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関連審決 不服2005-20125
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10368審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10479審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10291審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10064審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10003審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10360号 審決取消請求事件
原告X
同訴訟代理人弁護士大毅
被告特許庁長官
同 指定代理 人川本眞裕蓮井雅之 紀本孝 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/07/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2005-20125号事件について平成20年8月25日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,本件補正後の発明の要旨を下記2とする原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件出願(甲5)及び拒絶査定発明の名称:「ハンガー」出願番号:特願2003-73181号出願日:平成15年3月18日拒絶査定:平成17年9月15日付け(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成17年10月19日(不服2005-20125号)手続補正:平成20年6月16日(甲6。以下「本件補正」という。)本件審決日:平成20年8月25日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成20年9月5日2発明の要旨本件審決が対象とした本件補正後の請求項1に記載の発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。なお,本件補正後の請求項1の原文では,「相通穴」と記載されているが,同記載が「挿通穴」の誤記であることは,当事者間に争いがない。
【請求項1】ハンガー本体と該ハンガー本体の腕部内に収まる大きさの補助ハンガーとよりなり,ハンガー本体の中心部には,補助ハンガーに固定された吊り杆が一定距離上下動し且回転自在に挿通する挿通穴を設けると共に挿通穴の下端部にハンガー本体の腕部とは十字方向の下向きの掛合凹部を設け,ハンガー本体と補助ハンガーの互いの腕部を回動させてハンガー本体の腕部内に補助ハンガーを収めて一本状態に止着自在とすると共に,凹部に補助ハンガーを係合させて十字型状態に止着自在とし,吊り杆のより以上の落下を防止するストッパーと挿通穴の間にバネを設けて,バネに抗して吊り杆を押し引き下げ自在としたハンガー。
3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記(1)の引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。),下記(2)の引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)並びに下記(3)及び(4)の周知例1及び2に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(1)引用例1実公昭37-17367号公報(甲1)(2)引用例2実願昭62-8215号(実開昭63-117359号)のマイクロフィルム(甲2)(3)周知例1実願昭12-19267号(実公昭12-14998号)のマイクロフィルム(甲3)(4)周知例2実願昭52-175606号(実開昭54-98736号)のマイクロフィルム(甲4)なお,本件審決がその判断の前提として認定した本願発明と引用発明1との相違点は,以下のとおりである。
