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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10375号
審決取消請求事件
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/07/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成21年7月29日判決言渡 平成20年 行ケ 第10375号 審決取消請求事件 () 平成21年5月27日口頭弁論終結 判決 原告大 日 本 印 刷 株 式 会 社 同訴訟代理人弁護士櫻井彰人 同訴訟代理人弁理士結田純次 同 三輪昭次 同 竹林則幸 同 金山聡 同 藤枡裕実 被告凸 版 印 刷 株 式 会 社 同訴訟代理人弁護士竹田稔 同 木村耕太郎 同 三縄隆 同訴訟代理人弁理士志賀正武 同 高橋詔男 同 村山靖彦 同 渡辺浩史 同 渡邊隆 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 特許庁が無効2007?800273号事件について平成20年9月9日に した審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「広告情報の更新方法」とする特許第3265958 号(平成7年12月6日出願,平成14年1月11日設定登録。以下「本件 特許」という。請求項の数は7である。)の特許権者である。 原告は,平成19年12月7日,特許庁に対して無効審判請求をしたが(無 効2007?800273号事件),特許庁は,平成20年9月9日,「本件 審判の請求は 成り立たない。」との審決をし その謄本は同年同月19日 原 , , , 告に送達された。 2 特許請求の範囲 本件特許に係る明細書(甲9。以下「本件明細書」という。)によれば 本 , 件特許の請求項1ないし7は 下記のとおりである。 , 【請求項1】サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告 依頼者の端末に対し,複数の項目の内容を含んだ広告情報の入力を促す一方, 記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上 において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって 位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と 関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階とによって登録した 広告情報を更新する広告情報の更新方法であって,記憶された広告情報におい て更新すべき項目の内容を含む更新情報を,前記サーバが取得する段階と,記 憶された広告情報に含まれる項目の内容を,当該更新情報に含まれる項目の内 容に,前記サーバが変更する段階とを備えることを特徴とする広告情報の更新 方法。 【請求項2】前記更新情報は,予め定められた入力フォーマットにしたがっ ていることを特徴とする請求項1記載の広告情報の更新方法。 【請求項3】前記更新情報には,広告依頼者全てに共通のヘッダ項目と,広 告依頼者の業種毎に異なる顧客情報項目とが含まれることを特徴とする請求項 1記載の広告情報の更新方法。 【請求項4】前記更新情報は,前記項目を前記サーバが認識可能なコード情 報と組になっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の広告情 報の更新方法。 【請求項5】前記更新情報は,更新予定日時情報を含み,前記サーバは,計 時手段が示す日時と前記更新予定日時情報とを比較して,これが一致したとき に,記憶された広告情報に含まれる項目の内容を,前記更新情報に含まれる項 目の内容に変更することを特徴とする請求項1に記載の広告情報の更新方法。 【請求項6】前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座 標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記 記憶手段に記憶させる段階の後,前記サーバが,再度,広告依頼者の端末に対 し広告情報の入力を促す段階と,記憶された広告情報を,再度入力された広告 情報に,前記サーバが変更する段階とをさらに備えることを特徴とする請求項 1乃至5のいずれか記載の広告情報の更新方法。 【請求項7】前記サーバは,広告依頼者の端末から電子メールとして送信さ れた更新情報を,該電子メールに割り当てられたメールボックスから読み出し て,該更新情報を取得することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載 の広告情報の更新方法。(以下,請求項1ないし請求項7に係る発明を,それ ぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」といい,これを併せて「本件各発 明」という。) 3 審決の内容 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本件各発明は,甲1 ないし甲8に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をす ることができたということはできないと判断した。 審決が認定した甲1記載の発明(以下「引用発明1」という。)の内容並び に本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。 (1) 引用発明1の内容 「1電話帳情報と,住宅地図情報,広告情報,伝言情報を有機的に連動 し,これらの情報を電話帳情報とともに案内するサービスであって, 2CUPIDセンタと利用者が使用するパソコン端末等が公衆電話網 を介して接続されており, 3CUPIDセンタからパソコン端末等に電話帳情報や住宅地図情 報,広告情報等が供給されるものにおいて, 4電話帳情報は電話帳掲載者の情報であって,名義(姓名,企業 名),電話番号,住所,職業などの情報から構成され,電話帳DBに 格納されており, 5住宅地図情報は,表示用地図データ,建物毎の名義,住所,(地図 上の位置を示す)座標などから構成され,地図DBに格納されてお り, 6広告情報には,簡易広告,画面広告,営業内容広告などの情報があ り, 7電話帳情報と住宅地図情報に基いて,両者の共通情報である「名 義」と「住所」により自動照合し,電話帳情報に座標を対応付けた電 話帳DBが作成され, 8広告情報のうち,簡易広告と営業内容広告は,それぞれ電話帳情報 の1項目として電話帳情報に結合され,電話帳DBに格納され, 9パソコン端末から検索キーとして,名義,住所,職業,電話番号, 目標物,地図上の領域などが指定されると,これに対応する情報が電 話帳DBから検索され, 10番号案内サービスにおいて,検索条件に合う電話帳掲載者の情報が 提示され, 11地図案内サービスにおいて,電話帳DB中の当該電話帳掲載者に対 応する座標に基づき,地図DBが検索されて当該電話帳掲載者の付近 の地図が表示案内され, 12ピック検索案内サービスにおいて,地図上でピック指定された建物 内の企業名が案内され, 13また,電話帳掲載者の情報を提示する場合,広告サービスにおい て,電話帳掲載者の簡易広告や営業内容広告が表示され, 14電話帳情報と結合した広告情報は,端末,電話回線等に制約されな い利用者IDおよびパスワードによる認証を経て,広告の持主がパソ コン端末から即時登録・更新することができる, 高付加価値型番号案内システム」 (2) 一致点 「サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告依頼者 の端末に対し,広告情報の入力を促して登録した広告情報を更新する広告 情報の更新方法であって,記憶された広告情報において更新すべき内容 を,前記サーバが取得する段階と,記憶された広告情報の内容に,前記サ ーバが変更する段階とを備えることを特徴とする広告情報の更新方法」で ある点。 (3) 相違点 ア 相違点1 本件発明1は,登録された広告情報が,「記憶手段に予め記憶された 地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物 の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定され た広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づ けて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階」によって登録され るものであるのに対し,引用発明1は上記構成を具備していない点。 イ 相違点2 本件発明1は,広告依頼者の端末に対して,「複数の項目の内容を含 んだ広告情報の入力を促す」ものであるのに対し,引用発明1には,広 告情報(電話帳情報)中の一部の情報(広告)の入力を促すことについ て示唆があるものの,上記構成を具備していない点。 ウ 相違点3 本件発明1は,「登録した広告情報を更新する広告情報の更新方法で あって,記憶された広告情報において更新すべき項目の内容を含む更新 情報を,前記サーバが取得する段階と,記憶された広告情報に含まれる 項目の内容を,当該更新情報に含まれる項目の内容に,前記サーバが変 更する段階とを備える」ものであるのに対し,引用発明1には,上記構 成の示唆はあるものの,上記のような具体的な構成については記載され ていない点。 第3 取消事由に関する原告の主張 審決には,下記の取消事由があるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件発明1及び引用発明1の各認定の誤り) (1) 「複数の項目の内容を含んだ広告情報」の認定の誤り 審決は,本件発明1の「複数の項目の内容を含んだ広告情報」を顧客ファ イル作成に必要な情報のすべてを指すものと解しているが,誤りである。「 複数の項目の内容を含んだ広告情報」は,店名,電話番号,業種情報,広告 メッセージ等の顧客ファイル情報の一部であってもよいと解すべきである。 すなわち,?@請求項1には,「広告情報」が顧客作成に必要な情報の集 合(全体)であることを示唆する記載はなく,?A上記審決の解釈は,「広告 情報」の持つ通常の意味から逸脱している。 また,「複数の項目の内容」は,更新対象となる複数項目(店名,席数, 予約,代表的メニュー等)と解釈され,「広告情報」はかかる「複数の項目 の内容を含んだ」「広告情報」と解釈すべきである。 (2) 引用発明1の「電話帳情報」の認定の誤り 審決は,引用発明1の「電話帳情報」は,名義,電話番号,職業及び簡易 広告や営業内容広告を含む情報であるから,本件発明1の「広告情報」に対 応すると認定したが,誤りである。 甲1の記載(839頁左欄24?32行)によれば,簡易広告や営業内容 広告は,電話帳情報に含まれる情報ではなく,電話帳情報と結合した広告デ ータベースに含まれる情報である。 (3) 「新規に広告情報を登録」との認定の誤り 審決は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,「地図上の任 意の位置に対応付けて,広告依頼者が新規に広告情報を登録するために」と の目的を付加して,「広告依頼者の端末」で行なわれる行為・動作に限定解 釈したが,誤りである。 本件発明1は,新規登録のみならず,登録した広告情報の変更,修正を行 うために,又は,広告情報を追加登録するために行う広告情報の入力も含む ものである。 (4) 「第三者のサーバー」との認定の誤り ア審決は,本件発明1の構成を,広告依頼者がデータを管理している第三 者のサーバに対し,広告依頼者の端末から座標情報と関連づけて広告情報 を登録するものであり,広告依頼者とデータを管理している第三者は別人 格であり,広告依頼者の端末はサーバ(第三者)の管理下にない端末であ ると解しているが,誤りである。 本件発明1においては,「サーバー」に第三者の限定や,「端末」がい ずれの管理下にあるかの限定はされておらず,「サーバー」と広告依頼者 を別個のものと規定しているにすぎない。したがって,本件発明1の「サ ーバー」の管理者と広告依頼者が別人格であり,広告依頼者の端末はサー バー(第三者)の管理下にない端末であるとの限定解釈は誤りである。 イ被告は,本件発明1の「サーバー」は不特定多数の広告依頼者を対象と していると主張する。しかし,本件発明1は,「サーバー」,「広告依頼 者の端末」等の装置の動作として特定されており,「サーバー」が対象と しているのは,「広告依頼者」ではなく,「広告依頼者の端末」である。 したがって,「広告依頼者の端末」を不特定多数か否かで区別する技術的 意義は存しないし,甲23によれば,「広告」は広告依頼者が誰であるか を問わない用語とされる。被告の上記主張は失当である。 2 取消事由2(一致点の認定の誤り) 審決は,甲1には,入力した広告情報と座標情報が関連づけられてサーバー に記憶されることは記載されていないとして,一致点を認定しているが,誤り である。 甲1には,地図上の企業や店(広告対象物)の座標情報は,電話帳DB(名 義,住所,電話番号等の広告情報)と関連づけてサーバーに記憶され,この地 図座標と関連づけてサーバーに記憶される広告情報について,広告の持主がオ ンラインで即時登録・更新できることが示されている。したがって,本件発明 1と引用発明1とは,広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告 情報と関連づけて,前記サーバーが前記記憶手段に記憶させる段階で一致して おり,これを看過した審決の一致点の認定は誤りである。 そして,審決は,甲1において,広告依頼者が広告情報を入力する以前から 電話帳情報と座標に関連づけられているか否かを考慮して,容易想到性の判断 を行っているので,審決の結論に影響を及ぼす誤りである。 3 取消事由3(相違点1に関する容易想到性の判断の誤り) (1) 本件発明1と引用発明1との対比に関する容易想到性の判断の誤り 審決は,相違点1に関し,「甲第1号証には,利用者端末から「広告」を 登録・更新することができることが記載されているものの,・・甲第1号証 には,利用者端末から広告情報(電話帳情報)と地図上の座標情報を関連づ けてサーバに登録できることは記載されていない。」