ライセンス料を値下げする際の,外への言い訳として,10リットルを目標とするということなら問題ないのではないか。」,「LPSp(本件抽出物)の発注量の目標値を書くことが互いに大切。コミットすることは要求しない。」などの発言をしたとの記載がみられるのであって,このことからしても,かえって,控訴人応用技研が主張するような合意は成立していなかったとの前記判断を首肯し得るというべきである。
エ そうすると,被控訴人商品は6品目で,本件ライセンス契約における1品目当たりのイニシャルは50万円であるから,本件ライセンス契約に基づき被控訴人が支払うべきイニシャルは合計300万円(消費税を除く。)となる。
オそして,控訴人応用技研は,本件訴訟において,イニシャルにつき,被控訴人から130万円の支払を受けていることを前提に,これを控除したイニシャルの残金と当該残金に対する本件ライセンス契約で約定されている消費税相当額の支払を求めているので,被控訴人が控訴人応用技研に対て支払うべきイニシャルは,イニシャル合計300万円から既払いの130万円を控除した残金170万円とこれに対する消費税相当額8万5000円とを合計した178万5000円となる。
(2) 実施料の額ア 当裁判所も,控訴人応用技研の請求に係る本件実施料請求対象期間(平成19年3月1日から同年10月末日分)の本件ライセンス契約における実施料額は,23万3143円であると判断する。その理由は,次に付加するほか,原判決18頁6行から19頁10行までのとおりであるから,これを引用する。
イ 控訴人応用技研は,被控訴人の売上高に係る前記認定の根拠とした乙3及び4は,被控訴人代表者が操作して恣意的に作成したものであって信用性がないと主張する。しかしながら,弁論の全趣旨によれば,乙3は被控訴人の経理が,乙4は被控訴人の顧問税理士が作成したものであると認められるところ,これらの記載に係る売上高は,クレジット会社への手数料が控除され,また,クレジット会社からの入金時期によって月々の売上高の金額が異なるとされる会計事務所作成の被控訴人の総勘定元帳の一部(乙34)の記載とも,その総額において矛盾はみられず,その他,乙3及び4の記載の信用性を否定するべき客観的な証拠が存在しない本件においては,乙3及び4に記載の売上高に基づいて実施料を算定することを誤りということはできない。
(3)残債権額とその支払期限ア控訴人応用技研の残債権額は,上記(1)のイニシャル178万5000円及び同(2)の実施料23万3143円であるが,その支払期限については,次に付加するほか,原判決19頁12行から22頁3行までのとおりであるからこれを引用する。ただし,原判決19頁15行の「前記アのとおり」を「本件覚書3項(2)に基づき」と,同頁22,23行の「被告はイニシャルとして」を「被控訴人が支払済みのイニシャル130万円の支払期限に応じて」と,同20頁1行の「被告において,」から4行の「充当されたことになる。」を「平成19年3月末までに支払うべきイニシャル合計130万円に充当されたものと認められる。」と,同頁6,7行の「合計208万3143円(?@未払イニシャルとして185万円」を「合計201万8143円(?@未払イニシャルとして178万5000円」と,同頁10行の「平成18年8月31日」から22行の「同年4月1日,」を削り,22頁1行の「97万1572円」を「90万6572円」と,同頁2行の「80万円」を「73万5000円(消費税を含む)」と改める。
イ以上をまとめると,別紙第1表となる。
ウちなみに,同表番号1の金額が「90万6572円」ではなく,「97万1572円」となっているのは,原審において,控訴人応用技研は,支払済みのイニシャル130万円については,消費税相当額の請求をしていないのに,原判決は,その請求があるものとして,当該130万円に対する消費税相当額である6万5000円についても,平成19年11月10日には支払期限が到来したものとして,請求を認容しているところ,被控訴人から不服の申立てがない当審において,原判決を控訴人応用技研の不利益に変更することは許されないので,原審の認容額6万5000円をそのまま認めざるを得ないためである。
