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関連審決 不服2005-18096
関連ワード 29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明特定事項 /  相違点の認定 /  技術常識 /  パリ条約 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10206号 審決取消請求事件
原告シーメンスアクチエンゲゼルシヤフト
訴訟代理人弁護 士加藤義明
同 角田邦洋
訴訟復代理人弁護 士松永章吾
訴訟代理人弁理 士矢野敏雄
同 星公弘
被告特許庁長官
指定代理人田邉英治
同 後藤時男
同 山本章裕
同 岡田孝博
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/04/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための附加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2005-18096号事件について平成20年1月17日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「核スピントモグラフィ装置における画像シェーデングの防止方法」とする発明について,平成8年6月3日(パリ条約による優先権主張1995年6月1日,ドイツ連邦共和国)を出願日として特許出願(以下「本件出願」という。)をし(甲1),平成16年10月19日付けの拒絶理由通知書(甲2)に対して平成17年4月22日付けの意見書(甲4)及び同日付けの手続補正書(甲3)を提出したが,同年6月15日付けの拒絶査定(甲5。以下「本件拒絶査定」という。)を受けたことから,特許庁に対し,同年9月21日,本件拒絶査定についての不服の審判(不服2005-18096号事件)を請求するとともに,同年12月12日付けの手続補正書(甲6)を提出した。
特許庁は,平成20年1月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成20年2月1日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲平成17年4月22日付け手続補正書(甲3)により補正された明細書(以下,願書に添付した図面も併せて「本願補正明細書」という。なお,出願当初の明細書(甲1)と願書に添付した図面を併せて「本願明細書」という。)の特許請求の範囲(請求項の数6)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】マルチエコーシーケンスで作動される核スピントモグラフィ装置における画像シェーデングの防止装置であって,或1つの時点toにて励起高周波パルス(RF1)によりスピンの横磁化を被検対象物内に生成し,前記励起高周波パルス(RF1)につづいて,時点t1,t3,t5・・・にて,横磁化をリフェーズする少なくとも2つのリフォーカシング高周波パルス(RF2,RF3,RF4・・・)を後続継起させ,そして時点t2,t4,t6・・・にて読出インターバルを後続継起させるようにした当該装置において,パルスシーケンスの期間中印加される磁場勾配(G)は少なくとも1つの方向で次の条件を充足するようにし,即ち,【数1】但し,nは2以上の整数であるようにしたことを特徴とする核スピントモグラフィ装置における画像シェーデングの防止装置」なお,本願補正明細書の記載からみて,上記のとおり,本願補正明細書の【請求項1】の「高周波パルス(RF1,RF2,RF3,RF4・・・)」の記載は「高周波パルス(RF2,RF3,RF4・・・)」の誤記であり,「nは自然数であるようにした」との記載は「nは2以上の整数であるようにした」の誤記であると認められる(審決同旨)。この点は当事者間に争いがない。
3 審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,?@主位的に,本願発明は,その発明特定事項のすべてが,特開平6-245920号公報(以下「引用刊行物A」という。甲12)に記載されたものであるから,特許法29条1項3号に掲げる発明に該当すると判断し,また,?A予備的に,仮に発明特定事項のすべてが引用刊行物Aに記載されていないとしても,引用刊行物Aに記載された発明(以下「引用発明」という。)及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したものである。
(2)上記判断をするに当たり,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明の内容引用刊行物A(甲12)には,以下の引用発明が記載されている(別紙引用刊行物A【図1】参照)。
「マルチプルスピンエコー法によるパルスシーケンスで制御するコンピュータを有するMRイメージング装置であって,1個の章動RFパルス(90°パルス)21が印加された後に,4個のリフォーカスRFパルス(180°パルス)22〜25が順次印加され,1個の章動RFパルス(90°パルス)21と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)22との間にGrパルス31を加え,さらにリフォーカスRFパルス(180°パルス)22〜25の各々の後に,読み出し(及び周波数エンコード)用傾斜磁場Grパルス32〜35を加えるようにしたMRイメージング装置。」(審決書4頁17行〜25行)イ 一致点「マルチエコーシーケンスで作動される核スピントモグラフィ装置であって,或1つの時点toにて励起高周波パルス(RF1)によりスピンの横磁化を被検対象物内に生成し,前記励起高周波パルス(RF1)につづいて,時点t1,t3,t5・・・にて ,横磁化をリフェーズする少なくとも2つのリフォーカシング高周波パルス(RF2,RF3,RF4・・・)を後続継起させ,そして時点t2,t4,t6・・・にて読出インターバルを後続継起させるようにした核スピントモグラフィ装置。」である点(審決書5頁6行〜13行)。
ウ 相違点「本願発明の核スピントモグラフィ装置が『画像シェーデングの防止装置』を備えており,その『画像シェーデングの防止装置』は,『パルスシーケンスの期間中印加される磁場勾配(G)は少なくとも1つの方向で次の条件を充足するようにし,即ち,【数1】但し,nは2以上の整数である核スピントモグラフィ装置における画像シェーデングの防止装置』であるのに対して,引用刊行物Aにはそのような記載がない点。」(審決書5頁16行〜23行)
当事者の主張
1 取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,(1)引用刊行物Aの認定を誤り,本願発明は,引用刊行物Aに記載された発明であると判断した誤り(取消事由1),(2)引用刊行物Aの認定を誤り,本願発明は,引用発明及び技術常識から容易想到であると判断した誤り(取消事由2),(3)拒絶理由通知を欠いた手続違背(取消事由3),があるから取り消されるべきである。
