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事件 平成 20年 (行ケ) 10339号 審決取消請求事件
原告大 和製衡株式会社
訴訟代理人弁理 士角田嘉宏
同 古川安航
同 佃誠玄
被告株 式会社イシダ
訴訟代理人弁護 士伊原友己
同 岩坪哲
同 加古尊温
同 速見禎祥
訴訟代理人弁理 士吉村雅人
同 藤岡宏樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2008-800059号事件について平成20年8月7日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1本件は,被告が有しかつ被告の訂正審判請求に基づき平成19年3月8日付けでこれを認める審決がなされた後記特許について,原告が無効審判請求をしたところ,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,被告がした上記訂正が実質上特許請求の範囲変更するものであるか(平成6年法律第116号による改正前の特許法126条2項),である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯被告は,昭和61年11月15日,名称を「計量装置」とする発明について特許出願をし,平成9年8月8日,特許第2681104号として設定登録を受けた(発明の数1。特許公報は甲2。以下「本件特許」という。)。
そして,被告は,平成19年2月13日付けで本件特許について訂正審判請求(訂正2007-390016号)をしたところ,特許庁は,平成19年3月8日付けで訂正を認める審決(甲1)をした(以下この訂正を「本件訂正」という。)。
これに対し原告は,平成20年4月1日付けで,本件訂正は実質上特許請求の範囲変更するものであるから訂正の要件を欠くことを理由(特許法123条1項8号)に本件特許につき特許無効審判請求をした(甲25)ので,特許庁は,同請求を無効2008-800059号事件として審理した上,平成20年8月7日「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成20年8月19日原告に送達された。
(2) 発明の内容ア 本件訂正前本件訂正前の【特許請求の範囲】第1項は,次のとおりである(以下「本件発明」という。)。
「被計量物品を貯蔵し排出するホッパと,該ホッパの排出口に設けられたゲートと,該ゲートを開閉駆動するモータとを備えた計量装置であって,前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定する入力手段と,設定されたゲートの動作変化に基づいて前記モータを制御する制御手段とを設け,被計量物の種類や供給量に応じて前記ゲートの動作を任意に制御できるようにしたことを特徴とする計量装置。」イ 本件訂正後本件訂正後の【特許請求の範囲】第1項は,次のとおりである(以下「本件訂正発明」という。下線部が訂正部分)。
「被計量物品を貯蔵し排出するホッパと,該ホッパの排出口に設けられたゲートと,該ゲートを開閉駆動するモータとを備えた計量装置であって,前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記モータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段と,設定されたゲートの動作変化に基づいて前記モータを制御する制御手段とを設け,前記入力手段はコントロールパネルに含まれており,被計量物の種類や供給量に応じて前記ゲートの動作を任意に制御できるようにしたことを特徴とする計量装置。」(3) 訂正の内容本件訂正の内容は,【特許請求の範囲】第1項を前記(2)のとおり訂正するほか,「発明の詳細な説明」(特許公報[甲2]2頁3欄27行〜35行)につき上記に準じた訂正(詳細は省略)をするものである。
(4) 無効審判請求の理由原告がなした本件特許無効審判請求の理由は,本件訂正前の【特許請求の範囲】第1項「前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定する入力手段」を「前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記モータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段」に訂正することは,平成6年改正前の特許法126条2項に違反する,というものである。
(5) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件訂正は,特許請求の範囲減縮を目的としたものであり,実質上特許請求の範囲変更するものでもない,というものである。
(6) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法なものとして取り消されるべきである。
ア審決は,本件発明及び本件訂正発明の特許請求の範囲における「刻々」という用語につき,「所定の期間毎」を意味するとした上,「…ホッパゲートの『刻々』の動作変化を任意に設定できるのは,区間iを単位とした『所定の期間毎』であることは明らかであり,この点について本件訂正前後を通じて何ら変わるところはない。」(5頁1行〜3行)と認定している。
しかし,このような認定は,?@「刻々」及び「動作変化」が本件特許の出願時明細書に含まれていなかったという事実,?A「刻々」及び「動作変化」に関連する審査段階での出願人(被告)の主張,?B「モータの動特性データ」及び「テーブル」が本件訂正によって初めて特許請求の範囲に追加されたという事実を不当に軽視するものであり,ひいては,?C本件訂正前の特許請求の範囲を基準とすることなく,本件訂正に基づいて遡及的に本件訂正前の特許請求の範囲の意義を解釈し,第三者に不意打ちを与える不合理なものである。
以下,詳述する。
イ 「刻々」すなわち「所定の期間」につき採り得る解釈本件発明及び本件訂正発明の特許請求の範囲における「刻々」とは,「所定の期間毎」を意味する(審決4頁17行〜20行)。そして本件特許明細書の実施例において,具体的にどの「期間」が該「所定の期間」に相当するのかは,本件特許のクレーム解釈において重要な意義を有する。
ここで実施例において「所定の期間」に該当しうるものを挙げれば,以下の3通りの解釈が存在しうる。すなわち,?@ステップモータに与えられる1個1個のパルスの周期により規定される期間,?A本件特許明細書第1表(甲2,4欄)のようなテーブルにおいてパルス数とパルス周期とを一つずつ含む各行により規定される区間「i」,?B本件特許の第2図(甲2,5頁)のような「ホッパゲートの動作特性図」において,漸次減速,漸次加速といったホッパゲートの動作毎に時間区分された期間「t」,である。
しかし,「刻々」の解釈として上記のいずれが妥当であるかは,本件特許明細書そのものの記載からは一義的に明らかとはいえない。その理由は以下のとおりである。
第1に,そもそも「刻々」とは,一般用語として「一刻毎,刻一刻」を意味する(審決4頁17行〜18行)。そのことから導かれる「所定の期間」とは,単に時間によって区切られた一定の期間という意味しかない。
すなわち「刻々」という言葉自体に,「テーブル」や「表」といった含意はない。そうであるからといって,ステップモータのパルス1個1個の周期であるとか,「ホッパゲートの動作特性図」における時間区分といった概念を積極的に示唆するものでもない。
第2に,「刻々」という用語は,本件特許の出願時の明細書(甲3)には含まれておらず,また本件訂正後の本件特許明細書(甲1)を通覧しても,「刻々」の定義やそれに類する記載は一切存在しない。本来,特許請求の範囲に用いられる用語と実施例の記載との対応は,技術的に明確であるべきである。仮にそれが明確でないとすれば,その定義を明示する責任は出願人の側に存する。にもかかわらず,本件において出願人(被告)は,その義務を適切に果たしていない。
