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事件 平成 19年 (ワ) 18611号 商標権侵害差止等請求事件
東京都中央区<以下略>
原告株式会社ハセッパーエンジニアリング
訴訟代理人弁護 士親崎定雄
同 友野弘 東京都渋谷区<以下略>
被告株式会社オレア
訴訟代理人弁護 士山下善久
同 田中博尊
同 鈴木隆 東京都千代田区<以下略>
被告株式会社ハセッパー技研
訴訟代理人弁護 士高畠敏秀
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/03/31
主文 1被告らは,別紙被告標章目録1記載の標章を付した別紙商品目録1記載の商品を販売してはならない。
2被告らは,別紙被告標章目録2記載の標章を付した別紙商品目録2記載の商品を販売してはならない。
3原告のその余の差止請求を棄却する。
4被告株式会社オレアと被告株式会社ハセッパー技研間の平成18年3月6日付け販売契約書に基づく販売契約が無効であることの確認を求める訴えを却下する。
5訴訟費用は,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余を- 2 -被告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 主文第1項,第2項と同旨2被告らは,別紙被告標章目録3記載の標章を付した別紙商品目録3記載の商品を販売してはならない。
3被告らは,別紙被告標章目録4記載の標章を付した別紙商品目録4記載の商品を販売してはならない。
4被告株式会社オレアと被告株式会社ハセッパー技研間の平成18年3月6日付け販売契約書に基づく販売契約が無効であることを確認する。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,原告が,被告らに対し,別紙被告標章目録1ないし4記載の各標章(以下「被告各標章」と総称し,同目録1記載の標章を「被告標章1」といい,これに準じて同目録2ないし4記載の各標章を「被告標章2」などという。)をそれぞれ付した別紙商品目録1ないし4記載の各商品を販売する行為が,原告の有する別紙商標目録1ないし5記載の各商標権(以下「本件各商標権」と総称し,同目録1記載の商標権を「本件商標権1」,その登録商標を「本件商標1」といい,これに準じて同目録2ないし4記載の各商標権及びその登録商標を「本件商標権2」,「本件商標2」などという。)を侵害する旨主張して,商標法36条1項に基づき,上記販売行為の差止めを求めるとともに,被告ら間の平成18年3月6日付け販売契約書に基づく販売契約の無効確認を求める事案である。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実である。)(1) 当事者ア原告は,平成16年4月28日に設立された,居住及び水環境システム機器の開発,製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ被告株式会社オレア(以下「被告オレア」という。)は,平成18年3月9日に設立された,食品・飲食・医療の総合衛生管理システムの販売等を目的とする株式会社である。
ウ被告株式会社ハセッパー技研(以下「被告技研」という。)は,食品・飲食・医療の総合衛生管理システムの販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告と被告技研間の契約の締結等ア原告と被告技研は,平成16年6月21日,同日付け「営業譲渡契約書」(以下「本件契約書」という。)の各条項記載の内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
本件契約書には,次のような条項がある(甲5)。
第1条被告技研は,被告技研の所有する次の権利(以下「営業権」という)を原告に譲渡し,原告はこれを譲り受ける。
(1) ハセッパーシステムの独占製造権及び通常販売実施権ただし,海外からの独占輸入権は与えるが,海外での通常販売権は与えない(2)シーステライザーの独占製造権及びバラスト水処理機に関する独占販売権また,海外での通常販売権も与える(3) カンファブロー・カンファジェットの独占製作権ただし,海外での通常販売実施権は与えない(4) 国内における機器に関する設置及び保守メンテナンス」「第2条被告技研は,平成16年6月21日(以下「譲渡日」という)をもって,本営業権を原告に譲渡し,原告はこれを譲り受けるものとする。」「第3条営業権の譲渡対価は,324,680,000円(消費税別途)であり,平成16年6月1日(以下「算定日」という)における営業権評価鑑定書に基づいた鑑定評価額とする。
2前項の対価の支払方法,支払の時期等については被告技研・原告協議のうえ,これを決定する。」「第7条被告技研及び原告は,相手方につき,次の各号に該当する事由が生じたときは,本契約を直ちに解除できるものとするが,下記以外については解除出来ないものとする。
(1) 本契約に基づく義務を履行しなかったとき(2)本契約に基づく被告技研・原告間の信頼関係を損なう行為があったとき(3)被告技研が原告に対して重大な損害を与えたとき,又は与えるおそれがあったとき(4)他から破産,和議,整理又は会社更生の申立てを受け,若しくは自ら申し立てたとき(5) 強制執行,仮差押又は仮処分を受けたとき」イ原告と被告技研は,平成16年9月10日,同日付け「営業権の譲渡対価に関する覚書」(以下「本件覚書」という。)をもって,本件契約書3条に基づく「譲渡対価¥340,914,000.-消費税込み)」の支払期日を次のとおりとする旨の合意をした(乙1)。
(ア) 平成17年3月31日 1億円(イ) 平成18年3月31日 1億円(ウ) 平成19年3月31日 1億円(エ) 平成20年3月31日 4091万4000円ウ原告は,平成17年3月,被告技研に対し,本件契約書3条及び本件覚書に基づいて,1億円を支払った。
(3) 被告オレアと被告技研間の販売契約の締結設立前の被告オレアと被告技研は,平成18年3月6日,同日付け「販売契約書」(以下「本件販売契約書」という。)の各条項記載の内容の契約(以下「本件販売契約」という。)を締結した。
本件販売契約書には,次のような条項がある(甲4)。
第2条(製品と権利)被告技研は被告オレアに対し,被告技研の以下に表示する製品Iについて以下の権利Iを与え,被告技研の以下に表示する製品?Uについて以下の権利?Uを与え,被告オレアは各々の権利を取得する。
?@〔製品I〕小型除菌・消臭用噴霧器「カンファるるど」,中型除菌・消臭用噴霧装置「カンファブロー」及びこれに使用する「カンファスイ」〔権利I〕日本国内における独占的販売権。ただし,上記独占権は,被告技研のカンファシステム代理店(製品?Uを主として販売する代理店)に対しては適用されない。
?A〔製品?U〕「カンファミキシノーヴァ(GH-I型,AP-I型)」,「シーエスコンバーター」,「産業用シーステライザー」〔権利?U〕日本国内における非独占的販売権。」(4) 本件各商標権の登録の経緯ア被告技研は,平成14年8月2日,本件商標3に係る商標登録出願をし,平成15年8月8日,本件商標権3の設定登録を受けた。
本件商標権3について,平成16年8月23日,被告技研から原告への移転登録がされた。
イ被告技研は,平成15年11月28日,本件商標4に係る商標登録出願をし,平成16年8月6日に同商標登録出願により生じた権利を被告技研から原告へ承継する旨の出願人名義変更届がされた後,原告は,同年9月17日,本件商標権4の設定登録を受けた(甲8,乙4,弁論の全趣旨)。
ウ原告は,平成16年11月9日,本件商標2に係る商標登録出願をし,平成17年7月29日,本件商標権2の設定登録を受けた。
エ原告は,平成17年5月11日,本件商標1に係る商標登録出願をし,平成18年1月6日,本件商標権1の設定登録を受けた。
オ原告は,平成17年5月10日,本件商標5に係る商標登録出願をし,平成18年2月10日,本件商標権5の設定登録を受けた。