本願発明は,吊り杆を「補助ハンガーに固定」し,ハンガー本体の中心部に「ハンガー本体の腕部とは十字方向の下向きの掛合凹部を設け」,「凹部に補助ハンガーを係合させて」十字型状態に止着自在とし,「ストッパーと挿通穴の間にバネを設けて,バネに抗して吊り杆を押し引き下げ自在とした」のに対して,引用発明1は,そのように構成されていない点4取消事由(1)相違点についての判断の誤り(取消事由1)(2)顕著な作用効果についての判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1について〔原告の主張〕(1)引用発明2を引用発明1に適用し得るかア本件審決(6頁2〜7行)は,引用発明1に引用発明2を適用して,吊り杆を「補助ハンガーに固定」し,ハンガー本体の中心部に設けられた下向きの凹部を「掛合凹部」とし,「凹部に補助ハンガーを係合させて」止着自在とし,「ストッパーと挿通穴の間にバネを設けて,バネに抗して吊り杆を押し引き下げ自在」とすること,すなわち,本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることであると判断したが,以下のとおり,第1に,引用発明2の構成を引用発明1に適用し得ない点において,第2に,その適用を認め得るとしても,本願発明の構成に容易に想到し得ない点において,その判断は誤っている。
イ引用発明1は,「通風の良好によつて形を損ぜずに速かに乾燥」(引用例1の1頁左欄末行〜右欄1行)させることを用途とするものであるのに対し,引用発明2は,洗濯物の量や日差しに応じ物干し竿に対して適当な角度で旋回止めして用いることができるようにすること,衣装ダンス内でハンガー主体の正面を使用者の方向に向けることができるようにすること(引用例2の明細書5頁1〜5行)などを用途とするものであるから,当業者は,引用発明1に引用発明2を適用することに容易に想到することができないというべきである。
ウまた,本願発明は,ハンガー本体と補助ハンガーとを十字型状態にし,かぶせた洗濯物を最大限に広げることにより,衣類内部への空気の流通を自在とし,乾燥効果を高めることを目的とするものであり,引用発明2の上記用途を全く予定していないのに対し,引用発明2は,上記用途に用いることを目的とするものであり,両者は,解決課題及び技術的思想を異にするものであるから,仮に,引用発明1に引用発明2を適用し得るとしても,これによって,本願発明の構成に容易に想到し得るということはできない。
(2)掛合凹部の構成が設計的事項といえるかア本件審決(6頁7〜15行)は,本願発明の構成のうち,ハンガー本体の中心部に「ハンガー本体の腕部とは十字方向の下向きの掛合凹部を設け(る)」との構成(以下「掛合凹部の構成」という。)につき,ハンガー本体の中心部における挿通穴の下端部に下向きの掛合凹部を設けることが従来周知である(例えば,周知例1(凹処6参照),周知例2(切込み溝5a参照)などを参照)ことからみて,引用発明1の「下向きの凹部」も「掛合凹部」であると推察されること,さらに,引用発明1において,ハンガー本体と補助ハンガーとが一本状態と十字型状態とをとること,などを勘案すれば,引用発明1の「下向きの凹部」を本願発明の掛合凹部の構成とすることは,当業者が適宜なし得ることであり,設計的事項にすぎないと判断したが,以下のとおり,その判断は誤っている。
イ引用例1をみる限り,引用発明1の下向きの凹部が掛合凹部であるものと確認することはできないから,引用発明1の「下向きの凹部」も「掛合凹部」であると推察されるとの本件審決の認定は,その根拠を欠くものである。
ウまた,本件審決が認定した周知技術や引用発明1を基にして掛合凹部を設ける場合には,ハンガーの一部を削って凹部とするなどし,掛合凹部としての新たな凹部を設けないことから,揺動ガタを防止するため,引用例1の第4図に示されたような別加工の大掛かりな支片を設ける必要があるのに対し,本願発明においては,ハンガーとは別に凹みの大きい掛合凹部を設けることにより,上記のような支片を設けることなく,揺動ガタを防止することができる。
