関連審決 |
無効2007-800125
訂正2008-390036 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10383審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10421審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 承継 / 創作性(創作) / 公然実施(29条1項2号) / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 周知技術 / 慣用技術 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 技術的意義 / 発明の要旨認定 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 訂正審判 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 変更 / 釈明 / 訂正明細書 / 訂正要件 / |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10422号
審決取消請求事件
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原告ス ガツネ工業株式会社 訴訟代理人弁理 士菊池新一 同 菊池徹 被告株式会社ストロベリーコーポレーション 訴訟代理人弁護 士森田政明 訴訟代理人弁理 士森正澄 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/06/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2007-800125号事件について平成20年10月21日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1原告は発明の名称を「折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置」とする特許第3489668号(請求項の数1)の特許権者であるが,被告が上記特許の請求項1について無効審判請求をしたところ,特許庁が,平成20年6月23日付け訂正請求による訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)について特許無効の審決をした。本件は上記審決に不服の原告がその取消しを求めた事案である。 2争点は,本件発明が,上記特許出願前に公然実施された発明(さいたま地方法務局所属公証人A作成平成19年第0102号の事実実験公正証書〔甲5〕に係るもの)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。 |
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当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯ア原告は,平成11年5月31日,名称を「折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置」とする発明について特許出願(特願平11-151708号)をし,平成15年11月7日特許第3489668号として設定登録を受けた(請求項の数1。甲34。以下「本件特許」という。)。 イこれに対し,被告は,平成19年7月3日付けで本件特許の請求項1について無効審判請求をしたので,特許庁は,同請求を無効2007-800125号事件として審理した上,平成20年2月22日,本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をした。 ウ原告は,上記審決に対して,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起し(平成20年(行ケ)第10085号),平成20年4月1日付けで本件特許について訂正審判請求(訂正2008-390036号)をしたところ,同裁判所は,平成20年5月30日,特許法181条2項により上記審決を取り消す旨の決定(差戻決定)をした。 エそこで,特許庁において本件無効審判請求が再び審理されることとなり,その中で原告は,本件特許について訂正請求(以下「本件訂正」という。)をし,上記ウの訂正審判請求は取り下げたものとみなされたが,特許庁は,平成20年10月21日,本件訂正を認めた上,本件特許の請求項1に係る発明についての本件特許を無効とする旨の審決をし,その謄本は平成20年10月27日原告に送達された。 (2) 発明の内容本件特許は,上記のとおり請求項1から成るが,本件訂正後の請求項1の内容は,次のとおりである(甲33,下線部は訂正部分)。 「第1部材に固設した第1ヒンジ筒の軸線と直交状である第1周側端縁部と,第2部材に固設した第2ヒンジ筒の軸線と直交状である第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設し,当該連装の第1,第2ヒンジ筒には別途組成済の係嵌組成体を第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入するだけで係嵌状態に保持するようにし,当該組成済の係嵌組成体は,上記の第1ヒンジ筒に回転止め状態で第1ディスクを,第2ヒンジ筒には回転止め状態で第2ディスクを夫々内嵌し,第1ディスクの第1突き合わせ端面と第2ディスクの第2突き合わせ端面のうち,第2突き合わせ端面には係嵌凹所を所定の周角度位置にあって複数個設け,第1突き合わせ端面には上記係嵌凹所に対して,コイルスプリングによる弾力により係合する複数の係嵌凸部を設け,第1,第2部材の閉時と開時に上記係嵌凸部の係嵌凹所への係嵌を,他の係嵌凹所へ切り替えるようにし,上記の第1ディスクは,筒状本体と,前記筒状本体に内嵌するディスク本体と前記筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して前記筒状本体内で前記スライド用切込み溝に沿って軸線方向へスライド自在とした摺動ディスクとからなり,前記摺動ディスクは,前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している前記第1突き合わせ端面を有し,前記摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは,前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記摺動ディスクの第1突き合わせ端面が前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状本体内に配置され,前記第1ディスクの筒状本体は,前記第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており,前記第1ディスクの摺動ディスクの第1突き合わせ端面には前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体の開口部から突出するように前記係嵌凸部を設けて,前記筒状本体の開口部から突出する前記係嵌凸部は,前記第2ヒンジ筒内で且つ前記第1ディスクの筒状本体の外部で前記第2ディスクの係嵌凹所に係嵌するようにすると共に,前記第2ディスクには抜け止め弾性爪を設け,前記コイルスプリングは,その両端が前記摺動ディスクと前記筒状本体の摺動ディスクとは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように前記第1ディスクの筒状本体内に配置され,さらに順次連装されている当該第2ディスク,摺動ディスク,コイルスプリング,第1ディスクの筒状本体に対して軸杆を貫装することで,抜け止め状態にて固定することにより,上記コイルスプリングをその弾力によって前記の摺動ディスクに弾接して,当該摺動ディスクと前記したスライド用切込み溝の奥端縁との間に,前記係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所を形成して上記第2ディスク,摺動ディスク,コイルスプリング,第1ディスクの筒状本体が一体となるよう構成されており,前記第2ディスクの基板部における第2突き合わせ端面の反対側に設けられた端面と,当該端面から突設された係止爪部に形成の前記抜け止め弾性爪との間に形成された離間箇所は,前記の如く第2ディスクと共に回転するようにした第2ヒンジ筒の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部が係嵌挟持されるような寸法に形成されていることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,同写し記載のとおり,請求人(被告)主張の無効理由その3について主として判断し,本件発明は,甲5(さいたま地方法務局所属公証人A作成平成19年第0102号「折畳み式携帯電話用ヒンジ装置の構造等に関する事実実験公正証書」)記載の本件特許出願前に公然実施された発明(以下「公然実施発明」という。)及び周知技術に基づいて容易に発明することができた,というものである。 イなお,審決が認定する公然実施発明の内容,本件発明と公然実施発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (ア)公然実施発明の内容(下線部は,後記第4,3(1)において言及する部分「キー側筐体に固設した第1筒状部の軸線と直交状である第1周側端縁部と,ディスプレー側筐体に固設した第2筒状部の軸線と直交状である第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設し,当該連装の第1,第2筒状部には組成状態で第2筒状部から第1筒状部向きに抜き出し可能なヒンジ装置を第1筒状部から第2筒状部へ貫入して,外周部異形固定カムから突出した軸の突起部分の溝にEリングを設けることにより保持するようにし,当該ヒンジ装置は,上記の第1筒状部に筒状ケースを,第2筒状部には外周部異形固定カムを夫々内嵌し,ボールハウジングの第1突き合わせ端面と外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面のうち,第2突き合わせ端面には窪みを所定の周角度位置にあって4個設け,ボールハウジングの第1突き合わせ端面には上記窪みに対して,係合する2個のボールを設け,前記ボールハウジングは,前記ボールと窪みとの係嵌状態で前記ボールハウジングの第1突き合わせ端面が筒状ケース外にある外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状ケース外に配置され,前記ボールハウジングの第1突き合わせ端面には前記ボールと窪みとの係嵌状態で前記筒状ケースの開口部から突出するように前記ボールを設けて,前記筒状ケースの開口部から突出する前記ボールは,前記筒状ケースの外部で前記外周部異形固定カムの窪みに係嵌するようにすると共に,前記外周部異形固定カムから軸の突起部分を突出させ,前記ばねは,その両端が前記ボールハウジングとボールハウジングとは反対側の軸の頭部側の端面の裏側とにそれぞれ係合するように前記筒状ケース内に配置され,さらに順次連装されている当該外周部異形固定カム,ボールハウジング,ばね,筒状ケースに対して軸を貫装することで,抜け止め状態にて固定することにより,上記外周部異形固定カム,ボールハウジング,ばね,筒状ケースが一体となるよう構成されており,第2筒状部の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部でヒンジ装置の軸の突起部分の溝にEリングが嵌め込まれるように形成されている折畳み式携帯電話の第1,第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置。」