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関連審決 無効2008-800007 訂正2008-390121
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10338審決取消請求事件 判例 特許
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平成21行ケ10002審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10345審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  公知技術 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  交換 /  業として /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10396号 審決取消請求事件
原告ペ パーレット株式会社
訴訟代理人弁理 士中畑孝
被告株式会社大貴
訴訟代理人弁護 士松田純一
同 大橋君平
同 伊藤卓
同 西村公芳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/06/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2008−800007号事件について平成20年9月17日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文同旨第2事案の概要1本件は,発明の名称を「排泄物処理材」とする特許第4014604号の請求項1及び2について,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁がこれを無効とする旨の審決をしたことから,特許権者である原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,上記請求項1及び2に係る発明が下記刊行物に記載された発明(以下「甲第1号証発明」という。)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記・特開2000-60338号公報(発明の名称「粒状の動物用排泄物処理材」,出願人 株式会社大貴[被告],公開日 平成12年2月29日。甲1)第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯ア原告は,平成17年4月22日,名称を「排泄物処理材」とする発明について特許出願(以下「本願」という。特願2005-125351号)をし,平成19年7月18日付けの補正(甲24)を経た上,平成19年9月21日,特許第4014604号として登録を受けた(請求項の数2。甲2。以下「本件特許」という。)。
イこれに対し,被告は,平成20年1月15日付けで本件特許の請求項1及び2について無効審判請求をしたので,特許庁は,同請求を無効2008-800007号事件として審理した上,平成20年9月17日,本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をし,その謄本は平成20年9月29日原告に送達された。
ウなお,原告は,本訴提起後の平成20年10月28日,本件特許について訂正審判請求(訂正2008-390121号,甲26)をし,同請求が特許庁に係属している。
(2) 発明の内容本件特許の請求項1及び2の内容は,次のとおりである(以下,請求項1の発明を「本件発明1」,請求項2の発明を「本件発明2」という。)。
「【請求項1】表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせて成る壁紙の廃材を原料とし,該壁紙を細かく破砕し形成した表面に上記凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する破砕片と,繊維状吸水材又は粉粒状吸水材とを組成材とする粗粒状体から成り,該粗粒状体中の塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造を有することを特徴とする排泄物処理材。
【請求項2】上記粗粒状体は水分を吸収すると粘着性を生ずる粘着成分を含有せる通水性被覆を有することを特徴とする請求項1記載の排泄物処理材。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件発明1及び2は甲第1号証発明に基づいて容易に発明することができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
イなお,審決が認定する甲第1号証発明の内容,本件発明1と甲第1号証発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(ア) 甲第1号証発明の内容「3mm以下の粒度の表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙廃材の粉砕物,及び該粉砕物より少ない量の粉状吸水性樹脂を含有して粒状に形成されている粒体,並びに該粒体表面部に付着した界面活性剤から成る粒状の動物用排泄物処理材」(イ) 本件発明1と甲第1号証発明との一致点及び相違点<一致点>いずれも「廃材を原料とし,該廃材を細かく破砕し形成した物と,粉粒状吸水材とを組成材とする粗粒状体から成る排泄物処理材。」である点。
<相違点1>本件発明1は,「表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせて成る壁紙の廃材を原料」とするものであるのに対し,甲第1号証発明は,「表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙廃材」を原料とする点。
<相違点2>本件発明1は,粗粒状体が「壁紙を細かく破砕し形成した表面に上記凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する破砕片を組成材とする」のに対し,甲第1号証発明は,粒体が「粉砕物を含有」するものであり,かかる「粉砕物」について,表面に凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する破砕片であることの特定がない点。
<相違点3>本件発明1は,「粗粒状体中の塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造を有する」のに対し,甲第1号証発明は,かかる構造の特定がない点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本件発明1と甲第1号証発明との一致点認定の誤り)(ア)本件発明1における「破砕片」とは,請求項1に記載する「凹凸を残存する」大きさを有する切片,すなわち本件特許公報(甲2)の図2A,Bに明示し,かつ【0017】と【0027】に記載する,「…紙片3′が製紙されたシート片としての形態を残存し,且つ塩化ビニール片2′がシート片としての形態を残存する…」大きさの貼り合わせ片であり,この貼り合わせ片を「破砕片」と規定している。
