関連審決 | 不服2007-25100 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10431審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10261審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10396審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10405審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10121審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 製造方法 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 課題の共通性 / 技術常識 / 登録実用新案 / 技術的意義 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 交換 / 構成要件 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 不服申立 / |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10338号
審決取消請求事件
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原告X 訴訟代理人弁理 士富崎元成 同 町田光信 被告特許庁長官 指定代理人鈴木敏史 同 野村亨 同 紀本孝 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/07/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が不服2007−25100号事件について平成20年8月7日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成10年1月21日,発明の名称を「ダイセット及びダイセットの製造方法」とする発明について,特許出願(特願平10-23796号。以下「本願」という。)をした。 その後,原告は,平成18年10月30日,特許請求の範囲及び明細書について補正をし(以下「第1補正」という。甲1の2),さらに,平成19年4月26日,特許請求の範囲について補正をしたが(以下「第2補正」という。 甲1の3。第1,第2補正による補正後の明細書を,図面と併せ,「補正明細書」という。),同年8月8日に拒絶査定を受け,同年9月12日,拒絶査定不服審判(不服2007-25100号事件)を請求した。 特許庁は,平成20年8月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,同月19日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲補正明細書の特許請求の範囲(請求項の数5)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,補正後の請求項1に関する発明を「本願発明」という。甲1の1ないし3。別紙「補正明細書【図1】」参照)。 「【請求項1】固定側の型を形成するための固定側型形成体(2-2)と前記固定側型形成体(2-2)に対して相対的に可動である可動側の型を形成するための可動側型形成体(3-2)とからなる型形成体と,前記可動側型形成体(3-2)を1軸方向に案内するための案内体(4)とからなり,前記案内体(4)に対して可動な前記固定側型形成体(2-2)又は前記可動側型形成体(3-2)に案内用孔が形成され,前記案内体(4)と前記案内用孔とは案内面(4-5)を介して滑動し,前記案内面(4-5)は平面を備え,前記平面は前記案内体(4)の軸心線と前記固定側型形成体(2-2)又は前記可動側型形成体(3-2)が,前記案内体(4)から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交しているダイセットにおいて,前記可動側型形成体(3-2)は,一端部が1本の前記案内体(4)に支持され他端部は支持されない片持ち梁になっており,前記案内面(4-5)は前記案内体(4)の側面に形成され,前記案内面(4-5)の前記平面は互いに直交する4平面で形成されており,前記4平面の各前記案内面(4-5)と前記案内孔の間に介設されているガイドブッシュ(8-1)と,前記ガイドブッシュ(8-1)と前記案内面との間に介設されているガイドローラリテーナ(9-1)と,前記ガイドローラリテーナ(9-1)は複数のガイドローラ(9)を備え,前記ガイドローラ(9)は前記案内面(4-5)上を転動することを特徴とするダイセット。」3 審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-7859号公報(以下「引用例1」という。甲2)に記載された発明(以下「引用例発明1」という。)及び実願昭54-169325号(実開昭56-87223号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。甲3)に記載された技術事項(以下「引用例発明2」という。)並びに実願昭53-168412号(実開昭55-84508号)のマイクロフィルム(以下「周知例1」という。甲4),実願昭54-33262号(実開昭55-132603号)のマイクロフィルム(以下「周知例2」という。甲5),実願昭47-16097号(実開昭49-15658号のマイクロフィルム(以下「周知例3」という。甲6),登録番号第3016227号の登録実用新案公報(以下「周知例4」という。甲7)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 (2)審決が上記(1)の結論を導くに当たり認定した引用例発明1,本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである(なお,審決の認定した引用例発明2の内容についても記載した。)ア 引用例発明1の内容「ダイセットの下側のベース,又は,上側のベースに取り付けられ,4つの平面が互いに90°の角度をなす四角柱状のガイドポストと,ダイセットの対向するベースに取り付けられ,4つの平面が互いに90°の角度をなす四角柱状の貫通孔を有し,ガイドポストと所定の余裕を持って嵌合するガイドブッシュと,ガイドポストとガイドブッシュの間に介在して,これらの間の軸方向への並進運動を円滑にするよう配列されたローラー・ベアリングとを備えているプレス金型用ダイセット。」