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関連審決 異議1998-71107
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19ワ8064特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  発明の詳細な説明 /  表現上の差異 /  模倣 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 214号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社セガ
同訴訟代理人弁護士 吉野正己
同訴訟代理人弁理士 大賀眞司
同 保坂延寿
被告 特許庁長官小川 洋
同指定代理人 佐藤昭喜
同 二宮千久
同 高橋泰史
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が平成10年異議第71107号事件について平成15年4月4日にした決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
争いがない事実等
1 特許庁における手続の経緯(当事者間に争いがない。) (1) 原告は,平成8年4月18日,昭和62年10月6日に出願された特願昭62-252011号の一部を分割し,発明の名称を「ゲーム装置」として新たに特許出願(特願平8-97034号)をした。同出願について,特許庁は,特許をすべき旨の査定をし,平成9年5月16日,特許第2650643号として設定登録がされた(以下,この特許を「本件特許」という。)。
(2) その後,A及び株式会社タイトーから本件特許について特許異議の申立てがされ,同事件は平成10年異議第71107号として特許庁に係属した。同事件の審理の過程において,原告は,平成13年1月15日付け訂正請求書により本件特許出願に係る設定登録時の明細書(甲2。以下「本件明細書」という。)の訂正を請求し,また,平成14年1月25付け手続補正書により上記訂正請求書の補正をした。
(3) 特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成15年4月4日,上記補正後の訂正(以下「本件訂正」という。)の請求を認めないとした上で,「特許第2650643号の請求項1,14,15,16に係る発明の特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は同月28日に原告に送達された。
2 本件訂正前の本件特許の請求項1,14ないし16に係る発明の要旨は,本件明細書の「特許請求の範囲」の上記各請求項に記載された次のとおりのものである(以下,請求項1,14ないし16に係る発明を,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」といい,これらを併せて「本件発明」という。)。
【請求項1】 遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い,投票終了後複数の模型体が順番を競って走行するレースを実行し,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置であって,模型体が走行する模型体走行面と,模型体走行面の下方に配置された下方走行面と,模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を誘導するように下方走行面上に配置された複数の走行体と,走行体の走行を制御する走行制御手段とを有し,前記模型体走行面及び下方走行面は,模型体及び走行体が走行経路を規制されることなく走行可能に構成されており,前記走行体はそれぞれに搭載され個別に走行制御可能な駆動制御機構を有し,前記走行制御手段は走行体のそれぞれに走行制御信号を送信して前記複数の走行体によって行われるレース展開を制御し,前記走行体のそれぞれは受信した走行制御信号に従って個別に駆動制御機構を制御して走行経路を規制されることなく下方走行面を走行することにより,前記模型体が走行経路を規制されることなく走行するレース展開を実現するように構成されたことを特徴とするゲーム装置。
【請求項14】 遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い,投票終了後複数の模型体が順番を競って走行するレースを実行し,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置であって,複数の模型体がそれぞれ走行経路を規制されることなく移動することが可能なように構成された模型体走行面と,模型体走行面の下方に配置され,模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を個別に誘導し,個別に移動制御可能に配置された複数のキャリアを含む走行駆動機構と,前記キャリアがそれぞれ走行経路を規制されることなく個別に移動するように前記走行駆動機構を制御することにより複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段とを有することを特徴とするゲーム装置。
【請求項15】 模型体が走行する模型体走行面と,模型体走行面の下方に配置された下方走行面と,模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を誘導するように下方走行面上に配置された複数の走行体と,複数の走行体によって行われるレースの展開を設定するとともに,設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御する信号を個々の走行体に送信するように構成された走行制御手段と,個々の走行体の位置を検出してその出力を走行制御手段に送信する位置検出手段とを有し,前記模型体走行面及び下方走行面は模型体及び走行体が走行経路を規制されることなく走行可能に構成されており,前記走行体のそれぞれには個別に制御可能な走行駆動手段が搭載されており,走行制御手段から受信した信号に基づき走行駆動手段を制御して,走行経路を規制されることなく設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御することにより,模型体がそれぞれ走行経路を規制されることなく模型体走行面を走行するように構成されてなることを特徴とするゲーム装置。
【請求項16】 競争ゲーム装置の走行面上に配置され,走行経路を規制されることなく走行可能に制御される走行体であって,ゲーム装置に備えられた走行制御手段か(注:「か」は「が」の誤記と認める。)送信する制御信号を受信する受信手段と,受信した信号に基づき走行体の走行を個別に駆動する駆動手段と,前記ゲーム装置に備えられた給電手段から電力の供給を受ける集電手段とを有し,前記駆動手段は,車輪と,車輪を駆動する走行用モータと,走行用モータを制御する走行制御回路と,受信した制御信号を処理して走行制御回路を制御する制御手段とを有することを特徴とする競争ゲーム装置用走行体。
3 本件訂正後の本件特許の請求項1,14ないし16に係る発明の要旨は,本件訂正後の本件特許出願に係る明細書(甲13。以下「本件訂正明細書」という。)の「特許請求の範囲」の上記各請求項に記載された次のとおりのものである(下線部分は本件訂正による訂正箇所を示す。)。
【請求項1】 遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い,投票終了後複数の模型体が順番を競って走行するレースを実行し,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置であって,模型体が走行する模型体走行面と,この模型体走行面の下方に配置された下方走行面と,前記模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を誘導するように前記下方走行面上に配置された複数の走行体と,走行体の走行を制御する走行制御手段とを有し,前記模型体走行面及び下方走行面は,模型体及び走行体が走行経路を規制されることなく走行可能に構成されており,前記走行体はそれぞれに搭載され個別に走行制御可能な駆動制御機構を有し,前記走行制御手段は走行体のそれぞれに走行制御信号を送信して前記複数の走行体によって行われるレース展開を制御し,前記走行体のぞれぞれは受信した前記走行制御信号に従って個別に駆動制御機構が制御され て走行経路を規制されることなく前記下方走行面を走行するように 構成 されており ,前記 ゲーム 装置 は,さらに 前記 レース 展開 を設定 する レース 展開設定手段 と前記走行体 の前記下方走行面上 における 実際 の走行位置 を逐次検出 する 位置検出手段 とを 備え,この 位置検出手段 により 逐次検出 される 前記走行体 のそれぞれの 前記下方走行面上 における 走行位置 と前記 レース 展開設定手段 で設定 された レース 展開 による 走行位置 とを 比較し,その 比較結果 に基づいて 生成 される 制御信号 に従って 前記駆動制御機構 を制御するように 構成 されており ,前記構成 によって 走行位置 を制御 される 走行体 によって前記模型体 の走行 を誘導 する ことにより,前記模型体がその 走行経路を規制されることなく走行するレース展開を実現するように構成されたことを特徴とするゲーム装置。