要するに,本願発明の掛合凹部は,本件審決が認定した周知技術や引用発明1を基に形成され得る掛合凹部とは,その仕組みを異にするものであって,設計的事項にすぎないものではないから,当該周知技術や引用発明1から,本願発明の掛合凹部の構成に容易に想到することはできないというべきである。なお,周知例1に記載された技術はバネがないことにより,周知例2に記載された技術は重合状にある場合に押さえがないことにより,いずれも,本願発明に比して不安定なものである。
〔被告の主張〕(1)引用発明2を引用発明1に適用し得るかア技術分野について引用発明1及び2は,いずれもハンガーに関する発明であり,その属する技術分野を共通にしている。
イ構成及び機能について引用発明1は,ハンガー本体(ハンガー主杆1)が補助部材(ハンガー主杆2)に対して吊り杆(掛吊杆4)を中心に相対的に回動し得るように構成されており,これにより,補助部材に対するハンガー本体の向きを変えることができるという機能を有している。
また,引用発明2は,ハンガー本体(ハンガー主体2)が補助部材(かけはずし継手3 )に対して吊り杆(フック1)を中心に相対的に回動し得るように構成さ1れており,これにより,補助部材に対するハンガー本体の向きを変えることができるという機能を有している。
このように,引用発明1及び2は,ハンガー本体が補助部材に対して吊り杆を中心に相対的に回動し得るように構成されており,これにより,補助部材に対するハンガー本体の向きを変えることができるという点で,その構成及び機能を共通にするものである。
ウ小括以上からすると,当業者であれば,引用発明1に引用発明2を適用して,本願発明の構成に容易に想到することができるというべきである。
(2)掛合凹部の構成が設計的事項といえるか引用発明2のハンガー本体(ハンガー主体2)に形成された「下向きの掛合凹部」(かけはずし継手3 )は,多数の歯体から成るものであるところ,同発明の2補助部材(かけはずし継手3 )にも多数の歯体が形成されているため,これらの 1歯体同士の掛合により,同発明は,揺動ガタを生じることなく,そのハンガー本体を補助部材に対し「適当角度に旋回止め」することができるものである。そして,同発明において,ハンガー本体を物干竿等に直交する向きに掛ける場合と平行な向きに掛ける場合の2通りの状態をとることで十分であるとするときは,その構造からみて,同発明の「下向きの掛合凹部」(かけはずし継手3 の歯体)を「ハンガ2ー本体の腕部とは十字方向の下向きの掛合凹部」,すなわち,本願発明の掛合凹部の構成にすればよいことが明らかである。
また,引用発明1と同種のハンガーにおいて,ハンガー本体の中心部における挿通穴の下端部に下向きの掛合凹部を設けること,すなわち,凹部を掛合凹部にすることは,例えば,周知例1及び2等にみられるように従来周知の技術であるから,引用発明1の「下向きの凹部」も「掛合凹部」であると推測することができる。
以上に加え,引用発明1のハンガー本体と補助部材が一本状態と十字型状態をとることをも併せ考慮すると,引用発明1に引用発明2を適用する際,引用発明1の「下向きの凹部」を掛合凹部に係る本願発明の構成とすることは,本件審決の判断するとおり,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべきである。
2取消事由2について〔原告の主張〕本件審決(6頁20〜22行)は,本願発明の効果につき,引用例1の記載や引用例2の記載などから当業者が予測できる範囲内のものであって,格別なものとはいえないと判断したが,本願発明は,次のとおりの顕著な作用効果を奏するものであるから,本件審決の判断には,これを看過した誤りがある。
(1)速乾性本願発明は,ハンガー本体に洗濯物を掛けた後にハンガー本体と補助ハンガーとを十字状に止着し,ハンガー本体と補助ハンガーとそのいずれの腕部にも洗濯物をつるすことを構造上想定しているものであるところ,このように,本願発明においては,洗濯物が十字状のハンガーにつるされて乾燥されるため,洗濯物を最大限に広げ,内部の通気性を良くすることが可能であり,通常のハンガー(引用発明1及び2においても同じであると考えられる。)に比して,優れた速乾性(通常の3分の2程度の時間で足りる。)を発揮するものである。
