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関連審決 無効2007-800108
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10489審決取消請求事件 判例 特許
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関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  製造方法 /  使用方法 /  新規性 /  29条1項3号 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  発明特定事項 /  寄せ集め /  慣用技術 /  公知技術 /  先願主義 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術的範囲 /  同日出願 /  同一の発明 /  実施可能要件 /  試行錯誤 /  技術常識 /  先行技術 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  優先権 /  補正要件 /  実質的に同一 /  クレーム /  優先日 /  出願経過 /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  均等 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  業として /  設定登録 /  混同 /  発明の範囲 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  要旨変更 /  国際出願 /  国際公開 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10065号 審決取消請求事件
原告テイコクメディックス株式会社
訴訟代理人弁護 士小南明也
被告株式 会 社クレハ
訴訟代理人弁護 士山内貴博
同 田中昌利
同 東崎賢治
同 古川裕実
訴訟代理人弁理 士森田憲一
同 山口健 次郎
同 脇村善一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/03/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2007-800108号事件について平成20年1月23日にした審決を取り消す。
事案の概要
1本件は,被告が有し発明の名称を「経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤」とする特許第3835698号の請求項1〜7(本件特許)について原告が特許無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,?@本件特許について平成18年6月16日付けでなされた手続補正(本件補正,いわゆる「除くクレーム」を内容とするもの)が特許法17条の2第3項に違反するか,?A本件特許に係る明細書に実施可能要件又はサポート要件違反があるか(特許法36条4項,6項 ,?B本件特許発明が下記引用例 )との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか,である。
記・特開平11-292770号公報(発明の名称「マトリックス形成亢進抑制剤 ,出願人 呉羽化学工業株式会社,公開日 平成11年10月26日, 」甲1。以下「甲1公報」といい,そこに記載された発明を「甲1発明」という )。
・特公昭61-1366号公報(発明の名称「球型活性炭の製造方法 ,出」願人 住友ベークライト株式会社,公開日 昭和58年12月12日,公告日昭和61年1月16日,甲2。以下「甲2公報」といい,そこに記載された発明を「甲2発明」という )。
・北川浩ほか「フェノール-ホルムアルデヒド樹脂の水蒸気賦活 (工業化 」学雑誌73巻10号2100〜2104頁,1970年〔昭和45年 ,甲〕。「」,「」。) 3 以下 甲3文献 といい そこに記載された発明を 甲3発明 という・北川浩「フェノール樹脂を原料とする活性炭の製造 (日本化学会誌,1 」972年 昭和47年No 6 1144〜1150頁 甲4 以下 甲 〔〕,. ,,。「4文献」といい,そこに記載された発明を「甲4発明」という )。
・特開2002-308785号公報(発明の名称「経口投与用吸着剤 ,」出願人 呉羽化学工業株式会社,公開日 平成14年10月23日,甲5。以下「甲5公報」といい,そこに記載された発明を「甲5発明」という )。
・特開平7-165407号公報(発明の名称「イオン交換体から作られた活性炭小球体 ,出願人 Aほか,公開日 平成7年6月27日,甲7。以下 」「甲7公報」といい,そこに記載された発明を「甲7発明」という )。
・福元豊ほか「フェノール樹脂廃材を原料とした活性炭の製造 (炭素19 」99〔No.188〕138〜142頁,平成11年6月5日作成,甲8。
以下「甲8文献」といい,そこに記載された発明を「甲8発明」という )。
・笠岡成光ほか「フェノール樹脂繊維を原料とする繊維状活性炭の製造と分子ふるい特性 (日本化学会誌,1987年〔昭和62年 ,No.6,99 」 〕0〜1000頁,甲9。以下「甲9文献」といい,そこに記載された発明を「甲9発明」という )。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯ア被告は,平成14年(2003年)11月1日の優先権(日本国)を主張して,平成15年(2004年)10月31日,名称を「経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤」とする発明につき国際出願(PCT/JP2003/14012,日本国における出願番号は特願2004-548107号)をし,平成18年8月4日に特許第3835698号として設定登録を受けた(請求項の数7,以下「本件特許」という。特許公報は甲22 。)なお被告は,上記登録がなされるまでに複数回の手続補正を行い,特許登録がなされるに至った最終回のそれは,特許請求の範囲変更等を内容とする平成18年6月16日付けの手続補正(請求項の数7,甲24の11,以下「本件補正」という )である。。
イこれに対し,原告が本件特許の請求項1ないし7について特許無効審判請求を行ったので,特許庁は同請求を無効2007-800108号事件として審理し,平成20年1月23日,本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし,その謄本は平成20年2月1日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件特許の請求項1ないし7(以下,順に「本件特許発明1」〜「本件特許発明7」という )は次のとおりである(下線部分は「除く記載」に係る 。
部分 。)・ 【請求項1】,. フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され 直径が001〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり,そして細孔直径7.5〜15000nmの細. ,, ( ) 孔容積が0 25mL/g未満である球状活性炭からなるが 但し 式 1:R=(I-I)/(I-I) (1)15352435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折15強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における35回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°にお24ける回折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。
・ 【請求項2】全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる請求項1に記載の経口投与用吸着剤。
・ 【請求項3】非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される球状活性炭からなる,請求項1又は2に記載の経口投与用吸着剤。
・ 【請求項4】,. フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され 直径が001〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり,全酸性基が0.40〜1.00meq/gであり,全塩基性基が0.40〜1.10meq/gであり,そして細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である表面改質球状活性炭からなるが,但し,式(1 :)R=(I-I)/(I-I) (1)15352435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折15強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における35回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°にお24ける回折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表面改質球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。
・ 【請求項5】非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される表面改質球状活性炭からなる,請求項4に記載の経口投与用吸着剤。
・ 【請求項6】請求項1〜5のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾患治療又は予防剤。
・ 【請求項7】請求項1〜5のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,肝疾患治療又は予防剤。
(3) 審決の内容ア 審決の内容は 別添審決写しのとおりである その理由の要点は ?@ 除 , 。, 「く記載」を追加する本件補正は新規事項の追加に当たらない(特許法17条の2第3項 ,?A本件特許明細書に特許法36条4項1号(いわゆる実 )施可能要件)違反,36条6項1号(いわゆるサポート要件)違反,36条6項2号(いわゆる明確性要件)違反は認められない,?B本件特許発明1〜7は,甲1〜甲9発明に基づいて容易に想到し得たものと認めることはできない(詳細は審決記載のとおり ,というものである。 )イなお審決が認定した甲1発明の内容,同発明と本件特許発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
〈甲1発明の内容〉「直径が0.05〜2mmであり,比表面積(メタノール吸着法による)が500〜2000?u/gであり,細孔半径100〜75000オングストローム(細孔直径20〜15000nm)の空隙量が0.01〜1mL/gである経口投与用の吸着能に優れた球形活性炭又は酸化及び還元処理を施した球形活性炭を有効成分とする,肝疾患又は腎疾患の治療若しくは予防に用いる剤 」。
〈一致点〉いずれも「直径が0.05〜1mmであり,比表面積が特定されたもので,そして特定範囲の細孔直径の細孔容積を特定した球状活性炭からなる経口投与用吸着剤 」。
である点。
〈相違点(A 〉)球状活性炭を製造するための原料に関し,本件特許発明1では 「フ,ェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とし」と特定しているのに対し,甲1発明では,そのように特定していない点。
〈相違点(B 〉)比表面積の特定に関し,本件特許発明1では 「ラングミュアの吸着 ,式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり」と特定しているのに対し,甲1発明では 「比表面積(メタノール吸着法による) ,が500〜2000?u/gであり」と特定している点。
〈相違点(C 〉)特定範囲の細孔直径の細孔容積を特定した点に関し,本件特許発明1では 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/ ,g未満」と特定しているのに対し,甲1発明では 「細孔半径100〜 ,75000オングストローム(細孔直径20〜15000nm)の空隙量が0.01〜1mL/gである」と特定している点。
〈相違点(D 〉)本件特許発明1が,「但し,式(1 :)R=(I-I)/(I-I) (1)15352435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回15折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°にお35ける回折強度であり Iは X線回折法による回折角 2θ が24° ,,()24における回折強度である〕(). ,」 で求められる回折強度比 R値 が1 4以上である球状活性炭を除く, 。 と特定しているのに対し 甲1発明ではそのように特定されていない点(4) 審決の取消事由しかしながら,審決には以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。なお,以下の原告の主張は本件特許発明1を中心とするものであるが,本件特許発明1〜7のすべてに妥当するものである。
ア 取消事由1(新規事項の追加に当たらないとした判断の誤り)(ア)取消事由1-1(いわゆる「除くクレーム」による補正自体が許されないこと)a本件特許発明1は 「但し,式(1 :R=(I-I)/(I ,)1535) ( )〔,,()2435 15-I1式中 Iは X線回折法による回折角 2θが15°における回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角35(2θ)が35°における回折強度であり,Iは,X線回折法によ24る回折角(2θ)が24°における回折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする 」との要件(以下「本件除く要件」という )を規定する,いわ , 。
ゆる「除くクレーム」の形となっている。これは,本件特許出願に関する拒絶査定不服審判において,本件特許と同日(平成15年10月31日)にされた別件特許の出願(特願2004-548106号)に係る発明(発明の名称「経口投与用吸着剤 ,出願人・特許権者 呉 」羽化学工業株式会社,特許第3672200号,特許公報は甲6。以下「甲6発明」という )と同一である旨の平成18年3月13日付 。
拒絶理由通知(甲24の6)を回避するため,平成18年5月15日付け補正(甲24の8)により追加され,特許請求の範囲の全文補正である平成18年6月16日付け補正(甲24の11,本件補正)においても維持された事項である。
そして 上記拒絶査定不服審判に係る審決は 特許庁の審査基準 甲 , ,(27)が 「除くクレーム」という形式の補正,すなわち 「請求項に , ,係る発明が,先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号,第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に,補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,当該重なりのみを除く補正(5頁9行〜11行)を特許法17条の2第3項の例外と 。」して許容していることから,本件補正を許容したものである。
しかし,特許法(以下「法」という )17条の2第3項は,明細 。
書や特許請求の範囲等の補正は,出願当初明細書に記載した事項の範囲内で行われなければならないと規定しているのであって,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,図面に記載した事項の範囲内で行われたものではなく,新規事項を追加するものであり,法17条の2第3項に規定する要件を満たさない違法な補正である。
なお,上記のとおり,審査基準は「除くクレーム」による補正を許容しているが,そのこと自体,法17条の2第3項の誤った理解に基づくものである。法17条の2第3項は,先願主義の下,特許出願人と第三者の公平を図るという趣旨に基づく法規範であるところ 「除,くクレーム」という形式を無条件に許容すると,出願当初明細書には。, 何も記載されていない発明を特許として認めるおそれがある 例えば「A+B」というクレームにおいて,出願当初明細書には「C」について何も記載されていないのに 「Cを除く」とすることで,結果的 ,に 「A+B+非C」というクレームの特許が成立し得る危険性があ ,り,しかも,その「非C」における「C」が一義的には不明確で,それをどのように特定するかについて出願当初明細書に示唆すらされていない場合はなおさらである。
したがって,いわゆる「除くクレーム」による補正は法に明文規定がない以上許されないと解すべきである。
bこの点,知財高裁平成20年5月30日判決(判例時報2009号47頁,以下「知財高裁大合議判決」という )は,いわゆる「除く 。
クレーム」が許されるか否かについて,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項が導入されているかどうかで判断すべきとする。
確かに,この考え方は明細書等に明示的に追加記載された場合においては十分に妥当するが,明細書等に明示的に記載されておらず,自明でもない場合に 「除く」という形式で消極的に追加記載された場 ,合には妥当しない。
法は,明細書に一定の記載をすることを義務付け,また,補正の範囲を画するために 「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲 ,又は図面に記載した事項の範囲内 (法17条の2第3項)と規定し 」ているのであるから,いかに記載の有無を実質的に判断すればよいといっても 「明示的に記載されている事項」と「明示的には記載され ,ていないが実質的には記載されていると判断される事項」とは区別されなければならない。
明示的には記載されていないという客観的事実の持つ意味は極めて重いのであり,除くという形式で消極的に追加記載された場合においては原則として新規事項が追加されたものと認めなければならないし,特許出願人と第三者の公平を図る必要があることから 「除くク ,レーム」を許容する場合は,極めて限定的に理解されなければならない。
, , 特に 知財高裁大合議判決の事案は法29条の2の適用事例であり「除くクレーム」とする訂正を行った特許出願人が先願明細書に記載された実施例の存在を意識できないこと(知り得なかったこと)は十分に考慮されなければならない。なぜならば,先行技術と重複することをおよそ知り得ない場合(特許出願人が出願当時に当該重複について認識し得ない場合)においては,明細書に記載のしようがない。そのため,実質的考慮が必要な場合のあることが理解できなくはない。
これに対し,出願当時に先行技術との重複を認識していた場合(あるいは認識し得た場合)は,明細書の作成に際して十分に留意することが可能であり,出願当初から明示的に除外しておくべきである。この点は法36条4項2号において「 その発明に関連する文献公知発 (明について)特許出願の時に知っているもの」を記載するように要請している趣旨も参考となる。
そして被告は,同一発明者・同一出願人・同一代理人であって,本件特許と同日に出願された本件発明に係る先行技術との重複を十分に認識していたのであり,知財高裁大合議判決の法29条の2適用事例とは全く異なる。
仮に,本件補正を適法なものとして本件特許発明と甲6発明の併存が許容されるならば,新規と思われる物について,原料,物性等の項目から適当なものを取捨選択して,これらの項目が課題を解決するために必要であるかを十分に検討しないまま(要するに発明未完成のまま ,重複態様も厭わず明細書の記載を見繕って複数の特許出願を行 )っておき,特許出願後に判明した事実に合致して「除く」形式を多用してすべての特許出願を権利化することが許されることになる。
このような特許出願の権利化を許せば,先願主義に反し,第三者の研究活動,事業活動を不当に妨げる結果をもたらすことからも明らかであるこのように,法29条の2の適用事例とは異なる本件においては,本件補正を適法なものとして敢えて救済措置を採る必要性は全くないのである。
(イ)取消事由1-2(知財高裁大合議判決の判断基準を前提としても本件「除くクレーム」は許されないこと)仮に知財高裁大合議判決の示した判断基準「新たな技術的事項が導入されたか否か」に照らしても,以下のとおり,本件補正は新規事項の追加であり,許されるべきではない。
a本件補正前に係る本件特許発明の技術的事項甲6発明に係る明細書を参酌しつつ本件補正前に係る本件特許発明の明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項は,次のとおりである。
?@本件発明者は,ピッチ類から球状活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤よりも一層優れた選択的吸着性を示す経口投与用吸着剤の探求を進めていたこと。
?Aフェノール樹脂又はイオン交換樹脂(いずれも熱硬化性樹脂の一部)を炭素源として調製した球状活性炭は,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらずβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,有益な選択吸着性を有することを見出し,さらに,その選択吸着性の程度が特公昭62-11611号公報(特許文献1,甲26)に記載の吸着剤よりも優れていることを見出したこと。
?B前記?Aの球状活性炭は,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造した球状活性炭のうち本件特許出願人の定めた方法(甲6,段落【0041 )により測定した回折強度比(R値)が 】1.4以上(甲6,段落【0017 )であること。 】?CR値を1.4以上とするための主要な方法は,炭素源を熱硬化性樹脂とすることであること(甲6,段落【0018 。】)b本件補正により技術的範囲変更されたこと本件除く要件は,回折強度比(R値)が1.4以上である場合を除いている点で,本件補正前の発明に対し技術的意味での限定を加えており,換言すれば,本件補正後の発明は補正前の発明と比較してその技術的範囲が相違する。
cR値の意義等が一義的に不明確であること本件特許発明に係る明細書にはR値に関する記載がないが,R値という概念は一般的技術用語ではないから,R値に係る本件除く要件の追加によりどのような球状活性炭が除かれるのか,また何のために除くのかという技術的な意味を理解することはできないし,R値1.4以上の球状活性炭をどのようにして製造するのかも不明である。さらに 「単に特定の物質だけをその権利範囲から除外する」という態様 ,とは全く異なり 「R値1.4以上」という一定の範囲をすべて除外 ,してしまうものであるから,除かれた後に残された球状活性炭が果たして発明の効果を奏するのか不明である。
しかも,R値の計算根拠となる回折強度は,その測定装置,測定条件,補正の有無などによって様々な値が導かれる。そのため,どのような測定条件等によって得られた回折強度比(R値)かを明示しなけ,, 。 れば 何を除き 何を残したかという境界を確定することができないすなわち,いかなる測定条件等を前提とした回折強度比(R値)かによってその技術的範囲が変化するのである。
そうすると,本件補正により,以上のような追加的説明が明細書に記載される必要があるのであって,そのような追加的説明を要すること自体 「新たな技術的事項」を導入することにほかならない。 ,d実施例がなくなったこと本件補正により技術的範囲変更されたことは,本件特許発明に係る明細書において実施例として記載されていた事項のすべてが実施例でなくなったことからも明らかである。
実施例とは,当該発明の実施の形態を具体的に示したものであり,発明の実施形態において特許出願人が当該発明を実施するために最良と思うものが記載されるところ これが除外されたということは請 , ,「求項に係る発明の大きな部分を占め」た部分(=主要部)が除外されたというべきであり,技術的範囲が大きく変更されたことになる。
しかも,被告は出願経過において,本件補正により除外された実施例の選択吸着率が公知技術と比べて優れていることを根拠として本件特許発明の特許性を説明してきたのであるから,その意見書における説明自体を根底から覆すことになる。
なお,知財高裁大合議判決の事案では,除く訂正によって一部除外された部分があったとしても,それを除外した残りのすべての組み合わせ(多数)に係る構成において訂正前の発明の最大の特徴点やその奏する効果も同じであることを考慮している。
これに対して,本件補正によって実施例のすべてが除外されたのであるから,そもそも残り部分が存在せず,実施例に裏付けられない発明となったのであるから 「新たな技術的事項」が導入されたことが ,明らかである。
e実験成績証明書による補充説明を行っていること被告は,本件補正に当たり,手続補足書(甲24の9)に添えて実験成績証明書2通( 実験成績証明書A 「実験成績証明書B )を提 「」」出し,回折強度比(R値 (それに関連する測定方法,測定条件など )も記載されている )を含めた物性値の測定結果や製造方法,効果な 。
どを説明している(甲24の7 。)すなわち,R値1.4以上を除いた本件特許発明による経口投与用吸着剤がその発明の効果を奏すること(及び「イオン交換樹脂」を炭素源として得られた経口投与用吸着剤)が出願当初明細書に記載されていないことを被告自身が認めていたからこそ,前記「実験成績証明書A 「実験成績証明書B」を提出して明細書の記載を追加したので 」ある。
これは,本件補正によって,請求項に係る発明の成立性を裏付ける( ), データを示す必要性 従来の実施例を交換する必要性 が生じたことすなわち追加的説明が必要であることを端的に示すものであり,本件補正によって「新たな技術的事項」が導入されたことを被告が自認したものにほかならない。
f同日特許出願明細書(甲6)との矛盾被告は,甲6発明に係る明細書においては 「R値1.4以上」の ,ものでなければ目的とする作用効果が奏しないと強調して特許査定を経ており,その明細書には,従来公知の経口投与用表面改質球状活性炭のR値は1.4未満であり,1.4以上のものは見出されていなかったところ,本件特許出願人が1.4以上のものと1.4未満のものを比較するとβ-アミノイソ酪酸の吸着能が向上し,毒性物質の選択吸着性が向上したこと,その選択吸着性が向上したことを示す実施例として表1,2が記載されている(段落【0017 。】),,「. しかるに 本件特許発明においては 本件補正によって R値が14以上のものを除く」のであるから,R値が1.4未満のものでも,毒性物質の選択吸着性などが向上することが示されなければならない。
本件補正前の発明では実際の技術思想よりも広いクレームで記載さ,「」(., れていたためR値 には無関係に R値が1 4未満のものでもR値が1.4以上のものでも)選択吸着性が向上する(ただし,その程度は甲6発明と同水準)という技術思想のはずであった。
ところが,本件除く要件を追加することで 「R値が1.4以上」 ,であることを必須要件とする甲6発明と矛盾する内容となってしまったため,なぜ甲6発明と同じ作用効果が奏するのかという点についての技術的疑問が発生することになり,それに対して技術的説明を加える必要が出てきた。もちろん,これに対して適当な理由を付けることはできるであろうが(その一つが前記実験成績証明書である,この。)ような説明をしなければならなくなったということは 「本件出願当 ,初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項」だけでは説明できない事項が発生したということであり,結局,本件,「」 。 補正によって新たな技術的事項 が導入されたということであるイ取消事由2(細孔容積要件に関する明細書の記載不備に当たらないとした判断の誤り)(ア)本件特許の明細書(特許公報,甲22)に実施例(実施例1,2)として記載されているのは 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔 ,容積0.04mL/gあるいは0.06mL/g」の「フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭」であり,かつ,上記実施例のものを得る方法のみであり,それ以外は一切記載されていない。細孔容積が本件特許発明と同様の「0.25mL/g未満」のもの,すなわち,0.06mL/gよりも大きくしたものや0.04mL/gよりも小さくしたもの(0.25mL/g程度の大きさのものから0.04mL/gよりも極端に小さいもの)をどのようにして得ることができるのか,さらに,それらが本件特許発明の効果を奏するかについて全く記載されていない。
もともと本件特許出願は,特定の細孔直径範囲内の細孔容積を限定す,「 , る発明ではなく熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭は酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず,経口吸着剤として優れた選択吸着性を示す」という発明であったため,特定細孔直径の範囲内の細孔容積を限定する必要もなく,ましてやどのような炭化・賦活条件下にすれば特定細孔直径の細孔容積を有する選択的吸。, 着能に優れた活性炭が得られるかなどは発明の対象外であった しかし熱硬化性樹脂を炭素源として製造した球状活性炭を経口投与用吸着剤として用いることは当業者が容易に想到できるとの拒絶理由が通知されたため,苦肉の策で発明の内容を変更し,偶然明細書に記載されていた数値を基に本件補正において数値限定要件を付加したものである。
しかも被告は 「イオン交換樹脂を炭素源とした球状活性炭」につい ,て,その細孔容積をどのようにして特定の範囲にするかはもちろん,本件特許発明の効果(経口投与用吸着剤としての効果)を奏するかについて全く記載されていないとの拒絶理由を受けたことから,実験成績証明書A(甲24の9)によって明細書の記載を補足するに至った(甲24の7 。実験成績書で補足説明しなければならないこと自体,本件明細 )書に記載がないことを自認するものであるし,特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することにより,その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲にまで拡張ないし一般化して明細書の記載不備を補うことは許されない。
このように,本件特許の明細書には,本件特許発明が当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない(法36条4項1号違反 。)また,本件特許発明は,本件特許の明細書において発明として記載していない範囲についてまで特許を受けようとするものであり,本件特許の明細書には,特許を受けようとする発明が記載されていない(同条6項1号違反 。)(イ)これに対し審決は,本件特許の明細書に 「フェノール樹脂を炭素源 ,とする場合には0.04mL/gあるいは0.06mL/g」であり,「イオン交換樹脂を炭素源とする場合には0.42mL/g (本件特 」許で特定する0.25mL/gより多い)の例しか示されていない旨認定しつつ(41頁7行〜10行「かかる細孔容積の条件が臨界的な意 ),義を有すると解するよりも,選択吸着率を優れたものとするために,孔径の大きな細孔を少なくすべきことを単に表現している目安にすぎないものと理解でき」る(41頁34行〜36行)と認定するが,誤りである。
本件特許発明に係る細孔容積要件は,細孔容積を「0.25mL/g未満」という明確な数値で限定しているのであるから,それが臨界的意義を有することは明らかである。しかも,公知技術として細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着能に支障があることが明らかである(審決41頁36行〜42頁1行)というのであれば 「0.04mL/gより ,も極端に小さいもの」については,経口投与用吸着剤として有効に機能しないことを推認させるものである。フェノール樹脂及びイオン交換樹脂を炭素源とする場合について 「0.04mL/gよりも極端に小さ ,い」ものが試行錯誤を経れば製造し得るかということと,それが経口投与用吸着剤として有効に機能することが明細書に記載されているかということは,全く次元が異なる。
