関連審決 | 不服2008-1551 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10096審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10261審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10121審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10153審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10300審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 周知技術 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10305号
審決取消請求事件
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原告四 国化工機株式会社 訴訟代理人弁理 士廣田雅紀 同 小澤誠次 同 東海裕作 同 堀内真 被告特許庁長官 指定代理人栗林敏彦 同 熊倉強 同 森川元嗣 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/03/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が不服2008−1551号事件について平成20年7月2日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,特許庁に対し,平成10年8月10日,発明の名称を「ヒートシール装置」とする発明について,特許出願(特願平10-22547号)をしたが,平成19年12月20日に拒絶査定を受け,平成20年1月18日,不服の審判(不服2008-1551号事件)を請求した。 特許庁は,平成20年7月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月14日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲等本願の願書に添付した明細書(以下,図面と併せて「本願明細書」という。)の特許請求の範囲(請求項の数8)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。甲4。別紙「本願明細書【図7】」参照)。 「【請求項1】合成樹脂層を含む積層体からなる包材をチューブ状とし,該チューブ状の包材を,加熱機構を有する開閉自在な一対の加圧部材を用いて,液面下で横断状にヒートシールするシール装置において,加圧部材の少なくとも一方の作用面に,シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得る溝が設けられていることを特徴とするヒートシール装置。」3 審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平8-230834号公報(以下「引用例」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。別紙引用例【図1】(b),【図5】及び【図11】参照)並びに実開昭55-104613号公報(以下「周知例1」という。甲2。別紙周知例1第4図参照)及び実開昭54-88073号公報(以下「周知例2」という。甲3。別紙周知例2第3図及び第4図参照)に記載された周知技術(以下,周知例1に記載された技術内容を「周知技術1」といい,周知例2に記載された技術内容を「周知技術2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,というものである。 上記判断に際して,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (1) 引用発明の内容(別紙「引用例【図11】」参照)「ポリエチレン樹脂層56を含む積層体からなる包材10をチューブ状の包材11とし,該チューブ状の包材を,インダクタ31を有するシールブロック19及びドーリー93を用いて,液面下で横断状にヒートシールするシール装置において,シールブロックの作用面に,シール部分Sの凸部71より外側の端部に合成樹脂溜まりを形成し得る溝75が設けられているヒートシール装置。」(審決書4頁22行〜27行)。 (2) 一致点及び相違点[一致点]「合成樹脂層を含む積層体からなる包材をチューブ状とし,該チューブ状の包材を,加熱機構を有する開閉自在な一対の加圧部材を用いて,液面下で横断状にヒートシールするシール装置において,加圧部材の少なくとも一方の作用面に,シール帯域の容器内面側に合成樹脂溜まりを形成し得る溝が設けられていることを特徴とするヒートシール装置。」である点(審決書4頁末行〜5頁4行)。 [相違点]「本願発明は,合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の外側に隣接して設けられているのに対し,引用発明ではシール帯域の端部に設けられている点。」(審決書5頁7行〜9行)。 |
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当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,(1)一致点の認定の誤り・相違点の看過(取消事由1),(2)容易想到性判断の誤り(取消事由2)がある。 (1) 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)審決の一致点に関する認定には,次のとおりの誤りがある。 ア「溝」の設置目的及び機能の相違点の看過引用発明は,従来の合成樹脂層を含む積層体からなるチューブ状の包材を,横断状にヒートシールするシール装置においては,包材が接合される際に,互いに対向するポリエチレン樹脂が溶融させられ,溶融したポリエチレン樹脂が,シール部分(S)の範囲を超えて,過度に流れ出てしまうために,シール部分(S)において熱融着に寄与するポリエチレンの量が少なくなり,適切な接合強度が得られず,液体食品の漏れが発生するという問題があることから(甲1の段落【0011】,【0012】),該問題を解決するために,シール装置のシール部のインダクタ(シール帯域)に形成された凸部の両側に「溝」を設けて,溶融したポリエチレン樹脂の滞留部を形成し,該ポリエチレン樹脂の滞留部によって,ポリエチレン樹脂がシール帯域(シール部分(S))の範囲を超えて過度に流出するのを防止し,シール帯域内に熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより,接合強度が小さくなるのを防止して,接合強度を維持するようにしたものである(甲1の段落【請求項1】,【0038】,【0043】,【0044】)。 