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関連審決 不服2006-20316
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10318号 審決取消請求事件
原告株式会社ハマダ工商
訴訟代理人弁理士竹中一宣,大矢広文
被告特許庁長官
指定代理人関根裕,山口由木,森川元嗣,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/02/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2006-20316号事件について平成20年7月24日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,原告が,後記特許出願(以下「本願」という。)に対する拒絶査定を不服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本願(甲7)出願人:原告発明の名称:「窓(扉,戸等の開閉手段を含む)のロック部の自動施錠及び/又は開錠と,センサーによる窓の開閉を司る窓の自動開閉システム」出願番号:特願2005-334626号出願日:平成17年11月18日手続補正日:平成18年4月26日(甲8。以下「甲8補正」という。)拒絶査定:平成18年8月15日付け(2)審判請求手続審判請求日:平成18年9月13日(不服2006-20316号)審決日:平成20年7月24日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成20年8月5日なお,原告は上記審判請求と同日付けで手続補正をしたが,同補正は審決において新規事項を含むものとして却下されたところ,原告はこの補正却下決定を争っていない。
2発明の要旨審決が対象とした甲8補正後の請求項1に記載の発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】建物の窓の施錠及び/又は開錠を司るロック施錠,開錠機構は,一方の窓の窓枠に開設された孔に取付けた基台と,この基台に設けたロック本体でなるロック部と,このロック部に係止される他方の窓の窓枠に設けたロック片と,前記ロック本体の可動を司る第1制御部で構成し,この第1制御部の操作で,前記ロック施錠,開錠機構を作動し,前記窓の施錠,開錠を図る窓のロック部の自動施錠及び/又は開錠と,センサーによる窓の開閉を司る窓の自動開閉システムであり,この窓の開放及び/又は閉塞を図る窓開閉機構は,框の上方に取付けた取付具本体と,この取付具本体に設けた止め具と,この取付具本体に設けた正逆転可能な駆動部と,この駆動部に設けた伝達機構と,この伝達機構で駆動され,かつ直接窓枠の上方に当接する回転可能な駆動部本体と,前記駆動部を作動する第2制御部で構成し,この取付具本体を,止め具を介して前記框の上方に取付け,またこの第2制御部の操作で,前記駆動部を作動し,この窓の開閉を図る装置とする構成とした窓のロック部の自動施錠及び/又は開錠と,センサーによる窓の開閉を司る窓の自動開閉システム。」3審決の理由の要旨審決は,本願発明は,下記引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記各周知例等にみられる周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
引用例特開2000-8710号公報(甲1)周知例1特開昭63-130885号公報(甲3)周知例2実願平5-63899号(実開平7-26569号)のCD-ROM(甲4)周知例3実公昭51-8605号公報(甲5)周知例4特開平8-158737号公報(甲6)審決の理由中,本願発明の進歩性について判断した部分は,以下のとおりである。
