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関連審決 不服2006-10774
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  上位概念 /  パリ条約 /  優先権 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10404号 審決取消請求事件
原告エイカー ヤーズ オー ワイ
訴訟代理人弁理 士浅村皓
同 浅村肇
同 岩井秀生
同 森徹
被告特許庁長官
指定代理人寺本光生
同 中川真一
同 横溝顕範
同 森川元嗣
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/07/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2006ー10774号事件について平成20年6月23日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告(旧商号クバエルネル マサ - ヤーズ オサケ ユキチュア)は,平成8年5月13日,発明の名称を「外洋運搬船」とする発明について,特許出願(特願平8-117418号。パリ条約による優先権主張1995年5月12日フィンランド国)をし(甲7,8),平成17年6月7日に明細書の特許請求の範囲変更する手続補正をしたが(甲11),平成18年2月21日に拒絶査定を受けたことから(甲12),平成18年5月25日,不服の審判(不服2006-10774号事件)を請求するとともに(甲13),同年6月6日,明細書の特許請求の範囲の記載を更に変更する手続補正(以下「本件補正」という。)をした(甲15)。
特許庁は,平成20年6月23日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成20年7月4日に原告に送達された。
2本件補正後の特許請求の範囲本件補正後の明細書(以下,願書に最初に添付した図面と併せて「本願補正明細書」という。)における特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲15。以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。別紙本願補正明細書【図1】〜【図3】参照)。
「【請求項1】少なくとも2個の貨物タンク(2,3,4,5)を含み,それら貨物タンクのそれぞれが,半球形の上部分(11)及び下部分(12)と,前記下部分(12)の上縁部に接続されていて貨物タンクの支持手段が接続される要素を形成する赤道形状部(13)とを有しており,前記上部分(11)と前記下部分(12)とが同じ曲率半径を有する外洋運搬船(1)において,前記貨物タンク(2〜4)の少なくとも1個が,その貨物タンクの上部分(11)と前記赤道形状部(13)との間に位置していてそれらを相互に接続する円筒形の中間部分(10)を有することを特徴とする外洋運搬船。」3本件補正前の特許請求の範囲本件補正前の平成17年6月7日付け手続補正書によって補正された明細書における特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲11。以下,本件補正前の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】少なくとも2個の貨物タンク(2,3,4,5)を含み,それら貨物タンクのそれぞれが,概ね半球形の上部分(11)及び下部分(12)と,前記下部分(12)の上縁部に接続されていて貨物タンクの支持手段が接続される要素を形成する赤道形状部(13)とを有しており,前記上部分(11)と前記下部分(12)とが概ね同じ曲率半径を有する外洋運搬船(1)において,前記貨物タンク(2〜4)の少なくとも1個が,その貨物タンクの上部分(11)と前記赤道形状部(13)との間に位置していてそれらを相互に接続する円筒形の中間部分(10)を有することを特徴とする外洋運搬船。」4審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,(1)本願補正発明は,特開昭61-241293号公報(以下「第1引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特開平3-128791号公報(以下「第2引用例」という。)に記載された発明並びに特公昭51-20797号公報(以下「周知例1」という。),特開昭56-146485号公報(以下「周知例2」という。),実願昭58-96759号(実開昭59-35194号)のマイクロフィルム(以下「周知例3」という。),実願昭56-94403号(実開昭57-204988号)のマイクロフィルム(以下「周知例4」という。)に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は許されない,(2)本願補正発明の上位概念発明である本願発明も,本願補正発明と同様の理由により,第1引用例及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
(1)引用発明の内容「少なくとも2個のタンクを含み,それらタンクのそれぞれがタンク頂板及びタンク底板とを有するタンク搭載船において,前記タンクが,そのタンクのタンク頂板と前記タンク底板との間に位置していてそれらを相互に接続する円筒形のタンク外板を有するタンク搭載船。」(審決書3頁26行〜29行。別紙第1引用例第1図ないし第3図参照)。
(2)[一致点]「『少なくとも2個の貨物タンクを含み,それら貨物タンクのそれぞれが,上部分(11)及び下部分(12)とを有する外洋運搬船において,前記貨物タンクが,その貨物タンクの上部分(11)と下方にある部材との間に位置していてそれらを相互に接続する円筒形の中間部分(10)を有する外洋運搬船。』である点」(審決書4頁下から4行〜5頁1行)。
(3)[相違点1]「本願補正発明は貨物タンクの少なくとも1個が,円筒形の中間部分(10)を有し,貨物タンクの上部分(11)及び下部分(12)が同じ曲率半径を有する半球形であるのに対して,引用発明は全てのタンクが円筒部を有し,タンクの上部分及び下部分が半球形でない点。」(審決書5頁2行〜5行)。
[相違点2]「本願補正発明は下部分(12)の上縁部に接続されていて貨物タンクの支持手段が接続される要素を形成する赤道形状部(13)とを有しており,中間部分(10)は上部分(11)と前記赤道形状部(13)との間に位置しているのに対して,引用発明は赤道形状部に関して明らかでない点。」(審決書5頁6行〜10行)。