(5) 被告らの販売行為被告技研は,除菌・消臭水噴霧器(商品名「カンファるるど」。以下「本件商品1」という。),除菌・消臭水噴霧装置(商品名「カンファブロー」。以下「本件商品2」という。),除菌・消臭水(商品名「カンファスイ」。以下「本件商品3」という。)及び殺菌・消臭水生成装置(商品名「カンファミキシノーヴァ」。以下「本件商品4」という。)を製造し,被告オレアに対し,被告標章1を付した本件商品1,被告標章2を付した本件商品2,被告標章3を付した本件商品3及び被告標章4を付した本件商品4を販売し,被告オレアは,上記各商品(以下「本件各商品」という。)を他に販売(転売)している(甲7,弁論の全趣旨)。
3 争点本件の争点は,原告の商標権侵害に基づく差止請求については,本件各商標権が原告に帰属するかどうか(争点1-1),被告各標章が本件各商標に類似した商標(商標法37条1号)に該当するかどうか(争点1-2),被告各標章について被告技研の先使用権(同法32条1項)が成立するかどうか(争点1-3),原告の被告らに対する本件各商標権に基づく差止請求権利の濫用に当たり許されないかどうか(争点1-4)であり,原告の本件販売契約の無効確認請求については,原告が被告らが締結した本件販売契約の無効確認を求める確認の利益を有するかどうか(争点2-1),本件販売契約に原告主張の無効事由があるかどうか(争点2-2)である。
争点に関する当事者の主張
1 商標権侵害に基づく差止請求関係(1) 争点1-1(本件各商標権の原告の帰属の有無)ア 原告の主張(ア)原告は,前記第2の2(4)イないしオのとおり,本件商標権1,2,4,5の設定登録を受けたから,本件商標権1,2,4,5は,原告に帰属する。
(イ)原告は,本件契約を原因として,被告技研から本件商標権3を譲り受け,前記第2の2(4)アのとおり,被告技研から原告への本件商標権3の移転登録がされたから,本件商標権3は,原告に帰属する。
(ウ)被告らは,後記のとおり,本件契約は被告技研の解除により解除されたから,本件各商標権は被告技研に帰属する旨主張するが,以下のとおり理由がない。
a本件商標権1,2,4,5は,原告が設定登録を受けたものであり,本件契約を原因として被告技研から原告に移転登録されたものではないから,本件商標権1,2,4,5の帰属と本件契約の解除とは無関係である。
b被告技研の平成19年5月1日付け内容証明郵便(乙2)は原告に到達していないから,同内容証明郵便をもってされた被告技研の本件契約の解除の意思表示は効力が生じていない。
すなわち,被告技研の原告宛の上記内容証明郵便の配達証明書(乙114)には,「受取人の氏名」欄に「代表取締役A」と記載されているが,当時の原告の代表取締役はB(以下「B」という。)であって,Aは原告の代表取締役その他執行役員ではなく,また,上記内容証明郵便の配達先は,原告の当時の本店宛であるが,その当時,原告の本店所在地は製品の製造を行っているだけで,原告の事務所は被告技研の本店事務所と同じ建物内にあり,原告の代表取締役を始め執行役員等は,被告技研によって,同事務所への立入りが阻止されていたから,原告の本店宛に上記内容証明郵便が配達されたとしても,上記内容証明郵便が原告に有効に到達したものとはいえない。
c被告技研の本件契約の解除は,原告における債務不履行の金額を確定することができず,その履行をすることができないから,無効である。
すなわち,原告の総勘定元帳(甲24,25)によれば,原告の被告技研に対する売掛金債権の相殺勘定分があることになるが,その帳簿操作は被告技研代表者が行ったものであるため,この相殺勘定分を考慮した場合に,原告の被告技研に対する本件契約に基づく残債務の金額がいくらとなるのか確定し難い状況にあり,その弁済をすることができない。
d被告技研による本件契約の解除は,以下の事情に照らせば,解除権の濫用に当たり,許されない。
(a)本件契約書3条の譲渡対価は,高額過ぎる上,当時の原告の事業所得との格差も大きく,支払期間も短期に過ぎ,当時の原告の事業所得から払うことは当初から不可能であり,そのことは被告技研も知悉していた。
(b)被告技研は,平成18年7月18日,原告の株主及び代表取締役がC(以下「C」という。)に交代したにもかかわらず,Cに対し,総勘定元帳を始め,原告の経理及び営業に必要な帳簿類の引渡しも,閲覧もさせず,原告の事務所,工場にも立ち入らせなかった。
このように,被告技研は,原告の経理と営業活動を事実上行い,被告技研の利害得失を考慮しながら,原告の経理関係を調整することができたのに対し,Cら原告の役員は,原告の営業状況や負債を知ることができず,何らの対策を講じることができなかったのであるから,原告に本件契約の債務不履行があったとしても,その責任は被告技研にある。
(c)本件覚書で定めた本件契約書3条の譲渡対価の弁済条件は,当初は原告に厳しいものであったものの,原告の利益が向上することが見込まれ,将来は債務弁済が可能になる状況にあったにもかかわらず,被告技研による本件契約の解除は,弁済期限を延長するなどの対策を考慮することもなく,原告を倒産させ,あるいは原告を吸収合併することを目的としたものである。
また,原告と被告技研は,平成18年7月18日付け合意書(甲16)及び同年12月20日付け合意書(乙7)により,原告の事業の強化を図ることなどの基本合意をし,その合意内容の実現に向けて協議中であったにもかかわらず,その協議の最中である平成19年5月1日に,被告技研は本件契約の解除の通知を発したものであり,著しく信義則に反する。
(エ) 以上によれば,本件各商標権は,いずれも原告に帰属する。
イ 被告らの反論(ア)被告技研は,新製品の開発,既存製品の改良,販売促進等のために金融機関等の第三者から資金導入を受けることを検討していた際に,会計士から,資金導入を受けるには被告技研の有する知的財産権を評価する必要があり,その評価のためには,被告技研の有する知的財産権を第三者に譲渡する必要があるとの示唆を受けた。そこで,被告技研代表者のD及びその子であるAの二人が全額出資して,原告を設立し,原告の代表取締役にAが就任し,その上で,原告と被告技研との間で本件契約を締結し,本件契約で定めた譲渡対価の額(本件契約書3条)をもって被告技研の有する知的財産権の評価額を外部に対して明らかにすることとした。
そして,本件各商標権は,被告技研の有する知的財産権の一部として本件契約後に被告技研から原告へ形式的に移転されたものであるか(本件商標権3は被告技研が設定登録を受けた後に,本件商標権4は,被告技研が商標登録出願をした後に,本件契約に基づき形式的に原告に移転登録又は移譲した。),あるいは,本件契約に基づき,被告技研の発案と費用によって,原告名義で商標登録出願をし,商標登録されたものであり,いずれも実質的な権利者は被告技研である。
(イ)仮に本件各商標権が本件契約に基づいて被告技研から原告に移転したとしても,本件契約は,以下のとおり,原告の債務不履行により解除されたから,本件各商標権は,被告技研に復帰すべきものである。
a被告技研は,平成19年5月1日付け内容証明郵便(乙2)をもって,原告に対し,本件契約書7条に基づき,本件契約書3条に定める譲渡対価のうち合計2億円(平成18年3月31日支払期日の1億円及び平成19年3月31日支払期日の1億円の合計額)の支払についての原告の履行遅滞を理由に本件契約を解除する旨の意思表示をし(以下,この解除を「本件解除」という。),同内容証明郵便は,同年5月7日,原告に到達した。
b被告技研は,平成21年3月5日の本件口頭弁論期日において,同年2月9日付け準備書面(8)を陳述することにより,原告に対し,改めて本件解除の意思表示をした。
(ウ)原告は,被告技研の本件解除は解除権の濫用に当たる旨主張するが,原告の主張は理由がない。
(エ)以上によれば,本件各商標権は,いずれも被告技研に帰属する。
(2) 争点1-2(本件各商標と被告各標章との類否)ア 原告の主張以下のとおり,被告標章1は本件商標1に,被告標章2は本件商標2に,被告標章3は本件商標3に,被告標章4は本件商標4及び本件商標5にそれぞれ「類似する商標」(商標法37条1号)に当たるから,被告らによる本件各商標を付した本件各商品の販売は,本件各商標権侵害に当たる。
(ア) 被告標章1について本件商標1は「カンファるるど」の文字から成り,被告標章1は「Comforるるど」の文字から成るから,両者の外観は後半の「るるど」の文字部分において同一である。
また,本件商標1及び被告標章1は,いずれも「カンファルルド」の称呼が生じるから,両者の称呼は同一である。
さらに,被告標章1が用いられているカタログ(甲7)の中には,本件商標1と同一の表示もあり,需要者が本件商標1から想起する観念と被告標章1から想起する観念も同一である。