(イ) 本件発明と公然実施発明の一致点「第1部材に固設した第1ヒンジ筒の軸線と直交状である第1周側端縁部と,第2部材に固設した第2ヒンジ筒の軸線と直交状である第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設し,当該連装の第1,第2ヒンジ筒には別途組成済の組成体を第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入して保持するようにし,当該組成済の組成体は,上記の第1ヒンジ筒に回転止め状態で第1ディスクを,第2ヒンジ筒には回転止め状態で第2ディスクを夫々内嵌し,第1ディスクの第1突き合わせ端面と第2ディスクの第2突き合わせ端面のうち,第2突き合わせ端面には係嵌凹所を所定の周角度位置にあって複数個設け,第1突き合わせ端面には上記係嵌凹所に対して,係合する複数の係嵌凸状部を設け,第1,第2部材の閉時と開時に上記係嵌凸状部の係嵌凹所への係嵌を,他の係嵌凹所へ切り替えるようにし,前記第1ディスクの摺動ディスクの第1突き合わせ端面には前記係嵌凸状部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体の開口部から突出するように前記係嵌凸状部を設けて,前記筒状本体の開口部から突出する前記係嵌凸状部は,前記第1ディスクの筒状本体の外部で前記第2ディスクの係嵌凹所に係嵌するようにすると共に,前記第2ディスクには抜け止め部材を設け,前記コイルスプリングは,その両端が前記摺動ディスクと前記摺動ディスクとは反対側の係合部材とにそれぞれ係合するように前記第1ディスクの筒状本体内に配置され,さらに順次連装されている当該第2ディスク,摺動ディスク,コイルスプリング,第1ディスクの筒状本体に対して軸杆を貫装することで,抜け止め状態にて固定することにより,上記第2ディスク,摺動ディスク,コイルスプリング,第1ディスクの筒状本体が一体となるよう構成されている折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置。」(ウ) 本件発明と公然実施発明との相違点1・組成体に関し,本件発明では,第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入「するだけで係嵌状態に」保持される「係嵌組成体」であるのに対し,公然実施発明では,第1ヒンジ筒(第1筒状部)から第2ヒンジ筒(第2筒状部)へ貫入「して,外周部異形固定カムから突出した軸の突起部分にEリングを設けることにより」保持される「ヒンジ装置」である点。 ・抜け止め部材に関し,本件発明においては,「抜け止め弾性爪」であるのに対し,公然実施発明においては,「軸の突起部分」である点。 ・係合部材に関し,本件発明においては,「筒状ケースの側端部の内鍔」であるのに対し,公然実施発明においては,「軸(軸杆)の頭部側の端面の裏側」である点。 ・本件発明においては,「第2ディスクの基板部における第2突き合わせ端面の反対側に設けられた端面と,当該端面から突設された係止爪部に形成の抜け止め弾性爪との間に形成された離間箇所は,第2ディスクと共に回転するようにした第2ヒンジ筒の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部が係嵌挟持されるような寸法に形成されている」構成を有するのに対して,公然実施発明においては,かかる構成を有していない点。 (エ) 本件発明と公然実施発明との相違点2・係嵌凸状部に関し,本件発明においては,「係嵌凸部」であるのに対し,公然実施発明においては,「ボール」である点。 ・係嵌凹所及び係嵌凸状部の係合に関し,本件発明では,「コイルスプリングによる弾力により」なされる構成であるのに対し,公然実施発明では「ばね」はあるもののかかる構成について明確にされていない点。 ・摺動ディスクに関し,本件発明においては,筒状本体の「側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体内でスライド用切込み溝に沿って軸線方向へスライド自在とした」ものであると特定されるのに対し,公然実施発明においてはかかる特定がない点。 ・第1突き合わせ端面に関し,本件発明においては,「ディスク本体の端面とディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している」のに対し,公然実施発明においては,かかる構成を有さない点。 ・係嵌凸状部と係嵌凹所との係嵌状態で第1突き合わせ端面が配置される箇所について,本件発明においては,筒状本体内であるのに対し,公然実施発明においては,筒状ケース(筒状本体)外である点。 ・本件発明は,「コイルスプリングをその弾力によって摺動ディスクに弾接して,当該摺動ディスクとスライド用切込み溝の奥端縁との間に,係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所を形成して」いる構成を有するのに対して,公然実施発明は,かかる構成を有していない点。 (オ) 本件発明と公然実施発明との相違点3・本件発明は,「第1ディスクの筒状本体は,第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨って」いる構成を有しているのに対して,公然実施発明は,かかる構成を有するか否か不明である点。 ・係嵌凸状部に関し,本件発明においては,第2ヒンジ筒内で第2ディスクの係嵌凹所に係嵌するのに対し,公然実施発明においては,かかる構成を有するか否か不明である点。 (4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。 ア 取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)審決は,本件発明の要旨を次の点で誤って認定している。 (ア)審決は,本件発明の摺動ディスクについて,(a)「筒状本体に内嵌するディスク本体」と(b)「筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」とを有する旨認定する(審決10頁24行〜27行)。 しかし,審決は,上記(a)「筒状本体に内嵌するディスク本体」について上記認定以外には全く言及しておらず,本件発明のこの重大な本質的部分を看過している点で大きな誤りがある。ディスク本体を筒状本体内に配置する理由は,係嵌組成体の長さを大きくすることなく,筒状本体を長くして,次の(イ)の本質的部分を実現することができるようにしたり,コイルスプリングのバネ収容空間を大きくして(径方向に大きくして)バネ定数を小さくし係嵌凸部と係嵌凹書との係嵌状態を確保し,また係嵌の切り替えを円滑に行うようにしたりすることにある。 また審決は,上記(b)については相違点2の判断においても言及しているが(審決書24頁27行〜32行),その技術的意義を理解していない点で誤りがある。なお,この技術的意義については後記取消事由3で詳細に述べるが,筒状本体のスライド用切込み溝に内嵌する部分をディスク本体の周面から径方向に延びる部分とする理由は,第1ディスクのディスク本体の第1突き合わせ端面と第2ディスクの第2突き合わせ端面との間隔を空けることがなく,摺動ディスクの傾きを防止することにある。 (イ)審決は,本件発明の第1ディスクの筒状本体について,第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っていると認定する(審決10頁34行〜36行)。 この点審決は,上記の点を相違点3の判断においても言及しているが,審決は,「径方向のズレ」が「せんだん力によって生ずる」ことを充分に理解していないために,課題を誤って判断するものである。この点については後記取消事由4で詳細に述べるが,第1ディスクの筒状本体を第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間に跨らせた理由は,本件発明のヒンジ装置が組み込まれた折り畳み機器(例えば携帯電話機)は,その開閉時などに第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間に大きなせんだん力が働いて大きな径方向のズレが生ずるのを防止することにある。 イ 取消事由2(相違点1についての認定・判断の誤り)(ア) 「抜け止め部材」に関する認定の誤り審決は,相違点1に関し,「抜け止め部材に関し,本件発明においては,『抜け止め弾性爪』であるのに対し,公然実施発明においては,『軸の突起部分』である点。」(審決22頁16行〜17行)を相違点の一つに挙げる。しかし,公然実施発明における「軸の突起部分」は,単に第2筒状部(本件発明の第2ヒンジ筒に相当)から突出しているにすぎず,何らの抜け止め機能を有しないから,これを「抜け止め部材」と認定することは誤りである。公然実施発明における「抜け止め部材」は,「軸の突起部分」ではなく,この「突起部分の溝」に手作業で嵌め込んだ「Eリング」であって,公然実施発明の組成体(第1筒状部から第2筒状部に貫入するもの)には,元来「抜け止め部材」が存しないというべきである。 したがって,審決が,「…公然実施発明の『外周部異形固定カムから軸の突起部分を突出させ』と本件発明の『第2ディスクには抜け止め弾性爪を設け』は『第2ディスクには抜け止め部材を設け』の概念で共通し,…」(21頁11行〜14行)と認定した点や,本件発明と公然実施発明との一致点として,「…前記第2ディスクには抜け止め部材を設け,…」(21頁32行〜33行)と認定した点も誤りである。 (イ) 「抜け止め弾性爪」に関する判断の誤り審決は,公然実施発明において,抜け止め弾性爪を第2ディスクに設けることは当業者が通常の創作能力の範囲内で適宜なし得る設計的事項にすぎないとする(23頁36行〜24頁1行)。 しかし,前記(ア)のとおり,公然実施発明の「組成体」は,貫入後に第2筒状部から突出する軸部分の溝に嵌め込まれる「Eリング」によって抜け止めされており,この公然実施発明に「抜け止め弾性爪」を適用したとしても,公然実施発明の「軸(杆)」の先端に「抜け止め弾性爪」を取り付けることが想到されるだけであり,第2ディスクに「抜け止め弾性爪」を設けることが想到されるものではない。 そして,「軸(杆)」の先端に「抜け止め弾性爪」を設けると,「軸杆」を「筒状本体」,「コイルスプリング」,「摺動ディスク」及び「第2ディスク」に貫通させることができないため,組立上の困難を伴う。本件発明は,「抜け止め弾性爪」を「第2ディスク」に設けて組立てを容易にし,また,周知技術である「抜け止め弾性爪」はいずれも単一物品に取り付けられており,本件発明のように「筒状本体」,「コイルスプリング」,「摺動ディスク」及び「第2ディスク」を軸杆で一体にしてユニット化し,その最外側にある「第2ディスク」に「抜け止め弾性爪」を設けてユニット全体をワンタッチで貫入するだけで抜け止め保持するように構成することは,単なる周知技術を適用するだけでは,到底想到することができるものではない。 (ウ) 「係合部材」に関する判断の誤り審決は,コイルスプリングの摺動ディスクと反対側の端部を係合する「係合部材」に関し,「…係合部材を『筒状ケース(『ハウジング』が相当。)の側端部の内鍔(『止め突起』が相当)』とすることは甲第11号証に開示されているように周知技術といえるから,この周知技術を公然実施発明に適用することは当業者が適宜なし得たことと認められる。」(24頁1行〜4行)とする。 コイルスプリングを摺動ディスクと筒状本体の内鍔との間に配置した理由は,筒状本体が内鍔を介して軸杆の抜け止め端に固定されて筒状本体が軸線方向に移動するのを阻止することによって,本件発明の本質的特徴部分である「第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とに筒状本体を跨った状態」(前記ア(イ)参照)から筒状本体の軸線方向の変位で「跨らない状態」になるのを防止することにあり,審決の挙げた周知技術(大韓民国公開特許公報特1998-042991号,発明の名称「ヒンジ装置」,出願人 Phenix Korea株式会社,公開日 1998年〔平成10年〕8月17日,甲11の1,2。以下「甲11公報」という。)のように,元来軸線方向に変位することがなく,ハウジングの止め突起の後方に軸杆を有しない技術から本件発明の上記構成要素を想到することができたとは到底考えられない。 ウ 取消事由3(相違点2についての認定・判断の誤り)(ア) 周知技術(甲10公報)の認定の誤り審決は,周知技術として甲10(実開昭48-65953号公報,考案の名称「蝶番」,出願人 B,公開日 昭和48年8月21日,以下「甲10公報」という。)を挙げ,甲10公報の第1図及び第2図には,「…『筒状部2Aの側端縁から軸線方向へ欠設された長溝に露呈状態となるよう内嵌して軸線方向へスライド自在とした係止盤5』…が示されている。」(審決19頁14行〜17行)と認定する。 審決の上記認定によれば,甲10公報では「係止盤5」自体が長溝に内嵌していることになるが,甲10公報の第1図及び第2図のいずれを見ても,「係止盤5」自体が「長溝7」に内嵌する部分を有していない。「長溝7」に内嵌して「係止盤5」を案内しているのは,審決が本件発明の「係嵌凸部」に相当すると認定する「突条部6」である。