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関連審決 不服2006-27915
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10096審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10196審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10214審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10209審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10261審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  技術的思想 /  新規性 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  上位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  パリ条約 /  優先権 /  名義変更 /  優先日 /  参酌 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  独立特許要件 /  国際出願 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10115号 審決取消請求事件
原告プロメトリック・インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士友野英三
被告特許庁長官
指定代理人菅藤政明,酒井進,岩崎伸二,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/02/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2006−27915号事件について平成19年11月20日にした審決を取り消す。
訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決第2事案の概要本件は,原告が,特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯等(1)ローリエイト・エデュケーション・インコーポレイテッド(旧名称:「シルバンラーニングシステムズ」(甲7の1)。以下「ローリエイト社」という。)は,平成10年3月10日(パリ条約による優先権主張:1997(平成9)年3月11日(以下「本件優先日」という。),アメリカ合衆国),名称を「遠隔的に監督される安全な試験の運営システム」とする発明につき,特許出願(国際出願。特願平10-539674号。以下「本件出願」という。)をした(甲4)。
(2)ローリエイト社は,平成18年9月6日付けで,本件出願につき拒絶査定を受けたため,同年12月11日,拒絶査定不服審判を請求した(不服2006-27915号事件として係属)。
(3)ローリエイト社は,平成19年1月10日,本件出願に係る請求項1の記載の変更等を内容とする手続補正書(甲6)を提出した(以下,同社が同手続補正書により行おうとした手続補正を「本件補正」という。)。
(4)ローリエイト社は,同年5月31日,トムソン・ラーニング・インコーポレイテッドのプロメトリック部門に対し,本件出願に係る特許を受ける権利を譲渡し,同部門は,同日,プロメトリック・ホールディングス・エルエルシーに対し,同権利を譲渡し,プロメトリック・ホールディングス・エルエルシーは,遅くとも同年10月12日までに,原告(旧名称:テスト・センター・エルエルシー)に対し,同権利を譲渡した(甲8の2)。
(5)特許庁は,同年11月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月30日,その謄本をローリエイト社に送達した(乙1)。
(6)原告は,平成20年3月27日,特許庁長官に対し,本件出願に係る特許を受ける権利承継人を原告とする出願人名義変更届(甲8の1)を提出した上,同日,本訴を提起した。
2特許請求の範囲の請求項1の記載(請求項の数は,本件補正の前後を通じ,全26項であるが,請求項2以下の記載は,省略する。)(1)本件補正前のもの(平成18年4月24日付け手続補正(甲5)後のもの。
以下同じ。)「1.遠隔試験ステーションで行われ,遠隔的に監督される試験の運営を制御するシステムにおいて,(1)(a)試験問題データと確認された身体的特徴データとを含むデータを記憶するための記憶手段と,(b)前記記憶手段に接続されて作動し,試験受験者の身体的特徴データを前記記憶された確認済み身体的特徴データと比較するデータプロセッサと,を含む中央ステーションと,(2)(a)データプロセッサと,(b)前記データプロセッサに接続されて作動し,入力データを記憶するデータ記憶手段と,(c)前記試験受験者の身体的特徴データを前記データプロセッサに入力するための身体的特徴判断装置と,(d)試験問題データを表示するための表示手段と,(e)試験応答データを前記データプロセッサに入力するための入力装置と,(f)試験の監督データを記録するための手段と,(g)前記中央ステーションと通信し,前記中央ステーションから前記試験問題データを受け取り,試験受験者の身体的特徴データ,試験応答データ及び監督データを前記中央ステーションに送信する通信手段と,を備える遠隔試験ステーションと,から構成され,前記中央ステーションは前記監督データに基づいて前記試験の有効性を判断するものであるシステム。」(2)本件補正後のもの(下線部が補正個所である。)「【請求項1】遠隔試験ステーションで行われ,遠隔的に監督される試験の運営を制御するシステムにおいて,(1)(a)試験問題データと確認された身体的特徴データとを含むデータを記憶するための記憶手段と,(b)前記記憶手段に接続されて作動し,試験受験者の身体的特徴データを前記記憶された確認済み身体的特徴データと比較するデータプロセッサと,を含む中央ステーションと,(2)(a)データプロセッサと,(b)前記データプロセッサに接続されて作動し,入力データを記憶するデータ記憶手段と,(c)前記試験受験者の身体的特徴データを前記データプロセッサに入力するための身体的特徴判断装置と,(d)試験問題データを表示するための表示手段と,(e)試験応答データを前記データプロセッサに入力するための入力装置と,(f)試験の監督データを記録するための手段と,(g)前記中央ステーションと通信し,前記中央ステーションから前記試験問題データを受け取り,試験受験者の身体的特徴データ,試験応答データ及び監督データを前記中央ステーションに送信する通信手段と,を備える遠隔試験ステーションと,から構成され,前記通信手段は,前記試験受験者と前記中央ステーションとの間における双方向通信を行うものであり,前記中央ステーションは前記監督データに基づいて前記試験の有効性を判断するものであるシステム。」3審決の理由の要旨審決は,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,下記の引用文献1に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び引用文献2又は3の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するものであるとして,平成14年法律第24号による改正前の特許法159条1項において準用する平成18年改正前特許法53条1項の規定により本件補正を却下し,本件出願に係る請求項1記載の発明の要旨を,本件補正前の請求項1の記載に基づいて認定した上,同発明は,本願補正発明と同様,引用発明及び引用文献2又は3の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
引用文献1特表平8-504282号公報(甲1)引用文献2特開平8-140158号公報(甲2)引用文献3特開平5-314344号公報(甲3)審決の理由中,本件補正の適否(独立特許要件の有無)について判断した部分は,以下のとおりである。
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明引用文献1には,次の事項が図示とともに記載されている。
ア特許請求の範囲「1.少なくとも1つのテスト用ワークステーション上で複数の受験者へ実施されるコンピュータによるテストを管理するための集中管理システムであって,各受験者が選択したコンピュータによるテストを受けるために予約し,前記予約がスケジューリング及び登録モジュールによってスケジューリングされ,前記システムが,集中管理システムに用意された管理機能を同定し関連の情報を有する複数のプロフィールと,複数のプロフィールの少なくとも一部により同定される管理機能を実行し且つ各受験者のIDと予約に関する入力をスケジューリング及び登録モジュールから受ける1日開始(SOD)サブシステムと,SODサブシステムに結合されて予約データの入力を受け,選択したコンピュータによるテストを受けるため各受験者が到着するとその各受験者と共に予約データを確認するチェックインサブシステムと,SODサブシステム及びチェックインサブシステムに結合されて各受験者の到着後選択したコンピュータによるテストを呼び出すに必要なテストデータを有するジョブ情報ファイルを作成するサービス開始モジュールと,サービス開始モジュールに結合されてそのモジュールによりジョブ情報ファイルが作成されるとそのジョブ情報ファイルを検知し,その後複数のプロフィールの少なくとも一部により同定される管理機能を実行させ適当なテスト実施アプリケーションを用いる選択したコンピュータによるテストを開始させるテストステーションカーネルとより成る集中管理システム。
2.ディスプレイを備え且つ各テスト用ワークステーションから離れたところにある中央管理ワークステーションが提供され,前記システムはさらに,中央管理ワークステーションを初期化しメニューを表示するための開始手順より成り,そのメニューから権限のある管理者がSODサブシステム及びチェックインサブシステムを実行でき,開始手順,SODサブシステム,開始サービスモジュール及びチエックインサブシステムが中央管理ワークステーションから始動される請求項1のシステム。
3.ディスプレイを備え且つ各テスト用ワークステーションから離れたところにある中央管理ワークステーションが提供され,テスト用ワークステーション及び中央管理ワークステーションがテスト用ワークステーションと中央管理ワークステーションの両方のためのプログラム及びデータ蓄積手段を提供するファイルサーバーに結合されている請求項1のシステム。
4.ファイルサーバーは集中管理システムのために実質的にすべてのデータ蓄積を行なう請求項3のシステム。」イ7頁15行〜8頁4行「一般的に,受験者は特定のコンピュータによるテストを受けるための登録手続きをするが,登録時にそのテストを特定のテストセンター2で受けるため予約を行う。受験者がテストを受けるため予約通りにテストセンター2へ到着すると,通常,テスト管理者が受験者の予約を確認してテストを開始させる。受験者がテストを受けた後,テスト時に記録された受験者の回答及び他の情報が中央処理施設1へ送られ,後処理される。即ち,新しいテストの開発に使用される統計的及び分析的研究が行なわれる。