,「甲第1号証記載の ものは,(狭い意味の)広告の登録以前から電話帳情報と座標情報が関連づ けられて登録されており,この情報の登録を,広告依頼者ではなく付加情報 サービス提供者(センタ側)が行なうことを前提としたシステムである。」 と判断したが,誤りである。 本件発明1も引用発明1も,地図情報に関連付けられた広告情報を,広告 受給者の端末に出力するものであるから,地図情報と広告情報との関連付け をどのような手法で行なうのかが重要である。そのため,広告依頼者が広告 情報を登録する以前から電話帳情報と座標情報が関連づけられているかは重 要ではないにもかかわらず,その点を重視して,相違点1の容易想到性の判 断を行なっている点で誤りである。 (2) 引用発明1と周知技術(甲2,4,5)との組合せの判断の誤り 審決は,「甲第1号証に記載されたものと甲第2号証に記載されたものを 組み合わせたとしても,広告依頼者自身が新規に広告情報(店舗情報)を登 録するために,サーバに記憶された地図情報に基づき広告依頼者の端末に地 図を表示させ,その地図上において広告対象物の位置を広告依頼者に指定さ せ,かつ,広告依頼者が入力した広告情報と前記地図上で指定した位置の座 標情報を関連付けてサーバに記憶すること,が容易に想到できたとは認める ことができない。」,「(甲第4号証及び甲第5号証)もまた広告依頼者の 端末から座標情報と関連づけて広告をサーバに登録し,広告受給者がサーバ にアクセスして広告等を見ることができるようなシステムに関するものでは なく,上記相違点1に係る事項が記載されているとはいえない。」と判断し たが,誤りである。 上記審決の相違点1の判断は,?@本件発明1について「新規に登録」,「 第三者のサーバー」と認定している点で誤っている点,?A仮にこれらの認定 に誤りがないとしても,甲1には,広告依頼者自身が新規に,広告情報を第 三者のサーバーに登録する技術が記載されている点,?B甲2,4,5には, 座標情報と属性情報を関連づける手法として,地図上の位置を指定する周知 技術が示されているにもかかわらず,引用発明1との組合せの判断において 考慮されていないことから,失当である。 4取消事由4(周知技術の認定及びそれに基づく相違点1に関する容易想到性 の判断の誤り) 審決は,「広告依頼者が自分の端末から地図座標と広告情報を関連づけて第 三者のサーバに記憶させることが周知技術であるとは認められず,相違点1に 係る事項が甲10ないし甲15に記載されたものから容易に想到できたという ことはできない。」と判断したが(審決19頁4行?7行),誤りである。 甲11には,端末から第三者のホストに対して座標情報と属性情報の入力, 更新,検索等を行うシステムが実質的に開示されているし,甲14には,各事 業者の端末に第三者のホストに記載されている地図を表示して,第三者のホス トに座標情報と属性情報を入力するシステムが開示されている。したがって, 端末から地図情報と属性情報を関連づけて第三者のサーバ(ホスト)に記憶さ せることは,甲11及び甲14から周知技術であり,これを否定する審決の周 知技術の認定は誤りであり,この誤った認定に基づいて相違点1の容易想到性 を判断している点も誤りである。 5 取消事由5(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り) 審決は,「本件発明1は,上記構成を備えることにより,サーバ管理者が広 告依頼者からの依頼を受けて地図と関連付けられた広告情報を登録するのでは なく,広告依頼者自身が自分の端末からサーバに対して広告情報と関連付けら れる地図座標の指定及び登録を行うことができるため,広告配布までのタイム ラグが短くなるという作用効果が生じるものと認められる。」と本件発明1に は顕著な作用効果がある旨判断しているが,誤りである。 引用発明1においても,広告依頼者自身が自分の端末からサーバーに対して 広告情報を即時登録でき,登録された広告情報は,地図と関連づけられ,一般 利用者に案内されるため,広告配布までのタイムラグが短くなるという作用効 果が生じる。よって,本件発明1の上記作用効果は顕著な作用効果とはいえず 誤りである。 6 取消事由6(本件発明2ないし7に関する判断の誤り) 審決は,本件発明2ないし7に関し,本件発明1と同じ理由で当業者が容易 に発明できたものとは認められないと判断した。しかし,前記のとおり本件発 明1に関する審決の認定判断は誤りであるから,上記判断もまた誤りである。 第4 被告の反論 原告主張の取消事由には理由がなく,審決を取り消すべき違法は認められな い。 1 取消事由1(本件発明1及び引用発明1の各認定の誤り)に対し (1) 「複数の項目の内容を含んだ広告情報」の解釈の誤りに対し ア 「広告情報」について 原告は,「広告情報」は顧客ファイル作成に必要な情報のうち,その いずれでもよいと主張する。しかし,そのような解釈を前提とする と,「広告情報」は明らかに広告として提供されることのない登録者I Dのみでもパスワードのみでもよいことになり,失当である。 イ 「複数の項目の内容を含んだ広告情報」について 本件明細書の段落【0016】,【0034】によれば,「更新対象 となる複数の項目」とは顧客ファイルに含まれている項目であり,席 数,予約,代表的メニュー等もまた顧客ファイルを構成する情報である と解される。したがって,「複数の項目の内容を含んだ広告情報」と は,広告情報に含まれる情報が複数の項目に分類されていることを意味 し,その顧客ファイルの一部として,更新される候補となる幾つかの項 目の内容が存在することを意味すると解される。 原告は,「複数の項目の内容」との記載を更新対象となる複数の項目 と解釈しているが,誤りである。本件発明1において,?@広告情報の「 更新」は区別して記載されていること,?A「広告情報において更新すべ き項目」との記載は,広告情報には更新する必要がない項目,すなわち 更新情報に含まれる項目以外の項目も存在することを明らかにしている こと,?B「記憶された広告情報に含まれる項目の内容を,当該更新情報 に含まれる項目の内容に,前記サーバが変更する」との記載におい て,「記憶された広告情報」に含まれる項目と「更新情報」に含まれる 項目が一致しているか否かについて何ら限定されていないことからすれ ば,「複数の項目の内容を含んだ広告情報」を「更新対象となる複数の 項目」に限定して解釈する理由はない。 ウ原告は,「複数の項目」を「店名,席数,予約,代表的メニュー等」 に限られると解釈しているが,誤りである。本件明細書の段落【003 1】の記載によれば,更新情報に含まれる項目とは,「店登録番号,登 録者ID,パスワードおよび更新予定日時からなるヘッダ項目」と,「 店名,席数,予約,代表的メニュー等の飲食店に特有の顧客情報項目」 の両方を含んだ項目であり,原告の主張は上記ヘッダ項目の存在を考慮 していない点で誤りである。 (2) 引用発明1の「電話帳情報」の認定の誤りに対し 甲1(862頁図3)には,簡易広告と営業内容広告が電話帳データベ ースに格納された情報の1項目として記載されていることからすれば,審 決の認定した「電話帳情報」は,「電話帳情報に結合され」て「電話帳デ ータベースに格納された」簡易広告や営業内容広告に関する情報という趣 旨に解されるべきであり,審決の認定に誤りはない。 (3) 「新規に広告情報を登録」との認定の誤りに対し ア本件発明1の「入力された広告情報」とは,新規に入力されたものな のか,変更,修正及び追加登録のために入力されたものなのかについて の解釈は,技術常識に照らせば明らかである。すなわち,広告情報を変 更,修正及び追加登録する場合には,広告情報のみを変更,修正及び追 加登録すればよく,改めて座標の位置指定を行う必要はないと考えるの が自然であり,「広告対象物の位置指定」を前提とする広告情報の入力 とは,新規の入力を意味すると解されるからである。したがって,審決 が本件明細書の発明の詳細な説明を参酌して「新規に広告情報を登録」 と解したことに誤りはない。 仮に,特許請求の範囲からは,上記のように一義的に明確に理解でき ないとしても,本件明細書において「既登録の変更」について記載され ている(段落【0025】)ことに照らすならば,本件発明1がサーバ ー側管理者において広告依頼者の情報を何ら有しないことを前提とし て,顧客ファイル作成に必要なすべての情報を広告依頼者自身に入力さ せるのであるから,「入力された広告情報」とは,「新規に入力された 広告情報」と解するのが相当である。 イ仮に,本件発明1に「広告情報」の変更,修正,及び追加登録の場合 も含むとしても,本件発明1の広告情報の供給方法においては実施に際 してまず新規登録が必要である。また,当該広告情報の供給方法の実施 途中においても新規顧客に対する新規登録の必要性は生じる。そして, これら新規登録における広告情報の入力に際しては,サーバーにおいて 広告依頼者の情報を何ら保有しないところから出発して,顧客ファイル 作成に必要なすべての情報を広告依頼者自身に入力させ,広告依頼者自 身の端末に表示された地図上において広告対象物を位置指定するように 促す段階が必ず生じる。審決は,本件発明1において必ず必要となる新 規登録について引用発明と比較したものであり,誤りはない。 (4) 「第三者のサーバー」との認定の誤りに対し 広告依頼者とデータを管理している第三者が別人格であり,かつ広告依 頼者の端末は「サーバー側」の管理下にない端末であることは特許請求の 範囲自体から明らかであり,原告の主張は失当である。 すなわち,本件発明1では,?@広告情報の入力を促されるのは広告依頼 者であり,広告情報の入力を促すのは「サーバー側」であり,「促され る」ものと「促す」ものとは別人格であるといえること,?A本件明細書の 段落【0013】には,「広告とは,ある者がその者の商品・サービス等 に関し,その消費者等に成り得る者に対して宣伝等を行なうことである が,その情報の提供は,第三者を介して行なわれることもある。本願発明 は,このような「第三者」に相当する部分である。」との記載があり,こ の記載から,広告依頼者とは第三者の関係にある者がサーバー側の管理者 であるといえること,?B広告情報を入力する「広告依頼者」がサーバー側 の管理者と別人格であることを前提としてはじめて,本件発明1の作用効 果が奏すること,?C広告依頼者が自ら端末から広告情報の入力をすること によって,同じ住所を有する領域内における店舗の詳細な位置を指定でき るという効果を奏すること等に照らすならば,広告依頼者とデータを管理 している第三者が別人格であることは明らかである。 2 取消事由2(一致点の認定の誤り)に対し 本件発明1の「座標」は,「記憶手段に予め記憶された地図情報に基づい て地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段 階」を経て得られる座標であり,単なる「地図上の広告対象物の座標」では ない。そして,本件発明1では,広告依頼者により地図上において位置指定 される構成によってはじめて,作用効果を奏する。原告の主張は失当であ る。 3 取消事由3(相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)に対し 本件発明1と引用発明1とは,電話帳情報の管理を広告依頼者にゆだねる のか(本件発明1),サーバー側で行なうのか(引用発明1)という点で, 技術的思想における相違がある。また,本件発明1と引用発明1とは,以前 から電話帳情報と座標情報が関連づけられているか否かの点でも,技術的思 想における相違がある。原告の主張は失当である。 4取消事由4(周知技術の認定及びそれに基づく相違点1に関する容易想到 性の判断の誤り)に対し 本件発明1の「サーバー」は,前記1(4)のとおり,広告依頼者や広告受 給者とは別人格の第三者の関係にあり,かつ不特定多数の広告依頼者を対象 としている。これに対し,甲11では,各支社,事業部の端末とホストコン ピュータとが異なるコンピュータであることが示されているにすぎず,ホス トコンピュータの運営主体と各支社や事業部は,登録された情報との関係で は一体と見られ,第三者とはいえない。また,甲14のセンターシステム( ホスト)では,「電信電話,電力,ガス,水道,下水道,地下鉄」といった 特定の「事業者」を想定しており,本件発明1の「サーバー」のような不特 定多数の第三者を対象としていない。原告の主張は失当である。 5 取消事由5(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)に対し 引用発明1では,サーバーに情報が記憶されていない状態から,広告記載 依頼をして広告頒布するまでの手順を想定した場合,まず,通信事業者に電 話回線の申込みを行うことにより,サーバーに電話帳情報が記憶され,座標 の自動生成が行われる。この段階で,電話回線の申込みから,通信事業者側 における電話帳情報の確認・登録作業を経て,座標の自動生成まで,数日程 度は要する。その後,広告依頼者が端末を通じてオンラインでサーバーに簡 易広告や営業内容広告を登録するという手順を経ることになる。 これに対し,本件発明1では,通信事業者に電話回線の申込みを行ってサ ーバに電話帳情報を記憶させ,座標の自動生成を行うといった時間が一切不 要である。サーバー側に何ら情報がない段階から,広告依頼者が自ら端末を 通じて広告情報の入力と地図上での位置指定を行うだけで広告頒布すること が可能だからである。したがって,タイムラグの短さという点において,本 件発明1は,引用発明1にはない顕著な作用効果が得られる。原告の主張は 理由がない。 6 取消事由6(本件発明2ないし7に関する判断の誤り)に対し 原告の主張は,争う。 第5 当裁判所の判断 当裁判所は,審決の本件発明1の認定のうち「新規に広告情報を登録」との 認定及び「第三者のサーバー」との認定(取消事由1)に誤りがあるものの, いずれも審決の結論に影響を及ぼすものではなく,その余の取消事由にはいず れも理由がないから,原告の請求を棄却すべきものと判断する。以下理由を述 べる。 