(2)効率性及び安全性引用発明1も,十字状で使用することが考えられないわけではないが,その場合,十字状とする際及び洗濯物の取り込みのため一本状に戻す際の2度にわたり,洗濯物の下から手を差し入れて,主杆2を弾機3に抗して手で引き下げるという非常に煩わしい作業(両手を用いても至難の業である。)を要する。
これに対し,本願発明は,補助腕部3に掛け杆5が一体化され,挿通穴6の下端部に下向きの十字方向の凹部7が設けられているため,掛け杆5の頭部の吊部分をバネ10に抗して押し下げ回転させることにより,簡単に十字状及び一本状に止着することができるので,引用発明1に比して,非常に効率的である。
また,引用発明1においては,別加工の支片(引用例1の第2図及び第4図参照)の突出部により,女性や子供が手等にけがをする危険がある。
これに対し,本願発明においては,上記突出部が存在しないので,そのような危険が一切ない。
〔被告の主張〕(1)速乾性速乾性を発揮させる目的で,ハンガー本体と補助ハンガーとで洗濯物を広げて乾燥させることは,例えば,実願昭59-45519号(実開昭60-158597号)のマイクロフィルム(乙1。以下「乙1公報」という。)の記載及び図示(明細書4頁10行〜5頁の表及び同頁下から2行〜6頁2行並びに第3図)等にみられるように,従来周知の乾燥方法である。
また,引用発明1の吊挟み金具は,様々な掛吊支持を可能とするものである(引用例1の1頁左欄15〜22行,同頁右欄12〜19行等参照)から,同発明において,本願発明のように洗濯物を十字状に広げて干すとの用途を有することが否定されるものではないし,引用発明1においては,その構造からみても,本願発明のように洗濯物を十字状に広げて干すことが可能である(引用例1の1頁左欄15〜18行参照)。
このように,原告が主張する本願発明の乾燥方式は,従来周知の乾燥方式にすぎず,引用発明1においても同様の乾燥方式をとり得るのであるから,乾燥方式に関する本願発明の技術的思想は,格別のものといえないし,また,引用発明1も,速乾性に関する本願発明の作用効果を奏するものである。したがって,同作用効果は,当業者が予測することのできる程度のものであるといわざるを得ない。
(2)効率性及び安全性ア引用発明2は,吊り杆(フック1)をバネ(弾性体4)に抗して押し下げ,ハンガー本体(ハンガー主体2)を相対的に回転させて,その向きを物干竿と直交する方向にも平行な方向にも簡単に変えて止着することができ,その際,洗濯物の下から手を差し入れて補助部材(かけはずし継手3 )を手でバネに抗して引き下1げる必要がなく,同発明は,効率性に関し,本願発明と同様の作用効果を奏するものである。
イまた,「下向きの掛合凹部」を設けた引用発明2を引用発明1に適用すれば,揺動ガタを防止するための掛止杆10や支片7等がもはや不要となることは明らかである。
ウ以上からすると,原告が主張する効率性及び安全性に関する本願発明の作用効果は,引用発明1及び2から当業者が予測し得る程度のものであって,格別のものということはできない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(相違点についての判断の誤り)について(1)引用発明2を引用発明1に適用し得るか否かア本願発明について本願発明の構成は,前記第2の2のとおりであるが,願書に添付された図面(甲5)は,右のとおりである。
イ引用発明1について(ア)引用発明1の構成引用発明1の構成が次のとおりであることは,当事者間に争いがない。
「ハンガー主杆1と該ハンガー主杆1の下面に重合されるハンガー主杆2とよりなり,ハンガー主杆1の中心部には,掛吊杆4が一定距離上下動し且回転自在に挿通する挿通孔を設けると共に挿通孔の下端部に下向きの凹部を設け,ハンガー主杆1とハンガー主杆2を回動させてハンガー主杆1の下にハンガー主杆2が重合した状態に止着自在とすると共に,ハンガー主杆2を十文字に開いた状態に止着自在とし,掛吊杆4のより以上の落下を防止するストッパーと弾機3を設けた被服ハンガー。」(イ)引用例1の記載さらに,引用例1(甲1)には,次の各記載及び図示がある。