教室でのテストが通常少数の学生に対して実施され,これら学生の行動及びテストの際の教室の状態を熟知している一人の人間により採点が行われるのとは対照的に,標準テストは文字通り数百のテストセンターで,異なる日時に,数千人の受験者に対して実施されるものである。
したがって,標準テストの環境では,受験者のテストに影響を与えるかもしれないハードウエアまたはソフトウエアの問題もしくは停電のようなテストセンターの状態を追跡できるようにすることが肝要である。さらに,テストをすべてのまたはほとんど全部の受験者に対して同一時刻且つ同一場所で実施しない場合,コンピュータによるテスト及び受験者の回答を含むすべての関連テストデータの秘密を守り,それが破壊されないようにするため別の安全対策を施すことが必要である。したがって,コンピュータによるテストシステムはこれらの機能を実現するための管理システムを提供する。」ウ9頁18行〜10頁6行「発明の概要本発明は,コンピュータによるテストを管理するための集中管理システム及び方法を提供することによってこの必要性を充足する。本発明のシステムは,中央管理ワークステーションを始動させるための始動手順を提供し且つ中央管理ワークステーションのディスプレイ上にメインメニューを表示するようなソフトウエア構成を有する。このシステムはまた,予約データより成るテスト予約状況の更新データを受け,予約されたテストを受験者に対して実施する少なくとも1つのテスト用ワークステーションを始動するための1日開始サブシステムを提供する。サービス開始モジュール及び一般的なステーション管理モジュールより成るテスト開始サブシステムは,コンピュータによるテストを呼び出して実施するために用いるジョブ情報ファイルとジョブデータファイルを発生させる。管理者はチェックインサブシステムを用いて,各受験者のIDと予約データを確認し且つ受験者が到着して予約したコンピュータによるテストを受け得る状態にあるという指示を管理システムに与える。管理システムが作動中発生した任意の記録を独立のデータセンターへ送るために1日終了サブシステムが設けられている。好ましくは通信マネジャーがテストセンターと独立のデータセンターとの間に設けられてデータを送受信する。」前記ア記載には,「少なくとも1つのテスト用ワークステーション上で複数の受験者へ実施されるコンピュータによるテストを管理するための集中管理システムであって,各受験者が選択したコンピュータによるテストを受けるために予約し,前記予約がスケジューリング及び登録モジュールによってスケジューリングされる集中管理システム。」が開示されており,中央管理ワークステーションがテスト用ワークステーションから離れたところにあり,テスト用ワークステーション及び中央管理ワークステーションがテスト用ワークステーションと中央管理ワークステーションの両方のためのプログラム及びデータ蓄積手段を提供するファイルサーバーに結合されている態様が記載されている。
前記イ記載には,標準テストの環境では,受験者のテストに影響を与えるかもしれないハードウエアまたはソフトウエアの問題もしくは停電のようなテストセンターの状態を追跡できるようにすることが肝要であると共に,テストをすべてのまたはほとんど全部の受験者に対して同一時刻且つ同一場所で実施しない場合,コンピュータによるテスト及び受験者の回答を含むすべての関連テストデータの秘密を守り,それが破壊されないようにするため別の安全対策を施すことが必要であることが指摘されている。
前記ウ記載からは,中央管理ワークステーションが,テスト用ワークステーションを始動するための1日開始サブシステムを提供し,中央管理ワークステーションの管理者が各受験者のIDと予約データを確認し且つ受験者が到着して予約したコンピュータによるテストを受け得る状態にあるという指示を管理システムに与えること,管理システムは作動中発生した任意の記録を独立のデータセンターへ送ることが記載されている。
そして,引用文献1の11頁28行(最下行)〜26頁22行における詳細な説明の記載を参照するに,テストセンターにおける管理システムの好ましい実施例の基本的なハードウェア構成は,第2図を参照して,1つの中央管理ワークステーション5,1つのファイルサーバー6,1または2以上のテスト用ワークステーション7より成る(11頁28行〜12頁3行)。
中央管理ステーションは,テスト用ワークステーションが設置されたテストルームの外に設置され,「システム開始及びシステム停止手順の実行」,「予約のスケジューリング」,「到着した受験者のチェックイン」,「所定のテスト用ワークステーションにおいて受験者のテストを開始」,「テスト用ワークステーションまたは一般的な管理システムが故障した後のテスト再開」,「新しい管理者の追加,他の人のアクセス権の変更等のような日常システム機能」を備えており,「継続中のファイル及び業務を独立のデータセンターへ送付」及び「ファイル及び業務を受けて種々のソフトウェアコンポーネントへの配布」を行うものである(12頁21行〜13頁5行)。
他方,テスト用ワークステーションには,中央管理ワークステーションの機能は付与されておらず,「テスト開始」,「テスト終了」及び「中央管理ワークステーションからの命令により進行中のテストを中断させる」機能を有している(13頁7〜13行)。
そして,図3を参照するに,テスト施行システムの管理システム10は,テストを受けるために受験者20が登録手続をすると,独立したデータセンター12がこの受験者が特定の日時に所定のテストセンターで所定のテストを受けられるようにスケジューリングし,受験者20及び受験者の予約を識別するための情報は受験者の予約データとして提示され,独立のデータセンター12のデータベースに蓄積される(13頁14〜21行)。
さらに,テストの間の受験者の行動,例えばコンピュータによるテストが提示する質問に対する受験者の回答を記録するために,テストの間,受験者の成績記録(EPR)が作成されること,コンピュータシステム及びテストの秘密保持に関連する情報(ESL),例えば管理システム開始手順を呼び出した管理者のID及びテストを開始させた各管理者の名前の記録がされること,或いは,テストの間受験者が機器に関して遭遇する問題,及びテスト中のテストセンターの状況に関連する問題,例えばテストルームが暑すぎるという問題を報告するための異常事態報告記録(IRR)が記録されること,が掲げられ,そして,これら作成された記録は,独立のデータセンター12へ送信され,EPRは採点に供され,ESLとIRRはテストセンターにおける装置及び秘密保持上の問題をモニターできるようにオペレーションセンター22へ送られるようにされている(14頁3〜22行)。
また,テストを受ける受験者が到着した後の,テスト開始にあたっては,管理者がスケジューリング/登録モジュールから得られる受験者の予約データを調べ,受験者がテストを受け得る状態にあるという指示を与えると,サービス開始モジュールがテストプログラムのための中央ステーション管理モジュールプログラムを呼び出し,これがテストプログラムにより必要とされるタスクを実行すること,この際に用いられるジョブデータファイルには,テスト実施アプリケーションにより必要とされる情報が含まれており,そのいくつかとしては,「受験者名」,「受験者ID」,「受験者の生年月日」,「受験者社会保険番号」,「テスト許可番号」,「送られてくるパッケージ名を含むストリング」,「パッケージタイトル(例えばGRE一般テスト)」,「ディスク上のどこでそのパッケージを見付けることができるかを記載したストリング」,「得られた受験者成績記録をディスク上のどこに書き込むべきかを記載したストリング」及び「受験者成績記録の完全な構成のテスト開始記録」があげられるとともに,テストプログラムによっては,写真が撮られているか否かの判定を行い,必要であれば管理者に写真を撮ることを促し,また管理者に重要なIDなどを調べるように促すとされる(19頁6行〜20頁17行)。
このテスト前に受験者の写真を撮ることは,幾つかのテストプログラムでは必要とされ,その場合には,写真撮影ボタンにより管理者は受験者の写真を一般的に知られている電子的な画像撮影方法により撮って,それをデジタル的に受験者のID及び予約データと共に蓄積すること(23頁27行〜24頁4行)が示されている。
また,コンピュータからなるシステムにおいて,ワークステーションは一般にデータプロセッサなる処理装置を有していることは技術常識であり,また,引用文献1においては,必要なデータを独立したデータセンター12のデータベースとして蓄積しているとされるが,データをデータベースとして保持する形態として,データセンターなる中央管理ワークステーション以外の記憶手段とするか,中央管理ワークステーション自体の記憶手段とするかは,データに係る秘密保持性,データ容量の多寡,アクセス頻度等の種々の要請に応じて適宜選択されるものであることに鑑みて,引用文献1の記載において,中央管理ワークステーションにデータを記憶する記憶手段が設けられた形態を想定することも可能といえる。
前記記載及びそれ以外の記載をも含め総合的にみると,引用文献1には,以下の発明が記載されているといえる。
「テストルームに設置されたテスト用ワークステーションで行われ,集中的に管理されるようになっているテストを管理するためのシステムにおいて,テストパッケージデータと確認された受験者に係るデータ(受験者名,受験者ID,受験者の生年月日,受験者社会保険番号等)とを含むデータを記憶するための記憶手段と,該記憶手段に接続されて作動し,受験者に係るデータを記憶された確認済みデータと比較するデータプロセッサと,を含む中央管理ワークステーションと,データプロセッサと,データプロセッサに接続されて作動し,入力データを記憶するデータ記憶手段と,受験者に係るデータを入力するための装置と,テストパッケージに収容された質問を表示するための表示手段と,受験者の回答を入力するための入力装置と,テストの状況を記録するための手段,及び,中央管理ステーションと通信し,中央管理ステーションからテストパッケージデータを受け取り,受験者に係るデータ,受験者の回答データ及びテスト状況記録データを中央管理ワークステーションに送信する通信手段と,を備えるテスト用ワークステーションと,から構成されるテストの集中管理システム」(引用発明)(2)引用文献2の記載事項引用文献2には,次の事項が図示とともに記載されている。
