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関連審決 不服2005-21194
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成18行ケ10055審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  技術的特徴 /  表現上の差異 /  パリ条約 /  優先権 /  限定的減縮 /  実質的に同一 /  優先日 /  発明の要旨認定 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  拒絶査定 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10207号 審決取消請求事件
原告イボクラールビバデントアクチェンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁理士浜田治雄
被告特許庁長官
指定代理人八木誠,村山睦,亀丸広司,森川元嗣,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/03/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2005-21194号事件について平成20年1月22日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,原告が,後記特許出願(以下「本願」という。)に対する拒絶査定を不服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本願(甲6)出願人:原告発明の名称:「光硬化装置」出願番号:特願2002-306586号出願日:平成14年10月22日(パリ条約による優先権主張:2001(平成13)年11月9日(以下「本件優先日」という。),ドイツ)手続補正日:平成17年8月8日(甲8。以下「本件原補正」といい,本願に係る本件原補正後の明細書(特許請求の範囲につき甲8,その余につき甲6)を「本願明細書」という。)拒絶査定:平成17年8月29日付け(2)審判請求手続審判請求日:平成17年11月2日(不服2005-21194号)手続補正書提出日:平成17年11月2日(甲7。原告がこの手続補正書により行おうとした手続補正を,以下「本件補正」という。)審決日:平成20年1月22日本件補正に対する判断:「本件補正を却下する。」審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成20年2月1日2特許請求の範囲の請求項1の記載(請求項2以下の記載は省略)(1)本件補正前(本件原補正後。以下同じ。)のもの「それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する少なくとも2つの発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群を備え,感度スペクトル最大点を含んだ感度スペクトルを有する唯1つの光重合開始剤を含んだ光重合性材料を重合するためのものであり,この光重合開始剤の感度スペクトル最大点が第1の発光ダイオードの放射最大点と異なるように設定されている,歯科用の光硬化装置において,第1の発光ダイオード(12)の放射スペクトルは光重合開始剤(20)の感度スペクトルとの間で部分的な重複領域のみを有し,これに対して第2の発光ダイオード(14)の放射スペクトルは光重合開始剤(20)の感度スペクトルとの間でより大きな重複領域を有することを特徴とする光硬化装置。」(2)本件補正後のもの(下線部が補正箇所である。)「それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する少なくとも2つの発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群を備える歯科用の光硬化装置と少なくとも一つの光重合開始剤を備える光重合性材料からなるシステムであり,この光硬化装置は感度スペクトル最大点を含んだ感度スペクトルを有する少なくとも1つの光重合開始剤からなる光重合性材料を重合するためのものであり,この光重合開始剤の感度スペクトル最大点が第1の発光ダイオードの放射最大点と異なるように設定されているシステムにおいて,前記光重合性材料は唯一つの光重合開始剤(20)からなり,且つ第1の発光ダイオード(12)の放射スペクトルは光重合開始剤(20)の感度スペクトルとの間で部分的な重複領域のみを有し,これに対して第2の発光ダイオード(14)の放射スペクトルは光重合開始剤(20)の感度最大点を備えたより大きな重複領域を有することを特徴とするシステム。」3審決の理由の要旨審決は,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下,単に「特許法」という。)17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものに該当しないから,同項の規定に違反するものであるとし,同法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下した上,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨を,上記2(2)の本件補正前の請求項1の記載に基づいて認定した上(以下,同請求項に記載された発明を「本願原補正発明」という。),本願原補正発明は,下記の引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。),周知例1ないし3等に記載された周知技術及び周知例4等に記載された技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
引用例特開平2-1401号公報(甲1)周知例1特開平9-28719号公報(甲2)周知例2特開2000-316874号公報(甲3)周知例3特開2000-245747号公報(甲4)周知例4特開平7-9573号公報(甲5)(1)本件補正について[補正却下の決定の結論]本件補正を却下する。
[理由]ア補正後の本願発明本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,次のように補正された。
「それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する少なくとも2つの発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群を備える歯科用の光硬化装置と少なくとも一つの光重合開始剤を備える光重合性材料からなるシステムであり,この光硬化装置は感度スペクトル最大点を含んだ感度スペクトルを有する少なくとも1つの光重合開始剤からなる光重合性材料を重合するためのものであり,この光重合開始剤の感度スペクトル最大点が第1の発光ダイオードの放射最大点と異なるように設定されているシステムにおいて,前記光重合性材料は唯一つの光重合開始剤(20)からなり,且つ第1の発光ダイオード(12)の放射スペクトルは光重合開始剤(20)の感度スペクトルとの間で部分的な重複領域のみを有し,これに対して第2の発光ダイオード(14)の放射スペクトルは光重合開始剤(20)の感度最大点を備えたより大きな重複領域を有することを特徴とするシステム。」(下線部は,補正箇所を示す。)イ補正の目的の適否本件補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「光硬化装置」を「システム」に変更し,「光重合開始剤」と「光重合性材料」について,「少なくとも一つの光重合開始剤を備える光重合性材料」と補正するものであるが,上記変更は,発明のカテゴリを装置からシステムに変更するものであるから,特許請求の範囲変更するものであり,また,上記補正は,2つ以上の光重合開始剤を備える光重合性材料を含むことになるから,特許請求の範囲拡張するものであって,本件補正は,特許請求の範囲限定的減縮を目的としたものとは認められない。
また,本件補正は,請求項の削除,誤記の訂正,あるいは明りょうでない記載の釈明の,いずれを目的としたものとも認められない。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第4項の規定に違反するので,特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。