(1)取消事由1(本願発明が引用刊行物Aに記載された発明であると判断した誤り)以下の理由により,引用刊行物Aには,Grパルス32〜35がGrパルス31と比べてその波高値が等しく,パルス幅が2倍の関係にあることが開示されているとはいえない。したがって,審決の認定には誤りがある。
ア本願発明の課題を達成するためには,スライス選択磁場勾配パルス(GS),位相エンコード磁場勾配パルス(GP)及び読み出し磁場勾配パルス(GR)の3種類のすべてが検討されなければならないが,引用刊行物Aには,3種類のパルスのすべての検討をすることなく,本願発明の課題が達成されているとしている。
イ本願発明の課題は,画像におけるシェーディング(陰影)又は画像歪みを防止することにあるが(甲3の段落【0011】),引用発明の課題は,画像にタグを早く付ける点のみにあり,陰影(シェーディング)を発生させないとの課題がない。
ウ引用刊行物Aには,二乗の項に関するプライマリエコー成分の位相(Φ:本願明細書の図中の実線)とスティミュレイテッドエコー成分の位相2p(Φ :同波線)が一致するという要素が開示されていない。 2sエ引用刊行物Aの【図1】は,スライス選択磁場勾配パルス(Gs),位相エンコード磁場勾配パルス(Gp)及び読み出し磁場勾配パルス(Gr)は,位相A(従来技術)のために記載されたものではなく,位相B(特許を受けようとする発明)のために記載されたものである。引用刊行物Aにおいて,【図1】は,「この発明の一実施例にかかるパルスシーケンスを示すタイムチャート」(甲12,4頁6欄16行,17行)であると説明されており,引用刊行物Aにおいて特許を受けようとする発明は,位相Bに関する発明であるから,位相Bに関する読み出し磁場勾配パルス(Gr)が図示されていると理解すべきであって,位相Aに関する磁場勾配パルス(Gr)が図示されていると解する余地はない。
そして,引用刊行物Aの特許を受けようとする発明の位相Bにおいては,シーケンスの時間効率を低下させることなく画像にタグ付けをするため,【図1】の位相Bに示すように,従来の位相Aの点E2に対し,プライマリーエコー成分(実線)とスティミュレイテッドエコー成分(点線)の位相が時刻的にずれるように,点E2と点E2’に分離している。しかも,位相Bにおいては,点Eと点E’は可変であり,それに対応する読み出し磁場勾配パルスGr33のパルス幅も可変とする必要がある。したがって,【図1】のGr33のパルス幅をGr31のパルス幅の2倍の固定値とすることはあり得ない。また,波高値については,Grパルス31の波高値をGrパルス32,33,34より大きくすることが明確に記載されている(甲12の段落【0015】,【0016】)。したがって,同じ波高値とすることが【図1】に開示されているとする審決の認定は誤りである。
オ本願明細書の【図3】(従来技術を示す図,別紙本願明細書【図3】参照)と【図4】(本願発明を示す図,別紙本願明細書【図4】参照)によれば,従来技術(【図3】)においては,第1のリフォーカシングパルス(RF2)で180°反転する位相(実線)と反転しない位相(点線)とが1次の項の位相(Φ1)にも2次の項の位相(Φ2)にも存在し,第2のリフォーカシングパルス(RF3)が与えられる時点で,2次の項の位相(Φ2)において点線と実線が一致せず,第2のエコー信号(s2)の時点で,ΦとΦが一致しない(Φ-Φ≠0)から陰影が発生する22 22ps psという課題があったが,本願発明(【図4】)においては点線と実線が一致しており,第2のエコー信号(s2)の時点で2次の項の位相(Φ2)に関しΦ とΦ が一致し(Φ -Φ =0),陰影が発生しない。
22 22ps psこれに対し,引用刊行物Aが問題とする位相においては,【図1】の位相A,Bのとおり,180°パルス22,23を加えても,位相は180°反転せず,90°しか反転しない。
以上のとおり,本願発明において,位相が180°反転するか,全く反転しないのに対して,引用刊行物Aにおいて,位相が90°しか反転しない点で,本願発明の構成が記載されているとはいえない。
カ引用刊行物Aの【図1】は,以下のとおり,パルスと位相の関係の説明が正確性を欠く。
(ア)引用刊行物Aの段落【0014】によれば,RF22パルスが印加されたとき,180°位相が反転するのがプライマリエコー成分の位相(実線)であり,90°しか反転しないのがスティミュレイテッドエコー成分の位相(点線)であるはずである。したがって,180°RFパルス22が印加されると,本願明細書の【図3】〜【図6】,特開平6-169896号公報(甲9。以下「甲9公報」という。)の【図5】,又は特開昭60-138446号公報(甲10。以下「甲10公報」という。)の【図6】のように,プライマリエコー成分の位相(実線)は,垂直に落下するように位相が反転して,負のピーク値に達するはずである。また,スティミュレイテッドエコー成分の位相(点線)も,RFパルス23によって反転するから,RFパルス23印加時にスティミュレイテッドエコー成分の位相(点線)は位相が反転して負のピーク値からスタートするはずである。
しかし,引用刊行物Aの【図1】では,RFパルス22が印加されると,位相A,Bともにプライマリエコー成分の位相(実線)は反転せず,徐々に増加する方向から徐々に減少する方向に変化しているだけである。また,引用刊行物Aの【図1】では,RFパルス23印加時のスティミュレイテッドエコー成分の位相(点線)も,正のピーク値から徐々に減少する波形図となっている。以上のとおり,引用刊行物Aのプライマリエコー成分,スティミュレイテッドエコー成分の位相に関する記載は,正確性を欠く点がある。
(イ)引用刊行物Aの【図1】は,位相が徐々に減少することが示されているが,パルスと位相の関係を適切に示したものではない。例えば,本願明細書の【図5】を検討すれば明らかなように,負のGrパルスが印加されているときには,1次の項(?窒frdt)では位相が減少するが,2次の項(?窒fr dt)ではGrが2乗されるためにその位相は2増加する。ところが,引用刊行物Aの【図1】のGrパルス31〜35はすべて正であるにもかかわらず,その位相が増加したり減少しているから,正確な位相を示したものとはいえない。
また,RFパルス22,24を印加したとき実線の位相が減少するのに対し,RFパルス23,25を印加したとき実線の位相が増加することとも矛盾する(なお,点線の場合は実線の場合と反対の方向に増加,減少する)。RFパルス22又はRFパルス23を印加したとき,位相は,同じ方向に90°又は180°位相変化を起こすはずだからである。
(ウ)引用刊行物Aの【図1】は,Grパルスが印加されていない期間でも,位相が増加したり,減少したりしているが,このような表示も正確性を欠く。例えば,本願明細書の【図3】〜【図6】においては,Grパルスが印加されている期間のみ位相が変化していることが分かる。
