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関連審決 不服2006-6441
関連ワード 承継 /  技術的思想 /  29条1項3号 /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  共有 /  技術的意義 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10320号 審決取消請求事件
原告株式会社HDT
原告X
両名訴訟代理人弁護士稲元富保
被告特許庁長官
指定代理人小牧修
同 服部秀男
同 岩崎伸二
同 酒井福造
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/02/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2006-6441号事件について平成20年7月14日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1本件は,株式会社ヒューネット(訴外会社)及び原告Xが,発明の名称を「液晶パネルの駆動方法」とする後記特許の出願をし,平成17年11月25日付けで手続補正をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,その後訴外会社から会社分割の方法により出願人たる地位を承継した原告株式会社HDT(旧商号株式会社ヒューネット・ディスプレイテクノロジー)と原告Xが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,上記補正後の請求項1(本願発明)が下記刊行物に記載された発明と同一であるか(特許法29条1項3号),である。
記・特表平8-500915号公報(発明の名称「マトリックス表示システムおよび,このようなシステムの動作方法」,出願人 フィリップス エレクトロニクス ネムローゼ フェン ノートシャップ,公表日平成8年1月30日。甲1。以下「引用例」といい,そこに記載された発明を「引用発明」という。)第3当事者の主張1 請求の原因 特許庁における手続の経緯訴外会社及び原告Xは,平成8年8月6日に出願した特許出願(原々出願,特願平8-221827号)から分割して平成14年7月25日にした特許出願(原出願,特願2002-217332号)からの分割出願として,平成16年5月24日,名称を「液晶パネルの駆動方法」とする発明について特許出願(特願2004-153424号,請求項の数5。甲2,以下「本願」という。公開特許公報は特開2004-287458号)をし,その後平成17年11月25日付けで補正(以下「本件補正」という。請求項の数1。甲3)をしたが,拒絶査定を受けたので,平成18年4月6日付けで不服の審判請求をした。
特許庁は,同審判請求を不服2006-6441号事件として審理し,訴外会社から原告株式会社HDT(当時の商号は「株式会社ヒューネット・ディスプレイテクノロジー」,後に平成19年4月9日付けで現商号へ変更)は会社分割の方法により出願人たる地位を承継し,平成18年10月30日付けで特許庁へその旨の届出をした(甲4)が,特許庁は,平成20年7月14日,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本は平成20年7月29日原告らに送達された。
 発明の内容本件補正後の請求項1の内容は,次のとおりである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】2つの電極に挟まれたマトリックス方式のネマティック液晶を2枚の偏光板の間に置いた液晶パネルの駆動方法において,1フレーム期間内で1つのドットを選択して,画像データに応じた電圧を前記ネマティック液晶に一定期間にわたって印加し,前記1フレーム期間内で前記1つのドットをその後に選択して,前記画像データに応じた電圧と異なる一定の電圧を一定期間にわたって印加し,これによって前記画像データに応じた電圧の印加によって変化した前記ネマティック液晶の透過率を前記1フレーム内で元に戻すことを特徴とする液晶パネルの駆動方法。」 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願発明は前記引用例に記載された発明と同一であるから特許法29条1項3号により特許を受けることができない,というものである。
イ なお,審決が認定した引用発明の内容は,次のとおりである。
「少なくとも実質的に透過状態と少なくともほぼ非透過状態とに駆動可能な画素の行および列の配列を有するアクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルと,前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルの一方の側に配置されて前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルを照明することにより前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルの他方の側に可視表示出力を生成するための光源と,駆動手段であってこれに供給される所定のフィールドおよびライン速度を有するTV信号に従って前記画素を駆動することができる当該駆動手段とを具えるマトリックス表示システムの動作方法において,前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルは,時間軸で行毎に駆動されて完全な表示画像を構成するものであり,1行が一度にアドレスされると,アドレスされた行の全ての画素が,TV信号の表示フィールドの表示情報の電圧レベルに従って充電され,画素に供給された電荷が,画素が再びアドレスされるまで蓄積されるようにするものであって,画素の一部を形成する各々の透明画素電極と行および列アドレス導線とを支える透明プレートと,この透明プレートと平行に,且つ分離して,パネルの全ての画素に共通の電極を構成する透明導電層がその上に形成された他の透明プレートと,この2枚の透明プレートの間に配置されたツイストネマティック液晶材料と,向かい合った透明プレートに設けられた偏光層とを備えており,前記ツイストネマティック液晶材料が,画素を通過した光を,その両端間に印加された電圧に従って変調させることにより,各画素は,パネルを通過した光を,その各々の画素の両端間に印加された電圧に従って変化させ,ほとんど透過しない,すなわち黒から,ほぼ完全に透過する,すなわち白のレベルまで変動する,複数の透過レベルを形成し,順次の表示情報アドレス期間がある時間間隔だけ分離されており,前記配列の画素が,前記順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において,ほぼ非透過表示状態に駆動され,前記供給されたTV信号の表示フィールドの表示情報が,TV信号フィールド周期の半分から成る表示情報アドレス期間内で前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルに書き込まれるのに続いて,選択信号が行駆動回路によって各行アドレス導線に順番に再び供給されることにより,TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内に前記画素の配列が再びアドレスされ,この期間が続いている間,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように選択される予め定めた基準電圧V が列アドBレス導線の各々に印加され,表示情報アドレス期間の間の時間間隔中に画素を黒い状態に駆動することは,必要な休止期間をもたらし,それだけで十分であって,前記光源が,パネルを連続して照明するように用意されており,前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離されるマトリックス表示システムの動作方法。」 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法なものとして取り消されるべきである。
ア本願発明は,「…1フレーム期間内で…画像データに応じた電圧を前記ネマティック液晶に一定期間にわたって印加し,前記1フレーム期間内で…前記画像データに応じた電圧と異なる一定の電圧を一定期間にわたって印加し,これによって前記画像データに応じた電圧の印加によって変化した前記ネマティック液晶の透過率を前記1フレーム内で元に戻す」ことを構成要件とするものであるから,本願発明は,1フレーム期間において,画像データに応じた電圧の印加を開始したタイミングにおける透過率が,画像データに応じた電圧の印加によって変化した後,一定の電圧を一定期間印加することですることで,再度画像データに応じた電圧の印加を開始したタイミングにおける透過率に戻ることを構成要件としている。
一方,引用発明は,審決が認定するとおり,「前記供給されたTV信号の表示フィールドの表示情報が,TV信号フィールド周期の半分から成る表示情報アドレス期間内で…液晶表示パネルに書き込まれるのに続いて,…TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内に…画素がほぼ非B透過(黒い)状態に駆動されるように選択される予め定めた基準電圧Vが列アドレス導線の各々に印加され」(12下8行〜下1行)るものである。
したがって,本願発明と引用発明とを対比する上では,引用発明が,1TV信号フィールド周期(1フレーム期間)において,画像データに応じた電圧の印加を開始したタイミングにおける透過率(元の透過率)が,画像データに応じた電圧の印加で変化し,基準電圧V が印加されることでB画像データに応じた電圧の印加を開始したタイミングにおける元の透過率に戻るものと認められるか否かを検討する必要がある。
イネマティック液晶においては,本願明細書(甲2,【0012】)及び本願の【図1】(甲2)並びに引用例(甲1,7頁8行〜13行)にも記載されているように,画像データに応じた電圧を液晶(画素)に印加したとき,液晶の光透過率は,画像データに応じて変化することになるが,電圧を印加した後,当該印加電圧に応じた透過率になるまでには所要の時間を要し,印加電圧の変化に対する透過率の変化には遅れ(応答遅れ)がある。
したがって,引用発明において,TV信号フィールド周期の残りの半分からなる期間が続いている間,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように基準電圧V 印加されることと,当該画素の透過率が画像データBに応じた電圧の印加開始タイミングにおける透過率(元の透過率)に戻ることとの間には一義的な関係は存在しない。引用発明においては,単に,画像データに応じた電圧が印加された後,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように基準電圧V が印加される,ということだけで,「透B過率が1フレーム期間内で戻る」とまで認定することはできない。
仮に,「予め定めた基準電圧V を印加する期間」が画像データに応じBた電圧の印加で変化した光透過率を「元に戻すようにする期間」であると認定できるとしても,予め定めた基準電圧V を印加することで透過率がB元に戻るか否かは応答速度を当然に考慮しなければならない以上,「1フレーム期間内で元に戻す」とまでは認められない。
ウ引用例においては,画像データに応じた電圧を印加する期間は1TV信号フィールド期間の半分であり,画素に印加された画像データに応じた電圧による電荷は,予め定めた基準電圧V を印加するタイミング(画素がB再びアドレスされるタイミング)まで蓄積された状態にあるので,画素の透過率が基準電圧V に応じて変化を開始するタイミングは,再びアドレBスされる期間であることになる。