したがって,被告標章1は,本件商標1に「類似する商標」に当たる。
(イ) 被告標章2について被告標章2は,「Comfor blow」の文字から成るところ,「blow」は中学で教わる程度の簡単な英語で「吹く」,「吹きつける」等の意味であり,需要者に噴霧器であることを表示するものであって,「blow」の部分は,商品識別機能,出所表示機能を有しない。したがって,被告標章2のうち,商品識別機能,出所表示機能を有する要部は,「Comfor」の部分であるから,これと本件商標2とを対比して商標の類否を判断すべきである。
そこで,被告標章2のうち「Comfor」の部分と本件商標2とを対比すると,本件商標2と被告標章2のうち「Comfor」の部分とは,いずれも「Comfor」という文字を含むから,両者が類似することは明らかである。
したがって,被告標章2は,本件商標2に「類似する商標」に当たる。
(ウ) 被告標章3について本件商標3と被告標章3とは,いずれも「Comfosy」及び「カンファスイ」の文字から成るから,外観,観念及び称呼が同一である。
したがって,被告標章3は,本件商標3に「類似する商標」に当たる。
(エ) 被告標章4について被告標章4は,「Comfor Mixinova」の文字から成り,本件商標4を構成する「Comfor」という文字と本件商標5を構成する「Mixinova」という文字とを結合したにすぎないことが明らかである。
したがって,被告標章4は,本件商標4及び本件商標5にそれぞれ「類似する商標」に当たる。
イ 被告らの反論(ア) 被告技研被告各標章は,本件各商標といずれも類似していない。
(イ) 被告オレアa被告標章1が本件商標1に,被告標章3が本件商標3にそれぞれ類似することは認める。
b被告標章2は,本件商標2に類似していない。
すなわち,商標の類否の判断は,原則として全体的観察によるべきところ,「Comfor blow」の文字から成る被告標章2は,特定の部分が見る者の注意をひきやすいものではないから,被告標章2と本件商標2との対比に当たっては,原則通り全体的観察によるべきである。そして,被告標章2の構成部分全体と本件商標2とを対比すると,外観及び称呼が類似していないことは明らかであり,また,いずれも特定の観念を有するものではないから,被告標章2は本件商標2に類似していない。
c被告標章4は,本件商標4及び本件商標5にいずれも類似していない。
すなわち,「Comfor Mixinova」の文字から成る被告標章4は,特定の部分が見る者の注意をひきやすいものではないから,原則通り全体的観察によるべきところ(前記b),被告標章4の構成部分全体と本件商標4又は本件商標5とをそれぞれ対比すると,外観及び称呼が類似していないことは明らかであり,また,いずれも特定の観念を有するものではないから,被告標章4は本件商標4及び本件商標5のいずれにも類似していない。
(3) 争点1-3(被告技研の先使用権の成否)ア 被告らの主張(ア) 被告技研被告技研は,本件各商標に係る商標登録出願前から,日本国内において,被告各標章を本件各商品にそれぞれ付して使用し,被告標章3を付した本件商品3はかなりの数の顧客層によって購買され(乙18ないし106の2),「カンファ」という標章も業界新聞,展示会等で大々的に宣伝するなどし(乙12の3ないし12の11),その結果,上記商標登録出願の際,被告各標章は現に被告技研の業務に係る本件各商品を表示するものとして需要者である食品業界,水産加工業界,畜産業界,医療機関の関係者の間において広く認識されていたから,被告技研は,被告各標章を本件各商品に使用することについて,先使用権(商標法32条1項)を有する。
(イ) 被告オレア被告オレアは,被告各標章の先使用権者である被告技研から,先使用権の範囲内にある被告各標章を付した本件各商品を買い受け,他に販売(転売)する販売業者であるから,被告技研の先使用権援用する。
イ 原告の反論(ア)本件商標3に係る商標登録出願は被告技研が行い,被告技研が本件商標権3の設定登録を受けたのであるから,被告技研の主張を前提としても,被告技研は,「他人の商標登録出願前から」(商標法32条1項),本件商標3と類似する被告標章3を使用していたものとはいえず,被告標章3については,そもそも被告技研主張の先使用権が成立する余地はない。
(イ)被告各標章が,本件各商標に係る商標登録出願の際,現に被告技研の業務に係る本件各商品を表示するものとして需要者である食品業界,水産加工業界,畜産業界,医療機関の関係者の間において広く認識されていた事実はない。
したがって,被告各標章について,被告技研主張の先使用権は成立していない。
(4) 争点1-4(権利濫用の成否)ア 被告らの主張(ア) 被告技研a前記(1)イ(ア)のとおり,本件各商標権は,本件契約後に被告技研から原告へ形式的に移転されたものであるか,あるいは,本件契約に基づき,被告技研の発案と費用によって,原告名義で商標登録出願をし,商標登録されたものであり,いずれも実質的な権利者は被告技研であり,また,被告技研の本件解除により本件契約は解除された以上,本件各商標権は,形式的にも被告技研に帰属している。
b原告は,本件各商標を現に使用したことはなく,将来的にも使用する意思はなく,本件各商品を販売したこともない。
このように原告は,本件各商標権設定登録又は移転登録を受けた当初から自ら使用する意図など全くないにもかかわらず,単に他人に本件各商標を使用させないために本件訴訟を提起したにすぎない。
また,本件商標2ないし4は,設定登録の日から3年以上使用されていないから,各商標登録は審判による取消しを免れないものであり(商標法50条),取り消されることが明白な本件商標権2ないし4に基づく原告の権利行使は許されない。
c以上によれば,原告の被告技研に対する本件各商標権に基づく差止請求は,権利の濫用に当たり,許されない。
(イ) 被告オレアa原告の設立の目的は,被告技研の有する本件各商品に係る権利を原告に帰属させ,原告が優良会社であるが如き外形を作って融資を受けるためである。
b本件契約書1条(1)の文言によれば,「ハセッパーシステム」につき,原告が独占製造権を有するにもかかわらず,通常販売実施権しか有しないこととされている。これは,原告が「ハセッパーシステム」(カンファシステム)を製造し,その販売は被告技研が行うのを原則とするが,原告も被告技研を介さずに国内で販売することができるという趣旨である。
本件契約書1条(3)(カンファブロー・カンファジェットの独占製作権)も,これと同趣旨である。
そして,被告技研の本件解除により本件契約は解除されている。
c原告には,本件各商品の製造実績がない。
d以上によれば,原告の被告オレアに対する本件各商標権に基づく差止請求は,本件各商品を販売する被告オレアの営業を妨害するためのものであり,正義公平の理念及び公正な競争秩序に反するものであるから,権利の濫用に当たり,許されない。
イ 原告の反論原告の本件各商標権に基づく差止請求権利の濫用であるとの被告らの主張は,以下のとおり,その前提を欠くものであり,理由がない。
(ア)被告らは,本件各商標権は,被告技研に実質的に帰属する旨主張する。
しかし,本件各商標権がいずれも原告に帰属すること,被告技研の本件解除は理由がなく,本件契約が有効に存続していることは,前記(1)アのとおりである。
(イ)被告らは,原告が本件各商標を現に使用したことはなく,本件各商品を製造した実績もない旨主張する。
しかし,原告は,本件各商標を使用し,本件各商品を製造している。
すなわち,被告技研は,平成16年4月28日の原告の設立当初から平成18年7月18日までの間,被告技研が顧客から注文を受ける都度,原告に対し,本件商標2を付した本件商品2,本件商標4,5を付した本件商品4の製造を発注し,原告の従業員が原告の工場で被告技研の従業員の支援を受けて上記各商品を製造した。
また,原告は,上記期間において,被告技研から発注を受けた本件商標1を付した本件商品1の製造を第三者に外注して,被告技研に納品していた。
さらに,原告は,平成19年6月ころから,本件商標2を付した本件商品2,本件商標4,5を付した本件商品4を自ら製造,販売し,また,第三者に外注して本件商標1を付した本件商品1を製造し,販売している。
もっとも,原告が本件各商品の製造,販売ができなかった時期が一時期あったが,それは被告技研の営業妨害行為によるものである。