(1)引用発明「内窓部4の縦かまち6aには,閉状態の両窓部3,4を締結して施錠するクレセント10が設けられており,クレセント10は,使用者が把持して回転操作するためのレバー32と,該レバー32に回転軸33を介して一体に設けられた大略円盤状の掛止部材34とを備えており,該回転軸33は,該掛止部材34を収容するケース35に回転自在に支持されており,前記掛止部材34は,外窓部3の縦かまち5aに固設された掛け金36に掛止する爪部37をその外周に備えており,前記ケース35は内窓部4の縦かまち6aに設けた孔にボルトを介して固定され,制御手段12の制御で解錠手段11を作動して解錠する,窓の自動解錠と,火災検知手段61からの窓開放信号により制御手段12を作動させて自動的に窓開けを行う窓開放システムであり,窓部3,4を開方向に移動させる移動手段9は,外窓部3の上部横かまち5bに取り付けられたラック部材15に歯合するピニオンギア16と,該ピニオンギア16を回転駆動する第1駆動モータ17とを備えて,支持部材18を介して内窓部4の縦かまち6aに取り付けられており,該第1駆動モータ17は減速機19を一体に備え,その回転駆動軸20の回転は第1電磁クラッチ21及び接続ギヤ22を介してピニオンギア16に伝達される構成であり,制御手段12は,第1駆動モータ17を駆動して窓開放が検出されるまで窓部3,4を移動させ,窓の開放を行う,窓の自動解錠と,火災検知手段61からの窓開放信号により制御手段12を作動させて自動的に窓開けを行う窓開放システム。」(2)本願発明と引用発明との対比ア一致点「建物の窓の開錠を司るロック施錠,開錠機構は,一方の窓の窓枠に開設された孔に取付けた基台と,この基台に設けたロック本体でなるロック部と,このロック部に係止される他方の窓の窓枠に設けたロック片と,前記ロック本体の可動を司る制御装置で構成し,この制御装置の操作で,前記ロック施錠,開錠機構を作動し,前記窓の開錠を図る,窓のロック部の自動開錠と,センサーによる窓の開を司る窓の自動移動システムであり,この窓の開放を図る窓開閉機構は,取付具本体と,この取付具本体に設けた止め具と,この取付具本体に設けた駆動装置と,この駆動装置に設けた伝達機構と,この伝達機構で駆動され,かつ窓枠の上方に当接する回転可能な駆動部本体と,前記駆動部を作動する制御装置で構成し,この取付具本体を,止め具を介して取付け,またこの制御装置の操作で,前記駆動装置を作動し,この窓の開を図る装置とする構成とした,窓のロック部の自動開錠と,センサーによる窓の開を司る窓の自動移動システム。」イ相違点(ア)相違点1取付具本体の固定が,本願発明は「止め具を介して(窓枠ではなく躯体側の)框の上方に取付け」た構成であるのに対し,引用発明は,何らかの止め具で固定されてはいるものの,窓枠である「内窓部4の縦かまち6a」の上方に固定されたものであって,躯体側の框に固定されたものではない点。
(イ)相違点2駆動部本体が,本願発明は「直接窓枠の上方に当接する」構成であるのに対し,引用発明は,外窓部3の上部横かまち5bに取り付けられたラック部材15に当接するものであって,直接窓枠に当接するものではない点。
(ウ)相違点3制御装置が,本願発明は「ロック施錠,開錠機構を作動する第1制御部と,窓開閉機構を作動する第2制御部とを備えた」構成であるのに対し,引用発明は,ロック施錠,開錠機構の作動と窓開閉機構の作動とが一つの制御手段12で行われている点。
(エ)相違点4窓のロック部の自動開錠と,センサーによる窓の開を司る窓の自動移動システムが,本願発明は「窓のロック部の自動施錠及び/又は開錠と,正逆転可能な駆動部により,センサーによる窓の開閉を司る窓の自動開閉」を行うものであるのに対し,引用発明は,窓の自動解錠と,第1駆動モータ17を駆動して,火災検知手段61からの窓開放信号により自動的に窓開けを行うものではあるが,施錠や窓の閉動作を行うものではない点。
(3)相違点についての判断ア相違点1について窓を自動開閉する部材の取付具本体を,躯体側の框の上方に取付ける技術は,例えば,拒絶理由通知で引用した周知例1および周知例2の他,周知例3等にみられるように周知技術である。一方の窓の相対移動を実現するためには,取付具本体を,他方の窓の窓枠に固定するか,躯体側の框に固定するかしかないのであるから,引用発明において,取付具本体を他方の窓枠である「内窓部4の縦かまち6a」の上方に固定する構成に代えて,上記周知な躯体側の框に固定する構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。
