関連審決 | 不服2001-14303 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 優先日 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 国際出願 / 国際公開 / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
30号
審決取消請求事件
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原告 ロレアル 訴訟代理人弁理士 志賀正武 同 高橋詔男 同 渡邉隆 同 村山靖彦 同 実広信哉 被告 特許庁長官 小川洋 指定代理人 小柳正之 同 森田 ひとみ 同 一色 由美子 同 涌井幸一 同 宮下正之 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/11/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2001-14303号事件について平成15年9月10日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文1,2と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「少なくとも1つのグラフト化シリコーンポリマー及びアニオンポリマーとカチオンポリマーとの少なくとも1つの組合せ物を含む化粧品組成物」とする発明について,平成8年9月16日を国際出願日として特許出願(平成9年特許願第514011号,優先権主張1995年9月29日(以下「本件優先日」という。),フランス。以下「本件出願」という。請求項の数は46である。)したが,平成13年5月15日,拒絶査定謄本の送達を受けたため,同年8月10日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2001-14303号事件として審理し,その結果,平成15年9月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日が付加された。),同月24日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲(請求項1) 「化粧品として許容される媒体中に,少なくとも1つのアニオンポリマーと少なくとも1つのカチオンポリマーとの少なくとも1つの組合せ物,及び,ポリシロキサン部分と非シリコーン有機鎖からなる部分とを含む少なくとも1つのグラフト化シリコーンポリマーを含有し,前記2つの部分の1つはポリマーの主鎖を構成し,他(た)の1つは該主鎖にグラフト化されていることを特徴とするケラチン物質のトリートメント用化粧品組成物。」(拒絶査定の対象となったのは請求項1で特定された発明である。以下,この発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,「国際公開第95/108号パンフレット」(以下,審決と同様「引用刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,さらに,特開平6-92825号公報(以下,審決と同様「引用刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び周知技術に基づいても,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,いずれにしても特許を受けることができない,としたものである。 審決が上記結論を導くに当たり認定した本願発明と各引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。 (1) 本願発明と引用発明1について (一致点) 「化粧品として許容される媒体中に,ポリシロキサン部分と非シリコーン有機鎖からなる部分とを含む少なくとも1つのグラフト化シリコーンポリマーを含有し,前記2つの部分の1つはポリマーの主鎖を構成し,他の1つは該主鎖にグラフト化されていることを特徴とするケラチン物質のトリートメント用化粧品組成物」である点 (相違点) 一致点の構成に加え,本願発明においては,「少なくとも1つのアニオンポリマーと少なくとも1つのカチオンポリマーとの少なくとも1つの組合せ物」を含有しているのに対し,引用発明1においては,「非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂」を含有している点 (2) 本願発明と引用発明2について (一致点) 「化粧品として許容される媒体中に,ポリシロキサン部分と非シリコーン有機鎖からなる部分とを含む少なくとも1つのグラフト化シリコーンポリマーを含有し,前記2つの部分の1つはポリマーの主鎖を構成し,他の1つは該主鎖にグラフト化されていることを特徴とするケラチン物質のトリートメント用化粧品組成物」である点 (相違点) 一致点の構成に加え,本願発明においては,「少なくとも1つのアニオンポリマーと少なくとも1つのカチオンポリマーとの少なくとも1つの組合せ物」を含有しているのに対し,引用発明2においては,さらなる添加成分が明示されていない点 |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,本願発明と引用発明1との相違点の判断を誤り,かつ,本願発明と引用発明2との相違点の判断を誤ったものであって,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 本願発明と引用発明1との相違点の判断の誤り (1) 審決は,引用刊行物1に「本発明の液体ヘア化粧品組成物の非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂成分にはアニオン系,両性,ノニオン系,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物がある。」