第3に,「モータの動特性データ」及び「テーブル」という用語は,本件訂正前の特許請求の範囲には含まれていなかった。「刻々」における「所定期間」と,「モータの動特性データ」及び「テーブル」とは,本件訂正前の特許請求の範囲においては一切関連付けられていなかった。本件訂正前の特許請求の範囲における設定の対象は,あくまで「ゲートの動作変化」であって「モータの動特性データ」ではない。「所定の期間」が,実施例において「モータの動特性データ」の設定される「テーブル」の各行に対応するといったことは,本件訂正前の特許請求の範囲の示唆するところではない。
以上のように,「刻々」すなわち「所定の期間」が具体的に実施例のどの期間に該当するのかは,本件特許明細書の記載からは一義的に読み取ることはできない。したがって,これを明らかにするには,本件特許の出願経過における特許請求の範囲の変遷及び出願人(被告)の主張を参酌する必要がある。
出願経過参酌した「刻々」すなわち「所定の期間」の解釈以下,「刻々」及び「動作変化」という二つの用語に着目して,出願経過における特許請求の範囲の変遷及び出願人(被告)の主張を検討する。
(ア) 当初の特許請求の範囲本件特許出願時の特許請求の範囲は,以下のとおりである(甲3)。
「ホッパゲートを開閉駆動するリンク機構を具備し,モータを該リンク機構に連結してホッパゲートの開閉制御を行なう計量装置において,上記モータとしてステップモータを用い,該ステップモータの駆動制御手段で被計量物品の種類や供給量に応じて上記ホッパゲートを開閉制御するようにしたことを特徴とする計量装置。」当初の特許請求の範囲においては,「ホッパゲート」は単に「開閉制御」する対象とされている。そこには,「刻々」や「動作変化」の意味を具体的に示唆するような記載は認められない。
また,出願時の明細書(甲3)を通覧しても,「刻々」や「動作変化」という用語の定義が記載されていないことは,上述したとおりである。
(イ) 平成5年4月23日付け補正後の特許請求の範囲出願人(被告)が平成5年4月23日付けで行った補正後の特許請求の範囲は,以下のとおりである(甲5)。
「ホッパゲートを開閉駆動するリンク機構を具備し,モータを該リンク機構に連結してホッパゲートを開閉するようにした計量装置において,上記モータとして任意に設定された動作特性に従って回転制御されるモータを用いたことを特徴とする計量装置。」上記の特許請求の範囲においては,モータは「任意に設定された動作特性に従って回転制御される」とされている。またホッパゲートは,単純に「開閉する」ものと規定されている。この時点において「刻々」や「動作変化」という用語が具体的にクレームに顕出されているものではなく,それらの用語の意義を明確に確定する事情もいまだ存在しない。
(ウ) 平成6年8月22日付け補正後の特許請求の範囲出願人(被告)が,拒絶理由通知(甲6)に対応して平成6年8月22日付けで行った補正後の特許請求の範囲は,以下のとおりである(甲7)。
「ホッパゲートを開閉するモータと,該モータは任意に設定された動作特性に従って回転制御されるモータであって,該モータの回転を制御する制御手段とを有する計量装置において,前記制御手段は,前記モータの動作特性データを記憶する記憶手段と,該記憶手段に記憶された前記モータの動作特性データに基づいてモータの回転を制御するモータ回転制御手段と,前記記憶装置に記憶されるデータを外部装置から読み込むためのデータ転送手段とを有し,前記外部装置が,前記モータの動作特性データを入力する入力手段と,該入力手段によって被計量物毎に入力された複数の前記モータの動作特性データを記憶する外部記憶手段とからなることを特徴とする計量装置。」上記の特許請求の範囲において,モータの回転は「該記憶手段に記憶された前記モータの動作特性データに基づいて」制御されるとされている。またホッパゲートは,単純に「開閉する」ものと規定されている。
「刻々」や「動作変化」という用語はやはり特許請求の範囲には顕出されおらず,それらの用語の意義を明確に確定する事情もいまだ存在しない。
(エ) 平成7年5月15日付け補正後の特許請求の範囲出願人(被告)が,拒絶査定(甲11)に対する審判請求(以下「本件拒絶査定に対する審判請求」という。甲12)において平成7年5月15日付けで行った補正後の特許請求の範囲は,以下のとおりである(甲14)。
「被計量物品を貯蔵し排出するホッパと,該ホッパの排出口に設けられたゲートと,該ゲートを開閉させる駆動手段とを備えた計量装置であって,前記駆動手段として,設定プログラムに従って回転制御されるモータを使用し,該モータのプログラムを変更する手段を設け,該プログラムの変更によって,前記ゲートの開閉スピード,加速度,開度を被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できるようにしたことを特徴とする計量装置。」上記の特許請求の範囲において,モータは「設定プログラムに従って回転制御される」とされている。また,ゲートは「開閉スピード,加速度,開度を被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できる」とされている。しかし,「刻々」や「動作変化」という用語は特許請求の範囲には顕出されておらず,それらの用語の意義を明確に確定する事情もいまだ生じていない。
(オ) 平成8年6月24日付け補正後の特許請求の範囲出願人(被告)が,本件拒絶査定に対する審判請求における平成8年3月19日付け拒絶理由通知(甲15)に対応して平成8年6月24日付けで行った補正後の特許請求の範囲は,以下のとおりである(甲16)。
「被計量物品を貯蔵し排出するホッパと,該ホッパの排出口に設けられたゲートと,該ゲートを開閉させる駆動手段とを備えた計量装置であって,前記駆動手段として,任意に設定された動作特性に従って回転制御されるモータを使用し,該モータの動作特性を変更する手段を設け,該動作特性の変更によって,前記ゲートの開閉スピード,加速度,開度を被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できるようにしたことを特徴とする計量装置。」上記の特許請求の範囲において,モータは「任意に設定された動作特性に従って回転制御される」とされている。すなわち,平成5年4月23日付け補正後の特許請求の範囲と同様な表現に戻っている。また,ゲートは「開閉スピード,加速度,開度を被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できる」とされている。しかし,この時点においても「刻々」や「動作変化」という用語は特許請求の範囲には顕出されおらず,それらの用語の意義を明確に確定する事情もいまだ生じていない。
(カ) 平成8年12月24日付け補正後の特許請求の範囲出願人(被告)が,本件拒絶査定に対する審判請求における平成8年10月1日付け拒絶理由通知(甲18)に対応して平成8年12月24日付けで行った補正後の特許請求の範囲(登録時[本件訂正前]の特許請求の範囲)は,以下のとおりである(甲19)。
「被計量物品を貯蔵し排出するホッパと,該ホッパの排出口に設けられたゲートと,該ゲートを開閉駆動するモータとを備えた計量装置であって,前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定する入力手段と,設定されたゲートの動作変化に基づいて前記モータを制御する制御手段とを設け,被計量物の種類や供給量に応じて前記ゲートの動作を任意に制御できるようにしたことを特徴とする計量装置。」上記の特許請求の範囲において,モータは「設定されたゲートの動作変化に基づいて」制御されるものとされ,また入力手段によって「前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定する」こととされている。さらに,「被計量物の種類や供給量に応じて前記ゲートの動作を任意に制御できる」とされている。このことから明らかなように,平成8年12月24日付けで行った補正によって初めて,「刻々」及び「動作変化」という用語がクレームに追加された。
