関連ワード | 協議 / 技術情報 / 債務不履行 / ライセンス / 権利の濫用(権利濫用) / 信義則 / 禁反言 / 実施 / 正当な理由 / 同意 / 実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 対価 / 変更 / |
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事件 |
平成
19年
( )
28849号
業務委託料等請求事件
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東京都千代田区<以下略> 原告株 式会社T−TECH 同訴訟代理人弁護士小畑英一 同 柴田祐之 同 島田敏雄 同 森直樹 東京都江東区<以下略> 被告株式会社デプロ 同訴訟代理人弁護士大越徹 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2009/04/16 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1被告は,原告に対し,6720万円及び内金2100万円に対する平成16年1月31日から支払済みまで,内金1155万円に対する同年7月1日から支払済みまで,内金1155万円に対する同年8月1日から支払済みまで,内金1155万円に対する同年9月1日から支払済みまで,内金1155万円に対する同年10月1日から支払済みまで,それぞれ年6分の割合による金員を支払え。 2訴訟費用は被告の負担とする。 3この判決は仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求主文と同旨第2事案の概要本件は,原告が,被告に対し,原告と被告との間の特許実施許諾及び技術援2助契約(甲1)に基づき,平成15年分(平成15年1月1日から同年12月31日まで分)の年間ミニマムロイヤルティ2100万円(消費税込)及びこれに対する平成16年1月31日(約定支払期限日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,原告と被告との間の試験研究及び技術指導業務委託契約(甲2,3。以下「本件業務委託契約」という。)に基づき,平成16年6月分ないし同年9月分(平成16年6月1日から同年9月30日までの分)の業務委託料合計4620万円(消費税込)及びこれに対する各月分の支払期限日の翌日(平成16年6月分については同年7月1日,平成16年7月分については同年8月1日,平成16年8月分については同年9月1日,平成16年9月分については同年10月1日)から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者等(甲16,乙12ないし14,乙45の2,乙46,弁論の全趣旨)ア原告は,平成12年12月に設立された,自動車及び自動車関連の文化,技術,産業に関する調査全般並びに情報提供,自動車における排ガス浄化システムの研究・開発及び製造と販売等を業とする株式会社である。 原告は,平成19年9月19日,商号を「株式会社徳大寺自動車文化研究所」から現商号に変更した。 Aは,平成20年6月10日に現在の代表者が就任するまで,原告の代表者であった者である。 原告は,平成19年10月10日午後3時に東京地方裁判所から再生手続開始の決定を受け(当庁平成19年(再)第191号),平成20年5月8日には,同裁判所の再生計画認可決定が確定している。 イ被告は,平成14年12月に設立された,排気ガス浄化システムの研究3開発,設計,製造,販売,メンテナンス等を業とする株式会社である。 Bは,平成18年2月まで被告の代表者であった者である。 なお,Aは,平成16年3月まで,被告の取締役でもあった。 ウ株式会社アイ・ピー・ビー(以下「アイ・ピー・ビー」という。)は,特許や技術情報の評価等を業とする株式会社であり,アイ・ピー・ビーにおいて特許や技術情報についての評価を行い,価値があると評価された知的財産については,関連会社を通じて出資や融資を行うなどしている。 被告は,アイ・ピー・ビーや株式会社大島造船所等の出資により,平成14年12月,原告が排ガス浄化装置の開発等を行い,被告がその技術を基にした製品を製造販売するという事業(以下「本件事業」という。)を行うことを目的として,設立された。 なお,Bは,アイ・ピー・ビーの代表者でもあった。 エ株式会社兼坂技術研究所(以下「兼坂技研」という。)は,いすゞ自動車株式会社において,ディーゼルエンジンの設計に携わっていたCによって昭和53年に設立された株式会社である。 (2)原被告間における特許実施許諾及び技術援助契約の締結等(甲1,5,9,乙19,弁論の全趣旨)ア平成13年6月ころ,原告の代表者であったAは,知人である三栄書房の代表者から,Cのアイデアを基本とするディーゼル車のPM(ディーゼル車から排出される黒煙に代表される粒子状物質)削減のために有効な技術の提案を受けた。 Aは,同年7月ころ,アイ・ピー・ビーに対し,Cのアイデアについて研究開発を行い,その技術を用いた製品を商品化する事業についての評価を依頼した。アイ・ピー・ビーは,同年9月ころ,上記事業を高く評価した。 イ原告は,ディーゼルエンジンの排気浄化装置に関し,別紙特許出願目録4記載1に係る発明及び技術情報を有し,また,原告は,平成14年9月26日,兼坂技研との間で特許実施許諾及び技術援助契約(乙19。以下「兼坂契約1」という。)を締結し,兼坂技研から,同社が有するディーゼルエンジンの排気浄化装置に関わる「使用過程車」(すでに運用に供されている普通自動車及び小型自動車をいう。)向けの別紙特許出願目録記載2ないし4に係る発明及び技術情報に基づく「PM除去装置」(PMを低減する装置)を製造販売する独占的権利並びにライセンスの許諾を受けた。 ウ被告は,アイ・ピー・ビーや株式会社大島造船所等の出資により,平成14年12月,本件事業を行うことを目的として設立され,原告及び兼坂技研の有する上記発明や技術情報を使用した,使用過程車向けのPM除去装置の製造,販売事業に取り組む意向を有していた。 エ原告は,被告との間で,平成14年12月25日,特許実施許諾及び技術援助契約(甲1。「以下「本件許諾契約」という。)を締結し,被告に対し,被告が原告及び兼坂技研の有する上記発明や技術情報を使用した使用過程車向けPM除去装置(以下「本件許諾製品」という。)の製造・販売を行うために必要な別紙特許出願目録記載1ないし4の原告又は兼坂技研の有する出願中の発明(以下「本件発明」という。)及び原告が有する技術情報並びに原告が兼坂技研から使用を許諾されている同社の技術情報(以下,併せて「本件ライセンス技術等」という。また,本件発明と本件ライセンス技術等を併せて,「本件技術」という。)を用いて,本件許諾製品を製造・販売する権利及びライセンスを許諾した。 (3)本件許諾契約の内容本件許諾契約に係る「特許実施許諾及び技術援助契約書」(甲1)には,以下の内容の条項がある。 ア原告は,被告に対し,本件技術に基づき,本件許諾製品を独占的に製造,5販売する権利及びライセンスを許諾する。また,本件技術のうち,原告が兼坂技研より許諾を受けた権利及びライセンスについては,原告は被告に対し,当該権利及びライセンスの全部を再許諾する。(第2条2-1)イ原告は,本件許諾契約が有効に存続する限り,原告自ら本件技術に基づく本件許諾製品を製造,販売してはならず,また,被告以外の第三者に対し,本件技術に基づく本件許諾製品を製造,販売する権利及びライセンスを許諾しない。ただし,原告は,本件技術に基づく本件許諾製品以外の製品を製造,販売する権利及びライセンスについては,本件許諾契約により制限されることなく,自由に自ら利用し,あるいは第三者に利用許諾することができる。(第2条2-3)ウ原告は,被告が下記オ(イ)記載の本件ライセンス技術等の開示料を支払うことを条件に,本件許諾契約を締結後20日以内に,また,その後随時,被告に対し,本件ライセンス技術等を被告の求めに従って遅滞なく開示する。(第3条)エ原告は,被告と業務委託契約を別途締結することを条件に,被告の求める期間,原告の研究所,被告の指定する場所,その他合意する場所において,本件許諾製品の設計,実験,製造等に関する試験研究並びに技術指導を行う。(第4条)オ被告は,原告に対し,本件技術のライセンス許諾を受ける対価として,以下の金員を支払う。(第5条)(ア)本件特許の実施許諾の対価金1億4000万円(消費税別)(支払方法)平成14年12月27日までに金3500万円平成15年3月31日までに金1億0500万円(イ)本件ライセンス技術等の開示料6金6000万円(消費税別)(支払方法)平成14年12月27日までに金1500万円平成15年3月31日までに金4500万円(ウ)売上ロイヤルティ(売上げに応じて支払うライセンス許諾等の対価)(支払方法)毎年3月,6月,9月,12月の各末日後40日以内に,被告又はそのサブライセンシーの正味販売価格の7%(消費税別途)(エ)年間ミニマムロイヤルティ(売上げ等に関係なく年間で最低限支払われるべきライセンス許諾等の対価)(支払方法)毎年12月末日後30日以内に金2000万円(消費税別途)(売上ロイヤルティが年間ミニマムロイヤルティに満たない場合は,両者の差額を支払う。また,年間ミニマムロイヤルティは平成15年1月1日以降適用される。)(4)原被告間における試験研究及び技術指導業務委託契約の締結原告と被告とは,平成14年12月25日,本件許諾契約に付帯して,本件許諾製品の設計,実験,製造等に関する試験研究並びに技術指導に関する業務について(上記(3)エ),原告が被告から受託する旨の試験研究及び技術指導業務委託契約(甲2。以下「本件業務委託契約」という。)を締結した。 (5)本件業務委託契約の内容本件業務委託契約に係る「試験研究及び技術指導業務委託契約書」(甲2)には,以下の内容の条項がある。 ア被告は,原告に対し,特許実施許諾及び技術援助契約書(甲1)第4条に基づき,本件許諾製品の設計,実験,製造等に関する試験研究並びに技7術指導に関する下記の業務を委託し,原告はこれを受託する。(第1条)記?@本件許諾製品に係わるDPFユニット,カムシャフト,キャニングケース,電子制御ユニット,各種絞り弁等に関する仕様の検討及び設計管理?A本件許諾製品に係わる生産試作モデル(プロトタイプ)の設計・製作管理?B前号のプロトタイプによるベンチテスト(シャシーダイナモを含む)及び実車による走行テストの実施管理?C本件許諾製品の製品化に係わる仕様の検討及び設計管理?D諸省庁及び東京都に対する認可取得手続に係わる技術面におけるサポート?E本件許諾製品の概要説明(諸プレゼン)及び情宜活動に係わる各種資料の作成並びにプレゼン要員等の派遣?F前各号に付帯関連する業務イ本件業務委託契約に基づく業務委託の対価は,月額1100万円(消費税別)とし,被告は,原告に対し,契約期間中毎月末日までにこれを支払う。平成14年12月分は,前記金額の2分の1の金額を平成14年12月31日までに支払う。(第3条)。 ウ本件業務委託契約の契約期間は,契約締結の日(平成14年12月25日)から平成15年6月30日までとする。なお,期間満了の1か月前までに原告被告いずれか一方から相手方に対し,何ら申出がない場合,本件業務委託契約は自動的に3か月間延長されるものとし,以後も同様とする。 (第4条)。 (6)本件業務委託契約の委託業務の追加(甲3)ア原告と被告とは,平成15年9月16日,粒子状物質(PM)と窒素酸8化物(NOx)を同時に削減するシステムの試験研究業務を本件業務委託契約における業務に追加することを合意した。 イ上記合意に係る「自動車NOx・PM法対策技術の開発に関する試験研究業務委託の追加に関して」と題する書面(甲3)には,下記の記載がある。 記発注件名平成14年12月25日付け「試験研究及び技術指導業務委託契約」(原契約)に基づく「使用過程車向けPM除去装置」の開発に関する試験研究業務の追加発注:「NOx・PMの同時削減システムの試験研究」発注金額?@原契約に基づく業務委託費:月額1100万円の支払期間を平成16年3月31日まで延長・継続する。 ?A原契約締結時の開発費(前項の業務委託費を除く)予定金額:3億2778万7000円のうち,下期以降の支払予定金額1億5100万円に対して本件発注により超過が予定される金額約5000万円(原告提出の下期開発予算見積金額:約2億円)については,平成15年10月31日に一括清算する。 ?B前項の追加予算以外の従来予算分(1億5100万円)については,原告の請求に基づき,従来通り,毎月末日に清算する。 個別契約本書をもって,原契約に付帯する個別契約書とし,特に別途覚書等の作成は行わないものとします。 (7)被告の業務委託料等の不払いア被告は,本件許諾契約上の支払期限である平成16年1月30日(平成15年12月31日の後30日以内)が経過したものの,原告に対し,本9件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティ金2100万円(消費税込)を支払わない。 イ被告は,本件業務委託契約上の支払期限である各月末日が経過したものの,本件業務委託契約に基づく平成16年6月分から同年9月分までの(平成16年6月1日から同年9月30日までの分の)月額1155万円(消費税込み)の業務委託料(4か月分合計4620万円)を支払わない。 2争点(1)被告は,本件業務委託契約に基づく平成16年6月分ないし9月分の業務委託料の支払義務を負うか(争点1)ア本件業務委託契約における契約期間(争点1-1)イ本件業務委託契約は無効とされるべきものか(争点1-2)ウ平成16年6月分の業務委託料についての同時履行の抗弁権の成否(争点1-3)エ原告と被告との間で,本件業務委託契約を平成16年6月30日をもって終了させる旨の合意がされたか(争点1-4)オ原告による,本件業務委託契約に基づく平成16年6月分ないし9月分の業務委託料の請求が権利濫用によるものと評価されるべきものか(争点1-5)(2)被告は,本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティの支払義務を負うか(争点2)ア本件許諾契約は無効とされるべきものか(争点2-1)イ原告と被告との間において,被告が平成15年分の年間ミニマムロイヤルティを支払わない旨の合意がされたか(争点2-2)ウ原告による,本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティの請求が権利濫用によるものと評価されるべきものか(争点2-3)10エ相殺の可否(争点2-4)第3争点に関する当事者の主張1争点1-1(本件業務委託契約における契約期間)について〔原告の主張〕(1)本件業務委託契約の契約期間は,「契約締結の日(平成14年12月25日)から平成15年6月30日までとする。なお,期間満了の1か月前までに原告被告いずれか一方から相手方に対し,何ら申出がない場合,本件業務委託契約は自動的に3か月間延長されるものとし,以後も同様とする。」旨約定されている(甲2の第4条)。 原告は,被告に対し,平成16年10月21日付け書面をもって,業務委託料の未払等を理由として,本件業務委託契約及び本件許諾契約を解除する旨の意思表示をし(甲15),同日ころ,同意思表示は被告に到達した。 原告による上記解除により,本件業務委託契約及び本件許諾契約は平成16年10月21日をもって終了したものの,原告は,被告に対し,同日までの分に係る本件業務委託契約に基づく業務委託料請求権を有する。 (2)原告が本件業務委託契約及び本件許諾契約を解除するに至った経緯原告が開発したディーゼルエンジン排ガス浄化装置(商品名を「W-1」という。)を商品化することができなかったのは,原告の技術等の問題ではなく,製造を担当する被告の能力の未熟さに原因があった(甲7)。 しかしながら,被告の代表者であったBは,Aに「W-1」の商品化をすることができなかった責任を押し付けようとし,その一環として,平成16年5月ころから,本件業務委託契約に基づく業務委託料の減額等を求めるようになった。 Aは,「W-1」の商品化ができない原因が原告側にあるとは全く考えていなかったので,Bの上記申出に応じることはなかったものの,Bとやりとりする中で,被告に対する不信感を強めていった。 11他方,Bも,契約条件の変更等に応じないAに対し,不満や不信感を抱いていたためか,被告は,平成16年9月13日,原告に対し,原告との契約関係を解消したい旨を連絡してきた。 原告は,被告側からの契約解消は契約上の根拠を欠くものであったことから,被告に対し,平成16年10月21日付け書面をもって,業務委託料の未払等を理由として,本件業務委託契約及び本件許諾契約を解除する旨の意思表示をし,同日ころ,同意思表示は被告に到達した。 (3)被告の主張についてプロトタイプ試験の開始時期や八都県市条例に基づく指定を受ける時期については,原告と被告との間で期限は決められていなかった。 そもそも,被告が主張するようなスケジュールは物理的に不可能である。 すなわち,八都県市条例の指定要綱・要領によれば,試験内容として,?@初期排出ガス試験において,排出ガス低減装置により,PM(黒煙)の排出量が約70%程度低減されること,?A1万?qの耐久走行試験において,最低2台について平均時速約50?qで実施すること,?B耐久試験後排出ガス試験において,排出ガス低減装置により,PM(黒煙)の排出量が約70%程度低減されることが求められている。特に,上記?Aの1万?qの耐久走行試験の実施には,最低でも数ヶ月間を要するものである(原告が東京都に提出した走行試験報告書においては,平成15年5月27日から同年8月17日までの期間を要している。甲10)。平成14年12月25日に本件業務委託契約及び本件許諾契約を締結し,平成15年3月に指定取得に至ることなど不可能であり,少なくとも,原告がそのようなスケジュールに同意するはずがない。 〔被告の主張〕(1)本件許諾契約及び本件業務委託契約は,Cのアイデアを基にした,八都県市条例対策用の排ガス浄化装置の販売を目的とするものであった。そして,12八都県市条例は,平成15年10月1日から施行されることが予定されていた。そのため,原告及び被告を初め,本件事業の関係者一同の間では,排ガス浄化装置の販売準備は,原則として,平成15年6月30日までに行われるべきものであること,上記期限よりも遅延することになったとしても,遅くとも八都県市条例の施行前である平成15年9月30日までには販売準備が行われるべきであることが共通認識となっていた。 上記共通認識に加え,原告と兼坂技研との間の兼坂契約1においては,平成15年12月31日までにライセンシーが許諾製品を販売しない場合には,ライセンサーは契約を終了させることができる旨定められていたこと(乙19の第8条8-6),本件許諾契約においても,平成15年11月30日までに,ライセンシーが許諾製品を販売しない場合にはライセンサーは契約を終了させることができると記載されていること(甲1の第8条8-6),本件業務委託契約に係る契約書(甲2)には,「以後も同様とする」として平成15年9月30日以降も3か月ごとに本件業務委託契約が自動更新されるかのように記載されている(第4条)にもかかわらず,原告と被告とは,平成15年9月16日,本件業務委託契約に基づく業務委託料の支払を平成16年3月31日まで延長,継続することを別途合意していること(甲3),Aは,平成16年9月3日当時,原告と被告との間には正式な業務委託契約が存在しないとの態度を示していたこと(乙23)に照らし,本件業務委託契約は,当初契約期間が平成15年6月30日までと約定されていたのが一度だけ自動更新されて同年9月30日まで延長され,同日をもって,期間満了によりいったんは失効することになっていたものの(上記「以後も同様とする」との文言は単に形式的にそのように記載されただけで,当事者間では何の意味もない。),平成15年9月16日付けの合意(甲3)により,平成16年3月31日まで延長されることになったものと解すべきである。 したがって,平成16年4月1日以降については,原告と被告との間には,13本件業務委託契約が存在しないから,原告は,平成16年6月分ないし9月分の業務委託料請求権を有しない。 なお,平成16年3月31日をもって本件業務委託契約が終了したことは,原告の再生手続(当庁平成19年(再)第191号)における監督委員補助会計士からの意見書(乙8の5頁)においては,公認会計士の意見として,原告と被告との間には「取引実態がなかったものと考えられる」と記載されていること,再生裁判所に提出された原告の第6期決算報告書の損益計算書(乙9の3枚目)には,貸倒引当金として6720万円が計上されていること,株主に交付された原告の第6期決算報告書の損益計算書(乙10の16枚目,乙11の29枚目)には,上記のような貸倒引当金の記載が存在しないことからも裏付けられる。 (2)本件許諾契約及び本件業務委託契約が締結された経緯についてアCのディーゼルエンジン排ガス浄化装置のアイデアディーゼルエンジンは燃費や二酸化炭素の排出といった問題に優れている反面,粒子状物質(PM)を排出するという副作用があることが知られている。この粒子状物質には様々な成分があるが,その大部分を占めるのは炭素(黒煙やすす)であり,ディーゼルエンジンが燃料を不完全燃焼させるときに特に多く排出される。 これらの粒子状物質を除去するための技術として,「DPF」という技術がある。これは,ハニカム構造のフィルターであり,粒子状物質がこのDPFを通るときに,ハニカム構造で補足され,通常90%以上の粒子状物質を補足することができるとされている。ところが,DPFを使用するときに何も対策を施さなければ,やがて,粒子状物質がフィルターで目詰まりを起こし,フィルターが使い物にならなくなるという問題点がある。 この問題点を解決するための方法として,「連続再生式DPF」という方法がある。このDPFはフィルターに触媒を担持し,粒子状物質が触媒14と接触することで次々と酸化反応(燃焼)を起こし,フィルターが目詰まりしないようにする仕組みを有する。しかし,この連続再生式DPFが効果を奏するためには,触媒を活性し,酸化反応を起こさせるために,およそ300℃の排気ガス温度を維持しなければならない。このため,連続再生式DPFには,日本の交通には向かないという問題点がある。 イCの目的は,連続再生式DPFにおいて,大渋滞であっても,常に排気ガスの温度を300℃以上に維持しようとすることにある。 Cのアイデアは,吸気を絞って相対的に燃料を多く吹き込むというものであり,排気ガスを排気カムを用いて,シリンダー内に戻す作業を行うことにより,シリンダー内の温度低下を回避し,燃焼しなくなるという事態を避けようとするものである。 加えて,エンジン排出口からメインDPFに至る経路の途中にバイパス路を設け,そこに「マイクロDPF」を設置する。メインの排出口とバイパス路の切替部分にはコンピューターで制御するバルブを設置し,アイドリングや渋滞の際には,吸気を絞り,排出ガスをバイパス路に誘導するようにする。 Cのアイデアは,以上の「吸気の絞り」,「排気の戻し」及び「マイクロDPF」を組み合わせることにより,排気ガスの温度を常に300℃以上に保ち,触媒の連続再生を可能にしようとするものである。 ウAは,平成13年7月ころ,アイ・ピー・ビーに対し,Cの排ガス浄化装置のアイデアの評価を依頼した。アイ・ピー・ビーは,同年9月ころ,Cのアイデアに高評価を与え,原告は,Cのアイデアを事業化することを決定した。Bやアイ・ピー・ビーらは,主として資金面で,原告に協力することになった。 エCのアイデアを事業化することになった要因の一つは,いわゆる「八都県市条例」である。これは,1都3県4政令指定都市(東京都,埼玉県,15千葉県,神奈川県,横浜市,川崎市,千葉市及びさいたま市)の条例である。その概要は,ディーゼルエンジンを積んだトラックやバスで条例が定めたPM排出基準を満たさないものは平成15年10月1日以降,上記都県市を走行することができなくなるというものである。そして,この八都県市では,条例に適合するPM減少装置を共同で指定することになった。 そこで,原告やアイ・ピー・ビーらは,このような指定PM減少装置を安価に供給することができるのであれば,それは優れたビジネスチャンスになると考えたのである。 そして,平成15年10月1日の八都県市条例施行前に装置を実用化するためには,平成14年秋ころまでには装置の実証試験を完了しておく必要があり,実際に,平成14年8月ころからは,実証試験も開始され,試験の成功により,実用化に向けて動き出すこととなった。 オこのような一連の経過の中で,原告と兼坂技研との間で兼坂契約1が締結され,平成14年12月には,原告の株主である株式会社大島造船所やアイ・ピー・ビー,株式会社ダイゾーなどの出資により被告が設立され,同月25日付けで,本件許諾契約及び本件業務委託契約が締結されたのである。 