(審決書5頁23行〜30行)イ 一致点「固定側の型を形成するための固定側型形成体と前記固定側型形成体に対して相対的に可動である可動側の型を形成するための可動側型形成体とからなる型形成体と,前記可動側型形成体を1軸方向に案内するための案内体とからなり,前記案内体に対して可動な前記固定側型形成体又は前記可動側型形成体に案内用孔が形成され,前記案内体と前記案内用孔とは案内面を介して滑動し,前記案内面は平面を備えるダイセットにおいて,前記案内面は前記案内体の側面に形成され,前記案内面の前記平面は互いに直交する4平面で形成されており,前記4平面の各前記案内面と前記案内孔の間に介設されているガイドブッシュと,前記ガイドブッシュと前記案内面との間に介設されているガイドローラリテーナと,前記ガイドローラリテーナは複数のガイドローラを備え,前記ガイドローラは前記案内面上を転動することを特徴とするダイセット。」(審決書7頁15行〜31行)ウ 相違点(ア) 相違点1「本願発明は,互いに直交する4平面で形成された案内面を側面に形成された案内体が1本で用いられるものであるのに対して,引用例発明1においては,案内体に相当するガイドポストについて,1本で用いられるものであるとは記載されていない点。」(審決書7頁34行〜8頁1行)(イ) 相違点2「本願発明は,『案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交し(後記相違点2B),前記可動側型形成体は,一端部が前記案内体に支持され他端部は支持されない片持ち梁になって(後記相違点2A)』いるものであるのに対して,引用例発明1においては,ベースとガイドポストの平面の位置関係がそのようなものであるのか不明な点。」(審決書8頁3行〜8行)エ 引用例発明2の内容「下側のベースプレートに垂直に立設されたガイドポストに,片持ち梁状に支持される上側のベースプレートを縦方向に案内するダイセット。」(審決書6頁35行,36行) |
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当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,(1)相違点1についての容易想到性の判断の誤り(取消事由1),(2)相違点2についての容易想到性の判断の誤り(取消事由2),(3)相違点1,2を総合した顕著な作用効果を看過して判断した誤り(取消事由3)がある。 (1) 取消事由1(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)審決は,「互いに直交する4平面で形成された案内面を側面に形成した案内体を1本で用い,縦方向の摺動案内をすることは,ダイセットに限らず,一般的に周知事項である。」(審決書8頁10行〜12行)と判断し,その例として,周知例1ないし4を挙げている。 しかし,審決の上記判断は誤りである。 ア 周知例1ないし4に対し周知例1ないし4に示されるような一般的な技術において,互いに直交する4平面で形成された案内面を側面に形成した案内体を1本で用い,縦方向の摺動案内をすることが知られているとしても,これらは,精密打抜き加工等のプレス加工を行うためのダイセットとは,技術的,課題的に共通性はなく,引用例発明1に示されたガイドポスト(以下,本願発明の「案内体」と引用例,周知例の「ガイドポスト」とは同義として用いる。)の形態のものを用いて,1本のガイドポストを備えたダイセットとすることを想起するための根拠にはなり得ないものである。 イ 周知例5ないし8に対し被告は,取消訴訟提起後に,新たに特願昭63-45369号(特開平1-219302号)公報(以下「周知例5」という。乙1),実願昭35-25688号(実公昭37-15387号)公報(以下「周知例6」という。乙2),実願昭46-37676号(実開昭47-34376号)のマイクロフィルム(以下「周知例7」という。乙3),実願昭56-173817号(実開昭58-81031号)のマイクロフィルム(以下「周知例8」という。乙4)を提出する。 しかし,同周知例によっても,相違点1が容易であると判断することはできない。すなわち,周知例5(乙1)は,バルブ開閉装置に関するものであって,ダイセットとは技術的,課題的に共通性がほとんどない。しかも,ダイセットにおけるガイドポストを1本にすることについては何ら記載されておらず,示唆もされていないから,案内体を1本にすることの周知例とすることはできない。 周知例6(乙2)は,ガイドポストが二等辺梯形柱体であって,4つの平面が互いに90°の角度をなす四角柱状のガイドポストを備えた引用例発明1のプレス金型用ダイセットにそのまま適用されるものではないし,適用し得ることを示す具体的,合理的根拠もない。 周知例7(乙3)は,下端にフランジを一体的に形成したガイドポストとすることにより,ガイドポストの抜け出し,揺動の防止を意図したガイドポストの特定の形態を示しているものである。ガイドポスト7が1本であるとしても,上下動する上型の支持,ガイドということに関しては,支柱の機能を有する本体1とガイドポスト7の2本とすべきものである。 周知例8(乙4)は,プレス加工ダイアセンブリにおける上ダイプレート(10)を固定する摺動板(8)はジグ(4)の摺動案内竪盤(2)に二分割された形態の溝(7),(7)の間に嵌合し保持されているものであり,引用例発明1における四角柱状のガイドポストとは全く異なる形態であり,引用例発明1におけるガイドポストを1本とすることについて何ら示唆するところはない。 (2) 取消事由2(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)ア 相違点2に関する審決の説示相違点2に関する審決の説示内容は,以下のとおりである。 (ア) 案内体の本数について審決は,「引用例発明2における,『片持ち梁状に支持される上側のベースプレート』は,相違点2における『可動側型形成体は,一端部が前記案内体に支持され他端部は支持されない片持ち梁になって』いる点に相当する。」(審決書8頁30行〜33行。以下,相違点2のこの部分を「相違点2A」といい,この部分についての審決の判断を「相違点2A(案内体の本数)についての審決の判断」という。)と説示した。 (イ) 直交についてまた,審決は,「引用例発明2において,ガイドポストを『ベースプレートに垂直に立設』する点は,相違点2における『案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交』する点に相当する。」