しかし,平成8年12月24日付け補正後においても,「刻々」及び「動作変化」という用語の意義が特許請求の範囲上に定義されているわけではなく,また「発明の詳細な説明」にその定義が追加されたわけでもない。したがって,「刻々」及び「動作変化」の意義を,上記三つの解釈のいずれとすべきかは,特許請求の範囲の変遷だけを見ていても依然として明らかにならない。
そこで以下,出願人(被告)による審査経過における主張を検討する。
(キ) 平成6年8月22日付け意見書での主張平成6年8月22日付け意見書において,出願人(被告)は以下のように主張した(甲8,3頁20行〜23行)。
「本願発明は,制御手段が『前記記憶装置に記憶されるデータを外部装置から読み込むためのデータ転送手段』を有し,『被計量物毎に入力された複数の前記データの動作特性データを記憶する外部記憶手段』を有する点において引例に記載されたものと相違します。」この主張から明らかなように,出願人(被告)は,平成6年8月22日付け補正後の発明の特徴として,?@記憶装置に記憶されるデータを外部装置から読み込むためのデータ転送手段と,?A被計量物毎に入力された複数のデータの動作特性データを記憶する外部記憶手段とを備えることを主張した。すなわち,外部にデータを記憶させるという機能に特徴があるというのであり,「刻々」の「動作変化」といった点に特徴があるという主張は一切読み取れない。
(ク) 平成7年5月15日付け審判請求理由補充書での主張本件拒絶査定に対する審判請求における平成7年5月15日付け審判請求理由補充書において,出願人(被告)は以下のように主張した(甲13,4頁9行〜5頁1行)。
「…本願発明は,…ゲートの駆動手段として設定プログラムに従って回転制御されるモータを使用し,該モータのプログラムを変更することによって,前記ゲートの開閉スピードと,加速度と,開度とを被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できるようにするというものである。…引例には本願発明のような,被計量物品の種類や貯蔵量に応じてゲートの開度とを任意に調整できるようにするという技術的思想はなにも記載されていない。…『実願昭57-123283号…』…には,…本願発明の技術的思想の本質的事項である,ゲートの駆動手段として設定プログラムに従って回転制御されるモータを使用し,該モータのプログラムを変更することによって,前記ゲートの開閉スピードと,加速度と,開度とを被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できるようにするということが何等記載されていない。」この主張から明らかなように,出願人(被告)は,平成7年5月15日付け補正後の発明の特徴として,ゲートの開閉スピードと,加速度と,開度とを被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できる点を明示的に主張した。ただし,「刻々」の「動作変化」と上記特徴とが具体的にどのような関係にあるかは,この主張から明らかではない。
(ケ) 平成8年12月24日付け意見書での主張本件拒絶査定に対する審判請求における平成8年12月24日付け意見書において,出願人(被告)は,以下のように主張した(甲20,3頁4行〜7行)。
「本願発明は,入力手段によって,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化(開閉速度,加速度,開度)を任意に設定できるようにしているのに対し,引例のものは,キースイッチにより設定された流量,切換重量に基づいて物品の供給量(ゲートの開度のみ)を制御するだけである点で相違する。」この主張から明らかなように,出願人(被告)は,本件発明の特徴として,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化(開閉速度,加速度,開度)を任意に設定できる点を明示的に主張した。そして,引例の発明は「ゲートの開度のみ」を制御するだけである点で相違すると主張した。この主張が認められ,本件発明は特許された。
この意見書において,「刻々」という用語については具体的な意味を示す記載は認められない。しかし,「動作変化」という用語については,そのすぐ後に引き続いて「(開閉速度,加速度,開度)」という記載が認められる。すなわち,動作変化の具体的な意味は「開閉速度,加速度,開度」であると出願人(被告)は明示的に主張した。これは,「刻々」の「開閉速度,加速度,開度」を任意に設定できる点に本件発明の特徴があるとの主張にほかならない。
このように,「開閉速度,加速度,開度」が設定できる点に本件発明の特徴があると考えることは,「前記ゲートの開閉スピードと,加速度と,開度とを被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できる」点に特徴があるとした,上記(ク)の平成7年5月15日付け審判請求理由補充書の記載とも整合する。
(コ)以上の出願人(被告)の主張を参酌すれば,本件発明の「刻々」における「所定の期間」とは,ゲートの「開度のみ」ではない「開閉スピードと,加速度と,開度と」を設定することが可能な「期間」でなければならないことは明白である。このことは,「刻々」及び「動作変化」という用語が出願時明細書に含まれず,上記補正によって初めて追加されたものであることからもさらに支持される。すなわち,これら二つの用語について,技術用語として一般的な定義もなく,明細書にも明確な定義が記載されていないことからすれば,特許成立までの審査経過を参酌してその意義を明確にすべきことは当然だからである。
エ 本件発明における「刻々」すなわち「所定の期間」の意義上記ウで述べたことを前提に,本件発明に関し,上記イで述べた「所定の期間」について採り得る解釈,すなわち,?@ステップモータに与えられる1個1個のパルスの周期により規定される期間,?A本件特許明細書第1表(甲2,4欄)のようなテーブルにおいて各行により規定される区間「i」,?B本件特許の第2図(甲2,5頁)のような「ホッパゲートの動作特性図」において時間区分された期間「t」を検討すれば,?@及び?Aの解釈は採用しえない。
まず,?@1個1個のパルスの周期により規定される期間については,当該期間におけるゲートの開度(累積パルス数)及び速度(パルス周期)は期間毎に設定されうるといえるとしても,加速度は期間毎に設定されるとはいえない。1個1個のパルスについて加速度の設定などできない。したがって,「所定の期間」を?@のように解釈すると,「所定の期間」について「加速度」を設定している,あるいは設定しうる,とはいえなくなる。
また,?Aテーブルの各行により規定される期間について見ると,本件特許明細書第1表(甲2,4欄)に明らかなように,当該期間のそれぞれにおいてパルス周期は一定であり,モータは等速回転する。したがって,「所定の期間」を?Aのように解釈すれば,「所定の期間」につき「加速度」を設定している,あるいは設定しうる,とはいえなくなってしまう。
一方,?Bの解釈についてはそのような問題は生じない。すなわち,本件特許の第2図(甲2,5頁)を見れば明らかなように,ゲート及びモータが,期間t ,t ,t において等速運動,期間t ,t において減速運1 35 26動,期間t において加速運動をする。すなわち期間「t」を単位とし4て,「開閉スピードと,加速度と,開度と」が設定されている。また,本件特許明細書(甲2,4欄16行〜22行)にも「t 期間は等速,t 期1 2間は漸次減速,t 期間は停止,t 期間は逆方向に漸次増速,t 期間は3 4 5逆方向に等速,t 期間は逆方向に漸次減速となるように動作させる…」6と記載されている。このことは,実施例の構成が期間「t」を単位として「加速度」を設定するもの,あるいは設定しうるもの,であることを如実に示している。
以上に検討したところを総合的に考慮すれば,本件発明において,「刻々」すなわち「所定の期間」とは,実施例の期間「t」に対応すると解すべきである。このような具体的検討に基づく結論を排斥し,あえて「所定の期間」をテーブルの各行により規定される区間「i」であると解すべき積極的な理由はどこにも存在しない。