ア段落【0001】「【産業上の利用分野】通信端末装置のユーザインタフェースに関するもので,特に,遠隔地間で行われるコミュニケーションや協同作業などのタスクを快適に効率よく開始することに関する。」イ段落【0004】「人と人との活発なコミュニケーションを実現するためには,相手と会話を行うためのきっかけ作りが重要となる。きっかけの例には,接近してくる相手の存在に気づいたり,話しかける相手の所在や状況などを知ることが挙げられる。そして,実際にその相手と会話を行う場合には呼びかけや呼び出しを行い,相手に自分の存在を気づかせる必要がある。このように自分以外の相手の存在やその相手の状況,あるいは,相手からの呼びかけなどの働きかけを知覚し認知することは『アウェアネス』と呼ばれている(参考文献: Dourish, P: Portholes: SupportingAwareness in a Distributed Work Group, Proc. CHI'92, pp. 541-547 (1992))。」ウ段落【0009】「本発明の第1の目的は,通信環境においても対面環境と同様に,遠隔地間の利用者が会話などのタスクを開始する際に必要なアウェアネスに関する情報が,発信側および受信側の双方の利用者に操作性や情報の知覚および理解の面で負担をかけることなく,効率的にかつ瞬時にやり取りされる環境を実現することにある。」エ段落【0040】「【実施例】以下では,通信環境上で行うタスクとして,画像や音声をやり取りしながら行う会話を一例に説明するが,本発明は通信手段を介在にして遠隔地の利用者同士が行うタスク,例えば,共同執筆や遠隔会議といったリアルタイム型の協同作業に対しても適用できる。具体的には,同期型のグループウェアやCSCWシステムにおいて,通信接続を管理し協同作業の開始終了といった流れを監視する部分に対して適用することができる。」オ段落【0041】「以下の説明における『会話の発生や開始』に関する部分は,協同作業の発生や開始と同等に扱って良い。また,本発明は双方向通信だけでなく,単一方向の通信,例えば,遠隔監視システムについても適用できる。相手側を監視したり,相手の一方的な呼び出し例えば店舗内での業務連絡などを行うような状況において,相手に対してさりげなく情報を伝えたい場合や,相手に不快感を与えずに自分の存在を知らせるような場合についても適用できる。」カ段落【0054】「利用者環境情報入力インタフェース部202には,入力装置の種類や扱うアウェアネス情報の種類によって,利用者に関する情報,例えば,氏名や所属や職制や年齢や性別といった社会階層に関する情報や,利用者の身体的な特徴,利用者のスケジュール,利用者の行動履歴,利用者を撮影した画像情報,指紋や声紋などの識別用情報,などといった情報が必要に応じて格納され参照される。」キ段落【0062】「利用者の識別情報とは,例えば,利用者の氏名や識別番号として記述される。また,利用者の厳重な認証処理を行う場合には,利用者の顔画像イメージなどの他,利用者を特定するために有効となる情報,例えば,指紋や声紋,網膜の血管パターンといった情報が識別情報として送られる。」ク段落【0066】「利用者の状態を表す情報として,利用者自身の画像イメージ情報や音声情報などを利用する場合もある。この情報形態は,利用者自身の情報をそのまま遠隔地へ送るような場合に用いられる。また,アウェアネス機能制御部で画像処理や音声処理を行う場合にも利用者環境情報として画像イメージや音声情報が送られる。」前記ア〜ク記載からは,遠隔地間でのコミュニケーションにおいて,利用者同士の確認を行うに際して,身体的特徴データ或いは画像・音声からなるデータを用いることは,公知であることが把握できる。
(3)引用文献3の記載事項引用文献3には,次の事項が図示とともに記載されている。
ア【特許請求の範囲】「【請求項1】 利用者が入力した暗証番号によって利用者本人の認識を行なう現金自動取引装置において,該利用者本人の顔写真を予め撮影した基本顔写真データと暗証番号とを記録しておき,利用者が前記暗証番号を忘却した場合に利用者の顔写真を撮影し,該撮影した撮影写真データと基本顔撮影データとを比較して利用者本人の認証を行ない,認証がとれた場合に前記暗証番号を利用者に開示することを特長とする現金自動取引装置。」イ段落【0006】「【課題を解決するための手段】前記従来技術による不具合を解決するため本発明による現金自動取引装置は,利用者本人の顔写真を予め撮影した基本顔写真データと暗証番号とを記録しておき,利用者が前記暗証番号を忘却した場合に利用者の顔写真を撮影し,該撮影した撮影写真データと基本顔撮影データとを比較して利用者本人の認証を行ない,認証がとれた場合に前記暗証番号を開示することを特長とする。」ウ段落【0007】「【作用】前述の様に構成した現金自動取引装置は,利用者が予め撮影登録した基本顔写真データと取引時における撮影顔写真データとを用いて本人認証を行なうため,本人が暗証番号を忘れた場合であっても取引を継続することができる。」これらの記載からみて,利用者本人を確認するに際して,予め利用者の顔を撮影して基本顔写真データを記録しておき,利用者が利用する際に,利用する装置自体の撮影手段により本人の顔を撮影して顔写真データを得,両者の顔写真データを比較して本人確認を行うことは,顔認証手法として従来から慣用されていることが把握できる。
そして,ここでいう「現金自動取引装置」が,前記基本顔写真データを保有する中央センターと利用者が利用するいわば端末ステーションとを接続して,前記認証を行うものであることはよく知られたことである。
(4)本願補正発明と引用発明との対比本願補正発明と引用発明を対比する。
・・・また,引用発明の「テスト状況記録データ」は,テスト実施中の状況をビデオカメラ等で撮影することを包含しており,テストセンターにおける装置及び秘密保持上の問題をモニターするものであって,テストが適正に行われたか否かを判断するために供されているものである。
すると,引用発明の「テスト状況記録データ」は,本願補正発明の「試験の監督データ」に相当し,いずれもが,試験の有効性を判断するのに供されるものである点で共通する。
してみれば,本願補正発明と引用発明の両者は,「遠隔試験ステーションで行われ,遠隔的に監督される試験の運営を制御するシステムにおいて,(1)(a)試験問題データと確認された受験者に係るデータとを含むデータを記憶するための記憶手段と,(b)前記記憶手段に接続されて作動するデータプロセッサと,を含む中央ステーションと,(2)(a)データプロセッサと,(b)前記データプロセッサに接続されて作動し,入力データを記憶するデータ記憶手段と,(c)前記受験者に係るデータを前記データプロセッサに入力するための装置と,(d)試験問題データを表示するための表示手段と,(e)試験応答データを前記データプロセッサに入力するための入力装置と,(f)試験の監督データを記録するための手段と,(g)前記中央ステーションと通信し,前記中央ステーションから前記試験問題データを受け取り,受験者に係るデータ,試験応答データ及び監督データを前記中央ステーションに送信する通信手段と,を備える遠隔試験ステーションと,から構成され,前記中央ステーションは前記監督データに基づいて前記試験の有効性を判断するものであるシステム。」である点で一致するものの,以下の点において一応相違する。
<相違点1>本願補正発明では「受験者に係るデータ」が,「身体的特徴データ」を含むと特定されるとともに,「中央ステーション」において「試験受験者の身体的特徴データを前記記憶された確認済み身体的特徴データと比較する」と特定され,さらに,「遠隔試験ステーション」が「前記試験受験者の身体的特徴データを前記データプロセッサに入力するための身体的特徴判断装置」を備えると特定されるのに対して,引用発明では,このような特定を有しない点。
<相違点2>本願補正発明では「遠隔試験ステーション」の備える「通信手段」が,「前記試験受験者と前記中央ステーションとの間における双方向通信を行う」と特定されているのに対して,引用発明では,この特定を有しない点。
(5)相違点についての判断ア相違点1についてなるほど引用文献1には,「試験受験者の身体的特徴データ」を扱うことは明示的に記載されていないが,前記「(1)」で検討したように,テスト前に受験者の写真を撮る必要のあるテストが存在しており,これにより受験者本人の確認を行うことが記載されている。
他方,引用文献2の記載にあるように,特に遠隔地間でのコミュニケーションにおいて,利用者同士の確認を行うに際して,身体的特徴データ或いは画像・音声からなるデータを用いることは,公知であり,この身体的特徴データ或いは画像・音声からなるデータを用いた利用者同士の確認作業を,引用発明において行うことは,当業者であれば容易に想到可能なことといえる。
また,このように身体的特徴データとして利用者の顔により本人確認を行うに際して,引用文献3に記載されるように,予め利用者の顔を撮影して基本顔写真データを得ておき,利用者が利用する装置で得た顔写真データと比較して本人認証を行うことは本件優先日前において慣用されていることであって,この場合に,利用する装置は,基本顔写真データを保有する中央センターに接続された端末ステーションであって,本願補正発明における「試験受験者の身体的特徴データ」を保有する「中央ステーション」に接続された「遠隔試験ステーション」と同等の関係にあたり,これが,「前記試験受験者の身体的特徴データを前記データプロセッサに入力するための身体的特徴判断装置」として機能していることは明らかである。
よって,相違点1に係る構成を備えることは,当業者にとり容易想到なことである。
イ相違点2について当該相違点2に係る特定は,「遠隔試験ステーション」の備える「通信手段」が,「前記試験受験者と前記中央ステーションとの間における双方向通信を行う」ものである。
ここで,双方向通信を行うに際しては,単に通信を行う一方のみが双方向通信を可能とする機能を有していたとしても,他の一方がその機能を備えていなければ,現実的に双方向通信が可能とはならないことからして,当該特定は,「遠隔試験ステーション」の備える「通信手段」に係る特定であって違和感があるものの,センターと称されるステーション側は,各種機能を備えるいわば端末ステーション側との通信に備えるべく機能を備えているのが通常であることから,元来「中央ステーション」側は双方向通信機能を備えていることを前提とした特定と推察される。
しかしながら,本件優先日時点において,双方向通信は接続されたステーション間で双方向にデータ通信がなされる場合,一般的にもちいられているものであって,格別なものとはいえない。
してみるに,相違点2に係る「遠隔試験ステーション」の「通信手段」が備えているとする特定は,格別なものとはいえず,当業者であれば必要に応じて適宜になし得た程度のことであって,それにより得られる作用効果も格別なものとはいえない。
(6)本願補正発明に係る独立特許要件についての判断の「まとめ」したがって,相違点1及び相違点2に係る構成は,いずれも格別なものとはいえず,当業者ならば必要に応じて適宜に採用し得たものであるから,本願補正発明は,引用発明及び引用文献2或いは引用文献3の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない。
以上のとおり,本願補正発明は,特許法29条2項の規定により特許をすることができないものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(7)本件補正の却下の決定のむすび本件補正前の請求項1を限定的に減縮した本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件補正は,平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
第3審決取消事由の要点審決は,引用発明の認定を誤り,また,本願補正発明と引用発明の一致点の認定を誤った結果,本願補正発明は特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから本件補正を却下するとの誤った判断をし,これにより,本件出願に係る請求項1記載の発明の要旨認定を誤ったものであるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(引用発明の認定の誤り)(1)審決は,引用発明を下記のとおり認定したが(下線は,原告の主張に基づき,本判決が付したものである。以下同じ。),引用文献1には,「テスト状況記録データ」についての記載はないから,審決の下記認定は,誤りである。。
