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事件 平成 20年 (行ケ) 10376号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/07/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文


平成21年7月29日判決言渡
平成20年 行ケ 第10376号 審決取消請求事件
()
平成21年5月27日口頭弁論終結
判決
原告大 日 本 印 刷 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士櫻井彰人
同訴訟代理人弁理士結田純次
同 三輪昭次
同 竹林則幸
同 金山聡
同 藤枡裕実
被告凸 版 印 刷 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士竹田稔
同 木村耕太郎
同 三縄隆
同訴訟代理人弁理士志賀正武
同 高橋詔男
同 村山靖彦
同 渡辺浩史
同 渡邊隆
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2007?800274号事件について平成20年9月9日に



した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「広告情報の供給方法」とする特許第3324602
号(平成7年7月14日出願(特願平7?179227号)の分割出願であ
る特願平9?315718号の分割出願として平成12年10月16日出
願,平成14年7月5日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は7
である。)の特許権者である。
原告は,平成19年12月7日,特許庁に対して無効審判請求をしたが(無
効2007?800274号事件),特許庁は,平成20年9月9日,「本件
審判の請求は 成り立たない。」との審決をし その謄本は同年同月19日 原
, , ,
告に送達された。
2 特許請求の範囲
本件特許に係る明細書(甲14。以下「本件明細書」という。請求項の数は
7である。)によれば 本件特許の請求項1ないし7は 下記のとおりである。
, ,
【請求項1】サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告
依頼者の端末に対し,広告情報の入力を促す一方,前記サーバ側の記憶手段に
予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において広
告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定さ
れた広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけ
て,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階とによって登録した広告情報
を,広告受給者に供給する広告情報の供給方法であって,前記サーバが,前記
広告受給者の端末に対し,前記地図情報に基づく地図を表示させるとともに,
当該地図上の地点であって,記憶された広告対象物の座標に相当する地点に,
図像化した当該広告対象物を表示させて,所望する広告対象物の選択を促す段
階と,前記広告受給者の端末に表示された地図上において,前記広告受給者に



よって指定された座標に一致する,または,最も近傍の座標の広告対象物に関
連づけられた広告情報を,前記サーバが検索して読み出す段階と,前記サーバ
が,読み出した広告情報を,前記広告受給者の端末に対して出力する段階とを
備えることを特徴とする広告情報の供給方法。
【請求項2】前記広告情報は座標情報を含み,前記広告受給者によって指定
された座標に一致する,または,最も近傍の座標の広告対象物に関連づけられ
た広告情報を,前記サーバが,前記広告情報に含まれる座標情報を参照して検
索することを特徴とする請求項1記載の広告情報の供給方法。
【請求項3】選択された広告対象物に関連付けられた広告情報には,当該広
告情報に関連づけられたリンク先情報が含まれていることを特徴とする請求項
1または2記載の広告情報の供給方法。
【請求項4】前記サーバが,広告依頼者の端末に対し,依頼者自身の識別I
Dの入力を促す段階と,入力された識別IDによって,前記広告情報の入力を
許可するか否かを前記サーバが決定する段階とを備えることを特徴とする請求
項1記載の広告情報の供給方法。
【請求項5】 前記広告情報は,少なくとも前記広告対象物の業種を示す業
種情報を含むことを特徴とする請求項1または4に記載の広告情報の供給方
法。
【請求項6】広告対象物の図像化は,前記業種情報毎に異ならせて行なうこ
とを特徴とする請求項5に記載の広告情報の供給方法。
【請求項7】前記サーバが,広告受給者の端末に対して,所望の業種を少な
くとも1つ以上選択するように促す段階を備え,地図上に,選択された業種の
広告対象物のみを図像化して表示させることを特徴とする請求項5に記載の広
告情報の供給方法。(以下,請求項1ないし請求項7に係る発明を,それぞ
れ「本件発明1」ないし「本件発明7」といい,これらを併せて「本件各発
明」という。)



3 審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,?@本件各発明は,甲
1ないし甲10に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたということはできず,?A本件発明1,2,4ないし7は,
本件特許に係る出願の原出願に係る特許第2756483号(甲12,甲1
3)の特許発明の請求項1ないし5(以下「原発明1」等という。)と実質的
に同一とはいえないから,特許法39条2項の規定により無効とすることはで
きないと判断した。
(1)甲1記載の発明(以下「引用発明1」という。)を主引用例とした場合
の判断について
審決が認定した引用発明1の内容並びに本件発明1と引用発明1との一致
点及び相違点は次のとおりである。
ア 引用発明1の内容
「1電話帳情報と,住宅地図情報,広告情報,伝言情報を有機的に連動
し,これらの情報を電話帳情報とともに案内するサービスであって,
2CUPIDセンタと利用者が使用するパソコン端末等が公衆電話網
を介して接続されており,
3CUPIDセンタからパソコン端末等に電話帳情報や住宅地図情
報,広告情報等が供給されるものにおいて,
4電話帳情報は電話帳掲載者の情報であって,名義(姓名,企業
名),電話番号,住所,職業などの情報から構成され,電話帳DBに
格納されており,
5住宅地図情報は,表示用地図データ,建物毎の名義,住所,(地図
上の位置を示す)座標などから構成され,地図DBに格納されてお
り,
6広告情報には,簡易広告,画面広告,営業内容広告などの情報があ



り,
7電話帳情報と住宅地図情報に基いて,両者の共通情報である「名
義」と「住所」により自動照合し,電話帳情報に座標を対応付けた電
話帳DBが作成され,
8広告情報のうち,簡易広告と営業内容広告は,それぞれ電話帳情報
の1項目として電話帳情報に結合され,電話帳DBに格納され,
9パソコン端末から検索キーとして,名義,住所,職業,電話番号,
目標物,地図上の領域などが指定されると,これに対応する情報が電
話帳DBから検索され,
10番号案内サービスにおいて,検索条件に合う電話帳掲載者の情報が
提示され,
11地図案内サービスにおいて,電話帳DB中の当該電話帳掲載者に対
応する座標に基づき,地図DBが検索されて当該電話帳掲載者の付近
の地図が表示案内され,
12ピック検索案内サービスにおいて,地図上でピック指定された建物
内の企業名が案内され,
13また,電話帳掲載者の情報を提示する場合,広告サービスにおい
て,電話帳掲載者の簡易広告や営業内容広告が表示され,
14電話帳情報と結合した広告情報は,端末,電話回線等に制約されな
い利用者IDおよびパスワードによる認証を経て,広告の持主がパソ
コン端末から即時登録・更新することができる,
高付加価値型番号案内システム」
イ 一致点
「サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告依頼者
の端末に対し,広告情報の入力を促す段階と,登録した広告情報を,広告
受給者に供給する広告情報の供給方法であって,前記サーバが,前記広告



受給者の端末に対し,所望する広告対象物の選択を促す段階と,前記広告
受給者の端末に表示された地図上において,前記広告受給者によって指定
された広告対象物に関連づけられた広告情報を,前記サーバが検索して読
み出す段階と,前記サーバが,読み出した広告情報を,前記広告受給者の
端末に対して出力する段階とを備えることを特徴とする広告情報の供給方
法。」である点。
ウ 相違点
(ア) 相違点1
本件発明1は,サーバの記憶手段に記憶される広告情報および広告対
象物の座標が,「前記サーバ側の記憶手段に予め記憶された地図情報に
基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定
を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象
物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記
サーバが前記記憶手段に記憶させる段階」によって登録されたものであ
るのに対し,引用発明1は上記構成を具備していない点。
(イ) 相違点2
本件発明1は,「記憶された広告対象物の座標に相当する地点に,
図像化した当該広告対象物を表示」する,すなわち,地図上に表示され
るのが,広告情報と座標情報とが関連づけられてサーバに記憶された「
広告対象物」であり,かつその広告対象物を「図像化して表示する」も
のであるのに対し,引用発明1は,地図上に表示されるのは,地図デー
タに記憶された建物イメージであって,電話帳情報と関連づけられた建
物イメージではなく(自動照合により建物イメージに電話帳情報が関連
づく場合もあるが,そもそも建物イメージは電話帳情報と関連していな
いので,地図上には電話帳情報と関連していない建物イメージも表示さ
れる),そしてそれを「図像化して表示」していない点。