a「本考案は一対のハンガー主杆1,2を重合状としてその中心を弾機3で弾支した掛吊杆4により回動自在に枢支させ,各ハンガー主杆1,2の両端に掛止孔5,6を列設すると共に両主杆1,2のいずれかに取付けた支片7に挿通孔8を介しかつ弾機9で弾支し摺動自在とした掛止杆10を設け掛止杆10の掛止曲鉤11を両主杆1,2の挿支孔12,13に掛脱自在に掛合させて成る吊干器兼用の被服ハンガーに係る。
本考案は上述の構成であるから,第1図示のように両主杆1,2を上下重合して掛止杆10を掛止させ一体化して用いれば,通常の被服ハンガーのようにこれに被服を常法のごとく掛架できる。」(1頁左欄6〜18行)b「また掛止杆10を弾機9に抗して図の場合これを引上げ,その掛止曲鉤11を両主杆1,2の掛止孔12,13から外し,主杆1,2を…十文字に開く時は,ズボンスカート等の洗濯物を各主杆1,2の掛止孔5,6を利用して掛吊した吊挟み金具等によつて掛吊支持することにより,ズボン,スカートを開放状に吊持して,通風の良好によつて形を損ぜずに速かに乾燥できるのである。
本考案による構造上の利点は,従来のハンガーのごとく単に被服の支持用のみでなく,吊干器としても兼用できる点であり,一対のハンガー主杆1,2は…簡単に重合され,中心の掛吊杆4によつて回動自在に組合せられるのである。このさい杆4に弾機3を附設してあるから,両主杆1,2を常に確実に接支させ重合のさいも十文字のさいも揺動ガタを生じることもない。」(1頁左欄22行〜右欄10行)ウ引用発明2について(ア)引用発明2の構成他方,引用発明2の構成が次のとおりであることも,当事者間に争いがない。
「ハンガー本体の中央部には,かけはずし継手(3 )に固定されたフック(1)が一1定距離上下動し且回転自在に挿通する挿通穴を設けると共に挿通穴の下端部に歯体を設け,ハンガー本体とかけはずし継手(3 )とを回動させて歯体にかけはずし継手1(3 )を係合させて止着自在とし,フック(1)のより以上の落下を防止するストッパ 1ーと挿通穴の間に弾性体(4)を設けて,弾性体(4)に抗してフック(1)を押し引き下げ自在としたハンガー。」(イ)引用例2の記載さらに,引用例2(甲2)には,次の各記載及び図示がある(各記載の引用箇所を特定する頁数は,明細書に付されたものである。)。
a「〔産業上の利用分野〕この考案は,フックに対するハンガー主体の旋回と旋回止めができるようにした衣類用ハンガーに関する。」(1頁12〜15行)b「〔従来の技術〕従来の衣類用ハンガーにおいては,フックに対してハンガー主体が旋回できないものと自由に旋回できるが旋回止めができないものとがあった。」(1頁16行〜末行)c「〔考案が解決しようとする問題点〕しかし,これでは場合に応じてフックに対してハンガー主体を適当角度に旋回させ,かつ旋回止めして用いるのに不向きであつた。
この考案は,このような欠点を解決し,フックに対してハンガー主体が旋回でき,かつ旋回止めができる衣類用ハンガーを提供することを目的としている。」(2頁1〜8行)d「〔問題点を解決するための手段〕この考案の第1実施例を示す第1図にもとづいて説明すれば,次の通りである。
(1)はフック,(2)はハンガー主体であり,この両者(1),(2)のみの関係では,フック(1)に対してハンガー主体が旋回自在になっている。
(3 ),(3 )はかけはずし継手であり,それぞれ12フック(1)の下部とハンガー主体(2)中央下部とに固設されている。(4)はコイルスプリングによる弾性体であり,フック(1)の湾曲部下端とハンガー主体(2)上部とを押し拡げるように作用させることによって両かけはずし継手(3 ),(3 )を加圧掛合させてい12る。」(2頁9行〜末行)e「〔作用〕この考案は,以上のように構成されているので,弾性体(4)を圧し返すように操作すれば,フック(1)に対しハンガー主体(2)を旋回させることができ,その操作をやめれば両かけはずし継手(3 ),(3 )は加圧掛合されて,フック(1)に対するハンガ12ー主体(2)の旋回止めがなされる。」