また審決は,明細書にイオン交換樹脂を炭素源とする場合については本件特許発明に係る細孔容積の要件を満たす例が記載されていないことを認定しつつ(42頁32行〜34行「フェノール樹脂と同様の熱硬 ),化性樹脂の一つであること (42頁下7行〜下6行)を根拠に,細孔 」容積を制御できるとするが,誤りである。仮に,このような理屈が通る,「」 , のであればフェノール樹脂 は熱硬化性樹脂の一つであることから「熱硬化性樹脂」についても記載されていることになり,これでは,発明の詳細な説明の記載に基づいて,当業者が「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂以外の熱硬化性樹脂を炭素源とする請求項1の経口投与用吸着剤」を製造できるのか否かが明らかでない旨の平成18年5月25日付け拒絶理由通知(甲24の10)を受けて,平成18年6月16日付けの本件補正により「熱硬化性樹脂」を「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」に補正したという経緯にも反することになる。
ウ 取消事由3(進歩性があるとした判断の誤り)審決は,本件特許発明1と甲1発明の相違点(A)に関し 「炭素源の ,選択に格別の困難性がある」として容易想到性がないと判断したものであるが,以下のとおり審決の上記判断は誤りである。
(ア) 相違点(A)が実質的に相違点でないこと本件特許発明1と甲1発明が形式的には相違点(A)のとおり相違することは原告においても争わないが 「フェノール樹脂又はイオン交換 ,樹脂」は「熱硬化性樹脂」に包含されること,また,甲1公報に 「有,機高分子焼成の球形活性炭は,例えば,特公昭 61-1366 号公報に開示されており,次のようにして製造することが可能である。… (段落【0 」009 )と記載され,甲2公報に 「本発明で使用することのできる縮 】 ,合型の熱硬化性樹脂プレポリマーとしては,ノボラック型フェノール樹脂プレポリマー,レゾール型フェノール樹脂プレポリマー,ノボラック型アルキルフェノール樹脂プレポリマー,レゾール型アルキルフェノール樹脂ポリマー,これらのキシレン/ホルムアルデヒド縮合物,トルエン/ホルムアルデヒド縮合物…等があり,要すれば硬化剤,硬化触媒等を混合して使用することもできる(2欄24行〜3欄9行)と記載さ 。」れていることからすれば,相違点(A)は実質的な相違点ではない。
(イ)活性炭原料として「フェノール樹脂」を採用することが極めて容易であることa審決は 「…甲第1号証では経口用のものを意図しているのである ,ことから,甲第1号証発明において,甲第2号証記載の活性炭を採用し経口用の吸着剤として用いることを想い到る可能性はあるといえる (51頁8行〜10行)としつつ 「…多数の選択肢の中の一つで 」 ,ある熱硬化性樹脂であって,その一例であるフェノール樹脂を採用できる可能性が示唆されていると言えるに止まる (51頁12行〜1 」4行)とする。
これは 「多数の選択肢の中の一つである熱硬化性樹脂」から,更 ,に「その一例であるフェノール樹脂」を採用できる可能性が示唆されているにすぎないということであり,換言すれば (経口用吸着剤と ,して用いる)活性炭の原料として,多数選択肢がある中で 「熱硬化 ,性樹脂」の一例に過ぎない「フェノール樹脂」を実際に採用することが困難であると判断したということである。
しかし,以下に述べるとおり,球状活性炭の炭素源としてフェノール樹脂(あるいは熱硬化性樹脂)を用いることは,公知技術以前の周知慣用技術である。すなわち,本件特許出願の相当以前からフェノール樹脂を原料として球状活性炭を製造することが広く知られており,それだけでは微小粒径の調製困難,粒径制御が不十分,均質性,効率が悪い等の様々な問題点があるため,フェノール樹脂に他の物質を混合して球状活性炭を製造することや,フェノール樹脂自体の製造方法を工夫することなどに関する発明が多数開示されているのである。したがって,少なくとも「フェノール樹脂」については「実質的に記載されている」と判断されなければならない。
b(a) 被告の出願に係る文献(出願経過で提出されたもの)甲1公報以外の以下の文献においても 「有機高分子焼成の球形 ,活性炭」が記載されている。
・特開平8-208491号公報(発明の名称「薬剤の腎毒性軽減剤 ,公開日 平成8年8月13日,甲23の7の3。以下「甲 」23の7の3公報」という )。
・特開平10-316578号公報(発明の名称「リポタンパク質リパーゼ低血症改善剤 ,公開日 平成10年12月2日,甲3 」0。以下「甲30公報」という )。
・特開平11-292771号公報(発明の名称「活性型ビタミンD代謝の改善剤 ,公開日 平成11年10月26日,甲23の 」7の4。以下「甲23の7の4公報」という )。
(b) 被告以外の出願に係る文献(出願経過で提出されたもの)甲2公報以外の文献においても,フェノール樹脂に関する記載が多数存在する。
・特開昭56-28766号公報(発明の名称「血液清浄化用活性炭 ,出願人 住友ベークライト株式会社,公開日 昭和56年 」3月20日,甲15。以下「甲15公報」という )。
同公報には 「熱硬化性樹脂を主原料とした粒状活性炭 (特許 , 」請求の範囲 ,熱硬化性樹脂として「…フェノール系樹脂… (2 ) 」頁左下欄11行〜12行「…ノボラック型フェノール樹脂,レ ),ゾール型フェノール樹脂…が好ましい (同欄18行〜右下欄1 」行)などと記載されている。
・特公昭63-51161号公報(発明の名称「巨大網状多孔性合成重合体熱分解粒子 ,出願人 ローム・アンド・ハース・カン 」パニー,公開日 昭和51年11月4日,甲23の15〔刊行物〕。「」。) 等提出書に添付の第1号証以下 甲23の15公報 という同公報には 「合成有機重合体 (特に,イオン交換樹脂やフェ ,」ノール樹脂等の熱硬化性樹脂)を炭素源とする活性炭を用いた吸着剤が記載されており 「合成有機重合体の熱分解は,更に活性 ,炭の製造に用いられる天然産原料で可能であるよりもはるかに大きな程度に出発原料,従って最終生成物の制御を可能にする。特定の吸着される物質についての吸着能力を増大するために望ましい元素及び官能基を導入することは容易に達成される。平均気孔孔径及び気孔孔径分布の制御はよく規定された合成出発材料で更。 , にはるかに容易に達成される この制御性がよくなることにより特定の吸着される物質について計画された,活性炭で可能であるより遙かに大きな吸着能力をもつ吸着剤の製造が可能になっている(2頁4欄20行〜32行)と記載されている。すなわち, 。」原料として特に熱硬化性樹脂(イオン交換樹脂やフェノール樹脂等)を用いることで活性炭において必要とされる吸着能力を容易に制御できることが明らかとされている。
・特開平4-338107号公報(発明の名称「球状活性炭の製法 ,出願人 クラレケミカル株式会社,公開日 平成4年11月 」25日,甲31。以下「甲31公報」という )。
同公報には,球状活性炭の原料としてフェノール樹脂を用いること,均一で不純物が少ない球状粒子が得られること,強度及び硬度が大きく,活性炭として優れていること,この球状活性炭は従来フェノール系活性炭が使用されていた分野で多くの用途に使用できることなどが記載されている。
・甲7公報には,粒状有機ゲルイオン交換体から球状活性炭(活性炭小球体)を作る方法が記載されており,具体的には,?@0.4〜0.8mmの直径を有するゲル型イオン交換体を原料とする(,), 活性炭小球体の製造例 実施例1 5欄4行〜22行 において炭化,活性化の結果として1300?u/gの内表面積が達成できたこと,小球体の直径は20%まで低下したこと(これより,製造された活性炭小球体の直径は0.08〜0.16mmであることがわかる ,?A「 請求項17】主として 100 〜 300 オングス 。)【トロームの狭いメソポア分布及び少しだけのマクロポアを有することを特徴とする球状活性炭(1欄45行〜47行「…特徴 。」),として,この小球体活性炭の孔分布構造は,100 〜 300 オングストロームの範囲内の小さいメソポアスペクトルと少しのマクロポアを示す (4欄50行〜5欄3行)などが記載されている。 。」( ) (c) 被告以外の出願に係る文献 出願経過で提出されていないもの下記公報には,いずれも球状活性炭の原料としてフェノール樹脂を用いることが記載されている。
・特開平11-1314号公報(発明の名称「球状活性炭素材及びその製造方法 ,出願人 大日本インキ化学工業株式会社,公開 」日 平成11年1月6日,甲32の1。以下「甲32の1公報」という )。
同公報には球状活性炭素材及びその製造方法 に関してフ ,「 」,「ェノール樹脂」を原料とすることが既に知られていること 「フ,ェノ-ル樹脂」を原料としたものでは,微小粒径のものが調製困難であったり,粒径制御が十分でなかったり,又は比表面積が低かったりする問題点を有していることなどが記載されている(段落【0001【0003】〜【0007【0016【00 】, 】,】,17 【0040 【0059】参照 。 】,】,)・特開平11-60664号公報(発明の名称「感圧熱自硬化性」, , 球状フェノール樹脂の製造方法出願人 群栄化学工業株式会社公開日 平成11年3月2日,甲32の2。以下「甲32の2公報」という )。
同公報には 「粒状活性炭」等広範な用途に使用できる「感圧 ,熱自硬化性球状フェノール樹脂の製造方法」が記載されており,その前提として,取り扱いやすい保存安定性のよい球状フェノール樹脂の製造方法が公知であること,公知の方法で得られた球状樹脂は粒状活性炭等の用途には,加熱時樹脂粒が融着してしまうため不適当であり,球状である特徴を活かすことができないなどの問題点を有していることなどが記載されている(1欄48行〜2欄1行,2欄44行〜48行,8欄42行〜48行参照 。)・特開平11-217278号公報(発明の名称「活性炭素多孔体の製造方法 ,出願人 群栄化学工業株式会社,公開日 平成1 」,。「」。) 1年8月10日 甲32の3 以下 甲32の3公報 という同公報には 「粒状(活性炭 」を含む「活性炭素多孔体を使用 ,)する際に必要となる種々の形状のもの」が容易に得られる「フェノール樹脂発泡体を炭化,賦活化することにより得られる活性炭素多孔体の製造方法」が記載されており,その前提として 「フ,ェノール樹脂を原料とする活性炭素繊維は比表面積が2500?u/gくらいまでの高性能のものが得られるが,活性炭素繊維の前駆体である繊維を得るためには,原料の調製,紡糸の工程が必要となり,その製品は高価にならざるを得ないという問題点があっ(【】,, たことなどが記載されている請求項11欄15行〜42行1欄49行〜2欄11行,3欄27行〜4欄下1行参照 。)・特開2000-233916号公報(発明の名称「球状活性炭及びその製造方法 ,出願人 二村化学工業株式会社,公開日 平 」成12年8月29日,甲32の4。以下「甲32の4公報」という )。
同公報には 「球状フェノール樹脂を炭化,賦活してなる平均 ,粒径20〜200μmの球状活性炭」及びその製造方法が記載されており,その用途としては 「特には流動床に好適」と記載さ ,れているが,それに限定されるものではなく 「吸着剤」として ,「」,「」 使用される 球状活性炭 の製法として球状フェノール樹脂を用いることが記載されている。これにより,微粉を生じ難く,流動性に優れ,しかも小さな平均粒径のもので,吸着性能が優れたものとして表面積が大きなものが得られることなどが記載されている(段落【0001】〜【0004【0006【000 】,】,7【0009【0013】〜【0015【0037【0 】,】, 】,】,038】参照 。)・特開2001-114852号公報(発明の名称「球状フェノール樹脂の製造方法 ,出願人 群栄化学工業株式会社,公開日 」平成13年4月24日,甲32の5。以下「甲32の5公報」という )。
同公報には,加熱時熱融着がないことから,粒状活性炭等の材料として用いるに適している「球状フェノール樹脂」の製造方法が記載されており,その前提として,取り扱いやすい保存安定性のよい球状フェノール樹脂の製造方法が公知であること,公知の方法で得られた球状樹脂は,粒状活性炭等の用途には加熱時樹脂粒が融着してしまうため不適当であり,球状である特徴を活かすことができないなどの問題点を有していることなどが記載されて(【】 【】,【】,【】 いる 段落 0001 〜 000500410042参照 。)・特開昭59-6208号公報(発明の名称「硬化した球状フェノール樹脂の製造方法 ,出願人 群栄化学工業株式会社,公開日 」昭和59年1月13日,甲32の6。以下「甲32の6公報」という )。
同公報には,活性炭用として有用な「硬化した球状フェノール樹脂の製造方法」が記載されており,その前提として,球状フェノール樹脂の製造方法が公知であること,公知の方法で得られた球状フェノール樹脂を不活性ガス中で処理すると球同士の相互融着してしまい,球状活性炭として利用する場合致命的な欠陥となる問題点を有していることなどが記載されている(1頁左下欄18行〜右下欄1行,2頁左上欄12行〜右上欄2行参照 。)・特開平11-116648号公報(発明の名称「球状フェノール樹脂の製造方法 ,出願人 住友デュレズ株式会社,公開日 平 」成11年4月27日,甲32の7。以下「甲32の7公報」という )。
同公報には 「機械的粉砕または粒径調整をすることなく球状 ,フェノール樹脂を得る方法」が記載されており,この「球状フェノール樹脂」は活性炭原料として利用するのに好適であることなどが記載されている。その前提として,フェノール樹脂が各種炭素材料の炭素源として使用されていること,粒子状炭素材が使用されている分野として活性炭があげられること,用途によって様々な粒径のものが要求されており,粒子状炭素材を製造するためにフェノール樹脂の硬化,粉砕,炭化,再粉砕といった工程が必要であること,などが記載されている(段落【0001】〜【0003 【0007 【0022】参照 。 】,】,)・特開2001-288238号公報(発明の名称「フェノール樹脂硬化物及びそれを用いた活性炭 ,出願人 住友デュレズ株式 」会社,公開日 平成13年10月16日,甲32の8。以下「甲32の8公報」という )。
同公報には 「フェノール樹脂硬化物を用いた活性炭」が記載 ,されている すなわち 記載された製造方法によって得られた 球 。, 「状フェノール樹脂」は,活性炭原料として利用するのに好適であり,高比表面積,細孔径がシャープで吸着能力が向上した活性炭を得られることなどが記載されている。その前提として,活性炭用フェノール樹脂を炭化,賦活することで得られた活性炭は,従来の椰子殻活性炭と比較して,高比表面積で,シャープな細孔径を有することから高吸着能力を有することで高性能のものが得られていたこと,活性炭原料では椰子殻,石油ピッチ,フェノール樹脂 その他の樹脂が公知であること などが記載されている 段 , ,(【】 【】,【】,【】)。 落 0001 〜 000500110026 参照(d) 特開2004-244414号公報について特開2004-244414号公報(発明の名称「医薬用吸着剤及びその製法 ,出願人 メルク・ホエイ株式会社,二村化学工業株 」式会社,群栄化学工業株式会社,公開日 平成16年9月2日,甲33。以下「甲33公報」という )においては 「 請求項1】球 。,【状フェノール樹脂を炭化,賦活することにより得られた活性炭であって,比表面積500〜2000?u/g,細孔容積0.2〜1.0mL/g,充填密度0.5〜0.75g/mLの球状の活性炭から」 , なることを特徴とする医薬用吸着剤 との記載から明らかなように「球状フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭」が公知であることを当然の前提として特許出願がなされている。
また,段落【0022】には 「本発明に用いられる球状フェノ ,ール樹脂としては,特開平11-60664号や,特開2001-114852号に記載の球状フェノール樹脂が好適な例として用いることができる 」として,前記甲32の2公報,甲32の5公報 。
が記載されている。すなわち,群栄化学工業株式会社を含むフェノール樹脂の製造メーカーにとっては,球状活性炭の原料(炭素源)として「フェノール樹脂」を採用することは当然の事項であったのである。
この特許出願の出願日は平成15年12月10日,優先日は平成15年1月22日であり,本件特許出願(出願日:平成15年10月31日,優先日:平成14年11月1日)よりもわずか1か月強(優先日を基準としても2か月強)遅れた出願ではあるが,この前後の期間に,例えば,活性炭原料として「フェノール樹脂」が新規に見出されたなどという著しい技術進歩があったわけではない。
また,樹脂メーカーは,自らの製品である樹脂を販売するものであるから,当然,顧客に対して自らの製品(フェノール樹脂)がどのような用途に利用できるかを説明するのは当然である。したがって,活性炭を製造するユーザーに対して,自らの製品(フェノール樹脂)を用いて活性炭を製造すれば優れた製品ができる旨説明することもまた当然である。
このように,前記公知文献の内容は活性炭に関与する者であれば皆当然に知り,又は知り得る事項であるから,本件特許出願時点において,当業者にとって 「 経口投与用吸着剤の)活性炭原料」と ,(して「フェノール樹脂」を採用することは極めて容易であったことが明らかである。
(e) 「マリリンHF」について本件特許明細書(特許公報,甲22)の実施例1,3の製造過程において粒状のフェノール樹脂(粒子径=10〜700μm:商品名「高機能真球樹脂マリリンHF500タイプ ;群栄化学株式会 」社製 )を用いた事実が記載されている(段落【0040】参照 。 」 )一方で,群栄化学工業株式会社外2社の出願に係る前記甲33公報に係る明細書の実施例(段落【0044 )においては 「球状フ 】,ェノール樹脂(群栄化学工業(株)製「マリリンHF-MDC )」800g」を用いたことが記載されている。
ところで,この「マリリンHF」は,本件特許出願以前より,群栄化学工業株式会社が製造販売しているフェノール樹脂の商品名である。本件特許出願前(原告の調査では平成14年5月以前。甲36 「真球状樹脂『マリリン』紹介資料」と題する書面)に群栄化 ,() 学工業株式会社新規営業部によって配布された商品説明書 甲34にはHFタイプ の用途として 活性炭 と記載され その 自 ,「」「」,「社品セールスポイント」として「?C完全硬化型を炭化し短時間で真,」。, 球炭素材 活性炭の製造が可能 と記載されている そればかりか「5.活性炭性能」として比表面積,細孔容積,平均粒子径なども記載され 「6.用途」においては「※特殊用途1)活性炭…医 ,薬品…」と記載されている。すなわち,被告が実施例に用いた「球状フェノール樹脂」は,この群栄化学工業株式会社が球状活性炭原料として製造販売しているフェノール樹脂「マリリンHF」を利用したにすぎないものである。
c以上のとおり,活性炭原料として「フェノール樹脂」を実際に採用することが極めて容易であることは明らかである。
被告は,他人が医薬品用の活性炭として用いることができる旨販売した製品(マリリンHF)を単に購入して,それを利用して球状活性炭を製造し,実験したにすぎないのに,本件特許出願に至った。そればかりか,甲1公報に明示されていないことを奇貨として「活性炭の炭素原として『フェノール樹脂』を選択することが困難 「 フェノー 」『ル樹脂」を選択する動機付けが存在しない」などと主張し,審決もそれを鵜呑みにしたのであるから,審決の判断の誤りは明らかである。
(ウ) 作用効果に関する判断の誤りa審決は 「…甲第1号証発明において,前記フェノール樹脂(また ,はイオン交換樹脂)を炭素源とした活性炭を用いることを思い至ったところで,せいぜい実施例のある石油系ピッチを原料とする場合と同程度の経口用活性炭としての作用効果が期待できる程度というべき… (52頁6行〜9行)とする。 」しかし,その根拠として 「…本件特許明細書の表1,2に,石油 ,系ピッチを炭素源とする活性炭を用いた比較例1,2の選択吸着率が劣り,フェノール樹脂を炭素源とした方が選択吸着率に優れていることが示され… (51頁下3行〜52頁1行)としている点は明らか 」に誤りである。そもそも,本件特許明細書に実施例として挙げられている「フェノール樹脂を炭素源としたもの」は,R値が1.4以上のものであり,本件特許発明実施例ではない。これらが仮に,選択吸着率が優れているとしても,それはR値1.4以上との構成を採用したことに起因するのであって(このように解しないと同日出願に係る甲6発明を理解することができなくなる,決して,R値1.4以上 。)か否かを問わず 「フェノール樹脂を炭素源としたもの」すべてにお ,いてこのように断言できることにはならないのである。また,審決の上記判断は実験績証明書を根拠とするものでもあるが,これが誤りであることも既に述べたとおりである。
そうすると,審決の前記判断が誤りであることも明らかである。
そもそも本件特許明細書(甲22)においては 「…熱硬化性樹脂 ,を炭素源として調製した球状活性炭は,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず,…有益な選択吸着性を有することを見出し,更に,その選択吸着性の程度が,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも優れていることを見出した。… (段落【0004「…酸化処理及び還元処理を実施 」】),する前の球状活性炭の状態で選択的吸着能を発現すること,及びその吸着能が従来の経口投与用吸着剤よりも優れているという本発明者による前記の発見は,驚くべきことである(段落【0005 )と記 。」】載されている。要するに,本件特許発明においては 「熱硬化性樹脂 ,を炭素源として調製した球状活性炭」は,ピッチ類を原料とするものよりも容易に製造でき,選択吸着性が優れていることを発見したこと(これらは単なる本件特許出願人の主観的発見にすぎず,当業者においては技術常識以前の周知慣用技術である )に基づくものである。 。
そうであれば,フェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を炭素源とした活性炭を用いることに思い至り,それを実際に製造してみれば,自ずから,実施例のある石油系ピッチを原料とする場合よりも優れた経口用活性炭としての作用効果が期待できるのは当然である。
bまた審決は 「当該発明の他の構成を伴って」との留保を付けなが ,らも,本件特許発明の作用効果が 「…炭素源としてフェノール樹脂 ,(またはイオン交換樹脂)を選択した( A)の相違点)ことによっ (て,格別予想外に優れているから,炭素源の選択に格別の困難性がある… (52頁下3行〜下1行)などとした。 」しかし,このような判断は,本件特許の出願経過(すなわち,特許庁審査官の判断及びそれを前提とした被告の態度)を全く無視するものである。
すなわち 「炭素源の選択に格別の困難性がある」のであれば,そ ,れ自体を根拠として特許査定が下されているはずである。しかし,被, () 告は 特許庁審査官が平成16年10月25日付け 甲23の7の1及び平成17年3月29日付け(甲23の10。なお平成17年9月22日付け拒絶査定もこの拒絶理由を引用する。甲23の17)の各拒絶理由通知や平成18年2月8日付け前置報告書(甲24の5)において,球状活性炭の材質を熱硬化性樹脂とすることは,当業者が容易になし得る(あるいは熱硬化性樹脂を炭素源とする活性炭を使用す, ) ることは 当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められないと判断したことを前提として 「熱硬化性樹脂を炭素源として製造」 ,することに加えて 「 …そして細孔直径20〜1000nmの細孔容 ,『積が0.0272mL/g以下である球状活性炭からなる』との要件を満足する限り,必ず,優れた選択吸着特性を示します。… (平成」17年12月27日付け手続補正書(方式 〔甲24の4〕6頁28 )行〜30行「本件発明において,細孔容積は,優れた選択吸着率を ),実現するための重要な特性のひとつであります。… (平成18年5 」月15日付け意見書〔甲24の7〕3頁16行〜17行「 細孔直),『. .』 径7 5〜15000nmの細孔容積が0 25mL/g未満である場合に,特に優れた選択吸着性を得ることができる… (同3頁21 」行〜22行「このように,本件発明において優れた選択吸着率を実 ),現するための重要な特性のひとつである『細孔容積』を請求項1において特定するのに当たり,選択吸着率との密接な関連が出願当初明細書に明示的に記載されている事項を用いて特定することを本件審判請求人は希望しており,そのため (旧)請求項1に記載した『細孔直 ,径20〜1000nmの細孔容積が0.0272mL/g以下』を削除し,それに替えて『細孔直径7.5〜15000の細孔容積が0.25mL/g未満』を加入したものであります(3頁32行〜37 。」行 」などと主張して特許請求の範囲変更したのであり,審決の上 )記判断は,上記経緯(構成要件を付加し,権利範囲を狭めることで実質的な要旨変更を行った経緯)を悉く無視することになるのである。
(エ)以上のとおりであるから,審決が,相違点(A)につき 「炭素源の ,選択に格別の困難性がある」と判断したことは,法29条2項の解釈適用の誤りに基づくものである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対しア知財高裁大合議判決は,いわゆる「新規事項の追加禁止」に当たるか否かの判断基準を 「新たな技術的事項の導入」の有無に求め,具体的な事 ,案に対し,明細書に記載された訂正前の各発明に関する技術的事項と,訂,() 正後の各発明に関する技術的事項とを実質的に対比・検討し 訂正 補正によって前者の技術的事項に何らかの変更を生じさせているものといえるか否かをみて,訂正が明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものであるか否かを判断するという手法を当てはめた。
そして 「新たな技術的事項」を付加したものかどうかの具体的な判断 ,としては 「訂正前の明細書・図面のすべての記載を総合することにより ,導かれる技術的事項」と「訂正後の明細書・図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項」を比較した上で,?@前者における「最大の特徴」が補正・訂正後においても維持されているか,?A前者と後者の「効果」が共通かを検討し,この2点が肯定されるので 「新たな技術的 ,事項」が付加されたものではないことは「明らか」と認定判断したものである。
なお,知財高裁大合議判決は,平成6年改正前の法134条2項ただし書による訂正に関する事案であり,平成6年改正前の法17条2項(補正に関する規定)の解釈を示した上で,上記訂正に関する規定も同様に解すべきものとしたのであるが,その判示は,ほぼ同じ文言が用いられている本件特許の出願日(平成15年10月31日)時点の法17条の2第3項にも該当すると解される。
また,知財高裁大合議判決は,法29条の2による特許無効理由を回避するための「除くクレーム」とする訂正が問題となった事案に関する判断を示したものであるが,本件は,法39条による拒絶理由を回避するための「除くクレーム」とする補正が問題となっている点において,若干異なる点がある。しかし,審査基準は 「第29条第1項第3号,第29条の ,」「」,, 2又は第39条 という3つの条文を 新規性等 と総称しており また「当該重なりのみを除く補正」との表現を用いているとおり,これらの3つの条文を,いずれも出願に係る発明の技術的範囲と先行例の技術的範囲の間に「重なり」が見られる点で共通するものと扱っている。そして,この点は妥当であるから,知財高裁大合議判決の論理(判断手法)は,法39条が問題となっている本件事案にも適用があるものというべきである。
イ そこで 本件特許について ?@当初明細書等に記載された本件発明の 最 ,, 「大の特徴」が本件補正後においても維持されているか,及び?A前者と後者の「効果」が共通かを検討する(なお,本件特許に対し「除くクレーム」を導入した本件補正は,拒絶査定不服審判手続において被告が提出した平成18年5月15日付け手続補正(甲24の8)及び平成18年6月16日付け手続補正(甲24の11)により行われたものであり,当初明細書等の内容は,本件PCT出願の国際公開に相当するWO2004/039381A1(甲23の2)に記載された内容と同一であるので,以下,甲23の2に示される明細書等の内容をもって「本件当初明細書等」という 。。)本件当初明細書等によれば,本件特許発明の最大の特徴は,炭素源(出発材料)として (従前用いられていたピッチに代えて)フェノール樹脂 ,又はイオン交換樹脂を使用して調製した経口投与用吸着剤が,優れた選択吸着率を有することを見出した点にある すなわち 本件特許発明は炭 。,,「素源(出発材料 」としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用して )調製すると,従来の出発材料(例えば,ピッチ)を使用して調製した場合と比較して,選択吸着率が顕著に向上することを特許性の主要な根拠としたものである。したがって,本件当初明細書等に記載された本件発明の最大の特徴は,経口投与用吸着剤の炭素源(出発材料)としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用した点にあり,またその効果は,優れた選択吸着率を獲得するに至ったという点にあることが認められる。
他方,本件補正は 「R値が1.4以上である球状活性炭を除く」旨の ,補正であるが,この補正は,同日出願の別件特許(甲6発明)との「重なり」を解消するために,同日出願の別件特許(甲6発明)により開示され「.」。, た R値が1 4以上である球状活性炭 を除外するものである つまり本件補正は,別件特許との「重なり (法39条の同一発明の存在)を解 」消するために,同日出願の別件特許(甲6発明)のクレームに使用された文言を用いて両者の境界線を定め,その文言によって,本件特許発明の当,「」 , 初クレームから重なり 部分を形式的に除外するためのものにすぎず本件特許発明の技術的情報とは無関係であって,何ら新たな技術的事項を付加するものではなく,本件当初明細書等に記載された本件発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものではない。
これを知財高裁大合議判決の判断基準に従って検討すると,?@経口投与用吸着剤の炭素源(出発材料)としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用したという本件当初明細書等に記載された本件発明の最大の特徴は,本件補正後も全く同じであり,また,?A優れた選択吸着率を獲得するに至ったという本件当初明細書等に記載された本件発明の効果もまた同じであることが明らかである。そうすると,同日出願の別件特許との「重なり」となっている「R値が1.4以上である球状活性炭」を除外することによって,本件当初明細書等に記載された本件発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから,本件補正が本件当初明細書等に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかであり,本件補正は,当業者によって,本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるということができる したがって 本件補正は 法17条の2第3項にいう 願 。,, 「書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであるというべきである。
ウ(ア)以上に対し,原告は 「A+B」というクレームにおいて 「Cを除 , ,く」とする例を挙げて,安易に「Cを除く」とすることを許容すれば,「」 。 A+B+非C というクレームの特許が容易に成立し得ると主張するこの原告の主張は,当初明細書に「C」について何も記載されていないということから直ちに 「非C」という記載を追加する補正が当然に ,新規事項の追加に当たるという見解を前提として 「Cを除く」という ,補正と「非C」という補正を対比して,前者が許容されることは許されないとの立論をしているように理解される。
しかし,そもそも大合議判決は,既に指摘したとおり,当初明細書等に記載されていない事項を訂正事項とする訂正であっても 「新たな技 ,術的事項を導入しない」ものであると認められる限り,新規事項の導入に当たらないというのであり,それによれば,当初明細書に「C」について何も記載されていないということを理由として 「非C」という記 ,載を追加する補正が当然に新規事項の追加に当たるかのように立論すること自体が的はずれである 「C」が仮にそのようなものであったとし 。
ても 「新たな技術的事項を導入しない」ものであれば 「非C」という , ,補正であっても 「Cを除く」という補正であっても,等しく新規事項 ,の追加に当たらないことは明らかである。
(イ)また原告は,本件補正前の本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項として,?@〜?Cを挙げるが,この中には「R値」に言及する2つの項目(?B及び?C)が含まれている。このような原告の解釈は,補正前の本件特許明細書(本件当初明細書等)のみならず,同日出願の別件特許発明の明細書も参照することが前提となっており,その理由として原告は,別件特許に関する甲6公報の記載は本件特許の明細書に明示的に記載されるものではないことを前提としながらも,両者が同一出願人の同日出願に基づく実施例を共通とする実質的に同一技術思想であることから,本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項の内容を判断する際に参酌すべきは当然であるなどと主張する。