したがって,引用発明において,画像が変化することで画像データに応じた電圧も変化するので,このような変化する画像データに応じた電圧を1TV信号フィールド期間の半分で印加し,その後,基準電圧V を印加Bした場合の透過率の変化は,透過率変化の応答性を一定とすれば,例えば下記の【参考図1】に示すようになる。
【参考図1】ここでは,画像が変化することで,画像データに応じた電圧がV1(光透過率50%に対応するものとする。),V2(光透過率90%に対応するものとする。)等と変化する場合を例にしている。この参考図からも分かるように,引用発明においては,液晶の応答性を一定とすると,透過率は,基準電圧V を印加しても,1フレーム(1TV信号フィールド周B期)の終わりで様々な値になるのであって,引用発明が「ほぼ非透過(黒い)状態に駆動」されているとしても,画像データに応じた電圧の印加開始タイミングの透過率に「1フレーム内で元に戻す」,すなわち1フレーム内で毎回同じ透過率に戻すことにはならない。
エ引用例(甲1)には,?@「表示パネルの第1および第2アドレス期間(図4におけるfおよびf´の各々)の相対的な持続時間も,ある程度変化させることができる。…例えばおのおのがTVフィールド周期の1/3及び2/3,またはその逆となるように異ならせることができる。」(23頁8行〜13行),?A「さらに,画素の非透過状態への駆動は,間隔の開始時に始める必要はない。代わりに,図4に示すようなより短い予め定めた遅延時間を,画素をこの必要な状態に設定する前に,時間間隔の開始時に挿入してもよい。…この遅延時間dの終了時は,図4中に破線で示されるように,照明期間の終了時と一致させて選んでもよい。画素をこの間隔の残りの部分内でこの状態にするには,より速い走査速度を必要とする。」(23頁20行〜27行)と記載されている。
このように,引用発明では,基準電圧V を印加する期間を短くするこBとも,長くすることもできると認識している。基準電圧V を印加する期B間を短くすれば,液晶の応答性上,予め定めた基準電圧V を印加してもB透過率が戻る可能性が少なくなるにもかかわらず,そのような選択は任意であるとしている。しかも,上記?Aには「画素をこの間隔の残りの部分内でこの状態にするには,より速い走査速度を必要とする」と記載されていることからすれば,遅延時間を挿入する場合には,走査速度を速く,即ち周期を短くするとしていることからすれば,なおさら,予め定めた基準電圧V を印加しても透過率が元の透過率(当該1TV信号フィールド周期Bにおける画像データに応じた電圧の印加開始タイミングの透過率)に戻る可能性が少なくなる。
オ以上のとおり,引用例には,ほぼ非透過(黒い)状態に駆動するようにする基準電圧V を印加することについては記載されているものの,当該B基準電圧V を印加することで,1TV信号フィールド周期内で,画像デBータに応じた電圧の印加開始タイミング時の透過率(元の透過率)に戻ることについては記載されていないし,画像データに応じた電圧の印加開始タイミングの透過率と予め定めた基準電圧V の印加期間との関係についBても何ら記載も示唆もされていない。
カしたがって,引用発明には,本願発明の特徴的要件である「画像データに応じた電圧を印加することで変化した光透過率を1フレーム期間内で元に戻す」という技術的思想が存しない。
審決が,引用発明が「前記画像データに応じた電圧の印加によって変化した前記ネマティック液晶の透過率を前記1フレーム内で元に戻す」との事項を備えている,と認定している点は誤っており,この誤った認定を前提として引用発明と本願発明とは同一であると認定したのであるから,このような認定は誤りである。
キなお,被告は,引用発明が「黒の透過レベルを形成する」ことから,「光透過率を変化前の元の値にTV信号フィールド周期の期間内に戻す」ものといえると主張している。
引用発明の技術的意義は,被告が主張するように,「順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において画素をほぼ非透過,すなわち黒に駆動することによって,順次の表示フィールドの見る人への表示の間に『暗い』期間すなわち休止期間を見る人に表示し,得られる表示出力が,CRTディスプレイから得られる出力に近似するようにして,見る人に知覚される動いている物の解像度が改善されるようにした」との点にあるところ,CRTディスプレイの出力は電子線が蛍光体に当たって発光してから残光特性により徐々に輝度が下がっていくこと,さらに1走査期間後の輝度レベルが電子線の当たった瞬間の輝度に応じて変化することが周知事項であることを考慮すると,「動いている物の解像度が改善される」ためには,暗い期間の輝度レベルは各フィールド毎に異なっていても改善には十分であり,「暗い」期間すなわち休止期間の輝度は低いものの,画像データに応じて変化し,各フィールド毎に常に一定のレベルとなるものではない。
一方,引用例(甲1)には,引用発明について,例えば,「少なくとも実質的に透過状態と少なくともほぼ非透過状態とに駆動可能な光変調用画素の行および列のアレイと,前記表示パネルを照明して表示出力を生じる手段と,駆動手段であってこれに供給される所定のフィールドおよびライン速度を有するビデオ信号に従って前記画素を駆動することができる当該駆動手段とを具えるマトリックス表示システムであって,前記駆動手段が前記画素の行を順次駆動でき,前記供給されたビデオ信号の表示フィールドの表示情報が,ビデオ信号のフィールド周期よりかなり短い表示情報アドレス期間中に前記表示パネル内に書き込まれ,順次の表示情報アドレス期間がある時間間隔だけ分離されているマトリックス表示システムにおいて,前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離されるようにマトリックスシステムを動作できるようにしたことを特徴とする。」(特許請求の範囲請求項1。請求項16も同旨),「請求項16に記載の方法において,前記照明手段による前記表示パネルの照明を,前記時間間隔の少なくとも一部の間に表示出力が生成されるように制御し,前記アドレス期間の少なくとも一部の間に表示出力がほぼ生成されないように制御することを特徴とする方法。」(特許請求の範囲請求項17)などと記載されている。したがって,引用発明は,基本的に「ほぼ表示出力が生じない」期間としての「休止期間」を設けることで,CRTディスプレイから得られる出力に近似させようとするものであり,「ほぼ表示出力が生じない期間」における液晶の透過率が1フレーム期間内で元の値に戻っていることまで要件としているものではない。むしろ,引用発明は,「CRTディスプレイから得られる出力に近似するようにしている」ことからすれば,「1フレーム期間内で毎回同じ透過率に戻す」のではなく,「1フレーム期間内で画像データに応じて透過率は変化し一定の値には戻らない」ように,つまり「ほぼ表示出力を生じない」ように駆動している発明であると認められる。
したがって,被告の上記主張は失当である。
被告は,原告らが示した【参考図1】に対して,【参考図2】,【参考図3】ににおいて透過率が元の透過率に戻っている状態を示しているが,これは,被告の主張を前提とするもので,液晶の応答遅れとの関係について何ら記載されていない引用例を前提とするものではなく,失当である。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1)原告らは,引用発明においては,単に,画像データに応じた電圧が印加B された後,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように基準電圧Vが印加される,ということだけで,「透過率が1フレーム期間内で戻る」,すなわち,「1フレーム期間内で元に戻す」とまでは認定できないと主張するが,以下のとおり,失当である。
ア 引用発明は,以下の構成を含むものといえる。
?@マトリックス表示システムは,「少なくとも実質的に透過状態と少なくともほぼ非透過状態とに駆動可能な画素の行および列の配列を有するアクティブマトリックスアドレス液晶表示パネル」と,「駆動手段であってこれに供給される所定のフィールドおよびライン速度を有するTV信号に従って前記画素を駆動することができる当該駆動手段」とを備える。
?A前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルは,1行が一度にアドレスされると,アドレスされた行の全ての画素が,TV信号の表示フィールドの表示情報の電圧レベルに従って充電され,画素に供給された電荷が,画素が再びアドレスされるまで蓄積されるようにする。
?B前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルが備えるツイストネマティック液晶材料が,画素を通過した光を,その両端間に印加された電圧に従って変調させることにより,各画素は,パネルを通過した光を,その各々の画素の両端間に印加された電圧に従って変化させ,ほとんど透過しない,すなわち黒から,ほぼ完全に透過する,すなわち白のレベルまで変動する,複数の透過レベルを形成する。
?C順次の表示情報アドレス期間がある時間間隔だけ分離されており,前記配列の画素が,前記順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において,ほぼ非透過表示状態に駆動される。
具体的には,前記供給されたTV信号の表示フィールドの表示情報が,TV信号フィールド周期の半分から成る表示情報アドレス期間内で前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルに書き込まれるのに続いて,選択信号が行駆動回路によって各行アドレス導線に順番に再び供給されることにより,TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内に前記画素の配列が再びアドレスされ,この期間が続いている間,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように選択される予め定めた基準電圧V が列アドレス導線の各々に印加される。
B?D表示情報アドレス期間の間の時間間隔中に画素を黒い状態に駆動することは,必要な休止期間をもたらし,それだけで十分であって,前記光源が,パネルを連続して照明するように用意されている。
?E前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離される。
イ また,引用発明の技術的意義に関し,以下のことがいえる。
?@例えばLCディスプレイやCRTのような,動いている像のデータを伝達するのに有効な種々の表示技術において,動いている像の時間の次元は量子化されているので,連続する運動は存在せず,種々の時点における動いている物の空間上の位置を与える像の連続が得られる。時間内に変化した順次の像の表示によって生じる種々の形式の見かけの運動のうち,いわゆるベータ運動(Beta movement)すなわちみかけの空間的運動が,表示像中で知覚されるボケに関する最も適切なものである。特に順次の表示間の休止期間の持続時間が,運動を知覚する上で重要なパラメータである。
?ACRTディスプレイにおいては,明確な休止期間が順次の刺激の間に存在し,目の刺激は休止期間の間には存在せず,目は順次の提示の間の休止期間内に,物の新たな予想される位置に移動することができるため,動きは大変効果的に知覚される。対照的に,従来のように駆動されるアクティブマトリックスアドレスLCディスプレイパネルの画素は,画像情報を,完全な(フィールド)周期の間,次にアドレスされるまで保持し,表示する。したがって,画像情報の順次の表示の間に,休止期間がほとんど存在せず,画素が再アドレスされるときに,動いている物の空間上の位置における突然の変化が生じるが,見る人の目は,動いている物の新たな空間上の位置を提示される一方,古い位置に焦点が合ったままである。次に見る人の目は新たな位置に移動し,これが生じている間,物はその間ずっと表示されている。これは,目が動きを追っている間,網膜上の像の動きになる。この違いは,CRTディスプレイに比較して従来のLCディスプレイに,速度に依存するボケが残る原因であると考えられる。