したがって,審決の上記認定は誤りである。なお審決は,「ディスク本体(『係止盤』が相当。)」(24頁14行〜15行)・「摺動ディスク(『係止盤』が相当。)」(24頁17行)など,「ディスク本体」=「摺動ディスク」として摺動ディスクがディスク本体以外に何も含まないと理解しており,この点からも上記認定が誤りであることがわかる。 また,このように甲10公報の「係止盤5」は「筒状部2A」に深く入り込み,また,筒状部の長溝に嵌り込んだ部分もないから,「係止盤5」は「長溝7」(の開口部)に露呈していないし,その他「摺動ディスク」が「露呈状態」となっている技術は,公知文献には見当たらない。それにもかかわらず,審決は,「露呈状態となるよう」という構成部分を無視して,「…筒状本体の側端縁(『筒状部2Aの端面』が相当。)から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝(『長溝』が相当。)に露呈状態で内嵌するように…軸線方向へスライド自在とした摺動ディスク(『係止盤』が相当。)…」(24頁12行〜17行)との構成が周知技術であるとしたものであり,このような周知技術の認定は誤りである。 (イ) 相違点2についての判断の誤り(本件発明の技術的意義の看過)審決は,相違点2に関し,「…摺動する物同士を係嵌する場合の具体的構成は,使用条件等を考慮して,当業者が好適なものとして適宜選定し得るものと認められるから,公然実施発明において,上記周知技術を適用することは当業者にとり,格別の困難性を伴うものとは認められず,…ディスク本体から径方向に延びる部分をディスク本体の周面から径方向に延びるものとしたり,ディスク本体の端面とディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している構成とすることも,その構成に格別の技術的意義を見出せない以上,当業者が格段の困難性を伴うことなく適宜改変し得ることと認められる。」(24頁22行〜32行)と判断する。 この点,審決の上記判断は,甲10公報における突条部6が本件発明における係嵌凸部12bに相当するとの認定(審決24頁12行)を前提とするものである。しかし,甲10公報における突条部6は,筒状部2Bの凹陥部8(本件発明における係嵌凹所13aに相当)の深さに相応する厚みを有するにすぎないものではなく(これでは突条部6が長溝7から外れることになる),別紙参考図(原告第1準備書面添付参考図)の灰色で着色した部分で示すように,筒状部2Bの凹陥部8に係嵌しつつ,長溝7にも嵌り残って係止盤5を案内する部分も兼ねているものであるから,係止盤5は,この突条部6の長溝7に嵌り残る部分によって,第1筒状部2内に奥深く入り込むと共に,凹陥部8を有する相手方の部材(本件発明の第2ディスク13に相当するもの)から離反することになる。 このような甲10公報における突条部6付き係止盤5の構造を本件発明に適用し,これを本件発明における係嵌凸部付き摺動ディスクに代えて用いると,本件発明の重要な効果である係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態の保持又は切り替えを円滑に行うのに必要な次の二つの重要な要素?@及び?Aを達成することができなくなる。 ?@第1ディスクの摺動ディスクの第1突き合わせ端面(ディスク本体の端面とこのディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面)が第2ディスクの第2突き合わせ端面に接近しており,摺動ディスクが傾くことがない。 ?Aディスク本体が甲10公報における係止盤のように筒状本体に深く入り込むことがなく,コイルスプリングの収容空間を長くすることができるため,コイルスプリングの長さを確保しバネ定数を小さくして係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態の保持又は切り替えを円滑に行うことができる。 本件発明における上記?@及び?Aの効果は,ディスク本体から径方向に延びる部分をディスク本体の「周面」から径方向に延びるものとしたり,ディスク本体の端面とディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが「平面的に連続」している構成としたりすることによって達成されるものであるから,審決がこのような構成の技術的意義を看過し,「各別の技術的意義を見出せない」としたことは誤りである。 エ 取消事由4(相違点3についての認定・判断の誤り)(ア)審決は,「本件発明の『第1ディスクの筒状本体は,第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨って』いる構成の技術的意義は,訂正明細書中に何等記載されていないが,被請求人の口頭審理における主張を参酌すれば,『ヒンジ筒同士の径方向のズレがなくなる』ことにあるものと認められる。」(24頁下1行〜25頁4行)とするが,取消事由1でも述べたように,審決は「径方向のズレ」が生じる原因を理解しないものである。 そもそも,本件発明における第1ディスク12の摺動ディスク12Bの係嵌凸部12bと第2ディスク13の係嵌凹所13bとの係嵌は,係嵌組成体が組み込まれた折り畳み機器が開いた状態から不本意に閉じたり,閉じた状態から不本意に開いたりするのを抑制するだけであり,第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11との「径方向のズレ」を防止する作用はなく,両ヒンジ筒10,11の「径方向のズレ」は,これらのヒンジ筒10,11の間に径方向の力(せんだん力)が働いた場合に係嵌組成体の変形や係嵌組成体内部の部品間の「隙間」によって生じるものである。 このようにして生じる第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11との径方向のズレを防止する上では,本件発明の「前記第1ディスクの筒状本体は,前記第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており,」という構成要素は極めて重要な要素であり,これによって,「2つのヒンジ筒10,11を枢支するヒンジ軸が一部材(筒状本体12A)で両ヒンジ筒10,11に可及的に接近して跨って配置される」ことになり,これによって両ヒンジ筒の間でせんだん力が働いてもこれらのヒンジ筒の枢支状態を確実に維持することができる。なお,「ヒンジ軸が両ヒンジ筒10,11に可及的に接近して」は,請求項1に直接記載はないが,ヒンジ軸となるべき筒状本体12Aは,請求項1の「当該連装の第1,第2ヒンジ筒には別途作成の係嵌組成体を第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入するだけで係嵌状態に保持し,」との記載,「上記の第1ヒンジ筒に回転止め状態で第1ディスクを…内嵌し」との記載及び「前記第1ディスクの筒状本体は,前記第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており,」との記載から,(i)「筒状本体」が「第1ヒンジ筒」に内嵌しているので,筒状本体が第1ヒンジ筒に最も接近しており,(ii)筒状本体が,連装状態にある第1,第2ヒンジ筒に跨っているので,筒状本体が第2ヒンジ筒にも最も接近していることになるから,「ヒンジ軸が両ヒンジ筒10,11に可及的に接近して」いる構成は,請求項1の記載から当然帰結される構成である。 以上に対し,審決が認定するような第1ディスクの係嵌凸部と第2ディスクの係嵌凹所との係嵌では,?@2つのディスク12,13は,係嵌状態でもこれらの間の隙間によって径方向にずれることがあるし,?A2つのディスク12,13の係嵌状態の切り替え時(係嵌していない時)には径方向にずれることがあるし,?Bディスク12,13同士が径方向にずれることがないと仮定しても(実際には上記のようにズレが生ずる),内外の隙間を介してディスクがヒンジ筒内で径方向に変位するため,ヒンジ筒が径方向にずれるし,?Cディスク同士が径方向にずれることがないと仮定しても,相互に係嵌している第1ディスク12と第2ディスク13とは,一部材ではなく,コイルスプリング14に抗して相対的に動くことができる二部材であり,せんだん力に到底耐えられるものではないことからすれば,審決の「径方向のズレ」に関する前記認定は重大な誤りである。 (イ)また審決は,「ところで,ヒンジ筒同士の径方向のズレをなくすことは,ヒンジ装置において,当然に要求されるべき課題であり,公然実施発明においても,第1ディスクの係嵌凸部を第2ディスクの係嵌凹所に係嵌する構成を有することから,第1ディスクと第2ディスクとの径方向のズレは生じないものと解されるが,かかる係嵌する空間を,第1ヒンジ筒内,第2ヒンジ筒内あるいは第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒の境界付近のいずれに設けてもヒンジ機能を実現できると認められるので,上記の課題の下で,係嵌する空間の選定は当業者がヒンジ装置の使用条件等を考慮して適宜行い得るものと認められる。」(25頁5行〜12行)とするが,「係嵌凸部と係嵌凹所が係嵌する空間がどこにあっても『径方向のズレ』が生じない」との判断が誤りであることは,上記(ア)の理由から明らかである。 (ウ)さらに審決は,「したがって,公然実施発明において,『第1ディスクの筒状本体は,第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びており,前記第1ディスクの摺動ディスクには係嵌凸部か係嵌凹所を設けて前記第2ヒンジ筒内で第2ディスクの係嵌凹所か係嵌凸部に係嵌する』構成を採用することは,当業者が通常の創作能力の範囲内で適宜なし得たことと認められ,上記構成を採用することにより引用発明の『係嵌凸状部(係嵌凸部)』は『第2筒状部(第2ヒンジ筒)内で外周部異形固定カム(第2ディスク)の窪み(係嵌凹所)に係嵌する』構成となるので,上記相違点3に係る本件発明の構成とすることは当業者にとり格段のこととは認められない。」(25頁13行〜21行)とするが,前記(ア)の理由から,本件発明の「前記第1ディスクの筒状本体は,前記第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており,」という構成要素は極めて重要であり,公然実施発明はこのような構成要素を有しないし,この公然実施発明から示唆もされないので,審決の上記判断は,誤りである。なお,審決が認定した「前記第1ディスクの摺動ディスクには係嵌凸部か係嵌凹所を設けて前記第2ヒンジ筒内で第2ディスクの係嵌凹所か係嵌凸部に係嵌する構成を採用する」との構成は訂正前のものであり,「前記第1ディスクの摺動ディスクには係嵌凸部を設けて前記第2ヒンジ筒内で第2ディスクの係嵌凹所に係嵌する構成を採用する」が正しいし,同様に「引用発明」も「公然実施発明」とすべきである。 オ 取消事由5(本件発明の効果に関する判断の誤り)審決は,「…本件発明の全体構成から奏される効果も,公然実施発明及び上記周知技術から当業者であれば予測し得る範囲内のものである。」(25頁22行〜23行)とするが,本件発明は,公然実施発明や周知技術から予測することができない次の効果を有するものである。 (ア) 公然実施発明より優れた効果a係嵌組成体(ヒンジユニット)の長さを同じとすると,筒状本体12A(筒状ケース)の長さは公然実施発明よりも長くなって,ヒンジ軸機能を向上することができ,逆に,筒状本体12A(筒状ケース)の長さを同じとすると,係嵌組成体(ヒンジユニット)の長さは,公然実施発明よりも小さくして小型化することができること。 