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関連審決 無効2007-800115
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10478審決取消請求事件 判例 特許
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平成20行ケ10458審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 29条1項3号 /  容易に発明 /  下位概念 /  同一の発明 /  パリ条約 /  優先権 /  実質的に同一 /  参酌 /  実施 /  交換 /  請求の範囲 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10342号 審決取消請求事件
原告デ・ロンギ・エス・ペー・アー
同 能美知康
被告テ シ ーリミテッド
訴訟代理人弁護 士戸谷雅美
同 石田学
同 藤村修平
訴訟代理人弁理 士佐野弘
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/05/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2007-800115号事件について平成20年6月11日にした審決中,「特許第3066189号の請求項1,2,6に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「暖房用のオイルラジエータ」とする特許第3066189号(平成4年5月19日出願,パリ条約による優先権主張平成4年2月18日,イタリア,平成12年5月12日登録。以下,この特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成19年6月13日,本件特許について無効審判(無効2007-800115号事件)を請求し,原告は,同年11月7日付けで訂正請求をした(甲6。以下,この訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は,平成20年6月11日,本件訂正を認めた上,「特許第3066189号の請求項1,2,6に係る発明についての特許を無効とする。特許第3066189号の請求項3ないし5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成20年6月20日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許に係る本件訂正後の明細書(以下,本件訂正請求書に添付された訂正図面と併せて,「本件特許明細書」という。甲6)の特許請求の範囲の請求項1ないし6の記載は,次のとおりである(以下,請求項1ないし6に係る発明を「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)。
「【請求項1】内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子及び第2の板状素子を有し,該第1の板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,前記第2の板状素子が,前記第1の板状素子と対称であり,該第1の板状素子の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,該第1及び第2の折り曲げ部に近接して配置される少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,前記放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成することを特徴とする暖房用のオイルラジエータ。
【請求項2】前記第1及び第2の板状素子が,少なくとも第3の折り曲げ部を有することを特徴とする,請求項1に記載の暖房用のオイルラジエータ。
【請求項3】ないし【請求項5】省略【請求項6】前記本体が,その端部を閉じるための2つの素子を有することを特徴とする,請求項1に記載の暖房用オイルラジエータ。」3 審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,本件発明1,2及び6は,米国特許第2651506号明細書(以下「甲1文献」という。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と実質的に同一であるから,それらの発明は,特許法29条1項3号に該当すると判断した(なお,本件発明3ないし5は甲1発明に基づいて容易に発明し得たものであるとはいえないと判断した。)。
(2)上記判断に際し,審決が認定した甲1発明の内容並びに本件発明1,本件発明2又は本件発明6と,甲1発明との一致点及び一応の相違点は,以下のとおりである。