(審決書8頁26行〜29行。以下,相違点2のこの部分を「相違点2B」といい,この部分についての審決の判断を「相違点2B(直交)についての審決の判断」という。)と説示した。 イ 相違点2A(案内体の本数)についての審決の判断の誤り(ア) 本願発明の案内体に関する構成本願発明における案内体の案内面(4-5)は平面を備えるものであり,補正明細書において,「この向上のために,案内体4の好ましい形状は4角柱である。4角柱とは,4側面が互いに直交する物体である。 案内体4の軸心線に直交する直交線の方向に,又は,その直交線を含む平面にその中心線が含まれるように,可動側型形成体3-2は案内体4から張り出している。」(段落【0054】),「可動側型形成体3-2の張出方向線と案内体4の軸心線を含む平面に直交するように案内体4の1側面である型形成体支持面4-5が形成されていることが特に好ましい。」(段落【0055】),及び「案内体4に対して曲がろうとする可動側型形成体3-2の軸心方向の運動を案内する型形成体支持面4-5は,案内面4-5として定義することができる。このような案内体4の1側面が,図1に示されている。型形成体支持面4-5は,可動側型形成体3-2の曲がりを阻止するように可動側型形成体3-2を支持する支持面である。」(段落【0056】)と記載されている。 また,本願発明のダイセットは,請求項1で限定されているように,1本の案内体を有するものである。したがって,本願発明のダイセットは,4側面が互いに直交する4角柱である1本の案内体を備えるものである。 以上のとおり,審決が,相違点2に係る本願発明の案内体に関する構成について,「前記可動側型形成体は,一端部が前記案内体に支持され」(審決書8頁5行)としているのは,「前記可動側型形成体は,一端部が1本の前記案内体に支持され」とされるべきであり,これを前提として相違点2Aについて判断されるべきである。 (イ) 引用例発明2のガイドポストに関する構成引用例発明2では,「片持ち梁状に支持される上側のベースプレート」は,その一方の側で少なくとも2本のガイドポストに片持ち梁状に支持されているものである。 したがって,審決が,相違点2Aに関する引用例発明2の案内体に関する構成について,「下側のベースプレートに垂直に立設されたガイドポストに,片持ち梁状に支持される上側のベースプレート」(審決6頁35行,36行)としているのは,「下側のベースプレートに垂直に立設された少なくとも2本のガイドポストに,片持ち梁状に支持される上側のベースプレート」とされるべきであり,これを前提として相違点2Aについて判断されるべきである。 (ウ) 相違点2Aについての判断上記(ア),(イ)で検討した本願発明の案内体に関する構成,引用例発明2のガイドポストに関する構成を前提とすれば,引用例発明2は,案内体(ガイドポスト)の本数において,本願発明とは構成を異にするのであり,相違点2Aに係る本願発明の案内体に関する構成は引用例発明2に示されているとする審決の判断は誤りである。 ウ 相違点2B(直交)についての審決の判断の誤り(ア) 本願発明の案内体の平面と張出し面との直交に関する構成本願発明は,「前記案内面(4-5)は平面を備え,前記平面は前記案内体(4)の軸心線と前記固定側型形成体(2-2)又は前記可動側型形成体(3-2)が,前記案内体(4)から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交している」(請求項1)とする構成である。 (イ) 引用例発明2の案内面と張出し面との関係に関する構成引用例発明2は,少なくとも2本の円柱体のガイドポストを備えたものである。この円柱体のガイドポストの案内面は当然円筒面であり,平面ではない。 (ウ) 相違点2Bについての判断引用例発明2のガイドポストは円筒面であり,張出し面と概ね直交するという観念を生じ得ない。被告は,「案内面」を「2本のガイドポストを結ぶ平面」で置き換えようとするが,審決において全く読み取れるものではない。また,2つの円筒面を結ぶ平面は無数にあり,確定した意味をもたない。したがって,相違点2Bに係る本願発明の案内体の平面と張出し面の直交に関する構成は引用例発明2に示されているとする審決の判断は誤っている。 この点について,被告は,甲4ないし6について言及し,また乙4ないし6の記載において,案内面が平面であり,その平面を可動側型形成体から張り出す面に概ね直交させることが周知であると主張するが,それらが知られているとしても,引用例発明2においてガイドポストの案内面が円筒面でなく平面になることはあり得ないのであり,審決の誤りを何ら解消できないことは明らかである。 エ引用例発明1と引用例発明2との組合せが容易であるとした判断の誤り審決は,何ら合理的な説明をせず,単に「発明の対象がプレス金型用ダイセットの点でも,引用例発明1と引用例発明2は共通しているから,これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない」(審決書8頁35行〜9頁1行)としているが,誤りである。 引用例発明1と引用例発明2とは,ガイドポストによる支持,案内の形態,設置の形態としても全く異なり,課題,構成ともに相容れない性格を有し,格段に異なるものであり,単にプレス金型用ダイセットとして共通するという理由のみで阻害要因がないとするのは,技術的意味を考慮することを全く放棄したものである。 引用例発明1のダイセットに引用例発明2を適用しようとすれば,少なくとも2本の円柱形のガイドポストでベースプレートを片持ち梁状に支持する形態のものとなるのであり,相違点2は何ら解消されることはない。 また,引用例発明2に記載のものにおいては,円柱形のガイドポストは少なくとも2本であり,これを1本にした場合,ベースプレートに回転が生じ,正確に打ち抜き加工をすることができなくなり,阻害要因が存在する。 (3)取消事由3(相違点1,2を総合した顕著な作用効果を看過して判断した誤り)審決は,本願発明と引用例発明1との相違点1,2は,それぞれ容易に想到し得ることであるから,本願発明は引用例発明1,引用例発明2及び周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。 しかし,本願発明の案内体が1本であることと,可動側型形成体は一端部が1本の案内体に支持され他端部は支持されない片持ち梁になっていることとは相互に関連した技術的意義を有するから,相違点1と相違点2とを切り離して論じるだけでは不十分である。 