【請求項14】 遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い,投票終了後複数の模型体が順番を競って走行するレースを実行し,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置であって,複数の模型体がそれぞれ走行経路を規制されることなく移動することが可能なように構成された模型体走行面と,この模型体走行面の下方に配置され,この模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を個別に誘導し,個別に移動制御可能に配置された複数のキャリアを含む走行駆動機構と,前記キャリアがそれぞれ走行経路を規制されることなく個別に移動するように前記走行駆動機構を制御することにより複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段と,レース 毎に前記 ゲーム 展開 を設定する ゲーム 展開設定手段 とを有し ,前記走行駆動機構 は,前記走行制御手段 の制御の下で,前記設定 された ゲーム 展開 に基づき 前記複数 のキャリア のそれぞれを 個別に移動 させることにより ,前記 キャリア によって 誘導 される 模型体 による ゲーム展開 を実現 するように 構成 されてな ることを特徴とするゲーム装置。
【請求項15】 模型体が走行する模型体走行面と,この模型体走行面の下方に配置された下方走行面と,前記模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を誘導するように下方走行面上に配置された複数の走行体と,複数の走行体によって行われるレースの展開を設定するレース展開設定手段 と,設定されたレース展開に従って前記走行体の走行を制御する走行制御 信号を個々の走行体に送信するように構成された走行制御手段と,個々の走行体の位置を繰り返し検出してその出力を前記走行制御手段に送信する位置検出手段とを有し,前記模型体走行面及び下方走行面は前記模型体及び走行体が走行経路を規制されることなく走行可能に構成されており,前記走行制御手段は,個々の走行体 について ,前記位置検出手段 によって 検出 された 走行位置 を前記 レース 展開設定手段 によって 設定 された 走行位置 と比較 しその 比較結果 に基づく 走行制御信号 を逐次出力 するように 構成 されており ,前記走行体のそれぞれには個別に制御可能な走行駆動手段が搭載されており,前記走行制御手段から受信した前記比較結果 に基づいて 生成 される 走行制御 信号に基づき逐次走行駆動手段を制御して,前記設定 された 走行位置 に沿って 走行 するように 構成 されており ,この 構成 により 走行経路を規制されることなく, 設定されたレース展開に従って走行するよう 逐次 走行体の走行を制御し 模型体 を誘導 することにより,前記模型体がそれぞれ走行経路を規制されることなく模型体走行面を走行するように構成されてなることを特徴とするゲーム装置。
【請求項16】 走行経路が規制 されることなく 走行可能 に構成 された 模型体走行面 と,下方走行面 と,走行制御手段 と,レース 展開設定手段 とを 備えた 競争ゲーム装置の下方走行面上に配置され,前記模型体走行面上 に配置 された 模型体 と磁力を介して 結合 して 前記模型体 の走行 を誘導 するように ,前記下方走行面上 を走行経路を規制されることなく走行可能に制御される走行体であって,ゲーム装置に備えられた前記走行制御手段が 送信する制御信号を受信する受信手段と,受信した信号に基づき走行体の走行を個別に駆動する駆動手段と,前記ゲーム装置に備えられた給電手段から電力の供給を受ける集電手段とを有し,前記駆動手段は,車輪と,車輪を駆動する走行用モータと,走行用モータを制御する走行制御回路と,受信した制御信号を処理して走行制御回路を制御する制御手段とを有し,前記走行体 の下方走行面上 における 実際 の走行位置 を逐次検出 する 位置検出手段 によって 検出 された位置 と前記 レース 展開設定手段 によって 設定 された 前記走行体 の走行位置 とを 比較し,その 比較結果 に基づき 生成 される 制御信号 に基いて 走行体 の走行 を制御 するように 構成 されており ,前記模型体 の走行 を前記構成 を有する 走行体 によって 誘導 することにより 前記 レース 展開設定手段 によって 設定 された レース 展開 を実現 するように 構成 されてなる ことを特徴とする競争ゲーム装置用走行体。
4 本件決定の要旨 (1) 本件訂正請求の適否について ア 本件訂正前の請求項1,15,16に「レース展開設定手段」の文言を導入する訂正について 本件訂正前の請求項15中の「レース展開を設定する」の文言は,文字どおりの「レース展開を設定する」という意味で使用されているものではもとよりなく,「コンピュータに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピュータが無作為に選択・選定することによりマイクロコンピュータ101が決定するレース展開」の意味で用いられているものである。 しかるに,本件訂正により本件訂正前の請求項1,15,16に導入された「レース展開設定手段」の文言は,何らかの技術手段によりレースの展開を設定できるようになっていさえすればよいことを意味する広い概念であって,上記「レース展開設定手段」の文言は,コンピュータに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピュータが無作為に選択・選定することなしに,「コンピュータがレース毎に任意のレース展開をその都度自由に生成することによりレース展開を決定すること」をも含むものである。 そうしてみると,上記「コンピュータがレース毎に任意のレース展開をその都度自由に生成することによりレース展開を決定すること」の概念をも含む上記「レース展開設定手段」は,本件明細書に記載されていた事項ではないから,新規事項の追加に該当するものであり,本件訂正前の請求項1,15,16に「レース展開設定手段」の文言を導入する訂正は,本件明細書及び本件特許出願の願書に添付した図面(以下,単に「本件図面」という。)に記載された事項の範囲内においてした訂正ということができない。
したがって,上記訂正は,特許法120条の4第3項において準用する特許法126条1項ただし書に規定する要件を満たしていない。
イ 本件訂正前の請求項14に「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言を導入する訂正について 本件訂正により本件訂正前の請求項14に「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言が導入されたが,本件訂正前の請求項14には「複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段」とのみ記載されていたにすぎず,上記「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」についての記載を本件明細書に認めることはできないから,上記「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言は,本件明細書に記載されていた事項ではなく,新規事項の追加に該当するものであり,その文言を導入する訂正は,本件明細書及び本件図面に記載された事項の範囲内においてした訂正ということができない。
したがって,上記訂正は,特許法120条の4第3項において準用する特許法126条1項ただし書に規定する要件を満たしていない。 ウ 以上のとおり,本件訂正は新規事項を追加するものであるから,本件訂正の請求は認められない。
(2) 本件発明4の新規性について 本件発明4は,特願昭62-155230号(特開昭63-317178号公報)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