(ウ) 相違点3
本件発明1は,「広告依頼者の端末に対し,広告情報の入力を促す」
ものであり,このとき促されて入力されるのは,顧客ファイル作成に必
要な情報であるのに対し,引用発明1は,促されて入力されるのは,電
話帳情報(本件発明1でいう顧客情報)の一部の情報である点。
(エ) 相違点4
本件発明1は,「広告受給者によって指定された座標に一致する,ま
たは,最も近傍の座標の広告対象物」に関連づけられた広告情報をサー
バから読み出しているのに対し,引用発明1には,広告対象物をどのよ
うに指定しているのか具体的に記載されていない点。
(2)甲2記載の発明(以下「引用発明2」という。)を主引用例とした場合
の判断について
審決が認定した引用発明2の内容並びに本件発明1と引用発明2との一致
点及び相違点は次のとおりである。
ア 引用発明2の内容
「1 問い合わせ応答システムであって,
2親機と複数の使用者用子機と店舗等に配置された複数の被使用者用
子機とが通信回線を介して接続されており,
3親機は,店舗データ(図12)を含む地図データ(図11)と,混
雑度データ(図20)を記憶するとともに,使用者用子機に所望の領
域の店舗データを含んだ地図データ(図11,図12)を送信し,
4使用者用子機は,前記地図データを受信して,画面に地図(図1
3)を表示し,
5使用者用子機の操作者が,表示された地図を見て,カーソルによっ
て地図上に特定の店舗名が標記され位置が特定された枠の枠内を指定
すると,使用者用子機は,当該位置に対応する店舗の店舗データ(メ



ッセージ,休業日フラグ等)を読み出し,店のメッセージや休業メッ
セージ等を表示し,
6親機が記憶している休業フラグは,日や曜日で休業日を記憶してお
くもので,被使用者用子機から随時書き換え・追加が可能になってお
り,
7メッセージ表示後,使用者用子機の操作者が,現在の店舗状況を知
ることを要求する操作を行うと,取得対象変更命令が親機に送信さ
れ,親機が被使用者用子機に該命令を送信すると,被使用者用子機
は,店舗の撮像情報を親機を介し使用者用子機に送信し,
8また,使用者用子機の操作者が,店の予約をすることを要求する操
作を行うと,予約命令(図19)が親機に送信され,親機は,記憶し
ている当該店の混雑度情報から予約の可否を判断し,予約が可能であ
れば,混雑度データに予約データを追加して記憶し,予約が完了した
ことを使用者用子機に送信するとともに,被使用者用子機に送信し,
9被使用者用子機は,親機に混雑度データの送信要求をすることによ
り,混雑度データを取得することが出来る,
問い合わせ応答システム。」
イ 一致点
「サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告依頼者
の端末に対し,広告情報の入力を促す段階と,登録した広告情報を,広告
受給者に供給する広告情報の供給方法であって,前記サーバが,前記広告
受給者の端末に対し,地図情報に基づく地図を表示させるとともに,当該
地図上の地点であって,記憶された広告対象物の座標に相当する地点に,
当該広告対象物を表示させて,所望する広告対象物の選択を促す段階と,
前記広告受給者の端末に表示された地図上において,前記広告受給者によ
って指定された広告対象物に関連づけられた広告情報を,読み出す段階



と,読み出した広告情報を,前記広告受給者の端末に対して出力する段階
とを備えることを特徴とする広告情報の供給方法。」である点。
ウ 相違点
(ア) 相違点1
本件発明1は,サーバの記憶手段に記憶される広告情報および広告対
象物の座標が,「前記サーバ側の記憶手段に予め記憶された地図情報に
基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定
を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象
物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記
サーバが前記記憶手段に記憶させる段階」によって登録されたものであ
るのに対し,引用発明2に上記事項が記載されていない点。
(イ) 相違点2
本件発明1は,選択された広告対象物に関連付けられた広告情報
を,「サーバ側で読み出し,広告受給者の端末に対して出力する」もの
であるのに対し,引用発明2は,広告対象物に関連した広告情報は,既
に地図情報と共に使用者用端末に送られているので,選択された広告対
象物に関連付けられた広告情報は広告受給者の端末から読み出すもので
ある点。
(ウ) 相違点3
本件発明1は,地図上の広告対象物の座標に相当する地点に,「図像
化した」当該広告対象物を表示するのに対し,引用発明2は,広告対象
物の座標に相当する地点に,広告対象物を図案化した枠を表示するもの
の,「図像化した広告対象物」は表示していない点。
(エ) 相違点4
本件発明1は,「広告依頼者の端末に対し,広告情報の入力を促す」
ものであり,このとき促されて入力されるのは,顧客ファイル作成に必



要な情報であるのに対し,引用発明2は,促されて入力されるのは,店
舗データ(本件発明1でいう顧客ファイルに相当する)の一部である休
業フラグである点。
(オ) 相違点5
本件発明1は,「広告受給者によって指定された座標に一致する,ま
たは,最も近傍の座標の広告対象物」に関連づけられた広告情報をサー
バから読み出しているのに対し,引用発明2には,広告対象物をどのよ
うに指定しているのか具体的に記載されていない点。
(3) 本件発明1と原発明1との相違点
本件発明1は「前記広告受給者の端末に表示された地図上において,広告
受給者によって指定された座標に一致する,または,最も近傍の座標の広告
対象物に関連づけられた広告情報を,前記サーバが検索して読み出す段階」
を備えているのに対し,原発明1は「選択された広告対象物に関連づけられ
た広告情報を前記サーバー側で読み出す段階」を備えている点。
第3 取消事由に関する原告の主張
審決には,下記の取消事由があるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1及び引用発明1の各認定の誤り)
(1) 本件発明1の「広告情報」の認定の誤り
審決は,本件発明1の「広告情報」を顧客ファイル作成に必要な情報のす
べてを指すものと解しているが,誤りである。「広告情報」は,店名,電話
番号,業種情報,広告メッセージ等の顧客ファイル情報を構成する個々の情
報であり,そのいずれでも足りると解すべきである。
すなわち,?@請求項1には,「広告情報」が顧客ファイル情報の集合(全
体)であることを示唆する記載はなく,?A請求項1には,「コンピュータネ
ットワークを介して広告情報の供給を行う」,「広告情報を,前記広告受給
者の端末に対して出力する」と規定され,登録者IDやパスワードを含め



た「顧客ファイル作成に必要な情報のすべて」を供給,出力することは考え
られず,?B上記審決の解釈は,「広告情報」の持つ通常の意味から逸脱して
いる。また,本件発明4で登録者IDを「広告情報」とは別個に入力すると
規定していることとも矛盾する。
(2) 引用発明1の「電話帳情報」の認定の誤り
審決は,引用発明1の「電話帳情報」は,名義,電話番号,職業及び簡易
広告や営業内容広告を含む情報であるから,本件発明1の「広告情報」に対
応すると認定したが,誤りである。
甲1(839頁左欄24?32行)によれば,簡易広告や営業内容広告
は,電話帳情報に含まれる情報ではなく,電話帳情報と結合した広告データ
ベースに含まれる情報である。
(3) 「新規に広告情報を登録」との認定の誤り
審決は,本件発明1の相違点1に対応する構成について,「地図上の任意
の位置に対応付けて,広告依頼者が新規に広告情報を登録するために,前記
サーバ側の記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて広告依頼者の端末
に地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階
と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,広
告依頼者が当該端末によって入力した広告情報と関連づけて,前記サーバが
前記記憶手段に記憶させる段階」(28頁22行?28行)と認定し,「地
図上の任意の位置に対応付けて広告依頼者が新規に広告情報を登録するため
に」と限定解釈をした。
しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。すなわち,本件発明1
においては,単に「広告依頼者の端末に対し,広告情報の入力を促す一方」
と記載されているのみであり,広告情報の更新又は既登録の変更を排除し,
新規の広告情報の登録に限るとの記載はない。審決は,本件明細書における
実施形態の記載(段落【0014】?段落【0020】)に基づいて,「地



図上の任意の位置に対応付けて広告依頼者が新規に広告情報を登録するため
に」と限定解釈している点で誤りがある。本件発明1は,新規登録のみなら
ず,登録した広告情報の変更,修正を行うために,又は,広告情報を追加登
録するために行う広告情報の入力も含むものである。
(4) 「第三者のサーバー」との認定の誤り
ア審決は,本件発明1の構成を,広告依頼者がデータを管理している第三
者のサーバに対し,広告依頼者の端末から座標情報と関連づけて広告情報
を登録するものであり,広告依頼者とデータを管理している第三者は別人
格であり,広告依頼者の端末はサーバ(第三者)の管理下にない端末であ
ると解しているが,誤りである。
本件発明1の「サーバー」には,第三者の限定や,「端末」がいずれの
管理下にあるかの限定はされておらず,「サーバー」と広告依頼者を別個
のものと規定しているにすぎない。また,本件明細書においては,広告情
報の入力と地図上での位置指定を行なう者を「端末操作者」とし(段落【
0014】?【0020】),この端末操作者は広告依頼者(又はその代
理人)としている(段落【0014】)。すなわち,本件明細書において
は,広告情報の入力が広告依頼者以外の端末から行なわれることが示さ
れ,この端末としてサーバの管理下にある端末を排除していない。
したがって,本件発明1の「サーバー」の管理者と広告依頼者が別人格
であり,広告依頼者の端末はサーバー(第三者)の管理下にない端末であ
るとの限定解釈は誤りである。
イ被告は,本件発明1の「サーバー」は不特定多数の広告依頼者を対象と
していると主張する。しかし,本件発明1は,「サーバー」,「広告依頼
者の端末」等の装置の動作として特定されており,「サーバー」が対象と
しているのは,「広告依頼者」ではなく,「広告依頼者の端末」である。
したがって,「広告依頼者の端末」を不特定多数か否かで区別する技術的



