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関連審決 無効2007-800086
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明の利用 /  優先権 /  国内優先権 /  共有 /  優先日 /  参酌 /  技術的意義 /  均等 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10046号 審決取消請求事件
原告株式会社立石構造設計
訴訟代理人弁護士木下洋平
被告住友林業株式会社
訴訟代理人弁護士山崎司平,柳楽久司,正岡有希子,星晶広
訴訟代理人弁理士加藤雄二
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/03/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2007-800086号事件について平成20年1月8日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,特許を無効とした審決の取消しを求める事案であり,原告は無効とされた特許の特許権者(共有持分権者),被告は特許無効審判の請求人である。
1特許庁における手続の経緯(1)原告,株式会社朝陽工務店及びAは,発明の名称を「建築物の構造計算装置,コンピュータプログラム,記録媒体及び建築物」とする特許第3848208号(平成14年5月10日特許出願(国内優先権主張:平成13年12月3日)。
平成18年9月1日設定登録。以下「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲3)を「本件明細書」という。)の特許権を共有する者である(甲3)。
(2)被告は,平成19年4月25日,原告,株式会社朝陽工務店及びAを被請求人として,本件特許(請求項1ないし9)につき,特許無効審判を請求し,無効2007-800086号事件として係属した。
(3)特許庁は,平成20年1月8日,「特許第3848208号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。」との審決をし,同月18日,その謄本を原告に送達した。
2発明の要旨審決が対象とした本件特許に係る請求項1ないし9の記載は,次のとおりである(以下,請求項1ないし9に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明9」といい,本件発明1ないし本件発明9を併せて「本件各発明」という。なお,以下の「1A」等の符号は,審決が便宜上付したものである。)。
「【請求項1】1A面状の基礎スラブを有する基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,1B上部構造の架構,該上部構造に作用する荷重,基礎構造の形状,及び地盤特性を受け付ける第1受付手段と,1C該第1受付手段により架構を受け付けた上部構造に,前記第1受付手段により受け付けた荷重が作用することによって生じる応力及び変形を計算する計算手段と,1D該計算手段により計算した応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付ける第2受付手段と,1E前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記第1受付手段により受け付けた地盤特性を示すばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,1F前記第1受付手段により形状を受け付けた基礎構造に,前記第2受付手段により受け付けた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成手段により作成した力学モデルを用いて有限要素法により計算する手段と1Gを備えることを特徴とする建築物の構造計算装置。
【請求項2】2A面状の基礎スラブを有する基礎構造により上部構造を支える建築物の前記基礎構造を,前記上部構造に生じる応力を用いて計算する装置において,2B基礎構造の形状,地盤特性,及び前記応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付ける受付手段と,2C前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受付手段により受け付けた地盤特性を示すばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,2D前記受付手段により形状を受け付けた基礎構造に,前記受付手段により受け付けた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成手段により作成した力学モデルを用いて有限要素法により計算する手段と2Eを備えることを特徴とする建築物の構造計算装置。
【請求項3】3A前記建築物を支持すべく杭を打設する又は杭状地盤改良を行う箇所の配置,及び前記杭又は前記杭状地盤改良の特性を受け付ける手段をさらに備え,3B前記作成手段は,前記基礎スラブの全面を分割する節点のうち,前記杭を打設する又は前記杭状地盤改良を行う箇所に対応する節点を除く節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受け付けた地盤特性を示すばね要素又は杭基礎の特性を考慮したばね要素,又は前記杭若しくは前記杭状地盤改良された地盤により支持される前記基礎構造の特性を考慮したばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成すべくなしてあることを特徴とする請求項1又は2に記載の建築物の構造計算装置。
【請求項4】4Aコンピュータに,面状の基礎スラブを有する基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算させるためのコンピュータプログラムにおいて,4Bコンピュータに,上部構造の架構を受け付けさせる第1受付ステップと,4Cコンピュータに,前記上部構造に作用する荷重を受け付けさせる第2受付ステップと,4Dコンピュータに,前記第1受付ステップにより架構を受け付けさせた上部構造に,前記第2受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力及び変形を計算させる計算ステップと,4Eコンピュータに,基礎構造の形状及び地盤特性を受け付けさせる第3受付ステップと,4Fコンピュータに,前記計算ステップにより計算させた応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付けさせる第4受付ステップと,4Gコンピュータに,前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記第3受付ステップにより受け付けさせた地盤特性を示すばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,4Hコンピュータに,前記第3受付ステップにより形状を受け付けさせた基礎構造に,前記第4受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成ステップにより作成させた力学モデルを用いて有限要素法により計算させるステップと4Iを実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項5】5Aコンピュータに,面状の基礎スラブを有する基礎構造により上部構造を支える建築物の前記基礎構造を,前記上部構造に生じる応力を用いて計算させるためのコンピュータプログラムにおいて,5Bコンピュータに,基礎構造の形状,地盤特性,及び前記応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付けさせる受付ステップと,5Cコンピュータに,前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受付ステップにより受け付けさせた地盤特性を示すばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,5Dコンピュータに,前記受付ステップにより形状を受け付けさせた基礎構造に,前記受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成ステップにより作成させた力学モデルを用いて有限要素法により計算させるステップと5Eを実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項6】6Aコンピュータに,前記建築物を支持すべく杭を打設する又は杭状地盤改良を行う箇所の配置,及び前記杭又は前記杭状地盤改良の特性を受け付けさせるステップをさらに備え,6B前記作成ステップは,コンピュータに,前記基礎スラブの全面を分割する節点のうち,前記杭を打設する又は前記杭状地盤改良を行う箇所に対応する節点を除く節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受け付けさせた地盤特性を示すばね要素,又は前記杭若しくは前記杭状地盤改良された地盤により支持される前記基礎構造の特性を考慮したばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成させるべくなしてあることを特徴とする請求項4又は5に記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】7Aコンピュータに,面状の基礎スラブを有する基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算させるためのコンピュータプログラムを記録してあるコンピュータでの読み取りが可能な記録媒体において,7Bコンピュータに,上部構造の架構を受け付けさせる第1受付ステップと,コンピュータに,前記上部構造に作用する荷重を受け付けさせる第2受付ステップと,コンピュータに,前記第1受付ステップにより架構を受け付けさせた上部構造に,前記第2受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力及び変形を計算させる計算ステップと,7Cコンピュータに,基礎構造の形状及び地盤特性を受け付けさせる第3受付ステップと,7Dコンピュータに,前記計算ステップにより計算させた応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付けさせる第4受付ステップと,7Eコンピュータに,前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記第3受付ステップにより受け付けさせた地盤特性を示すばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,7Fコンピュータに,前記第3受付ステップにより形状を受け付けさせた基礎構造に,前記第4受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成ステップにより作成させた力学モデルを用いて有限要素法により計算させるステップと7Gを実行させるコンピュータプログラムを記録してあることを特徴とするコンピュータで読み取りが可能な記録媒体。
【請求項8】8Aコンピュータに,面状の基礎スラブを有する基礎構造により上部構造を支える建築物の前記基礎構造を,前記上部構造に生じる応力を用いて計算させるためのコンピュータプログラムを記録してあるコンピュータでの読み取りが可能な記録媒体において,8Bコンピュータに,基礎構造の形状,地盤特性,及び前記応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付けさせる受付ステップと,8Cコンピュータに,前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受付ステップにより受け付けさせた地盤特性を示すばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,8Dコンピュータに,前記受付ステップにより形状を受け付けさせた基礎構造に,前記受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成ステップにより作成させた力学モデルを用いて有限要素法により計算させるステップと8Eを実行させるコンピュータプログラムを記録してあることを特徴とするコンピュータで読み取りが可能な記録媒体。
【請求項9】9A請求項1乃至3に記載の建築物の構造計算装置を用いた構造計算の結果を反映させて建築されたことを特徴とする建築物。」3審決の要点審決は,本件各発明は,下記引用例2に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の規定に該当し,無効とすべきものであるとした。