2争点1-2(本件業務委託契約は無効とされるべきものか)について〔被告の主張〕(1)別件訴訟における原告の主張兼坂技研は,平成19年8月3日,原告に対し,原告と兼坂技研との間の平成17年7月5日付け特許実施許諾契約(乙45の4。以下「兼坂契約2」という。)に基づく平成18年分の年間ミニマムロイヤルティとして金300万円の支払等を求める訴訟を提起した(当庁平成19年(ワ)第20032号事件。以下「別件訴訟」という。)。 別件訴訟において,原告は,兼坂契約2においては,「3つの出願中の発16明を使用する前提になっているものの,そもそも被告が実際に使用しているのはそのうちの1つにすぎず,しかも,その1つについても,既に他の大手自動車メーカーによって実用化されており,明らかに特許が成立し得ない。 よって,兼坂契約2は,その契約の根本部分に大きな支障があるから,被告には年間ミニマムロイヤルティの支払義務は存しない。」旨を主張している。 (2)兼坂契約1(乙19)と本件許諾契約(甲1)及び本件業務委託契約(甲2)とは,同一の出願中の発明(別紙特許出願目録記載2ないし4)を目的として,前者がライセンス契約,後者がサブライセンス契約の関係にあり,両者は内容的にもほとんど同一である。 そして,兼坂契約1が平成17年7月5日付けで合意解約され,これに代わるものとして,平成17年7月5日付けで兼坂契約2が締結されたものであり,両契約は,同一の出願中の発明を目的とし,契約内容もほとんど同じである(乙19,乙45の4)。 そうすると,本件許諾契約及び本件業務委託契約が規律する原告と被告との法律関係と,兼坂契約2が規律する兼坂技研と原告との法律関係とは,ほとんど同じ内容であるといえる。 したがって,兼坂契約2において目的とされた発明に関連する抗弁が発生するならば,本件許諾契約及び本件業務委託契約においても,同様の抗弁が発生し,被告は原告に当該抗弁を主張することができるものと解すべきである。 (3)別件訴訟における原告の主張は,契約の目的たる出願中の三つの発明のうちの少なくとも一つには,特許出願の拒絶事由があり,又は特許として成立したとしても無効事由があるから,そのような発明を目的とする契約は,錯誤又は原始的不能により無効であるというものである。 したがって,本件許諾契約及び本件業務委託契約も,その目的とする本件発明の少なくとも一つには,特許出願の拒絶事由があり,又は特許として成17立したとしても無効事由があるから,錯誤又は原始的不能により無効である。 〔原告の主張〕(1)本件許諾契約及び本件業務委託契約の締結時点(平成14年12月25日)において,原告が兼坂技研と締結していたのは,兼坂契約2ではなく,兼坂契約1である。 兼坂契約1の締結後,兼坂技研の中心となっていた技術者であるCが死亡し,技術指導を受けることができなくなってしまったことから,原告は,兼坂技研に対し,顧問料の不発生等,契約条件の変更を申し入れた。上記申入れに基づき,平成17年7月5日に新たに締結されたのが,兼坂契約2である。 兼坂契約2の締結後,原告は,兼坂技研に対し,出願中の発明(別紙特許出願目録記載2ないし4)について,正式に審査請求をするように促したものの,兼坂技研はなかなか審査請求をしようとしなかった。そこで,原告は,審査請求をするまでは,兼坂契約2に基づくロイヤルティの支払を止めるという措置を採った。原告の上記措置について,兼坂技研がロイヤルティの支払を求めて提訴したのが別件訴訟である。 以上のとおり,兼坂契約2は,本件許諾契約及び本件業務委託契約が解消された後になって締結されたものであり,本件許諾契約及び本件業務委託契約が継続中にその基礎となっていた契約である兼坂契約1とは異なる契約である(なお,原告は,兼坂契約1に基づくロイヤルティはすべて約定通り支払った。)。 よって,別件訴訟における原告の主張が,本件訴訟における被告の抗弁となるものではない。 (2)原告が本件訴訟において請求しているのは,本件許諾契約及び本件業務委託契約が平成16年10月21日に原告により解除されるまでの間に発生した,年間ミニマムロイヤルティ及び業務委託料である。 18この間,兼坂契約1は有効に存続し,原告は,本件許諾契約の対象である本件発明について,被告に実施権を有効に付与していた。 そもそも,本件許諾契約及び本件業務委託契約は,別紙特許出願目録記載1ないし4の四つの出願中の発明を目的とするものであるのに対し,兼坂契約2は,同目録記載2ないし4の三つの出願中の発明を目的とするものであり,その対象が完全に同一というわけでもない。 3争点1-3(平成16年6月分の業務委託料についての同時履行の抗弁権の成否)について〔被告の主張〕本件業務委託契約において,原告が行った研究開発の成果物は被告に帰属するものである。 したがって,原告は,被告に対し,研究開発の成果物を開示し,これを引き渡すべき義務を負う。 そして,原告の上記成果物開示及び引渡義務と,被告の業務委託料支払義務とは同時履行の関係に立つ。 ところが,原告は,現在に至るまで,被告に対し,本件業務委託契約に基づく原告の研究開発の成果物を開示せず,あるいは,引き渡さない。 よって,被告は,原告が本件業務委託契約に基づく原告の研究開発の成果物の開示及び引渡義務を履行するまで,本件業務委託契約に基づく平成16年6月分の業務委託料を支払わない。 〔原告の主張〕(1)被告の主張は,原告がいかなる義務を履行していないというのか,具体性に欠けるものといわざるを得ず,失当である。 (2)原告は,被告との間で,平成15年から平成16年7月までの間に限っても,96回もの会議を行っている(甲14)。 そして,この会議は,平均2時間ないし3時間,長いときには5時間ほど19の時間をかけて行われており,この中で,原告は,被告に対し,研究開発の状況の報告,技術面の指導,試験の結果の分析説明などを細かに書面を提示しつつ行い,これにより研究開発の成果の報告やノウハウ等の伝授を十分に行った。 さらに,原告は,被告に対し,製品の設計図面を完成させるために十分な指導をした。設計図面には,各部位の寸法はもちろん,公差,求められる表面平滑度,部品の材料なども記載されており,設計図面さえあれば,仮に技術面の知識が不十分であっても,製品の製造が可能となる。製品の設計図面は,いわば技術やノウハウの集大成といえるものであって,この設計図面が完成しているにもかかわらず,ノウハウや成果物の引渡しがされていないとする被告の主張は失当である。 (3)そもそも,原告が開発した八都県市条例に対応する「W-1」については,平成15年10月23日付けで東京都の指定を受け,また,自動車NOx・PM法に対応する排ガス浄化装置(商品名を「W-2」という。)についても,平成16年10月に国土交通省の認可を取得しており,いずれについても,被告による製品化が可能な状態となったのであるから,原告には,本件業務委託契約に基づく債務について不履行はない。 4争点1-4(原告と被告との間で,本件業務委託契約を平成16年6月30日をもって終了させる旨の合意がされたか)について〔被告の主張〕(1)原告と被告とは,平成16年5月1日,?@本件許諾契約に基づく年間ミニマムロイヤルティは平成15年分以降支払わないこと,?A本件業務委託契約を平成16年6月30日をもって終了し,委託料見直しを含む新たな内容の契約を締結すること,を合意した(以下「平成16年5月1日付け合意」という。)。 したがって,被告は,原告に対し,本件許諾契約に基づく平成15年分の20年間ミニマムロイヤルティの支払義務及び本件業務委託契約に基づく平成16年7月分ないし同年9月分の業務委託料支払義務を負わない。 (2)平成16年5月1日付け合意に至る経緯等ア本件事業(本件許諾契約及び本件業務委託契約)においては,八都県市条例の施行の関係で,原告は,平成15年3月中には指定を取得していなければならず,仮に,指定の取得が遅滞するとしても,遅くとも平成15年9月30日までには,被告が販売準備を完了することができるように開発を完了させていなければならなかった。 ところが,原告が指定を取得することができたのは,八都県市条例が既に施行された後である平成15年10月下旬のことであり(乙25),しかも,平成15年9月30日はおろか現在に至るまで,被告が原告に依頼した排ガス浄化装置(DPFフィルターのフィルター担体の材質がコージェライト(セラミック)であるもの(乙21)。その材質がメタルのものではない(乙22)。)の開発は完了していない。 原告は,本件事業への出資者である被告の意向を無視して,メタル担体の研究に傾倒し,平成16年3月ころからは,公然と,被告やBを軽視するような言動をするようになった。 イ上記のとおり,平成16年になっても,排ガス浄化装置の販売に目処がつかない状況は,原告と被告とが同装置の開発,製造及び販売を協力して行うという目的を揺るがした。 また,原告が排ガス浄化装置を開発することができず,被告が排ガス浄化装置を販売して売上げを確保することができないにもかかわらず,本件業務委託契約や本件許諾契約に基づいて,被告が原告に資金を供給し続けることは不合理な状況となった。 そこで,Bは,平成16年5月1日,Aと会談した際,?@本件許諾契約に基づく平成15年分及びそれ以降の年間ミニマムロイヤルティは支払わ21ないこと,?A本件業務委託契約は平成16年6月末日をもって終了し,業務委託料の見直しを含む新たな内容の業務委託契約を締結すること,の2点を提案した。 これに対し,Aは,Bの上記提案を了解した。 (3)平成16年5月1日付け合意が成立したことは,以下の点からも明らかである。 ア平成16年5月24日にAからBに対して送信された「開発受託料改訂(判決注・改定)について」と題する電子メール(乙3)中には,「開発受託料を大幅に削減し,弊社を赤字化するというお考えには意義(判決注・異議)がありませんが・・・」と記載されており,AがBの本件許諾契約や本件業務委託契約を見直す旨の申出を了解していたことが明らかである。 イ上記電子メールに対応して,Bは,Aに対し,平成16年5月24日,下記の記載を含む電子メール(乙4)を送信した。Bが提案した2案には,いずれにも,本件業務委託契約を改定すること,少なくとも平成15年分の年間ミニマムロイヤルティは支払わないことが含まれており,これらのことが,原告と被告との間で合意されていたことが明らかである。 記「A案:・業務委託契約を改訂(判決注・改定)・委託業務に従事する直接要員の方をベースに報酬額を決定(貴職を含む6名様として@100万円の600万円内外が限度と考えます)・但し,貴職が貴社の資金繰りに追われるようではパフォーマンスの低下に直結するので,当初契約の趣旨に鑑み,1100万円との差額分を融資扱いにて毎月支援する。(金利はデプロの借入金金利22と同一水準とする。)・前記融資分は,ランニングロイヤルティーから適宜清算を行う。 ・ライセンス契約に基づく2003年に係るミニマムギャランティーは,製造販売が開始されていないために発生しないことを確認(実質的には直接費を超過する分の業務委託費はギャランティーに当たりますが,契約上は上記の如く解釈した方が良いと思われます。 IPBへの配分は請求権を放棄します。)B案:・業務委託契約を改訂(判決注・改定)・委託業務に従事する直接要員の方をベースに報酬額を決定(A案通り)・但し,A案と同様の趣旨で,差額分,ランニングロイヤルティーを前払いする覚書を締結し,毎月支払う。 ・ライセンス契約に基づく2003年及び2004年に係るミニマムギャランティーは,製造販売が開始されていないために発生しないことを確認(ランニングロイヤルティーの前払いはギャランティーにあたるため。IPBへの配分は貴社の資金繰りを見ながら別途協議)両案ともに,業務委託契約の更新期にあたる本年7月1日付けで締結し,期間を6ヶ月,更新を3ヶ月毎とする。」ウBは,平成16年8月5日,Aと会談し,平成16年7月1日付けで調印する予定の新たな業務委託契約の内容と,原告と被告との組織再編について話し合った。その際,Aは,全面的にBの方針に従うと述べた。 そこで,Bは,Aに対し,平成16年8月21日,「覚書(案)」(乙235の2),「試験研究及び技術指導業務委託契約書(案)」(乙5の3)を添付した電子メール(乙5の1)を送信した。 「覚書(案)」(乙5の2)は,それまでに原告と被告との間で合意されていた事項,すなわち,本件業務委託契約を平成16年6月30日をもって終了させ,これに代わる新たな契約(乙5の3)を締結すること,被告が原告に対して平成15年分及び平成16年分の年間ミニマムロイヤルティを支払わないことなどを,文書化したものである。