案内体が1本のシングルポスト・タイプで片持ち梁構造のダイセットでは,精密打抜き加工であっても,例えば6トン程度の荷重が型に加わることにより,型形成体を介して案内体に大きな曲げ作用が与えられる。この曲げ作用は,型形成体が案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面内の成分とともに,この張出し面に直交する成分をも有し,それにより案内体は張出し面側だけでなく張出し面に直交する方向への曲げ作用を受ける。このような曲げ作用に抗して案内体に曲げ変形が生じにくくするには,同じ案内体の体積で考えた場合,断面を円形の円柱体とするのではなく,角柱体とするのが有利である。本願発明では,このように1本の案内体で型形成体を片持ち梁状に支持,案内するダイセットにおいて案内体は案内面の平面が互いに直交する4平面で形成されるようにしており,それにより案内体が1本であるシングルポスト・タイプの片持ち構造のダイセットの曲げ強度を極端に向上させることができ,生産される製品の寸法精度を更に高めることができるものである。 甲8の「ハイクォリティーダイセット」の「丸ガイドポストと角ガイドポストの比較」のグラフは,偏荷重を受けた際のガイドポストのタワミ量を示しており,金型内で発生する偏荷重の影響については,ガイドポストが1本で角ガイドポストの場合,丸ガイドポストに比べ格段に小さくなる。本願発明は,精度のよい加工がされること,刃物寿命に与える影響を少なくし,ダイセットをロングライフ化することについて顕著な効果を発揮するものである。 2 被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)に対し原告は,周知例1ないし4に示される一般的な技術と精密打抜き加工等のプレス加工に関する技術である本願発明とでは,技術的課題の共通性がなく,引用例発明1に周知例1ないし4の技術を組み合わせることによって,本願発明を容易に想到することはできないと主張する。 しかし,引用例1(甲2)には,「【0005】加えて,円柱状のガイドポストと円柱状の貫通孔を有するガイドブッシュとが円筒状のボールリテーナーを介して単に嵌め合っているため,ガイドポストとガイドブシュとは,相互に並進運動をするだけでなく,共通軸の回りに回転運動も行う。その結果,上型と下型とが腰振り移動し,ポンチの刃先に横方向の力が作用してしまい,刃先の破損や摩耗を引き起こすという問題がある。【0006】そこで,本発明の目的は,上記問題点を解決し,運転中に故障が生じにくく,高い寸法精度が保たれ,さらに,純粋な並進運動を行う,新たなプレス金型用ダイセットを提供するにある。」と記載されており,ガイドポスト(案内体)の軸廻りの回転を許容せずに,縦方向の摺動案内を行う必要性が示唆されている。 また,審決で提示した4つの周知例(甲4〜7)は,広範な技術分野において,軸廻りの回転を許容せずに,縦方向の摺動案内を四角柱,つまり,互いに直交する4平面で形成された案内面を側面に形成した1本の案内体によって案内することが,一般的に周知事項であることを示したものである。ここで,互いに直交する4平面で形成された案内面を側面に形成した1本の案内体が,摺動案内の際に軸廻りの回転を許容しないことは,乙1(3頁右下欄3行〜16行,第1,3図)にも示されるように,技術常識である。 そうすると,引用例発明1と上記4つの周知例に示された技術においては,いずれも,案内体の軸廻りの回転を許容せずに,縦方向の摺動案内を行う点で機能が共通するということができる。 このように,四角柱状の案内体を1本で用い,軸廻りの回転を許容せずに,縦方向の摺動案内を行うことが周知であることを示すために,4つの周知例を挙げたものであり,この周知技術を踏まえれば,引用例発明1の四角柱状のガイドポストを,1本で用いて,軸廻りの回転を許容せずに,縦方向の摺動案内を行なうことは,当業者が容易に想到し得たといえるのである。 さらに,プレス加工の技術分野においても,プレス型が固定される一方のプレートとプレス型が固定される他方のプレートとに1軸方向の相対運動を行わせる際に,案内体の本数を1本とすることは,従来周知の事項である(例えば,乙2の2頁右欄2行〜9行,乙3の5頁4行,5行,乙4の6頁12行〜7頁3行,第1〜4図,摺動板8参照)。 また,本願発明のダイセットは案内体が1本であるが,補正明細書(甲1の1〜3)によれば,本願発明のダイセットは,固定側型形成体が共通のダイベッド(1-5)に取り付けられ,それぞれの可動側型形成体が共通のプレスラム(1-6)に取り付けられることで,複数のダイセットを一体化して用いることが想定されている(甲1の1の例えば,段落【0029】,【0040】〜【0042】,【0049】,【0052】,【0087】,図1)。このように複数のダイセットを一体化して用いる場合には,案内体は複数本用いられ,結局のところ,一体化された型形成体の荷重を複数本の案内体により受けることになるのであるから,複数のダイセットを一体化して用いる場合も想定した本願発明のダイセットにおいて,各ダイセットにつき案内体を1本とすることは,ダイセットの強度,個々のダイセットの幅等を勘案して当業者が適宜選択する設計事項にすぎないものである。 したがって,引用例発明1(甲2)において,ガイドポストを1本とすることは当業者が容易に想到し得たものである,との審決の判断に誤りはない。 (2) 取消事由2(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)に対しア 「相違点2A(案内体の本数)についての審決の判断の誤り」に対し(ア) 本願発明の案内体の本数引用例発明2における,「片持ち梁状に支持される上側のベースプレート」が,相違点2における「可動側型形成体は,一端部が前記案内体に支持され他端部は支持されない片持ち梁になって」いる点に相当することは明かである。 この点について,原告は,本願発明の構成について,案内体の本数を1本と認定すべきことを主張する。 しかし,審決では,相違点1として,本願発明の案内体の本数が1本であることが認定されている。このとき,案内体を1本とするならば,通常は,可動側型形成体における案内体から張り出す部分においてプレス加工が行われるのであるから,片持ち梁状態とならざるを得ない。つまり,可動側型形成体におけるプレス加工が行われる部分を中心に考えると,案内体は可動側型形成体の一端に設けざるを得ない。そうすると,審決での相違点1の検討により,「一端部が1本の案内体に支持され他端部は支持されない片持ち梁になっている」という可動側型形成体の支持形態についての検討も行われているということができる。 