「テストルームに設置されたテスト用ワークステーションで行われ,集中的に管理されるようになっているテストを管理するためのシステムにおいて,・・・を含む中央管理ワークステーションと,・・・及び,中央管理ステーションと通信し,中央管理ステーションからテストパッケージデータを受け取り,受験者に係るデータ,受験者の回答データ及びテスト状況記録データを中央管理ワークステーションに送信する通信手段と,を備えるテスト用ワークステーションと,から構成されるテストの集中管理システム」(2)被告は,「審決が認定した『テスト状況記録データ』とは,引用文献1に記載された秘密保持関連(ESL)記録に係るデータ及び異常事態報告記録(IRR)に係るデータに相当するものである」旨主張する。
しかしながら,後記取消事由2のとおり,本願補正発明の「試験の監督データ」の技術的意義が争われている本件において,引用文献1に記載されたデータにすぎない秘密保持関連記録及び異常事態報告記録を,審決の造語である「テスト状況記録データ」と言い換えることの必要性自体,希薄である。
しかも,当該言い換えは,秘密保持関連記録及び異常事態報告記録を上位概念化することにより,その包含するデータ項目の範囲を拡大する効果を有し,取消事由2において述べるとおり,本願補正発明と引用発明との対比判断における誤りを誘発しかねないものであるから,技術的に的確なものということはできない。
2取消事由2(一致点の認定の誤り)(1)審決は,本願補正発明と引用発明とを対比して,下記アのとおり認定した上,両発明の一致点を下記イのとおり認定した。
ア「引用発明の『テスト状況記録データ』は,テスト実施中の状況をビデオカメラ等で撮影することを包含しており,テストセンターにおける装置及び秘密保持上の問題をモニターするものであって,テストが適正に行われたか否かを判断するために供されているものである。
すると,引用発明の『テスト状況記録データ』は,本願補正発明の『試験の監督データ』に相当し,いずれもが,試験の有効性を判断するのに供されるものである点で共通する。」イ「遠隔試験ステーションで行われ,遠隔的に監督される試験の運営を制御するシステムにおいて,(1)・・・中央ステーションと,(2)・・・(f)試験の監督データを記録するための手段と,(g)前記中央ステーションと通信し,前記中央ステーションから前記試験問題データを受け取り,受験者に係るデータ,試験応答データ及び監督データを前記中央ステーションに送信する通信手段と,を備える遠隔試験ステーションと,から構成され,前記中央ステーションは前記監督データに基づいて前記試験の有効性を判断するものであるシステム。」(2)しかしながら,以下のとおり,審決の上記認定は,本願補正発明及び引用発明の各構成についての誤った技術的理解に基づくものであるから,誤りである。
ア本件出願に係る本件補正後の明細書(特許請求の範囲につき甲6,その余につき甲4。以下「本願明細書」という。)の記載(甲4中の公表特許公報部分の15頁26行〜16頁5行,同頁16〜20行,18頁19行〜19頁7行及び同頁12〜17行(なお,以下,本願明細書の引用箇所については,甲4中の公表特許公報部分の頁及び行を用いて特定する。))によれば,本願補正発明の「試験の監督データ」とは,恣意的な不正行為(例えば,遠隔試験ステーションに2人の人間が存在すること,許可されていないノート又は参照物品の使用,受験者とキオスクの外部の人間との間の無許可の通信等)を防止するために試験実施主体側が収集する情報であり,他方,被告が主張するような「試験会場の管理」に係る情報(空調設備の管理等)は,これに当たらないというべきである。
そして,恣意的な不正行為を防止するためには,個別的な取締りが必要であるところ,本願明細書にも記載があるとおり(上記引用箇所に加え,10頁5〜6行,11頁7〜25行,13頁23行〜14頁2行,15頁19〜24行,19頁23行〜20頁2行,同頁14〜18行,同頁26行〜21頁16行,22頁3〜5行及び同頁13〜17行),本願補正発明においては,「試験の監督データ」として,例えば,受験者1人1人が網羅されるような経時的かつ膨大な時間分(試験時間に対応するもの。例えば,3時間分)のオーディオ・ビジュアル的なデータを連綿と記録し,遠隔試験ステーションに2人の人間が存在していたような場合や,身体的特徴データを不適切又は不正に入手しようとした場合であっても,中央ステーションにおける試験の有効性判断ルーチンによって,試験の有効性(受験者が不正行為を行ったか否かに基づくものであり,空調設備の故障,停電等,不正行為に該当しない異常事態に基づくものは含まれない。)を判断することができる。
このように,本願補正発明においては,試験が行われるごとに,試験中又は試験後に,中央ステーションにおいて,各試験会場から送信された「試験の監督データ」に基づき,受験者各人ごとの試験の有効性が判断されるものである。
また,本願明細書の記載(7頁24行〜8頁5行及び同頁7〜15行)によれば,本願補正発明が解決すべき課題は,不正のない正しい試験を実施し,かつ,その際の人的資源の消費を最小化する(可能な限り最大限にまで試験手順を自動化し,無人の遠隔試験ステーションを開発する)との点にかんがみ,適切に登録された受験者だけが試験を受けることができること,不正が行われないように試験が適切に監督されること,試験問題の情報が安全であること,これらについて費用と労働力の消費を最小化することであるところ,本願補正発明の「試験の監督データ」は,当該課題を解決するために必要なものであり,上記のとおりの技術的意義・内容を有するものであるといえる。
イこれに対し,引用文献1の記載(14頁3〜22行及び24頁11〜21行)によれば,同文献には,テストの間,受験者の成績記録(EPR),秘密保持関連記録及び異常事態報告記録が独立のデータセンターに送信され,秘密保持関連記録及び異常事態報告記録によってテストセンターにおける装置及び秘密保持上の問題がモニターされること,異常事態報告記録については所望の情報を有するログ記録をそのファイルに書き込むことが開示されているといえる。
そして,上記各記録のうち,本願補正発明の「試験の監督データ」に外形的に対応するのは,秘密保持関連記録及び異常事態報告記録であると考えられるところ,引用文献1の記載(上記引用箇所と同じ。)によれば,秘密保持関連記録とは,コンピュータシステム及びテストの秘密保持に関連する情報,例えば,管理システム開始手順を呼び出した管理者のID及びテストを開始させた各管理者の名前を記録したものであり,異常事態報告記録とは,テスト中に発生した機器のある種の故障のようなシステム異常に係る情報,例えば,「ログ記録」である。
また,引用文献1には,上記アの本願補正発明の課題についての開示も示唆もなく,本件優先日当時,試験を個別ブースで自動的に行うことを前提にしつつ,試験の不正を防止するとの課題は,当業者が認識していなかったものである。
なお,審決は,「引用発明の『テスト状況記録データ』は,テスト実施中の状況をビデオカメラ等で撮影することを包含して(いる)」と認定したが,引用文献1には,テスト実施中の状況をビデオカメラ等で撮影することについての開示も示唆もないのであるし,秘密保持関連記録及び異常事態報告記録に,テスト実施中の状況についてのビデオカメラ撮影データを含めることは,技術的見地からも不可能であるから,審決の当該認定は,明らかに誤りである。
ウ上記アのとおり,本願補正発明の「試験の監督データ」は,受験者各人ごとの試験の有効性の判断に供されるものであるのに対し,上記イの引用文献1に開示された技術事項によれば,引用発明の「テスト状況記録データ」は,当該有効性の判断に供されるものではない。
すなわち,引用文献1の秘密保持関連記録や異常事態報告記録は,全体(例えば,試験会場全体)のシステムダウン等を示し得る情報であり,オーディオ・ビジュアル的な情報ではないところ,全体のシステムダウンのログ記録等や,管理者のID,名前等の情報等によっては,到底,不正行為を取り締まる情報としては足りないものであるし,「ログ記録」とは,コンピュータの利用状況やデータ通信の記録を意味し,これにより,システム異常(例えば,停電,システムダウン等の非正常な状況)が発生したことを突き止めることはできても,受験者各人ごとの行為の正当性の判断(不正行為の有無の判断)を行うことはできないものである。
また,引用文献1の秘密保持関連記録や異常事態報告記録は,本願補正発明の上記アの課題を解決するためのものではない。
その他,引用文献1には,「テスト状況記録データ」が,受験者各人ごとの試験の有効性の判断に供されるものであることを裏付ける技術的思想についての開示も示唆もない。
そうすると,引用発明の「テスト状況記録データ」と本願補正発明の「試験の監督データ」のいずれもが,試験の有効性を判断するのに供されるものである点で共通するなどとして,前者が後者に相当するとした上,両発明の一致点を,「・・・(f)試験の監督データを記録するための手段と,(g)前記中央ステーションと通信し,前記中央ステーションから前記試験問題データを受け取り,受験者に係るデータ,試験応答データ及び監督データを前記中央ステーションに送信する通信手段と,を備える遠隔ステーションと,から構成され,前記中央ステーションは前記監督データに基づいて前記試験の有効性を判断するものであるシステム。」と認定した審決は,誤った技術的理解に基づくものであるといわざるを得ない。
(3)被告の主張に対する反論ア(ア)被告は,「本願補正発明の要旨の規定には,『試験の監督データ』を構成するデータ項目についての特定はないから,当該データ項目には,試験の有効・無効の判断材料となるデータ項目がすべて包含される」,「本願補正発明の要旨の規定には,試験の有効性判断の対象・範囲についての特定はないから,当該対象・範囲には,テスト中に発生した機器(装置)の故障等が含まれる」などと主張する。
(イ)しかしながら,以下の理由により,被告の上記主張は失当である。
a本願補正発明の「試験の監督データ」及び「試験の有効性」の各技術的意義については,原・被告間においてその主張内容に対立があることからも明らかなように,これらを一義的に明確に理解することができないものであるから,当該各意義については,本願補正発明に係る請求項1の記載のみに基づいてこれを理解するのではなく,本願明細書の発明の詳細な説明(以下,単に「本願明細書」と略記することがある。)の記載を参酌してこれらを理解することが許されるというべきである。
bそして,本願明細書の記載を参酌すれば,本願補正発明の「試験の監督データ」が「恣意的な不正行為を防止するために試験実施主体側が収集する情報であり,受験者各人ごとの試験の有効性の判断に供されるもの」との,「試験の有効性」が「受験者が不正行為を行ったか否かに基づく試験の有効性」との各技術的意義を有することは,前記(2)アのとおりである。
cこれに対し,被告が主張する本願補正発明の「試験の監督データ」及び「試験の有効性」の各技術的意義(上記(ア))は,具体的な裏付けがあるものではなく,「試験の監督データ」及び「試験の有効性」との各用語から被告が主観的に認識した内容にすぎない。
イ被告は,「引用発明における『テスト状況記録データ』(秘密保持関連記録及び異常事態報告記録に係るデータ)は,本願補正発明の『試験の監督データ』に相当する」と主張するが,当該主張は,上記(2)の点に加え,次の点からも,失当である。