2 本件販売契約の無効確認請求関係(1) 争点2-1(確認の利益の有無)ア 原告の主張(ア)原告は,原告及び被告技研が平成16年6月21日に締結した本件契約により,被告技研から,「ハセッパーシステム」(カンファシステム)の独占製造権及び通常販売権の譲渡を受け,「ハセッパーシステム」に含まれる本件各商品の独占製造権を得た。この独占製造権は,製造した製品の販売権を内包するものである。そして,本件契約により,本件各商品の独占製造権を原告に譲渡した被告技研においては,原告から独占製造した製品を仕入れた後でなければ販売権が生じないから,被告オレアにあらかじめ付与できる独占販売権を有していない。
一方で,被告技研は,被告技研及び被告オレアが平成18年3月6日に締結した本件販売契約に基づき,本件各商品を製造して被告オレアに販売し,被告オレアは,被告技研から仕入れた本件各商品を販売している。
このように被告らが本件販売契約に基づいて取引をする限り,原告は自社製品を被告オレアにも,被告技研にも販売できないのであり,製品を販売できない独占製造権は有名無実であるから,被告技研と被告オレア間の本件販売契約は,原告の独占製造権及び販売権の行使を阻害するものであり,原告の営業活動を不可能にしている。また,被告らが,「総発売元株式会社オレア」,「製造元株式会社ハセッパー技研」と記載された本件各商品のカタログ(甲7)を頒布することにより,多くの需要者に本件各商品の独占製造権を有するのが被告技研であり,総発売元が被告オレアであると誤信させ,原告の有する権利のみならず原告の存在自体が認識されなくなり,原告の業務執行上多大な障害となっている。
(イ)以上によれば,原告は,被告技研と被告オレア間の本件販売契約の無効確認を求める確認の利益を有するものである。
イ 被告らの反論原告の主張は,理由がない。
すなわち,本件契約の「ハセッパーシステム」(カンファシステム)は,食品工場,水産加工場等の大型業務用の殺菌水生成装置を中心とするタンクシステム,噴霧システムであって,家庭用を主な対象とする本件商品1,2,4は,「ハセッパーシステム」を構成するものではない。また,本件商品1は,本件契約当時,存在していないから,本件契約の対象となっていない。
そして,被告技研は,本件契約により,原告に対し,一般の代理店としての通常販売権を付与しただけであり,独占販売権は与えていないから,被告技研は,被告オレアとの本件販売契約の締結の際,本件各商品の販売権を有していたものであり,本件販売契約により原告の販売権を侵害するものではない。
さらに,本件契約は,被告技研の本件解除により解除されたから,原告は本件契約に基づく販売権を有していない。
(2) 争点2-2(本件販売契約の無効事由の有無)ア 原告の主張前記(1)アのとおり,本件契約により本件各商品の独占製造権を原告に譲渡した被告技研は,本件販売契約締結の当時,本件各商品の独占製造権及び販売権を有していなかったから,被告技研が被告オレアに対し本件商品1ないし3の独占販売権及び本件商品4の非独占的販売権を付与することを内容とする本件販売契約は無効である。
イ 被告らの反論原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 商標権侵害に基づく差止請求について(1) 本件各商標権の原告の帰属の有無(争点1-1)ア 前提事実前記第2の2の事実と証拠(甲1ないし3,5,7ないし9,11ないし20,24,25,乙1,2,4,5,7,11ないし110,丙1ないし16(いずれも枝番のあるものは枝番を含む。),証人A,被告技研代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(ア)被告技研は,平成10年7月9日に設立された後,平成14年ころ,殺菌水及び殺菌水生成装置を開発し,そのころから,同殺菌水を「カンファスイ」,同殺菌水生成装置を「ハセッパーシステム」,「カンファシステム」などの商品名で販売するようになった。
その後,被告技研代表者(D)は,被告技研の事業を拡大するため,第三者からの融資又は資金提供を受ける必要があるものと考え,公認会計士に相談したところ,公認会計士から,融資又は資金提供を受けるには被告技研の有する知的財産を客観的に評価する必要があり,その評価のためには上記知的財産を第三者へ譲渡し,その譲渡対価をもって上記知的財産の資産価値を示す必要がある旨の示唆を受けた。そこで,被告技研代表者は,新会社を設立して,被告技研から新会社に被告技研の有する知的財産を譲渡し,新会社が上記知的財産を利用して第三者から融資又は資金提供を受け,被告技研が原告から上記知的財産の譲渡代金の弁済を受けることにより事業資金を得ることを考えた。
そして,被告技研代表者及びその子であるAが全額出資し,平成16年4月28日,原告を設立し,Aがその代表取締役に就任した。
被告技研と原告は,同年6月21日,本件契約を締結し,さらに同年9月10日,原告が被告技研に対して支払義務を負う本件契約書(甲5)3条に定める譲渡対価3億4091万4000円(消費税込み)の支払期日を本件覚書(乙1)記載のとおり平成17年3月31日,平成18年3月31日及び平成19年3月31日に各1億円,平成20年3月31日に4091万4000円とする旨の合意をした。
(イ)被告技研が平成15年11月28日に本件商標4に係る商標登録出願をした後,本件契約締結後の平成16年8月6日,本件商標4に係る商標登録出願により生じた権利を被告技研から原告へ承継する旨の出願人名義変更届がされ,同年9月17日,原告は,本件商標権4の設定登録を受けた。
また,同年8月23日,被告技研が設定登録(設定登録日平成15年8月8日)を受けた本件商標権3について,被告技研から原告への移転登録がされた。
さらに,原告は,同年11月9日に本件商標2に係る商標登録出願を,平成17年5月10日に本件商標5に係る商標登録出願を,同月11日に本件商標1に係る商標登録出願を行い,その後,同年7月29日に本件商標権2の設定登録を,平成18年1月6日に本件商標権1の設定登録を,同年2月10日に本件商標権5の設定登録を受けた。
(ウ)原告と株式会社東京理化工業所(以下「東京理化工業所」という。)は,平成16年12月14日,同日付け実施権許諾等契約書(甲19)により,原告は,東京理化工業所に対し,原告が開発した「カンファシステム」,「シーステライザー」,その他原告が開発する環境衛生システム及び機器の技術に基づき取得する特許権及び実用新案権,その改良技術並びに上記技術に関するノウハウについて専用実施権を許諾し,東京理化工業所は,原告に対し,実施権許諾の対価として1億円(税別)を支払う旨の契約を締結した。
その後,原告は,東京理化工業所から上記対価の支払を受けた後,これを原資として,平成17年3月31日ころ,被告技研に対し,本件契約書3条に定める譲渡対価の内金1億円を支払った。
原告と東京理化工業所は,同年7月1日,同日付け製造委託契約書(甲20)により,原告が,東京理化工業所に対し,「カンファシステム」(AP型,GH型),「産業用シーステライザー」,「シーエスコンバーター」,その他原告が開発する環境衛生システム及び機器並びに関連システム機器の製造を委託する旨の製造委託契約を締結した。
原告は,そのころから,東京理化工業所に対し,被告技研が顧客から発注を受けた殺菌水生成装置(本件商品4)等の製品の製造を委託し,東京理化工業所が製造した当該製品を被告技研に納入するようになった。
このように被告技研と原告は,被告技研が顧客から発注を受けた製品を原告を介して納品を受け,顧客に販売する取引形態をとることにより,共同で事業を展開した。その事業展開に当たっての経営判断は,被告技研代表者が行っていた。
(エ)被告技研と設立前の被告オレア(設立日・平成18年3月9日)は,平成17年12月8日,同日付け販売基本契約書(丙1)により,被告技研が,被告オレアに対し,1都16県における本件商品1ないし3の独占的販売権,日本国内における本件商品4,「シーエスコンバーター」及び「産業用シーステライザー」の一般販売権を与える旨の販売基本契約を締結した。
被告技研と設立前の被告オレアは,平成18年3月6日,上記販売基本契約を破棄した上で,被告技研が,被告オレアに対し,日本国内における本件商品1ないし3の独占的販売権,日本国内における本件商品4,「シーエスコンバーター」及び「産業用シーステライザー」の非独占的販売権を与える旨の本件販売契約を締結した。