2争点2(本件ライセンス契約の解約による控訴人応用技研の損害賠償請求権の存否及びその額)について(1)控訴人応用技研が被控訴人に対してイニシャル等の支払を催告した上で本件ライセンス契約を解約する旨の通知をしていることは,前提となる事実として摘示したとおりであるが,証拠(甲7の1,2,甲9の1,2,甲17,乙1,2,4,原審における被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれば,本件ライセンス契約においては,被控訴人が実施料等を支払わない場合,控訴人応用技研は,被控訴人に対して2か月以上の期間を定めて催告した上で,書面をもって本件ライセンス契約を解約することができること,被控訴人は,同控訴人の前記催告にもかかわらず,その催告に係るイニシャル等の支払わなかったことが認められ,この認定を妨げる証拠はない。
以上によれば,本件ライセンス契約は,前記通知が到達した平成19年11月10日,被控訴人の債務不履行によって解約されたものといわなけばならないから,被控訴人は,その債務不履行によって本件ライセンス契約が解約されたことを原因として控訴人応用技研が損害を被ったとすれば,これを賠償する責任があることになる。
そこで,次に,控訴人応用技研の損害の有無と,損害が認められる場合には,その額とについて,順次,検討することとする。
(2)証拠(甲9の1,2,甲11の1〜5,甲14〜18,乙4,32,原審における被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれば,?@被控訴人は,本件ライセンス契約が解約となった平成19年11月10日以降も被控訴人商品の販売を続けたこと,?Aまた,ジャポン社は,被控訴人の関連会社であるところ,同社も,被控訴人のウェブページにおいて,少なくとも平成20年8月ころまで被控訴人商品を紹介してその販売をしていたことが認められる。
この点につき,Aは,平成20年9月8日実施の原審における本人尋問において,被控訴人商品はその半年前くらいから売れなくなり,被控訴人には被控訴人商品の在庫はないと供述する一方で,被控訴人は,ジャポン社が被控訴人のウェブページにおいて被控訴人商品を販売していたと主張しているが,上記認定のとおり,ジャポン社が被控訴人の関連会社であり,ジャポン社が被控訴人のウェブページにおいて被控訴人商品を販売していたことのほか,被控訴人による販売とジャポン社による販売とが区別されることなく,被控訴人による売上げとして売上高一覧表(乙3,4)に計上されていると窺われること等の事情に照らすと,ジャポン社による販売は実質的に被控訴人による販売と同視して差し支えなく,これを同視し得ないとしても,本件においては,ジャポン社による販売については,被控訴人からジャポン社に販売されたものがそのままジャポン社から第三者に販売されているものと認めるほかなく,この認定を妨げる証拠はないから,被控訴人は,次に認定する被控訴人商品の売上げにつき,その債務不履行責任が問われるべきものである。
そこで,被控訴人商品の売上げについてみると,証拠(乙3,4,34)によれば,その売上高は,平成19年11月が122万5732円,同年12月が153万3612円,平成20年1月が105万8274円,同年2月が147万6780円及び同年3月が111万4725円と認められるから,平成19年11月11日から同月30日まで(20日間)の売上高は,按分計算によって,81万7154円(円未満切り捨て。以下同じ)と推定されるほか,平成20年4月から同年8月までの売上高については,これを証する書証が提出されていないので,その直近である平成19年11月から平成20年3月まで(152日間)の上記売上高の合計640万9123円を基にその対象日数によって計算すると,同年4月及び同年6月の売上高はそれぞれ126万4958円,同年5月,7月及び8月の売上高はそれぞれ130万7123円と推定される。