引用例1社団法人日本建築学会平成13年10月1日発行の「建築基礎構造設計指針(第2版)」(審判甲1・本訴甲1,乙8)引用例2特開平9-316994号公報(審判甲2・本訴甲2)(1)引用例1の記載事項ア「(3)耐震設計の方針に関する事項a.建築物,杭基礎,地盤系の地震応答性状と杭基礎に作用する荷重図6.1.4は地震の発生によって建築物が応答するまでの過程を模式的に示したものである.(中略)建築物に入った地震波は,杭や地下壁を介して再び地盤に影響を与える.これらの効果は動的相互作用といわれ,かなり古くから検討され,杭支持建物を対象とした地震観測結果や地震応答解析結果により,最近ではそのメカニズムが明らかにされつつある.これらの検討結果によると,杭基礎には以下の2種類の地震時荷重が作用する.?@上部構造の振動によって杭頭部に作用する軸力・水平力,曲げモーメント等の上部構造からの慣性力?A杭と地盤との動的相互作用によって,抗が地盤から受ける荷重建築物を支持する杭基礎については,上部構造の重量が大きいため,?@の慣性力が大きく?Aの影響は無視できる場合が少なくない.しかしながら,厚い軟弱層中の杭や剛性が急変する中間層を貫いて設置された抗,液状化層と非液状化層を貫いて設置された杭等,地盤条件によっては?Aの荷重が杭体に発生する応力に大きな影響を与える場合がある.したがって,耐震設計上,杭に作用する荷重として,?@の慣性力のほか,地盤条件に応じて,?Aの荷重を考慮する.b.解析法の選定杭基礎の耐震設計を行うための解析法として,本指針では図6.1.3に示す解析モデルによる静的解析を推奨している.この解析では,荷重として上部構造から杭頭に作用する慣性力を想定している.しかし,軟弱地盤に設置される杭基礎あるいは剛性が急変する中間層を貫いて設置される杭基礎に対しては,杭と地盤の動的相互作用によって杭が地盤から受ける荷重の影響を評価する必要があり,上記の解析だけでは不十分である.このような地盤に設置された杭基礎に対しては,上部構造〜杭基礎〜地盤を一体とした連成系モデルによる動的相互作用解析によって検討することが望ましい.(中略)?@動的解析動的解析法は,時空間の取扱いで時刻歴解析法・周波数応答解析法・モード解析法に分類され,建築物と地盤の分割方法によって一体解析法と分離解析法(動的サブストラクチャー法を含む)に分類される.設計に用いる解析モデルを建築物や地盤の離散化方法により分類すると,主なものにスウェイ・ロッキングモデル,質点系モデル(中略),有限要素(FEM)モデル等があげられる.(中略)[EFMモデル(判決注:『FEMモデル』の誤記であると認められる。)]:杭,地盤を有限な要素でモデル化する方法で,杭,地盤の挙動を求めることが容易であるが,その分自由度が多くなって計算には比較的時間を要する.」(183頁3行目ないし185頁10行目)イ「(3)基礎スラブの底面における地盤の支持力地盤沈下地域で支持杭に支持された杭基礎では,基礎スラブ底面と地盤との間に空隙が生じることがよく知られている.また,地盤沈下地域以外でも,基礎スラブ下の杭間の地盤は,軟弱な場合が多く,施工時の乱れ,地下水位の変動,振動等によって沈下し,基礎スラブと地盤との間に空隙が生じやすい.したがって,杭基礎の基礎スラブ底面下にある地盤の支持力は,通常の設計では無視するのが原則である.しかし,べた基礎形式のスラブを杭間隔の大きな摩擦杭で支持させるような場合には,摩擦杭の支持力に加えて,基礎スラブ底面下の地盤の支持力を期待できる可能性がある.このような基礎の典型例として,べた基礎の基礎スラブ下に沈下抑止のため,少数の摩擦杭を設置したパイルド・ラフト基礎がある.この基礎については,摩擦杭の支持力に基礎スラブ下の地盤の支持力を加算できるとの表現より,むしろ逆に基礎スラブ下の地盤の支持力に摩擦杭の支持力を加算できるとの表現が適切であろう.このようないわば直接基礎の(判決注:『直接基礎と』の誤記であると認められる。)杭基礎の中間的な基礎の設計にあたっては,杭,基礎スラブ,地盤の3者間の支持力,変形に関する相互作用を考慮に入れた検討が必要である.パイルド・ラフト基礎の設計については,7.3節を参照されたい.」(189頁1行目ないし13行目)ウ「7.3節パイルド・ラフト基礎1.一般事項(1)パイルド・ラフト基礎とは,併用基礎のうち,直接基礎と杭基礎が複合してその両者で上部構造を支持するものをいう.(中略)(2)要求性能の確認は,パイルド・ラフト基礎を適切にモデル化し,各荷重条件下において必要な検討項目の設計用応答値を求め,それらが設計用限界値に達しないことを確認することによって行う.設計用応答値の算定にあたっては適切な地盤定数の評価が重要であることに留意する.(中略)(1)パイルド・ラフト基礎とは,一般に布基礎やべた基礎などの直接基礎と杭基礎を併用した基礎形式であり,荷重に対して直接基礎と杭基礎が複合して抵抗するものをいう.(中略)パイルド・ラフト基礎は,図7.3.1に示すように直接基礎と杭基礎の中間にあたる基礎形式で,その中には直接基礎に近いもの,あるいは杭基礎に近いものも含まれる.このうち本節では,直接基礎単独では設計上の要求性能を満足しない場合に,沈下量および不同沈下量を低減するための杭基礎を直接基礎に付加してパイルド・ラフト基礎とすることにより,基礎全体としての荷重〜沈下性状の改善を図ろうとする場合を対象とする.この場合パイルド・ラフト基礎は,直接基礎の適用範囲を拡大する基礎形式とも考えられる.(中略)直接基礎をパイルド・ラフト基礎とすることにより,一般に以下の点が改善される.・基礎の平均沈下量および不同沈下量の低減・荷重の偏心や予期しがたい表層の土質性状のばらつきによる基礎の全体傾斜の低減・基礎梁,基礎スラブの曲げモーメント,せん断力の低減・荷重が大きく異なる部分の境界における沈下量差の低減・基礎全体としての地盤破壊に対する支持力安全率の増加(中略)パイルド・ラフト基礎は,直接基礎と同様にある程度の沈下を許容して地盤となじませる基礎形式であり,地盤の特性をよく理解する必要がある.したがって,設計者は十分な地盤調査に基づいて地盤条件を的確に把握し,基礎と地盤の相互作用を検討するとともに,対象とする建物の形状,規模,構造特性,排土重量などを明確にし,類似の条件での実施例を参照することが望ましい.」(339頁1行目ないし341頁17行目)エ「b.沈下量基礎の沈下量の算定にあたっては,図7.3.3に示す杭と地盤と直接基礎の相互作用を考慮し,直接基礎と杭が一体化した基礎としての荷重〜沈下関係を評価する必要がある.以下に,鉛直荷重を受けるパイルド・ラフト基礎の沈下量の評価手法を示す.1)簡易計算法パイルド・ラフト基礎の平面規模が杭長に比べて大きく,平面形状が整形であり,荷重分布がほぼ均等で杭配置が規則的かつ杭径,杭長がほぼ等しい摩擦杭を用いる場合について,パイルド・ラフト基礎の沈下量,杭と直接基礎の荷重分担比を,簡易に計算する手法が提案されている.この方法は,平面規模が抗長(判決注:『杭長』の誤記であると認められる。)に比べて大きい群杭ではその沈下性状は直接基礎の性状に近づくことから,同様な形状のパイルド・ラフト基礎の沈下性状も,杭の存在を無視した直接基礎の沈下性状と同様になることに基づくものである.パイルド・ラフト基礎における杭の存在が沈下量を均等化させる効果については,直接基礎の沈下量に,直接基礎とパイルド・ラフト基礎の鉛直ばね定数比を乗じてその値を低減することにより評価する.」(343頁6行目ないし18行目)オ「2)詳細計算法杭と地盤と直接基礎を一体として解析する方法である.この方法によれば,基礎の沈下量,(中略)のほかに個々の杭の分担荷重,基礎スラブの接地圧,基礎梁,基礎スラブに生じる応力など,基礎部材の設計に必要な情報を得ることができる.(中略)以下に代表的な解析手法として,有限要素法と弾性論を組み合わせた方法および有限要素法について概要を示す.有限要素法と弾性論を組み合わせた方法は,図7.3.5に示すように,直接基礎部分を曲げ板要素や梁要素などでモデル化し,杭および地盤は相互作用を考慮したばねでモデル化するものである.杭と地盤と直接基礎の相互作用については,弾性論に基づく方法により評価する.(中略)有限要素法は,直接基礎部分だけでなく杭,地盤についても有限要素でモデル化するもので,土の応力〜ひずみ関係に弾塑性構成式を用いれば地盤の局所的な塑性化を含めた詳細な解析を行うことができる.この方法では,解析に要する時間や解析可能な基礎の規模についての制約があるが,近年におけるコンピュータの著しい性能向上により実務設計において三次元解析を行うことも可能になり,図7.3.6に示すような地盤・基礎モデルを用いた検討事例も増加している.(中略)また,地震時の動的相互作用を考慮して,パイルド・ラフト基礎の沈下量,変形角と傾斜角などを評価する方法として,6.1節に示すような上部構造と基礎と地盤の連成系モデルにより動的応答解析を行う方法がある.」(345頁1行目ないし345頁(判決注:「346頁」の誤記であると認められる。)下から3行目)(2)引用例2の記載事項ア「本発明は,住宅の設計時にコンピュータを用いて梁,柱及び基礎の強度の判定を行えるようにした住宅の構造計画支援方法に関するものである。
(中略)従来,住宅の設計に際しては,梁,柱及び基礎等の配置を定めた後,これらの梁,柱及び基礎等により前記住宅に充分な強度を付与できるか否かを構造計算により判定し,強度不足の場合,設計の変更を行うようにしている。
(中略)ところが,前記のような住宅の設計及び強度計算等を全て人手で行う場合,計算等が煩雑で長時間を要するとともに,熟練した設計士でないと設計が行えない問題がある。
(中略)本発明は,前記の課題を解決して,コンピュータを用いて,住宅の設計及び強度計算等を簡単に行うことのできる住宅の構造計画支援方法を提供することを目的とする。そのため,請求項1に係る構造計画支援方法は,コンピュータの画面上で住宅の仕様データ及び形状データを入力し,且つ前記形状データ中に梁及び柱を入力した後,前記梁に対する荷重の載加位置及び荷重の大きさを入力し,これらの入力データに基いて前記コンピュータに所望の梁の曲げ及びたわみを計算させて計算結果を前記画面上に表示させ,前記梁の曲げ及び/又はたわみが許容値を超えている場合,前記梁及び/又は柱に関するデータを修正した上で再度前記計算を行わせるようにしたことを特徴とするものである。
ここでは,コンピュータに住宅の仕様及び形状データ,梁,柱の位置等を入力した後,前記コンピュータにより所望の梁の曲げ及びたわみを計算させるようにしたので,人手で計算する場合に比べて短時間で確実,容易に計算でき,画面に表示された計算結果に基いて梁の強度の判定を行える。梁の曲げ又はたわみが許容値を超えている場合は,例えば,梁の数を増すか,或いは柱の数を増す等によりデータの修正を行った上で,再度コンピュータに計算を行わせる。
請求項2に係る住宅の構造計画支援方法は,請求項1の方法において,前記入力データに基いて前記コンピュータに前記柱に加わる圧縮力を計算させて計算結果を前記画面上に表示させ,表示された圧縮力が許容値を超えている場合,前記梁及び/又は柱に関するデータを修正した上で再度前記柱の圧縮力を計算させるようにしたことを特徴とするものである。
ここでは,前記入力データに基いて,柱に加わる圧縮力をコンピュータに計算させるようにしたので,柱の強度の判定も容易に行えるようになる。
請求項3に係る住宅の構造計画支援方法は,請求項1又は2の方法において,前記入力データに加えて,前記住宅の基礎の形状及び大きさを入力するとともに,前記住宅の柱から前記基礎に加わる軸力の大きさを入力し,これらの入力データに基いて前記コンピュータに基礎に加わる圧縮力を計算させて計算結果を前記画面上に表示させ,表示された圧縮力が許容値を超えている場合,前記梁,柱又は基礎の内の少なくとも1つに関するデータを修正した上で再度前記基礎の圧縮力を計算させることを特徴とするものである。
ここでは,基礎に加わる圧縮力の計算をコンピュータを用いて行うようにしたので,住宅の設計が一層容易に行えるようになる。」(1頁1欄段落【0001】ないし2欄段落【0009】)イ「本発明の実施の形態について,以下,図面に基いて説明する。本実施の形態では,パーソナルコンピュータ(以下,パソコンという)の画面で住宅の仕様及び形状データを入力しながら住宅の設計を行い,同時に梁,柱及び基礎の強度チェックを行うようになっている。以下,図1及び図2に東側立面図及び南側立面図を,図3及び図4に1階及び2階の平面図を各々示すような2階建の住宅を設計する場合を例に挙げて説明する。まず,該住宅の仕様データ及び形状データをパソコンに入力する手順を図5のフローチャートを参照しながら説明する。
図5において,S1で各種条件を入力し,続いて,S2で,1階,2階(1F,2F)の各々の建物形状(外壁ライン)をパソコンの画面で入力する。すなわち,パソコンの画面に図6に示す建物形状入力画面を表示させ,まず,前記住宅の1階の外形ラインL1をパソコンの画面上で線図を描きながら入力する。具体的には,パソコンに付属したマウス1等の入力具を用いて,図3の平面図を参照しながら,外壁ラインL1を折れ線で入力する。入力方法としては,多角形の各頂点を指定して該多角形を描かせる多角形入力,BOX,つまり,長方形の対角線上に位置する2つの頂点を指定して該長方形を描かせるBOX入力等,適宜の方法を使用すればよい。
続いて,図7に示すように,前記住宅の2階の外壁ラインL2を図4の平面図を参照しながら入力する。この際,入力済の1階の外壁ラインL1を実線或いは点線等で表示しておくと,1階と2階の外壁ラインL1,L2の相互位置が把握し易くなるので,好適である。
次に,図5のS3で壁等の荷重要素,屋根,床等の種類を入力し,S4で屋根形状を入力する。
この場合,パソコンの画面に図8に示す屋根形状入力画面を表示させる。ここでは,屋根の形状が,例えば,タイプ1からタイプ9の9通りに分類され,各タイプ毎の形状モデルが前記屋根形状入力画面の右端部近傍に表示される。操作者は,X方向及びY方向の各々について,屋根がタイプ1乃至タイプ9のいずれに属するかを選択して,パソコンに入力する。なお,クロスハッチングAで示す部分は葺き下ろし部である。