と記載されていることから,引用発明1においては,「非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂成分として,アニオン系,両性,ノニオン系,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物が使用できるとされているところ,毛髪用化粧品組成物において,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの使用はもちろん両者を混合して使用することも周知であること(必要ならば特開昭53-139734号公報,特開昭55-59107号公報などを参照)を考慮すれば,それらの選択肢の中から,非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂成分として,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物を選択して使用してみるという程度のことは当業者の容易になし得るところである。」(審決書3頁30〜38行)と判断している。 確かに毛髪用化粧品組成物の成分としてアニオン系ポリマー及びカチオン系ポリマーが従来から使用されていることは審決がいうとおりである。しかしながら,毛髪用化粧品組成物の成分としては,アニオン系ポリマー,カチオン系ポリマーだけでなく,両性ポリマー及びノニオン系ポリマーも使用されているのである。 したがって,引用刊行物1の上記記載からは,アニオン系ポリマー単独,両性ポリマー単独,..アニオン系ポリマー+両性ポリマーの組合せ,..アニオン系ポリマー+両性ポリマー+ノニオン系ポリマーの組合せ,..アニオン系ポリマー+両性ポリマー+カチオン系ポリマーの組合せなど,合計15通りものパターンが想定されるのである。そうすると,引用刊行物1の上記記載は,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの特定の組合せを特に選択すべきことを示唆しているものとはいえない。 むしろ,引用刊行物1には,「本発明による液体ヘア化粧品組成物で使用上好ましいヘアセッティング樹脂はアニオン系又は両性である。」(訳文である甲2号証の2の15頁7〜8行)と記載されているのであるから,引用刊行物1に接した当業者であれば,上記15通りの可能な組合せのうち,通常は,シリコーン含有ポリカルボン酸ヘアスタイリングコポリマー(引用発明1の必須(a)成分)と併用されるべき非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂として,アニオン系ポリマーと両性ポリマーとの組合せを選択するはずである。現に,引用刊行物1の実施例では,非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂として,両性ポリマーであるアンホマー(商品名)とアニオン系ポリマーであるウルトラホールド8(商品名)が使用されているのである(訳文である甲2号証の2の23頁下から2〜3行)。 このように,具体的にアニオン系ポリマーと両性ポリマーの使用が推奨されているのであるから,引用刊行物1に接した当業者であれば,アニオン系ポリマー単独,両性ポリマー単独,又は,両者の組合せを使用する一方で,両ポリマー以外のその他のポリマーの使用を回避することは明らかであり,その他のポリマーであるカチオン系ポリマーの使用は引用刊行物1において阻害されていることが明らかである。 以上のとおり,引用刊行物1の上記記載(訳文である甲2号証の2の15頁7〜8行)は,当業者が本願発明の構成に至る明らかな阻害要因であるから,引用刊行物1の記載に基づいて当業者が本願発明を容易に想到することができたとする審決の判断は誤りである。 (2) 審決は,引用刊行物1に「本発明で使用上好ましいポリカチオン系ポリマー樹脂には,カチオン系グアーガム,・・・・ビニルイミダゾリウム/ビニルピロリドン四級アンモニウムコポリマーとそれらの混合物がある。」(訳文である甲2号証の2の18頁11〜18行)と記載されていることから,「引用刊行物1には,使用可能なカチオン系ポリマーについても具体的に記載されているのであるから(この点はノニオン系ポリマーについても同様),好適なものとして,アニオン系又は両性のポリマーを例示する記載があったとしても,上記・・・に記載されているその他のポリマー又はその他の混合物の使用が遠ざけられることになるものではない。」(審決書4頁15〜20行)と判断している。 しかし,引用刊行物1の上記記載は,敢えてカチオン系ポリマーを選択した場合には,それらの各物質又はそれらの混合物が好ましい旨を述べているに過ぎないものであり,決して他の種類のポリマーを差し置いてカチオン系ポリマーの使用を推奨するものではないから,引用刊行物1の上記記載から,カチオン系ポリマーの使用が阻害されていないとした審決の判断は誤りである。 また,審決は,「毛髪用化粧品組成物において,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物を使用することは,上記したとおり周知であることからすれば,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物の選択に特に言及がないことが,これらの使用を妨げる要因となると解することもできない。」