第3当事者の主張1審決の取消事由に係る原告の主張審決には,以下のとおり,(1)相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由1),(2)相違点2に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2),(3)作用効果に係る判断の誤り(取消事由3)がある。
(1)取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)審決は,「複数のタンクを搭載する船において,前方の視認性の確保とタンクの総容積の増大は改善すべき課題として認識されているものであるととももに,斯かる2つの課題は相反する性質つまり,どちらかの性能を向上さ.せようとすればもう一方の性能が低下する関係にあることは明らかといえる。また,球面形状は応力に対して強固な形状であることは一般的に知られた事項であり,タンクを製造する上でも強度を求めようとすればできるだけ採用することが望ましい形状であるといえる。したがって,斯かる事項を考慮すれば,引用発明においてタンクの容積効率を改善するに当って上下部分を従来のまま半球形状とし,その間に第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むことを選択すること,及び容積を拡張する必要のないタンクは球形を保持するようにすることに格別の創意は要しないといえる。したがって,引用発明において上記の選択をして,本願補正発明の相違点1に係る構成とすることに,格別の困難性は要しない。なお,引用発明の様に従来の球形タンクの総容積を維持しつつタンクの容積効率を改善し,前方のタンクの高さを低くして前方の視認性を向上させることと,本願発明(判決注本願補正発明の誤記と認める。)の様に前方の視認性を低下させることなくタンクの容積効率を改善し,タンクの総容積を従来の球形タンクの総容積よりも大きくすることとは,実質的に同義の改善であるといえる。」(審決書5頁27行〜6頁7行)として,相違点1の構成は,容易想到であると判断した。
しかし,審決の上記判断には,次のとおり誤りがある。
ア「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確保」とが相反する関係にあることを前提として判断した誤り審決は,「2つの課題は相反する性質つまり,どちらかの性能を向上させようとすればもう一方の性能が低下する関係にあることは明らかといえる。」としているが,「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確保」は,常に相反する関係にあるわけでない。
仮に,「タンク容積」と「見通し」が,一方を向上させると他方が低下するという関係が成立するとしても,そのことから,本願補正発明の相違点1に係る構成が容易であるとの結論が導かれるわけではない。
したがって,審決の判断は,誤りがある。
イ強度向上のために,タンクの上下部分を半球形状にすることが容易であるとした誤り以下のとおり,第1引用例及び第2引用例には,強度向上のためにタンク頂板と底板とを半球形状にするとの記載も示唆もない。
(ア)第1引用例では,容積効率を改善するためにタンクを竪型円筒状にし,かつ,その円筒状部分をかなり高くしたものであって,タンク全体の形状が球形ではないから,タンクが応力を受けたときに,球形の場合のように応力を均等に分散させることができず,タンク頂板と円筒状部分との間の連結部,及び円筒状部分と平坦な底板との連結部等にその応力が集中される構成が採用されている。第1引用例において,「上下部分を従来のまま半球形状」にしたとしても,タンク全体の強度を向上させることはできないから,球面形状が応力に対して強固な形状であることをもって,上下部分を従来のまま半球形状とすることを導くことはできない。
引用発明においては,第1引用例(甲1)の第1図(別紙参照)のとおり,タンク底板を平坦に形成して,その底板を船底で支える構成とされているから,液化ガス等を収容したタンクの重量は,底板を介して船底で支持される構成が採用されている。
(イ)また,第2引用例(別紙第2引用例第1図〜第5図参照)においても,そのLNGタンク1は,「鉛直方向の直径が赤道の直径よりも若干短い偏平球状に形成されている」(甲2,2頁左下欄16行〜18行)ものであり,その頂部4及び南半球6は半球形状ではない。そして,第2引用例には,南半球6の寸法について,例えば,「a/b?垂P.5に選定するとき,LNGタンク1の内圧により小曲率の部分に生じる圧縮応力を十分小さく維持することができる」(甲2,3頁左上欄4行〜6行)と記載されている。このように,第2引用例においては,頂部4及び南半球6を半球形状よりも扁平な形状に形成するとともに,南半球6を特殊な形状に形成することによって強度の向上を図っているから,タンクの頂板と底板とを「同じ曲率半径を有する半球形」にすれば強度が向上するなどとはいえない。
また,第2引用例に,竪型円筒状のタンクについて,「構造的にはタンク底部を防熱材を介して船底構造で支えることを前提としている。ところが波浪中で船底は変動する水圧を受け,船底は大きく変形するため,これによりタンクの底板も変形をくり返し,強度的に問題があり,」(甲2,2頁左上欄2行〜6行)と記載されており,竪型円筒状のタンクは,タンク底部を船底構造で支える構造であるために,強度的に問題のあることが指摘されている。このように,タンクの強度は,タンクを支える構造によっても影響されるものであり,単に球面形状を採用することにより向上するものではない。
(ウ)「LNGタンカー」に係る甲23は,LNGタンクの形式には球形タンク方式,GTT方式等のメンブレン方式,等があり,また,その他の方式として,第1引用例,第2引用例のタンクと同様の三菱竪型円筒タンク方式等を含む円筒形タンク,方形タンク等があることを記載している。また,球形タンク,GTT方式のタンク,方形タンクを船倉に装着した状態を図示している。このように,LNGタンクには種々の形式のものがあり,それぞれに長所と短所がある。また,当然のこととして,強度を高める方法については,それぞれの形式のタンクについて考慮するものである。例えば,GTT方式のタンク,方形タンク,円筒形タンクについて,強度を高めるために,それらの上下部分を「同じ曲率半径を有する半球形」にするなどということは,全く考え難いことである。
(エ)以上によれば,強度向上のために引用発明におけるタンク頂板と底板とを半球形状にすることに格別の創意は要しないとの審決の判断には,誤りがある。
ウ容積率改善のために,上下部分を半球形状のままとし,その間に円筒部を差し挟むことが容易であるとした誤り審決は,上下部分を半球形状のままとし,その間に円筒部を差し挟むことが容易であると判断したが,次のとおり誤りである。