意義は存しないし,甲33によれば,「広告」は広告依頼者が誰であるか
を問わない用語とされる。被告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り)
甲1には,地図上の企業や店(広告対象物)の座標情報は,電話帳DB(名
義,住所,電話番号等の広告情報)と関連づけてサーバーに記憶され,この地
図座標と関連づけてサーバーに記憶される広告情報について,広告の持主がオ
ンラインで即時登録・更新できることが示されている。したがって,本件発明
1と引用発明1とは,地図上の広告対象物の座標を,入力された広告情報と関
連づけてサーバー側で記憶する段階であることでも一致するにもかかわらず,
審決は,かかる一致点を看過しており,誤りである。
3取消事由3(本件発明1と引用発明1との相違点1に関する容易想到性の判
断の誤り)
(1) 本件発明1と引用発明1との対比に関する容易想到性の判断の誤り
審決は,相違点1に関し,「甲第1号証には,利用者端末から「広告」を
登録・更新することができることが記載されているものの,・・甲第1号証
には,利用者端末から広告情報(電話帳情報)と地図上の座標情報を関連づ
けてサーバに登録できることは記載されていない。」,「甲第1号証記載の
ものは,(狭い意味の)広告の登録以前から電話帳情報と座標情報が関連づ
けられて登録されており,この情報の登録を,広告依頼者ではなく付加情報
サービス提供者(センタ側)が行なうことを前提としたシステムである。」
と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。すなわち,本件発明
1も引用発明1も,地図情報に関連付けられた広告情報を,広告受給者の端
末に出力するものであるから,地図情報と広告情報との関連付けをどのよう
な手法で行なうのかが重要である。そのため,広告依頼者が広告情報を登録
する以前から電話帳情報と座標情報が関連づけられているかは重要ではない



から,それを考慮して,相違点1の容易想到性の判断を行なっている点で誤
りである。
(2) 引用発明1と周知技術(甲3,5,6)との組合せの判断の誤り
審決は,「甲第1号証に記載されたものと甲第3号証に記載されたものを
組み合わせたとしても,広告依頼者自身が新規に広告情報(店舗情報)を登
録するために,サーバに記憶された地図情報に基づき広告依頼者の端末に地
図を表示させ,その地図上の任意の位置を広告依頼者に指定させ,かつ,広
告依頼者が入力した広告情報と前記地図上で指定した位置の座標情報を関連
付けてサーバに記憶することが容易に想到できたとは認めることができな
い。」,「(甲第5号証及び甲第6号証)もまた広告依頼者の端末から座標
情報と関連づけて広告を第三者のサーバーに登録し,広告受給者がサーバに
アクセスして広告等を見ることができるようなシステムに関するものではな
く,上記相違点1に係る事項が記載されているとはいえない。」と判断し
た。
しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。すなわち,?@本件発
明1について「新規に登録」,「第三者のサーバー」としている点で誤って
いること,?A仮にこれらの認定に誤りがないとしても,甲1には,広告依頼
者自身が新規に,広告情報を第三者のサーバーに登録する技術が記載されて
いること,?B甲3,5,6には,座標情報と属性情報を関連づける手法とし
て,地図上の位置を指定する周知技術が示されているにもかかわらず,これ
を考慮していないことに照らすならば,審決の相違点1に関する判断は,誤
りである。
4取消事由4(周知技術(甲16,19)の認定及びそれに基づく本件発明1
と引用発明1との相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)
審決は,「広告依頼者が自分の端末から地図座標と広告情報を関連づけて第
三者のサーバーに記憶させることが周知技術であるとは認められず,相違点1



に係る事項が甲15ないし甲20に記載されたものから容易に想到できたとい
うことはできない。」と判断した(審決30頁27行?31行)。
しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。すなわち,甲16に
は,端末から第三者のホストに対して座標情報と属性情報の入力,更新,検索
等を行うシステムが実質的に開示されているし,甲19には,各事業者の端末
に第三者のホストに記載されている地図を表示して,第三者のホストに座標情
報と属性情報を入力するシステムが開示されている。したがって,端末から地
図情報と属性情報を関連づけて第三者のサーバ(ホスト)に記憶させること
は,甲16及び甲19から周知技術であり,これを否定する審決の周知技術
認定は誤りであり,これに基づいてした相違点1の容易想到性に関する判断も
誤りである。
5 取消事由5(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)
審決は,「本件発明1は,上記構成を備えることにより,サーバ管理者が広
告依頼者からの依頼を受けて地図と関連付けられた広告情報を登録するのでは
なく,広告依頼者自身が自分の端末からサーバに対して広告情報と関連付けら
れる地図座標の指定及び登録を行うことができるため,広告配布までのタイム
ラグが短くなるという作用効果が生じるものと認められる。」と本件発明1に
は顕著な作用効果がある旨判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。すなわち,引用発明1
においても,広告依頼者自身が自分の端末からサーバーに対して広告情報を即
時登録でき,登録された広告情報は,地図と関連づけられ,一般利用者に案内
されるため,広告配布までのタイムラグが短くなるという作用効果が生じる。
よって,本件発明1の上記作用効果は顕著な作用効果とはいえないので,審決
の判断は誤りである。
6取消事由6(本件発明1と引用発明2との一致点の認定及び容易想到性の判
断の誤り)



審決は,引用発明2を主引用例とした場合においても,本件発明1を容易に
想到することができないと判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。すなわち,甲2には,
地図上の広告対象物の座標を店舗情報(広告情報)と関連づけてサーバー側で
記憶することが記載され,被使用者用子機7から入力される休日(休業日)フ
ラグは,本件発明1の広告情報に対応する。したがって,本件発明1と引用発
明2とは,「地図上の広告対象物の座標を,入力された広告情報と関連づけて
サーバー側で記憶する段階」で一致しており,これを看過し,引用発明2から
本件発明1を容易に想到できないとした審決の一致点の認定及び容易想到性
判断は誤りである。
7 取消事由7(本件発明2ないし7に関する判断の誤り)
審決は,本件発明2ないし7に関し,本件発明1と同じ理由で当業者が容易
に発明できたものとは認められないと判断した。しかし,前記のとおり本件発
明1に関する審決の認定判断は誤りであるから,上記判断もまた誤りである。
8 取消事由8(本件発明1と原発明1の同一性の判断の誤り)
(1) 本件発明1と原発明1との構成の同一性に関する判断の誤り
審決は,本件発明1と原発明1との相違点(前記第2,3(3))は,実質
的な相違点であると認定して,本件発明1と原発明1とは実質的に同一では
ないと判断したが,誤りである。
本件発明1の「広告対象物の選択」は,広告依頼者の端末と同様の操作,
すなわち,「表示された地図上において,位置を指定すること」により広告
対象物を選択することにより限定されるので,その構成は原発明1と同一で
ある。
(2) 原発明1の作用効果の誤認
審決は,本件発明1には,おおよその座標を指定するだけで広告対象物を
指定できるという独自の作用効果が生じると認定したが,誤りである。



甲30,31によれば,地図上の対象物を1つの座標で特定し,地図上で
指定された座標の最も近傍の座標の対象物を検索してそれに関する情報を読
み出すことは周知技術にすぎない。また,地図上で対象物の位置を指定する
場合,正確に位置を指定するのが困難であることは技術常識である。したが
って,おおよその座標を指定するだけで広告対象物を指定できるようにした
ことは,操作性を向上させるための周知技術を採用したにすぎず,独自の作
用効果を生じるものではない。
(3) 本件発明2,4ないし7と原発明1ないし5との同一性判断の誤り
審決は,本件発明2,4ないし7と原発明1ないし5は,前記相違点の点
で相違しているから,両者は同一ではないと判断したが,誤りである。
前記のように,前記相違点についての審決の判断は誤っているから,かか
る誤った判断を前提としている点でも審決には誤りがある。
第4 被告の反論
原告主張の取消事由には理由がなく,審決を取り消すべき違法は認められな
い。
1取消事由1(本件発明1の認定及び引用発明1の各認定の誤り)に対し
(1) 「広告情報」の解釈の誤りに対し
原告は,「広告情報」は,「顧客ファイル作成に必要な情報の各々の情
報」のうち,そのいずれでもよいと主張する。しかし,そのような解釈を前
提とすると,「広告情報」は,広告として提供されることのない登録者ID
のみでも,パスワードのみでもよいこととなり失当である。
原告は,登録者IDやパスワードを含めた「顧客ファイル作成に必要な情
報のすべて」を供給,出力することは想定できないと主張する。しかし,広
告受給者のために供給,出力されるのは「前記広告受給者によって指定され
た座標に一致する,または,最も近傍の座標の広告対象物に関連づけられた
広告情報」であって,「広告情報」ではないので,想定できないことはな