被告技研は,同年3月以降,本件各商品を被告オレアに販売し,被告オレアは,これらを他に販売(転売)するようになった。
(オ)平成18年4月ころから同年7月ころにかけて,原告及び被告技研と東京理化工業所の親会社である株式会社東理ホールディングス(以下「東理ホールディングス」という。)との間で取引上のトラブルが発生した。被告技研代表者は,同年7月18日ころ,Cに対し,上記トラブルに関する東理ホールディングスとの交渉を依頼するとともに,原告及び被告技研への資金援助を依頼した。
同年7月21日,同月18日付けのCの原告の代表取締役就任の登記及びAの同代表取締役辞任の登記がされた。
Cは,そのころ,被告技研代表者及びAに対し,原告の総勘定元帳等の商業帳簿,取引関係書類の引渡しを求めたが,拒否された。
その後,原告の代表取締役に,同年11月30日付けでBが就任した。
C,被告技研,原告,被告技研代表者及びAは,同年12月20日ころ,4者間の紛争の和解を目的とする同日付け合意書(乙7)に調印した。しかし,被告技研代表者及びAは,上記合意書6条の「本和解成立後直ちに」Bが原告の代表取締役を辞任し,Aを同代表取締役に就任させる旨の条項が実現されなかったこともあって,上記合意書を具体的に履行するための細則を取り決める協議に応じなかった。
(カ)被告技研は,平成19年5月1日付けで,本件契約書7条に基づき,本件契約書3条に定める譲渡対価のうち合計2億円(平成18年3月31日支払期日の1億円及び平成19年3月31日支払期日の1億円の合計額)の支払についての原告の履行遅滞を理由に本件契約を解除する旨の本件解除の内容証明郵便(乙2)を発した。
同内容証明郵便は,同月7日,当時の原告本店に配達された。ただし,その配達証明書(乙114)の「受取人の氏名」欄には「代表取締役A」と記載されている。
(キ) 原告は,平成19年7月20日,本件訴訟を提起した。
被告技研は,本件訴訟係属中の平成20年5月,被告技研が事実上保管していた原告の総勘定元帳等の商業帳簿,取引関係書類を原告に引き渡した。
イ 本件商標権1,2,5の帰属について(ア)前記ア(イ)のとおり,原告は,本件商標1,2,5に係る各商標登録出願を行い,平成17年7月29日に本件商標権2の設定登録を,平成18年1月6日に本件商標権1の設定登録を,同年2月10日に本件商標権5の設定登録をそれぞれ受けたから,本件商標権1,2,5は,原告に帰属するものと認められる。
(イ)これに対し被告らは,本件商標権1,2,5は,被告技研の発案と費用によって,原告名義で各商標登録出願を行い,商標登録されたものであり,いずれも実質的な権利者は被告技研である旨主張する。
しかし,本件においては,被告技研の発案と費用によって原告名義で本件商標1,2,5に係る各商標登録出願がされたことを認めるに足りる証拠はないのみならず,そもそも商標権は,特許権や著作権とは異なり,創作者を保護するものではないから,仮に被告技研の社員等が本件商標1,2,5を発案したものであるとしても,そのような発案の事実が被告技研に商標権が帰属することの根拠となるものではない。また,仮に本来原告が負担すべき登録出願費用等を被告技研が負担したとしても,被告技研が原告に対し費用償還を請求できるにとどまり,そのような費用負担の事実が被告技研に商標権が帰属することの根拠となるものでもない。
そして,出願人を原告として上記各商標登録出願がされ,原告を商標権者とする設定登録がされている以上(前記ア(イ),甲8),本件商標権1,2,5の商標権は原告に帰属するから(商標法18条1項),被告らの上記主張は理由がない。
ウ 本件商標権3,4の帰属について(ア)前記ア(イ)の事実と弁論の全趣旨によれば,原告は,原告と被告技研間の本件契約に基づいて,被告技研から,被告技研が設定登録を受けた本件商標権3を譲り受け,平成16年8月23日にその移転登録を受けたこと,原告は,本件契約に基づいて,被告技研から,被告技研が出願した本件商標4に係る商標登録出願により生じた権利を譲り受け,同月6日にその出願人名義変更届がされた後に,同年9月17日,本件商標権4の設定登録を受けたことが認められる(なお,原告は,被告技研が出願した本件商標4に係る商標登録出願により生じた権利については,その譲渡原因となる法律行為につき明示の主張をしていないが,原告の主張を合理的に解釈すると,本件商標権3と同様に,本件契約を譲渡原因として主張しているものと解される。)。
ところで,被告らは,本件契約は被告技研の本件解除により解除されたから,本件商標権3,4は,被告技研に復帰した旨主張する。
そこで検討するに,?@被告技研と原告は,平成16年6月21日,本件契約を締結し,次いで同年9月10日,原告が被告技研に対して支払義務を負う本件契約書(甲5)3条に定める譲渡対価3億4091万4000円(消費税込み)の支払期日を本件覚書記載のとおり平成17年3月31日,平成18年3月31日及び平成19年3月31日に各1億円,平成20年3月31日に4091万4000円とする旨の合意をしたこと(前記ア(ア)),?A原告は,平成17年3月31日ころ,被告技研に対し,上記譲渡対価の内金1億円を支払ったが(前記ア(ウ)),上記譲渡対価の残金の支払をしていないこと(弁論の全趣旨),?B本件契約書7条には,被告技研及び原告は,相手方に債務不履行があったときは,本件契約を直ちに解除することができる旨の無催告解除特約の条項があること(前記第2の2(2)ア,甲5),?C被告技研は,平成19年5月1日付けで,本件契約書7条に基づき,本件契約書3条に定める譲渡対価のうち合計2億円(平成18年3月31日支払期日の1億円及び平成19年3月31日支払期日の1億円の合計額)の支払についての原告の履行遅滞を理由に本件契約を解除する旨(本件解除)の内容証明郵便(乙2)を発したこと(前記ア(カ)),?D被告技研は,平成21年3月5日の本件口頭弁論期日において,同年2月9日付け準備書面(8)を陳述することにより,原告に対し,改めて本件解除の意思表示をしたこと(当裁判所に顕著な事実),以上の?@ないし?Dの事実を総合すれば,本件契約は,被告技研が平成21年3月5日の本件口頭弁論期日においてした本件解除の意思表示により,解除されたものと認めるのが相当である。
そうすると,本件商標権3,4は,本件解除により原告から被告技研に復帰すべきものであるから,原告は,被告技研に対し,本件商標権3,4に基づく権利行使はできないものと解される。また,本件商標権3,4は上記のとおり原告から被告技研に復帰すべきものである以上,原告は,被告技研から購入した本件各商品を販売する被告オレア(前記ア(エ))に対しても,本件商標権3,4に基づく権利行使はできないものと解される。
(イ)aこれに対し原告は,原告には被告技研に対する売掛金債権の相殺勘定分があり,この相殺勘定分を考慮した場合に,原告の被告技研に対する本件契約に基づく残債務の金額がいくらとなるのか確定し難い状況にあり,原告における債務不履行の金額を確定することができず,その履行をすることができないから,被告技研の本件解除は,無効である旨主張する。
しかし,原告が被告技研に対して支払義務を負う本件契約書3条に定める譲渡対価の金額及びその支払期日は本件契約書3条(甲5)及び本件覚書(乙1)上明確であり,原告において支払うべき金額を確定することができないものとは到底いえない。また,仮に原告が主張するように原告の被告技研に対する売掛金債権の相殺勘定分があるとしても,原告において,その相殺勘定分に相当する債権を被告技研に対して別途行使することは可能であるから,既に支払期日が到来した上記譲渡対価の支払債務の履行遅滞の責任を免れる理由になるものでもない。
したがって,被告技研の本件解除が無効であるとの原告の上記主張は,理由がない。
b次に,原告は,?@本件契約書3条の譲渡対価は,高額過ぎる上,当時の原告の事業所得との格差も大きく,支払期間も短期に過ぎ,当時の原告の事業所得から払うことは当初から不可能であり,そのことは被告技研も知悉していたこと,?A被告技研は,原告の経理と営業活動を事実上行い,原告の経理関係を調整することができたのに対し,原告の役員は,原告の営業状況や負債を知ることができず,何らの対策を講じることができなかったこと,?B上記譲渡対価の弁済条件は,当初は原告に厳しいものであったものの,原告の利益が向上することが見込まれ,将来は債務弁済が可能になる状況にあったにもかかわらず,被告技研による本件契約の解除は,弁済期限を延長するなどの対策を考慮することもなく,原告を倒産させ,あるいは原告を吸収合併することを目的としたものであることなどの事情に照らせば,被告技研による本件解除は,解除権の濫用に当たり,許されない旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(a)原告は,本件契約書3条の譲渡対価は,高額過ぎる上,当時の原告の事業所得との格差も大きく,支払期間も短期に過ぎ,当時の原告の事業所得から払うことは当初から不可能であり,そのことは被告技研も知悉していた旨主張する。