1 事実認定 (1) 本件発明1に係る特許請求の範囲及び本件明細書(甲9)の記載等 ア「サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告依頼者 の端末に対し,複数の項目の内容を含んだ広告情報の入力を促す一方,記 憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図 上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末に よって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された 広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階とに よって登録した広告情報を更新する広告情報の更新方法であって,記憶さ れた広告情報において更新すべき項目の内容を含む更新情報を,前記サー バが取得する段階と,記憶された広告情報に含まれる項目の内容を,当該 更新情報に含まれる項目の内容に,前記サーバが変更する段階とを備える ことを特徴とする広告情報の更新方法。」(特許請求の範囲請求項1) イ「・・広告とは,ある者がその者の商品・サービス等に関し,その消費 者等に成り得る者に対して宣伝等を行なうことであるが・・」(段落【0 013】) ウ「・・・かかる顧客ファイルは,店登録番号毎に作成されるものであり, 1つの店登録番号に対応する顧客ファイルは,登録者ID,パスワード, 店舗情報,(x,y)情報等のように店舗固有の情報から構成される。こ のうち,店舗情報は,さらに店名や,電話番号,ファックス番号,(最寄 り駅から店舗までの)行程,店舗の業種を示す業種情報,(他の情報と結 びつける場合に,参照すべきネットワーク上の情報の行先を示す)リンク 情報,(広告の内容を示す)広告メッセージ等のように,広告対象の店舗 に関する種々の情報から構成される。本願の広告情報とは,狭義では広告 メッセージを指すが,広義には,店舗情報よりも上位であって,顧客ファ イル作成に必要な情報のすべてを指す。・・・さらに,記憶手段18には, 更新情報ファイルが記憶されている。かかる更新情報ファイルには,端末 から送信されてくる更新情報が記憶されている。この更新情報は,店登録 番号,登録者ID,パスワード,更新予定日時のように店舗固有の情報と ともに,店名,席数,予約,代表的メニューのような業種毎に異なる更新 情報項目から構成される。この更新情報に基づき,記憶手段17に記憶さ れている顧客ファイルが更新される。」(段落【0016】) エ「この入力フォーマットは,広告依頼者の営む業種によって異なるが, 例えば「飲食店」の場合,図11に示すように,店登録番号,登録者I D,パスワードおよび更新予定日時からなるヘッド項目と,店名,席数, 予約,代表的メニュー等の飲食物に特有の顧客情報とからなっている。・ ・・」(段落【0031】) オ「・・そして,更新情報ファイルに記述された更新予定日時の項目を参 照し,その項目が空欄であれば,直ちに更新プログラムを起動し,当該更 新情報ファイルに基づき記憶手段17に記憶された顧客ファイルを更新す る。すなわち,更新情報ファイルに記述されたヘッダ項目から対応する顧 客ファイルを検索し,更新情報ファイルの顧客情報項目の各項目に従って 対応する顧客ファイルの顧客情報を変更する。」(段落【0034】) (2) 引用刊行物(甲1)の記載 甲1には,以下の記載がある。 ア「CUPIDでは,電話帳情報に住宅地図情報,広告情報,伝言情報を 有機的に連動し,これらの情報を電話帳情報とともに案内するサービスを 実現した。」(833ページ) 「現在の電話帳情報は,「名前」「電話番号」「住所」「職業分類」の 項目から構成され,これらの項目をキーワードとして該当する電話番号が 抽出できる。「地図上の位置を表す座標」や企業の「広告」などを付加す れば,電話帳をインデックスとして,電話帳掲載のお客さまの様々な情報 が得られ,日常生活の利便向上に役立てることができる。」(834ペー ジ) イ 「4.2 電話帳データベースと地図データベースの結合 電話帳情報と地図情報の結合により,電話帳掲載者の周辺の地図を表示 したり,逆に地図上で電話帳情報を検索するための領域を指定可能とし た。具体的には,電話帳情報に地図上の座標情報を追加することにより, 電話帳情報を地図上の位置へ対応付けた。」(839ページ) ウ 「4.3 電話帳データベースと広告データベースの結合 企業の広告情報として,多様な利用形態を評価する観点から,次の3種 類の広告を電話帳と関連付けて格納した。 (1)簡易広告:1?2行の簡単な広告 (2)画面広告:画面単位の広告 (3)営業内容広告:営業時間,設備状況等,業種ごとに統一した営業内 容に関する情報 (中略) (2)電話帳情報と地図情報,広告情報,伝言情報を有機的に結合した 付加価値サービスを実現した。」(839ページ) エ 「3.1 電話帳情報の構成要素 CUPIDで扱う電話帳情報の構成要素として,以下の項目がある。 (中略) (2)場所情報 行政区分を表す「住所」および,地理的な位置を表す「座標」が 考えられる。(ただし,現在の電話帳には,「座標」は含まれてい ない。) (中略) 3.2 電話帳の利用形態と検索仕様 (中略) これら3つの調べ方に加えて,住所の区名や町名が不確かな場合,「○ ○駅近く」など,目標物を指定したり,地図上で領域を指定する方法が有 効である。 本システムでは,これらの目的に対応するため,「名義」「住所」「職 業」「電話番号」に加えて,「目標物」,地図上で指定した「領域」を検 索条件項目とし,これらの条件を組み合わせることにより,多様な検索を 実現した。」(842ページ?843ページ) 「「目標物」を指定した場合,その周辺領域を条件とする検索を実現す るため,目標物の位置を示す2次元の座標情報に変換し,これを中心とす る決められた範囲の矩形の「領域」で電話帳を検索するようにした。 「領域」で検索可能とするため,電話帳データベースには,地図上の座 標情報を収容した。」(844ページ) オ「(1)異種DBである電話帳DBと地図DBを自動結合する技術を提 案し,「名義」+「住所」により結合処理を行い,約60%の結合率を得 た。」(851ページ) 「本システムでは,付加価値の1つとして地図情報を取り上げ,これを 利用した種々の付加価値サービスを実現している。電話帳に掲載されてい る企業や店の所在地を地図上で案内する,地図上で指定した領域内からレ ストランを探し出す等がその一例である。」(851?852ページ) カ 「2.2 開発技術 この付加価値サービスを実現するために,以下の技術を開発する。 (1)電話帳DBと地図DBの結合 地図情報を利用した付加価値サービスでは,「電話帳情報から地図 情報の参照・案内」および,「地図情報から電話帳情報の参照・案 内」という双方向のサービスを実現する.このため,電話帳DBと地 図DBの間に関連付け(電話帳DBと地図DBの結合)を行う。」( 852ページ) 「3.2 電話帳DBと地図DBの結合処理 電話帳DBと地図DBの関連付けは,地図座標データを電話帳掲載者ご とに付与することにより行った(図1)。 住宅地図は,建物ごとの名義,住所,座標および表示用地図データ等か らなり,電話帳は,名義,住所,電話番号等からなる。地図座標データを 電話帳掲載者に付与するため,各々独立に作成された住宅地図と電話帳 を,両者の共通情報である「名義」と「住所」により自動照合した。