い。原告の主張は失当である。
(2) 「電話帳情報」の認定の誤りに対し
甲1(862頁図3)には,簡易広告と営業内容広告が電話帳データベー
スに格納された情報の1項目として記載されていることからすれば,審決の
認定した「電話帳情報」は,「電話帳情報に結合され」て「電話帳データベ
ースに格納された」簡易広告や営業内容広告に関する情報という趣旨に解さ
れるべきであり,審決の認定に誤りはない。
(3) 「新規に広告情報を登録」との認定の誤りに対し
ア本件発明1の「入力された広告情報」とは,新規に入力された広告情報
のみを指すのか,変更,修正及び追加登録のために入力された広告情報を
含むかについては,本件特許の出願時の技術常識に照らせば明らかであ
る。すなわち,広告情報を変更,修正及び追加登録する場合には,広告情
報のみを変更,修正及び追加登録すればよく,改めて座標の位置指定を行
う必要はないと解されるのが自然であるから,広告対象物の位置指定を前
提とした「入力された広告情報」の入力とは,新規の入力を意味すると解
される。
仮に,特許請求の範囲からは,上記のように一義的に明確に解釈するこ
とができないとしても,本件明細書において「既登録の変更」について記
載されている(段落【0021】)ことに照らすならば,本件発明1がサ
ーバー側管理者において広告依頼者の情報を何ら保有しないことを前提と
して,顧客ファイル作成に必要なすべての情報を広告依頼者自身に入力さ
せるのであるから,「入力された広告情報」とは,「新規に入力された広
告情報」と解するのが相当である。
イさらに,本件発明1の「広告情報」が,変更,修正及び追加登録の場合
も含むとしても,本件発明1の広告情報の供給方法において実施に際して
まず新規登録が必要である。また,当該広告情報の供給方法の実施途中に



おいても新規顧客に対する新規登録の必要性は生じる。そして,これら新
規登録における広告情報の入力に際しては,サーバーにおいて広告依頼者
の情報を何ら保有しないところから出発して,顧客ファイル作成に必要な
すべての情報を広告依頼者自身に入力させ,広告依頼者自身の端末に表示
された地図上において広告対象物を位置指定するように促す段階が必ず生
じる。審決は,本件発明1において必ず必要となる新規登録について引用
発明と比較したものであり,誤りはない。
(4) 「第三者のサーバー」との認定の誤りに対し
広告依頼者とデータを管理している第三者が別人格であり,かつ広告依頼
者の端末は「サーバー側」の管理下にない端末であることは特許請求の範囲
自体から明らかであり,原告の主張は失当である。
すなわち,本件発明1では,?@「端末」の語に「広告依頼者」という限定
を付して,サーバー「側」と対比させていることからすれば,端末とサーバ
ーとが別人格で運営されていると解されること,?A広告情報の入力を促され
るのは広告依頼者であり,広告情報の入力を促すのは「サーバー側」であ
り,「促される」ものと「促す」ものとは別人であるといえること,?B本件
明細書の段落【0009】には,「広告とは,ある者がその者の商品・サー
ビス等に関し,その消費者等に成り得る者に対して宣伝等を行なうことであ
るが,その情報の提供は,第三者を介して行なわれることもある。本願発明
は,このような「第三者」に相当する部分である。」との記載があり,この
記載から,広告依頼者とは第三者の関係にある者がサーバー側の管理者であ
るといえること,?C広告情報を入力する「広告依頼者」がサーバー側の管理
者と別人格であることを前提としてはじめて,本件発明1の作用効果が奏す
ること,?D広告依頼者が自ら端末から広告情報の入力をすることによって,
同じ住所を有する領域内における店舗の詳細な位置を指定できるという効果
を奏すること等に照らすならば,広告依頼者とデータを管理している第三者



が別人格であることは明らかである。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り)に対し
本件発明1には,「前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象
物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバ
が前記記憶手段に記憶させる段階」とあり,前記「座標」は,本件発明1の「
前記サーバー側の記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示さ
せて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階」を経て得られる
座標であり,単なる「地図上の広告対象物の座標」ではない。本件発明1で
は,広告依頼者により地図上において位置指定される構成によってはじめて,
作用効果を奏する。原告の主張は失当である。
3取消事由3(本件発明1と引用発明1との相違点1に関する容易想到性の判
断の誤り)に対し
本件発明1と引用発明1とは,電話帳情報の管理を広告依頼者にゆだねるの
か(本件発明1),サーバー側で行なうのか(引用発明1)という点で,技術
的思想における相違がある。また,本件発明1と引用発明1とは,以前から電
話帳情報と座標情報が関連づけられているか否かの点でも,技術的思想におけ
る相違がある。原告の主張は失当である。
4取消事由4(周知技術(甲16,19)の認定及びそれに基づく本件発明1
と引用発明1との相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)に対し
本件発明1の「サーバー」は,前記1(4)のとおり,広告依頼者や広告受給
者とは別人格の第三者の関係にあり,かつ不特定多数の広告依頼者を対象とし
ている。これに対し,甲16では,各支社,事業部の端末とホストコンピュー
タとが異なるコンピュータであることが示されているにすぎず,ホストコンピ
ュータの運営主体と各支社や事業部は,登録された情報との関係では一体と見
られ,第三者とはいえない。また,甲19のセンターシステム(ホスト)で
は,「電信電話,電力,ガス,水道,下水道,地下鉄」といった特定の「事業



者」を想定しており,本件発明1の「サーバー」のような不特定多数の第三者
を対象としていない。原告の主張は失当である。
5 取消事由5(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)に対し
引用発明1では,サーバーに情報が記憶されていない状態から,広告記載依
頼をして広告頒布するまでの手順を想定した場合,まず,通信事業者に電話回
線の申込みを行うことにより,サーバーに電話帳情報が記憶され,座標の自動
生成が行われる。この段階で,電話回線の申込みから,通信事業者側における
電話帳情報の確認・登録作業を経て,座標の自動生成まで,数日程度は要す
る。その後,広告依頼者が端末を通じてオンラインでサーバーに簡易広告や営
業内容広告を登録するという手順を経ることになる。
これに対し,本件発明1では,通信事業者に電話回線の申込みを行ってサー
バに電話帳情報を記憶させ,座標の自動生成を行うといった時間が一切不要で
ある。サーバー側に何ら情報がない段階から,広告依頼者が自ら端末を通じて
広告情報の入力と地図上での位置指定を行うだけで広告頒布することが可能だ
からである。
したがって,タイムラグの短さという点において,本件発明1は,引用発明
1にはない顕著な作用効果が得られる。原告の主張は理由がない。
6取消事由6(本件発明1と引用発明2との一致点の認定及び容易想到性の判
断の誤り)に対し
引用発明2を主引用例とした場合においても,本件発明1を容易に想到する
ことができないとした審決の判断に誤りはない。すなわち,甲2には,既に地
図上の座標と店舗情報が関連づけられて登録された情報(図12)に対して,
店舗データの一部である休業フラグを登録(付加)したり更新することができ
るシステムが示されているにすぎず,また,甲2における「座標」は,操作者
において任意に位置指定されるものではない。原告の主張は失当である。
7 取消事由7(本件発明2ないし7に関する判断の誤り)に対し



原告の主張は争う。
8 取消事由8(本件発明と原発明1との同一性の判断の誤り)に対し
(1) 本件発明1と原発明1との技術的意義の相違
原発明1は,広告受給者によって広告対象物を選択すること自体に技術的
意義があるのに対し,本件発明1は,広告対象物を選択するための構成を広
告受給者によって地図上の座標が指定され,この指定された座標に一致する
又はその座標に最も近い座標を持つ広告対象物を選択するという構成とする
ことにより,おおよその座標を指定するだけでも広告対象物を指定できるこ
とで広告受給者の利便性にも資するという技術的意義があり,同一の技術的
思想を表現したものではない。
(2) 本件発明1と原発明1との構成の同一性に関する判断の誤りに対し
原告は,本件発明1の「広告対象物の選択」は,広告依頼者の端末と同様
の操作,すなわち,「表示された地図上において,位置を指定すること」に
より広告対象物を選択することで限定されると主張する。
しかし,本件発明1の「広告対象物」とは,例えばアイコンなどであり,
広告受給者がそれぞれのアイコンを区別して視認できるようになっており,
これらのアイコンからマウス等を用いて画面上で所望するアイコンを含む領
域指定を行なうことにより所望するアイコンを選択することができるもので
ある。また,本件発明1では,広告対象物を図像化しているから,その図像
化した形状自体が番号を示していれば,番号を広告対象物に新たに付与する
必要もなく,図像化された形状で示される番号を選択することにより,広告
対象物そのものを選択している。したがって,原告の主張は失当である。
(3) 原発明1の作用効果の誤認に対し
甲30,31には,広告対象物が図像化された,すなわち選択する対象物
が視認できる状態にされた発明について記載されているわけではない。甲3
0,31は,ユーザが正確な座標が分かっていればその座標を指定できるは



