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関連審決 不服2006-27910
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10368審決取消請求事件 判例 特許
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平成21行ケ10064審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10003審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 承継 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  パリ条約 /  優先権 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  構成要件 /  発明の範囲 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  国際公開 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10417号 審決取消請求事件
原告ノキアコーポレーション (審決上の表示ノキア モービル フォーンズ リミテッド)
訴訟代理人弁護 士芹田幸子
訴訟代理人弁理 士朝比奈宗太
同 藤森洋介
被告特許庁長官
指定代理人江口能弘
同 山本章裕
同 圓道浩史
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/07/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2006-27910号事件について平成20年6月30日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯ノキアモービルフォーンズリミテッドは,平成9年4月8日,発明の名称を「ショートメッセージサービスのメッセージのメニュー駆動入力方法」とする発明について,特許出願(特願平9-89772号。パリ条約による優先権主張:優先権主張日1996年(平成8年)4月9日,優先権主張国フィンランド共和国)をし,平成18年8月11日付けで願書に添付した明細書の特許請求の範囲を補正する手続補正をしたが,同年9月4日付けで拒絶査定を受け,同年12月11日,拒絶査定不服審判(不服2006-27910号事件)を請求した。特許庁は,平成20年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(付加期間90日。以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年7月15日,原告に送達された。
原告は,平成13年10月1日に,ノキアモービルフォーンズリミテッドを吸収合併し,同社の地位を包括承継した。
2 特許請求の範囲本件出願の補正後の明細書(以下,図面と併せ,「補正明細書」という。)の特許請求の範囲(請求項の数51)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】ショートメッセージサービスを経由する後の転送のための移動通信装置においてショートメッセージを生成する方法であって,前記ショートメッセージが複数のデータ領域を有しており,前記方法が,各データ領域ごとに独立したデータ入力要求(22b)を使用者に提示する(22)工程,各要求に対する使用者の応答(23)を受ける工程,および受けた使用者の応答を編集して前記後の転送(27)のためのショートメッセージにする工程を含む方法であって,ショートメッセージを受ける受信機によってそれぞれの使用者の応答が識別され得るように,ショートメッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い,これによって識別された使用者の応答が自動的に処理される方法。」3 審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,パリ条約による優先権主張の日である平成8年4月9日前に頒布された刊行物である特開平8-88698号公報(以下「刊行物1」という。甲1)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)及び同じく同日前に頒布された刊行物である特表平8-505747号公報添付の国際公開第95/06996号パンフレット(以下「刊行物2」という。甲2)に記載された発明(以下「刊行物2発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(2)上記判断に際し,審決が認定した刊行物1発明の内容並びに本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 刊行物1発明の内容「伝送メッセージを生成する方法であって,伝送メッセージを構成する転送データ5は,先頭コード51から始まって終了コード52で終了しており,文例の識別番号や入力欄41に入力された情報は先頭コード51に続いて転送され,それぞれの情報の区切りには区切りコード53が挿入されており,前記方法が,画面下部に『入力欄1に入力して下さい。』という指示が表示され,情報を入力するための入力欄41を有する文例を表示するステップ105,入力欄41に任意の文字情報を設定するステップ107,選択された文例4および入力欄41に設定された文字情報に基づいて,メッセージ作成部14が送信するメッセージの組み立てを行うステップ108を含む方法であって,メッセージ復元部72が,受信データ内の文例の識別番号に該当する文例を文例テーブル77から取り出すとともに,当該文例中の各入力欄の部分に受信データ中の入力欄の文字情報を当てはめてメッセージを復元するように,転送データ5は先頭コード51から始まって終了コード52で終了しており,文例の識別番号や入力欄41に入力された情報は先頭コード51に続いて転送され,それぞれの情報の区切りには区切りコード53が挿入され,メッセージ解析部73が当該文例の識別番号に基づいてアプリケーションテーブル78を参照し,関連するアプリケーションプログラムが存在する場合は,受信データ中の入力欄の情報の中からパラメータとしてアプリケーションプログラムに引き渡すべきものを選択する方法。」(審決書3頁22行〜4頁8行)イ 一致点「『メッセージを生成する方法であって,前記メッセージが複数のデータ領域を有しており,前記方法が,各データ領域ごとに独立したデータ入力要求を使用者に提示する工程,各要求に対する使用者の応答を受ける工程,および受けた使用者の応答を編集して前記後の転送のためのメッセージにする工程を含む方法であって,メッセージを受ける受信機によってそれぞれの使用者の応答が識別され得るように,メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い,これによって識別された使用者の応答が自動的に処理される方法。』である点。」(審決書5頁33行〜6頁5行)ウ 相違点「本願発明では,ショートメッセージサービスを経由する後の転送のための移動通信装置においてショートメッセージを生成する方法であるのに対して,刊行物1記載の発明では,メッセージを生成する方法である点。」(審決書6頁7行〜9行)