前記住宅のX方向の屋根(2階部分の屋根)の形状は,図1の東側立面図に基いて,タイプ3であると見做して,キーボード等で数字“3”を入力する。タイプ3の形状モデルと東側立面図における屋根の形状とは左右対称であるが,左右対称のものは,同一タイプに属するものとする。一方,Y方向の屋根(2階部分の屋根)の形状は,図2の南側立面図からタイプ7であるものと見做して,数字“7”を入力する。又,該住宅の棟高-軒高の高さ〔単位はm〕を,X及びY方向の各々について入力する。
続いて,図5のS5で前記外壁ラインに沿って2階の耐力壁の配置を入力する。具体的には,図9の耐力壁配置画面で,まず,前記住宅の2階の外壁ラインL2の適宜位置に所望数の耐力壁2を配置すると,これらの耐力壁2が太線で表示される。その後,図5のS6でパソコンは入力された各耐力壁2の負担水平力,偏心率(地震荷重時)を算出し,必要により画面に表示する。いずれかの耐力壁2で負担水平力が許容範囲を超えている場合等は,S5に戻って,2階の耐力壁2の配置を修正する。
S6で2階の耐力壁の負担水平力,偏心率が許容範囲内であれば,続いて,S7及びS8で1階の耐力壁について,前記S5及びS6と同様の操作を行う。続いて,S9で荷重まとめ,つまり,荷重計算の結果をまとめてパソコンの画面に表示するとともに,1,2階の耐力壁が重なっている箇所の合力のチェックを行う。チェック結果が不可であれば,S5に戻る。
一方,チェック結果が可であれば,引き続き,S10で水平ブレースの必要の有無を判定するために,せん断力チェックを行う。せん断力チェックの結果が不可であれば,S11で水平ブレースを確保した後,処理を終了する一方,せん断力チェックの結果が可であれば,そのまま終了する。」(1頁2欄段落【0010】ないし2頁4欄段落【0017】)ウ「住宅の仕様及び形状データの入力が終了すると,次に,該住宅の梁,柱及び基礎に関するデータをパソコンに入力して強度チェックを行い,必要により,梁,柱等に関するデータの修正を行う。以下,図10のフローチャートにより,この強度チェックの手順を説明する。S1で,パソコンの画面上に図示しない選択画面を表示させ,梁,基礎等の住宅の各部の中から強度チェックを行うべき箇所を選択する。この場合,例えば,梁を選択する。続いて,S2で,パソコンに梁,柱等に関するデータを入力する前に,まず,当該梁,柱等を含む伏図を図面上等で仮決定するとともに,個々の梁,柱等に対する荷重の載加位置を予めメモ等しておき,且つ荷重の大きさを卓上計算器又は暗算等により求めておく(荷重ひろい)。
続いて,S3で,前記住宅の梁,柱等の伏図をパソコンの画面に入力する。ここでは,前記住宅の1階の梁及び柱の伏図を入力する場合を説明すると,図11に示すように,伏図入力画面において,前記図6で入力した1階の外壁ラインL1を表示させ,この外壁ラインL1に対応させて梁3及び柱4を入力する。入力方法としては,柱4の場合は1点入力,梁3の場合は両端を指定する2点入力等を使用できる。図12は前記図9で入力した2階の耐力壁2を前記梁3及び柱4とともに表示させたもので,このように,2階の耐力壁2を表示することにより,梁3及び柱4に対する2階の耐力壁2の影響を確認できる。
所望数の梁3及び柱4をパソコンの画面で入力した後,まず,梁3について強度チェックを行う。ここでは,2階の床を支持する梁3の強度チェックを行う場合につき説明する。図10のS4で,まず,入力済の複数の梁3について計算順序を指定する。すなわち,図11で入力した3本の梁3について,パソコンのマウスやキーボード(図示せず)等で計算順序を指定すると,図13に示すように,この計算順序が画面上で?@乃至?B等の数字で表示される。前記計算順序は,いずれの梁3からいずれの梁3に向かって荷重が伝達されるか等を考慮して順序が定められる。
計算順序の指定が終了すると,続いて,図10のS5で,個々の梁3に関する荷重データを入力する。具体的には,図14の荷重データ入力画面において,まず,梁番号1の梁3について荷重データを入力するが,この梁番号1の梁3には荷重が掛からないので,表中の荷重データは全て0とする。同様に,図15の荷重データ入力画面において,梁番号2の梁3にも荷重が掛からないので,表中の荷重データは全て0とする。
続いて,図16の荷重データ入力画面において,梁番号3の梁3については,荷重が加わるので,図10のS2で,予め求めておいた荷重値をパソコンの画面に表示された表中に入力する。
表中の長期荷重は,住宅の自重や住宅内に配置されるものと予想される家具類等に基いて梁3に加わる通常の荷重である。一方,表中の短期積雪荷重は,冬季の積雪時に梁3に加わる荷重であって,長期荷重より大きくなる。
この荷重データ入力画面の左側の模式図における横線は梁3を表している。横線の下部に隣接する△マークは梁3を支持する支点を表し,具体的には梁3を下方で支持する柱4又は梁3に連結される他の梁3である。荷重種類(k)としては,梁3の所定範囲内に大略均一に加わる等分布荷重(種類1:単位はkg/m)と,梁3の一箇所に集中して加わる集中荷重(種類2:単位はkg)との2種類があり,表中の左端に荷重種類(k)が表示される。表中のXは梁3の一端から荷重が載加される位置までの距離(単位はm)であり,Lは等分布荷重の場合の荷重の載加範囲の長さ(単位はm)である。
荷重データの入力が終了すると,入力されたデータ及び予め記憶された計算プログラムに基いて個々の梁3の曲げモーメント及びたわみがパソコンによって計算される。続いて,図10のS6で結果出力の選択を行う。すなわち,ここでは,3本の梁3について荷重データを入力し,曲げ及びたわみを計算したので,いずれの梁3についての計算結果をパソコンの画面上で参照するかを,図17の計算結果出力選択画面で選択する。
例えば,梁番号?Bの梁3の計算結果を参照したい場合,キーボード等で“3”を入力すると,図18の計算結果一覧画面に梁番号?Bの梁3に関する計算結果が表示される。ここでは,前述した長期荷重時,短期積雪荷重時に加えて,短期水平荷重時のデータも表示される。表中のMmaxは計算により求められた梁番号?Bの梁3に加えられ得る曲げモーメントの最大値である。
前記住宅で使用される梁3としては,強度,すなわち,断面積の異なるB梁,Y梁,H梁の3種類(表中にB,Y,Hで表示)の中からいずれかの梁が選択される。3種類の梁は,B梁,Y梁,H梁の順に強度が高くなっている。表中の許容Mは3種類の梁各々の曲げモーメントの許容最大値である。この場合,長期荷重時,短期積雪荷重時及び短期水平荷重時のいずれにおいても,MmaxがB梁,Y梁,H梁のいずれの許容Mよりも小さいので,B梁,Y梁,H梁のいずれを使用しても曲げモーメントに対しては必要強度が得られることになる。許容Mの右隣の判定欄(曲げモーメントの判定欄)における○印はそのことを意味している。この場合,通常,最も強度の低いB梁を選択する。なお,MmaxがB梁,Y梁,H梁の内のいずれかの許容Mより大きければ,当該梁の曲げモーメントの判定欄に×印が表示され,その場合,当該梁を使用することは不適切となる。
表中のたわみσ(cm)の欄には,B梁,Y梁,H梁を使用した場合の各々についてたわみの最大値が表示され,これが予め定められたたわみの許容最大値と比較されて,許容最大値より小さい場合,たわみ欄の右隣の判定欄が○印となる。ここで,たわみの許容最大値は,例えば,梁3のスパンの1/300以下とされる。なお,床振動等を考慮して,長期荷重時のたわみは,0.7cm未満が好適である。
図16の表の下部における支点反力は,梁3から支点に加わる反力であり,支点が柱4である場合,この反力が柱4に対する圧縮力となる。A乃至Cは各支点に対して割り当てられた符号であり,梁番号?Bの梁3は,図13に示したように,3つの柱4a乃至4cによって支持されているので,この場合,A乃至Cは前記柱4a乃至4cに対応する。
パソコンに強度計算を行わせた後,図16中の表により梁3の曲げモーメント及びたわみが許容範囲内であるか否かを確認し,許容範囲内でなければ,図10のS7の判定がOUTであるからS2に戻って伏図の修正(例えば,梁3又は柱4の数の増加)等を行う。一方,図16中の表で曲げモーメント及びたわみが許容範囲内であれば,図10におけるS7の判定がOKとなって,S8に移行し,以下,柱4の圧縮力の判定を行う。
すなわち,S8で必要により,追加荷重ひろいを行う。具体的には,前記図16の表の下部に表示される支点反力が,前述のように,柱4a乃至4cに対する圧縮力となる。ここでは,追加荷重ひろいとして,前記支点反力を柱4a乃至4cの圧縮力として,メモ用紙等に,例えば,以下の表1のような要領で反力の欄に記入しておく。続いて,S9で,図19に示すように,必要により,パソコンの画面上に柱許容圧縮力一覧を表示させる。この柱許容圧縮力一覧から許容圧縮力を読み取り,表1の許容の欄に記入する。」(3頁4欄段落【0018】ないし4頁6欄段落【0030】)エ「パソコンへの入力時には,画面に図21に示す基礎データ入力画面を表示させ,まず,地耐力を選択する。この地耐力は地盤の固さを示す尺度で,その値が大きい程,固く,良好な地盤である。ここでは,建築予定地の地盤を調査した結果に基き,例えば,5t/m を選択2する。続いて,強度判定を行う部分の基礎形状を1乃至4の4種類のパターン(直線型,L型,T型,十字型)から選択して表中に入力するとともに,a乃至dの部位の長さ(単位m)を表中に入力する。更に,長期軸力,短期積雪軸力及び短期水平軸力の欄には,前記表1中の各柱4a乃至4cの長期荷重時,短期積雪荷重時,短期水平荷重時の反力と追加分の合計値,つまり,各柱4a乃至4cから各々の支持部位5a乃至5cに加わる軸力を入力する。
基礎データの入力が終了すると,パソコンは長期荷重時,短期積雪荷重時及び短期水平荷重時の各々について,基礎5の1m当たりに加わる圧縮力を計算し,図22に示すように,計算結果一覧として表示する。表中の左端の許容値は,許容圧縮力であって,この許容圧縮力は地耐力の大きさによって異なるが,ここでは,地耐力5t/m の場合の値が表示されている。パ2ソコンにより計算された長期荷重時,短期荷重時の圧縮力がこの許容値より小さい場合は,表中の右端の判定欄の判定結果が○となる。
前記基礎の圧縮力の判定結果が全て○となれば,図10のS11の判定がOKとなって,梁,柱及び基礎の強度チェックが全て終了する。一方,前記いずれかの支持部位5a乃至5cにおいて,判定結果が×となれば,S11の判定がOUTとなってS2に戻り,梁又は柱の設計の修正等を行って前記と同様の手順を繰り返す。なお,上記実施の形態で説明したような内容の処理を行うための手順をコンピュータ言語で表現したプログラムを,フロッピーディスクやCDROM等の適宜の記録媒体に記録して,使用,販売等することは,本発明方法を普及させる上で有益である。」(5頁8欄段落【0037】ないし【0039】)(3)本件発明1についてア本件発明1と引用発明との対比(ア)上記(2)アないしウによれば,引用発明は,コンピュータを用いて梁,柱及び基礎の強度の判定を行えるようにしたものであって,コンピュータの画面上で住宅の仕様及び形状データを入力し,前記形状データ中に梁及び柱を入力した後,前記梁に対する荷重の載加位置及び荷重の大きさを入力し,これらの入力データに基づいて前記コンピュータに所望の梁の曲げ及びたわみを計算させて計算結果を前記画面に表示させ,さらに,住宅の基礎の形状及び大きさを入力するとともに,住宅の柱から基礎に加わる軸力の大きさを入力し,これらの入力データに基づいて前記コンピュータに基礎に加わる圧縮力を計算させて計算結果を前記画面上に表示させる装置である。
そして,上記梁,柱は上部構造といえるから,基礎構造について面状の基礎スラブを有するものといえないものの,引用発明と本件発明1とは,「基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置」(以下,構成1A’ともいう)である点で一致している。
上記(2)エによれば,引用発明は,上記の入力に加えて,地耐力を入力するものであり,上記梁,柱は上部構造の架構といえるから,引用発明と本件発明1とは,「1B上部構造の架構,該上部構造に作用する荷重,基礎構造の形状,及び地盤特性を受け付ける第1受付手段」を備える点及び「1C該第1受付手段により架構を受け付けた上部構造に,前記第1受付手段により受け付けた荷重が作用することによって生じる応力及び変形を計算する計算手段」を備える点で一致している。
もっとも,受け付けるデータについては,引用発明のものは,布基礎についてのものでありそれについて計算するものであるところ,本件発明1のものは,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのものであり,それについて計算するものである点で相違する。
そして,上記(2)アないしエによれば,引用発明と本件発明1とは,「1D該計算手段により計算した応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付ける第2受付手段」を備える点で一致している。
もっとも,受け付けるデータについては,引用発明のものは,布基礎についてのものでありそれについて計算するものであるところ,本件発明1のものは,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのものであり,それについて計算するものである点で相違する。
なお,この点につき被請求人は,引用例2のものは,上部構造計算結果をユーザが入力しなければならないものである旨主張している。しかしながら,構成1Dは単に荷重を受け付ける受付手段に止まるものであり,荷重データがどのように入力されるかについて規定されているわけでないので,ユーザによる入力を排除するものでない。被請求人の上記主張は,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくものでなく採用できない。