ア 甲1発明の内容「内部に加熱媒体が循環する互いに連結された複数の放熱ユニットによって構成される本体を有する,暖房用のオイルラジエータであって,各放熱ユニットが第1の板状部及び第2の板状部を有し,第1の板状部のそれぞれの外側面が,放熱ユニットの熱交換能力を高めるための熱分配部7及び外周壁6を有し,第2の板状部が,第1の板状部と対称であり,第1の板状部の対応する部分と完全にマッチし連結される,第1の板状部の熱分配部7及び外周壁6に近接して配置される熱分配部7および外周壁6を有し,第1の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6,及び,第2の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6が,空気流通路を形成し,複数の放熱ユニットが連結したとき,放熱ユニットの外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成され,また,第1及び第2の板状部は,外縁5を有し,さらに,ラジエータ両端部に,端部を閉じるための2つの端部部材1’を有したオイルラジエータ。」(審決書11頁下から2行〜12頁13行)イ 一致点(ア) 本件発明1と甲1発明との一致点「内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子及び第2の板状素子を有し,該第1の板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,前記第2の板状素子が,前記第1の板状素子と対称であり,該第1の板状素子の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,該第1及び第2の折り曲げ部に近接して配置される少なくとも第1及び第2折り曲げ部を有し,前記放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成することを特徴とする暖房用のオイルラジエータ。」である点(審決書13頁2行〜14行)(イ) 本件発明2と甲1発明との一致点上記(ア)の一致点に加えて,「第1及び第2の板状素子が,少なくとも第3の折り曲げ部を有する」点で一致する(審決書16頁14行〜16行)。
(ウ) 本件発明6と甲1発明との一致点上記(ア)の一致点に加えて,「本体が,その端部を閉じるための2つの素子を有する」点で一致する(審決書21頁13行〜15行)。
ウ 本件発明1,2及び6と,甲1発明との形式的な相違点「本件発明1では,『少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成』しているのに対し,甲1発明では,第1の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6,及び,第2の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6が,空気流通路を形成している点。」(審決書13頁16行〜21行,16頁16行,17行,21頁15行,16行)
当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,(1)本件発明1の認定の誤り,(2)甲1発明の認定の誤り,(3)相違点の看過,(4)本件発明1と甲1発明が同一であるとの判断の誤りがある(判決注原告は,それぞれを独立の取消事由としているが,判決では,1つの取消事由として整理した。)。
(1) 本件発明1の認定の誤り審決は,?@「『チャネル状の区画』とは,板状素子により形成される空気を流通させるための通路であり,本件特許図面の【図3】等において符号15で示される空間のみに特定されるものではないと理解することができる。」(審決書14頁15行〜18行),?A「『少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成』という事項は,単に,第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成することを特定しているにすぎず,第1の板状素子と第2の板状素子との関係,チャネル状の区画の数,形成されるチャネル状の区画とそれぞれの折り曲げ部との関係を特定したものではない。即ち,上記事項は,第1の板状素子と第2の板状素子とが同一の放熱素子に設けられていることを特定したものでなく,また,第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,全体として1つのチャネル状の区画(図3等の符号15で示される空間)を形成することを特定したものでもない。そして,上記事項は,第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,別々の2つのチャネル状の区画を形成することも含まれるものである。」(審決書15頁3行〜17行)と認定した。