(審決書4頁20〜24行)と判断している。 しかしながら,引用刊行物1において,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーとの組合せの選択について明確な言及がないのは,両ポリマーの使用可能性については認めながらも,アニオン系ポリマー及び両性ポリマーに比べれば適性に劣ることから,アニオン系ポリマー及びカチオン系ポリマーの組合せについては積極的な推奨を回避しているからにほかならない。したがって,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーとの組合せ自体が周知であるからといって,その組合せの推奨を引用刊行物1が控えている以上,引用刊行物1に接した当業者はアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーとの組合せを特に選択して採用しようとは思わないのが通常であるから,審決の判断は誤りである。 (3) 原告は,本件出願の審査段階において,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーとの組合せをグラフト化シリコーンポリマーと併用した場合の有利な効果を示した比較実験結果(甲4〜6号証)を提出して,本願発明の効果は顕著である旨主張したけれども,審決は,「斯かる資料をみても本願発明により当業者の予測を超える格別の作用効果が普遍的に得られると評価することはできない。」(審決書4頁9〜10行)と判断している。 しかしながら,原告の提出した比較実験結果は,グラフト化シリコーンポリマーとカチオン系ポリマーとを併用した場合並びにグラフト化シリコーンポリマーとアニオン系ポリマーとを併用した場合に比べてグラフト化シリコーンポリマーとカチオン系ポリマーとアニオン系ポリマーを併用した場合に,毛髪の柔らかさ・感触が優れていることを明確に示しているものであり,審決の判断は,その比較実験結果を看過したものであって違法である。 2 本願発明と引用発明2との相違点の判断の誤り (1) 審決は,「引用刊行物2記載の毛髪化粧料においては,従来使用されている公知の天然系ポリマー,天然系変性ポリマー,合成系ポリマーを,上記グラフト型共重合体と併用してよいことが記載されているから,毛髪化粧料において,使用することが周知であるアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物を,上記グラフト型共重合体と併用して使用してみることは当業者の容易になし得るところである。」(審決書5頁12〜17行)と判断している。 しかしながら,引用刊行物2記載の「従来使用されている公知の天然系ポリマー,天然系変性ポリマー,合成系ポリマー」は,上記グラフト型共重合体と併用すべきものとして記載されているのではなく,「併用してもよい」程度のものとして挙げられている任意成分であるに過ぎない。したがって,引用刊行物2の上記記載に基づいては,グラフト化シリコーンポリマーと更に他の2つの特定のポリマー成分を必須に併用する本願発明を容易に想到することができるとはいえない。 また,毛髪用化粧品組成物の成分としてはアニオン系ポリマー,カチオン系ポリマーのみならず,両性ポリマー及びノニオン系ポリマーといったものも従来から使用されている。さらに,毛髪化粧品に配合され得る成分としては,合成系ポリマーのみならず,多数の天然系ポリマー及び天然系変成ポリマーも知られている。したがって,審決が引用する引用刊行物2の上記漠然とした記載からは,無数のポリマー成分の使用態様が想定されるのであり,そこから本願発明におけるアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーとの組合せという特定のポリマー成分の使用態様を容易に想到することなど不可能であるから,この点からも審決の上記判断は誤りである。 (2) 審決の判断が原告の提出した前記比較実験結果を看過したもので違法であることは,上記1において主張したとおりである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 本願発明と引用発明1との相違点の判断の誤りについて (1) 引用発明1は,従来のヘアスタイリング樹脂を含有する液体ヘア化粧品組成物にシリコーングラフト化ヘアスタイリングポリマーを加え,良好なスタイル保持性を留めつつ,柔軟性をはじめとする優れたヘア感性能の付与を図る発明であり,引用刊行物1の「本発明の液体ヘア化粧品組成物の非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂成分にはアニオン系,両性,ノニオン系,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物がある。」との記載に接した当業者にとって,「それらの混合物」として,ヘアスタイリング樹脂として従来周知のアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物が少なくとも示唆されていると考えるのが普通である。 したがって,非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂成分として,周知であったアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物を選択して使用してみるという程度のことは当業者の容易になし得るところであるとした,審決の判断に誤りはない。 (2) 原告は,引用刊行物1の上記記載からは,15通りのパターンが想定され,アニオン系ポリマー+カチオン系ポリマーの特定の組合せを特に選択すべきことを示唆するものではないと主張している。 しかし,引用発明1は,従来のヘアスタイリング樹脂を含有する液体ヘア化粧品組成物に,シリコーングラフト化ヘアスタイリングポリマーを加えることに特徴を有するものであって,単に,シリコーングラフト化ヘアスタイリングポリマーと他のヘアスタイリング樹脂との組合せに特徴を有するものではないから,当業者が,引用刊行物1の上記「それらの混合物」には,ヘアスタイリング樹脂として従来周知のアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物も示唆されていると考えるのは当然であり,原告の上記主張は失当である。 また,原告は,引用刊行物1に「本発明による液体ヘア化粧品組成物で使用上好ましいヘアセッティング樹脂はアニオン系又は両性である。」との記載があること,さらに,実施例において,両性ポリマーとアニオン系ポリマーの使用がされていることを指摘し,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物を使用することには阻害要因があると主張している。 しかし,引用刊行物1では,非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂について,「本発明の液体ヘア化粧品組成物の非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂成分にはアニオン系,両性,ノニオン系,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物がある。」と記載した後に,「本発明による液体ヘア化粧品組成物で使用上好ましいヘアセッティング樹脂はアニオン系又は両性である。」と記載しているのであるから,後者の記載は,前者に記載された選択肢の中から,より好ましい樹脂の選択を例示しているものであり,この記載により,前者の記載中,後者の記載に含まれないもの,例えば,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物の使用が阻害されるというようなことは,およそ考えられず,原告の主張は失当である。 (3) 原告は,審決の判断は原告提出の比較実験結果(甲4〜6号証)を看過したものであり違法である旨主張している。 しかし,特定のカチオン系ポリマーと特定のアニオン系ポリマーの併用についての効果の記載のみから,カチオン系ポリマーとアニオン系ポリマーの併用一般について普遍的に当業者の予測を超える格別の効果が得られると評価することはできないことに加え,甲4号証の添付資料1〜3では,スタイリングフォーム組成物の発泡特性について比較されているが,仮に,発泡特性について,シリコーングラフト化ヘアスタイリングポリマーとカチオン系ポリマーとアニオン系ポリマーとの3成分併用のものが優れていたとしても,本願発明のケラチン物質のトリートメント用化粧品組成物は,スタイリングフォーム組成物に限定されるものではないから,発泡特性についての効果のみをもって,本願発明のケラチン物質のトリートメント用化粧品組成物の普遍的な効果とはいえない(なお,そもそも発泡特性に関する効果は出願時には主張されていない効果である。)。 また,甲4号証の添付資料4には,スタイリングフォーム組成物について,柔らかさ,感触についての効果の比較結果が記載されているが,その評価はテスター(被験者)によりまちまちであり,平均値としては,3成分併用のものが高いという結果が示されているものの,その差異は微々たるものであって,格別の効果が奏されているとはいえない。 そして,甲5,6号証には,甲4号証の添付資料に記載のものとは異なる3つのスタイリングフォーム組成物について,柔らかさについての効果の比較結果が記載されているが,特定のカチオン系ポリマーとアニオン系ポリマーの併用についての効果の記載のみから,カチオン系ポリマーとアニオン系ポリマーの併用一般について普遍的に当業者の予測を超える格別の効果が得られると評価することができないことは上述したとおりである。 したがって,審決の判断に,原告が主張する本願発明の奏する効果を看過したという違法はない。 2 本願発明と引用発明2との相違点の判断の誤りについて 引用刊行物2には,「また,従来使用されている公知の天然系ポリマー,天然系変成ポリマー,合成系ポリマーと併用使用してよい。」との記載に続いて,「3)セット剤,マスカラの場合,...アニオン性,ノニオン性,カチオン性,および両性の公知のセット用ポリマー,およびポリシロキサン系ポリマーに代替して使用する。また,これに,前述の公知のセット用ポリマー,...を併用添加してもよい。」(甲3号証の6頁10欄42行〜7頁11欄2行)と記載されており,グラフト型共重合体と公知のセット用ポリマーとの併用が少なくとも示唆されているといえる。 そうすると,引用発明2において,公知のセット用ポリマーとして,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーとの併用に想到することは,当業者が格別の困難なくなし得るところである。 また,審決に本願発明の奏する効果を看過した違法がない点は,取消事由1について主張したとおりである。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明と引用発明1との相違点の判断の誤りについて (1) 引用刊行物1には,次の記載がある(甲2号証の1,その訳文は甲2号証の2。以下掲記の頁等は訳文によるものである。)。 