(2) 取消事由2(容易想到性判断の誤り)審決は,本願明細書で開示されている磁場勾配に関する数式に関して,当業者の技術常識により導き出すことができると判断している(審決書6頁32行〜8頁24行)。
しかし,上記審決の上記判断は誤りである。すなわち,本願発明における,2次の項のプライマリエコー成分の位相とスティミュレイテッドエコー成分の位相を等しくすることについて,引用刊行物Aは,一切開示がない。
引用刊行物Aには,画像にタグを早く付けることのみを課題としており,陰影(シェーディング)を発生させないなどの課題はない。審決は,本願発明を導き出すために,本願発明の一連の数式の展開において出現する数式の一部を,互いに関連のない各引用文献(甲7〜10)からそれぞれ抽出し,本願明細書に記載された数式の展開に当てはめているが,このようにあてはめをすることが技術常識により達成できるとはいえない。
上記のとおり,本願発明が容易想到であるとした審決の判断に誤りがある。
(3) 取消事由3(拒絶理由通知を欠いた文献を引用した手続違背)審決は,特開平2-65842号公報(甲11。以下「甲11公報」という。),甲10公報,甲9公報,特開昭60-189905号公報(甲8。
以下「甲8公報」という。)及び特開平7-51243号公報(甲7。以下「甲7公報」という。)を引用して,?@引用刊行物Aの記載内容を認定し,また?A相違点に関する容易想到性の有無について判断をした。しかし,上記引用例は,いずれも,審査過程において引用されていないものであるから,拒絶理由通知を発する必要があり,そのような手続を欠いた審判手続には,特許法159条2項,50条に反する違法がある。
ア 特許法29条2項該当性について拒絶理由通知を欠いた手続違背本件拒絶査定における拒絶理由は,実質的には,引用刊行物Aのみを根拠とした特許法29条1項3号に該当するとするものである。これに対して,審決は,引用刊行物Aと各引用例を組み合わせることが容易想到であり,特許法29条2項に該当すると判断している。
このような場合には,審判手続において,拒絶理由通知を発すべきであったにもかかわらず,その手続を怠ったものであるから,審決は,特許法159条2項,50条に違反する違法がある。
相違点の認定について拒絶理由通知を欠いた手続違背(ア)審決は,本願発明と引用発明との相違点を認定したにもかかわらず,他の引用例を用いて,同相違点と認定した事項は,引用刊行物Aに開示されているとして,実質的な相違点に該当しないと判断した。
このような場合には,審判手続において,拒絶理由通知を発すべきであったにもかかわらず,その手続を怠ったものであるから,審決は,特許法159条2項,50条に違反する違法がある。
(イ)審決は,「上記引用刊行物Aの(A-5)には,プライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分の位相が同時に揃うことにより,2つの成分のエコー信号が同時に発生するためのパルスシーケンスとして,1個の章動RFパルス(90°パルス)21と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)22との間に加えられるGrパルス31のパルス幅より,読み出し用傾斜磁場Grパルス32〜35のパルス幅の方が広く,波高値がほぼ等しくしてパルスを加えるパルスシーケンスが記載されており,さらに,プライマリーエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分の位相が同時に揃うように2つの成分のエコー信号が同時に発生するためのパルスシーケンスとしては,例えば特開平2-65842号公報の1頁右下欄10行〜2頁右上欄6行及び第2図に記載されているように,1個の章動RFパルス(90°パルス)と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)との間に加えられるパルス幅に対して,読み出し用傾斜磁場パルスのパルス幅を2倍の大きさとするとともにパルスの波高値をほぼ等しくしていることから,引用発明においても,プライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分の位相が同時に揃うように2つの成分のエコー信号が同時に発生するためのパルスシーケンスとして,1個の章動RFパルス(90°パルス)と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)との間に加えられるGrパルス31のパルス幅に対して,読み出し用傾斜磁場パルスGr32〜35のパルス幅を2倍の大きさとするとともに波高値をほぼ等しくしているものと推認される。」(審決書5頁下から4行目〜6頁17行)と認定した。
上記「パルスの幅を2倍にする」との審決の認定は,引用刊行物Aのみに基づくものではなく,甲11公報を用いて導いた認定である。
このような場合には,審判手続において,拒絶理由通知を発すべきであったにもかかわらず,その手続を怠ったものであるから,審決には,特許法159条2項,50条に違反する違法がある。
(ウ)審決は,「特開昭60-138446号公報の第6頁右下欄3〜11行及び第6図」について,「特に,式(2)〜(5)において,読み出し(傾斜磁場)勾配Gxのパルスが期間0〜t,t〜2t,2t〜3t,3t〜4tで積分される際,同じ大きさの読み出し(傾斜磁場)勾配Gxとして計算されていることから,1個の章動RFパルス(90°パルス)と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)との間に加えられるパルスと,読み出し用傾斜磁場パルスとは波高値が同じで,かつ,パルス幅は2倍であることになる」(審決書6頁20行〜27行)と認定した上,甲9公報を用い,「図5に記載されているように,技術常識であるから」(審決書6頁27行〜28行)との理由により,「引用発明の1個の章動RFパルス(90°パルス)と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)との間に加えられるGrパルス31に対して,読み出し用傾斜磁場パルスGrパルス32〜35は波高値が同じでパルス幅が2倍であるものと推認される。」(審決書6頁28行〜31行)と結論付けている。
上記「1個の章動RFパルス(90°パルス)と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)との間に加えられるGrパルス31に対して,読み出し用傾斜磁場パルスGrパルス32〜35は波高値が同じ」との審決の認定は,引用刊行物Aのみに基づくものではなく,甲9公報及び甲10公報を用いた結果導いた認定である。
このような場合には,審判手続において,拒絶理由通知を発すべきであったにもかかわらず,その手続を怠ったものであるから,審決は,特許法159条2項,50条に違反する違法がある。