(ア)引用発明を基礎とする発明困難性a引用発明においては,タンク容積効率を改善するために,従来は球形であったタンクを竪型円筒状にしており,そのようにしたために上部分(タンク頂板)を,半球形状よりも扁平な弧状のものにするとともに,下部分(タンク底板)を平坦にしている。このように,引用発明における容積効率改善とは,従来の球形タンクと直径及び高さを同一とする条件でタンク容積を増加させることを意味しており,タンク頂板とタンク底板を半球形状よりも扁平にすること(すなわち,タンク頂板と底板の曲率半径を大きくすること)が必須であるから,これらを従来の半球形状に戻すことは考え難い。すなわち,引用発明において,上下部分を従来のまま半球形状とし(しかも上下部分の曲率半径を同一にし)たのでは,従来技術と同じ球形タンクが得られるだけであって,容積効率を改善することはできないから,それは考え難い。このことは,第1引用例の第2図に実線で示された引用発明の実施例におけるタンク13と,鎖線で示された従来の球形タンクとを比較すれば明らかであり,タンク13は,円筒形の外板を有する竪型円筒状であるために,タンクの頂板及び底板を半球形状にすることができない。タンクの高さを変えずに頂板を半球形状(すなわち,球を半分にした形状)にすれば,その頂板は鎖線で示された従来の球形タンクの上半部分と同じ形状になってしまい,また,底板を半球形状にすれば,その底板は従来の球形タンクの下半部分と同じ形状になってしまうから,上下部分を半球形状にして容積効率を改善させることはできない。
b被告は,引用発明においてタンク単体の容積を増やす作用を有するのは,円筒部であると主張をする。
しかし,引用発明は従来の球形タンクの形状を竪型円筒状にすることによって容積効率を改善するものであり,その竪型円筒状は,円筒部を設けるのみではなく,タンクの頂板と底板とを半球形状よりも扁平な形状にすることも必須である。タンクの頂板と底板とを半球形状よりも扁平な形状にしなければ円筒部を設けて容積効率を改善することができないから,引用発明におけるタンク単体の容積を増やすのは円筒部によるとの被告の主張は,合理性がない。また,第1引用例の第1図,第2図(別紙参照)におけるタンク頂板及びタンク底板を半球形状にすると,必然的にタンクの高さを増加させることになる。
さらに,引用発明の目的は容積効率の改善にあるから,引用発明には,そもそも「容積を拡張する必要のないタンクは球形を保持するようにする」という技術思想は存在しない。
引用発明は,従来の球形タンクと同一の高さとする条件でタンクの形状を竪型円筒状にすることにより容積効率を改善するものであるのに対し,本願補正発明は上下部分を従来の球形タンクの上下部分の形状と同様に維持しつつ円筒形の中間部分を設けることによって従来の球形タンクの高さを変更して本願補正発明の課題を解決するものである。したがって,「容積効率改善」といっても,その解決課題は異なり,引用発明の構成から本願補正発明の構成に至ることは容易ではない。
c本願補正発明は,同構成を採用するによって,?@上部分(11)と下部分(12)は,同一の成形型,組立て治具等を使用して成形することができること,?A貨物タンクの少なくとも1個が円筒形の中間部分(10)を有するとされているから,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化させられること,?Bその円筒形の中間部分(10)を備えたタンクの製作は,比較的簡単であること(甲8,段落【0003】〜【0006】)等の作用効果が生じる。
このように,本願補正発明は,「運搬すべき材料を運ぶ貨物タンクの積載容量が,ある寸法の球形あるいは部分球形のタンクの製造に用いられる製造手段を著しく変更する必要なく著しく増加される運搬船を提供する」(甲8,段落【0004】)という,タンクの製造上の問題を解決することを課題とし,そのために,上下部分を従来のまま単に半球形にしたのみではなく,タンクの上下部分を「同じ曲率半径を有する半球形」にした点に特徴を有する。
引用発明は,タンクの上部分及び下部分が「同じ曲率半径を有する」半球形でないため,引用発明から本願補正発明の構成に想到することはできない。
(イ)第2引用例記載を適用することの発明困難性第2引用例には,以下のとおり,容積率改善の目的で,上下部分を半球形状にすることは示唆されていない。すなわち,第2引用例では,容積効率の改善に関して,「容積効率が従来の球形タンクよりも優れている。すなわち同一容積については,従来のタンクよりも高さを小さくでき,形状が若干偏平でやや方形に近いため,船体内側に発生する無駄な空間をより少なくできる。船用タンクのような大容積の場合,同一高さの球形タンクに比べ表面積の対容積比率も減少し,」(甲2,3頁右上欄9行〜15行)と記載されている。ここにおいて,第2引用例における「容積効率が優れている」との記載は,同一容積の場合には従来のタンクよりも低くなること,又は,同一高さの場合には従来のタンクよりも容積が大きくなることを意味している。そして,第2引用例のタンクは,「形状が若干偏平でやや方形に近い」ものであり,第1図ないし第4図から明らかなように,上下部分を半球形状よりも偏平なものとされている。
そうすると,第2引用例において,容積率改善の目的で,上下部分を半球形状にすることが示唆されているとはいえない。
(2)取消事由2(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)審決は,「船体に搭載されるタンクの赤道部分に,船体側に設けられたスカート部と結合させるための赤道形状部を設けること及び,該赤道形状部を別体に形成した後,溶接によりタンク本体に結合させることは共に周知の技術である・・・。そして,引用発明及び第2引用例に記載された発明においても斯かる周知の技術を採用することに格別の創意を要するものとは認められない。また,第2引用例に記載された発明において上記周知の技術を採用するに当って,赤道形状部と結合されるスカート部が船底方向から立ち上がるように設けられている(上記周知例参照)ことからみて,赤道形状部を円筒部5の下縁部に設けることは通常なされることであるといえる。そして,・・・引用発明に第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むことを選択した際に,合わせて上記周知の技術を採用し,その際上記通常なされる事項に従って赤道形状部を円筒部の下縁部に設ければ,円筒部は,必然的に上部分と前記赤道形状部との間に位置することになる。したがって,4.(1)に述べた事項に加えて上記周知の事項を適用することにより,本願補正発明の相違点2に係る構成とすることに,格別の困難性は要しない。」(審決書6頁9行〜27行)と判断した。