これに対し,本願発明は,従前,合成樹脂層を含む積層体からなるチューブ状の包材を,液面下で横断状にヒートシールするシール装置においては,シール帯域内の液体を溶融樹脂とともにシール帯域外へ流出させることにより,チューブ内面の凹凸に入った液体や汚れをシール帯域から完全に排除し,優れたシール性を得ることができるが,シール部の容器内側に流出した溶融樹脂が均一にはみ出さないことがあり,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビードを形成し,シール工程以後の工程において,容器に圧力がかかった場合に,ビードの波の頂部から亀裂が発生し,液漏れが生じるという問題があったことから(甲4の段落【0008】),その課題を解決するために,シール帯域の容器内面側外側,すなわち,シール帯域の外側に隣接して,合成樹脂溜まりを形成し得る溝を設け,その溝に溶融樹脂を流出させることにより,シール帯域内の液体や食物繊維等の夾雑物を溶融樹脂とともにシール帯域外へ流出させ,シール帯域の全域にわたり優れたシール性を得るとともに,該合成樹脂溜まりを形成し得る溝により,溝内に流入した溶融樹脂が,凹凸のない,均一な幅の樹脂溜まりを形成するようにし,ヒビ割れのない溶融樹脂ビードを形成することにより,該問題を解決したものである(甲4の段落【0009】〜【0012】,【0022】〜【0023】,【0030】,別紙「本願明細書【図7】」参照)。すなわち,本願発明においては,合成樹脂溜まりを形成し得る「溝」を,熱と圧力が負荷される部位であるシール帯域の外側に隣接して設けたことによって,ヒートシール装置の加熱部材と加圧部材によりシール帯域内の包材の合成樹脂層に熱と圧力を負荷してヒートシールを行っている状態にあっても,加熱されていないシール帯域の外側の合成樹脂溜まりに流入した溶融樹脂は,瞬時に冷却されて,凹凸のない,均一な幅の樹脂溜まりを確実に形成することが可能となるものであり,優れたヒートシールとヒートシール装置の高速の運転に対する対応を可能としたものである。 以上のとおり,本願発明と引用発明とは,「溝」の設置目的及び機能において相違する。このような相違があるにもかかわらず,審決は,引用発明の「溝75」が本願発明の「溝」に相当すると認定した点において,誤りがある。 イ 「溝」の設置場所の相違点の看過引用発明では,シール装置のシール部のインダクタ(シール帯域)に形成された凸部の両側に「溝」を設けて,溶融したポリエチレン樹脂の滞留部を形成しているものであるから,引用発明において,「溝」は,「シール部分Sの凸部71より外側」,すなわち「シール部分S内の凸部71より容器内面側」に設けられている。 これに対し,本願発明では,「溝」は,「シール帯域の容器内面側外側」に設けられる点で相違する。 審決は,「溝」の設置場所に係る相違点を看過し,引用発明の「シール部分Sの凸部71より外側」は本願発明の「シール帯域の容器内面側」に相当すると認定した点において,誤りがある。 (2) 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)ア容易想到性の前提とした引用発明の内容の認定の誤り審決は,引用発明からの本願発明の容易想到性の判断において,「引用発明においては,溶融された合成樹脂層がシール帯域の範囲を超えて流れ出ようとするが,シール帯域の端部に溝を設けているため,溝の存在によって滞留部が形成されて合成樹脂の流れは阻止され,シール帯域から流れ出ない。しかし,この場合も本願発明と同様に,シール帯域の溶融された合成樹脂層は表面に付着していた夾雑物と共に溝に向かって押し流され,シール帯域の端部に合成樹脂溜まりが形成され,その結果,シール帯域のうちの合成樹脂溜まりを除いた大半の部分には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成されるものと認められる。また,溝に流入した合成樹脂は均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなるため,亀裂が生じることはないものと認める。したがって,前記相違点に係わる構成によって格別な効果上の差異が生じるものとは認められない。」と判断した。 しかし,審決の引用発明の認定には,以下のとおりの誤りがある。 (ア)審決は,引用発明は,「溶融された合成樹脂層がシール帯域の範囲を超えて流れ出ようとするが,シール帯域の端部に溝を設けているため,溝の存在によって滞留部が形成されて合成樹脂の流れは阻止され,シール帯域から流れ出ない。」と認定した。 しかし,引用発明においては,「溝」は,「インダクタ(シール帯域)に形成された凸部の両側のインダクタ(シール帯域)内に設けられているもので,「シール帯域の端部」に設けることを構成としているものではなく,また,「シール帯域の端部」といってもインダクタ(シール帯域)内であるからヒートシール時には加熱されて,冷却されるものでもない。引用発明においては,「溝」によって,「溶融したポリエチレン樹脂(合成樹脂)がシール部分(S)の範囲を超えて過度に流れ出すのを防止することを開示しているにとどまる。 したがって,引用発明についての審決の上記認定には,誤りがある。 (イ)審決は,引用発明において,溝の存在によって滞留部が形成されて合成樹脂の流れは阻止され,シール帯域から流れ出ないことに関連して,「この場合も本願発明と同様に,シール帯域の溶融された合成樹脂層は表面に付着していた夾雑物と共に溝に向かって押し流され,シール帯域の端部に合成樹脂溜まりが形成され,その結果,シール帯域のうちの合成樹脂溜まりを除いた大半の部分には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成されるものと認められる。」と認定した。 しかし,引用発明においては,シール帯域に「溝」を設けて,溶融したポリエチレン樹脂の滞留部を形成し,該ポリエチレン樹脂の滞留部によって,シール帯域内に熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより,接合強度を維持するようにしたものである。 したがって,引用発明についての審決の上記認定には,誤りがある。 (ウ)審決は,引用発明について,「溝に流入した合成樹脂は均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなるため,亀裂が生じることはない」と認定した。 しかし,引用発明において「溝」は,「インダクタ(シール帯域)に形成された凸部の両側のインダクタ内に設けられているもので,「シール帯域の端部」に設けることを要件としているものではなく,また,「シール帯域の端部」であっても,インダクタ(シール帯域)内であるからヒートシール時には加熱されており,冷却されるものでもないから,引用発明においては,「溝」によって,溶融したポリエチレン樹脂(合成樹脂)がシール部分(S)の範囲を超えて過度に流れ出すのを防止することを開示しているにとどまるものであり,本願発明のように,「溝に流入した合成樹脂は均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなる」ものではない。引用発明は,本願発明のような「溝」の構造を持たないから,審決が認定するように「溝に流入した合成樹脂は均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなる」ものではない。 したがって,引用発明についての審決の上記認定には,誤りがある。 イ 引用発明に周知例を適用することの困難性について審決は,引用発明から本願発明の構成に到達するか否かの判断において,「引用発明のシール帯域の端部の溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部は夾雑物を含むため密封性にはそれほど寄与しないものと認められ,例えば実願昭54-1227号(実開昭55-104613号[判決注・甲2])マイクロフィルムの第4〜6頁または実願昭52-160306号(実開昭54-88073号[判決注・甲3])マイクロフィルムの第3〜4頁にも記載されたように,合成樹脂の流れ込む溝を十分深く設けることで,溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とすることは周知の事項であるので,引用発明において密封性にはそれほど寄与しない合成樹脂溜まり部を,シール帯域の外側に隣接し,シール帯域としては機能しない部分として配置することも当業者が容易になし得たものと認める。