(2)本願発明本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願発明は,拒絶査定時の明細書の,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する少なくとも2つの発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群を備え,感度スペクトル最大点を含んだ感度スペクトルを有する唯1つの光重合開始剤を含んだ光重合性材料を重合するためのものであり,この光重合開始剤の感度スペクトル最大点が第1の発光ダイオードの放射最大点と異なるように設定されている,歯科用の光硬化装置において,第1の発光ダイオード(12)の放射スペクトルは光重合開始剤(20)の感度スペクトルとの間で部分的な重複領域のみを有し,これに対して第2の発光ダイオード(14)の放射スペクトルは光重合開始剤(20)の感度スペクトルとの間でより大きな重複領域を有することを特徴とする光硬化装置。」(本願原補正発明)(3)引用発明「光の波長が470nm以上の光源と光の波長が450nm以下の光源を備え,2つの光重合開始剤を含んだ歯科材料を硬化するためのものである歯科用の光硬化装置(に)おいて,光の波長が470nm以上の光源によって光重合開始剤IIが励起され,光の波長が450nm以下の光源によって光重合開始剤Iが励起される光硬化装置。」(4)本願原補正発明と引用発明との対比本願原補正発明と引用発明とを対比すると,その構造または機能からみて,引用発明の「硬化する」は,本願原補正発明の「重合する」に相当する。
また,引用発明の「光の波長が470nm以上の光源と光の波長が450nm以下の光源」と本願原補正発明の「発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群」とは,それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する少なくとも2つの光源という点で共通しており,引用発明の「歯科材料」と本願原補正発明の「光重合性材料」とは,感度スペクトル最大点を含んだ感度スペクトルを有する光重合開始剤を含んだ光重合性材料という点で共通している。
そこで,本願原補正発明の用語を用いて表現すると,両者は次の点で一致する。
(一致点)「それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する少なくとも2つの光源を備え,感度スペクトル最大点を含んだ感度スペクトルを有する光重合開始剤を含んだ光重合性材料を重合するためのものである歯科用の光硬化装置。」そして,両者は次の相違点で相違する。
(相違点)本願原補正発明は,光源が発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群であり,光重合性材料が唯1つの光重合開始剤を含んでおり,この光重合開始剤の感度スペクトル最大点が第1の発光ダイオードの放射最大点と異なるように設定されており,第1の発光ダイオードの放射スペクトルは光重合開始剤の感度スペクトルとの間で部分的な重複領域のみを有し,これに対して第2の発光ダイオードの放射スペクトルは光重合開始剤の感度スペクトルとの間でより大きな重複領域を有するのに対し,引用発明は,光源が発光ダイオードであるか不明であり,光重合性材料が2つの光重合開始剤を含んでおり,光の波長が470nm以上の光源によって光重合開始剤IIが励起され,光の波長が450nm以下の光源によって光重合開始剤Iが励起される点。
(5)相違点についての判断上記相違点について検討する。
歯科用の光硬化装置において,光源を発光ダイオードとすることは,例えば,周知例1ないし3等に示されるように,本件優先日前の周知技術に過ぎず,光硬化を途中まで行うために,光重合開始剤の感度スペクトル最大点と異なる波長領域の光を当てることは,技術常識(例えば,周知例4等参照)に過ぎないことを考慮すると,引用発明において,2つの光源を発光ダイオードとし,上記技術常識を適用して,歯科材料(光重合材料)に含まれる光重合開始剤を1つとし,上記相違点に係る本願原補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして,本願原補正発明による効果も,引用発明,上記周知技術及び上記技術常識から当業者が予測し得た程度のものであって,格別のものとはいえない。
(6)審決の「むすび」以上のとおり,本願発明(本願原補正発明)は,引用発明,上記周知技術及び上記技術常識に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
第3審決取消事由の要点審決は,本件補正の適否についての判断を誤ってこれを却下した結果,本願発明の要旨認定を誤り,仮に,本願発明の要旨認定に誤りがないとしても,本願原補正発明と引用発明の一致点の認定及び相違点についての判断をいずれも誤り,また,本願原補正発明が奏する格別顕著な作用効果を看過した結果,本願発明(本願原補正発明)が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)審決は,「本件補正は,特許請求の範囲限定的減縮を目的としたものとは認められない」と判断した上,「また,本件補正は,請求項の削除,誤記の訂正,あるいは明りょうでない記載の釈明の,いずれを目的としたものとも認められない。したがって,本件補正は,特許法17条の2第4項の規定に違反する」として本件補正を却下したものであるが,以下のとおり,本件補正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものであるから,審決の上記判断は誤りである。
(1)ア審決は,「本件補正は,・・・『光硬化装置』を『システム』に変更・・・するものであるが,上記変更は,発明のカテゴリを装置からシステムに変更するものであるから,特許請求の範囲変更するものであ(る)」と判断した。
しかしながら,本件補正前の請求項1は,「『光重合性材料を重合するための』光硬化装置」,すなわち,「光重合性材料」を使用する「光硬化装置」として,装置を機能的に規定しているのに対し,本件補正後の請求項1は,「光硬化装置」と「光重合性材料」から構成される「システム」として,発明の具体的構成要素が明確になるように表現が変更されたものにすぎない(実質的には「装置」を意味するものである。)。したがって,本件補正の前後を通じ,発明の具体的な技術的特徴事項は同一であり,本件補正は,単に発明の構成要素を明確にするため,カテゴリ表現上の差異を生じさせたものにすぎないから,特許請求の範囲を実質的に変更するものではない。
イ被告は,本件補正に係る「光重合開始剤を備える光重合性材料」が新たに付加された構成要件である旨主張する。しかしながら,本件補正前の請求項1において,「光重合性材料」の構成要素である「光重合開始剤」は,「光硬化装置」と密接な関連を有する構成要素とされていたものであるところ,本件補正は,「光硬化装置」につき,必ず「光重合開始剤を備える光重合性材料」を含む装置であることを明確にしたものであるし,また,本件補正は,「光重合開始剤を含んだ光重合性材料を重合するためのものであ・・・ることを特徴とする光硬化装置」を概念的に下位のものとしたにすぎず,しかも,本件補正により,発明が解決すべき課題や産業上の利用分野が変更されるものではないから,被告の上記主張は失当である。
(2)アまた,審決は,「本件補正は,・・・『光重合開始剤』と『光重合性材料』について,『少なくとも一つの光重合開始剤を備える光重合性材料』と補正するものであるが,・・・上記補正は,2つ以上の光重合開始剤を備える光重合性材料を含むことになるから,特許請求の範囲拡張するものであ(る)」と判断した。
しかしながら,上記補正事項に加え,本件補正は,「前記光重合性材料は唯一つの光重合開始剤(20)からなり」との補正事項をも含むものであるところ,これは,本願発明の発明特定事項として,光重合性材料が唯一の光重合開始剤から成ることを引用例に記載された従来技術との関係で強調するため,請求項1の前段部分から後段部分に移記したものである。したがって,本件補正の前後を通じ,特許請求の範囲の記載が拡張されているものではない。
なお,請求項1の前段部分の記載を「少なくとも一つの光重合開始剤を備える光重合性材料」と補正したのは,請求項の前段部分が,発明の属する技術分野や当該技術分野における従来技術を特定するなど,発明の前提事項を示すことを目的として記載されるものであり(本件補正前の請求項1の記載並びに本願明細書段落【0004】及び【0005】の記載参照),請求項の後段部分において,当該発明に係る発明特定事項(限定事項)を記載すれば足りることを理由とするものである。
イ被告は,本件補正に係る「少なくとも一つの光重合開始剤を備える光重合性材料」との記載を「少なくとも一つの光重合性材料」と理解すべきである旨主張するが,当該主張は,本件補正後の請求項1の前段部分の記載のみを根拠とするものであり,失当である。
(3)このように,本願に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,本件補正により,変更され,又は拡張されるものではなく,本件補正の前後を通じて実質的に同一であるといえるところ,このような手続補正も,特許法17条の2第4項2号に掲げる「特許請求の範囲減縮」を目的とするものに該当するというべきである。