bコイルスプリングの巻径の増大によりバネ定数Kが小さくなって,コイルスプリングの適正なばね定数によって係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態の保持又は切り替えの適正化(係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態での保持力を大きく維持して係嵌状態を確実に保持し,係嵌状態の切り替え時に抵抗が小さくなって係嵌状態を切り替える際に円滑に行うことができること)c第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間のせんだん力による径方向のズレの防止(イ)公然実施発明の第1ディスクの筒状ケースとボールハウジングとを甲10公報の「筒状部2A」と「突条部6付き係止盤5」と置き換えた場合より優れた効果筒状本体のコイルスプリング収納空間の軸線長さが長くなりバネ定数Kが小さくなってコイルスプリングの適正なバネ定数によって係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態の保持又は切り替えの適正化(係嵌状態を確実に保持し,係嵌状態を切り替える際に円滑に行うことができること)(ウ) 上記効果の重要性携帯電話機のように小型の折り畳み機器においては,係嵌組成体のコイルスプリングのバネ定数や摺動ディスクの傾きや係嵌組成体の軸線長さは,機器を適度の力で円滑に開閉操作するのに極めて重要な要因であり,本件発明の「摺動ディスク」と「筒状本体」との配置関係,すなわち,「摺動ディスクのディスク本体とこのディスク本体の周面から径方向に延びる部分とが筒状本体内に嵌り込んでいること」及び「摺動ディスクは,ディスク本体の端面とその周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している第1突き合わせ端面を有すること」は,この効果を達成するのに重要な要件である。ヒンジの寸法,部品相互の関係及びばねの特性が小型折り畳み機器のヒンジには極めて重要であることは,被告自身が種々の文献で認めているところである(雑誌「戦略経営者」2005年6月号記事「シェアナンバーワン」〔甲30〕,雑誌「電子ジャーナル」別冊「2007携帯電話ガイドブック」368〜369頁〔甲31〕,雑誌「電子ジャーナル」別冊「2008携帯電話ガイドブック」407〜408頁〔甲32〕)。 このように,本件発明は,公然実施発明や甲10公報に記載された発明を公然実施発明に適用したとしても達成することができない重要な効果を達成することができることが明らかである。 カ 取消事由6(無効理由その2についての判断の誤り)審決は,「無効理由その3」と同じ理由で無効理由2にも理由がある旨判断するところ(25頁下6行〜26頁2行)「無効理由その3」に理由がないことは前記のとおりであるから,この点についての審決の判断も誤りである。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。 3 被告の反論(1) 審決の補足ア 相違点1につき乙12〜乙23はいずれも,「回動支点に対する抜け止め締着技術に関して弾性爪を用いた周知慣用の技術」である。とりわけ,乙12(米国特許第4645905号公報,発明の名称「折りたたみ家庭用器具」,特許日 1987年〔昭和62年〕2月24日)は,折畳み式電子機器のヒンジ装置の回動支点に対する抜け止め締着技術として弾性爪を採用しており,乙13の1,2(実開昭60-10924号公報,考案の名称「回動支点に対する留め具」,出願人 小島プレス工業株式会社,公開日 昭和60年1月25日)では,従来技術の締着技術として用いられていた止め輪に換えて弾性爪を用いたクリップが採用された技術が開示されている。また,乙15(実開昭62-2828号公報,考案の名称「枢着部の構造」,出願人 株式会社安成工業,公開日 昭和62年1月9日)では,弾性爪を用いたクリップの頭部の形状が本件発明における「第2ディスク」とほぼ同一であって,これを想起させるのに何らの困難性を有しない。 そうすると,公然実施発明におけるヒンジ装置の機器本体への抜け止め締着技術として採用した止め輪に換えて弾性爪を採用することも,また「第2ディスク」に相当する「第2カム」の反対端面に「抜け止め弾性爪」を採用することも,これらの周知慣用の技術をもってすれば,当業者をして容易に推考せしめ得るものであるというべきである。 そして,この周知慣用の弾性爪を用いた抜け止め締着技術においては,その締着すべき本体の周縁部が弾性爪との相対関係において係嵌挟持されるように寸法形成されることは当業者において当然の選択事項である。 イ 相違点2につき(ア)審決が正当に認定するとおり,筒状本体の「側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して」いることは,甲10公報に記載されている周知技術である。 (イ)すなわち,甲10公報の第2実施例は下図左側(甲10の第3図)に示されるものであり,これを斜視図の態様にして示すと下図右側のようになる。 【第3図】【斜視図】甲10公報には,上記第3図の説明として,まず,「係止盤5´」の記述があり,ここには,「そして此の係止盤5´は前記同様筒状部2Aに対して回動のみ阻止されており,そして上面には上方の筒状部2Bの凹陥部8に係入する突部6が設けられている,…』(明細書4頁5行〜8行)と記載されている。この記載から明らかなように,「係止盤5´」そのものが回動のみ阻止されている構造があり,更に,「そして」に示されるように,回動阻止される「係止盤5´」の構造を前提にして,その上面に「突部6」が設けられることを示している。したがって,上図のように,「係止盤5´」は,リング状部材の外周対向部位に,長溝7に嵌合する矩形状突部(「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」)を備えるものであり,また,突部6が,「係止盤5´」の径方向に突出している前記矩形状突部(本件発明の「ディスク本体の周面から径方向に延びて筒状本体のスライド用切込み溝に露呈状態となるよう内嵌する部分」に相当)に設けられている。 本件発明の第3図と,甲10公報の第3図から導かれる斜視図態様の図を横にしたものとは,同一であることが一見して明らかである。 (ウ)さらに,上記の点は,乙24(欧州特許公開公報,公開番号0445559A1,発明の名称「自動ロック式ドアヒンジ」,出願人 ケルミGmbH,公開日 1991年〔平成3年〕9月11日)にも記載されている。 乙24の第1図を横にしたものにおいて,係嵌凹所(23)を備えた第2ディスク(2b)は軸(2a)と一体であり,これに摺動ディスク(1)が軸方向に摺動する。この摺動ディスク(1)は,ディスク本体の端面(13)と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面(隆起15の端面)とが平面的に連続している突き合わせ端面を有し,摺動ディスク(1)のディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは,係嵌凸部(12)と係嵌凹所(23)との係嵌状態で摺動ディスクの突き合わせ端面(前記端面13とは反対側の面)が第2ディスク(2b)の突き合わせ端面に突き合わさるように筒状本体(4)内に配置されている。したがって,本件発明の図3と,乙24のFIG.1(第1図)を横にしたものとは同一であることが明らかである。 (エ)また,前記「筒状本体の「側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して」いることは,次のとおり,本件発明の明細書に記載された従来技術に他ならない。 a本件発明は,その出願当初明細書(公開特許公報,乙30)に記載された特開平7‐11831号公報(発明の名称「折り畳み式機器のヒンジ構造」,出願人 日本電気株式会社,公開日 平成7年1月13日,乙31)に記載されているヒンジ装置に係る発明(以下「従来例」という。)の組み立て作業性を大幅に向上させることを目的としてなされたものである。 従来例のものは,出願当初明細書(乙30)の【0005】に記載されているように,「さらに,当該従来例では上記固定ディスク4の固定突き合せ端面4bと,可動ディスク5の可動突き合せ端面5bの何れか一方,図示例では固定突き合せ端面4bに,図9(A)(C)および図10により理解される通り,係嵌凹所6が複数個(3個),所定の周角度位置N1,N2,N3(カバー2の開成角度α゜によって決定される位置)にあって設けられており,他方すなわち図示例では図9(B)(D)と図10に開示の如く,上記の係嵌凹所6に対して図10ではコイルスプリング7に基づく弾力により係合することになる複数個(2個)の係嵌凸部8が,所定の周角度位置P1,P2にあって可動突き合せ端面5bから突出されている。」ものであり,図9は,次のとおりである。 【図9】また,出願当初明細書(乙30)には,従来例のものは,係嵌凸部8を設けた可動ディスク5に対し,係嵌凹所6を設けた固定ディスク4がコイルスプリング7に押圧されて,係嵌凹所6に係嵌凸部8が係合することで,固定突き合せ端面4bが可動突き合せ端面5bに対して圧接すること(【0006】),カバー2が開動すると,係嵌凸部8の先端部が,固定突き合せ端面4b上を摺動して円周方向へ回動すること(【0007】),以上のように構成することで,カバーが不本意に回動するという以前のヒンジ装置の欠点を大幅に改善することができること(【0009】)が記載されている。 しかし,従来例には,出願当初明細書(乙30)の【0010】に記載されているような組み付け作業に関する欠陥があるため,本件訂正前の請求項1(本件特許公報,甲34)では,?@第1ディスクは筒状本体と摺動ディスクとで構成し,?A第2ディスクには抜け止め弾性爪を設けて,?B組成済みの係嵌組成体を構成しておき,これにより,出願当初明細書(乙30)の【0013】に記載されているように,「当該係嵌組成体を前記の第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒に係嵌することで,前記した第2ディスクの抜け止め弾性爪が第2ヒンジ筒に係嵌可能であることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置を提供しようとしている。」ものである。 b本件発明は,出願当初明細書(乙30)の【0016】に記載されているように,「…さらに,これまた従来例と同じく第1ディスク12の第1突き合わせ端面12aと,第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aの何れか一方に,係嵌凹所13bを所定の周角度位置にあって複数個だけ設け,他方には上記係嵌凹所13bに対して,コイルスプリング14による弾力により係合する複数の係嵌凹部12bが設けられ,第1,第2部材A,Bの閉時と開時にあって,上記係嵌凸部12bの係嵌凹所13bへの係嵌を,他の係嵌凹所13bへ切り替えるようにしたヒンジ装置に係るものである。」とされている。 そして,これに続いて,出願当初明細書(乙30)の【0017】には,「本発明では上記の如きヒンジ装置にあって,上記した第1ディスク12は筒状本体12Aと,その側端縁12cに欠設したスライド用溝12dに内嵌して,軸線方向へスライド自在に嵌装した摺動ディスク12Bとからなり,当該摺動ディスク12Bには図示の如く前記の係嵌凸部12bか,図示されていない係嵌凹所13bを設けると共に,前記第2ディスク13には抜け止め弾性爪13cを設けるようにする。」と記載されている。すなわち,本件発明は,第1ディスク12を筒状本体12Aと摺動ディスク12Bとから構成し,従来例の「第1ディスク12」を,筒状本体にスライド自在に嵌装するため,次の図のように,左側の図の「第1ディスク12」をその破線の箇所で切欠き,中央の図,更には右側に示す図の「摺動ディスク」とするものである。 c本件発明は,上記bの図と上記aの図9に示される従来例の「第1及び第2ディスク並びにこれらに形成される係嵌凸部及び係嵌凹所」とを対比してみれば明らかなように,第1ディスクが,従来の第1ディスクの基本形を承継した摺動ディスクと,筒状本体とに二分される構造であることのほかは,何ら従来例と異なるものではない。 したがって,摺動ディスクは,筒状本体に嵌装され得る形状であること以外,従来例と異なるものではない。 dなお,本件訂正において,「摺動ディスク」を「ディスク本体」と「その周面から径方向に延びる部分」の二つに分ける点は,出願当初明細書及び図面における「摺動ディスク」の構成概念と矛盾するものである。なぜなら,まず第1に,出願当初明細書(乙30)には,「摺動ディスク」の記載はあっても,「ディスク本体」なる構成概念は記載されていない。このような新規名称を付加し,本来一つの構成概念とされていた出願当初明細書の「摺動ディスク」を,「ディスク本体」と「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」とに二分することは,出願当初明細書及び図面における「摺動ディスク」の構成概念を変更するものである。第2に,「摺動ディスク」の実体は,上記のとおり,「第2ディスク13」に対応する出願当初明細書の「第1ディスク」を前提にして,これを筒状本体に嵌装され得る形状としたこと以外,従来例と異なるものではないから,「摺動ディスク」とは,本来,「ディスク本体」と「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」とが一体不可分のものを意味するものであって,これとは異なる意味内容を付与することはできない。 