すなわち,上記(2)アのとおり,本願補正発明においては,受験者1人1人が網羅されるような経時的かつ膨大な時間分(試験時間に対応するもの。例えば,3時間分)のオーディオ・ビジュアル的なデータが連綿と記録されるところ,本願明細書の記載(20頁14〜16行)によれば,当該記録されたデータは,試験終了時に中央ステーション1に送信されるのであるから,少なくとも,数〜数百メガバイト程度のデータ容量が必要である。
これに対し,引用発明の「秘密保持関連記録」及び「異常事態報告記録」については,引用文献1の記載(14頁5〜8行及び24頁19〜21行)によれば,データ容量として,数〜数十キロバイト程度が予定されたものである。
そうすると,引用発明の「秘密保持関連記録」及び「異常事態報告記録」をもって本願補正発明の「試験の監督データ」に代替させることは,技術的にみて不可能であるというべきである。
ウ被告は,「引用文献1には,テスト中にテストセンターにおいて生じた装置(機器)の問題が各受験者の採点レポートに反映されることが示されているのであるから,引用発明も,受験者各人ごとに試験の有効性を判断する場合を含む」と主張するが,当該主張は,各受験者のテスト中にテストセンターで生じた秘密保持又は装置の問題が「試験の有効性」に関係するものであることを前提とするものであり,失当である。
第4被告の反論の骨子1取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対して(1)審決は,引用発明を,「・・・テスト状況記録データを・・・送信する通信手段と,を備えるテスト用ワークステーションと,から構成されるテストの集中管理システム」と認定したが,ここでいう「テスト状況記録データ」とは,引用文献1に記載された秘密保持関連記録に係るデータ及び異常事態報告記録に係るデータに相当するものである(審決14頁29〜32行(本判決14頁5〜7行)参照)。
(2)アすなわち,引用文献1の14頁5〜8行には,「コンピュータシステム及びテストの秘密保持に関連する情報」を,秘密保持上の情報として報告するため,秘密保持関連記録が作成されることが,同文献の同頁9〜12行には,「テストの間受験者が機器に関して遭遇する問題」及び「テスト中のテストセンターの状況に関連する問題」を,テスト中(テストの間)におけるテストの実行環境に関する問題として報告するため,異常事態報告記録が作成されることが,それぞれ示されている。
そして,上記「秘密保持上の情報」及び「テストの実行環境に関する問題」は,ともに,テストの実行状況に関する事項といえるから,これらの事項の報告のために作成される秘密保持関連記録及び異常事態報告記録を併せて「テスト状況記録」と称することに,技術上,何の問題もない。
イまた,秘密保持関連記録及び異常事態報告記録は,コンピュータで処理される情報であり,これらの記録が「データ」であることは明らかである(引用文献1の14頁13〜22行参照)。
(3)以上のとおりであるから,引用発明についての審決の上記認定に,原告が主張する誤りはないというべきである。
2取消事由2(一致点の認定の誤り)に対して(1)引用発明における「テスト状況記録データ」と本願補正発明における「試験の監督データ」の内容(これらを構成するデータ項目)についてア(ア)原告は,「本願補正発明の『試験の監督データ』とは,恣意的な不正行為を防止するために試験実施主体側が収集する情報であり,『試験会場の管理』に係る情報は,これに当たらない」と主張するが,次のとおり,理由がない。
(イ)本願補正発明の要旨の規定においては,「試験の監督データ」が,「遠隔試験ステーション」において記録され,中央ステーションに送信されるものであり,かつ,機能的には,遠隔的に試験の運営を監督するために使用され,当該試験の有効性の判断(試験の有効・無効の判断)に供されるものとして特定されているものの,「試験の監督データ」がどのようなデータであるかについての特定,すなわち,「試験の監督データ」を構成するデータ項目についての特定はない。
そうすると,本願補正発明における「試験の監督データ」については,本願明細書には,これを構成するデータ項目に関し,その一例として,不正行為の防止に係る記載があるが,当該データ項目を,原告が主張する「恣意的な不正行為を防止するために試験実施主体側が収集する情報」のみに限定して理解するのは相当でなく,当該データ項目には,試験の有効・無効の判断材料となるデータ項目がすべて包含されると理解すべきである。具体的には,例えば,テストルーム(試験会場)の温度,騒音,照明等のテスト環境に係るデータ,テストに対する不正行為に係るデータ,テストに使用される機器の状態(不具合の有無等)を示すデータ等がこれに含まれることになる。
イそして,引用文献1(14頁3〜22行)には,?@コンピュータシステム及びテストの秘密保持に関連する情報(ESL)が記録されること,?Aテストの間の問題(受験者が機器に関して遭遇する問題及びテストセンターの状況に関連する問題(例えば,「テストルームが暑すぎる」といった問題))を報告するための異常事態報告記録が記録されること,?B秘密保持関連記録と異常事態報告記録が,独立のデータセンター及びオペレーションセンターに送られ,テストセンターにおける装置及び秘密保持上の問題をモニターすることができるようにされていること,がそれぞれ示されているところ,これらが,「テスト(試験)の監督を行っていること」に相当することは明らかである。
ウ以上に加え,審決が認定した引用発明の内容にも照らせば,引用発明における「テスト状況記録データ」(秘密保持関連記録及び異常事態報告記録に係るデータ)は,審決が認定したとおり,本願補正発明における「試験の監督データ」に相当するというべきである。
エ(ア)なお,原告は,「本願補正発明においては,『試験の監督データ』として,例えば,受験者1人1人が網羅されるような経時的かつ膨大な時間分(試験時間に対応するもの。例えば,3時間分)のオーディオ・ビジュアル的なデータを連綿と記録し,遠隔試験ステーションに2人の人間が存在していたような場合や,身体的特徴データを不適切又は不正に入手しようとした場合であっても,中央ステーションにおける試験の有効性判断ルーチンによって,試験の有効性を判断することができる」と主張する。
(イ)しかしながら,この主張は,本願補正発明における「試験の監督データを記録するための手段」が,原告が例示する「オーディオ・ビジュアル的なデータを連綿と記録する」との構成である場合について妥当するものであるところ,本願補正発明の要旨の規定は,「試験の監督データを記録するための手段」がどのような構成であるかを具体的に特定していないのであるから,原告の上記主張は,本願補正発明の要旨に基づかないものとして,失当である(例えば,「試験の監督データを記録するための手段」が,静止画を1回又は一定時間間隔で記録するものであれば,不正行為が必ず記録されるとは限らない。)。
オまた,原告は,「本願補正発明が解決すべき課題は,不正のない正しい試験を実施し,かつ,その際の人的資源の消費を最小化するとの点にかんがみ,適切に登録された受験者だけが試験を受けることができること,不正が行われないように試験が適切に監督されること,試験問題の情報が安全であること,これらについて費用と労働力の消費を最小化することであるところ,本願補正発明の『試験の監督データ』は,当該課題を解決するためのに必要なものであ(る)」と主張するが,上記ア(イ)のとおり,本願補正発明の要旨の規定には,「試験の監督データ」がどのようなデータであるかについての特定がなく,したがって,本願補正発明における「試験の監督データ」が,原告主張に係る上記課題のみを解決するためのものであるということはできないから,原告の上記主張は,失当である。
(2)引用発明における「テスト状況記録データ」と本願補正発明における「試験の監督データ」の使用目的についてア(ア)原告は,「本願補正発明の『試験の監督データ』は,受験者各人ごとの試験の有効性の判断に供されるものである」と主張するが,次のとおり,理由がない。
(イ)本願補正発明の要旨の規定には,試験の有効性判断の対象・範囲についての特定はない。
そうすると,本願補正発明における試験の有効性判断の対象・範囲については,これを,原告が主張する「受験者各人ごとの試験の有効性」のみに限定して理解するのは相当でなく,例えば,テストルームにおいて受験した受験者全体に対する試験の有効性も,これに包含されると理解すべきである。
イそして,引用文献1の記載(24頁12〜18行)によれば,テスト中に発生した機器のある種の故障等は,テストの評価に供されているといえるところ,例えば,テスト中にテストセンターの空調機器が故障した場合,当該故障に係るテストルームにおいて受験した受験者は不利な条件下でテストを受けたことになるから,これらの情報が,テストの評価として,テストの有効性(無効とすることを含む。)の判断材料となることは明らかである。
ウ以上によれば,引用発明において,異常事態報告記録(上記のような空調機器の故障に係る記録は,これに含まれる。)に係るデータを含む「テスト状況記録データ」は,審決が認定したとおり,「テストが適正に行われたか否かを判断するために供されているもの」というべきである。
エなお,仮に,本願補正発明における「試験の監督データ」を,原告が主張するとおり「受験者各人ごとの試験の有効性の判断に供されるもの」と限定的に理解したとしても,引用文献1(14頁25〜28行)には,テスト中にテストセンターにおいて生じた装置(機器)の問題が各受験者の採点レポートに反映されることが示されているのであるから,引用発明も,受験者各人ごとに試験の有効性を判断する場合を含むものであるといえる。
よって,原告の上記主張を前提にしても,引用発明における「テスト状況記録データ」が「テストが適正に行われたか否かを判断するために供されているもの」であるとの審決の上記認定を左右するものではない。
第5当裁判所の判断審決取消事由の構成は,本願補正発明の発明特定事項である「試験の監督データ」の技術的意義についての原告の理解を前提とし,原告理解に係る上記技術的事項は引用文献1には開示されていないから,これが開示されているとして両者を一致点とした審決は誤りであるとするものである。そうすると,まず,本願補正発明における上記の「試験の監督データ」の技術的意義をどのように理解することができるかが,引用発明との対比判断の前提となる関係にあるから,取消事由2から判断する。
1取消事由2(一致点の認定の誤り)について(1)本願補正発明の「試験の監督データ」の技術的意義についてア本願補正発明に係る請求項1には,「試験の監督データ」ないし「監督データ」(両者が同一のものを指すことについては,当事者双方とも,これを争わないものと認められるので,以下,両者を併せ,単に「試験の監督データ」という。)との記載があるところ,その技術的意義については,これを一定の意義に理解すべきものとする当業者間の定見があることを窺わせる証拠もない上,当事者間に前記のような技術的理解の相違があることからも明らかなように,同請求項の記載自体から,これを一義的に明確に理解することはできないというべきである。そこで,以下,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌するに,本願明細書には,当該技術的意義に関連して,次の各記載がある。
(ア)「発明の背景本発明は,遠隔試験ステーションにおいて実施され,遠隔的に監督される安全な試験の運営を制御するためのシステムと,このシステムを用いて,遠隔的に監督される安全な試験を運営する方法に関する。