オ以上の点は,本件訂正を認容した審決(甲1)の判断に照らしても明らかである。すなわち,上記審決(甲1)は,「前者の『ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を・・・任意に設定する』の意義は,願書に添付された明細書及び図面中のゲートの開き始めから閉じるまでのホッパゲートの動作変化を例示する図面の【第2図】,【第3図】及びそれに対応して作成されたモータの刻々の動作特性値を表す第1表のテーブル等を参酌すると,ゲートをできるだけ速く開放させて,排出スピードを速めたり,或は,ゲートの急激な開閉運動による衝撃音を和らげるために,運動の始めと終わりを指数関数的に立ち上げ,或は,収束させることを目的に,ゲートの開き始めから閉じるまでの期間毎のゲートの開度,速度や加速度等の刻々の動作変化を任意に設定することと解され,その設定された目標値であるゲートの開度,速度や加速度等を,『モータの動特性データ』,すなわち,モータのパルス周期,パルス数,回転方向等として,ゲートの動作期間毎に『テーブル』に任意に設定することによって実現することと解される。そうすると,甲第2号証及び甲第3号証には,ゲートの開度を設定するためにパルスモータを用いることや,パルス数やパルス発信周波数等によってゲートの開度や速度を調整することは記載されているものの,ゲートの開き始めから閉じるまでの期間毎のゲートの開度,速度や加速度等の刻々の動作変化をモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定することは記載も示唆もされていない。」(6頁8行〜20行)と判断している。この記載に照らせば,上記審決(甲1)が「加速度」の設定を本件特許発明の本質的要素と解していることは明らかである。
上記審判における「甲第3号証」(特開昭54-31005号公報[発明の名称「ベルレス炉頂装入装置における原料分配制御方法」,出願人石川島播磨重工業株式会社,公開日昭和54年3月7日,甲28])には「…分配シュートの傾斜角と旋回速度の関係,分配シュートの旋回速度と流量調整ゲートの開度の関係を夫々設定器にインプットし演算器でデータストック部のデータに応じ演算し所要のパルス信号をパルス発信器から発振せしめることにより,分配シュートの傾斜角を変えながら分配シュートを旋回して原料を分配する場合に各傾斜角での分配シュートの旋回速度を変えて原料を装入することができ,又流量調整ゲートをその開度を変えて原料の流出量そのものを分配シュートの旋回毎に変えこの1旋回当りの原料装入量を変えることもできる。」(3頁右上欄12行〜左下欄4行)と記載されており,さらに「ディジタル方式の駆動源を用いているので,分配シュートと流量調整ゲートの位置をパルス数により定めることができ,従来必要とした流量調整ゲートの位置を検出するセンサーが不必要になってオープンループにできて装置の簡素化及び信頼性の向上を図り得る。」(3頁右下欄3〜8行)と記載されている。
以上の記載から明らかなように,同号証に開示された発明では,オープンループ制御を前提として,予め分配シュートの傾斜角や旋回速度の時間変化を特定する情報が設定器によりインプットされてデータストック部(データテーブル)に記憶される。すなわち,同号証に開示された計量装置では,ゲートの開き始めから閉じるまでの期間毎のゲートの「開度及び速度」の刻々の変化がモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定されるのである。「動作変化」に「加速度」が必須の要素として含まれると解さない限り,本件訂正を認容した上記審決(甲1)における「甲第2号証及び甲第3号証には,…ゲートの開き始めから閉じるまでの期間毎のゲートの開度,速度や加速度等の刻々の動作変化をモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定することは記載も示唆もされていない。」との判断を合理的に理解することはできない。
カさらに,本件特許明細書(甲2)において「動作変化」との用語に最も類似ないし近似した用語は「動作特性」,「動作サイクル」,「動作」である。本件特許明細書(甲2)の【図面の簡単な説明】において第2図,第3図,第7図は「動作特性図」と呼ばれている。一方,本件特許明細書(甲2)の【発明の詳細な説明】において,第2図は「動作サイクル図」と呼ばれており(2頁右欄9行),第2図には,期間を示す記号として「i」ではなく期間「t」のみが記載されている。また,「第2図のよ…うにt 期間は等速,t 期間は漸次減速,t 期間は停止,t 期間は逆方 1 2 3 4向に漸次増速,t 期間は逆方向に等速,t 期間は逆方向に漸次減速とな 5 6るように動作させる」(甲2の2頁右欄14行〜22行)とあることか …らも,動作を規定する「期間」の概念がテーブルへの動特性データの設定区間である「i」ではなく,上記の種々に異なる動作の変化サイクルの単位である時間の概念を表す区間として明示的に記載された期間「t」であることが自然に読み取れる。
キ 審決の誤り審決は,「…ホッパゲートの『刻々』の動作変化を任意に設定できるのは,区間iを単位とした『所定の期間毎』であることは明らかであり,この点について本件訂正前後を通じて何ら変わるところはない。」(5頁1行〜3行)と認定している。また,審決は,「…ホッパゲートの『動作変化』の内容としては,具体的には『開閉速度』,『開度』及び『加速度』が挙げられるところ,動作変化の内容の一つである『加速度』のみが区間i毎に設定できないことをもって,ホッパゲートの『動作変化』を『開閉速度及び加速度及び開度』であると限定解釈することは妥当でなく,よって,『刻々』を意味する『所定の期間』を『期間t』に限定解釈することは妥当でない。」(6頁1行〜6行)とも認定している。
これらの審決の認定は,「刻々」における「所定の期間」とは,ゲートの「開度のみ」ではない「開閉スピードと,加速度と,開度と」を設定することが可能な「期間」でなければならないという事実を無視している。
すなわち,審決における上記認定は,原告が本件無効審判において指摘し,上記においても再び詳細に検討したところの,「刻々」及び「動作変化」が出願時明細書に含まれていなかったという事実,「刻々」及び「動作変化」に関連する審査段階での出願人の主張を不当に軽視する事実誤認に当たる。
このような過誤が何ゆえにもたらされたかを進んで検討すれば,本件訂正により「モータの動特性データ」及び「テーブル」という用語が特許請求の範囲に追加されたことにその要因があるといえる。すなわち,本件訂正発明においては,「刻々の動作変化」は「モータの動特性データとしてテーブルに」設定されることとされた。「刻々」すなわち「所定の期間毎」の動作変化が「モータの動特性データ」として「テーブル」に設定されるのだとすれば,「所定の期間」とは「モータの動特性データ」が設定される「テーブル」により規定される期間,すなわちテーブルの各行「i」に対応するものという帰結が導かれる。「刻々」の意義は,本件訂正によって初めて明示的に,特許請求の範囲において明確になった。
このような本件訂正発明の特許請求の範囲における表現を前提に,過去を振り返って「刻々」の意味を検討すれば,一見,当初より「所定の期間」とはテーブルの各行によって規定される区間「i」に対応するものであったとの解釈が可能のようにも思われる。審決は,本件訂正後の特許請求の範囲に目をとらわれた結果,「モータの動特性データ」及び「テーブル」が本件訂正によって初めて特許請求の範囲に追加されたという事実を見失っている。このため審決は,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載に基づいて遡及的に本件発明の特許請求の範囲の内容を解釈するという誤ちを犯した。そのような審決の認定手法は,特許請求の範囲を実質上変更し,第三者に不意打ちを与えるという極めて不当な結果を招来する。