2取消事由2(本願原補正発明と引用発明の一致点の認定の誤り)審決は,本願原補正発明と引用発明(以下「両発明」ということがある。)とを対比して,「引用発明の『光の波長が470nm以上の光源と光の波長が450nm以下の光源』と本願原補正発明の『発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群』とは,それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する少なくとも2つの光源という点で共通して(いる)」とした上,両発明は,「それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する少なくとも2つの光源を備え・・・る・・・光硬化装置。」との点で一致すると認定したが,当該認定は,同一の光源の波長を470nm以上と450nm以下とする引用発明において必須の手段である光学的遮断フィルターの存在を考慮せず,また,波長のみによって光源を区別する引用発明と,放射スペクトル最大によって光源を選択する本願原補正発明とを同一視したことに基づくものであって,誤りである。
3取消事由3(相違点についての判断の誤り)(1)審決の判断審決は,相違点のうち,「本願原補正発明は,・・・光重合性材料が唯1つの光重合開始剤を含んでおり,・・・第1の発光ダイオードの放射スペクトルは光重合開始剤の感度スペクトルとの間で部分的な重複領域のみを有し,これに対して第2の発光ダイオードの放射スペクトルは光重合開始剤の感度スペクトルとの間でより大きな重複領域を有するのに対し,引用発明は,・・・光の波長が470nm以上の光源によって光重合開始剤IIが励起され,光の波長が450nm以下の光源によって光重合開始剤Iが励起される点」(以下「本件相違点部分」という。)につき,「引用発明において,2つの光源を発光ダイオードとし,上記技術常識を適用して,歯科材料(光重合材料)に含まれる光重合開始剤を1つとし,上記相違点に係る本願原補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである」と判断した。
(2)本件相違点部分に係る本願原補正発明の構成(以下「本件構成」という。)についてア本願原補正発明における歯科材料の硬化工程は,次のとおりである。
(ア)第1硬化(予備硬化)工程(本願明細書段落【0013】,【0014】,【0024】及び【0027】)第1の発光ダイオード(緑色発光ダイオード)を照射して,光重合開始剤を活性化する。第1の発光ダイオードの放射スペクトルは,光重合開始剤の感度スペクトルとの間において部分的に重複領域を有するため,光重合開始剤が部分的に励起され,適切な部分重合が達成される。
(イ)第2硬化工程(本願明細書段落【0023】,【0025】及び【0026】)第2の発光ダイオード(青色発光ダイオード)を照射して,光重合開始剤を活性化する。第2の発光ダイオードの放射スペクトルは,光重合開始剤の感度スペクトルと大きく重複しており,極めて良好な最終硬化が達成される。
イ上記アのとおり,光重合開始剤の感度スペクトルと,第1の発光ダイオード及び第2の発光ダイオードの各放射スペクトルとの各重複領域に係る本件構成は,本願原補正発明において必須のものであるといえる。
(3)引用発明及び引用例についてこれに対し,引用発明は,第1硬化工程においては,光学的遮断フィルターを使用することにより,帯域制限光を光重合開始剤に照射して予備硬化を行い,第2硬化工程においては,光学的遮断フィルターを外すことにより,全帯域幅の光を光重合開始剤に照射して最終的に歯科材料を硬化させるものである。
このように,光学的遮断フィルターの使用等により,光重合開始剤に特定の波長の光を照射するよう制御して二段階の硬化工程を実現する引用発明と,発光ダイオードの放射スペクトルと光重合開始剤の感度スペクトルとの重複領域を設定することにより光重合開始剤の励起を制御して二段階の硬化工程を実現する本願原補正発明とは,本質的に発明の構成を異にするものであるところ,引用例は,本願原補正発明の本件構成を開示し,又は示唆するものではない。
(4)周知例1ないし3について審決は,上記(1)の判断に先立ち,「歯科用の光硬化装置において,光源を発光ダイオードとすることは,例えば,周知例1ないし3等に示されるように,本件優先日前の周知技術に過ぎ(ない)」と認定したが,周知例1ないし3は,いずれも,発光ダイオードを備えた歯科用器具について開示するのみであり,歯科材料の二段階の硬化工程(適切な予備硬化及び完全な硬化)を本件構成により達成したことを開示し,又は示唆するものではない。
(5)周知例4についてまた,審決は,上記(1)の判断に先立ち,「光硬化を途中まで行うために,光重合開始剤の感度スペクトル最大点と異なる波長領域の光を当てることは,技術常識(例えば,周知例4等参照)に過ぎない」と認定したが,周知例4は,本願原補正発明(歯科用光硬化装置)が属する技術分野とは全く異なる技術分野に属する装飾体又は表示体の製造方法に関する発明に係るものであるほか,引用例と同様,波長カットフィルターを使用して波長のみを制御することを開示するにすぎないもの(段落【0017】参照)であり,歯科材料の二段階の硬化工程(適切な予備硬化及び完全な硬化)を本件構成により達成したことを開示し,又は示唆するものではない。
(6)被告の主張についてア被告は,周知例4に加え,特開平10-199051号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)及び特開平7-171491号公報(乙2。以下「乙2公報」という。)又は特開2001-262094号公報(乙3。以下「乙3公報」という。)にそれぞれ記載された事項を組み合わせることにより,本願原補正発明の本件構成を得ることが,本件優先日当時の当業者において容易になし得た旨結論付けている。
イしかしながら,乙1公報ないし乙3公報に記載された事項は,いずれも,本願原補正発明が属する技術分野と異なる技術分野における光硬化の方法(照射条件)に関するものであるところ,このような異なる技術分野における照射条件についての一般的な記載中に「波長分布の調整」などの記載があることをもって,被告が主張するように「光重合開始剤を含んだ光重合性材料の光硬化を行う場合,通常は,処理効率等を考慮して,光重合開始剤の感度スペクトル最大点を含む波長領域の光を当てるものであることに照らせば,上記・・・の技術常識に基づいて光硬化を途中まで行った後,光硬化を完全に行うため,光重合開始剤の感度スペクトル最大点を含む波長領域の光を当てればよいこと,その場合,光重合開始剤が1つで足りることは,本件優先日当時の当業者にとって明らかな事項であった」,「引用発明が属する技術分野(光硬化に関する技術分野)と共通の技術分野に係る上記・・・の技術常識を引用発明に適用し,本願原補正発明の本件構成を得ること・・・は,本件優先日当時の当業者が容易になし得たことである」などと論理付けることはできず,したがって,周知例4及び乙1公報ないし乙3公報に記載された事項から,本願原補正発明の本件構成を得ることが,本件優先日当時の当業者において容易になし得たものということはできない。
(7)小括以上からすると,「引用発明において,周知例1ないし3等に示された周知技術である『2つの光源を発光ダイオードとすること』及び周知例4等に示された『技術常識』(光硬化を途中まで行うために,光重合開始剤の感度スペクトル最大点と異なる波長領域の光を当てること)を適用して,本件構成とすることは,当業者が容易に想到し得た」旨の審決の上記(1)の判断は誤りである。
4取消事由4(格別顕著な作用効果の看過)(1)審決は,「本願原補正発明による効果も,引用発明,上記周知技術及び上記技術常識から当業者が予測し得た程度のものであって,格別のものとはいえない」と判断したが,本願原補正発明は,光重合性材料として唯1つの光重合開始剤を使用することによる硬化材料の余剰分の効果的な除去,複雑なシステムの回避及び大量生産によるコスト面での有利性(本願明細書段落【0005】及び【0009】)並びに放射強度及び予備硬化の時間を調整することができること(同【0012】)など,従来にない極めて最適な光硬化装置を提供するとの格別顕著な作用効果を奏するものであるから,審決の上記判断には,本願原補正発明のかかる作用効果を看過した誤りがある。
(2)なお,前記3のとおり,引用発明に周知例4及び乙1公報ないし乙3公報を結び付けることは不可能であるから,本願原補正発明の奏する上記作用効果が予測し得る程度のものである旨の被告の主張は,失当である。
第4被告の反論の骨子1取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)に対して(1)ア原告は,「本件補正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものである」と主張し,その理由として,「本件補正前の請求項1は,『光重合性材料』を使用する『光硬化装置』として,装置を機能的に規定しているのに対し,本件補正後の請求項1は,『光硬化装置』と『光重合性材料』から構成される『システム』として,発明の具体的構成要素が明確になるように表現が変更されたものにすぎないから,本件補正の前後を通じ,発明の具体的な技術的特徴事項は同一であり,本件補正は,単に発明の構成要素を明確にするため,カテゴリ表現上の差異を生じさせたものにすぎず,特許請求の範囲を実質的に変更するものではない」旨主張する。
イしかしながら,原告も認めるとおり,本件補正は,本願発明を,「光硬化装置」から,「光硬化装置」と「光重合性材料」とからなる「システム」に変更するものであるから,特許請求の範囲を実質的に変更するものであることは明らかである。