また,この「ディスク本体」とか「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」という概念自体は,出願当初明細書及び本件訂正後の明細書には一言半句も記載されていないばかりか,摺動ディスクとして機能する部材を別々の部位や機能に分別することの技術的意義も全く記載されていない。技術的意義の不明確な「ディスク本体」と「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」とをなぜ分別するのかは,全く不明である。 したがって,本件訂正は,新規事項の追加であって,本来的には訂正要件違反である。 本件訂正が,新規事項の追加でないとされているのは,本件訂正に係る構成が,周知技術であることの証左である。 ウ 相違点3につき本件発明の相違点3に係る技術は,審決が認定するとおり,当業者が格段の困難性を伴うことなく適宜行い得る技術であり,このことは乙26(特開平8-298538号公報),乙27(特開平9-32846号公報),乙28(特開平11-41328号公報),乙29(特開平10-288217号公報)の各周知技術からも明らかである。 したがって,相違点3についての審決の判断に誤りはない。 (2) 取消事由1に対しア「筒状本体に内嵌するディスク本体」については,審決が相違点2において,「・摺動ディスクに関し,本件発明においては,筒状本体の『側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体内でスライド用切込み溝に沿って軸線方向ヘスライド自在とした』ものであると特定されるのに対し,公然実施発明においてはかかる特定がない点。」(22頁下4行〜23頁1行)と認定しており,ディスク本体が筒状本体に内嵌していることは明らかに示されている。その上で審決は,相違点2の検討において,甲10公報にも,同様の構成が開示されていることを摘示したものである。 イなお原告は,本件発明の第1ディスクの筒状本体について,第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っていることについても主張するが,この点は取消事由4に対する反論において言及する。 (3) 取消事由2に対しア 「抜け止め部材」に関する点公然実施発明は,「軸の突起部分」と「Eリング」が協働して「抜け止め部材」を構成するものであり,ヒンジユニットの装着後は「軸の突起部分」が弾性爪の基部を,「Eリング」が弾性爪の爪片を,それぞれ分担するものであるから,審決の認定に誤りはない。 なお,前記のとおり,乙13公報(実開昭60-10924号公報,昭和60年1月25日)は,従来技術の締着技術として用いられていた止め輪に換えて,弾性爪を用いたクリップが採用された技術を開示するものであり,「Eリング」及びこれを係止する「軸の突起部分」が,「抜け止め弾性爪」に変換される技術は少なくとも昭和60年1月末には公開されていた周知慣用技術である。 また,公然実施発明におけるヒンジ装置は,携帯電話機のヒンジ筒に挿入されると,「軸の突起部分」がヒンジ筒内の孔付き内壁を貫通し,この内壁が第2ディスク(固定カム)に当接する一方で,内壁の反対側の「軸の突起部分」の前記円周溝には,「Eリング」が嵌合される。そうすると,第2ディスク(固定カム)と「Eリング」で内壁を挟むようにして固定し,「Eリング」によって抜け止めがなされる。このように,公然実施発明におけるヒンジ装置は,本件発明と同様に,ヒンジ筒の内壁に抜け止め保持される構造であり,本件発明における「前記第2ディスクの基板部における第2突き合わせ端面の反対側に設けられた端面と,当該端面から突設された係止爪部に形成の前記抜け止め弾性爪との間に形成された離間箇所は,前記の如く第2ディスクと共に回転するようにした第2ヒンジ筒の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部が係嵌挟持されるような寸法に形成されている」構成を具備するものである。 したがって,第2ディスクに「抜け止め弾性爪」を設けることや,最外側にある「第2ディスク」に「抜け止め弾性爪」を設けてユニット全体をワンタッチで貫入するだけで抜け止め保持することが想到できないとの原告主張は理由がない。 イ 「係合部材」に関する点(ア)公然実施発明においては,軸の終端にフランジ状の頭部が形成されており,コイルスプリングの一端部は,この「軸(軸杵)の頭部側の端面の裏側」で係合する。すなわち,「軸(軸杵)の頭部側の端面の裏側」が係合部材に該当する。コイルスプリングの他端部は,「ボールハウジングの軸部分」の内部において,ボールハウジングの壁面部(ボールが装着される壁面部)の裏側に当接する。 また,審決のいう甲11公報における「止め突起」は,各部品及びコイルスプリングをハウジング24に装着後,内側に90°折り曲げられて,コイルスプリングの一端部と係合する。 本件発明,公然実施発明及び甲11公報において,コイルスプリングは,一方の端部が摺動ディスクに係合し,他方の端部が,筒状本体の内鍔(本件発明),「軸(軸杵)の頭部側の端面の裏側(甲5)」及び「止め突起48,48(甲11)」に係合するものであって,これら三者は共に摺動ディスクを押圧付勢するものである点で,相互に転用することが極めて容易な技術である。 なお,原告は,コイルスプリングを摺動ディスクと筒状本体の内鍔との間に配置した理由として,筒状本体が第1及び第2ヒンジ筒間で「跨った状態」から「跨らない状態」になるのを防止することを挙げる。 しかし,本件発明の係嵌組成体は文字通り組成済であって,筒状本体は係嵌組成体に固定化され,コイルスプリングはその組成済の筒状本体内に装着されて摺動ディスクを弾性付勢するのみである。したがって,コイルスプリングの働きは,筒状本体の前記「跨った状態」及び「跨らない状態」に消長をもたらすものではない。筒状本体が「跨った状態」「跨らない状態」になるのは,専ら係嵌組成体の軸線方向の長さに依存するものである。 (イ)本件発明は,「前記コイルスプリングは,その両端が前記摺動ディスクと前記筒状本体の摺動ディスクとは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように前記第1ディスクの筒状本体内に配置され,」を挿入するものであるが,「内鍔」の文言は,出願当初明細書(乙30)及び特許明細書(特許公報,甲34)に一言半句たりとも記載されていないし,その意味の定義もなく,「筒状本体の側端部の内鍔」とは,何を指すのか不分明であり,結局,実態そのものが不明瞭である。 この点,本件発明の出願当初明細書(乙30)においては,「【0006】ここで上記のコイルスプリング7は図10に示されている通り,固定ディスク4の固定突き合せ端面4bとは反対側にあって,外向きに開口された収納空洞4cに収納されていると共に,本体ヒンジ筒1aの外側から挿入した螺杆9を,コイルスプリング7から固定ディスク4そして可動ディスク5を貫通して,その螺部先端9aをカバーヒンジ筒2aの底部2dに刻設した螺止孔2eに螺着させるようにしている。」として,「カバーヒンジ筒の底部」という用語が用いられている。したがって,「内鍔」は,本件特許明細書(甲34)の用語法からすれば,「筒状本体の底部」となる筈のものである。 また,「内鍔」は,「前記筒状本体の摺動ディスクとは反対側の側端部の内鍔」の記載から,「筒状本体の側端部」に係わるものであるところ,本件特許明細書の「【0024】また,ここで図示例では図3により明示の通り,係嵌組成体Cにあって,その第1ディスク12における筒状本体12Aの側端部を閉止キャップ17によって閉成することにより,外観をよくすると共に,係嵌組成体Cへの塵埃侵入を阻止するようにしている。」との記載からは,「筒状本体の側端部」は,閉止キャップ17によって閉成される箇所,すなわち,筒状本体の「底部」であることが理解できる。したがって,「内鍔」は,筒状本体の「側端部」や「底部」とは別の構成要素であることが明らかであるが,前述したように,出願当初明細書並びに特許明細書にはその文言すら一言半句もない。 そこで,「鍔」の意味内容を広辞苑に照らしてみると,「鍔」は,「?@刀剣の柄と刃身との境目に挟み,柄を握る手を防護するもの。平たくて中央に孔をうがち,これに刀心を通し,柄を装着して固定する。円形・方形その他大小種々ある。?A釜の胴のまわりに庇のように出ている部分。?B帽子の周辺に庇のように出ている部分。」であり,なんらかの「出っ張った部位」又は「フランジ」を意味する。 本件発明の構成における「内鍔」は,コイルスプリングの一方の端部が係合し,「筒状本体の側端部」の内側に設けられる「庇」状の部位であると考えるのが相当である。 しかし,筒状本体の側端部を示す本件発明(甲33)の図1(B)及び図2を精査しても,筒状本体の側端部内側においてコイルスプリングの端部が係合すべき「庇」や「フランジ」といった部位は何等存在しないから,「内鍔」なるものを把握することができない。 以上のとおり,前記事項は,「筒状本体の側端部の内鍔」の技術的意味内容が不明瞭であり,したがって,新規事項の追加であって訂正要件違反であるが,審決は,訂正要件違反とは扱っていない。これは「筒状本体の側端部の内鍔」が周知技術であるからに他ならない。 4 取消事由3に対し原告が主張する甲10公報における「突条部6付き係止盤5」の点については審決が認定するとおりであり,審決に誤りはない。甲10公報(実開昭48-65953号公報)は,本件の出願日(平成11年5月31日)から30年余前の昭和48年に公開された公開実用新案公報であり,本件特許の出願時において周知であったことは明らかである。 また,甲10公報の第3図の説明にあるように,「上面には上方の筒状部2Bの凹陥部8に係入する突部6が設けられている」に符合する突部6が,「係止盤5´」の径方向に突出している前記矩形状突部(本件発明の「ディスク本体の周面から径方向に延びて筒状本体のスライド用切込み溝に露呈状態となるよう内嵌する部分」に相当)に設けられている。この矩形状突部は,係止盤5の構成部分であるから,審決の認定に誤りはない。 さらに,甲10公報の第3図に示されるように,甲10の「突部6付き係止盤5」は,前記の通り,「軸3´」が設けられているので,原告の主張する「摺動ディスクが傾いて係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態が不安定になる」という不具合等も生じないことは明らかである。 なお,コイルスプリングの長さ(有効巻数)に関する原告の主張は,特許請求の範囲に記載された発明の構成に何ら関係しない主張であり,それ自体失当である。 5 取消事由4に対し審決は,本件発明における相違点3の構成の技術的意義が,本件訂正後の特許明細書中に記載されていないので,原告に釈明を求めたところ,原告が口頭審理において,「ヒンジ筒同士の径方向のズレがなくなる」ことである旨釈明したことから,これを前提として正当に認定したものである。この点は,前記のとおり,乙26〜乙29において,「ヒンジ筒同士の径方向のズレがなくなる」技術が周知であることからも明らかである。 なお,出願当初明細書及び図面に記載された発明(乙30)は,特開平7‐11831号公報に記載されているヒンジ装置に係る従来例(乙31)を挙げて,その組み立て作業性を大幅に向上させることを目的としてなされたものである。この従来例に係るヒンジ装置は,第1ヒンジ筒には第1ディスクが,また,第2ヒンジ筒には第2ディスクが,それぞれ対峙しているものであるにもかからず,本件の出願当初明細書にはヒンジ筒同士に径方向のズレを生じる点の記載は一言半句もなく,むしろ,さらにカバー2が開動すると,係嵌凸部8の先端部が,固定突き合せ端面4b上を摺動して円周方向へ回動する(出願当初明細書〔乙30〕の【0007】参照)ことにより,カバー2が機器本体1に対し閉時および開時にあって不本意に回動してしまうことがないようにすることができ,またカバー2を必要に応じ簡易に開閉操作でき前掲旧来例の欠点を大幅に改善することができる(出願当初明細書の【0009】参照)旨記載されている。これは,軸杆(螺杆9)によって「ヒンジ筒同士の径方向のズレがなくなる」ことを示すものである。 審決は,本件発明の明細書に記載されている上記技術を踏まえて,相違点3に係る本件発明の構成とすることは当業者にとって格段のこととは認められない旨判断したものであり,相違点3に係る審決の認定判断に誤りはない。 6 取消事由5に対し原告が主張する本件発明の効果に関する点についても,審決の認定・判断するとおりであり,審決に誤りはない。 本件発明における 係嵌組成体の小型化及びバネ定数の点は,前記のとおり,本件発明の請求項に記載された構成技術から直接導かれる作用効果ではなく,また,径方向のズレの防止は,公然実施発明も具有する作用効果である。 7 取消事由6に対し前記のとおり,審決に誤りがない以上,原告主張の取消事由6は取消事由となるものではない。 |