したがって,相違点2の認定において,「・・・可動側型形成体は,一端部が1本の前記案内体に支持され・・・」とまで認定する必要はないから原告の主張は理由がない。 (イ) 引用例発明2のガイドポストの本数原告は,引用例発明2について,ガイドポストの本数が2本であることを認定すべきであるとする。 しかし,上記のとおり,案内体の本数については,既に相違点1で検討されているのであるから,引用例発明2のガイドポストの本数も相違点2において認定する必要はない。 (ウ) 小括以上によれば,相違点2において,案内体(ガイドポスト)の本数の相違を相違点として取り上げる必要はない。 イ 「相違点2B(直交)についての審決の判断の誤り」に対し(ア)本願発明の案内体の平面と張出し面との直交に関する構成は,原告の主張するとおりである。 (イ)引用例発明2のガイドポストの案内面と張出し面との関係に関する構成については,確かに,原告が主張するように,引用例2(甲3)に開示された発明は,「下側のベースプレートに垂直に立設された少なくとも2本の円柱体のガイドポストに,片持ち梁状に支持される上側のベースプレートを縦方向に案内するダイセット」であり,2本のガイドポストは円柱体であるから個々のガイドポストの案内面は平面ではない。 しかし,これらのガイドポストは張出し面に概ね直交する方向に並んでおり,この2本のガイドポストの案内面を結ぶ平面は,張出し面に概ね直交するものである。このことを,審決は,「引用例発明2において,ガイドポストを『ベースプレートに垂直に立設』する点は,相違点2における『案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交』する点に相当する」(審決書8頁26行〜29行)と表現したものである。 また,仮に,引用例2(甲3)の個々のガイドポストの案内面は平面ではないから,引用例2が,相違点2における「案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交」する点を開示するものではないとしても,案内体の案内面が平面を有し,その平面を,可動体が前記案内体からの張出し面に概ね直交させることは,従来周知の事項である(例えば,甲4〜6も,そのようになっている。)から,審決の判断に影響するものではない。 さらに,プレス加工の技術分野においても,案内体の案内面が平面であって,その平面を,可動側型形成体が前記案内体からの張出し面に概ね直交させることは,以下に示すように周知である。 例えば,乙4(周知例8)の6頁12行ないし7頁3行,第1ないし4図を参照すると,摺動板8すなわち案内体の案内面は平面であり,第1,2,4図からみて,摺動板8の平面は,上ダイプレート10(可動側型形成体)が前記摺動板8からの張出し面に概ね直交することが明らかである。また,乙5(特願平7-186303号(特開平9-10998号)公報。以下「周知例9」という。)の段落【0002】〜【0003】,図3,4を参照すると,スライド32(可動側型形成体)を上下方向に案内するスライドギブ(32A,32B,42A,42B)すなわち案内体の案内面は平面であって,その平面は,スライド32がスライドギブ(32A,32B,42A,42B)からの張出し面に概ね直交することが明らかである。さらに,乙6(実願昭61-33950号((実開昭62-146600号)のマイクロフィルム。以下「周知例10」という。)の4頁2行ないし9行,第1,2図を参照すると,スライド2(可動側型形成体)を上下方向に案内する,スライド2の両側に設けられた摺動面すなわち案内面は平面であって,その平面は,スライド2がスライド2の摺動面からの張出し面に概ね直交することが明らかである。 以上のとおり,引用例発明2は,「案内体の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交する」という本願発明の相違点2に係る構成とは同一と評価することができるから,相違点2Bについての審決の判断は誤りではない。 仮に,引用例発明2と本願発明の相違点2に係る構成とが同一と評価できないとしても,案内体の平面と張出し面との関係を本件発明のように構成することは,甲4ないし6又は乙4ないし6に示されるとおり,周知の事項であるから,引用例発明2から容易に想到し得ることであるから,審決が,「引用例発明2において,ガイドポストを『ベースプレートに垂直に立設』する点は,相違点2における『案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交』する点に相当する」(審決書8頁26行〜29行)とした判断には,結論に影響を及ぼす誤りはない。 ウ「引用例発明1と引用例発明2の組合せが容易であるとした判断の誤り」に対し原告は,引用例発明1と引用例発明2を組み合わせることには阻害要因があると主張する。 しかし,引用例発明1(甲2)と引用例発明2(甲3)とは,発明の対象がプレス金型用ダイセットの点で共通しており,かつ,引用例発明1のガイドポストを,ベースプレートを片持ち梁状に支持するために用いることを阻害する示唆は,甲2,3のいずれにもない。 原告は,「引用例発明1においては4角柱状のガイドポストの本数,ベースプレートの支持形態は何ら特定されていない」(原告準備書面(第1回)10頁3行〜5行)と主張するが,これらが特定されていないことが,当業者において,引用例発明1のガイドポストが片持ち梁状以外の形態(例えば,ベースプレートの両端を支持する形態)に用いられ,ベースプレートを片持ち梁状に支持する形態には用いられないとの理由にはならない。 また,審決では,相違点1において,引用例発明1の四角柱状ガイドポストを1本とすることを検討するとともに,相違点2においては,引用例発明2の「片持ち梁状に支持される上側のベースプレート」について,引用例発明1との組み合わせを検討しているのであるから,引用例発明1と引用例発明2との組み合わせにおいて,「引用例発明1のダイセットに引用例2に記載のものを適用しようとすれば,少なくとも2本の円柱形のガイドポストでベースプレートを片持ち梁状に支持する形態のものとなる」(原告準備書面(第1回)10頁27行〜29行)ということにはならない。また,引用例発明2の2本の円柱体のガイドポストを1本にすることを検討しているのではないから,「甲第3号証に記載のものにおいては,円柱形のガイドポストは少なくとも2本であり,これを1本にした場合,ベースプレートに回転が生じ,正確に打ち抜き加工をすることができなくな」る(原告準備書面10頁30行〜33行)ことにもならない。 したがって,引用例発明1(甲2)と引用例発明2(甲3)との間に阻害要因があるとする原告の主張には理由がない。 (3)取消事由3(相違点1,2を総合した顕著な作用効果を看過して判断した誤り)に対し審決において,相違点1と相違点2は,ともに,可動側型形成体が片持ち梁状に支持されることに関連付けられて検討されているのであるから,相違点を相違点1と相違点2とに分けて検討したとしても両者の関連を無視することにはならない。 原告は,本願発明の作用効果について主張するが,その根拠とされる甲8の「ハイクォリティーダイセット」の「丸ガイドポストと角ガイドポストのタワミ比較」をみても,本願発明のダイセットと本願発明を使用しない他のダイセットとの比較ではなく,角ポストそれ自体が丸ポストよりもたわみ量が少ないこと,角ガイドポストの本数に応じた効果が示されているのみである。すなわち,原告の主張は,四角柱状の案内体それ自体の作用効果を主張するにすぎず,本願発明について,当業者の予測を超えた顕著な効果があることを主張するものではない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,審決が,本願発明の相違点1,2に係る構成が,引用例発明1に引用例発明2及び周知事項を適用することによって,容易に想到できるとした点には,誤りがあると判断する。 以下に,その理由を述べる。 1 審決に理由記載が要求される趣旨について特許法157条2項には,審決は,審決の結論のみならず結論に至った理由を文書に記載する旨が規定されている。特許法が,審決書に理由の記載を要求した趣旨は,?@審決における判断の合理性等を担保して恣意を抑制すること,?A審決の理由を当事者に知らせることによって,取消訴訟(不服申立)の要否等を検討するため,当事者に対する便宜を図ること,?B理由を文書に記載することによる事実上の結果として,公正かつ充実した審判手続が確保されること等によるものである。 特に,審決において,特許法29条2項所定の要件を充足すると判断する場合には,その性質上,客観的な証拠(技術資料)に基づかない認定や論理性を欠いた判断をする危険性が常に伴うものである。したがって,審決書における「審決の理由」には,事実認定が証拠によって適切にされ,認定事実を基礎とした結論を導く過程が論理的にされている旨客観的に説示されていることが必要であり,後に争われる審決取消訴訟においても,その点に関して,吟味,判断するのに十分な内容であることが不可欠といえる。 上記の観点から,本件審決を検討する。 (1) 本願発明と引用発明1の各特徴ア 本願発明の特徴本願発明は,特許請求の範囲(請求項1)の記載等を基礎とするならば,少なくとも,?@案内面(4-5)は平面を備え,平面は前記案内体(4)の軸心線と固定側型形成体(2-2)又は可動側型形成体(3-2)が,案内体(4)から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交しているダイセットであること,?A可動側型形成体(3-2)は,一端部が1本の案内体(4)に支持され他端部は支持されない片持ち梁であること,?B案内面(4-5)は案内体(4)の側面に形成され,案内面(4-5)の平面は互いに直交する4平面で形成されていること,という3つの特徴的な構成からなっている。 そして,補正明細書(甲1の1〜3)によれば,従来技術では,可動側ダイプレートは,1本又は2本のガイドポスト(以下「案内体」ともいう。)に片持ちに支持されて昇降運動し,ガイドポストとガイドポストを通すために可動側ダイプレートに形成される穴は円柱状に形成されるが,可動側ダイプレートは,その重力又は動作時の偏荷重を受けるため,ガイドポストの軸心線に対して傾斜する方向の外力を受け,円柱状摩擦摺動面の摩耗が進み,この摩耗を軽減しようとして介設された球体と摩耗面部に局所的な応力が生じて,摩耗が促進され,ガイドポストの曲げ変形を起こすという課題が存在していたのに対して,本願発明は,同課題を解決するため,?@ガイドポストの側面に形成される案内面は,互いに直交する4平面で形成され,案内面はガイドローラリテーナを介して案内用孔を摺動すること,?A案内面は,案内体から張り出す型形成体の重心と案内体の軸心線を含む面である張出し面と直交し,偏荷重がかかっても局所的応力が組型に発生しないようにさせたというものである。 イ 引用例発明1の特徴引用例発明1は,四角柱状のガイドポストと四角柱状の貫通孔を有するガイドブッシュの間に,軸方向への並進運動を円滑にするよう配列されたローラ・ベアリングを配し,これによって,運転中に故障が生じにくく,高い寸法精度が保たれ,純粋な並進運動を行うダイセットを提供しようとするものである(別紙引用例1【図1】参照)。 従来技術においては,ガイドポスト及びガイドブッシュの貫通孔が円柱状に形成され,その間にボールベアリングが使用されていたことにより,?@ボールベアリングに大きな圧力がかかること,?A衝撃力に弱いこと,?Bガタが生じやすく寸法精度が劣化しやすいこと,?C円柱状のガイドポストと円柱状の貫通孔を有するガイドブッシュとが円筒状のボールリテーナーを介して単に嵌め合っているため,ガイドポストとガイドブッシュとは,相互に並進運動をするだけでなく,共通軸の回りに回転運動も行うこと等の課題を解決するための発明である。 その摺動部分は,プレス金型用ダイセットに組み込まれることが想定されているものの,ダイセットの全体構成については,何らの開示はされていない。 (2) 審決に記載された理由の概要審決が法29条2項に該当すると判断した理由は,前記第2の3の(1)のとおりである。すなわち,?@ 本願発明と引用例発明1とは,前記(1)のアの?Bにおいて一致する。 ?A他方,本願発明と引用例発明1とは,前記(1)のアの?@,?Aにおいて相違する,?B相違点の中の,前記(1)のアの?Aの「案内体が1本であること」に関しては,周知例1ないし4に開示されている,?C相違点の中の,前記(1)のアの?Aの「片持ち梁であること」及び前記(1)のアの?@の「直交」については,引用例発明2に開示されている,?D引用例発明1と引用例発明2とは,発明の対象が共通しているから,組み合わせることが容易である,したがって,本願発明は,特許法29条2項に該当するというものである。 (3) 判断本願発明は,前記(1)のアの?@,?A,?Bの各構成のすべてを備えた,一つのまとまった技術的思想からなる発明である。これに対し,引用例発明1は,その中の一つの構成である?Bのみを共通にする発明にすぎず,?@及び?A(「直交」,「案内体の本数」,「片持ち梁」)の3点については,構成を有しない。 審決は,本願発明中の各相違点に係る構成は,周知例や引用例発明2に示されている技術であると説示している。