また,本願原補正発明においては,「光重合性材料」は「光硬化装置」の対象とされているにすぎず,「光重合性材料」が同発明の構成要件とされていないのに対し,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)においては,「システム」として「光重合性材料」が構成要件とされているのであるから,両者が実質的に同一であるとはいえない。
なお,手続補正の前後を通じ,特許請求の範囲実質的に同一であるような場合は,当該手続補正は,「特許請求の範囲減縮を目的とするもの」には該当しない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2)ア原告は,また,「本件補正は,『前記光重合性材料は唯一つの光重合開始剤(20)からなり』との補正事項をも含むものであり,本件補正の前後を通じ,特許請求の範囲の記載が拡張されているものではない」旨主張する。
イしかしながら,本件補正後の請求項1の「少なくとも一つの光重合開始剤を備える光重合性材料」との記載は,同請求項に「前記光重合性材料は唯一つの光重合開始剤(20)からなり」との記載があることに照らし,「少なくとも一つの(光重合開始剤を備える)光重合性材料」と理解するのが相当であるところ,その場合,「光重合性材料」が2つ以上である場合を含むことになる。
これに対し,本件補正前の請求項1には,「光重合性材料」が1つであることが記載されているのみであり,それが2つ以上ある場合を含むことについての記載はないから,本件補正は,特許請求の範囲拡張するものである。
したがって,原告の上記主張も理由がない。
2取消事由2(本願原補正発明と引用発明の一致点の認定の誤り)に対して(1)原告は,一致点の認定の誤りの理由として,審決が,?@波長のみによって光源を区別する引用発明と,放射スペクトル最大によって光源を選択する本願原補正発明とを同一視したこと,?A引用発明において必須の手段である光学的遮断フィルターの存在を考慮しなかったことを挙げる。
(2)アしかしながら,引用例の次の各記載(なお,下線は,被告の主張に基づき,本判決が付したものである。以下同じ。)によれば,引用発明が光の波長470nm以上の光源と同450nm以下の光源を備えていることは明らかであるといえるところ,これら2つの光源は,その波長領域が重ならない以上,異なる放射スペクトル最大を当然に有することになるから,上記?@に係る原告の主張は失当である。
(ア)「第一硬化工程においては450nmより小の波長域遮断フィルターによって,あるいは光源を選択することによって光重合開始剤?Uだけが励起される。」(5頁左上欄下から3行〜右上欄1行)(イ)「第二硬化工程においては450nm以下の波長域の光源を使用することによって物質は最終の硬さまで硬化される。」(5頁右上欄9〜11行)(ウ)「このような歯科材料を使用することによって,充填時に第一硬化工程において実質的に470nm以上の波長の光源を用いて物質を最終硬さの70%まで,好ましくは50%まで硬化させて固定することができるという特長が得られる。」(5頁左下欄1〜5行)(エ)「これらの加工終了後450nm以下の波長の光線を用いて(あるいはこの波長域を分離した光線を用いて)上記歯科材料を最終硬さまで硬化させる。」(5頁左下欄9〜12行)イまた,上記ア(ア)ないし(エ)の各下線部の記載によれば,引用発明における「光の波長が470nm以上の光源と光の波長が450nm以下の光源」につき,必ずしも光学的遮断フィルターが必須のものでないことは明らかであり,また,引用発明が,引用例の実施例に記載されたものに限定される理由もないから,上記?Aに係る原告の主張も失当である。
3取消事由3(相違点についての判断の誤り)に対して(1)審決の判断についてア審決は,本件相違点部分につき,「・・・光硬化を途中まで行うために,光重合開始剤の感度スペクトル最大点と異なる波長領域の光を当てることは,技術常識(例えば,周知例4等参照)に過ぎないことを考慮すると,引用発明において,・・・上記技術常識を適用して,歯科材料(光重合材料)に含まれる光重合開始剤を1つとし,上記相違点に係る本願原補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである」と判断した。
イ(ア)a審決の上記判断中の「光硬化を途中まで行うために,光重合開始剤の感度スペクトル最大点と異なる波長領域の光を当てること」が本件優先日当時の技術常識であったことは,周知例4の段落【0014】〜【0020】の各記載,特に,次の各記載から明らかである。
(a)「上記光硬化性樹脂の基材との接着面の表面層の光硬化を半硬化状態までに留めておく方法としては,例えば,・・・(3)上記(2)の方法に加え,照度及び波長分布の調整された照射光を照射する方法等が挙げられる。」(段落【0014】)(b)「上記照射光の波長分布を調整する方法としては,例えば,波長が365nm以下の,エネルギーが大きくて光硬化性樹脂の表面層の硬化に有効な低波長側の光を波長カットフィルターでカットし,エネルギーが小さくて光硬化性樹脂の内部の硬化には有効で,且つ,表面層の硬化にはあまり有効でない長波長側の光のみを選択的に照射する方法が挙げられる。」(段落【0018】)bすなわち,光重合開始剤を含んだ光重合性材料の光硬化を行う場合,通常は,処理効率等を考慮して,光重合開始剤の感度スペクトル最大点を含む波長領域の光を当てるものであるから(乙1公報の下記記載参照),上記aの各記載にいう「波長分布を調整」し,「硬化にはあまり有効でない長波長側の光のみを選択的に照射する」ことは,感度スペクトル最大点と異なる波長領域の光を当てることを意味している。
「必要最小の電気入力エネルギー(前記CV /2の値に相当する)で前記紫外閃硬化を行2うためには,図4の数字8のフラッシュランプの閃光の発光スペクトルが,紫外線硬化性組成物に含める光重合開始剤が鋭敏に反応するよう,前記紫外線と光重合開始剤の吸収波長ができるだけ広い波長領域で重複するように前記数字8のフラッシュランプに流す,放電電流波形のピーク値や1/3時間幅を調節する・・・とよい。」(段落【0110】)cなお,光硬化を半硬化状態までにとどめるために波長分布の調整を行うことは,下記(a)のとおり,乙2公報にも記載され,また,下記(b)のとおり,乙3公報(平成13年9月26日公開)にも記載されている。
(a)「下塗り塗料の硬化状態は,半硬化状態に留められ,表面が粘着力を持つ状態とされる。
このような状態に半硬化させるには,光量の調整,照度の調整,波長分布の調整等が挙げられるが,前述の組成範囲とすることにより照射条件の設定を容易に行うことができる。」(段落【0023】)(b)「半硬化処理は,樹脂組成物に配合した光重合開始剤が感応する波長の光を,表層フィルムの側(剥離フィルムの反対側)よりコントロール下に照射して行う。コントロールは,光重合の各種の因子を種々調節することで行うが,光強度調節剤の存在下照射時間を調節するのが容易である。照射時間は,紫外線の場合は通常3〜10秒,可視光で通常10〜40秒あるが,光の波長と強度,光重合開始剤の種類と濃度,光強度調節剤の種類と濃度,樹脂組成物の重合反応性,反応温度,表層フィルムの光透過性で等左右されるため,適切な照射時間は,実際に現場での試験により決定する必要がある。」(段落【0030】)(イ)そして,上記(ア)bのとおり,光重合開始剤を含んだ光重合性材料の光硬化を行う場合,通常は,処理効率等を考慮して,光重合開始剤の感度スペクトル最大点を含む波長領域の光を当てるものであることに照らせば,上記(ア)の技術常識に基づいて光硬化を途中まで行った後,光硬化を完全に行うため,光重合開始剤の感度スペクトル最大点を含む波長領域の光を当てればよいこと,その場合,光重合開始剤が1つで足りることは,本件優先日当時の当業者にとって明らかな事項であったといえる。
(ウ)以上によれば,引用発明が属する技術分野(光硬化に関する技術分野)と共通の技術分野に係る上記(ア)の技術常識を引用発明に適用し,本願原補正発明の本件構成を得ること,すなわち,光重合開始剤を1つとした上,一方の光源を,光硬化を途中まで行うための光源とし,その照射光を光重合開始剤の感度スペクトル最大点と異なる波長領域のものとして,光重合開始剤の感度スペクトルとの間で部分的な重複領域のみを有するようにし,他方の光源を,光硬化を完全に行うための光源とし,その照射光を光重合開始剤の感度スペクトル最大点を含む波長領域のものとして,光重合開始剤の感度スペクトルとの間でより大きな重複領域を有するようにすることは,本件優先日当時の当業者が容易になし得たことであるというべきである。
(エ)なお,歯科用の光硬化装置において,光源を発光ダイオードとすることは,例えば,周知例1ないし3等に示されるように,本件優先日当時の周知技術にすぎず,また,発光ダイオードに,波長の短いものから長いものまで様々な波長領域を持ったものが存在することは,当業者に自明のことであるから,引用発明に上記周知技術を適用し,2つの光源をそれぞれ発光ダイオードとすることも,当業者が容易になし得たことである。
ウ以上のとおりであるから,本件相違点部分に係る審決の上記アの判断に誤りはない。
(2)原告の主張についてア原告は,引用例及び周知例1ないし4が,本願原補正発明の本件構成を開示し,又は示唆するものではない旨主張するが,上記(1)イのとおり,周知例4及び乙1公報ないし乙3公報により認められる技術常識は,本件構成を示唆するものであるから,原告の上記主張は理由がない。