2 被告の反論(1)取消事由1(本願発明が引用刊行物Aに記載された発明であると判断した誤り)に対しア原告は,本願発明の課題を達成するためには,スライス選択磁場勾配パルス(GS),位相エンコード磁場勾配パルス(GP)及び読み出し磁場勾配パルス(GR)の3種類のすべてを検討しなければならないと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,本願発明の請求項1は,「パルスシーケンスの期間中印加される磁場勾配(G)は少なくとも1つの方向で次の条件を充足するようにし」と記載されているから,3種類のすべてを検討する必要はない。磁場勾配(G)の1つの方向である読み出し磁場勾配パルス(GR)について判断した審決に誤りはない。
イ原告は,本願発明の課題は,画像におけるシェーディング(陰影)又は画像歪みを防止することにあるが(甲3の段落【0011】),引用発明の課題は,画像にタグを早く付ける点のみにあり,陰影(シェーディング)を発生させないとの課題がないと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,引用刊行物Aの【図1】の図Aの位相であれば,画像シェーディングが発生しない。プライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分の信号ピークが【図1】のE2,E3,E4で発生するように一致しており,読出し用傾斜磁場パルスの対称性が保たれているから,何らかの干渉パターンは生じず,干渉に基づく画像シェーディングは生じないのであって,引用刊行物Aに記載された引用発明は,本願発明における条件式を満たすものであり,本願発明と同一であるといえる。
ウ原告は,引用刊行物Aには,二乗の項に関するプライマリエコー成分の位相(Φ:本願明細書の図中の実線)とスティミュレイテッドエコー成2p分の位相(Φ:同波線)が一致するという要素が開示されていないと主 2s張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,引用刊行物Aには,「【0017】このように2つのエコーピークを実時間上で分離でき,サンプリング期間内で近接させて2つの成分のエコー信号を発生させて,同時にサンプリングすることにより,図3で示すような,サンプリング時間方向に2つのピークを有する生データ空間上でのデータを得ることができる。」と記載されており,サンプリング期間内に2つの成分のエコー信号を発生させることが明記されている。このことは,サンプリング期間は可変となるようなものではなく,サンプリング期間に対応する読み出し磁場勾配パルスGr33のパルス幅が可変ではないことを示しているものである。特に,引用刊行物Aの位相Aに関する引用発明では,プライマリーエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分の位相進み量が0となる時刻で一致するようにされており,そのようになるためには,Grパルス33のパルス幅は,Grパルス31のパルス幅の2倍である必要があり,原告が主張するような,読み出し磁場勾配パルスGr33のパルス幅を可変とすることには,技術的な根拠がない。
エ原告は,引用刊行物Aには,波高値について,Grパルス31の波高値をGrパルス32,33,34より大きくすることが明確に記載されている(段落【0015】,【0016】)と主張する。
しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,上記記載は引用刊行物Aの位相Bに関してのものであり,審決で示した引用発明(位相A)においては,通常のパルスシーケンス,すなわち,「Grパルス31の波高値をGrパルス32,33,34より大きく」することなく,波高値を等しくしているものであるから,原告の上記主張は失当である。
オ 原告は,本願発明と引用発明とは,位相が異なる旨主張する。
しかし,次のとおり,原告の上記主張は理由がない。すなわち,引用刊行物Aと本件出願のそれぞれの図面における位相進み量又は位相の大きさは,その表現の仕方が異なるために,Grパルスの印加とともに増加するか否か,180°パルスで位相が反転することを位相進み量の減少として表現するか,位相の反転(垂直変化)として表現するか否かにより,異なったように表現されているにすぎない。引用刊行物Aの【図1】は,CPMG法による表記として誤りはない(乙4,5)。
(2) 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)に対し引用刊行物Aには,プライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分の位相を同時に揃えることにより,2つの成分のエコー信号を同時に発生させる発明が記載されており,そのためにGrパルス31の幅がGrパルス32〜35のパルスの幅の1/2であり,波高値が等しいことという,端的には引用刊行物Aの【図1】にてGrパルスの形として示される条件が記載されている。
本願発明が容易想到であるとした審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(拒絶理由通知を欠いた文献を引用した手続違背)に対しア特許法29条2項該当性について拒絶理由通知を欠いた手続違背に対し特許法29条2項の拒絶理由が通知されているから,手続違背はない。
相違点の認定について拒絶理由通知を欠いた手続違背に対し(ア)引用例(甲9公報ないし甲11公報)を用いたにもかかわらず,拒絶理由通知を発しなかった手続違背に対し審決が認定した一応の相違点は,引用刊行物Aの記載から導き出せるものであって,実質的な相違点を認定したものではない。審決で示した甲9公報ないし甲11公報は,いずれも当業者における技術常識を示す文献であって,実質的な相違点を判断するために用いられたものではない。
したがって,拒絶理由通知を発する必要はなく,審決は,特許法159条2項,50条に違反する違法がある。
(イ)甲11公報により「パルスの幅を2倍にする」と認定したにもかかわらず,拒絶理由通知を発しなかった手続違背に対し審決では,甲9公報ないし甲11公報が示されている,Grパルス31の幅がGrパルス32〜35のパルスの幅の1/2であることが当業者の技術常識である点を例示したものであるから,甲11公報を示したことから直ちに,拒絶理由通知を発する必要が生ずるものではない。