しかし,知財高裁大合議判決によれば,本件特許発明の当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項を認定し,本件補正によって,新たな技術的事項を導入することになったか否かを判断すべきところ,本件特許発明の当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる「技術的事項」を認定するについては,当然ながら,本件当初明細書等の記載をすべて総合する必要があるとともに,それに限られるべきであって,重複が問題となった同日出願の別件特許発明の明細書(甲6)の記載から,本件補正前の「技術的事項」を認定してはならないことはいうまでもない。このことは,大合議判決の趣旨及び新規事項追加の禁止という趣旨からして当然のことである。
実際,大合議判決においても,当該特許発明の特許査定時における明細書の記載によって訂正前の「技術的事項」を認定しており,これと法29条の2の関係に立つ先願の明細書等の記載をもって認定してはいないのである(なお,登録商標を用いた「除くクレーム」とする訂正に際し,当該登録商標の内容を明確にするために,先願明細書を参酌したかのような判示がみられるが,この説示部分は,当該発明についての明細書等の記載における技術的事項の範囲を画するための参酌をいうものとは解されない 。。)よって,本件発明の当初明細書等の記載による「技術的事項」を認定するにつき,同日出願の別件特許発明の明細書(甲6)の記載を根拠として,R値に関する上記?B,?Cの技術的事項を認定した上でした原告の主張は,明らかに失当である。
(ウ)次に,原告は,本件特許発明同日出願の別件特許発明が技術思想として同一であるという前提の下に主張しているが,その前提自体もまた誤っている。前記のとおり,本件特許発明の最も重要な特徴点は,炭素源(出発材料)としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用して調製した経口投与用吸着剤が,優れた選択吸着率を有することを見出した点にある。すなわち,本件特許発明は 「炭素源(出発材料 」として ,)フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用して調製すると,従来の出発材料(例えば,ピッチ)を使用して調製した場合と比較して,選択吸着率が顕著に向上することを特許性の主要な根拠としている。一方,同日出願の別件特許(例えば,請求項1に記載の発明)の最も重要な特徴点は,球状活性炭(生成物)としての経口投与用吸着剤のR値が1.4以上の場合に優れた選択吸着率を有することを見出した点にある。
要するに,本件特許発明は,R値の如何にかかわらず,つまりR値の有する技術的事項とは無関係なところにおいて 「炭素源(出発材料 」 ,)を何にするかという観点からの技術的思想であり 「フェノール樹脂又 ,はイオン交換樹脂を使用して調製した」場合を発明として出願したものであって,一方,同日出願の別件特許の発明は,炭素源については限定を加えない,つまり炭素源が何かという技術的事項とは無関係なところにおいて,球状活性炭の「回折強度比(R値 」をどのようなものにす )るかという観点からの技術的思想であり 「R値が1.4以上」の場合 ,を発明として出願したものである。
したがって,本件特許発明同日出願の別件特許発明とは,技術的思想を全く異にするものであることは明らかなのである。上記2つの発明の実施態様は一部重なり合うが,それだからといって,原告が主張するように 「実質的には同一技術思想である」ということにはならない。 ,(エ)また原告は,本件補正によって「新たな技術的事項が導入された」とする理由として以下a〜eの5点を挙げているが,以下のとおり,いずれも理由として成り立たない。なお,上記5点を挙げて除くクレームの適法性を判断する原告の手法は前記知財高裁大合議判決で採用された, 。 手法に沿うものではなく 同手法に従わない理由も特に示されていないこの点においても,原告が大合議判決を恣意的に解釈していることが表れているというべきである。
a原告は,本件補正によりR値が1.4以上である球状活性炭を除いている点で,新たな構成要件が追加された旨主張する。
しかし,ここでの問題は,本件補正により「新たな技術的事項が導入された」といえるか否かであるから,上記のような構成要件が追加されたこと自体が「新たな技術的事項が導入された」ことの理由になるはずはない(補正されたことが「新たな技術的事項が導入された」ことの理由になるのであれば,およそ補正は許されないことになってしまいかねない。原告の指摘する点は,全く理由にならないし,大 。)合議判決の判示とも合致しないものである。
b原告は,R値の意義や,R値の計算根拠となる回折強度が一義的に不明確であると主張する。
しかし,そもそも,原告が主張する点がなぜ「新たな技術的事項」を導入したことの理由になるのか,明らかでない。
その点を措くとしても,R値の意義は本件除く要件自体に一義的に明確に記載されている。
また,活性炭が,R値として「1.4」という程度の値を有すること自体一般的なことであって,何ら特別なことではない。例えば,甲9文献を見ても,フェノール樹脂系繊維,ヤシ殻,及び石炭(CAL-F400)を原料とする活性炭について測定したX線回折図形の比較図(996頁「Fig.10」及び「Fig.11 )が記載され 」ており,それらの比較図から,容易に本件特許の請求項1で規定する「R値」を計算することができる 「R値」それ自体は,個々の活性 。
炭が有している物性値の1つであり,その「R値」自体は,それに注目しさえすれば,X線回折図形から簡単な計算式によって算出することのできる値である。
さらに,X線回折法については,日本工業規格(JIS)及び日本薬局方においてそれぞれ関連する規格が定められており,その内容に実質的な相違点はない。炭素材料の製造・利用・評価の際に用いる測定法の規格としては,これら当業者が実験などを行う際に当然に参考にするであろう権威ある規格に加え,日本学術振興会が定めた測定法(通称「学振法 。乙7)もまた,一般的な規格として,当業者の間 」で広く普及している。したがって,当業者であれば,本件のような試料についてX線回折法による測定を実施するに際しては,特段の指定がされない限り,JIS,日本薬局方,学振法で定められた規格等に従い測定方法を決定するのが通常である。
R値の測定条件も,当業者にとって自明であるか,又は当業者が技術常識に従って適宜に決定すれば支障がない内容である。
なお原告は,特定のR値(本件特許発明に含まれる1.4未満)を有する球状活性炭を得るための炭化条件などの製造条件についての説明が一切記載されていないから,本件明細書に接した当業者は,本件発明を実施するために「R値が1.4未満の球状活性炭」をどのようにして製造すればわからないと主張するが,失当である。
活性炭において,1.4付近の「R値」は,本件特許出願時の常法,「」 に沿って製造された活性炭が普通に有している物性値でありR値が1.4未満の活性炭を製造するために 「R値」が1.4以上の活 ,性炭の製造方法とは基本的に異なる特別の技法を必要とするものではない。この点は,本件特許に関する拒絶査定不服審判の審理段階で被告(本件特許権者)が提出した「実験成績証明書」からも明らかである。そうすると,実施例がたまたま「R値」1.4以上の領域に属するとはいえ,当業者がこれら実施例を含む明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を参酌すれば実施することができるのであって,実施可能要件を充足するものであることは,明白である。
c原告は,本件明細書に実施例として開示されていた実施例が本件特許発明実施例ではなくなったことを前提に,かかる事実は補正後の発明が補正前の発明からの技術的事項の変更があることを根拠付けるものである旨主張するが,そもそも本件特許発明について実施例を欠くことになったものと評価されるべきではない。
すなわち 「R値が1.4以上である球状活性炭を除く」との事項 ,を加入した本件除くクレームは,本件特許発明技術的思想として1つのまとまりのある概念として把握される発明につき 「権利請求部 ,分」と「権利放棄部分」との境界を定めるものにすぎないのであるから,出願当初明細書の発明の詳細な説明の欄の記載によって,1つのまとまりのある概念として把握される発明につき,全体として出願当初明細書に開示ないし公開されているのである。本件特許の明細書に記載された実施例が,本件特許請求の範囲において特定された球状活性炭又は表面改質球状活性炭のうち,R値が1.4以上のものに属することについては,原告も認めるところである。
,,, .「」 , そして 前記のとおり 活性炭において 1 4付近の R値 は本件特許出願時の常法に沿って製造された活性炭が普通に有している物性値であり 「R値」が1.4未満の活性炭を製造するために 「R , ,値」が1.4以上の活性炭の製造方法とは基本的に異なる特別の技法を必要とするものではない。
そうすると,実施例がたまたまR値1.4以上のものに属するとはいえ,当該部分は,技術的思想として1つのまとまりのある概念として把握される発明領域に含まれるものであって,当業者がこれら実施例を含む明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を参酌すれば,同領域に含まれるR値1.4未満の部分についても,所望の効果が得られるものと認識し得るのであって,これにより新たな技術事項が導入されるものではない。
一般に,出願された発明の全範囲について具体的な実施例を挙げることは不可能である。そこで,実施例の数は,当該発明の性質などにより変わる可能性はあるが,いずれにしても,明細書に記載された実施例をもとに当業者が発明を理解し,その結果,当該発明の範囲のうち当該実施例ではサポートされているものと理解し得ない範囲があるのか否かが問われるものと解される。本件特許発明については,除くクレームによる除外がされる前の状態において,明細書に記載された実施例を基に当業者が発明を理解することにより,同じ技術的思想に裏打ちされた1つのまとまりをもった本件発明の全範囲についてサポートしていることを理解し得るものである。そのようにしてサポート要件を満たした後 本件除くクレームにより 形式的に権利の一部 権 ,,(利放棄部分)が除外ないし切り取られるのであるから,結果的に除外された範囲にすべての実施例が属することになったとしても,上記のようにして,除外された後に残った部分(権利請求部分)についてもサポートされているものと理解し得るのである(除くクレームは,このようにして発明についての特許要件を確認した上で,発明の一部を形式的に除外する(切り取る)にすぎないのである 。。)本件特許発明は,炭素源(出発材料)に着目してなされたものであり 本来R値とは無関係なものであったのだから 本件補正により R , ,「値が1.4以上を除く」とされる前の時点で実施例によりサポートされていた発明の技術的範囲は,R値が1.4以上の範囲はもちろん,R値が1.4未満の範囲もサポートされていたことは明らかである。
この実施例によりサポートされている技術的範囲が,本件補正により「R値が1.4以上を除く」とのクレームに補正された途端に 「R,値が1.4以上」の範囲に突如限定されると解する理由はない。実験成績証明書により 「R値が1.4以上を除く」の部分についても本 ,件特許発明の作用効果を有することが客観的に明らかとされている(甲24の7参照)のだからなおさらである。
なお,そもそも原告は,本件補正により,請求項に係る発明の主要部(この評価自体争うが )が除外されたことにより技術的範囲が大 。
,,「」 きく変更されたことになる旨主張するが なぜ 技術的範囲の 除外がなされたにもかかわらず「新たな技術的事項」が導入されたというのか,明確な説明はない。この点において,原告の主張はそもそも失当といわざるを得ない。
d原告は,被告が審判段階で提出した「実験成績証明書 (甲24の 」9)について論難し,これは本件補正により「新たな技術的事項」が導入されたことを被告が自認するものである旨主張する。
しかし,上記実験成績証明書は,出願当初明細書の発明の詳細な説明に記載した事項には,本件除くクレームで除外した特許請求の範囲以外の部分も存在していること,言い換えると,本件除くクレームにより,請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外したものであることを,具体的に実験結果を示すことにより明らかにしたものであって,その実験に用いた原料,処理手段等のいずれも出願当初明細書の記載の範囲内のものである。このように 「除くクレーム」による補正によって,結果として,発明 ,の一部を除外ないし切り取ることになったことから,念のため提出したにすぎないものである。
もとより,上記実験成績証明書(甲24の9)は,本件除くクレームによる補正によって実施可能要件が欠けるに至ったため明細書の記載不備を補うために提出したものでもない。
e原告は,本件補正によって本件特許が同日出願の別件特許(甲6発明)と矛盾する内容になってしまったため,同日出願の別件特許と同じ作用効果が生じることに技術的説明を付する必要が生じ,実験成績証明書(甲24の9)を提出するに至った旨主張した上,かような技術的説明をする必要があったということは,本件補正によって 「新,たな技術的事項」が導入されたと評価できる旨主張する。
しかし,そもそも,本件除くクレームとする補正によって本件特許が同日出願の別件特許(甲6発明)と矛盾する内容になったと評価することはできない。本件特許発明同日出願の別件特許発明の技術思想が異なることは前記のとおりである。
この点原告は,被告が同日出願の別件特許について「R値1.4以上」のものでなければ目的とする作用効果が生じないと主張していたことを強調する。しかし,本件特許発明は,同日出願の別件特許発明とは異なる技術思想に基づくものであるから,その作用効果も同一ではなく,本件補正が行われる前の本件特許発明技術的範囲は 「R,値1.4以上」の部分はもちろん 「R値1.4未満」の範囲をも含 ,んでいたことは当然である ここで 本件補正が行われた途端にR 。, ,「値1.4未満」の範囲が本件特許発明技術的範囲から突如脱落する訳ではなく,本件特許発明技術的範囲は 「R値1.4未満」の範 ,囲でなお存在し続けるのである。原告の上記主張は,同日出願の別件,。, 特許発明と本件特許発明混同するものであって 失当である また実験成績証明書(甲24の9)が存在することにより論理必然に「新たな技術的事項」が導入されたことになるものでないことは,上述のとおりである。
(2) 取消事由2に対しア原告は,本件特許の明細書に実施例として記載されているのは 「フェノ ,ール樹脂を炭素源とした球状活性炭」のみであり 「細孔直径7.5〜15 ,000nmの細孔容積0.04mL/gあるいは0.06mL/g」に限, 。 られていることが法36条4項1号 同条6項1号に違反する旨主張するイしかし 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積」の制御は,本件 ,特許の出願当初明細書(甲23の1)の記載,及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,当業者が容易に実施することのできるものである。すなわち 「細孔直径7.5〜15000nm」の細孔は,メソ孔又はマクロ ,孔と呼ばれる細孔であり,これらの細孔の容積は,本件特許の出願当時の技術常識に基づいて容易に制御することができる(特開平10-72266号公報〔発明の名称「多孔質ガラス状炭素およびその製造方法 ,出願人 」住友金属工業株式会社,公開日 平成10年3月17日,乙1。以下「乙1公報」という,特開平5-43345号公報〔発明の名称「活性炭素 。〕多孔体の製造方法 ,出願人 三井石油化学工業株式会社,公開日 平成5年 」2月23日,乙2。以下「乙2公報」という,真田雄三・鈴木基之・藤 。〕,「 」〔,「」。〕, 元薫編新版 活性炭 基礎と応用乙3 以下 乙3文献 という吉澤徳子他5名「金属酸化物担持型メソ孔性活性炭における微粒子の分散特性 〔乙4,以下「乙4文献」という 〕参照 。 」 。)なお,イオン交換樹脂を炭素源として使用する場合に関しては,本件特許明細書の参考例1において,細孔容積が0.42mL/gの場合の例が記載されており さらに 拒絶査定不服審判の審理過程に提出した前記 実 ,, 「験成績証明書A」において,0.0891mL/gの場合の例が記載されており,フェノール樹脂の場合と同様に,細孔容積が制御可能であることが分かる。
さらに 「細孔直径7.5〜15000nm」の細孔容積を制御すること ,が容易であることを具体的なデータによって示したものが 2007年 平 ,(成19年)8月10日付け実験成績証明書(乙5)である。この実験成績証明書(乙5)に示すように 「参考例1」において,フェノール樹脂を炭 ,素源として球状活性炭を調製し,得られた球状活性炭について各種の物性を測定し 「表1」及び「表2」に示す結果が得られた。すなわち,得られ ,た球状活性炭は 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積」が「0. ,08mL/g」であり,その他,本件特許の請求項1で規定する「直径」及び「ラングミュアの吸着式により求められる比表面積」の要件をそれぞれ満足していた。また 「回折強度比(R値 」は 「1.34 (1.4未 ,),」満)であり 「選択吸着率」は「2.9」であった。 ,以上のように 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積」は,本件 ,特許明細書の記載,及び本件特許の出願時の常法を利用して種々に制御することが可能であり 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積」が, ,例えば「0.08mL/g」である球状活性炭は,当業者が常法に従って製造可能であることが分かる。
,「. 」, ウ 以上のように細孔直径7 5〜15000nmの細孔容積 の制御は本件特許の出願当初明細書の記載,及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて当業者が容易に実施することができるものであるから,本件特許の明細書には本件特許発明が記載されていることは明らかである。したがって,法36条6項1号違反も存在しない。
(3) 取消事由3に対しア原告は,審決が認定した相違点(A)について,形式的に相違しているという点では争わないとしながら,実質的には相違点と判断すべきでない旨主張する。
,「 」 しかし 甲1公報に炭素源として フェノール樹脂又はイオン交換樹脂の記載がないことは動かしようのない事実であり,同時に,甲2公報でも多数の同列的で並列的に列挙されている樹脂の1つとして「フェノール樹脂」が記載されているにすぎないこともまた,動かしようのない事実である。したがって,ことさら「実質的には相違点と判断すべきではない」と矮小化することは許されない。
, , なお 甲1公報には球形活性炭の原料が網羅的に6種類記載されておりその内の一種として有機合成高分子が記載されており,甲2公報にはその有機合成高分子として14種類(あるいは数え方によっては12種類)が同列的に並列に列挙されている内の一種として「フェノール樹脂」が記載されているにすぎない。
イ(ア)原告は,審決が相違点(A)に係る炭素源の選択に格別の困難性があると判断したことについて,当業者の技術常識を著しく無視するものである旨主張し,公知特許文献を列挙する。
しかし,これら公知文献は,本訴において新たに提出されたものを含め,いずれも活性炭の炭素源としてフェノール樹脂が一般的に使用されていたことを示す文献にすぎず,これらの文献には医薬用途を開示ないし示唆する記載も全く存在しない。したがって,本件無効審判で原告が提出した公知文献の開示内容を越えるものではなく 本件特許発明が 周 ,「知慣用技術」であることを示すものは全く見当たらない。
そもそも,被告は,活性炭の炭素源としてフェノール樹脂が一般的に使用されていたことそれ自体について否定したことはない。また,審決も,そのこと自体を否定するものではなく,その事実を無視した判断がなされたものでもない。このような状況下で,単に,活性炭の炭素源としてフェノール樹脂が一般的に使用されていたことのみを示すにすぎない公知文献を寄せ集め,新たに提示することは意味がない。
(イ)なお原告は,特開2004-244414号公報(甲33公報)を提出し,経口投与用吸着剤の活性炭原料として 「フェノール樹脂」を ,実際に採用することが極めて容易であったことの根拠とするが,原告も自認するとおり,同公報は本件特許出願の後願であり,本件特許発明新規性及び進歩性などについて,全く何の関係もない文献である。
この点原告は,被告が実施例に用いた「球状フェノール樹脂」は,甲33公報と同様に群栄化学工業株式会社が球状活性炭原料として製造販売しているフェノール樹脂「マリリンHF」を利用したものであると主張する。確かに,群栄化学工業株式会社作成の商品説明書(甲34)には 「特殊用途」として「医薬品」が掲載されているが 「医薬品」と記 , ,載されているだけで 「経口投与用吸着剤」としての用途は記載されて ,いない。まして,選択吸着特性については,全く記載がない。
したがって,仮に上記商品説明書が本件特許出願の優先日前に公知になっていたとしても,これには「特殊用途」としての「医薬品」の記載しかなく,当業者がその採用に想い至ったとしても,せいぜい,ピッチを炭素源とする場合と同等の効果しか示さない活性炭の取得に思いつく程度である。本件特許発明のような,優れた選択吸着特性を示す活性炭は,決して容易に想到することのできるものではない。したがって,この点に関する原告主張も失当である。
ウ(ア)原告は,フェノール樹脂を採用できる可能性は十二分に示唆されており,少なくとも「フェノール樹脂」については実質的に記載されていると判断されなければならないと主張する。
しかし,原告の主張は,審決の進歩性判断において核心となる説示の一部分にのみ注目し,その核心的説示の全体を故意に無視しているか,あるいはその核心的説示の全体に対する誤った解釈に基づく主張である。すなわち,審決は,本件特許発明1の作用効果が,炭素源としてフェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を選択したことによって,格別予想外に優れているから,炭素源の選択に格別の困難性があるといえる旨説示しており,構成の想到困難性と効果の顕著性とを総合的に判断して,本件特許発明進歩性を認めているのであり,とりわけ,本件特許発明の効果の顕著性を参酌していることが明らかである。
それにもかかわらず,原告は,審決が効果の顕著性に言及している事実をほとんど無視し,専ら「炭素源の選択に格別の困難性がある」との判断,すなわち,構成の想到困難性(又は容易想到性)を中心に論難しており,的外れといわざるを得ない。
(イ)原告は,本件特許発明が示す効果に関連して,審決が,本件特許明細書の表1,2を引用した点を論難する。
しかし,原告の上記主張は,本件特許の明細書に挙げられた実施例のR値が1.4以上のものであることをもって,これが本件特許発明実施例に当たらないということを基礎とするものであり,このような主張は取消事由1に対する反論において述べたとおり,根拠がない。実施例をはじめとして,具体的データ(表1,2)において,たまたまR値が1.4以上であるとはいえ,これも技術的思想として1つのまとまりのある概念として把握される発明に含まれるものであって,当業者がこれ(, ), ら実施例をはじめとする具体的データ 表1 2 の記載を参酌すれば所望の効果が得られるものと認識し得ることは明らかである。
なお原告は,本件特許発明が単なる本件特許出願人の主観的発見にすぎず,当業者においては技術常識以前の周知慣用技術であるとの前提に立った上で,具体的証拠を特に示すことなく,フェノール樹脂を炭素源とした活性炭を用いることに想到し,それを実際に製造すれば,自ずと。, 優れた経口用活性炭としての作用効果が期待できると主張する ここで原告が「周知慣用技術」であると考える根拠は,本件無効審判や本訴で原告が提出した公知文献と思われるが,これらはいずれも,活性炭の炭素源としてフェノール樹脂が一般的に使用されていたことを示す文献にすぎず,医薬用途を開示ないし示唆する記載も全く存在しないのであって,本件特許発明が「周知慣用技術」であることを示すものは全く存在しない。したがって,原告の前記主張も根拠がない。
(ウ)原告は,審決が本件特許出願経過を無視するものであるとし,本件特許の特許庁での審査段階における特許庁審査官の判断や被告の意見を取り上げて問題にする。
まず,原告主張のうち,細孔容積などに関する補正が「実質的な要旨変更」であるとの指摘は,これが「新規事項」の追加に該当するとの趣旨と理解することができるが,取消事由1に対する反論について述べたとおり,本件特許の出願審査・審理段階における補正には「新規事項」の加入に該当する項目は全くない。
また,被告が本件特許出願の審査・審理段階で複数回の細孔容積に関する補正を行い,その細孔容積に関する規定を1つの構成要件として含む請求項に記載の発明に関して意見書などで特許性を主張したことは,原告が指摘するとおりである。しかし,特許出願の審査・審理段階において,請求項が補正によって減縮されたり,拡張されたりすることは通常行われることであり,その補正が適法の範囲内であれば,そのような減縮拡張は,もちろん許容されている。また,こうした補正によって減縮拡張された請求項に記載された発明に関して,審査・審理が行われることから,出願人は,そのように減縮拡張された請求項に記載された発明に関して特許性を主張するのであり,これもまた,特許庁における通常のプラクティスである。
なお,原告は,本件特許出願の審査・審理段階で発行された「拒絶理由通知書」や「前置報告書」などを引用して,特許庁審査官の見解を示すがこれは,原告に都合のよい部分のみを引用して審査官の見解を正反対の立場であるかのように印象付けようとする不適切なものである。かえって,前置報告書を作成した審査官は,炭素源が「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」に限定された場合には,進歩性を認める立場を明確,, , に示唆しているのであり 本件特許は 拒絶査定不服審判段階において炭素源を「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」に限定して,最終的に特許されることになったのである。
当裁判所の判断
1請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(審 ))決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由1(新規事項の追加に当たらないとした判断の誤り)について原告は 請求項に ただし …を除くといった消極的表現 いわゆる 除 ,「,。」(「くクレーム )が記載された本件補正は,法17条の2第3項にいう「願書に 」最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内」における補正ということはできない旨主張するので,以下検討する。
(1) 「除くクレーム」と法17条の2第3項との関係ア法17条の2は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の補正に関する法文であり,その第3項は 「第1項の規定により明細書,特 ,許請求の範囲又は図面について補正をするときは,…願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてしなければならない」と定めているところ,本件補正は前記のような「除くクレーム」の形でなされているものの,法17条の2にいう補正であることに変わりはないから,その適否を判断する基準となるのは,上記法17条の2である。
ところで,特許権は発明について最初に出願した者に付与される(先願主義,法39条)のであるから,出願人が一旦なした不完全な内容の特許出願に対しその後その内容の補正を認める事実上の必要が生じたとしても,補正することができる物的範囲は上記先願主義との関係で自ら限界があり,発明の開示が不十分にしかされていない出願と出願当初から発明の開示が十分にされている出願との間の取扱いの公平性を確保するため,これを法は,上記のとおり 「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範 ,囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない」と規定したものである。
そして 「明細書等に記載した事項の範囲内」か否かは,上記のような ,法の趣旨からすると 「明細書等に記載した事項」とは,その発明の属す ,る技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されることになる。
したがって,本件のように特許請求の範囲減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されているときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは 「明細書等に記載した事項の範 ,囲内」の減縮であるということになる。
また,上記にいう「除くクレーム」を内容とする補正は,特許請求の範囲減縮するという観点からみると差異はないから,先願たる第三者出願に係る発明に本願に係る発明の一部が重なる場合(法29条1項3号,29条の2違反)のみならず,本件のように同一人によりA出願とB出願とがなされ,その内容の一部に重複部分があるため法39条により両出願のいずれかの請求項を減縮する必要がある場合にも,そのまま妥当すると解される。
イ特許庁審査官が審査する際の審査基準は,上記にいう「除くクレーム」について,下記のように定めている(甲27)が,その趣旨は基本的に上記アと同一と考えられる(ただし,本文7行目「例外的に」とする部分を除く 。)記「(4)除くクレーム「除くクレーム」とは,請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。
補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,補正により当初明細書等に記載した事項を除外する「除くクレーム」は,除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には,許される。
なお,次の(1),(2)の「除くクレーム」とする補正は,例外的に,当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱う。
(1)請求項に係る発明が,先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号,第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に,補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで 当該重なりのみを除く補正(2) , 。
請求項に係る発明が 「ヒト」を包含しているために,特許法第29条柱書の要 ,件を満たさない,あるいは,同法第32条に規定する不特許事由に該当する場合において 「ヒト」が除かれれば当該拒絶の理由が解消される場合に,補正前 ,の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,当該「ヒト」のみを除く補正。
(説明)上記(1)における「除くクレーム」とは,補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,特許法第29条第1項第3号,第29条の2又は第39条に係る先行技術として頒布刊行物又は先願の明細書等に記載された事項 記(載されたに等しい事項を含む)のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。
(注1)「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができるのは,先行技術技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが,たまたま先行技術と重複するような場合である。そうでない場合は 「除くクレ ,ーム」とすることによって進歩性欠如の拒絶の理由が解消されることはほとんどないと考えられる。 (注2)「除く」部分が請求項に係る発明の大きな部分を占めたり,多数にわたる場合には,一の請求項から一の発明が明確に把握できないことがあるので,留意が必要である。
上記(2)における「除くクレーム」は,補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで 「ヒト」のみを当該請求項に記載した事項から除外するこ ,とを明示した請求項をいう。