ア「(a) ビニルポリマー主鎖とその主鎖にグラフト化された重量平均分子量約1000〜約50,000のシリコーン含有マクロマーを有するシリコーン含有ポリカルボン酸ヘアスタイリングコポリマー約0,1〜約10重量%(酸ベース); (b) 非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂約0.01〜約10重量%;及び (c) ヘアへの適用に向いたキャリアを含む残部; を含んでなる液体ヘア化粧品組成物。」 (特許請求の範囲請求項1。2頁) イ「本発明はシリコーングラフト化ヘアスタイリングポリマー及び非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂を含有した液体ヘア化粧品組成物に関する。」(7頁4〜6行) ウ「シリコーンマクロマー部分を有するある中和性ポリマーはヘアに良好なスタイル保持効果を示し,しかも改善されたヘア感を示せることが知られている。 換言すれば,このようなシリコーンマクロマー含有ポリマーは,非シリコーンヘア固定ポリマーに本来伴う粘着ヘア感なしに,従来の非シリコーン含有樹脂にはない柔軟性及びコンディショニングの触感をヘアに付与することができる。」(7頁23〜27行) エ「従来のヘアスタイリング樹脂を含有した液体ヘア化粧品組成物にこのようなシリコーン含有コポリマーを低レベルで加えれば,優れたヘア感性能を付与し,しかも従来の樹脂に伴う良好なスタイル保持性を留めることがわかった。」(8頁16〜18行) オ「本発明の液体ヘア化粧品組成物の非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂成分にはアニオン系,両性,ノニオン系,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物がある」(15頁5〜7行) カ「本発明による液体ヘア化粧品組成物で使用上好ましいヘアセッティング樹脂はアニオン系又は両性である。」(15頁7〜8行) (2) 上記アないしエの記載によれば,引用発明1は,非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂からなる従来のヘアスタイリング樹脂を含有する液体ヘア化粧品組成物に,シリコーングラフト化ヘアスタイリングポリマーを加えることに特徴を有するものであるところ,引用刊行物1は,上記オの記載のとおり,液体ヘア化粧品組成物の非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂成分にはアニオン系,両性,ノニオン系,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物があることを明示しているのである。 そして,本件優先日当時,毛髪用化粧品組成物において,アニオン系ポリマー,カチオン系ポリマーのそれぞれの使用はもちろん,両者を混合して使用することも周知であることは,原告も争っていないところである。 そうすると,引用発明1は,非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂からなる従来のヘアスタイリング樹脂を含有する液体ヘア化粧品組成物にシリコーングラフト化ヘアスタイリングポリマーを加え,良好なスタイル保持性を留めつつ,柔軟性をはじめとする優れたヘア感性能を付与することができるという発明であるから,上記オの「本発明の液体ヘア化粧品組成物の非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂成分にはアニオン系,両性,ノニオン系,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物がある。」との記載に接した当業者にとって,「それらの混合物」として,ヘアスタイリング樹脂として従来から周知であるアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物を想到することは容易であるということができる。 (3) 原告は,引用刊行物1の上記オの記載からは,各ポリマーの組合せに15通りものパターンが想定されることから,上記オの記載は本願発明のようなアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物という特定の組合せを選択することを示唆しているものではなく,むしろ,上記カの記載があることからすると,本願発明のようなアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物を選択することには阻害事由がある旨主張する。 しかし,上記オの「アニオン系,両性,ノニオン系,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物」との記載から,原告が主張するように15通りのパターンが考え得るとしても,上記のとおり,引用発明1が,従来のヘアスタイリング樹脂を含有する液体ヘア化粧品組成物にシリコーングラフト化ヘアスタイリングポリマーを加えることを特徴とするものであることに照らすと,上記の「それらの混合物」として,従来からヘアスタイリング樹脂として周知であるアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物も示唆されていると見ることができるのは当然である。 