?B引用発明は,順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において画素をほぼ非透過,すなわち黒に駆動することによって,順次の表示フィールドの見る人への表示の間に「暗い」期間すなわち休止期間を見る人に表示し,得られる表示出力が,CRTディスプレイから得られる出力に近似するようにして,見る人に知覚される動いている物の解像度が改善されるようにしたものである。
?Cすなわち,引用発明において,上記ア?Cないし?Eの構成を採ることの技術的意義は,上記?Bの点にあるものということができる。
ウ上記ア?@ないし?Bによれば,引用発明は,TV信号の表示フィールドの表示情報の電圧レベルに従って,各画素を,パネルを通過した光が,ほとんど透過しない,すなわち黒から,ほぼ完全に透過する,すなわち白のレベルまで変動する,複数の透過レベルを形成するように駆動するものといえる。
加えて,上記イ?B?Cのとおり,上記ア?Cないし?Eの構成を採ることの技術的意義が,順次の表示フィールドの見る人への表示の間に「暗い」期間すなわち休止期間を見る人に表示し,得られる表示出力が,CRTディスプレイから得られる出力に近似するようにした点にあることに照らせば,上記ア?Cにおける,「前記配列の画素が,前記順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において,ほぼ非透過表示状態に駆動される。」,「TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内に前記画素の配列が再びアドレスされ,この期間が続いている間,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように選択される予め定めた基準電圧V 」でいう,「画B素が,…ほぼ非透過表示状態に駆動される」,「画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動される」についても,画素が黒の透過レベルを形成するように駆動されることを意味するものであって,上記ア?D?Eでいう,「画素を黒い状態に駆動する」,「ほぼ表示出力が生じない」とは,画素が黒の透過レベルを形成することを意味することは,明らかである。
審決が,「引用発明では,…『ほぼ表示出力が生じない』とは,…画素が黒の透過レベルを形成している状態を意味すると解することが相当である。」(15頁9行〜19行)と説示したのは,上記の趣旨をいうものである。
エここで,上記ア?D及び?Eのとおり,引用発明が,「表示情報アドレス期間の間の時間間隔中に画素を黒い状態に駆動することは,必要な休止期間をもたらし」,「前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離される」,すなわち,「表示情報アドレス期間の間の時間間隔中に画素が黒の透過レベルを形成することは,必要な休止期間をもたらし」,「前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,画素が黒の透過レベルを形成する期間だけ分離される」ものであることを踏まえると,原告らが主張するごとく,印加電圧の変化に対する透過率の変化に遅れ(応答遅れ)がある(このこと自体,被告は争うものではない。)としても,引用発明において,画素が,表示情報アドレス期間の間の時間間隔中に黒の透過レベルを形成することは,明らかである。
審決が,「引用発明では,…画素が『時間間隔』内で黒の透過レベルに到達するものと認められる。」(15頁20行〜28行)と説示したのは,上記の趣旨をいうものであって,その認定に誤りはない。
オTV信号の表示フィールドの表示情報は画素をある透過レベルを形成するように駆動するためのものであるから,上記ア?Cによれば,引用発明は,画素の透過率を変化させるためのTV信号の表示フィールドの表示情報が,TV信号フィールド周期の半分から成る表示情報アドレス期間内で前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルに書き込まれ,それに続いて,TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内に前記画素の配列が再びアドレスされ,この期間が続いている間,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるものであって,順次の表示情報アドレス期間がある時間間隔だけ分離されているものである。よって,引用発明は,「表示情報アドレス期間」と表示情報アドレス期間の間の「時間間隔」が交互に存在するものである。そして,「変化前の透過率」とは,表示情報アドレス期間の直前の「時間間隔」における透過率に当たるところ,上記オのとおり,引用発明は,画素が,表示情報アドレス期間の間の時間間隔中に黒の透過レベルを形成するものであるから,表示情報アドレス期間の直前の「時間間隔」における透過率も「黒の透過レベルを形成する」ものであって,「光透過率を変化前の元の値にTV信号フィールド周期の期間内に戻す」ものといえる。
ここで,「1TV信号フィールド周期」は「1フレーム期間」を超えないことが当業者に自明であり,引用発明が,本願発明の「1フレーム期間内で1つのドットを選択して」,「画像データに応じた電圧を前記ネマティック液晶に一定期間にわたって印加」し,「前記1フレーム期間内で前記1つのドットをその後に選択して」,「前記画像データに応じた電圧と異なる一定の電圧を一定期間にわたって印加」するとの事項を備えている(審決14頁12行〜15頁8行)ことに照らせば,引用発明は,本願発明でいう「1フレーム期間内で1つのドットを選択して,画像データに応じた電圧を前記ネマティック液晶に一定期間にわたって印加し,前記1フレーム期間内で前記1つのドットをその後に選択して,前記画像データに応じた電圧と異なる一定の電圧を一定期間にわたって印加し,これによって前記画像データに応じた電圧の印加によって変化した前記ネマティック液晶の透過率を前記1フレーム内で元に戻す」との構成を備えているといえる。
したがって,審決が,「…引用発明は,結局,本願発明の『1フレーム期間内で1つのドットを選択して,画像データに応じた電圧を前記ネマティック液晶に一定期間にわたって印加し,前記1フレーム期間内で前記1つのドットをその後に選択して,前記画像データに応じた電圧と異なる一定の電圧を一定期間にわたって印加し,これによって前記画像データに応じた電圧の印加によって変化した前記ネマティック液晶の透過率を前記1フレーム内で元に戻す』との事項を備えているといえる。」(15頁31行〜下1行)と認定したことに,誤りはない。
そして,上記エのとおり,基準電圧V を印加する際の液晶の透過率のB応答遅れを考慮しても,引用発明において,画素が,表示情報アドレス期間の間の時間間隔中に黒の透過レベルを形成することは,明らかであって,上記認定を左右しない。
(2)原告らは,【参考図1】に基づいて,「引用発明において,画像が変化することで画像データに応じた電圧も変化するので,このような変化する画像データに応じた電圧を1TV信号フィールド期間の半分で印加し,その後,基準電圧V を印加した場合の透過率の変化は,透過率変化の応答性をB一定とすれば,例えば参考図に示すようになる。」と主張するが,以下のとおり,【参考図1】は引用発明に基づいた図ではないことが明らかであるから,この【参考図1】に基づいた原告らの主張は失当である。
ア引用発明は「TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内に前記画素の配列が再びアドレスされ,この期間が続いている間,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように選択される予め定めた基準電圧Vが列アドレス導線の各々に印加され,…前記表示パネルの表示フィールBドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離される」ものであって,上記「ほぼ表示出力が生じない」とは,画素が黒の透過レベルを形成していることを意味する(上記(1)ウ)のであるから,引用発明において,「供給されたTV信号の表示フィールドの表示情報が,TV信号フィールド周期の半分から成る表示情報アドレス期間内でアクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルに書き込まれるのに続いて,選択信号が行駆動回路によって各行アドレス導線に順番に再び供給されることにより,TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内に前記画素の配列が再びアドレスされ,この期間が続いている間,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように選択される予め定めた基準電圧V が列アドレス導線の各々に印加され」た場合の透過率の変化は,概B略下記【参考図2】のようになる。
ここでは,駆動手段に供給されたTV信号の表示フィールドのある画素に対応する表示情報が「白,白,黒,白」と変化することで,その画素のネマティック液晶材料の両端間に印加された電圧が,「V2(「白のレベル」の光透過率に対応するものとする。),V2,V (「黒のレベル」Bの光透過率に対応するものとする。),V2」と変化する場合の引用発明を例にしている。
イ審決が認定したとおり,引用発明は,順次の表示情報アドレス期間(【参考図2】のf(A))の間の時間間隔(【参考図2】のf’)中に画素を黒い状態に駆動するだけで十分必要な休止期間をもたらすものであるから,上記【参考図2】からも分かるように,液晶の透過率の応答遅れを考慮しても,基準電圧V を印加すると,光透過率は,1フレーム(1TVB信号フィールド周期)の終わりで黒レベルの値になる。つまり,引用発明は,「ほぼ非透過(黒い)状態に駆動」し,画像データ(白,黒)に応じた電圧(V2,V )の印加開始タイミングの透過率(「黒のレベル」のB光透過率)に「1フレーム内で元に戻す」,すなわち1フレーム内で毎回同じ透過率(「黒のレベル」の光透過率)に戻すものである。
ウなお,このことは,以下のとおり,原告らが主張するごとく,画像が変化することで,画像データに応じた電圧がV1(光透過率50%に対応するものとする。),V2(光透過率90%に対応するものとする。)等と変化する場合であっても変わることはない。すなわち,【参考図2】において,V2よりも低い電圧であって,光透過率50%に対応する電圧であるV1が印加されたときの光透過率は,白と黒の間の値(以下「グレー」という。)になるが,時間間隔(f’)において光透過率がグレーから黒に変化する速度(【参考図2】においては傾き)は,白から黒に変化する速度と同程度であるから,白から黒に変化するのに要する時間よりも短い時間でグレーから黒に変化することになる(下記【参考図3】参照。)。
したがって,画像が変化することで,画像データに応じた電圧がV1,V2等と変化する場合であっても,引用発明によれば,「ほぼ非透過(黒い)状態に駆動」し,画像データ(白,グレー,黒)に応じた電圧(V2,V1,V )の印加開始タイミングの透過率(「黒のレベル」の光透B過率)に「1フレーム内で元に戻す」,すなわち1フレーム内で毎回同じ透過率(「黒のレベル」の光透過率)に戻すことになる。
エ以上のとおり,原告らの【参考図1】を用いた主張は,引用発明が「前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離される」ものであることを捨象するものであって,引用発明に基づくものでないから,失当である。