イ相違点2について窓の自動開閉システムにおいて,ゴム等の摩擦ローラで駆動ホイル16を構成して直接窓枠の上方に当接させる構成のものも,ラック&ピニオンを用いた構成のものも,どちらも広く用いられており,その作用は同等のものである(必要なら,周知例4(特に,【0052】)等参照。)。したがって,引用発明において,ラック&ピニオンを用いた駆動方式に代えて上記直接窓枠の上方に当接させる構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。
ウ相違点3について複数の制御を一つの制御装置で行うか,複数の制御毎に個別の制御装置を設けて行うかは,コスト等を考慮して当業者が適宜選択し得た事項に過ぎない。引用発明において,ロック施錠,開錠機構を作動する制御装置と,窓開閉機構を作動する制御装置とを個別の制御装置で構成することは,当業者が容易になし得たことである。
エ相違点4について正逆転可能な駆動装置により,ロックの開錠や窓の自動開放だけでなく,ロックの自動施錠や窓の自動閉動作も行う自動開閉システムとする技術は,例えば周知例4等にみられるように,本願前に周知の技術であるから,引用発明においても,正逆転可能な駆動装置により,開動作だけでなく閉動作も行う構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。
そして,本願発明の作用効果は引用発明および上記周知技術から当業者が予測できた範囲内のものであって,格別なものということはできない。
したがって,本願発明は,引用発明および上記周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)審決の「むすび」以上のとおり,本願発明は,引用発明および上記周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないから,本願は拒絶すべきものである。
第3当事者の主張の要点1審決取消事由(格別の作用効果の看過)の要点審決は,本願発明が奏する下記の格別の作用効果(以下「本件作用効果」という。)を看過した結果,本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるから,取り消されるべきである。
(1)本件作用効果の格別性ア本願発明は,相違点1,2及び4に係る各構成等を含めた下記構成を備えるものである。
「『窓開閉機構は,止め具を介して框の上方に取付けた取付具本体と,取付具本体に設けた正逆転可能な駆動部と,駆動部に設けた伝達機構と,伝達機構で駆動され,かつ直接窓枠の上方に当接する回転可能な駆動部本体を有する』との構成」イ本件作用効果は,本願発明の上記アの構成に由来するものである。なお,下記(ウ)の作用効果は,本願に係る甲8補正後の明細書(甲8。以下「本願明細書」という。)に記載はないものの,本願発明の構造から明らかなものである。
(ア)「本願発明は,駆動部本体の係止部がゴム,樹脂等の粘着体,植毛の粘性体等で構成されており,凹凸,スリット等の滑り止め手段を設けることにより,確実な窓の開閉を司ることができ,さらに,駆動部本体を窓枠に直接当接させるため,ラック等の貼り付け部材を新しく貼り付ける必要もなく,部品点数の減少,取付けの容易化等を図ることができる。」(イ)「本願発明は,自動開閉システムを,既設の窓枠,ガラス又は框の上方に設置することができるので,窓枠,ガラス,框の上方,建物等の有効利用とコストの削減を図り,廃棄に伴う弊害を除去し,環境保護に役立つなどの有益性を有する。」(ウ)「本願発明は,取付具本体を框の上方に取り付け,一方の窓枠の上方に回転輪の係止部が直接当接されているため,結露による水滴が付着しにくく,また,仮に水滴が付着したとしても,窓の中央部付近や下方に取り付ける場合と比較して,付着する水滴の量は少ない。」(2)審決の判断の誤りア審決は,本願発明が奏する作用効果について,下記のとおり判断した。