(3) 本件発明1ないし3の進歩性について ア 本件発明1について (ア) 本件発明1と,特開昭51-30036号公報(甲9。以下「引用刊 行物1」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)とを比較すると,両者は「模型体が走行する模型体走行面と,模型体走行面の下方に配置された下方走行面と,模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を誘導するように下方走行面上に配置された複数の走行体と,走行体の走行を制御する走行制御手段とを有し,前記模型体走行面及び下方走行面は,模型体及び走行体が走行可能に構成されており,前記走行体はそれぞれに搭載され個別に走行制御可能な駆動制御機構を有し,前記走行制御手段は前記複数の走行体によって行われるレース展開を制御し,前記走行体のそれぞれは個別に駆動制御機構を制御して下方走行面を走行することにより,前記模型体がレース展開を実現するように構成されたゲーム装置」である点で一致し,次の点で相違する。
a 本件発明1が「遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い,投票終了後複数の模型体が順番を競って走行するレースを実行し,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置」であるのに対し,引用発明は,模型体が順番を競って走行するレースを実行するゲーム装置である点(以下「相違点2」という。)。 b 本件発明1が「複数の模型体及び複数の走行体が走行経路を規制されることなく走行可能である」のに対し,引用発明は,走行経路が定められている点(以下「相違点3」という。)。 c レース展開の制御及び走行体の駆動制御機構の制御に際して,本件発明1が,走行制御信号を用いるのに対し,引用発明は,走行制御信号を用いない点(以下「相違点4」という。)。 (イ) 相違点2について 順番を競って走行するレースにおいて,そのレースを予想し投票を行い,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置は,実願昭56-8254号(実開昭57-123191号)のマイクロフィルム(甲11。以下「引用刊行物3」という。)に記載されており,引用発明に引用刊行物3に記載の技術を適用して,本件発明1の相違点2に係る構成を得ることは,当業者にとって格別の困難性を要することではない。
(ウ) 相違点3について 本件発明1における走行体が走行経路を規制されることなく走行可能であることの技術的意義は,走行体を下方走行面に対し自由に走行制御させて,模型体が模型体走行面上を走行経路を規制されることなく自由に走行できるようにすることにある。
そして,模型体が模型体走行面上を自由に走行できるようにすべく,本件発明1の走行体の前記走行制御のように,下方走行面に対し走行体が走行経路を規制されることなく走行体を自由に走行させるようにすることは,本件特許出願時の周知技術(例えば,米国特許第3961791号明細書(甲10。以下「引用刊行物2」という。)参照)であるから,引用発明に上記周知技術を適用して,本件発明1の相違点3に係る構成を得ることは,当業者が容易に想到し得る程度のものである。
(エ) 相違点4について 走行体に走行制御信号を送信して走行体を制御し,走行体の受信した走行制御信号に従って走行体の駆動制御機構を制御する走行制御手段は,本件特許出願時の周知技術(例えば,特開昭58-200177号公報,特開昭60-153509号公報,特開昭60-249986号公報,特開昭62-105206号公報,実願昭53-169526号(実開昭55-85085号)のマイクロフイルム参照)であり,引用発明に上記周知技術を適用して,本件発明1の相違点4に係る構成を得ることは,当業者にとって格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものである。
(オ) そして,引用発明に引用刊行物3に記載の発明並びに上記周知技術を適用することにより奏される作用効果に,格別な効果を認めることができない。
したがって,本件発明1は,引用刊行物1及び引用刊行物3に記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
イ 本件発明2について (ア) 本件発明2と引用発明とを比較すると,両者は「複数の模型体がそれぞれ移動することが可能なように構成された模型体走行面と,模型体走行面の下方に配置され,模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を個別に誘導し,個別に移動制御可能に配置された複数のキャリアを含む走行駆動機構と,前記キャリアがそれぞれ個別に移動するように前記走行駆動機構を制御することにより複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段とを有するゲーム装置」である点で一致し,次の点で相違する。
a 本件発明2が「遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い,投票終了後複数の模型体が順番を競って走行するレースを実行し,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置」であるのに対し,引用発明は,模型体が順番を競って走行するレースを実行するゲーム装置である点(以下「相違点5」という。) b 本件発明2が「複数の模型体及び複数のキャリアが走行経路を規制されることなく移動することが可能である」のに対し,引用発明は,走行経路が定められている点(以下「相違点6」という。) (イ) 相違点5について 順番を競って走行するレースにおいて,そのレースを予想し投票を行い,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置は,引用刊行物3に記載されており,引用発明に引用刊行物3に記載の技術を適用して,本件発明2の相違点5に係る構成を得ることは,当業者にとって格別の困難性を要することではない。 (ウ) 相違点6について 本件発明2におけるキャリアが走行経路を規制されることなく移動可能であることの技術的意義は,キャリアを自由に走行制御させて,模型体が模型体走行面上を走行経路を規制されることなく自由に走行できるようにすることにある。そして,模型体が模型体走行面上を自由に走行できるようにすべく,本件発明2のキャリアの前記走行制御のように,キャリアが走行経路を規制されることなくキャリアを自由に移動させるようにすることは,本件特許出願時の周知技術(例えば,引用刊行物2参照)であるから,引用発明に上記周知技術を適用して,本件発明2の相違点6に係る構成を得ることは,当業者が容易に成し得たことである。
(エ) 引用発明に引用刊行物3に記載の発明並びに上記周知技術を適用することにより奏される作用効果に,格別な効果を認めることができない。
したがって,本件発明2は,引用刊行物1及び引用刊行物3に記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
ウ 本件発明3について (ア) 本件発明3と,引用発明とを比較すると,両者は「模型体が走行する 模型体走行面と,模型体走行面の下方に配置された下方走行面と,模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を誘導するように下方走行面上に配置された複数の走行体と,複数の走行体の走行を制御する走行制御手段とを有し,前記模型体走行面及び下方走行面は模型体及び走行体が走行可能に構成されており,前記走行体のそれぞれには個別に制御可能な走行駆動手段が搭載されており,走行制御手段は走行駆動手段を制御して,走行体の走行を制御することにより,模型体がそれぞれ模型体走行面を走行するように構成されてなるゲーム装置」である点で一致し,次の点で相違する。 a 本件発明3の走行制御手段が「複数の走行体によって行われるレースの展開を設定するとともに,設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御する信号を個々の走行体に送信するように構成された」のに対し,引用発明の走行制御手段は,レースの展開を設定しない点(以下「相違点7」という) b 本件発明3が「個々の走行体の位置を検出してその出力を走行制御手段に送信する位置検出手段を有する」のに対し,引用発明は,位置検出手段を有しない点(以下「相違点8」という) c 本件発明3の走行駆動手段が「走行制御手段から受信した信号に基づき制御される」のに対し,引用発明の走行駆動手段は,走行制御手段から受信した信号に基づき制御されない点(以下「相違点9」という。) d 本件発明3が「複数の模型体及び複数の走行体が走行経路を規制されることなく走行可能である」のに対し,引用発明は,走行経路が定められている点(以下「相違点10」という。)。 (イ) 相違点7について 複数の出走馬の如き出走体によってレースが行われる競馬等の競走遊戯装置において,多種類のレース展開を記憶し,その多種類のレース展開の内から適当なものを選出する中央処理装置が,設定されたレース展開に従って出走体の走行を制御する信号を個々の出走体に送信するようにする技術が,引用刊行物3に記載されている。そして,同公知の技術を引用発明に適用して,本件発明3の相違点7に係る構成を得ることに,格別の困難性は認められず,奏する効果も予期し得る程度のものである。