また,これによって,シール帯域では夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成され,シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。」と判断した。 しかし,審決の上記判断には,以下のとおりの誤りがある。 (ア)まず,審決は,「引用発明のシール帯域の端部の溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部は夾雑物を含むため密封性にはそれほど寄与しないものと認められ,(例示した,実願昭のマイクロフィルムにも記載されたように),合成樹脂の流れ込む溝を十分深く設けることで,溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とすることは周知の事項であるので,引用発明において密封性にはそれほど寄与しない合成樹脂溜まり部を,シール帯域の外側に隣接し,シール帯域としては機能しない部分として配置することも当業者が容易になし得た」と判断した。 しかし,引用発明においては,シール帯域内に合成樹脂溜まり部を設けて,熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより,接合強度を維持するようにしたものであり,引用発明は,このような技術事項を発明の構成及び効果とするものであるから,引用発明において密封性にはそれほど寄与しない合成樹脂溜まり部を,シール帯域の外側に隣接し,シール帯域としては機能しない部分として配置することも当業者が容易になし得たと判断することはできない。 上記のとおり,審決の判断には誤りがある。 (イ)次に,審決は,「これによって,シール帯域では夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成され,シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなることは当業者が容易に想到し得たものと認められる」と判断した。 しかし,本願発明においては,「合成樹脂溜まりを形成し得る溝を加熱部位であるシール帯域の外側に隣接して設けたことによって,ヒートシール装置の加圧部材により,包材の合成樹脂層に熱と圧力を負荷して,ヒートシールを行っている状態でも,合成樹脂溜まりに流入した溶融樹脂は,瞬時に冷却されて,凹凸のない,均一な幅の樹脂溜まりを確実に形成することを可能としたもの」であるのに対して,引用発明は,このような「溝」の構造を持たないものであるから,溝に流入した合成樹脂が均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなるものではなく,また,「シール帯域では夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成されること」及び「シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなること」については記載も示唆もない点で,相違する。 したがって,引用発明から,「シール帯域では夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成され,シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなることは当業者が容易に想到し得た」とした審決の判断には誤りがある。 2 被告の反論(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)に対しア 「溝」の設置目的及び機能の相違点の看過に対し本願発明の「シール帯域の容器内面側」も,引用発明の「シール部分Sの凸部71より外側」も,いずれもシール帯域に対して充填物の側(方向)を指すから,審決の一致点の認定に誤りはない。 イ 「溝」の設置場所の相違点の看過に対し審決は,「溝が設けられているヒートシール装置の場所」について相違点として認定した上で,溝の「構造及び奏する機能」については,本願発明と引用発明の効果等について検討をしているから,原告の主張する相違点の看過はない。 (2) 取消事由2(容易想到性判断の誤り)に対し以下のとおり,本願発明の構成について,引用発明により容易に想到することができたとした審決の判断に誤りはない。 ア容易想到性の前提とした引用発明の内容の認定の誤りに対し(ア)原告は,引用発明は,「シール帯域の端部に溝を設けているため,溝の存在によって滞留部が形成されて合成樹脂の流れは阻止され,シール帯域から流れ出ない。」ことを内容とするものではないと主張する。 しかし,原告の上記主張は理由がない。 引用例には「・・・溶融させられた該ポリエチレン樹脂56が凸部71によって押され,シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとするが,第1溝73及び第2溝75内に紙基材54及びアルミニウムホイル55が膨出することによって両包材11の対向面に滞留部が形成され,該滞留部にポリエチレン樹脂56が滞留する。したがって,ポリエチレン樹脂56の流れは阻止され,シール部分Sの範囲から流れ出ない。」(甲1の段落【0043】)と記載されている。したがって,引用発明は,「シール帯域の端部に溝を設けているため,溝の存在によって滞留部が形成されて合成樹脂の流れは阻止され,シール帯域から流れ出ない。」ことを内容とするものであり,審決の引用発明に関するこの点の認定に誤りはない。 (イ)原告は,引用発明は,「シール帯域の溶融された合成樹脂層は表面に付着していた夾雑物と共に溝に向かって押し流され,シール帯域の端部に合成樹脂溜まりが形成され,その結果,シール帯域のうちの合成樹脂溜まりを除いた大半の部分には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成される」ことを内容とするものではないと主張する。 しかし,原告の上記主張は理由がない。 引用例の段落【0043】には,「・・・溶融させられた該ポリエチレン樹脂56が凸部71によって押され,シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとするが,第1溝73及び第2溝75内に紙基材54及びアルミニウムホイル55が膨出することによって両包材11の対向面に滞留部が形成され,該滞留部にポリエチレン樹脂56が滞留する。したがって,ポリエチレン樹脂56の流れは阻止され,シール部分Sの範囲から流れ出ない。」との記載されている。同記載によれば,引用発明は,シール帯域に,加圧力の大きい領域(突部71によって加圧される部分及び突部71に隣接した平坦部分)とそれに隣接した加圧力の小さい領域(溝75に対応した部分)を設けたものである。 そして,周知例1(甲2),特開平8-244728号公報(乙1)の記載によれば,シール帯域に隣接して加圧力の小さいシールされない領域を設けることにより,若しくはシール帯域に加圧力の大きい領域とそれに隣接した加圧力の小さい領域を設けることにより,加圧力の大きい領域から加圧力の小さい領域に夾雑物が移動し,加圧力の大きい領域シール帯域では,夾雑物のないシールが得られることは明らかであるといえる。 そうすると,引用発明のヒートシール時には,加圧力の大きい領域(突部71によって加圧される部分及び突部71に隣接した平坦部分)から,それに隣接した加圧力の小さい領域(溝75に対応した部分)へ夾雑物が移動し,加圧力の大きい領域では夾雑物のないシールが得られることは明らかである。 