しかし,?@前記ア(ア)のとおり,原告は,被告技研から原告に被告技研の有する知的財産を譲渡し,原告が上記知的財産を利用して第三者から融資又は資金提供を受け,被告技研が原告から上記知的財産の譲渡代金の弁済を受けることにより事業資金を得ることを目的として設立され,原告と被告技研は,上記目的を達成するため本件契約を締結したこと,?A本件契約書3条の譲渡対価は,公認会計士による鑑定評価に基づいて定められたものであること(甲5,被告技研代表者,弁論の全趣旨)に照らすならば,本件契約書3条の譲渡対価が不当に高額であるとはいえないし,また,上記譲渡対価の弁済は,本件契約が締結された当初から原告が第三者から資金導入を受けて弁済することが想定されていたものであって,原告の事業収入あるいは事業所得のみから弁済することが想定されていたわけではないから,原告の上記主張は,被告技研の本件解除が解除権の濫用に当たることを基礎付ける事情になるものではない。
(b)原告は,被告技研は,平成18年7月18日,原告の株主及び代表取締役がCに交代したにもかかわらず,Cに対し,総勘定元帳を始め,原告の経理及び営業に必要な帳簿類の引渡しも,閲覧もさせず,原告の事務所,工場にも立ち入らせることなく,原告の経理と営業活動を事実上行い,被告技研の利害得失を考慮しながら,原告の経理関係を調整することができたのに対し,Cら原告の役員は,原告の営業状況や負債を知ることができず,何らの対策を講じることができなかった旨主張する。
しかし,本件においては,被告技研が原告の経理関係を不当に調整していたことを認めるに足りる具体的な証拠はない。また,仮に原告が主張するように平成18年7月18日の時点ではCら原告の役員が原告の営業状況や負債を知ることができなかったとしても,被告技研は,平成20年5月,被告技研が事実上保管していた原告の総勘定元帳等の商業帳簿,取引関係書類を原告に引き渡しており(前記ア(キ)),原告は,被告技研が平成21年3月5日の本件口頭弁論期日において本件解除の意思表示をするまでの間に,上記商業帳簿,取引関係書類に基づいて原告の営業状況や負債の内容を検討することができたから,原告の上記主張は,被告技研の本件解除が解除権の濫用に当たることを基礎付ける事情になるものではない。
(c)原告は,本件覚書で定めた本件契約書3条の譲渡対価の弁済条件は,当初は原告に厳しいものであったものの,原告の利益が向上することが見込まれ,将来は債務弁済が可能になる状況にあったにもかかわらず,被告技研による本件解除は,弁済期限を延長するなどの対策を考慮することもなく,原告を倒産させ,あるいは原告を吸収合併することを目的としたものであり,また,原告と被告技研は,平成18年7月18日付け合意書及び同年12月20日付け合意書により,原告の事業の強化を図ることなどの基本合意をし,その合意内容の実現に向けて協議中であったにもかかわらず,その協議の最中である平成19年5月1日に,被告技研は本件解除の通知を発したものであり,著しく信義則に反する旨主張する。
しかし,前記ア認定の本件の経緯及び本件審理の経過に照らすと,被告技研が平成21年3月5日の本件口頭弁論期日において本件解除の意思表示をしたことが著しく信義則に反するものとはいえないし,また,被告技研の本件解除が原告を倒産させ,あるいは原告を吸収合併することを目的とした不当なものであるということもできない。
(d)以上によれば,被告技研による本件解除が解除権の濫用に当たるとの原告の主張は,理由がない。
エ 小括以上のとおり,本件商標権1,2,5は,原告に帰属するものと認められるが,本件商標権3,4は,被告技研の本件解除により原告から被告技研に復帰すべきものであり,原告は,被告らに対し,本件商標権3,4に基づく権利行使はできないものと認められる。
そこで,次項において,本件商標1,2,5と被告標章1,2,4との類否について判断することとする。
(2) 本件商標1,2,5と被告標章1,2,4との類否(争点1-2)ア 本件商標1と被告標章1との類否について被告標章1が本件商標1に類似する商標(商標法37条1号)に当たるかどうかについて判断する。
(ア)まず,外観についてみると,本件商標1は,「カンファるるど」の標準文字から成るのに対し,被告標章1は,別紙被告標章目録1記載のとおり,上段に「Comfor」という欧文字6字及び「るるど」という平仮名3字を横書きに書した「Comfor るるど」の文字部分と,同文字部分の「Comfor」の文字部分の下段に「カンファるるど」という仮名文字7字を横書きに書した文字部分から成り,上段の「Comfor」の文字部分は,緑色,ゴシック体様の文字で,下段の「カンファるるど」の文字部分の約3倍の文字サイズで書され,「C」の文字部分の中央部に青色の円が配置され,上段の「るるど」の文字部分は円状の緑色部分の中にゴシック体様の白抜き文字で,下段の「カンファるるど」の文字部分の約3.5倍の文字サイズで書され,下段の「カンファるるど」の文字部分は,緑色,ゴシック体様の文字で書されている。
このように,被告標章1の外観は,本件商標1の外観とは異なるものの,「カンファるるど」の文字部分を含む点において,本件商標1の外観と共通する。
(イ)次に,称呼についてみると,本件商標1からは「カンファルルド」の称呼が生じるのに対し,被告標章1の下段の「カンファるるど」の文字部分から上段の「Comfor」の文字部分は「カンファ」と読むことが認識され,被告標章1全体として「カンファルルド」の称呼が生じる。
このように,被告標章1と本件商標1とは,「カンファルルド」の称呼が生じる点で共通する。
(ウ)さらに,観念についてみると,本件商標1も,被告標章1も,その文字部分(「カンファるるど」及び「Comfor るるど」)は造語であり,本件商標1及び被告標章1は,いずれも格別の観念が生じるものではない。
(エ)被告らは,被告標章1を付した本件商品1(商品名「カンファるるど」)を販売しているところ(前記第2の2(5)),被告標章1の「カンファるるど」の文字部分は,本件商品1の商品名そのものである。
(オ)以上の認定事実を前提に判断するに,前記(ア),(イ)のとおり,本件商標1と被告標章1とは,外観全体としては異なるものの,「カンファるるど」の文字部分を含む点において外観に共通点があるとともに,「カンファルルド」の称呼が生じる点において共通するものであり,しかも,前記(エ)のとおり,被告らが商品名を「カンファるるど」とする本件商品1に被告標章1を付して販売している取引の実情を考慮すると,本件商標1と被告標章1とが同一又は類似の商品に使用された場合には,取引者,需要者が商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,本件商標1と被告標章1とは全体として類似するものと認められる。
そうすると,被告標章1は,本件商標1に類似する商標(商標法37条1号)に当たるものと認められる。
イ 本件商標2と被告標章2との類否について被告標章2が本件商標2に類似する商標(商標法37条1号)に当たるかどうかについて判断する。
(ア)被告標章2は,別紙被告標章目録2記載のとおり,「Comfor blow」という欧文字10字を,「blow」の「o」の1字は青色の水滴状の部分で表現され,その余の9字は緑色,ゴシック体様の文字で横書きに書して成るものである。
次に,?@前記第2の2(5)のとおり,被告らは,被告標章2を,除菌・消臭水噴霧装置である本件商品2(商品名「カンファブロー」)に付して使用していること,?A前記(1)ア掲記の証拠によれば,被告技研は,平成14年ころから,「カンファスイ」,「カンファシステム」などのように商品に「カンファ」の冠をつけて全国的に事業展開をし,本件口頭弁論終結日(平成21年3月5日)までには,被告技研が製造,販売する商品に「カンファ」の冠がついていることは取引者,需要者にも相当程度認識されるに至っていることが認められることに照らすならば,被告標章2からは,ローマ字読みあるいは英語風読みとして「コンフォブロー」の称呼が生じるとともに,「カンファブロー」の称呼も生じるものと認められる。