(3)原告らは,引用例(甲1)の記載に基づいて,「引用発明では,基準電圧V を印加する期間を短くすれば,液晶の応答性上,予め定めた基準電圧BV を印加しても透過率が戻る可能性が少なくなるにもかかわらず,そのよBうな選択は任意であるとしており,しかも,引用例の記載からすれば,遅延時間を挿入する場合には,走査速度を速く,即ち周期を短くするとしていることからすれば,なおさら,予め定めた基準電圧V を印加しても透過率がB元の透過率(当該1TV信号フィールド周期における画像データに応じた電圧の印加開始タイミングの透過率)に戻る可能性が少なくなる」旨主張する。
しかし,審決が認定した引用発明において,基準電圧V を印加する期間Bは,「TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内」で「画素の配列が再びアドレスされ」てから「この期間が続いている間」であり,順次の表示情報アドレス期間(f(A))の間の時間間隔(f’)中に画素を黒い状態に駆動するだけで十分必要な休止期間をもたらことができるような,液晶の応答性に見合った期間であることが明らかであるから,引用発明は,時間間隔(f’)中に画素を黒い状態に駆動するだけでは十分必要な休止期間をもたらすことができなくなるほど,基準電圧V を印加する期間を短くするBものではない。
したがって,原告らのこの主張は,引用発明に基づかない主張であって,失当である。
なお,原告らは「走査速度を速く」するとは,すなわち「周期を短く」することであるとして主張するが,引用例(甲1)の23頁26行〜28行に「画素をこの間隔の残りの部分内でこの状態にするには,より速い走査速度を必要とする。これは行駆動回路をより高いクロック速度によって動作することによって達成することができる。」と記載されているとおり,ここでいう「速い走査速度」は,TV信号フィールド周期,表示情報アドレス期間(f(A))となる周期,時間間隔(f’)となる周期などの周期を短くすることをいうのではなく,アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルにおいて,1行を一度にアドレスし,時間軸で行毎に駆動して完全な表示画像を構成するため,各行アドレス導線に順番に選択信号を供給する行駆動回路による走査速度を,より高いクロック速度で行駆動回路を動作させることによって速くすることをいうものであるから,原告らの上記主張は引用例の記載を誤解してするものである。
(4)原告らは,「画像データに応じた電圧の印加開始タイミングの透過率と予め定めた基準電圧V の印加期間との関係についても何ら記載も示唆もさBBれていない」旨主張しているが,上記のとおり,引用発明は,基準電圧Vが印加されることで,画素が,「時間間隔」内で黒の透過レベル(画像データに応じた電圧の印加を開始したタイミングにおける元の透過率)に到達する(戻る)ものであることが明らかであるから,原告らのこの主張も失当である。
(5)原告らは,「引用発明には,本願発明の特徴的要件である『画像データに応じた電圧を印加することで変化した光透過率を1フレーム期間内で元に戻す』という技術的思想が存しない」旨主張する。
しかし,上記のとおり,引用発明は,本願発明の「1フレーム期間内で1つのドットを選択して,画像データに応じた電圧を前記ネマティック液晶に一定期間にわたって印加し,前記1フレーム期間内で前記1つのドットをその後に選択して,これによって前記画像データに応じた電圧の印加によって変化した前記ネマティック液晶の透過率を前記1フレーム内で元に戻す」との事項を備えているといえる,とした審決の認定に誤りはないから,引用発明は「画像データに応じた電圧を印加することで変化した光透過率を1フレーム期間内で元に戻す」という技術的思想を有するものであることは明らかである。したがって,原告らのこの主張も失当である。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願発明の意義について(1)本願の本件補正後の特許請求の範囲「請求項1」は,前記第3,1(2)のとおりである。
(2)本願明細書(特許願添付の明細書[甲2]を手続補正書[甲3]によって補正したもの)には,次の記載がある。
ア 技術分野「本発明は液晶パネルの駆動方法,殊にネマティック液晶の液晶パネルの駆動方法に関するものである。」(段落【0001】)イ 背景技術「透明電極を有する2枚の透明な平板の間にネマティック液晶を挟んで,2枚の偏光板の間に置くと,前記2つの透明電極に印加する電圧に応じて,前記2枚の偏光板を通る光の透過率が変化することが知られている。」(段落【0002】)「この原理を用いた液晶表示装置は,厚さが薄く,電力消費が少ないなどの特徴を備え,腕時計や電子式卓上計算器をはじめとして広く使われている。」(段落【0003】)「また,近年ではカラーフィルタと組み合わせて,ノートパソコンや小型の液晶テレビなどのカラー表示ディスプレイ装置に使われている。」(段落【0004】)「また,カラーフィルタと組み合わせて,カラー表示を可能とした液晶表示装置においては,赤,緑,青の3色のドットを組み合わせてカラー表示を行っているが,このカラーフィルタは非常に高価で,パネルに張り合わせる作業も高い精度が要求される。」(段落【0005】)「さらに,白黒の液晶表示パネルと同等の解像度を出すためには,3倍のドット数が必要となるため,通常の液晶パネルでは,水平方向の駆動回路の数が3倍となってしまい,コストがかかるとともに,パネルと駆動回路の接続点数も3倍となるため,接続作業も困難になってしまう。」(段落【0006】)「従って,液晶パネルを使ってカラー表示をする方法として,カラーフィルタを使う方式は,コスト的には高価になる要素が多く,安価に製造することが困難であった。」(段落【0007】)ウ 発明の開示(ア) 発明が解決しようとする課題「そこで,カラーフィルタを使用しないカラー液晶表示装置として,例えば特開平1-179914号公報記載の様に,白黒液晶パネルと3色バックライトを組み合わせてカラー表示を行う方法が提案されており,カラーフィルタ方式に較べ,安価に高精細のカラー表示を実現出来る可能性があるが,従来の液晶駆動方法では,液晶を高速に駆動することが困難で実用化に至っていない。」(段落【0008】)「また,従来の液晶表示装置では,液晶の応答速度が遅いため,テレビなどの動画再生をする場合や,パソコンなどのマウスカーソルを高速で動かした場合などでは,ブラウン管を使用したディスプレイに較べ,性能的に劣っていた。」(段落【0009】)「本発明が解決しようとする課題は,駆動方法の変更により,従来から用いられているTN型やSTN型のネマティック液晶の応答速度を速め,前述の3色バックライトによるカラー化や,動画再生においてブラウン管を使用したディスプレイと同等以上の性能を得ることを可能とすることであり,即ち,応答速度が速いネマティック液晶の液晶パネルの駆動方法を提供するものである。」(段落【0010】)(イ) 課題を解決するための手段「本発明は,上記課題を解決するため,2つの電極に挟まれたマトリックス方式のネマティック液晶を2枚の偏光板の間に置いた液晶パネルの駆動方法において,1フレーム期間内で1つのドットを選択して,画像データに応じた電圧を前記ネマティック液晶に一定期間にわたって印加し,前記1フレーム期間内で前記1つのドットをその後に選択して,前記画像データに応じた電圧と異なる一定の電圧を一定期間にわたって印加し,これによって前記画像データに応じた電圧の印加によって変化した前記ネマティック液晶の透過率を前記1フレーム内で元に戻すことを特徴とする液晶パネルの駆動方法を提供する。」(甲3,段落【0011】)。
「通常のネマティック液晶の電気光学特性は図1の様になっており,図1における印加電圧は極性に関係なく,実効値が問題となる。」(段落【0012】)「近年STN液晶パネルでTFT液晶パネル並の画質を実現する駆動方法として,複数の走査線を同時に選択するアクティブ駆動法が提案されている。」(段落【0013】)「このアクティブ駆動方法は同時に複数の走査線を選択することにより,1フレーム期間中の走査線の選択回数を増やすことにより,コントラスト比と応答速度を改善しており,ネマティック液晶の光透過率が印加電圧の実効値により決まるという特性を使うという点においては従来の駆動方式と変わりはなかった。」(段落【0014】)「従来,ネマティック液晶の応答速度は数十ミリセカンドから数百ミリセカンドかかっており,3色バックライトによるカラー化を実現できる応答速度を得ることは困難だと思われていた。」(段落【0015】)「本発明人は,3色バックライトによるカラー化を実現できる応答速度を持つ液晶パネルを開発するために,ネマティック液晶の印加電圧波形と光透過率の動的な特性の測定を行ったところ,印加電圧の波形によっては,印加電圧が変化した時に,光透過率が高速に変化する状態が存在することがわかった。」(段落【0016】)「この光透過率が高速に変化する状態を,繰り返し発生させることにより,従来の駆動方法に較べて応答速度が遥かに速く,コントラスト比のよい特性を得ることが可能となった。」(段落【0017】)(ウ) 発明の効果「以上のように本発明においては,液晶パネルに画像を描きその画像が完全に消えるまでが,1フレーム期間中に行われるため,非常に高速な応答速度が得られ,動画再生に最適な方式である。」(段落【0018】)「さらに,この駆動方式をTFT方式の液晶パネルに応用することにより,TFT方式の液晶パネルの動作速度を改善することも可能である。」(段落【0019】)「従来のアクティブ駆動方法では駆動に必要な電圧の種類が多く,コントローラも複雑になるため,駆動回路が高価格になってしまうのに対して,本発明では,駆動に必要な電圧の種類が少なく,駆動タイミングも簡単であるため,従来の単純マトリックス駆動方式の駆動回路と同等のコストで実現できる。」(段落【0020】)「さらにまた,本発明は液晶パネルに画像を描きその画像が完全に消えるまでが,1フレーム期間中に行われる方式であるため,3色バックライトを使用したカラー表示方法に最適の方法であり,高性能でしかも低価格なカラー表示ディスプレイを実現できる。」(段落【0021】)(エ) 発明を実施するための最良の形態「しかしながら,ごく一般的なTN型の液晶材料を用い,ギャップを5〜6μmとそれほど薄くないパネルを用いても,図2の様に光透過率が変化しており,光透過率がコモン電圧の変化に応じて変化を開始し元にの光透過率に戻るまでに要する時間は,15〜20mSと非常に高速に動作している。」(段落【0029】)「ここで,図2の様に光透過率が高速に変化する特性がもっとも顕著に出るのは,Vcom0がVseg0より低く,Vcom1がVseg1より高い場合であり,すなわちコモン電極が選択されている期間は,コモン電極が選択されていない期間に対して,印加されている電圧の極性が反転している場合である。」(段落【0030】)「また,図2において,コモン電圧の選択周期を半分にし,1フレーム期間の中でセグメント電圧がVseg0の時に必ずコモン電極を選択するようにした場合でも,光透過率の変化の様子にはそれほど差は発生しない。」(段落【0031】)「ただし,図2に示した本発明の実施の形態においては,黒を表示する場合のセグメント電圧を1フレーム期間でVseg0に固定しているが,黒を表示する場合にはコモン電極が非選択の期間のセグメント電圧をVseg1にした方が黒はよくなるが,前述のように選択周期を半分にすると,セグメント電圧がVseg1の時にコモン電極が選択されるため白が表示されてしまう。」(段落【0032】)「図5は,本発明の実施の形態において,セグメント電圧の変化の周期のみを変更した場合の,光透過率の変化の様子を示しており,1フレーム期間毎にセグメント電圧を変化させた場合には,1フレーム期間内でセグメント電圧を変化させた場合に比べて光透過率の変化の速度がかなり遅くなっていることがわかる。」