(イ)これに対し,甲第1号証発明においては,廃材紙,すなわち紙を3mm以下に粉砕した態様のものを「粉砕物」と称している。紙を3mm以下に粉砕した「粉砕物」は,短繊維状に離解された粉末状又は綿状のものであって,シート形態を残存しない態様のものである。甲第1号証発明の「粉砕物」とは,本件特許公報(甲2)の【0028】に記載する,「…紙粉は紙製シート3を短繊維状に離解したもの,粉末状のものでシート形態を残存しないもの」に相当する。甲第1号証発明のプラスチック材料被膜,すなわちラミネート被膜は微細粉になって,上記離解された短繊維に付着しているのみである。
(ウ)以上のとおり,本件発明1における「破砕片」と甲第1号証発明における「粉砕物」とは,別意の構成態様を持つものであり,また,廃材という特定の材は存在しないのであるから,両者を単に「廃材を細かく破砕し形成した物」として括り,一致点としたのは,発明の構成の対比による構成の一致点を適切に認定したものとはいい難いものである。
イ 取消事由2(本件発明1と甲第1号証発明との相違点認定の誤り)(ア)審決は,相違点2において,甲第1号証発明は「…『粉砕物』について,表面に凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する破砕片であることの特定がない」点で,本件発明1と相違すると認定している。
しかし,前記アのとおり,紙を3mm以下に粉砕した粉砕物は,3,2,1mmの他,0コンマ以下の粒度のものを含み,紙をこのような粒度に粉砕した場合には,短繊維状に離解されて,シート原形を留めない粉末状又は綿状のものになり,また,紙の表面にラミネートされたプラスチック材料被膜は平滑な表面を有する(本件発明1の「破砕片」のように装飾のための凹凸を有しない)から,シート形態を残存し凹凸を残存している本件発明1の「破砕片」とは全く異なる態様のものであって,表面に凹凸を有する塩化ビニール片の対面による通水路の形成と吸水材を保持する構成の形成が全く不能な構造のものである。したがって,単に特定がないのではなく,甲第1号証発明は,本件発明1とは全く異なるものである。
(イ)審決は,相違点3において,「本件発明1は,『粗粒状体中の塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造を有する』のに対し,甲第1号証発明は,かかる構造の特定がない」点で相違すると認定している。
しかし,上記(ア)のとおり,甲第1号証発明においては,「表面に凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する破砕片」を得ることはできず,「粗粒状体中の塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造」を形成することは全く不能である。したがって,単に特定がないのではなく,甲第1号証発明は,本件発明1とは全く異なるものである。
ウ取消事由3(本件発明1と甲第1号証発明との相違点についての判断の誤り)(ア) 審決は,下記の三つの判断を示している。
?@甲第1号証発明のラミネート加工紙廃材(紙廃材)に代えて,塩ビ壁紙を用いることに特段の阻害事由が存在せず,当業者が容易に想到し得る(7頁22行〜9頁21行)。
?A甲第1号証発明の最大3mmのラミネート加工紙廃材粉(紙廃材粉)と,2〜12mmの塩ビ壁紙の破砕片とは大きさの範囲が重複し,甲第1号証発明のラミネート加工紙廃材(紙廃材)に代え塩ビ壁紙を用いれば,本件発明1の範囲に属する3mmの破砕片が得られる(9頁23行〜12頁3行)。
?B本件発明1の構造は,特段の操作又は条件を要することなく得られ,甲第1号証発明のラミネート加工紙廃材(紙廃材)に代え塩ビ壁紙を用いれば,塩ビの凹凸面の対面による通水路の形成,吸水材の保持構造が得られる(12頁5行〜13頁18行)。
(イ) 上記?@の判断につきa甲第1号証発明において開示されている「…ラミネート加工紙等の表面がパラフィン被膜若しくはプラスチック材料被膜で覆われている紙…」(甲1,【0006】)は,文字通り「紙」であるのに対し,本件発明1において使用している「塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせて成る壁紙」は,合成樹脂(プラスチック)である。換言すると,塩ビ壁紙は塩ビを主体とする点において合成樹脂であるのに対し,上記ラミネート加工紙は紙を主体とする点において紙(植物由来のパルプから成る紙)であり,パルプから成る紙と石油を原料とする合成樹脂とは,例えば金属と木材が異材質のものであると同様,その組成,物性が全く異なり,近接物質とはいい難い。
b資源の有効な利用の促進に関する法律,廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の関係法規においても,塩ビ壁紙廃材と紙廃材とは,取扱いが異なっている。難燃性を有する塩ビ壁紙廃材は,環境保全の見地から関係官庁に登録した有資格処理業者のみに処理が委ねられているのに対し,新聞,印刷紙,紙製食品容器等の紙廃材の処理には上記のような特別な資格を要せず,古紙として回収され製紙会社等における再利用に供されている。
合成樹脂と紙を同一属類又は同一属性のものとして分類する文献はなく,業界はもとより,学会,行政庁等においても,紙(ラミネート加工紙)と合成樹脂(塩ビ壁紙)とは別異のものであるとの認識が定着している。
c「ラミネート加工紙等の表面がパラフィン被膜又はプラスチック材料被膜で覆われている紙」の代表例としての紙製牛乳パックの拡大断面写真(甲29)から明らかなように,拡大率100倍の牛乳パックの紙の厚みは略45mmであるのに対し,撥水フィルム(プラスチック材料被膜)の厚みは略1〜2mmであり,紙の厚みは撥水フィルムの厚みの略22〜45倍の厚みにも達し,紙が主体又は躯体であることが明示されている。
他方,塩ビ壁紙の拡大断面写真(甲30)から明らかなように,拡大率100倍の塩ビ壁紙の塩ビシートの厚みは略53〜57mmであるのに対し,紙製シートの厚みは略3〜6mmであり,塩ビシートの厚みは紙製シートの厚みの略9〜19倍の厚みにも達し,塩ビを主体又は躯体とするものであることが明示されている。
d甲1の【0006】においては,甲第1号証発明に用いられる廃材が「紙廃材」であるとし,この紙廃材に属するものとして,紙おむつ廃材,屑紙,印刷された新聞,雑誌や広告等の印刷された紙,ラミネート加工紙等の表面がパラフィン被膜若しくはプラスチック材料被膜で覆われている紙等のいわゆる紙材を掲げており,これらを総称して「紙廃材」と称しているから,甲第1号証発明において意図しているのは,パルプから成る紙材の廃材を用いて吸水材として機能させ,廃材の有効利用を図るという目的に限定される。
eしたがって,甲第1号証発明の紙廃材の利用から本件発明1の塩ビ壁紙の利用を容易に予測し得るとすることはできない。
ましてや,甲第1号証発明の紙廃材から表飾のための凹凸を有する塩ビ製壁紙(合成樹脂)を容易に予測し,この壁紙を凹凸を残存する破砕片にして粒状体中に混合し,粒状体中に表飾のための凹凸の対面による通水路を形成し,該通水路内に排尿を誘引し,通水路内に吸水材を保持して排尿を保持する着想までをも容易に予測し得るとすることは,甲1の記載事実から遊離した判断といわざるを得ない。