(ウ) 相違点8について 走行体の位置を検出する位置検出手段を備え,同位置検出手段からの位置検出信号を受けて走行体の走行制御を行うことは,本件特許出願時の周知技術(例えば,特開昭58-200177号公報,特開昭60-153509号公報参照)である。 そして,引用発明に上記周知技術を適用して,本件発明3の相違点8に係る構成を得ることに,格別の困難性は認められず,奏する効果も予期し得る程度のものである。 (エ) 相違点9について 走行駆動手段が走行制御手段から受信した信号に基づき制御されるようにすることは,本件特許出願時の周知技術(例えば,特開昭58-200177号公報,特開昭60-153509号公報,特開昭60-249986号公報,特開昭62-105206号公報,実願昭53-169526号(実開昭55-85085号)のマイクロフイルム参照)であり,引用発明に上記周知技術を適用して,本件発明3の相違点9に係る構成を得ることに,格別の困難性は認められず,奏する効果も予期し得る程度のものである。 (オ) 相違点10について 本件発明3における走行体が走行経路を規制されることなく走行可能であることの技術的意義は,走行体を下方走行面に対し自由に走行制御させて,模型体が模型体走行面上を走行経路を規制されることなく自由に走行できるようにすることにある。そして,模型体が模型体走行面上を自由に走行できるようにすべく,本件発明3の走行体の前記走行制御のように,下方走行面に対し走行体が走行経路を規制されることなく走行体を自由に走行させるようにすることは,本件特許出願時の周知技術(例えば,引用刊行物2参照)であるから,引用発明に上記周知技術を適用して,本件発明3の相違点10に係る構成を得ることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(カ) 引用発明に引用刊行物3に記載の発明並びに上記周知技術を適用することにより奏される作用効果に,格別な効果を認めることができない。
したがって,本件発明3は,引用刊行物1及び引用刊行物3に記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
当事者の主張
(原告主張の取消事由) 1 取消事由1(本件訂正請求の適否についての判断誤り) (1) 本件訂正前の請求項1,15,16に「レース展開設定手段」の文言を導入する訂正について ア 本件決定は,本件訂正前の請求項1,15,16に記載された「レース展開の設定」とは,「コンピューターに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピューターが無作為に選択・選定することによりマイクロコンピューター101により決定すること」の意義で記載されていることが明らかであると認定した上,本件訂正により本件訂正前の請求項1,15,16に導入される「レース展開設定手段」とは,「コンピューターがレース毎に任意のレース展開をその都度自由に生成することによりレース展開を決定すること」の概念をも含むものであり,新規事項の追加に該当すると判断したが,以下に述べるとおり,この判断は誤りである。 本件明細書の段落【0008】ないし【0010】,【0012】,【0017】,【0077】,【0085】ないし【0088】,【0105】の各記載によれば,本件明細書において,「レース展開」とは,複数の模型体が実際のレースのように順番を競って走行する様子を模倣させるためのレース展開という意義で用いられており,上記「レース展開」をマイクロコンピュータが決定する手段という意義で「レース展開の決定手段」が記載されていることは明らかである。また,本件明細書には,「・・・複数の走行体によって行われるレースの展開を設定するとともに,設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御する信号を個々の走行体に送信するように構成された走行制御手段」(請求項15)と記載され,その段落【0085】において,「レースがスタートすると,決定されたレース展開にしたがって各キヤリアa1〜a 6が走行制御され(ステップ91),逐次位置検出板41によりキャリアa1〜a 6の位置が検出される(ステップ92)。そしてレースの終了か否かを判断し(ステップ93),レースが終了していなければ,予め設定されたレース展開と検出された各キヤリアの位置とを比較してレース展開どうりに進行しているかどうかを判断する(ステップ94)。」とあるように,「決定されたレース展開」を「設定されたレース展開」と言い換えていることから,本件明細書において,「レース展開を決定する」の文言は「レース展開を設定する」の文言と同じ意義で用いられていることが分かる。
上記のとおり,本件明細書に「レース展開の設定手段」の記載があることは明らかであり,また,この意義は,上述のように,複数の模型体が実際のレースのように順番を競って走行する様子を模倣させるためのレースにおいて,そのレース展開をマイクロコンピューターが決定する手段との意義であり,本件決定が認定するように「コンピューターに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピューターが無作為に選択・選定することによりマイクロコンピューター101により決定すること」の意味に限定解釈されて用いられたものではない。
確かに,本件決定の指摘するとおり,本件明細書には,「レース展開の決定は予め用意された多数のレース展開(コンピューターに記憶されているもの)のうちから1つを無作為に選択するものであり,レースはここで決定されたレース展開に従って進行し」(段落【0078】)等との記載があるが,これは本件発明の実施例の一態様を説明したものにすぎない。本明細書に「レース展開の設定」に係るすべての実施態様が記載される必要がないことはいうまでもないことである イ 以上のとおり,本件訂正は,本件明細書に記載された構成を付加する限度で本件訂正前の請求項1,15,16を訂正するものであり,何ら新規事項の追加は存在しない。
(2) 本件訂正前の請求項14に「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言を導入する訂正について ア 本件決定は,本件訂正前の請求項14の「複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段とを有する」との記載を「複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段と,レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段とを有し,」との記載に訂正する本件訂正に対し,本件訂正前の請求項14には「複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段」とのみ記載されていたにすぎず,ここで付加された「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言は本件明細書に認めることができず,上記訂正は新規事項の追加に該当すると判断したが,以下に述べるとおり,誤りである。
まず,「前記ゲーム展開」の文言は,その構成が付加される直前の記載である「複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開」を受けたものであることは自明であり,そうであれば,この「ゲーム展開」とは,複数の模型体が順番を競って走行する「レース展開」と同義であることもまた一義的に自明である。そしてかかる「レース展開の設定手段」が本件明細書に記載されていることは,前記(1)に主張のとおりである。また,「コンピュータの制御の下に,レース展開が各レース毎に無作為に決定され,走行体Al,A 2,…,Anの順位も予想がつかない。」(段落【0016】)等の記載からすれば,上記「レース展開」がゲーム毎に設定されることも本件明細書に記載されているというべきである。
したがって,上記「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言が本件明細書に記載されていることは明らかである。
イ 以上のとおり,本件訂正前の請求項14についての上記訂正は新規事項の追加には当たらない。