当事者の主張
1 原告の主張審決には,以下のとおり,本願発明と刊行物1発明との一致点,相違点についての認定の誤り(取消事由1)及び容易想到性の判断の誤り(取消事由2)がある。
(1) 取消事由1(一致点,相違点についての認定の誤り)ア 一致点についての認定の誤り審決は,刊行物1発明における「メッセージを生成する方法」は,本願発明における,?@各データ領域ごとに独立した「データ入力要求を使用者に提示する工程」,「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」?A各データ領域ごとに「独立したデータ入力要求」を使用者に提示する工程?Bメッセージを受ける受信機によってそれぞれの使用者の応答が識別され得るように,「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い,」これによって識別された使用者の応答が自動的に処理される,との構成とにおいて,一致すると認定した。
しかし,審決の認定には,次のとおり誤りがある。すなわち,(ア)「データ入力要求を使用者に提示する工程」と「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」において一致するとした認定の誤り本願発明の特徴は,電話機内の読出し専用記憶装置(ROM)から読み出された質問とともに提示した符号で示された複数の答(オプション)のうちから,使用者が1つの答(オプション)を符号で選択する形で装置側の質問に答えることにある。すなわち,「データ入力を要求する工程」とは,複数の答(オプション)の中から使用者が1つの答(オプション)を符号を選択して回答することを可能にした質問の提示であり,「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」とは,使用者が複数の答(オプション)のうちから1つの答(オプション)を符号で選択することにより質問に対する回答をすることを意味している。このように,質問と回答を繰り返すことにより,使用者が知らず知らずのうちにショートメッセージを完成できる点に特徴がある。
補正明細書段落【0023】,【0024】の記載によれば,使用者が所有する移動電話の機能メニューから,「ショートメッセージサービスが使用される特定のサービス(たとえば,「銀行サービス」,「公共医療サービス」)のうちの1つである「銀行サービス」を選択すると,所望の機能の種類(オプション1.1(残高紹介)およびオプション1.2(支払い))に関する質問(質問1)が提示され,ここで,移動電話のキー1.2を押すと,「支払い」が選択され,ついで,預金口座の所有者の個人データに関する質問(質問2)が提示され,これに対してさらなる複数のオプションが提示され,複数のオプションのうちのいずれかを移動電話のキーを押して選択すると,機能の詳細に関する質問(質問3)が提示され,これに対してさらなる複数のオプションが提示され,複数のオプションのうちのいずれかを移動電話のキーを押して選択する(メニューについては甲6参照)という構成が開示されている。
これに対し,刊行物1発明では,使用者が,質問に対し単に符号を選択して回答するのではなく,文例の選択から空欄への入力まで,すべて使用者本人が,自ら文字列を入力するなどして行うものである。刊行物1の記載内容からこの点を説明すると,送信者の送信の目的(銀行サービス,医療サービス,予約サービス等)について何ら質問が用意されていない。また,その目的を達成するために,いわば5W1Hの形での質問は一切ない。刊行物1発明は,本願発明のように,質問と回答を繰り返すことにより使用者が知らず知らずのうちにショートメッセージを完成できる構成が開示されているわけではない。
審決は,各データ領域ごとに独立した「データ入力要求を使用者に提示する工程」及び「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」において,一致するとした点で誤りがある。
(イ) 「独立した」データ入力要求において一致するとした認定の誤り本願発明にいう「独立した」データ入力要求とは,各々の「データ入力要求」がデータ入力要求のすべての意味内容の点で異なることを意味している。すなわち,補正明細書の段落【0024】によれば,「所望の機能の種類に関する質問(質問1),預金口座の所有者の個人データに関する質問(質問2),および機能の詳細に関する質問(質問3)」と記載されているように,例えば,ユーザーが利用しようと欲するショートメッセージサービスの具体的な内容を選択すると,その選択した内容(例えば会議室の予約)について,いわゆるTPO(T(時間),P(場所),O(目的))に関する内容の選択ないし記入についての質問若しくは要求が,それぞれ異なる独立した意味内容を持つものとして実施されることが示されている。
これに対し,刊行物1記載の「入力欄1に入力してください」,「入力欄2に入力してください」,「入力欄3に入力してください」という入力要求は,その意味内容が同じであって,本願発明の「独立した」データ入力要求とは異なる。
審決は,「独立したデータ入力要求」において,一致すると認定した点で誤りがある。
(ウ)「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い」において一致するとした認定の誤り本願発明において「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従」うとは,質問と回答によって,次の質問に順次進み,応答も質問に従って配列されることを意味する。これに対し,刊行物1発明においては,メッセージの作成過程で深化することがないので,「所定の構成」が存在しない。
審決は,「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い」との構成において,一致すると認定した点で誤りがある。