イまた,原告は,周知例4に記載された発明が属する技術分野が,歯科用光硬化装置が属する技術分野と異なる旨主張するが,上記(1)イのとおり,周知例4に記載された技術常識は,引用発明が属する技術分野(光硬化に関する技術分野)に係るものであるから,原告の上記主張も理由がない。
4取消事由4(格別顕著な作用効果の看過)に対して原告が主張する「唯1つの光重合開始剤を使用すること」による効果は,引用発明及び上記3の技術常識から予測し得る程度のものである。
また,原告が主張する効果のうち,「放射強度及び予備硬化の時間を調整することができる」との点は,本件原補正後の請求項1の記載によれば,本願原補正発明が直接奏する効果とはいえないし,仮に,本願原補正発明が奏する効果といえるとしても,引用発明,周知例1ないし3によって認められる周知技術及び上記3の技術常識から予測し得る程度のものである。
したがって,審決に,本願原補正発明が奏する格別顕著な作用効果を看過した誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)について(1)原告は,本件補正が特許法17条の2第4項2号に掲げる「特許請求の範囲減縮」を目的とするものであると主張する。
(2)そこで,検討するに,前記第2の2(1)によれば,本願原補正発明は,所定の「発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群」が所定の「唯1つの光重合開始剤を含んだ光重合性材料を重合するためのもの」と規定した上,上記光重合開始剤の感度スペクトルと上記発光ダイオードの放射スペクトルの関係を限定した構成から成る「光硬化装置」であるものということができる。そして,上記規定の仕方からすると,「光重合開始剤を含んだ光重合性材料」は重合対象として位置付けられているため,「光硬化装置」自体の構成要素ということはできないが,上記の光重合開始剤の感度スペクトルと同発光ダイオードの放射スペクトルとの所定の関係を不可欠とすることを考慮すると,実質的には,所定の「光重合開始剤を含んだ光重合性材料」を発明の不可欠の構成要素とみるほかないというべきである。
そこで,進んで本願補正発明についてみると,その特許請求の範囲の記載は前記第2の2(2)のとおりであるところ,これによれば,前段において,所定の「発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群」と「少なくとも一つの光重合開始剤を備える光重合性材料からなるシステム」と規定されていることからみて,両者が発明の構成要素であることは明らかであるところ,後段において,「前記光重合性材料は唯一つの光重合開始剤(20)からな(る)」ものであると規定し,この光重合開始剤の感度スペクトルと上記発光ダイオードの放射スペクトルとの所定の関係を本願原補正発明とおおむね同様に規定したものと理解することができる。
以上のような理解に基づき,上記の補正前後の各発明を対比すると,確かに「光硬化装置」を「システム」と表現を変更した部分はあるものの,両者の発明構成要素は補正の前後を通じて変わらないものといわざるを得ないし,この点は,後述するとおり,原告も自認するところである。
ところで,特許法17条の2第4項2号は,「特許請求の範囲減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と規定するところ,上述したとおり,本件補正は,同補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定したものでないことが明らかであるから,上記補正事項に係る本件補正は,同号に掲げる「特許請求の範囲減縮」を目的とするものには該当しないというべきである。
(3)原告は,本件補正前の請求項1が「『光重合性材料を重合するための』光硬化装置」として「光硬化装置」を機能的に規定するのに対し,本件補正後の請求項1は,「光硬化装置」と「光重合性材料」から構成される「システム」として,発明の具体的構成要素が明確になるように表現を変更したものにすぎず,本件補正の前後を通じ,発明の具体的な技術的特徴事項は同一であるから,本件補正は,特許請求の範囲を実質的に変更するものではない旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,特許請求の範囲を実質的に変更するものではなければ限定に当たるとする独自の解釈に立脚するものであり,到底採用することはできないものというべきである。
(4)以上によれば,審決の説示は必ずしも明瞭かつ的確とはいい難いが,その結論は正当であるというべきであるから,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(本願原補正発明と引用発明の一致点の認定の誤り)について(1)本願原補正発明の構成は,前記第2の2(1)のとおりであり,また,引用例(甲1)によれば,引用発明の構成は,前記第2の3(3)のとおりであると認められる(原告も,引用発明の認定の誤りを取消事由として主張するものではない。)。
(2)そこで,両発明の構成を対比するに,引用発明の「光の波長が470nm以上の光源と光の波長が450nm以下の光源」が「それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する2つの光源」であることは明らかであり,また,本願原補正発明の「発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群」が「光源」であること,及び同発明の「少なくとも2つの(発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群)」が「2つの(発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群)」を含むものであることも明らかであるから,両発明の一致点を「それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する少なくとも2つの光源を備え・・・る・・・光硬化装置。」とした審決の認定には何らの誤りもないというべきである。
(3)ア原告は,引用発明が波長のみによって光源を区別するのに対し,本願原補正発明は放射スペクトル最大によって光源を選択するものであり,この点につき両発明を同一視することはできない旨主張する。
しかしながら,引用発明が「光の波長が470nm以上の光源と光の波長が450nm以下の光源」を備え,これら2つの光源の波長領域が重ならない以上,これら2つの光源が異なる放射スペクトル最大を備えていることは明らかであるから,原告の上記主張を採用することはできない。
イまた,原告は,審決が引用発明において必須の手段である光学的遮断フィルターの存在を考慮していない旨主張するが,上記(2)において説示したところ照らせば,光学的遮断フィルターが引用発明において必須の手段であると否とを問わず,引用発明が,結果として,「光の波長が470nm以上の光源と光の波長が450nm以下の光源」,すなわち,「それぞれ異なった放射スペクトル最大を有する2つの光源」を備えるものであることに何ら変わりはないのであるから,原告の上記主張は,両発明の一致点に係る審決の認定を左右するものではない。
(4)よって,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(相違点についての判断の誤り)について(1)本願原補正発明の「発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群を備え(る)」との構成についてア周知例1ないし3の記載(ア)本願原補正発明と技術分野を同じくする「光重合装置」と称する発明に関する周知例1(甲2)には,次の各記載がある。
a「【発明の属する技術分野】歯科技工においていくつかの,いわゆる複合材料が知られており,これらは光を照射したときにメタクリレートに基づく硬化機構により重合する。これらの材料は本質的な光重合開始剤としてカンファーキノリンを含んでおり,このものは約472nmのところの吸収最大とともに青色スペクトル範囲内の広いバンドの光を吸収する。」(段落【0001】)b「【発明が解決しようとする課題】本発明の一般的な目的の1つは,匹敵する従来技術の装置を用いて遭遇する欠点の少なくとも若干を除くことである。本発明のより特別な目的の1つとして,光重合合成物質,特に光重合開始剤としてカンファーキノンを用いた歯科材料のための,有用な青色のスペクトル範囲において最大効率で光を発生する装置が提供されるべきである。」(段落【0010】)c「【課題を解決するための手段】この目的は,合成物質,特に光重合開始剤を含む歯科材料を,青色のスペクトル範囲の光によって光重合させる装置において,光源が半導体に基づく固体輻射線放出器である光重合装置により達成される。」(段落【0011】)d「その固体輻射線放出器がLEDモード,すなわち半導体ダイオードとして作動されるときは,小さすぎない帯域幅の中の2次元的輻射と言う追加的な利点が存在する。それら両方の特徴はともに,比較的大きな照射表面がその照射されるべき歯の表面の通常の寸法に近く,そしてその比較的大きなスペクトル幅がその重合される分子の吸収帯域幅に,より近接して対応していて,それにより効率的な重合がもたらされるので,歯科用への利用に特に有利である。」(段落【0018】)(イ)本願原補正発明と技術分野を同じくする「照明機構付き歯科用器具」と称する発明に関する周知例2(甲3)には,次の各記載がある。