また仮に,上部構造計算結果をユーザによる入力なしに基礎構造計算に用いられるものであったとしても,ある計算の結果を次の計算にユーザによる入力なしに自動的に反映することは,ある計算とそれに続く次の計算を同じ装置で行うものにおいては常套手段というべきものである。
また,上記(2)エによれば,引用発明は,上記の入力により,圧縮力の計算をするものであり,有限要素法とはいえないものの,基礎構造についてのなんらかの力学モデルの存在が認められるから,引用発明と本件発明1とは,「前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段」(以下,構成1E’ともいう)を備える点及び,「1F’前記第1受付手段により形状を受け付けた基礎構造に,前記第2受付手段により受け付けた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成手段により作成した力学モデルを用いて計算する手段」を備える点で一致している。
そして,上記(2)アないしエによれば,引用発明のコンピュータは,上記のごとく,建築物の構造計算をする装置といえるから,引用発明と本件発明1とは,「建築物の構造計算装置。」である点で一致している。
(イ)してみると両者は,「1A’基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,1B上部構造の架構,該上部構造に作用する荷重,基礎構造の形状,及び地盤特性を受け付ける第1受付手段と,1C該第1受付手段により架構を受け付けた上部構造に,前記第1受付手段により受け付けた荷重が作用することによって生じる応力及び変形を計算する計算手段と,1D該計算手段により計算した応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付ける第2受付手段と,1E’前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,1F’前記第1受付手段により形状を受け付けた基礎構造に,前記第2受付手段により受け付けた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成手段により作成した力学モデルを用いて計算する手段と1Gを備えることを特徴とする建築物の構造計算装置。」で一致し,以下の点で相違する。
a本件発明1が,「面状の基礎スラブを有する」基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,「前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記第1受付手段により受け付けた地盤特性を示すばね要素を想定して」前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,「有限要素法により」計算する手段を備え,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのデータを受け付け,それについて計算するものであるのに対し,引用発明のものは,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,計算する手段を備え,布基礎についてのデータを受け付け,それについて計算するものである点。
イ相違点についての判断上記(1)アないしオによれば,引用例1は,パイルド・ラフト基礎について記載されているものであって,図7.3.5に示すように,直接基礎部分を曲げ板要素や梁要素などでモデル化し,杭及び地盤は相互作用を考慮したばねでモデル化するものであり,直接基礎部分(本件発明1の「面状の基礎スラブ」に対応する)の節点には,建物荷重がかかり,また,地盤節点における鉛直反力として地盤ばねが想定されている。また,有限要素法は,直接基礎部分だけでなく杭,地盤についても有限要素でモデル化するものである。
そして,引用例2のものは,やはり建築の上部構造及び基礎の計算をする装置であり,その受け付けデータ及び計算として,建築分野において普通である面状の基礎スラブについて所定のデータを受け付けし,引用例1に記載された所定の計算をすればいいのであるから,そのように構成することは当業者にとって容易に推考し得ることといえる。
なお,この点につき被請求人は,本件発明1の基礎構造の力学モデルは,基礎スラブの全面を分割する節点と地盤との間の相互作用のみを考慮したばね要素を想定するものであり,引用例1に記載された力学モデルとは相違する旨主張している。しかしながら,引用例1のパイルド・ラフト基礎も「面状の基礎スラブを有する」ものに相違なく,本件特許請求の範囲の請求項1の記載に,必ずしも杭があるものを排除する規定があるわけでもないのであるから,本件発明1から,面状の基礎スラブと杭とを有するパイルド・ラフト基礎の計算装置が排除されているということはできない。また,本件特許請求の範囲の記載,明細書の記載を参酌しても,地盤との相互作用のみに限定する記載があるわけではなく,むしろ本件明細書段落【0038】によれば,杭を有する場合も考慮されたものといえる。このことは,後ほど論ずる,本件発明3が,杭を有するものであり,本件発明1(請求項1に係るもの)に従属していることからもいえる。被請求人の上記主張は,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくものでなく採用できない。
(4)本件発明2についてア本件発明2と引用発明との対比本件発明1についての上記検討を勘案すれば,本件発明2と引用発明とは,「2A’基礎構造により上部構造を支える建築物の前記基礎構造を,前記上部構造に生じる応力を用いて計算する装置において,2B基礎構造の形状,地盤特性,及び前記応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付ける受付手段と,2C’前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,2D’前記受付手段により形状を受け付けた基礎構造に,前記受付手段により受け付けた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成手段により作成した力学モデルを用いて計算する手段と2Eを備えることを特徴とする建築物の構造計算装置。」で一致し,以下の点で相違する。
(ア)本件発明2が,「面状の基礎スラブを有する」基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を,前記上部構造に生じる応力を用いて計算する装置において,「前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受付手段により受け付けた地盤特性を示すばね要素を想定して」前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,「有限要素法により」計算する手段を備え,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのデータを受け付け,それについて計算するものであるのに対し,引用発明のものは,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,計算する手段を備え,布基礎についてのデータを受け付け,それについて計算するものである点。
イ相違点についての判断本件発明1についての上記検討を勘案すれば,上記相違点は当業者が容易に推考し得ることである。
(5)本件発明3についてア本件発明3と引用発明との対比本件発明1,2についての上記検討を勘案しつつ,本件発明3と引用発明とを対比すると,両者の相違点は以下のとおりである。
(ア)「面状の基礎スラブを有する」基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を,前記上部構造に生じる応力を用いて計算する装置において,「前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記第1受付手段により受け付けた地盤特性を示すばね要素を想定して」前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,「有限要素法により」計算する手段を備え,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのデータを受け付け,それについて計算するものであるのに対し,引用発明のものは,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,計算する手段を備え,布基礎についてのデータを受け付け,それについて計算するものである点。
(イ)前記建築物を支持すべく杭を打設する又は杭状地盤改良を行う箇所の配置,及び前記杭又は前記杭状地盤改良の特性を受け付ける手段をさらに備え,前記作成手段は,前記基礎スラブの全面を分割する節点のうち,前記杭を打設する又は前記杭状地盤改良を行う箇所に対応する節点を除く節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受け付けた地盤特性を示すばね要素又は杭基礎の特性を考慮したばね要素,又は前記杭若しくは前記杭状地盤改良された地盤により支持される前記基礎構造の特性を考慮したばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成すべくなしてある点。
イ相違点についての判断(ア)相違点(ア)について本件発明1,2についての上記検討を勘案すると,当業者が容易に推考しえたものである。
(イ)相違点(イ)について上記(1)アないしオによれば,引用例1は,パイルド・ラフト基礎について記載されているものであって,図7.3.5に示すように,直接基礎部分を曲げ板要素や梁要素などでモデル化し,杭及び地盤は相互作用を考慮したばねでモデル化するものであり,直接基礎部分(本件発明1の「面状の基礎スラブ」に対応する)の節点には,建物荷重がかかり,また,地盤節点における鉛直反力として地盤ばねが想定されているとともに,杭がある節点については,杭ばねを想定するものである。また,有限要素法は,直接基礎部分だけでなく杭,地盤についても有限要素でモデル化するものである。
そして,引用例2のものは,やはり建築の上部構造及び基礎の計算をする装置であり,その受け付けデータ及び計算として,建築分野において普通である面状の基礎スラブについて所定のデータを受け付け,引用例1に記載された所定の計算をすればいいのであるから,そのように構成することは当業者にとって容易に推考し得ることといえる。
また,上記解析法における計算に際しては,杭等の特性を設定することは普通のことといえる。
してみれば,建築物を支持すべく杭を打設する又は杭状地盤改良を行う箇所の配置,及び前記杭又は前記杭状地盤改良の特性を受け付ける手段をさらに備え,前記作成手段は,前記基礎スラブの全面を分割する節点のうち,前記杭を打設する又は前記杭状地盤改良を行う箇所に対応する節点を除く節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受け付けた地盤特性を示すばね要素又は杭基礎の特性を考慮したばね要素,又は前記杭若しくは前記杭状地盤改良された地盤により支持される前記基礎構造の特性を考慮したばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成すべくなすことは当業者が容易に推考し得ることである。
そして,これら相違点を総合的に考慮しても当業者が推考し難い格別のものであるとすることはできず,また本願発明(判決注:「本件発明3」の誤記であると認められる。)の効果についてみても,上記構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず,格別顕著なものがあるともいえない。
(6)本件発明4についてア本件発明4と引用発明との対比本件発明1,2についての上記検討を勘案しつつ,本件発明4と引用発明とを対比すると,上記(2)エによれば,引用例2には,処理を行うための手順をコンピュータ言語で表現したプログラムについても記載があるから,両者は,「4A’コンピュータに,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算させるためのコンピュータプログラムにおいて,4Bコンピュータに,上部構造の架構を受け付けさせる第1受付ステップと,4Cコンピュータに,前記上部構造に作用する荷重を受け付けさせる第2受付ステップと,4Dコンピュータに,前記第1受付ステップにより架構を受け付けさせた上部構造に,前記第2受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力及び変形を計算させる計算ステップと,4Eコンピュータに,基礎構造の形状及び地盤特性を受け付けさせる第3受付ステップと,4Fコンピュータに,前記計算ステップにより計算させた応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付けさせる第4受付ステップと,4G’コンピュータに,前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,4H’コンピュータに,前記第3受付ステップにより形状を受け付けさせた基礎構造に,前記第4受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成ステップにより作成させた力学モデルを用いて計算させるステップと4Iを実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。」で一致し,以下の点で相違する。
