関連審決 | 不服2001-23349 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 周知技術 / 出願公開 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 共有 / 援用権(援用) / 参酌 / 発明の要旨認定 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
20号
審決取消請求事件
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原告 松下電器産業株式会社 訴訟代理人弁理士 役昌明,大橋公治 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 新井則和,西川正俊,高橋泰史,大橋信彦,井出英一郎 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/11/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が不服2001-23349号事件について平成15年12月1日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
本件は,原告が,後記本願発明の特許出願をしたが,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明 出願人:松下電器産業株式会社(原告) 発明の名称:「無線移動機」 出願番号:特願平8-159200号 出願日:平成8年5月31日(甲2) (2) 本件手続 拒絶査定日:平成13年11月20日 審判請求日:平成13年12月27日(不服2001-23349号) 手続補正日:平成14年1月18日(乙1),平成15年10月27日(甲3) 審決日:平成15年12月1日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成15年12月16日(原告に対し) 2 本願発明の要旨(上記平成15年10月27日付け補正後の請求項1に係る発明(甲3)。請求項2及び3の記載は省略。) 【請求項1】送受信用アンテナと送受信アンテナ端子と外部コネクタ端子とを備える無線移動機において,第1のλ/4ラインを介して送信回路に接続する第1のスイッチ素子と第2のλ/4ラインを介して受信回路に接続する第2のスイッチ素子とから成り,前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とが,前記送受信アンテナ端子に接続する第1の端子と前記外部コネクタ端子に接続する第2の端子との間に並列に配置されているスイッチ回路と,前記スイッチ回路の接続を切り換える制御回路とを具備し,前記制御回路は,前記送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードでは,前記第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子と前記送受信アンテナ端子との開閉を制御し,前記外部コネクタ端子を通じて送受信する外部コネクタ端子モードでは,前記第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子と前記外部コネクタ端子との開閉を制御することを特徴とする無線移動機。 3 審決の理由の要点 (1) 審決は,刊行物及び周知例として,次のものを摘示した。 (a)刊行物1:特開平2-105636号公報(甲4。これに記載された発明を「刊行物1発明」という。),(b)刊行物2:特開昭59-214338号公報(甲5。これに記載された発明を「刊行物2発明」という。),(c)周知例1:特開平8-111652号公報(甲6),(d)周知例2:特開平6-37668号公報(甲7) (2) 審決は,本願発明と刊行物1発明とを対比し,構成の対応関係と一致点につき,次のとおり認定した。 (a) 「刊行物1発明の『内部アンテナ』,『外部接続端子』,『送信回路』,『受信回路』,『携帯型無線機』は,それぞれ本願発明の『送受信用アンテナ』,『外部コネクタ端子』,『送信回路』,『受信回路』,『無線移動機』に対応する。」 (b) 「刊行物1発明の『切換スイッチ』と本願発明の『スイッチ回路』は対応する。」 (c) 「刊行物1発明においても,切換スイッチを通常の携帯型無線機として使用する場合は,送受信共用部を介して内部アンテナに接続し,外部アンテナを装着して使用する場合は,外部接続端子に接続するためには,そのように切換スイッチを制御するための手段を備えていることは明らかであり,当該手段が本願発明の『制御回路』に対応する。」 (d) 「刊行物1発明の『前記切換スイッチを,通常の携帯型無線機として使用する場合は,前記送受信共用部を介して前記内部アンテナに接続』することと本願発明の『前記送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードでは,前記第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子と前記送受信アンテナ端子との開閉を制御』することは,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子を送受信アンテナに接続する点で対応し,同様に,刊行物1発明の『外部アンテナを装着して使用する場合は,前記外部接続端子に接続する』ことと本願発明の『前記外部コネクタ端子を通じて送受信する外部コネクタ端子モードでは,前記第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子と前記外部コネクタ端子との開閉を制御する』ことは,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子を外部コネクタ端子に接続する点で対応する。」 (e) 「本願発明と刊行物1発明は,『送受信用アンテナと外部コネクタ端子とを備える無線移動機において,送信回路に接続する第1のスイッチ素子と受信回路に接続する第2のスイッチ素子とから成るスイッチ回路と,前記スイッチ回路の接続を切り換える制御回路とを具備し,前記制御回路は,前記送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードでは,前記第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子と前記送受信アンテナとの開閉を制御し,前記外部コネクタ端子を通じて送受信する外部コネクタ端子モードでは,前記第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子と前記外部コネクタ端子との開閉を制御する無線移動機』である点で一致する。」 (3) 審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点につき,次のとおり認定した。 「[相違点1]本願発明では,送受信アンテナ端子を備えているのに対して,刊行物1発明では,送受信共用部を備えており,スイッチ回路を構成する第1のスイッチ素子と第2のスイッチ素子が,本願発明では,送受信アンテナ端子に接続する第1の端子と外部コネクタ端子に接続する第2の端子との間に並列に配置されているのに対して,刊行物1発明では,送受信共用部を介して内部アンテナに接続され,また,外部アンテナを装着して使用する場合に,外部コネクタ端子に接続されるものであり,送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードにおいて,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子との開閉を制御されるものが,本願発明では,送受信アンテナ端子であるのに対して,刊行物1発明では,送受信共用部である点。 [相違点2]送信回路に接続する第1のスイッチ素子と受信回路に接続する第2スイッチ素子が,本願請求項1に係る発明では,それぞれ第1のλ/4ライン及び第2のλ/4ラインを介して接続するのに対して,刊行物1発明では,それぞれ送信フィルタ及び受信フィルタを介して接続する点。」 (4) 審決は,上記相違点1について,次のとおり判断した。 (a)「周知例1の従来の技術の欄,図4,及び図5に記載されているように,アンテナを共用する場合に,送受信共用部を用いるか,あるいは送受信共用部に代えてフィルタ,接続端子を備えるスイッチなどを用いるかは,当業者が設計時に適宜選択し得る設計的事項にすぎないものであり,してみれば,刊行物1発明において,送受信共用部を送受信アンテナ端子とし,送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードにおいて,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子との開閉を制御されるものを,当該送受信アンテナ端子とすることは,当業者が容易になし得ることである。」 (b)「また,本願の願書に最初に添付された明細書には,『第1の端子』,『第2の端子』,『並列』なる記載はないが,本願発明の『前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とが,前記送受信アンテナ端子に接続する第1の端子と前記外部コネクタ端子に接続する第2の端子との間に並列に配置されている』との記載が,図1に示されるようなスイッチ回路の構成を意味しているのだとすれば,上述のように刊行物1発明において送受信アンテナ端子を備えた場合には,送受信アンテナ端子と,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子とが接続される接続点は上記第1の端子に対応し,また,外部コネクタ端子と,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子とが接続される接続点は上記第2の端子に対応する。」 (c)「また,刊行物1には外部コネクタ端子が2端子記載されているが,例えば周知例2に記載されているように,外部コネクタ端子を1端子とすることは本件出願前周知の技術であって,たとえ刊行物1発明の第2の端子が2端子で構成されるものだとしても,その点は格別の差異ではない。」 (d)「したがって,刊行物1発明において,周知例1,2に記載されているような設計的事項及び周知の技術を参酌して,送受信アンテナ端子を備え,スイッチ回路を構成する第1のスイッチ素子と第2のスイッチ素子が,送受信アンテナ端子に接続する第1の端子と外部コネクタ端子に接続する第2の端子との間に並列に配置されているように構成し,送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードにおいて,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子との開閉を制御されるものを,当該送受信アンテナ端子とすることは,当業者が容易になし得るものである。」 (5) 審決は,上記相違点2について,次のとおり判断した。 「刊行物2には,同時通話のコードレス電話機において,送信用受信用の共用のアンテナを送信λ/4同調フィルタを介して送信機に接続し,受信λ/4同調フィルタを介して受信機に接続するという技術が開示されており,かつ,上記相違点1について述べたとおり,アンテナを共用する場合に,送受信共用部を用いるか,あるいは送受信共用部に代えてフィルタ,接続端子を備えるスイッチなどを用いるかは,当業者が設計時に適宜選択し得る設計的事項にすぎないものである。 したがって,同一の技術分野に属する刊行物1発明において,刊行物2の上記の構成を参酌して,送受信共用部に代えて,送信回路に接続する第1のスイッチ素子と受信回路に接続する第2スイッチ素子が,それぞれ第1のλ/4ライン及び第2のλ/4ラインを介して接続するようにすることは,当業者が容易になし得るものである。」 (6) 審決は,次のとおり結論付けた。 「本願発明は,刊行物1発明,刊行物2発明,設計的事項,及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」 |
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原告の主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(本願発明と刊行物1発明との相違点の看過) (1) 刊行物1発明は,「送信部と受信部をブースタに接続する外部接続端子」(甲1,2頁22〜23行)を備えているが,この外部接続端子は,送信部をブースタに接続する送信外部接続端子と,受信部をブースタに接続する受信外部接続端子との二つから成る(同2頁30〜31行)。 したがって,「スイッチ回路を構成する第1のスイッチ素子と第2のスイッチ素子が,本願発明では,送受信アンテナ端子に接続する第1の端子と外部コネクタ端子に接続する第2の端子との間に並列に配置されているのに対して,刊行物1発明では,第1のスイッチ素子が送受信共用部の送信入力端子と送信外部接続端子との間に配置され,第2のスイッチ素子が送受信共用部の受信出力端子と受信外部接続端子との間に配置されている」点で相違している。 審決においては,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子の外部コネクタ端子側での接続関係,すなわち,本願発明では「外部コネクタ端子に接続する第2の端子」に接続し,刊行物1発明では「送信外部接続端子及び受信外部接続端子」に接続している点の相違について,明示的に挙げられていない。 審決では,この点に関し,「刊行物1発明において…外部コネクタ端子と,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子とが接続される接続点は上記第2の端子に対応する。」(ここでの「対応する」とは「一致する」との意味で使用されている。)と認定しているが,誤りである。刊行物1発明において「外部コネクタ端子と,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子とが接続される接続点」は,送信外部接続端子と第1のスイッチ素子とが接続する接続点と,受信外部接続端子と第2のスイッチ素子とが接続する接続点との二つであり,本願発明の第2の端子に相当するものは,刊行物1発明には存在していない。 なお,本願発明における「第2の端子」が一つであることは,本願発明の特許請求の範囲において,「前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とが,前記送受信アンテナ端子に接続する第1の端子と前記外部コネクタ端子に接続する第2の端子との間に並列に配置され」と記載されていることから明らかであり,また,願書添付図面(甲2の図1)の記載からも明らかである。 (2) 仮に,審決が上記相違点を看過していないとしても,その相違点についての判断は,「刊行物1には外部コネクタ端子が2端子記載されているが,例えば特開平6-37668号公報(平成6年2月10日出願公開。判決注:甲7,周知例2)に記載されているように,外部コネクタ端子を1端子とすることは本件出願前周知の技術であって,たとえ刊行物1発明の第2の端子が2端子で構成されるものだとしても,その点は格別の差異ではない。」というものであって,誤りである。 すなわち,ここで相違点として問題にしているのは,外部コネクタ端子の数そのものではなく,スイッチ回路を構成する第1のスイッチ素子と第2のスイッチ素子とが接続する端子の数であり,本願発明では,外部コネクタ端子に接続する「第2の端子」(すなわち,一つの端子)に接続しているが,刊行物1発明では「送信外部接続端子及び受信外部接続端子」の二つの端子に接続している点で相違しているのである。したがって,外部コネクタ端子を1端子とすることが周知だとしても,格別の差異ではないといえるものではない。 