(ウ)甲9公報及び甲10公報により,「1個の章動RFパルス(90°パルス)と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)との間に加えられるGrパルス31に対して,読み出し用傾斜磁場パルスGrパルス32〜35は波高値が同じ」と認定したにもかかわらず,拒絶理由通知を発しなかった手続違背に対し甲9公報及び甲10公報に示されている当業者の技術常識に照らすならば,引用刊行物Aの【図1】には,Grパルス31とGrパルス32〜35の「波高値がほぼ等しい」は「波高値が等しい」ものであることは明らかであり,甲9公報及び甲10公報を示したことから直ちに,拒絶理由通知を発する必要が生ずるものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用刊行物Aの認定の誤り)について原告は,引用刊行物Aには,Grパルス32〜35がGrパルス31と比べてその波高値が等しく,パルス幅が2倍の関係にあることが開示されているとした審決の認定には誤りがあると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は,失当である。
(1)原告は,引用刊行物Aに本願発明の内容が記載されているというためには,スライス選択磁場勾配パルス(GS),位相エンコード磁場勾配パルス(GP)及び読み出し磁場勾配パルス(Gr)の3種類のすべてを検討しなければならないのに審決はそのすべてを検討していないから誤りである旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
本願補正明細書(甲3)の記載によれば,本願発明の解決課題は,核スピントモグラフィ装置における画像のシェーディング(陰影)又は画像歪みを防止する点にあり,本願発明は,磁場勾配(G)が読出磁場勾配GR,スライス選択磁場勾配GS又は位相エンコード磁場勾配GPのうちの少なくとも一つの方向において【数15】(式(21)。【0052】)で定める条件を満たすことにより,上記の課題解決を図ることができるとするものである。ところで,本願発明に係る請求項1に「パルスシーケンスの期間中印加される磁場勾配(G)は少なくとも1つの方向で次の条件を充足する」との記載によれば,上記課題解決の手段は,3種類の磁場勾配,すなわちスライス選択磁場勾配(GS),位相エンコード磁場勾配(GP)及び読み出し磁場勾配(GR)のすべてについて検討する必要はなく,3つの磁場勾配(G)のうち少なくとも1つの方向,例えば読出磁場勾配(GR)についてのみ検討すれば十分であるというべきである。したがって,3つの磁場勾配のすべてを検討する必要があるとする原告の上記主張は,本願発明の特定事項に基づかない主張であって,主張自体失当である。
(2)原告は,本願発明の課題は,画像におけるシェーディング(陰影)又は画像歪みを防止することにあるのに対して,引用発明の課題は,画像にタグを早く付ける点のみにあり,陰影(シェーディング)を発生させないとの課題がないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,引用刊行物Aにおいては,プライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分の信号ピークが【図1】のE2,E3,E4で発生するように一致しており,読出し用傾斜磁場パルスの対称性が保たれているから,干渉パターンは生じず,干渉に基づく画像シェーディングは生じない。前記のとおり,引用刊行物Aに記載された引用発明は,本願発明における条件式を満たすものであり,本願発明と同一であるといえる。引用刊行物Aに,本願発明の解決課題が開示されていない限り,本願発明と同一であると認定することができないものではないから,原告のこの点の主張は採用の限りでない。
(3)原告は,引用刊行物Aにおいては,本願発明の本質的要素である,二乗の項に関するプライマリエコー成分の位相(Φ:本願明細書の図中の実2p線)とスティミュレイテッドエコー成分の位相(Φ:同波線)が一致する 2pという条件が開示されていないから,本願発明が開示されているとはいえないと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,原告の上記主張に係る条件は,本願発明の特定事項とはされていないから,原告の上記主張は本願発明の請求項1の記載に基づかない主張であって,主張自体失当である。
(4)原告は,引用刊行物Aの【図1】におけるスライス選択磁場勾配パルス(Gs),位相エンコード磁場勾配パルス(Gp)及び読み出し磁場勾配パルス(Gr)は,位相A(従来技術)のために記載されたものではなく,位相B(特許を受けようとする発明)のために記載されたものであるから,引用刊行物Aに本願発明の内容が記載されていると解すべきでないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり,採用することができない。
ア 引用刊行物Aの記載引用刊行物A(甲12)には,次の記載がある。
「【請求項1】 1個の章動RFパルスとそれに続く複数のリフォーカスRFパルスとを被検体に照射して順次エコー信号を発生させる手段と,上記各RFパルスと同時にスライス選択用傾斜磁場パルスを印加する手段と,位相エンコード用傾斜磁場パルスを印加する手段と,各エコー信号について読み出し用傾斜磁場パルスを印加する手段と,傾斜磁場パルスを制御することによりプライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分を分離させる手段と,分離した状態でこれら2つの成分の信号から同時にデータ収集する手段と,収集したデータから画像を再構成する手段とを有することを特徴とするMRイメージング装置。」「【0001】【産業上の利用分野】この発明は,NMR(核磁気共鳴)現象を利用してイメージングを行うMRイメージング装置に関し,とくにタギング撮像法により被検体の動態を観察するMRイメージング装置に関する。」「【0005】この発明は,上記に鑑み,シーケンスの時間効率を低下させることなく,マルチプルスピンエコー法により画像にタグ付けできるように改善した,MRイメージング装置を提供することを目的とする。
【0006】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため,この発明によるMRイメージング装置においては,1個の章動RFパルスとそれに続く複数のリフォーカスRFパルスとを被検体に照射して順次エコー信号を発生させ,各RFパルスと同時にスライス選択用傾斜磁場パルスを印加するとともに,位相エンコード用傾斜磁場パルスを印加し,さらに各エコー信号について読み出し用傾斜磁場パルスを印加し,傾斜磁場パルスを制御することによりプライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分を分離させた上でこれら2つの成分の信号から同時にデータ収集し,収集したデータから画像を再構成することが特徴となっている。