(ア)本件発明4が,「面状の基礎スラブを有する」基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算させるためのコンピュータプログラムにおいて,「前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記第3受付ステップにより受け付けさせた地盤特性を示すばね要素を想定して」前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,「有限要素法により」計算させるステップを実行させ,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのデータを受け付け,それについて計算するものであるのに対し,引用発明のものは,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,計算する手段を備え,布基礎についてのデータを受け付け,それについて計算するものである点。
イ相違点についての判断本件発明1,2についての上記検討を勘案しつつ,上記相違点について検討すると,上記相違点は,当業者が容易に推考し得ることである。
(7)本件発明5についてア本件発明5と引用発明との対比本件発明1,2,4についての上記検討を勘案しつつ本件発明5と引用発明とを対比すると,両者は,「5A’コンピュータに,基礎構造により上部構造を支える建築物の前記基礎構造を,前記上部構造に生じる応力を用いて計算させるためのコンピュータプログラムにおいて,5Bコンピュータに,基礎構造の形状,地盤特性,及び前記応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付けさせる受付ステップと,5C’コンピュータに,前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,5D’コンピュータに,前記受付ステップにより形状を受け付けさせた基礎構造に,前記受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成ステップにより作成させた力学モデルを用いて計算させるステップと5Eを実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。」で一致し,以下の点で相違する。
(ア)本件発明5が,「面状の基礎スラブを有する」基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算させるためのコンピュータプログラムにおいて,「前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受付ステップにより受け付けさせた地盤特性を示すばね要素を想定して」前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,「有限要素法により」計算させるステップを実行させ,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのデータを受け付け,それについて計算するものであるのに対し,引用発明のものは,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,計算する手段を備え,布基礎についてのデータを受け付け,それについて計算するものである点。
イ相違点についての判断本件発明1,2,4についての上記検討を勘案しつつ,上記相違点について検討すると,上記相違点は,当業者が容易に推考し得ることである。
(8)本件発明6についてア本件発明6と引用発明との対比本件発明1ないし5についての上記検討を勘案しつつ本件発明6と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(ア)本件発明6が,「面状の基礎スラブを有する」基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算させるためのコンピュータプログラムにおいて,「前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記第3受付ステップにより受け付けさせた地盤特性を示すばね要素を想定して」前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,「有限要素法により」計算させるステップを実行させ,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのデータを受け付け,それについて計算するものであるのに対し,引用発明のものは,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,計算する手段を備え,布基礎についてのデータを受け付け,それについて計算するものである点。
(イ)コンピュータに,前記建築物を支持すべく杭を打設する又は杭状地盤改良を行う箇所の配置,及び前記杭又は前記杭状地盤改良の特性を受け付けさせるステップをさらに備え,前記作成ステップは,コンピュータに,前記基礎スラブの全面を分割する節点のうち,前記杭を打設する又は前記杭状地盤改良を行う箇所に対応する節点を除く節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受け付けさせた地盤特性を示すばね要素,又は前記杭若しくは前記杭状地盤改良された地盤により支持される前記基礎構造の特性を考慮したばね要素を想定して前記基礎構造の力学モデルを作成させるべくなしてある点。
イ相違点についての判断(ア)相違点(ア)について本件発明1ないし5についての上記検討を勘案しつつ,上記相違点について検討すると,上記相違点は,当業者が容易に推考し得ることである。
(イ)相違点(イ)について本件発明3についての上記検討を勘案しつつ,上記相違点について検討すると,上記相違点は,当業者が容易に推考し得ることである。
そして,これら相違点を総合的に考慮しても当業者が推考し難い格別のものであるとすることはできず,また本願発明(判決注:「本件発明6」の誤記であると認められる。)の効果についてみても,上記構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず,格別顕著なものがあるともいえない。
(9)本件発明7についてア本件発明7と引用発明との対比本件発明1,2,4についての上記検討を勘案しつつ,本件発明7と引用発明とを対比すると,上記(2)エによれば,引用例2には,処理を行うための手順をコンピュータ言語で表現したプログラムを,フロッピーディスクやCDROM等の適宜の記録媒体に記録する点についても記載があるから,両者は,「7A’コンピュータに,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算させるためのコンピュータプログラムを記録してあるコンピュータでの読み取りが可能な記録媒体において,7Bコンピュータに,上部構造の架構を受け付けさせる第1受付ステップと,コンピュータに,前記上部構造に作用する荷重を受け付けさせる第2受付ステップと,コンピュータに,前記第1受付ステップにより架構を受け付けさせた上部構造に,前記第2受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力及び変形を計算させる計算ステップと,7Cコンピュータに,基礎構造の形状及び地盤特性を受け付けさせる第3受付ステップと,7Dコンピュータに,前記計算ステップにより計算させた応力を含む,前記基礎構造に作用する荷重を受け付けさせる第4受付ステップと,7E’コンピュータに,前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,7F’コンピュータに,前記第3受付ステップにより形状を受け付けさせた基礎構造に,前記第4受付ステップにより受け付けさせた荷重が作用することによって生じる応力を,前記作成ステップにより作成させた力学モデルを用いて計算させるステップと7Gを実行させるコンピュータプログラムを記録してあることを特徴とするコンピュータで読み取りが可能な記録媒体。」で一致し,以下の点で相違する。
(ア)本件発明7が,「面状の基礎スラブを有する」基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算させるためのコンピュータプログラムを記録してあるコンピュータでの読み取りが可能な記録媒体において,「前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記第3受付ステップにより受け付けさせた地盤特性を示すばね要素を想定して」前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,「有限要素法により」計算させるステップを実行させ,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのデータを受け付け,それについて計算するものであるのに対し,引用発明のものは,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,計算する手段を備え,布基礎についてのデータを受け付け,それについて計算するものである点。
イ相違点についての判断本件発明1,2,4についての上記検討を勘案しつつ,上記相違点について検討すると,上記相違点は,当業者が容易に推考し得ることである。
(10)本件発明8についてア本件発明8と引用発明との対比本件発明1ないし7についての上記検討を勘案しつつ,本件発明8と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(ア)本件発明8が,「面状の基礎スラブを有する」基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算させるためのコンピュータプログラムにおいて,「前記基礎スラブの全面を分割する節点と,建築物を支える地盤との間に,前記受付ステップにより受け付けさせた地盤特性を示すばね要素を想定して」前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップと,「有限要素法により」計算させるステップ(を)実行させ,面状の基礎スラブを有する基礎構造についてのデータを受け付け,それについて計算するものであるのに対し,引用発明のものは,基礎構造により上部構造を支える建築物の構造を計算する装置において,前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段と,計算する手段を備え,布基礎についてのデータを受け付け,それについて計算するものである点。
イ相違点についての判断本件発明1ないし7についての上記検討を勘案しつつ,上記相違点について検討すると,上記相違点は,当業者が容易に推考し得ることである。また本願発明(判決注:「本件発明8」の誤記であると認められる。)の効果についてみても,上記構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず,格別顕著なものがあるともいえない。
(11)本件発明9について本件発明1ないし3についての上記検討を勘案すれば,本件発明1ないし3は引用例1,2から当業者が容易に推考し得たものといえ,当該発明の構造計算装置を用いた構造計算の結果を反映させて建築された建築物も,他に格別のものがあるといえないから,やはり当業者が容易に推考し得たものである。
(12)審決の「むすび」以上のとおりであるから,本件各発明は,引用発明及び引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
第3審決取消事由の要点審決は,引用発明の認定をいずれも誤り本件各発明との一致点を誤認し,また,各相違点についての判断をいずれも誤った結果,本件各発明に係る本件特許が特許法29条2項の規定に違反してされたものであると判断したものであるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(引用発明の認定の誤りによる一致点の誤認)(1)本件発明1及び2についてア「基礎構造の力学モデルを作成する作成手段」について(ア)審決は,本件発明1及び2と引用発明との各対比判断の前提として,「引用発明は,基礎構造についてのなんらかの力学モデルの存在が認められるから,『基礎構造の力学モデルを作成する作成手段』を備える」旨認定し,これを本件発明1及び2と引用発明の一致点と認定した(前記第2の3(3)及び(4)の各ア)。
(イ)aしかしながら,引用発明には,「力学モデル」と認め得るものは存在しない。すなわち,基礎の強度計算に関し引用発明において行われることは,基礎の1m当たりに加わる圧縮力(力/長さ)の計算及びその計算結果が許容値よりも大きいか小さいかについての判断のみであり(引用例2の段落【0038】参照),そこには,「割り算」という単純な計算があるのみである。