出願時から特許査定までの間に,出願人(被告)は合計6個もの特許請求の範囲を提示し,合計4回も意見書等による主張を行っている。このように数多くの機会が与えられていたにもかかわらず,本件発明の重要な要素たる「刻々」の意義について,出願人(被告)は具体的に明確にして来なかった。本件訂正は特許権の期間満了によって権利が消滅した後になって,原告に対して侵害訴訟を提起することを想定し,原告製品をいわば狙い撃ちにすることだけを目的として行われたものである。
出願人(被告)が,出願時又は特許成立時から,「刻々」の「所定の期間」とはテーブルの各行により規定される区間「i」を指すものと意図していたとしても,このような意図は,本件訂正が行われるまで,特許請求の範囲に客観的に明らかにされていなかった。出願後20年,権利成立後9年という極めて長い時間が経過するまで,このような意図を明示しない特許請求の範囲を放置していた出願人(被告)の責任は重い。このような無責任の不始末を,全く関係のない第三者たる原告に事後的かつ一方的に押し付ける訂正を認めることは,著しく正義にもとる。
審決は,訂正前クレームを基準とすることなく,権利消滅後のクレーム訂正に基づいて遡及的に訂正前クレームの意義を解釈し,第三者に不意打ちを与える,という不合理なものである。
ク 結論本件訂正は,「刻々」の意義を,実施例における期間「t」に対応するものから,区間「i」に対応するものへと変更するという点で,実質上特許請求の範囲変更するものである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(5)の各事実は認めるが,(6)は争う。
3被告の反論(1)「刻々」の普通の用語としての意義に「一刻毎,刻一刻」即ち所定の期間毎という意味を含むことは,広辞苑等に記されているとおりである。また,「ゲートの開き始めから閉じるまでの」「動作変化」も,字義通り,モータによって開閉駆動されるゲートの開閉動作の変化を意味することは明りょうである。
本件訂正の前後において,特許請求の範囲における「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」の意義は明りょうであり,かつ,この構成要件には何らの変更も加えられていない。本件訂正は,この動作変化を設定する入力手段を「モータの動特性データとしてテーブルに設定する」手段とすることにより具体的に規定したものであって,特許請求の範囲減縮を目的とする適法な訂正である。
(2)原告は,「刻々」及び「動作変化」という用語が平成8年12月24日付け補正前の特許請求の範囲に使われていないことや,本件特許の出願経過における意見書中の陳述を根拠に,「本件発明の『刻々』における『所定の期間』とは,ゲートの『開度のみ』ではない『開閉スピードと,加速度と,開度と』を設定することが可能な『期間』でなければならない」と主張する。
ゲートの開閉スピード,加速度,開度に係る「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」は,本件訂正前後を通じて「任意に設定する入力手段」によって設定できるのであるから,上記の主張は全く意味をなさない。所定の期間,例えば本件特許明細書第1表(甲2,4欄)の区間「i」毎にゲートの開度や開閉スピード,加速度をモータの動特性データとして設定できることが,明細書に開示されているからである。本件特許明細書第1表(甲2,4欄)の「i=2」では「パルス周期(Ti)」は「1.2msec」,「パルス数(Pi)」は「5」と設定され,次いで,「i=3」では「パルス周期(Ti)」は「2.0msec」,「パルス数(Pi)」は「3」と設定されているとおりである。
(3)原告は,本件発明における「刻々」すなわち「所定の期間」の意義について「テーブルの各行により規定される期間について見ると,本件特許明細書第1表(甲2,4欄)に明らかなように,当該期間のそれぞれにおいてパルス周期は一定であり,モータは等速回転する。したがって,『所定の期間』を?A(各行により規定される区間『i』)のように解釈すれば,『所定の期間』につき『加速度』を設定している,あるいは設定しうる,とはいえなくなってしまう。」とも主張するが,例えば,本件特許明細書第1表(甲2,4欄)の「t 」の区間において,「i=2」から「i=3」におい2て,パルス周期とパルス数の設定値の変化に伴いゲートの開閉の加速度が変化していることは明らかである。
なお,原告の主張は,本件特許明細書第1表という1実施例に基づく主張であるが,本件発明がこの実施例に限定されなければならないとする理由がないことからも,上記主張が意味をなさないことは明らかである。
(4)原告は,本件発明における「刻々の動作変化」の意義を,本件特許の第2図(甲2,5頁)に記載された「期間t ,t ,…t 」に限定解釈すべ12 6きであると論ずる。しかし,この主張は,発明の要旨認定は特段な事情がない限り特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきとする最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決(民集45巻3号123頁)に反する誤った主張である。
上記のとおり,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」の意義は所定の期間毎のゲートの開閉動作の変化の意味であることが一義的に明りょうであって,「発明の詳細な説明」の実施例に記載された「期間t,t ,…t 」を「刻々の動作変化」における「刻々」と解すべき理由は12 6ない。
(5)したがって,本件訂正により本件特許請求の範囲の記載が実質的に変更されたとの原告の主張は理由がない。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(訂正の内容),(4)(無効審判請求の理由),(5)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由について(1) 本件発明における「刻々の動作変化」の意義ア前記第3,1(2)アのとおり,本件訂正前の【特許請求の範囲】第1項は,入力手段について,「前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定する入力手段と,」と規定していたところ,特許請求の範囲には「刻々の動作変化」の意義について,「前記ゲートの開き始めから閉じるまでの」ものであるとの限定が付されていたのみであった。
イ一方,本件訂正前の本件特許明細書(甲2)には,【発明の詳細な説明】として次の記載がある。
(ア) (産業上の利用分野)「本発明は,ホッパゲートの開閉をモータにより自由に制御できるようにした計量装置に関する。」(1欄13行〜14行)(イ) 従来の技術「計量装置には種々のホッパが用いられているが,第9図には組合せ計量装置Aの概略構成が示されている。図において,被計量物品は,分散テーブルa,供給トラフb,プールホッパdを介して計量ホッパeに供給され,ロードセル等の重量検出器により重量が計量される。ハウジングcは,分散テーブルa,供給トラフbを支持している。
計量ホッパで計量された被計量物品は,外側シュートf,または内側シュートgよりタイミングホッパh,jに供給され,下側シュートiまたはkより排出される。
このような計量装置のホッパゲートを開閉するアクチュエータとしては,特開昭59-74092号公報に開示されたエアシリンダによるものや,実開昭58-37520号公報,実開昭58-169532号公報等に開示されたモータによるもの等が知られている。」(2欄1行〜15行)(ウ) 発明が解決しようとする問題点「ところが,これら従来のアクチュエータは,ゲートの開閉を自由に,かつ細かに制御することができないので,種々の問題が生じていた。即ち,(1)ホッパに供給される毎回の供給量が第10図のように僅かな場合は,ゲートを半開にするだけで直ちに排出されるにもかかわらず,従来のアクチュエータでは,ゲートを必ず全開にしなければならなかったので,ゲートの開閉周期の短縮による計量速度の向上は望めなかった。
(2)ゲートの開閉リングの摩耗等によってクリアランスが拡大するとゲート開閉時の騒音が大きくなるが,従来のアクチュエータでは,このクリアランスを補正するような動作特性の変更,例えばゲートが閉じる直前のスピードをより遅くするような変更ができなかった。