このような取扱いとする理由は,以下の通りである。
, ?@たまたま先行技術と重複するために新規性等を欠くこととなる発明についてこのような補正を認めないとすると,発明の適正な保護が図れない。そして,このような場合,先行技術として記載された事項を当初の請求項に記載した事項から除外しても,これにより第三者が不測の不利益を受けることにもならない。
?A「ヒト」を包含するために,特許法第29条柱書の要件を満たさないか,あるいは同法第32条に規定する不特許事由に該当する場合 「ヒト」を除く補正 ,をしても,除かれる範囲は明確であり,かつ,これにより当該拒絶の理由が解消される。また,これにより,特許を受けようとする発明が明確でなくなることはない。
(具体的事例)(1)の例:補正前の特許請求の範囲が「陽イオンとして Na イオンを含有する無機塩を主成分とする鉄板洗浄剤」と記載されている場合において,先行技術に「陰イオンとしてCO3イオンを含有する無機塩を主成分とする鉄板洗浄剤」の発明が記載されたものがあり,その具体例として,陽イオンをNaイオンとした例が開示されているときに,特許請求の範囲から先行技術に記載された事項を除外する目的で,特許請求の範囲を「陽イオンとしてNaイオンを含有する無機塩(ただし,陰イオンがCO3イオンの場合を除く)……」とする補正は,許される。
(2)の例:補正前の特許請求の範囲が 「配列番号 1 で表される DNA 配列からな ,るポリヌクレオチドが体細胞染色体中に導入され,かつ該ポリヌクレオチドが体細胞中で発現している哺乳動物」と記載されている場合,発明の詳細な説明で「哺乳動物」についてヒトを含まないことを明確にしている場合を除き 「哺 ,乳動物」には,ヒトが含まれることになる。しかし,ヒトをその対象として含む発明は,公の秩序,善良の風俗を害する恐れがある発明に該当し,特許法第32条に違反するものである。このような場合に,特許請求の範囲からヒトを除外する目的で,特許請求の範囲を「……非ヒト哺乳動物」とする補正は,出願当初の明細書等にヒトを対象外とすることが記載されていなかったとしても許される 」。
ウ(ア)以上に対し原告は,特許庁の審査基準を挙げつつ,いわゆる「除くクレーム」による補正は,法にこれを許容する明文の規定が存しない以上,当初明細書に記載がない限り許されないと解すべきであるし,仮にこれを認めるとしても極めて限定的に解すべきである旨主張する。
しかし,上記のとおり,いわゆる「除くクレーム」による補正が許されるか否かは,当該補正が法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであると認められるか否かという問題であって,法の定めを超えた例外を許容するものではない 「除くクレーム」とする補正 。
のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,補正事項が明細書等に記載された事項であるときは,積極的な記載を補正事項とする場合と同様に,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入するものではないということができるが,逆に,補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではないからである。
したがって 「除くクレーム」とする補正についても,当該補正が明 ,細書等に「記載した事項の範囲内において」するものということができるかどうかについては,明細書等に記載された技術的事項との関係において,補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきことになるのであり 「例外的」な取扱いを想定する ,余地はないというべきである。原告の上記主張は採用することができない。
(イ)また原告は,知財高裁大合議判決のような法29条の2が問題とされた事案と異なり,出願人である被告自身が出願当初から先行技術との重複を知り又は知り得たような本件においては,いわゆる「除くクレーム」による補正により救済すべきでないと主張する。
しかし,前記のとおり,いわゆる「除くクレーム」による補正が許容されるのは,例外的な「救済」といった性格のものではなく,当該補正が法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであると認められるからである。そうである以上,その際考慮されるべきは明細書の記載といった客観的な事情であるべきであって,出願人の認識ないしその可能性といった主観的事情により補正の可否が左右されるべきものではない。
また,同一出願人による同日出願の場合であっても,特許請求項の範囲の記載は,その後発見した公知文献や拒絶理由通知等により変化し得るものであるほか,特許請求の範囲に複数の請求項を記載する場合もあり,出願当初からそれらすべての場合を想定し,請求項の範囲の記載を重複しないようにすることは実際上困難である。さらに,法39条2項の適用があるのは必ずしも同一出願人同士の出願に限られないことや,法は29条の2と同法39条2項のいずれについても出願人の主観的事情を特許の要件とはしていないことを併せ考慮すると,法29条の2が適用される場合に比して,同一出願人間で同法39条2項の適用が問題となる場合にのみ,殊更に法17条の2第3項の要件を厳格に解釈すべき必然性を見出すことはできない。
したがって,原告の上記主張も採用することができない。
エ そこで,以上の見地に立って,本件事案について検討する。
(2) 本件補正に至る経緯ア 本件特許の当初明細書(ア) 平成15年10月31日付けで提出された本件特許の当初明細書 た(だし,以下の記載箇所の摘示は,同内容を記載した甲23の2〔国際公開パンフレット〕の記載箇所による)には,以下の記載がある。
a請求の範囲「. ,., 1 熱硬化性樹脂を炭素源として製造され 直径が0 01〜1mmでありそしてラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上である球状活性炭からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤。
2.全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる請求項1に記載の経口投与用吸着剤。
. ,., 3 熱硬化性樹脂を炭素源として製造され 直径が0 01〜1mmでありラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり,全酸性基が0.40〜1.00meq/gであり,そして全塩基性基が0.40〜1.10meq/gである表面改質球状活性炭からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤。
4.請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾患治療又は予防剤。
5.請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,肝疾患治療又は予防剤。
6.請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤と薬剤学的に許容可能な担体又は希釈剤とを含む,腎疾患治療又は予防剤。
7.請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤と薬剤学的に許容可能な担体又は希釈剤とを含む,肝疾患治療又は予防剤。
8.請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤の有効量を,腎疾患治療又は予防が必要な患者に投与することを含む,腎疾患治療又は予防方法。
9.請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤の有効量を,肝疾患治療又は予防が必要な患者に投与することを含む,肝疾患治療又は予防方法。
10.腎疾患治療又は予防剤の製造のための,請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸収剤の使用。
11.肝疾患治療又は予防剤の製造のための,請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸収剤の使用 」。
b発明の詳細な説明・「発明の開示本発明者は,ピッチ類から球状活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤よりも一層優れた選択的吸着性を示す経口投与用吸着剤の探求を進めていたところ,驚くべきことに,熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭は,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず,生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,しかも有益物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという有益な選択吸着性を有することを見出し,更に,その選択吸着性の程度が,前記特公昭62-11611号公報に記載の吸着剤よりも優れていることを見出した。… (3頁8行〜17行) 」・「また,本発明者は,前記の球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理することによって調製した表面改質球状活性炭は,生体内の尿毒性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,しかも有益物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという前記の有益な選択吸着性が,前記特公昭62-11611号公報に記載の吸着剤よりも一層向上することを見出した。… (4頁2行〜7行) 」・「発明を実施するための最良の形態本発明の経口吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭は,前記のとおり,従来の経口投与用吸着剤の炭素源として用いられてきたピッチ類に代えて,炭素源として熱硬化性樹脂を用いる点を特徴としており,それ以外の点では,ピッチ類を用いる従来の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調製することができる(5頁下7行〜下2行) 。」・「出発原料として用いる前記の熱硬化性樹脂として,具体的には,フェノール樹脂,例えば,…を用いることができる。
, , 。 また 前記の熱硬化性樹脂として イオン交換樹脂を用いることもできる… (7頁15行〜22行) 」・「本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭は,後述する実施例において示すように,肝疾患増悪(判決注:憎悪は誤記)因子や腎臓病での毒性物質の吸着性に優れているにもかかわらず,有益物質である消化酵素等に対する吸着性が少ないという選択吸着性に優れているので,腎疾患の治療用又は予防用経口投与用吸着剤として用いるか,あるいは,肝疾患の治療用又は予防用経口投与用吸着剤として用いることができる(11頁下3行〜12頁3行) 。」・「産業上の利用可能性, , 本発明による経口投与用吸着剤は 熱硬化性樹脂を炭素源として製造され特異な細孔構造を有しているので,経口服用した場合に,消化酵素等の体内,() の有益成分の吸着性が少ないにもかかわらず 有毒な毒性物質 Toxinの消化器系内における吸着性能が優れるという選択吸着特性を有し,従来の経口投与用吸着剤と比較すると 前記の選択吸着特性が著しく向上する2 , 。」(0頁17行〜22行)c実施例の記載実施例1〜4として,下記表1,2の記載のとおり,フェノール樹脂を炭素源とする場合,実施例5には,イオン交換樹脂を炭素源とする場合の球状活性炭又は表面改質球状活性炭の製造方法及び得られた活性炭の特性が記載されている。
記・表1・表2(イ)上記によれば,本件当初明細書に記載された発明は,ピッチ類から球状活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤よりも一層優れた選択吸着性,すなわち尿毒性物質であるβ-アミノイソ酪酸の吸着性には優れるが,有益物質であるαアミラーゼ等の有益物質に対する吸着性が少ない経口投与用吸着剤を見出すことを目的とするものである。その結果,熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭が,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず,有益な選択吸着性を有することを見出し,しかも,その選択吸着性の程度が,従来の多孔性球状活性炭に比べて優れていること,及び,その球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理することによって調製した表面改質球状活性炭は,前記の有益な選択吸着性が,より一層向上することを見出したものである。
そして,実施例では,ピッチ類を炭素源とする比較例に対し,フェノール樹脂を炭素源とするものは,酸化・還元処理を行っていない例(実施例1,2)でさえも,酸化・還元処理を行った比較例1よりも高い選択吸着率を示している(イオン交換樹脂を炭素源とした例〔実施例5〕, , は 細孔容積の条件が請求項1に記載された条件を満たしていない点で特許査定後の本件発明の範囲外のものではあるが,選択吸着率は,比較例1,2に比べて高くなっている 。。)そうすると,本件当初明細書に記載された本件発明の特徴は,経口投与用吸着剤に用いられる球状活性炭について,熱硬化性樹脂,実質的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いた点にあり,そのことにより,ピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて,選択吸着性が向上するという効果を奏するものと認められる。
イ その後の手続経緯(ア)前記出願後,被告は,平成16年9月13日付け(甲23の4 ・平)成17年2月7日付け(甲23の9)で,手続補正をしたが,平成17()。, 年9月22日付けで拒絶査定 甲23の17 を受けた そこで被告は平成17年10月27日付けで不服の審判請求(甲24の1)を行い,平成17年11月28日付けで手続補正(甲24の2)をした。
(イ)これに対し,特許庁から被告に対し,平成18年3月13日付けで(),「 .」, 拒絶理由通知 甲24の6 がなされたが その拒絶理由 4には下記のとおりの記載がなされている。
記「4.本件出願の請求項1-10に係る発明は,同日に出願された特願2004-548106号の請求項に係る発明と同一であるので,特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。
記請求項1に係る発明と,特願2004-548106号(特許第3672200号として登録されている。以下「同日出願」という)の請求項4に係る発明と対比すると,両者は,『熱硬化性樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m /g以上であり,2そして細孔直径20〜1000nmの細孔容積が0.0272mL/g以下である球状活性炭からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤』である点で一致し,後者が,さらに『式(1 :)R=(I-I)/(I-I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度15であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度35であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度24である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上』であって,『細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.1mL/g以下』である,という特定を有するものである点で一応相違する。
上記相違点について検討する。
本件出願の発明の詳細な説明の記載,及び同日出願発明の詳細な説明の記載を参酌すると,両発明の形態は完全に一致し,その吸着剤は客観的に区別できない同一のものであると認められる。
そうすると,同日出願の請求項4に係る発明は,請求項1に係る発明の吸着剤と客観的に区別できない同一のものをそれの固有の性質である所定の回折強度比(R値)及び細孔容積で特定しただけのものということになる。
してみれば,両発明の相違点は表現上のものにすぎず,両発明は実質的にみて同一の発明である。
同様に,請求項2-10に係る発明も,同日出願の請求項4-6,10-15に係る発明と同一である 」。
(ウ)そこで被告は,特許庁の上記指摘を回避すべく,平成18年5月15日付けで手続補正をした(甲24の8,下線が補正箇所 。)a特許請求の範囲「 請求項1】【熱硬化性樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m /g以上であり,2そして細孔直径7.5〜15000の細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1 :)R=(I-I)/(I-I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度15であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度35であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度24である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。
【請求項2】全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる請求項1に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項3】前記熱硬化性樹脂が,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂である,請求項1又は2に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項4】非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上の熱硬化性樹脂を炭素源として製造される球状活性炭からなる,請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項5】熱硬化性樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m /g以上であり,2.. ,.. 全酸性基が0 40〜1 00meq/gであり 全塩基性基が0 40〜110meq/gであり,そして細孔直径7.5〜15000の細孔容積が0.25mL/g未満である表面改質球状活性炭からなるが,但し,式(1 :)R=(I-I)/(I-I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度15であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度35であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度24である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表面改質球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。
【請求項6】前記熱硬化性樹脂が,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂である,請求項5に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項7】非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上の熱硬化性樹脂を炭素源として製造される表面改質球状活性炭からなる,請求項5又は6に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項8】請求項1〜7のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾患治療又は予防剤。
【請求項9】請求項1〜7のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,肝疾患治療又は予防剤 」。
b発明の詳細な説明・「従って,本発明は,熱硬化性樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり,そして細孔直径7.5〜15000の細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1 :)R=(I-I)/(I-I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強15度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折35強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回24折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤に関する (段落【0007 ) 。」】・「前記球状活性炭からなる経口投与用吸着剤の好ましい態様では,全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる。
前記球状活性炭からなる経口投与用吸着剤の別の好ましい態様では,前記熱硬化性樹脂が,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂である。
前記球状活性炭からなる経口投与用吸着剤の更に別の好ましい態様では,非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される球状活性炭からなる(段落【0008 ) 。」】・「また,本発明は,熱硬化性樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m /g以上であ2り,全酸性基が0.40〜1.00meq/gであり,全塩基性基が0.40〜1.10meq/gであり,そして細孔直径7.5〜15000の細孔容積が0.25mL/g未満である表面改質球状活性炭からなるが,但し,式(1 :)R=(I-I)/(I-I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強15度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折35強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回24折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表面改質球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤にも関する(段落【0009 ) 。」】「 , ・前記表面改質球状活性炭からなる経口投与用吸着剤の好ましい態様では前記熱硬化性樹脂が,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂である。
, 前記表面改質球状活性炭からなる経口投与用吸着剤の別の好ましい態様では非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される表面改質球状活性炭からなる(段落【0010 ) 。」】・「前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)には,細孔半径100〜75000オングストロームの空隙容積(すなわち,細孔直径20〜15000nmの細孔容積)が0.1〜1mL/gの表面改質球状活性炭からなる吸着剤が記載されているが,本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては,細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.1〜1mL/gであることも,あるいは0.1mL/g以下であることもできる。なお,細孔直径20〜1000nmの細孔容積が1mL/gを越えると消化酵素等の有用物質の吸着量が増加することがあるので,細孔直径20〜1000nmの細孔容積が1mL/g以下であることが好ましい。
なお,本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては,一層優れた選択吸着性を得る観点から,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であり,0.2mL/g以下であることが好ましい (段落【0024 ) 。」】(エ)また,被告が本件無効審判請求における答弁書と共に提出した笠岡成光・阪田祐作・田中栄治・内藤龍之介「フェノール樹脂繊維を原料とする繊維状活性炭の製造と分子ふるい特性 (日本化学会誌・1987 」年6号990頁〜1000頁,甲9文献)には,以下の記載がある。
2 22・「フェノール樹脂系繊維(カイノール)を出発原料として,N ,CO ,HO,LPG燃焼ガスなどを用いて,おもに800〜1000℃で熱分解炭化および炭化工程を省略した直接賦活を行なって,表面積や細孔容積などの大きく異なる繊維状活性炭の製造を試みた。… (990頁論文要約部分1行〜3行) 」・「活性炭素としては,従来からヤシ殻,石炭などを原料にした粒状活性炭(activated granularcarbon. 以下AGCと略記する)や粉状活性炭が多く用いられているが,近年,繊維状活性炭(activated fibrous carbon. 以下AFCと略記する)が注目を集めており,種々の分野への適用が検討され,実用化され始めている。… (990頁本文左欄2行〜6行) 」・「2.4細孔特性の評価…(5)炭素結晶性(微細構造 :X線回折装置(島津製作所製XD-3A)を ),, . 。」 用い CuKα管球 1 5mA×30kVで粉末試料の回折強度を測定した(991頁右欄8行〜25行)・「3・3・2炭素の微細構造:図10と11は,表1や図6〜9に示したカイノール繊維とヤシ殻を原料とする賦活度の異なる一連の活性炭について測定したX線回折強度の比較図である。AFC(図10)についてみると,1000℃での直接賦活炭でも,収率 Y が標準炭化物収率0.54よりも大きいAFC-1と2の回折パターンは,600℃,1時間の熱分解炭化物(図3)のそれとほぼ同じで,炭素の結晶化はあまり進まなかった。… (996頁説明文下7 」行〜末行)(オ)上記補正に対しても,特許庁から法36条違反を理由とする拒絶理由通知(甲24の10)がなされたので,被告は,平成18年6月16日付けで,特許請求の範囲及び明細書の記載を改める手続補正(本件補正,甲24の11)を行った。上記補正後の内容は以下のとおりである(下線が同日付けの補正箇所 。)a特許請求の範囲「 請求項1】【フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が100,. . 0m /g以上であり そして細孔直径7 5〜15000nmの細孔容積が0225mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1):R=(I-I)/(I-I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度15であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度35であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度24である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。
【請求項2】全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる請求項1に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項3】非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される球状活性炭からなる,請求項1又は2に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項4】フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m /g以上であり,全酸性基が0.40〜1.00meq/gであり,全塩2基性基が0.40〜1.10meq/gであり,そして細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である表面改質球状活性炭からなるが,但し,式(1):R=(I-I)/(I-I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度15であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度35であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度24である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表面改質球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。
【請求項5】非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される表面改質球状活性炭からなる,請求項4に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項6】請求項1〜5のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾患治療又は予防剤。
【請求項7】請求項1〜5のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,肝疾患治療又は予防剤 」。
b発明の詳細な説明・「従って,本発明は,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり,そして細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1 :)R=(I-I)/(I -I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強15度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折35強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回24折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤に関する (段落【0007 ) 。」】・「前記球状活性炭からなる経口投与用吸着剤の好ましい態様では,全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる。