bそもそも,引用発明においては,後記イのとおり,基礎構造に生じる応力が計算されることはなく,地盤の検討が行われるのみであるから,当該応力を算出するために必要な「力学モデル」は不要であり,存在し得ないものである。
cしたがって,引用発明は,「基礎構造の力学モデルを作成する作成手段」を備えるものではないから,審決の上記認定は誤りである。
(ウ)被告は,「原告主張に係る『力学モデル』の意味するところは不明である」と主張する。
しかしながら,構造物の構造計算を行う場合において,コンピュータを利用するか否かにかかわらず,「力学モデル」が必須の概念であることは,当業者に周知の事項であり,「力学モデル」との用語も,一般的な技術用語である(なお,「解析モデル」,「構造モデル」などと表現されることもある。)。
構造物の構造計算(構造解析)を行うに当たっては,現実の構造物自体を解析することはできないから,構造物の力学的特性や荷重・外力の力学的特性を抽象化してモデル化する必要がある。本件各発明を例にとると,支持地盤は,節点ばねにモデル化して支点モデルとしており,べた基礎は,メッシュ分割した解析モデルとして有限要素法により解析しており,荷重については,柱軸力は集中荷重にモデル化し,線状に掛かる壁荷重等は分布荷重にモデル化しているところ,これらの支点モデル,解析モデル,荷重モデル等を総称して,「力学モデル」という。
すなわち,構造物の構造計算においては,荷重・外力の特性及び構造物の特性を構造計算用に抽象化し,構造計算を可能にする概念に再現したものが「力学モデル」である。
このように,「力学モデル」の意味するところは明確であるから,被告の上記主張は失当である。
イ「基礎構造に生じる応力を計算する手段」について(ア)審決は,上記各対比判断の前提として,「引用発明は,『基礎構造に生じる応力を計算する手段』を備える」旨認定した(前同)。
(イ)aここで,「応力」とは,株式会社岩波書店平成5年12月6日発行(社団法人日本建築学会編)の「建築学用語辞典」(乙9。以下「建築学用語辞典」という。)によれば,「外力が作用する物体内に単位面積の任意の仮想面を考えたとき,これに作用する力」又は「外力が作用する物体の内部に生じる軸(方向)力,せん断力,曲げモーメントなどの総称。内力ともいう」とされている。
bところが,引用例2の記載中,基礎について言及している部分は,段落【0036】ないし【0042】のみであって,そこには,「応力」についての記載はなく,その他,引用例2には,基礎構造に生じる応力を計算するとの技術的思想は存在しない。
cなお,引用例2の段落【0038】に記載された「基礎の1m当たりに加わる圧縮力」とは,基礎に掛かる地盤からの反力,すなわち,「外力」であり,本件発明1及び2における「基礎構造(の内部)に生じる応力」ではない。
引用発明においては,基礎の有効長さに柱からの軸力が作用して基礎に圧縮力が加わるとし,これが許容値の範囲内であるか否かの判定がされているところ,許容値は,基礎形状と支持地盤の地耐力により決定されるものであるから,基礎が支持地盤に及ぼす接地圧を計算しなければならない。そして,接地圧は,上記軸力から生じる圧縮力に,有効長さの基礎の自重と基礎に載っている土被りの重量を加えたものとして算出されるものであるが,引用例2には,このような算出方法についての説明が全くない。
dまた,引用例2においては,「基礎の強度」などの表現がみられるが(段落【0036】,【0039】等),その実質は,基礎を支持する「地盤の強度」である。なぜなら,引用例2において,基礎の強度の判定基準とされている許容値は,地耐力であるところ,地耐力を判定基準とする判定対象は,地盤以外にあり得ないからである(標準設計による布基礎に基づく引用発明においては,基礎の強度が特に問題となることはなく,基礎は重量だけの存在としてとらえられ,上部構造から加わる柱軸力と地耐力とを比較検討すれば足りるとされているものと考えられる。)。
eなお,被告は,「外力と応力を区別して論じる意味はない」と主張するが,外力により基礎構造に生じる応力を計算しなければ基礎構造の強度を判定することはできないのであるから,基礎構造の強度の判定において,外力と応力は,区別して論じなければならないものである。
f以上のとおり,引用発明においては,地盤についての検討はされているものの,基礎に生じる応力が計算されているものではないから,審決の上記(ア)の認定は誤りである。
(ウ)被告は,「本件明細書にも,『基礎構造(の内部)に生じる応力を計算する手段』を具体的に説明する記載はみられない」と主張するが,本件明細書及び本件特許に係る図面(甲3)には,マットスラブの全面をメッシュ分割し,有限要素法によって応力を計算することが十分に記載されている(段落【0040】ないし【0046】,図5ないし図11等)。
(2)本件発明3について本件特許に係る請求項3(以下,本件特許に係る請求項に言及するときは,単に,「請求項3」などという。)は,請求項1又は2を引用し,杭の打設又は杭状地盤改良がある場合についての限定事項を付したにすぎないものであるから,本件発明3についても,審決は,上記(1)のとおり,引用発明の認定を誤ったものである。
(3)本件発明4ないし6について請求項4又は5と請求項6との関係は,請求項1又は2と請求項3との関係が,発明のカテゴリーを変えてそのまま繰り返されているにすぎないものであるから,本件発明4ないし6についても,審決は,上記(1)のとおり,引用発明の認定を誤ったものである。
(4)本件発明7及び8について請求項7又は8は,請求項1又は2を,発明のカテゴリーを「記録媒体」として書き直したにすぎないものであるから,本件発明7及び8についても,審決は,上記(1)のとおり,引用発明の認定を誤ったものである。
(5)本件発明9について請求項9は,請求項1ないし3を引用したにすぎないものであるから,本件発明9についても,審決は,上記(1)のとおり,引用発明の認定を誤ったものである。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)審決は,引用発明と引用例1に記載された発明とを組み合わせることにより,本件各発明と引用発明との各相違点につき,いずれも,「当業者が容易に推考し得ることである」旨判断したが,以下のとおり,これらの判断は誤りである。
(1)審決の判断手法についてア審決は,いわば,本件各発明のある構成が引用例2に記載され,他の構成が引用例1に記載されていることをもって,各相違点に係る本件各発明の構成につき,当業者が容易に推考し得ると安易に判断したものである。
イしかしながら,発明は,各構成要素の有機的な結合により一定の作用効果を奏するものであるから,たとえ,各構成要素が複数の刊行物に記載されていたとしても,当業者が,複数の刊行物の記載を論理的に組み立てて当該発明に容易に想到することができない場合もある。したがって,各刊行物に開示された構成を組み合わせることの容易性については,より緻密で的確な判断が求められるというべきであり,本件においては,引用例1に記載された技術を引用発明に組み合わせようとする動機付けがあるか否かについての検討がされなければならない。
ウなお,審決は,当該組合せの容易性の判断において,「引用例1のパイルド・ラフト基礎も『面状の基礎スラブを有する』ものに相違なく,本件特許請求の範囲の請求項1の記載に,必ずしも杭があるものを排除する規定があるわけでもない」ことを理由としているが,このような事項は,当該組合せの容易性を根拠付ける理由となるものではない(上記理由の前段部分は,「パイルド・ラフト基礎も直接基礎の一種に相違ない」と言うに等しく,当業者がそのような発想をすることはあり得ないし,後段部分についても,べた基礎に杭を組み合わせれば別の基礎になってしまうのであるから,当業者が「請求項1の記載は,杭があるものを排除していない」などと発想することはあり得ない。)。
(2)パイルド・ラフト基礎において検討される事項と引用発明において検討される事項について引用例2には,基礎構造について,「布基礎であって」との記載(段落【0036】)があるのみであり,その他の基礎構造形式については何らの示唆もないところ,べた基礎(面状の基礎スラブ)であれば,基礎構造について,引用発明と同様に,地耐力及び圧縮力を検討するのみで足りるとすることも可能であるから,当業者において,引用発明と組み合わせようと動機付けられる他の基礎構造形式があるとすれば,それは,せいぜい,べた基礎にとどまるというべきである。
これに対し,引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎は,面状の基礎スラブを有するものではあるものの,摩擦杭が重要な役割を担うものであり,直接基礎と摩擦杭による支持力の分担比率が重要な検討テーマとなるものであるから,パイルド・ラフト基礎においては,基礎構造について,地耐力及び圧縮力を検討することのみで足りるということはあり得ない。また,パイルド・ラフト基礎は,べた基礎と摩擦杭基礎との複合基礎であるから,べた基礎部分と杭基礎部分をそれぞれ構造解析して単純に結果を足せばよいというものでもない(両部分が相互に影響しあう第3の基礎として,独自の解析方法が必要とされるものである。)。
以上からすると,当業者において,引用発明にパイルド・ラフト基礎を組み合わせようとする動機付けが生じる余地はないというべきである。
(3)地盤特性情報に基づいて基礎構造の計算・設計を行うとの技術的思想について布基礎は,単純な構造を有する基礎であって,標準設計の断面を採用すれば足り,幅の大小等を除くほか,個別の設計の必要がほとんどないものであるから,引用発明においては,基礎構造そのものの計算・設計に関して他の資料を参照しようとする動機付けが生じる余地はなく,ましてや,引用発明から,地盤特性を示すばね要素を想定して基礎構造の力学モデルを作成し,有限要素法を利用して基礎構造に生じる応力を計算することを想起することは,およそ考え難いというべきである。
(4)パイルド・ラフト基礎の特殊性について建築設計実務においては,通常,建築物を支える支持地盤が地表面近くにある敷地であれば直接基礎が,当該支持地盤が地中深くにある敷地であれば杭基礎(支持杭が主流である。)がそれぞれ選択されるものであるところ,確実に施工することができる杭先端の地下深度は地表下40m程度までと言われており,一般に,当該深度が地表下20m以深となる場合には慎重な検討が必要とされている。
支持層が更に深く,支持杭を支持層に到達させることが困難な敷地においては,沈下を覚悟した上,摩擦杭が選択されることになるが,そのうち,一定の条件を満たす場合に初めて,パイルド・ラフト基礎が選択されることになる。
このように,パイルド・ラフト基礎は,極めてまれな,特殊なケースにおいて,やむを得ず選択されるものであって,基礎形式を選択する際の標準の判断基準となり得るものではない。換言すれば,パイルド・ラフト基礎は,それが真に必要な敷地でなければ,選択されることはあり得ない。
したがって,当業者が,布基礎に基づく引用発明に,パイルド・ラフト基礎に係る引用例1に記載された発明を組み合わせようと発想することはあり得ないというべきである。
(5)引用例1における設計指針の示し方についてア引用例1は,その目次からも明らかなとおり,直接基礎,杭基礎及び併用基礎(パイルド・ラフト基礎は,この一例である。)のそれぞれについて,設計指針を示すものである。
ところで,審決が適用した引用例1記載の計算方法は,杭を打設するパイルド・ラフト基礎に関するものであるから,布基礎に関する引用発明に接した当業者が参照するのは,パイルド・ラフト基礎に係る記載ではなく,引用例1の「第5章直接基礎」の記載,特に,「5.6節基礎部材の設計」の記載であるはずである。
そして,「5.6節基礎部材の設計」の内容をみても,本件各発明が対象とするべた基礎について,以下の記載があるのみであり,各相違点に係る本件各発明の構成,特に,本件発明1の構成1E及び1Fについて示唆するような記載は全くない(なお,併用基礎(パイルド・ラフト基礎)の場合に,直接基礎部分と杭基礎部分をそれぞれ構造解析して結果を足せばよいというものでないことは,上記(2)のとおりである。)。
「べた基礎の基礎スラブは一様な接地圧(基礎スラブ部分の自重を含まない値)を受ける周辺固定長方形スラブとして算定する。基礎梁の算定にあたって,その負担する接地圧の区域は図5.6.7(b)に示したように上部構造の床梁の設計におけるものと同様の取り扱いをすればよい。これに,上部構造から柱脚に伝わる荷重および不同沈下により生じる応力を加味して算定する。」(171頁2〜5行)イなお,審決が適用した引用例1記載の計算方法は,杭を打設するなどする場合に係る本件発明3において検討の対象となるものではあるが,請求項3は,請求項1又は2の従属項であるから,本件発明1及び2について,当該計算方法と引用発明との組合せの容易性が否定される以上,本件発明3についても,当該容易性は否定されることになる。
(6)被告の主張について被告は,「引用例2には,基礎構造に上部構造の荷重が作用することによって生じる応力をコンピュータで計算することが,具体的なインタフェースを例示した上,詳細に説明されている」と主張するが,引用例2には,そのような記載は存在しない。
第4被告の反論の骨子1取消事由1(引用発明の認定の誤りによる一致点の誤認)に対して(1)「基礎構造の力学モデルを作成する作成手段」についてア原告の主張原告は,「引用発明は,『基礎構造の力学モデルを作成する作成手段』を備えるものではない」と主張する。
イ原告主張に係る「力学モデル」の意味するところが不明であること。