2 取消事由2(本件発明1の進歩性についての判断誤り) 本件決定は,本件発明1は引用刊行物1及び引用刊行物3に記載の発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると判断したが,以下に述べるとおり,誤りである。
本件発明1は,遊戯者が入賞を予想して投票する競争ゲーム,すなわち,遊戯者がレース展開に全く関与できないいわば賭け競争ゲームの分野の発明であり,その点で引用発明とは分野を同じくするが,かかる競争ゲームの分野において,相違点3において指摘されたように,複数の模型体及び複数の走行体が走行経路を規制されることなく走行可能である手段を提供した点に本件発明1の技術的意義が存するのである。
本件決定が引用刊行物2の記載等から周知技術であると主張する「模型体が模型走行面上を自由に走行できるようにすべく,・・・下方走行面に対し走行体が走行経路を規制されることなく走行体を自由に走行させるようにすること」に関する技術は,そもそも本件発明1及び引用刊行物1記載のような遊戯者の関与を排除する競争ゲームの分野の技術ではない。引用刊行物2は,「個々の遊戯者は,このロッドを操作して,自己の競争体20をレースコースに沿わせるべく操縦する。遊戯者は,自己の競争体をレースコースの望ましい様々なレーン13の内外へ舵取りするべく自己のロッド30を操作できる」(甲3の20頁7〜10行参照)との記載からも明らかなように,遊戯者の関与のもとで手動により競争体が固定トラックを外れて競争する方法を開示しているにすぎず,この技術は,遊戯者によるレース展開への関与を排除する本件発明1及び引用発明の分野の技術ではない。遊戯者がレース展開に関与してその優劣を競うゲームの分野は,遊戯者のその関与の技術の巧拙にこそ面白みが生じるものであり,したがって,遊戯者の関与を排除するいわば賭け競争ゲームの分野とは,そのゲームの目的自体全く対極に存するものであり,このような異なる分野の技術を引用発明1と組み合わせて本件発明1に到達することは,当業者にとって容易なものではない。
賭け競争ゲームの分野においては,フリートラック方式競争ゲームが原告の本件発明に基づき展開されるまで,10数年の長年月にわたり,固定トラック方式の競争ゲームしか存在しなかったのであり,この事実からしても,引用発明である賭け競争ゲームの分野の技術と,引用刊行物2に記載された遊戯者がレース展開に積極的に関与するゲームの分野の技術を組み合わせて本件発明1の構成を得ることが,当業者にとって容易に得られるものではなかったことが明らかである。
3 取消事由3(本件発明2,3の進歩性についての判断誤り) 本件決定は,引用発明に引用刊行物2に記載されたような周知技術を適用して本件発明2の相違点6に係る構成,本件発明3の相違点10に係る構成を得ることは当業者にとって容易であると判断したが,誤りである。
本件発明2,3もまた,本件発明1と同様,遊戯者の関与を排除したいわば賭け競争ゲームの分野の発明である。前記2に主張したとおり,引用発明は遊戯者がレース展開に関与しないいわば賭け競争ゲームの分野の発明であり,本件決定が引用刊行物2から周知技術であると主張する技術は,遊戯者がレース展開に関与する競争ゲームの分野の技術である。この2つの異なる分野の技術を組み合わせて本件発明2の相違点6に係る構成,本件発明3の相違点10に係る構成に到達することは当業者にとって容易なことではない。
(被告の反論) 1 取消事由1について (1) 本件訂正前の請求項1,15,16に「レース展開設定手段」の文言を導入する訂正について ア 本件訂正前の請求項15に記載された「レースの展開を設定する」の文言の意義は,本件明細書の「特許請求の範囲」の記載のみでは明確に把握することができないから,その「発明の詳細な説明」に記載の定義又は説明に基づいて認定されるべきである。本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載によれば,本件明細書中の上記「レース展開の設定」の文言は,「コンピュータに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピュータが無作為に選択・選定することによりマイクロコンピュータ101により決定すること」の意義で記載されていることが明らかである。したがって,本件訂正前の請求項15中の「レースの展開を設定する」の文言は,文字どおりの「レース展開を設定する」という意味で使用されていたものではもとよりなく,「コンピュータに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピュータが無作為に選択・選定することによりマイクロコンピュータ101が決定するレース展開」の意味で用いられていたものというべきである。
イ 一方,本件訂正により,本件訂正前の請求項15に導入された「レース展開設定手段」なる文言については,その意義が,本件訂正明細書の「特許請求の範囲」の記載のみでは明確に把握することができず,しかも,本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」にも,上記文言についての定義又は説明は明確には記載されていない。したがって,上記「レース展開設定手段」の文言の意義は,本件訂正明細書の記載に拘束されることなく上記文言が通常有している字義どおりの意義として認定されることとなる。そして,この場合には,本件訂正明細書には上記文言の解釈について裏付けとなる記載は何ら存在しないから,自由に解釈され得る余地が生じる。
新たに導入された上記「レース展開設定手段」の文言は,何らかの技術手段によりレースの展開を設定できるようになっていさえすればよいことを意味する広い概念であって,それは,コンピュータに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピュータが無作為に選択・選定することなしに,「コンピュータがレース毎に任意のレース展開をその都度自由に生成することによりレース展開を決定すること」をも含むものというべきである。
ウ 以上のとおり,上記「コンピュータがレース毎に任意のレース展開をその都度自由に生成することによりレース展開を決定すること」の概念をも含む上記「レース展開設定手段」の文言は,本件明細書に記載されていた事項ではないから,上記訂正は新規事項の追加に該当するものである。
(2) 本件訂正前の請求項14に「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言を導入する訂正について ア 本件訂正前の請求項14に「ゲーム展開設定手段」なる文言が全く記載されていなかったことは,明らかである。そして,「ゲーム展開」の文言も,上記請求項14の「複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段」の中にだけ,たったひとこと記載されていたにすぎない。しかして,上記請求項14における「複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段」の記載では,「走行制御手段がゲーム展開を制御する」旨が単に記載されていたというにすぎず,しかも,この場合の「ゲーム展開」の文言は,走行制御手段が制御する制御の対象として記載されていたのであり,「ゲーム展開」の文言が,「設定される対象」として記載されていたのではない。
そして,本件明細書の【図17】及び【図18】に記載のフローチャート並びに段落【0076】〜【0081】及び段落【0082】〜【0087】の記載からすれば,本件明細書において,「レース」の文言は,レースが開始するステップからレースが終わるステップまでのプロセスとして記載しているのに対して,「ゲーム」の文言は,少なくとも遊戯者がゲーム装置にメダルを投入するステップからメダル配当の払い出しを受けるステップまでのプロセスを指しているのであり,その「レース」のプロセスは「ゲーム」の一連のプロセスの中に含まれていて,「ゲーム」のプロセスの中の一部分として記載されていることから,本件明細書の中では,「ゲーム」の文言が「レース」を含むより大きい概念として記載されていることは,明らかなことである。
そうすると,上記「ゲーム展開」の文言の意義は,本件明細書の記載に照らせば,文字どおり,「遊戯者がゲーム装置にメダルを投入するステップからメダル配当の払い出しを受けるステップまでのゲームの展開」を意味することになるところ,そのような「ゲーム展開」を設定する手段という意味である「ゲーム展開設定手段」の文言が,もともと本件明細書に記載されていたということはできない。
イ 本件明細書において「ゲーム」の文言は,上記した「複数のレースに対する投票から配当までの遊戯者の一連の遊戯行為」の意味で使用されており,したがって,本件訂正後の請求項14に記載の「ゲーム展開設定手段」を有するゲーム装置では,レース毎にゲーム展開設定手段が投票から配当までの遊戯者の一連の遊戯行為の進行変化を設定することにより,遊戯者が遊興する一連の遊戯行為が誘導されることになる。しかし,このような遊戯者の遊戯行為を誘導するような技術思想が,本件明細書にもともと記載されていたということはできず,上記訂正は新規事項の追加にほかならない。