(3)本件ライセンス契約は平成19年11月10日をもって解約されているにもかかわらず,被控訴人がそれ以降も被控訴人商品の前記認定のとおりの売上げ(平成19年11月の売上げのうち,同月10日以前の売上げを除く。)が可能であったのは,控訴人応用技研から本件ライセンス契約に基づいて購入していた本件抽出物を使用して,既に本件ライセンス契約に基づくものとしては許されなくなっていた被控訴人商品をその約旨に違反して本件ライセンス契約終了後も製造・販売したためであったと認められるのであって,このような場合においては,被控訴人は,少なくとも,本件ライセンス契約が被控訴人の債務不履行により解約されなければ支払わなければならなかった実施料相当額を,本件ライセンス契約の債務不履行に基づく損害賠償として支払わなければならないというべきである。なお,前記認定の平成20年8月分は,本件ライセンス契約の当初予定されていた存続期間が満了した後の売上げに係るものであるところ,それ以前の売上げと比べ,被控訴人が約旨に反して被控訴人商品を売り上げた結果として異なるところはなく,その約旨に反した売上げが本件ライセンス契約の存続期間を経過して行われた場合には,控訴人応用技研が被控訴人の債務不履行責任を追及し得なくなると解されるべきものではない。そのように解さなければならないとすれば,被控訴人において,本件ライセンス契約に基づいて控訴人応用技研から購入した本件抽出物を使用して,その存続期間経過後に,被控訴人使用品を製造・販売すれば,同控訴人に対する債務不履行責任を免れることになるが,その不当であることはいうまでもなく,少なくとも被控訴人が被控訴人商品を製造・販売したと認められる平成20年8月まで,控訴人応用技研に対し,債務不履行責任を負うというべきである。
そこで,控訴人応用技研の損害賠償額について検討すると,本件ライセンス契約に基づく実施料の額は売上高の2%に消費税相当額を加算した金額であることから,控訴人応用技研が被控訴人に損害賠償を求め得るのは,別紙第2表の各「金額」欄記載の金額となる。
また,以上の損害賠償金に係る遅延損害金の始期は,本件ライセンス契約の債務不履行に基づく損害賠償を求める場合であるから,控訴人応用技研の被控訴人に対する催告によって遅滞に陥ると解されるところ,控訴人応用技研は,本件訴状をもって,その支払を催告しているにとどまる。したがって,本件訴状が被控訴人に送達された日であることが記録上明らかな平成20年2月21日までに既に発生している損害については,その翌日から遅延損害金の支払を求めることができるが,それ以降に発生する遅延損害金については,本件訴状であらかじめその支払が催告されているとしても,その各支払期限の翌日から遅延損害金の支払を求め得るにすぎず,さらに,被控訴人の各月ごとの売上げについては,その推計による算定分も含めて月末までの合計としてそれぞれ発生しているものと認め得るにとどまり,これを1日単位に分割して,毎日その分割額ずつが日々発生しているとまで認定し得るものではないから,月単位で,被控訴人に上記賠償義務が認められるべき実施料相当額の支払期限が到来するものと解される。そうすると,控訴人応用技研は,被控訴人に対し,別紙第2表の各「金額」欄記載の金額に対してその対応する各「遅延損害金起算日」欄の年月日からの遅延損害金の支払を求め得ることとなる。
(4)この点につき,控訴人応用技研は,被控訴人が同控訴人から購入した本件抽出物2020ml分を使用する被控訴人商品3万1077本,売上総額2億0355万4350円に対応する実施料相当額が同被控訴人の損害額であると主張するが,被控訴人が控訴人応用技研から購入した本件抽出分の全部が被控訴人商品として製造・販売されたと認めるに足りる証拠はなく,本件ライセンス契約が終了した後の被控訴人による被控訴人商品の売上高は前記認定のとおりにとどまるから,控訴人応用技研の主張は採用することができない。
(5)ちなみに,原判決は,被控訴人が,本件ライセンス契約解約後も被控訴人商品の販売を継続していることにつき,本件特許権の特許権者である控訴人X及び控訴人バイオが不法行為に基づく損害賠償請求権を行使し,その請求が控訴人X及び控訴人バイオの主張する損害が認められた限度で認容される以上,特段の事情がない限り,控訴人応用技研に上記売上げに対応する実施料相当額の損害が発生したということはできず,かつ,上記特段の事情を認めることができないとして,控訴人応用技研の請求を棄却している。