「力学モデル」との用語は,技術的に明確な意義を有するものではないところ,本件明細書には,「力学モデル」に関し,「基礎スラブと建築物を支える地盤との間にばね要素を想定した前記基礎構造の力学モデル」との表現がみられるのみであり,「力学モデル」の技術的意義を定義した記載はないし,「前記基礎構造の力学モデルを作成する作成手段」又は「前記基礎構造の力学モデルを作成させる作成ステップ」との本件各発明の構成が,いかなるデータをどのように処理して何を作成するものであるのかについて説明する記載もみられない。
以上からすると,原告主張に係る「力学モデル」の意味するところは不明であるといわざるを得ない。
ウ請求項1の記載から認められる本件各発明の「力学モデル」の技術的意義(ア)請求項1のうち,1A,1E及び1Fの記載によれば,本件各発明の「力学モデル」について,次のことが認められる。
a本件発明1は,建築物の構造計算を行う「装置」の発明であり(1A),コンピュータを用いたものであること。
b「力学モデル」は,コンピュータの内部に設けられた作成手段により作成され,コンピュータ内部に保存されるものであること(1E)。
c「力学モデル」は,基礎構造に上部構造の荷重が作用することによって生じる応力を計算する手段として使用されるものであること(1F)。
(イ)上記(ア)によれば,本件各発明の「力学モデル」は,上記(ア)cの応力の計算機能をコンピュータに与える演算モジュール(演算式を処理順に配列したコンピュータプログラムであり,入力データを受け付け,設定されたパラメータに従って演算をし,結果を出力するもの)であると解釈するのが相当である。
エ引用発明における「力学モデル」と本件各発明におけるそれとの比較(ア)引用発明における「力学モデル」引用例2の段落【0037】及び図21には,コンピュータに,地耐力,基礎形状,長さ及び上部構造から基礎構造に加わる軸力を入力するとの記載があり,演算モジュールの演算処理に使用するデータとパラメータが例示されている。
また,段落【0038】及び図22には,演算モジュールの動作(基礎の1m当たりに加わる圧縮力の計算)と出力データが示されており,段落【0042】には,圧縮力と許容値とを比較して,基礎の強度を判定することが記載されている。
(イ)本件各発明における「力学モデル」本件明細書の段落【0037】には,コンピュータが,上部構造を支える基礎構造の形状,部材の配置,地盤特性及び基礎構造に作用する荷重を受け付けるとの処理を実行する旨の記載があり,段落【0038】には,マットスラブ厚,マットスラブの立上がり,束柱等の形状及び配置,杭を打設する箇所又は杭状地盤改良を行う箇所の配置,地盤特性を示すばね定数並びに杭の変形特性又は杭状地盤改良の特性を受け付けるとの記載があるところ,これらは,演算モジュールの演算処理に使用するデータとパラメータに相当する。
また,段落【0046】には,マットスラブに生じる変位と応力の分布を計算する旨が記載されているところ,これは,演算モジュールの動作に相当する。
なお,段落【0047】には,この結果をべた基礎の許容応力や許容沈下量と比較する旨が記載されているところ,これは,引用発明におけるのと同様,基礎の強度の判定をすることに外ならない。
(ウ)上記(ア)及び(イ)のとおり,引用発明における演算モジュールも本件各発明におけるそれも,ともに,基礎構造に上部構造の荷重が作用することによって生じる応力を計算する手段であるといえる。
オ小括以上からすると,引用発明は,「基礎構造の力学モデルを作成する作成手段」を備えているといえるから,原告の上記アの主張は理由がない。
(2)「基礎構造に生じる応力を計算する手段」について原告は,「引用例2に記載された『基礎に加わる圧縮力』は,基礎に掛かる『外力』であり,本件発明1及び2における『基礎構造(の内部)に生じる応力』ではない」旨主張する。
しかしながら,引用発明においても本件発明1及び2においても,基礎構造に加わる外力をデータとして入力し,基礎構造計算を実行している。また,基礎に外力が加わると,これに対応する内力が生じるのであるから,両者を区別して論じる意味はない。さらに,本件明細書にも,「基礎構造(の内部)に生じる応力を計算する手段」を具体的に説明する記載はみられない。
以上からすると,原告の上記主張は理由がない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対して(1)引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎を引用発明に組み合わせる動機付けについて原告は,引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎が特殊なものであり,これを,布基礎の構造計算に係る引用発明に組み合わせようとする動機付けが生じる余地はない旨主張する。
しかしながら,審決は,引用発明と,引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎の発明との組合せが容易であると判断しているのではなく,引用発明に,引用例1の一部に記載された所定の計算理論を適用することが容易であると判断しているのであるから,原告の上記主張は,審決の理由を正解しないものとして失当である。
(2)引用例1に記載された計算理論と引用発明との組合せの容易性について引用例1は,当業者に広く配布されて利用されることを目的として作成されたものであるところ,その346頁には,本件発明1の構成1Eにいう想定に基づき,同発明の構成1Fにいう有限要素法を用いて建物の構造計算を行う方法が明記されている。また,引用例1において,この解析法は,コンピュータを使用することを前提に説明されている。
他方,引用例2には,基礎構造に上部構造の荷重が作用することによって生じる応力をコンピュータで計算することが,具体的なインタフェースを例示した上,詳細に説明されている。なお,引用例2に記載された機能を有する構造計算装置は,汎用的なものである。
以上からすると,引用例1に記載された計算理論を引用発明に適用することには,何の困難性もないというべきである。
(3)本件各発明における「各構成要素の有機的な結合による作用効果」についてア原告は,「発明は,各構成要素の有機的な結合により一定の作用効果を奏するものである」とした上,「当業者において,引用発明と組み合わせようと動機付けられる他の基礎構造形式があるとすれば,それは,せいぜい,べた基礎にとどまる」,「当業者において,引用発明にパイルド・ラフト基礎を組み合わせようとする動機付けが生じる余地はない」と主張する。
イしかしながら,本件明細書には,本件各発明の各構成要素がその有機的な結合により一定の作用効果を奏することの根拠となる記載はみられない。
また,本件各発明が採用する計算理論と,引用例1の一部に記載された計算理論とが一致することは明らかであり,後者の計算理論をそのまま引用発明に適用すること(すなわち,引用例1に記載された計算理論から杭基礎に係る部分を除くこと)に困難性はないというべきである。
さらに,本件明細書には,べた基礎と杭とを組み合わせた基礎も本件各発明の範疇に含まれるとの記載(段落【0038】)があるのであるから,原告の上記主張は,明細書の記載に基づかないものである。
なお,本件明細書の記載中,本件発明1の構成1E及び1Fについて説明した部分は,引用例1に記載された技術と引用例2に記載された技術を単に組み合わせたもの以上の技術を含むものではない。
以上のとおり,本件各発明は,「各構成要素の有機的な結合」により格別の作用効果を奏するものとはいえないから,原告の上記主張は理由がない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(引用発明の認定の誤りによる一致点の誤認)について(1)「基礎構造の力学モデルを作成する作成手段」についてア原告は,引用発明に「力学モデル」と認め得るものは存在しないとして,引用発明が「『基礎構造の力学モデルを作成する作成手段』を備える」旨の審決の認定は誤りであると主張するので,以下,まず,本件発明1における「力学モデル」の技術的意義について検討し,次いで引用発明について検討する。
イ本件発明1における「基礎構造の力学モデル」の技術的意義前記第2,2記載の本件特許に係る請求項1の記載によれば,「基礎構造の力学モデル」は,「第1受付手段により受け付けた地盤特性を示すばね要素を想定して」作成されるもの(1E)であり,「・・・応力を,前記作成手段により作成した力学モデルを用いて有限要素法により計算する」(1F)ものと規定されているところ,以上によれば,本件発明1における「力学モデル」とは,「応力」を計算するための演算式を意味するものと解することができる。そこでさらに本件明細書の記載について検討するに,「演算を行うCPU11」(段落【0030】3行)に関し,「・・・入力された基礎構造形状,部材配置,地盤特性に基づき,CPU11は,マットスラブの全面を分割した節点と地盤との間に地盤特性を示すばね要素を想定してなる力学モデルを作成する(ステップS210)。ここで,基礎構造が,杭支持又は深層地盤改良を行っている場合は,CPU11は,マットスラブの全面を分割した節点のうち,杭を打設する・・・ばね要素を想定してなる力学モデルを作成する。」(段落【0040】)との記載が認められるところ,上記記載によれば,「力学モデル」はCPU11が上記の各考慮要素を踏まえて作成するものであるが,その具体的内容までは明らかではなく,本件明細書のその余の記載を検討しても,上記以上の内容を確定することはできない。
したがって,以上によれば,本件発明1における「基礎構造の力学モデル」あるいは「力学モデル」とは,基礎構造の力学的解析(計算)を行うため,対象(基礎構造や,それに作用する荷重,外力等であり,現実には,複雑な三次元の具体性を有するものである。)の力学的特性を抽象化して表現した演算式であると理解するのが相当である。
ウ引用発明における「基礎構造の力学モデル」の有無(ア)本件各発明と技術分野を同じくする「住宅の構造計算支援方法」と称する発明に関する引用例2(甲2)には,次の各記載及び図示がある。
a「【発明の利用分野】本発明は,住宅の設計時にコンピュータを用いて梁,柱及び基礎の強度の判定を行えるようにした住宅の構造計画支援方法に関するものである。」(段落【0001】)b「【課題を解決するための手段】本発明は,・・・コンピュータを用いて,住宅の設計及び強度計算等を簡単に行うことのできる住宅の構造計画支援方法を提供することを目的とする。
そのため,請求項1に係る構造計画支援方法は,コンピュータの画面上で住宅の仕様データ及び形状データを入力し,且つ前記形状データ中に梁及び柱を入力した後,前記梁に対する荷重の載加位置及び荷重の大きさを入力し,これらの入力データに基いて前記コンピュータに所望の梁の曲げ及びたわみを計算させて計算結果を前記画面上に表示させ・・・るようにしたことを特徴とするものである。」(段落【0004】)c「請求項2に係る住宅の構造計画支援方法は,請求項1の方法において,前記入力データに基いて前記コンピュータに前記柱に加わる圧縮力を計算させて計算結果を前記画面上に表示させ・・・るようにしたことを特徴とするものである。」(段落【0006】)d「請求項3に係る住宅の構造計画支援方法は,請求項1又は2の方法において,前記入力データに加えて,前記住宅の基礎の形状及び大きさを入力するとともに,前記住宅の柱から前記基礎に加わる軸力の大きさを入力し,これらの入力データに基いて前記コンピュータに基礎に加わる圧縮力を計算させて計算結果を前記画面上に表示させ・・・ることを特徴とするものである。」(段落【0008】)次に,・・・屋根形状を入力する。この場合,パソコンの画面に図8に示す屋根形状e「入力画面を表示させる。ここでは,屋根の形状が,例えば,タイプ1からタイプ9の9通りに分類され,各タイプ毎の形状モデルが前記屋根形状入力画面の右端部近傍に表示される。操作者は,X方向及びY方向の各々について,屋根がタイプ1乃至タイプ9のいずれに属するかを選択して,パソコンに入力する。」(段落【0013】)f図8g「ここでは,基礎の内,前記3本の柱4a乃至4cを支持する部位の強度を判定する。前記住宅の基礎5は,図20に示すような布基礎であって,大略断面逆T字形を成し,幅方向中間部が上向きに突出している。・・・パソコンへの入力時には,画面に図21に示す基礎データ入力画面を表示させ,まず,地耐力を選択する。・・・ここでは,・・・例えば,5t/m を選択する。続いて,強度判定を2行う部分の基礎形状を1乃至4の4種類のパターン(直線型,L型,T型,十字型)から選択して表中に入力するとともに,a乃至dの部位の長さ(単位m)を表中に入力する。更に,長期軸力,短期積雪軸力及び短期水平軸力の欄には,・・・各柱4a乃至4cから各々の支持部位5a乃至5cに加わる軸力を入力する。
基礎データの入力が終了すると,パソコンは長期荷重時,短期積雪荷重時及び短期水平荷重時の各々について,基礎5の1m当たりに加わる圧縮力を計算し,図22に示すように,計算結果一覧として表示する。表中の左端の許容値は,許容圧縮力であって,この許容圧縮力は地耐力の大きさによって異なるが,ここでは,地耐力5t/m の場合の値が表示されている。
2パソコンにより計算された長期荷重時,短期荷重時の圧縮力がこの許容値より小さい場合は,表中の右端の判定欄の判定結果が○となる。