【0007】【作用】1個の章動RFパルスとそれに続く複数のリフォーカスRFパルスとを被検体に照射して順次エコー信号を発生させ,各RFパルスと同時にスライス選択用傾斜磁場パルスを印加するとともに,位相エンコード用傾斜磁場パルスと読み出し用傾斜磁場パルスとを印加する場合に,リフォーカスRFパルスの前後に加える読み出し用傾斜磁場パルスの対称性あるいは位相エンコード用傾斜磁場パルスとそのリワインド用傾斜磁場パルスとの対称性またはそれらの両方を崩すと,生データ空間上で,プライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分とをサンプリング時間方向あるいは位相エンコードステップ方向またはその両方向に分離させることができる。このような生データから画像再構成すれば,再構成画像上で,周波数方向あるいは位相方向または斜め方向の干渉縞パターンを形成させることができる。
【0008】【実施例】以下,この発明の好ましい一実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。この発明の一実施例では,図1に示すようなパルスシーケンスを図2に示すような構成で行なう。まず,図2について説明すると,主マグネット1は静磁場を発生するためのもので,この静磁場に重畳するように傾斜磁場コイル2によって傾斜磁場が印加される。傾斜磁場コイル2はX,Y,Zの3軸方向に磁場強度がそれぞれ傾斜する傾斜磁場を発生する。これら3軸方向の傾斜磁場の任意の1つを選択し,あるいは任意の複数個を組み合わせることにより,後述のスライス選択用傾斜磁場Gs,読み出し(及び周波数エンコード)用傾斜磁場Gr,位相エンコード用傾斜磁場Gpが形成される。被検体3はこの静磁場及び傾斜磁場が加えられる空間に配置される。この被検体3には,励起RFパルスを被検体3に照射するとともにこの被検体3で発生したNMR信号を受信するためのRFコイル4が取り付けられている。」「【0011】このようなMRイメージング装置において,コンピュータ13の制御の下に図1に示すようなパルスシーケンスを行なう。この図1のパルスシーケンスはいわゆるマルチプルスピンエコー法によるもので,1個の章動RFパルス(90°パルス)21を印加すると同時にスライス選択用傾斜磁場Gs51のパルスを加え,つぎに4個のリフォーカスRFパルス(180°パルス)22〜25を,Gsパルス52〜55とともに順次加えていく。
【0012】そして,90°パルス21と最初の180°パルス22との間にGrパルス31を加え,さらに180°パルス22〜25の各々の後に,Grパルス32〜35およびGpパルス41〜48を加えることにより,位相を揃えてエコー信号を発生させるとともに,周波数エンコードおよび位相エンコードを行なう。Gpパルス41,43,45,47が位相エンコード用であり,すべて同一の位相エンコードステップとなるよう制御されている。Gpパルス42,44,46,48はリワインド用であり,それらの各々の前のGpパルス41,43,45,47と同一波高値で極性を反転させてある。
【0013】この場合,通常であれば,図1のAで示すようにE1〜E4の各時点で第1〜第4のエコー信号を得るようにするのであるが,この実施例ではGrパルス31の波高値を増大させて図1のBで示すようにE1,E2,E’2,…でエコー信号を得るようにする。なお,この図1のA,Bでは縦軸は各エコーの位相の進み量を示す(このような図示の仕方はたとえば,Y. Zur, et al.; Journal of Magnetic Resonance, 71, 212-228, 1987を参照)。
【0014】これをもう少し詳しく説明すると,スピンエコー法では,90°パルス21によりスピンを90°倒し,180°パルス22を加えることにより反転させて位相が揃ってくることによりエコー信号を発生させるのであるが,実際にはリフォーカスパルスの不完全性により1つのリフォーカスパルス22では90°しか倒れず2つのリフォーカスパルス22,23が印加されて始めて位相が反転する成分があり,前者の成分をプライマリエコー成分,後者の成分をスティミュレイテッドエコー成分と称する。図1のA,Bではプライマリエコー成分の位相進み量を実線で,スティミュレイテッドエコー成分の位相進み量を点線で示している。
【0015】通常のパルスシーケンスの設計では,このプライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分の位相進み量が等しくなるようにされており,これによって図1のAで示すようにE1(判決注:「E2」の誤りと認める。)〜E4の各時点でプライマリエコー成分とスティミュレイテッドエコー成分の位相が同時に揃うことになり,2つの成分のエコー信号が同時に発生する。これに対して,上記の実施例ではGrパルス31の波高値をGrパルス32,33,34,35よりも増大させ,これにより各成分の位相進み量を図1のBで示すように変化させている。すなわち,Grパルス31の波高値を大きくしたため90°パルス21から180°パルス22までの期間での位相進み量がより大きくなって,図1のBの傾きは図1のAよりも大きくなっているが,他の期間では位相進み量は図1のAとBとで同じであり傾きは等しくなっている。
【0016】その結果,プライマリエコー成分(実線)とスティミュレイテッドエコー成分(点線)の位相が揃ってくる時刻がずれることとなり,図1のBのようにプライマリエコー成分の信号ピーク時刻E2,E3,E4とスティミュレイテッドエコー成分の信号ピーク時刻E'2,E'3,E'4とが分離してくる。この時間的分離の程度は,Grパルス31の波高値を調整することにより任意に制御することが可能である。」イ 引用発明の内容に関する判断上記の記載に照らせば,引用刊行物Aには,「マルチプルスピンエコー法によるパルスシーケンスで制御するコンピュータを有するMRイメージング装置であって,1個の章動RFパルス(90°パルス)21が印加された後に,4個のリフォーカスRFパルス(180°パルス)22〜25が順次印加され,1個の章動RFパルス(90°パルス)21と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)22との間にGrパルス31を加え,さらにリフォーカスRFパルス(180°パルス)22〜25の各々の後に,読み出し(及び周波数エンコード)用傾斜磁場Grパルス32〜35を加えるようにしたMRイメージング装置。」との発明が開示されていると認められる。
そして,引用刊行物Aには,「この実施例ではGrパルス31の波高値を増大させて」(【0013】),「上記の実施例ではGrパルス31の波高値をGrパルス32,33,34,35よりも増大させ」(【0015】),「この時間的分離の程度は,Grパルス31の波高値を調整することにより任意に制御することが可能である。」(【0016】)との記載があることに照らすならば,従来技術では,Grパルス31の波高値がGr32〜35と同程度であったものと理解される。
ところで,原告は,引用刊行物Aの【図1】に記載されている各磁場パルスは,位相Bのものとして記載されたものであると主張する。