審決の引用発明に関するこの点の認定に誤りはない。 (ウ)原告は,引用発明は,「溝に流入した合成樹脂は均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなるため,亀裂が生じない」ものではないと主張する。 しかし,原告の上記主張は理由がない。 引用例には,以下の記載がある。すなわち,「・・・また,前記シール部分Sから流れ出たポリエチレン樹脂56が固化して包装容器の内側に固着し,これが原因になって充填及びシールより後段の成形工程において,ヒビ割れを発生させることがある。」【0012】),「・・・本発明は,前記従来のシール装置の問題点を解決・・・することができるシール装置を提供することを目的とする。」(【0013】),「・・・包材の互いに対向する樹脂が溶融させられ,凸部によって押されても,前記溝内に紙基材及びアルミニウムホイルが膨出することによって両包材11の対向面に滞留部が形成され,該滞留部にポリエチレン樹脂56が滞留する。その結果,樹脂の流れは阻止され,シール部分の範囲から流れ出ない。・・・」(【0018】),「このとき,互いに対向するポリエチレン樹脂56が溶融させられ,溶融させられた該ポリエチレン樹脂56が凸部71によって押され,シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとするが,第1溝73及び第2溝75内に紙基材54及びアルミニウムホイル55が膨出することによって両包材11の対向面に滞留部が形成され,該滞留部にポリエチレン樹脂56が滞留する。したがって,ポリエチレン樹脂56の流れは阻止され,シール部分Sの範囲から流れ出ない。」(【0043】)上記の各記載によれば,引用発明においては,溝によって作られる滞留部(合成樹脂溜まり)からの樹脂の流出を抑えるようになっているものと認められるから,滞留部は,溝の幅に対応したものとなり,滞留部の縁は,溝の縁に対応した直線となるといえる。 そして,溝75はシール帯域の端部に設けられているから,溝75によって形成される滞留部の縁に対応する箇所がシールエッジになり,また,引用例の上記「ポリエチレン樹脂56が固化して包装容器の内側に固着し,これが原因になって充填及びシールより後段の成形工程において,ヒビ割れを発生させることがある。」,「本発明は,前記従来のシール装置の問題点を解決・・・する」という記載からすると,引用発明では,シール部から亀裂を生じることがないようにしているものと解される。 審決の引用発明に関するこの点の認定に誤りはない。 イ 引用発明に周知例を適用することの困難性に対し原告は,「合成樹脂の流れ込む溝を十分深く設けることで,溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とすることは周知の事項であるので,引用発明において密封性にはそれほど寄与しない合成樹脂溜まり部を,シール帯域の外側に隣接し,シール帯域としては機能しない部分として配置することも当業者が容易になし得たものと認める。」とした審決の判断は誤りであると主張する。 しかし,原告の主張は理由がない。 (ア)周知例1には,「一対の熱盤の双方に深い隙間を幾條も設け第2図に示すように対向する双方の突出部(2)の平らな面で筒状フイルムを挟み熱シールするのであるから,筒状フイルム(7)の内面に附着した液分は突出部(2)によって上方と下方に押し出され,熱押圧されない各溝隙間部(3)の個所の筒状フイルム部分,即ち横長状に並行した熱シールされない個所に液分が入り込む。」(甲2,手続補正書添付明細書4頁14行〜5頁1行)との記載がある。また,周知例2には,「本案においては圧着体の対向する挟着面に非圧着部分を設け・・・熔着される部分に付着した食品等の内容物を非熔着部分に完全に排除して加熱シールし得る」(甲3,3頁17行〜4頁1行)との記載がある。これらの記載によると,シール装置の挟着部に深い隙間や非圧着部分を設けるとその部分は熱シールされない個所となり,非熔着部分となることが周知であるから,シール装置の挟着部に設けた合成樹脂が流れ込む溝についても十分深く設けることで,非溶着の熱シールされない部分とすることが周知であるといえる。 そして,引用発明はシール部分において熱融着に寄与する樹脂の量を確保することで,接合強度が小さくなることを防止するものであるところ,溝を深くしすぎると非融着の熱シールされない部分となってしまう。そこで,引用発明においてその目的を達成するためには,樹脂の量を確保するために溝を適当な深さとし,しかも,非融着とならないように,流入した樹脂の全部又はほぼ全部が滞留する程度の深さと幅にすることが好ましいことが明らかであり,そのようなことは当業者が容易に推考し得たことであるといえる。 (イ)本願明細書の段落【0017】によれば,「シール帯域」とは「包材の最内面の合成樹脂層に熱と圧力が負荷され,ヒートシールされている部分」を指すものとされ,「シール帯域に対応する加圧部材の作用面をも便宜上シール帯域という」と規定されている。そうすると,本願発明における「シール帯域」は,?@ヒートシールされている部分,すなわち熱溶融した樹脂によって融着(溶着)されていること,及び?A熱と圧力が負荷されていることが必要である。したがって,ヒートシールされていたとしても,熱と圧力が負荷されていない部位は,本願発明における「シール帯域」ではない。 そして,どの程度の熱又は圧力が加わると「負荷される」ことになるのかについては,本願明細書には,?@「・・・平坦な作用面を有する高周波コイルの容器内面側外側に隣接して又は平坦な作用面を有する高周波コイルの容器内面側の一部とその外側にかけて上記溝・・・を設けることが望ましい。」(【0021】),?A「シール帯域から流出した該樹脂は溝に流入し,容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりが形成される。その結果,シール帯域には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成されることになる。」(【0022】),「・・・この合成樹脂溜まり部は上記のように夾雑物を含むため密封性にはそれほど寄与しないが,シール強度を高めるものといえる。」(【0023】),「・・・図9〜11には,図6〜8に示されるヒートシール装置の高周波コイル2の平坦な作用面に突条11を有するヒートシール装置が示されている。」(【0029】)と記載されている。 同記載に照らすならば,突条の有無にかかわらず「高周波コイルの平坦な作用面」はシール帯域であるが,他方,高周波コイルの容器内面側の一部であると否とにかかわらず「合成樹脂溜まり」及び「合成樹脂溜まり」を形成するための「溝」は,シール帯域でないことになる。 そして,高周波コイルの容器内面側の一部であっても,「合成樹脂溜まり」がシール帯域でないとされるのは,高周波コイルによって加熱される領域ではあるが,平坦な作用面の部分に比べて加圧力が低く,夾雑物を含む溶融した樹脂が,シール帯域(平坦な作用面の部分)から流入するためと解される。 (ウ)引用発明において溝の深さと幅を,流入した樹脂の全部又はほぼ全部が滞留する程度にすることは当業者が容易に推考し得たことであるところ,そのような溝であれば,本願明細書の段落【0023】に記載した「・・・シール帯域から流出した樹脂により溝が埋め尽くされ・・・合成樹脂溜まりが形成されるように・・・溝の幅や深さを・・・設定」した溝とほぼ同じであるから,その溝は,本願明細書におけるシール帯域外となり,シール帯域として機能していない部分となる。 