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当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。 2本件発明の意義について(1)平成20年6月23日付け訂正請求に係る本件特許請求の範囲は,前記第3,1(2)のとおりである。また,本件全文訂正明細書(甲33)の【発明の詳細な説明】には,次の記載がある。 ア 発明の属する技術分野「本発明は折り畳み式計算機,パーソナルコンピュータ,携帯電話機,ワードプロセッサーなどの折り畳み機器にあって,その機器本体に開閉自在なるよう枢着されたカバーを,閉成時と任意の開成角度とにあって夫々の状態を保持でき,しかも適度の力で当該保持状態を解除することにより,カバーの開閉操作を円滑に行い得るようにした折り畳み式機器のカバーに係る広角度開閉保持可能なヒンジ装置に関する。」(【0001】)イ 従来の技術「前掲携帯電話機などにあって,その機器本体を閉成しているカバーが不本意に開成したり,開成時のカバーが使用中に閉成してしまったりすることを防止するのに,係止爪やマグネットなどを用いる旧来のロック手段によるときは,デザイン,実装上の制約,コスト高や操作性などの諸点で満足すべき結果が得られていない。そこで当該欠陥を解消するため,既に特開平7-11831号公報に記載の提案がなされている。」(【0002】)「上記提案のものは,図7ないし図10によって以下説示するような構成を有している。すなわち図7と図8により理解される通り,機器本体1とカバー2とが,ヒンジ3によって任意の開成角度α゜だけ開閉自在に枢着され,当該ヒンジ3は機器本体1に固設の本体ヒンジ筒1aと,カバー2に固設のカバーヒンジ筒2aとを具備し,図8の如く本体ヒンジ筒1aの本体当接端面1bとカバーヒンジ筒2aのカバー当接端面2bとは,カバー2の開閉に際し摺接自在となっている。」(【0003】)「そして,本体ヒンジ筒1aには,回転止め状態にして軸線方向へはスライド自在なるよう固定ディスク4が内嵌され,このために本体ヒンジ筒1aの内周面に設けたガイドリブ1cに,固定ディスク4のガイド溝4aが係合されている。一方カバーヒンジ筒2aには,これまた回転止め状態で可動ディスク5が内嵌され,このために図示例ではカバーヒンジ筒2aの奥行内面における溝2cに,可動ディスク5の端面に形成したリブ5aが係合されている。」(【0004】)「さらに,当該従来例では上記固定ディスク4の固定突き合せ端面4bと,可動ディスク5の可動突き合せ端面5bの何れか一方,図示例では固定突き合せ端面4bに,図9(A)(C)および図10により理解される通り,係嵌凹所6が複数個(3個),所定の周角度位置N1,N2,N3(カバー2の開成角度α゜によって決定される位置)にあって設けられており,他方すなわち図示例では図9(B)(D)と図10に開示の如く,上記の係嵌凹所6に対して図10ではコイルスプリング7に基づく弾力により係合することになる複数個(2個)の係嵌凸部8が,所定の周角度位置P1,P2にあって可動突き合せ端面5bから突出されている。」(【0005】)「ここで上記のコイルスプリング7は図10に示されている通り,固定ディスク4の固定突き合せ端面4bとは反対側にあって,外向きに開口された収納空洞4cに収納されていると共に,本体ヒンジ筒1aの外側から挿入した螺杆9を,コイルスプリング7から固定ディスク4そして可動ディスク5を貫通して,その螺部先端9aをカバーヒンジ筒2aの底部2dに刻設した螺止孔2eに螺着させるようにしている。ここで図中9bは螺杆9の頭部を示している。このため,コイルスプリング7は,その弾力により固定ディスク4を可動ディスク5側へ弾圧して,これにより係嵌凹所6に係嵌凸部8が係合することで,固定突き合せ端面4bが可動突き合せ端面5bに対して圧接することになる。」(【0006】)「従って,図10から理解されるように,カバー2を開動させることで,カバーヒンジ筒2aと共に可動ディスク5が回動すると,その可動突き合せ端面5bから突設されている係嵌凸部8が,図9(E)に示す如く係嵌凹所6から円周方向へ脱出し,この際,コイルスプリング7の弾力に抗して固定ディスク4が,図10の左側へ移動することとなり,係嵌凸部8の先端部が,固定突き合せ端面4b上を摺動して円周方向へ回動することになる。」(【0007】)「このため,図9にあって可動ディスク5の前記周角度位置P1,P2における係嵌凸部8が,カバー2の閉止状態では,固定ディスクの周角度位置N1,N2における係嵌凹所6に係嵌されているが,当該カバー2を開成角度α゜だけ開成した際には,上記一対の係嵌凸部8が,夫々周角度位置N3,N1の周角度位置における係嵌凹所6に,その係嵌を切り替え得ることになる。」(【0008】)「以上の如く構成することで,当該従来例によるときは,係止爪やマグネットによるロックに比し,カバー2が機器本体1に対し閉時および開時にあって,不本意に回動してしまうことがないようにすることができ,またカバー2を必要に応じ簡易に開閉操作でき前掲旧来例の欠陥を大幅に改善することができる。」(【0009】)ウ 発明が解決しようとする課題「このように上記従来のヒンジ装置によるときは,望ましい効果を発揮し得ることになるが,前掲図8等によって理解される通り,これを組み付けるためにはカバー2内にカバーヒンジ筒2aを係合して,溝2cにリブ5aを係嵌し,一方機器本体1には固定ディスク4を嵌合して,ガイドリブ1cにガイド溝4aを係嵌する。さらにコイルスプリング7を固定ディスク4に嵌装した後,螺杆9をコイルスプリング7に挿通することで当該螺杆9の螺部9aを,カバーヒンジ筒2aの底部2dに刻設した螺止孔2eに螺着することで,当該螺杆9の頭部9bによってコイルスプリング7の押縮による弾力により固定ディスク4を押圧し,これによりその固定突き合わせ端面4bを,可動ディスク5の可動突き合わせ端面5bに圧接するといった組み付け作業を行わねばならない。」(【0010】)「本発明は上記の如き欠陥を解消しようとするもので,まず予め係嵌組成体なるものを,必要な各種の部材を組み込むことで組成済としておくのであり,当該係嵌組成体には順次連装の第2(可動)ディスク,摺動ディスク,コイルスプリング,第1(固定)ディスクに装入された軸杆は,抜け止め状態にて固定してしまうことで,コイルスプリングの弾力によって上記の摺動ディスクを第2(可動)ディスクに弾接させ,摺動ディスクと前記第1(固定)ディスクにおけるスライド用切込み溝の奥端縁との間に離間貫通空所を形成しておくことで,第2部材(カバー)の開閉動に際して軸線方向へ移動されることとなる摺動ディスクが,上記の離間貫通空所内で移動可能となるように一体化された構成を具備させておくのである。そして,ここで重要なことは第1部材(機器本体)の第1ヒンジ筒と,第2部材(カバー)の第2ヒンジ筒とを軸合わせ状態とし,当該両筒に上記の係嵌組成体なるものを,別途何等の操作を付加することなく,単に一回の差し込み操作により嵌合するだけで,第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒に連通係嵌された当該係嵌組成体が,その第2ディスクを第2ヒンジ筒に対して軸線方向何れに対しても抜け止め状態にて係止され,これにより第1部材と第2部材との開閉自在なる枢着状態を確保し,かくして折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジにつき,その組み立てを一作動だけで簡易迅速に完成させ,その作業性を画期的に向上させ得るようとするのが,第1の目的である。」(【0011】)「さらに本発明では上記の目的を達成するだけではなしに,このような特殊な目的を達成させようとする係嵌組成体自体の構成をも,前記した第1ディスクは筒状本体と摺動ディスクとにより構成するだけでなく,当該筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝には,摺動ディスクが露呈状態となるよう内嵌することで軸線方向へスライド自在なるよう構成するのであり,このことにより,当該係嵌組成体の組み立て作業性とか小型化を実現可能にしようとするのが第2の目的である。」(【0012】)「本発明で重要なことは,また,第1ヒンジ筒に第1ディスクを回転止め状態で内嵌することによりこの両者が一体回転するようにし,かつ,第2ヒンジ筒には第2ディスクをこれまた回転止め状態にて内嵌することで,この両者も一体回転するようにしたことである。これに加え本発明は,係嵌組成体を第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入して係嵌状態に保持した際,第2ディスクの基板部と抜け止め係止爪との離間箇所に,第2ヒンジ筒の抜け止め周縁部なるものを落とし込み状態にて係嵌させるようにしている。従って当該係嵌状態の保持が,軸線両方向に対して確実化されるだけでなく,上記の如く抜け止め周縁部と,第2ディスクとが一体的に回転するよう構成することで,両者間の不本意な係嵌状態の離脱が抑止され,これによって当該係嵌組成体が第1,第2ヒンジ筒から不本意に脱出することを高い信頼性をもって防止しようとしている。」(【0013】)エ 発明の効果「本発明は以上のようにして構成されていることから,予め組成しておいた係嵌組成体の適切なる一体構成によって,これを第1,第2ヒンジ筒に対して,ただ一回だけの貫入操作のみで,折り畳み機器の開閉保持用ヒンジを即時構成することができ,従ってもちろん多数の部品を夫々一個宛組み立てて行く作業を要せず,しかも係嵌組成体の予め行っておく組み付け作業も各種部品に軸杆を挿通して抜け止め状態に固定することにより簡易にして迅速に構成することができる。さらに係嵌組成体における第1ディスクは,筒状本体と,この筒状本体に内嵌するディスク本体と筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体内でスライド用切込み溝に沿って軸線方向へスライド自在とした摺動ディスクとにより構成し,かつ離間貫通空所を設定するようにしたから,この種折り畳み機器の開閉保持用ヒンジ装置としての必要かつ充分な機能を満足させることが可能となる。さらに本発明では第2ディスクの基板部に形成した端面と,当該端面から突設の係止爪部に設けた抜け止め弾性爪との離間箇所を,第2ヒンジ筒の外側から軸心側へ突設の抜け止め周縁部が,係嵌挟持される寸法に設定するようにしたことから,係嵌組成体の軸線方向何れに対しても不本意な離脱を高い信頼性をもって阻止することができる。」(【0025】)(2)本件特許の図面のうち【図3】(本発明に係る係嵌組立体を示した分解斜視図)は,次のとおりである。 (3)上記(1)(2)によれば,?@従来例では,「カバー2を開動させることで,カバーヒンジ筒2aと共に可動ディスク5が回動すると,その可動突き合せ端面5bから突設されている係嵌凸部8が,係嵌凹所6から円周方向へ脱出し,この際,コイルスプリング7の弾力に抗して固定ディスク4が移動することとなり,係嵌凸部8の先端部が,固定突き合せ端面4b上を摺動して円周方向へ回動することになる。このため,可動ディスク5の周角度位置P1,P2における係嵌凸部8が,カバー2の閉止状態では,固定ディスクの周角度位置N1,N2における係嵌凹所6に係嵌されているが,当該カバー2を開成角度α゜だけ開成した際には,上記一対の係嵌凸部8が,夫々周角度位置N3,N1の周角度位置における係嵌凹所6に,その係嵌を切り替え得ることになる。」という構成を採ることにより,「カバー2が機器本体1に対し閉時および開時にあって,不本意に回動してしまうことがないようにすることができ,またカバー2を必要に応じ簡易に開閉操作できる。」という望ましい効果を得られるものであった,?Aしかし,この従来例は,組立てのための作業に手間がかかることから,本件発明は,多数の構成部品を一個ずつ折り畳み機器に組み込んで行く作業を要せず,しかも係嵌組成体の組付けも各種部品に軸杆を挿通して抜け止め状態に固定するだけの作業によって行うことができるようにしたことから,組立てのための作業を簡易迅速に完成し得るようにしたものであり,また,本件発明は,筒状本体と摺動ディスクとにより構成するだけでなく,当該筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に摺動ディスクが露呈状態となるよう内嵌することで軸線方向へスライド自在となるよう構成することで,当該係嵌組成体の組立作業性や小型化を実現可能にしたものであることが認められる。 