しかし,審決の判断には,次のとおり誤りがある。
すなわち,前記(1)イで主張したとおり,引用発明は,タンクを竪型円筒状にして容積効率を改善しているのであるから,そのような円筒状のタンクに第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むことを選択する必要はない。引用発明は,もともと本願補正発明の「中間部分(10)」に相当するタンク外板を備えているのであるから,上記の選択をすることは有り得ない。
また,引用発明においては,タンク底板を平坦に形成して,その底板を船底で支える構成を採用しているから,貨物タンクの支持手段が接続される要素を形成する「赤道形状部」は存在しない。したがって,仮に,引用発明に,第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むことを選択したとしても,それによりタンクを支える構成が変わるわけではないから,「赤道形状部」は依然として存在せず,「円筒部は,必然的に上部分と前記赤道形状部との間に位置することになる。」(審決書6頁24行,25行)とはいえない。
なお,審決の相違点2の認定については,「引用発明は赤道形状部に関して明らかでない点。」(審決書5頁9行,10行)との認定は不正確であり,「引用発明は貨物タンクの支持手段が接続される要素を形成する赤道形状部を有していない点。」と正確に認定すべきである。
したがって,審決の相違点2に係る上記判断は,誤りである。
(3)取消事由3(作用効果に係る判断の誤り)審決は,「上記の相違点1及び2に係る構成を併せ備える本願補正発明の作用効果について検討しても,第1引用例,第2引用例に記載された発明及び上記周知の技術から,当業者が予測しうる域を超えるものがあるとは認められない。」(審決書6頁29行〜31行)と判断した。
しかし,上記審決の判断は,次のとおり誤りである。
ア本願補正発明においては,タンクの上下部分を同じ曲率半径を有する半球形状とすることにより,従来の球形タンク21〜24の製造のために使用していた成形型,組立て治具等を使用して製造することができる。また,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化させることができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製作は比較的簡単であるという作用効果がある。審決は,これらの本願補正発明の顕著な作用効果を看過している。
イこの点について,被告は,第1引用例には,「従来の球形タンクでは,タンクの高さを変えるため,直径の異なるものを製作する場合,その直径によりタンク外板の曲率が変化し,タンク製作が複雑で困難なものになるが,本発明における竪型円筒状のタンク11〜14では,タンク頂板やタンク底板の形状は常に同一でよく,タンク11〜14の周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さの異なるタンクを容易に製作できる。」(甲1,2頁右下欄1行〜9行)との記載があると主張する。
しかし,第1引用例の上記記載は,次の事項を意味している。すなわち,従来の球形タンクでは,タンクの高さを変えるためには直径を変える必要があり,直径を変えると,タンク全体の曲率を変えざるを得ない。そして,球の大きさ(曲率半径)を変えると,タンク外板,すなわち球殻全体が異なる曲率半径のものになるから,それぞれの球は全く別のものとして製造しなければならなくなる点を指摘している。
したがって,第1引用例の上記記載部分は,同一タンクの頂板と底板とを「同じ曲率半径の半球形」としたままで,「中間部分の高さを適宜に設計することによりタンク容量を変化させることができる」ことまでをも意味しているわけではない。
引用発明においてはタンクの頂板と底板を扁平にすることが必須であるから,頂板と底板とを「同じ曲率半径の半球形」にすることは有り得ず,それらを従来の球形タンクと同じにすることはできない。このことは,例えば,第1引用例の第1図に示された4つのタンク11〜14における頂板と底板の形状が,第3図の5つの球形タンク21〜24の上半球部分と下半球部分の形状とは異なるものであることからも明らかである。
ウしたがって,本願補正発明の作用効果は,引用発明及び第2引用例に記載された発明並びに周知技術から,当業者が予測し得るとした審決の判断は,誤りである。
2被告の反論(1)取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)に対しア「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確保」とが相反する関係にあることを前提として判断した誤りに対し原告は,「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確保」とは,常に相反する関係にあるのではないと主張する。
しかし,審決における「斯かる2つの課題は相反する性質つまり,どちらかの性能を向上させようとすればもう一方の性能が低下する関係にある」との記載は,タンクの形状を同一として大きさを変えた場合を前提として,「タンク容積(タンクの大きさ)」と「見通し」は一方を向上させると他方が低下するという相反する関係にあることを述べたものであり,原告が主張するように,前方の視認性とタンクの総容積に関係するすべての要素に関係なく上記関係が成立することまでをも述べたものではない。
したがって,原告の主張は,その主張自体,審決の判断の違法を来すものではない。
イ強度向上のために,タンクの上下部分を半球形状にすることが容易であるとした誤りに対し原告は,引用発明から,強度向上を理由として,タンクの上下部分を半球形状にすることに格別の創意を要しないとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。
すなわち,引用発明では,?@タンクを竪型円筒状としたことにより,従来の球形のタンクより,単体のタンクにおいて容積効率を上げているものであり,タンク単体の容積効率が上がるので高さを低く形成することができ,前方視認性の観点からタンク搭載船の前方のタンクを低く設定できること,?Aタンクの周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さの異なるタンクを製作できることから,全体の容積を変えることは容易である。また,第2引用例にも頂部と球状部分の間に円筒部を設けると同一の容積について高さを低くでき,容積効率の向上によりタンクの高さを減少させ,視認性が向上する旨の記載がある。