しかしながら,控訴人応用技研が求める損害賠償は,被控訴人による本件ライセンス契約の債務不履行を原因とする解約がなければ被控訴人が支払わなければならなかった実施料相当額を,本件ライセンス契約の債務不履行に基づく損害賠償として支払わなければならないとするものであって,被控訴人の債務不履行がなければ控訴人応用技研が得られたであろう相当因果関係のある損害が存在する以上,控訴人応用技研は,本件ライセンス契約の債務不履行に基づく損害賠償として,これに相当する損害賠償を請求できるというべきである。
そして,控訴人応用技研の損害賠償請求と特許権者である控訴人X及び控訴人バイオの特許権侵害による不法行為に基づく各損害賠償請求との関係は,控訴人応用技研と控訴人X及び控訴人バイオごとに,いわゆる「不真正連帯債権」の関係に立つものと解されるから,原判決中,控訴人応用技研の請求を控訴人X及び控訴人バイオの損害賠償請求を理由に,全部棄却した部分は相当でない。
3争点3(本件特許権侵害による控訴人X及び控訴人バイオの損害賠償請求権の存否及びその額)について(1)控訴人X及び控訴人バイオが本件特許権の共有者であること,本件特許権に係る発明は本件発明1ないし3からなること,被控訴人商品は,控訴人応用技研から購入した本件抽出物を配合して製造されているが,本件抽出物は,本件発明1の実施品であること,以上の事実は,いずれも当事者間に争いがなく,被控訴人商品は,本件発明3の技術的範囲に属するものである。
そして,前記2(2)のとおり,本件ライセンス契約は平成19年11月10日に解約により終了しているところ,被控訴人は,その後も,少なくとも平成20年8月末日まで被控訴人商品を販売していた。
そうすると,被控訴人は,平成19年11月11日から平成20年8月末日まで本件発明3に係る特許権を侵害していたことになるから,特許権者である控訴人X及び控訴人バイオは,被控訴人に対し,不法行為による損害賠償請求権を有するものといわなければならない。
(2)そこで,被控訴人による被控訴人商品の売上高についてみると,本件ライセンス契約が解約された日の翌日である平成19年11月11日から少なくとも被控訴人商品が販売されていた平成20年8月までの売上高は,前記「争点2に対する判断」の(2)で認定したとおりである。
そして,本件発明,本件ライセンス契約の内容,被控訴人商品に使用される本件抽出物の配合割合,被控訴人が本件抽出物取得の対価名目で支払済みの金額等を総合考慮すると,特許法102条3項による損害額算定に当たっての実施料率は,本件においては,本件ライセンス契約と同率の2%と認めるのが相当であり,また,本件特許権3は,控訴人X及び控訴人バイオの共有であるところ,その持分は均等と推定されるので(民法264条,250条),控訴人X及び控訴人バイオそれぞれの損害額の算定においては,被控訴人商品の売上高に実施料率を乗じた額に特許権の侵害を受けた場合に権利者が収受する損害賠償金に対して課される消費税相当額を加算した額に2分の1を乗ずることになる。
(3)以上によれば,控訴人X及び控訴人バイオが本件特許権3を侵害されたことにより被った損害額元本はそれぞれ別紙第3表の合計13万0739円となる。
また,以上の損害賠償金に係る遅延損害金の始期は,不法行為に基づく損害賠償を求める場合であるから,損害発生と同時に遅滞に陥ると解されるところ,本件賠償額算定の基となる被控訴人の各月ごとの売上げについては,上記2(3)のとおり,その推計による算定分も含めて当月末までの合計としてそれぞれ発生しているものと認め得るにとどまり,これを1日単位に分割して,毎日その分割額ずつが日々発生しているとまで認定し得るものではないから,月単位で,各月分ごとに各月末日において遅滞に陥るものと解される。そうすると,控訴人X及び控訴人バイオは,被控訴人に対し,それぞれ別紙第3表の各「金額」欄記載の金額に対してその対応する各「遅延損害金起算日」欄の年月日からの遅延損害金の支払を求め得ることとなる。
(4)ちなみに,控訴人X及び控訴人バイオは,前提となる事実として摘示したとおり,平成18年7月1日,控訴人応用技研との間で,控訴人応用技研に本件特許権の再実施許諾権付き専用実施権及び独占的実施権を付与するとの契約を締結したが,その専用実施権設定の登録はされていないので,本件特許権につき控訴人応用技研が専用実施権を取得しているわけではなく,控訴人X及び控訴人バイオは,控訴人応用技研との前記契約によって,本件特許権に基づく損害賠償請求が制限されるものではない。