(段落【0033】)「従って,セグメント電圧を早い周期で変化させることにより,液晶の光透過率が高速に変化する様になることがわかる。」(段落【0034】)「本発明の実施の形態において,コントラスト比の高い表示を行うためには,コモン電極にパルスが印加され,液晶の光透過率が瞬間的に変化した後,光透過率が元の値に戻ってから,次のパルスを印加する方がよい。」(段落【0035】)「従って,本発明の実施の形態においては,フレーム周期を速くするとコントラスト比が低くなり,一方,フレーム周期を遅くすればフリッカーが発生するなど,不具合が発生してしまう。」(段落【0036】)「本発明の実施の形態において,非選択時のセグメント電圧の変化の周期が光透過率の変化の速度に大きく影響することは示したが,光透過率が元の値に戻る時間は,液晶材料の特性,特に液晶材料の粘性などにより大きく変化する。」(段落【0037】)「従って,光透過率が元の値に戻る時間の短い液晶材料を選択することにより,フリッカーの発生を押さえながら,コントラスト比の高い表示を行うことが可能となる。」(段落【0038】)「また,光透過率が元の値に戻る時間が液晶材料の粘性などに大きく影響を受けることから,液晶パネルの温度を上げることにより,液晶材料を変更しなくてもコントラスト比の高い表示を行うことも可能である。」(段落【0039】)「尚,本発明の実施例では単純マトリックス方式の液晶パネルへの応用例を示したが,単純マトリックス方式の液晶パネルを使用して,TFT方式の液晶パネルよりも遥かに高速な応答速度を実現できる他,コントラスト比も同等に実現でき,視野角も良好であり,TFT方式の液晶パネルと同等あるいはそれ以上の性能を実現できる。」(段落【0040】)「また,本発明は単純マトリックス方式の液晶パネルへの応用だけでなく,単純マトリックス方式の液晶パネルを使用して,TFT方式の液晶パネルよりも遥かに高速な応答速度を実現できる他,コントラスト比も同等に実現でき,視野角も良好であり,TFT方式の液晶パネルと同等あるいはそれ以上の性能を実現できる。」(段落【0041】)(3) 本願の【図1】及び【図2】(甲2)は,次のとおりである。
【図1】【図2】(4) 上記(1)〜(3)によれば,本願発明は,「2つの電極に挟まれたマトリックス方式のネマティック液晶を2枚の偏光板の間に置いた液晶パネルの駆動方法において,1フレーム期間内で1つのドットを選択して,画像データに応じた電圧を前記ネマティック液晶に一定期間にわたって印加し,前記1フレーム期間内で前記1つのドットをその後に選択して,前記画像データに応じた電圧と異なる一定の電圧を一定期間にわたって印加し,これによって前記画像データに応じた電圧の印加によって変化した前記ネマティック液晶の透過率を前記1フレーム内で元に戻すこと」ことによって,従来の駆動方法に較べて応答速度が速く,コントラスト比のよい液晶の駆動方法を実現するものであることが認められる。
3 引用発明の意義について(1) 引用例(甲1)には,次の記載がある。
ア 特許請求の範囲「1.少なくとも実質的に透過状態と少なくともほぼ非透過状態とに駆動可能な光変調用画素の行および列のアレイと,前記表示パネルを照明して表示出力を生じる手段と,駆動手段であってこれに供給される所定のフィールドおよびライン速度を有するビデオ信号に従って前記画素を駆動することができる当該駆動手段とを具えるマトリックス表示システムであって,前記駆動手段が前記画素の行を順次駆動でき,前記供給されたビデオ信号の表示フィールドの表示情報が,ビデオ信号のフィールド周期よりかなり短い表示情報アドレス期間中に前記表示パネル内に書き込まれ,順次の表示情報アドレス期間がある時間間隔だけ分離されているマトリックス表示システムにおいて,前記表示パネルの表示ィールド(判決注:「フィールド」の誤記)が見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離されるようにマトリックスシステムを動作できるようにしたことを特徴とする。」「16.少なくとも実質的に透過状態と少なくともほぼ非透過状態とに駆動可能な光変調用画素の行および列のアレイと,前記表示パネルを照明して表示出力を生じる手段と,駆動手段であってこれに供給される所定のフィールドおよびライン速度を有するビデオ信号に従って前記画素を駆動することができる当該駆動手段とを具えるマトリックス表示システムの動作方法であって,前記画素の行が順次駆動され,前記供給されたビデオ信号の表示フィールドの表示情報が,ビデオ信号のフィールド周期よりかなり短い表示情報アドレス期間中に前記表示パネル内に書き込まれ,順次の表示情報アドレス期間がある時間間隔だけ分離されるマトリックス表示システムの動作方法において,前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離されることを特徴とするマトリックス表示システムの動作方法。」「17.請求項16に記載の方法において,前記照明手段による前記表示パネルの照明を,前記時間間隔の少なくとも一部の間に表示出力が生成されるように制御し,前記アドレス期間の少なくとも一部の間に表示出力がほぼ生成されないように制御することを特徴とする方法。」「21.請求項16に記載の方法において,前記配列の画素を,前記順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において,ほぼ非透過表示状態に駆動することを特徴とする方法。」「24.請求項16から23のいずれか1項に記載の方法において,前記表示情報アドレス期間および時間間隔の持続時間が,各々,供給されたビデオ信号のフィールド周期に相当することを特徴とする方法。
「25.請求項24に記載の方法において,前記アドレス期間および時間間隔の持続時間が,各々,供給されたビデオ信号のフィールド期間のほぼ半分てあることを特徴とする方法。」イ 発明の詳細な説明(ア)「本発明は,マトリックス表示システム,特に,例えばTV画像を表示するビデオ表示システムと,このようなシステムの動作方法に関するものである。
本発明は,光変調用画素の行および列アレイを有する表示パネルと,前記表示パネルを照明する手段と,供給されたビデオ信号に従って前記画素を駆動する駆動手段とを具え,行を個々のフィールド期間内に順次に繰り返して走査することによって,前記画素が一行を一度に駆動される,例えば液晶表示システムであるマトリックス表示システムに関係する。
液晶素子のような光変化画素を有する表示パネルを具え,TV画像を表示するビデオ表示システムは,よく知られている。大画面表示パネルは一般に,各画素に結合して表示品質を改善する,例えばTFTまたは薄膜ダイオードであるアクティブスイッチング装置を含む。動作時に,表示パネルを光源によって絶えず照明し,画素が供給されたビデオ情報に従って光を変調させ,表示出力を形成する。画素は,行および列アドレス導線に接続され,入力ビデオ信号を標本化して得たビデオ情報データ信号が列導線上の各画素に伝送されるように,選択信号により列導線を走査することによって,一行を一度に順次駆動される。あるフィールド周期内にすべての行をアドレスした後,この動作を,順次のフィールド周期内で各行をアドレスして繰り返す。これらの既知のシステムにおいて,走査の,従ってフィールドの周期は,入力ビデオ信号と,供給されたビデオ信号の速度に相当する表示パネルのフィールド速度との信号のタイミングによって決定される。例えば,PAL TVの場合,各々の画素の行は,64マイクロ秒のライン期間内か,20ミリ秒毎に1回生じフィールド期間に等しい順次のライン期間の時間間隔内にアドレスされる。特にアクティブマトリックス表示装置の場合,画素は,電荷が画素上に格納されるように効果的に分離されているので,画素によって形成された表示効果は,画素がその後のフィールド周期内で次にアドレスされるまで十分に維持される。
例えばTFTまたはMIMとツイストネマチック液晶材料とを使用するアクティブマトリックスアドレスの使用は,例えばグレイスケール,コントラストおよび輝度といった,ある程度満足すべきであるビデオ表示に要求される条件の多くを実現する。見た目を満足させるために,表示システムは,TVやコンピュータが生成した画像に見られる素早く動く像に関して良好な表示品質を与えられるようにすべきである。この点において,動いている像を表示している場合に生じるボケまたはスメアリング現象に関しては特に改善が必要である。この現象は,暗い背景に対して動いている明るい物に関して特に目立つ傾向がある。
駆動レベルの変化後に画素の透過率が安定するまでに要する時間は,重要であるはずであり,典型的な表示パネルにおいて,パネルが供給されたビデオ(PAL)信号のフィールド速度に等しい50Hzのフィールド速度において駆動され,駆動レベルを例えば90%の透過率から10%の透過率に変化させた場合,画素がその時の透過率に安定するために数フィールドを占めるであろうことが分かっている。この点において改善したアクティブマトリックス液晶ビデオ表示装置の駆動方法が,欧州特許出願公開明細書第0487140号に記述されている。この方法において,画素は,供給されたビデオ信号のフィールド速度より速いフィールド速度において駆動される。例えば,供給されたビデオ信号が,フィールド速度が各々50Hzおよび60HzのPALまたはNTSCTV放送信号からなる場合,表示パネルのフィールド速度を100Hzおよび120Hzに各々増すことができる。これは,駆動(ビデオ)レベルの変化後に画素の透過率が安定するまでに要する時間を明らかに短縮させることが分かっている。
この方法は,スミアリング現象に関しては明らかな改善をもたらすが,シャープネスの不足またはボケの形をとるある程度の好ましくない視覚現象が,特に動いている物のエッジにおいて依然として生じる恐れがあることが分かっている。
本発明の目的は,動いている像を表示している場合の表示品質を改善したマトリックス表示システムと,動いている像を表示している場合の好ましくない視覚現象の問題を軽減するのに役に立つマトリックス表示システムの動作方法とを提供することである。」(6頁3行〜7頁下2行)(イ)「本発明の一実施例によれば,少なくとも実質的に透過状態と少なくともほぼ非透過状態とに駆動可能な光変調用画素の行および列のアレイと,前記表示パネルを照明して表示出力を生じる手段と,駆動手段であってこれに供給される所定のフィールドおよびライン速度を有するビデオ信号に従って前記画素を駆動することができる当該駆動手段とを具えるマトリックス表示システムであって,前記駆動手段が前記画素の行を順次駆動でき,前記供給されたビデオ信号の表示フィールドの表示情報が,ビデオ信号のフィールド周期よりかなり短い表示情報アドレス期間中に前記表示パネル内に書き込まれ,順次の表示情報アドレス期間がある時間間隔だけ分離されているマトリックス表示システムにおいて,前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離されるようにマトリックスシステムを動作できるようにしたことを特徴とするマトリックス表示システムが与えられる。
本発明の他の実施例によれば,少なくとも実質的に透過状態と少なくともほぼ非透過状態とに駆動可能な光変調用画素の行および列のアレイと,前記表示パネルを照明して表示出力を生じる手段と,駆動手段であってこれに供給される所定のフィールドおよびライン速度を有するビデオ信号に従って前記画素を駆動することができる当該駆動手段とを具えるマトリックス表示システムの動作方法であって,前記画素の行が順次駆動され,前記供給されたビデオ信号の表示フィールドの表示情報が,ビデオ信号のフィールド周期よりかなり短い表示情報アドレス期間中に前記表示パネル内に書き込まれ,順次の表示情報アドレス期間がある時間間隔だけ分離されるマトリックス表示システムの動作方法において,前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離されることを特徴とするマトリックス表示システムの動作方法が与えられる。