また,「試験研究及び技術指導業務委託契約書(案)」(乙5の3)は,本件業務委託契約を平成16年6月30日をもって終了させ,同年7月1日付けで調印することが予定されていた新たな契約書の案文である。 エ上記(2)ア記載の原告の行為は,本件業務委託契約上の債務不履行に当たるのであり,平成16年5月1日のBとAとの会談の当時,原告は,被告から債務不履行による損害賠償を請求されてもおかしくない状況にあった(なお,平成15年12月当時,「W-1」のモニター販売が開始されていたものの,品質上の問題から,債務の本旨に従った履行とはいえない。)。 しかも,平成16年5月1日の時点においても,排ガス浄化装置の市販の目処は全く立っていなかったから,被告が成果もないのに漫然と資金を提供し続けている状況を,早急に改善する必要があった。 以上のとおり,原告による債務不履行,被告の収支状況の改善の必要性という背景事情から,原告は被告の要求を拒むことはできなかったのであって,平成16年5月1日付け合意が成立していたことは明らかである。 オ原告の再生手続(当庁平成19年(再)第191号)における監督委員補助会計士からの意見書(乙8の5頁)には,公認会計士の意見として,原告と被告との間には「取引実態がなかったものと考えられる」と記載されていること,再生裁判所に提出された原告の第6期決算報告書の損益計24算書(乙9の3枚目)には,貸倒引当金として6720万円が計上されていること,株主に交付された原告の第6期決算報告書の損益計算書(乙10の16枚目,乙11の29枚目)には,上記のような貸倒引当金の記載が存在しないことから,原告と被告との間で,平成16年5月1日付け合意が成立していたことが裏付けられる。 (4)以上のとおり,原告と被告との間には,平成16年5月1日付け合意が成立していたにもかかわらず,原告は,上記「覚書」や「試験研究及び技術指導業務委託契約書」に調印しようとせず,それまでの原告と被告との間の合意を翻し,被告から本件業務委託契約を更新しない旨の申出がないとして(甲2の第4条),平成16年6月分以降の業務委託料の支払を求めるようになったものである。 しかしながら,被告は,原告に対し,本件業務委託契約第4条に基づく事前の申出を,平成16年5月1日に口頭で行い,原告から,上記申出に異議がない旨の回答を得ている(乙3)。 さらに,被告は,原告に対し,本件業務委託契約の改定案を示し,改訂案による契約を,本件業務委託契約の更新時期に当たる平成16年7月1日付けで締結する方針も明記している(乙4)。 〔原告の主張〕(1)被告の主張は否認する。 原告と被告との間で,被告が本件許諾契約に基づく年間ミニマムロイヤルティは平成15年分以降支払わないこと,本件業務委託契約を平成16年6月30日をもって終了し,業務委託料見直しを含む新たな内容の契約を締結することを合意したことはない。 なお,平成16年5月1日ころ,AがBと面会した際,Bから本件業務委託契約に基づく業務委託料の減額を求められたことがある。しかしながら,その際,本件業務委託契約を終了させるという話は出なかったし,Aが上記25業務委託料の減額の申入れに応じることもなかった。また,本件許諾契約に基づく年間ミニマムロイヤルティについては,話題に上ることすらなかった。 (2)被告の主張についてア乙第3号証(AからBに宛てた電子メール)について(ア)電子メール中で話題とされているのは,その表題にもあるとおり,「開発受託料」である。「受託料」という文言からも明らかなとおり,これは本件業務委託契約に基づく業務委託料のことを指しており,本件許諾契約に基づく年間ロイヤルティのことではない。 上記のとおり,上記電子メール中では,年間ロイヤルティについては全く触れられてもいないのであるから,同電子メールは,被告の主張する年間ロイヤルティの免除の合意がされたことの根拠となるようなものではない。 (イ)「開発受託料を大幅に削減し,」と記載されているように,電子メール中では,あくまでも,本件業務委託契約に基づく業務委託料を削減するか否かということが話題に上っていただけであり,これを全面的に免除するとか,本件業務委託契約を終了させるとかといったことは話題に上っていない。 上記のとおり,上記電子メールは,被告の主張する本件業務委託契約を平成16年6月30日をもって終了させる旨の合意がされたことの根拠となるようなものではない。 (ウ)「開発受託料を大幅に削減し,弊社を赤字化する(リスクを御社共々負担する)というお考えには意義(判決注・異議)がありませんが,当社を黒字化することにもメリットがあるとも考えます。」と記載されているように,Aは,開発受託料,すなわち,本件業務委託契約に基づく業務委託料の減額をせず,原告を黒字化させることによって,金融機関からの借入れ等のメリットを享受するという対案を提示している。 26仮に,本件業務委託契約に基づく業務委託料の減額,あるいは,本件業務委託契約の終了について,平成16年5月1日に確定的な合意がされていたとすれば,その後の同月24日に,上記のような,業務委託料を減額しないという対案を提示するはずがない。 イ乙第4号証(BからAに宛てた電子メール)について上記電子メール中には,「業務委託契約を改定」,「ライセンス契約に基づく2003年に係るミニマムギャランティーは,製造販売が開始されていないために発生しないことを確認」といった記載がある。 しかしながら,「本件に関しましては当職の考えを整理した上で正式にご相談させて頂く所存でした。現在,概ね二つの考え方をベースに詳細思案中です。」とあるように,上記電子メールは,あくまでも,Bからの一方的な提案を記載したにすぎないものである。 上記電子メールは,被告の主張する本件許諾契約に基づく年間ミニマムロイヤルティの免除の合意や本件業務委託契約の終了の合意が確定的に成立したことの根拠となるようなものではない。 ウ乙第5号証の1ないし3(BからAに宛てた電子メール)について上記電子メールは,「また,徳自研・デプロ間の業務委託契約書の改訂に係る覚書と新業務委託契約の案文を添付します。ご査収の上ご検討をお願い致します。」とあるように,あくまでも,Bが考えた本件業務委託契約の変更条件等を記載した契約書案を提示し,Aに,上記提案の検討を願うというものにすぎない。 上記電子メールは,被告の主張する本件許諾契約に基づく年間ミニマムロイヤルティの免除の合意や本件業務委託契約の終了の合意が確定的に成立したことの根拠となるようなものではない。 エ平成16年5月1日の時点においても,装置の市販化の目処が立っていなかったとの被告の主張は事実に反する。 27平成15年10月23日には,八都県市条例に対応する「W-1」について,八都県市から指定を受けた。また,自動車NOx・PM法に対応する「W-2」の開発については,平成16年8月までに試験,国土交通省の担当者への技術説明をすべて終えており,あとは,同年9月の「評価会」を行えば,認可が得られる状況になっていた。この評価会には,原告は被告との関係悪化により出席することができなかったものの,実質的には,その前の国土交通省への試験成績の提出,技術説明で認可に向けた手続は終了していた。実際に,同年10月,被告は国土交通省から認可を得ている。 装置開発のスケジュールは遅れていないし,その製品化が原告の責任で遅れたこともない。原告は,商品化の遅れについて,自らに責任があるとは全く考えておらず,八都県市条例に対応する装置である「W-1」については,その施行までに(使用過程中のディーゼル車に装備すべき装置が販売されないことやフィルターの品不足が発生していることから猶予期間が設けられ,八都県市条例が実質的に施行されたのは,平成16年4月1日である。),時間的余裕をもって指定を受けており,スケジュールの遅れがあるとはそもそも考えていなかった。したがって,原告は,被告からスケジュールの遅延を理由とする債務不履行の責任を追及されることを危惧している状況にはなかった。 開発スケジュールの推移は次のとおりである。 (ア)平成15年2月上旬ころ,八都県市「初期排出ガス試験」受験車両が完成した。同車両に搭載するPM等の除去のための「触媒」は,被告の要請により,松下エコシステムズの製品とした。 Aは,当初より同社製の触媒の性能に疑問を抱いていたものの(甲11の1・2),被告が,松下グループが事業に参加することになれば,資金面,社会的信用面で効果が大きいとして,同社製の触媒の採用に固28執した。 (イ)平成15年1月30日,八都県市「初期排出ガス試験」の試験日が同年2月22日,23日に決定したものの,松下エコシステムズの受験用触媒が納品されたのは,試験実施前日の同月21日であった。 結局,同試験は,排ガス中のPM値が高いため,不合格となった。 (ウ)不合格の原因は,松下エコシステムズ製の触媒にあったことから,同年2月末ころから同年5月中旬ころにかけて,ディーゼル車用触媒メーカーであるイギリスのジョンソン・マッセイに,触媒担持の交渉をし,同社製の触媒を用いて,同年6月6日,7日の初期排出ガス試験を再受験し,合格した。 松下エコシステムズは,2月の受験失敗の原因が原告のキャニング技術(DPFを製品化する技術)にあると主張したものの,原告及び日産ディーゼル技術研究所の試験により,松下エコシステムズ製の触媒に原因があったことが判明している(甲13)。 (エ)その後,平成15年5月から8月ころにかけて,1万?qの耐久試験を実施し,同年7月には耐久試験後排出ガス試験に合格し,同月22日に八都県市宛認可申請書を提出した。 同年8月20日には八都県市装置評価会が開催され,同年10月23日,八都県市から被告に対し,指定の連絡があった。 (オ)以上のとおり,平成15年2月の試験開始は予定通り実現したにもかかわらず,被告が採用を強行した松下エコシステムズ製の触媒のためにこれが不合格になったことから,スケジュールの進行が阻害されたのである。仮に,開発スケジュールに遅延があったとしても,原告の責任ではない。 また,そもそも,原告と被告との間において,平成15年3月に指定を取得するという前提は存在していなかったし,排出ガス試験には同年297月中にすべて合格していたのであるから,この時点から,被告が製品化を実施していれば,平成16年4月の八都県市条例の実質施行までに十分な時間的余裕があったのである。したがって,開発スケジュールに遅延自体生じていなかった。 (カ)被告は,原告の開発した製品の「フィルターの目詰まりが生じる」,「目詰まりを起こした場合停車して2000回転で30分以上エンジンを回すか80?q以上で15分以上走行する必要がある」とした点をとらえて,製品の欠陥であると主張し,これを理由に製品の販売をしないことに決定したものであり,開発スケジュールの遅延が理由ではなかった。 原告は,被告の上記結論には強硬に反対したものの,被告は原告の意見を聞き入れようとしなかった。このため,原告は,最終的には,八都県市条例に対応する製品の商品化を断念し,自動車NOx・PM法に対応する浄化装置の開発製品化に切り替えるという被告の方針に従わざるを得なかったのである。 (キ)被告は,原告が開発したディーゼルエンジン排ガス浄化装置(「W-1」及び後記「W-2」)が,冷温時に排気ガスのすすがフィルターに目詰まりするという欠陥を有していたとする。 しかしながら,フィルターの目詰まりは,この種のディーゼルエンジン排ガス浄化装置においては避けようのない問題であり,これを完全に解決した製品は現在においても開発されていない。 よって,この点は,原告の技術の不備等に起因する欠陥などではない。 また,冷温時における排気ガスのすすがフィルターに目詰まりする対策として,原告が,目詰まりを起こしそうなときにアラームが鳴る仕組みとし,その際には停車して2000回転で30分以上エンジンを回すか,時速80?q以上で15分以上走行させるという方法を提唱した点についても,いすゞ自動車や日野自動車といった大手自動車会社が開発し30た製品も,フィルターの目詰まりをアラームで知らせる仕組みを採用しており,その際,上記のようにエンジンを回転させることで目詰まりを解消するという方法が一般的に採用されている。被告が現在販売している製品(原告との関係が解消された後に開発されたもの)も同様である(甲6の4頁,9頁)。これらの事実に照らしても,原告の上記提案が非現実的であるとか,商品価値を失わせるような方法ではなかったことが分かる。 以上のとおり,フィルターの目詰まりの問題は,原告の技術,開発の不備に起因する問題ではない。実際,「W-1」の技術については,平成15年10月には東京都から指定(認可)を受けている。 オ原告は,被告に対し,500万円の出資を行ったものの,被告から出資を受けたことはない。