(ウ) 上記?Aの判断につきa本件発明1において採択した塩ビ壁紙は塩ビシートを主体とし,裏面に建物内壁に貼付するための薄紙を貼付した構造であり,したがって,これを粉砕した場合,甲1の粉砕物と重複する2,3mmの大きさにおいても,紙のように離解されずにシートとしての形態を残存した小さなシート片にすることができ,裏面に貼付された薄紙はこの塩ビシート片に追随してシートとしての形態を残存しているから,凹凸を残存することができる。
b他方,甲第1号証発明のラミネート加工紙は紙を主体とするものであるから,3mm以下の粉砕によってパルプ繊維に離解されて綿状になり,これに追随してラミネートされたプラスチック材料被膜は離解された繊維に細かく付着された状態になり,紙もプラスチック材料被膜もシートとしての形態を残存することができない。さらに,ラミネート加工紙におけるプラスチック材料被膜は,凹凸を有しない平滑な被膜であるから,被膜の表面に凹凸を残存するような粉砕物を得ることは不可能である。
c以上のとおり,塩ビを主体とする塩ビ壁紙から得られた破砕片と,紙を主体とするラミネート加工紙から得られた粉砕物とは,その原料組成の違いから,大きさの範囲が重複しても,破砕片と粉砕物の構造は全く異なるものとなり,大きさが重複する点だけを捉え,進歩性がないとするのは誤りである。
(エ) 上記?Bの判断につき上記?Bの判断は,撥水フィルムのラミネート加工紙を塩ビ壁紙に容易に変更できるとの上記?@の判断に基づき,特段の操作又は条件を要することなく,本件発明1が得られるとの判断であるが,本件発明1は物の発明であり,特段の操作又は条件を要件とする方法の発明ではない。
本件発明1は表面に凹凸を有する塩ビ壁紙の破砕片の配合によって,内部に通水路構造,吸水材保持構造を持った粒状処理材の構造を特徴とする物の発明であり,特段の操作又は条件を要さずに容易に製造できる点は,むしろ発明の特徴としてとられるべきである。
(オ)一口に壁紙といった場合,紙壁紙,織物壁紙,ビニール壁紙,木質系壁紙,無機質壁紙等の各種壁紙が存在することは周知である(甲4,7)。
本件発明1は,単にこれら壁紙を使用するというのではなく,この壁紙中の塩ビ壁紙を採用し,塩ビ壁紙が有する表面に表飾のための凹凸を有する構造に着目し,この構造を粒状処理材の組成原料として活用できないかとの発想に基づきなされたものであり,この発想は甲1の紙を主体とし表面を平滑なフィルムでラミネートしたラミネート加工紙からは全く予測困難である。
従来,吸水材として吸水性が良好な古紙等の紙を用いる(これら古紙中にも表面保護用のラミネート加工紙が存在する)という観念が固定している中で,吸水性を有する紙廃材とは逆行する実質的に吸水性のない塩ビ壁紙を想定することは極めて困難である。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対し原告は,本件発明1の「破砕片」はシート形態を残存するのに対し,甲第1号証発明の「粉砕物」は短繊維状に離解された粉末状のものでシート形態を残存しないから,両者は異なる旨主張している。
しかし,甲第1号証発明において紙廃材を3mm以下に粉砕するとなぜシート形態とならないのか,原告の主張をどれだけ検討しても全く不明なままとなっている。
「3mm」という数値が示すように,甲第1号証発明は紙廃材が紙としての形態を失わない一定の大きさをもつことを予定している。そして,3mm以下でもそれなりの大きさの粉砕物であれば,当然,シート形態にもなる。
例えば,家庭で,ハサミやカッター等を使って牛乳パックを3mm以下の紙片に切り刻めば,その紙片が短繊維状に離解せずシート形態を維持していることは,簡単に確認することができる。そもそも,甲1の特許請求の範囲の記載は破砕機の使用を要件としていないからである。
したがって,原告の主張は理由がなく,審決の本件発明1と甲第1号証発明との一致点の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2に対し審決の本件発明1と甲第1号証発明との相違点の認定に誤りはない。
(3) 取消事由3に対しア 前記1(4)ウ(ア)?@の判断につき(ア)当業者として紙を扱う業界を想定すべきである。塩ビ壁紙の製法は,ビニルシートと紙を貼り合わせるか,紙上にビニル層を塗布形成するという方法が一般的であるから,塩ビ壁紙は,ラミネート加工された紙の一つであるともいい得るところである。実際,同業界のリーディングカンパニーである王子製紙株式会社は,塩ビ壁紙を含む壁紙の開発を,直接あるいはグループ会社を通じて事業としている。そして,同社はウェブサイト(乙5)において,壁紙を「生活の中の紙」の一例として紹介している。さらにいえば,「表面に表飾のための凹凸が施され,かつ,その表面がプラスチック材料被膜で覆われた塩ビ壁紙」は,甲1に係る特許出願の出願時において公知技術であったところ(特開平8-13397号[発明の名称「壁紙とその製造方法」,出願人 凸版印刷株式会社,公開日 平成8年1月16日]乙6),甲1の請求項4に記載されている「表面がパラフィン被膜又はプラスチック材料被膜が覆われている紙」には,この壁紙も含まれるものと考えられる。
なお,当業者を画定する技術分野を「紙製動物用排泄物処理材の製造業界」により極めて限定的に解すると,当該業界を構成する主な製造業者としては,原告及び被告(この2社でシェアの約7割を占める。)と,ユニチャーム株式会社と,常陸化工株式会社と,井出紙業株式会社と,フジライト工業株式会社がある(これらの6社でシェアの9割以上を占める。)。これらの製造業者はいずれもリサイクル事業を主たる事業とし,動物用排泄物処理材の原料に紙廃材を用いているが,本件特許の出願当時,塩ビ壁紙についてリサイクルの促進が図られていたことについては注目されていたところであり,上記製造業者に属する当業者にとって,甲1の紙廃材を塩ビ壁紙廃材とすることは容易であった。
(イ)原告は,「塩ビ壁紙は塩ビを主体とする点において合成樹脂であるのに対し,ラミネート加工紙は紙を主体とする点において紙であり,パルプから成る紙と石油を原料とする合成樹脂とは,その組成,物性が全く異なり,近接物質とはいい難い。」と主張する。
しかし,紙と合成樹脂の組成や物性が異なるとしても,それは,ラミネート加工紙等と塩ビ壁紙がそれぞれ「紙」と「合成樹脂」に分類されることに由来するものではない。ラミネート加工紙等も塩ビ壁紙も,いずれも紙と合成樹脂を積層して成る複合体であるからである。
原告が主張するように,ラミネート加工紙等と塩ビ壁紙は,紙と合成樹脂の割合(厚さの比率)が異なり,前者では紙の割合が高く,後者では合成樹脂の割合が高いとしても,そのことをもって前者を「パルプから成る紙」の単一体と同視し,後者を「石油を原料とする合成樹脂」の単一体と同視して両者が全く異なるとする原告の主張は,甚だ不合理というほかない。
(ウ)原告は,「資源の有効な利用の促進に関する法律,廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の関係法規においても,塩ビ壁紙廃材と紙廃材とは,取扱いが異なっている。合成樹脂と紙を同一属類又は同一属性のものとして分類する文献はなく,業界はもとより,学会,行政庁等においても,紙(ラミネート加工紙)と合成樹脂(塩ビ壁紙)とは別異のものであるとの認識が定着している。」と主張する。