上記のような,引用発明の課題及び作用効果,第2引用例の記載事項に照らすならば,引用発明において,?@タンク頂板とタンク底板とタンクの容積を変えるための円筒形のタンク外板を有する3つの部分からなるタンクの形状とし,?A上下部分を応力に対して強固な形状である従来の半球形状のままとし,容積を変えるための円筒形のタンク外板の具体的な構造を,第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むものとすることに格別の創意は要しない。
原告のこの点の主張は,失当である。
ウ容積率改善のために,上下部分を半球形状のままとし,その間に円筒部を差し挟むことが容易であるとした誤りに対し原告は,容積率改善のために上下部分を半球形状のままとし,その間に円筒部を差し挟むことが容易であるとした審決の判断に,誤りがあると主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり理由がない。
原告の上記主張は,引用発明が「タンクの頂板と底板は,半球形状ではなく,頂板を弧状に,底板を平坦に形成している」ことを前提に主張する。この点,原告の主張は,審決の認定した引用発明と異なる発明を前提としたものであり,その主張自体失当である。すなわち,審決が認定した引用発明の内容は,「少なくとも2個のタンクを含み,それらタンクのそれぞれがタンク頂板及びタンク底板とを有するタンク搭載船において,前記タンクが,そのタンクのタンク頂板と前記タンク底板との間に位置していてそれらを相互に接続する円筒形のタンク外板を有するタンク搭載船。」(審決書3頁26行〜30行)というものであり,引用発明のタンク頂板とタンク底板を扁平にした点を前提としていない。頂板を弧状に,底板を平坦に形成したものは引用発明の1実施例にすぎない。
引用発明におけるタンク単体の容積を増やすのは,半球形状によるのではなく,円筒部によるものであるから,原告の上記主張は,理由がない。
そして,引用発明の上下部分を従来の球形のままとし,その上下部分の間の「円筒形のタンク外板」の具体的な構造として,第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むものとすることに格別の創意を要しない。
以上のとおり,審決の判断に違法はない。
(2)取消事由2(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)に対し原告は,本願補正発明の相違点2に係る構成とすることに,格別の困難性は要しないとした審決が誤りであると主張する。
しかし,船舶に搭載されるタンクにおいて,何らかの手法でタンクを支持する必要のあることは自明であるから,タンクを支持する構成として周知である「船体に搭載されるタンクの赤道部分に,船体側に設けられたスカート部と結合させるための赤道形状部を設ける構成」,及び「赤道形状部を別体に形成した後,溶接によりタンク本体に結合させる構成」を採用することに格別の創意を要するものではない。
したがって,その旨の審決の判断に誤りはない。
なお,審決は,引用発明について,タンク底板を平坦に形成して,その底板を船底で支える構成であるとは認定していないから,タンク底板を平坦に形成して,その底板を船底で支える構成であると認定したことを前提とした原告の主張は失当である。
(3)取消事由3(作用効果に係る判断の誤り)に対し原告は,本願補正発明においては,タンクの上下部分を同じ曲率半径を有する半球形状とすることにより,従来の球形タンク21ないし24の製造のために使用していた成形型,組立て治具等を使用して製造することができる,また,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化させることができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製作は比較的簡単であるという作用効果があり,審決は本願補正発明の顕著な作用効果を看過している旨主張する。
しかし,第1引用例にも「本発明における竪型円筒状のタンク11〜14では,タンク頂板やタンク底板の形状は常に同一でよく,タンク11〜14の周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さの異なるタンクを容易に製作できる。」(2頁右下欄4行〜9行。)と記載されているように,タンクを構成する部材を同一形状とすれば,必然的に成形型や治具は同一のものを使用することができ,その製作が容易となることは,自明のことであり,タンクの上下部分を「同じ曲率半径」の半球形とした場合には,更にその製作が容易となることも自明のことである。
また,「高さの異なるタンク」は,その容量の異なることが明らかであるから,上記効果の記載は,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化させることができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製作は比較的簡単であることを実質的に示唆するものであるといえる。
第4当裁判所の判断1取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)について(1)「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確保」とが相反する関係にあることを前提として判断した誤りについてア原告は,「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増大」が相反する関係は,すべての場合に成立するものではないから,「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増大」が相反する関係にあることを前提として,容易想到性があるとした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
まず,そもそも,原告の主張は,仮に,審決が根拠とした前提が誤っていたとしても,審決の判断に違法を来すものとはいえないから,その主張自体失当である。
のみならず,審決が,「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増大」が相反する関係にあるとした点は,前後の文脈からみて,誤った前提に立って結論を導いたものとはいえない。
すなわち,審決は,?@第1引用例及び第2引用例において,従来例として球形タンクが存在していたことが開示されているとし(甲1及び2の各〔従来の技術〕欄),?A「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増大」が相反する関係にあるとの一般論を説示し,?B球形形状は,応力に対して強固な形状であることを述べた上で,?C上記の相反性等を考慮するならば,タンクの上下部分を従来例と同様の半球形状とすることに格別の創意を要しないとの結論を導いている。