a「【発明の属する技術分野】この発明は,歯科の診療に用いる器具,特に照明機構を備えた器具に関するものである。」(段落【0001】)b「【課題を解決するための手段】・・・この発明では,1個または複数個の小型発光素子を手持ち式の器具本体の前端部に配置し,診療部位(部位)に対する照射光を上記の小型発光素子から出射するように構成している。」(段落【0006】)c「また小型発光素子は器具本体に対して着脱自在とすることが望ましく,特に小型発光素子が複数個の場合には発光素子を集合して発光素子ユニットを構成し,この発光素子ユニットを器具本体に対して着脱自在とされる。これにより,・・・光重合器の機能を持つユニットを用意すれば光重合器としての使用も可能となる。」(段落【0009】)d「この発明の小型発光素子としては,白色光を放射する発光ダイオードあるいはレーザー光を放射する半導体素子が使用される。また青色光を放射する発光ダイオードを使用した発光素子ユニットを着脱できるようにすることにより,器具を光重合器として機能させることができる。」(段落【0011】)e「前述したように,発光ダイオード3として青色光を放射するものを使用することもできるが,この場合には例えば図9に示したように前端面に複数個の発光ダイオード3が配列され,器具本体1に着脱自在とされた発光素子ユニット6′とするのである。これによって,器具本体1を診療用だけでなく光重合器としても兼用できるようになるので便利であ・・・る。」(段落【0020】)(ウ)本願原補正発明と技術分野を同じくする「特に歯科分野で利用される感光性複合材料の光活性化を可能にする機器」と称する発明に関する周知例3(甲4)には,次の各記載がある。
a「【産業上の利用分野】本発明の目的は,特に歯科分野で利用される感光性複合材料の光活性化を可能にする機器に関する。」(段落【0001】)b「【発明が解決しようとする課題】本発明は,発散される熱を有意な形で低減させることができるようにしながら処理すべき材料の異なる層の迅速な及び漸進的な光重合を実現できるようにする歯の漂白のための複合材料及び製剤の光重合用機器を提供することによってこれらの欠点を補正することを目的としている。」(段落【0010】)c「【課題を解決するための手段】本発明に従った重合用機器は,中央電子ユニットによって電気的に操作される電源ユニットを収納するケース,電気発光ダイオードマトリックスから成る前記電源に連結された光源及びダイオードが発する光の集光用装置を含むタイプのものであ(る)」(段落【0011】)イ上記アによれば,歯科用の光硬化装置において,その光源を「発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群」とすることは,本件優先日当時,当業者に周知の技術であったものと認められるから,これを引用発明に適用し,本願原補正発明の「発光ダイオードおよび/または発光ダイオード群を備え(る)」との構成を採用することは,本件優先日当時の当業者において,容易に想到することができたものと認めるのが相当である。
(2)本願原補正発明の「光重合開始剤の感度スペクトル最大点が第1の発光ダイオードの放射最大点と異なるように設定されている」との構成についてア引用発明における二段階硬化技術本願原補正発明と技術分野を同じくする「歯科材料」と称する発明に関する引用例(甲1)の次の各記載によれば,引用発明においては,「光の波長が470nm以上の光源によって光重合開始剤?Uが励起され(る)」ことにより半硬化が行われ,「光の波長が450nm以下の光源によって光重合開始剤?Tが励起される」ことにより最終的な硬化が行われるものと認められる。
(ア)「本発明による歯科材料は二段階において硬化させ得る。第一硬化工程においては450nmより小の波長域遮断フィルターによって,あるいは光源を選択することによって光重合開始剤?Uだけが励起される。この場合長波長の弱エネルギー光によって比較的弱い活性ラジカルが生じ,これによってアミンのような活性剤の不存在下に,エチレン系の不飽和の重合性モノマーが部分的に硬化される。本発明によれば,光重合開始剤?Uによって物質は,光重合開始剤?T単独使用下に低波長(450nm以下)光線によって得られる硬さの70%まで,望ましくは50%まで硬化される。
第二硬化工程においては450nm以下の波長域の光源を使用することによって物質は最終の硬さまで硬化される。」(5頁左上欄下から4行〜右上欄11行)(イ)「このような歯科材料を使用することによって,充填時に第一硬化工程において実質的に470nm以上の波長の光源を用いて物質を最終硬さの70%まで,好ましくは50%まで硬化させて固定することができるという特長が得られる。・・・これらの加工終了後450nm以下の波長の光線を用いて(あるいはこの波長域を分離した光線を用いて)上記歯科材料を最終硬さまで硬化させる。」(5頁左下欄1〜12行)イ周知例4,乙2公報及び乙3公報並びに乙1公報の記載(ア)光硬化性樹脂の半硬化の技術に係る「装飾体又は表示体の製造方法」と称する発明に関する周知例4(甲5)には,次の各記載がある。
a「【課題を解決するための手段】本発明の装飾体又は表示体の製造方法は,型材に形成された凹部に光硬化性樹脂を充填し光硬化させて突出部を成形し,該突出部と基材とを,光硬化性接着剤を介して重ね合わせ,再度光硬化させて接着する方法であって,上記光硬化性樹脂を最初に光硬化させるとき,得られる突出部の基材との接着面の表面層の硬化を半硬化状態までに留めておく方法である。」(段落【0005】)b「本発明の製造方法において使用される光硬化性樹脂及び光硬化性接着剤は,樹脂及び光重合開始剤を必須の構成成分とする。」(段落【0009】)c「本発明の製造方法において,型材の凹部に充填された光硬化性樹脂は,最初の光照射により基材との接着面の表面層が半硬化状態までに留められた状態で光硬化する。この半硬化状態とは,未硬化で液体の状態から,一定の粘着性を有する状態まで硬化が進んだ状態の範囲内の状態を意味する。
上記光硬化性樹脂の基材との接着面の表面層の光硬化を半硬化状態までに留めておく方法としては,例えば,(1)・・・,(2)光硬化性樹脂の組成を,酸素による光硬化阻害を受け易い組成とする方法,(3)上記(2)の方法に加え,照度及び波長分布の調整された照射光を照射する方法等が挙げられる。」(段落【0013】,【0014】)d「上記照射光の波長分布を調整する方法としては,例えば,波長が365nm以下の,エネルギーが大きくて光硬化性樹脂の表面層の硬化に有効な低波長側の光を波長カットフィルターでカットし,エネルギーが小さくて光硬化性樹脂の内部の硬化には有効で,且つ,表面層の硬化にはあまり有効でない長波長側の光のみを選択的に照射する方法が挙げられる。
上記照射光の照度及び波長分布を調整する方法により,酸素による光硬化性樹脂の硬化阻害が顕在化し,凹部内に充填された光硬化性樹脂が空気に面している表面層(基材との接着面の表面層)の光硬化を選択的に遅らせることができる。
上記(1)〜(3)の方法のうち,(2)及び(3)の方法は,条件設定の範囲が広く,光硬化性樹脂の基材との接着面の表面層を選択的に半硬化状態までに留め易く,且つ,樹脂内部が完全硬化に近い段階まで光硬化しているため,接着時再度光硬化させるときの樹脂の硬化収縮が少なく,好ましい。」(段落【0018】〜【0020】)(イ)光硬化性塗料の半硬化の技術に係る「光硬化性塗料の塗布硬化方法」と称する発明に関する乙2公報には,次の各記載がある。
a「【課題を解決するための手段】この発明は,プラスチック基材に,単官能アクリレート系モノマーを30重量%以上含むアクリレート系モノマーを主成分とする光硬化性の下塗り塗料を塗布し,これに光を照射して半硬化させ,塗料表面が粘着力を持っている間に,その上に光硬化性の上塗り塗料を塗布し,これに光を照射して塗料を硬化させる光硬化性塗料の塗布硬化方法であ・・・る。」(段落【0007】)b「上記アクリレート系モノマーには,通常,光重合開始剤が含有される。光重合開始剤は,特定範囲の波長の光を吸収して活性種を生成し,光硬化性樹脂成分の硬化反応を開始させるものである。このような光重合開始剤としては,アセトフェノン系・・・等の公知のものが用いられる。」(段落【0016】)c「プラスチック基材に下塗り塗料が塗布され,これに光が照射されて下塗り塗料が半硬化される。・・・下塗り塗料の硬化状態は,半硬化状態に留められ,表面が粘着力を持つ状態とされる。このような状態に半硬化させるには,光量の調整,照度の調整,波長分布の調整等が挙げられる・・・。」(段落【0022】,【0023】)d「こうして得られる半硬化状態の下塗り塗料の上に,上塗り塗料が塗布され上記と同様な光源を用いて光が照射され,塗膜が完全に硬化される。ここで用いる上塗り塗料は,これまで一般に用いられている公知の光硬化性塗料が使用されるが,前述の下塗り塗料と同一組成のものであってもよい。」(段落【0026】)(ウ)光重合開始剤を含有する樹脂組成物の半硬化の技術に係る「物品等の表面保護用多層接着フィルムとその製造法」と称する発明に関する乙3公報には,次の各記載がある。