しかし,排泄物処理材の開発に携わる当業者が,それに用いる吸水材のバリエーションを想起するに際して,吸水材の廃棄規制の相違がその妨げとなることなどあり得ない。塩ビ壁紙については,塩化ビニールが塩素を含み,これを燃やすと有害なダイオキシンが発生するとの理解により特別の廃棄規制がされているという経緯があり,原告が主張するように紙と合成樹脂だからという単純な区別で廃棄規制が異なるというものではない。
原告の主張は,ラミネート加工紙等及び塩ビ壁紙がともに複合体である事実を糊塗した上での議論に過ぎず,当を得ない。
(エ)原告は,牛乳パックは,紙の厚みが撥水フィルムの厚みの略22〜45倍に達するから紙を主体又は躯体とするものであるのに対し,塩ビ壁紙は,塩ビシートの厚みが紙製シートの厚みの略9〜19倍に達するから塩ビを主体又は躯体とするものである。」と主張する。
原告が主張するように,牛乳パックと塩ビ壁紙とでは紙と合成樹脂の厚さの比率が異なるとしても,牛乳パックが紙そのものと強く意識されていないことは原告の自認するところである上,塩ビ壁紙は合成樹脂よりも紙に近いものとして一般に意識されている。排泄物処理材の開発に携わる当業者であっても,牛乳パックや塩ビ壁紙の断面を拡大観察して紙と合成樹脂の厚さの比率を意識することなどないし,その呼称態様からみても,両者が紙に近いものとして一括りに認識されていることは明らかである。
イ 前記1(4)ウ(ア)?Aの判断につき(ア)原告は,ラミネート加工紙は3mm以下に粉砕すると紙もプラスチック材料被膜もシートとしての形態を残存することができないこと,表面が平滑なラミネート加工紙を粉砕しても表面に凹凸を残存するような粉砕物が得られないことという二つの理由を挙げて,「塩ビ壁紙から得られた破砕片とラミネート加工紙から得られた粉砕物とは構造が異なるから,本件発明1と甲第1号証発明で破砕片と破砕物の大きさの範囲が重複しても,それを進歩性否定の理由とすべきではない」旨を主張する。
(イ)しかし,前記(1)のとおり,「ラミネート加工紙は3mm以下に粉砕すると紙もプラスチック材料被膜もシートとしての形態を残存することができない」というのは,正しい認識とはいえない。
(ウ)「表面が平滑なラミネート加工紙を粉砕しても表面に凹凸を残存するような粉砕物が得られないこと」については,表面が平滑なラミネート加工紙を原料とすれば,粉砕物の表面に凹凸が残らず,粉砕物の凹凸面の対面により通水路が形成されないのは,そのとおりである。
しかし,審決は,ラミネート加工紙の廃材を,表面に凹凸を有する塩ビ壁紙の廃材に置換することが容易だとしているのであって,問題として取り上げられるべきは,両者の異同如何ではなく,両者を置換することの容易性如何(「特段の阻害事由」の有無)である。凹凸面の対面による通水路の形成は,置換がなされればいわば自動的,追従的に得られるのであるから,置換の容易性とは遊離した形で凹凸面やその対面により形成される通水路等のみを殊更に採り上げても,意味をなさない。
(エ)さらにいえば,実際には,吸水材を保持するとともに排尿を誘引して保持するという現象は,表面が平滑なラミネート加工紙の粉砕物が吸水材を挟んで対向した場合にも得られる。
原告の主張によれば,甲1の動物用排泄物処理材においては,プラスチック材料被膜同士が当接し合って偏在するという不自然な現象が生じていることになるが,そのようなことは考えられない。
また,原告は,塩ビ壁紙の凹凸の対面により通水路が形成されるというが,例えば互いに噛み合うような形状の凹と凸が正対して略一定の間隔を有する通水路が形成されることはほとんど想定することができないし,仮にそのように形で通水路が形成されたとしても,そもそも通水路の技術的意義が不明である。
次に,保水材を保持するとの点については,塩ビ壁紙それ自体に排泄物処理材の粒状体を維持するような粘着力等の凝集力はなく,この凝集力は吸水材中の適量のポリマーが担うので,凹凸面を有する破砕片が対向して吸水材を保持するとはいえない。
さらに,排尿を誘引して保持するとの点については,吸水材が破砕片に挟まれて通水路を形成したことを機に排尿に対する誘引力を増すわけではないし,通水路に導かれた排尿が破砕片に遮水されて保持されることも,ラミネート加工紙を原料とする凹凸面を有しない粉砕物により実現する。
以上のとおり,塩ビ壁紙の凹凸は,排尿吸収量が増大する等の特別な技術的効果を生み出すものではなく,凹凸の有無は本件発明1の進歩性に寄与するものではない。
ウ 前記1(4)ウ(ア)?Bの判断につき原告は,本件発明1が物の発明であって方法の発明ではないから,特段の操作又は条件を要しないことは,むしろ発明の特徴としてとられるべきであると主張する。
しかし,審決が「特段の操作又は条件を要することなく」と述べているのは,当業者が「容易に発明をすることができた」ことを示す趣旨であり,本件発明1が物の発明であるか方法の発明であるかに関係がない。
なお,通水路構造や吸水材保持構造は,特段の操作又は条件を要することなく得られるものであるから,それらを取り立てて議論することは意味をなさない。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
なお,原告が,本訴提起後の平成20年10月28日付けでなした訂正審判請求における請求項1の内容は,次のとおりである(下線は訂正部分,甲26)。
「【請求項1】表面に表飾のための凹凸が施された炭酸カルシウムを含有する塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせて成る壁紙の廃材を原料とし,該壁紙を細かく破砕し形成した表面に上記凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する5〜12mmの破砕片と,繊維状吸水材又は粉粒状吸水材とを組成材とする粗粒状体から成り,該粗粒状体中の塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造を有することを特徴とする排泄物処理材。」2本件発明1,2の意義(1)本件特許請求の範囲の請求項1,2は,前記第3,1(2)のとおりである。
(2)本件特許明細書(甲2,特許公報)には,「発明の詳細な説明」として,次の記載がある。
ア 技術分野「この発明は人間や動物の排泄物の処理材として,壁紙の廃材を原料として再利用した粗粒状体から成る排泄物処理材に関する。」(段落【0001】)イ 背景技術「…従来より木材パルプを造粒し粒状にして成る動物の排泄物処理材が周知であるが,この木材パルプを原料とする排泄物処理材は省資源の要請に反し,又木材パルプは比較的高価であり,安価であることが求められている排泄物処理材の原料としては経済性,市場性に欠ける問題点を有している。…」(段落【0002】)ウ 発明が解決しようとする課題「本発明は上記木材パルプに代わる原料として,産業廃棄物として多量に排出されている壁紙の廃材を再利用した排泄物処理材を提供し,省資源の要請に資するものである。
建物の内壁の化粧材として壁紙が汎用されており,殆どの壁紙は塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせ,紙製シートを下地(石膏ボードやモルタル下地又は合板)への貼り付け手段とし,塩化ビニールシートに各種凹凸模様を施して室内壁面を構成する表飾手段としている。