イ 相違点を看過した誤り審決が,一致点と認定した上記の誤りは,相違点として認定すべきである。すなわち,前記アで述べたとおり,「メッセージを生成する方法が,・・・各データ領域ごとに独立したデータ入力要求を使用者に提示する工程,各要求に対する使用者の応答を受ける工程」,「独立した(データ入力要求)」,「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い」の構成は,相違点として認定すべきである。
(2) 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)についてア刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合せることは当業者にとって容易ではなく,これを容易であるとした審決の判断には誤りがある。
刊行物1発明は,あるメッセージを送信者と受信者との間でやり取りする際に,送信者がポケットベルのキーを用いて文章を作成するものであって,ポケットベルの記憶装置にいくつかの文例が記憶されていて,それを用いながら文章を作成するというものである。そして,そのポケットベル通信は,POCSAG方式のような通信方式を用いるものであり(甲1,5頁7欄2行目,甲11,12),SMSサービスを利用することは想定されていない。これに対し,刊行物2発明は,SMS(ショートメッセージサービス)通信を使用するための携帯電話に必要な機構が記載されている。POCSAG方式とSMS方式との間には互換性がなく,刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることはできない。
刊行物1発明は,「SMSサービスには,ユーザーが後に使いたい重要な情報が含まれているので,ユーザーはメッセージを削除するとは限らない。そうすると,新たなSMSメッセージの空間を作るために,保持したいメッセージを削除せざるを得ない」という,SMSサービスを利用する際の固有の技術的課題について認識されていないから,刊行物2発明とは技術的課題を異にしており,両発明を組み合わせることはできない。
したがって,刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせて本願発明が容易に想到できるものとした審決の判断は,誤りである。
イ 本願発明の顕著な効果(ア)本願発明は,本願明細書の段落【0019】に「本発明の方法の好ましい実施の形態によれば,送信者が,所望の多数の選択オプションを続けて選択することによりショートメッセージを生成するならば,一度に1つの文字を入力しながら複数の単語を形成する必要がなくなり,入力エラーは完全に除かれる。」と記載されているように,入力エラーを完全に除くことができるという効果を有する。これに対し,刊行物1発明では,たとえば空欄に「第1会議室」と入力するためには,携帯電話のボタンを何回も押す操作をして,「一度に1つの文字を入力しながら複数の単語を形成する必要」があり,入力エラーが発生する蓋然性が高い。本願発明は刊行物1発明と異なり,ショートメッセージを作成する上で,入力エラーが発生しないという顕著な効果を奏する。
(イ)本願発明は,その構成により,刊行物1発明の「コード変換テーブル」や刊行物2発明の「外部記憶装置」を使用しなくとも,ショートメッセージの字数制限(160キャラクター以内)を実現できるという顕著な効果を有する。
2 被告の反論(1) 取消事由1(一致点,相違点についての認定の誤り)についてア 一致点の認定の誤りに対し(ア)「データ入力要求を使用者に提示する工程」及び「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」において一致するとの認定の誤りに対し本願発明の「データ入力要求を使用者に提示する工程」及び「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」は,原告が主張するような,電話機内の読み出し専用記憶装置(ROM)から読み出された質問とともに提示した複数の答(オプション)のうちから,使用者が1つの答(オプション)を符号で選択する形で装置側の質問に答えるという構成としては,特定されていない。また,質問と回答を繰り返すことで使用者が知らず知らずのうちにショートメッセージを完成する構成としては,特定されていない。
原告の主張は,本願発明の構成に基づかない主張であるから,失当である。
なお,刊行物1には明記されていないが,入力欄1への入力だけでは,刊行物1の図8のような複数の欄を含むメーセージの転送データは作成できないから,「入力欄1に入力して下さい」だけでなく,「入力欄2に入力して下さい」,「入力欄3に入力して下さい」等の複数のデータ入力要求が送信者に提示されるという時系列の観点をいれれば,刊行物1発明においても,データ入力要求と送信者からの応答を繰り返すという構造が採用されている。
(イ) 「独立の入力要求」において一致するとの認定の誤りに対し刊行物1発明における画面下部の「入力欄1に入力して下さい。」という指示(刊行物1の【図5】【図6】参照)は,入力欄ごとに独立であるから,本願発明の「各データ領域ごとに独立したデータ入力要求」に相当する。したがって,刊行物1発明において画面下部に「入力欄1に入力して下さい。」という指示が表示され,画面上部に情報を入力するための入力欄41を有する文例が表示されるステップ105(刊行物1の5頁7欄28行ないし30行)は,本願発明の「各データ領域ごとに独立したデータ入力要求(22b)を使用者に提示する(22)工程」に相当する。
(ウ)「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い」において一致するとの認定の誤りに対し刊行物1発明における「転送データ5は先頭コード51から始まって終了コード52で終了しており,文例の識別番号や入力欄41に入力された情報は先頭コード51に続いて転送され,それぞれの情報の区切りには区切りコード53が挿入される。」という構成は(刊行物1の5頁8欄11〜15行),本願発明の「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い」に相当する。
イ 相違点を看過した誤りに対し本願発明には,「符号」あるいは「符号化」との記載がなく,送信者の通信装置のROM内に符号化された回答が格納されているという構成もなく,送信者が入力した数字(1,2,3等の数字による回答)は,送信者の通信装置から数字のまま受信者の通信装置に送信されるという構成もない。
審決に,相違点を看過した誤りはない。