本発明によって,動いている像を表示している場合に知覚されるボケまたは細部の欠落の量は,大幅に減少する。ボケ現象は,画素の物理的な応答特性に加えて,ある程度,精神的な視覚の規準のせいであることが分かっている。本発明に従って動作される表示システムによって,動いている像の知覚される解像度を改善する「暗い」期間が,パネルの順次の表示フィールドの見る人への表示の間に挿入される。これは,明らかな動きを知覚する上で,ある精神的な視覚規準が,より満足させられるからである。明らかな動きは,多数のパラメータがある範囲内にある場合にのみ知覚される。特に,動いている像の順次の表示間の暗い期間によって生じる中断は,大変重要である。表示フィールドが供給されたビデオ信号のフィールド周期に等しい持続時間であるような従来の駆動設計において,中断期間は存在しなかった。実際には表示画像は,フィールド周期の間保持されており,これは,動いている像が含まれる場合,人間の視覚システムによってボケとして解釈される。本発明によって表示画像に与えられる方法は,より現実の状況に近く,CRTの状況に類似している。CRTにおいて,画素は,フィールド期間毎に一回アドレスされ,短く高い強度のパルス列として光を放射する。これらのパルス放射の持続時間は,表示フィールド期間に比べてかなり短いので,順次の放射間に明らかな休止期間が存在する。この要因は,眼によって知覚すべき動きを,CRTディスプレイ画像において大変効果的にする。画素の動作のサンプル・ホールド性質のために従来のように駆動される液晶表示パネルの時間的な動作の相違のために,眼が僅かに異なった静止像の連続を動いている場面として知覚することができるという性質に影響をおよぼす。本発明によって,動きの知覚は,表示画像内の動いている物のエッジのボケが明らかに減少することによって,かなり改善される。」(7頁下1行〜9頁17行)(ウ)「本発明によるマトリックス表示システムの第2の好適な実施例において,駆動回路は,順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において,画素の配列を,ほぼ非透過表示状態に駆動することができる。
本発明による方法の第2の好適な実施例において,順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において,画素の配列を,ほぼ非透過表示状態に駆動する。
この第2の実施例において,順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において画素をほぼ非透過,すなわち黒に駆動することによって,順次の表示フィールドの見る人への表示の間に上述した「暗い」期間が挿入され,知覚される動いている物の解像度が改善される。
表示パネルを,動作中に絶えず照明してもよい。しかしながら好適には,照明手段を前記時間間隔の間,オフにするか,少なくとも比較的低い光出力レベルに切り換える。すると前記暗い期間の暗さは強調され,コントラストが改善される。表示パネルを,例え,照明手段を,前記時間間隔の後の方の一部と次のアドレス期間の最初の部分とを具える期間に対して照明手段をオフまたは少なくとも比較的低いレベルに切り換え,従ってパネルの照明をアドレス期間の後の方の一部と前記時間間隔の最初の部分とに限定し,パネルからの順次の表示間の有効な休止期間をさらに増加させるのが好適であるとしても,アドレス期間の持続時間の間照明してもよい。パネルの断続的な照明は,パネルの駆動に同期して照明に供給される光源をオンおよびオフに点滅させることによって行うことができる。したがって,表示システムは,例えば,光源からの光が暗い期間の間表示する目的に使用されないような,パネルが常に照明されている状況と違って,光源からの光が必要なときのみ表示出力を形成するのに使用されるような,エネルギーを有効に使用する方法において動作する。これは,光源が出力消費の点で最も重要な構成要素である液晶表示システムにおいて,特に重要な利点である。
前記時間間隔の間,好適には画素の配列の行を,画素を表示情報によってアドレスしたのと同様な方法で行毎に,または行の組毎に,ほぼ非透過状態に個々に順次駆動する。前記において,より便利にするために,同じ走査駆動回路を,アドレス期間および時間間隔の双方において,画素の駆動に使用できると考えた。画素の第1行の駆動を,時間間隔の開始にほぼ一致させてもよいし,代わりに,期間の開始後の予め定めた遅延時間後に始めてもよい。後者の場合,照明手段のオフまたは低レベル状態への切り換えを,遅延時間の終了にほぼ一致させてもよい。
この遅延時間は,パネルが照明され,行が次に「黒」に駆動される前に表示情報によって表示出力が与えられている間の,画素の全ての行が必要な表示情報によってアドレスされた後の短い休止期間から成る。
画素を非透過状態に駆動する時間間隔内に,代わりの方法,例えば,配列中の画素をほぼ同時にこの状態に設定する方法を使用することも考えられる。しかしながらこのような方法は,駆動回路を大幅に変更する必要がある。
これらの好適な実施例の双方において,好適にはアドレス期間とそれに続く時間間隔とを合わせた期間を,供給されたビデオ信号のフィールド周期にほぼ相当させる。アドレス期間および時間間隔を,便利で簡単にするために,各々ビデオ信号のフィールド周期のほぼ半分に相当する持続時間にしてもよい。しかしながら好適には,2つの連続するアドレス期間およびその2つの時間間隔を,ビデオ信号のフィールド周期の持続時間に一致させれば,実際には同じ表示フィールドが1ビデオ信号フィールド周期内で表示パネルによって連続して2回表示される。代わりに,アドレス期間および時間間隔の組合せを,ビデオ信号フィールド周期より長くすることもできる。例えば,アドレス期間および時間間隔の組合せが2つのフィールド期間を占めるように時間間隔を選び,表示パネルがビデオ信号の表示フィールドを一つ置きに表示し,より簡単な駆動回路を使用できるようにすることができる。」(10頁下2行〜12頁18行)(エ)「表示システムの第1および第2実施例は,それらの構成要素の多くが同様で,その動作が多くの類似点を共有しており,多くの点で類似している。したがって,次のような一般的な記述を,双方の実施例に適用することができる。
図1および2を参照して,本表示システムは,ビデオ,例えばTVや画像を表示しようとするものであり,各行にn個の画素が水平に配置されたm行から構成される画素の行および列の配列を有するアクティブマトリックスアドレス液晶表示パネル10を各々具える。
表示パネル10は,各画素12が開閉装置として動作するTFT11に関連しており,且つ,行および列アドレス導線14および16の組の交点に各々隣接して配置されている,従来型のTFT型パネルを具える。同じ行の画素に関連する全てのTFT11のゲート端子を,共通列導線14(判決注:「共通行導線14」の誤記)に接続し,この導線には動作時に選択(ゲート)信号が供給される。さらに,同じ列の全ての画素に関連するソース端子を共通列導線16に接続し,データ(ビデオ情報)信号を供給する。TFTのドレイン端子を,画素の一部を形成し,この画素を規定する各々の透明画素電極18に各々接続する。行および列導線14および16と,TFT11および電極18とを,例えばガラスである透明プレート上に全て支える。このプレートと平行に,且つ分離して,パネルの全ての画素に共通の電極を構成する透明導電層がその上に形成された他の透明プレートがある。ツイストネマチック液晶材料をこの2枚のプレートの間に配置し,この2枚のプレートの周囲を適切に密封する。従来の方法においては,向かい合ったプレートに偏光層を設ける。
パネル10を,開閉装置であるダイオードまたはMIMのような2端子非線形装置を使用し,行および列アドレス導線の組が各々のプレート上に設けられた既知の形式のものとしてもよい。
表示パネル10を,一方の側に配置した小型低圧蛍光灯を具える光源19によって照明し,光源からパネルに入射する光を,画素12の透過特性によって適切に変化させ,パネルの他方の側に可視表示出力を生成する。液晶材料が,画素を通過した光を,その両端間に印加された電圧に従って変調させると共に,各画素は,パネルを通過した光を,その各々の画素の両端間に印加された電圧に従って変化させることができる。
画素は,印加された電圧のレベルに従って動作し,ほとんど透過しない,すなわち黒から,ほぼ完全に透過する,すなわち白のレベルまで変動する,複数の透過レベルを形成する。標準的なやり方に従って,行導線14を選択信号によって順次に走査してTFTの各行を順次にターンオンさせ,ゲート信号と同期して画素の各行に対する列導線にデータ信号を適切に供給することにより,パネルを時間軸で行毎に駆動し,完全な表示画像を構成する。TVディスプレイの場合,画素の各行にTVラインの画像情報信号を供給する。1行を一度にアドレスすると,アドレスされた行の全てのTFT11は,選択信号の持続時間によって決定される行アドレス期間に対してスイッチオンされ,その間,キャパシタが列導線16上のビデオ情報信号の電圧レベルに従って充電される。その後,選択信号の終了によって,この行のTFTはターンオフし,それによって画素は導線16から絶縁され,画素に供給された電荷は,画素が次のフィールド期間において再びアドレスされるまで蓄積されるようにする。
同期信号が同期セパレータ26から供給されるタイミング兼制御回路21からの規則正しいタイミングパルスによって制御されるディジタルシフトレジスタを具える行駆動回路20によって,行導線14には同じ選択信号が順次に供給される。これらの同期信号は,入力端子25に供給される画像およびタイミング情報を含むビデオ,例えばTV信号から得られる。ビデオデータ(画像情報)信号を,1個またはそれ以上のシフトレジスタおよびサンプルホールド回路を具える列駆動回路22から,列導線16に供給する。回路22に入力端子25に供給されたビデオ信号から得られるビデオデータ信号を,ビデオ処理回路24から供給する。同期セパレータ26で入力ビデオ信号のタイミング情報から取り出したタイミング信号は,行の走査と同期してタイミング兼制御回路21によって,回路22に供給され,パネル10のアドレス時に適切な直並列変換を与える。回路20,21,22,24および26は,一般的な従来の形式のものであるので,詳細には記述しない。簡単にするために列駆動回路22の極めて基本的な形を図1および2に示すが,当業者には明らかなように,他の形式の回路を使用することができることに注意されたい。
LC材料の電気機械的な劣化を避けるために,既知の習慣に従って画素に供給される駆動信号の極性を周期的に反転する。しかし,簡単にするためにこれを達成する手段を図1および2に示していない。この極性反転を,表示パネルのフィールドが完結した後毎に行うことができる。