上記貼り合わせ体から成る壁紙は製造工程において多量の不良品,端材を廃材として発生し,又建物の取り壊しやリフォーム,壁紙貼り替えに伴い,多量の廃壁紙が排出されている。
これら塩化ビニールと紙製シートの貼り合わせ体から成る壁紙は,塩化ビニールとしても,又古紙としてもリサイクルが困難であり,現状では焼却処分,埋め立て処分されているのが実情であり,環境問題を招来している。」(段落【0003】〜【0006】)エ 課題を解決するための手段「本発明は上記表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせて成る壁紙の廃材を原料とし,該壁紙を細かく破砕した表面に上記凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する破砕片を形成し,該破砕片に繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を混合し造粒した粗粒状体から成り,該粗粒状体中の塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造を有する排泄物処理材を提供するものである。
上記粗粒状体の表面には水分を吸収すると粘着性を生ずる粘着成分を含有せる通水性被覆を形成し,該通水性被覆が受尿した時に隣接する粗粒状体と粘着せしめ塊状にして除去し,交換できるようにする。」(段落【0007】〜【0008】)オ 発明の効果「排泄物処理材は粗粒状体化することによって,使用量の調整や,受尿部分のみの廃棄交換を可能としているが,本発明は塩化ビニール片によって上記粗粒状体の体積を確保する増量材として有効に機能させつつ,該塩化ビニール片に付帯する紙片に吸収性能を具有せしめ,壁紙の廃材利用と相俟って排泄物処理材の大幅なコストダウンを達成するものである。
殊に上記排泄物処理材は従来焼却処理等されていた廃壁紙を適性原料として再利用し,省資源に資するものである。
上記廃壁紙が固有する塩化ビニール片は上記増量材,粒状形成材として機能しつつ,紙片が吸収した排尿を塩化ビニール片が遮水して紙片の紙層中に有効に保水せしめる。
加えて塩化ビニールシート及びこれに由来する塩化ビニール片は,表面を表飾するための多数の凹凸を有し,該塩化ビール片の凹凸内に繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を捕捉し,塩化ビニール片と両吸水材との一体造粒化を助ける。
又上記塩化ビニール片でバックアップされた紙片がその紙層中に排尿を吸水し保水すると同時に,粗粒状体中の破砕片の塩化ビニール片が対面して,即ち凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に上記凹凸によって上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を確実に保持する。
排尿は上記通水路内に誘引されつつ通水路内の繊維状吸水材又は粉粒状吸水材と凹凸に捕捉され,その機能を遺憾なく発揮せしめる。
又排泄物処理材の原料とする廃壁紙はその塩化ビニールシート中に,通常,重量比30%程度の炭酸カルシウムを含有するので,粗粒状体中に自動的に炭酸カルシウムを取り込み,この炭酸カルシウムにより重みを付加し飛散や動物の体毛への付着を防止する重量付加効果を発揮せしめることができ,新たに炭酸カルシウムやクレー等の鉱物質充填材を加える必要が無いか,減殺できるから更にコストダウンに繋がる。」(段落【0009】〜【0015】)カ 発明を実施するための最良の形態・「図1に示すように,壁紙1は塩化ビニールシート2にパルプを原料として製紙された紙製シート3を貼り合わせた構造を有し,この壁紙1を破砕機にかけ細かく破砕して図2に示す破砕片4を形成する。
図3に示すように,上記破砕片4は片面に塩化ビニール片2′を有し,他の片面に紙片3′を有する両者の貼り合わせ体から成り,この破砕片4と繊維状吸水材又は粉粒状吸水材11とを組成分とする粗粒状体5を形成する。
上記塩化ビニールシート2は表飾のために表面に無数の凹凸10を有し,従って破砕片4を形成する塩化ビニール片2′も表面に凹凸10を残存している。
この凹凸10は粗粒状体5における上記吸水材11の捕捉機能と水分の捕捉機能を付加する。
この粗粒状体5中の塩化ビニール成分と紙成分(パルプ繊維成分)の比は,壁紙1の組成比と同じで,略3:2であり,吸水性に必要なパルプ繊維成分を紙層として充分に取り込むことができる。
粗粒状体5の組成分として上記破砕片4を重量比10〜90%程度配合し,例えば破砕片4を40%配合した場合には,粒状体5全体中に紙片3′に由来するパルプ繊維成分16%と,塩化ビニール片2′に由来する塩化ビニール成分24%を配合したことになる。」(段落【0016】〜【0021】)・「上記に従い粗粒状体5全体の組成分中には破砕片4を10〜90%程度含有せしめ,繊維状吸水材又は粉粒状吸水材11を10〜90%配合する。
上記粉粒状吸水材11としては吸水性ポリマーやでんぷんやCMC,木粉や紙粉等を用い,又繊維状吸水材11としてはパルプ繊維,殊に古紙を綿状に離解した繊維,その他トウモロコシ残渣等の食物残渣を適用できる。
これら粉粒状吸水材11又は/及び繊維状吸水材11を粗粒状体5全体の組成分中に10〜90%程度含有せしめる。
上記破砕片4の大きさは紙片3′が製紙されたシート片としての形態を残存し,且つ塩化ビニール片2′がシート片としての形態を残存する,2〜12mm程度の細かく破砕された破砕片4である。
上記紙粉は紙製シート3を短繊維状に離解したもの,粉末状のものでシート形態を残存しないものを意味する。」(段落【0024】〜【0028】)・「上記破砕片4と繊維状吸水材又は/及び粉粒状吸水材11を既知の造粒機にかけて造粒し,図3Aに示す粗粒状体5を形成する。好ましい例として,上記破砕片4と木粉,無機充填材,パルプスラッジの一種又は二種以上を混合した混合体に水分を吸水すると膨潤し粘着性を生ずる吸水性ポリマー又はでんぷん又はCMC等を混合し,噴霧又はシャワーにて貧加水して撹拌し,これを既知の造粒機にかけ造粒して乾燥し,2〜20mm程度の大きさを有する粗粒状体5を得る。
上記吸水性ポリマー又はでんぷん又はCMCは貧加水により部分反応し,破砕片4及び吸水材11相互の結合材として機能する。即ち保形材として機能し,粗粒状体5の粒子形態を保持する。
図4に示すように,上記粗粒状体5の表面には水分を吸収すると粘着性を生ずる粘着成分を含有せる通水性被覆12を形成し,該通水性被覆12が受尿し吸水した時に隣接する粗粒状体5と粘着せしめ塊状にして除去し,交換を容易にする。上記粘着材としてはでんぷんやCMCを用いることができる。
上記通水性被覆12は受尿時に水分を急速に吸収し粘着性を発揮する層であり,該通水性被覆12の組成材として,紙粉又は木粉を基材とし,これにでんぷん又はCMCを配合したもの,或いはこれらに吸水性ポリマーを配合したものを用いる。でんぷんやCMCは水分を吸収して粘着性を発揮し,隣接する粗粒状体5と結合する。吸水性ポリマーは水分を速やかに吸収して保水し膨潤する効果が大である。
上記のように造粒機により粗粒状体5を造粒し,該粗粒状体5を乾燥工程に供する前の湿潤状態において,希釈接着剤液を粗粒状体5の表面に噴霧し,これに例えば吸水性ポリマー(粉体)とでんぷん又はCMCと紙粉の混合材をまぶし付けし,上記通水性被覆12を形成する。然る後上記乾燥工程に供する。