また,引用発明においては,溝75は高周波コイルに対応するシール部Sの端部にあり,溝より内側の高周波コイルの部分は加熱・加圧され,シール帯域となるので,合成樹脂溜まり部(滞留部)はシール帯域の外側に隣接することになる。 (エ)以上のとおり,引用発明の溝の深さと幅を流入した樹脂の全部またはほぼ全部が滞留部に滞留する程度にすることは当業者が容易に推考し得たといえる。 高周波コイルの外側部分でも,ある程度の加熱が生じることは周知である。したがって,密封性の向上等のため夾雑物のないシール帯域の幅を広くすること等を考慮して,引用発明において,合成樹脂溜まり部(滞留部)を作るための溝の一部を高周波コイルの外側部分に配置する構成とし,「溝が・・・高周波コイルの容器内面側の一部とその外側にかけて設けられている」(本願明細書の【請求項3】)との本願発明の構成とすることは,当業者が適宜なし得た単なる設計変更であって,当業者が容易に想到し得たことといえる。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)について当裁判所は,取消事由1に係る原告の主張(一致点の認定,相違点の看過)については,いずれも,その主張自体失当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。 (1) 「溝」の設置目的及び機能の相違点の看過について原告は,「溝」の設置目的及び奏する機能に関して,引用発明の「溝75」は,「ポリエチレン樹脂の流れをシール帯域から流出するのを阻止し,シール帯域において熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保して接合強度を保持する」ものであるのに対し,本願発明の「溝」は,「シール帯域の溶融された合成樹脂層を表面に付着していた夾雑物と共にシール帯域外に向かって押し流し,夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層からなるシール帯域を形成し,完全なシール性を達成し」,かつ,「シール帯域から流出した樹脂を溝に流入させ,シールエッジが直線的で凹凸がない均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,容器内側に流出した溶融樹脂によるヒビ割れの発生がない圧縮強度に優れたヒートシールを達成する」ものであるから,両者は相違すると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 本願発明の特許請求の範囲の請求項1(甲4)には,「溝」について,「加圧部材の少なくとも一方の作用面に,シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得る溝が設けられている」との記載があるが,その他の限定はされていない。 そして,本願明細書(甲4)の各記載(【0020】,【0022】【0023】【0030】)によれば,加圧部材の一方の作用面に,シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得るような溝を設けたことによって,シール帯域には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成され,また,均一な幅の合成樹脂溜まり部としてヒビ割れが生じることをなくすことができることが示されている。 そうすると,原告の主張に係る「溝」の設置目的及び奏する機能についての本願発明の効果は,「溝」を「シール帯域の容器内面側外側に隣接」して設けたことによるものであるといって差し支えない。 ところで,審決は,相違点として,引用発明と本願発明の「溝」が設けられる場所について,「本願発明は,合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の外側に隣接して設けられているのに対し,引用発明ではシール帯域の端部に設けられている点。」と認定している。 原告の主張に係る「溝」の設置目的及び奏する機能は,上記「溝」の設置に係る構成から生ずる機能であるから,審決が,機能等に着目して相違点として認定しなかったことに,何ら誤りはない。 以上のとおり,原告の上記主張は,失当というべきである。 (2) 「溝」の設置場所の相違点の看過について原告は,引用発明では,シール装置のシール部のインダクタ(シール帯域)に形成された凸部の両側に「溝」を設けて,溶融したポリエチレン樹脂の滞留部を形成しているから,引用発明において,「溝」は,「シール部分Sの凸部71より外側」,すなわち「シール部分S内の凸部71より容器内面側」に設けられているのに対し,本願発明では,「溝」は,「シール帯域の容器内面側外側」に設けられる点で相違するにもかかわらず,審決はこの点を相違点として認定しなかった点が違法である,と主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 ア 引用例(甲1)の記載(ア)引用例には,「シール部分Sの凸部71より外側」について,次の記載がある。 「【0031】次に,シールブロック19について説明する。・・・そして,前記インダクタ31,32間には,該インダクタ31,32に沿って延び,図示しないカッタが前進したときにカッタの先端を収容する溝38が形成される。 【0032】また,各インダクタ31,32には,前記カッティングジョー14a,15a(図7)に向けて突出する凸部71,72が,それぞれインダクタ31,32の長手方向に形成され,前記凸部71,72より内側,すなわち,溝38側には第1溝73,74が,凸部71,72より外側には第2溝75,76が,それぞれ凸部71,72と平行に形成される。」「【0037】そして,前記凸部71より内側には第1溝73が,凸部71より外側には第2溝75が形成される。・・・。 【0038】したがって,前記領域AR3に対応する部分だけが熱融着に寄与し,領域AR3がシール部分Sになる。」(イ) 引用例には,以下の図が示されている。 図1(別紙引用例【図1】(b)参照)には,シールブロック19の作用面のカッタ用の溝38を挟んだ両側に,それぞれ凸部71,72が形成されたインダクタ31,32が設けられ,各インダクタ31,32の凸部71,72を挟んだ両側にそれぞれ第1溝73,74及び第2溝75,76が形成されている。図5(別紙引用例【図5】参照)には,インダクタ31側について,インダクタ31とほぼ同じ幅の領域AR3が示され,また,凸部71を挟んだ両側にそれぞれ第1溝73及び第2溝75が形成されている。図11(別紙引用例【図11】参照)には,インダクタ31とほぼ同じ幅のシール部Sが示され,インダクタ31とドーリー93とによって包材11が押圧され,シール部分Sにおいて,凸部71の両側に対応する位置で,包材11の内部に空隙が形成されている。 イ 引用発明における溝の位置上記の各記載によれば,凸部71,72より内側(カッタ用の溝38側)には第1溝73,74が形成され,凸部71,72より外側(カッタ用の溝38より遠い側)には第2溝75,76が形成されている。そして,包材11はカッタ用の溝38によって切断され,個々の容器が分離されることに照らすならば,カッタ用の溝38より遠い側(「溝75」)は,容器の内面側を意味する。 したがって,「シール部分Sの凸部71より外側」は,「シール部Sの容器内面側」を指すから,審決が,引用発明の「シール部分Sの凸部71より外側」は本願発明の「シール帯域の容器内面側」に相当すると認定した点に誤りはない。 なお,溝の設置方向ではなく,溝の設置場所については,審決は,前記のとおり,相違点として認定した上,その容易想到性について判断しているから,審決に,溝の設置場所の相違点を看過した違法はない。 