(3頁1〜7行)f「〔考案の効果〕この考案は以上説明したように,フック(1)に対するハンガー主体(2)の旋回と旋回止めができるので,物干用として用いるならば,洗濯物の量や日差しに応じて物干竿に対して適当角度に旋回止めして用いることができる。また衣裳ダンス内で用いれば,衣服のかけはずし時などにハンガー主体(2)の正面を使用者側に向けることができる。また,鴨居にフック(1)を掛ける時には,ハンガー主体(2)を適当角度に旋回止めして用いると安定性が得られる。また,衣服の展示用として効果的な旋回角度を設定するのにも都合がよい。」(4頁18行〜5頁9行)エ検討上記イ及びウによれば,引用発明1は吊干器兼用の被服ハンガーに係る技術分野に,引用発明2は物干し用にも用いることのできる衣類用ハンガーに係る技術分野にそれぞれ属するものであり,両発明は,その属する技術分野を共通にするものといえる。
また,引用発明1は,通常の被服ハンガーとして用いるとともに,吊干器として用いるため,互いに回動自在としたハンガー主杆1とその下部に設けられたハンガー主杆2とを,弾機3及び掛止杆10により,重合状態及び十字型状態の双方において確実に接支させるものであり,互いに回動自在としたハンガー主杆1及び2を一定の角度を有する状態で確実に固定させるとの技術的課題を解決するものと認められる。
他方,引用発明2は,物干し竿等に掛ける場合に所望の角度を持たせた旋回止めが可能なハンガーとするため,互いに旋回自在としたハンガー主体(2)の中央下部に設けられたかけはずし継手(3 )とフック(1)の下端付近(かけはずし継手(3 )の下2 2部)に設けられたかけはずし継手(3 )とを,かけはずし継手(3 )及び(3 )に形成さ 1 1 2れた歯体並びに弾性体(4)により,フック(1)とハンガー主体(2)とが一定の角度を有する状態で,かけはずし継手(3 )及び(3 )を加圧掛合させるものであり,互いに1 2旋回自在としたフック(1)とハンガー主体(2)を一定の角度を有する状態で確実に固定させるとの技術的課題を解決するものと認められる。
そうすると,両発明は,実質的に同様の技術的課題を解決するものということができる。
なお,引用発明2の構成を引用発明1に適用することにつき,何らかの阻害要因があるとはうかがわれない。
以上によると,当業者は,容易に,引用発明1における上記固定方法に代え,引用発明2の構成を適用することができるものというべきである。
オこの点に関し,原告は,引用発明1及び2がその用途を異にするとして,引用発明2の構成を引用発明1に適用することに容易に想到し得ないと主張するが,引用発明1も,引用発明2も,いずれもハンガーに関する発明であることに照らすると,その用途に違いがあったとしても,当業者にとってみれば,その違いは以上の判断を妨げるようなものではなく,原告の主張を採用することはできない。
(2) 本願発明の構成に容易に想到し得るか否かア引用発明2の構成は,前記(1)ウ(ア)のとおりであるところ,これを引用発明1に適用すれば,本願発明の?@吊り杆を「補助ハンガーに固定」するとの構成,?A(ハンガー本体の中心部の挿通穴の下端部に設けられた)「凹部に補助ハンガーを係合させて」十字型状態に止着自在とするとの構成及び?Bストッパーと挿通穴の間にバネを設けて,バネに抗して吊り杆を押し引き下げ自在とするとの構成)を得ることができることは明らかであるから,当業者は,引用発明2の構成を引用発明1に適用することにより,本願発明の構成に容易に想到し得たものというのが相当である。
イこの点に関し,原告は,本願発明と引用発明2がその解決課題及び技術的思想を異にするとして,仮に引用発明2の構成を引用発明1に適用し得るとしても,これによって本願発明の構成に容易に想到し得るとはいえないと主張するが,前記(1)及び上記アのとおり,引用発明2の構成を引用発明1に適用することができる以上,本願発明の構成を得ることができるといわなければならないから,原告の主張を採用することはできない。
(3)掛合凹部の構成の設計的事項性アまず,引用発明1のハンガー主杆1の中心下部に設けられた「下向きの凹部」を「下向きの掛合凹部」とすることについて検討すると,以下のとおりにいうことができる。
(ア)周知例1の記載周知例1(甲3)には,次の各記載及び図示がある(参照の便宜のため,適宜,仮名遣い及び字体を改め,句読点を付した部分がある。)。