上記希釈接着剤液の接着剤としては水溶性接着剤,例えばPVA(ポリビニールアルコール)を用いる。」(段落【0031】〜【0036】)・「図5に示すように,上記壁紙1を破砕し破砕片4を形成する手段として,例えば円筒形のスクリーン6の上部供給口7から大まかに分裁した壁紙1を供給し,上記スクリーン6の内面に沿ってハンマークラッシャー8を回転させて上記壁紙1をスクリーン6内面とハンマークラッシャー8との間で摺擦し,引きちぎるように破砕する。この時,スクリーン6に破砕歯9を設け,この破砕歯9とハンマークラッシャー8との間で上記と壁紙1を引きちぎるように破砕し上記破砕片4を形成することができる。
図2に示すように,上記破砕によって形成された破砕片4の紙片3′はその紙層を組成するパルプ繊維がほぐされて(離解状態になって)破断面に起毛3″を突出した状態を形成している。
又は破砕手段として,カッターを用い,上記壁紙1を比較的鋭利な剪断面を以って切断し,上記破砕片4を形成することができる。」(段落【0037】〜【0039】)・「図6に示すように,上記廃壁紙1が固有する塩化ビニール片2は上記増量材,粒状形成材として機能しつつ,紙片3′が吸収した排尿を塩化ビニール片2′が遮水して紙片3′の紙層中に有効に保水せしめる。
加えて塩化ビニールシート2及びこれに由来する塩化ビニール片2′は,表面を表飾するための多数の凹凸10を有し,該塩化ビール片2′の凹凸10内に繊維状吸水材又は粉粒状吸水材11を捕捉し,塩化ビニール片2と両吸水材11との一体造粒化を助ける。
又上記塩化ビニール片2′でバックアップされた紙片3′がその紙層中に排尿を吸水し保水すると同時に,粗粒状体5中の破砕片4の塩化ビニール片2′が対面して,即ち塩化ビニール片2′の凹凸10面が対面して通水路13を形成し,該通水路13内に上記凹凸10によって上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材11を確実に保持する。
排尿は上記通水路13内に誘引されつつ通水路13内の繊維状吸水材又は粉粒状吸水材11と凹凸10に捕捉し,粗粒状体5の吸水と保水目的を有効に達成する。」(段落【0040】〜【0043】)(3)上記(1),(2)の記載及び本件特許公報(甲2)の【図1】〜【図6】によれは,本件発明1,2は,?@従来より木材パルプを造粒し粒状にして成る動物の排泄物処理材が周知であったが,この木材パルプを原料とする排泄物処理材は省資源の要請に反し,また,木材パルプは比較的高価であり,排泄物処理材の原料としては経済性,市場性に欠ける問題点を有していた,?Aそこで,本件発明1,2は,木材パルプに代わる原料として,産業廃棄物として多量に排出されている,塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせた壁紙の廃材を再利用した排泄物処理材を提供するものであって,前記第3,1(2)のとおりの構成を有する,?B本件発明1,2は,排泄物処理材の大幅なコストダウンを達成し,省資源に資するものであるほか,上記壁紙を細かく破砕した塩化ビニール片の凹凸面が対面して通水路を形成し,その通水路内に上記凹凸によって繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を確実に保持するとともに,排尿は上記通水路内に誘引されつつ通水路内の繊維状吸水材又は粉粒状吸水材と凹凸に捕捉される,というものであると認められる。
3 甲第1号証発明の意義(1)一方,甲1(特開2000-60338号公報)には,次の記載がある。
ア 特許請求の範囲「【請求項1】 3mm以下の粒度の紙廃材粉及び該紙廃材より少ない量の粉状吸水性樹脂を含有して粒状に形成されている粒体と,該粒体表面部に界面活性剤が付着していることを特徴とする粒状の動物用排泄物処理材。
【請求項2】 3mm以下の粒度の紙廃材粉,並びに該紙廃材より少ない量の吸水性樹脂及び3mm以下の粒度で紙廃材粉より少ない量のプラスチック廃材粉を含有して粒状に形成されている粒体と,該粒体表面部に界面活性剤が付着していることを特徴とする粒状の動物用排泄物処理材。
【請求項3】 紙廃材粉が,水に濡れ難い表面を有する紙廃材の粉砕物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒状の動物用排泄物処理材。
【請求項4】 紙廃材が,紙おむつ廃材の粉砕物,紙おむつの製造時の裁断屑の粉砕物,印刷された紙の粉砕物,表面がパラフィン被膜又はプラスチック材料被膜が覆われている紙の粉砕物であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の粒状の動物用排泄物処理材。」イ 発明の詳細な説明(ア) 発明の属する技術分野「本発明は,紙廃材,即ち,紙おむつ廃材の粉砕物,紙おむつの製造時の裁断屑の粉砕物,パンチ屑,屑紙印刷された紙の粉砕物又はラミネート加工紙等の表面がパラフィン被膜若しくはプラスチック材料被膜が覆われている紙の粉砕物紙おむつ廃材粉等の紙廃材粉砕物或いはこれらに以上の混合物,或いは前記紙廃材とプラスチック廃材粉砕物の混合物を原料とする動物用排泄物処理材及びその製造方法に関し,特に,使用後の含水状態で焼却処理可能の動物用排泄物処理材及びその製造方法に関する。」(段落【0001】)(イ) 従来の技術「猫砂等の動物用排泄物処理材としては,ゼオライト等の鉱物質の砂が使用されている。しかし,このような鉱物質の砂を素材とした猫砂は,使用後の廃棄処理が難しく問題とされている。そこで可燃性で水に濡れ易いパルプや紙粉を高吸水性樹脂と混合して粒状に形成されている。これらの猫砂は,生ゴミと一緒集められて,生ゴミと一緒に押し潰されて焼却処理されている。」(段落【0002】)(ウ) 課題を解決するための手段「しかし,パルプ粉砕物は,従前に比して入手困難であり,比較的高価であるために,その使用が問題とされている。本発明者は,既に,例えば,不良紙おむつ等の紙おむつ廃材の粉砕物,不良動物用紙おむつ等の動物用紙おむつ廃材の粉砕物,不良生理用ナプキン等の生理用ナプキン廃材の粉砕物,不良乳パッド等の乳パッド廃材の粉砕物,不良汗パッド等の汗パッド廃材の粉砕物,プラスチック被覆加工紙廃材の粉砕物及び/又はプラスチック廃材の粉砕物が吸水性や保水性を有することを発見し,これら廃材の粉砕物を造粒して猫砂等の動物用排泄物処理材とすることを提案した。また,本発明者は,これらの廃材の粉砕物の中,例えば新聞紙等の比較的水を弾き易い材料の場合は,保水性を有するとしても,吸水性速度が比較的小さくなり,問題とされている。本発明は,紙廃材の吸水速度に係る問題点を解決することを目的としている。」(段落【0003】)「本発明は,紙廃材,特に例えば新聞紙等の比較的水を弾き易い材料の場合であっても,大きな保水性及び吸水性速度が有する動物用排泄物処理材を提供することを目的としている。本発明者は,水に濡れ難い又は水を弾き易い紙廃材の粉砕物及びプラスチック廃材の粉砕物の造粒物の表面を界面活性剤で処理することにより,吸水性能が増加し,吸水速度を増加することを発見し,猫砂として使用できることを発見して本発明に至った。