さらに,被告標章2の「Comfor blow」の文字部分は「Comfor」の文字部分と「blow」の文字部分を結合した造語であるが,「blow」の文字部分は「(風が)吹く」などの意味を有する英単語である。
以上の認定事実を総合的に考慮すると,被告標章2のうち「Comfor」の文字部分は,取引者,需要者の注意を強くひき,商品の出所識別力が生じているの対し,「blow」の文字部分は,本件商品2の機能(除菌・消臭水の噴霧機能)を「吹く」の意味を持つ英単語で表そうとしたものであって,その出所識別力は弱いものと解されるから,被告標章2の要部は「Comfor」の文字部分であると認めるのが相当である。
そうすると,本件商標2と被告標章2との類否を判断するに当たっては,本件商標2と被告標章2の要部である「Comfor」の文字部分とを対比するのが相当である。
(イ)aまず,外観についてみると,本件商標2は,別紙商標目録2記載のとおり,上段に「Comfor」という欧文字6字を黒色,ゴシック体様の文字で横書きに書し,下段に「カンファ」という片仮名4字を黒色,ゴシック体様の文字で,上段の「Comfor」の文字部分と同様の文字サイズで横書きに書して成る。これに対し被告標章2のうち「Comfor」の文字部分は,前記(ア)のとおり,緑色,ゴシック体様の文字で横書きに書して成り,「C」の文字部分の中央部に青色の円が配置されている。
このように,被告標章2の「Comfor」の文字部分の外観は,本件商標2の外観とは異なるものの,「Comfor」の文字部分を含む点において,本件商標2の外観と共通する。
b次に,称呼についてみると,本件商標2は,「Comfor」の文字部分の下段に「カンファ」の文字部分が書されていることから,「カンファ」の称呼が生じる。これに対し被告標章2のうち「Comfor」の文字部分からは,ローマ字読みとして「コンフォ」の称呼が生じるとともに,「カンファ」の称呼も生じる。
このように,被告標章2と本件商標2とは,「カンファ」の称呼が生じる点で共通する。
cさらに,観念についてみると,本件商標2も,被告標章2のうち「Comfor」の文字部分も造語であり,いずれも格別の観念を生じるものではない。
d以上の認定事実を前提に判断するに,前記a,bのとおり,本件商標2と被告標章2の要部である「Comfor」の文字部分とは,外観が共通するとともに,称呼も共通するから,本件商標2と被告標章2とが同一又は類似の商品に使用された場合には,取引者,需要者が商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,本件商標2と被告標章2とは全体として類似するものと認められる。
そうすると,被告標章2は,本件商標2に類似する商標(商標法37条1号)に当たるものと認められる。
ウ 本件商標5と被告標章4との類否について被告標章4が本件商標5に類似する商標(商標法37条1号)に当たるかどうかについて判断する。
(ア)被告標章4は,別紙被告標章目録4記載のとおり,上段に「Comfor」という欧文字6字を,下段左側に「THE HYGIENIC SANCTUARY」という欧文字20字を,下段右側に「Mixinova」という欧文字8字をそれぞれ青色,ゴシック体様の文字で横書きに書して成るものであって,「Comfor」の文字部分と「THE HYGIENIC SANCTUARY」の文字部分と「Mixinova」の文字部分との3つの構成部分を有する結合商標(結合標章)である。
ところで,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,その構成部分全体を対比して類否を判断するのを原則とすべきものであって,結合商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないと解するのが相当である(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
これを本件についてみるに,?@被告標章4の3つの構成部分の文字の大きさを対比すると,上段の「Comfor」の文字部分が最も大きく,次いで下段左側の「Mixinova」の文字部分,下段右側の「THE HYGIENIC SANCTUARY」の文字部分の順であり,「Comfor」の文字部分は,「THE HYGIENIC SANCTUARY」の文字部分の約7倍の文字サイズで書され,「C」の文字部分の中央部に青色の円が配置され,「Mixinova」の文字部分は,「THE HYGIENIC SANCTUARY」の文字部分の約3倍の文字サイズで書されていること,?A被告らは,被告標章4を,殺菌・消臭水生成装置である本件商品4(商品名「カンファミキシノーヴァ」)に付して使用していること(前記第2の2(5)),?B「THE HYGIENIC SANCTUARY」の文字部分が「衛生的な聖域」という意味を有する英単語から成るのに対し,「Comfor」の文字部分も,「Mixinova」の文字部分もいずれも造語であることに照らすならば,被告標章4においては,「Comfor」の文字部分及び「Mixinova」の文字部分が取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,本件商標5と被告標章4との類否を判断するに当たっては,本件商標5と被告標章4の「Comfor」の文字部分及び「Mixinova」の文字部分とを対比するのが相当である。
(イ)aまず,外観についてみると,本件商標5は,別紙商標目録5記載のとおり,上段に「Mixinova」という欧文字8字を黒色,ゴシック体様の文字で横書きに書し,下段に「ミキシノーヴァ」という片仮名7字を黒色,ゴシック体様の文字で,上段の「Mixinova」の文字部分と同様の文字サイズで横書きに書して成る。これに対し被告標章4のうち「Comfor」の文字部分及び「Mixinova」の文字部分は,前記(ア)のとおり,上段に「Comfor」という欧文字6字,下段右側に「Mixinova」という欧文字8字が配置され,それぞれ青色,ゴシック体様の文字で横書きに書して成るものであり,「Mixinova」の文字部分を含む点では共通するものの,文字数や文字の構成等の点において,本件商標5と外観が異なることは明らかである。
b次に,称呼についてみると,本件商標5は,「Mixinova」の文字部分の下段に「ミキシノーヴァ」の文字部分が書されていることから,「ミキシノーヴァ」の称呼が生じる。これに対し被告標章4のうち「Comfor」の文字部分及び「Mixinova」の文字部分からは,ローマ字読みとして「コンフォミキシノヴァ」が生じ,また,被告標章4が付された本件商品4の商品名と相まって「カンファミキシノーヴァ」の称呼が生じるものと認められる。
このように本件商標5の称呼と被告標章4のうち「Comfor」の文字部分及び「Mixinova」の文字部分の称呼が異なることは明らかである。
cさらに,観念についてみると,本件商標5も,被告標章4のうち「Comfor」の文字部分及び「Mixinova」の文字部分も,いずれも造語であって格別の観念が生じるものではなく,観念における共通性を見いだすことはできない。
d以上の認定事実を前提に判断するに,?@前記aないしcのとおり,本件商標5と被告標章4のうち「Comfor」の文字部分及び「Mixinova」の文字部分とは,外観,称呼の点において明らかに異なり,観念においても共通するものではないこと,?A前記イ(ア)?Aのとおり,被告技研は,平成14年ころから,「カンファスイ」,「カンファシステム」などのように商品に「カンファ」の冠をつけて全国的に事業展開をし,本件口頭弁論終結日(平成21年3月5日)までには,被告技研が製造,販売する商品に「カンファ」の冠がついていることは取引者,需要者にも相当程度認識されるに至っており,「Comfor」の文字部分からも商品の出所識別力が生じていることに照らすならば,本件商標5及び被告標章4が同一又は類似の商品に使用された場合であっても,取引者,需要者が商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできず,本件商標5と被告標章4のうち「Comfor」の文字部分及び「Mixinova」の文字部分とが全体として類似するとまで認めることはできない。