2 取消事由2(容易想到性判断の誤り)について(1) 引用発明に周知例を適用することの容易性について当裁判所は,本願発明における「シール帯域の外側に隣接して溝を設けた」との構成について,審決が,「引用発明のシール帯域の端部の溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部は夾雑物を含むため密封性にはそれほど寄与しないものと認められ,合成樹脂の流れ込む溝を十分深く設けることで,溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とすることは周知の事項(甲2,甲3)である」とした上で,「引用発明において密封性にはそれほど寄与しない合成樹脂溜まり部を,シール帯域の外側に隣接し,シール帯域としては機能しない部分として配置することも当業者が容易になし得た」と判断した点には,誤りがあるものと解する。 その理由は,以下のとおりである。 ア 引用発明について(ア) 引用例(甲1)の記載引用例(甲1)には,以下のとおりの記載がある(上記1(2)アで述べたことを重ねて表記する。)。 「【0011】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,前記従来のシール装置においては,包材11が接合される際に,互いに対向するポリエチレン樹脂56が溶融させられ,溶融した該ポリエチレン樹脂56がシール部分Sの範囲を超え,領域AR1,AR2に過度に流れ出してしまう。 【0012】その結果,シール部分Sにおいて熱融着に寄与するポリエチレン樹脂56の量が少なくなり,適切な接合強度が得られず,液体食品の漏れが発生することがある。また,前記シール部分Sから流れ出たポリエチレン樹脂56が固化して包装容器の内側に固着し,これが原因になって充填及びシールより後段の成形工程において,ヒビ割れを発生させることがある。 【0013】そこで,ポリエチレン樹脂56が過度に流出するのを防止するために高周波電圧を小さくすると,ポリエチレン樹脂56を十分に溶融させることができず,適切な接合強度を得ることができない。本発明は,前記従来のシール装置の問題点を解決して,樹脂を十分に溶融させ,しかもその流出によって接合強度が小さくなるのを防止することができるシール装置を提供することを目的とする。 【0014】【課題を解決するための手段】そのために,本発明のシール装置においては,シールブロックと,該シールブロックに,一部を表面に臨ませて埋設されたインダクタと,該インダクタと対向させて配設され,かつ,インダクタとの間に包材を挟持するドーリーと,前記インダクタに高周波電圧を印加する電圧印加手段とを有する。 【0015】前記インダクタは,前記ドーリーに向けて突出させて長手方向に形成された凸部と,該凸部の両側において凸部と平行に形成された溝とを備える。」「【0018】したがって,包材の互いに対向する樹脂が溶融させられ,凸部によって押されても,前記溝内に紙基材及びアルミニウムホイルが膨出することによって両包材11の対向面に滞留部が形成され,該滞留部にポリエチレン樹脂56が滞留する。その結果,樹脂の流れは阻止され,シール部分の範囲から流れ出ない。そして,シール部分において熱融着に寄与する樹脂の量を確保することができるので,接合強度が小さくなるのを防止することができる。」「【0031】次に,シールブロック19について説明する。・・・そして,前記インダクタ31,32間には,該インダクタ31,32に沿って延び,図示しないカッタが前進したときにカッタの先端を収容する溝38が形成される。」「【0032】また,各インダクタ31,32には,前記カッティングジョー14a,15a(図7)に向けて突出する凸部71,72が,それぞれインダクタ31,32の長手方向に形成され,前記凸部71,72より内側,すなわち,溝38側には第1溝73,74が,凸部71,72より外側には第2溝75,76が,それぞれ凸部71,72と平行に形成される。」「【0037】そして,前記凸部71より内側には第1溝73が,凸部71より外側には第2溝75が形成される。・・・。 【0038】したがって,前記領域AR3に対応する部分だけが熱融着に寄与し,領域AR3がシール部分Sになる。ところで,前記第1溝73及び第2溝75が形成されているので,包材11の互いに対向するポリエチレン樹脂56が溶融させられ,凸部71によって押されても,溶融したポリエチレン樹脂56がシール部分Sの範囲を超えて過度に流れ出すことがないので,接合強度が小さくなるのを防止することができる・・・。」「【0042】次に,第2工程において,図10に示すように,前記カッティングジョー14a,15a及びヒートシールジョー14b,15bを更に前進させると,インダクタ31とドーリー93とによって包材11のシール部分Sが強く押圧され,該シール部分Sが変形させられる。そして,第3工程において,高周波電圧変換回路85(図8)からの高周波電圧がインダクタ31に印加され,誘導加熱によって前記アルミニウムホイル55を発熱させる。その結果,一対のアルミニウムホイル55によって挟まれた一対のポリエチレン樹脂56が加熱され,図11に示すように,シール部分Sにおいて包材11が熱融着によって接合される。 【0043】このとき,互いに対向するポリエチレン樹脂56が溶融させられ,溶融させられた該ポリエチレン樹脂56が凸部71によって押され,シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとするが,第1溝73及び第2溝75内に紙基材54及びアルミニウムホイル55が膨出することによって両包材11の対向面に滞留部が形成され,該滞留部にポリエチレン樹脂56が滞留する。したがって,ポリエチレン樹脂56の流れは阻止され,シール部分Sの範囲から流れ出ない。 【0044】その結果,シール部分Sにおいて熱融着に寄与するポリエチレン樹脂56の量を確保することができるので,接合強度が小さくなるのを防止することができる。・・・。」また,図1には,シールブロック19の作用面のカッタ用の溝38を挟んだ両側に,それぞれ凸部71,72が形成されたインダクタ31,32が設けられ,各インダクタ31,32の凸部71,72を挟んだ両側にそれぞれ第1溝73,74及び第2溝75,76が形成されている構成が示されている。 図5には,インダクタ31側について,インダクタ31とほぼ同じ幅の領域AR3が示され,また,凸部71を挟んだ両側にそれぞれ第1溝73及び第2溝75が形成されている構成が示されている。 図11には,インダクタ31とほぼ同じ幅のシール部Sが示され,インダクタ31とドーリー93とによって包材11が押圧され,シール部分Sにおいて,凸部71の両側に対応する位置で,包材11の内部に空隙が形成されている状態が示されている。 (イ) 引用発明の技術内容上記各記載によると,引用発明の技術内容(解決課題及び解決手段)は,シール装置において,溶融したポリエチレン樹脂56がシール部分Sの範囲を超えて過度に流れ出してしまう結果,シール部分Sにおいて熱融着に寄与するポリエチレン樹脂56の量が少なくなり,適切な接合強度が得られず,また,シール部分Sから流れ出たポリエチレン樹脂56が固化して包装容器の内側に固着して,ヒビ割れを発生させることがあるという課題を解決するために,「溝75」をインダクタ31に形成して,シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとするポリエチレン樹脂56を「溝75」内に滞留させることで,ポリエチレン樹脂56の流れを阻止して,シール部分Sの範囲から流れ出ない,あるいは,過度に流れ出すことがないようにして,適切な接合強度を確保するものであると認められる。 