選択信号を行導線にTVラインと同期して順次供給し,各選択信号がTVライン周期T1と等しい,またはそれより短い周期を有する,例えば64マイクロ秒のTVライン周期を有する半解像度PAL標準TV表示の場合,各行導線が20ミリ秒の間隔で選択信号を供給されるようにする従来の駆動方法とは異なり,表示パネル10を,入力ビデオ,TV信号のライン速度より速いライン速度で駆動する。欧州特許出願公開明細書第0487140号において,例えば供給されたTV信号の2倍速いフィールド速度で表示パネルを駆動する,アクティブマトリックスLCディスプレイ装置の駆動方法が記述されている。この方法において,表示パネルの画素を,1TV信号フィールド周期に等しい周期内で同じ表示情報によって2回ロードする。これを達成するために,ビデオ信号をフィールド記憶装置に供給し,供給されたTV信号のライン速度の2倍の速度でパネルを走査して,その内容を1標準ビデオ周期の間に2回連続して表示パネルに読み出す。これは,20ミリ秒のフィールド周期と50Hzのフィールド速度とを有するPAL TV表示信号の場合,表示パネルのフィールド周期が10ミリ秒に短縮され,フィールド速度が100Hzに変換されることを意味する。図1および2に示すシステムの実施例の表示パネル10の画素は,ある程度幾つかの類似点を持った方法で駆動される。再び図1および2を参照して,入力端子25からビデオ信号を,アナログディジタル変換器27および切り換えスイッチ28を経て,TVフィールド全体に関するディジタル化されたビデオ信号を保持する2個のディジタルフィールド記憶装置30および31の一方に供給する。切り換えスイッチ28を回路21によって,TVフィールド信号が記憶装置30および31に交互に記憶されるように動作する。一方の記憶装置,例えば記憶装置30がロードされている間,他方の記憶装置31の内容を読み出し,同様に回路21によって制御される切り換えスイッチ32と,ディジタルアナログ変換器33とを経て,ビデオ処理回路24に供給する。一方の記憶装置内に格納された信号を,ライン毎に回路24に読み出し,各ラインの読み出しは,TVライン周期の半分を要する。行駆動回路20は,TVフィールドに関するデータ信号の供給に同期した従来の速度の2倍の速度において行導線を走査する。したがって,1TVフィールドに関するデータは,TV信号フィールド周期の半分の周期内で表示パネルにロードされる。各行の画素がロードされた後,非選択信号を個々の行導線に供給し,この行のTFTをオフに保ち,したがって記憶された書き込み表示情報を有する画素を分離する。ここまでは,図1および2のシステムの実施例の構成および動作方法は,大体において等しい。しかしながら,これらの動作は以後異なるので,これらの2つの実施例の動作を分けて記述する。」(13頁9行〜16頁15行)(オ)「ここで図2のシステムの実施例を考えると,画素を,TVフィールド周期の他の半分内に同じ表示情報によって再びアドレスする欧州特許出願公開明細書第0487140号に記述されている方法とは異なり,上述したようなTV信号フィールド周期の半分から成る表示情報アドレス期間内で1TVフィールドに関するデータを表示パネル10に書き込むのに続いて,画素の配列を,TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内に再びアドレスしてほぼ非透過(黒い)状態に駆動する。これを達成するために,TVフィールド期間の後半に等しいこの期間の間に,間隔の開始とほぼ一致する第1の行導線の選択信号によって,選択信号を行駆動回路20によって各行導線に順番に再び供給する。この期間が続いている間,画素をほぼ非透過状態に駆動するように選択される予め定めた基準電圧V を列導線16の各々に印加する。基B準電圧を,列駆動回路22の出力端子と列導線の組との間に接続され,回路21によって供給される切り換え信号Sの制御のもとに,列導線を行駆動回路(判決注:「列駆動回路」の誤記)の出力と基準電圧との間で切り換える切り換え回路35によって印加する。行導線を,あらかじめ,画素の行が時間間隔の終了時に最終行が完了するまで順番にほぼ非透過状態に設定されるように,選択信号によって同じ速度において走査する。したがって1TVフィールド周期において,2つの表示情報アドレス期間,すなわち,画素を液晶表示状態に駆動する表示情報アドレス期間と,それに続く,画素をほぼ非透過状態に駆動する時間間隔とが存在する。
TVフィールド期間の終わりにおいて,再びTV信号のフィールド速度の2倍の速度において,通常の2倍の速度における行導線の走査に同期して次のTVフィールドを第1の記憶装置にロードしている間,次のTVフィールドに関するデータ信号が他の記憶装置から回路24に読み出されるように,切り換えスイッチ28および32を動作する。この次のフィールドを表示パネル内にロードした後,以前のようにTVフィールド周期の残りの後半内で,ほぼ非透過表示状態に再び駆動する。この動作方法を,順次のTVフィールドに対して繰り返す。
したがって,表示パネルの動作は,各々がTV信号フィールド周期のほぼ半分,例えば10msに相当する連続したほぼ等しい期間を必要とし,一つ置きの期間は,画素が各々のTVフィールドに関する表示情報によってロードされる間の第1の表示パネルフィールド期間を構成し,それらの間の時間間隔は,配列の画素を黒い状態に駆動する間の第2の表示パネルフィールド期間を構成する。これを図4に図式的に示し,ここでここでTは時間を表し,F(A)からF(D)は供給されたTV信号VSの4つの連続するフィールド期間を示す。表示パネルの動作期間の相対的なタイミングDPは,f(A)からf(C)が第1の表示パネルフィールド(表示情報アドレス)期間を示し,期間f′がそれらの間の第2の表示パネルアドレス期間を示す。
実施例において,光源19による表示パネル10の照明を,パネルが予め定めた期間において照明されないようなパネルの動作に合わせて,選択的に制御する。さらに特に,照明手段を,期間(f′)の後の部分と,続く表示情報アドレス期間(例えばf(B))との間オフにする。したがって,パネルは,予め定めた第1の表示情報アドレス期間,例えばf(A)の後の部分と,次の期間の始めの部分の間照明される。
パネルの照明は,その時の画素の表示状態の存在に依存して目に見える表示出力を生成する。この選択的な照明を,Iが期間中の照明強度を示し,Lが照明期間を示す図4にも示したように,期間f′およびf(A),f(B),その他に同期した定期的な間隔において照明手段の光源をオンとオフとで点滅させることによって行う。各期間Lの第1の部分に関して,パネルの下部の画素は表示情報によってアドレスされており,一方期間Lの後の部分の間,パネルの上部の画素は黒い状態に設定されている。期間f′の始めの部分の間の照明は,より下の行の画素が期間f(A),f(B),その他の終わりごろに表示状態に設定されるのを考慮した動作を必要とする。図2に関して,光源19の動作を,ユニット21から適切なタイミング信号を受けるスイッチング回路23によって制御する。
したがって順次の表示出力は,一つ置きに暗いすなわち休止期間を見る人に表示し,これらの期間の持続時間は,ほぼ同一で,パネル照明の順次の期間にほぼ相当する。したがって得られる表示出力は,CRTディスプレイによって見る人に提供される種類の刺激に類似する。」(18頁7行〜20頁4行)(カ)「ここで図1および図2の双方の表示システムの実施例において,表示情報を与える方法と,表示パネルによって生成された動いている像の見る人による認識とに理由を与える。運動は,時間に関する空間上の位置の変化であり,通常の世界においては,時間は連続である。例えばLCディスプレイやCRTのような,動いている像のデータを伝達するのに有効な種々の表示技術において,ある形式の量子化を画像伝送処理において行う。動いている像の時間の次元は量子化されているので,連続する運動は存在せず,代わりに,種々の時点における動いている物の空間上の位置を与える像の連続が得られる。この種の運動,いわゆる見かけの運動は,観察者によって,あるぎこちなさを条件として,真の運動と知覚されうる。時間内に変化した順次の像の表示によって生じる種々の形式の見かけの運動のうち,いわゆるベータ運動(Beta movement)すなわちみかけの空間的運動が,表示像中で知覚されるボケに関する最も適切なものである。特に順次の表示間の休止期間の持続時間が,運動を知覚する上で重要なパラメータであることを確かめた。
CRTディスプレイにおいて,電子ビームを走査することによる励起に応答する画素からの光の放射の持続時間は,PAL表示に関して,一般に2ミリ秒より短く,励起の周波数は50Hz,すなわち20ミリ秒毎である。したがって,明確な休止期間が順次の刺激の間に存在し,この理由のため,動きは大変効果的に知覚される。対照的に,従来のように駆動されるアクティブマトリックスアドレスLCディスプレイパネルの画素は,画像情報を,完全な(フィールド)周期の間,次にアドレスされるまで保持し,表示する。したがって,画像情報の順次の表示の間に,休止期間がほとんど存在しない。この違いは,CRTディスプレイに比較して従来のLCディスプレイに,速度に依存するボケが残る原因であると考えられる。画素が再アドレスされるときに,動いている物の空間上の位置における突然の変化が生じる。見る人の目は,動いている物の新たな空間上の位置を提示される一方,古い位置に焦点が合ったままである。次に見る人の目は新たな位置に移動し,これが生じている間,物はその間ずっと表示されている。これは,目が動きを追っている間,網膜上の像の動きになる。他方では,CRTディスプレイにおいて,目は順次の提示の間の休止期間内に,物の新たな予想される位置に移動することができ,目の刺激は休止期間の間には存在しない。実際には,これは,点滅して動いている像を網膜の同じ位置上に受けるであろうということを意味する。表示特性の違いを,同じ動いている物を見た場合の,現実の世界の状況F(C)と比較した,CRTと従来の方法で駆動されるアクティブマトリックスLCディスプレイパネルとの時間に対する動作を各々示すF(A)およびF(B)において図式的に説明する。これらの図において,TおよびPは,時間および位置を表し,FおよびMは各々,フィールド周期(PAL表示に関して20ミリ秒)および,あるフィールドから次のフィールドへの移動である。
図5(A)に関して,CRTは見る人に,ここでは時間および位置において分離した動いている物を表す点によって示される離散した光出力を提示する。従来の方法で駆動されるアクティブマトリックス表示を示す図5(B)において,光出力は,実線で示したようにフィールド周期の間保たれる。各フィールドの終わりにおいて,出力は,新たな位置にすぐに移動する。
図5(D)は,上述した方法において駆動される図1および2の表示パネル10の出力の時間的な動作を説明する。図5(B)と比較して,動いている物を示す表示出力は,半分の時間のみ保たれる,すなわちtがF/2以下であり,順次の表示出力間に期間t が存在し,t はF1 2 2/2以上であることが分かる。したがって,この出力は,従来のように駆動される表示パネルの出力より,図5(C)の現実の世界の場合により似ており,そこからあまり逸脱しておらず,CRTディスプレイから得られる出力に近似している。その結果,動いている物を見ている場合に知覚されるボケは,従来のように駆動されるアクティブマトリックスLCディスプレイパネルにおいて見られるものに比較して,明らかに減少する。」(20頁5行〜21頁下4行)(キ)「図2の表示システムの実施例に関して,さらに,光源を点灯してパネルを照明する時間長を変化させてもよい。図4に示す実施例において,照明点灯Lは,期間f(A),f(b),その他のほぼ1/3と,期間f′のほぼ1/4とを使用する。点灯の間隔を,例えより短い間隔の照明によってCRTディスプレイの動作により近くなるとしても,期間f(A),f(b),その他のできるかぎり全てと,期間f′もことによるとより多く使用するように増加することができる。点灯の間隔は,表示パネルからの合計の光出力を決定し,したがって好適には,用いられる光源の輝度を考慮して選択し,この点に関して表示品質を最適化する。反対に,ランプの輝度を,点灯の間隔を考慮して選択してもよい。
常にパネルの照明をある期間に限定する必要はない。表示情報アドレス期間の間の時間間隔中に画素を黒い状態に駆動することは,必要な休止期間をもたらし,それだけで十分である。この場合,光源を,パネルを連続して照明するように用意することができる。
表示パネルの第1および第2アドレス期間(図4におけるfおよびf′の各々)の相対的な持続時間も,ある程度変化させることができる。上述したように,これらの期間の各々は,TV信号のフィールド周期(F)のほぼ半分に相当する。 しかしながら,パネルアドレス期間fおよびf′を,例え複雑な駆動になるとしても,例えばおのおのがTVフィールド周期の1/3および2/3,またはその逆となるように異ならせることができる。
特に本実施例において,画素の行を,時間間隔内に,時間間隔の開始および終了の各々によって,第1および最終行をほぼ同時に設定することによって行を交互に走査することによって非透過状態に設定する。しかしながら,画素をこの状態に駆動する他の方法を使用することもできる。例えば,行を,連続した行の組を順番に,またはできるかぎりほぼ全て同時に設定することができる。しかしながら,これらの後者の方法は,行駆動回路20を変更する必要がある。