SAT,GRE,GMAT,MCAT,LSAT,資格検定試験及び他の同様の試験等の安全で監督が必要とされる試験を管理する際には,試験を適切に行うために極めて多くの時間と労力が費やされている。第1に,受験者は,適切に登録されていなければならない。条件を満たしている者だけが登録され,試験を受けることが重要である。第2に,登録された者だけが試験を受けることができるようにすることが重要である。もちろん,適切に登録された者以外の者が試験を受けたような場合,どんな試験であってもその適正さが失われることになる。不正が行われないようにするため,試験が適切に監督されることも重要である。最後に,試験問題の情報は,盗まれたり,無認可のアクセスが行われたり,修正されたりしないように,安全でなければならない。
上述した全ての安全性の対策には相当な費用と労働力が必要とされる。
試験が複数の離れた場所で行われる場合には,試験の適切さを維持することはさらに困難になる。このため,離れた場所における試験について,有効で,費用的にも効率がよく,安全な管理を行うことができるように上述した安全対策を自動化することが,長い間望まれてきた。」(6頁3〜21行)(イ)「本発明は,コンピュータ化され,かつ,標準化された試験を分配するために使用される本分野におけるコンピュータネットワークの現在の状態を進展させた。・・・この現在のネットワークは,登録係を雇用している登録センターを利用しており,この登録係が,受験者からの電話での要求に答え,かつ,個人的な統計情報,試験の選択及び支払情報をマニュアルで入力している。これらの登録係は,どの日時のどの場所の試験センターに受験生を割り当てるかを決める。
試験センターは,試験を受験者に分配するローカルネットワークから構成されている。試験センターのシステム管理者は,予定に従ってやって来た受験者を受け入れ,公的な形式の証明書を照合することにより,受験生が同一であることを確認する。確認が終わると,受験者は,指定された試験ステーションに着座し,管理者は試験を開始する。管理者は,受験生が補足的物品を使用して試験で不正を行なわないように試験を監督し,発生する可能性のあるいかなる問題にも応じられるようにする。
しかし,この利点にもかかわらず,本分野の現在の状態は,試験の受験生を登録し,登録された者だけに試験を行うようにし,試験を監督し,試験問題のデータを保護するのに相当の労働力を必要としている。」(7頁12行〜8頁5行)(ウ)「発明の概略このように,本発明の目的は,本分野の試験分配システムの現在の状態をとりながら,可能な限り最大限にまで試験手順を自動化し,試験場所でのサポート要員の必要性を排除することである。
本発明の別の目的は,自己試験用キオスク,すなわち,必要とされるソフトウェアとハードウェアとを一体化し,完全に無人の遠隔試験ステーションを開発することである。試験手順の全ては,受験を希望する受験者が,現場での試験要員を必要とすることなく,登録を行い,予定を立て,試験を終了することができるように自動化される。この種の試験センターは,ほとんど全ての種類のコンピュータ化された試験を分配するのに使われる。
上述の目的に従って,本発明は,遠隔試験場において,遠隔的に監督されるようになっている安全な試験の運営を制御するための新規なシステムを提供した。」(8頁6〜17行)(エ)「好ましい一実施例においては,監督データは,試験のオーディオ/ビジュアルデータである。監督データは,(a)試験受験者の身体的特徴データの入力と,(b)試験応答データの入力とからなるオーディオ/ビジュアルな記録を含むことが好ましい。監督データは,さらに,試験受験者の静止写真を含んでいることが好ましい。」(9頁4〜8行)(オ)「本発明の別の態様においては,本発明は,遠隔試験ステーションにおいて遠隔的に監督される安全な試験の運営を制御するための方法を提供する。この方法は,(a)確認された身体的特徴データを中央ステーションにおいて記憶し,(b)試験問題データを中央ステーションにおいて記憶し,(c)遠隔試験ステーションにおいて試験受験者の身体的特徴データを入力して,試験を開始し,(d)試験受験者の身体的特徴データを中央ステーションに通信して,試験受験者の身体的特徴データを確認された身体的特徴データと比較し,試験受験者データを確認し,(e)試験問題データを中央ステーションから遠隔試験ステーションに送信し,(f)試験問題データに応答して試験回答データ入力を記憶し,(g)試験のオーディオ/ビデュアルな(判決注:『オーディオ/ビジュアルな』の誤記であると認められる。)監督データを記録し,かつ,記憶し,識別子を監督データに割り当て,(h)試験を終了し,(i)試験を無効にする事由の有無について監督データを再検討することにより,試験を有効なものとして認定する,各段階からなる。」(9頁19行〜10頁2行)(カ)「別の実施例においては,監督データが評価され,試験が,その試験そのものが行われている間に,有効なものとして認定される。このようにして,試験受験者は試験採点の有効な記録を持って退出するができる(判決注:『退出することができる』の誤記であると認められる。)。
別の好ましい実施例においては,試験ステーションは,キオスクすなわち試験登録データの入力なしには,出入り不能な独立型ユニットである。試験受験者が中央ステーションと通信できる第2の通信手段をキオスク内部に設けることができる。」(10頁5〜11行)(キ)「本システムの遠隔試験ステーションは,試験中に不正が行われるおそれを排除するために設計された様々な安全対策をも特徴とする。第1に,身体的特徴データ判断装置がある。
本発明に係るシステムに用いられる装置には,受験生の指紋,網膜,手形を記録する装置の他に,音声を記録し,かつ,解析する装置が含まれる。本システムによって,試験の得点が中央ステーションにより承認されるようにすることもできる。例えば,受験生の写真を含む印刷された得点結果は,変性不能かつ複写不能な用紙に印刷され,公証役場で認証されるようにすることができる。試験を有効なのもの(判決注:『有効なもの』の誤記であると認められる。)として承認するために,コーディングアルゴリズムにより創られた固有の見かけ上の乱数が試験応答データと,試験が行われたときの監督データと,に割り当てられる。有効か無効かの判断は,試験中又は試験後のいずれかにおいて判断される。
要約すれば,本発明は,試験受験者の確認と,試験の配分,試験監督及び試験を有効なものとするための承認の手順を自動化する。本発明により,本システムをサポートするための現場要員は必要ではなくなり,さらに,安全で個人的な試験環境が形成される。・・・本発明によって,雇用者または資格認定機関などの試験の実施者が,総額及びその他の費用を最小にして,安全で確実な試験を管理できることになる。」(11頁7〜25行)(ク)「遠隔場所3は,監督データを記録し,入力する手段35を有する。好ましい実施例においては,監督データは,オーディオ・ビジュアルな記録,詳細には,受験者の身体的特徴データの入力と,試験中の試験応答データの入力との記録である。一例を挙げると,ビデオカメラが自己充足式試験キオスクの片隅に配置されており,試験全体のオーディオ・ビジュアルな記録を作り出している。試験を有効または無効なものとして認証するために監督データがどのように使用されるかについて,以下に記載する。しかしながら,簡単に言えば,監督データは,試験中,試験後,または,試験中及び試験後の双方のときに,評価されればよい。」(13頁23行〜14頁2行)(ケ)「キオスクにおいて,遠隔試験場所3は,単一の試験ステーションまたは複数のステーションから構成することができる。これらのステーションの各々には常時ロックされており,電子的に制御されるロック36で保護されているドアを設けることができる。このドアは,受験者が無事に登録を終了し,ステーションの外部にある入力装置を用いてチェックインした後にだけ,ロックが外される。受験者が試験ステーションに一旦入ると,ドアは外からロックされたままとなり,試験受験者の安全とプライバシーを守るようになっている。ドアは内側からはロックされておらず,受験者はいつでも外に出ることができるが,ロックは,試験監督データの一部となる信号を発するようにすることもできる。必要な場合には,試験中に無許可でドアを開くことは,試験を終了または無効にするような無効事由となる。」(14頁24行〜15頁5行)(コ)「好ましい実施例においては,試験監督データを記録するための装置35は,試験を監視し,記録するために用いられるビデオカメラであり,試験ステーションの片隅に取り付けられている。試験のオーディオ・ビジュアルな記録を用いて,身体的特徴データ及び試験応答データの入力を文書に記録し,試験中に発生する可能性のある問題または異常事態を記録し,試験受験者が不正を行わないようにしている。
実施例においては,試験監督データの評価は試験中に行うことができるようになっている。
この本実施例においては,オーディオ・ビジュアルな試験監督データが中央ステーション1に送られ,ディスプレー11に表示され,試験管理者が試験の様子を見渡したり,必要であれば,その試験を終了し,もしくは,無効にし,または,試験中に発生する問題に応答できるようになっている。オーディオ・ビジュアルな試験監督データは,ディジタル的に記録され,中央ステーション1に送られ,記憶され,後に,試験の有効性の判断を行う際に使用されるようになっていることが好ましい。装置35は,試験受験者の静止した状態の画像を捉えるのにも使用される。この画像は,試験監督データの一部となり,受験者の識別,または,試験の有効性の判断のために記録される。
身体的特徴判断装置34は,受験者の指紋のディジタル像を捕らえる指紋記録装置,網膜像記録装置,声紋装置,手形記録装置等の入手可能な様々な装置の中から選択される。上述したように,身体的特徴判断装置34をカメラと組み合わせて用い,写真またはディジタル像が身体的特徴データの一部となるようにすることもできる。
一つの入力装置を,受験生が中央ステーショーン1と通信するために使用できるマイクロフォンまたは送受話器とすることが望ましい。双方向ビデオ通信が望ましい場合もある。」(15頁19行〜16頁13行)(サ)「オンラインの管理者と技術者とが中央ステーション1から遠隔試験ステーション3に操作的及び技術的サポートを与える。この作業を達成できるのであれば,いかなる通信方法(データ,声,または,双方向ビデオ)を用いてもよい。」(16頁21〜23行)(シ)「段階61でカードが有効であると判断され,試験受験者が有効な登録者として確認された場合には,オーディオ・ビジュアルな試験監督データの記録が段階62において開始され,試験受験者は段階63において身体的特徴データを入力するように要求される。例えば,試験受験者は,静止画像をとるためにビデオカメラに向くように求められたり,あるいは,受験者は適当な記録装置に手または指を置くように求められる。