a「実用新案の性質,作用及び効果の要領本考案は,長短2条の掛杆を上下に重ね合せて中央部を吊鉤に枢着し…たる構造のものにして,図中(1)(2)は上下に相合致すべき長短2条の掛杆,(3)は両掛杆の中央部に貫通したる枢軸兼用の吊鉤,…(6)は上位掛杆の中央部下面に形成したる係合凹所にして下部掛杆を直角の位置迄回動して該凹所に嵌合すべからしむ。
上下掛杆(1)(2)は,掛鉤(3)(判決注:『吊鉤(3)』の誤記であると認められる。)に対して緩く貫通せらるるが故に,下部掛杆(2)を直角の位置迄回動して之を凹所(6)に嵌合せしむれば,…両杆を十字形に組合せ得べく,此の場合,挟持具(4)(4)は,四個所に配列せらるるを以て,例えば『ズボン』を洗濯して乾かす場合には,其の上縁を各挟持具に支持せしむることにより『ズボン。』全体を筒状に吊り下げ得る為,著しく乾燥を迅速ならしめ得べく…」(1頁3〜9行)b「登録請求の範囲図面及び説明に示す如く,上下に合致すべき長短2条の掛杆(1)(2)を各中央部に於て枢軸兼用の吊鉤(3)に貫通吊持せしめ,…上部掛杆の下面中央に係合凹所(6)を穿ちて之に下位掛杆を嵌合すべからしめたる干物掛兼用衣紋掛の構造」(2頁1〜3行)(イ)周知例2の記載周知例2(甲4)には,次の各記載がある(各記載の引用箇所を特定する頁数は,明細書に付されたものである。)。
a「実用新案登録請求の範囲中央部に巾方向に向く貫通孔(1)を形成せる2ケの帯状板片(2a)(2b)をその貫通孔にフック(3)の直杆部(4)を挿通し抜止めとし,上段板片(2a)の中央部にはその下半部に,又下段板片(2b)の中央部にはその上半部に板片の肉厚より大なる巾の切込み溝(5a)(5b)を形成し…たことを特徴とする物干具。」(1頁3〜11行)b「この物干具は上下両板片(2a)(2b)の対向する切込み溝(5a)(5b)を,一方の板片を90°向きを変えることによって…十字形に交叉固定状とすることができ,…又…上下の板片を揃えることによって1枚板のようになる」(3頁3〜11行)(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば,上下2本のハンガー主杆を嵌合し,十字型状態で固定するため,上部のハンガー主杆の中央下部に下向きの掛合凹部を設けることは,本件出願当時の周知技術であったものと認められるから,当該周知技術を適用して,引用発明1の下向きの凹部を下向きの掛合凹部とすることは,当業者が容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
イ次に,引用発明1の下向きの掛合凹部を掛合凹部に係る本願発明の構成とすることについて検討すると,以下のとおりいうことができる。
前記(1)ウのとおり,引用発明2のハンガー主体(2)の中央下部に固設されたかけはずし継手(3 )には,下向きに多数の歯体が形成され,これらの歯体が,かけはず2し継手(3 )(かけはずし継手(3 )の下部に設けられたもの)に形成された多数の歯1 2体と掛合されるのであるから,引用発明2のかけはずし継手(3 )は,下向きの掛合 2凹部であると認められる。
そして,引用発明2において,フック(1)に対してどのような角度でハンガー主体(2)を固定(旋回止め)するかは,かけはずし継手(3 )及び(3 )の歯体の形成方法1 2(歯体の数,形,形成位置等)を変更することにより,当業者が適宜選択し得る事項であるといえるから,ハンガー主杆1及び2を十字型状態で固定することを目的とする引用発明1に引用発明2の構成を適用するに際し,引用発明2の下向きの掛合凹部を掛合凹部に係る本願発明の構成(ハンガー本体の腕部と十字方向のもの)とすることは,当業者が適宜選択することのできる設計的事項であると認めるのが相当である。
ウ上記ア及びイによれば,当業者は,引用発明2の構成及び周知技術を引用発明1に適用することにより,掛合凹部に係る本願発明の構成に容易に想到し得たものと認めることができる。
エこの点に関し,原告は,本件審決が認定した周知技術や引用発明1を基にして掛合凹部を設ける場合には,揺動ガタを防止するため,引用例1の第4図に示されたような別加工の大掛かりな支片を設ける必要があるとして,当該周知技術や引用発明1から,掛合凹部に係る本願発明の構成に容易に想到することはできないと主張する。