しかし,審決では,本願発明と一つの技術的構成においてのみ一致し,複数の技術的構成において,実質的相違が存在し,その課題解決も異なる引用例発明1を基礎として,本願発明に到達することが容易であるとする判断を客観的に裏付けるだけの説示は,審決書に記載されているとはいえない。 とりわけ,審決は,相違点1(前記(1)のアの?Aの「案内体が1本であること」)に関する判断においては,「身長計」,「自動車リフトの支柱」,「燭台」等を挙げているのに対して,相違点2(前記(1)のアの?Aの「片持ち梁であること」,及び前記(1)のアの?@の「直交」)に関する判断においては,引用例発明2を挙げているが,引用例発明2は,「2本の円柱体のガイドポスト」を必須の構成要件とするものであって,相違点1に関して容易であるとする判断の基礎として用いた周知例と相反するものであるため,周知例と引用例の相互の矛盾を説示することが求められるが,審決では,その点の矛盾に対する合理的な説明は,されていない。 以上のとおり,本件における審決書に記載された具体的な理由は,特許法157条2項が審決書に理由記載を求めた趣旨,すなわち,審決における判断の合理性等を担保して恣意を抑制すること,客観的な証拠(技術資料)に基づかない認定や論理性を欠いた判断をする危険性を排除するとの趣旨に照らして,十分な説示がされているとはいえない。 したがって,審決の取消事由に関する原告の主張(とりわけ,取消事由2に係る主張)は,理由がある。 2 原告の主張に係る取消事由について念のため,原告の主張に係る相違点2に係る容易想到性の有無について,具体的に判断内容を述べる。 当裁判所は,「本願発明の案内体の平面と張出し面との直交に関する構成は引用例発明2に示されている」とした審決の判断には誤りがあり,引用例発明1と引用例発明2及び周知技術から,本願発明の相違点2Bに係る構成を容易に想到することができたとはいえないと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 (1) 本願発明についてア 補正明細書の記載本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には「前記案内面(4-5)は平面を備え,前記平面は前記案内体(4)の軸心線と前記固定側型形成体(2-2)又は前記可動側型形成体(3-2)が,前記案内体(4)から張り出す部分の重心を含む平面に概ね直交している」と記載されている。 補正明細書には,以下の記載がある。 「【0003】一般に,可動側ダイプレートは,その重力又は動作時の偏荷重を受けるため,ガイドポストの軸心線に対して傾斜する方向の外力を受ける。」「【0009】本発明の他の目的は,偏荷重がかかっても局所的応力が組型に発生しないようなダイセットを提供することにある。」「【0033】図17と図18は,本発明の作用・効果の比較を示している。図18の実施形態の作用効果は,図17に示す非実施形態の作用効果よりもすぐれていることが,次に述べられる。図17は,ガイドローラを介して相対的に滑動する2物体の滑動面に対して45度の角度を持つ鉛直面S内に平行に片持腕が受ける衝撃力の方向が向いている場合を示している。 【0034】図18は,ガイドローラを介して相対的に滑動する2物体の滑動面に直交する鉛直面S(紙面に一致)内に平行に片持腕が受ける衝撃力の方向が向いている場合を示している。図18には,直交2面にそれぞれに滑動するガイドローラ群は,それぞれに上下の2体のみが示されている。」「【0039】図18に示す実施の形態でも,点Pと点Qに反対向きの衝撃力Fと-Fがガイドローラと壁面との間に発生する。このような点Pと点Qは,1直線上に乗る無数の点のうちの1つである。一方側の群の上方のガイドローラと他方側の下方のガイドローラは,その機能が幾何学的には,活用されていない。しかし上下2本のガイドローラは,図17の非実施の形態のガイドローラが点接触するのに対して線接触している。この相違は,全ガイドローラに影響し,自己整合的,自己調整的に衝撃力が分散する。このように,図18の実施形態の全ガイドローラは,図17の非実施の形態の全ガイドローラに比べて,有効に活用されている。」「【0053】このため,可動側型形成体3-2の自由端部は固定側型形成体2-2に支持されていないから,可動側型形成体3-2は,その一端部分が案内体4に支持されているが他端部分は支持されず,片持ち梁になっている。この片持ち梁の曲げモーメントによる曲がりが可能な限り少ないことが,製品の寸法精度を向上させる。」「【0055】可動側型形成体3-2の張出方向線と案内体4の軸心線を含む平面に直交するように案内体4の1側面である型形成体支持面4-5が形成されていることが特に望ましい。 【0056】案内体4に対して曲がろうとする可動側型形成体3-2の軸心方向の運動を案内する型形成体支持面4-5は,案内面4-5として定義することができる。このような案内体4の1側面が,図1に示されている。型形成体支持面4-5は,可動側型形成体3-2の曲がりを阻止するように可動側型形成体3-2を支持する支持面である。」イ 本願発明の相違点2に係る構成の技術的意義図17,18によれば,滑動面に直交する鉛直面S内に平行に向いている場合の方が,片持腕が受ける衝撃力の方向が,相対的に滑動する2物体の滑動面に対して45度の角度を持つ鉛直面S内に平行な方向に向いている場合(図17)よりも,衝撃力が分散し,作用効果において優れていることが示されている。すなわち,可動側型形成体の張出し方向線と案内体の軸心線を含む平面に直交するように案内体の1側面を形成するとの構成は,可動側型形成体に作用する案内体の垂直方向の軸心線に対し傾斜する方向の外力を受け止めるのに優位性があることが示されている。 可動側型形成体の張出し方向線と案内体の軸心線を含む平面に直交するように案内体の1側面を形成するとの構成が採用されたのは,重力又は動作時の偏荷重により片持ち梁に構成された可動側型形成体の自由端部に曲げモーメントが働くことから,これによる曲がりを可能な限り少なくし,製品の寸法精度を向上させるためである。 (2) 引用例発明2についてア 引用例2(甲3)の記載引用例2(甲3)には,次のとおりの記載がある(別紙引用例2【第4図】参照)。 「2 実用新案登録請求の範囲金型交換装置の基台上に突出する位置決めピンに対応して複数個の位置決め孔が形成された,一対のベースプレートからなる金型交換装置用ベースプレートにおいて,前記位置決め孔を基準として,一方のベースプレートの所定の位置に垂直に立設された少なくとも2個のガイドポストと,前記位置決め孔を基準として他方のベースプレートの所定位置に形成され,前記ガイドポストが嵌入案内される案内部とを有し,前記一対のベースプレートを,その各対応する位置決め孔を同心上に位置させてダイセット形式に組立ててなる金型交換装置用ベースプレート。」