「本願発明の作用効果は引用発明および上記周知技術から当業者が予測できた範囲内のものであって,格別なものということはできない。」イしかしながら,以下のとおり,本件作用効果は,引用発明及び審決が認定した周知技術から当業者が予測することができた範囲内のものではないから,審決には,本願発明が奏する格別の作用効果を看過した誤りがあるというべきである。
(ア)引用発明について引用発明は,前記第2の3(2)イのとおり,本願発明と異なる構成を有する。したがって,本件作用効果は,引用発明が奏する作用効果とは異なるものである。
(イ)周知例1に記載された発明について周知例1に記載された発明は,窓枠の中間位置の窓戸の上端に当たる窓枠に沿って横方向に延びる取着部材を取り付けるものであり,本願発明とは異なる構成を有する。したがって,本件作用効果は,周知例1に記載された発明が奏する作用効果とは異なるものである。
(ウ)周知例2に記載された考案について周知例2に記載された考案は,窓外枠又は框に電動駆動部,駆動モータ等を取り付け,内窓の窓枠内の上枠表面と平行に固設したラック部材を設けるものであり,本願発明とは異なる構成を有する。したがって,本件作用効果は,周知例2に記載された考案が奏する作用効果とは異なるものである。
(エ)周知例3に記載された考案について周知例3に記載された考案は,引扉を自動ドアにする場合,ゴム帯を扉の上壁面に固定し,鴨居には外函を固定してゴム帯を扉のゴム帯に押圧接触させ,モーターを起動すれば,回転歯車が回転して受金と共にローラで張架されたゴム帯を回動し,これに接触する摩擦力でゴム帯の固定した引扉を開閉するものであり,本願発明とは異なる構成を有する。したがって,本件作用効果は,周知例3に記載された考案が奏する作用効果とは異なるものである。
(オ)乙1に記載された発明について特開平10-231658号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)に記載された発明は,駆動モータにより動作される駆動プーリが引戸の外表面に当接して引戸を開閉するとの構成及び駆動プーリを引戸の上端付近,中央部又は下端付近に当接する構成(駆動プーリを引戸のどの位置にも設置することができる構成)を有し,駆動プーリを引戸の上端付近に設けるとの構成を採用した場合,引戸の上端を吊持してスライドさせる「上吊り式」の引戸に使用するものであり,本願発明とは,開閉の対象物,対象物における従動手段の設置箇所等において大きく相違する。したがって,本件作用効果は,乙1公報に記載された発明が奏する作用効果とは大きく異なるものである。
(カ)乙2に記載された考案について実願平3-35275号(実開平4-120876号)のマイクロフィルム(乙2。以下「乙2公報」という。)に記載された考案は,駆動ローラと従動ローラで扉を挟むとの構成を有するものであり,本願発明とは,対象物,駆動手段と従動手段との関係及び部品点数において大きく相違する。したがって,本件作用効果は,乙2公報に記載された考案が奏する作用効果とは大きく異なるものである。特に,本願発明は,既存の窓枠に設置することができるものであるが,乙2公報に記載された考案は,上記構成上,既存の窓枠に設置するのが困難である。
(キ)乙3に記載された考案について実願昭62-186120号(実開平1-90983号)のマイクロフィルム(乙3。以下「乙3公報」という。)に記載された考案は,固定部を窓枠に固定し,対向する窓枠に車輪を接触させるとの構成を有するものであり,本願発明とは,対象物における従動手段の設置箇所において大きく相違する。したがって,本件作用効果は,乙3公報に記載された考案が奏する作用効果とは大きく異なるものである。
特に,乙3公報に記載された考案において,固定部を窓の中央部付近の窓枠に固定するとの構成又は窓の下方の外枠に本体を固定し,下方の窓枠に車輪を接触させて窓を開閉するとの構成を採用した場合,結露による水滴によって車輪がスリップを起こし,窓が開閉しないとの不都合が生じる。