しかしながら,引用発明2の構成を引用発明1に適用すれば,揺動ガタを防止するための支片7,掛止杆10等を設ける必要がなくなることは明らかであるから,原告の主張は,その前提を誤るものであって,失当といわなればならない。
また,原告は,周知例1及び2に記載された各技術が本願発明に比して不安定であると主張するが,前記ア(ウ)のとおり,周知例1及び2により認定した周知技術は,上部のハンガー主杆の中央下部に下向きの掛合凹部を設けるとの技術であるから,原告の指摘する事情は,上記ウの判断を左右するものではない。
(4)小括以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(顕著な作用効果についての判断の誤り)について(1)速乾性ア乙1公報の記載乙1公報には,次の各記載がある(各記載の引用箇所を特定する頁数は,明細書に付されたものである。)。
(ア)「本考案は,洋服,シヤツ類,下着類等の被服を吊下げるのに使用するハンガーに関するものである。」(1頁15〜17行)(イ)「…従来のハンガーによると,…吊下げた被服の前の部分と背の部分の布地がくっつき易く,該被服の内部に空間があまりできないので,空気の流通が悪く乾燥時間が長くかかる難点がある。」(2頁10〜14行)(ウ)「…本考案のハンガーによると,…一対の吊下げ部1A1BがX状に交差したり…して自在に使用することができる。従って,洗濯後の乾燥用に用いるときは,…交差状態にして被服7を吊下げると,吊下げられた被服7は膨らんで肩の部分と袖の付け根部分には相当の空間部分が生ずることとなり,空気の流通性が極めて良くなる。そして,以上の肩の部分の膨らみは,被服7の下方にも影響するので,被服7の内部は全体的に空気の流通度を増し,被服7全体の乾燥を著しく促進する速乾作用がある。」(4頁10行〜5頁1行)(エ)従来構造のハンガーと乙1公報に係る考案のハンガーを用いて同1条件における速乾性を対比実験した結果(乾燥に要した時間)は,風があるときの天日乾燥の場合につき後者が前者の約3分の2,雨天のときの室内乾燥の場合につき後者が前者の約2分の1であった。(5頁2〜4行及び同頁の表)(オ)「なお,本考案のハンガーは,前記の実施例に限定されず,基部3の連結軸をフック部3と分離したり,交差角θの任意調整ピンを付設する等公知手段によって変更を加えることがある。」(5頁下から2行〜6頁2行)イ上記乙1公報の記載に加え,被服をハンガー本体の上からかぶせる方法ではないものの(なお,被服をハンガー本体の上からかぶせるか否かによる作用効果の有無は,後記(2)の効率性に関するものである。),前記1(1)イのとおり,引用発明1において,ハンガー主杆1及び2を十字型状態とし,被服を開放状に吊持する方法をとることにより,通風を良好にして被服を速やかに乾燥することができること,前記1(3)ア(ア)のとおり,周知例1に記載された干物掛兼用衣紋掛において,掛杆(1)及び(2)を十字型状態とし,被服を筒状につり下げる方法をとることにより,乾燥を著しく迅速にすることができることをも併せ考慮すると,速乾性に関する本願発明の作用効果は,引用発明1及び周知技術から当業者が予測することのできる範囲内のものであると認められ,何ら顕著なものではないというべきである。
(2)効率性及び安全性また,前記1(3)エのとおり,引用発明2の構成を引用発明1に適用すれば,揺動ガタを防止するための支片7,掛止杆10等を設ける必要がなくなることは明らかであり,また,これにより,一本状態のハンガーを十字型状態とし,十字型状態のハンガーを一本状態とするために,洗濯物の下から手を差し入れて作業をする必要がなくなることも明らかであるから,効率性及び安全性に関する本願発明の作用効果は,引用発明1及び2から当業者が予測することのできる範囲内のものであって,何ら顕著なものではないというべきである。
(3)小括以上のとおりであるから,取消事由2も理由がない。
3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