また,原告の代表者であったAが,一時,被告の取締役を兼務していたことがあったものの,原告と被告との間には,互いに従業員の出向を受け入れるなどの人的つながりは存在しない。 もともと,原告は,平成12年8月ころから,排ガス浄化装置の研究開発を開始していた。その後,被告が,原告の技術を用いて排ガス浄化装置を製造販売するという事業に加わってきたにすぎない。上記経緯に照らしても,原告は,原告自身の採算・利益を重視する立場にあり,経済的にも被告とは別個の独立した存在であったことが分かる。 (3)仮に,被告が主張するように,原告と被告との間で,本件業務委託契約を平成16年6月30日をもっていったん終了させ,業務委託料の見直しを含む新たな内容の契約を締結することについて合意が成立していたとしても,以下のとおり,当該合意の趣旨及び当事者の意思からすれば,本件業務委託契約の終了は,新たな内容の契約の成立を条件とするものであって,新契約が成立しない限り,本件業務委託契約は終了することなく存続するものと解すべきである。 31そして,本件において,新契約は成立することがなかったから(乙5の2・3),本件業務委託契約は,平成16年7月以降においても,有効に存続していたものである。 ア新契約の成立のいかんにかかわらず,本件業務委託契約が確定的に終了することになれば,新たな条件についての交渉が決裂し,新契約が成立しない場合,原告は業務委託料を全く受領することができないことになってしまう。原告がこのような合意をすることはあり得ない。 イ本件業務委託契約に基づく業務委託料の見直しは被告が提案してきたものである。 そうすると,被告においても,少なくとも改定された後の業務委託料については支払をすることを当然の前提としていたのであり,改定後の業務委託料が決まらない場合には,従前の本件業務委託契約が終了しているものとして,業務委託料を全く支払わなくて済むと考えていたとは解することができない。 ウ原告は,平成16年7月以降も,千葉県市原市所在の被告の研究施設内に従業員を常駐させ,研究開発を続け,被告に対し,ノウハウの提供等を行っていたにもかかわらず,たまたま,新たな業務委託料の金額について,原告と被告との間で話がまとまらなかったからといって,原告が業務の対価を受領することができないとすれば,明らかに不当である。 5争点1-5(原告による,本件業務委託契約に基づく平成16年6月分ないし9月分の業務委託料の請求が権利濫用によるものと評価されるべきものか)について〔被告の主張〕(1)本件は,単なる特許ライセンス料や業務委託料の支払請求の事案ではない。 Cのアイデアを実現して,製品を販売するために多くの関係者が参集し,原告が製品を開発し,被告が製造販売するという役割分担が定められ,原告の32活動資金を捻出するために本件許諾契約及び本件業務委託契約が締結され,これを直接の根拠として,被告から原告に対し既に多額の資金が支払われている事案である。 そして,原告は,被告に対し,期限までに製品開発を完了させるという義務を負担していたにもかかわらず,期限を遵守しなかったばかりか,平成16年9月に原告と被告とが決裂するまで,製品開発を完了することができなかった。 原告が製品を開発することができなければ,被告において,製品を製造販売することはできない。本件事業において,当初予定されていたCのアイデアを実現した排ガス浄化装置を販売することができなかった責任は専ら原告にある。 他方で,原告は,排ガス浄化装置の開発という債務を履行せず,自らは何らの犠牲,出費,損失を負うことなく,本件事業への出資者である被告と絶縁したにもかかわらず,現在では,本来被告との協調がなければできなかったはずの排ガス浄化装置事業を自ら行っている(乙22)。 (2)また,本件許諾契約は,年間ミニマムロイヤルティの規定を置くとともに,ライセンシーが正当な理由なく平成15年11月30日までに本件許諾製品を販売しない場合には,ライセンサーは一方的に本件許諾契約を終了することができる旨規定されている(甲1の第8条8-6)。他方,本件許諾契約には,ライセンシーが契約を解除又は解約すること,その他ライセンサーに非違行為があった場合に制裁を課すことができるような規定は設けられていない。 以上のとおり,本件許諾契約は,一方的にライセンサーである原告に有利な内容となっている。 (3)原告の再生手続(当庁平成19年(再)第191号)において提出された財産目録・貸借対照表提出書においては,被告に対する売掛金(本訴請求債33権)6720万円の清算価値は「ゼロ」とされていること(乙7の5枚目),原告作成の再生計画案において,「・・・下記訴訟において,判決または和解等に基づき請求額の全部または一部を回収した場合には,訴訟および回収に要した費用を控除した残額を各確定債権の元本額に按分して,回収後1か月以内に支払う」旨記載されていること(甲8の3頁。これによると,本件訴訟において勝訴すれば債権者に対する配当を行うが,敗訴しても債権者に対する配当が行われないだけということになる。)からすれば,本件訴訟の勝敗は,原告の再生計画の帰趨には影響を与えないことが明らかである。この意味において,原告を勝訴させて保護すべき実益はない。 (4)原告は,株主に交付した第6期決算報告書の損益計算書(乙10の16枚目)の内容を,正当な理由なく改ざんし,「貸倒引当金繰入額」として6720万円を計上した新たな損益計算書を作成して再生裁判所に提出した(乙9の3枚目)。 また,監督委員補助会計士からの意見書(乙8の5頁)に,公認会計士の意見として,原告と被告との間には「取引実態がなかったものと考えられる」と記載されているとおり,客観的には原告の本訴請求債権は成立し得ない。上記公認会計士の意見は,再生債務者である原告及びその申立代理人弁護士から提出を受けた資料や聴取調査の結果に基づいて作成されたものであるから(乙8の1頁),原告と被告との間に本訴請求債権に見合う取引実態がなかったという事情は,原告も十分に認識していたといえる。 (5)これらの事情に照らせば,原告が本件業務委託契約に基づき平成16年6月分ないし9月分の業務委託料を請求すること,本件許諾契約中に年間ミニマムロイヤルティに関する規定があることを奇貨として,平成15年分の年間ミニマムロイヤルティを請求することは,いずれも権利濫用に当たり,許されない。 (6)加えて,別件訴訟において,原告は,原告と兼坂技研との間の兼坂契約234の効力を否定しながら,他方で本件訴訟においては,本件許諾契約及び本件業務委託契約が有効であることを前提とする主張をしている。 本件訴訟における原告の請求は,別件訴訟における主張とは矛盾するものであり,信義則や禁反言の原則に反するものである。 〔原告の主張〕(1)被告の主張は否認ないし争う。 (2)原告は,平成15年10月23日には,八都県市条例に対応する「W-1」について,八都県市から指定を受けた。また,自動車NOx・PM法に対応する「W-2」の開発についても,平成16年8月までに試験,国土交通省の担当者への技術説明をすべて終えており,あとは,同年9月の「評価会」を行えば,認可が得られる状況になっていた。この評価会には,原告は被告との関係悪化により出席することができなかったものの,実質的には,その前の国土交通省への試験成績の提出,技術説明で認可に向けた手続は終了していた。実際に,同年10月,被告は国土交通省から認可を得ている。 被告の主張は失当である。 (3)被告は,本件許諾契約の内容が,原告に一方的に有利であると主張する。 しかしながら,そもそも本件許諾契約に係る契約書(甲1)を起案したのは被告であり,本件許諾契約の内容を十分に認識した上で契約の締結に至っているのであるから,本件許諾契約の内容が権利濫用の根拠とされることはない。 6争点2-1(本件許諾契約は無効とされるべきものか)について〔被告の主張〕第3の2記載の争点1-2に係る被告の主張と同じ。 〔原告の主張〕第3の2記載の争点1-2に係る原告の主張と同じ。 7争点2-2(原告と被告との間において,被告が平成15年以降の年間ミニ35マムロイヤルティを支払わない旨の合意がされたか)について〔被告の主張〕第3の4記載の争点1-4に係る被告の主張と同じ。 〔原告の主張〕第3の4記載の争点1-4に係る原告の主張と同じ。 8争点2-3(原告による,本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティの請求が権利濫用によるものと評価されるべきものか)について〔被告の主張〕第3の5記載の争点1-5に係る被告の主張と同じ。 〔原告の主張〕第3の5記載の争点1-5に係る原告の主張と同じ。 9争点2-4(相殺の可否)について〔被告の主張〕(1)被告は,本件業務委託契約が平成16年3月31日をもって終了し,同年4月1日以降,業務委託料を支払う義務を負っていなかったにもかかわらず,平成16年4月1日から同年5月31日までの分の「業務委託料」の名目で,合計2200万円を原告に対して支払った。 被告は,平成16年4月分及び5月分の業務委託料を支払う義務がないのに,これがあるものと誤信して支払ったものであるから,原告に対し,2200万円の不当利得返還請求権を有する。 (2)被告は,平成20年7月30日の本件弁論準備手続期日において,原告に対し,上記不当利得返還請求権をもって,本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティの支払債務を,対等額において相殺する旨の意思表示をした。 〔原告の主張〕36本件業務委託契約は,平成16年3月31日をもって終了しておらず,同日以降も継続していたのであるから,被告が同年4月分及び5月分の業務委託料を支払ったことには法律上の原因があり,被告に不当利得返還請求権が発生することはない。 第4当裁判所の判断1前記争いのない事実等に証拠(甲1ないし3,5,7,9,10,甲11の1ないし3,甲12ないし16,乙1の1・2,乙2ないし4,乙5の1ないし3,乙6,12ないし17,乙18の1・2,乙19,20,23ないし27,乙28の1・2,乙29の1・2,乙30,乙31の1・2,乙32,乙33の1・2,乙34ないし42,乙43の1・2,乙44,乙45の4,乙46)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件の経緯について,以下の事実が認められる。 (1)平成13年6月ころ,原告の代表者であったAは,知人である三栄書房の代表者から,Cのアイデアを基本とするディーゼル車のPM削減のために有効な技術の提案を受けた。 同年7月ころ,Aが,アイ・ピー・ビーに対し,Cのアイデアについて研究開発を行い,その技術を用いた製品を商品化する事業についての評価を依頼したところ,アイ・ピー・ビーは,「相当有望な技術である」,「相当市場性が高い」として,上記事業を高く評価した。 そこで,原告は,多気筒ディーゼルエンジンの排気浄化装置に関わる特許出願及び専有的技術情報を有していた兼坂技研との間で,平成13年11月12日及び平成14年6月19日付け委任契約を締結し,使用過程車向けのPM除去技術の実用化に向けて,事業化の計画策定や実証実験等を行うようになった。そして,後記のとおり,アイ・ピー・ビーとの間で,資金調達や製造販売に係る提携に関する話のめどがついたことから,原告は,平成14年9月26日には,兼坂技研との間で兼坂契約1を締結し,兼坂技研から,37同社が有するディーゼルエンジンの排気浄化装置に関わる使用過程車向けの別紙特許出願目録記載2ないし4に係る発明及び技術情報に基づくPM除去装置を製造販売する独占的権利並びにライセンスの許諾を受けた。 (2)アイ・ピー・ビーは,Cのアイデアについて研究開発を行い,その技術を用いた製品を商品化する事業に関し,「使用過程車向けのDPFは,現在50〜80万円程度の販売価格と推定されているため,規制対象車両数から算出される市場の規模は最小でも2500億円内外と試算することができる」,「非常に大きい市場が生まれているにもかかわらず,参入企業は限られており,かつ,市場支配力を形成すると思われるリーディングカンパニーは存在しない」などの観点から,上記事業に投資することにした。 その後,アイ・ピー・ビーは,原告との間で,アイ・ピー・ビーなどによる具体的な投資方法や,原告が排ガス浄化装置の開発等を行い,設立予定の被告がその技術を基にした製品を製造販売するという役割を担うことなどが確認されたため,アイ・ピー・ビーや株式会社大島造船所等の出資により,平成14年12月,本件事業を行うことを目的として被告が設立された。 (3)使用過程車向けのDPFに係る技術は,東京都,埼玉県,千葉県及び神奈川県の条例によるディーゼル車運行規制に対応して,使用過程車のPM排出量を削減するための技術である。 上記条例は平成15年10月から実施されることになっていた。 (4)原告と被告とは,平成14年12月25日,本件許諾契約及びこれに付帯する本件業務委託契約を締結した。 なお,本件業務委託契約は,本件許諾契約の定める「許諾製品」の設計,実験,製造等に関する試験研究ならびに技術指導に関する業務を原告に委託することを定めるのみであり,DPFフィルターのフィルター担体の材質については特に限定されていない。そして,本件許諾契約は,「許諾製品」を,本件技術を使用して製造される使用過程車向けPM除去装置と定義するのみ38で(甲1の第1条1-4),DPFフィルターのフィルター担体の材質を特に限定していない。 また,本件業務委託契約は,委託業務について,研究開発の期限やスケジュールを定めていない(なお,本件許諾契約には,「被告又はサブライセンシーが正当な事由なく平成15年11月30日までに,許諾製品の製造及び販売を開始しない場合,原告は被告に対し書面で通知することにより本契約を終了することができる。」旨の規定があるものの,これは,原告から被告に対して契約の終了を求めることができる場合を規定したものにすぎず,原告による研究開発の期限やスケジュールを定めるものとはいえない。)。 加えて,本件業務委託契約は,契約期間について,「本契約の期間は,本契約締結の日から2003年6月30日までとする。なお,本契約の期間満了の1ヶ月前までに原告被告いずれか一方から相手先に対して何らの申し出もない場合,本契約は自動的に3ヶ月間延長されるものとし,以後も同様とする。」旨を定めており(甲2の第4条),本件業務委託契約に係る契約書(甲2)中には,自動更新の回数を制限する規定は存しない。 (5)原告と被告は,まずは八都県市条例に対応する排ガス浄化装置の開発及び製造販売を目指すこととし,原告は,本件業務委託契約に基づき,八都県市条例に対応する排ガス浄化装置の研究,開発に着手した。 原告は,平成15年2月上旬ころ,八都県市「初期排出ガス試験」受験車両を完成させ,これについて,平成15年2月22日,23日に「初期排出ガス試験」が行われたものの,排ガス中のPM値が高いために不合格となった。 原告は,不合格の原因は,松下エコシステムズ製の触媒にあると考えたことから,同年2月末ころから同年5月中旬ころにかけて,ディーゼル車用触媒メーカーであるジョンソン・マッセイとの間で交渉をし,同社製の触媒を用いた受験車両により,同年6月6日,7日に行われた「初期排出ガス試39験」を再受験し,合格した。 原告は,1万?qの耐久試験として,同年6月12日から同年7月10日にかけて,日産ディーゼル技術研究所において台上試験(実走行ではなく,試験場の装置上で走行状態を再現する試験)を行い,同年5月27日から同年8月17日にかけて,実走行試験を行った。 同年7月19日,20日には,上記車両について,「耐久試験後排出ガス試験」が行われ,合格したことから,同月22日には八都県市宛に認可申請書を提出し,同年8月20日,八都県市による装置評価会が開催され,同年10月23日,八都県市条例の要件を充たす装置であるとして指定を受けた。 (6)原告と被告とは,当初,平成15年3月末ころには,八都県市宛に認可申請をすることを見込んでいたものの,平成15年2月に行われた第1回目の「初期排出ガス試験」に合格しなかったことから,指定を受けるまでのスケジュールが大幅に遅延することになった。 そこで,原告と被告とは,国の定める自動車NOx・PM法に対応する排ガス浄化装置の開発を並行して進めることとし,原告は,平成15年6月ころには,上記装置の開発に着手した。 (7)原告と被告とは,平成15年9月16日,粒子状物質(PM)と窒素酸化物(NOx)を同時に削減するシステムの試験研究業務を本件業務委託契約における業務に追加することを合意した(甲3)。 (8)被告は,「W-1」が八都県市の指定を受けたことから,平成15年12月ころから,その製造販売を行うこととし,実際に,同月にはモニター販売を行ったものの,平成16年1月中旬ころには,「W-1」のモニター販売を中止することにした。 上記決定は,被告が,「W-1」の品質に問題がある,すなわち,冷温時に排気ガスのすすがフィルターにすぐに目詰まりするという欠陥があると考えたためである。 40他方,原告は,フィルターの目詰まりは,ディーゼルエンジン排ガス浄化装置においては避けようのない問題であって,この点は製品の欠陥ではなく,また,冷温時に排気ガスのすすがフィルターに目詰まりするとの点については,目詰まりを起こしそうなときにアラームが鳴る仕組みとし,その際には停車して2000回転で30分以上エンジンを回すか,時速80?q以上で15分以上走行させるという方法により対策が可能であるとし,被告の「W-1」の販売中止に反対した。 被告は,「W-1」の販売を中止する方針について原告の反対があったものの,上記方針を変更することはなく,自動車NOx・PM法に対応する装置を優先的に開発,製品化するとの方針を打ち出した。 (9)原告の代表者であったAは,被告の技術力が改善されないと,他の装置を開発しても商品化が頓挫してしまうのではないかとの危惧感を抱くようになり,被告に対し,技術力の強化及び組織の改善を要求するようになった。 他方,被告においても,「W-1」の販売の中止を受け,被告が装置を商品化し販売するメーカーとしての役割を果たすに足る組織構築や人材確保ができていなかったとして,社内に技術開発部及び製品開発部を設置するなどした。また,Aは,被告設立の当初から,被告の取締役に就任し,被告が費用を負担する排ガス浄化装置の研究開発に必要な部品の発注なども,A,あるいは,原告内部においてこれを決定し,発注していた。しかしながら,被告は,その負担する費用も多額となったことから,被告による管理体制を強化することとし,平成16年2月ころには,Aに対し,今後の部品等の発注は被告を通じて行うように求め,同年3月からは,原告において,部品等資材を被告を通じて発注する体制をとるようになった。 被告は,上記のような体制をとったものの,従来から技術開発のすべてを担ってきた原告との間における役割分担や指揮命令系統が明確でなく,かえって混乱を来す事態となり,原告と被告との関係もぎくしゃくするようにな41った。 Aは,平成16年3月末日をもって,被告の取締役を退任した。 (10)原告は,平成16年4月ころには,被告に対し,本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティの支払を求めるようになった。 被告の代表者であったBは,原告の代表者であったAに対し,原告と被告との関係の修復,本件業務委託契約の見直し,本件許諾契約に基づく年間ミニマムロイヤルティの未払いの問題等について話し合うため,会談を申し入れ,BとAとは,平成16年5月1日,会談を行った。この際,Bは,Aに対し,「W-1」,「W-2」の製品開発のめどが立っていないのは,専ら原告に責任があることや,原告が商品化し得るような製品を開発することができないため,被告が装置を製造販売して利益を確保することができないにもかかわらず,本件許諾契約や本件業務委託契約を適用して,被告から原告に対する支払を継続するのは不合理であるなどとして,本件業務委託契約における業務委託料の減額を申し入れ,また,本件許諾契約に基づく年間ミニマムロイヤルティは支払わないことなどを提案した(なお,被告は,AがBの上記申入れを,同日承諾した旨主張し,これに沿う証拠としてBの陳述書(乙46)があるものの,Aがこれを否定していること(甲16),その後のAとBの電子メールのやりとりの内容(乙3,4,乙5の1ないし3)や被告の提案した「覚書」(乙5の2参照)や「試験研究及び技術指導業務委託契約書」(乙5の3参照)が原告との間で作成されるに至っていないこと等に照らし,この点に関するBの陳述を直ちに信用することはできず,他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。)。 (11)Aは,平成16年5月24日,Bに対し,下記の記載を含む,乙第3号証の電子メールを送信した。 記「表記に関し,近日中にお打ち合わせを致したくお時間を調整ください。 42現在の原告の毎月の経費は,総計約1200万円程度となっており,未調整の場合,年度末には若干の赤字決算となる予定です。開発受託料を大幅に削減し,弊社を赤字化する(リスクを御社共々負担する)というお考えには意義(判決注・異議)がありませんが,当社を黒字化することにもメリットがあるとも考えます。」「貴職のご提案は,株主対策を含めたマクロ的な観点からのものと存じます。基本的にはお考え通りといたす所存ですが,一度,本件に限って直接お考えを承りたく存じております。」との記載がある。 (12)Bは,平成16年5月24日,乙第4号証の電子メールを送信した。 記「A案:・業務委託契約を改訂(判決注・改定)・委託業務に従事する直接要員の方をベースに報酬額を決定(貴職を含む6名様として@100万円の600万円内外が限度と考えます)・但し,貴職が貴社の資金繰りに追われるようではパフォーマンスの低下に直結するので,当初契約の趣旨に鑑み,1100万円との差額分を融資扱いにて毎月支援する。(金利はデプロの借入金金利と同一水準とする。)・前記融資分は,ランニングロイヤルティーから適宜清算を行う。 ・ライセンス契約に基づく2003年に係るミニマムギャランティーは,製造販売が開始されていないために発生しないことを確認(実質的には直接費を超過する分の業務委託費はギャランティーに当たりますが,契約上は上記の如く解釈した方が良いと思われます。IPBへの配分は請求権を放棄します。)B案:43・業務委託契約を改訂(判決注・改定)・委託業務に従事する直接要員の方をベースに報酬額を決定(A案通り)・但し,A案と同様の趣旨で,差額分,ランニングロイヤルティーを前払いする覚書を締結し,毎月支払う。 ・ライセンス契約に基づく2003年及び2004年に係るミニマムギャランティーは,製造販売が開始されていないために発生しないことを確認(ランニングロイヤルティーの前払いはギャランティーにあたるため。IPBへの配分は貴社の資金繰りを見ながら別途協議)両案ともに,業務委託契約の更新期にあたる本年7月1日付けで締結し,期間を6ヶ月,更新を3ヶ月毎とする。」(13)Bは,平成16年8月5日,Aと会談し,新たに業務委託契約を締結すること等を申し入れた(なお,被告は,上記会談の際,Aが全面的に原告の方針に従うと述べた旨主張し,これに沿う証拠としてBの陳述書(乙46)があるものの,Aがこれを否定していること(甲16),被告の提案した「覚書」(乙5の2参照)や「試験研究及び技術指導業務委託契約書」(乙5の3参照)が原告との間で作成されるに至っていないこと等に照らし,この点に関するBの陳述を直ちに信用することはできず,他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。)。 (14)Bは,平成16年8月21日,Aに対し,乙第5号証の1の電子メールを送信した。同電子メールには,「覚書(案)」(乙5の2),「試験研究及び技術指導業務委託契約書(案)」(乙5の3)が添付されており,本文中には,「徳自研・デプロ間の業務委託契約書の改訂に係る覚書と新業務委託契約の案文を添付します。ご査収の上ご検討をお願い致します。」と記載されていた。なお,上記契約書(案)(乙5の3)には,業務委託の対価額の44記載がない(「月額×××××××(消費税別途)」と記載されている。第3条)。 結局,原告と被告との間で,「覚書」(乙5の2参照)や,「試験研究及び技術指導業務委託契約書」(乙5の3参照)が作成されることはなかった。 (15)被告は,平成16年9月13日,原告に対し,「開発研究業務の例外なき一時停止」を指示し,「開発試験の業務委託を全て一時停止」する旨を記載した電子メールを送信した。 (16)原告は,被告に対し,平成16年10月21日付け書面をもって,本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティ2100万円(消費税込)及び本件業務委託契約に基づく平成16年6月1日から同年9月30日までの間の業務委託料合計4620万円(消費税込)の支払を催告すると共に,同書面の到達後1週間が経過したときは本件許諾契約及び本件業務委託契約を解除する旨の意思表示をし,同書面は,同日ころ,被告に到達した。 (17)なお,原告と被告との間で,上記認定のとおり,本件業務委託契約の改定等について交渉が行われている間も,原告は,自動車NOx・PM法に対応する装置の研究開発を進め,被告との間において会議を,平成16年4月1日以降も合計17回(平成16年6月1日以降に限った場合でも合計10回)行い,平成16年7月中には試験,国土交通省の担当者への技術説明をすべて終えており,上記装置については,同年9月の「評価会」を行えば,認可を得られる状況になっていた。 原告は,同年9月の「評価会」には,被告との関係が悪化していたことから出席しなかったものの,被告は,同年10月,上記装置について,国土交通省から認可を得た。 2本件業務委託契約に基づく平成16年6月分ないし9月分の業務委託料について45(1)争点1-1(本件業務委託契約における契約期間)についてア原告は,本件業務委託契約は平成16年10月21日をもって終了したのであり,原告は被告に対し,本件業務委託契約に基づき,同年6月1日から同年9月30日までの分の業務委託料の支払請求権を有する旨主張するのに対し,被告は,本件業務委託契約は当初の契約期間は平成15年6月30日までと約定されていたのが一度だけ自動更新されて同年9月30日まで延長され,同日をもって,期間満了によりいったんは失効することになっていたものの,同月16日付けの合意(甲3)により,平成16年3月31日まで延長されることになり,同日をもって終了したとして,原告は同年4月1日以降については,業務委託料の支払請求権を有しない旨主張する。 イ前記1(4)認定のとおり,本件業務委託契約は,契約期間について,「本契約の期間は,本契約締結の日から2003年6月30日までとする。 なお,本契約の期間満了の1ヶ月前までに原告被告いずれか一方から相手先に対して何らの申し出もない場合,本契約は自動的に3ヶ月間延長されるものとし,以後も同様とする。」旨を定めており(甲2の第4条),本件業務委託契約に係る契約書(甲2)中には,自動更新の回数を制限する規定は存しない。 そして,前記1の認定事実及び前記争いのない事実等によれば,原告と被告との間における平成15年9月16日付けの合意(甲3)は,本件業務委託契約における委託業務に,粒子状物質(PM)と窒素酸化物(NOx)を同時に削減するシステムの試験研究業務を追加することを合意したものであり,上記合意は,原契約,すなわち,本件業務委託契約に付帯する契約としてされたものである。 そうすると,原告と被告との間において,上記合意に係る書面(甲3)に記載のない事項については,本件業務委託契約に係る契約書(甲2)に46定められた規定が引き続き適用されることが合意されており,本件業務委託契約の契約期間は,平成16年3月31日以降も,契約の期間満了の1ヶ月前までに,原告ないし被告のいずれか一方から相手方に対し,何らの申出もない場合には自動的に3ヶ月ごとに延長されるものと約定されていたものと認めることができる。 前記1の認定事実によれば,Bは,Aに対し,平成16年5月1日の会談の際に本件業務委託契約における業務委託料の減額を申し入れ,その後も,同月24日付け電子メール(乙4)において,本件業務委託契約の更新期にあたる同年7月1日付けで新たな業務委託契約を締結する形で本件業務委託契約を改定することを提案し,同年8月21日付け電子メール(乙5の1)には,「覚書(案)」(乙5の2),「試験研究及び技術指導業務委託契約書(案)」(乙5の3)を添付して,新たな業務委託契約の締結を申し入れたものの,同年9月には,原告と被告との間における交渉が決裂し,結局,原告と被告との間で新たな業務委託契約が締結されることはなかったものと認められる。 もともと,Bによる上記申入れは,原告に対し,本件業務委託契約に基づく委託業務を引き続き委託することを前提としつつ,業務委託料の改定を求めるものであり,同年9月に交渉が決裂するまでの間における申入れは,業務委託料の改定のいかんにかかわらず,本件業務委託契約を更新しない旨を申し入れたものであるとはいえない。実際にも,前記1(17)認定のとおり,原告は,Bから上記申入れを受けた後も,本件業務委託契約に基づく受託業務を遂行していたのであり,被告もこれを認識していながら,特に異議を述べた形跡もないのであり,この点からも,同年9月に交渉が決裂するまでの間における申入れが本件業務委託契約を更新しない旨の申入れではなかったことが裏付けられる。 結局,本件業務委託契約は,被告が,平成16年9月13日に,原告に47対し,開発研究業務の一時停止を指示し,開発試験の業務委託をすべて一時停止することを通知し,これを受けて,原告が,同年10月21日付け書面をもって,本件業務委託契約を解除する旨の意思表示をしたことにより,解約されたものというべきである(被告の上記通知は,平成16年9月30日の期間満了の1か月前までに申し入れられたものではないから,同年10月1日から3か月間更新された上で,その期間満了前に原告と被告との間で解約の合意が成立したものと解される。)。 よって,原告は,被告に対し,本件業務委託契約に基づき,平成16年6月1日から同年9月30日まで分の業務委託料請求権を有する。 ウ被告の主張について(ア)被告は,八都県市条例の施行前である平成15年9月30日までには販売準備が行われるべきことが原告及び被告の共通認識であり,本件業務委託契約が,その契約書(甲2)の第4条の文言上は,平成15年9月30日以降も3か月ごとに自動更新されるかのように記載されているものの,原告と被告との間では,本件業務委託契約の締結当時,1回のみしか自動更新されず,平成15年9月30日には終了することが合意されていた旨主張する。 しかしながら,八都県市条例が平成15年10月1日に施行されるため,原告及び被告が,それ以前に本件許諾製品の販売準備を整えることを目指していたからといっても,本件業務委託契約における委託業務は,本件許諾製品の設計,実験,製造等に関する試験研究並びに技術指導に関する業務であり,その進行には不確定な面があることが否めないこと,前記1認定のとおり,本件業務委託契約は,委託業務について,研究開発の期限やスケジュールを定めていないことに照らすと,原告と被告との間で,本件業務委託契約の締結当時,自動更新は1度しかされないことが当然の前提とされていたとは認めることができない。 48そして,本件業務委託契約に係る契約書(甲2)中には,自動更新の回数を制限する規定は存しないことからすれば,上記契約書の第4条の文言のとおり,契約の期間満了の1か月前までに,原告ないし被告のいずれか一方から相手方に対し,何らの申出もない場合には自動的に3か月ごとに延長されることが約定されていたものと認めることができる。 (イ)被告は,本件業務委託契約に係る契約書(甲2)の第4条には,平成15年9月30日以降も3か月ごとに契約が自動更新される旨記載されていたにもかかわらず,原告と被告とは,同月16日,本件業務委託契約に基づく業務委託料の支払を平成16年3月31日まで延長,継続することを別途合意したこと(甲3)は,本件業務委託契約が同日をもって終了することが原告及び被告との間で前提とされていたことを裏付けるものである旨主張する。 しかしながら,既に述べたとおり,原告と被告との間における平成15年9月16日付けの合意(甲3)は,本件業務委託契約における委託業務に,粒子状物質(PM)と窒素酸化物(NOx)を同時に削減するシステムの試験研究業務を追加することを合意したものであり,上記合意は,原契約,すなわち,本件業務委託契約に付帯する契約としてされたものである。そして,上記合意中には,本件業務委託契約における上記自動更新規定(甲2の第4条)の適用を排除する旨の記載はない。 また,被告は,前記1認定のとおり,平成16年4月1日以降も,本件業務委託契約が継続していることを前提とした言動を取り続け,原告においても,同日以降も,本件業務委託契約に基づく受託業務を遂行している。 これらの事実に照らせば,原告と被告との間において,本件業務委託契約が平成16年3月31日をもって終了する旨合意されていたとは認め難い。 49(ウ)被告は,乙第23号証の電子メールの記載を根拠に,Aが平成16年9月3日当時,原告と被告との間には正式な業務委託契約が存在しないとの態度を示していた旨主張する。 Aが被告の従業員に対して送信した平成16年9月3日付けの電子メール(乙23)中には,「ご返答の根拠は,9月1日からとされる新たな御社と当社間の業務委託契約に基づいてます。なお,契約は正式調印されておりませんので,あくまで移行期の暫定的なものであるとご理解ください。」,「以上により,今回のご依頼はあくまで「内示」としてのみ受け取らざるを得ず,実際の作業は実施いたしませんのでご理解ください。」との記載がある。 上記電子メール全体の記載に照らせば,上記記載は,原告と被告との間における新たな業務委託契約の締結に向けての交渉が存在することを前提としたものにすぎないというべきであり(前記1の認定事実によれば,平成16年9月3日当時は,まだ,原告と被告との間における新たな業務委託契約の締結に向けての交渉が決裂するに至っていなかった時期であると認められる。),原告と被告との間に業務委託契約が存在しないことを前提としたものであるとはいえない。 (エ)被告は,原告の再生手続(当庁平成19年(再)第191号)の関係書類の記載に関して縷々主張するものの,いずれも上記イの認定を左右するに足りるものではない。 なお,原告は,上記再生手続における再生計画案において,再生債務者たる原告の被告に対する訴訟において,債権を回収した場合には,再生債権について追加弁済を行う旨定めており,この点においても,被告の主張は失当である。 (2)争点1-2(本件業務委託契約は無効とされるべきものか)についてア被告は,本件許諾契約及び本件業務委託契約は,別紙特許出願目録記載502ないし4の特許出願に係る発明をその目的として含むことから,その目的の少なくとも一つに拒絶事由又は無効事由が内包されており,本件許諾契約及び本件業務委託契約は,錯誤又は原始的不能により無効である旨主張する。 イ本件許諾契約においては,契約期間中に許諾の対象となる発明に係る特許出願のすべてが最終拒絶され,あるいは,特許が無効や取消等により失効する場合は契約も終了するものとする旨(甲1の第8条8-2)や,原告は被告に対し許諾の対象となる発明に係る特許出願について特許が成立すること及びその有効性について一切保証せず,これについて義務や責任を一切負わないものとする旨(甲1の第11条11-1)が定められていることに照らすと,仮に,別紙特許出願目録記載の各特許出願について拒絶事由が存在し,あるいは,特許として成立した場合でも無効事由が存在するとしても,本件許諾契約及びそれに付帯する本件業務委託契約において,これらの事実が要素の錯誤に当たるとも,契約を原始的に不能ならしめる事由であるともいえない。 また,上記の点をひとまず置くとしても,そもそも,別紙特許出願目録記載の各特許出願について,特許法の定める拒絶事由が存在し,又は特許として成立したとしても無効事由が存在するとの点については,これを認めるに足りる証拠はない。 すなわち,被告は,原告が別件訴訟において,兼坂契約2の目的たる別紙特許出願目録記載2ないし4の発明に係る特許出願のうちの少なくとも一つには,拒絶事由又は無効事由があるから,そのような発明を目的とする兼坂契約2は,錯誤又は原始的不能により無効である旨の主張をしているから,本件においても,被告に同様の抗弁が発生する旨主張するものの,原告が別件訴訟において上記のような主張をしていることのみで,別紙特許出願目録記載の各特許出願について拒絶事由が存在し,又は特許として51成立したとしても無効事由が存在するとの事実を認めるに足りず,他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。 ウ以上によれば,被告の上記主張は理由がない。 (3)争点1-3(平成16年6月分の業務委託料についての同時履行の抗弁権の成否)について被告は,本件業務委託契約において,原告の負担する研究開発の成果物の開示及び引渡義務と,被告の負担する業務委託料支払義務とは同時履行の関係に立つとして,原告が研究開発の成果物の開示及び引渡義務を履行するまで,本件業務委託契約に基づく平成16年6月1日から同月30日までの分の業務委託料を支払わない旨主張する。 しかしながら,本件業務委託契約においては,「本契約に基づく業務委託の対価は,月額11,000,000円(消費税別途)とし,被告は,本契約の期間中毎月末日までに原告に対してこれを支払うものとする。