a「本発明によれば,表層となる柔軟性且耐摩耗性を有する合成樹脂フィルムの裏面に,光重合開始剤及び光強度調節剤と・・・を同時に含有する樹脂組成物を積層し,これを剥離可能なフィルムで保護する。この3層より成るシートを合成樹脂フィルム側より光重合開始剤が感光する波長の光を照射し,剥離フィルム側にタックが残る程度に樹脂組成物の層を半硬化することにより多層接着フィルムを製造する。ここで半硬化とは,プレポリマーとモノマーとの混合物が流動状態を脱して完全に硬化する迄の中間的な,可塑性を維持した状態にする硬化処理を言う。」(段落【0006】)b「本多層フィルムは,保護フィルムを剥離し,タックが残った半硬化樹脂層を被処理製品の表面に密着させた後,光照射或いは加熱処理を行うことにより,製品表面に完全に接着することが出来る。」(段落【0008】)c「半硬化処理は,樹脂組成物に配合した光重合開始剤が感応する波長の光を,表層フィルムの側(剥離フィルムの反対側)よりコントロール下に照射して行う。コントロールは,光重合の各種の因子を種々調節することで行うが,光強度調節剤の存在下照射時間を調節するのが容易である。照射時間は,紫外線の場合は通常3〜10秒,可視光で通常10〜40秒あるが,光の波長と強度,光重合開始剤の種類と濃度,光強度調節剤の種類と濃度,樹脂組成物の重合反応性,反応温度,表層フィルムの光透過性で等(等で)左右されるため,適切な照射時間は,実際に現場での試験により決定する必要がある。」(段落【0030】)(エ)他方,紫外線硬化性組成物の硬化を効率的に完了させる技術に係る「ディスクの貼り合わせ方法及び装置」と称する発明に関する乙1公報には,次の各記載がある。
a「【発明の属する技術の分野】本発明は,少なくとも一方に情報記録層を有する2枚のディスク基板を貼り合わせる方法に関・・・するものである。」(段落【0001】)b「【発明が解決しようとする課題】本発明は・・・,紫外線硬化性組成物を接着剤として用いディスク両側から紫外線を閃光的に繰り返し照射することによって硬化接着させる方法において,・・・裏移りを抑制し,情報信頼性の高いディスクの貼り合わせ方法及び装置を提供することを目的とする。」(段落【0012】)c「ディスク貼り合わせのための接着剤としては,公知慣用の紫外線硬化性組成物を用いることができる。この紫外線硬化性組成物は,当業界では,紫外線硬化性樹脂とも呼ばれる場合がある。この紫外線硬化性組成物としては,紫外線硬化性をより良好なものとするために,光重合開始剤を含む紫外線硬化性組成物が望ましい。光開始剤としては,その吸収波長と後述する照射紫外線の波長とが少なくとも重複する様にして,高(効)効率に確実に,硬化接着させることが好ましい。」(段落【0023】)d「本発明者らの知見によれば,1回あたりの放電エネルギーが同じであっても,放電電流のピーク値や時間幅を変えると,光源ランプから放出される光強度やスペクトル分布が変わり,同一組成の紫外線硬化性組成物の硬化性も変化することが分かった。」(段落【0070】)e「必要最小の電気入力エネルギー・・・で前記紫外閃(線)硬化を行うためには,図4の数字8のフラッシュランプの閃光の発光スペクトルが,紫外線硬化性組成物に含める光重合開始剤が鋭敏に反応するよう,前記紫外線と光重合開始剤の吸収波長ができるだけ広い波長領域で重複するように前記数字8のフラッシュランプに流す,放電電流波形のピーク値や1/3時間幅を調節するか,或いは又,前記光重合開始剤に含める材料の種類や組み合わせを選択するとよい。
一般に,同一形状のランプを使用する場合でも,図4の数字6のコンデンサの充電電圧を高くして放電させると,放電時の電圧ピーク値が上がり,結果として波長400nm以下の紫外線波長領域のスペクトル強度が相対的に増大する。又,数字6のコンデンサの充電電圧が一定であっても,数字7の空芯コイルのインダクタンスを小さくする程,前記1/3時間幅は減少され,前記放電電流波形のピーク値が増大し,結果として波長400nm以下の紫外線波長領域のスペクトル強度が相対的に増大するようになる。このようにして数字8のフラッシュランプの発光スペクトルは,発光時の放電電流ピーク値や1/3時間幅を変化させることで,ある程度制御することが可能である。
一方,前記紫外線硬化性組成物に含める光重合開始剤には,分子が開裂してラジカルを発生するタイプと,芳香族ケトンと水素供与体の組み合わせタイプの2種類があることは前述したとおりであるが,紫外線の吸収スペクトルは,それらの材料の選択や組み合わせ方によっても異なったものとなる。
従って,必要最小の電気入力エネルギーによって,前記紫外線硬化性組成物の紫外線硬化を完了させるためには,前記閃光式紫外線照射装置の側と,前記紫外線硬化性組成物の材料の側とから,両者の波長領域が出来るだけ広範囲に重複するように,最適な条件を見いだして用いるのが望ましい。」(段落【0110】〜【0113】)ウ(ア)上記イによれば,光重合性材料の硬化を効率的に完了させるためには,光源の放射スペクトル(波長領域)と光重合開始剤の感度スペクトル(吸収波長領域)とが,できる限り大きな重複領域を有するようにするのが有用であること,他方,光重合性材料を半硬化の状態にとどめるためには,光源の放射スペクトルを調整する方法,具体的には,エネルギーの小さい長波長の光を選択的に照射する方法が有用であることは,本件優先日当時の当業者にとっての技術常識であったものと認められる。
(イ)そして,光源の放射最大点が光重合開始剤の感度スペクトル最大点と一致する場合,光源の放射スペクトルのすべて若しくはかなりの部分又は光重合開始剤の感度スペクトルのすべて若しくはかなりの部分が重複領域となってしまうため,両者の重複領域が相当に大きくなることは自明の事項であるから,光重合性材料を半硬化の状態にとどめるためには,光源の放射最大点と光重合開始剤の感度スペクトル最大点とを異ならせるのが有用であることもまた,本件優先日当時の当業者にとっての技術常識であったものと認められる。
(ウ)そうすると,引用発明の「光の波長が470nm以上の光源」(上記アのとおり,光重合性材料の半硬化に用いられる光源である。)に上記(イ)の技術常識を適用し,「光重合開始剤の感度スペクトル最大点が第1の発光ダイオードの放射最大点と異なるように設定されている」との本願原補正発明の構成を採用することは,本件優先日当時の当業者にとって,容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(3)本件構成についてア光重合性材料の半硬化を行うため,引用発明の「光の波長が470nm以上の光源」に前記(2)ウ(ア)の技術常識を適用した場合(光源の放射スペクトルと光重合開始剤の感度スペクトルとが大きな重複領域を有するようにせず,エネルギーの小さい長波長の光を選択的に照射する方法を適用した場合),当該重複領域が部分的なものとなることは明らかであるから,引用発明の「光の波長が470nm以上の光源」に前記(2)ウ(ア)の技術常識を適用して,本件構成中,「第1の発光ダイオードの放射スペクトルは光重合開始剤の感度スペクトルとの間で部分的な重複領域のみを有(する)」との構成を採用することは,本件優先日当時の当業者にとって,容易に想到し得たものと認められる。
イまた,光重合性材料の硬化の完了を効率的に行うことは,当業者にとって自明の課題であるといえるから,当該自明の課題を解決するため,引用発明の「光の波長が450nm以下の光源」(前記(2)アのとおり,光重合性材料の最終的な硬化に用いられる光源である。)に前記(2)ウ(ア)の技術常識を適用して,光源の放射スペクトルと光重合開始剤の感度スペクトルとが,できる限り大きな重複領域を有するようにすること,すなわち,本件構成中,「第2の発光ダイオードの放射スペクトルは光重合開始剤の感度スペクトルとの間でより大きな重複領域を有する」との構成を採用することもまた,本件優先日当時の当業者にとって,容易に想到し得たものと認められる。
ウさらに,本願原補正発明の構成中,上記ア及びイ並びに前記(2)の構成を採用すれば,光重合開始剤が1つであっても,光重合性材料の半硬化及び最終硬化の二段階の硬化工程が実現されることになるから,本件構成中,光重合性材料についての「唯1つの光重合開始剤を含んだ」との構成を採用することも,同様に,本件優先日当時の当業者にとって,容易に想到し得たものと認めるのが相当である(なお,前記(2)イのとおり,周知例4,乙2公報及び乙3公報にも,1種類の光重合開始剤のみを使用する技術が記載されている。)。
エ以上のとおりであるから,本件相違点部分を含め,相違点について,「引用発明において,2つの光源を発光ダイオードとし,上記技術常識を適用して,歯科材料(光重合材料)に含まれる光重合開始剤を1つとし,上記相違点に係る本願原補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである」とした審決の判断に誤りはないというべきである。
(4)原告の主張についてア原告は,引用例及び周知例4が,本件構成を開示し,又は示唆するものではない旨主張するが,引用発明に前記(2)ウ(ア)及び(イ)の技術常識を適用して本件構成を採用することが,本件優先日当時の当業者にとって容易に想到し得たものと認められることは,前記(3)説示のとおりであるから,原告の上記主張は理由がない。