(3)エアシリンダを使用するものでは,各ホッパのゲート開閉スピードを個別に変えることは容易であるが,逆に全てのスピードを同じに調節することは難かしいので,計量スピードは,ゲート開閉のスピードが最も遅いものに合さなければならないという難点があった。又,エアシリンダを使用するものでは,特性の経時変化が大きいので,メンテナンスを欠かすことはできず,整備のための時間とコストが多くかかるという問題があった。
そこで,本発明はこのような従来技術の問題点の解消を目的とした計量装置を提供するものである。」(3欄2行〜25行)(エ) 問題点を解決するための手段「本発明の計量装置は,被計量物品を貯蔵し排出するホッパと,該ホッパの排出口に設けられたゲートと,該ゲートを開閉駆動するモータとを備えた計量装置であって,前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定する入力手段と,設定されたゲートの動作変化に基づいて前記モータを制御する制御手段とを設け,被計量物の種類や供給量に応じて前記ゲートの動作を任意に制御できるようにしたことを特徴とするものである。」(3欄27行〜35行)(オ) 作用「本発明の計量装置は,ホッパゲートを開閉駆動するモータの動特性データを,被計量物品の種類や供給量に応じて予めテーブルに,パルス周期,パルス数,回転方向等に関して設定しておき,該テーブルの情報に応じてホッパゲートを開閉制御するので,ゲート開度を被計量物の供給量に応じて任意に調製でき,計量スピードも任意に変えることができる。また,前記モータの動特性データを外部記憶装置に複数記憶し,必要に応じて切り替えられるので,複数の被計量物のデータを記憶しておき被計量物が変わったときに迅速にデータの変更ができる。」(3欄37行〜46行)(カ) 実施例a「以下,図により本発明の実施例について説明する。第1図は,本発明の概略構成を示すブロック図である。
図において,1はコンピュータでタイマ2と接続され,また,入力装置や表示装置を含むコントロールパネル3と通信ラインで接続される。コンピュータの出力指令は,ドライバ4を介してステップモータ5に送出され,ステップモータは図示しないリンク機構を介してホッパのゲートと連結されてホッパ6のゲートを開閉制御する。コンピュータとコントロールパネルを接続する通信ラインには,他のメモリから後述するテーブルデータをロードする。」(3欄48行〜4欄8行)b「第2図は,ステップモータの動作サイクル図であり,例えば,ステップモータを100パルスドライブするとホッパゲートが半開となり,200パルスドライブしたときにホッパゲートが全開となるように設定されているとする。
このようなステップモータを例えば,第2図のように,t 期間は等速1t 期間は漸次減速2t 期間は停止3t 期間は逆方向に漸次増速4t 期間は逆方向に等速5t 期間は逆方向に漸次減速6となるように動作させる場合,第2図に対応させた第3図から第1表のテーブルを作ることができる。但し,このテーブルは,ホッパゲートの半開を基準に作成している。
」(4欄9行〜5欄10行)c「ここで,第1表のようなテーブルを基に,各パラメータ(Ti,Pi,Fi)の定数を,入力装置を用いて,予めコンピュータに登録しておき,ホッパゲートの開度設定に際しては,例えば,第4図(a)に示すようなメッセージを表示装置に表示させて,開度,周期を指定する。そして,例えば開度が100%,周期も100%に指定された時は,パルス周期(Ti)の各定数をそれぞれ1/2に,パルス数(Pi)の各定数をそれぞれ2倍にした新たなテーブルをコンピュータ内部で作成して記憶する。これにより,変更後のテーブル情報は,第2図の点線で示す全開の動作曲線に対応したものとなる。同様に,開度が75%であれば,Tiの各定数は3/4に,Piの各定数は4/3倍にそれぞれ変更され,又,周期が200%に指定された時は,パルス周期(Ti)の各定数はそれぞれ2倍に変更される。
但し,以上の例は,半開の場合を基準にしたものであって,全開のテーブル情報を予めコンピュータに登録した場合は,開度指定に伴う各パラメータ(Ti,Pi)の倍率は異なって来る。即ち,開度100%と指定された時は,各パラメータの定数はそのままで良いが,開度が50%に指定された時は,パルス周期(Ti)の各定数は2倍に,パルス数(Pi)の各定数は,それぞれ1/2に変更される。
こうして,ステップすなわち,ゲートの開閉スピード,加速度,開度を計量物品の種類や貯蔵量に応じたそれぞれのモータの動作特性値が作成され記憶されると,コンピュータは,この情報に基づいてステップモータを駆動する。」(5欄12行〜39行)d「以上の説明のように,本発明によれば,(1)ステップモータは,ドライバ用のテーブルを作ることによって任意に制御できるので,ホッパゲートをできるだけ速く開放させて,排出スピードを速めたり,或は,ゲートの急激な開閉運動による衝撃音を和らげるために,運動の始めと終わりを指数関数的に立ち上げ,或は収束させるようにして,騒音を押えることができる。
(2)又,粘着性のある被計量物を計量する場合は,ホッパ内面やゲートへの被計量物の付着が問題となるがこのような場合は第7図のようにゲートが開ききった時に,ステップモータを微小期間,微小ステップ幅だけ正転,逆転させてゲートに微振動を与え,これによって,被計量物の付着を防止することもできる。
(3)ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる。
例えば,第4図(b)に示すようなメッセージを表示させて,ホッパ毎に個別に指定しても良い。このように個別に指定できるようにすると,例えば,特開昭58-223718号公報に開示されているような,所謂親子計量において有効となる。即ち,親機と子機とでは,それぞれ動作スピードが異なるし,又,ホッパへの供給量も異なるので,それぞれに適したスピードとゲート開度を指定することによって最適制御を行わせることができる。」(6欄14行〜37行)(キ) 発明の効果「以上説明したように,本発明によれば次のような効果が得られる。
(1)ホッパの供給量に応じてゲート開度を任意に調整することができるので,供給量に応じて計量スピードを変えることができる。
(2)ゲート開閉の動作特性を入力装置で簡単に変えることができるので,設計の自由度が増し,あらゆる被計量物の性状に応じたゲート開閉制御を行なうことができる。特に粘着性のある被計量物に対しては,ゲートを開放した姿勢でゲートに微振動を与えることができるので,付着による計量誤差をなくすことができる。
(3)各ホッパ毎に任意に開閉スピードを変えることができるので,親子計量のような特殊な計量方式のものにも使用でき,又,各ホッパの開閉スピードを異ならせることにより特開昭58-41324号公報のような時間差排出を行なわせることもできる。さらには,上部分散供給部をパーティションで複数に分割して,各々に種類の異なる被計量物を供給して所謂ミックス計量(特開昭58-19516号公報)する場合にも有効となる。
(4)ゲートをどのように開閉させるかは,データとして登録しておくことができるので,実開昭59-27425号公報に示すように,被計量物の性状に応じた最適なゲート開閉データを被計量物毎にメモリに登録しておき,被計量物を指定すれば,登録された所定のデータが呼び出されて最適なゲートの開閉を行なわせることができる。又,目標重量値の大小に応じても同様にできる。
(5)ゲート開閉リンクの摩耗によってゲート開閉時の騒音が大きくなっても,ゲート開閉特性をデータの変更によって調整することにより簡単に騒音を押さえることができる。」(7欄26行〜8欄22行)ウ本件訂正前の本件特許明細書(甲2)には,【図面の簡単な説明】として,「第2図…はホッパゲートの動作特性図,」との記載がある。
エ本件特許の図面(甲2)として,下記の【第2図】が記載されている。