そうすると,被告標章4は,本件商標5に類似する商標(商標法37条1号)に当たるものとは認められない。
エ 小括以上のとおり,被告標章1は本件商標1に,被告標章2は本件商標2にそれぞれ類似する商標に当たるものと認められるが,被告標章4は本件商標5に類似する商標に当たるものとは認められない。
そして,除菌・消臭水噴霧器である本件商品1は本件商標権1の指定商品に,除菌・消臭水噴霧装置である本件商品2は本件商標権2の指定商品にそれぞれ含まれるものと解されるから,被告らが被告標章1を付した本件商品1及び被告標章2を付した本件商品2を販売する行為は,それぞれ本件商標1及び本件商標2の使用に当たるものと認められる。
(3) 被告技研の先使用権の成否(争点1-3)ア被告らは,被告技研は,本件商標1,2に係る各商標登録出願前から,日本国内において,本件商品1に被告標章1を,本件商品2に被告標章2をそれぞれ付して使用し,上記各商標登録出願の際,被告標章1,2は現に被告技研の業務に係る本件商品1,2を表示するものとして需要者である食品業界,水産加工業界,畜産業界,医療機関の関係者の間において広く認識されていたから,被告技研は,被告標章1,2を本件商品1,2にそれぞれ使用することについて,先使用権(商標法32条1項)を有する旨主張する。
しかし,被告らの主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)まず,被告標章1については,本件においては,本件商標1の商標登録出願日である平成17年5月11日の前から,被告技研が被告標章1を使用していた事実を認めるに足りる証拠はなく,また,上記商標登録出願の際,被告標章1が現に被告技研の業務に係る本件商品1を表示するものとして需要者である食品業界,水産加工業界,畜産業界,医療機関の関係者の間において広く認識されていたものと認めるに足りる証拠もない(かえって,被告技研代表者の供述中には,被告技研が被告標章1の使用を開始したのは平成18年初めころであるとの供述部分があることに照らすと,被告技研が本件商標1の商標登録出願日より前に被告標章1を使用した事実はないものとうかがえる。)。
(イ)次に,被告標章2については,被告技研代表者の供述によれば,被告技研が被告標章2の使用を開始したのは平成16年初めころであることが認められる。
しかし,本件においては,本件商標2の商標登録出願がされた同年11月9日の時点において,被告標章2が現に被告技研の業務に係る本件商品2を表示するものとして需要者である食品業界,水産加工業界,畜産業界,医療機関の関係者の間において広く認識されていたものと認めるに足りる証拠はない。なお,被告技研は,「Comfor Blow」という欧文字10字から成る標章を付した被告技研の製品のカタログ(乙11の2)を書証として提出するが,上記標章は,大文字の「B」を使用している点等において被告標章2とは異なる上,上記標章が需要者に対し広く認識されていたことを認めるに足りる他の証拠もなく,上記カタログから被告標章2が本件商標2の商標登録出願の時点において需要者の間で周知であったことをうかがうことはできない。
イ以上のとおり,被告技研は,被告標章1,2を本件商品1,2にそれぞれ使用することについて,先使用権を有するとの被告らの主張は,理由がない。
(4) 権利濫用の成否(争点1-4)ア被告技研は,本件商標権1,2は,形式的にも実質的にも被告技研に帰属していること,原告は,本件商標1,2を現に使用したことはなく,将来的にも使用する意思はなく,本件商品1,2を販売したこともないこと,本件商標2は,設定登録の日から3年以上使用されていないから,本件商標2の商標登録は審判による取消しを免れないこと(商標法50条)に照らすならば,原告の被告技研に対する本件商標権1,2に基づく差止請求は,権利の濫用に当たり,許されない旨主張する。
しかし,?@本件商標権1,2は原告に帰属していること(前記(1)イ(ア)),?A原告は,遅くとも平成19年6月ころからは,本件商標1,2に類似する標章(被告標章1,2と同様のもの)を使用し,本件商品1,2を販売していたこと(甲14,弁論の全趣旨)に照らすならば,被告技研の上記主張は,採用することができない。
イ次に,被告オレアは,原告には本件各商品の製造実績がないことなどから,原告の被告オレアに対する本件商標権1,2に基づく差止請求は,被告オレアの営業を妨害するためのものであり,正義公平の理念及び公正な競争秩序に反するものであるから,権利の濫用に当たり,許されない旨主張する。
しかし,前記ア認定の事実及び本件審理の経過に照らすならば,原告の被告オレアに対する本件商標権1,2に基づく差止請求権の行使が被告オレアの営業を不当に妨害することを目的とするものでないことは明らかであり,被告オレアの上記主張は,採用することができない。
(5) まとめ以上によれば,原告の被告らに対する本件各商標権侵害に基づく差止請求は,被告らに対し,被告標章1を付した本件商品1,被告標章2を付した本件商品2の販売の差止めを求める限度で理由がある。
2 本件販売契約の無効確認請求について(1) 確認の利益の有無(争点2-1)について原告は,被告技研及び被告オレアが本件販売契約に基づき本件各商品の取引をすることは,原告が本件契約に基づいて被告技研から譲渡を受けた本件各商品の独占製造権及び販売権の行使を阻害し,原告の営業活動を不可能にするものであるから,被告技研と被告オレア間の本件販売契約の無効確認を求める確認の利益を有する旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア確認訴訟における確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められると解すべきである(最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁,最高裁平成17年11月8日第三小法廷判決・裁判集民事218号263頁等参照)。
これを本件についてみるに,原告の本件販売契約の無効確認請求に係る訴えは,被告らが締結した本件販売契約の無効確認を求めるものであり,判決をもってその無効を確認しても被告ら間において本件販売契約上の債権債務が生じていないことが確認されるにとどまり,本件販売契約の契約当事者ではない原告の法律上の地位ないし利益に直接的に影響が及ぶものではない。
また,原告の主張する本件契約に基づく本件各商品の独占製造権及び販売権は,被告技研に対する債権的な請求権であって,被告技研以外の第三者に効力が及ぶものではないから,被告技研及び被告オレアが本件各商品の取引をすることにより,原告と被告技研との間では本件契約の債務不履行の問題が生じることはあっても,原告と被告オレアとの間では原告の上記独占製造権及び販売権の侵害の問題が生じるものではなく,判決をもって本件販売契約の無効を確認することによって原告の上記独占製造権及び販売権に係る法律上の紛争の抜本的な解決が図られるものではない。
さらに,本件契約が被告技研の本件解除により解除されたことは,前記1(1)ウ(ア)のとおりであり,原告は,そもそも原告主張の本件各商品の独占製造権及び販売権を有するものとはいえない。
イそうすると,被告ら間の本件販売契約によって原告の法律上の地位ないし利益が害される危険があるものとは認められないから,原告の本件販売契約の無効確認請求に係る訴えについての確認の利益は認められない。
(2) まとめ以上によれば,原告の本件販売契約の無効確認請求に係る訴えは,確認の利益を欠く不適法なものであって,却下を免れない。
3 結論以上によれば,原告の商標権侵害に基づく差止請求は,被告らに対し被告標章1を付した本件商品1,被告標章2を付した本件商品2の各販売の差止めを求める限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の差止請求は理由がないからこれを棄却することとし,原告の本件販売契約の無効確認請求に係る訴えは,確認の利益を欠く不適法なものであるからこれを却下することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 関根澄子
裁判官 古庄研