ずのところを,無作為に地図上で位置指定を行なっても,とりあえず情報が
出る仕組みになっているにすぎない。
これに対し,本件発明1は,広告対象物が図像化され重なり合う確率は高
く,位置指定がずれても該当するアイコンを選択するために近傍という構成
をとっているのであり,独自の作用効果を奏する。原告の主張は理由がな
い。
(4)本件発明2,4ないし7と原発明1ないし5との同一性判断の誤りに対し
原告の主張は争う。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,審決の本件発明1の認定のうち「新規に広告情報を登録」との
認定及び「第三者のサーバー」との認定(取消事由1)に誤りがあるものの,
いずれも審決の結論に影響を及ぼすものではなく,その余の取消事由にはいず
れも理由がないから,原告の請求を棄却すべきものと判断する。以下理由を述
べる。
1 事実認定
(1) 本件発明1に係る特許請求の範囲及び本件明細書(甲14)の記載
ア「・・広告依頼者の端末に対し,広告情報の入力を促す一方,・・前記
広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末
によって入力された広告情報と関連づけて前記サーバが前記記憶手段に記
憶させる段階と,・・広告受給者の端末に対し,・・広告受給者によって
指定された座標に一致する,または,最も近傍の座標の広告対象物に関連
づけられた広告情報・・特徴とする広告情報の供給方法」(特許請求の範
囲請求項1)
イ「前記広告情報は,少なくとも前記広告対象物の業種を示す業種情報を
含むことを特徴とする請求項1または4に記載の広告情報の供給方法」(
特許請求の範囲請求項5)



ウ「・・広告とは,ある者がその者の商品・サービス等に関し,その消費
者等に成り得る者に対して宣伝等を行なうことであるが・・」(段落【0
009】)
エ「・・本願の広告情報とは,狭義では広告メッセージを指すが,広義に
は,店舗情報よりも上位であって,顧客ファイル作成に必要な情報のすべ
てを指す。・・」(段落【0012】)
オ「ステップSb3において,制御手段11は,端末101に対して,図
7に示す位置指定画面を表示させる制御を行なって,端末操作者に対し,
広告すべき店舗の位置指定を促す。ここで,表示される地図は,記憶手段
15に記憶された地図ファイルに基づくものである。なお,図7に示すも
のは,東京都千代田区神田界隈(秋葉原駅周辺)を示す下層の区分地図で
ある。端末操作者は,表示された地図上において,広告の対象となる店舗
の位置を,マウスカーソルMCにより指してクリックする。すると,制御
手段11は,この地図を示すコードと,この地図上において指定された位
置の座標を示す(x,y)情報とを求めて,これらの情報を一旦格納した
後に,次のステップSb4の処理を行なう。」(段落【0018】)
カ「ステップSb4において,制御手段11は,端末101に対して,図
8?図10に示す店舗情報入力画面を表示させる制御を行なって,端末操
作者に対し,店舗情報の入力を促す。・・」(段落【0019】)
キ「2?2?1:地図まず,「地図」について説明する。この場合,店
舗情報を受ける端末操作者は,図3に示したステップSa1のメインメニ
ュー画面(図5参照)において,「地図」のボタン21 をクリックする。
1
すると,制御手段11は,手順をステップSa2に進ませ,上層の地図フ
ァイルを記憶手段15から読み出し,端末101の表示部に,当該ファイ
ルに基づく日本地図とともに,地域的な限定をするように促すメッセージ
を表示させる制御を行なう。このときに端末101の表示部に表示される



画面を図11に示す。ここで,端末操作者は,例えば,表示地図上の東京
にマウスカーソルMCを合わせてクリックしたとする。すると制御手段1
1は,手順をステップSa3に進ませて,中層の地図ファイルのうち,位
置指定された東京の地図ファイルを記憶手段15から読み出し,端末10
1の表示部に,当該ファイルに基づく東京都近郊の地図とともに,さら
に,地域的な限定をするように促すメッセージを表示させる制御を行な
う。このときに端末101の表示部に表示される画面を図12に示す。こ
の画面に対し,端末操作者は,表示地図上の「秋葉原周辺」にマウスカー
ソルMCを合わせてクリックしたとすると,手順は次のステップSa4に
進む。」(段落【0028】)
ク「ステップSa4において制御手段11は,まず,下層の地図ファイル
のうち,位置指定された秋葉原近郊の地図ファイルを記憶手段15から読
み出し,端末101の表示部に,当該ファイルに基づく秋葉原近郊の地図
を表示させる。次に,制御手段11は,記憶手段17に格納された顧客フ
ァイルのうち,地図コードが,先に読み出された秋葉原近郊の地図ファイ
ルを示すものを検索して抽出する。そして,制御手段11は,抽出された
顧客ファイルの(x,y)情報を読み出し,その情報で示される座標位置
に,業種情報に対応するアイコンを,必要であればその店名とともに,表
示した地図に上書きして表示させる。なお,かかる上書き表示は,抽出し
た顧客ファイルのすべてに対応して行なわれる。また,アイコンのビット
マップデータは,業種情報に対応するものが記憶手段16から読み出され
る。このときに端末101の表示部に表示される画面を図13に示す。な
お,かかる表示画面に示されるメッセージ中,アンダーラインが付されて
いる文字部分をマウスクリックすることにより,表示された地図およびア
イコンが,当該メッセージで示される方向にスクロール移動するようにな
っている。かかる制御も制御手段11が行なっている。また,この表示画



面のボタン31をマウスでクリックすれば,前述したステップSb1の登
録メニュー画面表示に移行し,また,所定の操作により後述するステップ
Sa8にも移行することができるようにもなっている。」(段落【002
9】)
ケ「さて,端末操作者は,かかる画面にアイコン化されている店舗情報を
欲する場合には,そのアイコンをマウスによりクリックする。例えば,当
該画面には,先に登録動作で説明した「○○デパート」が,指定された位
置にアイコン化されて表示されているが,端末操作者は,この「○○デパ
ート」の詳細情報を欲する場合,同図に示すように「○○デパート」のア
イコンにマウスカーソルを合わせてクリックする。かかる操作により制御
手段11は,手順をステップSa5に進ませ,地図上でクリックされた座
標を検出し,この座標に一致する,あるいは最も近傍の(x,y)情報を
有する顧客ファイルを検索して見つけ,さらに,当該顧客ファイルの店舗
情報を読み出して,端末101の表示部に表示させる。かかる動作によ
り,例えば,クリックしたアイコンが「○○デパート」であれば,この顧
客ファイルが検索されて,図14に示したように,先に広告依頼人が店舗
情報入力画面により入力した店舗情報が表示される。」(段落【0030
】)
コ「このように,広告受給者たる端末操作者は,表示部に表示された地図
と,その地図上に重ねられたアイコンとを見ながら,アイコンをクリック
するのみにより,そのアイコン化された店舗の情報を得ることができる。
一方,この店舗情報は,広告依頼者のみにより容易に修正可能である。し
たがって,かかる実施形態によれば,広告記載依頼から実際の広告頒布ま
でのタイムラグを短くすることができ,しかも,広告情報の信頼性を保つ
こともできるのである。」(段落【0031】)
(2) 引用刊行物(甲1)の記載



甲1には,以下の記載がある。
ア「CUPIDでは,電話帳情報に住宅地図情報,広告情報,伝言情報を
有機的に連動し,これらの情報を電話帳情報とともに案内するサービスを
実現した。」(833ページ)
「現在の電話帳情報は,「名前」「電話番号」「住所」「職業分類」の
項目から構成され,これらの項目をキーワードとして該当する電話番号が
抽出できる。「地図上の位置を表す座標」や企業の「広告」などを付加す
れば,電話帳をインデックスとして,電話帳掲載のお客さまの様々な情報
が得られ,日常生活の利便向上に役立てることができる。」(834ペー
ジ)
イ「4.2 電話帳データベースと地図データベースの結合
電話帳情報と地図情報の結合により,電話帳掲載者の周辺の地図を表示
したり,逆に地図上で電話帳情報を検索するための領域を指定可能とし
た。具体的には,電話帳情報に地図上の座標情報を追加することにより,
電話帳情報を地図上の位置へ対応付けた。」(839ページ)
ウ「4.3 電話帳データベースと広告データベースの結合
企業の広告情報として,多様な利用形態を評価する観点から,次の3種
類の広告を電話帳と関連付けて格納した。
(1)簡易広告:1?2行の簡単な広告
(2)画面広告:画面単位の広告
(3)営業内容広告:営業時間,設備状況等,業種ごとに統一した営業内
容に関する情報
(中略)
(2)電話帳情報と地図情報,広告情報,伝言情報を有機的に結合した
付加価値サービスを実現した。」(839ページ)
エ「3.1 電話帳情報の構成要素