前記球状活性炭からなる経口投与用吸着剤の更に別の好ましい態様では,非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される球状活性炭からなる(段落【0008 ) 。」】・「また,本発明は,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1,.. , 000?u/g以上であり 全酸性基が0 40〜1 00meq/gであり全塩基性基が0.40〜1.10meq/gであり,そして細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である表面改質球状活性炭からなるが,但し,式(1 :)R=(I-I)/(I -I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強15度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折35強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回24折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表面改質球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤にも関する(段落【0009 ) 。」】・「前記表面改質球状活性炭からなる経口投与用吸着剤の別の好ましい態様では,非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される表面改質球状活性炭からなる(段落【0010 ) 。」】(3) 別件特許(甲6発明)の内容被告が,本件特許出願に関し,前述した「除くクレーム」を内容とする本件補正をするに至ったのは,前記(2)イのとおり特許庁が平成18年3月13日付け拒絶理由通知(甲24の6)において「本件出願の請求項1-10に係る発明は,同日に出願された特願2004-548106号の請求項に係る発明と同一である」等と指摘したことに基づくものであるが,上記特願2004-548106号の手続経緯と発明の内容は,以下のとおりである(甲6 。)ア 手続経緯被告は,平成14年11月1日の優先権(日本国)を主張して,平成15年10月31日,発明の名称を「経口投与用吸着剤」として日本国特許( , 庁に日本語による国際特許出願 PCT/JP2003/014011号特願2004-548106号)をし,平成17年4月28日に特許第3672200号として設定登録を受けた(甲6発明 。)イ 発明の内容(ア)別件特許(甲6発明)の請求項1は,出願時から変更がなく,その内容は次のとおりである。
「 請求項1】直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により 【求められる比表面積が1000?u/g以上であり,そして式(1 :)R=(I-I)/(I-I) (1)15352435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度15であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度35であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度24である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤 」。
(イ)別件特許(甲6発明)に係る発明の詳細な説明は,以下のとおりである。
・「本発明は,特異な細孔構造を有する球状活性炭からなる経口投与用吸着剤,及び前記球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理することによって製造され,同様の特異な細孔構造を有する表面改質球状活性炭からなる経口投与用吸着剤に関する。
本発明による経口投与用吸着剤は,消化酵素等の体内の有益成分の吸着性が少ないにもかかわらず,有毒な毒性物質(Toxin)の吸着性能が多いという選択吸着特性を有し,更に,特異な細孔構造を有するので,従来の経口, 。, 投与用吸着剤と比較すると 前記の選択吸着特性が著しく向上する 従って特に,肝腎疾患者用の経口投与用吸着剤として有効である(段落【000。」1 )】「腎機能や肝機能の欠損患者らは,それらの臓器機能障害に伴って,血液・中等の体内に有害な毒性物質が蓄積したり生成したりするので,尿毒症や意識障害等の脳症をひきおこす。これらの患者数は年々増加する傾向を示しているため,これら欠損臓器に代わって毒性物質を体外へ除去する機能をもつ臓器代用機器あるいは治療薬の開発が重要な課題となっている。現在,人工腎臓としては,血液透析による有毒物質の除去方式が最も普及している。しかしながら,このような血液透析型人工腎臓では,特殊な装置を用いるために,安全管理上から専門技術者を必要とし,また血液の体外取出しによる患者の肉体的,精神的及び経済的負担が高いなどの欠点を有していて,必ずしも満足すべきものではない(段落【0002 ) 。」】「近年,これらの欠点を解決する手段として,経口的な服用が可能で,腎・臓や肝臓の機能障害を治療することができる経口吸着剤が注目されている。
具体的には,特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤は,特定の官能基を有する多孔性の球形炭素質物質(以後,表面改質球状活性炭とよぶ)からなり,生体に対する安全性や安定性が高く,同時に腸内での胆汁酸の存在下でも有毒物質の吸着性に優れ,しかも,消化酵素等の腸内有益成分の吸着が少ないという有益な選択吸着性を有し,また,便秘等の副作用の少ない経口治療薬として,例えば,肝腎機能障害患者に対して広く臨床的に利用されている。なお,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤は,石油ピッチなどのピッチ類を炭素源とし,球状活性炭を調製した後,酸化処理,及び還元処理を行うことにより製造されていた (段落【0003 ) 。」】・「本発明者は,ピッチ類から球状活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤よりも一層優れた選択的吸着性を示す経口投与用吸着剤の探求を進めていたところ,驚くべきことに,熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭は,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず,生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,しかも有益物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという有益な選択吸着性を有することを見出し,更に,その選択吸着性の程度が,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも優れていることを見出した。熱硬化性樹脂を炭素源として調製した前記球状活性炭は,β-アミノイソ酪酸に対して優れた吸着性を示すので,同様の分子サイズを有する他の毒性物質,例えば,オクトパミンやα-アミノ酪酸,更に腎臓病での毒性物質及びその前躯体であるジメチルアミン,アスパラギン酸,あるいはアルギニン等の水溶性の塩基性及び両性物質に対しても優れた吸着性を示すものと考えられる(段落【0004 ) 。」】・「従来の多孔性球状炭素質物質,すなわち,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤で用いる表面改質球状活性炭では,ピッチ類から調製される球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理して官能基を導入することによって,前記の選択吸着性が発現されることになると考えられていたので,酸化処理及び還元処理を実施する前の球状活性炭の状態で選択的吸着能を発現すること,及びその吸着能が従来の経口投与用吸着剤よりも優れているという本発明者による前記の発見は 驚くべきことである段 ,。」(落【0005 )】・「また,本発明者は,前記の球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理することによって調製した表面改質球状活性炭は,生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,しかも有益物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという前記の有益な選択吸着性が,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも一層向上することを見出した。従って,β-アミノイソ酪酸と同様の分子サイズを有する他の毒性物質,例えば,オクトパミンやα-アミノ酪酸,更に腎臓病での毒性物質及びその前躯体であるジメチルアミン,アスパラギン酸,あるいはアルギニン等の水溶性の塩基性及び両性物質に関しても一層優れた選択吸着性を示すものと考えられる。
本発明はこうした知見に基づくものである(段落【0006 ) 。」】・「本発明による経口投与用吸着剤は,特異な細孔構造を有しているので,経口服用した場合に,消化酵素等の体内の有益成分の吸着性が少ないにもかかわらず,有毒な毒性物質(Toxin)の消化器系内における吸着性能が優れるという選択吸着特性を有し,従来の経口投与用吸着剤と比較すると,前記の選択吸着特性が著しく向上する(段落【0010 ) 。」】・「本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球,,() () 状活性炭は 前記のとおり 前記式 1 から求められる回折強度比 R値が1.4以上である。
最初に,回折強度比(R値)について説明する。
前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)の実施例1〜3に記載の従来法による表面改質球状活性炭に対して,粉末X線回折を実施すると,図1の曲線Aに示すような傾向のX線回折図形が得られる。なお,図1の曲線Aそれ自体は,後述する比較例1によって得られた表面改質球状活性炭のX線回折図形である。曲線Aから明らかなように,回折角(2θ)が20°〜30°の近辺に002面に由来する回折ピークが現れ,回折角(2θ)が30°より高角度側では回折X線の減少により強度が減少する。一方,回折角(2θ)が20°より低角度側では,002面からの回折X線が殆ど観測されない回折角15°以下の領域でも,強いX線が観測される。更に,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)の実施例1〜3記載の表面改質球状活性炭に水分を吸着させ,粉末X線回折の測定を実施すると,図1の曲線Bに示すような傾向のX線回折図形が得られる。なお,図1の曲線Bそれ自体は,後述する比較例1によって得られた表面改質球状活性炭に水分を吸着させた後に得られるX線回折図形である。曲線Bから明らかなように,曲線Aに比べ曲線Bの低角度側のX線強度が大幅に低下することがわかる。これは低角度側のX線強度が微細な細孔に起因するものであり,細孔内に水分を吸着することによりX線散乱強度が低下したものと解釈される段落 0。」(【011 )】・一方,後述する実施例に示すように,本発明者が見出した調製方法によって得られる球状活性炭又は表面改質球状活性炭では,水分を吸着させていな, 。 い状態で 図1の曲線Cに示すような傾向のX線回折図が一般的に得られるなお,図1の曲線Cそれ自体は,後述する実施例1によって得られた表面改質球状活性炭のX線回折図形である。すなわち,回折角(2θ)が15°以下の低角度領域における曲線Cの散乱強度が曲線Aの散乱強度と比較して明らかに強い傾向にある。なお,図1において,曲線A,曲線B,及び曲線Cは,回折角(2θ)が24°における回折強度がいずれも100となるように規格化してある(段落【0012 ) 。」】・「図1の曲線Aのような傾向のX線回折図を示す多孔質体と,図1の曲線Cのような傾向のX線回折図を示す多孔質体とでは,その細孔構造が異なることは明らかである。また,曲線Aと曲線Bの比較により表面改質球状活性炭のX線回折において低角度側で観測される散乱強度が細孔構造に起因することは明らかであり,散乱強度が強いほどより多くの細孔を有する。散乱角と細孔径の関係は,より高角度側の散乱ほどその細孔径が小さいものと推測される。細孔構造の解析には一般に吸着法により細孔分布を求める方法が知られているが,細孔の大きさ,形状,吸着物質の大きさ,及び吸着条件等の。, 違いにより細孔構造を精確に解析することが困難な場合が多い 本発明者は002面からの回折X線による影響が少なく,且つ,微細孔による散乱を反映すると推定される15°付近の散乱強度が,吸着法で測定することが困難な超微細孔の存在を表す指標となり,このような微細孔の存在が有害物質で。, あるβ-アミノイソ酪酸の吸着に有効であるものと推定している すなわち回折角(2θ)が15°付近の散乱強度が強い球状活性炭又は表面改質球状活性炭ほど,有害物質であるβ-アミノイソ酪酸の吸着に有効であると推測している(段落【0013 ) 。」】・「また,後述する実施例で示すように,本発明者は,図1の曲線Aのような傾向のX線回折図を示す従来の球状活性炭又は表面改質球状活性炭と比較して,図1の曲線Cのような傾向のX線回折図を示す本発明による球状活性炭又は表面改質球状活性炭の方が,優れた選択吸着性能を示すことを実験的に確認した(段落【0014 ) 。」】「, , () ・そこで 前記の関係を明確化するために 本明細書においては前記式 1によって計算される回折強度比(R値)によって,球状活性炭又は表面改質球状活性炭を規定する。前記式(1)において,Iは回折角(2θ)が1155°における回折強度であり,曲線Aと曲線Cとの間で,回折強度差が大き。() , くなる領域である Iは回折角 2θ が24°における回折強度であり2435曲線Aと曲線Cとの間で,回折強度差が小さくなる領域である。なお,Iは回折角(2θ)が35°における回折強度であり,各測定試料間のバックグラウンドによる測定誤差を補正する目的で導入する(段落【0015 ) 。」】・「従って,前記式(1)によって計算される回折強度比(R値)は,曲線Aについては,R=t/uとなり,曲線Cについては,R=s/vとなる(段落【0016 ) 。」】・「従来公知の代表的な経口投与用表面改質球状活性炭について,本発明者が確認したところ,それらの回折強度比(R値)はいずれも1.4未満であり,回折強度比(R値)が1.4以上の経口投与用表面改質球状活性炭は,本発明者の知る限り,見出されていない。一方,後述する実施例に示すとおり,回折強度比(R値)が1.4以上の表面改質球状活性炭は,回折強度比(R値)が1.4未満の表面改質球状活性炭と比較すると,β-アミノイソ酪酸の吸着能が向上しており,毒性物質の選択吸着性が向上した経口投与用吸着剤として有効であることが分かる。
なお,本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては,前記式(1)によって計算される回折強度比(R値)が,好ましくは1.4以上であり,より好ましくは1.5以上,更に好ましくは1.6以上である(段落【0017 ) 。」】・「本発明者が見出したところによれば,回折強度比(R値)が1.4以上の球状活性炭又は表面改質球状活性炭は,例えば,従来の経口投与用吸着剤の炭素源として用いられてきたピッチ類に代えて,炭素源として熱硬化性樹脂を用いることにより調製することができる。あるいは,従来の経口投与用吸着剤同様に,炭素源としてピッチ類を用い,不融化処理の工程で架橋構造を発達させ,炭素六角網面の配列を乱すことにより調製することができる 」。
(段落【0018 )】・「次に,炭素源としてピッチ類を用い,不融化処理の工程で架橋構造を発達させ,炭素六角網面の配列を乱すことにより,経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭を調製する方法を説明する。
最初に,石油ピッチ又は石炭ピッチ等のピッチに対し,添加剤として,沸点200℃以上の2環式又は3環式の芳香族化合物又はその混合物を加えて加熱混合した後,成形してピッチ成形体を得る。なお,前記の球状活性炭又は表面改質球状活性炭は経口投与用であるので,その原料も,安全上充分な純度を有し,且つ品質的に安定であることが必要である(段落【0026 ) 。」】・「次に,熱水中で前記のピッチ成形体を撹拌下に分散造粒して微小球体化する。更に,ピッチに対して低溶解度を有し,かつ前記添加剤に対して高溶解度を有する溶剤で,ピッチ成形体から添加剤を抽出除去し,得られた多孔性ピッチを,酸化剤を用いて酸化すると,熱に対して不融性の多孔性ピッチが得られる。こうして得られた不融性多孔性ピッチを,更に炭素と反応性を有する気流(例えば,スチーム又は炭酸ガス)中で,加熱処理すると,球状活性炭を得ることができる(段落【0027 ) 。」】・「こうして得られた球状活性炭を,続いて,酸素含有雰囲気下にて加熱下で酸化処理し,更に非酸化性ガス雰囲気下で加熱反応による還元処理をすることにより,本発明の経口投与用吸着剤として用いる表面改質球状活性炭を得ることができる。
前記の製造方法において,特定量の酸素を含有する雰囲気としては,純粋な酸素,酸化窒素又は空気等を酸素源として用いることができる。また,炭素に対して不活性な雰囲気としては,例えば,窒素,アルゴン,又はヘリウム等を単独で用いるか あるいはそれらの混合物を用いることができる段 , 。」(落【0028 )】・「前記の原料ピッチに対して,芳香族化合物を添加する目的は,原料ピッチの流動性を向上させ微小球体化を容易にすること及び成形後のピッチ成形体からその添加剤を抽出除去させることにより成形体を多孔質とし,その後の工程の酸化による炭素質材料の構造制御ならびに焼成を容易にすることに。 ,,,, ある このような添加剤としては 例えば ナフタレン メチルナフタレンフェニルナフタレン,ベンジルナフタレン,メチルアントラセン,フェナンスレン,又はビフェニル等を単独で,又はそれらの2種以上の混合物を用いることができる。ピッチに対する添加量は,ピッチ100重量部に対し芳香族化合物10〜50重量部の範囲が好ましい(段落【0029 ) 。」】・「ピッチと添加剤との混合は,均一な混合を達成するために,加熱して溶融状態で行うのが好ましい。ピッチと添加剤との混合物は,得られる球状活性炭又は表面改質球状活性炭の粒径(直径)を制御するため,粒径約0.01〜1mmの粒子に成形することが好ましい。成形は溶融状態で行ってもよく,また混合物を冷却後に粉砕する等の方法によってもよい。
, ピッチと添加剤との混合物から添加剤を抽出除去するための溶剤としては例えば,ブタン,ペンタン,ヘキサン,又はヘプタン等の脂肪族炭化水素,ナフサ,又はケロシン等の脂肪族炭化水素を主成分とする混合物,あるいはメタノール,エタノール,プロパノール,又はブタノール等の脂肪族アルコール類等が好適である。
このような溶剤でピッチと添加剤との混合物成形体から添加剤を抽出することによって,成形体の形状を維持したまま,添加剤を成形体から除去することができる。この際に,成形体中に添加剤の抜け穴が形成され,均一な多。」(【】) 孔性を有するピッチ成形体が得られるものと推定される段落 0030・「こうして得られた多孔性ピッチ成形体を,次いで不融化処理,すなわち酸化剤を用いて,好ましくは常温から300℃までの温度で酸化処理することにより,熱に対して不融性の多孔性不融性ピッチ成形体を得ることができる。ここで用いる酸化剤としては,例えば,酸素ガス(O,あるいは酸素2)ガス(O )を空気や窒素等で希釈した混合ガスを挙げることができる(段2。」落【0031 )】・「 4)回折強度比(R値) (球状活性炭試料又は表面改質球状活性炭試料を120℃で3時間減圧乾燥した後,アルミニウム試料板(35×50m?u,t=1.5mmの板に20×18m?uの穴をあけたもの)に充填し,グラファイトモノクロメーターにより単色化したCuKα線(波長λ=0.15418)を線源とし,反射式デフラクトメーター法により回折角(2θ)が15°,24°,及び35°のそれぞれの角度における回折強度I,I,Iを測定する。X線発生部152435及びスリットの条件は,印加電圧40kV,電流100mA,発散スリット,., 。 =1/2° 受光スリット=0 15mm 散乱スリット=1/2°である回折図形の補正には,ローレンツ偏光因子,吸収因子,原子散乱因子等に関する補正を行わず,標準物質用高純度シリコン粉末の(111)回折線を用いて回折角を補正した(段落【0041 ) 。」】・「 実施例1》《球状のフェノール樹脂(粒子径=10〜700μm:商品名「高機能真球樹脂マリリンHF500タイプ ;群栄化学株式会社製)を目開き250μmの 」篩で篩分し,微粉末を除去した後,微粉除去した球状のフェノール樹脂150gを目皿付き石英製縦型反応管に入れ,窒素ガス気流下1.5時間で350℃まで昇温し,更に900℃まで6時間で昇温した後,900℃で1時間保持して,球状炭素質材料68.1gを得た。その後,窒素ガス(3NL/min)と水蒸気(2.5NL/min)との混合ガス雰囲気中,900℃で賦活処理を行った。球状活性炭の充填密度が0.5mL/gまで減少した時点で賦活処理を終了とし,球状活性炭29.9g(収率19.9wt%)を得た。
得られた球状活性炭の回折角(2θ)15°における回折強度は743cpsであり,回折角(2θ)35°における回折強度は90cpsであり,回折角(2θ)24°における回折強度は473cpsであった。従って,回折強度比(R値)は1.71であった。
得られた球状活性炭の特性を表1及び表2に示す(段落【0052 ) 。」】・「 比較例1》《石油系ピッチ(軟化点=210℃;キノリン不溶分=1重量%以下;H/C原子比=0.63)68kgと,ナフタレン32kgとを,攪拌翼のついた内容積300Lの耐圧容器に仕込み,180℃で溶融混合を行った後,80〜90℃に冷却して押し出し,紐状成形体を得た。次いで,この紐状成形体を直径と長さの比が約1〜2になるように破砕した。
0.23重量%のポリビニルアルコール(ケン化度=88%)を溶解して93℃に加熱した水溶液中に,前記の破砕物を投入し,攪拌分散により球状化した後,前記のポリビニルアルコール水溶液を水で置換することにより冷却し,20℃で3時間冷却し,ピッチの固化及びナフタレン結晶の析出を行い,球状ピッチ成形体スラリーを得た。
大部分の水をろ過により除いた後,球状ピッチ成形体の約6倍重量のn-ヘキサンでピッチ成形体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを,流動床を用いて,加熱空気を通じながら,235℃まで昇温した後,235℃にて1時間保持して酸化し,熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。得られた多孔性球状酸化ピッチの酸素含有率は14重量%であった。
続いて,多孔性球状酸化ピッチを,流動床を用い,50vol%の水蒸気, を含む窒素ガス雰囲気中900℃で170分間賦活処理して球状活性炭を得更にこれを流動床にて,酸素濃度18.5vol%の窒素と酸素との混合ガス雰囲気下で470℃で3時間15分間,酸化処理し,次に流動床にて窒素ガス雰囲気下900℃で17分間還元処理を行い,表面改質球状活性炭を得た (段落【0057 ) 。」】・「得られた表面改質球状活性炭の回折角(2θ)15°における回折強度は647cpsであり,回折角(2θ)35°における回折強度は84cp,() 。 sであり 回折角 2θ 24°における回折強度は546cpsであった従って,回折強度比(R値)は1.22であった。
得られた表面改質球状活性炭の特性を表1及び表2に示す。
図1の曲線Aは比較例1で得られた表面改質球状活性炭を120℃で2時間真空乾燥した後に,前記『回折強度比(R値 』の測定方法と同様の手順で )測定して得られた回折曲線であり,図1の曲線Bは,比較例1で得られた表面改質球状活性炭200mgにイオン交換水2〜3滴を滴下してペースト状にし,そのペースト状表面改質球状活性炭に関して同様に測定して得られた回折曲線である。… (段落【0058 ) 」】・【表1】・【表2】(ウ) 甲6公報の図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】である )。
・【図1 (従来法による表面改質球状活性炭のX線回折図(曲線A ,従来法に 】 )よる表面改質球状活性炭ペースト体のX線回折図(曲線B ,及び本発明の経口 )()。) 投与用吸着剤として用いる表面改質球状活性炭のX線回折図 曲線C であるウ 小括上記ア,イによれば,別件特許(甲6発明)は,球状活性炭からなる経口投与用吸着剤につき(請求項1の特許請求の範囲の記載 ,その細孔構 )造に注目して,従来公知の手法である粉末X線回折を実施した場合,回折角(2θ)が15°付近の散乱強度が強いほど有害物質であるβ-アミノ(【】,【】),, イソ酪酸の吸着に有効であること 段落 00110013及び図1のCで示された曲線(球状のフェノール樹脂を用いた実施例1の方法で得られた球状活性炭を用いて測定したもの)のような傾向のX線回折図を示す球状活性炭が,同じく図1のA(従来技術に属するピッチを用いて作成されたもの)の曲線のような従来の球状活性炭に比して優れた選択吸着性能を示すこと(段落【0014【0052【0057【005 】,】,】,8 )から,これを回折角(2θ)35°における回折強度(cps)と 】15°における回折強度の差(この差を表すのが,曲線Aについては図1の「t ,曲線Cについては同「s )と,回折角(2θ)35°における 」 」回折強度(cps)と24°における回折強度の差(曲線Aについては「u ,曲線Cについては「v )との比,すなわち曲線Aについては「t 」」/u曲線Cについては s/v で表すこととして これを R値 回 」,「」,「(折強度比 」とし,このR値をもって別件特許(甲6発明)に係る球状活 )(【】,【】)。, 性炭の特徴を現したものである 段落 00150016そして優れた選択吸着性能を示す曲線Cに示す実施例1のものでは,R値が1.71であること(段落【0052 )等から,好ましいR値として,1. 】4以上,より好ましくは1.5以上,さらに好ましくは1.6以上である(段落【0017 )として,R値を1.4以上である球状活性炭である 】ことを特許請求の範囲に規定したもの(請求項1)であることが認められる。
さらに別件特許(甲6発明)は,炭素源として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂又イオン交換樹脂を用いる本件特許とは異なり,球状活性炭の炭素源については何ら限定していない。そして,本件特許では従来技術に属する物として対象とはされなかった炭素源としてピッチを用いることによっても上記R値を満たす球状活性炭の調整が可能であるとして 段落 0 (【018,不融化処理の工程で架橋構造を発達させ,炭素六角網面の配列 】)(【】 を乱すとする具体的調整方法についても記載されている 段落 0026〜【0031 )】(4) 本件補正の適否に関する判断以上を基にして,本件補正の適否について判断する。
ア本件特許(設定登録時)の請求項1,4のうち 「除くクレーム」に関 ,する記載は,下記の下線部分である。
「 請求項1】【フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m /2g以上であり,そして細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1 :)R=(I-I)/(I-I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であ15り,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,35Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕24で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤 」。
「 請求項4】【フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m /2,.. ,. g以上であり 全酸性基が0 40〜1 00meq/gであり 全塩基性基が040〜1.10meq/gであり,そして細孔直径7.5〜15000nmの細孔. ,, () 容積が0 25mL/g未満である表面改質球状活性炭からなるが 但し 式 1:R=(I-I)/(I-I) (1)1535 2435〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であ15り,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,35Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕24で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表面改質球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤 」。
イすなわち,本件補正は,上記アのとおり,球状活性炭につき,X線回折法による回折角(2θ)が15°,24°,35°における回折強度の比(R値)が1.4以上であるものを除くとするものである。
一方,前記のとおり,本件当初明細書に記載された発明は,経口投与用吸着剤に用いられる球状活性炭について,熱硬化性樹脂,実質的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用い,これにより,ピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて,有益物質に対する吸着が少なく尿毒症性物質の吸着性に優れるという選択吸着性が向上するという効果を奏するとするものである。
そして,上記(2)イ(エ)の記載によれば,フェノール樹脂を出発原料とした球状活性炭において,X線回折を行って回折強度を測定することは周知の技術であると認められるところ,上記(3)ウのとおり,別件特許(甲6発明)は,球状活性炭からなる経口投与剤につき,その細孔構造に注目して,直径,比表面積のほか,最も優れた選択吸着性を示すX線回折強度を示す回折角の観点からこれをR値として規定し,このR値が1.4以上で。,, あることを特徴としたものである そして別件特許は 球状活性炭に関し本件特許とは異なりフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を出発原料として特定せず,また本件特許では従来技術に属するものとされるピッチ類を用いても調整が可能であるとして,このR値の観点から球状活性炭を特定したものである。
そうすると,球状活性炭のうちフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いた場合において,そのR値が1.4以上であるときには,本件特許に係る発明と別件特許に係る発明(甲6発明)は同一であるということができる。そして,本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,法17条の2第3, 。 項に違反するものではないから 補正要件違反の無効理由は認められないウ 原告の主張に対する補足的判断(ア)原告は,仮に知財高裁大合議判決の判断基準を前提としても,本件補正は,本件補正前に係る本件特許発明の技術的事項との対比において新たな技術的事項を導入するものであるから,本件補正は許されないと主張する(取消事由1-2 。)この点,原告が本件補正前に係る本件特許発明の技術的事項として挙げるのは,以下の?@〜?Cである。
?@本件発明者は,ピッチ類から球状活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤よりも一層優れた選択的吸着性を示す経口投与用吸着剤の探求を進めていたこと。
?Aフェノール樹脂又はイオン交換樹脂(いずれも熱硬化性樹脂の一部)を炭素源として調製した球状活性炭は,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらずβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,有益な選択吸着性を有することを見出し,さらに,その選択吸着性の程度が特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも優れていることを見出したこと。
?B前記?Aの球状活性炭は,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造した球状活性炭のうち本件特許出願人の定めた方法(甲6,段落【0041 )により測定した回折強度比(R値)が1.4以上(甲6,段 】落【0017 )であること。 】?CR値を1.4以上とするための主要な方法は,炭素源を熱硬化性樹脂とすることであること(甲6,段落【0018。】)原告の主張する上記技術的事項のうち,?@は本件特許発明の課題,?Aは効果をいうものである。
これに対し,?B及び?Cは回折強度比(R値)に関するものであるが,前記のとおり,本件特許発明に係る当初明細書には回折強度比(R値)に関する記載はなく,これをもって当初明細書の記載から把握される本件特許発明の技術的事項と解することはできない。