オ上記イ〜エの本件訂正前の特許明細書及び図面の記載によれば,本件特許明細書には,実施例として,所定の期間(上記イ(カ)bの第1表記載の「i」)毎にパルス周期とパルス数と回転方向を変化させることによってステップモータを,t 期間は等速,t 期間は漸次減速,t 期間は停1 2 3止,t 期間は逆方向に漸次増速,t 期間は逆方向に等速,t 期間は逆4 5 6方向に漸次減速,となるように動作させることが記載されている。ここでいう「i」毎の変化は,日本語の通常の意味として「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」に当たるということができるものであり,本件発明の実施例として記載されていることに照らしても,「i」毎の変化は,本件発明における「刻々の動作変化」に当たると解することができる。
カ本件特許の出願経過における特許請求の範囲の変遷は,原告が前記第3,1(6)ウで主張するとおりであることが認められる(甲3,5〜8,11〜16,18〜20)。
ところで,「刻々の動作変化」という文言は,平成8年12月24日付けの補正(甲19)において初めて特許請求の範囲で用いられたものであるが,上記イ(カ)bの第1表及びそれに関する説明は,出願当初の本件特許明細書(甲3)から記載されていたのであり,本件特許明細書に,上記イ(カ)bの第1表記載の「i」毎の変化が本件発明における「刻々の動作変化」に当たると解することを妨げる記載があったとも認められない。したがって,「i」毎の変化は本件発明における「刻々の動作変化」に当たると解することが,本件特許の出願経過(特許請求の範囲及び特許明細書の記載の変遷)に照らして許されないというべき理由はない。
被告は,本件拒絶査定に対する不服審判請求における平成7年5月15日付け審判請求理由補充書(甲13)において,「…本願発明は,…ゲートの駆動手段として設定プログラムに従って回転制御されるモータを使用し,該モータのプログラムを変更することによって,前記ゲートの開閉スピードと,加速度と,開度とを被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できるようにするというものである。…引例には本願発明のような,被計量物品の種類や貯蔵量に応じてゲートの開度とを任意に調整できるようにするという技術的思想はなにも記載されていない。…『実願昭57-123283号…』…には,…本願発明の技術的思想の本質的事項である,ゲートの駆動手段として設定プログラムに従って回転制御されるモータを使用し,該モータのプログラムを変更することによって,前記ゲートの開閉スピードと,加速度と,開度とを被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できるようにするということが何等記載されていない。」(4頁9行〜5頁1行)と主張し,平成7年5月15日付け補正後の発明の特徴として,上記のとおり「ゲートの開閉スピードと,加速度と,開度とを被計量物品の種類や貯蔵量に応じて任意に調整できること」を主張した。そして,被告は,本件拒絶査定に対する不服審判請求における平成8年12月24日付け意見書(甲20)において,「本願発明は,入力手段によって,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化(開閉速度,加速度,開度)を任意に設定できるようにしているのに対し,引例のものは,キースイッチにより設定された流量,切換重量に基づいて物品の供給量(ゲートの開度のみ)を制御するだけである点で相違する。」(3頁4行〜7行)と主張し,本件発明の特徴として,上記のとおり「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化(開閉速度,加速度,開度)を任意に設定できること」を主張した。上記イ(カ)bの第1表記載の「i」においては,パルス周期とパルス数と回転方向を任意に設定することができるので,「開閉速度」と「開度」を任意に設定することができるというべきである。また,「i」の中でパルス周期とパルス数は一定であるから,その中で加速度が変化するということはないが,パルス周期とパルス数を「i」毎に設定することができるようにした結果,加速度を任意に変化させることができる。このように訂正前の本件発明においては,「前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定する入力手段」を設けたことによって,開閉速度,加速度,開度を任意に設定できるのであり,上記意見書の記載は,その旨を述べたものと解することができる。原告が主張するように,所定期間内に加速度が変化するもののみが「刻々の動作変化」に当たるとは解されない。そうすると,「i」毎の変化は,本件発明における「刻々の動作変化」に当たると解することが,本件特許の出願経過(被告の主張)に照らして許されないというべき理由はない。
キ原告は,?@本件訂正を認めた審決(甲1)が「加速度」の設定を本件特許発明の本質的要素と解していることは明らかである,?A本件訂正を認めた上記審判における「甲第3号証」(特開昭54-31005号公報[発明の名称「ベルレス炉頂装入装置における原料分配制御方法」,出願人石川島播磨重工業株式会社,公開日昭和54年3月7日,甲28])に開示された計量装置では,ゲートの開き始めから閉じるまでの期間毎のゲートの「開度及び速度」の刻々の変化がモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定されるから,「動作変化」に「加速度」が必須の要素として含まれると解さない限り,本件訂正を認めた審決(甲1)における「甲第2号証及び甲第3号証には,…ゲートの開き始めから閉じるまでの期間毎のゲートの開度,速度や加速度等の刻々の動作変化をモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定することは記載も示唆もされていない。」との判断(6頁17行〜20行)を合理的に理解することはできない,と主張し,これらの主張に基づいて,本件発明において「刻々」すなわち「所定の期間」とは実施例の期間「t」に対応すると解すべきであると主張するので,以下判断する。
(ア) 上記「甲第3号証」(甲28)には,次の記載がある。
a「1)ベルレス炉頂装入装置において,原料条件,分配パターン,原料流出量特性を基に演算器で最適な流量調整ゲートの開度と分配シュートの旋回速度を演算し,この演算に基づきパルス発振器から所要のパルス信号を発振せしめ,流量調整ゲート開閉機構に連結されたディジタルアクチュエータと,分配シュートの旋回機構に連結されたステッピングモータとに上記パルス信号を送り原料分配制御を行うことを特徴とする原料分配制御方法。」(1頁左欄「特許請求の範囲」)b「ホッパー(6)の原料排出口部に開閉可能に配設された流量調整ゲート(5)の開閉機構(8)にディジタルアクチュエータ(9)を連結し,このアクチュエータ(9)に作動及び停止等のパルス信号を発振するパルス発振器(10)を,開度及び旋回指令信号に応じてパルス発振数とパルス発振周波数とを演算する演算器(11)に接続すると共に,分配シュート(3)の駆動装置(4)の旋回機構(4A)にステッピングモータ(12)を連結し,このモータ(12)に作動及び停止等のパルス信号を発振するパルス発振器(13)を上記演算器(11)に接続し,且つ原料分配指令をセットする設定器(14)と諸データを貯えるデータストック部(15)とを上記演算器(11)に夫々接続する。上記ステッピングモータ(12)は,パルス発振周波数に比例した速度でパルス数に応じた回転角を出力する,所謂ディジタル作動型モータであり,この回転数がパルス数により定まり又回転速度がパルス発振周波数により定まるものである。又ディジタルアクチュエータ(9)は上記ステッピングモータ(12)と作動原理が同じであり,パルス数により流量調整ゲート(5)の開度を定め又パルス発振周波数により開或いは閉の所要速度を定めるようにしたものである。」(2頁左下欄2行〜右下欄5行)c「…分配シュートの傾斜角と旋回速度の関係,分配シュートの旋回速度と流量調整ゲートの開度の関係を夫々設定器にインプットし演算器でデータストック部のデータに応じ演算し所要のパルス信号をパルス発信器から発振せしめることにより,分配シュートの傾斜角を変えながら分配シュートを旋回して原料を分配する場合に各傾斜角での分配シュートの旋回速度を変えて原料を装入することができ,又流量調整ゲートをその開度を変えて原料の流出量そのものを分配シュートの旋回毎に変えこの1旋回当りの原料装入量を変えることもできる。」