審決は,特開昭59-214338号公報(甲5,刊行物2),特開平8-111652号公報(甲6,周知例1),特開平6-37668号公報(甲7,周知例2)を引用し,被告は,本訴において,特開平5-206888号公報(乙2),特開平6-85712号公報(乙3),特開昭62-29224号公報(乙4),特開平7-336268号公報(乙5),特開平4-154322号公報(乙6),特開平3-66232号公報(乙7),特開平5-102879号公報(乙8)及び特開平6-112877号公報(乙9)を引用するが,いずれも,本願発明におけるスイッチ回路の第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子を外部コネクタ端子と導通する1端子に接続する構成は,開示されていない。審決の格別の差異ではないとする判断は誤りである。 (3) 刊行物1発明の明細書(甲4)においては,[課題の解決手段]として,特許請求の範囲と同様の表現で刊行物1発明の無線機の構成が記載され,その中で「送信部と受信部をブースターに接続する外部接続端子」という表現が用いられており,続いて,「すなわち,無線機本体は,送信フィルタの出力を送受信共用部の送信入力端子か送信外部接続端子かに切り換えるスイッチと,受信フィルタの入力を送受信共用部の受信出力端子か受信外部接続端子かに切り換えるスイッチとを有している。」と記載され,外部接続端子が「送信外部接続端子」と「受信外部接続端子」とから成ることが示されている。 すなわち,刊行物1(甲4)には,従来例として,外部コネクタ端子を一つの端子としたものが記載されている(第2図)。そして,刊行物1発明は,従来例のブースタにおける回路構成の簡素化を目的とするものであり,この目的を達成するためには,外部コネクタ端子を二つ設けることが必須の構成要件であり,外部接続端子として「送信外部接続端子」と「受信外部接続端子」とが必要であることは明らかである。外部コネクタ端子を一つにする場合は,従来例(第2図)に示すように,二つのスイッチ素子を設けること自体が無意味となる。 仮に,刊行物1の第2図(従来例)に記載されたブースタ13と,第1図(刊行物1発明)に記載された無線機本体1とを組み合わせて,第1図の高周波切換スイッチ5における第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子を第2図の一つの外部アンテナ端子19に接続したとすると,無線機本体1の送信回路7から出力された送信信号は,外部アンテナ端子19で分岐して,ブースタ13と無線機本体1の受信フィルタ3側とに流れることになり(受信側に流れた信号は受信フィルタ3で阻止されるため,受信回路2には達しないが),ブースタ13の側に流れる送信信号レベルが低下し,必要な信号レベルを有する送信信号を外部アンテナ18から送信することができなくなる。また,外部アンテナ18で受信した受信信号は,ブースタ13を経て無線機本体1に入力すると,外部アンテナ端子19で分岐し,無線機本体1の受信フィルタ3側と送信フィルタ6側とに流れることになり(送信側に流れた信号は送信フィルタ6で阻止されるため,送信回路7には達しないが),受信回路2に届く受信信号レベルが低下してしまう。つまり,刊行物1発明では,外部接続端子が1端子だとすると,満足な同時送受信通信を行うことができない。 上記の相違点に係る構成が容易に考えられるとする根拠は存在しない。 2 取消事由2(本願発明と刊行物1発明との相違点1についての判断の誤り) (1) 審決は,周知例1(甲6)を引用するが,周知例1の図4に記載されている送受信共用部12は,送受信波を分配する分配器としての機能と不要波を除去するフィルタとしての機能とを果たしているため,送受信共用部を用いる場合には同時送受信が可能であるが,図5に記載されているスイッチ13を用いる場合は,時分割送受信しかできない。したがって,同時送受信を行う方式の無線通信機では,図5に記載されているスイッチ13を用いることができない。逆に,時分割送受信を行う無線通信機では,図5のスイッチ13に代えて,送受信共用部12を用いて送受信波を分配する図4の構成を採ると,スイッチ13の場合に確保できた送受信間のアイソレーション分を送受信共用部12に負わせることになり,送受信共用部12が大きくなる。そのため,無線通信機を実現する上での重要ポイントの一つである小型化を考慮すると,時分割送受信を行う方式の無線通信機では,図4の構成を事実上採ることができない。 したがって,送受信共用部を用いるかスイッチを用いるかは「設計時に適宜選択し得る設計的事項」であるという審決の認定は,机上の空論にすぎない。 (2) 刊行物1発明の場合,「通常の携帯型無線機として使用する場合は,第2図に示すのと同様に高周波切換スイッチ5が切り換わり,内部アンテナとしての動作になる」旨の記載が示すように,通常の携帯型無線機として使用するときには,第2図(従来例)と同様に,受信フィルタ3及び受信回路2並びに送信フィルタ6及び送信回路7が,高周波切換スイッチ5を介して送受信共用部4に常時接続し,従来例と同様に,同時送受信が行われる。したがって,刊行物1発明の場合,「送受信共用部に代えて(周知例1の図5に記載されている,同時送受信を行うことができない。),フィルタ,接続端子を備えるスイッチなどを用いる」ことは技術常識に反する。したがって,「刊行物1発明において,送受信共用部を送受信アンテナ端子とし,送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードにおいて,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子との開閉を制御されるものを,当該送受信アンテナ端子とすることは,当業者が容易になし得ることである。」