これを本件特許発明の意義との関係でふえんすると,当初明細書(甲23の2)の「発明を実施するための最良の形態」における 「本発明 ,の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭は,前記のとおり,従来の経口投与用吸着剤の炭素源として用いられてきたピッチ類に代えて,炭素源として熱硬化性樹脂を用いる点を特徴としており,それ以外の点では,ピッチ類を用いる従来の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調製することができる(4頁下7行〜下2 。」行)との記載に端的に示されているとおり,本件特許発明は,有益な選択吸着性という効果を導くための課題解決方法として球状活性炭の炭素源に着目し,これを熱硬化性樹脂(その後の補正を経て,最終的にはフェノール樹脂及びイオン交換樹脂)とした点に最大の特徴があるものであって,それ以外の要素については,経口投与用吸着剤としての基本的性質に反しない限度において,従来技術に従って適宜決定する余地のあることを前提とするものであり,その意味で,回折強度比(R値)についても,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)において適宜決定すべきことが予定されていたものというべきである(ちなみに,回折強度比(R値)の差異による選択吸着性の違いに着目した発明である別件特許(甲6発明)の明細書においては,実施例の内容としてR値を明示しているのに対し,本件特許発明の明細書においては,実施例の内容としてR値を明示しておらず,また,同じく経口投与用吸着剤に関する発明に関する甲5公報や甲33公報において, ()。)。 も 明細書の記載において回折強度比 R値 に触れるところがない当初明細書に開示された本件特許発明の上記意義に照らせば,R値に特別の限定がないことは,R値が1.4以上の場合と1.4未満の場合とを問わず,経口投与用吸着剤としての基本的性質に反しない限度においてすべてのR値が含まれることを前提とするものと理解できるのであって,本件補正も,そのような理解を前提とした場合に甲6発明との間で生ずるR値が1.4以上のものについての重複を排除するため,これを除外するという意義を有するものである。
以上のような本件特許発明における回折強度比(R値)の意義ないし本件補正の意義に照らせば,回折強度比(R値)につきいかなる値を設定するかは,本件特許発明の技術的事項に対し影響を与えるものではないというべきである。
また,原告が上記?B,?Cを本件特許発明の技術的事項として把握する, , のは 甲6発明に係る明細書の記載を参酌したことによるものであるが前記のとおり,技術的事項の把握は当初明細書のすべての記載を総合して導くべきものであって,たとえ同一出願日に同一出願人により同一技術分野に係る他の出願が存し,かつ,その明細書の記載が当初明細書の記載と一部重なっていたとしても,そのことは,当初明細書以外に当該他の明細書を参酌して発明の技術的事項を把握することを肯定する理由となるものではない。
, 。 したがって 原告の上記主張は前提において採用することができない(イ)次に原告は,回折強度比(R値)が1.4以上であることを発明の技術的意義としていたものを,本件補正により1.4未満としたのであるから,新たな技術的事項を導入するものであると主張するが,かかる主張が採用することができないことは,上記(ア)のとおりである。
(ウ)次に原告は,回折強度比(R値)の意義や,その計算根拠となる回折強度が明細書の記載上一義的に不明確であり,その追加的説明が必要, 。 となること自体 新たな技術的事項が導入されたことになる旨主張するしかし,本件特許発明において回折強度比(R値)の高低が技術的意義に影響を与えるものでないことは前記(ア)のとおりであるところ,前記のとおり,明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする補正についても,明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し新たな技術的事項を導入しないものである限り許される, , のであって 当初明細書にR値に関する記載のなかったことそれ自体はこれにより直ちに新たな技術的事項が導入されたことの理由となるものではない。
また原告は,R値の計算根拠となる回折強度は測定条件により異なり, , 得ることをもって R値の意義等が一義的に明らかでない旨主張するがX線回折法については 日本工業規格 JIS乙6日本薬局方 乙 ,()(),(8 ,日本学術振興会が定めた測定法(学振法 (乙7)にそれぞれ規格 ) )が定められており,明細書にR値の測定方法に関する記載がなくとも,これらの規格に従って測定方法を決定し得るものと認められ,測定条件についても適宜決定し得るものと認められるから,これらについて明細書に記載のないことが上記結論を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(エ)次に原告は,本件補正により実施例が除外されたとして,これをもって技術的範囲が大きく変更されたことの根拠とする。
この点,本件特許発明に係る実施例の結果である表1,2と甲6発明に係る実施例の結果である表1,2とは,甲6発明においてR値を付記しているほかはすべて一致し,また,両発明に係る明細書の記載において,実施例の基礎となる条件が一致することに鑑みれば,両発明における実施例は同一のものであると認められる。
,, , そして 原告の上記主張は 両者を形式的に併せ考慮することにより本件特許発明における実施例はR値1.4以上のものを表したものと評価して,本件補正後の本件特許発明に直接妥当する実施例が明細書の記載上存在しなくなったとみるものである。
しかし,前記(ア)の説示から明らかなとおり,当初明細書における実施例は,R値にかかわらず,炭素源としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を用いたことにより,ピッチ類から得られる従来の経口吸着剤よりも優れた選択吸着性を示し,かつ,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態でも選択吸着性を発揮することを裏付けているものであって,明細書の記載上,R値は付記されていないことからみても,当業者は本件特許明細書における実施例の記載に接した場合,これがR値を1.4以上のものに限定する趣旨と理解するものではないということができる。
なお原告は,被告が別件特許(甲6発明)の出願経過において,R値が1.4以上のものでなければ目的とする作用効果が奏しないと強調して特許査定を経ているなどと主張するが,本件特許発明に係る当初明細書の記載をみれば,本件特許発明の技術思想は,課題を解決するための手段として炭素源の種類に着目し,これに「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」を選択することによって課題を解決し得るかどうかを問題と,() するものであることは明らかであって 同日出願の別件特許 甲6発明の出願経過等において被告が「R値1.4以上」のものでなければ目的とする作用効果が奏しないと主張していたとしても,これと課題の解決方法が異なる本件特許発明の作用効果が否定されるわけではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(オ)次に原告は,本件補正により請求項に係る発明の成立性を裏付けるデータ(実験成績証明書,甲24の9に添付)を示す必要性が生じたこと(甲24の9参照)は,追加的説明が必要であることを示すものであり,新たな技術的事項が導入されたことを意味する旨主張する。
この点,実験成績証明書Aは 「 イオン交換樹脂』を炭素源として用 ,『いた場合でも,優れた選択吸着率を有する経口投与用吸着剤を得ること」(〔〕), ができることを示すため意見書 甲24の7 6頁30行〜31行実験成績証明書Bは,本件補正により「 除かれた部分』以外の本件発 『明による経口投与用吸着剤が優れた選択吸着性を有していることを具体的に示すため (同7頁下17行〜下16行)に提出されたものである 」ところ,前記のとおり,当初明細書における実施例は,R値にかかわらず,炭素源としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を用いたことにより,ピッチ類から得られる従来の経口吸着剤よりも優れた選択吸着性を示し,かつ,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態でも,選択吸着性を発揮することを裏付けていたものであるから,明細書の記載上は,実施例として不足はないということができる。
もっとも,本件補正により構成が限定された結果,本件特許発明の効果(フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いたことによりピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて選択吸着性が向上すること)を喪失するなど,本件特許発明の意義が失われることになるのであれば,本件補正は当初明細書における技術的意義変更を来すこととなり得ることからすれば,上記実験証明書の提出は,当初明細書の記載から把握できる技術的事項 すなわち 前記 最大の特徴 により前記 効 ,,「」「果」が奏されることが,R値の大小にかかわらず妥当することを釈明するためになされたものと理解することができるのであって,これにより新たな技術的事項が付加されたとか,その裏付けになるといえるものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(カ)さらに原告は,R値を1.4未満とする本件補正は,R値が1.4以上であることを必須要件とする別件特許(甲6発明)と作用効果の点で矛盾を来すから,本件補正により新たな技術的事項が導入されたといえる旨主張する。
,,, , しかし 前記のとおり 本件特許発明は R値のいかんにかかわらず炭素源として熱硬化性樹脂(具体的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂)を用いることにより課題を解決するものであるのに対し,別件特許(甲6発明)は,炭素源のいかんにかかわらず,R値を1.4以上とすることにより課題を解決するものであって,課題解決のアプローチを異にする点で技術的思想を異にするものである。そうすると,甲6公報. , においてR値が1 4以上であることを必須要件であるとしたとしても直ちに両者が矛盾することになるものではないから,原告の上記主張は採用することができない。
3取消事由2(細孔容積要件に関する明細書の記載不備に当たらないとした判断の誤り)について(1)原告は,本件特許の明細書に実施例(実施例1,2)として記載された製造例が 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積0.04mL/gあ ,るいは0.06mL/g」の「フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭」であることから,上記実施例以外の細孔容積に係る球状活性炭やこれを得る方法が記載されていないことは,明細書の記載不備(法36条4項1号,同条6項1号違反)に当たる旨主張するので,この点について検討する。
, , , (2) 特許制度は 発明を公開させることを前提に 当該発明に特許を付与して一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである(法36条6項1号の規定するいわゆる明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである 。。)もっとも,以上のことは,発明として特定された技術事項について,その全範囲を実施例等として示すことを求めるものではないのであって(それ),() が現実的でないことは多言を要しない実施可能要件36条4項1号への適合性という観点では,明細書の記載及び出願時における当業者の技術常識に照らし当業者において当該発明を実施することが可能か否かを検討して判断すべきものであるし,明細書のサポート要件(法36条6項1号)への適合性という観点では,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで,上記の観点に立って,本件事案について検討する。
(3) 実施可能要件についてア細孔容積に関しては,本件特許明細書の実施例に「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積0.04mL/gあるいは0.06mL/g」の「フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭」しか記載されていないことは,原告が指摘するとおりである。
イ もっとも,本件特許の明細書(特許公報,甲22)には,・「本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭は,前記のとおり,従来の経口投与用吸着剤の炭素源として用いられてきたピッチ類に代えて,炭素源として熱硬化性樹脂を用いる点を特徴としており,それ以外の点では,ピッチ類を用いる従来の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調製することができる(段落【0013 ) 。」】・「前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)には,細孔半径100〜75000オングストロ-ムの空隙容積(すなわち,細孔直径20〜15000nmの細孔容積)が0.1〜1mL/gの表面改質球状活性炭からなる吸着剤が記載されているが,本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては,細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.1〜1mL/gであることも,あるいは0.1mL/g以下であることもできる。なお,細孔直径20〜1000nmの細孔容積が1mL/gを越えると消化酵素等の有用物質の吸着量が増加することがあるので,細孔直径。, 20〜1000nmの細孔容積が1mL/g以下であることが好ましい なお本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては,一層優れた選択吸着性を得る観点から,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であり,0.2mL/g以下であることが好ましい(段落【0024 ) 。」】と記載されており,これによれば,炭素源に係る発明特定事項以外の発明特定事項について当業者が適宜の設定をすることが可能であることを示唆するものであると理解することができる。
, , 。 ウ そして 細孔容積の制御に関しては 以下のような文献上の記載がある(ア) 乙1公報以下のとおり,7600nm以下の細孔の細孔容積が0.2〜0.4c?u/gの多孔質ガラス状炭素,すなわち活性炭を製造可能であることが開示されている。
・「 請求項1】フェノール樹脂にエポキシ樹脂と前記エポキシ樹脂の硬化剤 【との混合物を添加して混合する工程と,得られた混合物を加熱して硬化させる工程と,得られた硬化物を非酸化性雰囲気中で加熱して炭化させる工程とを備えることを特徴とする,多孔質ガラス状炭素の製造方法 」。
・「本発明は,…気孔径7.6μm以下の気孔を0.2〜0.4c□/gで含有し,通気性が良好でかつ比較的高い密度および強度を有する多孔質ガラス状炭素を提供する。… (段落【0034 ) 」】(イ) 乙2公報以下の記載に加え,実施例1〜5では平均細孔直径が20〜30nm(【】 【】), の活性炭素多孔体が製造されており 段落 0031 の 表1 参照細孔容積は不明であるものの,細孔直径7.5〜15000nm程度の細孔を形成可能であることが開示されている。
・「 請求項1】レゾール型フェノール樹脂(a)100重量部,親油性で1 【() , 00℃以上の沸点を有する常温で液状の化合物 b 1ないし100重量部親水性で100℃以上の沸点を有する液状の化合物(c)1ないし100重量部,及び残炭率の高い粉体(d)1ないし200重量部とからなる混合物の硬化物を形成した後,500℃以上の温度で炭化,賦活することを特徴とする活性炭素多孔体の製造方法 」。
(ウ) 乙3文献以下のとおり,活性炭の薬剤賦活では,含浸させる薬品の質量比が増加するにつれて細孔径を大きくかつ細孔容積も大きくでき 活性炭化 焼 ,(成)温度が孔隙の形成に大きく関与することが開示されている。
・「2.2.2 薬品賦活法薬品賦活法は,原料に賦活薬品を均等に含浸させて,不活性ガス雰囲気中で加熱(焼成)し,薬品の脱水および酸化反応により,微細な多孔質の吸着炭をつくる方法である。
通常,原料としては種々の炭素質原料が考えられる。… (51頁下16行 」〜下12行)・「薬品賦活では,炭素質原料(無水基準)に対して,含浸させる薬品の質量比が活性化の重要な尺度で,含浸質量比が小さい場合は微細な孔隙を生成し 含浸質量比が大きくなるにつれて孔径の大きい細孔を発達させて孔隙 細 , (孔容積)も増大する。また,活性炭化(焼成)温度が孔隙の形成に大きく関与するので,最適な焼成温度を原料や薬品の種類にそって選択することになる (51頁下6行〜下2行) 。」(エ) 乙4文献以下のとおり,希土類や遷移金属の錯体や塩を添加して賦活することによってメソ孔(2nm〜50nm直径)を選択的に形成できることが開示されている。
・「1.緒言希土類あるいは遷移金属の錯体や塩をピッチ,石炭等に分散し,賦活することにより,メソ孔(2nm< diameter <50nm)を選択的に有する多孔質炭素(以下「メソ孔性活性炭」と呼ぶ)が得られる。この場合生成するメソ孔は顕微鏡観察からピット状であることが知られ,炭素組織中に共存する金属あるいは金属酸化物粒子がメソ孔の形成過程に大きく関与すると予想される(8頁左下欄1行〜8行) 。」(オ) 甲3・甲4文献以下の記載に加え,甲3文献の図4,図6,図7や甲4文献の Fig.5を検討すれば,炭化焼成する温度や賦活時間によって,細孔径や細孔容積が変化することが理解できる。
「 , ・…本実験でえられた活性炭は細孔容積の大部分をミクロ孔が占めており賦活温度が高いほど,賦活時間が長いほど細孔容積は増大し,極大分布半径は半径の大きいほうへ移動した(甲3,2100頁,要約の項の3行〜5 。」行)エ以上のとおり,本件特許の出願日(平成15年10月31日)当時,細孔容積の制御が多様な方法で可能であったことは明らかである(原告も,フェノール樹脂を炭素源とする場合については,細孔直径や細孔容積を制御できることについては争わない 。。)また,上記各文献のうち,乙1,2,甲3,4文献はフェノール樹脂を炭素源とするものであるが,乙3文献では 「原料としては種々の炭素質 ,原料が考えられる」として,炭素源の限定がなされておらず,また,乙4文献ではフェノール樹脂やイオン交換樹脂以外の炭素源の場合においても細孔容積の制御が可能であることが述べられており,これらに加え,イオン交換樹脂についてこれらと異なる制御に服するとの知見を見出すことができないことからすれば,細孔容積の制御に関し,イオン交換樹脂をフェノール樹脂と別異に解すべき必然性は認められない。
なお原告は,フェノール樹脂と同様の熱硬化性樹脂の一つであることを根拠としてイオン交換樹脂の細孔容積を制御できるとすると,熱硬化性樹脂一般についても細孔容積を制御できることを意味することになるなどと主張するが,上記認定はイオン交換樹脂が熱硬化性樹脂の一つであることのみを根拠とするものではなく,熱硬化性樹脂一般の細孔容積の制御可能性を肯定するものではないから,採用することができない。
以上によれば,細孔容積は,当業者において活性炭の製造条件及び賦活条件などにより適宜制御可能であると認めることができるから 「フェノ ,ール樹脂及びイオン交換樹脂」を炭素源とする「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満」の球状活性炭を製造することは,本件特許の出願日(平成15年10月31日)当時の技術常識に基づいて当業者がなし得るものと認められる。
(4) サポート要件についてア本件特許発明に係る細孔容積の規定は 「細孔直径7.5〜15000 ,nmの細孔容積が0.25mL/g未満」というものであるのに対し,本件特許明細書(甲22)における細孔容積に関する記載は 「…細孔直径 ,20〜1000nmの細孔容積が1mL/gを越えると消化酵素等の有用物質の吸着量が増加することがあるので,細孔直径20〜1000nmの細孔容積が1mL/g以下であることが好ましい。なお,本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては,一層優れた選択吸着性を得る観点から,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であり,0.2mL/g以下であることが好ましい(前記(3)イ参照)というものと,原告の指摘すると 。」おり,実施例1〜4における「0.04mL/g」又は「0.06mL/g」というものである。
イところで,本件特許明細書には,当初明細書の表1,2と同様の表が記載されており(段落【0047【0049,細孔直径7.5〜150 】,】)00nmの細孔容積が0.42mL/gの場合に,選択吸着率が2.1と(,, 比較的に劣っていることが示されており なお 実施例としてみた場合に回折強度比(R値)が1.4以上であるか否かを重視する必要がないことは,取消事由1に関して説示したとおりである,また,甲5公報には, 。)・「…本明細書の実施例に示すとおり,細孔直径20〜15000nmの細孔容積を0.04mL/g以上で0.10mL/g未満に調整すると,毒性物質であるβ-アミノイソ酪酸に対する高い吸着特性を維持しつつ,有益物質であるα-アミラーゼに対する吸着特性が有意に低下する。多孔性球状炭素質吸着剤の細孔直径20〜15000nmの細孔容積が大きくなればなるほど消化酵素等の有益物質の吸着が起こりやすくなるため,有益物質の吸着を少なくする観点からは,前記細孔容積は小さいほど好ましい。しかしながら,一方で,細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着量も低下する(段落【0007 ) 。」】として,細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着能に支障がある等,細孔容積の大小により選択吸着率が変化し得る旨の知見が開示されていることが認められ,このような知見は,本件出願日(平成15年10月31日)当時公知の技術であったと認めることができる。
そうすると,本件特許明細書における前記実施例の記載に加え,選択吸着能は (細孔容積が極小の場合を除き)その減少に応じて漸次発現する ,特性がある旨の上記知見を考慮すれば,当業者はこれにより優れた選択吸着率の達成を認識することができるから,本件特許請求の範囲の記載は,本件特許明細書における詳細な説明に記載したものであるということができる。
ウ(ア)これに対し原告は,本件特許発明に係る細孔容積が明確な数値で限定されていることをもって,それが臨界的意義を有することは明らかであるとして,かかる臨界的意義について記載のない本件特許明細書には記載不備がある旨主張する。
しかし,前記(3)イのとおり,本件特許明細書には,炭素源に係る発明特定事項以外の発明特定事項について当業者が適宜の設定をすることが可能であることを示唆する記載があり,しかも,選択吸着能は (細,孔容積が極小の場合を除き)その減少に応じて漸次発現する特性がある旨の知見が公知であることを併せ考慮すれば,当業者は,本件特許発明の規定する細孔容積の条件について,それ自体厳密な意味における臨界的な意義を有するというよりも,選択吸着率を優れたものとするために孔径の大きな細孔を少なくすべきことを表現し,そのための一つの目安として「0.25mL/g」との数値を規定したものとして理解することができるから,明細書の記載上,殊更に上記数値の意義が明らかにされていないとしても,当業者において本件特許発明の課題を解決できることについて認識できないということはできない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用することができない。
(イ)また原告は,実施例に記載された細孔容積の数値である「0.04mL/g」よりも極端に小さいものについては,経口投与用吸着剤として有効に機能するとは考え難い旨主張するが,細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着能に支障があることは当業者において公知である以上,一般に吸着能を奏し得ない程度に極小の細孔容積のものが実質的に本件特許発明に含まれるものでないことは当業者において明らかというべきである。
したがって,細孔容積の数値が極小であることに関して特段の記載がないとしても,これにより当業者において本件特許発明の課題を解決できることについて認識できないということはできず,この点に関する原告の主張は採用することができない。
(5)以上のとおり,本件特許の明細書が,本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできないし,本件特許の明細書に特許を受けようとする発明が記載されていないということはできないから,取消事由2に関する原告の主張は理由がない。
4 取消事由3(進歩性があるとした判断の誤り)について(1)原告は,甲1発明〜甲5発明,甲7発明〜甲9発明との関係で本件特許発明が容易想到でないとした審決の判断に誤りがあると主張するので,この点について検討する。
(2)ア 甲1公報には,次の記載がある。
(ア)特許請求の範囲・「 請求項1】活性炭を有効成分とする,マトリックス形成亢進抑制剤 」 【 。
・「 請求項2】活性炭が球形活性炭である,請求項1に記載のマトリックス 【形成亢進抑制剤 」。
・「 請求項7】活性炭を有効成分とする,マトリックス形成亢進の病態を示 【す疾患の治療又は予防剤 」。
・「 請求項8】前記疾患が腎臓,心臓,又は肝臓における疾患である,請求 【項7に記載の治療又は予防剤 」。
(イ)発明の属する技術分野・「本発明は,マトリックス形成亢進抑制剤に関する(段落【0001 ) 。」】(ウ)従来の技術・「細胞外マトリックス形成亢進及び/又は線維化の亢進には,トランスフォーミング成長因子-β(以下,TGF-βと称する)等の発現が関与している。
TGF-βは,心臓,腎臓,又は肝臓等に分布しており,内皮細胞又は線維芽,(,,, 細胞等に作用し 細胞外基質 例えば プロテオグリカン フィブロネクチン又はコラーゲン等 ,すなわち,マトリックスの合成を促進させる作用がある。 )また,TGF-βは,腫瘍組織において発現量の高いことが知られている。従って,TGF-βの発現,濃度の亢進,及び/又は過剰産生は,線維化の亢進に関与し,細胞外マトリックスの異常な増加の起因となっていることから,様々な内科疾患 例えば 心疾患 例えば 心肥大又は心筋梗塞など肝疾患 例 [,(, ),(えば,慢性肝炎,肝線維症,肝硬変,又は肝癌など ,腎疾患(例えば,慢性腎 )不全,間質性腎炎,腎炎,又は糖尿病性腎症など ,又は血管性病変(例えば, )動脈硬化病変,又は糖尿病など)等]の進展に関与しているといえる。更に,細胞外マトリックスの形成亢進には,TGF-β以外にも,例えば,メタロプロテアーゼ組織インヒビター(Tissue inhibitor ofmetalloproteinases;以下,TIMPと称する)又はコラーゲン。」(【】) 等のmRNAの発現の亢進が関与しているといわれている段落 0002(エ)発明が解決しようとする課題・「細胞外マトリックスの形成亢進を抑制させる治療法の一つとして,アンタゴニストが考えられるが,充分に有効な治療法が未だ確立されておらず,副作用も懸念される。従って,特別な副作用がなく,TGF-β,TIMP,及び/又はコラーゲン等の亢進を抑制させ,細胞外マトリックスの形成亢進及び/又は線維化亢進を抑制させることのできる薬剤が望まれていた。従って,本発明の課題は,体内において異常に細胞外マトリックスの形成亢進及び/又は線維化が亢進している疾患について,副作用等の薬害が少なく,細胞外マトリックスの形成亢進及び/又は線維化の亢進を抑制させることのできる医薬製剤を提供することにある。本発明者は,前記の課題を解決する目的で,鋭意研究を重ねたところ,医療用活性炭製剤の経口投与により,細胞外マトリックス形成亢進及び/又は線維化の亢進に関与するTGF-β,TIMP,及びコラーゲンの発現が抑制されることを見出した。更に,この点は,血中における線維化指標であるヒアルロン酸濃度の上昇及びプロリン水酸化酵素濃度の上昇がそれぞれ抑制されることからも確認した。本発明は,こうした知見に基づくものである(段落【0003 ) 。」】(オ)課題を解決するための手段「, , 。 ・本発明は 活性炭を有効成分とする マトリックス形成亢進抑制剤に関する以下,本明細書において,本発明の「マトリックス形成亢進抑制剤 ,本発明の 」「線維化亢進抑制剤 ,本発明の「トランスフォーミング成長因子-β(TGF 」-β)発現抑制剤 ,本発明の「メタロプロテアーゼ組織インヒビター(TIM 」P)発現抑制剤 ,本発明の「コラーゲンの発現抑制剤 ,及び本発明の「マト 」 」リックス形成亢進の病態を示す疾患の治療又は予防剤」を集合的に,本発明の「医薬製剤」と称する(段落【0004 ) 。」】(カ)発明の実施の形態・「本発明の医薬製剤の有効成分である活性炭としては,医療用に使用することが可能な活性炭であれば特に限定されるものではないが,経口投与用活性炭,すなわち,医療用に内服使用することが可能な活性炭が好ましい。前記活性炭としては,例えば,粉末状活性炭又は球形活性炭を用いることができる。粉末状活性炭としては,従来から解毒剤として医療に用いられている公知の粉末状活性炭を用いることができるが,副作用として便秘を引き起こす場合があるので,球形活性炭を用いるのが好ましい(段落【0005 ) 。」】・「球形活性炭としては,医療用に内服使用することが可能な球形状の活性炭であれば特に限定されない。この球形活性炭は吸着能に優れていることが好ましい。そのため,前記球形活性炭は,好ましくは直径0.05〜2mm,より好ましくは0.1〜1mmの球形活性炭である。また,好ましくは比表面積が500〜2000?u/g,より好ましくは700〜1500?u/gの球形活性炭である。また,好ましくは細孔半径100〜75000オングストロームの空隙量が0.01〜1ml/g,より好ましくは0.05〜0.8ml/gの球形活性炭である。なお,上記の比表面積は,自動吸着量測定装置を用いたメタノール吸着法により測定した値である。空隙量は,水銀圧入ポロシメータにより測定した値である。前記の球形活性炭は,粉末活性炭に比べ,服用時に飛散せず,しかも,連続使用しても便秘を惹起しない点で有利である。直径が0.05mm未満の場合は,便秘などの副作用の除去に充分な効果がなく,2mmを超える場合は,服用し難いだけでなく,目的とする薬理効果も迅速に発現されない。球形活性炭の形状は,重要な因子の1つであり,実質的に球状であることが重要である。球形活性炭の中では,後述の石油系ピッチ由来の球形活性炭が真球に近いため特に好ましい (段落【0006 ) 。」】「 ,,,,,, ・球形活性炭の製造には 任意の活性炭原料 例えば オガ屑 石炭 ヤシ殻石油系若しくは石炭系の各種ピッチ類又は有機合成高分子を用いることができる。球形活性炭は,例えば,原料を炭化した後に活性化する方法によって製造することができる。活性化の方法としては,水蒸気賦活,薬品賦活,空気賦活又は炭酸ガス賦活などの種々の方法を用いることができるが,医療に許容される純度を維持することが必要である(段落【0007 ) 。」】・「球形活性炭としては,炭素質粉末からの造粒活性炭,有機高分子焼成の球形活性炭及び石油系炭化水素(石油系ピッチ)由来の球形活性炭などがある。炭素質粉末からの造粒活性炭は,例えば,タール,ピッチ等のバインダーで炭素質粉末原料を小粒球形に造粒した後,不活性雰囲気中で600〜1000℃の温度に加熱焼成して炭化し,次いで,賦活することにより得ることができる。
賦活方法としては,水蒸気賦活,薬品賦活,空気賦活又は炭酸ガス賦活などの種々の方法を用いることができる。水蒸気賦活は,例えば,水蒸気雰囲気中,800〜1100℃の温度で行われる(段落【0008 ) 。」】・「有機高分子焼成の球形活性炭は,例えば,特公昭61-1366号公報に開示されており,次のようにして製造することが可能である。縮合型又は重付加型の熱硬化性プレポリマーに,硬化剤,硬化触媒,乳化剤などを混合し,撹拌下で水中に乳化させ,室温又は加温下に撹拌を続けながら反応させる。反応系は,まず懸濁状態になり,更に撹拌することにより熱硬化性樹脂球状物が出現。, , する これを回収し 不活性雰囲気中で500℃以上の温度に加熱して炭化し前記の方法により賦活して有機高分子焼成の球形活性炭を得ることができる。