3 公然実施発明の意義(1) 甲5(さいたま地方法務局公証人A作成平成19年第0102号「折畳み式携帯電話用ヒンジ装置の構造等に関する事実実験公正証書」)によれば,公然実施発明は,本件特許出願前である1998年(平成10年)5月に日本電気株式会社が製造した「デジタル・ムーバ N206S HYPER」という携帯電話の折り畳み部分のヒンジ装置に係る発明であって,後記(2)記載の理由により,下記の内容を有するものであると認められる(二重下線部は,審決の認定を改めた部分)。 記「キー側筐体に固設した第1筒状部の軸線と直交状である第1周側端縁部と,ディスプレー側筐体に固設した第2筒状部の軸線と直交状である第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設し,当該連装の第1,第2筒状部には組成状態で第2筒状部から第1筒状部向きに抜き出し可能なヒンジ装置を第1筒状部から第2筒状部へ貫入して,外周部異形固定カムから突出した軸の突起部分の溝にEリングを設けることにより保持するようにし,当該ヒンジ装置は,上記の第1筒状部に筒状ケースを,第2筒状部には外周部異形固定カムを夫々内嵌し,ボールハウジングの第1突き合わせ端面と外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面のうち,第2突き合わせ端面には窪みを所定の周角度位置にあって4個設け,ボールハウジングの第1突き合わせ端面には上記窪みに対して,係合する2個のボールを設け,前記ボールハウジングは,前記ボールと窪みとの係嵌状態で前記ボールハウジングの第1突き合わせ端面が筒状ケース外にある外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状ケース外に配置され,前記ボールハウジングの第1突き合わせ端面には前記ボールと窪みとの係嵌状態で前記筒状ケースの開口部から突出するように前記ボールを設けて,前記筒状ケースの開口部から突出する前記ボールは,前記筒状ケースの外部で前記外周部異形固定カムの窪みに係嵌するようにすると共に,前記外周部異形固定カムから軸の突起部分を突出させ,さらに順次連装されている当該外周部異形固定カム,ボールハウジング,ばね,筒状ケースに対して軸を貫装することで,抜け止め状態にて固定することにより,上記外周部異形固定カム,ボールハウジング,ばね,筒状ケースが一体となるよう構成されており,前記ばねは,その両端が前記ボールハウジングとボールハウジングとは反対側の軸の頭部側の端面の裏側とにそれぞれ係合するように前記筒状ケース内に配置され,第2筒状部の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部でヒンジ装置の軸の突起部分の溝にEリングが嵌め込まれるように形成されている折畳み式携帯電話の第1,第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置。」(2)原告は,上記(1)の認定のうち,上記二重下線部のうち,「…前記ばねは,その両端が前記ボールハウジングとボールハウジングとは反対側の軸の頭部側の端面の裏側とにそれぞれ係合するように前記筒状ケース内に配置され,」について争うが,甲5によれば,公然実施発明においては,筒状ケースの中にばねが入っており,その両端がボールハウジングとボールハウジングとは反対側の軸の頭部側の端面の裏側とにそれぞれ係合していることが認められるから,公然実施発明は,上記(1)の構成を有するものと認められる。なお,上記部分に係る審決の認定においては,「前記ばね」の「前記」が指称する構成が不明である点において誤りがあるが,これは記載順序の誤りに止まり,公然実施発明の内容に係る誤りとまでは評価することができない。 4 取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)について(1)原告は,審決が本件発明の重大な本質的部分である「筒状本体に内嵌するディスク本体」について,本件発明の請求項1を認定する際に引用するだけで,他にこれに言及しないことは,本件発明の本質的部分を看過し,要旨認定を誤るものであると主張する。 しかし,本件発明における「筒状本体に内嵌するディスク本体」との構成は,原告が指摘するとおり請求項1の認定において摘示されているのであって,審決がこれを看過したということはできない。また,本件発明においてディスク本体が筒状本体に内嵌することについては,一致点として,「第1ヒンジ筒に回転止め状態で第1ディスクを,第2ヒンジ筒には回転止め状態で第2ディスクを夫々内嵌し,」と認定されているのであって,その意味においても,審決がこれを看過したということはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (2)原告は,審決が,「筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」と認定した点及び本件発明の第1ディスクの筒状本体について,第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っていると認定した点について,いずれも本件発明の要旨認定を誤まるものである旨主張するが,これらの主張は実質的に審決における相違点2及び3の判断の誤りをいうものであるから,取消事由3及び4に対する判断において検討することとする。 5 取消事由2(相違点1についての認定・判断の誤り)について(1) 抜け止め部材につきア原告は,審決が抜け止め部材に関し,本件発明においては「抜け止め弾性爪」であるのに対し,公然実施発明においては「軸の突起部分」である点を相違点としたことについて,上記「軸の突起部分」を「抜け止め部材」と認定することが誤りであると主張する。 この点,原告の上記主張は,抜け止め部材は「Eリング」であって,上記「軸の突起部分」ではないことを根拠とするものであるが,甲5によれば,公然実施発明においては,第2突き合わせ端面の反対端面から,軸が突出しており,その第2筒状部の外側から軸心側へ突設した軸の周縁部において軸の突起部分の溝にEリングを設けることによりヒンジ装置が保持されて抜け止めされることが認められる。そうすると,公然実施発明における軸の突起部分は,Eリングと相俟って抜け止め手段を構成しているということができるから,「軸の突起部分」は「抜け止め部材」に相当するものと認められる。 なお,公然実施発明における「Eリング」は,前記第3,1(3)イ(ウ)のとおり,相違点1において,「組成体に関し,本件発明では,第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入『するだけで係嵌状態に』保持される『係嵌組成体』であるのに対し,公然実施発明では,第1ヒンジ筒(第1筒状部)から第2ヒンジ筒(第2筒状部)へ貫入『して,外周部異形固定カムから突出した軸の突起部分にEリングを設けることにより』保持される『ヒンジ装置』である点。」として認定されているのであるから,この点が相違点を看過するものでもない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イまた原告は,公然実施発明に「抜け止め弾性爪」を適用したとしても,公然実施発明の「軸(杆)」の先端に「抜け止め弾性爪」を取り付けることが想到されるだけであり,第2ディスクに「抜け止め弾性爪」を設けることを想到することはできない旨主張する。 この点,甲17(実開平2-87109号公報,考案の名称「枢支ピン構造」,出願人 小島プレス工業株式会社,公開日 平成2年7月10日)には,リンク杆3(本体)の枢支ピン7に設けられた弾性を有する抜止め片8をアーム6(他部材)の取付孔に押し込んで結合することが,図とともに記載されており,甲20(特開平5-44713号公報,発明の名称「リンクプレート係止構造」,出願人 日本電装株式会社,公開日 平成5年2月23日)には,リンクプレートから延出された係合片7の弾性を有する係合爪8をケース1に設けられたボス部2に挿入して抜け止めを行うことが,図とともに記載されており,これらによれば,抜け止めのために抜け止め弾性爪を用いることは,本件特許出願前から周知の技術であったと認められる。 そして,周知技術である上記「抜け止め弾性爪」を適用する場合に,原告が主張するように,軸(杆)の先端に取り付けることが想到されるだけであるとは必ずしもいえず,かえって,これを第2ディスクの第2突き合わせ端面の反対端面に設け,第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態となるようにすることは,格別創意を要するものではなく,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の通常の創作能力の範囲内であると認められるから,当業者が容易に想到することができるものと認められる。 したがって,この点に関する審決の判断に誤りがあるということはできず,原告の上記主張は採用することができない。 (2) 係合部材につき原告は,本件発明においてコイルスプリングを摺動ディスクと筒状本体の内鍔との間に配置した理由は,筒状本体が内鍔を介して軸杆の抜け止め端に固定されて筒状本体が軸線方向に移動するのを阻止することによって,本件発明の本質的特徴部分である「第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とに筒状本体を跨った状態」から筒状本体の軸線方向の変位で「跨らない状態」になるのを防止することにあり,審決の挙げた甲11公報によっては想到することができない旨主張するが,前記2及び前記第3,1,(2)のとおり,本件発明の発明特定事項には,「筒状本体が内鍔を介して軸杆の抜け止め端に固定され」る旨の記載はないから,本件発明における内鍔は周知のものを使用したにすぎないといわざるを得ない。 そして,甲11公報の第6図(a),(b)及び(c)には,弾性部材30は,その両端が第2部材28とハウジング24の第2部材28の反対側の側端部の止め突起48とにそれぞれ係合することが開示されているから,これを公然実施発明に適用することによって,係合部材を筒状ケース(上記ハウジングに相当)の側端部の内鍔(上記止め突起に相当)とすることは,当業者において容易に想到し得るものといわざるを得ない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 6 取消事由3(相違点2についての認定・判断の誤り)について(1)原告は,審決の周知技術(甲10公報)の認定及び相違点2の判断に誤りがある旨主張するので,以下検討する。 ア甲10公報(実願昭46-113031号(実開昭48-65953号)のマイクロフィルム,考案の名称「蝶番」,出願人B,公開日昭和48年8月21日)には,「…此の係止盤5は第2図に示す様にその上面に上方に突出した突条部6を有し,そして此の突条部6の両側部分は前記筒状部2Aの開口縁部に形成した一対の長溝7に係入されており,此れにより係止盤の回動が阻止されている。又前記突状部2Aの端面に相対する他方の係止片の筒状部2Bの開端面には前記突条部6の先端が係入する比較的浅い一対の凹陥部8が形成されている。此の両者の係合は設定された力の範囲内で筒状部2A,2Bの相関的な回動を阻止しそして設定以上の回動力が加えられると前記両者の係合がはずれその回動制限が解除される様な形状及び寸法に形成されている。従って前記突条部の先端は丸味をもたす事が要求され又此れに係合する凹陥部8は浅い円弧に形成する事が好ましい。」(2頁9行〜3頁5行)と記載されており,また,第2図として,次の図面が記載されている。 イ甲10公報記載の上記発明は,「蝶番」に関するもので,公然実施発明及と同一の技術分野に属するものであるから,公然実施発明に甲10公報記載の上記発明を組み合わせることは,当業者が容易に想起することができるというべきである。 そして,公然実施発明の「軸部分」と「台座部分」とから成っている「ボールハウジング」は,第1突き合わせ端面と筒状本体の回動阻止兼スライド機構に対応した形状を有するから,上記甲10公報第2図記載の係止盤5に相当するものであり,公然実施発明の筒状本体は,回動阻止兼スライド機構を有する筒状体であるから,上記甲10公報第2図記載の一対の長溝7を有する筒状部2Aに相当するものである。したがって,公然実施発明に甲10公報記載の上記発明を組み合わせた結果,当業者が想起するものは,公然実施発明の「軸部分」と「台座部分」とから成っている「ボールハウジング」全体と筒状本体を,上記甲10公報第2図記載の係止盤5と一対の長溝7を有する筒状部2Aに置き換えるというものであると解される。 