との審決の判断は失当である。 (3) 送受信共用器は,送受信波を分配する機能と不要波を除去するフィルタとしての機能とを果たしている(甲6,2頁第1欄32〜34行)ので,同時送受信を行う刊行物1発明において,送受信共用部4を除いて,受信側と送信側とをアンテナ端子に直接,接続するように構成すると,送信回路7から出力された送信信号は,アンテナ端子で分岐して,内部アンテナ8と受信側とに流れることになり(受信側に流れた信号は受信フィルタ3で阻止されるため,受信回路2には達しないが),内部アンテナ8側に流れる送信信号レベルが低下して,必要な送信信号レベルが確保できなくなる。また,内部アンテナ8で受信した受信信号は,アンテナ端子で分岐して,受信側と送信側とに流れることになり(送信側に流れた信号は送信フィルタ6で阻止されるため,送信回路7には達しないが),受信回路2に届く受信信号レベルが低下してしまう。すなわち,刊行物1発明において送受信共用部を除いて,受信側と送信側とをアンテナ端子に直接,接続するように構成した場合には,満足な同時送受信通信が行えなくなる。 したがって,刊行物1発明において送受信共用部が不要だとすることはできず,それを基に,送受信共用部をアンテナ端子とすることが容易に想到できるとすることはできない。 3 取消事由3(本願発明の作用効果の看過) 本願発明の無線移動機は,「送信回路及び受信回路を同時にアンテナ端子又は外部コネクタ端子に接続することによりFDMA方式の同時送受信通信が実行できる。また,送受信の際に,スイッチ回路で,送信回路及び受信回路のアンテナ端子への接続または送信回路及び受信回路の外部コネクタ端子への接続を交互に切り換えることによりTDMA方式の送受信に対応することができる。」(乙1の段落【0008】)。 また,本願発明では,第1のスイッチ素子及び送信回路の間に配置した第1のλ/4ラインと,第2のスイッチ素子及び受信回路の間に配置した第2のλ/4ラインとが,アンテナ端子モード及び外部コネクタ端子モードのいずれの場合においても,必要な信号を通し不要信号を阻止する機能を果たすので,小さな回路規模で,また,簡単な回路構成によって,アンテナ端子モード及び外部コネクタ端子モードの同時送受信を行うことができる。 そして,本願発明では,送受信アンテナ端子及び外部コネクタ端子が,それぞれ,一つで良いため,スイッチ回路をICで構成する場合に小型化が可能になる。 |
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被告の主張の要点
1 取消事由1(本願発明と刊行物1発明との相違点の看過)に対して (1) 本願明細書には,第2の端子が一つの端子であることは記載されておらず,原告の主張は,前提において失当である。 (2) 仮に,第2の端子が一つの端子であり,原告主張の相違点があるとしても,審決中で実質的に相違点と認定し,また,実質的に検討しており,審決には,相違点の看過があるとはいえない。そして,この点に関する判断にも誤りはない。 2 取消事由2(本願発明と刊行物1発明との相違点1についての判断の誤り)に対して 本願発明の送受信アンテナ端子,外部コネクタ端子,及びスイッチ回路の構成は本件出願前周知の技術であって,刊行物1発明において,当業者が設計時に適宜選択し得る設計的事項である。 そして,@送受信用アンテナと外部コネクタ端子とを備える無線移動機において,スイッチ回路を用いて前記送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードでは,スイッチ素子と前記送受信アンテナ端子との開閉を制御し,前記外部コネクタ端子を通じて送受信する外部コネクタ端子モードでは,スイッチ素子と前記外部コネクタ端子との開閉を制御することは周知の技術であり,A第1のλ/4ライン,第2のλ/4ラインを用いて同時送受信を行うという構成が公知の技術であって,B第1のスイッチ素子と第2のスイッチ素子とが第1の端子と第2の端子との間に並列に配置されているスイッチ回路という構成が少なくとも公知の技術であって,上記の技術を組み合わせる阻害要因がない以上,上記の技術を組み合わせて,本願発明とすることは当業者が容易になし得るものである。 審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(本願発明の作用効果の看過)に対して 本願発明の明細書(乙1)の段落【0008】に記載されている効果は,刊行物1発明も有している作用効果であって,当業者であれば予測できるものである。 また,λ/4ラインを送信側及び受信側に設けた刊行物2発明は,必要な信号を通し不要信号を阻止する作用効果を有しているのであるから,「本願発明では,…第1のλ/4ラインと,…第2のλ/4ラインとが,アンテナ端子モード及び外部コネクタ端子モードの何れの場合においても,必要な信号を通し不要信号を阻止する機能を果たすので,小さな回路規模で,また,簡単な回路構成によって,アンテナ端子モード及び外部端子モードの同時送受信を行うことができる。」という作用効果は,刊行物2記載の技術的思想を刊行物1発明に用いる場合に当業者が当然に予測し得るものである。 