(3頁右上欄12行〜左下欄4行)d「ディジタル方式の駆動源を用いているので,分配シュートと流量調整ゲートの位置をパルス数により定めることができ,従来必要とした流量調整ゲートの位置を検出するセンサーが不必要になってオープンループにできて装置の簡素化及び信頼性の向上を図り得る。」(3頁右下欄3〜8行)(イ)したがって,上記「甲第3号証」(甲28)には,分配シュートの旋回速度,流量調整ゲートの開度や速度を設定するためにパルスモータ(パルス数やパルス発振周波数)を用いること,各傾斜角毎に分配シュートの旋回速度を変えたり,流量調整ゲートの開度を分配シュートの旋回毎に変えたりすることが記載されているものの,本件訂正発明のように「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」を行わせること,すなわち,ゲートの開き始めから閉じるまでの間を,パルス周期(Ti)とパルス数(Pi)により設定される期間(上記イ(カ)bの第1表記載の「区間i」)毎に,パルス周期(Ti),パルス数(Pi)及び回転方向(Fi)等を設定することでモータの動作を変化させるといったことは記載されていないのであり,本件訂正発明の特許請求の範囲に記載された「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記モータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段」について,記載(教示)も示唆もない。
(ウ)本件訂正を認容した審決(甲1)が,上記「甲第3号証」(甲28)との関係で,本件訂正発明について,「前者の『ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を・・・任意に設定する』の意義は,願書に添付された明細書及び図面中のゲートの開き始めから閉じるまでのホッパゲートの動作変化を例示する図面の【第2図】,【第3図】及びそれに対応して作成されたモータの刻々の動作特性値を表す第1表のテーブル等を参酌すると,ゲートをできるだけ速く開放させて,排出スピードを速めたり,或は,ゲートの急激な開閉運動による衝撃音を和らげるために,運動の始めと終わりを指数関数的に立ち上げ,或は,収束させることを目的に,ゲートの開き始めから閉じるまでの期間毎のゲートの開度,速度や加速度等の刻々の動作変化を任意に設定することと解され,その設定された目標値であるゲートの開度,速度や加速度等を,『モータの動特性データ』,すなわち,モータのパルス周期,パルス数,回転方向等として,ゲートの動作期間毎に『テーブル』に任意に設定することによって実現することと解される。そうすると,甲第2号証及び甲第3号証には,ゲートの開度を設定するためにパルスモータを用いることや,パルス数やパルス発信周波数等によってゲートの開度や速度を調整することは記載されているものの,ゲートの開き始めから閉じるまでの期間毎のゲートの開度,速度や加速度等の刻々の動作変化をモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定することは記載も示唆もされていない。」(6頁8行〜20行)と判断していることは,上記(イ)で述べたように理解することができる。
本件訂正発明は,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記モータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段」を有する点において,上記「甲第3号証」(甲28)記載の発明とは異なるのであって,「加速度」の点のみが異なるということはできず,本件訂正を認めた審決(甲1)が「加速度」の設定のみを本件特許発明の本質的要素と解しているものでないことも明らかである。
(エ)以上のとおり,原告の上記主張は,前提を欠き,採用することができない。
クまた原告は,?@本件特許明細書(甲2)において「動作変化」との用語に最も類似ないし近似した用語は「動作特性」,「動作サイクル」,「動作」であるところ,本件特許明細書(甲2)の【図面の簡単な説明】において,第2図,第3図,第7図は「動作特性図」と,【発明の詳細な説明】において,第2図は「動作サイクル図」と呼ばれている(2頁右欄9行),?A第2図には,期間を示す記号として「i」ではなく期間「t」のみが記載されており,本件特許明細書(甲2)に,「第2図のようにt…期間は等速,t 期間は漸次減速,t 期間は停止,t 期間は逆方向に漸1 2 3 4次増速,t 期間は逆方向に等速,t 期間は逆方向に漸次減速となるよう5 6に動作させる」(2頁右欄14行〜22行)と記載されている,?Bした…がって,動作を規定する「期間」の概念が,時間の概念を表す区間として明示的に記載された期間「t」であることが自然に読み取れる,と主張する。
しかし,本件訂正前の本件特許明細書(甲2)において,第2図,第3図,第7図について「動作変化」に類似ないし近似した用語が用いられているからといって,それらの図のみを参酌して,「動作変化」を解釈しなければならないとはいえないことは明らかであり,既に述べたとおり,本件訂正前の本件特許明細書及び図面の記載によれば,上記イ(カ)bの第1表記載の「i」毎の変化は,本件発明における「刻々の動作変化」に当たると解することができるものである。
(2) 本件訂正の適法性ア本件訂正は,前記第3,1(3)のとおり,「前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定する入力手段と,」を,「前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記モータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段と,」とする訂正を含むものである。
そして,この訂正の結果,本件訂正後の本件訂正発明においては,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定するものとなったが,前記(1)イ(カ)bの第1表記載の「i」毎のデータが,テーブルに任意に設定されるモータの動特性データであることは明らかである。
したがって,本件訂正の前後で「刻々の動作変化」の意義が変化したということはなく,本件訂正が本件特許請求の範囲の記載を実質的に変更させるものということはできないから,その旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。
なお原告は,本件訂正は実質上特許請求の範囲変更するとして,本件訴訟とは異なる理由に基づき先に特許庁に対し被告を被請求人として特許無効審判請求(無効2007-800148号)をしたが,特許庁は,平成20年4月1日同請求は理由がないとして請求不成立の審決(乙1)をし,これを不服とした審決取消訴訟(当庁平成20年(行ケ)第10170号)においても平成20年10月27日請求棄却の判決(乙2)がなされ,確定している。
イまた,原告は,審決は,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載に基づいて,遡及的に本件発明の特許請求の範囲の内容を解釈するという誤ちを犯していると主張するが,前記(1)のとおり,本件訂正前から,前記(1)イ(カ)bの第1表記載の「i」毎の変化は,本件発明における「刻々の動作変化」に当たると解することができるのであって,審決が,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載に基づいて,遡及的に本件発明の特許請求の範囲の内容を解釈するという誤ちを犯しているということはできない。
3結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海