インダクタ31は,シールブロックに一部を表面に臨ませて埋設され,ドーリーとの間で包材を挟持し,誘導加熱によって包材の一対のアルミニウムホイル55によって挟まれた一対のポリエチレン樹脂56を加熱して,シール部分Sにおいて包材11を熱融着によって接合させるものであるから,インダクタ31の表面がシール部分Sに対応する領域ということができる。また,「溝75」は,インダクタ31の中央部に設けられた凸部71の側部に設けられているから,シール部Sの端部に設けられているということができる。 そうすると,「合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の端部に設けられている」とする引用発明の相違点に係る構成の技術的意義は,溶融した合成樹脂がシール部分Sの範囲を超えて過度に流れ出してしまうことにより,シール部分Sにおいて熱融着に寄与する合成樹脂の量が少なくなって適切な接合強度が得られず,また,シール部分Sから流れ出た合成樹脂が固化して包装容器の内側でヒビ割れを発生させることがあるという課題を解決するために,シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとする合成樹脂をシール部内の端部に滞留させることで,合成樹脂の流れを阻止して,シール部分Sの範囲から流れ出ない,あるいは,過度に流れ出すことがないようにした点にある,ということができる。 イ 本願発明について(ア) 本願明細書(甲4)の記載本願明細書(甲4)には,次のとおりの記載がある。 「【0008】一方,本発明者らは,シール時にこの凹凸に入った液体や汚れを排除するために,シール帯域内の液体を溶融樹脂とともにシール帯域外へ流出させればよいことを見出し,上記特開平8-244728号公報に記載の発明を完成するに至ったが,このヒートシール装置を用いる方法では,凹凸に入った液体や汚れを完全に排除し,優れたシール性が得られるものの,容器内側に流出した溶融樹脂が均一にはみ出さないことがあり,図2に示すように,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビード7を形成し,シール工程以後の成形機等による二次工程において,容器に圧力がかかった場合にビード7の波の頂部8から亀裂が発生し,ごく稀に液漏れが生じることがわかった。 【0009】本発明の課題は,上記従来のヒートシール装置における問題を解決しうるヒートシール装置,すなわち充分な樹脂の流動があり,容器の圧縮強度を損なわないようなヒートシール装置,詳しくはチューブ内面のごく僅かな凹凸に入った液体や汚れを溶融樹脂と共にシール帯域外へ流出させて完全なシール性を達成すると共に,容器内側に流出した溶融樹脂によるヒビ割れの発生がない圧縮強度に優れたヒートシールを達成することができるヒートシール装置を提供することにある。 【0010】【課題を解決するための手段】本発明者らは,先に,液体飲料等の内容物が充填されたチューブ状包装材料を液面下で横断状にヒートシールするシール装置を備えた高速充填機を開発した(特開平10-86915号公報参照)。この高速充填機におけるヒートシール装置は,上記のヒートシール装置におけるように,ヒートシール部とカッティング部とがともにシールジョーに備えられたものではなく,図3に示すように,シール部9の次工程にカッティング部10が設けられている。このことからして,図4に示すように,上記高速充填機におけるヒートシール装置として,高周波コイル2を有するシールジョー3とシーリングゴム4を有する対向ジョー5とからなり,カッティング機構のないものを使用していたが,このヒートシール装置11では,シール帯域をも含めて全面的に押圧することから溶融樹脂の流れが不十分で完全なシールが達成できず,チューブ内面のごく僅かな凹凸に入った液体を溶融樹脂と共にシール帯域外へ完全に流出させようとすると,容器内側方向しか流出させるところがなく,容器内側に向かって流出させると容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビードが形成され,容器に外力がかかった場合にヒビ割れが発生する恐れがあり,いずれにしても従来のヒートシール装置では完全なシールが得られないことがわかった。」「【0012】そこで,本発明者らは,従来のヒートシール装置の考え方とは異なる発想,すなわち容器内側に積極的に溶融樹脂を流出させるという考え方に到達し,高周波コイルの容器内面側外側に隣接して溝を設け,該溝に溶融樹脂を流出させると,溶融樹脂の流動性は改善される上に,以外にも,溶融樹脂ビードが形成されても凹凸がない場合,容器にかかった外力に対してヒビ割れ等が発生することなく,完全なヒートシールが達成しうることを見出し,また,かかる知見を従来のカッティング機構を備えたヒートシール装置に適用したところ,同様に完全なヒートシールが達成しうることを確認し,本発明を完成するに至った。 【0013】すなわち本発明は,合成樹脂層を含む積層体からなる包材をチューブ状とし,該チューブ状の包材を,加熱機構を有する開閉自在な一対の加圧部材を用いて,液面下で横断状にヒートシールするシール装置において,加圧部材の少なくとも一方に,シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得る溝が設けられていることを特徴とするヒートシール装置や,積層体がさらにアルミ箔層を有し,加熱機構を有する開閉自在な一対の加圧部材が,平坦な作用面を有する高周波コイルを備えたシールジョーとその対向ジョーとからなることを特徴とする上記ヒートシール装置に関する。 【0014】また本発明は,溝が平坦な作用面を有する高周波コイルの容器内面側外側に隣接して又は平坦な作用面を有する高周波コイルの容器内面側の一部とその外側にかけて設けられていることを特徴とする前記ヒートシール装置や,該溝が平坦な作用面を有する高周波コイルの両外側に設けられていることを特徴とする上記ヒートシール装置や,溝が平坦な作用面を有する高周波コイルの容器内面側に加えて,カッティング側外側に隣接して設けられていることを特徴とする上記ヒートシール装置や,溝が断面円弧状をし,その深さ寸法がその幅の1/2よりも小さい溝であることを特徴とする上記ヒートシール装置に関する。」「【0017】本発明においてシール帯域とは,加熱機構を有する開閉自在な一対の加圧部材を用いて,包材の最内面の合成樹脂層に熱と圧力が負荷され,ヒートシールされている部分をいい,該シール帯域の長手方向と直交する方向の端部は,その一方の端部がジュース等の充填物の側,すなわち容器内面側となり,他方の端部が容器を1個ずつ切り離すためのカッティング側となる。また,本発明においては,かかるシール帯域に対応する加圧部材の作用面をも便宜上シール帯域ということにする。」「【0020】そして,本発明のヒートシール装置は,少なくとも加圧部材の一方の作用面に,シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得るような溝が設けられていることを特徴とするものであるが,かかる溝は一対の加圧部材の両方の作用面に設けてもよいし,シールジョー又は対向ジョーのどちらか一方の作用面に設けておいてもよい。・・・」「【0022】かかる溝を設けることにより,シール帯域内の包材の最内面の合成樹脂層が,加熱機構を備えた加圧部材の作用により,溶融され,該合成樹脂層表面に付着していたジュース等の充填物や汚れなどの夾雑物と共に容器内面側に向かって押し流され,シール帯域から流出した該樹脂は溝に流入し,容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりが形成される。