しかし,審決の上記認定は,誤りである。すなわち,本件発明1の「チャネル状の区画」とは,【図3】等(別紙本件特許明細書【図3】等)において符号15で示される空間のみを指すと解すべきであって,「放熱素子に設けられた第1の板状素子」と「隣接する別の放熱素子に設けられた第2の板状素子」とによって形成される空間を含まないと解すべきである。
ア本件発明1の請求項1の記載は,各放熱素子が「1つの第1の板状素子及び第2の板状素子を有し」ていると特定した上で,第1の板状素子及び第2の板状素子が「チャネル状の区画を形成」していることを規定する。
したがって,「チャネル状の区画」は,同一の放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によって形成される空間を指すものであって,「ある放熱素子に設けられた第1の板状素子」と「隣接する放熱素子に設けられた第2の板状素子」とによって形成される空間を指すと解する余地はない。
イ 本件特許明細書の記載に照らしても,同様のことがいえる。
(ア)本件特許明細書には,「【0018】・・・例えば,図2及び図3の断面図で示す放熱素子3は,更に,第1の板状素子4については第4の折り曲げ部12,第2の板状素子7については,第4の折り曲げ部13を有している。この場合,第1の板状素子4のいくつもの折り曲げ部と第2の板状素子7のいくつもの折り曲げ部とは,内側の液体の温度を高い値に維持し,そして,オイルラジエータの設置された部屋を暖めるのに十分な能力を確保しながらも,オイルラジエータの表面の温度,及び特に図3の折り曲げ部6,9の表面温度を下げることのできるチャネル形の区画を形成する。」と記載されている(甲6,全文訂正明細書4頁下から8行〜5頁3行)。
同記載によれば,「チャネル状の区画」とは,同一の放熱素子3に設けられた第1の板状素子4及び第2の板状素子7によって形成されることを示すものと理解するのが相当である。
(イ)本件特許明細書には,「【0024】・・・図13から判るように,開口45と空気向け直し素子46とは,主として板状素子の周辺部に設けられており,そして,放熱素子と同時に好都合につくられ,」(甲6,全文訂正明細書6頁5行〜9行),「【0025】・・・オイルラジエータを構成するためにいくつかの放熱素子が互いに連結されるときには,開口45は,空気向き直し素子46と共に,オイルラジエータの中に対流により可成りの量の空気を加熱するように,選択的な空気流のチャネルを形成し,その空気は,各板状素子の上部に設けられた穴49の存在によって,そこから出ることができる。」(甲6,全文訂正明細書6頁11行〜18行)と記載されていること,及び【図14】(別紙本件特許明細書【図14】)の開口45及び空気向け直し素子46の形成位置を考慮すると,「選択的なチャネル」とは,いくつかの放熱素子が互いに連結されるときに新たに形成される空間から,放熱素子3に設けられた第1の板状素子4及び第2の板状素子7によって形成される「チャネル状の区画」に向かう流路を示すものと解釈するのが相当である。
(ウ)本件特許明細書には,「【0027】・・・冷たい空気は,オイルラジエータの本体2の下から引き出され,そして,チャネル状の区画15が存在することによって,従来のオイルラジエータよりも大きな熱交換面に沿って流れ,且つ,そのほかに例えば各放熱素子の内側を循環し,及び図13における変形例で空気向け直し素子46と開口45との両方によって形成された選択的なチャネルを通りながら,且つ,それに連結された穴49から出ることができる。」と記載され(甲6,全文訂正明細書6頁23行〜7頁2行),また【図12】,【図13】(別紙本件特許明細書【図12】,【図13】)に示されている別の実施例のオイルラジエータでは,同一の放熱素子3に設けられた第1の板状素子4及び第2の板状素子7によって形成される「チャネル状の区画15」と,「各放熱素子の内側」から「チャネル状の区画15」に連通されている「選択的なチャネル」を備えていることが示されている。これらの記載等によれば,いくつかの放熱素子が互いに連結されるときに新たに形成される空間は,「各放熱素子の内側」との語が用いられ,「チャネル」との語は用いられていない。
(エ)また,本件特許明細書の【図3】,【図10】及び【図11】(別紙本件特許明細書【図3】,【図10】及び【図11】)の記載を参照すれば,同一の放熱素子3に設けられた第1の板状素子4及び第2の板状素子7によって形成されている「チャネル状の区画」には参照符号「15」が付与されているから,「チャネル状の区画」とは「チャネル状の区画15」のみを示すものであるといえる。
(オ)その他,本件特許明細書のいかなる箇所にも,「ある放熱素子に設けられた第1の板状素子」と「隣接する放熱素子に設けられた第2の板状素子」とによってチャネル領域を形成したものは示されていない。