本照 合により,住宅地図の座標を,対応する電話帳掲載者に付与し,座標付き の電話帳DBを作成した。 自動照合により座標を付与できた割合は,『名義』照合で50%,『名 義』+『住所』照合により60%に向上した。付与できない要因としては 以下が考えられる。 (1)『名義』は,電話帳ではご契約者の名義を使用しているのに対し, 住宅地図では表札,看板,刊行物等の掲載名義を使用している(表 1)。 (2)電話帳は日々更新され絶えず最新の情報となっている一方,住宅地 図は1年1回の更新のため,両者の間に情報の新しさの相違ができる。 (3)同一ビル名で建物が複数存在し,1つの建物に特定できない場合が ある。」(852?853ページ) キ「図1電話帳DBと地図DBの結合および地図データ構造(記載内容 は省略)」(853ページ) ク「また,実データを用いて技術確認を実施した結果,以下の成果が得ら れた。 (1)電話帳DBと地図DBの結合は,自動結合処理を行った結果約60 %について結合することができた。」(856ページ) ケ「本論文では,広告・伝言情報と電話帳情報の結合方式と広告・伝言の 登録更新,参照の処理方式について述べる。」(857ページ) 「本システムでは,電話帳情報をリレーショナルDBとして格納してい る.すなわち,電話帳情報は,電話帳の掲載単位を「行」(電話帳レコー ドと呼ぶ)に,検索対象項目(住所,名前等)を「カラム」として電話帳 テーブルに格納した。」(858ページ) コ 「3.1 広告の種類 電話帳と結合した広告情報の利用形態として,?@検索された企業のリス トから各々の広告情報を比較しながら絞り込むために利用する形態,?A検 索された企業の詳しい情報を個々に参照する形態,?B企業の営業内容を条 件に検索された企業を絞り込む形態,が考えられ,それぞれに対応して, ?@簡易広告,?A画面広告,?B営業内容広告と呼称する3種類の広告を設け た(表1)。」(858ページ) サ 「3.3 広告の登録・更新方式 本システムでは,端末に格納された動画広告を除いて,広告情報を広告 の持主が端末から即時登録・更新する機能を実現した。 広告の登録・更新機能を利用者に提供する場合,以下の点に留意するこ とが重要である。」(861ページ) 「図3広告の登録・更新に関するテーブル関連図(記載内容は省 略)」(862ページ) シ「本システムは,一般の利用者が直接端末を操作するタイプの情報案内 システムであり,電話帳,地図,広告,伝言等の情報を案内する。」(8 65ページ?866ページ)。 2 取消事由1(本件発明1及び引用発明1の各認定の誤り)について (1) 本件発明1の「広告情報」について ア 「広告情報」の意義 特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明1の「広告情 報」とは,広告依頼者の端末に対して入力を促される情報であると認めら れる。それに発明の詳細な説明の記載(段落【0016】)を参酌する と,「広告情報」とは,顧客ファイル作成に必要な情報のすべてであると 解するのが相当である。したがって,原告の主張は,理由がない。 イ 原告の主張に対し 原告は,本件発明1の「広告情報」は「複数の項目の広告情報」と理解 すべきと主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 すなわち,前記認定の本件明細書の記載によれば,「複数の項目の」と は広告情報に含まれる情報が複数の項目に分類されていることを意味する にとどまり,また,入力する広告情報の項目の数は,適宜定められるべき 事項であって,「複数の項目の」との限定に格別の意味があるとは認めら れない。したがって,本件発明1の「広告情報」を「複数の項目の広告情 報」に限定して解釈する理由がなく,原告の主張は理由がない。 (2) 引用発明1の「電話帳情報」について 原告は,甲1の記載(839頁)から,引用発明1の「電話帳情報」が簡 易広告や営業内容広告を含むとの審決の認定は誤りであると主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 すなわち,甲1のうち,?@862頁の図3「広告の登録・更新に関するテ ーブル関連図」には,簡易広告や営業内容広告が「電話帳」に含まれるとの 記載があること,?A838頁の表4「データベース一覧」には「電話帳」に ついて「?B付加情報の一部として「簡易広告」(略),「営業内容広告」( 略)を収容」との記載があること,?B859頁以下に「以上の点から,電話 帳情報との結合方式は,電話帳情報と同時に検索され,データ量が小さく定 型的な簡易広告と営業内容広告は,電話帳テーブルへ格納する方式を,・・ 採用した(図1)。」との記載があることに照らせば,甲1の「電話帳情 報」には簡易広告や営業内容広告を含むことは明らかである。原告の主張は 理由がない。 (3) 「新規に広告情報を登録」との認定について 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,広告情報の登録を「新 規」に限るとの記載はなく,文言上「更新」の場合も含まれるというべきで あり,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても,広告情報を新規に登録 する場合の他既に登録された広告情報の変更,削除の場合の記載も存する( 段落【0025】?【0040】)。したがって,「『新規に』広告情報を 登録」と認定した審決の認定は誤りである。しかし,「広告情報を登録」が 新規の場合に限られないとしても,後記のとおり審決の相違点1に対する判 断に誤りがないことから,上記審決の認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼ すものではない。 (4) 「第三者のサーバー」について 特許請求の範囲(請求項1)によれば,本件発明において,「広告依頼者 の端末」と「サーバー側」とが別個のものとして記載されているものの,「 サーバー側」が広告依頼者とは異なる「第三者」のサーバーであることの記 載はない。また,「広告依頼者の端末」と「サーバー側」の装置が対置され ているが,その主体を特定する記載はない。前記本件明細書の記載によれ ば,「広告」とは,「ある者がその者の商品,サービス等に関し,その消費 者等に成り得る者に対して宣伝等を行なうこと」とされ,甲23によれば「 広く世間に告げ知らせること」を意味するとされ,「依頼主」と「広告を提 供する者」とが同一である場合を排除するものとはいえない。 したがって,本件発明1の「サーバー」の管理者と広告依頼者が別人格で あり,広告依頼者の端末はサーバー(第三者)の管理下にない端末であると の審決の認定は誤りである。 なお,認定の誤りは,後記のとおり,審決の結論に影響を及ぼすものでは ない。 3 取消事由2(本件発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り)について 原告は,本件発明1と引用発明1とは,地図上の広告対象物の座標を,入力 された広告情報と関連づけてサーバー側で記憶する段階であることでも一致す ると主張する。 