その結果,シール帯域には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成されることになる。 【0023】また,シール帯域から流出した樹脂により溝が埋め尽くされ,シールエッジが直線的で凹凸がない均一な幅の合成樹脂溜まりが形成されるように,あらかじめ上記溝の幅や深さをを設定しておくことが好ましく,均一な幅のこの合成樹脂溜まり部から亀裂が生じることはない。そして,この合成樹脂溜まり部は上記のように夾雑物を含むため密封性にはそれほど寄与しないが,シール強度を高めるものといえる。」「【0028】図6〜11に示される本発明のヒートシール装置は,包材1として合成樹脂層とアルミ箔層とを有する積層体を用い,加熱機構を有する開閉自在な一対の加圧部材として,平坦な作用面を有し,内部に冷却水通路14を有する高周波コイル2を備えたシールジョー3とシーリングゴム4を有する対向ジョー5が備えられ,該シールジョー3にシール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まり15を形成し得るような溝16が設けられている。 【0029】そして,図6に示されるヒートシール装置は,溝16が平坦な作用面を有する高周波コイル2の容器内面側の一部とその外側にかけて設けられており,図7に示されるヒートシール装置は,溝16が平坦な作用面を有する高周波コイル2の容器内面側外側に隣接して設けられている。また,図8には,平坦な作用面を有する高周波コイル2の容器内面側の溝16に加えて,カッティング側外側に隣接して溝12が設けられているヒートシール装置が示されている。図9〜11には,図6〜8に示されるヒートシール装置の高周波コイル2の平坦な作用面に突条11を有するヒートシール装置が示されている。そしてまた,図12には,容器内面側に設けられた2本の溝16が平坦な作用面を有する高周波コイル2の両外側に設けられているヒートシール装置が示されている。 【0030】【発明の効果】本発明によると,カッティング部の液溜まりを少なくすることができ,より衛生的なパックが生産できる。しかも,夾雑物と共にシール帯域外へ流出した溶融樹脂が均一な幅の樹脂溜まりを形成し,その部分からヒビ割れを生じることがなく,また,シール帯域内の狭雑物が排除されることから,優れたヒートシールを達成することができる。」(イ) 本願発明の技術内容上記各記載によると,本願発明の技術内容(解決課題及び解決手段)は,ヒートシール装置において,シール時にシール帯域内の液体を溶融樹脂とともにシール帯域外へ流出させる方法では,シール帯域の液体や汚れを完全に排除し,優れたシール性が得られるものの,容器内側に流出した溶融樹脂が均一にはみ出さず,これによって,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビード7が形成されて,容器に圧力がかかった場合にビード7から亀裂が発生することがあるという課題を解決するために,シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得る溝を設けて,溶融樹脂を夾雑物と共にシール帯域から容器内面側に向かって押し流すことによって,シール帯域には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層を形成する方法とし,シール帯域から流出した樹脂を溝に流入させることで,容器内側に流出した溶融樹脂が均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,これによって,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビード7が形成されないようにしたものである。 そうすると,「合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の容器内面側外側に隣接して設けられている」とする本願発明の相違点に係る構成は,優れたシール性を有する薄い合成樹脂層を形成するために,溶融された合成樹脂を夾雑物と共にシール帯域から容器の内側に押し流した時に,流出した合成樹脂が均一にはみ出さずに容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビードを形成することがあるという課題を解決するために,シール帯域から流出した合成樹脂を溝に流入させることで,合成樹脂の容器内側へのはみ出しを規制し,これによって,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビードが形成されないようにした点にある,ということができる。 ウ 容易想到性の検討本願発明と引用発明の相違点は,「本願発明は,合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の外側に隣接して設けられているのに対し,引用発明ではシール帯域の端部に設けられている」点にある(争いない)。本願発明と引用発明との相違は,合成樹脂溜まりを形成する「溝」の設置場所のみであって,その構成における相違点は,一見すると,極めて僅かであるとの印象を与える。 しかし,上記のとおり,「溝」の設置場所の相違点によって,本願発明においては,シール帯域から流出した合成樹脂で容器内側に波打った溶融樹脂ビードが形成されないようにする解決手段を提供するのに対して,引用発明においては,シール帯域からの合成樹脂の流れ出しを規制してシール帯域の樹脂量を確保する解決手段を提供するものであるという点で,解決課題及び解決手段において,大きな相違があるというべきである。 そこで,引用発明を出発点として,周知例(甲2,甲3)を適用することによって,本願発明が容易に想到することができたか否かを検討する。 引用発明は,シール帯域内に合成樹脂溜まり部を設けて,熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより,「接合強度を維持」するようにしたものであるから,単に,「溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とする」ことを開示する周知例(甲2,3)を指摘することによって,その周知の技術を適用して,引用発明とは異なる解決課題と解決手段を示した本願発明の構成に至ることが容易であるということはできない。引用発明は,接合強度維持を目的とした技術であるのに対し,周知技術は,接合強度維持に寄与することとは関連しない技術であるから,本願発明と互いに課題の異なる引用発明に周知技術を適用することによって「本願発明の構成に達することが容易であった」という立証命題を論理的に証明できたと判断することはできない。 (2) 小括以上のとおり,引用発明に周知例を適用することによって,本願発明の相違点に係る構成に到達することができたとする審決の判断,すなわち「引用発明において密封性にはそれほど寄与しない合成樹脂溜まり部を,シール帯域の外側に隣接し,シール帯域としては機能しない部分として配置することも当業者が容易になし得たものと認める。」とした審決の判断には,その余の点を判断するまでもなく,誤りがあるというべきである。その他,被告は縷々主張するが,いずれも結論に影響を及ぼす主張とはいえない。 3 結論原告主張の取消事由2は理由があるから,取消事由2中のその余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がある。よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 齊木教朗 |
裁判官 | 嶋末和秀 |