(2) 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)についてア刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合せることは容易ではないとの主張に対し刊行物1の段落【0040】には,「なお,これまで具体的に説明した実施例は,無線選択呼出しシステムに本発明を適用した例であったが,このような公衆回線網を用いた広範囲なシステムだけでなく,PBX(構内交換機)を使用した小規模な構内呼出しシステムにも適用可能である。また,無線選択呼出しのような一方向の通信システムに限らず,携帯電話器などによる双方向通信システムに適用することもできる。」と記載されている。したがって,刊行物1には,携帯電話器などによる双方向通信システムに適用可能な伝送メッセージの作成処理装置が適用されたメッセージ通信システムについて記載があると理解できる。他方,刊行物2は,「SMS通信を使用するための携帯電話」を対象としている。
刊行物1には「携帯電話器などによる双方向通信システム」が記載され,その技術分野においては,刊行物2に記載されるように「短メッセージサービス(SMS)」は,以前からよく知られた技術であるから,刊行物1に記載の「携帯電話器などによる双方向通信システム」と,この技術の分野においてよく知られた技術である刊行物2に記載の「短メッセージサービス(SMS)」を組み合わせることは容易に想到し得る。
この点,原告は,刊行物1発明においては,刊行物2発明における固有の技術的課題,すなわち,SMSサービスを利用する際の,「SMSサービスには,ユーザーが後に使いたい重要な情報が含まれているので,ユーザーはメッセージを削除するとは限らない。そうすると,新たなSMSメッセージの空間を作るために,保持したいメッセージを削除せざるを得ない」という技術的課題について認識されていないから,両発明を組み合わせることは困難であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,刊行物1には,「一方,上述した従来の無線呼出しサービスにおける伝送メッセージの受信の際には,受信したすべての伝送メッセージはページャ内部の記憶装置のみに記憶されるため,当該ページャに装備されている表示装置に表示させて呼出し先の利用者がこれを直接読み取ること以外には,当該伝送メッセージに含まれる情報を取り出すことができないという問題点があった。また,当該記憶装置の容量には限度があることから,新たな伝送メッセージの受信および記憶が行われる度に以前に受信された伝送メッセージが消去されてしまうという問題点もあった。」(段落【0006】)と記載され,刊行物1にも,刊行物2と同様の技術的課題を前提としていた。
したがって,刊行物1発明と刊行物2発明は,技術課題の相違があるから組み合わせることが困難である,とする原告の主張は理由がない。
イ 本願発明の顕著な効果に対し争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点,相違点についての認定の誤り)について(1) 一致点の認定の誤りについて当裁判所は,刊行物1発明における「メッセージを生成する方法」は,本願発明における,?@各データ領域ごとに独立した「データ入力要求を使用者に提示する工程」,「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」,?A「独立した」データ入力要求であること,?B「メッセージを受ける受信機によってそれぞれの使用者の応答が識別され得るように,メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い,これによって識別された使用者の応答が自動的に処理される」ことにおいて一致するとした審決の認定に誤りはないと判断する。
ア「データ入力要求を使用者に提示する工程」,「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」の一致点の認定の誤りについて(ア)本願発明の請求項1における「データ入力要求を使用者に提示する工程」,「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」の意義原告は,本願発明の請求項1中の「データ入力要求を使用者に提示する工程」とは,複数の答(オプション)の中から使用者が1つの答(オプション)を符号で選択して回答することを可能とする質問を提示する工程であると解すべきであり,また,「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」とは,使用者が複数の答(オプション)のうちから1つの答(オプション)を符号で選択することにより質問に対して回答する工程であると,限定的に解すべきであると主張する。
しかし,本願発明を原告の主張するような構成と解することはできない。
まず,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,原告の主張するような限定的解釈をすることはできない。また,補正明細書の記載を参酌してもなお,以下のとおり,限定的に解釈することはできない。
a補正明細書の記載補正明細書には,次の記載がある。
【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,一般に,電気的な装置内の文字列状態にあるメッセージの作成に関する。さらに詳しくは,電気的な通信装置によるショートメッセージの生成および送信に関する。
【0002】【従来の技術】ショートメッセージサービス(short message service(SMS))は,デジタル方式の移動電話,両方向ページング装置および他の相当する通信装置とは区別される通信の方法であり,実際の電話接続の確立無く,前記通信装置を介して送信される文字列を,送信機が,該送信機内の装置によって生成および送信する。ショートメッセージの転送には,回路の切り替えまたはファクシミリ接続に比べ,転送システムの少しの容量のみを必要とする。したがって,短い掲示を伝えるためのSMSで使用するのに好都合である。
【0004】【発明が解決しようとする課題】従来の方法による本文の(textual)メッセージの形成は,一文字の選択に何回かのキー打ちが必要とされるので比較的遅い。
【0005】本発明はかかる問題を解決し,ショートメッセージを迅速かつ容易に送信できる方法を提供することを目的とする。
【0007】【課題を解決するための手段】本発明の方法は,ショートメッセージシステムを経由する後の転送のための移動通信装置において複数のデータ領域を有するショートメッセージを生成する方法であって,各データ領域ごとに独立したデータ入力要求を使用者に提示する工程,各要求に対する使用者の応答を受ける工程,および受けた応答を編集して前記後の転送のためのショートメッセージにする工程を含むものである。