前記基礎の圧縮力の判定結果が全て○となれば,・・・基礎の強度チェックが全て終了する。」(段落【0036】〜【0039】)h図21i図22(イ)上記(ア)のとおり,引用発明においては,基礎の強度を判定するため,基礎の長さ1m当たりに加わる圧縮力を計算することとし,当該計算において用いる要素(データ)を,住宅の仕様及び形状(梁及び柱を含む。),梁に対する荷重の載加位置及び大きさ,基礎の形状及び大きさ,地耐力並びに柱から基礎に加わる軸力の大きさとした上,屋根の形状については,X方向及びY方向につき各9通りのタイプから,地耐力については,3つの値から,基礎の形状については,4種類のパターンからそれぞれ選択することとし,また,基礎の大きさについては,長さのみを入力することとするほか,当該4種類のパターンごとに,長さを入力すべき基礎中の部位を2箇所ないし4箇所としているのであり,さらに,上記各要素に基づいて上記圧縮力を計算する際に,これらの要素を力学的に正しく考慮するための演算式が不可欠であることは明らかであるから,引用発明においても,基礎構造の力学的解析(計算)を行うため,対象の力学的特性を抽象化して表現した演算式,すなわち,「基礎構造の力学モデル」が存在することは明らかというべきである。
(ウ)原告は,引用発明に「力学モデル」が存在しないことの根拠として,引用発明には,基礎の長さ1m当たりに加わる圧縮力を計算するための「力/長さ」という単純な割り算が存在するのみである旨主張するが,上記(イ)において説示したところに照らせば,原告の上記主張は,当該圧縮力の計算の最終段階のみをとらえたものにすぎないというべきであるから,これを採用することはできない。
また,原告は,引用発明に「力学モデル」が存在しないことの根拠として,引用発明においては,基礎構造に生じる応力が計算されることはない旨主張するが,原告の上記主張に理由がないことは,後記(2)において説示するとおりである。
エ小括以上のとおりであるから,引用発明に「力学モデル」が存在しないことを前提として,引用発明の認定誤りによる一致点の誤認をいう原告の上記アの主張は,その前提を欠くものとして失当であるといわざるを得ない。
(2)「基礎構造に生じる応力を計算する手段」についてア原告は,引用発明においては「基礎構造に生じる応力」が計算されていないとして,引用発明が「『基礎構造に生じる応力を計算する手段』を備える」旨の審決の認定は誤りであると主張するので,以下検討する。
イ「応力」の技術的意義建築学用語辞典(乙9(69頁))によれば,「応力」とは,「?@外力が作用する物体内に単位面積の任意の仮想面を考えたとき,これに作用する力。?A外力が作用する物体の内部に生じる軸(方向)力,せん断力,曲げモーメントなどの総称。
内力ともいう」をいうものと認められる(原告も,この点を争うものではない。)。
ウ引用発明における「基礎構造に生じる応力」の計算の有無(ア)前記(1)ウ(ア)のとおり,引用発明においては,布基礎に加わる「圧縮力」を計算することとされている。これは,柱から布基礎(柱を支持する部位)に加わる軸力等に基づいて算出され,その単位は,1m当たりの力(kg/m)とされている。
ところで,布基礎が一定の幅を有するものであることは明らかであるところ,原告の主張によれば,布基礎は標準設計によるものであるから,結局,布基礎の長さ1m当たりに加わる「圧縮力」とは,布基礎の所定の単位面積当たりに加わる「圧縮力」であるということができる(なお,引用例2の段落【0030】〜【0032】によれば,柱に加わる「圧縮力」については,その単位が,kg/m とされ2ている。)加えて,前掲建築学用語辞典(10頁)によれば,「圧縮力」とは,「物体に作用する外力が互いに押し合う方向に作用したときに物体内に生じる軸(方向)力」とされており,これは,上記イの「応力」に含まれるものと認められることをも併せ考慮すると,引用発明においても,「基礎構造に生じる応力」の計算がされているものと認めるのが相当である。
(イ)原告は,引用例2に記載された「基礎の1m当たりに加わる圧縮力」は「外力」であって「応力」ではない旨主張するが,上記(ア)の建築学用語辞典上の「圧縮力」の意義に照らし,これを採用することはできない。
エ小括以上のとおりであるから,引用発明において「基礎構造に生じる応力」が計算されていないとして,引用発明の認定に係る審決の誤りをいう原告の上記アの主張は,失当である。
(3)よって,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)について(1)原告は,引用例1に記載された発明を引用発明に組み合わせる動機付けがないなどとして,本件各発明と引用発明との各相違点につき,引用例1に記載された発明を引用発明に組み合わせることにより,いずれも「当業者が容易に推考し得る」とした審決の判断は誤りである旨主張するので,以下検討する。
(2)本件各発明及び引用発明と技術分野を同じくする「建築基礎構造設計指針」と題する引用例1(甲1,乙8)の記載ア下記の各事実(前記第2の3(審決)(3)イの第1段落。以下,下記(イ)ないし(エ)を「引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎に係る技術」という。)は,いずれも当事者間に争いがない。
(ア)下記(イ)ないし(エ)は,パイルド・ラフト基礎について記載されたものであること。
(イ)引用例1に記載された技術は,直接基礎部分については曲げ板要素や梁要素等によりモデル化し,杭及び地盤については相互作用を考慮したばねでモデル化するものであること。
(ウ)引用例1に記載された技術においては,直接基礎部分(本件発明1の「面状の基礎スラブ」に対応するもの)の節点に建物荷重がかかり,地盤節点における鉛直反力として地盤ばねが想定されていること。
(エ)引用例1に記載された有限要素法は,直接基礎部分だけでなく杭及び地盤についても有限要素によりモデル化するものであること。
イさらに,引用例1には,次の各記載がある。
(ア)「本指針は前述の設計法の変遷を念頭に置き,また現時点での技術水準で使用可能な設計法を提案している。」(乙8の1頁下から18〜17行)(イ)「本指針に記述されている検討方法は最新の知見をまとめた平均的な水準のものであり,設計者が最新の研究を十分に理解すれば,この指針で設計するよりもさらに目標性能に対応した合理的な設計が可能である。設計者は本書の内容に拘束されずに積極的に基礎構造関係の専門書や本会や関連学会の会誌や論文集・・・で最新の研究成果を活用し,・・・合理的な設計を行うことが技術の発展のためには一番重要なことである。」(乙8の3頁1〜6行)(ウ)「基礎は,支持形式によってつぎのように分類される。
直接基礎基礎杭基礎併用基礎すなわち,基礎スラブからの荷重を直接地盤に伝える形式の基礎を直接基礎といい,杭を介して地盤に伝える形式の基礎を杭基礎という。直接基礎と杭基礎を併用して用いる場合を併用基礎と呼ぶ。
直接基礎は,基礎スラブの形式によって次のように分類される。
独立[フーチング]基礎フーチング基礎複合[フーチング]基礎直接基礎 連続[フーチング]基礎べた基礎すなわち,まず建物の平面において,ある限られた面積を占める基礎スラブすなわちフーチングによって,上部構造からの荷重を直接地盤に伝えるフーチング基礎と,フーチング基礎が平面的に連続したもの,すなわち,上部構造からの荷重を単一の基礎スラブで直接に広範囲の地盤に伝えるべた基礎の2つに分けられる。さらにまたフーチング基礎はそれが上部構造を支持する状態によってつぎのような3種類に分類することができる。・・・壁または一連の柱からの荷重を帯状のフーチングによって支えているものを連続[フーチング]基礎あるいは布基礎と呼ぶ。」(乙8の5頁下から14行〜6頁6行)(エ)「併用基礎は,異なる基礎形式である直接基礎と杭基礎の併用のしかたにより,異種基礎とパイルドラフト基礎に分類される。・・・パイルド・ラフト基礎とは,複数の基礎形式(直接基礎と杭基礎)を複合して1つの構造物に用いる併用基礎の形式を呼ぶ。」(乙8の7頁下から12〜9行)(オ)「パイルド・ラフト基礎は,・・・直接基礎と杭基礎の中間にあたる基礎形式で,その中には直接基礎に近いもの,あるいは杭基礎に近いものも含まれる。このうち本節では,直接基礎単独では設計上の要求性能を満足しない場合に,沈下量および不同沈下量を低減するための杭を直接基礎に付加してパイルド・ラフト基礎とすることにより,基礎全体としての荷重〜沈下性状の改善を図ろうとする場合を対象とする。この場合パイルド・ラフト基礎は,直接基礎の適用範囲を拡大する基礎形式とも考えられる。」(甲1の340頁1〜6行)(カ)「直接基礎をパイルド・ラフト基礎とすることにより,一般に以下の点が改善される。
・基礎の平均沈下量および不同沈下量の低減・荷重の偏心や予期しがたい表層の土質性状のばらつきによる基礎の全体傾斜の低減・基礎梁,基礎スラブの曲げモーメント,せん断力の低減・荷重が大きく異なる部分の境界部における沈下量差の低減・基礎全体としての地盤破壊に対する支持力安全率の増加」(甲1の341頁1〜6行)(キ)「パイルド・ラフト基礎の要求性能を確認する際に必要となる,各要求性能レベルに対応する代表的な検討項目を,表7.2に示す。表7.2中の検討項目は,直接基礎に対する検討項目を基本とし,それに杭体,杭頭接合部などにかかわる項目を加えたものである。」(甲1の341頁下から10〜8行)(3)引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎に係る技術の引用発明への適用についてア前記1(1)ウ(ア)のとおり,引用発明は,布基礎についてのデータを受け付け,それについて計算するものである(この点(審決が認定した本件発明1と引用発明との相違点。前記第2の3(3)ア(イ)a)は,当事者間に争いがない。)。
しかしながら,原告が主張するとおり,本件各発明の「面状の基礎スラブ」は,べた基礎に相当するものであるところ,上記(2)イのとおり,布基礎とべた基礎とは,共に直接基礎の一形式として採用されているものであり,引用発明の布基礎をべた基礎に置き換えることは,当業者において容易に想到し得るものであったと認められる(原告も,この点を強く争うものではない。)。
他方,上記(2)イのとおり,引用例1に記載された基礎設計法は,本件特許に係る優先日当時の技術水準で使用可能なものであること,引用例1に記載された検討方法は,平均的な水準のものであり,設計者が最新の研究を十分に理解すれば更に目標性能に対応した合理的な設計が可能であること,べた基礎を含む直接基礎も,パイルド・ラフト基礎を含む併用基礎も,共に基礎の一形式として採用されているものであること,パイルド・ラフト基礎は,直接基礎と杭基礎の中間に当たる基礎形式であり,直接基礎に近いものも含まれること,引用例1において検討されるパイルド・ラフト基礎は,直接基礎単独では設計上の要求性能を満足しない場合に,杭を直接基礎に付加することにより,基礎全体としての荷重〜沈下性状の改善を図ろうとするものであり,その意味で,直接基礎の適用範囲を拡大する基礎形式とも考えられること,パイルド・ラフト基礎の要求性能に係る検討項目は,直接基礎に係る検討項目を基本とするものであることに加え,本件全証拠によっても,引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎に係る技術をべた基礎に適用することについての阻害要因は認められないことをも併せ考慮すると,引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎に係る技術を,上記のとおり布基礎をべた基礎に置き換えた引用発明に適用し,各相違点に係る本件各発明の構成を採用することは,当業者において容易に想到し得るものであったと認めるのが相当である。
イ原告の主張について(ア)原告は,引用発明と組み合わせることが動機付けられる他の基礎形式があるとしても,それはべた基礎にとどまり,パイルド・ラフト基礎を引用発明に組み合わせようとする動機付けが生じる余地はない旨主張するが,審決が引用発明に適用したのは,パイルド・ラフト基礎そのものではなく,前記(2)ア(イ)ないし(エ)のとおり引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎に係る技術であるから,原告の上記主張は,審決の内容を正解しないものとして失当である。
(イ)原告は,布基礎に係る引用発明において,基礎構造そのものの計算・設計に関して他の資料を参照しようとする動機付けが生じる余地はない旨主張し,また,パイルド・ラフト基礎は,極めてまれな,特殊なケースにおいて,やむを得ず選択されるものであるから,布基礎に係る引用発明に,パイルド・ラフト基礎に係る引用例1に記載された発明を組み合わせようとする発想はあり得ない旨主張するが,上記アのとおり,引用発明の布基礎をべた基礎に置き換えた上,そのような引用発明に対し引用例1に記載されたパイルド・ラフト基礎に係る技術を適用して,各相違点に係る本件各発明の構成を採用することが,当業者において容易に想到し得るものであったと認められる(なお,審決(前記第2の3(3)イの第2段落)も,「建築分野において普通である面状の基礎スラブ」について,「引用例1に記載された所定の計算をすればいいのである」と判断しているところである。)のであるから,引用発明の布基礎をべた基礎に置き換え得ないことを前提にする原告の上記各主張は,その前提を欠くものとして失当である。
(ウ)原告は,引用発明に接した当業者が参照する引用例1の記載は,パイルド・ラフト基礎に係るものではなく,直接基礎に係るものである旨主張するが,上記アにおいて説示したところに照らせば,そのようにいうことはできないから,原告の上記主張を採用することはできない。
(4)よって,取消事由2は理由がない。
3結論以上によれば,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 浅井憲
裁判官 杜下弘記
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