(5)また,前記2のとおり,控訴人応用技研も,前記期間の被控訴人商品の売上げにつき,被控訴人に対し,本件ライセンス契約の債務不履行に基づく損害賠償請求が認められるが,控訴人X及び控訴人バイオのそれぞれの本件特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求債権といわゆる「不真正連帯債権」の関係に立つものと理解すれば足り,そのいずれかの請求が制限されるものではないことは既に説示したとおりである。
4小括以上によれば,?@控訴人応用技研の請求は,原審において認容されて当審において不服の対象となっていない被控訴人商品の製造,販売の差止めを求める請求のほか,本件ライセンス契約に基づく未払ライセンス料の請求については,原判決のとおり別紙第1表記載の合計額208万3143円(ただし,この額は,既に説示したとおり,不利益変更禁止の原則によって,当審で変更することができない支払済みのイニシャル130万円に対する消費税相当額である6万5000円を含む。)及びうち番号1ないし11欄記載の各金額に対するその対応する「遅延損害金起算日」欄記載の日からいずれも支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,本件ライセス契約の債務不履行に基づく損害賠償請求については,別紙第2表の合計額26万1484円及びうち番号1ないし10欄記載の各金額に対するその対応する「遅延損害金起算日」欄記載の日からいずれも支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(なお,控訴人X及び控訴人バイオの特許権侵害による不法行為に基づく各損害賠償請求との関係が不真正連帯債権の関係にあることは上記のとおり)の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がなく,?A控訴人X及び控訴人バイオの請求は,当審請求の拡張分を含め,それぞれ別紙第3表記載の合計額13万0739円及びうち番号1ないし10欄記載の各金額に対するその対応する「遅延損害金起算日」欄記載の日からいずれも支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(なお,控訴人X及び控訴人バイオのそれぞれの損害賠償請求権ごとに,控訴人応用技研の債務不履行に基づく損害賠償請求との関係が不真正連帯債権の関係にあることは上記のとおり)の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がないことになる。
5結論以上の次第であるから,控訴人らの本件控訴及び当審における請求の拡張に基づき,原判決を変更することとする。
追加
(別紙)化粧品目録1cleanseme!ラディエント-Cクレンザー2replenishme!ハイドレーティングローション3vitalizeme!R3コンプレックスセラム4defendme!デイ/ナイトモイスチャーライジングクリーム5restoreme!スージングアイジェル6protectme!モイスチャーライジングクリームSPF20以上(別紙)特許権の表示等発明の名称植物発酵エキス,植物発酵エキス末及び植物発酵エキス配合物特許番号第4026722号出願日平成16年9月22日登録日平成19年10月19日特許権者控訴人X及び控訴人有限会社バイオメディカルリサーチグループ〔請求項1〕小麦粉をアミラーゼで処理した小麦粉アミラーゼ処理液をパントエア・アグロメランスによって発酵させて,同時に該パントエア・アグロメランスを培養して得られることを特徴とする植物発酵エキス。
〔請求項2〕請求項1記載の植物発酵エキスから得られることを特徴とする植物発酵エキス末。
〔請求項3〕請求項1記載の植物発酵エキス又は請求項2記載の植物発酵エキス末が配合されていることを特徴とする植物発酵エキス配合物。
以上
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