【0010】また,前記独立したデータ入力要求を提示する工程が,各データ領域ごとに少なくとも1つの可能な応答(possible response),すなわち応答可能なオプションを示すことを含み,前記可能な応答が,前記移動通信装置のメモリから取り出され,前記使用者の応答が,示された前記応答を受け入れることを含むことが好ましい。
【0012】本発明の方法は,所定の構造に従った文字列であるショートメッセージを電気的な通信装置上で生成する方法であって,前記通信装置が,前記構造に従いかつ使用者によって入力されるデータに対応する,データ入力オプションを使用者に提示し,かつ,当該通信装置が前記構造に従ってショートメッセージを編集するものである。
【0013】また,前記構造が,互いの順序が予め決められた,少なくとも第1の回答および第2の回答からなる一連の連続する回答であり,前記通信装置が使用者に第1の質問を提示し,使用者による第1の回答に従って,前記通信装置が使用者に第2の質問を提示し,さらに使用者による第2の回答に従って,前記通信装置が第1の回答および第2の回答からショートメッセージを生成することが好ましい。
【0020】【発明の実施の形態】つぎに,図面を参照しながら本発明のショートメッセージサービスのメッセージのメニュー駆動入力方法の実施の形態について説明する。
【0026】一般に,移動電話の表示装置はかなり小さいので,一度に1つの質問を提示することが適切である。移動電話は使用者に質問1,ここでは,「残高紹介または支払い?」を表示する。ブロック23においては,使用者は,使用者によるオプションの選択に対応して所定のキーを押す(使用者の応答)。ここでは,「支払い」が選択されたものとする。ブロック24では,移動電話は,使用者が省略命令を発しているのか,またはデータを入力しているのかを確認する(データ入力またはスキップ)。省略命令は,使用者が所定の質問に回答していないことを意味する。使用者がデータを入力したばあい,データはブロック25(決定:質問に対する回答=使用者の応答)およびブロック25bにおいてRAMに記憶される。ブロック25bでは,各質問に対応する回答が記憶されることを,(1)↑(質問1),(2)↑(質問2)および(3)↑(質問3)として示している。つぎに,手順は,ブロック26に進む。ブロック26では,終了するか否かが問われる。終了しないばあいは,ブロック22に戻り,つぎの質問,たとえば「支払い者の名前は?」が表示され,同時に,つぎに示される2つのオプションが表示される。
(1)ジョン スミス(2)...【0027】なお,第1のオプションたるジョン スミスは使用者の名前であり,移動電話がSIMカードに記憶された個人データから読み取られた初期情報である。SIMカードの所有者が,該SIMカードが接続された移動電話を使用し,主として自分への請求を支払うことが多いので,使用者の名前が初期情報(default)となる。第2のオプションに示される3つの点は,使用者が周知の方法で移動電話のキーパッドにより別の名前を入力しうることを意味する。再び,ブロック25,25bにおいてRAMに回答が記憶される。再び,手順はブロック22に戻り,第3の質問として「口座番号は?」が移動電話で表示され,次に示されるオプションが供給される。
(1)110101-123456(2)110134-234567(3)...【0028】2つの初期情報(初期情報3.1および初期情報3.2)は,使用者が最もよく使用している口座番号である。第3のオプションたるメニューは,キーパッドで入力されうる別の口座番号を意味する。かかる回答は,ブロック25,25bにおいてRAMに記憶される。さらに,他の質問(質問4)として,初期情報にない支払額,および支払い日がある。使用者がすべての質問に回答したとき,手順として,ブロック26で完成したショートメッセージを確認する。好ましい実施の形態において,移動電話は,ショートメッセージを送信する前の,使用者による確認のために完成したショートメッセージを表示する。かかる表示は,ショートメッセージを送信するための所定のオーケー(OK)キーを押す(終了する)きっかけを使用者に与える。
【0029】その後,使用者の観点からみて,ブロック27で示されるショートメッセージの送信は従来技術と同様の手順で続く。転送装置は,ひとが理解できるような完成した文字列,または機械語に符号化された使用者の入力データのみを含むコードシーケンスを伝送する。受信装置は,好ましくは送信者の移動装置と同様のショートメッセージメニューを有しているので,ショートメッセージを再形成することができ,さらに符号化されたデータ(コードシーケンス)にもとづき受信装置において必要とされる処理を実行することができる。コードシーケンスのばあい,転送されるデータの量を少なくできる。
【0030】第2の実施の形態として,社内で行われる会議の特別でない通知を行うことができる。通知を送信するヒトは,「社内通信」機能における会議の通知メニューを選択し,時間および場所に関する必要とされるデータ,および通信装置で表示された質問に対応する会議の他の詳細を入力する。転送される完成したショートメッセージは,つぎに示されるような,平易な言語である。
【0031】会議12時30分。小会議室で。送信者アン。
【0032】転送装置は,前に示される全文字列,またはつぎに示される情報を含むコードシーケンスのみを送信する。
q1: 12 30*q2: 2s: アンb「データ入力要求を使用者に提示する工程」,「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」について上記補正明細書の記載,すなわち,「第2のオプションに示された3つの点は,使用者が周知の方法で移動電話のキーパッドにより別の名前を入力しうることを意味する」(【0027】),「第3のオプションたるメニューは,キーパッドで入力されうる別の口座番号を意味する。」「さらに,他の質問(質問4)として,初期情報にない支払額,および支払い日がある。」(【0028】)との記載によれば,本願発明には,質問が単に符号により選択可能なオプションの提示として行われ,これに対する回答が符号の選択によりされる場合だけでなく,質問のオプション自体が,符号の選択のみで回答できない,使用者による入力を要求するオプションとして設定され,そのオプションを選択した使用者において,自ら文字入力をすることを要する場合があることが,実施態様中に示されている。