ウ以上のとおり,本件発明1における「チャネル状の区画」とは,同一の放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によって形成される空間を示すものであって,ある放熱素子に設けられた第1の板状素子と隣接する別の放熱素子に設けられた第2の板状素子とによって形成される空間を示すものではないから,それらの区別をしなかった審決の本件発明1に係る認定には誤りがある。
(2) 甲1発明の認定の誤りア審決は,甲1発明について,「第1の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6,及び,第2の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6が,空気流通路を形成し,」(審決書12頁7行,8行)との構成を備えるとのみ認定し,第1の板状部と第2の板状部とがそれぞれ隣接する別の放熱ユニットに設けられるものであることを特定していない。
しかし,審決の上記認定は誤りである。すなわち,甲1文献には,例えば図3及び図4に示されているように,オイルラジエータの一つの放熱素子に設けられた第1の板状素子と隣接する放熱素子に設けられた第2の板状素子によってチャネル状の区画12を形成したものが示されているにすぎず,同一の放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によってチャネル状の区画を形成するものは開示されていない。したがって,甲1発明を特定するためには,第1の板状部と第2の板状部とがそれぞれ隣接する別の放熱ユニットに設けられるものであることを特定すべきである。審決は,そのような特定を欠いて甲1発明を認定した点において,誤りがある。
イ被告は,別紙甲1文献【参考図】における網掛け部分Cの空気流路をもって,甲1文献には,第1の板状素子及び第2の板状素子が設けられる放熱素子が同一であるか否かにかかわらず,放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によってチャネル状の区画を形成することが記載されていると主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,上記網掛け部分Cは,すべてが単一の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6で囲まれており,異なる別個の板状部と組み合わされて形成された空気流路ではない。
したがって,別紙甲1文献【参考図】における網掛け部分Cの空気流路は,同一の放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によって形成されたチャネル状の区画には当たらない。
(3) 相違点の看過審決は,甲1発明の内容について,その第1の板状部と第2の板状部とがそれぞれ隣接する別の放熱ユニットを形成するものであることの特定を欠いている。本件発明1における「チャネル状の区画」,すなわち「同一の放熱素子を形成する第1の板状素子及び第2の板状素子によって形成される空間」には,「隣接する放熱素子が互いに連結されるときに新たに形成される空間」が含まれないから,審決には,相違点を看過した誤りがある。
(4) 本件発明1と甲1発明が実質的に同一であるとした判断の誤り審決は,甲1発明及び本件発明1の各認定を誤ったため,相違点を看過し,「本件発明1と甲1発明との間に差異は存在せず,本件発明は,実質的に甲第1号証に記載された発明である」(審決書15頁下から5行,4行)との誤った判断をした。
また,本件発明1が甲1発明と実質的に同一でない以上,本件発明1が甲1発明であることを前提として,本件発明2及び本件発明6は本件発明1を更に限定した下位概念の発明であるから本件発明2及び6も実質的には甲1発明と同一であるとした審決の認定及び判断は,その前提において誤りがある。
2 被告の反論(1) 本件発明1の認定の誤りに対し原告は,本件発明1の「チャネル状の区画」とは,同一の放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によって形成される空間のみを示すと主張する。
しかし,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,失当である。すなわち,本件発明1における「チャネル状の区画」に関しては,「少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し」とのみ規定されており,その内,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」と「第2の板状素子」とにより「チャネル状の区画」を形成するものに限られるのか,別個の放熱素子に設けられた板状素子により「チャネル状の区画」を形成するものを含むかについては,何らの規定はされていない。したがって,「チャネル状の区画」が,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」と「第2の板状素子」によってのみ形成されるとの限定的な解釈が成立する余地はない。