即ち,本発明は,3mm以下の粒度の紙廃材粉及び該紙廃材より少ない量の粉状吸水性樹脂を含有して粒状に形成されている粒体と,該粒体表面部に界面活性剤が付着していることを特徴とする粒状の動物用排泄物処理材にあり,また本発明は,3mm以下の粒度の紙廃材粉,並びに該紙廃材より少ない量の吸水性樹脂及び3mm以下の粒度で紙廃材粉より少ない量のプラスチック廃材粉を含有して粒状に形成されている粒体と,該粒体表面部に界面活性剤が付着していることを特徴とする粒状の動物用排泄物処理材にある。」(段落【0004】〜【0005】)(エ) 発明の実施の形態・「本発明において,水に濡れ難い又は水を弾き易い紙廃材は,例えば,紙おむつ廃材の粉砕物,紙おむつの製造時の裁断屑の粉砕物,パンチ屑,屑紙,印刷された新聞,雑誌や広告等の印刷された紙の粉砕物又はラミネート加工紙等の表面がパラフィン被膜若しくはプラスチック材料被膜が覆われている紙の粉砕物紙おむつ廃材粉等の紙廃材粉砕物或いはこれらに以上の混合物,或いは前記紙廃材とプラスチック廃材粉砕物の混合物を包含する。」(段落【0006】)・「本発明において,造粒物には,紙廃材粉砕物又は該紙廃材粉砕物と吸水性樹脂の混合物を使用することができる。…」(段落【0008】)・「本発明においては,動物用排泄物処理材の造粒物には,造粒物のみとすることができるが,芯部及び被覆層部を形成することができる。…」(段落【0013】)・「本発明の粒状の動物用排泄物処理材には,特に芯部となる造粒物に被覆材を被覆する工程において,紙廃材粉及び高吸水性樹脂,並びにこれに加えて小麦粉,ポバール,澱粉若しくはその他接着作用を有する物質,又は殺菌作用を有する物質或はこれら配合物質の二以上のものを混合できるので,動物の排泄物に付着して,排泄物を塊状に包み込むこととなり,後始末が簡単かつ容易である。…」(段落【0019】)(2)上記(1)の記載によれば,甲1には,審決(6頁2行〜5行)も認定するとおり,「3mm以下の粒度の表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙廃材の粉砕物,及び該粉砕物より少ない量の粉状吸水性樹脂を含有して粒状に形成されている粒体,並びに該粒体表面部に付着した界面活性剤から成る粒状の動物用排泄物処理材」の発明(甲第1号証発明)が記載されているものと認められる。
4取消事由1(本件発明1と甲第1号証発明との一致点認定の誤り)について前記第3,1(2)のとおり,本件発明1における「破砕片」は,表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせて成る壁紙の廃材を細かく破砕したものであり,これに対し,前記3(2)のとおり,甲第1号証発明における「粉砕物」は,表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙廃材を3mm以下に粉砕したものであって,いずれも廃材を細かく砕いたものである点において共通しており,審決が,両者を「廃材を細かく破砕し形成した物」として括り,一致点としたことに誤りがあるということはできない。
この点につき,原告は,紙を3mm以下に粉砕した「粉砕物」は,短繊維状に離解された粉末状又は綿状のものであって,シート形態を残存しない態様のものであると主張するが,審決は,このような「破砕片」又は「粉砕物」の形態について一致点として認定しているものではないから,審決の認定に誤りがあるということはできない。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
5取消事由2(本件発明1と甲第1号証発明との相違点認定の誤り)について(1)前記2のとおり,本件発明1における「破砕片」は,表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせて成る壁紙の廃材を細かく破砕したものであって,表面に上記凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有し,塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造を有するものであるから,シート形態を残存するものである。そして,前記2(2)カのとおり,本件特許明細書(段落【0037】〜【0039】)には,破砕機を用いて壁紙を破砕することが記載されており,このような方法が本件発明1の技術分野で通常用いられる破砕方法と考えられる。
一方,前記3(2)のとおり,甲第1号証発明は「3mm以下の粒度の表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙廃材の粉砕物」を含むものであるが,証拠(牛乳パックの外観写真と拡大断面写真[甲29],技術説明資料[甲35])及び弁論の全趣旨によれば,表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙である紙製牛乳パックを,破砕機で3mm以下に粉砕した粉砕物は,紙の部分がプラスチックフィルムの部分よりもはるかに厚いため,短繊維状に離解されて,シート原形を留めない粉末状又は綿状のものになり,シート形態を残存しないものと認められる。
そうすると,本件発明1における「破砕片」と甲第1号証発明における「粉砕物」とは,上記のとおりシート形態を残存するかどうかという点に違いがあるということができる。
なお,証拠(実験写真[乙9])及び弁論の全趣旨によれば,表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙である紙製牛乳パックを,はさみで3mm以下に切ったものは,シート形態を残存するものと認められるが,上記のはさみで切るというような方法が本件発明1の技術分野で通常用いられる方法とは考えられないことからすると,紙製牛乳パックをはさみで3mm以下に切ったものがシート形態を残存するからといって,甲第1号証発明における「粉砕物」がシート形態を残存すると認めることはできない。甲1の特許請求の範囲には,破砕機を使用するとの限定はないが,そうであるからといって,本件発明1の技術分野で通常用いられないような方法を想定して本件発明1と甲第1号証発明とを対比することは相当でない。
(2)また,証拠(甲29,35)及び弁論の全趣旨によれば,表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙である紙製牛乳パックの表面は平滑であると認められ,表面が平滑でないラミネート加工紙が存することを認める証拠もないから,甲第1号証発明における「粉砕物」は,表面が平滑なものであると認められる。
そうすると,甲第1号証発明における「粉砕物」は,仮にシート形態を残存したものがあったとしても,本件発明1における「破砕片」と甲第1号証発明における「粉砕物」とは,表面が平滑であるか,凹凸があるかという点に違いがあるということができる。
(3)審決は,<相違点2>として,「本件発明1は,粗粒状体が『壁紙を細かく破砕し形成した表面に上記凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する破砕片を組成材とする』のに対し,甲第1号証発明は,粒体が『粉砕物を含有』するものであり,かかる『粉砕物』について,表面に凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する破砕片であることの特定がない点。」と認定し,<相違点3>として,「本件発明1は,『粗粒状体中の塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造を有する』のに対し,甲第1号証発明は,かかる構造の特定がない点。」と認定しているが,上記(1)(2)で述べたところからすると,単に特定がないというにとどまらず,上記(1)(2)認定のような形状の違いがあることを認定すべきであったということができる。