そうすると,「データ入力要求を使用者に提示する工程」とは,符号を選択するのみで回答が提示できるオプションとして提示される場合と,符号を選択するのみでは回答として完結せず,使用者が選択したオプションについてデータを文字入力をすることを要するオプションとして提示される場合があり,この2つの場合を含んだ工程と解すべきである。また,「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」も,単に使用者がオプションの符号を選択するだけの場合と選択したオプションについてデータを文字入力して回答する場合とが含まれると解すべきである。
(イ) 刊行物1発明における「メッセージを生成する方法」についてa刊行物1の記載刊行物1には,次の記載がある。
【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述した従来の無線呼出しサービスにおける伝送メッセージの作成入力の際には,文字コード表を参照しながら一文字ずつプッシュボタンを押してメッセージを入力するため,意図する伝送メッセージの作成に多大の手間を必要とする上に,ボタンの押し間違いなどによって誤ったメッセージを入力してしまう危険性が大きく,押し間違いに気付いたときの訂正操作も煩雑であるという問題点があった。定型句についても,番号表を見ながら定型句番号を入力するので同様である。また,実際に作成入力された伝送メッセージの内容を呼出し元の利用者が確認する手段が設けられておらず,入力間違いに気付きにくいという問題点もあった。
【0005】したがって本発明の第1の目的は,上記の問題点を解決して,メッセージの入力操作と入力されたメッセージの内容確認を容易化して,メッセージ作成を効率化することのできる伝送メッセージの作成処理装置を提供することにある。
【0008】【課題を解決するための手段】(1) 上記第1の目的を達成するため,本発明の伝送メッセージの作成処理装置は,所定の呼出しサービスにより,呼出し先の選択呼出受信機に対する伝送メッセージの伝送が行われるメッセージ通信システムにおいて,?@文例テーブル,?Aメッセージ作成部,?Bコード変換テーブル,?Cメッセージ転送制御手段などを具備する構成としたものである。?@文例テーブルには,伝送メッセージの原形であり,それぞれ相異なる識別番号が割当てられている一種類以上の文例が記憶保持される。?Aメッセージ作成部は,前記文例テーブル中から選択された特定の文例(あるいは当該文例に割当てられた識別番号)および当該文例における入力欄の各々について設定された文字情報を組み合せて具体的な伝送メッセージを作成する。また,選択された文例における各々の入力欄に対する文字情報の設定に際して,当該文例の内容と当該入力欄に設定されるべき文字情報の種類との案内表示を制御する。?Bコード変換テーブルには,任意の入力欄について設定しうる文字情報を表す文字コード情報が定義される。この場合,メッセージ作成部は,文字情報の代わりに文字コード情報を用いて具体的な伝送メッセージを作成する。?Cメッセージ転送制御手段は,前記呼出しサービスによるメッセージ送信に際して,前記メッセージ作成部によって作成された伝送メッセージの所定の送信手段に対する転送処理を自動的に制御する。
【0011】(1) 本発明の伝送メッセージの作成処理装置では,所定の呼出しサービスにより,呼出し先の選択呼出受信機に対する伝送メッセージの伝送が行われるメッセージ通信システムにおいて,文例テーブル,メッセージ作成部,コード変換テーブル,メッセージ転送制御手段などを具備する構成としたことから,ユーザによって文章の形で入力されたメッセージがそのままあるいは文字コード情報に変換されて伝送される。内容の似通ったメッセージを頻繁に送るような場合には,当該メッセージ全体を定型化して可変部分を入力欄として文例テーブルに登録しておけば,入力欄に任意の文字情報(データ)を設定することで容易にメッセージを作成できる。このとき,メッセージ作成部によって文例の内容と入力欄に設定されるべき文字情報の種類が案内表示されるので,作成したメッセージの内容を容易に確認できる。
【0017】図3は,図1の装置における処理を示すフローチャートである。同図中,メッセージを発信しようとするメッセージ作成処理装置1のユーザ(送信者)は,メッセージの作成に先立ってメッセージの送信先を指定する(ステップ101)。この場合,指定方法としては送信先の識別番号を直接入力する方法や,相手の名前を入力してメモリ16に格納されている送信先識別番号のテーブルを用いて識別番号に変換する方法などがある。送信先の指定が終わると,図4に示すような文例一覧表示が表示装置12に表示出力されるので(ステップ102),送信者は表示された文例の中から送信の目的に合致する文例をひとつ選択する(ステップ103)。このとき,いずれの文例も用いずに自由な形式のメッセージを作ることも可能であり,この場合は自由文入力を選択し,キー入力装置13を用いて自由文メッセージを作成する(ステップ109)。
【0018】ひとつの文例が選択されると,図5に示すように,選択された文例4のみの内容表示が行われる(ステップ105)。さらに,文例4中に送信者が自由に内容を設定できる入力欄41が含まれているときには(ステップ106=Yes),キー入力装置13を用いて文字を入力することにより,入力欄41に任意の文字情報を設定する(ステップ107)。なお,図5に示す例のように,文例中に複数の入力欄がある場合には,必ずしもすべての入力欄41に文字情報を設定する必要はなく,省略しても構わない。また,入力欄41に文字情報を設定する際に,図6に示すように各々の入力欄41に設定すべき情報の種類を文例表示中に示すことにより,設定作業を容易化するようにしてもよい。
b上記記載によれば,刊行物1発明は,伝送メッセージ作成の際の手間を省き,かつ,誤入力を防止するという課題のために,文例テーブルとメッセージ作成部等を設けるというものである。メッセージ作成部においては,文例テーブル中から選択された特定の文例(あるいは当該文例に割り当てられた識別番号)及び当該文例における入力欄の各々について設定された文字情報を組み合わせて具体的な伝送メッセージを作成する。
(ウ) 上記構成に係る一致点の認定の誤りに関する判断上記のとおり,刊行物1発明においては,本願発明の実施態様の1つである,質問が符号を選択するのみで回答が提示できるオプションとして提示され,使用者がオプションの符号を選択するだけで回答する場合として,文例一覧表での番号による文例の提示と番号による文例の選択の例が示されるとともに(刊行物1の【0017】,【0018】,【図4】,【図5】),本願発明の他の実施態様である文字列データの入力要求という工程とそれに対する応答という工程が示されており(刊行物1の【0018】),これらは,本願発明における「データ入力要求を使用者に提示する工程」及び「各要求に対する使用者の応答を受ける工程」に該当する。したがって,本願発明と刊行物1発明は,上記各工程を含む点において一致する。