… (段落【0009 ) 」】・「本発明において有効成分の球形活性炭としては (1)アンモニア処理など ,を施した球形活性炭 (2)酸化及び/又は還元処理を施した球形活性炭なども ,使用することができる。これらの処理を施すことのできる球形活性炭は,前記の石油系ピッチ由来の球形活性炭,炭素質粉末の造粒活性炭,有機高分子焼成の球形活性炭の何れであってもよい(段落【0011 ) 。」】・「本発明の医薬製剤は,細胞外マトリックスの形成亢進及び/又は線維化の亢進を抑制することができる。従って,本発明の医薬製剤は,ヒトをはじめとする哺乳動物における,細胞外マトリックスの形成亢進及び/又は線維化の亢進の病態を示す疾患の治療又は予防に有用である。細胞外マトリックスの形成亢進及び/又は線維化の亢進の病態を示す疾患としては,例えば,心疾患(例え, ),(,,,, ば 心肥大又は心筋梗塞など肝疾患 例えば 慢性肝炎 肝線維症 肝硬変又は肝癌など ,腎疾患(例えば,慢性腎不全,間質性腎炎,腎炎,又は糖尿病 )性腎症など ,又は血管性病変(例えば,動脈硬化病変,又は糖尿病など)等を )挙げることができる。また,本発明の医薬製剤は,細胞外マトリックス形成亢進及び/又は線維化の亢進に関与するTGF-β,TIMP,及びコラーゲンの発現を抑制することができる。本発明の医薬製剤における細胞外マトリックスの形成亢進及び/又は線維化亢進の抑制効果は,本発明の医薬製剤が,血中における線維化指標であるヒアルロン酸濃度及びプロリン水酸化酵素濃度の上昇を抑制することからも確認することができる(段落【0016 ) 。」】(キ)実施例・「以下,実施例によって本発明を具体的に説明するが,これらは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1 《球形活性炭の調製》ナフサ熱分解により生成した軟化点182 】℃,キノリン不溶分10重量%,H/C=0.53のピッチ75kgにナフタリン25kgを,撹拌翼のついた内容積300リットルの耐圧容器に導入し,210℃に加熱溶融混合し,80〜90℃に冷却して押出紡糸に好適な粘度に調整し,径1.5mmの孔を100個有する下部の口金から50kg/c?u の圧力下にピッチ混合物を5kg/minの割合で押出した。押出した紐状ピッチは,約40°の傾斜を有するプラスチック製の樋に沿って10〜25℃の冷却槽に流入する。樋には流速3.0m/secの水を流下することにより,押出直後の紐状ピッチは連続的に延伸される。冷却槽には径500μmの紐状ピッチが集積する。水中に約1分間放置することにより紐状ピッチは固化し,手で容易に折れる状態のものが得られる。この紐状ピッチを高速カッターに入れ水を加える。10〜30秒間撹拌すると紐状ピッチの破砕は完了し,棒状ピッチとなる。顕微鏡で観察すると円柱の長さと直径の比は平均1.5であった 」。
(段落【0019 )】・「次にこの棒状ピッチを濾別し,90℃に加熱した0.5%ポリビニルアルコール水溶液1kg中に棒状物100gを投入し,溶融し,撹拌分散し,冷却して球形粒子を形成した。大部分の水を濾別した後,得られた球形粒子を抽出器, ,。, に入れ ヘキサンを通液してナフタレンを抽出除去し 通風乾燥した 次いで流動床を用いて,加熱空気を流通して25℃/Hrで300℃まで昇温し,更に300℃に2時間保持して不融化した。続いて,水蒸気中で900℃まで昇温し,900℃で2時間保持して炭化賦活を行ない,多孔質の球形活性炭を得た。得られた球形活性炭の直径は0.05〜1.0mmであり,こうして得られた球形活性炭を流動床を用いて,600℃で酸素濃度3%の雰囲気下で3時間処理した後,窒素雰囲気下で950℃まで昇温し,950℃で30分間保持して,酸化及び還元処理を施した石油系ピッチ由来の球形活性炭を得た。この球形活性炭の直径は0.05〜1mmであった。なお,ラット(Cpb:WU:ウイスターランダム)への経口投与による急性毒性試験では,毒性試験法ガイドライン(薬審第118号)による最大投与量(雌雄ラット5000mg/kg)においても異常は観察されなかった(段落【0020 ) 。」】イ以上によれば,甲1公報には,活性炭を有効成分とする,マトリックス形成亢進抑制剤に関する発明が記載されており,具体的には,審決が認定するとおり 「直径が0.05〜2mmであり,比表面積(メタノール吸 ,着法による)が500〜2000?u/gであり,細孔半径100〜75000オングストローム(細孔直径20〜15000nm)の空隙量が0.01〜1 m l /gである経口投与用の吸着能に優れた球形活性炭又は酸化及び還元処理を施した球形活性炭を有効成分とする,肝疾患又は腎疾患の治療若しくは予防に用いる剤 」についての発明(甲1発明)が記載され 。
ていると認められる。
ウところで審決は,上記甲1発明を本件特許発明1と対比した一致点及び相違点を前記第3,1(3)イのとおり認定するところ,本件特許発明技術的意義は,取消事由1についての判断において説示したところから明らかなように,経口投与用吸着剤に用いられる球状活性炭について熱硬化性樹脂(具体的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂)を炭素源として用いたことにより,ピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて選択吸着性が向上した点にある。これに対し,甲1発明は,前記のとおり,肝疾患ないし腎疾患治療に有効な吸着能を有する経口投与用の球状活性炭ではあるものの,その炭素源について具体的な特定がなく,しかも,具体的な炭素源との関係で生じるピッチ類を用いる球状活性炭と比較した選択吸着性の有無ないし大小といった効果については示唆するところがない。
したがって,甲1発明から本件特許発明を容易想到というためには,少なくとも甲1発明のような経口投与用の球状活性炭がフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とするものと置換可能であることが示唆されることのみならず,そのようにして置換された炭素源と上記選択吸着性能との間に有意な関連があることをも示唆するものがなければならないというべきである。審決が「球状活性炭を製造するための原料に関し,本件特許の請求項1に係る発明では 『フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源 ,とし』と特定しているのに対し,甲1発明では,そのように特定していない点」を相違点(A)としつつ,その判断において本件特許発明の効果との関係を含め検討しているのも,上記の趣旨に基づくものと理解することができる。
これに対し原告は,相違点(A)は実質的に相違点にはならない旨主張するが,甲1公報に「有機合成高分子」を用いることができるとの記載があったとしても,そのことから直ちに甲1公報に,炭素源として「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」を用いた球状活性炭が記載されていることにはならない。かえって,甲1公報には 「有機合成高分子」として「フ ,ェノール樹脂又はイオン交換樹脂」が用いられることについての明示的な記載はないのであるから,甲1公報に,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とする点が記載されていることにはならない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用することができない。
(3)そこで,上記(2)の観点に基づき,相違点(A)の容易想到性について検討する。
ア(ア) 甲2公報には,次の記載がある。
・「縮合型又は重付加型の熱硬化性樹脂プレポリマーを,…硬化せしめてなる熱硬化性樹脂球状物を …賦活することを特徴とする球型活性炭の製造方法特 , 。」(許請求の範囲)・「本発明はフェノール樹脂,メラミン樹脂,エポキシ樹脂等の縮合型又は重付加型の熱硬化性樹脂プレポリマーを,要すれば硬化剤,硬化触媒,充剤,発泡剤,着色剤,安定剤等と共に乳化剤を用いて攪拌下に水中に乳化させた後,要すれば加温して粘度及び粒径を増大させ,更に攪拌を続けながら反応を進めて硬化せしめてなる熱硬化性樹脂球状物を,酸素ガス不在下で500℃以上に加熱して炭化し,更に,これを水蒸気,炭酸ガス及び/又は酸素/窒素混合ガス気流中で賦活することを特徴とする熱硬化性樹脂造粒物からの球型活性炭の製法に関する(1欄15行〜26行) 。」・「各種の熱硬化性樹脂の乳化物は接着剤や塗料等として従来から大量に製造さ,, , れているが 反応時間を長くし 或いは樹脂分の濃度や反応温度を高くすると粒子同志やが付着,凝集して餅状やカズノコ状の塊状物となるとか,卵型や更にはそれらが糸を曳いたような型状の硬化物となるため,…真球に近い固型物を得ることは極めて困難であった。
発明者らはこの点について鋭意検討を行った結果,使用する各種熱硬化性樹脂プレポリマーの液状物又は溶液を,要すれば乳化剤を用いて水中で強く攪拌していったん乳化せしめ,該熱硬化性樹脂分子が充分の流動性を残している間に乳化樹脂粒子相互間の融合を行わしめて粒径を成長せしめ,続いて懸濁状態を保ちながら硬化反応を行わしめることにより,熱硬化性樹脂の平均粒径を2000μm程度にまで引上げうることを見い出し,更にこれら熱硬化性樹脂球状物を酸素不在下で500℃以上に加熱して炭化し,更にこれを水蒸気,炭酸ガス及び/又は酸素/窒素混合ガス等の微炭化性ガス気流中で賦活することにより球状活性炭が得られることを見い出し本発明を完成した(1欄27行。」〜2欄23行)「 , ・本発明で使用することのできる縮合型の熱硬化性樹脂プレポリマーとしてはノボラック型フェノール樹脂プレポリマー,レゾール型フェノール樹脂プレポリマー,ノボラック型アルキルフェノール樹脂プレポリマー,レゾール型アルキルフェノール樹脂プレポリマー,…等があり,要すれば硬化剤,硬化触媒等を混合して使用することもできる (2欄24行〜3欄9行) 。」・「実施例2アンモニア触媒で合成したフェノール/クレゾール(7/3)のレゾール型フェノール樹脂の50%メタノール/水(等容)溶液…反応せしめた。生成物を…褐色透明の球型樹脂粒子を定量的収率で得た。この球型樹脂粒は0.7mmφ付近にピークを有する正規分布に近い分布を示し,0.42〜1.00mmφのものが全造粒物の59%を占めた。
この範囲の球型樹脂硬化物を実施例1と同じ条件で硬化・炭化・賦活して賦活率57%の球型活性炭を得た(5欄1行〜19行) 。」・「…本発明の方法により得られた活性炭は堅牢な熱硬化性樹脂を原料としているため微細構造が形成されており,大きな比表面積とすぐれた吸着能を示しているものであると考えられる(7欄11行〜8欄4行) 。」(イ)以上によれば,甲2発明はフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭の製造に関するものであるが,接着剤や塗料等として従来から大量に製造されていた各種の熱硬化性樹脂の乳化物について,真球に近い球状活性炭を得ることが困難であったことからなされた球状活性炭の。, , 製造方法である そうすると 甲2公報のその他の記載を考慮してもそもそも甲1発明のような医薬製剤としての経口投与用吸着剤への転用については示唆するところがないといわざるを得ないから,これを甲1発明に組み合せること自体,困難といわざるを得ない。
したがって,甲2発明によっては,本件特許発明は容易想到ということはできない。
イ(ア) 甲3文献及び甲4文献には,次の記載がある。
・「1緒言活性炭は吸着剤あるいは触媒,触媒単体として利用され,その用途もしだいに拡大されている。活性炭は有機物質,すなわち木材,石炭,ヤシ殻,樹脂などを炭化,賦活することによって製造される。原料と製造法によって活性炭の吸着能,触媒性が異なり,それぞれの用途に応じた構造,表面特性をもつ活性炭を製造する事も可能である。活性炭工業においては製造技術など特許となっているものが多く,活性炭の吸着能,細孔構造に関する研究例が多い反面,製造条件と活性炭の物性に関する系統的研究はあまりみられない。また従来,活性度すなわち吸着能を単に重量減少,あるいは活性炭収率と関係づけようとする傾向がみられる。活性炭の収率が少なくなるにつれて吸着能が増加する傾向は一般に認められるが,吸着能は炭化温度,賦活温度,賦活時間,賦活剤などいくつかの因子によって影響されるので,重量減少のみで一概に論じるのは問題があると考えられる(甲3文献,2100頁左欄1行〜右欄5行) 。」「 , ・前報で著者らは石炭を原料とする球形活性炭の吸着能について研究を行ない酸化物の形で灰分中に存在する酸素をも含めた活性炭中の酸素量と排煙組成における亜硫酸ガスの吸着量との間に関係があることを報告した。…以上の観点から,本報では灰分のない標準物質として,フェノール-ホルムアルデヒド樹脂をえらび系統的な水蒸気賦活を行った。…えられた活性炭について,比表面積,細孔分布,酸素量などの測定を行ない,炭化,賦活による変化を検討した結果について報告する(甲3文献,2100頁右欄6行〜21 。」01頁左欄9行)「 ,, ・フェノール-ホルムアルデヒド樹脂を原料とする活性炭について 比表面積細孔分布,メチレンブルー,ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの平衡吸着量と吸着速度を測定し,市販活性炭および石炭を原料とする球形活性炭との比較を行なった(甲4文献,1144頁序文3行〜5行) 。」・「高分子製造業者,高分子加工業者によって廃棄される熱硬化性樹脂は年間約2万トンであり,その50%がフェノール樹脂である。したがって,これらの廃棄物を利用すればフェノール樹脂を活性炭原料とすることも可能であり,従来の埋立て,焼却などの処理にくらべて付加価値の点で有意義なことと思われる。
本報では…フェノール樹脂を原料とする活性炭について,メチレンブルー,…の平衡吸着量と吸着速度,比表面積および細孔分布を測定し,市販の水処理用活性炭,石炭を原料とする球形活性炭との比較を行った(甲4文献,11 。」44頁右欄5行〜1145頁左欄6行)・「以上,フェノール樹脂を原料として平衡吸着量,吸着速度の両面で市販の活性炭,石炭を原料とする球形活性炭を上まわる活性炭を製造できることが判明した(甲4文献,1149頁右欄下3行〜下1行) 。」(イ)以上によれば,甲3文献には,フェノール-アルデヒド樹脂を炭素源とする球形活性炭の吸着能についての研究が記載されており,甲4文献にはフェノール樹脂を原料とする活性炭について,比表面積,細孔分布などを測定し,市販の水処理用活性炭及び石炭を原料とする球形活性炭との比較を行った結果が記載されているが,甲3,甲4文献の他の記載を考慮しても,そもそも甲1発明のような医薬製剤としての経口投与用吸着剤への転用については示唆するところがない。
したがって,甲3,甲4文献によっては,本件特許発明は容易想到ということはできない。
ウ(ア) 甲5公報には,次の記載がある。
・「 請求項1】直径が0.01〜1mmであり,BET法により求められる 【比表面積が700?u/g以上であり,細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満であり,全酸性基が0.30〜1.20meq/gであり,全塩基性基が0.20〜0.70meq/gである多孔性球状炭素質物質からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤 」。
・「 発明の属する技術分野】本発明は,経口投与用吸着剤に関する。本発明に 【よる経口投与用吸着剤は,特定範囲の細孔容積を有する多孔性球状炭素質物質からなり,経口服用した場合に,消化酵素等の体内の有益成分の吸着性が少ないにもかかわらず,有毒な毒性物質(Toxin)の消化器系内における吸着性能が優れるという特性を有する。更に,肝腎疾患者に対して経口的に服用させると,顕著な治癒効果を示す(段落【0001 ) 。」】・「 従来の技術】腎機能や肝機能の欠損患者らは,それらの臓器機能障害に伴 【って,血液中等の体内に有害な毒性物質が蓄積したり生成したりするので,尿毒症や意識障害等の脳症をひきおこす。これらの患者数は年々増加する傾向を示しているため,これら欠損臓器に代わって毒性物質を体外へ除去する機能をもつ臓器代用機器或いは治療薬の開発が重要な課題となっている。現在,人工腎臓としては,血液透析による有毒物質の除去方式が最も普及している。しかしながら,このような血液透折型人工腎臓では,特殊な装置を用いるために,安全管理上から専門技術者を必要とし,また血液の体外取出しによる患者の肉体的,精神的及び経済的負担が高いなどの欠点を有していて,必ずしも満足すべきものではない(段落【0002 ) 。」】・「近年,これらの欠点を解決する手段として,経口的な服用が可能で,腎臓や肝臓の機能障害を治療することができる経口吸着剤が注目されている。具体的には,特公昭62-11611号公報に記載の吸着剤は,特定の官能基を有する多孔性球状炭素質物質からなり,生体に対する安全性や安定性が高く,同時に腸内での胆汁酸の存在下でも有毒物質の吸着性に優れ,しかも,消化酵素等の腸内有益成分の吸着が少ないという有益な選択吸着性を有し,また,便秘等の副作用の少ない経口治療薬として,例えば,肝腎機能障害患者に対して広く臨床的に利用されている(段落【0003 ) 。」】・「 発明が解決しようとする課題】しかしながら,本発明者は,前記の多孔性 【球状炭素質物質からなる経口吸着剤よりも一層優れた選択的吸着性を示す経口吸着剤の探求を進めていたところ,驚くべきことに,特定範囲の細孔容積を有する多孔性球状炭素質物質は,胆汁酸存在下という腸内環境において,肝性脳症原因物質であるオクトパミンやα-アミノ酪酸,更に腎臓病での毒性物質及びその前躯体であるジメチルアミン,β-アミノイソ酪酸,アスパラギン酸,あるいはアルギニン等の水溶性の塩基性及び両性物質の吸着性に優れているにもかかわらず,有益物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が,前記特公昭62-11611号公報に記載の吸着剤よりも少ないという優れた選択吸着性を有することを見出した。更に,本発明者が新たに見出した多孔性球状炭素質物質は,前記特公昭62-11611号公報に記載の吸着剤と同様に,便秘等の副作用が少なく,優れた経口肝腎疾患治療薬としての作用も示すことが分かった 本発明はこうした知見に基づくものである0 。 。」(【004 )】・「 課題を解決するための手段】従って,本発明は,直径が0.01〜1mm 【であり,BET法により求められる比表面積が700?u/g以上であり,細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満であり,全酸性基が0.30〜1.20meq/gであり,全塩基性基が0.20〜0.70meq/gである多孔性球状炭素質物質からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤に関する( 0005 ) 。」【】・「…細孔直径20〜15000nmの細孔容積を0.04mL/g以上で0.10mL/g未満に調整すると,毒性物質であるβ-アミノイソ酪酸に対する高い吸着特性を維持しつつ,有益物質であるα-アミラーゼに対する吸着特性が有意に低下する。多孔性球状炭素質吸着剤の細孔直径20〜15000nmの細孔容積が大きくなればなるほど消化酵素等の有益物質の吸着が起こりやすくなるため,有益物質の吸着を少なくする観点からは,前記細孔容積は小さいほど好ましい。しかしながら,一方で,細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸。, ,() 着量も低下する 従って 経口投与用吸着剤においては 毒性物質の吸着量 Tの有益物質の吸着量(U)に対する比(T/U ,すなわち,選択吸着率が重要 )である。例えば,多孔性球状炭素質物質の選択吸着率を,DL-β-アミノイソ酪酸(毒性物質)の吸着量(Tb)のα-アミラーゼ(有益物質)の吸着量(Ua)に対する比(Tb/Ua)として評価することができる。すなわち,選択吸着率は,例えば,以下の式:A=Tb/Ua(ここで,Aは選択吸着率であり,TbはDL-β-アミノイソ酪酸の吸着量であり,Uaはα-アミラーゼの吸着量である)によって評価することができる。本発明の多孔性球状炭素質吸着剤は,細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満の範囲内で優れた選択吸着率を示し,前記細孔容積が0.05mL/g以上で0.10mL/g未満の範囲内で一層優れた選択吸着率を示す(段落【0007 ) 。」】・「本発明による経口投与用吸着剤として用いる多孔性球状炭素質物質は,直径が0.01〜1mmである。多孔性球状炭素質物質の直径が0.01mm未満になると,多孔性球状炭素質物質の外表面積が増加し,消化酵素等の有益物質の吸着が起こり易くなるので好ましくない。また,直径が1mmを越えると,多孔性球状炭素質物質内部への毒性物質の拡散距離が増加し,吸着速度が低下するので好ましくない。直径は,好ましくは0.02〜0.8mmである。なお,本明細書で「直径がDl〜Duである」という表現は,JIS K 1474に準じて作成した粒度累積線図(平均粒子径の測定方法に関連して後で説明する)において,ふるいの目開きDl〜Duの範囲に対応するふるい通過百分率(%)が90%以上であることを意味する (段落【0008 ) 。」】・「更に,本発明の経口投与用吸着剤として用いる多孔性球状炭素質物質では,官能基の構成において,全酸性基が0.30〜1.20meq/gであり,全塩基性基が0.20〜0.70meq/gである。官能基の構成において,全酸性基が0.30〜1.20meq/gであり,全塩基性基が0.20〜0.70meq/gの条件を満足しない多孔性球状炭素質物質では,上述した有毒物質の吸着能が低くなるので好ましくない。官能基の構成において,全酸性基は0.30〜1.00meq/gであることが好ましく,全塩基性基は0.30〜0.60meq/gであることが好ましい。本発明の経口投与用吸着剤を肝腎疾患治療薬として用いる場合,その官能基の構成は,全酸性基が0.30〜1.20meq/g,全塩基性基が0.20〜0.70meq/g,フェノール性水酸基が0.20〜0.70meq/g,及びカルボキシル基が0.15meq/g以下の範囲にあり,且つ全酸性基(a)と全塩基性基(b)との比(a/b)が0.40〜2.5であり,全塩基性基(b)とフェノール性水酸基(c)とカルボキシル基(d)との関係〔 b+c)-d〕が0.60以上 (であることが好ましい(段落【0010 ) 。」】・「本発明の経口投与用吸着剤として用いる多孔性球状炭素質物質は,前記のように両イオン性基(すなわち,酸性基及び塩基性基)を有し,且つ腸内での毒性物質の選択吸着性に優れているので,肝疾患(例えば,振せん,脳症,代謝異常,又は機能異常)の治療に効果があり,更に腎疾患者に対しても透析前の軽度腎不全や透折中の病態改善に用いて効果がある。その他,体内に存在する有害物質による病気 すなわち 精神病等の治療にも用いることができる段 ,, 。」(落【0023 )】・「 実施例】以下,実施例によって本発明を具体的に説明するが,これらは本 【発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例において,α-アミラーゼ吸着試験及びDL-β-アミノイソ酪酸吸着試験は以下の方法で実施し,選択吸着率は以下の方法で計算した(段落【0025 ) 。」】・「 3)選択吸着率 (炭素質吸着剤の使用量が0.500gの場合のα-アミラーゼ吸着試験におけるα-アミラーゼ残存量,及び同様に,炭素質吸着剤の使用量が0.500gの場合のDL-β-アミノイソ酪酸吸着試験におけるDL-β-アミノイソ酪酸残存量のそれぞれのデータに基づいて,以下の計算式:A=(10-Tr)/(10-Ur)(ここで,Aは選択吸着率であり,TrはDL-β-アミノイソ酪酸の残存量であり,Urはα-アミラーゼの残存量である)から計算した(段落【00。」29 )】実施例1】石油系ピッチ(軟化点=210℃;キノリン不溶分=1重量%・「【以下;H/C原子比=0.63)68kgと,ナフタレン32kgとを,攪拌翼のついた内容積300Lの耐圧容器に仕込み,180℃で溶融混合を行った後,80〜90℃に冷却して押し出し,紐状成形体を得た。次いで,この紐状成形体を直径と長さの比が約1〜2になるように破砕した。0.23重量%のポリビニルアルコール(ケン化度=88%)を溶解して93℃に加熱した水溶液中に,前記の破砕物を投入し,攪拌分散により球状化した後,前記のポリビニルアルコール水溶液を水で置換することにより冷却し,20℃で3時間冷却し,ピッチの固化及びナフタレン結晶の析出を行い,球状ピッチ成形体スラリーを得た。大部分の水をろ過により除いた後,球状ピッチ成形体の約6倍重量のn-ヘキサンでピッチ成形体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを,流動床を用いて,加熱空気を通じながら,235℃まで昇温した後,235℃にて1時間保持して酸化し,熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。続いて,多孔性球状酸化ピッチを,流動床を用い,50vol%の水蒸気を含む窒素ガス雰囲気中で900℃で170分間賦活処理して多孔性球状活性炭を得,更にこれを流動床にて,酸素濃度18.5vol%の窒素と酸素との混合ガス雰囲気下で470℃で3時間15分間,酸化処理し,次に流動床にて窒素ガス雰囲気下で900℃で17分間還元処理を行い,多孔性球状炭素質物質を得た。得られた炭素質材料の特性を表1及び表2に示す(段落【0030 ) 。」】・「 実施例2】多孔性球状酸化ピッチの賦活処理時間を80分間としたこと以 【外は,実施例1に記載の方法を繰り返して,多孔性球状炭素質物質を得た。得られた炭素質材料の特性を表1及び表2に示す(段落【0031 ) 。」】・「 実施例3】多孔性球状酸化ピッチの賦活処理時間を120分間としたこと 【以外は,実施例1に記載の方法を繰り返して,多孔性球状炭素質物質を得た。
得られた炭素質材料の特性を表1及び表2に示す(段落【0032 ) 。」】・「 実施例4】多孔性球状酸化ピッチの賦活処理時間を240分間としたこと 【以外は,実施例1に記載の方法を繰り返して,多孔性球状炭素質物質を得た。
得られた炭素質材料の特性を表1及び表2に示す(段落【0033 ) 。」】・「 実施例5】球状化ピッチの析出及びナフタレン結晶析出のための冷却水の 【温度を25℃としたこと以外は,実施例1に記載の方法を繰り返して,多孔性球状炭素質物質を得た 得られた炭素質材料の特性を表1及び表2に示す段 。 。」(落【0034 )】・「 比較例1】多孔性球状酸化ピッチの賦活処理を行う代わりに,流動床にて 【窒素気流下で90分間で900℃まで昇温したこと,及び900℃に達した後に放冷したこと以外は,実施例1に記載の方法を繰り返して,多孔性球状炭素質物質を得た。得られた炭素質材料の特性を表1及び表2に示す(段落【0。」035 )】・【表2 (段落【0041 ) 】】・「 発明の効果】本発明の多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤は,特公 【昭62-11611号公報に記載の従来公知の吸着性と比べ,胆汁酸存在下という腸内環境において,肝性脳症原因物質であるオクトパミンやα-アミノ酪酸,更に腎臓病での毒性物質及びその前躯体であるジメチルアミン,β-アミノイソ酪酸,アスパラギン酸,あるいはアルギニン等の水溶性の塩基性及び両性物質の吸着性を実質的に維持したまま,有益物質である消化酵素等に対する吸着性が低下する。また,前記特公昭62-11611号公報に記載の吸着剤と同様に,便秘等の副作用が少なく,優れた経口肝腎疾患治療薬としての作用も示す(段落【0051 ) 。」】(イ)以上によれば,甲5発明は,甲1発明と同様,医薬剤としての多孔性球状炭素質からなる経口吸着剤に関するものであり,しかも従来の吸着剤に比して有益な選択吸着性を有するというものである。
しかしながら,甲5発明が有益な選択吸着性を得たのは 「特定範囲 ,の細孔容積」に着目したからであって,その炭素源について何ら特定するところがなく,実施例を見ても,石油系ピッチから多孔性球状酸化ピッチを得,これに賦活処理等を施して多孔性球状炭素質物質を製造し,その選択吸着性を計測しており,有利な選択吸着性を導くための炭素源について何ら示唆するところがない。
そうすると,このような甲5発明に接した当業者は,同発明(及び甲1発明)から有利な選択吸着性を導くために炭素源を限定することを想到することは困難といわざるを得ないから,これにより本件特許発明が容易想到ということはできない。また,前記甲2ないし甲4発明について説示したところに照らせば,これらと甲5発明を組み合せることもまた困難といわざるを得ないから,これにより本件特許発明が容易想到ということもできない。
(ウ)aなお,ここで甲15公報についてみると,同公報には次の記載がある。
・「熱硬化性樹脂を主原料とした粒状活性炭であって,活性炭の表面は無処理,或いは必要に応じ化学修飾又はコーティングされている粒径が5μm乃至5mmの血液浄化用活性炭(特許請求の範囲) 。」・「本発明は血液中に含まれるタン白質代謝産物や毒物,薬物などの吸着除。」( ) 去能のすぐれた粒状活性炭に関するものである1頁左欄10行〜12行・「従来から血液浄化のために活性炭が使用されてはいるが,もっとも古くから使用されているヤシガラ炭は表面に突起が多いため粒状炭相互の衝突や摩擦によって炭塵が出やすく,保護するためにコーティングなどを行っても完全にこれを防ぐことはできない。この点を改良するために新たに石油ピッチを造粒して焼成した活性炭の使用も検討されているが,この場合も炭塵の流出を完全に防ぐことはコーティングなどを施してもなお極めて困難である上,原料ピッチに含まれるベンツピレンはじめ数々の芳香族系発ガン物質の溶出の可能性が大きい等の問題点がある。… (1頁左欄13行〜右欄5行) 」「 , , ・これら各種活性炭の原料 製造条件とこれらの欠陥との関係を考慮して各種有機質原料を用いて研究を重ねた結果,熱硬化性樹脂を造粒し焼成した粒状活性炭が,従来のものと比較して非常に大きな表面強度を有するものであり,コーティングを施さなくても全く炭塵の流出は見られず,使用原料がいずれも蒸留などの精製を何度も経由して合成されたものであるためにベンツピレンなどの有機化合物系の有毒物質の溶出の可能性がなく,しかも従来の活性炭と同程度の吸着能を有することを見出して,本発明を完成したものである(1頁右欄11行〜2頁左上欄1行) 。」・「本発明の活性炭による血液の浄化方式としては,従来の活性炭においては,炭塵流出が避けられなかったために実施困難であった直接血液灌流を高い安全性のもとに実施することが可能となったほかに,種々の方式の人工肝臓,人工腎臓装置に組込んで使用することができることは勿論,経口投与タイプの血液浄化剤としても使用が可能である(2頁左上欄2行〜9行) 。」・「本発明の活性炭は,このように老廃物,毒物,薬物に対して従来のピート炭,ヤシガラ炭,石油ピッチ炭と同等の吸着能を有する上,熱硬化性合成樹脂原料に起因する高い表面強度を有するものであるため,血液浄化用活性炭として高度の適正を有するものであると云うことができる… (2頁左上欄 」10行〜15行)・「本発明に使用することのできる熱硬化性樹脂としては,熱硬化せしめる前の造粒工程において溶液または融点粘度の調節が容易であり,有毒な重金属触媒を含まず,硬化がいちじるしく遅いものでなければ,タールやピッチ系など未単離,未精製の充材や希釈剤を使用しない限り,フェノール系樹脂,それらをメラミン,尿素,キシレン,不飽和油類で変性した樹脂,ジアリルフタレート樹脂,エポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,アルキッド樹脂またはこれらの2種以上の混合物があり,いずれも同様に使用することができるが,架橋密度が上がって表面強度を大きくしうる点で,ノボラック型フェノール樹脂,レゾール型フェノール樹脂や,その尿素変性樹脂を用いることが好ましい(2頁左下欄6行〜右下欄1行) 。」・実施例には,レゾール型フェノール樹脂から粒状炭を製造する方法とその吸着能が記載されており,レゾール型フェノール樹脂からなる粒状活性炭の, , 実施例1〜3と 石油ピッチ系造粒炭の比較例1の吸着能の測定結果に関し以下の記載がある。
「以上の実施例および比較例で得た粒状活性炭の血液中の老廃物成分などに対する吸着能の測定結果を第1表にまとめたが,この結果から実施例1.〜3.で得た粒状活性炭はいずれもほぼ同程度の吸着能を有しており,すでに実用化されている比較例1.と比較してもコーティングの有(実施例3.比較例1,無(実施例1.2 )による若干の差はあるものの,これら4例 .).の間に本質的な差は無い (4頁左欄9行〜16行) 。」b以上によれば,甲15公報に開示された発明は,医薬剤としての熱硬化性樹脂を炭素源とした吸着除去能がすぐれた粒状活性炭に関するものであり,実施例を含め,熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いる場合についての記載もある。そして,その使用方法に関し,直接血液灌流を実施する場合のほか,経口投与タイプのものとしても使用可能であることが開示されている。
この点,これらの記載を形式的に甲1発明又は甲5発明に適用できるのであれば,少なくとも審決の認定した相違点(A)を充足することにはなるが,甲15公報に記載の発明は,従来の活性炭を使用した場合に存した炭塵や発ガン物質の体内への溶出といった欠陥を防止するため,これらの溶出の可能性がない粒状活性炭を目指したものであり,その吸着能についても,従来の活性炭と同程度で十分と考えられていたものである。
そうすると,特定の炭素源を用いることにより優れた選択吸着能を得ることについて示唆するところはなく,これを甲1発明ないし甲5発明に適用する動機付けに欠けるというべきであるから,当業者が甲15公報に記載された発明に接したとしても,せいぜい,熱硬化性樹脂の一種としてフェノール樹脂を用いた場合に,従来の活性炭と同程度の吸着能が得られることが理解できるにとどまるというべきである。
したがって,甲15公報を併せ考慮したとしても,本件特許発明が容易想到ということはできない。