以上のとおり,本件発明1の特許請求の範囲の記載によれば,「チャネル状の区画」とは,同一の放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によって形成される空間のみを示すものであると限定して解釈する余地はなく,第1の放熱素子に設けられた第2の板状素子と,連結された隣の第2の放熱素子に設けられた第1の板状素子とによって形成される空間をも含むというべきであるから,これに反する原告の上記主張は失当である。
(2) 甲1発明の認定の誤りに対し原告は,甲1文献には,同一の放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によってチャネル状の区画を形成することが示されていないから,甲1発明を特定するためには,第1の板状部と第2の板状部とがそれぞれ隣接する別の放熱ユニットに設けられるものであることを特定すべきであると主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。すなわち,甲1発明では,第1の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6,及び,第2の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6が,それぞれ空気流通路を形成しているが,この「空気流通路」は,別紙甲1文献【参考図】(甲1文献のFig.5において,要部を拡大した図面)の網掛け部分Cである。この参考図には,第1及び第2の板状部の一方について図示したが,他方についても同様である。そして,甲1発明の「第1の板状部」,「第2の板状部」,「空気流通路」がそれぞれ,本件発明1の「第1の板状素子」,「第2の板状素子」,「チャネル状の区画」に該当する。
甲1文献には,同一の放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によって形成されたものであるか否かにかかわらず,放熱素子に設けられた第1の板状素子及び第2の板状素子によってチャネル状の区画を形成されていることが開示されている。
したがって,原告の上記主張は,その前提に誤りがあり,失当である。
(3) 相違点の看過に対し原告は,甲1発明では第1の板状部と第2の板状部とはそれぞれ隣接する別の放熱ユニットに設けられるものであることの特定を欠いており,審決はこの点で相違点1の認定を誤っていると主張する。
しかし,甲1発明においては,前記のとおり第1の板状部にも第2の板状部にもそれぞれチャネル状の区画が形成されているので,第1の板状部と第2の板状部とが,同一の放熱ユニットに設けられるものであるのか,それとも別の放熱ユニットに設けられるものであるのかにかかわらず,原告の上記主張は失当である。
(4) 本件発明1と甲1発明が同一であるとした判断の誤りに対し原告は,本件特許明細書では「チャネル状の区画」と「放熱素子が互いに連結されるときに新たに形成される空間」とは明確に区別されており,「チャネル状の区画」は【図3】等において符号15で示される空間のみに特定されるものであるから,本件発明と甲1発明が同一であるとの審決の判断は,誤りであると主張する。
しかし,本件の特許請求の範囲によれば,「チャネル状の区画」と「放熱素子が互いに連結されるときに新たに形成される空間」とは明確に区別されていないから,原告の上記主張は失当である。
審決には,甲1発明及び本件発明1の認定についての誤りはなく,したがって,「本件発明1と甲1発明との間に差異は存在せず,本件発明は,実質的に甲第1号証に記載された発明である」とした判断にも誤りはない。本件発明2及び本件発明6についての認定判断に,誤りがない点も同様である。
当裁判所の判断
1 本件発明1の認定の誤りについて当裁判所は,本件発明1の特許請求の範囲の記載中の「チャネル状の区画」とは,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみを示すものであると限定して解釈する余地はない,したがって,ある放熱素子に設けられた第2の板状素子と,その放熱素子に隣接連結する放熱素子に設けられた第1の板状素子とによって形成される空間を含むのみならず,ある放熱素子に設けられたそれぞれの板状素子によって形成されるそれぞれの空間をも含むものと解すべきである,と判断する。その理由は,以下のとおりである。
(1) 本件発明に係る特許請求の範囲及び本件特許明細書(甲6)の記載ア 特許請求の範囲(請求項1)の記載は,第2の2のとおりである。
イ また,本件特許明細書(甲6)には,以下のとおりの記載がある。