イ 「独立した」データ入力要求の一致点の認定の誤りについて(ア) 本願発明の請求項1における「独立した」データ入力要求の意義原告は,本願発明の請求項中の「独立した」データ入力要求とは,各々の「データ入力要求」がデータ入力要求のすべての意味内容の点で異なることを意味していると主張する。
しかし,本願発明の上記構成について原告の主張するように解することはできない。
まず,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,原告の主張するような限定的解釈をすることはできない。また,補正明細書の記載を参酌してもなお,限定的に解釈することはできない。
a補正明細書の記載補正明細書には次の記載がある。
【0033】なお,使用者は,数字キーを使用して,質問1に対応して,数字キーを使用して,「12 30」を入力し,オプション2を*選択することにより質問2に回答する。また,q1,q2およびsは短縮記号であり,データ領域セパレータともいう。さらに,「アン」は,使用者が文字により記入するか,または転送装置が,SIMカードまたは他の記録媒体から自動的に読み取る。前に示される符号化された記述は,受信装置により再形成され,受信者にとってショートメッセージがより読みやすくなるようにされる。符号化された記述がいつも同じならば,受信装置は,使用者の電気的な日程表を有するコンピュータまたは多目的通信装置でもよい。通例の符号化された記述により,受信装置は,自動的にショートメッセージの複号化を行い,電気的な日程表への入力を行う。したがって,受信装置の使用者は,小会議室で12時30分に会議があり,会議の議長はアンであることを知る。なお,ショートメッセージのうち,使用者によって入力されたデータを示す部分(たとえば,12時30分,小会議室およびアンなど)をデータ領域という。さらに,「12時30分」を文字数字からなる符号文という。また,データ領域の長さおよび数が,予め決められていることが好ましい。
b上記記載を参酌すれば,「各データ領域ごとに独立したデータ入力要求」の「独立」とは,データ入力要求が,データ領域セパレータで区切られているような場合であれば,データ領域ごとにデータ入力要求がされることを意味するのであって,各々の「データ入力要求」がデータ入力要求のすべての意味内容の点で異なることを意味するものではない。この点の原告の主張は,採用の限りでない。
(イ) 刊行物1発明における「メッセージを生成する方法」について刊行物1には次の記載がある。
「伝送メッセージを構成する転送データとして無線送信手段3に転送されるのは選択された文例4の識別番号と入力欄41に設定された文字情報のみである(ステップ113)。このときの転送データの一例を図8に示すと,転送データ5は先頭コード51から始まって終了コード52で終了しており,文例の識別番号や入力欄41に入力された情報は先頭コード51に続いて転送され,それぞれの情報の区切りコード53が挿入される。」(【0020】)刊行物1の上記記載によれば,転送されるデータは,文例4の識別番号と入力欄41に設定された文字情報であり,これらのデータは,先頭コード51に続いて転送され,それぞれの情報には区切りコードが挿入され,最後に終了コード52で終了する。
刊行物1発明においても,入力データはデータごとに区切りコードで領域に区切られているから,データ領域ごとにデータ入力が要求されているものと解される。
(ウ) 上記構成に係る一致点の認定の誤りに関する判断以上によれば,本願発明と刊行物1発明は,いずれもデータ領域ごとに独立した入力要求があり,この点において一致する。
ウ「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い」において一致するとの認定の誤りについて(ア)本願発明の請求項1における「メッセージを受ける受信機によってそれぞれの使用者の応答が識別され得るように,メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い,これによって識別された使用者の応答が自動的に処理される方法。」の意義原告は,「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従(う)」とは,質問と回答によって,次の質問に順次進み,応答も質問に従って配列されることを意味すると主張する。
しかし,本願発明の上記構成について原告の主張するような意義に解することはできない。
その理由は,次のとおりである。
まず,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,原告の主張するような限定的解釈をすることはできない。また,補正明細書の記載を参酌してもなお,限定的に解釈することはできない。
補正明細書の記載(【0029】)には,「転送装置は,ひとが理解できるような完成した文字列,または機械語に符号化された使用者のデータ入力のみを含むコードシーケンスを伝送する。受信装置は,好ましくは送信者の移動装置と同様のショートメッセージメニューを有しているので,ショートメッセージを再形成することができ,さらに符号化されたデータ(コードシーケンス)にもとづき受信装置において必要とされる処理を実行することができる。」と記載されている。同記載によれば,受信装置は,自動的に,受信したコードシーケンス(符号化されたデータ)を人が理解できる完成した文字列に再形成(復号)したり,受信したショートメッセージに基づいて,受信装置において必要とされる処理を実行する。上記「所定の構成」とは,応答の配列を,受信装置において補正明細書に記載された処理が可能となるように,送信するショートメッセージにおいて,回答を質問の順に配列するなど,所定の構成にするものであれば足りると解すべきである。
(イ)刊行物1発明においては,転送データは,先頭コード↑文例の識別番号↑入力欄1に記載された情報↑入力欄2に記載された情報・・・↑終了コードの順に転送されるから(刊行物1の【0020】【図5】参照),メッセージ中の使用者の応答の配列が回答を質問の順序に配列するという所定の構成に従っているということができ,これにより文例テーブルを備え受信する側では,受信した文例の識別番号と文例中の入力欄に設定された文字情報をもとにメッセージを復元することができる。