上記の文脈に照らすならば,審決が,「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増大」が相反する関係にあると述べている点は,球形タンクのように,大きさを変えてもその球形形状を保つ場合を前提としていることが明らかである。そして,球形タンクに係る第1引用例の記載,すなわち,「各タンク21〜25が球状に形成されているので,船の大きさに対するタンク容積が少ない。すなわち容積効率が悪いという性質がある。船橋からの前方見通しとタンク容積効率は密接な関連があり,例えば船首部の2つのタンク21,22の直径を減じて上甲板上への突出量を減少させれば船橋からの見通しは改善されるがタンク容積効率は更に悪化することになる。」(甲1,4頁右下欄14行〜5頁左上欄1行)との記載にかんがみれば,審決の上記判断に合理性を欠く点はない。
したがって,原告の主張は,この点からも,理由がない。
イ原告は,仮に,「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増大」との間に相反する関係が存在してもなお,本願補正発明の相違点1に係る構成(上下部分を半球形状とする構成)は,引用発明から容易に想到することはできない旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり理由がない。
(ア)第1引用例の記載第1引用例には,次の記載がある。
「2特許請求の範囲船尾部の上甲板上に船橋をそなえるとともに,同船橋よりも前方において船長方向に列設された複数の竪型円筒状タンクをそなえ,これらのタンクが,上記上甲板よりも上方へ突出するように,且つ上記船橋よりは低くなるように形成されて,上記タンクのうち最前部の第1タンクが,その後方の第2タンクよりも高さを低く形成されていることを特徴とする,タンク搭載船。」(甲1,4頁左下欄5行〜13行),「〔発明が解決しようとする問題点〕ところで,上述のようなタンク搭載船では,各タンク21〜25の上甲板1上方への突出量をほぼ等しくしているので,船橋4から前方への見通し線5が水平に近く死角が大きくなっている。
また,各タンク21〜25が球状に形成されているので,船の大きさに対するタンク容積が少ない。すなわち容積効率が悪いという性質がある。船橋からの前方見通しとタンク容積効率は密接な関連があり,例えば船首部の2つのタンク21,22の直径を減じて上甲板上への突出量を減少させれば船橋からの見通しは改善されるが,タンク容積効率は更に悪化することになる。
本発明は,これらの問題点の解決をはかろうとするもので,十分なタンク容積効率を確保しながら,しかも船橋から前方への良好な見通しを確保できるようにした,タンク搭載船を提供することを目的とする。
〔問題点を解決するための手段〕このため,本発明のタンク搭載船は,船尾部の上甲板上に船橋をそなえるとともに,同船橋よりも前方において船長方向に列設された複数の竪型円筒状タンクをそなえ,これらのタンクが,上記上甲板よりも上方へ突出するように,且つ上記船橋よりは低くなるように形成されて,上記タンクのうち最前部の第1タンクが,その後方の第2タンクよりも高さを低く形成されていることを特徴としている。
〔作用〕上述の本発明のタンク搭載船では,タンク形状を竪型円筒状としているので,球形タンクに比しタンク容積効率が大幅に改善され,さらに複数の竪型円筒状タンクのうち最前部の第1タンクが,その後方の第2タンクよりも高さを低く形成されているので,船橋から前方への視界の下限が拡げられるようになる。」(甲1,4頁右下欄9行〜5頁右上欄4行)。
「〔実施例〕以下,図面により本発明の一実施例としてのタンク搭載船について説明すると,第1図はその船体縦断面図,第2図は第1図の?U-?U矢視断面図である。・・・なお,タンク11〜14は,いずれもその直径がタンク13,14の高さと等しくなるように形成されており,またタンク13,14の高さは,従来技術として例示した球形タンク(第3図の符号21〜25および第2図の鎖線参照)の直径に等しくなっている。また,第1,2図中の符号2はタンクカバー,3はタンクドームを示している。
本発明のタンク搭載船は上述のごとく構成されているので,船橋4から前方への見通し線5がより下方に向き,死角が小さくなるので,前方見通しを十分確保できるようになる。これにより,航行中における安全性が高められるのである。
また,第2図に示す第3タンク13と従来の球形タンク(鎖線)とを比較すると,タンク13の容積は同一の直径および高さを有する球形タンクの容積の約1.32倍が確保されており,したがって,第1図に示すような本発明のタンク搭載船において,従来のタンク搭載船と同じタンク容量を持たせる場合,船首部のタンク高さを低くしているにもかかわらず搭載すべきタンク数を減少でき,その結果,船長の短縮をはかることが可能となる。
さらに,従来の球形タンクでは,タンクの高さを変えるため,直径の異なるものを製作する場合,その直径によりタンク外板の曲率が変化し,タンク製作が複雑なものになるが,本発明における竪型円筒状のタンク11〜14では,タンク頂板の形状は同一でよく,タンク11〜14の周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さの異なるタンクを容易に製作できる。
なお,本実施例のタンク搭載船では,第3タンク13および第4タンク14の直径は高さと等しく設計しているが,円筒状の場合は球形と異なり直径と高さとを等しくする必然性はなく,個々の設計事情に応じて直径と高さとは異なった値に選定できる。
また本実施例では,最前部の第1タンク11およびその後方の第2タンク12の高さを低くしたが,最前部の第1タンク11のみの高さを第2タンク12より低くしてもよい。」(甲1,5頁右上欄5行〜6頁左上欄8行)。
「〔発明の効果〕以上詳述したように,本発明のタンク搭載船によれば,船尾部の上甲板上に船橋をそなえるとともに,同船橋よりも前方において船長方向に列設された複数の竪型円筒状タンクをそなえ,これらのタンクが,上記上甲板よりも上方へ突出するように,且つ上記船橋よりは低くなるように形成されて,上記タンクのうち最前部の第1タンクが,その後方の第2タンクよりも高さを低く形成されるという簡素な構成で,船体の大きさに対してタンク容積を大きく確保することができるとともに,船尾部上甲板上の船橋における前方見通しを良好に確保できるようになる。」(甲1,6頁左上欄9行〜右上欄1行)。