また,上記カの「使用上好ましいヘアセッティング樹脂はアニオン系又は両性である」との記載は,上記オに続く記述部分であり,単に好ましい1つの例がアニオン系又は両性であることを明らかにしたにとどまるものであって,この記載部分をとらえて,それ以外のノニオン系やカチオン系ポリマーを除外する趣旨までを含むものと解することはできないし,引用刊行物1の実施例に,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの組合せではない組合せが示されているだけで,アニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーとの組合せが具体的に示されていないからといって,それだけでアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの組合せを選択することが排除されていると解することもできない。このことは,引用刊行物1の特許請求の範囲請求項10に,「非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂がアニオン系,ノニオン系,両性,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物,好ましくはアニオン系又は両性ポリマー物質である,請求項1〜9のいずれか一項に記載の液体ヘア化粧品組成物。」(甲2号証の1,訳文の5頁)として,非シリコーン含有ヘアスタイリング樹脂がアニオン系,ノニオン系,両性,カチオン系ポリマー物質又はそれらの混合物であるものの全てを構成とする発明が記載されており,この請求項10をも前提とした発明の詳細な説明中の上記オやカの記載がアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの組合せを排除しているといえないことからも明らかである。 したがって,引用刊行物1において,本願発明のようなアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーの混合物を選択することには阻害事由があるとする原告の主張は採用できない。審決の認定判断に原告主張の誤りはない。 (4) 原告は,甲4ないし6号証に基づいて,本願発明には顕著な効果があるとし,審決はこの点を看過している旨主張する。 甲4号証の添付資料1〜3には,本願発明に従った3つの重合体の組合せによって得られたムース組成物が,アニオン重合体又はカチオン重合体を含む2つの重合体の組合せによって得られたムース組成物に比べ,明らかに格別優れた発泡特性を有し,より膨張し,有形化し,かつ,より安定していた旨の記載とともに,ムース組成物を適用して2分後に撮影された写真が掲載されている。しかしながら,本件出願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)においては,「ヘアスタイリング,量感,形状及び保持特性を示すことができ,同時にソフト感,触感又はもつれほぐしのような良好な化粧品特性を有する化粧品組成物を得ることが求められている。」(甲9号証14頁15〜17行)という課題が示された上,「驚くべきことに,本出願人は,少なくとも1つのグラフト化シリコーンポリマーを,アニオンポリマーとカチオンポリマーとの少なくとも1つの組合せ物と組み合わせることによって,・・・髪のソフト感や触感のような化粧品特性が実質的に優れることを見い出した。」(同14頁18〜22行)との記載があるものの,甲4号証にいう上記の発泡特性がこれとどのような関係を有しているのかは明確ではない。また,本願明細書には,「本発明による組成物はゲル,乳液,クリーム,比較的濃厚なローション又はフォームの形態であることができる。」(甲9号証43頁22〜23行)との記載があるように,本願発明による組成物には種々の形態があり得るのであって,甲4号証にいう発泡特性という限られた形態のみに関する特性をもって,本願発明の「ケラチン物質のトリートメント用化粧品組成物」の顕著な効果であるとして一般化することもできない。 また,甲4号証の添付資料4には,前記ムース組成物について,テスターによる柔らかさと感触の評価結果が記載されているが,本願発明の実施例の方が優れているとの結論を出したテスターは,7名中5名から4名であり,比較例の方が優れているとした者も7名中2名から3名あったというのであるから,このような結果をもって,本願発明の実施例と比較例とで顕著な効果の差があると評価することはできない。 さらに,甲5及び6号証は,被験者(テスター)5名による柔らかさに関する評価結果であり,ここには被験者全員が比較例よりも本願発明の実施例の方を優れていると採点したことが記載されている。しかしながら,その採点が,いかなる評価基準に基づいて行われたのか,柔らかさが35点と40点というのは満点を何点とするのか,評価の客観性をどのように確保したのか,単なるテスターの感想に類するものにとどまるのかなど,その試験の詳細が明らかではなく,この評価結果から直ちに,本願発明に当業者の予測を超える格別の効果があるとすることもできないというべきである。 したがって,原告が提出した上記資料について,「斯かる資料をみても本願発明により当業者の予測を超える格別の効果が普遍的に得られると評価することはできない」とした審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。 2 結論 以上のとおりであって,原告の上記1の主張は理由がないから,その余の点について検討するまでもなく,本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の認定判断は正当であり,審決に,これを取り消すべき誤りは認められない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂驤 |
裁判官 | 若林辰繁 |