(明細書1頁4行〜15行)「一般のプレス加工作業における加工精度は,プレス機自体の精度に依るところが大きく,例えば,プレス作業中にラムに加わる複合荷重等によってボルスターに対するラムの上下動の垂直度が損なわれると,金型交換装置側のガイド力に比べてラムの慣性力の方が強大であることから,金型交換装置側のガイドポストがラムの上下動にならってしまい,上下型のずれが静止時より大きくなるという問題点がある。それは構造上止むを得ないことであるが,それを軽減するには,金型交換装置側のガイドをより強力に,かつ緊密化する以外にない。本考案は,上述した事情に鑑みてなされたものであり,金型交換装置に用いられるベースプレートには,正確に位置決めされた位置に,位置決め孔が穿設されている点に着目し,一対のベースプレートの一方に,前記位置決め孔を基準として正確に測定された位置にガイドポストを垂直に立設するとともに,他方のベースプレートにも同様に,位置決め孔を基準として正確に位置決めされた位置に,前記ガイドポストが嵌入案内される案内部を設け,前記一対のベースプレートをダイセット形式に組立てて,各ベースプレートに対する上型及び下型の取付けと型合せを行うようにし,しかる後,このダイセット形式に組立てられた一対のベースプレートをそのまま金型交換装置に装着することにより,ダイセッターを不要とし,したがってダイセッターの工作誤差による型ずれが生ずることなく,さらに,金型交換装置自体のガイド部と,このダイセット形式に組立てられた一対のベースプレートのガイド部とで,金型の上下動を二重にガイドすることにより,クリアランスを高精度に維持でき,しかもコスト低減を図ることのできる金型交換装置用ベースプレートを提供することを目的とするものである。」(明細書6頁7行〜8頁1行)「本考案による金型交換装置用ベースプレートは,金型が取付け固定される一方のベースプレート7Bに,その位置決め孔を基準として正確に位置決めされた位置にガイドポスト13を垂直に立設するとともに,他方のベースプレート7Aにも,位置決め孔を基準として正確に位置決めされた位置に前記ガイドポスト13が嵌入案内される案内孔12を形成し,ダイセット形式に組立てた構成になるものである。」(明細書12頁7行〜15行)「本考案による型合せ装置を用いれば,型合せ装置そのものが,直接金型交換装置に装着されるようになるので,金型交換装置内での型ずれはほとんど生ぜす,金型交換装置を用いた高精度のプレス加工が可能となるものである。」(明細書14頁12行〜17行)前記のとおり,引用例発明2の明細書においては,案内体の形状を円筒形に限定する記載はなく,種々変形して実施できるものであるとされている。実施例の第4図によれば,別紙のとおり,ベースプレート7Aはガイドポスト13によって片持ち梁状に支持されている。 イ 引用例発明2の技術内容引用例発明2は,プレス機械における金型交換装置の部分に関する技術であり,機械本体にあらかじめ組み入れられたダイセッターによる型合せの方式ではなく,金型交換装置本体とは別に上下のベースプレートを設け,これをダイセット形式に組み立てて,金型交換装置に組み込むという技術に係るものである。ダイセット形式に組み立てられた上下のベースプレートは,機能的には,上下のダイセットと同様の機能を果たすものと考えられる。したがって,この上下のベースプレートの案内に関する技術は,ダイセットの案内に関する技術と同視できるものである。そして,上下のベースプレートは,一方のベースプレートに立設されたガイドポストが他方のベースプレートに設けられた案内孔を摺動することによって上下する。 そこで,引用例発明2から,案内体の平面が案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,案内体から張り出す部分の重心を含む平面に概ね直交するように構成することを,当業者が容易に想到し得たかについて検討する。 引用例発明2では,ガイドポストが2本とされており,ガイドポストの軸心線が2本存在する。したがって,この軸心線と張出し面の重心を含む平面として,単一平面を観念することはできず,外力の働く方向もまた単一平面に沿ったものを観念することはできない。そうすると,引用例発明2を引用例発明1と組み合わせてみても,案内面との直交による衝撃力の分散という技術的意義をもった本願発明の相違点2に係る構成を想到することが当業者にとって容易であったということはできない。 ウなお,被告は,仮に,引用例2(甲3)が,相違点2における「案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交」する点を開示するものではないとしても,予備的に,プレス加工の技術分野においても,案内体の案内面が平面であって,その平面を,可動側型形成体が前記案内体からの張出し面に概ね直交させることは,周知であると主張し,乙4(周知例8),乙5(周知例9),乙6(周知例10)を提出する。 しかし,被告の予備的主張は,以下のとおり採用できない。 審決においては,本願発明と引用例発明1との相違点2に係る構成については,?@引用例2発明には,「案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交」するとの技術事項が開示されているとした上で,?A引用例1発明と引用例2発明を組み合わせることが容易である旨を理由中において述べているのみであって,他の引用例を示した上で,各引用例の組み合わせが容易であるか否かについて,理由を述べているわけではない。被告の予備的な主張について,本件取消訴訟の審理の対象とすることは,結果として,原告に対し,意見を述べる機会や補正をする機会を奪うことになり,妥当とはいえない。この点,乙4ないし乙6が,周知技術を示した文献であるという被告の主張を前提としたとしても,上記判断を左右するものとはいえない。 したがって,被告の予備的主張は,採用の限りでない。 エ 小括以上のとおりであるから,引用例発明2を引用例発明1と組み合わせてみても,案内面との直交による衝撃力の分散という技術的意義をもった本願発明の相違点2に係る構成を想到することが当業者にとって容易であったということはできず,当業者が引用例発明2及び引用発明例1に基づいて容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである。 3 結論よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 大須賀滋 |
裁判官 | 齊木教朗 |