CUPIDで扱う電話帳情報の構成要素として,以下の項目がある。
(中略)
(2)場所情報
行政区分を表す「住所」および,地理的な位置を表す「座標」が
考えられる。(ただし,現在の電話帳には,「座標」は含まれてい
ない。)
(中略)
3.2 電話帳の利用形態と検索仕様
(中略)
これら3つの調べ方に加えて,住所の区名や町名が不確かな場合,「○
○駅近く」など,目標物を指定したり,地図上で領域を指定する方法が有
効である。
本システムでは,これらの目的に対応するため,「名義」「住所」「職
業」「電話番号」に加えて,「目標物」,地図上で指定した「領域」を検
索条件項目とし,これらの条件を組み合わせることにより,多様な検索を
実現した。」(842ページ?843ページ)
「「目標物」を指定した場合,その周辺領域を条件とする検索を実現す
るため,目標物の位置を示す2次元の座標情報に変換し,これを中心とす
る決められた範囲の矩形の「領域」で電話帳を検索するようにした。
「領域」で検索可能とするため,電話帳データベースには,地図上の座
標情報を収容した。」(844ページ)
オ「(1)異種DBである電話帳DBと地図DBを自動結合する技術を提
案し,「名義」+「住所」により結合処理を行い,約60%の結合率を得
た。」(851ページ)
「本システムでは,付加価値の1つとして地図情報を取り上げ,これを
利用した種々の付加価値サービスを実現している。電話帳に掲載されてい



る企業や店の所在地を地図上で案内する,地図上で指定した領域内からレ
ストランを探し出す等がその一例である。」(851?852ページ)
カ 「2.2 開発技術
この付加価値サービスを実現するために,以下の技術を開発する。
(1)電話帳DBと地図DBの結合
地図情報を利用した付加価値サービスでは,「電話帳情報から地図
情報の参照・案内」および,「地図情報から電話帳情報の参照・案
内」という双方向のサービスを実現する。このため,電話帳DBと地
図DBの間に関連付け(電話帳DBと地図DBの結合)を行う。」(
852ページ)
「3.2 電話帳DBと地図DBの結合処理
電話帳DBと地図DBの関連付けは,地図座標データを電話帳掲載者ご
とに付与することにより行った(図1)。
住宅地図は,建物ごとの名義,住所,座標および表示用地図データ等か
らなり,電話帳は,名義,住所,電話番号等からなる。地図座標データを
電話帳掲載者に付与するため,各々独立に作成された住宅地図と電話帳
を,両者の共通情報である「名義」と「住所」により自動照合した。本照
合により,住宅地図の座標を,対応する電話帳掲載者に付与し,座標付き
の電話帳DBを作成した。
自動照合により座標を付与できた割合は,『名義』照合で50%,『名
義』+『住所』照合により60%に向上した。付与できない要因としては
以下が考えられる。
(1)『名義』は,電話帳ではご契約者の名義を使用しているのに対し,
住宅地図では表札,看板,刊行物等の掲載名義を使用している(表
1)。
(2)電話帳は日々更新され絶えず最新の情報となっている一方,住宅地



図は1年1回の更新のため,両者の間に情報の新しさの相違ができる。
(3)同一ビル名で建物が複数存在し,1つの建物に特定できない場合が
あ る。」(852?853ページ)
キ「図1電話帳DBと地図DBの結合および地図データ構造(記載内容
は省略)」(853ページ)
ク「また,実データを用いて技術確認を実施した結果,以下の成果が得ら
れた。
(1)電話帳DBと地図DBの結合は,自動結合処理を行った結果約60
%について結合することができた。」(856ページ)
ケ「本論文では,広告・伝言情報と電話帳情報の結合方式と広告・伝言の
登録更新,参照の処理方式について述べる。」(857ページ)
「本システムでは,電話帳情報をリレーショナルDBとして格納してい
る。すなわち,電話帳情報は,電話帳の掲載単位を「行」(電話帳レコ
ードと呼ぶ)に,検索対象項目(住所,名前等)を「カラム」として電
話帳 テーブルに格納した。」(858ページ)
コ 「3.1 広告の種類
電話帳と結合した広告情報の利用形態として,?@検索された企業のリス
トから各々の広告情報を比較しながら絞り込むために利用する形態,?A検
索された企業の詳しい情報を個々に参照する形態,?B企業の営業内容を条
件に検索された企業を絞り込む形態,が考えられ,それぞれに対応して,
?@簡易広告,?A画面広告,?B営業内容広告と呼称する3種類の広告を設け
た(表1)。」(858ページ)
サ 「3.3 広告の登録・更新方式
本システムでは,端末に格納された動画広告を除いて,広告情報を広告
の持主が端末から即時登録・更新する機能を実現した。
広告の登録・更新機能を利用者に提供する場合,以下の点に留意するこ



とが重要である。」(861ページ)
「図3広告の登録・更新に関するテーブル関連図(記載内容は省
略)」(862ページ)
シ「本システムは,一般の利用者が直接端末を操作するタイプの情報案内
システムであり,電話帳,地図,広告,伝言等の情報を案内する。」(8
65ページ?866ページ)。
2 取消事由1(本件発明1及び引用発明1の認定の誤り)について
(1) 本件発明1の「広告情報」について
ア 「広告情報」の意義
特許請求の範囲(請求項1,請求項5)の記載によれば,本件発明1
の「広告情報」は,広告依頼者の端末に対して入力を促される情報であ
り,少なくとも広告対象物の業種を示す業種情報が含まれるものと認めら
れる。そして,以上を前提に発明の詳細な説明の記載(段落【0012
】)を参酌すると,「広告情報」とは,顧客ファイル作成に必要な情報の
すべてであると解するのが相当である。
イ 原告の主張に対し
原告は,前記特許請求の範囲請求項1の「入力された広告情報」と「選
択された広告情報」とが同義であることを前提として,仮に,「広告情
報」を顧客ファイルの作成に必要な情報のすべてであると解するとするな
らば,供給,出力されることが考えられない登録者IDやパスワードが含
まれることとなり,失当であると主張する。
しかし,特許請求の範囲請求項1の記載によれば,「入力された広告情
報」と「選択された広告情報」と区別され,前者は後者を含む概念である
と理解すべきである。そうすると,「広告情報」に登録者IDやパスワー
ドが含まれると解することに何ら不自然な点はない。原告の主張は理由が
ない。



(2) 引用発明1の「電話帳情報」について
原告は,甲1の記載(839頁)から,引用発明1の「電話帳情報」が簡
易広告や営業内容広告を含むとの審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
すなわち,甲1のうち,?@862頁の図3「広告の登録・更新に関するテ
ーブル関連図」には,簡易広告や営業内容広告が「電話帳」に含まれるとの
記載があること,?A838頁の表4「データベース一覧」には「電話帳」に
ついて「?B付加情報の一部として「簡易広告」(略),「営業内容広告」(
略)を収容」との記載があること,?B859頁以下に「以上の点から,電話
帳情報との結合方式は,電話帳情報と同時に検索され,データ量が小さく定
型的な簡易広告と営業内容広告は,電話帳テーブルへ格納する方式を,・・
採用した(図1)。」との記載があることに照らせば,甲1の「電話帳情
報」には簡易広告や営業内容広告を含むことは明らかである。原告の主張は
理由がない。
(3) 「新規に広告情報を登録」との認定について
本件発明1の特許請求の範囲請求項1には,広告情報の登録を「新規」に
限るとの記載はなく,文言上「更新」の場合も含まれるというべきであり,
本件明細書の発明の詳細な説明参酌しても,広告情報を新規に登録する場
合の他既に登録された広告情報の変更,削除の場合の記載も存する(段落【
0021】?【0026】)。したがって,「『新規に』広告情報を登録」
と認定した審決の認定は誤りである。しかし,「広告情報を登録」が新規の
場合に限られないとしても,後記のとおり審決の相違点1に対する判断に誤
りがないことから,上記審決の認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすもの
ではない。
(4) 「第三者のサーバー」について
特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明1において,「広