さらに,小型化が可能になるとの作用効果は,刊行物1発明及び外部コネクタ端子を一つにした周知技術から当業者であれば当然に予測できるものである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明と刊行物1発明との相違点の看過)について (1) 相違点の看過をいう原告の主張は,本願発明における「第2の端子」が「一つの端子」であることを前提として,刊行物1発明においては,送信外部接続端子と第1のスイッチ素子とが接続する接続点と,受信外部接続端子と第2のスイッチ素子とが接続する接続点との「二つ」である点を指摘して,その間の相違を主張するものであると解される。 そこで,検討するに,本願発明の特許請求の範囲【請求項1】の記載(甲3)は,前記のとおり,「送受信用アンテナと送受信アンテナ端子と外部コネクタ端子とを備える無線移動機において,第1のλ/4ラインを介して送信回路に接続する第1のスイッチ素子と第2のλ/4ラインを介して受信回路に接続する第2のスイッチ素子とから成り,前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とが,前記送受信アンテナ端子に接続する第1の端子と前記外部コネクタ 端子 に接続 する 第2の端子 との間に並列に配置されているスイッチ回路と,前記スイッチ回路の接続を切り換える制御回路とを具備し,前記制御回路は,前記送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードでは,前記第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子と前記送受信アンテナ端子との開閉を制御し,前記外部コネクタ端子を通じて送受信する外部コネクタ端子モードでは,前記第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子と前記外部コネクタ端子との開閉を制御することを特徴とする無線移動機。」というものである(下線は,判決において付した。以下同じ。)。 さらに,本願発明の明細書の発明の詳細な説明欄の記載(当初の出願明細書である甲2に乙1,甲3の補正を経たもの)における「第2の端子」に関する記載をみると,段落【0007】【課題を解決するための手段】及び【0009】【発明の実施の形態】の2箇所において,上記請求項1と同じ記載が繰り返されており,「外部コネクタ 端子 に接続 する 第2の端子 」との記載があるのみである。 願書添付図面をみても,「第2の端子」を指示する記載は存在しない。 以上のとおりであり,要するに,「第2の端子」は,平成15年10月27日手続補正(甲3)により,突如として付加された概念であり,それまでの請求項を含む明細書及び図面の記載には,全く存在しなかったものである。しかも,上記のように「外部コネクタ 端子 に接続 する 第2の端子 」とある第2の端子に関する記載については,これ以上に何らの説明もなく,図面上においてもこれがどの部分をいうのかの指示さえ存在しない。したがって,何をもって「第2の端子」というのかさえ正確に理解するのは困難である(「第1の端子」も同様である。)。 もっとも,本願発明の実施例である図1によれば(図2,3も本願発明の実施例であるが,スイッチ回路の構成は,図1と同一であるので,図1により検討する。 なお,図4は従来例である。),SW1とSW2とが接続するとされる「a」,「b」と記載されている点(小さい「○」印で指示されている。)は,「a」が二つ,「b」が二つ存在しており,原告の主張を最大限に善解すれば,実施例における「第2の端子」とは,上記二つの「b」から外部コネクタ端子3に向かう線が一つに結合した点(図面上に符号が付されていないが小さい「○」印で示されている。二つの「a」についても同様にアンテナ端子2に向かう線が一つに結合している。以下,これらの結合する点を「結合点」という。),又は,二つの「b」とされた点及びb側の結合点とこれら三つの点を結ぶ線との集合体を指すものと理解し得なくはない。そうだとすれば,原告主張のとおり,本願発明における第2の端子は,一つであるということになる。 しかし,上記のとおり,そもそも「第2の端子」に関する記載ないし説明が不十分で理解し難い上,上記のように図面を参照しつつ善解し得るのも,実施例に関する構成であるにとどまるのであって,本願発明の要旨認定としては,「第2の端子」の「数」については,何ら特定はないというほかなく,本願発明の「第2の端子」が「一つ」の端子であると限定されるものとは到底解し得ない。 そうすると,相違点の看過をいう原告の主張は,本願発明の「第2の端子」が「一つ」の端子であることを前提とするものであることは明らかであるから,本願発明の要旨に基づかない主張であって,前提において失当であるというほかない。 そして,刊行物1発明における外部接続端子ないしはこれらとスイッチ素子が接続する点の数も,特許請求の範囲の記載において特段の限定はないと解されるが,仮に,原告主張のとおり,「二つ」であるとしても,上記のとおり,本願発明との相違点となるものではない。 なお,審決は,前掲第2,3(4)(c)のように理由を説示し,あたかも,刊行物1発明においては,「第2の端子」対応するものが「2端子」で構成される点で本願発明と相違することを前提として判断をしているかのようである。しかし,その説示は,「たとえ刊行物1発明の第2の端子が2端子で構成されるものだとしても」と記載されている上,審決の説示の流れにも照らせば,念のために付加的な説示をしたものであると解される。したがって,審決のこの説示と本願発明の「第2の端子」の構成を上記のように解することとの間に矛盾があるわけではない。 以上によれば,原告が主張するその余の点について判断するまでもなく,原告主張の取消事由1は,理由がないというべきである。 (2) 念のため,原告主張のとおり,本願発明の「第2の端子」が「一つ」の端子であると解すべきであると仮定した場合についても検討しておく(前記のとおり,刊行物1発明のこれに対応する接続点の数も特段の限定はないと解されるが,原告主張のとおりに「二つ」であると仮定して検討する。)。 (2-1) 審決の説示,特に,相違点1の認定(前掲第2,3(3))及び相違点1についての判断(前掲第2,3(4)(b)(c))を検討すると,審決では,「第2の端子」を含めた構成を相違点1として認定し,少なくとも「第2の端子」に関する検討を実質的に行っていると理解することができる。したがって,仮に,原告主張の相違点が存在するとしても,審決がこれを看過し,認定判断をしていないという違法があるとはいえない。 (2-2) さらに,「第2の端子」に関する容易想到性についても検討しておく。 (a) 証拠(甲2ないし4,乙1)によれば,刊行物1発明の「切換スイッチ」が本願発明の「スイッチ回路」に相当することが認められ,さらに,刊行物1発明の「外部接続端子」は,本願発明の「外部コネクタ端子」に対応することが認められる(後者の点については,審決が前掲第2,3(2)(a)のとおり認定するところであり,原告はこれを争わない。)。そして,刊行物1発明のスイッチ素子が外部コネクタ端子と接続される接続点は,切換スイッチ5内に位置し,外部接続端子9,10に接続しているのであるから,端子の数は別として,本願発明の「第2の端子」に対応するといえる。したがって,「刊行物1発明において…外部コネクタ端子と,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子とが接続される接続点は上記第2の端子に対応する。」(前掲第2,3(4)(b))とした審決の認定に誤りはない。 (b) そこで,刊行物1発明において,端子を一つとすることについて検討する。 (b-1) 刊行物1(甲4)には,次の記載がある。 「[産業上の利用分野]本発明は,携帯型無線機などで,車載時に外部アンテナを装着し,ブースタ(送信電力増幅器)を接続して送信出力を増加させることが可能な無線機に関し,特に,ブースタの回路構成を簡素化するとともに,受信効率を増加せしめることが可能な無線機に関する。」 「[従来の技術]一般に,携帯型無線機などでは,車載時には送信出力を増幅して使用するため,外部の高周波増幅器に接続することができるようにしている。すなわち,送受信共用部のアンテナ端子に出力される送信波を,高周波増幅器に接続して送信出力を増加することができる。」 (b-2) 確かに,刊行物1発明は,ブースタにおける回路構成の簡素化を目的としたものである。しかし,上記記載によれば,外部接続端子は,必ずしもブースタのみを接続するだけのものではなく,他の装置を接続することもできるものと解される。そうすると,他の装置として外部アンテナを考えた場合,電力増幅器,フィルタ及び送受信共用部を介さず,切換スイッチが外部アンテナに直接接続することは,周知であるから(乙8〔特開平5-102879号公報〕,乙9〔特開平6-112877号公報〕),刊行物1の第1図の実施例において,外部接続端子9,10に接続した増幅器受信出力端子11及び増幅器受信入力端子12に,外部アンテナ端子17を直接接続すること,すなわち,実質的に外部接続端子を一つにすること,ひいては,第1及び第2のスイッチ素子が接続する端子を一つとすることは,当業者が容易に想到し得るものというべきである。このことは,上記乙9において,切換スイッチがブースタ機能を有しない車載アダプタ(図1の200)を介して外部アンテナに接続する携帯無線電話装置が記載されていることからも裏付けられる。 結局,本願発明の「第2の端子」が「一つ」の端子であると解すべきであると仮定した場合でも,原告主張の取消事由1は理由がないというべきである。 2 取消事由2(本願発明と刊行物1発明との相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,相違点1について,周知例1を援用しつつ,「アンテナを共用する場合に,送受信共用部を用いるか,あるいは送受信共用部に代えてフィルタ,接続端子を備えるスイッチなどを用いるかは,当業者が設計時に適宜選択し得る設計的事項にすぎない」とし,「刊行物1発明において,送受信共用部を送受信アンテナ端子とし,送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードにおいて,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子との開閉を制御されるものを,当該送受信アンテナ端子とすることは,当業者が容易になし得ることである。」とした判断が誤りであると主張する。 (a) 検討するに,刊行物1(甲4)には,送受信共用部4と同様の構成である第2図の送受信共用部21に関する説明として,次の記載がある。 「ブースタ13内では,共用部21と受信高周波フィルタ3と送信高周波フィルタ6とで構成される共用器により,増幅する前に送信波と受信波とを分岐し,その後,送信波を送信増幅部14で増幅する。そして,再び同様な構成の共用器で受信波と合成し,外部アンテナ端子17へ接続している。」(2頁左上欄15行〜右上欄3行) この記載によれば,刊行物1発明の送受信共用部4は,切換スイッチ5を介して受信フィルタ3及び送信フィルタ6とで共用器を構成し,送信波と受信波とを分岐するものと解される。 (b) 一方,周知例1(甲6)には,従来の技術として,次の記載がある。 「無線通信機の送信・受信回路でアンテナを共用するためのアンテナ共有回路の従来例のブロック図を図4に示す。」(段落【0002】) 「図4で,1は電力増幅器,4はアンテナ,10は受信回路の増幅器,11はアイソレータ,12は共用器である。アイソレータ11は電力増幅器1の保護と負荷インピーダンスの変化を押さえる目的で使用されており,共用器12は送受信波を分配する分配器としての機能と不要波を除去するフィルタとしての機能を果たすように使用されている。」(段落【0003】) 「この問題を解決するために従来から用いられてきた方法は,アンテナスイッチを用いる方法である。」(段落【0005】) 「この方法によるアンテナ共有回路周辺のブロック図を図5に示す。」(段落【0006】) 「図5で1は電力増幅器,2は低次LPF(低域ろ波器),4はアンテナ,8はアンテナで反射した送信波の反射波,9は受信側のBPF(帯域ろ波器),10は受信回路の増幅器,13はアンテナ切り替えスイッチ,14はスイッチ切り替え制御信号である。」(段落【0007】) これらの記載によれば,無線通信機の送信・受信回路でアンテナを共用するためのアンテナ共有回路として,共用器に代えて,スイッチ素子及びフィルタからなる回路を用いることが,従来から行われていたことは明らかである。 (c) したがって,刊行物1発明の共用器は,もともと切換スイッチ5,受信フィルタ3及び送信フィルタ6を有しているのであるから,送受信共用部を送受信アンテナ端子とすることに,何ら困難性はないというべきである。 そうすると,刊行物1発明において,送受信共用部を送受信アンテナ端子とすれば,送受信用アンテナを通じて送受信するアンテナ端子モードでは,必然的に,当該送受信アンテナ端子と,第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子との開閉を制御することになる。 審決の説示は,いささか簡素ではあるが,上記と同旨をいうものと解されるのであって,相違点1について,当業者が容易になし得るものであるとした審決の判断は,是認し得るものである。 (2) 原告は,前記第3,2(1)(2)のとおり主張するので,検討する。 審決が,周知例1を援用しつつ,「刊行物1発明において,送受信共用部を送受信アンテナ端子とする」としたのは,上記第5,2(1)の(a)ないし(c)に記載した趣旨をいうものであって,周知例1(甲6)の図5に記載されたスイッチ13そのものを刊行物1発明に用いるというものではない(また,時分割送受信を行う無線通信機において,図5のスイッチ13に代えて,送受信共用部12を用いる構成を採ろうというものでもない。)。よって,原告の上記主張は,審決を正解しないものであって,採用することができない。 (3) 原告は,前記第3,2(3)のとおり主張する。 確かに,受信側と送信側とをアンテナ端子に直接接続するように構成した場合には,送信回路7から出力された送信信号が,アンテナ端子で分岐して,内部アンテナ8と受信側とに流れ,内部アンテナ8側に流れる送信信号レベルが低下するおそれがあり,内部アンテナ8で受信した受信信号が,アンテナ端子で分岐して,受信側と送信側とに流れ,受信回路2に届く受信信号レベルが低下してしまうおそれがある。すなわち,刊行物1発明のように,受信フィルタ3及び送信フィルタ6で信号を阻止しても,フィルタまでは,上記の分岐した信号が流れるおそれがある。 しかしながら,本願発明においても同様である。例えば,本願発明の実施例1の図1にみられるように,λ/4ラインで信号を阻止しているものの,スイッチ素子,アンテナ端子,λ/4ラインとの間には,送受信波を分配するような構成は何ら存在しないのであるから,送信回路から出力された送信信号が,送信回路側の「a」の部分を通り,前記のa側の結合点で分岐して,受信回路側の「a」を通って受信回路側のλ/4ラインまで流れるおそれがあり,同様に,アンテナで受信した受信信号が,a側の結合点で分岐して,送信回路側の「a」を通って送信回路側のλ/4ラインまで流れるおそれがある(本願明細書によれば,本願発明においては,第1のスイッチ素子が「a」に接続しているときは,第2のスイッチ素子も「a」に接続している構成であると認められる。)。 このように,原告が主張する問題は,当業者であれば,容易に予測されるものであり,刊行物1発明においても,高周波信号の損失や主ラインのレベル低下を当然考慮して,適宜に回路設計を行い得るものであるというべきである(本願発明においても,特に解決手段を開示するまでもなく,問題を解消しているものと解される。)。 よって,原告主張の点は,前記想到容易性の判断を覆し得るものではない。 (4) 原告が種々主張する点をすべて考慮しても,取消事由2も理由がない。 3 取消事由3(本願発明の作用効果の看過)について 前判示の点に照らせば,本願発明の構成は,刊行物1発明,刊行物2発明,設計的事項及び周知技術に基づいて,容易に想到し得るものである。そうすると,原告の主張する効果も,当業者であれば予測することができる程度のものであって,格別顕著なものとはいえない。よって,取消事由3も理由がない。 4 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塩月秀平 |
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裁判官 | 田中昌利 |
裁判官 | 高野輝久 |