「【0009】本発明の意図するところは,外面の温度が内部に入っている熱い液体の温度よりも低いが,それによって,ラジエータの設置されている部屋を温める能力を低下させることのない,特に暖房用のオイルラジエータを提供することによって,上記問題点を解決することである。
【0010】この意図の範囲内で,本発明の重要な目的は,オイルラジエータを構成する各放熱素子が,自動機械で溶接及び折り曲げられる2つの部品だけで,従って,非常に短時間で且つ適度のコストで製造されるために,更に経済的であるオイルラジエータを提供することである。
【0011】本発明の他の目的は,既知のラジエータよりも一層優れた効率を有するオイルラジエータを提供することである。本発明の更に目的とするところは,その外面が実質的に平坦であり,従って極めて安全であるオイルラジエータを提供することにある。・・・【0016】各放熱素子3は,少なくとも1つの第1の板状素子4から成り,各板状素子の側面は,放熱素子の外側面の熱を減少させるための及び同時に該放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部5,6を有する。
【0017】各放熱素子3は,更に,第1の板状素子4の対応する部分と完全にマッチする,該第1及び第2の折り曲げ部5,6と近接する少なくとも1つの部分を有する第2の板状素子7を有し,従って,その板状素子7は,例えば溶接によって第1の板状素子4と連結することができる。
【0018】第2の板状素子7もまた,幅と方向が完全に第1の板状素子4の第1及び第2の折り曲げ部5,6のものと対称な少なくとも第1の折り曲げ部8及び第2の折り曲げ部9を有している。詳しくは,第1の板状素子4は,更に,少なくとも第3の折り曲げ部10を,第2の板状素子にあっては11を有している。例えば,図2及び図3の断面図で示す放熱素子3は,更に,第1の板状素子4については第4の折り曲げ部12,第2の板状素子7については,第4の折り曲げ部13を有している。この場合,第1の板状素子4のいくつもの折り曲げ部と第2の板状素子7のいくつもの折り曲げ部とは,内側の液体の温度を高い値に維持し,そして,オイルラジエータの設置された部屋を暖めるのに十分な能力を確保しながらも,オイルラジエータの表面の温度,及び特に図3の折り曲げ部6,9の表面温度を下げることのできるチャネル形の区画を形成する(判決注なお,同「チャネル形」とは,「チャネル状」(通路状,経路状)とは異なり,「コの字」形状を指すことは文脈上明らかである。)・・・【0024】図13に示す別の実施例では,各板状素子4は,複数の開口45を有しており,該開口45のうちのいくつかは,隣接した板状素子の間を循環する空気を向け直すための素子46を有している。図13から判るように,開口45と空気向け直し素子46とは,主として板状素子の周辺部に設けられており,そして,放熱素子と同時に好都合につくられ,斯くして,製作の費用及び時間を著しく減少する。
【0025】更に詳しくは,板状素子4は,開口45の間に形成されたブリッジ部47を有し,該ブリッジ部は,放熱素子3から板状素子の外面への伝導による熱の伝達を制限するのに適した寸法を有している。オイルラジエータを構成するためにいくつかの放熱素子が互いに連結されるときには,開口45は,空気向き直し素子46と共に,オイルラジエータの中に対流により可成りの量の空気を加熱するように,選択的な空気流のチャネルを形成し,その空気は,各板状素子の上部に設けられた穴49の存在によって,そこから出ることができる。・・・【0027】該閉じ素子は,任意の形状,例えば実質的に中空な半円筒形,及び,既知の連結手段例えば,オイルラジエータの本体2との迅速な連結のためのスナップ形式の連結手段を有する。本発明によるオイルラジエータの操作は,既に既述され及び図示されているところから明らかである。詳しくは,容易に理解できるように,冷たい空気は,オイルラジエータの本体2の下から引き出され,そして,チャネル状の区画15が存在することによって,従来のオイルラジエータよりも大きな熱交換面に沿って流れ,且つ,そのほかに例えば各放熱素子の内側を循環し,及び図13における変形例で空気向け直し素子46と開口45との両方によって形成された選択的なチャネルを通りながら,且つ,それに連結された穴49から出ることができる。実際面では,使用される材料及び寸法は,技術の要求及び状態に従った任意のものであってよい。」(2) 本件発明1の「チャネル状の区画」の意義ア前記(1)アのとおり,特許請求の範囲(請求項1)の記載における「チャネル状の区画」について,「少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し」と規定されるのみであり,その他何らの限定もない。したがって,「チャネル状の区画」は,ある放熱素子に設けられた第2の板状素子と,その放熱素子に隣接連結する放熱素子に設けられた第1の板状素子とによって形成される空間を含むのみならず,ある放熱素子に設けられたそれぞれの板状素子によって形成されるそれぞれの空間をも含むものと解するのが相当であり,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみに限定して解する根拠はない。