しかし,原告の上記主張は失当である。 すなわち,本件発明1に係る特許請求の範囲請求項1には,「・・記憶手段 に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において 広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定 された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけ て,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階とによって登録した・・」と あり,広告対象物の「座標」は,「地図上において位置指定された」ものであ ると記載され,単なる地図上の広告対象物の座標とは異なると記載されてい る。そして,前記1(2)で認定したとおり,甲1には,地図上で電話帳情報を 検索できること,広告主が広告情報を端末から即時登録・更新することができ ることが記載されているものの,広告対象物の座標が地図上で位置指定された ものであることについて何ら記載がない。したがって,原告の主張は理由がな い。 4 取消事由3(相違点1の容易想到性の判断の誤り)について (1)「記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当 該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端 末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力され た広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階」の 意義 前記1(1)で認定した本件明細書の記載によれば,相違点1に関して,本 件発明1にいう「記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示 させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告 依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によっ て入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させ る段階」とは,広告依頼者において,その端末において画面上に表示された 地図上で位置を指定して,当該座標を広告対象物の位置として登録させるこ とで,広告対象物の座標と入力された広告情報に関連性をもたせることを意 味するものと解される。 (2) 引用発明1及び周知技術(甲2,4,5)とによる容易想到性の判断 上記認定判断を前提に甲1及び甲2について検討すると,前記1(2)で認 定したとおり,甲1には,利用者の端末から「広告情報」を登録・更新でき ることが記載されているが,既に地図上の座標と電話帳情報とが関連付けら れて登録された情報に対して登録したり変更したりすることが開示されてい るにすぎず,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定をすることによ り,利用者において地図上の座標情報を入力された広告情報と関連づけると の技術的思想の開示はない。 そして,甲2には,「1電話番号と,該電話番号の該当地区の地図等の データ検索システムに関し,2電話番号,住所,持ち主,住所コード等の データと,住所コードに対応した複数のイメージデータを対応させ,また, 表示された地図の該当地番の場所にポイントを表示するための地番座標変換 テーブルを備え,3電話番号あるいは住所コードを入力すると,該当する 地図(区分地図)を表示し,かつ,地番に対応する地番ポイントを地図上に 表示(第2図,14)するものであって,4指定された地区の地図を表示 し,該地図画面上にライトペン等により所望の位置を指定してその座標を読 み取らせるとともに,キーボードにて角番地,住所コードのデータを入力し て,座標?角番地対応テーブルが作成され,続いて地番座標変換テーブルを 自動作成する,地番座標変換テーブル作成システムを有する,電話番号?地 図データ処理システム。」が記載されている(当事者間に争いがない。)。 上記のとおり,甲2には,地図上の位置と地番とを対応づける地番変換シ ステムを作成するシステムの記載はあるものの,広告依頼者の端末から地図 を利用して位置指定することにより,座標を入力された広告情報と関連づけ るとの技術的思想の開示はない。 甲4,5を検討しても,同様に,広告依頼者の端末から地図を利用して位 置指定することにより,座標を入力された広告情報と関連づけることの技術 的思想の開示はない。 そうすると,引用発明1に周知技術(甲2,4,5)を組み合わせても, 本件発明1のように広告情報の端末から地図を利用して位置指定することに より座標を入力された広告情報と関連づけるとの構成を想到することはでき ないというべきである。原告の主張は理由がない。 (3) 原告の主張に対し 原告は,広告依頼者が広告情報を登録する以前から広告情報と座標情報が 関連づけられているかは重要ではないにもかかわらず,その点を重視して, 相違点1の構成が容易に想到できないとした審決の判断は誤りであると主張 する。 しかし,原告の主張は失当である。 すなわち,本件発明1においては,広告依頼者自身が簡単な操作で広告対 象物の広告情報を登録し,広告対象物に関連づけられた広告情報は,広告受 給者も簡単な操作で直ちに読み出すことができる広告情報を得られることで 広告記載依頼から広告頒布までのタイムラグをできるだけ短くするという作 用効果を奏するのであるから,広告情報と座標情報の関連づけを広告依頼者 がするか否かは,上記作用効果の有無に直接影響を及ぼす構成というべきで ある。原告の主張は,理由がない。 5取消事由4(周知技術の認定及びそれに基づく相違点1に関する容易想到性 の判断の誤り)について 原告は,端末から地図情報と属性情報を関連づけて第三者のサーバ(ホス ト)に記憶させることは,甲11及び甲14から周知技術であり,これを否定 する審決の周知技術の認定は誤りであると主張する。しかし,以下の理由から 原告の主張は失当である。 (1)審決は,周知技術(甲10ないし15)の認定及び判断として,「甲第 10ないし15号証記載のものは,ホストコンピュータで記憶・管理される 情報(地図情報や属性情報)を該ホストコンピュータに接続された端末で作 成,修正(編集),削除するシステム,つまり情報を蓄積・管理しているセ ンタ(ホスト)のデータを,センタの管理下にある複数の端末によって,作 成,照会,編集,登録できるようなシステムに関するものであって,そもそ も広告依頼者が広告を出すために,広告依頼者の端末から第三者のホストに 情報を登録するようなシステムではないから,広告依頼者が自分の端末から 地図座標と広告情報を関連付けて第三者のサーバに記憶させることが周知技 術であるとは認められず,上記相違点1に係る事項が甲第10号証ないし甲 第15号証に記載されたものから容易に想到できたということはできな い。」と判断している。