なお,2002年12月分は前記金額の2分の1の金額を2002年12月31日までに支払うものとする。」旨が規定されており(甲2の第3条),業務委託料の支払と研究開発の成果物の開示及び引渡しとが同時履行の関係に立つとは約定されていないから,両者が同時履行の関係に立つことを前提とする被告の上記主張は理由がない(なお,本件業務委託契約の内容に照らし,契約や債権の性質上,両者が同時履行の関係に立つとも認められない。)。 また,被告の主張する「研究開発の成果物の開示及び引渡義務」の具体的内容は判然としないものの,前記1(17)の認定事実によれば,原告は,平成16年6月1日以降も,本件業務委託契約に基づく受託業務を遂行していたものと認められるから,この点においても,被告の上記主張は理由がない(なお,被告は,平成16年9月24日,原告が千葉県市原市所在の事務所を引き払った点を問題とするものの,乙第6号証によれば,平成16年9月18日以前において,Aは,Bに対し,被告からの「開発研究業務の例外52なき一時停止」の指示を受けたことに伴い,原告の従業員は,残務整理後,市原市所在の事務所を引き払い,原告の本社勤務とする旨を連絡し,Bはこれを了解していたことが認められる。)。 (4)争点1-4(平成16年5月1日付け合意の有無)についてア被告は,原告と被告との間で,平成16年5月1日,?@本件許諾契約に基づく年間ミニマムロイヤルティを平成15年分以降支払わないこと,?A本件業務委託契約を平成16年6月30日をもって終了し,委託料見直しを含む新たな内容の契約を締結することを合意したから,被告は,原告に対し,本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティの支払義務及び本件業務委託契約に基づく平成16年7月分ないし同年9月分の業務委託料支払義務を負わない旨主張する。 イしかしながら,前記1において既に述べたとおり,平成16年5月1日の会談において,AがBの申入れを承諾した旨のBの陳述(乙46)は,Aがこれを否定していること(甲16),その後のAとBの電子メールのやりとりの内容(乙3,4,乙5の1ないし3)や被告の提案した「覚書」(乙5の2参照)や「試験研究及び技術指導業務委託契約書」(乙5の3参照)が原告との間で作成されるに至っていないこと等に照らし,直ちに信用することはできず,他に上記合意の事実を認めるに足りる証拠は存しない。 かえって,前記1認定事実によれば,Bは,Aに対し,平成16年5月1日の会談の際に本件業務委託契約における業務委託料の減額を申し入れ,その後も,同月24日付け電子メール(乙4)において,本件業務委託契約の更新期にあたる同年7月1日付けで新たな業務委託契約を締結する形で本件業務委託契約を改定することを提案し,同年8月21日付け電子メール(乙5の1)には,「覚書(案)」(乙5の2),「試験研究及び技術指導業務委託契約書(案)」(乙5の3)を添付して,新たな業務委託53契約の締結を申し入れたものの,同年9月には,原告と被告との間における交渉が決裂し,結局,原告と被告との間で新たな業務委託契約が締結されることはなかったものと認められる。 ウ被告の主張について(ア)被告は,AからBに対して送信された電子メール(乙3)中には,「開発受託料を大幅に削減し,弊社を赤字化するというお考えには意義(判決注・異議)がありませんが・・・」と記載されていることをもって,AがBの本件許諾契約や本件業務委託契約を見直す旨の申出を了解していたことが明らかである旨主張する。 しかしながら,前記1認定のとおり,上記電子メールの記載は,全体として見れば,Bの考えに対し,「当社を黒字化することにもメリットがあるとも考えます。」と記載されているとおり,対案を示した上で,話合いを求める内容となっているから,上記電子メール(乙3)の記載によって,平成16年5月1日付け合意の成立を裏付けるに足るものであるとはいえない。 (イ)被告は,BからAに対して送信された電子メール(乙4)中には,Bが提案した2案が示されており,これらの案には,いずれも,本件業務委託契約を改定すること,少なくとも平成15年分の年間ミニマムロイヤルティを支払わないことが含まれていることをもって,これらのことが,原告と被告との間で合意されていたことが明らかである旨主張する。 しかしながら,前記1認定のとおり,上記電子メールの記載は,全体として見れば,Bの原告に対する提案が記載されているにすぎず,上記電子メール(乙4)の記載によって,平成16年5月1日付け合意の成立を裏付けるに足るものであるとはいえない。 (ウ)被告は,BがAに対し,「覚書(案)」(乙5の2)や「試験研究及び技術指導業務委託契約書(案)」(乙5の3)を添付した電子メール54(乙5の1)を送信したことをもって,平成16年5月1日付け合意が成立したことの根拠とする。 しかしながら,前記1認定のとおり,上記電子メールの記載は,Bの原告に対する契約書案等の提案にすぎず,結局,これらの書類が作成されることはなかったのであるから,上記電子メール(乙5の1ないし3)の存在をもって,平成16年5月1日付け合意の成立を裏付けるに足るものであるとはいえない。 (エ)被告は,平成16年5月1日当時,原告が本件業務委託契約上の債務の不履行状態にあったという背景事情から,原告は被告からの要求を拒むことはできなかったのであり,このことから平成16年5月1日付け合意が成立していたことが明らかである旨主張する。 平成16年5月1日当時における,原告の本件業務委託契約上の受託業務の遂行状況は,前記1認定のとおりであり,八都県市条例に対応する排ガス浄化装置の開発について,平成15年2月22日,23日に行われた初期排出ガス試験に不合格となったため,原告及び被告の当初の見込みに反し,指定を受けるまでのスケジュールが大幅に遅延することになったことや,被告は,原告の開発した「W-1」が八都県市の指定を受けたことから,平成15年12月にはモニター販売を行ったものの,平成16年1月中旬ころには,「W-1」のモニター販売を中止し,「W-1」の販売を中止する方針をとり,自動車NOx・PM法に対応する装置を優先的に開発,製品化するとの方針を打ち出したことが認められる。 しかしながら,本件業務委託契約は,委託業務について,研究開発の期限やスケジュールを定めていなかったから,上記状況をもって,直ちに原告の債務履行に当たるとはいえない。 (オ)その他,被告は縷々主張するものの,上記イの認定を左右するに足り55ない。 (5)争点1-5(原告による,平成16年6月分ないし9月分の業務委託料の請求が権利濫用によるものと評価されるべきものか)についてア被告は,原告は被告に対し,期限までに製品開発を完了させるという義務を負担していたにもかかわらず,期限を遵守しなかったばかりか,平成16年9月に原告と被告とが決裂するまで,製品開発を完了することができなかったこと,本件許諾契約は,原告に一方的に有利な内容となっていること,本件訴訟の勝敗は,原告の再生計画の帰趨には影響を与えないことから,原告を勝訴させて保護すべき実益はないこと等に照らし,原告による本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティ及び本件業務委託契約に基づく平成16年6月分ないし9月分の業務委託料の請求は権利の濫用に当たり,許されない旨主張する。 イしかしながら,既に述べたとおり,本件業務委託契約は,委託業務について,研究開発の期限やスケジュールを定めていなかったから,原告による本件許諾製品の開発が,契約上定められた期限を遵守しなかったものであると認めることはできない。 また,前記1認定のとおり,原告の開発した八都県市条例に対応する「W-1」は,平成15年10月23日には指定を受け,自動車NOx・PM法に対応する「W-2」の開発についても,原告は,平成16年8月までに試験,国土交通省の担当者への技術説明を終えており,実際に,同年9月の「評価会」を経て,同年10月には,国土交通省から認可を得ているのであって,原告が本件業務委託契約に基づく受託業務を遂行しなかったとはいえない。被告は,「W-1」の販売を中止することとしたものの,上記販売中止が原告の債務不履行に該当するものであるか否かについては,本件全証拠によるも判然としないといわざるを得ない。 本件許諾契約が原告に一方的に有利な内容となっているとの点について56も,前記1認定の本件許諾契約の締結経過に照らせば,被告は,本件許諾契約の内容を十分に認識した上で,本件許諾契約を締結したものといえる。 本件訴訟の勝敗は,原告の再生計画の帰趨には影響を与えないから,原告を勝訴させて保護すべき実益がないとの点は,被告の独自の見解であって採用することができない。既に述べたとおり,原告は,本件訴訟において回収した金員をもって,再生債権者に対する追加弁済を行う予定であり(甲8),原告が本件訴訟の帰趨について利益を有することは明らかである。 ウまた,被告は,原告が,別件訴訟において,兼坂契約2の効力を否定しながら,他方で,本件訴訟においては,本件許諾契約及び本件業務委託契約が有効であることを前提とする主張をしていることが,信義則や禁反言の原則に反する旨主張する。 しかしながら,別件訴訟において対象とされているのは兼坂契約2であって,本件許諾契約及び本件業務委託契約ではなく,また,その主張の内容も,特許出願に係る拒絶事由の存在,又は特許に係る無効事由の存在という,法律上の評価判断に係るものであることに照らすと,別件訴訟における原告の主張があるからといって,本件訴訟において,原告が,本件許諾契約及び本件業務委託契約が有効であることを前提とした主張をすることが信義則や禁反言の原則に反するものであるとはいえない。 エその他,被告は縷々主張するものの,いずれも,原告による本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティ及び本件業務委託契約に基づく平成16年6月分ないし9月分の業務委託料の請求を権利の濫用によるものであると評価するに足るものではない。 よって,この点に関する被告の主張は理由がない。 3本件許諾契約に基づく平成15年分の年間ミニマムロイヤルティについて(1)争点2-1(本件許諾契約は無効とされるべきものか)について57上記2(2)において述べたところと同様に,この点に関する被告の主張は理由がない。 (2)争点2-2(平成16年5月1日付け合意の有無)について上記2(4)において述べたところと同様に,この点に関する被告の主張は理由がない。 (3)争点2-3(原告による,平成15年分の年間ミニマムロイヤルティの請求が権利濫用によるものと評価されるべきものか)について上記2(5)において述べたところと同様に,この点に関する被告の主張は理由がない。 (4)争点2-4(相殺の可否)について被告は,本件業務委託契約が平成16年3月31日をもって終了していることを前提として,被告が,同年4月1日から同年5月31日分までの業務委託料名下に,原告に対して支払った2200万円は,原告の不当利得に当たり,被告は,原告に対し,不当利得返還請求権を有する旨主張する。 しかしながら,本件業務委託契約の契約期間が平成16年3月31日までであったと認めることができないことは,上記2(1)において既に説示したとおりであり,平成16年4月1日から同年5月31日分までの業務委託料として,原告が被告から支払を受けた2200万円は,法律上の原因に基づくものであるから,不当利得には該当しない。 よって,この点に関する被告の主張は理由がない。 4以上によれば,原告の本訴請求は理由があるから,認容することとして,主文のとおり判決する。 |
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58裁判長裁判官阿部正幸裁判官柵木澄子裁判官平田直人は,転補のため署名押印することができない裁判長裁判官阿部正幸59(別紙)特許出願目録1特許出願番号特願2002-288638発明の名称ディーゼルエンジン低負荷時におけるPM連続再生方法出願人(権利者)原告2特許出願番号特願2000-153889発明の名称ディーゼルエンジンの低負荷時高排気温度維持装置出願人(権利者)株式会社兼坂技術研究所3特許出願番号特願2001-129833発明の名称エンジンの排気処理方法及びその装置出願人(権利者)株式会社兼坂技術研究所4特許出願番号特願2002-094174発明の名称多気筒ディーゼルエンジンの排気浄化装置出願人(権利者)株式会社兼坂技術研究所以上60(原本版) |