ウもっとも,上記の「公然実施発明の『軸部分』と『台座部分』とから成っている『ボールハウジング』全体と筒状本体を,甲10公報第2図記載の係止盤5と一対の長溝7を有する筒状部2Aに置き換えたもの」は,そのような置換えをしただけの状態では,別紙参考図のようなものとなる。 しかし,この図で灰色に着色されている「嵌り残る部分」を,本件発明のような,ディスク本体とディスク本体の周面から径方向に延びる部分として形成しても,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面との突き合わせや係嵌凸部と係嵌凹部との係嵌,回動阻止兼スライド機構の作用に変わりがないことは明らかである上,円筒状又は多角形状のものとその周囲に設けられた溝とを係合,摺動させる場合に,円筒状又は多角形状のものの周面から径方向に延びる部分を形成して溝と係合,摺動させることは,以下の(ア)〜(ウ)によれば周知の技術であると認められるから,上記「嵌り残る部分」を,本件発明のような,ディスク本体とディスク本体の周面から径方向に延びる部分として形成することは,当業者が適宜設定することができる程度の事項であって,当業者は容易に想到することができるものと認められる。 (ア)甲11公報(大韓民国公開特許公報特1998-042991号,発明の名称「ヒンジ装置」,出願人 Phenix Korea株式会社,公開日1998年[平成10年]8月17日)には,第2部材28の八角形の板からなるボディ58の対向する両側面60から突起62が突出し,その突起62がハウジング24の側壁に長手方向に延びている溝40に案内されて摺動することが記載されている。なお,甲11公報には,上記ボディ58は,ハウジング内の回転移動が制限され,回転軸方向への直線移動だけ許容される構造であれば,いかなる形状を有してもよい旨記載されている(訳文9頁5行〜7行)。 (イ)乙24(欧州特許公開公報,公開番号0445559A1,発明の名称「自動ロック式ドアヒンジ」,出願人 ケルミGmbH,公開日 1991年[平成3年]9月11日)には,周面に隆起15を備えた,円筒状の広幅リング13がヒンジ上部4の内壁42にミゾ41として形成された凹みにはまりこんで摺動することが記載されている。 (ウ)乙25(特開平9-130462号公報,発明の名称「携帯用電話機のカバー開閉機構」,出願人 三星電子株式会社,公開日 平成9年5月16日)には,周面にカムヒンジ突起52を備えた,円筒状のカムヒンジ50がヒンジハウジング30に形成された案内溝31に案内されて摺動することが記載されている。 エ以上のとおり,別紙参考図記載の装置に,本件発明のような,ディスク本体とディスク本体の周面から径方向に延びる部分として形成したものは,審決が認定する相違点2に係る本件発明の構成(前記第3,1(3)イ)をすべて備えているということができる。 したがって,これらの相違点は,いずれも公然実施発明及び甲10公報記載の発明に基づき容易に想到することができるというべきであって,審決の相違点2についての判断に誤りがあるということはできない。この点に関する原告の主張はいずれも採用することができない。 7 取消事由4(相違点3についての認定・判断の誤り)について(1)原告は,相違点3に係る本件発明における「前記第1ディスクの筒状本体は,前記第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており」との構成は,両ヒンジ筒の間でせんだん力が働いてもこれらのヒンジ筒の枢支状態を確実に維持することができる点で,極めて重要な要素であり,「径方向のズレ」だけを問題とする審決の認定・判断は誤りである旨主張する。 この点,原告の上記主張は,「ヒンジ軸が両ヒンジ筒10,11に可及的に接近して」跨って配置されることを前提とするものであるが,「ヒンジ軸が両ヒンジ筒10,11に可及的に接近して」との構成は請求項に記載がないものであるし(この点は原告も自認するところである),ヒンジ軸がヒンジ筒に「内嵌」していることをもって上記構成を備えるものということはできない。 また原告は,審決が認定する第1ディスクの係嵌凸部と第2ディスクの係嵌凹所との係嵌を前提とした場合にせんだん力との関係で生ずる問題として,前記第3,1(4)エ(ア)において?@〜?Cを挙げるが,ディスク部分と筒部分の隙間を前提とする点において採用することができない。 (2)そして,乙26(特開平8-298538号公報,発明の名称「折り畳み型携帯電話機」,出願人 日本電気株式会社,公開日 平成8年11月12日),乙27(特開平9-32846号公報,発明の名称「軸具」,出願人株式会社ニフコ,公開日 平成9年2月4日),乙28(特開平11-41328号公報,発明の名称「折り畳み型携帯電話機」,出願人 富士通株式会社,公開日 平成11年2月12日),乙29(特開平10-288217号公報,発明の名称「ヒンジ装置」,出願人 株式会社ストロベリーコーポレーション〔被告〕,公開日 平成10年10月27日)に係る発明は,以下ア〜エのとおり,ヒンジ筒内部に係嵌組成体を嵌めるに当たり,当該組成体の接合部をヒンジ筒の接合部とずらしてこれに跨るように構成するものであることが認められる。 ア 乙26乙26は,下図(乙26の図4)に開示されているとおり,筒部52が,ヒンジ係止部33(本件発明の第1ヒンジ筒)からヒンジ係止部32(本件発明の第2ヒンジ筒)へ跨って配置されるとともに,ヒンジ係止部32に対し回転可能に設けられている。 【図4】イ 乙27乙27は,下図(乙27の図5)に開示されているとおり,第1ヒンジ筒なる本体フレーム100から,第2ヒンジ筒なるカバー101へ円筒状部材(第二の軸部材20)が延びて跨る軸具Jを開示している。 【図5】ウ 乙28乙28は,下図(図5及び図10)のとおり,第1ヒンジ筒なる筒部20dから,第2ヒンジ筒なる筒部30fへ爪部材42が延びて跨る,係嵌組成体たるワンタッチオープン釦組立体15を開示している。 なお,乙28の【0037】には,「ヒンジモジュール14は,筒部30c内に挿入されて固定してあり,位置決め用凸部82bが溝30c-1に嵌合して,軸線CL13周りの位置を決められ,且つ,回り止めされている。角柱軸86aが矩形孔20b-1と嵌合している。ワンタッチオープン釦組立体15が,筒部20d内に挿入されており,位置決め用凸部40dが溝20d-1と嵌合して,軸線CL13周りの位置を決められ,且つ,回り止めされている。また,ねじ25によって,本体40が固定してある。爪部材42は,筒部20dを通り抜けて筒部30f内に入って,リブ42bがガイド溝30f-1と嵌合している。よって,爪部材42と筒部30fとは,爪部材42が筒部30fに対してY1,Y2方向に移動可能であり,軸線CL13周りの回動については,一体的に回動する関係にある。押し釦41は,ヒンジ13のY2側の端面13aより少し突き出ている。」と記載されている。 【図5】 【図10】エ 乙29乙29は,次の図1及び図3のとおり,第1及び第2ヒンジ筒に跨って設けられる係嵌組成体を開示している。 【図1】 【図3】(3)これら乙26〜乙29は,審決がその認定に用いていないとしても,周知技術を認定するためのものであるから,本件において認定に供することができるというべきであり,また,乙26〜乙29の技術は,公然実施発明と同一の技術分野に属するものであるから,公然実施発明に当該発明を組み合わせることは,当業者が容易に想起することができるというべきである。 そして,上記周知技術を公然実施発明に適用することにより,第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11の内部に筒状本体を設けるに際して,両ヒンジ筒10,11の径方向のズレやブレを防ぐため,筒状本体を両ヒンジ筒に跨るよう配置して,第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒の接続部分で生じる径方向のズレなどを防ぐようにする程度のことは,当業者が必要に応じてなし得る設計事項にすぎないというべきである。 なお原告は,せんだん力との関係で生じる前記問題において,二つのディスクが係嵌状態の切替え時であるか否かを区別して論じており(原告が前記第3,1(4)エ(ア)において挙げる?@及び?A),同主張は,切替えの有無により「跨った状態」と「跨らない状態」が変位することを問題とする趣旨をも含むものと理解することができるが,本件発明は,上記「跨っており」との構成について係嵌状態の切替えの有無を区別して特定するものではないから,この点が上記認定を左右するものではない。 したがって,この点に関する原告の主張は採用することができない。 8 取消事由5(本件発明の効果に関する判断の誤り)について(1)原告は,?@本件発明は,係嵌組成体(ヒンジユニット)の長さを同じとすると,筒状本体12A(筒状ケース)の長さは,公然実施発明よりも長くなって,ヒンジ軸機能を向上することができ,逆に,筒状本体12A(筒状ケース)の長さを同じとすると,係嵌組成体(ヒンジユニット)の長さは,公然実施発明よりも小さくなって小型化することができる,?A公然実施発明に比べてバネ収容空間を長さ方向及び径方向に大きくしてコイルスプリングの適正なバネ定数を得,これによって係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態の保持力を維持し,又は係嵌の切り替えを円滑に行うことができる,?B第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間のせんだん力による径方向のズレの防止,という顕著な効果を有すると主張する。 しかし,前記のとおり,公然実施発明に甲10を適用することによって容易に本件発明に至るのであり,その場合に,原告が主張する上記?@の効果があるとしても,その効果は,当業者が予測することができる範囲内のものであって,格別のものということはできない。 また,本件発明と公然実施発明とは,「コイルスプリング(ばね)」の配置において相違しているということはできない(本件発明においてもばねをケースに入れた上で筒状本体に入れるといった態様のものは排除されていない)ことからすると,本件発明が必然的に上記?Aのような効果を有すると認めることはできない。また,仮に,原告が主張する上記?Aの効果があるとしても,その効果は,当業者が予測することができる範囲内のものであって,格別のものということはできない。 さらに,取消事由4(相違点3についての認定・判断の誤り)について説示したところに照らせば,上記?Bの効果も,当業者が予測することができる範囲内のものであって,格別のものということはできない。 したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。 (2)原告は,公然実施発明の「筒状ケースとボールハウジングとの組み合わせ」を甲10の「筒状部2Aと突条部6付き係止盤5との組み合わせ」に置き換えても,本件発明は,この差し替え技術でも達成することができない顕著な効果を有すると主張するが,前記のとおり,公然実施発明に甲10を適用することによって容易に本件発明に至るのであり,原告が主張する別紙参考図のようなものをことさら想定して本件発明と対比する理由はないから,原告の主張は前提において失当であり,採用することができない。 (3)原告は,特に携帯電話機のように小型の折り畳み機器においては,係嵌組成体のコイルスプリングのバネ定数や摺動ディスクの傾きや係嵌組成体の軸線長さは,機器を適度の力で円滑に開閉操作するのに極めて重要な要因であり,本件発明の「摺動ディスク」と「筒状本体」との配置は,この効果を達成するのに重要な要件である,とも主張するが,上記のとおり,原告が主張する本件発明の効果は,本件発明の効果とは認められないものがある上,認められるものも格別のものとはいえないのであって,審決の「…本件発明の全体構成から奏される効果も,公然実施発明及び上記周知技術から当業者であれば予測し得る範囲内のものである。」(25頁22行〜23行)との判断に誤りがあるということはできない。 9取消事由5(無効理由その2についての判断の誤り)について以上のとおり,審決の「無効理由その3について」の認定判断に,結論に影響する誤りがあるとは認められないから,「無効理由その2について」の認定判断に,結論に影響する誤りがあるとも認められない。 10 結論以上の次第で,原告主張の取消事由はすべて理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 澁谷勝海 |