念のため,本件特許明細書の記載をも参酌して検討してみても,上記の解釈を左右する点はない。
すなわち,本件特許明細書の記載によれば,部屋を暖めるオイルラジエータは,透熱性オイルを放熱素子に循環させて伝導と対流により部屋内に熱を伝達するものであるが,従来のオイルラジエータは,外面の表面温度が熱いオイルと同じ温度となり,これに接触した場合,人の皮膚に火傷を生じさせるおそれがあるとともに,表面が特殊なブレード状となっているため,衝突した際に特に子供にとって非常に危険であるという問題のあったものである(甲6,段落【0002】〜【0008】)。
本件発明1は,このような問題点を解決するものであって,対流によって一層優れた熱交換効率を有する構成とし,人の皮膚に火傷を生じさせないように外面の温度が内部に入っているオイルの温度より低くされるにもかかわらず,部屋を暖める能力を低下させないとともに,外面を実質的に平坦にして極めて安全なオイルラジエータを提供することを目的とするものである。そのために本件発明1は,請求項1に係る構成を有するが,特に,放熱素子を構成する第1の板状素子と第2の板状素子において,第1及び第2の板状素子のそれぞれの外側面が,放熱素子の外側面の表面温度を低下させるための,及び,同時に放熱素子の熱交換効率を増大させるための第1及び第2の折り曲げ部を有しており,また,第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,さらに,放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成する。これにより熱交換効率の向上に関していえば,冷たい空気は,オイルラジエータ本体の下から引き出され,チャネル状の区画の内部を通過することにより,オイルラジエータの表面温度を下げながら熱交換面に沿って流れ,オイルラジエータ外に放出されることにより,十分に部屋を暖めることを可能にする。
以上のとおりであり,本件発明1における「チャネル状の区画」は,第1及び第2の板状素子における第1及び第2の折り曲げ部によって形成され,空気の流通性を高め,オイルラジエータの外面温度を抑える空気流通路であることが求められるが,それ以外に,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみに限定して解される余地はない。
イこれに対して,原告は,?@請求項1の記載によると,同一の放熱素子に第1及び第2の板状素子があることを前提にした上で,チャネル状の区画の形成を特定して記載していること,?A段落【0018】においては,同一の放熱素子の板状素子間に形成された区画を「チャネル状の区画」としていること,?B【図3】等においては「チャネル状の区画」として符号15の空間が特定されていること,?C段落【0024】及び【0025】の「選択的な空気流のチャネル」に係る説明も同様に理解されること,?D段落【0027】の記載において,隣接する放熱素子間に形成された区画が「内側」と表現され,「チャネル状の区画」とは区別されて記載されていることを理由として,同一の放熱素子を形成する第1及び第2の板状素子によって形成される空間(【図3】等で符号15が付された空間)のみが「チャネル状の区画」に相当し,隣接する放熱素子の板状素子とによって形成される空間は「チャネル状の区画」に該当しないと限定して解釈すべきであると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。すなわち,前記のとおり,?@特許請求の範囲の記載において,「チャネル状の区画」は,「少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し」と規定されるのみであり,その他何らの限定もないこと,?A本件特許明細書の記載のいずれを参酌しても,「チャネル状の区画」が,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみに限定されることによって生じる格別の機能,作用効果も示されていないことに照らすならば,原告の主張は,到底,採用する根拠とはなり得ない。
2 甲1発明の認定の誤りについて原告は,甲1文献には同一の放熱素子に設けられた第1の板状部及び第2の板状部によってチャネル状の区画12を形成することは示されていないから,甲1発明においては第1の板状部と第2の板状部とがそれぞれ隣接する別の放熱ユニットを構成するものであるとの特定をすべきであるのに審決はこの特定を欠いているから,誤りであると主張する。