(ウ) 上記構成に係る一致点の認定の誤りに関する判断以上によれば,本願発明と刊行物1発明は,いずれも回答を質問の順序に配列するという構成を有しており,「ショートメッセージを受ける受信機によってそれぞれの使用者の応答が識別され得るように,ショートメッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い,これによって識別された使用者の応答が自動的に処理される方法。」という構成において一致する。
(2) 相違点の看過について原告の相違点の看過に係る主張は,本願発明の「メッセージを生成する方法が,・・・各データ領域ごとに独立したデータ入力要求を使用者に提示する工程,各要求に対する使用者の応答を受ける工程」,「独立した(データ入力要求)」,「メッセージ中の使用者の応答の配列が所定の構成に従い」との各構成を,相違点として認定すべきであるとの主張に尽きる。
しかし,前記(1)で判断したとおり,審決のした一致点の認定に誤りはなく,原告の主張は,採用の限りでない。
2 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について原告は,刊行物1発明と刊行物2発明では通信手段を異にし,また,技術的課題を異にするから,両発明を組み合わせることはできず,両発明を組み合わせることは,困難であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア 通信手段における相違について(ア) 刊行物1には,次の記載がある。
「伝送メッセージを構成する転送データとして無線送信手段3に転送されるのは選択された文例4の識別番号と入力欄41に設定された文字情報のみである(ステップ113)。このときの転送データの一例を図8に示すと,転送データ5は先頭コード51から始まって終了コード52で終了しており,文例の識別番号や入力欄41に入力された情報は先頭コード51に続いて転送され,それぞれの情報の区切りコード53が挿入される。」(【0020】)「なお,これまで具体的に説明した実施例は,無線選択呼出しシステムに本発明を適用した例であったが,・・・無線選択呼出しのような一方向のシステムに限らず,携帯電話機などによる双方向通信システムに適用することもできる。」(【0040】)上記のとおり,転送データの内容は,図8に示されているが,図8には,「@10&12&31&13&第1会議室&正月の過ごし方について*」という構成例が示されており,「@」が先頭コード51,「*」が終了コード52であり,「&」が区切りコードである。「10」が文例4の識別番号であり,「12」「31」「13」「第1会議室」「正月の過ごし方」がそれぞれ入力欄41に入力された情報である。このように,転送データの内容は文字列であり,携帯電話機などによる双方向通信システムに適用することもできると記載されている。
(イ) 刊行物2には,次の記載がある。
「本発明はセルラ移動機端末内でのメッセージ格納装置に係わり,詳細には内部メモリ,取り外し接続可能な外部メモリ並びに二つのメモリ間の強調を計るための設備とを含む,セルラ移動機端末に関する。ヨーロッパにおいて整備されている,移動機通信用のグローバルシステム(GSM)標準は,短メッセージサービス(SMS)特性を必要とし,これは短メッセージをふたつのGSM移動機通信端末(例えば,自動車電話)の間で,または特別のSMSサービスセンタから移動機通信端末へ送信することを可能としている。SMSに関する仕様はETSI/TL GSM推奨03.40に見られる。この標準に従えば,ひとつのメッセージは最大160キャラクタを含むことが出来る。この特性はメッセージ機能を有するページング機に類似している。」(訳文6頁4行〜13行)「SMSメッセージはGSM仕様規格で規定されている。移動局の間で送信される全てのその他の短メッセージも本発明の範囲内であると意図している。全ての通信またはGSM信号の終了後,SMSメッセージは内部メモリINTMEM30の中に(ステップ215)CPUにより格納される。」(訳文13頁6行〜10行)(ウ)上記によれば,刊行物2発明における移動体通信において,ショートメッセージをSMS方式により伝送するデータは,刊行物1記載のページャにより伝送されるデータと同様の文字列(キャラクタ)であり,刊行物1発明と刊行物2発明のデータ構成は類似する。そして,刊行物1には,刊行物1発明がSMS通信方式を採用するものが多い携帯電話機に適用されることが示されている。そうすると,刊行物1発明による伝送メッセージの作成入力方法に,刊行物2発明に示された周知のSMS方式で伝送するショートメッセージの作成方法を組み合わせることについて,困難な要因はないというべきである。
イ 解決課題の相違について原告は,刊行物2発明には,「新たなSMSメッセージの空間を作るために,保持したいメッセージを削除せざるを得ない」という固有の技術的課題があるのに対し,刊行物1発明は,そのような技術的課題はないから,刊行物1,2の発明を組み合わせることは困難であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用できない。
すなわち,本願発明と刊行物1発明との相違点である「ショートメッセージサービスを経由する後の転送のための移動通信装置においてショートメッセージを生成する」との構成に至るか否かを検討するに当たり,刊行物2発明が,電話機のデータ保存容量に関して固有の技術的課題を有していたとしても,そのことが,刊行物1発明と刊行物2発明を組み合わせることに対して,何らかの阻害要因となるものとは,到底いえない。この点の原告の主張は,採用できない。
ウ 本願発明の効果について原告は,本願発明は,入力エラーが生じない点,及びショートメッセージに関する字数制限が実現できるとの顕著な効果を有すると主張する。
原告の主張によれば,本願発明には,「符号による選択が可能な質問」と「これに対する符号による回答」との構成が存在し,上記各効果は,当該構成によって達成されるものとしているが,本願発明が,そのような事項を構成要件とするものでないことは,特許請求の範囲(請求項1)の記載から明らかであり,原告の主張は,その前提を欠き,主張自体失当である。
エ 小括上記のとおり,原告の主張する阻害要因はなく,通信装置における伝送メッセージの作成という共通の技術分野に関する刊行物1記載と発明と刊行物2発明とを組み合わせることは当業者がなし得ることであり,両発明の組合せによって,当業者がショートメッセージサービスのメッセージの駆動入力方法という本願発明に想到することは容易というべきである。
3 結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決にこれを取り消すべき瑕疵は存しない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大須賀滋
裁判官 齊木教朗