2 取消事由2について (1) 原告は,本件決定が引用刊行物2等で周知技術であると主張する技術の分野は,本件発明1及び引用刊行物1記載のような遊戯者の関与を排除するものではなく,遊戯者がレース展開に関与してその優劣を競うゲームに関するものであるところ,かかるゲームは,遊戯者のその関与の技術の巧拙にこそ面白みが生じるものであり,したがって,遊戯者の関与を排除するいわば賭け競争ゲームの分野とは,そのゲームの目的自体全く対極に存するものであり,このような異なる分野の技術を引用発明1と組み合わせて本件発明1に到達することは,当業者にとって容易なものではない旨主張する。
ア しかしながら,本件明細書の段落【0104】には,「また以上の実施例では競馬レースを模倣したゲーム装置に適用した例を示したが他に自動車レース,人間による競争等のゲームに適用可能である。」と記載され,本件明細書に開示された技術が,本件発明1のような遊戯者の関与を排除する競争ゲームの分野の技術だけではなく,引用刊行物2に記載の発明のような遊戯者がレース展開に関与してその優劣を競う競争ゲームにも適用できることが開示されている。これは,「遊戯者によるレース展開への関与を排除する分野の技術」と「遊戯者の関与のもとで手動により競争体が固定トラックを外れて競争する方法の技術」との間に技術的融通性があることを示すものであり,前者の技術と後者の技術の間に互いに適用できない技術的な阻害要因があるということはできない。
イ 本件決定は,引用刊行物2のうち,「模型体が模型体走行面上を自由に走行できるようにすべく,本件発明1の走行体の前記走行制御のように,下方走行面に対し走行体が走行経路を規制されることなく走行体を自由に走行させるようにする」技術を引用しているのであって,原告が指摘する「ゲームの目的自体」を引用しているわけではない。
しかして,引用刊行物2に記載の技術は,簡単にいえば「走行面を介して走行面の下側から走行面の上側の物体の位置を磁気吸引力で自由に変化させる間接移動技術」である。そして,引用発明と引用刊行物2に記載の発明との間では,ゲームに対する遊戯者の参加の程度に若干の濃淡があるとしても,両者の技術的な相違は,物体の位置を磁気吸引力で変化させるものが,引用発明では,上部に「磁石32」を備えた複数の「移動片21」を有する「走行基台8」であるのに対して,引用刊行物2に記載の発明では,「端部12」に「磁石31」が取り付けられている「ロッド30」を操縦する遊戯者であることの差異であるにすぎない。
してみると,引用刊行物2に記載の発明における上記「走行面を介して走行面の下側から走行面の上側の物体の位置を磁気吸引力で自由に変化させる間接移動技術」は,引用発明に適用可能であり,その適用に際して遊戯者の存在が適用の障害となることは考えられず,上記技術には,引用発明への適用の際に技術的障害となる阻害要因は存在しない。
(2) したがって,引用発明に引用刊行物2に記載の発明の技術を組み合わせることは,当業者にとって技術的な困難を要することではないとの本件決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3について (1) 「遊戯者がレース展開に関与しないいわば賭け競争ゲーム」の技術を「遊戯者がレース展開に関与する競争ゲーム」に適用して設計変更することが当業者にとって容易であるといえることは,本件明細書の段落【0104】の記載からみても,明らかなことである。
そして,本件発明2,3及び引用発明のような「遊戯者がレース展開に関与しない言わば賭け競争ゲームの分野」の技術と,引用刊行物2に記載の発明の「遊戯者がレース展開に関与する競争ゲームの分野」の周知技術との間に,両者の技術を組み合わせるに際して障害となるような技術的阻害要因がないことは,前記1に述べたとおりである。
そうすると,本件発明2の相違点6に係る構成,本件発明3の相違点10に係る構成は,走行経路が定められている引用発明の走行体に対し,走行経路を規制されることなく走行可能であるような周知技術を適用することにより,当業者が容易に成し得ることである。
(2) したがって,引用発明に刊行物2記載のような周知技術を適用して,本件発明2の相違点6に係る構成,本件発明3の相違点10に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得たことであるとした本件決定の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正請求の適否についての判断誤り)について (1) 本件訂正前の請求項1,15,16に「レース展開設定手段」の文言を導入する訂正について ア 原告は,本件訂正前の請求項15中の「レースの展開を設定する」の文言は,「コンピュータに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピュータが無作為に選択・選定することによりマイクロコンピュータ101が決定するレース展開」の意味に限定して用いられていたものではないから,本件訂正前の請求項1,15,16に「レース展開設定手段」の文言を導入することは新規事項の追加に当たるとした本件決定の判断は誤りである旨主張する。そこで,以下,この主張の当否について検討する。
イ 本件明細書には,次のとおりの記載がある。
(ア) 特許請求の範囲の記載(前記第2の2とおり) a 【請求項1】 遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い,投票終了後複数の模型体が順番を競って走行するレースを実行し,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置であって,模型体が走行する模型体走行面と,模型体走行面の下方に配置された下方走行面と,模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を誘導するように下方走行面上に配置された複数の走行体と,走行体の走行を制御する走行制御手段とを有し,前記模型体走行面及び下方走行面は,模型体及び走行体が走行経路を規制されることなく走行可能に構成されており,前記走行体はそれぞれに搭載され個別に走行制御可能な駆動制御機構を有し,前記走行制御手段は走行体のそれぞれに走行制御信号を送信して前記複数の走行体によって行われるレース展開を制御し,前記走行体のそれぞれは受信した走行制御信号に従って個別に駆動制御機構を制御して走行経路を規制されることなく下方走行面を走行することにより,前記模型体が走行経路を規制されることなく走行するレース展開を実現するように構成されたことを特徴とするゲーム装置。
b 【請求項15】 模型体が走行する模型体走行面と,模型体走行面の下方に配置された下方走行面と,模型体走行面を介して磁力により結合して対応する模型体の走行を誘導するように下方走行面上に配置された複数の走行体と,複数の走行体によって行われるレースの展開を設定するとともに,設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御する信号を個々の走行体に送信するように構成された走行制御手段と,個々の走行体の位置を検出してその出力を走行制御手段に送信する位置検出手段とを有し,前記模型体走行面及び下方走行面は模型体及び走行体が走行経路を規制されることなく走行可能に構成されており,前記走行体のそれぞれには個別に制御可能な走行駆動手段が搭載されており,走行制御手段から受信した信号に基づき走行駆動手段を制御して,走行経路を規制されることなく設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御することにより,模型体がそれぞれ走行経路を規制されることなく模型体走行面を走行するように構成されてなることを特徴とするゲーム装置。