(4) したがって,取消事由2は理由がある。
6取消事由3(本件発明1と甲第1号証発明との相違点についての判断の誤り)について(1)審決(7頁22行〜8頁9行)は,?@表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせてなる壁紙は,本件特許出願前に周知のものであり,その壁紙の廃材が,建物の解体,改築・改装等に伴い多量に排出されるものであることは,本件特許出願前周知の技術事項であること,?A 上記壁紙は,プラスチックと紙の積層構造を有する点で,甲第1号証発明における表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙と共通していること,?B甲第1号証発明における上記ラミネート加工紙廃材の粉砕物は吸水性や保水性を有する材料として用いられているところ,紙は一般に吸水性や保水性を有することに鑑みれば,紙製シートを有している上記壁紙の廃材の粉砕物も,吸水性や保水性を有する材料として用いられることが予期できないものではないことを理由として,甲第1号証発明において,表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙廃材に代えて,表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせてなる壁紙の廃材を用いることを試みることは,当業者が容易に想到し得ることであると判断する。
(2)しかし,本件発明1における「破砕片」と甲第1号証発明における「粉砕物」とは,前記5認定のとおりその形状に違いがあり,甲第1号証発明における「粉砕物」は,前記2(3)記載の本件発明1が有する「壁紙を細かく破砕した塩化ビニール片の凹凸面が対面して通水路を形成し,その通水路内に凹凸によって繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を確実に保持するとともに,排尿は通水路内に誘引されつつ通水路内の繊維状吸水材又は粉粒状吸水材と凹凸に捕捉される」という作用効果を有しないことも明らかであって,本件特許出願前に「表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせてなる壁紙」を排泄物処理材に用いることを記載又は示唆した先行技術があったとも認められないから,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,甲第1号証発明における「表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙の廃材」に代えて「表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせてなる壁紙の廃材」を用いることを容易に想到すると認めることはできない。上記(1)?@〜?Bの事情は,「表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙の廃材」に代えて「表面に表飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせてなる壁紙の廃材」を用いることを容易に想到するということはできないとの,上記認定を左右するものではない。
(3)被告は,当業者として紙を扱う業界を想定すべきであること,同業界において王子製紙株式会社は,塩ビ壁紙を含む壁紙の開発を,直接あるいはグループ会社を通じて事業としており,同社はウェブサイト(乙5)において,壁紙を「生活の中の紙」の一例として紹介していること,「表面に表飾のための凹凸が施され,かつ,その表面がプラスチック材料被膜で覆われた塩ビ壁紙」は,甲1に係る特許出願の出願時において公知技術であったこと(特開平8-13397号参照[発明の名称「壁紙とその製造方法」,出願人 凸版印刷株式会社,公開日 平成8年1月16日],乙6),本件特許の出願当時(平成17年4月22日),塩ビ壁紙についてリサイクルの促進が図られていたことを主張する。
しかし,当業者として紙を扱う業界を想定したとしても,上記(2)の認定が左右されることはないというべきである。また,被告が主張するその余の事実は,塩ビ壁紙が周知であり,リサイクルの促進が図られていたというにすぎず,甲第1号証発明において,塩ビ壁紙を,表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙廃材に代えて用いることの容易想到性を基礎付けるに足りるものということはできない。
(4)また,被告は,吸水材を保持するとともに排尿を誘引して保持するという現象は,表面が平滑なラミネート加工紙の粉砕物が吸水材を挟んで対向した場合にも得られるのであり,塩ビ壁紙の凹凸は,排尿吸収量が増大する等の特別な技術的効果を生み出すものではなく,凹凸の有無は本件発明1の進歩性に寄与するものではないと主張する。
しかし,前記5のとおり,ラミネート加工紙の粉砕物は,シート形態を残存しないものであり,凹凸面も有しないから,本件発明1のように「塩化ビニール片の凹凸面が対面して通水路を形成し,その通水路内に上記凹凸によって繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を確実に保持するとともに,排尿は上記通水路内に誘引されつつ通水路内の繊維状吸水材又は粉粒状吸水材と凹凸に捕捉される」という作用効果が得られないことは明らかである。
本件発明1は,「表面に凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構造を有する破砕片」を用いるものであるから,表面の凹凸の対面により一定程度通水路が形成されることが推認することができるし,また,その通水路内に上記凹凸によって繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持すれば,確実に保持することができ,「排尿は上記通水路内に誘引されつつ通水路内の繊維状吸水材又は粉粒状吸水材と凹凸に捕捉される」ことも容易に推認することができる。
もっとも,本件特許明細書(甲2)には,実験結果が記載されていないから,その効果がどの程度のものであるかについては明らかでないが,ともかくもその効果が認められる以上,上記のとおり本件発明1の進歩性を基礎付けるものということができる。
(5) したがって,取消事由3は理由がある。
7結論以上のとおり,本件発明1は,甲第1号証発明及び周知技術から容易に想到することができたとは認められないのであり,本件発明2についても,同様に甲第1号証発明及び周知技術から容易に想到することができたとは認められない。したがって,これに反する審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海