なお審決が指摘する特開昭57-136455号公報(発明の名称「血液清浄化用活性炭 ,出願人 住友ベークライト株式会社,公開日 」昭和57年8月23日,甲16 )の記載も甲15発明と同様のもの 。
であり,甲15公報に関する上記説示が同様に妥当するから,これを併せ考慮したとしても,本件特許発明が容易想到ということはできない。
エ(ア) 甲7公報には,次の記載がある。
・「 請求項17】 主として100〜300オングストロームの狭いメソポア分 【布及び少しだけのマクロポアを有することを特徴とする球状活性炭 」。
・「…活性炭は種々な形,粉末状炭素,粒状炭素,成形炭素で用いられ,1970年の終りからは球状炭素も用いられている。一方ではその特殊な形で,及び他方で極度に高い耐摩耗性のために,化学毒物に対する保護衣服及び大なる空気量中の低い汚染濃度に対するフィルターの製造の如き,特殊な分野でのかかる球状炭素の使用に対する大なる要求がある (段落【0002 ) 。」】・「炭化及び活性化する間のかなりの重量損失の結果として,基本材料の製造費用が本質的に重大なものである。これは,マクロ多孔質イオン交換体から作られた活性炭小球体が小さい市場占有率を有しているのみであるという事実に理由ある根拠を与えている。従って本発明の目的は,ゲルタイプの安価なイオン交換体から活性炭小球体を作るための適切な方法を見出すことにあった(段。」落【0005 )】「, 。 ・本発明は 前述した方法によって作った高安定性の活性炭小球体を提供する特徴として,この小球体活性炭の孔分布構造は,100〜300オングストロームの範囲内の小さいメソポアスペクトルと少しのマクロポアを示す(段落。」【0019 )】(イ)以上によれば,甲7発明はイオン交換樹脂を炭素源とする活性炭小球体の製造方法に関するものであるが,そもそも甲1発明のような医薬製剤としての経口投与用吸着剤への転用については示唆するところがない。したがって,甲7公報によっては,本件特許発明は容易想到ということはできない。
オ以上によれば,甲1〜甲5,甲7の各公報ないし文献をもってしては,本件特許発明1に係る相違点(A)を容易想到ということはできない。
また,本件特許発明2〜7は,いずれも炭素源としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を特定し(本件特許発明4 ,又はこれに他の発明要素 )を付加する従属項(本件特許発明2,3,5〜7)であることから,本件特許発明1と同様,相違点(A)を含むものである。したがって,本件特許発明2〜7についても,本件特許発明1におけると同様,容易想到ということはできない(なお,審決は甲8文献及び甲9文献を挙げるところ,これらは炭素収率に関するものとして挙げられたものであるから,相違点(A)についての容易想到性の判断に影響を与えるものではない 。。)したがって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(4)ア以上に対し,原告は,活性炭原料として「フェノール樹脂」を採用することは極めて容易であるから,相違点(A)が容易想到である旨主張するので,この点について検討する。
イ(ア)原告は,有機高分子焼成の球形活性炭が記載されたものとして,前,,, 記(3)において検討した甲1公報のほか 甲23の7の3公報 甲30甲23の7の4公報を挙げるところ,その記載は次のとおりである。
a甲23の7の3公報・「 課題を解決するための手段】本発明は,球形活性炭を有効成分とする, 【白金錯体化合物類の腎毒性軽減剤に関する(段落【0004 ) 。」】・「球形活性炭の中では,後述の石油ピッチ由来の球形活性炭が真球に近いため好ましい (段落【0006 ) 。」】・「本発明において有効成分の球形活性炭としては,(1)アンモニア処理などを施した球形活性炭,(2)酸化及び/又は還元処理を施した球形活性炭なども使用することができる。これらの処理を施すことのできる球形活性炭は,前記の石油系ピッチ由来の球形活性炭,炭素質粉末の造粒活性炭,有機高分子焼成の球形活性炭の何れであってもよい(段落【0012 ) 。」】b甲30公報・「本発明は,球形活性炭を有効成分とする,リポタンパク質リパーゼ低血症改善剤に関する。また,本発明は,球形活性炭を有効成分とする,通風改善剤,又は悪疫質改善剤にも関する (段落【0001 ) 。」】・「本発明の課題は,重篤な副作用を示さず,しかもリポタンパク質リパーゼ低血症改善効果を示す,医薬製剤を提供することにある。本発明者は,前記の課題を解消する目的で,鋭意研究を重ねたところ,医療用活性炭製剤の経口投与により,リポタンパク質リパーゼ低血症を改善させることができることを見出した(段落【0003 ) 。」】・「球形活性炭の製造には,任意の活性炭原料,例えば…有機合成高分子を用いることができる。… (段落【0007 ) 」】c甲23の7の4公報・「活性炭を有効成分とする,1α,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール代謝の改善剤(請求項1)。」・「本発明の医薬製剤の有効成分である活性炭としては,…球形活性炭を用いるのが好ましい(段落【0006 ) 。」】・「球形活性炭の製造には,任意の活性炭原料,例えば…有機合成高分子を用いることができる。… (段落【0008 ) 」】(イ)以上の記載は,いずれも炭素源としてフェノール樹脂又はイオン交, , 換樹脂を特定するものではなく 同公報における他の記載を考慮してもこれらにより相違点(A)を容易想到ということができない。
ウ(ア)原告は,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂に関する記載のある文献として,前記(3)において検討した甲2公報,甲7公報,甲15公報以外に,甲23の15,甲31,甲32の1〜8の各公報を挙げるところ,これら公報には以下の記載がある。
a(a) 甲23の15公報の記載は次のとおりである。
・「本発明は,樹脂状重合体の部分的に熱分解された粒子,それらの熱分解方法,…及び廃液からのフェノール類,及び血液からのバルビツール酸塩(barbiturates),の如き汚染物-含有液体流を精製する用途に関する 」。
(3欄14行〜20行)・「合成有機重合体の熱分解を経る本発明に従って製造される吸着剤は,好ましくは大きな構造的一体性を有する球である。これらは活性炭の場合の如く容易に破壊したり或は粉塵粒子を生じない。この脆さがないために再生損失はしばしば活性炭で普通であるよりも低い。
合成有機重合体の熱分解は,更に活性炭の製造に用いられる天然産原料で可能であるよりもはるかに大きな程度に出発原料,従って最終生成物の制御を可能にする。
特定の吸着される物質についての吸着能力を増大するために望ましい元素及び官能基を導入することは容易に達成される。平均気孔孔径及び気孔孔径分布の制御はよく規定された合成出発材料で更にはるかに容易に達成される。この制御性がよくなることにより,特定の吸着される物質について計画された,活性炭で可能であるより遙かに大きな吸着能力をもつ吸着剤の製造が可能になっている(4欄14行〜32行) 。」・「本発明の熱分解樹脂を製造するために用いられる出発材料重合体は,一種又はそれ以上のモノエチレン系又はポリエチレン系不飽和単量体,又は縮合によって反応し巨大網状重合体及び共重合体を与える単量体の巨大網状単独重合体又は共重合体を含んでいる。… (8欄39行〜44行) 」「 , ,, ・適した縮合単量体の例は …(i)ビスフェノールA ビスフェノールCビスフェノールF,…等の如きビスフェノール類,…(l)フェノール,アルキルフェノール類,等の如きフェノール及び誘導体,…を含む(11欄。」31行〜12欄27行)・「芳香族及び/又は脂肪族単量体から製造されるイオン交換樹脂は,多孔性吸着剤を製造するための好ましい種類の出発重合体を与える。… (1 」2欄28行〜30行)・実施例1,2には,イオン交換樹脂を炭素源とする例が記載され,実施例5には,フェノール樹脂を炭素源とする例が記載されている。吸着能の試験は,塩化ビニル,硫化水素(H2S),二酸化硫黄(SO2),PCB 等に対して行われている 「熱分解重合体による粒状物質の脱落が少ないことは,血 。
液処理の如き活性炭が用いられない用途に使用されることを可能にする 」。
との,血液処理への用途を示唆する記載がある。
(b)以上のとおり,甲23の15公報にはフェノール樹脂又はイオ,, ン交換樹脂に基づく多孔性吸着剤の製造に関する記載があり かつ血液処理への用途を示唆する記載はあるが,炭素源の選択により選択吸着性を高めることについての示唆はない。
b(a) 甲31公報の記載は次のとおりである。
・「本発明は,球状フェノール樹脂を成型しそれを原料とした球状活性炭の製法に関するもので,更に詳しく述べると分子量3,000以上で,遊離フェノールを殆ど含まないフェノール樹脂の粉末に水を加えて球状のフェノール樹脂を成型し,それを原料とした球状活性炭の製法である(段。」落【0001 )】・「 従来の技術】フェノール樹脂すなわちフェノールホルムアルデヒド樹 【脂は,合成樹脂として最も良く知られているものの一つで,機械的性質が優れているため電器部品 自動車部品等多くの用途に使用されている段 , 。」(落【0002 )】・「 課題を解決するための手段】本発明者等は有機溶剤を使用せずに,粉 【末状のフェノール樹脂を造粒するため,バインダー効果を付与する方法について検討した結果,熱溶融性と溶剤への溶解性を有するフェノール樹脂の粉末は,かなりメチロール基を含むため,親水性を有し,水により膨潤させると可塑性を示すことに着目した。更に熱溶融性と溶剤への溶解性を有するフェノール樹脂の粉末と,熱不溶融性のフェノール樹脂の粉末に水を加えて混和すると,転動造粒法により球状に成型することが出来ることを見出した。次に成型物を乾燥するため熱を加えると,膨潤した樹脂が一部溶融し,親水性がなく熱不溶融性のフェノール樹脂粉末を溶着して,一体の成型物にすることが出来ることを見出し,これに基づいて本発明に到達した(段落【0008 ) 。」】「,, , ・更にこの粒子を乾留 賦活することにより 比表面積が非常に大きく不純物を殆ど含まず,極めて高純度の球状活性炭粒子が得られる。この粒子はその他,強度及び硬度が大きく,耐薬品性も高い性質を有するため人工臓器,電池,電極,溶剤回収,キャニスター,浄水器,脱臭その他従来フェノール系活性炭繊維が使用されていた分野の代替品等多くの用途に使用出来る(段落【0043 ) 。」】(b)以上のとおり,甲31公報には,フェノール樹脂を炭素源として球状活性炭粒子を得ることと,これを従来フェノール形活性炭繊維が使用されていた分野の代替品として使用可能であることなどについての記載はあるが,経口投与用の吸着剤を示唆する記載はないし,選択吸着能を示唆する記載もない。
c(a) 甲32の1公報の記載は次のとおりである。
・「活性炭素材は,その良好な多孔質性を生かして,吸着材料,触媒,触媒担体のほか,電子・電機部品材料,バイオ材料などとして,幅広い産業分野で使用されている。… (段落【0002 ) 」】・「…これまでマイクロメーターのレベルで粒径が制御されたものとしては,上記のメソカーボンマイクロビーズを賦活して得られる球状活性炭素材が知られている他,フェノール樹脂を原料として得られたものが知られている(段落【0004 ) 。」】・「しかしながら,特にフェノール樹脂を原料としたものは,微小粒径のものが調製困難であったり,粒径制御が十分でなかったり,または比表面積が低かったりする問題点を有している。… (段落【0005 ) 」】・「 発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は,粒 【径および/または粒径分布が制御された球状活性炭素材の製造方法,及びそれから得られる球状活性炭素材を提供することにある(段落【000。」6 )】・「 課題を解決するための手段】本発明者らは,ナノメートルからミクロ 【ンオーダーの範囲の大きさで,粒径および粒径分布が制御された球状活性炭素材を得るべく鋭意研究に取り組んだ結果,フェノール樹脂とセルロース誘導体を除き,賦活することで,高い比表面積を有し,粒径および/または粒径分布の制御された球状活性炭素材を得ることが出来ることを見いだし本発明を完成するに至った(段落【0007 ) 。」】・「本発明で用いるフェノール樹脂としては,使用するセルロース誘導体と共通の溶剤に可溶なもので,且つ熱により硬化するものが用いられる。
… (段落【0016 ) 」】・「ノボラック型フェノール樹脂の場合は,一般にはヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤を添加して用いられる。… (段落【0017 ) 」】・「得られた球状活性炭素材は,平均粒径が20nm〜100μmの範囲にある球状の活性炭素材であり,好ましくは20nm〜30μm,更に好ましくは20nmから10μmの範囲に平均粒径を有し,また粒径分布の標準偏差が0.5以下…と良く制御された,且つ比表面積が300?u/g以上,好ましくは800?u/g以上,特に好ましくは1200?u/g以上である球状活性炭素材が良好に調整できる。このように形状が高度に制御された球状活性炭素材は,吸着材料,触媒・触媒担体材料,膜材料,電子・電気材料 画像用材料などとして各種工業分野で有用である段落 0 , 。」(【040 )】・「 発明の効果】本発明は,ナノメートルからミクロンオーダー,具体的 【には20nm〜30μmの平均粒径を有し,300?u/g以上の比表面積を有する球状活性炭素材の製造方法,及び該製造方法により得られる,形状が真球状に近く粒径が揃っていて狭い粒径分布を有する,制御された粒径や粒径分布を有する球状活性炭素材を提供することができる段落 0。」(【059 )】(b)以上のとおり,甲32の1公報には,吸着剤量として有用なフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭素材に関する記載があるが,医薬剤としての経口投与可能性に関する直接的な記載はなく,また,選択吸着性に関する記載もない。
d(a) 甲32の2公報の記載は次のとおりである。
・「 産業上の利用分野】本発明は粒状活性炭,カーボン電極,砥石,フィ 【ラー,成型材料用等広範な用途に使用される新規な感圧熱自硬化性球状フェノール樹脂に関するものである(1欄48行〜2欄1行) 。」・「…加熱により流動性をもつ球状樹脂は粒状活性炭,カーボン電極あるいは球状樹脂のみの単独成形板等の用途には,加熱時樹脂粒が融着してしまうため不適当であり,球状である特徴を活かすことが出来ない(2欄。」44行〜48行)・「 課題を解決するための手段】本発明者らはかかる問題点に着目し優れ 【た特性を持つ感圧熱自硬化性球状フェノール樹脂の開発に鋭意努めた結果本発明に至ったものである。本発明の目的は分子中にメチロール基を含有し硬化剤の併用なしに熱だけで硬化し感圧熱自硬化性ではあるが外力を加えない場合の加熱では球状を保持したまま硬化する特性を持ち,かつ,経時変化の無い耐ブロッキング性に優れた保存安定性の良い感圧熱自硬化性球状フェノール樹脂を得る製造方法を提供することにある。… (2欄49 」行〜3欄7行)・「 発明の効果】本発明の製造方法により得られた感圧熱自硬化性球状フ 【ェノール樹脂は,ゲル化時間(150℃ ,板流れ(120℃)が無く,熱 )時流動性を持たないものであるにもかかわらず,加熱圧縮型により溶融硬化し成型物の作成が可能なことから,とくに粒状活性炭…等の応用分野で特長を発揮できるものである(8欄42行〜下1行) 。」(b)以上のとおり,甲32の2公報にはフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭に関する記載があるが,経口投与可能性に関する記載はないし,選択吸着性に関する記載もない。
e(a) 甲32の3公報の記載は次のとおりである。
・「 請求項1】フェノール樹脂発泡体を炭化,賦活化することにより得ら 【れる活性炭素多孔体の製造方法 」。
・「 産業上の利用分野】本発明により得られる活性炭素多孔体が利用され 【, , る分野としては 従来よりヤシ殻活性炭や活性炭素繊維が使用されている浄水および水処理,ガス吸着,溶剤回収等の分野があげられる(1欄1。」1行〜14行)・「 従来の技術】従来より活性炭素材料としては,…粒状活性炭,…フェ 【ノール樹脂から製造される繊維を原料として得られる活性炭素繊維等があげられる。… (1欄15行〜19行) 」・「 発明が解決しようとしている課題】本発明は以上に示した問題点に着 【目し,吸着性能,ハンドリング性に優れた活性炭素多孔体を,容易にかつ,。, 経済的に得ることについて検討した結果 得られたものである すなわちノボラック型フェノール樹脂発泡体を,活性炭素多孔体の出発原料として用いることにより,所定の形状を有し,ハンドリング性に優れた高比表面積の活性炭素多孔体が容易に高収率で得られることを見いだし,本発明に至ったものである。… (1欄34行〜42行) 」・「 課題を解決するための手段】本発明で示す通り,ノボラック型フェノ 【ール樹脂発泡体を活性炭素材料を得るための出発原料として用いれば,炭化時の熱分解ガスの抜けが容易であること,また賦活時において発泡体内部への賦活ガスの拡散が可能であり,賦活ガスの接触面積を広く取ることが出来,かつ効果的に作用するために,高収率で高比表面積の活性炭素多孔体が得られるのである。… (1欄49行〜2欄6行) 」・「 発明の効果】本発明によれば,…高比表面積の活性炭素多孔体を,容 【易に高収率で得ることが出来る(3欄27行〜4欄下1行) 。」(b)以上のとおり,甲32の3公報にはフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭に関する記載があるが,経口投与可能性に関する記載はないし,選択吸着性に関する記載もない。
f(a) 甲32の4公報の記載は次のとおりである。
・「 請求項1】球状フェノール樹脂を炭化,賦活してなる平均粒径20〜 【200μmの球状活性炭 」。
・「 発明の効果】…本発明の球状活性炭を流動床式装置の吸着剤や触媒及 【びその担体として使用した際には,球状活性炭の優れた流動性によって悪臭や化学物質等に対する高い吸着性を発揮し,また,触媒反応や装置の運転安定性を十分に発揮させることができる。…しかも本発明の球状活性炭は,粉末活性体をバインダーで結合したものと異なり,表面がバインダーで覆われていないため,活性炭含有率が高くなり,吸着性能や触媒性能が阻害されることもない(段落【0037 ) 。」】(b)以上のとおり,甲32の4公報にはフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭に関する記載があるが,経口投与可能性に関する記載はないし,選択吸着性に関する記載もない。
g(a) 甲32の5公報の記載は次のとおりである。
・「 発明の属する技術分野】本発明は球状炭素材,フィラー材等として 【用いるに適した球状フェノール樹脂の製造方法に関する(段落【000。」1 )】・「 発明の効果】本発明の製造方法により得られた球状フェノール樹脂 【は,ゲル化時間(150℃ ,流れ(120℃)が無く,加熱時熱融着が )ないことから炭素材として有用である。例えば,本発明の製造方法に係る球状フェノール樹脂を炭化,賦活することで粒状活性炭が製造でき,球状フェノール樹脂を炭化したものを用いればカーボン電極が製造でき,…等の成形品を製造できる(段落【0042 ) 。」】(b)以上のとおり,甲32の5公報にはフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭に関する記載があるが,経口投与可能性に関する記載はないし,選択吸着性に関する記載もない。
h(a) 甲32の6公報の記載は次のとおりである。
・「本発明は球状フェノール樹脂の製造方法に係り,特に活性炭用,分析機器のカラム充てん用,軽量骨材用として有用な硬化した球状フェノール樹脂の製造方法に関する(1頁左欄下3行〜右欄1行) 。」・「従来球状フェノール樹脂の製造方法はいくつか知られている。例えば特開昭47-3340のように,適当に調節された活性単量体/水の均質相で縮合し,得られた懸濁液の小油滴の凝集を防ぐために分散剤を添加し,, 。 て冷却し 除水 乾燥して球状フェノール樹脂を得る方法が知られているしかしこの場合,得られた球状フェノール樹脂を例えば800℃の不活性ガス中で処理すると球同士の相互融着が生じ結果的に一つの塊状になってしまう欠点を有する。これは球状の活性炭として利用する場合致命的な欠陥となる。… (2頁左上欄12行〜右上欄2行) 」(b)以上のとおり,甲32の6公報にはフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭に関する記載があるが,経口投与可能性に関する記載はないし,選択吸着性に関する記載もない。
i(a) 甲32の7公報の記載は次のとおりである。
・「 発明の属する技術分野】本発明は,機械的粉砕または粒径調整をする 【ことなく球状フェノール樹脂を得る方法に関し,更には,これを炭化することで,活性炭や電極材の原料として利用するのに好適な球状フェノール樹脂の製造方法に関するものである(段落【0001 ) 。」】・「 発明の効果】本発明は,小さい粒径から大きい粒径までの球状フェノ 【ール樹脂を,煩雑な工程を踏まず,安価に得ることができる。また,得ら, , れるフェノール樹脂の反応度を変えることにより 熱溶融可能なものから球状のまま硬化したものまで任意に製造することができ,活性炭や電極材等の原料として有用である(段落【0022 ) 。」】(b)以上のとおり,甲32の7公報にはフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭に関する記載があるが,経口投与可能性に関する記載はないし,選択吸着性に関する記載もない。
j(a) 甲32の8公報の記載は次のとおりである。
・「 発明の属する技術分野】本発明は,フェノール樹脂硬化物に関するも 【のである。この硬化物を賦活したものは非常に高比表面積で細孔径がシャープな活性炭である。上記の方法で得られた活性炭は水処理用,電気二重層キャパシタ用,触媒担持用に大変好適である(段落【0001 ) 。」】・「 発明の効果】…本発明の活性炭は非常に吸着能力が優れており,さら 【に形状が球形であることから,様々な分野への用途展開が可能である。例えば,電気二重層キャパシタ用,浄水器用活性炭,触媒などを担持するための活性炭,その他吸着用のカラム等に好適である(段落【0026 ) 。」】(b)以上のとおり,甲32の8公報にはフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭に関する記載があるが,経口投与可能性に関する記載はないし,選択吸着性に関する記載もない。
(イ)以上のとおり,原告が挙げた各文献には,いずれも原料としてフェノール樹脂ないしイオン交換樹脂を用いた球状活性炭に関する記載があることが認められる。
しかし,これら文献には,これら活性炭の経口投与をすることに関する記載はないし,前記(2)に説示したところから明らかなとおり,仮に甲1発明のような経口投与用の球状活性炭がフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とするものと置換可能であることが示唆されたとしても,そのようにして置換された炭素源と上記選択吸着性能との間に有意な関連があることをも示唆するものがなければならないというべきであって,原告が挙げた各文献は,いずれもこのようなことについて示唆するところがない。
そうすると,原告が挙げた各文献をもってしても,熱硬化性樹脂を炭素源とする球状活性炭を経口投与用活性炭として用いることが周知であったとは認められないし,フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭の経口投与用吸着剤としての性質が他の炭素源の球状活性炭に比べて優れることを示す記載がないことからすれば,フェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭が,経口投与に適した性質を有することが周知ということはできないから,これにより相違点(A)を容易想到ということはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ(ア)原告は,本件特許の出願日(平成15年10月31日,優先日は平成14年11月1日)よりも後に出願(平成15年12月10日 ,公)開(平成16年9月2日)された甲33公報には,球状フェノール樹脂を炭化,賦活することにより得られた活性炭であることを特徴の一つとする医療用吸着剤に関する記載があるとし,同公報においては「球状フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭」が公知であることが当然の前提とされているから,球状活性炭の炭素源としてフェノール樹脂を採用することは当然の事項であったと主張するので,以下検討する。
(イ) 甲33公報には,次の記載がある。
a特許請求の範囲・「 請求項1】【, , 球状フェノール樹脂を炭化 賦活することにより得られた活性炭であって比表面積500〜2000?u/g,細孔容積0.2〜1.0mL/g,充填密度0.5〜0.75g/mLの球状の活性炭からなることを特徴とする医薬用吸着剤 」。
b技術分野・「球状フェノール樹脂を原料とした活性炭からなる経口投与型の医薬用吸着剤に関する (段落【0001 ) 。」】c背景技術・「従来,毒物・薬物急性中毒の治療及び胃腸疾患の治療には,日本薬局方記載の薬用炭が使用されている。前記薬用炭としては,通常,木質等を主原料とした粉末活性炭が使用されており,かかる薬用炭の治療効果は,薬用炭が消化器系内において有害物質を吸着し,有害物質を保持した状態で体外に排出されることによって発揮されていた(段落【0002 ) 。」】・「ところで,前出の薬用炭として使用される粉末活性炭は,単に破砕したのみであるため個々の粒子の形状は不均一であり,服用したとしても腸内での流動性は悪く,便秘等の副作用が問題となっていた。また,活性炭は一般的に疎水性が高く,尿毒症の原因物質やその前駆物質に代表されるアルギニン,プトレシン等のイオン性有機化合物の吸着に適さないという不具合も生じている(段落【0003 ) 。」】・「そこで,前記の問題点を解消すべく,原料物質として木質,石油系もしくは石炭系の各種ピッチ類等を使用し球状等の樹脂化合物を形成し,これらを原料とした活性炭からなる抗ネフローゼ症候群剤が報告されている(例えば,特許文献1 。前出の活性炭にあっては,石油系炭化水素(ピッチ)等を )原料物質とし,比較的粒径が均一となるように調整し,炭化,賦活させたものである。また,活性炭自体の粒径を比較的均一化するとともに,当該活性炭における細孔容積等の分布について調整を試みた経口投与用吸着剤が報告されている(特許文献2参照 。このように,薬用活性炭は,比較的粒径を均 )一にすることに伴い,腸内の流動性の悪さを改善したものであり,またこれと同時に細孔を調整することにより当該活性炭の吸着性能の向上を図ったものであり,多くの軽度の慢性腎不全患者に服用されている(段落【000。」4 )】・「薬用活性炭にあっては,尿毒症の原因物質やその前駆物質に対する迅速かつ効率的な吸着が要求される。しかしながら,既存の薬用活性炭では,形状を球形のまま粒径を小さくすることは難しい。また,従来の薬用活性炭に, , おける細孔の調整は良好とは言えず 吸着性能は必ずしも十分ではないので一日当たりの服用量を多くしなければならない。特に,慢性腎不全患者は水分の摂取量を制限されているため,少量の水分により嚥下することは患者にとって大変な苦痛となっていた(段落【0005 ) 。」】・「加えて,胃,小腸等の消化管においては,糖,タンパク質等の生理機能に不可欠な化合物及び腸壁より分泌される酵素等の種々物質の混在する環境である。そのため,生理的機能に不可欠な化合物の吸着を抑制しつつ,尿毒症の原因物質の吸着を行うという選択吸着性能を有する薬用活性炭が望まれていた(段落【0006 ) 。」】d発明が解決しようとする課題・「この発明は,前記の点に鑑みなされたもので,便秘等の副作用を引き起こしにくく,尿毒症等の原因物質であるイオン性有機化合物の吸着に優れ,少ない服用量で十分な吸着性能を発揮し,かつ生体に必要な酵素,多糖類等の高分子化合物の吸着を抑えた医薬用吸着剤及びその製法を提供する(段。」落【0007 )】e課題を解決するための手段・「すなわち,請求項1に係る発明は,球状フェノール樹脂を炭化,賦活することにより得られた活性炭であって,比表面積500〜2000?u/g,細孔容積0.2〜1.0mL/g,充填密度0.5〜0.75g/mLの球状の活性炭からなることを特徴とする医薬用吸着剤に係る(段落【000。」8 )】f発明の効果・「本発明の医薬用吸着剤は,球状フェノール樹脂を炭化,賦活することにより得られた活性炭であって,比表面積及び細孔容積,平均細孔直径,粒子径,表面酸化物量を調整した活性炭からなるため,従来品と比較して多糖類及び酵素等のような生体に必要な高分子の吸着を抑制しつつイオン性有機化合物を選択的に吸着することができる(段落【0018 ) 。」】・「特に,本発明の医薬用吸着剤は,球状フェノール樹脂を原料物質とすることにより,粒子径が数μmから2〜3mmと幅の広いほぼ真球の球状活性炭を得ることができ,さらに,従来の石油ピッチやヤシ殻,木質からなる活性炭と比して,賦活により形成される細孔径が小さくなる。そのため,分子量が比較的小さい(分子量が数十〜数百である)イオン性有機化合物の吸着に適している。また,球状フェノール樹脂を原料とする活性炭は従来の薬用, 。」(【】) 活性炭に比べて硬く 粉化しにくいといった特徴がある段落 0019g発明を実施するための最良の形態本発明に用いられる球状フェノール樹脂としては,特開平11-606・「64号や,特開2001-114852号に記載の球状フェノール樹脂が好適な例として用いることができる。球状フェノール樹脂は,芳香族の構造を有しているため,炭化率を高くすることができ,さらに賦活により表面積の大きな活性炭が得られる。賦活された球状フェノール樹脂の活性炭は,従来の木質やヤシ殻,石油ピッチ等の活性炭と比較して,細孔径が小さく,充填。, ( ) 密度が高い そのため 分子量が比較的小さい 分子量が数十〜数百であるイオン性有機化合物の吸着に適している。また,これらの球状フェノール樹脂は上記の従来の木質等と比して窒素,リン,ナトリウム,マグネシウム等の灰分が少なく単位質量当たりの炭素の比率が高いため,不純物の少ない活性炭を得ることができる。さらに,本発明に規定するように,原料に球状フ, ,, ェノール樹脂を用い 球状を維持したまま活性炭とすると 形状的に強靱で消化器内における活性炭の流動性が向上し,従来技術として述べた薬用炭のように便秘等の副作用を引き起こす可能性が極めて低くなると考えられるため好ましい(段落【0022 ) 。」】(ウ)以上によれば,甲33公報に記載の発明は,本件特許発明と同様,球状フェノール樹脂を原料とした活性炭からなる経口投与型の医薬用吸着剤に関するものであり,しかも,炭素源の選択において選択吸着能を考慮している点でも,本件特許発明と同様ということができるが,甲33公報記載の発明が出願されたのは前記のとおり平成15年12月10日であり,公開されたのは平成16年9月2日であるから,これ自体を本件特許発明における容易想到性の判断の基礎とすることはできない。
そして,原告は,甲33公報の段落【0022】に甲32の2公報及び甲32の5公報記載のフェノール樹脂が好適な例として使用可能である旨の記載があることをもって,球状活性炭の炭素源としてフェノール樹脂を採用することが当然の事項であったと主張するが,甲33公報の上記記載から明らかなとおり,甲33公報記載の発明自体,既存のフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭を前提としつつ,炭素源の選択により選択吸着能に差があることを見出して発明に至っているのであって,原告主張の事情が本件特許発明容易想到性を基礎付けるものでないことは明らかである。
また原告は,甲33公報記載の発明で用いられた球状フェノール樹脂と本件特許明細書の実施例において使用されていたフェノール樹脂が同じ「マリリンHF」であることをもって,フェノール樹脂を採用することが容易であることの根拠とするが,上記と同様の理由により,これが本件特許発明容易想到性を基礎付けるものでないことは明らかである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
オ 原告は,審決の作用効果に関する判断には誤りがあると主張する。
,, () しかし 原告主張のうち 本件特許明細書の実施例に回折強度比 R値が1.4以上のものしか記載されていないことを根拠とする点に理由がないことは取消事由1に対する判断において説示したとおりであり,採用することができない。
また,原告は本件特許の出願経過を挙げて,それとの整合性を問題とするが,本件特許発明に審決の認定する作用効果を認めることができることは取消事由1についての判断において説示したとおりであり,出願経過に関する事情が本件特許発明に係る上記作用効果を左右するものではないから,原告の主張は採用することができない。
5 結論以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海