要するに,審決は,周知技術(甲10ないし15) から,「広告依頼者がその端末から,第三者のサーバに記憶させる」ことが 周知技術であるとは認められないと判断したものであり,後記のとおり,そ の判断を誤りとする理由はない。なお,原告の指摘する周知技術は,審決が 判断の対象とした周知技術と内容において異なるから,原告の主張は,その 主張自体失当である。 (2) 甲11 甲11には,「東京ガスの地下埋設物情報管理システム」に関して,以下 の記載がある。 ア「コンピュータ・マッピング・システムは基本的に,?@入力,更新,検 索の場合などに図形情報を表示するグラフィック・ディスプレイ,?A図形 の座標点を入力するためのディジタイザ,?B登録された情報から作図する プロッタ,?C全体をコントロールするミニコンピュータから構成され る。」(144頁?145頁) イ「図11?1東京ガスのハードウェア構成図」には,東京ガスの20 支社に設置された端末から中央の各コンピュータに接続するハードウェア 構成が記載されている。(144頁) ウ「図面データおよびその属性データの登録・修正・削除を効率的に行う ためのもので,特にデータのメンテナンスを容易にするため,任意の多角 形(ポリゴン)を指定し,内部の情報を修正,削除し情報の更新を行う機 能を持つ。」(147頁) 以上によれば,甲11には,東京ガスの支社に設置された端末から中央の コンピュータに対して,地図上の図形を指定して図形に関連する属性のデー タの入力を行うことが記載されているといえるが,「広告提供者の」端末か ら,サーバー側に対して広告対象物の座標を「広告情報」と関連づけて記憶 することについての技術的思想の開示はない。 (3) 甲14 甲14には,以下の記載がある。 ア「図16はその機運にのっとったコンピュータ・マッピングシステムの システム構成図であり,センターシステムCSには,通信回線Lにより複 数のユーザーシステムUSが接続されている。センターシステムCSは, たとえば基本地図データベースを入力し,維持管理するとともに設備デー タを預かり保管する機関に設置され,各ユーザーシステムUSは,電信電 話,電力,ガス,水道,下水道,地下鉄など,道路を占有する設備を管理 する各事業者に設置されている。」(段落【0003】) イ「センターシステムCSは,地図および設備に関して構築された各種の 図形データベースを外部記憶装置CES上で維持管理するものであり,セ ンターシステムCSのホストコンピュータCHCは,各ユーザーシステム USの要求に応じて各種の図形データベースの検索処理を行う。」(段落 【0004】) ウ「センターシステムCSが有する図形データベースは・・・大別すると, 本センターシステムCSが設置された上記の機関により作成され,地形, 道路,街区などの地図情報,ビルなどの構築物の占有位置,名称など地図 に関する各種のデータをデータベース化した基本地図データベースDB1 と,上記のような各事業者により個別に作成されて本機関に提供された設 備の配設状況に関する各種データをデータベース化した設備地図データベ ースDB2とに分けられる。」(段落【0005】) エ「各事業者に設置されたユーザーシステムUSは,自己の管理下に属す る設備の配設状況に関する各種データを地形や街区データと対応づけてデ ータベース化した図形データベース・・・を,自己の外部記憶装置UES上 で個別に登録,更新,検索するなどして維持管理するものであるが,自己 の管理下に属する設備を改修する場合など,他の事業者が管理している設 備を破損しないようにするために,他の事業者が管理している設備の配設 状況を調査しなければならない場合があるため,センターシステムCSに 提供されている他の事業者の管理下にある設備の設備地図データベースD B2を検索する機能をも有している。」(段落【0006】) オ「また,各事業者の管理下にある設備の設備地図データベースDB2 は,・・・各設備地図データベースDB2の背景となる地図としては,上記 機関により作成された基本地図データベースDB1を共通に使用するよう 要請されている。すなわち,基本地図データベースDB1を背景とした設 備地図データベースDB2のみをセンターシステムCSに提供するよう要 請されている。」(段落【0007】) カ「デジタイザ2は,たとえばガス管の位置データ(座標データ),ガス 管の材質,太さなどの属性などの図形データの入力に使用され,このデジ タイザ2でもメニューシートを利用して入力内容を指示する。ただし,メ ニューの選択などは,カーソルにより行う。」(段落【0026】) キ「パソコン4は,街,家屋などの名称など,座標データ以外の文字デー タを入力する場合などに使用される。・・」(段落【0028】) 以上の記載によれば,甲14には,各事業者のパソコンから地図データベ ースを維持管理するセンターシステムに対して,街,家屋等の名称を入力す る旨の記載があるといえるが,「広告提供者の」端末から,サーバー側に対 して「広告対象物の」座標を,「広告情報」と関連づけて記憶するとの技術 的思想の開示はない。 (4)したがって,原告が指摘する甲11及び甲14の内容を検討しても,い ずれも,広告依頼者が自分の端末から地図座標と広告情報を関連付けてサー バに記憶させることができるとの技術的思想の開示はなく,上記審決の判断 に誤りがあるとは認められない。原告の主張は理由がない。 6 取消事由5(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)について 原告は,引用発明1においても,広告依頼者自身が自分の端末からサーバー に対して広告情報を即時登録でき,登録された広告情報は,地図と関連づけら れ,一般利用者に案内されるため,広告配布までのタイムラグが短くなるとい う作用効果が生じると主張する。しかし,前記5で認定判断したとおり,引用 発明1には,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定をすることによ り,座標を入力された広告情報と関連づけるものということはできない。これ に対し,本件発明1は,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定をする ことにより,座標を入力された広告情報と関連づけるものであり,これによ り,「広告記載依頼から実際の広告頒布までのタイムラグをできるだけ短 く」(【0005】)するという作用効果を奏するものである。原告の主張は 理由がない。 7 取消事由6(本件発明2ないし7に関する判断の誤り)について 前記のとおり,本件発明1についての審決の判断に違法はないから,それを 前提とする本件発明2ないし7に関する審決の判断に誤りはない。 8 結論 以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がない。原告は,その他縷 々主張するが,審決を取り消すべき違法は認められない。 したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文 のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健 裁判官上田洋幸は,差し支えのため,署名押印することができない。 裁判長裁判官 飯村敏明 |