しかし,引用刊行物Aには,?@【図1】(別紙引用刊行物A 図1 参照)【】に図示される各磁場パルス(例えば,Grパルス31〜35)が引用刊行物Aの請求項1に記載されている発明(位相B)を実施するに当たり印加される磁場パルスであると説明する記載はないこと,?A【図1】においては,Grパルス31の波高値がGrパルス32〜35の波高値よりも大きく図示されておらず,ほぼ等しく表示されていることから,波高値を増大させることを前提とする位相Bに係るGrパルスを記載したものではないと解される。
そうすると,【図1】(別紙引用刊行物A【図1】参照)の各磁場パルス等は,引用発明と対比させた従来技術の内容について,その実施に当たり通常印加される磁場パルスの印加時間や磁場強度を,通常のRFパルス21〜25や3つの磁場パルス(Gr,Gp,Gs)相互の印加タイミングとともに,その説明を記載したものであると理解するのが相当である。
したがって,引用刊行物Aの【図1】に記載されている各磁場パルスが位相Bのものとして記載されたものであるとする原告の上記主張は,採用の限りでない。
(5)原告は,本願発明において,位相が180°反転するか,全く反転しないのに対して,引用刊行物Aにおいて位相が90°しか反転しない点で,本願発明の構成が記載されているとはいえないと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,本願発明は,RFパルスの印加により位相を180°反転させること等をその構成要件として特定しているわけではない。したがって,原告の上記主張は,引用発明と本願発明との相違点を指摘したことにならず,結局のところ,主張自体失当である。
(6)原告は,原告の主張カ,(ア)記載のとおり,引用刊行物Aの位相に関する詳細な説明と【図1】の記載は,RFパルスやGrパルスを印加したときのプライマリエコー成分の位相とスティミュレイテッドエコー成分の位相に関する挙動に関する正しい認識に基づく記載ではないから,そのような不正確な引用刊行物の記載をもって本願発明の内容が開示されているとはいえないと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,引用刊行物Aの【図1】における各エコー成分の位相の挙動は,証拠(乙4の43頁,44頁,134頁,乙5の218頁,219頁,図3,図6,225頁)によれば,核磁気共鳴技術におけるCPMG法(180°パルスを90°パルスと同一方向にではなく,90°ずらした方向に印加することにより,位相を90°ずらす方法)による表現としては従来から用いられていたものであると認めることができるから,誤りはない。したがって,引用発明Aの位相の挙動をを正しくないとする原告の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
(7)原告は,原告の主張カ,(イ)及び(ウ)記載のとおり,引用刊行物Aの【図1】について,パルスと位相の関係について不正確な点がある旨主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。
ア 出願当時の技術(甲9公報及び甲10公報の記載内容)について(ア) 甲9公報の記載甲9公報には,【図5】とともに,次の記載がある。
「【0045】・・・偶数エコー信号において,特に,流れ・動きの部位のS/Nが大きくなる(いわゆる偶数エコーリフェイジングと称される)理由について,図5を用いて説明する。
【0046】同図において,点線が動きのないスピンの位相を示し,実線が動いているスピンの位相を示している。まず,動いていないスピンについて説明する。周波数方向の位置xにいるスピンは90°パルス28で90°に倒され,周波数方向の傾斜磁場を感じるようになる。その時の各周波数ωは,【0047】【数1】 ω=γ・G・xで表せることになる。Gは周波数方向に印加した傾斜磁場強度である。
また,周波数方向の傾斜磁場33の印加直後のスピン位相は,【0048】【数2】 φ=?茶ヨdt=γ・G・x・Tとなる。
【0049】180°パルス29の印加の後,位相は反転し,第エコー信号(判決注:「第1エコー信号」の誤記と認める。)計測時,リードアウト傾斜磁場34を印加する。同様に位相は変化するため位相は0となり,信号は最大となる。その後,第2エコー信号が計測されることになる。
【0050】次に,スピンが動いている場合について説明する。たとえば,該スピンが周波数方向に傾斜磁場印加時のみ速度vで動いているとする。ここで,最初の位置がx =0とし,周波数方向傾斜磁場33の0位相をφ ,第エコー(判決注:「第1エコー信号」の誤記と認め1る。)のリードアウト傾斜磁場の後の位相をφ ,第2エコーのリード 2アウト傾斜磁場の中心での位相をφ とする。 3【0051】90°パルス28の印加の後,傾斜磁場33が印加されると,該スピンは時間T後には,【0052】【数3】 x=v・Tの位置にいる。よって,φ は,1【0053】【数4】 φ =1/2・γ・G・(v・T)1となる。すなわち,時間の2乗で位相が変化することになる。同様に,【0054】【数5】 φ =1/2・γ・G・(vT+3vT)・2-φ =7/22 1・γ・G・(v・T)となる。φ は速度vの関数であるため,速度が違うスピン間で位相が2異なってしまい偽像の原因となる。φ は, 3【0055】【数6】 φ =1/2・γ・G・(3vT+4vT)-φ =03 2となる。
【0056】すなわち,φ はスピンの速度によらず0となり,第2エ3コーにおいては流れ・動きの部位も偽像にならずに結像することになる。」(イ) 甲10公報の記載甲10公報には,【図6】とともに,次の記載がある。
「次に90゜及び180゜RFパルスと,第2図について前に述べたのと同様に,これらのRFパルスの間に作用する読出勾配Gxを示した第6図について奇数番号のスピンエコー信号に対する位相の累算を説明する。勾配Gxの方向に容器108内を距離dxだけ移動した後のスピンの周波数増分はdωである。容器108内を速度vで定常の流れがあると仮定すると,dωは次の様に書くことが出来る。
dω=γGx Vx dt又はω=γGx Vx t (1)最初の180゜RFパルスを印加した時刻t=τに於ける累算位相角φは次の様に書くことが出来る。
φ(τ)=?茶ヨdt=?茶チGx Vx tdt=γGx Vx τ /2 (2)00ττ 2時刻τに印加される180゜パルスが位相角の符号を反転し,この為,期間t=2τの間の累算位相角は次の様に書くことが出来る。
φ(2τ)=-φ(τ)+?茶チGx Vx tdt=γGx Vx τ(3)τ2τ2同様に,期間t=3τ及びt=4τの間の累算位相角は次の様に書くことが出来る。