告依頼者の端末」と「サーバー側」とが別個のものとして記載されているも
のの,「サーバー側」が広告依頼者とは異なる「第三者」のサーバーである
旨の記載はない。また,「広告依頼者の端末」と「サーバー側」という装置
が対置されているが,その主体を特定する記載はない。前記本件明細書の記
載によれば,広告とは,「ある者がその者の商品,サービス等に関し,その
消費者等に成り得る者に対して宣伝等を行なうこと」とされ,甲33によれ
ば「広く世間に告げ知らせること」を意味するとされ,「依頼主」と「広告
を提供する者」とが同一である場合を排除するものとはいえない。
したがって,本件発明1の「サーバー」の管理者と広告依頼者が別人格で
あり,広告依頼者の端末はサーバー(第三者)の管理下にない端末であると
の審決の認定は誤りである。
なお,認定の誤りは,後記のとおり,審決の結論に影響を及ぼすものでは
ない。
3 取消事由2(本件発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り)について
原告は,本件発明1と引用発明1とは,地図上の広告対象物の座標を,入力
された広告情報と関連づけてサーバー側で記憶する段階であることでも一致す
ると主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。
すなわち,本件発明1に係る特許請求の範囲請求項1には,「前記サーバ側
の記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図
上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によっ
て位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報
と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階」とあり,広告対
象物の「座標」は,「地図上において位置指定された」ものであると記載さ
れ,単なる地図上の広告対象物の座標とは異なるものと記載されている。そし
て,前記1(2)で認定したとおり,甲1には,地図上で電話帳情報を検索でき



ること,広告主が広告情報を端末から即時登録・更新することができることが
記載されているものの,広告対象物の座標が地図上で位置指定されたものであ
ることについても何ら記載がない。したがって,原告の主張は理由がない。
4取消事由3(本件発明1と引用発明1との相違点1の容易想到性の判断の誤
り)について
(1)「前記サーバ側の記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を
表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記
広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末に
よって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶
させる段階」の意義
前記1(1)で認定した本件明細書の記載によれば,相違点1に関して,本
件発明1にいう「前記サーバ側の記憶手段に予め記憶された地図情報に基づ
いて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段
階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,
当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶
手段に記憶させる段階」とは,広告依頼者において,その端末において画面
上に表示された地図上で位置を指定して,当該座標を広告対象物の位置とし
て登録させることで,広告対象物の座標と入力された広告情報に関連性をも
たせることを意味するものと解される。
(2) 引用発明1及び周知技術(甲3,5,6)とによる容易想到性の判断
上記認定判断を前提に甲1及び甲3について検討すると,前記1(2)で認
定したとおり,甲1には,利用者の端末から「広告情報」を登録・更新でき
ることが記載されているが,それは,既に地図上の座標と電話帳情報とが関
連付けられて登録された情報に対して登録したり変更したりすることが開示
されているにすぎず,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定をする
ことにより,利用者において地図上の座標情報を入力された広告情報と関連



づけるとの技術的思想の開示はない。
そして,甲3には,「1電話番号と,該電話番号の該当地区の地図等の
データ検索システムに関し,2電話番号,住所,持ち主,住所コード等の
データと,住所コードに対応した複数のイメージデータを対応させ,また,
表示された地図の該当地番の場所にポイントを表示するための地番座標変換
テーブルを備え,3電話番号あるいは住所コードを入力すると,該当する
地図(区分地図)を表示し,かつ,地番に対応する地番ポイントを地図上に
表示(第2図,14)するものであって,4指定された地区の地図を表示
し,該地図画面上にライトペン等により所望の位置を指定してその座標を読
み取らせるとともに,キーボードにて角番地,住所コードのデータを入力し
て,座標?角番地対応テーブルが作成され,続いて地番座標変換テーブルを
自動作成する,地番座標変換テーブル作成システムを有する,電話番号?地
図データ処理システム。」が記載されている(当事者間に争いがない。)。
上記のとおり,甲3には,地図上の位置と地番とを対応づける地番変換シ
ステムを作成するシステムの記載はあるものの,広告依頼者の端末から地図
を利用して位置指定することにより,座標を入力された広告情報と関連づけ
ることの技術的思想の開示はない。
甲5,6を検討しても,同様に,広告依頼者の端末から地図を利用して位
置指定することにより,座標を入力された広告情報と関連づけるとの技術的
思想の開示はない。
そうすると,引用発明1に周知技術(甲3,5,6)を組み合わせても,
本件発明1のように広告情報の端末から地図を利用して位置指定することに
より座標を入力された広告情報と関連づけるとの構成を想到することはでき
ないというべきである。原告の主張は理由がない。
(3) 原告の主張に対し
原告は,広告依頼者が広告情報を登録する以前から広告情報と座標情報が



関連づけられているかは重要ではないにもかかわらず,その点を重視して,
相違点1に係る構成が容易に想到できないとした審決の判断は誤りである主
張する。
しかし,原告の主張は失当である。
すなわち,本件発明1においては,広告依頼者自身が簡単な操作で広告対
象物の広告情報を登録し,広告対象物に関連づけられた広告情報は,広告受
給者も簡単な操作で直ちに読み出すことができる広告情報を得られることで
広告記載依頼から広告頒布までのタイムラグをできるだけ短くするという作
用効果を奏する。したがって,広告情報と座標情報の関連づけを広告依頼者
がするか否かは,上記作用効果の有無に直接影響を及ぼす構成というべきで
ある。原告の主張は,理由がない。
5取消事由4(周知技術の認定及びそれに基づく本件発明1と引用発明1との
相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)について
原告は,端末から地図情報と属性情報を関連づけて第三者のサーバ(ホス
ト)に記憶させることは,甲16及び甲19から周知技術であり,これを否定
する審決の周知技術の認定は誤りであると主張する。しかし,以下の理由から
原告の主張は失当である。
(1)審決は,周知技術(甲15ないし20)の認定及び判断として,「甲第
15ないし第20号証記載のものは,ホストコンピュータで記憶・管理され
る情報(地図情報や属性情報)を該ホストコンピュータに接続された端末で
作成,修正(編集),削除するシステム,つまり情報を蓄積・管理している
センタ(ホスト)のデータを,センタの管理下にある複数の端末によって,
作成,照会,編集,登録できるようなシステムに関するものであって,そも
そも広告依頼者が広告を出すために,広告依頼者の端末から第三者のホスト
に情報を登録するようなシステムではないから,広告依頼者が自分の端末か
ら地図座標と広告情報を関連付けて第三者のサーバに記憶させることが周知



技術であるとは認められず,上記相違点1に係る事項が甲第15号証ないし
甲第20号証に記載されたものから容易に想到できたということはできな
い。」と判断している。要するに,審決は,「広告依頼者がその端末から,
第三者のサーバに記憶させる」ことが周知技術であるとは認められないと判
断したものであり,後記のとおり,その判断を誤りとする理由はない。な
お,原告の指摘する周知技術は,審決が判断の対象とした周知技術と内容に
おいて異なるから,原告の主張は,その主張自体失当である。
(2) 甲16
甲16には,「東京ガスの地下埋設物情報管理システム」に関して,以下
の記載がある。
ア「コンピュータ・マッピング・システムは基本的に,?@入力,更新,検
索の場合などに図形情報を表示するグラフィック・ディスプレイ,?A図形
の座標点を入力するためのディジタイザ,?B登録された情報から作図する
プロッタ,?C全体をコントロールするミニコンピュータから構成され
る。」(144頁?145頁)
イ「図11?1東京ガスのハードウェア構成図」には,東京ガスの20
支社に設置された端末から中央の各コンピュータに接続するハードウェア
構成が記載されている。(144頁)
ウ「図面データおよびその属性データの登録・修正・削除を効率的に行う
ためのもので,特にデータのメンテナンスを容易にするため,任意の多角
形(ポリゴン)を指定し,内部の情報を修正,削除し情報の更新を行う機
能を持つ。」(147頁)
以上によれば,甲16には,東京ガスの支社に設置された端末から中央の
コンピュータに対して,地図上の図形を指定して図形に関連する属性のデー
タの入力を行うことが記載されているといえるが,「広告提供者の」端末か
ら,サーバー側に対して広告対象物の座標を「広告情報」と関連づけて記憶



するとの技術的思想の開示はない。
(3) 甲19
甲19には,以下の記載がある。
ア「図16はその機運にのっとったコンピュータ・マッピングシステムの
システム構成図であり,センターシステムCSには,通信回線Lにより複
数のユーザーシステムUSが接続されている。センターシステムCSは,
たとえば基本地図データベースを入力し,維持管理するとともに設備デー
タを預かり保管する機関に設置され,各ユーザーシステムUSは,電信電
話,電力,ガス,水道,下水道,地下鉄など,道路を占有する設備を管理
する各事業者に設置されている。」(段落【0003】)
イ「センターシステムCSは,地図および設備に関して構築された各種の
図形データベースを外部記憶装置CES上で維持管理するものであり,セ
ンターシステムCSのホストコンピュータCHCは,各ユーザーシステム
USの要求に応じて各種の図形データベースの検索処理を行う。」(段落
【0004】)
ウ「センターシステムCSが有する図形データベースは・・・大別すると,
本センターシステムCSが設置された上記の機関により作成され,地形,
道路,街区などの地図情報,ビルなどの構築物の占有位置,名称など地図
に関する各種のデータをデータベース化した基本地図データベースDB1
と,上記のような各事業者により個別に作成されて本機関に提供された設
備の配設状況に関する各種データをデータベース化した設備地図データベ
ースDB2とに分けられる。」(段落【0005】)
エ「各事業者に設置されたユーザーシステムUSは,自己の管理下に属す
る設備の配設状況に関する各種データを地形や街区データと対応づけてデ
ータベース化した図形データベース・・・を,自己の外部記憶装置UES上
で個別に登録,更新,検索するなどして維持管理するものであるが,自己