2被告の反論(「格別の作用効果の看過」に対して)の骨子本件作用効果は,以下のとおり,引用発明並びに周知例1ないし4及び乙1ないし乙3の各公報が示す周知技術から予測することができた範囲内のものであって,格別のものということはできないから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(1)本件作用効果の(ア)のうち,「駆動部本体の係止部がゴム,樹脂等の粘着体,植毛の粘性体等で構成されており,凹凸,スリット等の滑り止め手段を設けることにより,確実な窓の開閉を司ることができ(る)」との点(以下「本件作用効果(ア)a」という。)は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
(2)本件作用効果の(ア)のうち,その余の点(以下「本件作用効果(ア)b」という。)は,周知例4及び乙1公報ないし乙3公報が示す周知技術(窓枠等に直接当接する回転可能な駆動部本体を用いるとの技術)から容易に予測することができたものである。
(3)本件作用効果の(イ)は,周知例1ないし3が示す周知技術(取付具本体を既設の窓枠,ガラス又は框の上方に設置するとの技術)から容易に予測することができたものである。
第4当裁判所の判断1取消事由(格別の作用効果の看過)について(1)引用発明及び周知技術の認定についてア引用発明が,審決(前記第2の3(1))が認定したとおりの構成を備えたものであることは,当事者間に争いがない。
イ証拠(甲3ないし5(周知例1ないし3))及び弁論の全趣旨によれば,窓を自動開閉する部材である取付具本体を躯体(建物)側の框の上方に取り付けるとの技術(相違点1に係る技術)は,本願当時の周知技術であったものと認められる(原告も,上記各証拠による当該認定を実質的に争うものではない。以下,当該技術を「本件周知技術1」という。)。
また,証拠(甲6,乙1,2(周知例4,乙1公報,乙2公報))及び弁論の全趣旨によれば,回転可能な駆動部本体を窓枠の上方に直接当接させるとの技術(相違点2に係る技術)は,本願当時の周知技術であったものと認められる(原告も,上記各証拠による当該認定を実質的に争うものではない。以下,当該技術を「本件周知技術2」という。)。
(2)本件作用効果(ア)aについてア本願明細書には,本願発明(甲8補正後の請求項1に係る発明)の実施例として,次の各記載がある。
(ア)「この窓開閉機構10は,・・・回転輪15(駆動部本体)と,・・・で構成されており,・・・回転輪15には,窓枠3-1等に圧接するゴム,樹脂等の粘着体,又は植毛等の粘性体でなる係止部15aが設けられて(いる)」(段落【0041】)(イ)「係止部15a及び/又は窓枠3-1等に凹凸,スリット等の滑り止め手段を設けることもあり得る。この各凹凸,スリット等の滑り止め手段の構成を採用することで,確実な窓9の可動が図れる特徴がある。」(段落【0042】)イしかしながら,前記第2の2のとおり,本願発明に係る請求項1には,駆動部本体(本願明細書にいう「回転輪15」)につき,「伝達機構で駆動され,かつ直接窓枠の上方に当接する回転可能な駆動部本体」との規定があるのみであって,駆動部本体の係止部がゴム,樹脂等の粘着体,植毛の粘性体等で構成されるとの特定はない。
また,同請求項には,同様に,「直接窓枠の上方に当接する回転可能な駆動部本体」との規定があるのみであって,(回転輪15の係止部15a,窓枠3-1等に)凹凸,スリット等の滑り止め手段を設けるとの構成についての特定はない。
そうすると,本件作用効果(ア)aは,本願発明が奏するものと認めることはできない。
(3)本件作用効果(ア)bについてア本願明細書には,次の各記載がある。
(ア)「本発明は,・・・既設の窓にも簡易かつ確実に取付け可能とすること,また部品点数を少なくし製造の容易化を図ること・・・等を意図する。」(段落【0012】)(イ)「請求項1は,・・・既設の窓にも簡易かつ確実に取付け可能であること,また部品点数を少なくし製造の容易化が図れること・・・等の実益を有する。」(段落【0026】)イしかしながら,本件周知技術2は,上記(1)イのとおり,回転可能な駆動部本体を窓枠の上方に直接当接させるとの技術であって,ラック等の部材の貼り付けを不要とするものであるから,引用発明に本件周知技術2を適用することにより,本件作用効果(ア)b(ラック等の部材の貼り付けが不要であることから,部品点数を減少させ,取付けの容易化等を図ることができるとの作用効果)を奏することは,本願当時の当業者が十分に予測し得る範囲内のものであったと認めるのが相当である。