実施例においては,身体的特徴データが判断されて(段階64),無効事由がある場合には,試験が無効になり,試験は中止になる。無効事由とは,例えば,遠隔試験ステーションに2人の人間が存在していたような場合や,または,身体的特徴データを不適切に,あるいは,不正に入力しようとした場合である。一般的に,無効事由となるような出来事またはデータの種類は,試験の種類と,要求される安全性のレベルに応じて変わる。試験監督データは,電子ドアロックからの信号のようなオーディオ・ビジュアルデータ以上のものを含んでいてもよく,そのような場合には,例えば,ロック解除すなわちドアが開いたことを示す信号は無効事由となり得る。」(18頁19行〜19頁5行)(ス)「段階70,71,73は,ディスプレー32に表示された質問データに応答して試験受験者が試験応答データを入力することを表している。試験応答データの入力中のいかなる時でも,試験監督データの分析により判断されるような無効事由が発生すると(段階72),試験は停止されるか,及び/又は,無効にされる(段階68)。上述したように,無効事由には,受験者がキオスクのドアを開くこと,許可されていないノートまたは参照物品の使用,試験受験者とキオスクの外部の人間との無許可の通信などが含まれる。」(19頁10〜17行)(セ)「試験の記録が,段階79において,試験受験者のために印刷される。一実施例においては,監督データは試験中に試験を有効なものとして認証するために使用されるので,段階79において,認証された試験結果を試験受験者に与えることができる。
別の実施例においては,監督データが分析され,試験は試験終了後に有効なものとして認証される。このような場合には,段階79において,試験受験者には,試験が終了したという記録のみが与えられ,段階80において,試験の終了に引き続き,例えば,公式得点記録フォームを印刷することにより,認証された試験結果が与えられる。」(19頁23行〜20頁2行)(ソ)「更に別の実施例においては,双方向通信が試験受験者と中央ステーション1との間で行われる。この双方向通信も監督データとして記録され,かつ,記憶される。このような通信リンクにより,受験者は,例えば,試験中に休息室において休憩することを要請したり,あるいは,システムに関する技術的な問題または質問を通信することができる。」(20頁6〜10行)(タ)「試験手順の終了時に,データは中央ステーション1に返送される。これらのデータは,試験応答データ,オーディオ・ビジュアル監督データ,受験者の静止写真及び登録データのうちのいくつか,もしくは,全てを含む。上述したように,試験がその試験中に有効と認定された場合には,試験結果が処理され,印刷された記録が作られる。」(20頁14〜18行)(チ)「中央ステーションが,段階56において,試験が現在行われるべきものかどうかを判断する場合には,段階62において,試験の監督データの記録を開始させることができる。」(21頁25〜27行)(ツ)「試験中に確認が行われる実施例においては,段階64及び72において,中央ステーションは無効事由があったかどうかを判定し,無効事由があった場合には,段階68に進み,試験を停止させる。」(22頁3〜5行)イ上記アによれば,本願補正発明は,GRE等のいわゆる標準化された試験について,適切な試験管理のために必要とされる費用と労働力をできる限り削減することを目的とし,受験者を適切に登録し,登録された者のみが試験を受けられるようにし,受験者による不正が行われないように試験を適切に監督するとともに,試験問題に係る情報の安全性を確保するとの要請を満たしつつ,試験会場に管理者を配置することなく完全に無人化・自動化された遠隔試験ステーションを実現するため,受験者の確認,試験の配分(受験者に試験問題を提供することを意味するものと理解される。),試験監督及び試験の有効性の承認の各手順を自動化した試験運営システムであるといえる。
このような本願補正発明の目的・課題に加え,「試験の監督データ」についての上記アの各記載を併せ考慮すると,本願補正発明の「試験の監督データ」とは,第一次的には,試験会場において受験者が不正行為(例えば,無許可のノート又は参照物品の使用,受験者以外の者が試験ステーションに在室すること,受験者が試験中に無許可で試験ステーションのドアを開くこと,受験者による外部の者との無許可の通信等)を行わないよう監督(以下,この意味の「監督」を「狭義の試験監督」という。)するためのデータであって,これらのデータを洩れなく確保する必要からビデオカメラにより試験中継続して記録されるオーディオ・ビジュアルデータが中心的なものであるほか,受験者が試験ステーションのドアを開いた場合に発生する信号に係るデータ等も含み,中央ステーションに配置された管理者による試験の様子の確認等,試験中又は試験後における試験の有効・無効の判断に供されるデータであるが,更にこれらに加え,試験中に発生し得る問題又は異常事態(試験ステーションの機器等に係る操作上・技術上の問題,受験者による休憩の要請等)についての中央ステーションに配置された試験管理者,技術者等と受験者との間のやり取りを記録したデータ等の試験の有効・無効を判断するために必要とされる一切のデータを含むものと理解することができる。
(2)引用発明の「テスト状況記録データ」(「秘密保持関連記録」及び「異常事態報告記録」に係る各データ)の技術的意義についてア審決は,「引用発明の『テスト状況記録データ』は,本願補正発明の『試験の監督データ』に相当(する)」と認定し,被告は,当該「テスト状況記録データ」は引用文献1に記載された「秘密保持関連記録」及び「異常事態報告記録」に係る各データ(以下「異常事態報告記録データ等」という。)に相当する旨主張する(取消事由2に対する反論のほか,取消事由1に対する反論参照)ので,以下,異常事態報告記録データ等の技術的意義について検討するに,引用文献1(甲1)には,当該技術的意義に関連して,次の各記載がある。
(ア)「10.1つのテストセンターの状態及び各テストの間のテスト用ワークステーションの状態に関する情報を有する異常事態報告を作成し,異常事態報告を後処理システムに送信するステップより成る請求項6の方法。」(【特許請求の範囲】の請求項10(4頁23〜25行))(イ)「17.選択可能な管理オプションには以下のうち少なくとも1つが含まれる請求項12のシステム:・・・チェックインサービス;・・・テスト再開サービス;テストセンターの状態に関する情報を有するレポートを作成するための異常事態レポート作成手段と;・・・画像蓄積手順。
18.コンピュータによるテストがコンピュータによるテストシステムを用いて受験者に実施され,コンピュータによるテストシステムが1)・・・受験者成績記録;2)・・・セキュリティログ記録;3)テスト用ワークステーション及びテストセンターの状態に関する情報を有する異常事態記録の内の1つを作成し,前記システムが受験者成績記録,セキュリティログ記録及び異常事態記録を,少なくとも1つのテストセンターにおけるコンピュータによるテストを管理するための独立のデータセンターに送るための通信マネージャより成る請求項12のシステム。」(【特許請求の範囲】の請求項17及び18(6頁2〜22行))(ウ)「背景最近,・・・コンピュータによるテスト施行システムが出現したことにより,標準テストの全プロセスが実質的に自動化されている。コンピュータによるテスト施行システムを用いる典型的な標準テスト方式を図1に示す。中央処理施設1が,コンピュータによるテスト施行システム及び後処理をサポートするためのソフトウエアの開発を行なう。例えば,GRE・・・のような1つのテストプログラムが中央処理施設1で開発され,作成され,そしてパッケージにされる。このコンピュータによるテストは1または2以上のテストセンター2へ送られる。各テストセンター2は少なくとも1つのコンピュータワークステーション3を備え,このワークステーションの上でコンピュータによるテストを受験者に対して実施できる。
一般的に,受験者は特定のコンピュータによるテストを受けるための登録手続きをするが,登録時にそのテストを特定のテストセンター2で受けるため予約を行う。受験者がテストを受けるため予約通りにテストセンター2へ到着すると,通常,テスト管理者が受験者の予約を確認してテストを開始させる。受験者がテストを受けた後,テスト時に記録された受験者の回答及び他の情報が中央処理施設1へ送られ,後処理される。即ち,新しいテストの開発に使用される統計的及び分析的研究が行なわれる。
・・・標準テストは文字通り数百のテストセンターで,異なる日時に,数千人の受験者に対して実施されるものである。したがって,標準テストの環境では,受験者のテストに影響を与えるかもしれないハードウエアまたはソフトウエアの問題もしくは停電のようなテストセンターの状態を追跡できるようにすることが肝要である。さらに,テストをすべてのまたはほとんど全部の受験者に対して同一時刻且つ同一場所で実施しない場合,コンピュータによるテスト及び受験者の回答を含むすべての関連テストデータの秘密を守り,それが破壊されないようにするため別の安全対策を施すことが必要である。したがって,コンピュータによるテストシステムはこれらの機能を実現するための管理システムを提供する。
しかしながら,管理システムと,コンピュータによるテストを受験者に対して実施し回答を記録するテスト施行システムは共に図1に示すテストセンター2のコンピュータワークステーション3上に常駐する。したがって,管理者はコンピュータワークステーション3上で多くの管理的仕事を行なわなければならず,このためコンピュータワークステーション3をテストに使用できない。加えて,ほとんどのテストセンター2は単一のテストアルーム(判決注:『テストルーム』の誤記であると認められる。)から成り,そこでコンピュータワークステーション3がコンピュータによるテストを実施するためにセットされている。・・・したがって,各受験者が予約したテストを受けるために到着すると,管理者はその受験者を,他の受験者がその時コンピュータによるテストを受けているかもしれないテストルームヘ入室させて,到着時の受験者のチェックインを行い,受験者のIDをチェックし,必要とあらば受験者の写真を撮り,受験者の予約データにしたがってテストを開始させる必要が必然的に生じる。かかる手続きは,特に標準テストによりしばしば必要となる時間的な制約がそのテストに存在する場合,テストを受けている他の受験者の注意をそらせることになりかねない。
さらに,テストセンターにおいて管理者が迅速に対応しなければならない不測の事態が生じることがある。例えば,管理者が別の管理の仕事を行なっている場合に受験者が予約のための電話をしてくる場合がある。・・・コンピュータによるテスト施行システムでは現在,テスト管理者が進行中の事態に対応するため1つの仕事から別の仕事へ迅速にスイッチすることができない。
さらに,今のコンピュータによるテスト施行システムでは,その一部として提供される管理システムにより実施可能なテストを種々のテスト作成者が作成できるような構成にない。・・・さらに,コンピュータによるテスト施行システムは,特に管理システムが作動中の場合,新しいテストを追加したり,古いテストを削除したり,テストを実施可能な状態に或いは実施不可能な状態にしたり,若しくは副次的なシステム機能を追加したり,それらを容易に作動或いは非作動状態にできるような特徴を備えていない。