さらに,画素の非透過状態への駆動は,間隔の開始時に始める必要はない。代わりに,図4に示すようなより短い予め定めた遅延時間を,画素をこの必要な状態に設定する前に,時間間隔の開始時に挿入してもよい。この遅延時間は,パネルが照明されている間の期間f(A),f(b),その他における,全ての画素が表示状態に設定された後に続く休止期間を構成する。この遅延時間dの終了時は,図4中に破線で示されるように,照明期間の終了時と一致させて選んでもよい。画素をこの間隔の残りの部分内でこの状態にするには,より速い走査速度を必要とする。これは行駆動回路をより高いクロック速度によって動作することによって達成することができる。」(22頁下6行〜23頁下2行)ウ 【図4】は,次のとおりである。
(2)上記(1)によれば,引用例(甲1)には,審決が認定するとおり,次の発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
「少なくとも実質的に透過状態と少なくともほぼ非透過状態とに駆動可能な画素の行および列の配列を有するアクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルと,前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルの一方の側に配置されて前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルを照明することにより前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルの他方の側に可視表示出力を生成するための光源と,駆動手段であってこれに供給される所定のフィールドおよびライン速度を有するTV信号に従って前記画素を駆動することができる当該駆動手段とを具えるマトリックス表示システムの動作方法において,前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルは,時間軸で行毎に駆動されて完全な表示画像を構成するものであり,1行が一度にアドレスされると,アドレスされた行の全ての画素が,TV信号の表示フィールドの表示情報の電圧レベルに従って充電され,画素に供給された電荷が,画素が再びアドレスされるまで蓄積されるようにするものであって,画素の一部を形成する各々の透明画素電極と行および列アドレス導線とを支える透明プレートと,この透明プレートと平行に,且つ分離して,パネルの全ての画素に共通の電極を構成する透明導電層がその上に形成された他の透明プレートと,この2枚の透明プレートの間に配置されたツイストネマティック液晶材料と,向かい合った透明プレートに設けられた偏光層とを備えており,前記ツイストネマティック液晶材料が,画素を通過した光を,その両端間に印加された電圧に従って変調させることにより,各画素は,パネルを通過した光を,その各々の画素の両端間に印加された電圧に従って変化させ,ほとんど透過しない,すなわち黒から,ほぼ完全に透過する,すなわち白のレベルまで変動する,複数の透過レベルを形成し,順次の表示情報アドレス期間がある時間間隔だけ分離されており,前記配列の画素が,前記順次の表示情報アドレス期間の間の時間間隔において,ほぼ非透過表示状態に駆動され,前記供給されたTV信号の表示フィールドの表示情報が,TV信号フィールド周期の半分から成る表示情報アドレス期間内で前記アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルに書き込まれるのに続いて,選択信号が行駆動回路によって各行アドレス導線に順番に再び供給されることにより,TV信号フィールド周期の残りの半分から成る期間内に前記画素の配列が再びアドレスされ,この期間が続いている間,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように選択される予め定めた基準電圧V が列アドレス導線の各々にB印加され,表示情報アドレス期間の間の時間間隔中に画素を黒い状態に駆動することは,必要な休止期間をもたらし,それだけで十分であって,前記光源が,パネルを連続して照明するように用意されており,前記表示パネルの表示フィールドが見る人に与えられる順次の期間が,ほぼ表示出力が生じない期間だけ分離されるマトリックス表示システムの動作方法。」4 取消事由について(1) 前記2(2)ウ(イ)及び(3)のとおり,本願明細書(甲2,【0012】)及び本願の【図1】(甲2)には,ネマティック液晶において,電圧を液晶(画素)に印加したとき,電圧を印加した後,液晶の光透過率が当該印加電圧に応じた透過率になるまでには一定の時間を要することが記載されている。また,前記3(1)イ(ア)のとおり,引用例(甲1,7頁8行〜13行)には,「駆動レベルの変化後に画素の透過率が安定するまでに要する時間は,重要であるはずであり,典型的な表示パネルにおいて,パネルが供給されたビデオ(PAL)信号のフィールド速度に等しい50Hzのフィールド速度において駆動され,駆動レベルを例えば90%の透過率から10%の透過率に変化させた場合,画素がその時の透過率に安定するために数フィールドを占めるであろうことが分かっている。」と記載されている。このように,ネマティック液晶において,画像データに応じた電圧を液晶に印加したとき,電圧を印加した後,液晶の光透過率が当該印加電圧に応じた透過率になるまでには一定の時間を要し,印加電圧の変化に対する透過率の変化には遅れ(応答遅れ)があることが認められる。
引用発明においては,前記3(2)のとおり,TV信号の表示フィールドの表示情報が,TV信号フィールド周期の半分から成る表示情報アドレス期間内でアクティブマトリックスアドレス液晶表示パネルに書き込まれるのに続いて,1TV信号フィールド周期の残りの半分からなる期間が続いている間,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように基準電圧V が印加Bされることになるのであるが,当該画素の透過率が画像データに応じた電圧の印加開始タイミングにおける透過率(元の透過率)に戻るかどうかは,上記の「応答遅れ」を考慮しなければならず,「応答遅れ」によって元に戻らないこともあり得るということができる。
しかし,基準電圧V が印加されることによって画素の透過率が画像デーBタに応じた電圧の印加開始タイミングにおける透過率(元の透過率)に戻れば,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されることになるのであり,上記の「応答遅れ」を考慮して,そのように設定することに格別の困難があるとも認められない。
そうすると,引用発明に接した当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,「画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されるように基準電圧V が印加される」ことから,基準電圧V が印加されるB Bことによって画素の透過率が画像データに応じた電圧の印加開始タイミングにおける透過率(元の透過率)に戻るとの技術内容をも含まれているものと認識するのが自然であり,引用発明にそのような技術内容が含まれていると認めるのが相当である。
(2)原告らは,前記3(1)イ(キ)のとおり,引用例(甲1)に,?@「表示パネルの第1および第2アドレス期間(図4におけるfおよびf´の各々)の相対的な持続時間も,ある程度変化させることができる。…例えばおのおのがTVフィールド周期の1/3及び2/3,またはその逆となるように異ならせることができる。」(23頁8行〜13行),?A「さらに,画素の非透過状態への駆動は,間隔の開始時に始める必要はない。代わりに,図4に示すような短い予め定めた遅延時間を,画素をこの必要な状態に設定する前に,時間間隔の開始時に挿入してもよい。…この遅延時間dの終了時は,図4中に破線で示されるように,照明期間の終了時と一致させて選んでもよい。画素をこの間隔の残りの部分内でこの状態にするには,より速い走査速度を必要とする。」(23頁20行〜27行)と記載されていることから,引用例には,基準電圧V を印加することで,1TV信号フィールド周期内で,画B像データに応じた電圧の印加開始タイミング時の透過率(元の透過率)に戻ることについては記載されていないと主張する。
しかし,上記?@のとおり,引用例には,基準電圧V を印加する期間を短Bくすることも,長くすることもできることが記載されている。そうすると,引用発明においては,上記の「応答遅れ」を考慮して,基準電圧V が印加Bされることによって画素の透過率が画像データに応じた電圧の印加開始タイミングにおける透過率(元の透過率)に戻るように基準電圧V を印加するB期間を設定することができるから,上記?@の記載は,上記(1)の認定を裏付けるものであるということができ,これに反するものということはできない。
また,上記?Aにおける「画素をこの間隔の残りの部分内でこの状態にするには,より速い走査速度を必要とする。」は,この後に,前記3(1)イ(キ)のとおり,「これは行駆動回路をより高いクロック速度によって動作することによって達成することができる。」と記載されていることからすると,各行アドレス導線に順番に選択信号を供給する行駆動回路による走査速度を,より高いクロック速度で行駆動回路を動作させることによって速くすることを意味すると認められる。もっとも,この「より速い走査速度を必要とする」場合には,遅延時間が設定されているため,その分だけ基準電圧V をB印加する期間が短くなっているが,上記のとおり,基準電圧V が印加されBることによって画素の透過率が画像データに応じた電圧の印加開始タイミングにおける透過率(元の透過率)に戻るように基準電圧V を印加する期間Bを設定することができるから,上記?Aの記載も上記(1)の認定を左右するものではない。
(3)また,原告らは,引用発明は,「CRTディスプレイから得られる出力に近似するようにして,見る人に知覚される動いている物の解像度が改善されるようにした」ものであるところ,「CRTディスプレイから得られる出力に近似するようにして,動いている物の解像度が改善される」ためには,暗い期間の輝度レベルは各フィールド毎に異なっていても改善には十分であり,「暗い」期間すなわち休止期間の輝度は低いものの,画像データに応じて変化し,各フィールド毎に常に一定のレベルとなるものではないと主張する。
引用発明において,原告らが主張するように,必ずしも「暗い」期間すなわち休止期間の透過率を画像データに応じた電圧の印加開始タイミング時の透過率(元の透過率)とする必要がないとしても,基準電圧V が印加されBることによって画素の透過率が画像データに応じた電圧の印加開始タイミングにおける透過率(元の透過率)に戻れば,画素がほぼ非透過(黒い)状態に駆動されることになるのであるから,上記(1)で認定したように,引用発明には,基準電圧V が印加されることによって画素の透過率が画像データBに応じた電圧の印加開始タイミングにおける透過率(元の透過率)に戻るとの技術内容が含まれていると認められるのであり,原告らの上記主張も上記(1)の認定を左右するものではない。
(4) したがって,審決が,引用発明は「前記画像データに応じた電圧の印加によって変化した前記ネマティック液晶の透過率を前記1フレーム内で元に戻す」との事項を備えていると認定した点に誤りはなく,この認定に基づいて引用発明と本願発明とは同一であると認定した点にも誤りはないから,原告らの取消事由の主張は理由がない。
5結論よって,原告らの請求を棄却することして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海