(4)本件作用効果の(イ)についてア本願明細書には,次の各記載がある。
(ア)「本発明は,・・・既設の窓にも簡易かつ確実に取付け可能とすること,・・・等を意図する。」(段落【0012】)(イ)「請求項1は,・・・既設の窓にも簡易かつ確実に取付け可能であること,・・・等の実益を有する。」(段落【0026】)(ウ)「本発明の特徴とする処は,自動開閉システムを既設の窓枠3-1,ガラス3a,框90の上方にそれぞれ設置できるので,この窓枠3-1,ガラス3a,框90の上方や建物等の有効利用と,コストの削減化,廃棄に伴う弊害の解除と,環境保護に役立つ等の有益性を有する。」(段落【0045】)イしかしながら,本件周知技術1は,上記(1)イのとおり,窓を自動開閉する部材の取付具本体を躯体(建物)側の框の上方に取り付けるとの技術であって,取付具本体を既設の建物部材に取り付けるというものであるから,引用発明に本件周知技術1を適用することにより,本件作用効果の(イ)(既設の框の上方等に設置することから,建物等の有効利用とコストの低減を図ることができるとともに,廃棄に伴う弊害を除去し,もって,環境保護に役立つなどの作用効果)を奏することは,本願当時の当業者が十分に予測し得た範囲内のものであったと認めるのが相当である。
(5)本件作用効果の(ウ)について本願明細書には,本件作用効果の(ウ)についての記載はないところ,上記(1)イのとおり,本件周知技術1は,窓を自動開閉する部材である取付具本体を躯体(建物)側の框の上方に取り付けるとの技術であって,取付具本体の設置箇所を結露による水滴がたまりにくい場所とするものであり,また,本件周知技術2は,回転可能な駆動部本体を窓枠の上方に直接当接させるとの技術であって,同様に,結露による水滴がたまりにくい場所を駆動部本体の設置箇所とするとともに,上記「直接の当接」との構成により,窓と駆動部本体との間に隙間を設けない作用効果が期待できるものであるから,引用発明に本件周知技術1及び2を適用することにより,本件作用効果の(ウ)(取付具本体を框の上方に設置し,回転輪15の係止部15aを窓枠の上方に直接当接することにより,結露による水滴を付着しにくくし,また,付着したとしても,これを少量のものとするとの作用効果)を奏することは,本願当時の当業者が十分に予測し得た範囲内のものであったと認めるのが相当である(なお,原告も,本件作用効果の(ウ)は,本願発明の構造自体から明らかなものである旨自認するところである。)。
(6)小括以上のとおり,本件作用効果のうち,同(ア)aは,本願発明が奏するものではなく,その余の作用効果は,引用発明並びに周知技術1及び2により,本願当時の当業者が十分に予測し得た範囲内のものであって,格別のものとはいえないから,審決に,本願発明が奏する格別の作用効果,すなわち本件作用効果を看過した誤りはないというべきである。
(7)原告の主張についてア引用発明に係る主張について原告は,引用発明が本願発明とその構成を異にすることを理由に,本件作用効果は引用発明が奏する作用効果とは異なる旨主張するが,上記(6)の判断は,引用発明のみならず,本件周知技術1及び2をも根拠とするものであるから,原告の当該主張は,主張自体失当であるといわざるを得ない。
イ周知例1ないし3,乙1公報及び乙2公報(以下「周知例1等」という。)に記載された発明又は考案に係る各主張について原告は,周知例1等に記載された発明又は考案が本願発明とその構成を異にすることを理由に,本件作用効果はこれらの発明又は考案が奏する作用効果とは異なる旨主張するが,上記(6)の判断は,これらの発明又は考案が奏する作用効果を根拠とするものではなく,周知例1等により認められる周知技術(本件周知技術1及び2)を根拠とするものであるから,原告の当該主張も,主張自体失当であるといわざるを得ない。
2結論以上の次第で,審決取消事由は失当であり,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 榎戸道也
裁判官 浅井憲