(イ)相違点1についての容易想到性に係る判断上記第1引用例の記載,特に「本発明における竪型円筒状のタンク11〜14では,タンク頂板やタンク底板の形状は常に同一でよく,タンク11〜14の周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さの異なるタンクを容易に製作できる。」(甲1,2頁右下欄4行〜9行)との記載によれば,第1引用例においては,本願補正発明と同様に,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化させることが開示されているものといえる。そして,その他の記載を見ても,上記のタンク頂板及び底板の形状は同一でよいことが記載されているのみであって,その形状については,格別の限定はされておらず,タンク頂板を弧状にし,底板を平坦にすることが第1引用例において必須の構成とされているものではない。
そして,第1引用例には,従来例として球形タンクが示されている(甲1,〔従来の技術〕,第3図)。また,タンクの形状として,上下の半球形状のものを合わせて球形タンクを構成することは,特公昭51-20797号公報(甲3),特開昭56-146485号公報(甲4),実願昭58-96759号(実開昭59-35194号のマイクロフィルム〔甲5〕)及び実願昭56-94403号(実開昭57-204988号のマイクロフィルム〔甲6の1及び2〕)に示されているとおり周知技術であるといえる。
そうすると,第1引用例においては,球形タンクの前方の視認性の確保とタンクの総容積の増大とが相反する性質を有することを踏まえつつもなお,タンクの総容積の増大を図る必要のある場合にはタンクの頂板及び底板を従来周知の半球形状のままとした上で中間部分の高さを適宜に設計することにより総容積増大の目的を達成し,その必要がない場合には従来周知の球形状のままにすれば足りると設計することができるということができる。
半球形状における前記相反性の一般論を考慮しつつも,引用発明のタンクにおいて上下部分として半球形状を選択することなどに格別の創意を要しないとした審決の判断に誤りはなく,この点に係る原告の主張は理由がない。
ウ小括以上のとおりであって,本願補正発明の相違点1に係る構成は,第1引用例に基づいて,容易に想到することができるから,相違点1に係るその余の判断をするまでもなく,審決の判断に誤りはない。
念のため,相違点1に係る原告の主張(2)及び(3)についても,審決の誤りの有無について判断する。
(2)強度向上のために,タンクの上下部分を半球形状にすることが容易であるとした誤りについて原告は,強度向上のために,引用発明におけるタンク頂板と底板とを半球形状にすることに格別の創意は要しないとの審決の判断には,誤りがあると主張する。
しかし,以下に述べるとおり,原告の主張は理由がない。
ア原告は,第1引用例では,容積効率を改善するためにタンクを竪型円筒状にしており,そのタンクは球形ではなく,タンクが応力を受けたときに,タンク頂板と円筒状部分との間の連結部,及び円筒状部分と平坦な底板との連結部等に応力が集中される構成になっているから,「上下部分を従来のまま半球形状」としても,タンク全体の強度が向上するとは考え難いと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。
第2引用例には,「(5)タンクの南半球の形状が通常の鏡板構造と異なり,貨液の半載時の液面近傍,すなわち赤道から南緯30°程度の範囲が,半径が赤道部の水平断面の半径とほぼ等しい球体形状に形成されていることで,複雑な半載時の液の動揺による座屈問題を従来の真球タンクと同じ信頼性をもって設計できる。」(甲2,3頁右下欄1行〜7行)と記載されているとおり,球体形状にすれば座屈強度の強くなることが記載されている。そして,「球面形状は応力に対して強固な形状であることは一般的に知られた事項」であるから,第1引用例においても,タンクの容積効率を改善するに当たって,上下部分を従来技術と同様の形状である半球形状とすることは,当業者にとって格別の困難を要しないことであるといえる。したがって,原告の上記主張は理由がない。
イなお,原告は,引用発明においては,第1引用例の第1図(別紙参照)のとおり,タンク底板を平坦に形成して,その底板を船底で支える構成とされているから,液化ガス等を収容したタンクの重量は,底板を介して船底で支持される構成とされている旨主張する。
しかし,第1引用例には,タンク底板を平坦に形成し,その底板を船底で支える構成とし,液化ガス等を収容したタンクの重量は底板を介して船底で支持されるものであるとの記載は見当たらず,引用発明のタンクが船底で支持されるもののみに限定されると解する理由はない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3)容積率改善のために,上下部分を半球形状のままとし,その間に円筒部を差し挟むことが容易であるとした誤りについてア原告は,第1引用例においては,タンク頂板とタンク底板を半球形状よりも扁平にすることが必須であるから,これらを従来の半球形状に戻すことは考え難いと主張する。
しかし,第1引用例においてタンクの頂板と底板とを半球形状よりも扁平な形状にすることが必須であるといえないことは,前記(1)イ(イ)で説示したとおりであるから,原告の上記主張は,その前提に誤りがあり,採用することができない。
また,原告は,第1引用例(甲1)の第1図,第2図(別紙参照)におけるタンク頂板及びタンク底板を半球形状にすることは,タンクの高さを増加させることになって,阻害要因がある旨主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,第1引用例には,「船橋からの前方見通しとタンク容積効率は密接な関連があり,例えば船首部の2つのタンク21,22の直径を減じて上甲板上への突出量を減少させれば船橋からの見通しは改善されるがタンク容積効率は更に悪化することになる。」(甲1,4頁右下欄16行〜5頁左上欄1行)と記載されているとおり,タンクの形状と前方通しとが密接に関係することは当業者にとって自明のことであり,タンク頂板及びタンク底板の形状をどのようにするかは,引用発明を具体化する際に,前方の見通しを確保することができるよう,その形状による突出量を考慮して,当業者が適宜決定することができる設計的事項であって,その形状として,従来周知の半球形状を採用できないとする格別の理由はない。したがって,阻害要因がある旨の上記原告の主張は理由がない。