しかし,本件発明1の「チャネル状の区画」の意義に関し,前記1で説示した内容に照らすならば,原告の上記主張は,その主張自体失当というべきである。のみならず,審決には,原告の主張するような,甲1発明の認定上の誤りもない。
甲1文献(甲1)には,以下の事項が開示されている。すなわち,オイルラジエータに用いるものとして,内部に加熱媒体を循環させる加熱媒体循環室11を設けた放熱ユニットの構成が示されている。放熱ユニットを構成する二つの板状の部材1は,それぞれ折り曲げて形成された外周壁6と熱分配部7を有するものであり,熱分配部7は隣接する放熱ユニットの熱分配部7と協働して空気上昇筒12を形成している。この空気上昇筒12が,空気の循環量を高めて熱交換効率を向上させており,大きな伝熱面を有するとともに,空気上昇筒の外壁が熱媒体循環チャンバ(加熱媒体循環室11)と接触しないラジエータの実質的に滑らかな側壁を形成していることから,外壁を加熱媒体の温度より低下させていることが開示されている。
また,図5に示されているように,部材1の外縁5と外周部6及び熱分配部7の間にも空間(別紙甲1文献【参考図】における網掛け部分C)が形成されている。この同一の放熱ユニット内の空間の中にも空気が流通し,空気上昇筒12と同様に,空気循環による熱交換の機能を有していることが開示されている。
したがって,審決が,「第1の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6,及び,第2の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6が,空気流通路を形成し,」(審決書12頁7行,8行)との構成を甲1発明が備えていると認定した点に誤りはない。
3 相違点の看過について原告は,本件発明1の「チャネル状の区画」は,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの区画のみに限定されるとの解釈を前提として,甲1文献のチャネル状の区画は,それぞれ隣接する別の放熱ユニットを構成する板状部からなる区画であって,その点において相違しているから,審決には相違点の看過がある旨主張する。
しかし,本件発明1の「チャネル状の区画」は,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの区画のみに限定されないことは前記説示のとおりであり,原告の上記主張は,その前提において,採用できないから,失当というべきである。
4 本件発明と甲1発明が実質的に同一と判断した誤りについて原告は,審決が,本件発明1及び甲1発明の認定を誤り,本件発明1が実質的に甲1発明と同一であるとの誤った認定をし,それを基に本件発明2及び6も実質的に甲1発明と同一であるとの誤った認定をしたと主張する。
しかし,前記説示のとおり,審決がした本件発明1及び甲1発明の認定に,誤りがあるということはできず,原告の上記主張は理由がない。
そして,甲1発明における空気上昇筒12で示された空間,及び部材1の外縁5と外周部6及び熱分配部7の間に形成される空間のいずれも,前記説示のとおり,放熱ユニットを構成する板状の部材1をそれぞれ折り曲げて形成された空気を流通させる区画であり,この構成によって熱交換効率を高め,外壁を加熱媒体の温度より低下させているものである。そして,甲1文献の放熱ユニットは本件発明1の放熱素子に,部材1は第1及び第2の板状素子に相当するから,これらの空気を流通させる区画は,本件発明1におけるチャネル状の区画に相当するものである。したがって,甲1発明には,隣接する放熱素子間に,又は同一の放熱素子内に,「チャネル状の区画」が形成されているものが開示されているということができる。
そうすると,「甲1発明の『空気流通路』は本件発明の『チャネル状の区画』に相当するものといえ,甲1発明の『第1の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6,及び,第2の板状部の外縁5,熱分配部7及び外周壁6が,空気流通路を形成し』という事項は,『少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し』ということができる。以上を踏まえると,上記一応相違点とした相違点1は,相違点ではない。したがって,本件発明1と甲1発明との間に差異は存在せず,本件発明1は,実質的に甲第1号証に記載された発明であるといえる。」(審決書15頁25行〜33行)とした審決の判断に誤りはない。
そして,本件発明1と甲1発明とは実質的に同一の発明であるから,本件発明1を更に限定した下位概念の発明である本件発明2及び6も実質的に甲1発明と同一であるとした審決の判断には誤りがなく,この点に係る原告の主張も理由がない。
5 結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他にも縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大須賀滋
裁判官 齊木教朗