したがって,管理の仕事専用にされたワークステーション上において汎用且つ柔軟性のある管理システムを提供する必要が存在する。」(7頁3行〜9頁17行)(エ)「発明の概要本発明は,コンピュータによるテストを管理するための集中管理システム及び方法を提供することによってこの必要性を充足する。」(9頁18〜20行)(オ)「本発明による集中管理システムはテストセンターにおいて実現するのが好ましく,このテストセンターには1つの中央管理ワークステーション,1つのファイルサーバー及び少なくとも1つのテスト用ワークステーションが提供される。」(10頁7〜9行)(カ)「本発明の方法は,特異なロッグインIDを用い中央管理ワークステーションにロッグオンしてまず管理システムを呼び出すことにより実施される。その後,ある特定の期間に亘ってそのテストセンターでテストを受ける予約をした各受験者を同定する予約データの入力をその管理システムが受ける。管理者は,受験者がテストを受けるためテストセンターに到着すると各受験者に関連する予約データを検証する。その際,管理者は受験者がテストを受け得る状態にあることを管理システムに指示する。次いで,受験者は中央管理ワークステーションの場所から離れたテストルームに設置された1つのテスト用ワークステーションへエスコートされる。管理システムはそのテスト用ワークステーション上において受験者に標準テストを開始させる。好ましくは,テスト中,受験者の回答が受験者成績ファイルに記録され,それに続いて適当な後処理システムへ送られてそこでその回答が採点される。」(10頁19行〜11頁1行)(キ)「中央管理ワークステーション5は通常,テストルームの外に設置され,例えば下記の目的のため使用される。
-システム開始及びシステム停止手順を実行する,-予約のスケジューリングを行なう,-到着した受験者のチェックインを行なう,-所定のテストステーションにおいて受験者のテストを開始させる,-テスト用ワークステーションまたは一般的な管理システムが故障した後テストを再開する,-新しい管理者の追加,他の人のアクセス権の変更等のような日常のシステム機能を提供する,-継続中のファイル及び業務を独立のデータセンターへ送る,及び-ファイル及び業務を受けで(判決中:『受けて』の誤記であると認められる。)種々のソフトウエアコンポーネントへの配布を行う。
-通常,テスト用ワークステーション7はテストルーム内に設置されている。好ましくは,テスト用ワークステーション7に中央管理ワークステーションの機能は付与されない。例えば,テスト用ワークステーション7は下記の仕事を行う。
-テストを開始させる,-テストを終了させる,-中央管理ワークステーションからの命令により進行中のテストを中断させる。」(12頁21行〜13頁13行)(ク)「テストの間の受験者の行動,例えばコンピュータによるテストが提示する質問に対する受験者の回答を記録するために,テストの間,受験者の成績記録(EPR)が作成される。
秘密保持関連(ESL)記録もまた毎日作成するのが好ましい。このESLはコンピュータシステム及びテストの秘密保持に関連する情報,例えば管理システム開始手順を呼び出した管理者のID及びテストを開始させた各管理者の名前を記録する。・・・さらに,好ましい実施例では,テストの間受験者が機器に関して遭遇する問題,及びテスト中のテストセンターの状況に関連する問題,例えばテストルームが暑すぎるという問題を報告するために異常事態報告記録(IRR)が発生される。
EPR,ISL(判決注:『ESL』の誤記であると認められる。),IRRは独立のデータセンター12へ送信され,このセンターがそれらをルータ14へ送る。ルータ14は記録の種類に応じてこれらの記録を分離させる。・・・ESL及びIRRはテストセンターにおける装置及び秘密保持上の問題をモニターできるようにオペレーションセンター22へ送られる。
例えば,・・・毎日の活動レポートをこれらの記録に基づき作成することができる。
テストプログラムオペレーション18は受験者20の回答を採点して受験者の採点レポートを作成する。採点システムパラメータは特定のテストプログラム,例えばGREなどに応じて異なる。好ましい実施例におけるテストプログラムオペレーション18はオペレーションセンター22からIRR情報を受けて,各受験者のテスト中テストセンターで生じた秘密保持または装置の問題が受験者の採点レポートに反映されるようにする。
さらに好ましい実施例では,図3に示すように,管理システム10はオペレーションセンター22または独立のデータセンター12からオンラインメッセージを受信するように構成されている。かかるオンラインメッセージ機能により,装置の故障または秘密保持上の問題が発生した場合リアルタイムの指示をテストセンターの管理者へ送ることができる。」(14頁3行〜15頁5行)(ケ)「図6に示す異常事態報告ボタンは管理者が異常事態報告を作成したい場合に選択する。
例えば,テスト中発生した機器の或る種の故障が受験者にとって問題である場合,テストを管理するテストサービス及びテスト作成者がかかる事実の通告を受けたい場合がある。一例として,暑い日にテストセンターの空調機器が故障した場合,その日にテストを受けている受験者全員の成績はもしテストルームが空調されていた場合ほどよくないことがあろう。したがって,かかる情報は受験者の回答を採点するテストプログラムオペレーションにとって役立つものであり,また受験者の回答によりテストの評価を行なうテスト作成者にも役に立つ。異常事態報告は,異常事態報告として表示可能なフォーマットを有するログファイルを作成し,所望の情報を有するログ記録をそのファイルに書き込むことによって作成することができる。」(24頁11〜21行)イ上記アによれば,GRE等のいわゆる標準テストに係る従来の「コンピュータによるテスト施行システム」は,テストに影響を与え得るハードウェア又はソフトウェア上の問題及び停電等のテストセンターの状態の追跡並びにテストデータの秘密の保持をそれぞれ可能にするとの要請を一応満たすものであり,また,テストセンターに管理者が配置され,当該管理者をして,登録手続,予約手続,チェックインの手続,受験者のテストルームへの案内等の業務を行わせるというものであったが,管理システム及びテスト施行システムの双方がテストセンターにあるコンピュータワークステーション(受験者に対しテストを実施する設備でもある。)上に常駐していたことなどから,管理的業務とテストの実施とが錯綜するため管理的業務を支障なく実施できないなどの問題が生じていた。引用発明は,上記問題を解決するため,従来のシステムに対し,テストセンターに管理業務専用の中央管理ワークステーションを設けるなどした集中管理システムを構築するとの改良を加えたものであるといえる。したがって,引用発明においては,テストセンターに管理者が配置され,当該管理者をして,登録手続等の業務を行わせるという点では,従来の試験システムと何ら変わるところはなく,前記(1)イに認定説示した試験会場の完全無人化・自動化された遠隔試験ステーションの実現といった課題はないし,試験の有効・無効を完全に判定するという視点もない。
このような引用発明の特徴を踏まえた上,「秘密保持関連記録」及び「異常事態報告記録」についての上記アの各記載を併せ考慮すると,「秘密保持関連記録」に係るデータとは,テストデータの秘密の保持を可能にするためのデータであって,コンピュータシステム及びテストの秘密保持に関連する情報(例えば,管理システム開始手順を呼び出した管理者のID,テストを開始させた管理者の氏名等)に係るもの,「異常事態報告記録」に係るデータとは,テストに影響を与え得るハードウェア又はソフトウェア上の問題及び停電等のテストセンターの状態の追跡を可能にするためのデータであって,テストの間に受験者が機器に関して遭遇する問題(例えば,装置・機器の故障等)及びテスト中のテストセンターの状況に関連する問題(例えば,空調機器が故障したことにより,テストルーム内が暑すぎたという問題等)に関連する情報に係るものとそれぞれ理解することができる。
また,いずれのデータも,テストの採点に影響し得る情報に係るものということができる。
しかしながら,引用文献1の記載から,異常事態報告記録データ等の対象として,本願補正発明が対象としている狭義の試験監督に関連する情報が含まれるとまで認めることはできないというべきである(なお,被告も,異常事態報告記録データ等の対象として,狭義の試験監督に関連する情報が含まれるとまで主張するものではない。)。
(3)検討ア前記(1)イ及び(2)イによれば,本願補正発明の「試験の監督データ」と引用発明の「異常事態報告記録」に係るデータとは,試験中の機器のトラブル等の問題に関連する情報を対象とし,当該情報が試験の結果に影響し得るとの点では,共通する部分を有するといえなくもない(ただし,引用発明の「異常事態報告記録」に係るデータは,機器のトラブル等が試験中に発生したという事実そのものを対象とするのに対し,本願補正発明の「試験の監督データ」は,当該トラブル等が発生したことについての中央ステーションの技術者等と受験者との間のやり取りの内容を対象とするものである。)。
しかしながら,本願補正発明の「試験の監督データ」は,当該試験の有効・無効の完全な判定を実現するために必要とされる一切のデータを意味するところ,第一次的には,狭義の試験監督のためのデータであり,その中心となるものは,ビデオカメラにより試験中継続して記録されるオーディオ・ビジュアルデータである。これに対し,引用発明においては試験の有効・無効の完全な判定という目的を欠くがゆえに,引用発明の異常事態報告記録データ等の対象に,狭義の試験監督に関連する情報を含んでいないのであるから,両者は,質的に相違するものといわざるを得ず,したがって,引用発明の「テスト状況記録データ」(異常事態報告記録データ等)が本願補正発明の「試験の監督データ」の一部にたまたま含まれる関係にあるからといって,両者が一致するものと認めることはできないというべきである。
イ被告の主張は,要するに,本願補正発明の「試験の監督データ」の内容に限定はなく,試験の有効性の判断に供されるデータがすべて含まれるとした上,引用発明の異常事態報告記録データ等にも試験の有効性の判断に供されるデータが含まれるのであるから,後者は前者に相当するというものである。
しかしながら,そもそも,引用発明と対比した場合の本願補正発明の主たる新規性は,試験会場に管理者の配置を不要にしながら,試験の有効・無効の判定までを可能にするシステムを構築するという点にあり,本願補正発明において,上記オーディオ・ビジュアルデータを中心とした「試験の監督データ」を記録するなどの構成が,上記システムを実現するに当たり必須のものであることは明らかである。このように,本願補正発明の「試験の監督データ」に係る構成は,本願補正発明の新規性の本質部分を成すものであるところ,本願補正発明の「試験の監督データ」と引用発明の「テスト状況記録データ」(異常事態報告記録データ等)との対比判断に当たり,本願補正発明の「試験の監督データ」の技術的意義が特許請求の範囲の記載から一義的に明確に理解することができないものであるにもかかわらず,当該技術的意義を本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して具体的に明らかにすることなく,特許請求の範囲の記載から形式的に導き出される「試験の有効性の判断に供されるすべてのデータ」との包括的な概念を用いることによって,両者の具体的な内容の相違,すなわち,狭義の試験監督に係るデータを含むか否かという重要な相違を捨象するのは,本願補正発明の新規性の本質を看過するものといわざるを得ない。したがって,被告の上記主張を採用することは到底できないというべきである。
ウその他,引用発明の「テスト状況記録データ」(異常事態報告記録データ等)が本願補正発明の「試験の監督データ」に相当するものと認めるに足りる証拠はない。
(4)小括以上のとおりであるから,審決は上記の点で一致点を誤認したものであり,取消事由2は理由がある。
2結論よって,原告の請求は理由があるから,これを認容するのが相当である。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 榎戸道也
裁判官 浅井憲