φ(3τ)=φ(2τ)+?茶チGx Vx tdt=7/2γGx Vx τ(4)2τ3τ2φ(4τ)=-φ(3τ)+?茶チGx Vx tdt=0(5)」(甲13τ4τ0,6頁左下欄11行〜右下欄11行)イ 引用刊行物Aのパルスと位相についての判断(ア)以上の甲9公報及び甲10公報の記載(別紙甲9公報【図5】及び甲10公報【図6】を含む。)によれば,1個の章動RFパルス(90°パルス。引用発明の「RFパルス21」及び本願発明の「励起高周波パルスRF1」に相当するもの)と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス。引用発明の「RFパルス22」及び本願発明の「リフォーカシング高周波パルスRF2」に相当するもの)との間で印加される最初の磁場パルス(引用発明の「Grパルス31」)と,当該最初のリフォーカスRFパルスの後で印加される読み出し用傾斜磁場パルス(引用発明の「Grパルス32〜35」)との関係について,読み出し用傾斜磁場パルスのパルス印加時間を最初の磁場パルスに対し2倍に設定し,読み出し用傾斜磁場パルスと最初の磁場パルスの磁場強度を同じに設定することは,当業者の技術常識であるということができる。
(イ)そうすると,引用発明のGrパルス31とそれ以降のGrパルスの関係は,次に述べるとおり,本願発明の【数1】の条件を満足するものであるということができる。
すなわち,Grパルス31のパルス印加時間(パルス幅)=T,磁場強度(波高値)=Aとしたとき,条件式の最左辺は?窒f (t)dt = ?窒fr (t)dt =A ・Tt0t0t12t122また,?窒f (t)dt = ?窒fr (t)dt =A ・2Tt1t3t322 2t1であるから,条件式の左から2番目の辺は1/2?窒f (t)dt = 1/2・A ・2T =A ・Tt1t32 22(条件式の3,4,…,n番目の辺についても同様。)となり,条件式の辺はすべて,「A ・T」となる。
2よって,本願発明は引用刊行物Aに記載された発明であるということができる。
以上のとおりであり,引用発明の認定に誤りがあるとする原告の主張は理由がなく,本願発明は引用刊行物Aに記載された発明であって,特許法29条1項3号に該当するとした審決の認定,判断には誤りはない。
2 取消事由3(拒絶理由通知を欠いた手続違背)について拒絶理由通知を欠いた手続違背の有無(取消事由3)について判断する。
(1) 特許法29条2項拒絶理由通知を欠いた手続違背について原告は,本件拒絶査定における拒絶理由は,実質的には,引用刊行物Aのみを根拠とした特許法29条1項3号に該当するとするものであるのに対して,審決は,引用刊行物Aと各引用例を組み合わせることが容易想到であり,特許法29条2項に該当するとしたものであるから,審判手続において,拒絶理由通知を欠いた手続違背があると主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり誤りである。
ア審決の要旨は,?@主位的に,本願発明は,引用刊行物Aに記載された発明であることを理由に,特許法29条1項3号に該当すると判断し,?A予備的に,本願発明は,引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したものである。
そして,前記検討したとおり,本願発明が特許法29条1項3号に該当するとした審決の主位的な判断に誤りはないのであるから,本件審判手続において,原告の主張する内容の拒絶理由通知を発しなかったとしても,審決に違法を来す取消事由はないというべきである。したがって,原告の主張は,この点において採用できない。
イのみならず,審査及び審判の手続過程をみても,審判手続において,原告主張に係る拒絶理由を発しなかったとの違法はない。
(ア)本件拒絶査定(甲5)には,「この出願については,平成16年10月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由2及び3によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書並びに手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。・・・」との記載があり,本件出願は平成16年10月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由2及び3によって拒絶されたことが認められる。
(イ) 拒絶理由通知書(甲2)には,次の記載がある。
「[理由2]この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)・請求項1,4・引用文献 1〔備考〕引用文献1には,マルチエコーシーケンスにおいて,Grパルス31をGrパルス32,33,34,35の半分の量印加する方法が記載されている(【0011】〜【0015】及び【図1】参照)。
[理由3]この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)・請求項1,4・引用文献 1〔備考〕引用文献1には,マルチエコーシーケンスにおいて,Grパルス31をGrパルス32,33,34,35の半分の量印加する方法が記載されている(【0011】〜【0015】及び【図1】参照。)。
引 用 文献 等 一覧1.特開平6-245920号公報」(ウ)以上の本件拒絶査定及び拒絶理由通知書の記載によれば,特許庁は,原告に対し,本願発明(請求項1に係る発明)が特許法29条1項3号に該当する発明であるとの拒絶理由(理由2)のみならず,同法29条2項の規定による拒絶理由(理由3)をも通知していると認められるから,同法29条2項の規定による拒絶理由に基づく本件拒絶査定についてした審決に,手続的な誤りがあるとはいえない。
(2) 新たな引用文献により相違点を認定した手続違背について原告は,?@「パルスの幅を2倍にする」との審決の認定は,引用刊行物Aのみに基づくものではなく,甲11公報を用いた認定であり,また,?A「1個の章動RFパルス(90°パルス)と最初のリフォーカスRFパルス(180°パルス)との間に加えられるGrパルス31に対して,読み出し用傾斜磁場パルスGrパルス32〜35は波高値が同じ」との審決の認定は,引用刊行物Aのみに基づくものではなく,甲9公報及び甲10公報を用いた認定であり,審判手続において,拒絶理由通知を発すべきであるにもかかわらず,その手続を怠ったものであるから,審決は,特許法159条2項,50条に違反する違法があると,主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,審決書には,「してみると,本願発明の発明特定事項は,すべて引用刊行物Aに示されているものであって,本願発明は,引用刊行物Aに記載された発明である。」(審決書8頁23行,24行)と記載されている点に照らすならば,審決は,形式的な相違点を認定しているが,甲9公報ないし甲11公報で例示された当業者の技術常識からみて実質的な相違点には該当しないと判断したものと解するのが相当である。したがって,審判手続において,拒絶理由通知を欠いた手続違背があるとの原告の主張は採用できない。
3 結 論以上によれば,その余の取消事由(取消事由2)について検討するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀
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