の管理下に属する設備を改修する場合など,他の事業者が管理している設
備を破損しないようにするために,他の事業者が管理している設備の配設
状況を調査しなければならない場合があるため,センターシステムCSに
提供されている他の事業者の管理下にある設備の設備地図データベースD
B2を検索する機能をも有している。」(段落【0006】)
オ「また,各事業者の管理下にある設備の設備地図データベースDB2
は,・・・各設備地図データベースDB2の背景となる地図としては,上記
機関により作成された基本地図データベースDB1を共通に使用するよう
要請されている。すなわち,基本地図データベースDB1を背景とした設
備地図データベースDB2のみをセンターシステムCSに提供するよう要
請されている。」(段落【0007】)
カ「デジタイザ2は,たとえばガス管の位置データ(座標データ),ガス
管の材質,太さなどの属性などの図形データの入力に使用され,このデジ
タイザ2でもメニューシートを利用して入力内容を指示する。ただし,メ
ニューの選択などは,カーソルにより行う。」(段落【0026】)
キ「パソコン4は,街,家屋などの名称など,座標データ以外の文字デー
タを入力する場合などに使用される。・・」(段落【0028】)
以上の記載によれば,甲19には,各事業者のパソコンから地図データベ
ースを維持管理するセンターシステムに対して,街,家屋等の名称を入力す
る旨の記載があるといえるが,「広告提供者の」端末から,サーバー側に対
して「広告対象物の」座標を,「広告情報」と関連づけて記憶するとの技術
的思想の開示はない。
(4)したがって,原告が指摘する甲16及び甲19の内容を検討しても,い
ずれも,広告依頼者が自分の端末から地図座標と広告情報を関連付けてサー
バに記憶させることができるとの技術的思想の開示はなく,上記審決の判断
に誤りがあるとは認められない。原告の主張は理由がない。



6 取消事由5(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)について
原告は,引用発明1においても,広告依頼者自身が自分の端末からサーバー
に対して広告情報を即時登録でき,登録された広告情報は,地図と関連づけら
れ,一般利用者に案内されるため,広告配布までのタイムラグが短くなるとい
う作用効果が生じると主張する。しかし,前記4で認定判断したとおり,引用
発明1には,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定をすることによ
り,座標を入力された広告情報と関連づけるものということはできない。これ
に対し,本件発明1は,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定をする
ことにより,座標を入力された広告情報と関連づけるものであり,これによ
り,「広告記載依頼から実際の広告頒布までのタイムラグをできるだけ短
く」(【発明の効果】)するという作用効果を奏するものである。原告の主張
は理由がない。
7 取消事由6(本件発明1と引用発明2との一致点の認定の誤り)について
引用発明2を主引用例とした場合においても,本件発明1を容易に想到する
ことができないとした審決の判断に誤りはない。
甲2には,前記第2,3(2)記載の発明が記載されていることは当事者間に
争いがないところ,甲2には,既に地図上の座標と店舗情報が関連づけられて
登録された情報(図12)に対して,店舗データの一部である休業フラグを登
録(付加)したり更新することができるシステムが示されているにすぎず,本
件発明1のように地図上の広告対象物の座標を広告情報と関連づけてサーバー
側で記憶するとの開示はなく,また,甲2における「座標」は,操作者におい
て任意に位置指定されることの開示もない。原告の主張は失当である。
8 取消事由7(本件発明2ないし7に関する判断の誤り)について
前記のとおり,本件発明1についての審決の判断に違法はないから,それを
前提とする本件発明2ないし7に関する審決の判断に誤りはない。
9取消事由8(本件発明2,4ないし7と原発明1ないし5の同一性の判断の



誤り)について
(1) 本件発明1に係る明細書(甲14)の記載
本件発明1に係る明細書(甲14)には,以下の記載がある。
ア「サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告依頼者
の端末に対し,広告情報の入力を促す一方,前記サーバ側の記憶手段に予
め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において
広告対象物の位置指定を促す段階と,
前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当
該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶
手段に記憶させる段階とによって登録した広告情報を,広告受給者に供給
する広告情報の供給方法であって,
前記サーバが,前記広告受給者の端末に対し,前記地図情報に基づく地
図を表示させるとともに,当該地図上の地点であって,記憶された広告対
象物の座標に相当する地点に,図像化した当該広告対象物を表示させて,
所望する広告対象物の選択を促す段階と,
前記広告受給者の端末に表示された地図上において,前記広告受給者に
よって指定された座標に一致する,または,最も近傍の座標の広告対象物
に関連づけられた広告情報を,前記サーバが検索して読み出す段階と,
前記サーバが,読み出した広告情報を,前記広告受給者の端末に対して
出力する段階とを備えることを特徴とする広告情報の供給方法。」(【請
求項1】)
イ「・・例えば,当該画面には,先に登録動作で説明した「○○デパー
ト」が,指定された位置にアイコン化されて表示されているが,端末操作
者は,この「○○デパート」の詳細情報を欲する場合,同図に示すよう
に「○○デパート」のアイコンにマウスカーソルを合わせてクリックす
る。かかる操作により制御手段11は,手順をステップSa5に進ませ,



地図上でクリックされた座標を検出し,この座標に一致する,あるいは最
も近傍の(x,y)情報を有する顧客ファイルを検索して見つけ,さら
に,当該顧客ファイルの店舗情報を読み出して,端末101の表示部に表
示させる。かかる動作により,例えば,クリックしたアイコンが「○○デ
パート」であれば,この顧客ファイルが検索されて,図14に示したよう
に,先に広告依頼人が店舗情報入力画面により入力した店舗情報が表示さ
れる。」(段落【0030】)
ウ「このように,広告受給者たる端末操作者は,表示部に表示された地図
と,その地図上に重ねられたアイコンをクリックするのみにより,そのア
イコン化された店舗の情報を得ることができる。一方,この店舗情報は,
広告依頼者のみにより容易に修正可能である。したがって,かかる実施
態によれば,広告記載依頼から実際の広告頒布までのタイムラグを短くす
ることができ,しかも,広告情報の信頼性を保つこともできるのであ
る。」(段落【0031】)
(2) 判断
ア上記のとおり,本件発明1は,さらに指定された座標に最も近傍の座標
の広告対象物を用いる構成を備え,これによりおおよその座標指定で広告
対象物を指定できるという効果を奏するものである。これに対し,本件発
明1は,前記認定のとおり,広告受給者によって広告対象物が選択される
ことにより,広告記載依頼から実際の広告頒布までのタイムラグをできる
だけ短くするという作用効果を奏するものであり,両者の技術的構成もそ
の効果も異なるものというべきである。
イ原告は,甲30,31によれば,地図上の対象物を1つの座標で特定
し,地図上で指定された座標の最も近傍の座標の対象物を検索してそれに
関する情報を読み出すことは,周知技術にすぎないと主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。



すなわち,本件発明1は,選択される対象が広告対象物であるところ,
この場合,広告依頼者がそれぞれ広告対象物の座標指定を行なう結果,複
数の広告対象物が近接して配置されることになるため,原発明1のように
広告受給者が地図上で指定した座標の最も近傍の座標の対象物を検索する
構成であれば,広告受給者が容易に広告対象物を選択できるのであり,こ
れは原発明1の構成から容易に予測し得る作用効果であるといえる。これ
に対し,甲30,31の場合,選択される対象が土地や家屋等であり,複
数の対象物が近接して配置されることは必ずしも想定されず(甲31で
は,付加情報としてガソリンスタンドなどの施設の概要,住所等を示す文
字情報等が指定位置に近いものから順番に表示されるが,そもそも地図上
に,アイコンなどで施設を表示する記載はないから,複数の選択対象が近
接して配置される場合は必ずしも想定されない。),仮にそのような場合
が想定されるとしても,その課題解決のために地図上で指定した座標の最
も近傍の座標の対象物を検索するという手段をとったとの記載も示唆もな
い。原告の主張は理由がない。
したがって,本件発明1と原発明1とは実質的に同一であるとはいえない
とした審決の認定に誤りはなく,本件発明2,4ないし7と原発明1ないし
5についても同様に審決の認定に誤りはない。
10 結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がない。原告は,その他縷
々主張するが,審決を取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部



裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官上田洋幸は,差し支えのため,署名押印することができない。
裁判長裁判官
飯村敏明