イ原告は,タンクの容量を定める部材として見た場合に,第1引用例における円筒状の外板はタンクの主要部を構成する部材であるのに対し,第2引用例のタンクの円筒部5は,タンクの主要部を構成する部材ではないから,第2引用例の円筒部5を引用発明における円筒状の外板に代えて使用することは,容易でないと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,第2引用例の円筒部5もタンク容量を定める部材の1つであり,主要部を構成する部材に当たるといえるものである。そうすると,引用発明において中間部分の設計に当たり,上下部分の間に第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むことを選択することに格別の創意を要しない。よって,原告の上記主張は理由がない。
ウ原告は,引用発明は,タンクを竪型円筒状にして容積効率を改善しているのであるから,そのような円筒状のタンクに第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むことを選択する必要はない旨主張する。
しかし,審決は,引用発明の上下部分を従来の球形のままとし,その上下部分の間の「円筒形のタンク外板」の具体的な構造として,第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むことには,格別の創意を要しないとの論理を示したものであると理解され,そのような論理に不合理な点はないから,原告の上記主張は理由がない。
エ原告は,引用発明の目的は容積効率の改善にあるから,「容積を拡張する必要のないタンクは球形を保持するようにする」という技術思想は,そもそも引用発明には存在しないと主張する。
しかし,引用発明の目的が容積効率の改善にあるとしても,それは複数個のタンクの総容積を改善することで足り,具体的にタンクを複数個設置するに当たり,前方の視認性も考慮して,容積を増大させる必要がないと判断された一部のタンクの形状を球形とすることに,合理性がないとはいえないから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。
オ原告は,引用発明は,従来の球形タンクの直径及び高さと同一の高さとする条件でタンクの形状を竪型円筒状とすることによってその容積効率を改善するものであるのに対し,本願補正発明は,上下部分を従来の球形タンクの上下部分の形状と同様に維持しつつ円筒形の中間部分を設けることによって従来の球形タンクの高さを変更して本願補正発明の課題を解決するものであるから,引用発明の構成から本願補正発明の構成に至ることは容易ではない旨主張する。
しかし,引用発明のタンク容積効率は,前方見通しを確保できる範囲内で改善するものであると把握することができるのであり,また,引用発明の竪型円筒状タンクは,上甲板よりも上方へ突出し,かつ船橋よりは低くなるように形成されるとともに,最前部の第1タンクの高さをその後方の第2タンクの高さよりも低く形成することによりタンク容積効率を改善するものであり,竪型円筒状タンクの高さを球形タンクの高さと同じにすることを前提として,タンク容積効率を改善するものであると解すべき記載はない。したがって,引用発明でいう「容積効率の改善」とは,従来の球形タンクと直径及び高さを同一にした場合のタンクの容積を増加させることであるとの前提に立った原告の主張は,採用することができない。
2取消事由2(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)原告は,本願補正発明の相違点2に係る構成とすることに,格別の困難性は要しないとした審決が誤りであると主張する。
しかし,船舶に搭載されるタンクにおいて,何らかの手法でタンクを支持する必要のあることは自明であるから,タンクを支持する構成として周知である「船体に搭載されるタンクの赤道部分に,船体側に設けられたスカート部と結合させるための赤道形状部を設ける構成」,及び「赤道形状部を別体に形成した後,溶接によりタンク本体に結合させる構成」を採用することに格別の創意を要するものではない。
したがって,その旨の審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(作用効果に係る判断の誤り)について原告は,本願補正発明には,?@タンクの上下部分を同じ曲率半径を有する半球形状とすることにより,従来の球形タンク21ないし24の製造のために使用していた成形型,組立て治具等を使用して製造することができる,また,?A中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化させることができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製作は比較的簡単である,との顕著な作用効果を有しているから,その作用効果に照らして,本願補正発明を発明することは容易ではなかった旨主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,第1引用例には,「本発明における竪型円筒状のタンク11〜14では,タンク頂板やタンク底板の形状は常に同一でよく,タンク11〜14の周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さの異なるタンクを容易に製作できる。」(甲1,2頁右下欄4行〜9行)と記載されており,タンクを構成する部材を同一の形状とすれば,必然的にその成形型や治具は,同一のものを使用することができ,部材の製作が容易となることは,自明である。そして,異なるタンクの上部の部材同士又は下部の部材同士を「同じ曲率半径」の半球形状とするのみならず,同一タンクの上部と下部の部材同士を「同じ曲率半径」の半球形状とした場合には,更にその製作が容易になるであろうことも自明のことであるから,原告主張の前記作用効果をもって,当業者が予想し得ない顕著な作用効果であるとは認め難い。
また,「高さの異なるタンク」は,その容量の異なることが明らかであるから,上記記載のうち,「高さの異なるタンクを容易に製作できる。」との記載部分は,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化させることができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製作が比較的簡単であることを実質的に示唆するものであるといえるから,この点に係る原告主張の作用効果も,引用発明から予想し得ない顕著な作用効果であるとはいえない。
そうすると,「相違点1及び2に係る構成を併せ備える本願補正発明の作用効果について検討しても,第1引用例,第2引用例に記載された発明及び上記周知の技術から,当業者が予測しうる域を超えるものがあるとは認められない。」(審決書6頁29行〜31行)とした審決の判断に誤りがあるとはいえず,この点に係る原告の主張は理由がない。
4結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大須賀滋
裁判官 齊木教朗