(イ) 発明の詳細な説明 a 「【発明の属する技術分野】 本発明は,競馬,自動車レース等のトラック上を競争するレースを模倣したゲーム装置に関するものである。」 b 「【解決しようとする課題】・・・【0008】しかし前記従来例の如く各移動模型がスタートからゴールまで常に一定のコースを移動するものでは上記の如き実際のレースとはかけ離れたものとなり臨場感がうすれ,興味も半減したものとならざるを得ない。【0009】本発明はかかる点に鑑みなされたもので,その目的とする処は,フィールド内を複数の走行体が独立に駆動され,コースに無関係に移動して実際のレース展開と略同様の動きを可能とした競争ゲーム装置を供する点にある。」 c 「【0010】【課題を解決するための手段および作用効果】上記目的を達成するために,本発明は遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い,投票終了後複数の模型体が順番を競って走行するレースを実行し,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置であって・・・前記走行体はそれぞれに搭載され個別に走行制御可能な駆動制御機構を有し,前記走行制御手段は走行体のそれぞれに走行制御信号を送信して前記複数の走行体によって行われるレース展開を制御し,前記走行体のそれぞれは受信した走行制御信号に従って個別に駆動制御機構を制御して走行経路を規制されることなく下方走行面を走行することにより,前記模型体が走行経路を規制されることなく走行するレース展開を実現するように構成されたゲーム装置とした。【0011】下方走行面を走行する走行体が,模型体走行面を走行する模型体を磁力を介して追随させる。そして,駆動制御機構により走行する走行体は,走行制御手段からの走行制御信号に従って走行経路を規制されることなく走行制御されるので,この走行体に追随する模型体も走行経路を規制されることなく走行し,レースを展開することができる。【0012】したがって実際のレースと同じように各模型体は走行経路を規制されず,できるだけ有利な位置を確保するようにして走行し,実際に則したレース展開がなされ,臨場感あるエキサイティングなゲームを楽しむことができる。」 d 「【0105】【発明の効果】本発明は,各模型体が自由に走行可能であり,実際のレースと同じようにコースに規制されることなくレースを展開することができるので,レース特有の興奮を味わうことができレース自体を興味あるものとすることができる。各レース毎に設定されるレース展開が決まっていないので,各遊戯者には着順の予想が難しく常に公平なゲームができる。」 (ウ) 上記の各記載によれば,本件発明において,「レース展開」とは,複数の競争馬等の模型体が実際のレースのように順番を競って走行する様子を模倣させるための競争の展開という意味を有するものであり,また,上記請求項15中の「複数の走行体によって行われるレースの展開を設定するとともに,設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御する信号を個々の走行体に送信するように構成された走行制御手段」との記載からすれば,走行制御手段がレース展開を設定していると解されるから,本件明細書に「レース展開」を設定する手段が記載されていることは明らかである。
ウ 次に,上記イ(ア)のとおり,本件訂正前の請求項15には,「複数の走行体によって行われるレースの展開を設定するとともに,設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御する信号を個々の走行体に送信するように構成された走行制御手段」,「走行制御手段から受信した信号に基づき走行駆動手段を制御して,走行経路を規制されることなく設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御する」と記載されているところ,上記請求項15を含め,本件明細書の「特許請求の範囲」の各請求項をみても,それ以上に,「設定する」ことの意味内容を規定する記載はなされていない。
また,本件明細書の「発明の詳細な説明」中の実施形態に関する部分を除く発明の一般的な説明部分においても,「設定する」ことの意味内容に関する説明はなく,唯一,「発明の効果」の欄に前記イ(イ)dのとおり「レース展開」の決定に関する記載がされているのみで,他には,「設定する」ことについて,格別の説明はなされていない。
しかし,「設定」の語は,一般的に「つくり定めること」(広辞苑第5版参照)を意味するものであるから,本件訂正前の請求項15に記載された「設定する」とは,決まっていないレース展開を各レース毎に定めるとの意味内容を有するものであることは明らかである。また,上記イ(イ)dのとおり,本件明細書の【発明の効果】の欄の説明には,「各レース毎に設定されるレース展開が決まっていない」と記載されており,この記載も,上記解釈の妥当性を裏付けるものである。そうすると,「レースの展開を設定する」ことについて,上記請求項15の記載ではなく,本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載に基づいて,その意味を限定して解釈することは許されないというべきである。
なお,本件決定は,本件訂正後の請求項15に記載された「レース展開設定手段」は,コンピュータに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピュータが無作為に選択・選定することなしに,「コンピュータがレース毎に任意のレース展開をその都度自由に生成することによりレース展開を決定すること」をも含むものであると判断している。しかし,「コンピュータがレース毎に任意のレース展開をその都度自由に生成することによりレース展開を決定する」という機能が,「レース展開設定手段」なる用語に含まれるとしても,かかる機能は,本件明細書における「レースの展開を設定する」ことが本来有しているものである。
エ(ア) ところで,本件明細書には,「コンピュータの制御の下に,レース展開が各レース毎に無作為に決定され,」(段落【0016】),「コンピュータにより決定されたレース展開」(段落【0017】),「ゲーム機本体100には,レース展開を選定し全システムの主な制御を行うマイクロコンピュータ101が設けられる」(段落【0035】),「メダルの投入があると,まずマイクロコンピュータ101はレース展開を決定する(ステップ64)。」(段落【0077】),「レース展開の決定は予め用意された多数のレース展開(コンピュータに記憶されている)のうちから1つを無作為に選択するものであり,レースはここで決定されたレース展開にしたがって進行し,各キャリア50はこのレース展開に基づいて走行制御される。」(段落【0078】),「ステップ64に戻り,新たなレース展開が決定され,再度投票がなされてレースが開始する。」(段落【0081】),「各キャリアの駆動は位置検出によるフィードバック制御がなされるので確実に予め決定されたレース展開を実現することができる。」(段落【0088】),「レース展開は予め記憶された多種類のレース展開の中から無作為に選定されるので各レース毎に別個のレース展開がなされ,簡単に予想がつくものと違って興味が持続する。」(段落【0089】)と記載され,また,「全てのキャリアがそろったところで,レース展開の決定を待ち(ステップ89),レースのスタートを待つ(ステップ90)。レースがスタートすると,決定されたレース展開にしたがって各キャリアa1〜a 6走行制御され(ステップ91),逐次位置検出板41によりキャリアa1〜a 6の位置が検出される(ステップ92)。そしてレースの終了か否かを判断し(ステップ93),レースが終了していなければ,予め設定されたレース展開と検出された各キャリアの位置とを比較してレース展開どうりに進行しているかどうかを判断する(ステップ94)。」(段落【0085】),「レース展開どうりならばステップ91に戻りキャリアの走行制御が従前どうりなされ,レース展開どうりでなければステップ95に進行して予め決定されたレース展開による予想位置と実際のキャリアの位置との差を算出し(ステップ95),同計算結果に基づいて各キャリアの走行が制御され(ステップ96),ステップ94に戻る。」(段落【0086】)と記載されている。
そして,本件決定は,これらの一連の記載を根拠にして,本件明細書において「レースの展開を設定する」の文言は,文字どおりの「レース展開を設定する」という意味で使用されているものではもとよりなく,「コンピュータに記憶されている予め用意された多数のレース展開のうちから1つを各レース毎にコンピュータが無作為に選択・選定することによりマイクロコンピュータ101が決定するレース展開」の意味で用いられているものであると解釈している。
しかしながら,本件決定が摘示した上記各記載は,本件明細書の段落「【0013】【発明の実施の形態】以下本願発明の一実施の形態について図1ないし図24に基づき説明する。」との記載から明らかなとおり,いずれも本件明細書の「発明の詳細な説明」中の発明の一実施の形態についてのものであって,上記請求項15の記載そのものに関する説明ではないことが明らかであるから,本件決定の上記解釈は,誤りというほかない。