イ原告は,周知例1ないし3が,本件構成を開示し,又は示唆するものではない旨主張するが,前記第2の3(5)のとおり,審決は,「歯科用の光硬化装置において,光源を発光ダイオードとすることは,例えば,周知例1ないし3等に示されるように,本件優先日前の周知技術に過ぎ(ない)」と判断したにとどまるものであるから,原告の上記主張は,審決の内容を正解しないものとして失当である。
ウ原告は,周知例4及び乙1公報ないし乙3公報に記載された技術が,本願原補正発明と異なる技術分野における光硬化の方法に係るものである旨主張する。
しかしながら,光硬化の技術(光重合開始剤を含む光重合性材料に光を照射して硬化させるとの技術)を歯科用に応用することは,引用発明の存在,周知例1ないし3の記載(前記(1)ア)及び本願明細書の下記記載により,本件優先日前から普通に行われてきたことであると認められるから,歯科用の光硬化装置の技術分野における当業者は,当然に,光硬化の技術一般について調査・検討した上,これを歯科用の光硬化装置に応用することを考えるはずである(そもそも,光硬化の技術一般についての知見を有しないで,歯科用の光硬化装置の研究・開発を行うことは不可能である。)。したがって,周知例4及び乙1公報ないし乙3公報に記載された光硬化の技術が,「装飾体又は表示体」,「ディスク」,「塗料」及び「表面保護用多層接着フィルム」にそれぞれ応用されるものであるからといって,当該技術を歯科用の光硬化装置に適用することができないことの理由となるものではないから,原告の上記主張を採用することはできない。
(ア)「【従来の技術】この種の光硬化装置は光重合性の材料に的を絞って硬化処理を行う場合に使用される。
従来の技術において使用される光硬化装置によって硬化される材料としては例えばセメントが挙げられ,これは余剰分を完全に使用する必要がある。この余剰分は硬化の後極めて硬質になり,例えば適宜な歯科器具を使用して磨砕することによってこの余剰分を除去するために多大な時間的損失が不可避となる。加えて,この余剰分の除去によって磨砕または切削器具の稼動が大幅に増加する。
例えば,異なった感度最高値スペクトルを有する2つの光重合開始剤を使用しこの材料を適宜な放射スペクトルを有するランプによって照射することが提案されている。
さらに,2つの異なった光重合開始剤を有する光重合性材料において,この材料をまず第1の光重合開始剤を介して所要の波長によって部分的に硬化させ,その後余剰分を除去してから第2の光重合開始剤を介して最終的に硬化させることが提案されている。しかしながら,2つの光重合開始剤を実現することが極めて高コストであるとともに,二重システムにおける交換作用ならびに部分的な硬化を制御することが極めて困難であるため,この方法は実用化されていない。従って,余剰分は通常硬化後に除去しており,これには多大な時間的損失を要する。」(段落【0002】〜【0005】)(イ)「【発明が解決しようとする課題】従って,本発明の目的は,光硬化に際して寸法正確性を向上させるとともに種々の異なった重合性材料を柔軟に使用することを可能にする,請求項1前段に記載の光硬化装置,ならびに請求項14前段に記載の重合性材料の重合化方法を提供することである。」(段落【0006】)(5)よって,取消事由3は理由がない。
4取消事由4(格別顕著な作用効果の看過)について(1)原告は,本願原補正発明が,光重合性材料として唯1つの光重合開始剤を使用することにより,「硬化材料の余剰分の効果的な除去」,「複雑なシステムの回避」及び「大量生産によるコスト面での有利性」との作用効果(以下,順に「本件作用効果1」ないし「本件作用効果3」という。)を奏する(本願明細書の下記ア及びイの記載参照)とともに,同発明が,「放射強度及び予備硬化の時間を調整することができる」との作用効果(以下「本件作用効果4」という。)を奏し(本願明細書の下記ウの記載参照),これらが格別顕著なものである旨主張する。
ア「さらに,2つの異なった光重合開始剤を有する光重合性材料において,この材料をまず第1の光重合開始剤を介して所要の波長によって部分的に硬化させ,その後余剰分を除去してから第2の光重合開始剤を介して最終的に硬化させることが提案されている。しかしながら,2つの光重合開始剤を実現することが極めて高コストであるとともに,二重システムにおける交換作用ならびに部分的な硬化を制御することが極めて困難であるため,この方法は実用化されていない。従って,余剰分は通常硬化後に除去しており,これには多大な時間的損失を要する。」(段落【0005】)イ「本発明によれば,ただ1つの光重合開始剤のみを使用するにもかかわらず部分重合が実現されることによって,余剰分の除去が可能となることが好適である。このため,発光ダイオードの放射スペクトルと光重合開始剤の感応スペクトルとの間のスペクトル重複が利用される。
市販の低価格な歯科材料を処理することができ,従って2つの光重合開始剤を有する特殊な材料が不要となる点が特に好適である。ただ1つの光重合開始剤のみを有する光重合性材料が規格品として比較的大量に製造されているため製造および貯蔵が低コストとなり,価格面において極めて有利なものとなる。これに対して特別性の材料は,その保存性が限られたものである点のみによっても大幅に高コストかつ高価格なものとなる。」(段落【0009】)ウ「第1の時間間隔における光放射の強度と第2の時間間隔における光放射の強度との間の相関性は,第1および第2の時間間隔の長さと同様に必要に応じて広範に調節することができる。第1の発光ダイオードの放射強度を少なくとも100mW/cm に設定し,第2の発光2ダイオードの放射強度を少なくとも300,特に600ないし1000mW/cm に設定す2ることが好適である。第1の発光ダイオードの放射強度をより大きくし,および/または第1の時間間隔をより長くすることによって部分重合された材料がいくらか硬質になり,従って余剰分の除去を市販の歯科器具によって機械的に行うことが可能になり,一方第1の発光ダイオードの放射強度をより小さくし,および/または第1の時間間隔をより短くすることによって塑成または加工を行うことが可能になる。」(段落【0012】)(2)本件作用効果1について上記(1)ア及びイによれば,本件作用効果1は,光重合性材料について二段階の硬化工程が実現されることにより奏されるものといえるところ,引用例にも下記記載が存在するのであるから,本件作用効果1は,引用発明に基づいて,本件優先日当時の当業者が予測することのできた範囲内のものであると認められる。
ア「特に過剰物の除去並びに噛み合わせに対する研削は歯医者にとって非常に困難な作業となり,その上,時間が多大にかかり,さらには研削器械の消耗も著しいものとなる。しかもこの作業に対しては高価なダイヤモンド材しか使用できず,しかも使用中この器材によって充填剤の境界域,すなわち残存している歯との境目部分を研削してしまうおそれもある。
これらに対して本発明は上述のような従来の技術における欠点を除去した,新規の,二段階硬化歯科材料,特に歯充填材料を提供することを課題としている。」(3頁右上欄10行〜左下欄1行)イ「充填時に第一硬化工程において・・・物質を最終硬さの70%まで,好ましくは50%まで硬化させて固定することができるという特長が得られる。特に支歯-合成物の場合,上記のように相応の硬さが得られるので,切削器械によって加工することができ,さらに研摩加工及び仕上加工においては材料の損失を著しく抑えることができる。」(5頁左下欄2〜9行)ウ「エリパー装置・・・及び直列接続の面フィルター475nm・・・を用いて20秒間露光する。これによって物質はドイツ工業規格53456に従って計測した結果,表面硬さ65MPaを示し,・・・この状態において物質は十分切削することができるので,余分な塗布部分を非常に簡単に除去することができる。」(8頁右上欄下から7行〜左下欄1行)(3)本件作用効果2及び3について上記(1)ア及びイによれば,本件作用効果2及び3は,使用する光重合開始剤を1つとすることにより奏されるものといえるところ,光重合開始剤を1つだけ使用する場合,これを2つ以上使用する場合と比較して,複雑なシステムの回避及びコストの低下が図られることは明らかである。
そうすると,本件作用効果2及び3は,引用発明並びに前記3(2)ウ(ア)及び(イ)の技術常識に基づいて,本件優先日当時の当業者が予測することのできた範囲内のものであると認めるのが相当である。
(4)本件作用効果4について本件作用効果4については,これが相違点に係る本願原補正発明の構成によって初めて奏されるものであると認めるに足りる証拠はない。
(5)なお,原告は,引用発明に周知例4及び乙1公報ないし乙3公報に記載された技術を結び付けることは不可能である旨主張するが,この主張を採用することができないことは,前記3(4)ウのとおりである。
(6)よって,審決に,本願原補正発明が奏する格別顕著な作用効果を看過した誤りはないから,取消事由4は理由がない。
5結論以上のとおり,審決取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 浅井憲
裁判官 杜下弘記
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