(イ) 本件明細書には,「設定する」ことの具体的手法として,予め用意された多数のレース展開から1つを無作為に選択・選定する手法のみが記載されているが,前記イ(イ)認定の本件明細書の記載によれば,本件発明は,「競馬,自動車レース等のトラック上を競争するレースを模倣したゲーム装置に関する」(段落【0001】)もので,「フィールド内を複数の走行体が独立に駆動され,コースに無関係に移動して実際のレース展開と略同様の動きを可能とした競争ゲーム装置を供する」(段落【0009】)ことを目的とするものである。しかして,この種の発明にあっては,上記イ(ウ)に記載した意味でのレース展開をより複雑にする仕組みを用意することが求められることは自明のことであるから,本件明細書の「発明の詳細な説明」中に,実施の形態が上記の1つしか記載されていないからといって,「レースの展開を設定する」の意味を,「発明の詳細な説明」中に記載されている実施の形態に限定して解釈することは相当ではない。
オ もっとも,本件訂正後の請求項1,15,16には「レース展開設定手段」と記載されているのであり,上記「レース展開設定手段」の文言が,文字どおりの「レース展開を設定する」機能以外の機能を実現するものである場合は,「レース展開設定手段」の文言を導入する訂正は,新規事項の追加であると判断されることになるから,念のため,本件訂正明細書におけるその機能がいかなるものかについてみることとする。
(ア) なるほど,本件訂正後の請求項15には,「複数の走行体によって行われるレースの展開を設定するレース展開設定手段と,設定されたレース展開に従って前記走行体の走行を制御する走行制御信号を個々の走行体に送信するように構成された走行制御手段」と記載されており,この記載からすると,「レース展開設定手段」と「走行制御手段」とは,それぞれ異なる機能を実現するものであると認められ,いずれも,本件訂正前の請求項15に記載されている「複数の走行体によって行われるレースの展開を設定するとともに,設定されたレース展開に従って走行体の走行を制御する信号を個々の走行体に送信するように構成された走行制御手段」とは,実現する機能において異なるものであるかのようである。
しかし,本件訂正前の請求項15に記載されている「走行制御手段」が実現する機能と,本件訂正後の請求項15に記載されている「レース展開設定手段」及び「走行制御手段」により実現される機能とは,実質的に変わらないのであるから,本件訂正の前後における上記記載の相違は,複数の機能の実現手段を,複数の異なる機能を実現する複合体として把握して記載するか,複数の機能のうち個々の機能を実現する各手段ごとに分けて記載するかの表現上の差異に止まるものであり,本件訂正前の請求項15に記載されている「走行制御手段」は,本件訂正後の請求項15に記載されている「走行制御手段」と「レース展開設定手段」の両者の機能を含むものとして記載されていると解するのが相当である。
(イ) また,本件訂正明細書には,【課題を解決するための手段および作用効果】の項(段落【0010】)においてのみ,「レース展開設定手段」についての一般的な説明が記載され(本件訂正後の請求項15の記載内容をそのまま記載したもの),発明の実施の形態の項(段落【0013】〜【0104】)において,「レース展開設定手段」に相当するものが記載されているが(図17のステップ64「レース展開決定」を実行する手段が,「レース展開設定手段」に相当する。),これらの記載によれば,本件訂正明細書において,「レース展開設定手段」は,「レース展開を設定する」機能以外の機能を有するものではないことが認められる。
カ そうすると,本件明細書には本件訂正により導入される「レース展開設定手段」に相当するものが記載されているといえ,また,本件訂正後の請求項15に記載された「レース展開設定手段」の機能が,本件訂正前の請求項15に記載された「レースの展開を設定する」ことと異なるということはできないから,本件訂正前の請求項1,15,16に「レース展開設定手段」の文言を導入する訂正は,新規事項を追加する訂正には該当しないというべきである。
(2) 本件訂正前の請求項14に「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言を導入する訂正について ア 原告は,「ゲーム展開」とは「レース展開」と同義であり,「レース展開設定手段」は,本件明細書中に記載されているから,「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言は,本件明細書に記載されている事項であり,本件訂正前の請求項14に上記文言を導入することは新規事項を追加することに該当するとした本件決定の判断は誤りである旨主張する。
イ そこで検討するに,確かに,本件明細書において,「ゲーム展開」なる用語は,唯一,本件訂正前の請求項14の,「複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開を制御する走行制御手段」という記載において認められるだけであり,また,この記載からは,「ゲーム展開」は,走行制御手段が制御するものであるとされていることが理解される。
ウ しかし,本件訂正前の請求項14の発明は,前記第2の2に記載のとおり,「遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い,投票終了後複数の模型体が順番を競って走行するレースを実行し,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置」に係るものである。このゲーム装置において,投票を行うこと,レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うことについて,次々と物事が繰り広げられるという意味の「展開」は想定できないし,上記請求項14には,「複数の模型体が順番を競って走行するゲーム展開」と記載され,「ゲーム展開」において展開される内容が,「複数の模型体が順番を競って走行する」ものと規定されているのであるから,上記請求項14においては,「ゲーム展開」の文言が,実質的に,本件明細書で用いられている「レース展開」(その意味は前記(1)のイ(ウ)で説示したとおりである。)の文言と同じ意味で用いられていることは明らかである。
また,上記イのとおり,本件訂正前の請求項14において,「ゲーム展開」は,走行制御手段が制御するものとされていると理解されるものの,上記請求項14には,「ゲーム展開」を設定する主体は明示されていない。
しかし,前記(1)オ(ア)のとおり,本件訂正前の請求項15に記載の「走行 制御手段」は,「レース展開を設定する」機能を有していると認められるところ,同じ明細書の「特許請求の範囲」に記載されている以上,上記請求項14に記載の「走行制御手段」も上記請求項15の「走行制御手段」と同じ意味,機能を有するものと解するのが相当である。そして,上記請求項14において,「ゲーム展開」の文言は実質的に本件明細書の「レース展開」の文言と同じ意味で用いられているのであるから,上記請求項14に記載された「走行制御手段」が,「ゲーム展開を設定する」機能をも有していることは明らかであり,この機能を実現する手段が,「ゲーム展開設定手段」であることもまた明らかである。
エ もっとも,本件訂正後の請求項14に記載されている「走行制御手段」と,本件訂正前の請求項14に記載されている「走行制御手段」とでは,実現する機能において異なるものとなるが,前記(1)オで説示したのと同様の理由により,本件訂正前の請求項14に記載されている「走行制御手段」は,本件訂正後の請求項14に記載されている「走行制御手段」と「ゲーム展開設定手段」の両者の機能をを含むものとして記載されていると解するのが相当である。
オ 以上のとおり,本件明細書には,「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」に相当するものが記載されているといえ,また,本件訂正明細書の記載に照らして,本件訂正後の請求項14に記載された「ゲーム展開設定手段」の機能が,本件明細書に実質的に記載されていると認められる「ゲーム展開を設定する」ことと異なるということはできないから,本件訂正前の請求項14に「レース毎に前記ゲーム展開を設定するゲーム展開設定手段」の文言を導入する訂正は,新規事項を追加する訂正には該当しないというべきである。
2 以上の次第で,本件訂正請求の適否についての本件決定の判断誤りいう原告主張の取消事由1には理由がある。しかして,本件決定は,上記の判断を誤り,その結果,新規性ないし進歩性の判断の対象とすべき本件特許の請求項1,14ないし16に係る発明の要旨の認定を誤ったものであり,その誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。したがって,原告の主張するその余の取消事由について判断するまでもなく,本件決定は,違法として取消しを免れない。
よって,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判断する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人
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